説明

装飾用金属材料

【課題】経時的変色が抑制され高い保色性を有するバルブ金属酸化膜を備えた装飾用金属材料を提供する。
【解決手段】100Pa以下の低酸素分圧下の高温熱処理により形成され、バルブ金属酸化膜からなる表面層を有し、該表面層の直下層がバルブ金属と貴金属(銀(Ag)を除く。以下同じ。)からなり、前記バルブ金属の結晶粒界中に貴金属が析出し分散している装飾用金属材料であって、該表面から垂直深さ方向30μmの範囲内のバルブ金属の結晶が、表面から垂直断面において細長の結晶粒であり、表面から垂直深さ方向10μmの範囲内の貴金属が5原子%以下であることを特徴とする装飾用金属材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、装飾用金属材料に関する。詳しくは、装飾エントランスやドアノブなどの建材関連部品、ブローチ、イヤリング、指輸、ペンダント等の装飾品、メガネ、時計、靴、バッグ類等の装飾用部品等、多様な装飾品の分野に適用できる金属材料であり、一般生活で長期間使用しても経時的変色が抑制され高い保色性を有する装飾用金属材料に関する。
【背景技術】
【0002】
チタン(Ti)やジルコニウム(Zr)などのバルブ金属の酸化膜を有する金属材料は、高い耐食性を有するとともに、その酸化膜の光干渉作用による種々の色彩を利用して様々な装飾品の材料として使用されている。このように、光の干渉作用を利用する金属材料は、金属の薄い酸化膜を用いていることから、経時劣化や酸化膜の膜厚変化等により、変色してしまったり、色彩を失ってしまったりする怖れがある。また、Tiの酸化膜と同様に、光の干渉作用による色彩を有するTiCやTiCNといった着色めっきを基板上に析出させるイオンプレーティング法等が知られているが、金色やブロンズ色に限定されてしまう。
【0003】
光干渉作用による種々の色彩を有するバルブ金属の酸化膜は、陽極酸化法、大気酸化法及び酸化性浴への浸漬法等により形成される。陽極酸化法は、酸化させる金属を陽極にして、硝酸又はリン酸などの酸性浴中で定電圧電解することによって酸化被膜を生成させる方法であり、色調の種類や色彩の豊かさ、及び色調制御の容易性などの点から最も汎用されている。しかしながら、陽極酸化で作製した酸化被膜は、発色の制御性に優れるものの、低温でかつ速い速度で形成した被膜であるため、その被膜はアモルファス構造となっている。アモルファスは、加熱によりその構造が変化するため、剥離や変色を生じやすく、熱や摩擦が作用する過酷な使用環境下では長時間の使用が難しいという問題がある。例えば、特許文献1では、陽極酸化被膜上に硬質透明ガラス被膜と透明シリカ被膜を形成することで、耐傷性と耐摩耗性の問題を解決できることを見出している。しかしながら、そのような酸化膜へのコーティングは、部材表面の光の屈折により色調が変化したり、質感においても高級感が損なわれたりするなどの問題がある。
【0004】
一方、大気酸化法で酸化性雰囲気によってバルブ金属の酸化被膜を生成させる方法であるが、そのバルブ金属の酸化被膜は、安定な結晶構造が得られるため、耐剥離性、耐摩耗性、耐変色性に優れた部材を提供できる。例えば、酸素・窒素が残存する環境下で加熱酸化することで、チタンあるいはチタン合金製の部材表面に密着性に優れた酸化チタン膜を形成することができ、加熱温度の制御、加熱時間の制御あるいは加熱雰囲気の制御により酸化膜の厚みを制御できることが報告されている(特許文献2)。そのような技術によっても、高熱条件下などの過酷な使用環境下では、その酸化膜の膜厚が経時的に変化し、変色してしまったり、色彩を失ってしまったりする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−076092号公報
【特許文献2】特開2007−262498号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記課題を踏まえ、本発明は、貴金属とバルブ金属による新規な金属材料表面の近傍組織により、経時的変色が抑制され高い保色性を有するバルブ金属酸化膜を備えた装飾用金属材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の発明は、100Pa以下の低酸素分圧下の高温熱処理により形成され、バルブ金属酸化膜からなる表面層を有し、該表面層の直下層がバルブ金属と貴金属(銀(Ag)を除く。以下同じ。)からなり、前記バルブ金属の結晶粒界中に貴金属が析出し分散している装飾用金属材料であって、該表面から垂直深さ方向30μmの範囲内のバルブ金属の結晶が、表面から垂直断面において細長の結晶粒であり、表面から垂直深さ方向10μmの範囲内の貴金属が5原子%以下であることを特徴とする装飾用金属材料に関する発明である。
【0008】
第2の発明は、前記貴金属が白金族金属である第1の発明に記載の装飾用金属材料に関する発明である。
【0009】
第3の発明は、前記貴金属が白金(Pt)、イリジウム(Ir)、ルテニウム(Ru)またはパラジウム(Pd)である第1の発明に記載の装飾用金属材料に関する発明である。
【0010】
第4の発明は、表面から垂直深さ方向10μmの範囲内の貴金属が0.01〜5原子%である第1の発明に記載の装飾用金属材料に関する発明である。
【0011】
第5の発明は、前記バルブ金属がチタン(Ti)またはジルコニウム(Zr)である第1の発明に記載の装飾用金属材料に関する発明である。
【0012】
第6の発明は、表面層のバルブ金属酸化膜の厚みが3nm以上200nm以下の範囲である第1の発明に記載の装飾用金属材料の発明である。
【発明の効果】
【0013】
以上説明したように、本発明に係る金属材料は、貴金属とバルブ金属による新規な金属材料表面の近傍組織(表面層及び直下層)により、経時的変色が抑制され高い保色性を有するバルブ金属酸化膜を備えた、カラー光輝意匠性の装飾用金属材料として用いられる
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の金属材料表面の垂直断面の光学顕微鏡写真(a)及びその断面の電子プローブマイクロアナライザーによる白金マッピング分析結果(b)を示す図。本発明の金属材料表面の近傍組織が示される。
【図2】本発明の金属材料(1200℃、12時間の熱処理)の走査型電子顕微鏡写真による表面観察(a)および比較例2の金属材料(500℃、24時間の熱処理)の走査型電子顕微鏡写真による表面観察(b)を示す図。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の装飾用金属材料について説明した上で、その製造方法について説明する。まず、本発明の好適な装飾用金属材料の実施形態を説明するが、これら実施形態により何ら限定されるものではない。
【0016】
本発明の金属材料は、100Pa以下の低酸素分圧下の高温熱処理により形成されるバルブ金属酸化膜からなる表面層を有し、該表面層の直下層がバルブ金属と貴金属(銀(Ag)を除く。以下同じ。)の合金からなる金属材料である。表面層とは、光干渉作用による種々の色彩を呈するバルブ金属酸化膜からなる層であり外界と接する層である。表面層のTiやZrなどのバルブ金属の酸化物は、可視光下では酸化被膜表面における光の干渉作用がその膜厚により変化し、様々な色調を呈することからカラー光輝意匠性を有する。例えばTiでは、その酸化被膜の膜厚に対応してゴールド色,ブラウン色,ブルー色,イエロー色,パープル色,グリーン色,ピンク色等、多彩な色を呈する。更に、表面層のバルブ金属酸化膜は不動態の酸化膜として存在するため高い耐食性や耐摩耗性も得られる。しかし、カラー光輝意匠性を有するバルブ金属酸化膜は、1μm未満の薄い膜であり、ナノメートルオーダーでの膜厚変化によっても色調が変化してしまう。よって、従来のバルブ金属酸化膜を有する金属材料では長期間使用した場合や高熱下などの過酷な使用条件で使用した場合、酸化膜の膜厚が変化し色調が保持できないという問題があった。本発明の金属材料は、表面層下の直下層のバルブ金属の結晶粒界中に貴金属が析出し分散している。また、金属材料の表面から垂直深さ方向30μmの範囲内のバルブ金属の結晶が、表面から垂直断面において細長の結晶粒であり、表面から垂直深さ方向10μmの範囲内の貴金属が5原子%以下であることを特徴とする。かかる組織の金属材料は、大気下などの酸素雰囲気下であっても、金属材料自体の耐食性も損なうことなく、長期間そのカラー光輝意匠性のバルブ金属酸化膜の膜厚を維持することが可能であり、経時的変色が抑制され高い保色性を有する。更に、本発明の金属材料は、表面層の直下層のバルブ金属の結晶が、表面から垂直断面において細長の結晶粒であり、その結晶粒界は直下層に均質に存在し、直下層に含まれる貴金属はその粒界中に析出し分散している。その結晶粒界に析出した難酸化性の貴金属により、粒界を伝っての金属材料内部への酸素進入を防ぎ、バルブ金属結晶粒の酸化が起こりにくく、高い耐食性を示す。その結果、表面層のバルブ金属酸化膜の膜厚変化が抑制され、光輝意匠膜の色調が維持される。本発明の金属材料における貴金属は、表面から垂直深さ方向に10μmの範囲内で5原子%以下である。5原子%を超えると、経済的に損失するばかりか、本発明の表面層と直下層の構成自体の形成が困難となる。より好ましくは、表面から垂直深さ方向に10μmの範囲内の貴金属含有量が0.01〜5原子%である。貴金属含有量が少なすぎると、結晶粒界または粒内への酸素の進入を阻止しバルブ金属の酸化の進行を抑制し難くなってしまう恐れがある。最適には0.3〜3原子%で用いられる。尚、細長の結晶粒とは、図1−aの金属材料の垂直断面図に示されるような結晶粒である。細長の結晶粒間の結晶粒界は、表面からの垂直深さ方向に30μmの範囲内で3以上有することが好ましい。より好ましくは3〜30である。本発明の金属材料の表面層下の直下層は、金属材料中の表面層以外の全部であっても一部であっても良いが、金属材料表面から深さ方向で10μm以上有することが好ましい。本発明の金属材料中の多くの貴金属は粒界中に存在するが、バルブ金属結晶格子内にも存在する。結晶粒内の貴金属により結晶粒及び金属材料の表面性状が更に安定に保たれ、高い耐食性を有し経時的変色が抑制され、より優れた保色性を持続的に発揮できる。
【0017】
本発明の金属材料を構成する貴金属は、優れた耐食性を有するものであり、貴金属のみからでも、貴金属合金(酸化物を含む)でも良い。貴金属のみからなる場合、白金族金属が好適に用いられ、より好ましくは白金(Pt)、イリジウム(Ir)、ルテニウム(Ru)またはパラジウム(Pd)であり、中でもPtが最適である。貴金属合金を用いる場合、貴金属と非貴金属との合金でも良いが、貴金属間の合金が好ましい。貴金属間の場合、Ptと白金族金属の組合せ(Pt−Ir合金、Pt−Rh合金、Pt−Ru合金、Pt−Pd合金)がより好ましい。貴金属として貴金属酸化物を用いる場合、酸化白金、酸化イリジウム、酸化パラジウム、酸化ルテニウムが好適に用いられる。なお、銀(Ag)は酸素の進入を抑制できず耐食性が得られないので適しない。
【0018】
本発明の金属材料で用いられるバルブ金属は、Ti、Zr、Nb、Ta等の酸化などで不動態の酸化被膜を形成し耐食性を示すとともに、その酸化物が可視光干渉による光輝意匠性を有する高融点金属であり、好ましくは、TiまたはZrが用いられ、実用性を考慮するとTiが最適である。
【0019】
本発明の金属材料は、バルブ金属酸化膜からなる表面層を有する。その酸化膜は、100Pa以下の低酸素分圧下の高温熱処理により表面に表出したバルブ金属の一部または全部が酸化し形成されたものである。また、表面層のバルブ金属酸化膜の厚みは、3〜200nmであることが好ましい。かかる範囲内であれば、高い耐食性を有し経時的変色が抑制され、様々な色彩を有する光輝意匠性が得られる。200nmを超えると、黒色となり意匠性の色彩が得られないばかりか、膜応力が大きくなり、酸化膜の剥離が生じやすいため、耐食性や耐久性が低下する場合がある。例えば、チタンの酸化膜の場合、膜厚に応じて光の干渉作用による彩度の高い光沢色調が目視で観察される。その酸化膜の膜厚が、10〜20nm程度でゴールド色、20〜30nm程度でブラウン色、30〜60nm程度でブルー色、60〜90nm程度でイエロー色、90〜120nm程度でパープル色、120〜160nm程度でグリーン色、160〜200nm程度でピンク色を呈する。尚、本発明の金属材料の表面は、図2−aの走査型電子顕微鏡写真に見られるような等高線状の模様となる。
【0020】
以下、本発明の金属材料の製造方法の実施態様について説明するが、これに何ら限定されるものではない。
【0021】
本発明の金属材料の製造方法は、バルブ金属基材を貴金属により被覆する第1の工程、100Pa以下の低酸素分圧下、1000〜1500℃程度の高温熱処理することにより前記基材のバルブ金属が前記貴金属の被覆を通過し表出させる第2の工程、前記表出させたバルブ金属表面を酸化し、バルブ金属酸化膜からなる表面層を形成する第3の工程により製造される。
【0022】
第1の工程で用いるバルブ金属は、Ti、Zr、Nb、Ta等の酸化条件下で不動態の酸化被膜を形成し耐食性を示す高融点金属であり、好ましくは、TiまたはZrが用いられ、実用性を考慮するとTiが最適である。また、第1の工程で用いる貴金属は、貴金属のみからでも、貴金属合金(酸化物を含む)でも良い。貴金属のみからなる場合は、白金族金属が好適に用いられ、より好ましくはPt、Ir、RuまたはPdであり、中でもPtが最適である。貴金属合金を用いる場合は、貴金属と非貴金属との合金でも良いが、貴金属間の合金が好ましい。貴金属間の合金の場合、Ptと白金族金属の組合せ(Pt−Ir合金、Pt−Rh合金、Pt−Ru合金、Pt−Pd合金)がより好ましい。貴金属として貴金属酸化物を用いる場合は、酸化白金、酸化イリジウム、酸化パラジウム、酸化ルテニウムが好適に用いられる。
【0023】
第1の工程における貴金属の被覆方法は、めっきの他、真空蒸着スパッタリングにより貴金属膜を形成する方法、溶射法やクラッドにより貴金属膜を形成する方法、貴金属化合物溶液を基材に塗布あるいは蒸着(CVD)し熱分解により貴金属膜を形成する方法、貴金属ペーストを基材に塗布して貴金属膜を形成する方法、等が挙げられる。簡便に均質な被覆を行うことを考慮すると、めっきまたはマグネトロンスパッタリングが好ましく用いられる。経済性・生産性の観点から、より好ましくは、電気めっきにより貴金属が被覆される。電気めっきを行う場合は、バルブ金属表面のフッ酸などの薬品による化学的前処理やサンドブラストによる前処理を行うことが好ましい。それらの処理により、バルブ金属表面を活性化し、密着性の良好な貴金属膜を形成できる。また、後の第2の工程の高温熱処理によるバルブ金属の表出と貴金属の拡散により、上述の本発明の金属材料の特徴的な組織を形成できる。尚、貴金属被覆の厚さは、好ましくは0.01μm〜10μmである。0.01μmよりも薄いと、高温熱処理時の被覆された貴金属の拡散が短時間となり、本発明の金属材料の表面層を構成するバルブ金属の不導態化(酸化膜形成)の簡便な制御が難しくなる。また、高温熱処理により形成される直下層のバルブ金属の結晶粒界に存在する貴金属が不足し十分な耐食性が得られない場合があり、表面層のバルブ金属酸化膜の膜厚を維持できず経時的変色の抑制が困難となることがある。10μmよりも厚いと、高温熱処理をしてもバルブ金属の表出と貴金属の拡散が不十分となり金属材料表面に貴金属が残りやすくなるため、バルブ金属酸化物の均質な膜が生成し難くなり色彩を制御することが難しくなる。より好ましくは0.1μm〜10μmの被覆膜厚であり、0.3〜3μmとすれば最適である。
【0024】
第2の工程では、バルブ金属が高温熱処理により、被覆された貴金属膜を熱振動拡散し通過し表出することで、既述の本発明の金属材料の表面層下の直下層が形成される。表出したバルブ金属表面層は、高温熱処理時に酸素が存在する場合、容易に酸化され第3の工程の酸化膜を形成する。また、酸化膜は、熱処理後の冷却時であっても膜厚を制御し形成することが可能であり、また冷却後に電解酸化により形成することも可能である。簡便性を考慮すると、高温熱処理時に酸化されることが好ましい。バルブ金属基材を被覆した貴金属は、第2の工程の高温熱処理により金属材料内部へ拡散し、バルブ金属の結晶粒界に析出される。このように製造された金属材料は、表面層の直下層のバルブ金属結晶が細長の結晶粒を有し、表面から垂直深さ方向10μmの範囲内の貴金属が5原子%以下となり、また、貴金属は、バルブ金属の結晶粒界やバルブ金属の結晶格子内へ拡散している。そのため、結晶粒界に析出した難酸化性の貴金属が、粒界を伝って金属材料内部へ進入する酸素を防ぎ、結晶粒の酸化が抑制されるため、表面層の酸化膜の膜厚が維持される。
【0025】
第2の工程の高温熱処理は1000℃×(1〜24時間)〜1500℃×(0.5〜12時間)の範囲内であれば本発明の金属材料を好適に製造できる。1000℃未満の場合は、長時間かけなければ、基材のバルブ金属が被覆された貴金属を十分に通過せず表出し難いばかりか、貴金属のバルブ金属への拡散も不十分となる場合がある。また1500℃を超える場合は、それ以上性能に変化は無くコストも掛かってしまうばかりか、バルブ金属が全て液体になってしまう恐れがあるため本発明の好適な組織を形成し難くなる。より好ましくは、1100(1〜20時間)〜1300℃×(1〜15時間)で行われる。尚、本発明の金属材料の表面は、図2−a(1200℃×12時間、高温熱処理)の走査型電子顕微鏡写真に見られるような等高線状の模様となるが、500℃×24時間の熱処理により得られる金属材料表面は、図2−bに見られるような細かな凹凸模様となる。
【0026】
第2の工程の高温熱処理時に第3の工程の酸化を行う場合は、酸化反応が進行しやすいため、必要以上の酸化膜を形成しない低酸素分圧で行うことが好ましく、酸素分圧が100Pa以下で酸化させることが好ましい。100Paを超えると酸化膜の膜厚制御が困難となり、本発明の光輝意匠性の金属材料表面層が得られない場合がある。係る範囲の低酸素分圧下であれば、全圧が減圧下、大気圧下、あるいは高圧下(ホットプレス、HIP(熱間等方加圧)等)であっても良い。より好ましくは、酸素分圧が10−2Pa以下で行われる。最適には、減圧下(10−2〜200Pa)、酸素分圧が10−2Pa以下で行われる。また、高温熱処理の雰囲気は、窒素やアルゴンなどの不活性ガス雰囲気下が好ましい。
【0027】
第3の工程で得られる、本発明の金属材料表面層のバルブ金属酸化膜の厚みは、3〜200nmであることが好ましい。かかる範囲内であれば、高い耐食性を有し経時的変色が抑制され、様々な色彩を有する光輝意匠性が得られる。200nmを超えると、意匠性の色彩が得られず、膜応力が大きくなり、酸化膜の剥離が生じやすいため耐食性や耐久性が低下する場合がある。
【0028】
第1実施形態:Ti基材(縦70mm、横20mm、厚さ1mm)をPtめっきした後、加熱処理を行った。Ptめっきは、Ti基材をアルカリ性脱脂液に浸漬して脱脂後、フッ酸溶液にてTi基材表面の不動態被膜を除去し、Pt濃度20g/Lのめっき液(商品名:プラチナート100 日本エレクトロプレイティング・エンジニヤース株式会社製)のめっき浴を用いて、pH14、液温85℃、電流密度2.5A/dmの条件下で、撹拌しながら各種厚さでめっきした。Ptめっきの厚みは、それぞれ、0.1μm、0.5μm、1μm、3μm、5μm、10μmとした。加熱処理は、表1に記載の条件で、減圧雰囲気下(減圧度:100Pa、酸素分圧1×10−4Pa)行った。
【0029】
第1実施形態で作製した金属材料のうち、Ptめっき厚を1μmとし減圧下1200℃で12時間の高温熱処理したものについて、金属材料表面のチタンの酸化膜を目視観察したところ、ゴールド〜ブラウンの光沢色を呈していた。このことから、チタンの酸化膜が10〜30nmの厚さで形成されていると推定される。また、走査型電子顕微鏡(SEM)による表面観察(×500)を行ったところ、金属材料表面に等高線状の模様が観察された(図2−a)。比較としてPtめっき厚を1μmとし減圧下500℃で24時間の熱処理を行った金属材料を作製し、同様にSEMによる観察を行ったが、本発明の金属材料表面の模様とは明らかに異なり、細かな凹凸模様であった(図2−b)。前記表面観察を行った第1実施形態の金属材料をフッ酸エッチングの後、光学顕微鏡による金属材料表面の垂直断面観察を行ったところ、細長の結晶粒を有することが確認され、金属材料表面から30μmの垂直深さに10〜20のTiの結晶粒界が観測された(図1−a)。更に、前記金属材料断面の電子プローブマイクロアナライザーによる白金マッピング分析では、用いられた白金の多くが結晶粒界中に析出し均質に分散している様子が観察された(図1−b)。また、少量ではあるがTiの金属結晶格子内にも白金の存在を確認した。この金属マッピング分析から、金属材料表面から垂直深さ方向に10μmの範囲内のPtは、1原子%であることが確認された。他のPtめっき厚から作製された金属材料についても同様に金属マッピング分析による金属材料表面から垂直深さ方向に10μmの範囲内のPt含有量を測定したところ、めっき厚0.1μmでは0.3原子%、3μmでは2原子%、5μmでは3原子%、10μmでは5原子%であった。
【0030】
第1実施形態で作製した金属材料を用いて、それぞれ作製直後と大気下で600℃×1時間の処理後の色彩を自然光下において目視で確認した。結果を表1に示す。
【0031】
【表1】



【0032】
表1の結果より、第1実施形態の各種条件で作成された金属材料では、作製直後と大気下で600℃×1時間の処理後において色彩の変化は見られなかった。
【0033】
比較例1:Ti無垢材を減圧雰囲気下(減圧度:100Pa、酸素分圧1×10−4Pa)400℃で1時間焼成により表面のTiを酸化した金属材料を用い、第1実施形態と同様、作製直後と大気下で600℃×1時間の処理後の色彩を自然光下において目視で確認した。作製直後はゴールド色を呈するが、大気下で600℃×1時間の処理後はブルー色へ変色した。
【0034】
第2実施形態:Ti基材(縦70mm、横20mm、厚さ1mm)をPtめっきした後、高圧下高温熱処理(HIP処理)を行った。Ptめっきは、Ti基材をアルカリ性脱脂液に浸漬して脱脂後、フッ酸溶液にてTi基材表面の不動態被膜を除去し、Pt濃度20g/Lのめっき液(商品名:プラチナート100 日本エレクトロプレイティング・エンジニヤース株式会社製)のめっき浴を用いて、pH14、液温85℃、電流密度2.5A/dmの条件下で、撹拌しながらめっきした。Ptめっきの厚みは、0.01μm、0.1μm、1μmとした。加熱処理は、Ar雰囲気下、温度1350℃、圧力1×10Paの条件にて1時間HIP処理により金属材料を作製した。この時、酸素分圧は100Paであった。
【0035】
第2実施形態の金属材料を用い、それぞれ作製直後と大気下で600℃×1時間の処理後の色彩を自然光下において目視で確認した。結果を表2に示す。
【0036】
【表2】



【0037】
表2の結果より、第2実施形態の各種条件で作成された金属材料は、作製直後と大気下で600℃×1時間の処理後において色彩の変化は見られなかった。
【0038】
第3実施形態:、Zr金属からなる基材(縦70mm、横20mm、厚さ1mm)をフッ酸溶液にて不動態被膜を除去し、Ptを1μmめっきし、加熱処理は、減圧雰囲気下(減圧度:100Pa、酸素分圧1×10Pa)、温度1300℃にて1時間の条件で金属材料を作製した。
【0039】
第1実施形態と同様に、作製直後と大気下で600℃×1時間の処理後の色彩を自然光下において目視で確認した。作製直後は、ゴールド色であり、大気下で600℃×1時間の処理後においても色彩の変化は見られなかった。
【0040】
第4実施形態:Ti金属を基材(縦70mm、横20mm、厚さ1mm)とし、Ir、Ru、Pdのうちいずれかの貴金属を厚さ1μmめっきした。Irめっきは、Ti基材をアルカリ性脱脂液に浸漬して脱脂後、フッ酸溶液にてTi基材表面の不動態被膜を除去し、めっき液(商品名:イリデックス200 日本エレクトロプレイティング・エンジニヤース株式会社製)のめっき浴を用いて、液温85℃、電流密度0.15A/dmの条件下で、撹拌しながらめっきした。Ruめっきは、Ti基材をアルカリ性脱脂液に浸漬して脱脂後、フッ酸溶液にてTi基材表面の不動態被膜を除去し、めっき液(商品名:ルテネックス 日本エレクトロプレイティング・エンジニヤース株式会社製)のめっき浴を用いて、液温60℃、電流密度1A/dmの条件下で、撹拌しながらめっきした。Pdめっきは、Ti基材をアルカリ性脱脂液に浸漬して脱脂後、フッ酸溶液にてTi基材表面の不動態被膜を除去し、めっき液(商品名:パラデックスLF−2 日本エレクトロプレイティング・エンジニヤース株式会社製)のめっき浴を用いて、液温60℃、電流密度2A/dmの条件下で、撹拌しながらめっきした。各貴金属種により作製された金属材料の原材料の加熱処理は、減圧雰囲気下(減圧度:100Pa、酸素分圧1×10−4Pa)、温度1000℃にて7時間の条件で行った。
【0041】
第1実施形態と同様に、作製直後と大気下で600℃×1時間の処理後の色彩を自然光下において目視で確認した。結果を表3に示す。
【0042】
【表3】



【0043】
表3の結果より、第4実施形態の各貴金属種により作製された金属材料は、作製直後と大気下で600℃×1時間の処理後において色彩の変化は見られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明は、貴金属とバルブ金属による新規な金属材料表面の近傍組織により、経時的変色が抑制され高い保色性を有するバルブ金属酸化膜を備えた装飾用金属材料に関するものである。かかる金属材料を用いれば、そのバルブ金属酸化膜の光輝意匠性から、様々な装飾品、例えば、装飾エントランスやドアノブなどの建材関連部品、ブローチ、イヤリング、指輸、ペンダント等の装飾品、メガネ、時計、靴、バッグ類等の装飾用部品等、多様な装飾品の材料として、経持的変色がなく長期間使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
100Pa以下の低酸素分圧下の高温熱処理により形成され、バルブ金属酸化膜からなる表面層を有し、該表面層の直下層がバルブ金属と貴金属(銀(Ag)を除く。以下同じ。)からなり、前記バルブ金属の結晶粒界中に貴金属が析出し分散している装飾用金属材料であって、
該表面から垂直深さ方向30μmの範囲内のバルブ金属の結晶が、表面から垂直断面において細長の結晶粒であり、表面から垂直深さ方向10μmの範囲内の貴金属が5原子%以下であることを特徴とする装飾用金属材料。
【請求項2】
貴金属が白金族金属である請求項1に記載の装飾用金属材料。
【請求項3】
貴金属が白金(Pt)、イリジウム(Ir)、ルテニウム(Ru)またはパラジウム(Pd)である請求項1に記載の装飾用金属材料。
【請求項4】
表面から垂直深さ方向10μmの範囲内の貴金属が0.01〜5原子%である請求項1に記載の装飾用金属材料。
【請求項5】
バルブ金属がチタン(Ti)またはジルコニウム(Zr)である請求項1に記載の装飾用金属材料。
【請求項6】
表面層のバルブ金属酸化膜の厚みが3nm以上200nm以下の範囲である請求項1に記載の装飾用金属材料。

【図1】
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【図2】
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