裏地を有する上着
【課題】伸縮性の無い生地からなる裏地を備えたスーツなどの上着は、体を動かす際に抵抗感や違和感を生じることがあるので、この問題を上着の体裁の悪化、商品価値の低下、コストアップなどを招かない方法で解消することを課題としている。
【解決手段】背裏5aと裏細腹5bの脇下での相互継ぎつなぎ部に対して背裏5aと裏細腹5bが互いに離反する方向への開き代を付与するプリーツ10を、裏地5と表地2の間に入り込ませて裏地5に設けた。そのプリーツ10は、裏細腹5bの後ろ身頃側の縁部に形成してもよい。
【解決手段】背裏5aと裏細腹5bの脇下での相互継ぎつなぎ部に対して背裏5aと裏細腹5bが互いに離反する方向への開き代を付与するプリーツ10を、裏地5と表地2の間に入り込ませて裏地5に設けた。そのプリーツ10は、裏細腹5bの後ろ身頃側の縁部に形成してもよい。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、伸縮性の無い裏地を有する上着、詳しくは、裏地による着用者の動作の妨げを、体裁の悪化や商品価値の低下などを招かない方法で緩和して着用感(所謂着心地)を向上させた上着に関する。
【背景技術】
【0002】
スーツなどの上着は、表地については、通常、ストレッチ織物が使用される。従って、裏地の無い上着については、サイズが小さすぎる場合は別として、着用した人の動きが妨げられることはまずない。
【0003】
これに対し、スーツなどの上着に必要に応じて設けられる裏地は、伸縮性の無い生地を用いるのが一般的であり、その伸縮性の無い生地で構成された裏地は、体型に合致した上着である場合には特に、それを着用した人の自由な動きを妨げる。
【0004】
下記特許文献1は、その問題の対策として、体の動きが大きくなる肩部、肘部、膝部などに対応した箇所に、伸縮性生地からなる裏地を採用することを提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実用新案登録第3155704号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記伸縮性生地は、伸縮量に限りがある。ゴムに比べると伸び量が小さく(織りの構造上の理由による)、そのために、特許文献1が開示しているスーツは、体の大きな動きに対しては抵抗感や違和感を生じることが懸念される。
【0007】
また、裏地の一部を、本来の裏地とは風合いや織りの構造などが異なる伸縮性生地に置き換えると、上着の裏面の体裁が悪くなり、エレガントを売りにした高級なスーツなどもカジュアルな印象を与えるものになって商品価値が低下する。
【0008】
また、本来の裏地に別パーツを継ぎ足す形になるので、製品コストにも悪影響がでる。
【0009】
この発明は、上記の問題を、上着の体裁の悪化、商品価値の低下、コストアップなどを招かない方法で解消してスーツを初めとした各種裏地付き上着の着用感を向上させることを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するため、この発明は、伸縮性の無い生地で構成された裏地を有する上着の裏地にプリーツ(襞)を設けた。具体的には、背裏(後ろ身裏地)と裏細腹(細腹裏地)の脇下での相互継ぎつなぎ部に対して背裏と裏細腹が互いに離反する方向への開き代を付与するプリーツを裏地に設け、そのプリーツを裏地と表地の間に入り込ませて裏地と表地とで覆い隠した。
【0011】
また、後ろ身裏地の無い上着にも対応可能な構造として、伸縮性の無い生地で構成される裏腹を有し、その裏細腹に対して当該裏細腹が後ろ身頃から離反する方向への開き代を付与するプリーツを、脇下において前記裏細腹に設け、そのプリーツを裏地と表地の間に入り込ませて裏地と表地とで覆い隠した。
【0012】
なお、背裏と裏細腹の継ぎつなぎ部に設ける前者のプリーツは、背裏と裏細腹の相互継ぎつなぎ部に対応させて形成した突片のどちらか一方をその一方の突片の突出方向とは反対方向、かつ、表地と当該突片を有する側の裏地との間に入り込む方向に折り込み、その突片の突端の縁と他方の突片の突端の縁を互いに縫い合わせて作ると好ましい。
【0013】
背裏が存在する上着では、背裏の背幅方向中央部にも、裏地に対して背幅方向への開き代を付与するプリーツを設けることができる。
【0014】
前記プリーツは、襞の幅が全域においてほぼ一定しているもの、袖の付け根に近い側と袖の付け根から離反側で襞の幅が変化しているもののどちらであってもよい。
【発明の効果】
【0015】
この発明の上着は、裏地の袖のつけ根に対応した箇所にプリーツを設けており、そのプリーツによって裏地の寸法にゆとりが付与される。上着の着用者が腕を持ち上げたときにプリーツが開き、プリーツに対応した位置で裏細腹の胴回り方向の幅が広がって裏地が伸びたのと実質的に差のない状態が作り出される。
【0016】
これにより、着用者の腕、肩の動きに対して抵抗感、違和感が発生せず、上着の着用感が良くなる。ゴムやゴム編み生地と違ってプリーツが開くときの抵抗感、突っ張り感は全くなく、体型にフィットした上着も着用者の動きに窮屈な感じを与えることがない。
【0017】
また、上記プリーツは、裏地の一部を折り込んで裏地と表地の間に入り込ませているので、上着の体裁の悪化も起こらない。そのプリーツが裏地と表地によって覆い隠されるため、プリーツがあることにも気づき難く、高級感や商品価値の低下が起こらない。
【0018】
さらに、別パーツを継ぎ足すわけではないので、製品コストの上昇も招かない。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】この発明の上着の一例を示す正面図
【図2】図1の上着の裏地の一部を展開して示す図
【図3】図1の上着に設けた背裏と裏細腹の展開図
【図4】(a)背裏と裏細腹の初期の縫い合わせ手順の説明図、(b)縫い代のずれを補正した状態を示す図、(c)裏細腹の縫い合わせ終了図
【図5】背裏と裏細腹のプリーツ形成部の縫い合わせ手順の説明図
【図6】背裏と裏細腹の縫い合わせ部の要部を示す図
【図7】プリーツが閉じた状態と開いた状態を比較して示す図
【図8】図5のVIII−VIII線に沿った位置の断面図
【図9】プリーツを裏細腹に形成した例の裏側の要部を示す展開図
【図10】図9のX−X線に沿った断面図
【図11】(a)〜(d)図9の裏細腹のプリーツ形成部の縫い合わせ手順の説明図
【図12】図11の裏細腹の突片折込み後の状態を裏から見た図
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、添付図面の図1〜図12に基づいてこの発明の上着の実施の形態を説明する。
【0021】
図1は、男性用スーツ(背広)の上着を示している。図中1は上着、2は表地、2aは表地の前身頃、3は袖、4は襟、5は裏地、6はサイドポケット、7は胸ポケットである。例示の上着の表側は、従来品と同様の構成であり、前身頃2a、袖3、襟4については、表地が図に表れている。
【0022】
この発明の特徴部は、図2に示した裏地5にある。その裏地5は、背裏(背裏地)5a、裏細腹(細腹裏地)5b、胴裏(胴裏地)5c、及び袖裏(袖裏地)5d(図6参照)を縫い合わせによって継ぎつないで構成されている。裏地の各部位は、いずれも伸縮性の無い生地からなる。図2の8は、表地と同一生地で形成される身返し、図2の9は必要に応じて設けられる脇当てである。脇当9は、袖裏5dに予め連接しておくと設置がしやすい。
【0023】
背裏5aは、対をなす左右のパーツを背の中央で継ぎつないで構成されており、その背裏5aと裏細腹5bが、袖3の付け根で継ぎつながれる部位(着用者の脇に対応した位置)に、プリーツ10を設けている。
【0024】
そのプリーツ10は、背裏5aの裏細腹5bへの継ぎつなぎ側に突片5e(図3参照)を形成し、その突片5eを裏細腹5bから離れる方向に折り込み、突片5eの突端の縁をその縁と重なるように背裏5a側に入り込ませた裏細腹5bの突片5fの縁と縫い合せて構成されている。
【0025】
図4(a)に示すように、裏細腹5bを反転させて背裏5aの上に置き(背裏5aを反転させて裏細腹5bの上に置くことも可)、上着の裾の側を優先させて両裏地の縫い代12を重ねる。そして、裾の側から縫い代12のきっちりと重なっている部分を縫い合わせる(13がその位置の縫い目)。その縫合は、次に縫い合わせる箇所の縫い代の位置がずれている場合には、図4(b)に示すように、そのずれを補正しながら補正箇所の縫い代部を縫い合わせる。
【0026】
図4(c)に示すように、背裏5aと裏細腹5bに対応させて形成された突片5e,5fの重ね縁(縫い代)までを縫い合わせたら、反転している裏細腹5bを元に戻し、突片5eを縫い目13の延長上(一点鎖線上)に折り目線ができるように折り込む。
【0027】
そして、図5に示すように、突片5e、5fの互いに重なり合った縁の生地の袖側裁断縁近辺を縫い合わせる(14がその位置の縫い目)。これにより、突片5eが裏地の背面側に折り込まれて所望のプリーツ10が脇下に形成される。
【0028】
図示のプリーツ10は、幅wがほぼ一定したものになっているが、突片5e、5fを、袖3の付け根に近い側から付け根から遠ざかる側に向って幅が次第に減少する形状にしてその両者の突端を縫い合わせてもよい。
【0029】
その場合には、袖の付け根に近い側で襞の幅が大きく、袖の付け根から離れるに従ってその襞の幅が減少するプリーツが形成され、そのようなプリーツでも発明の目的が達成される。
【0030】
袖3の付け根側にプリーツ10を形成した裏地5は、袖側の縫い代が袖裏5dと一緒に袖3の取付け部に縫いつけられる。このときの縫製は、図6に示すように、背裏5aと裏細腹5bの裁断縁が袖裏5dによって包み隠されるように行われる。
【0031】
なお、例示の裏地5には、背裏5aの左右のパーツの縫い合わせ部にもプリーツ11を設けている。そのプリーツ11は、必要に応じて設けるものであって、この発明を特徴づけるものではない。ちなみに、このプリーツ11もプリーツ10と同様の方法で形成することができる。
【0032】
以上のように構成した裏地5は、袖3に近い位置で背裏5aと裏細腹5bを互いに離反する方向に引っ張ると、図7に鎖線で示すように、プリーツ10が開く。そのために、袖3の付け根付近における裏地の幅が広がり、上着着用者の動きに抵抗感が生じない。折りたたみ状態でのプリーツ幅wを約20mm、展開時幅(2・w)を40mmにした試作品の上着は着用感がすこぶる良かった。
【0033】
なお、プリーツ10は、裏細腹5bの突片5fを裏細腹5b側に折り込み、その突片5fの縁と、突片5fに重ねた背裏5aの突片5eの縁を互いに縫い合わせて構成してもよい。
【0034】
また、スーツの上着には、所謂総裏の無いものがある。その上着も、裏細腹にプリーツを形成することで、発明の目的が達成される。
【0035】
その上着の具体例を、図9〜図12に基づいて説明する。図9に示すように、背裏は、観音背裏5a−1とベント部裏地5a−2しかなく、これ等は裏細腹5bに縫いつながれない。このような上着では、裏細腹(これも伸縮性の無い生地からなる)5bの背側の端縁が、表地2の継ぎつなぎ部に縫い合わされる。
【0036】
図9の8は見返し、2bは、表地の後ろ身頃であり、その後ろ身頃2bと細腹身頃2c(図10参照)は、縫い目15の位置で互いに縫い合わされている。
【0037】
その縫い目15に沿って裏細腹5bの背側の端縁部が、細腹身頃2cの縫い代部に縫いつけられており(16がその部分の縫い目)、その縫い目16の延長上において、裏細腹5bの脇下部位にプリーツ10を設けている。
【0038】
その図9のプリーツ10は、図11に示すように、裏細腹5bの突片5f{図11(a)参照。これは、図3の突片に比べて2倍強の幅を有する}を、先ず、折り目20に沿って折り込み{図11(b)参照}、次に、折り目19に沿って折り戻し{図11(c)参照}、折り目19に沿った縁にミシンがけする{図11(d)参照}。
【0039】
そして、さらに、2度折りした突片5fの一部(表地に縫い合わされない箇所)を図12に示す縫い目18の位置で互いに縫い合わせ、突片5fの突端の縁(縫い代)を縫い目17(図10参照。これは縫い目16の延長上にある)が形成されるように表地に縫い付ける手順を経て形成されている。
【0040】
このプリーツ10も裏細腹5bに覆い隠されており、上着の裏側を見ただけではその存在が殆どわからない。このように、プリーツ10を裏細腹5bに形成しても、上着の着用感向上の目的が達成される。
【0041】
なお、以上の説明は男性用スーツの上着を例に挙げて行ったが、この発明は、裏地のある上着の全てに適用できる。ジャケットやコート、所謂アウターと言ったスーツ以外の着衣の上着にも適用できる。適用対象の上着が女性用であるか男性用であるかも問わない。
【符号の説明】
【0042】
1 上着
2 表地
2a 前身頃
2b 後ろ身頃
2c 細腹身頃
3 袖
4 襟
5 裏地
5a 背裏
5a−1 観音背裏
5a−2 ベント部裏地
5b 裏細腹
5c 胴裏
5d 袖裏
5e,5f 突片
6 サイドポケット
7 胸ポケット
8 身返し
9 脇当て
10、11 プリーツ
12 縫い代
13〜18 縫い目
19,20 折り目
【技術分野】
【0001】
この発明は、伸縮性の無い裏地を有する上着、詳しくは、裏地による着用者の動作の妨げを、体裁の悪化や商品価値の低下などを招かない方法で緩和して着用感(所謂着心地)を向上させた上着に関する。
【背景技術】
【0002】
スーツなどの上着は、表地については、通常、ストレッチ織物が使用される。従って、裏地の無い上着については、サイズが小さすぎる場合は別として、着用した人の動きが妨げられることはまずない。
【0003】
これに対し、スーツなどの上着に必要に応じて設けられる裏地は、伸縮性の無い生地を用いるのが一般的であり、その伸縮性の無い生地で構成された裏地は、体型に合致した上着である場合には特に、それを着用した人の自由な動きを妨げる。
【0004】
下記特許文献1は、その問題の対策として、体の動きが大きくなる肩部、肘部、膝部などに対応した箇所に、伸縮性生地からなる裏地を採用することを提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実用新案登録第3155704号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記伸縮性生地は、伸縮量に限りがある。ゴムに比べると伸び量が小さく(織りの構造上の理由による)、そのために、特許文献1が開示しているスーツは、体の大きな動きに対しては抵抗感や違和感を生じることが懸念される。
【0007】
また、裏地の一部を、本来の裏地とは風合いや織りの構造などが異なる伸縮性生地に置き換えると、上着の裏面の体裁が悪くなり、エレガントを売りにした高級なスーツなどもカジュアルな印象を与えるものになって商品価値が低下する。
【0008】
また、本来の裏地に別パーツを継ぎ足す形になるので、製品コストにも悪影響がでる。
【0009】
この発明は、上記の問題を、上着の体裁の悪化、商品価値の低下、コストアップなどを招かない方法で解消してスーツを初めとした各種裏地付き上着の着用感を向上させることを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するため、この発明は、伸縮性の無い生地で構成された裏地を有する上着の裏地にプリーツ(襞)を設けた。具体的には、背裏(後ろ身裏地)と裏細腹(細腹裏地)の脇下での相互継ぎつなぎ部に対して背裏と裏細腹が互いに離反する方向への開き代を付与するプリーツを裏地に設け、そのプリーツを裏地と表地の間に入り込ませて裏地と表地とで覆い隠した。
【0011】
また、後ろ身裏地の無い上着にも対応可能な構造として、伸縮性の無い生地で構成される裏腹を有し、その裏細腹に対して当該裏細腹が後ろ身頃から離反する方向への開き代を付与するプリーツを、脇下において前記裏細腹に設け、そのプリーツを裏地と表地の間に入り込ませて裏地と表地とで覆い隠した。
【0012】
なお、背裏と裏細腹の継ぎつなぎ部に設ける前者のプリーツは、背裏と裏細腹の相互継ぎつなぎ部に対応させて形成した突片のどちらか一方をその一方の突片の突出方向とは反対方向、かつ、表地と当該突片を有する側の裏地との間に入り込む方向に折り込み、その突片の突端の縁と他方の突片の突端の縁を互いに縫い合わせて作ると好ましい。
【0013】
背裏が存在する上着では、背裏の背幅方向中央部にも、裏地に対して背幅方向への開き代を付与するプリーツを設けることができる。
【0014】
前記プリーツは、襞の幅が全域においてほぼ一定しているもの、袖の付け根に近い側と袖の付け根から離反側で襞の幅が変化しているもののどちらであってもよい。
【発明の効果】
【0015】
この発明の上着は、裏地の袖のつけ根に対応した箇所にプリーツを設けており、そのプリーツによって裏地の寸法にゆとりが付与される。上着の着用者が腕を持ち上げたときにプリーツが開き、プリーツに対応した位置で裏細腹の胴回り方向の幅が広がって裏地が伸びたのと実質的に差のない状態が作り出される。
【0016】
これにより、着用者の腕、肩の動きに対して抵抗感、違和感が発生せず、上着の着用感が良くなる。ゴムやゴム編み生地と違ってプリーツが開くときの抵抗感、突っ張り感は全くなく、体型にフィットした上着も着用者の動きに窮屈な感じを与えることがない。
【0017】
また、上記プリーツは、裏地の一部を折り込んで裏地と表地の間に入り込ませているので、上着の体裁の悪化も起こらない。そのプリーツが裏地と表地によって覆い隠されるため、プリーツがあることにも気づき難く、高級感や商品価値の低下が起こらない。
【0018】
さらに、別パーツを継ぎ足すわけではないので、製品コストの上昇も招かない。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】この発明の上着の一例を示す正面図
【図2】図1の上着の裏地の一部を展開して示す図
【図3】図1の上着に設けた背裏と裏細腹の展開図
【図4】(a)背裏と裏細腹の初期の縫い合わせ手順の説明図、(b)縫い代のずれを補正した状態を示す図、(c)裏細腹の縫い合わせ終了図
【図5】背裏と裏細腹のプリーツ形成部の縫い合わせ手順の説明図
【図6】背裏と裏細腹の縫い合わせ部の要部を示す図
【図7】プリーツが閉じた状態と開いた状態を比較して示す図
【図8】図5のVIII−VIII線に沿った位置の断面図
【図9】プリーツを裏細腹に形成した例の裏側の要部を示す展開図
【図10】図9のX−X線に沿った断面図
【図11】(a)〜(d)図9の裏細腹のプリーツ形成部の縫い合わせ手順の説明図
【図12】図11の裏細腹の突片折込み後の状態を裏から見た図
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、添付図面の図1〜図12に基づいてこの発明の上着の実施の形態を説明する。
【0021】
図1は、男性用スーツ(背広)の上着を示している。図中1は上着、2は表地、2aは表地の前身頃、3は袖、4は襟、5は裏地、6はサイドポケット、7は胸ポケットである。例示の上着の表側は、従来品と同様の構成であり、前身頃2a、袖3、襟4については、表地が図に表れている。
【0022】
この発明の特徴部は、図2に示した裏地5にある。その裏地5は、背裏(背裏地)5a、裏細腹(細腹裏地)5b、胴裏(胴裏地)5c、及び袖裏(袖裏地)5d(図6参照)を縫い合わせによって継ぎつないで構成されている。裏地の各部位は、いずれも伸縮性の無い生地からなる。図2の8は、表地と同一生地で形成される身返し、図2の9は必要に応じて設けられる脇当てである。脇当9は、袖裏5dに予め連接しておくと設置がしやすい。
【0023】
背裏5aは、対をなす左右のパーツを背の中央で継ぎつないで構成されており、その背裏5aと裏細腹5bが、袖3の付け根で継ぎつながれる部位(着用者の脇に対応した位置)に、プリーツ10を設けている。
【0024】
そのプリーツ10は、背裏5aの裏細腹5bへの継ぎつなぎ側に突片5e(図3参照)を形成し、その突片5eを裏細腹5bから離れる方向に折り込み、突片5eの突端の縁をその縁と重なるように背裏5a側に入り込ませた裏細腹5bの突片5fの縁と縫い合せて構成されている。
【0025】
図4(a)に示すように、裏細腹5bを反転させて背裏5aの上に置き(背裏5aを反転させて裏細腹5bの上に置くことも可)、上着の裾の側を優先させて両裏地の縫い代12を重ねる。そして、裾の側から縫い代12のきっちりと重なっている部分を縫い合わせる(13がその位置の縫い目)。その縫合は、次に縫い合わせる箇所の縫い代の位置がずれている場合には、図4(b)に示すように、そのずれを補正しながら補正箇所の縫い代部を縫い合わせる。
【0026】
図4(c)に示すように、背裏5aと裏細腹5bに対応させて形成された突片5e,5fの重ね縁(縫い代)までを縫い合わせたら、反転している裏細腹5bを元に戻し、突片5eを縫い目13の延長上(一点鎖線上)に折り目線ができるように折り込む。
【0027】
そして、図5に示すように、突片5e、5fの互いに重なり合った縁の生地の袖側裁断縁近辺を縫い合わせる(14がその位置の縫い目)。これにより、突片5eが裏地の背面側に折り込まれて所望のプリーツ10が脇下に形成される。
【0028】
図示のプリーツ10は、幅wがほぼ一定したものになっているが、突片5e、5fを、袖3の付け根に近い側から付け根から遠ざかる側に向って幅が次第に減少する形状にしてその両者の突端を縫い合わせてもよい。
【0029】
その場合には、袖の付け根に近い側で襞の幅が大きく、袖の付け根から離れるに従ってその襞の幅が減少するプリーツが形成され、そのようなプリーツでも発明の目的が達成される。
【0030】
袖3の付け根側にプリーツ10を形成した裏地5は、袖側の縫い代が袖裏5dと一緒に袖3の取付け部に縫いつけられる。このときの縫製は、図6に示すように、背裏5aと裏細腹5bの裁断縁が袖裏5dによって包み隠されるように行われる。
【0031】
なお、例示の裏地5には、背裏5aの左右のパーツの縫い合わせ部にもプリーツ11を設けている。そのプリーツ11は、必要に応じて設けるものであって、この発明を特徴づけるものではない。ちなみに、このプリーツ11もプリーツ10と同様の方法で形成することができる。
【0032】
以上のように構成した裏地5は、袖3に近い位置で背裏5aと裏細腹5bを互いに離反する方向に引っ張ると、図7に鎖線で示すように、プリーツ10が開く。そのために、袖3の付け根付近における裏地の幅が広がり、上着着用者の動きに抵抗感が生じない。折りたたみ状態でのプリーツ幅wを約20mm、展開時幅(2・w)を40mmにした試作品の上着は着用感がすこぶる良かった。
【0033】
なお、プリーツ10は、裏細腹5bの突片5fを裏細腹5b側に折り込み、その突片5fの縁と、突片5fに重ねた背裏5aの突片5eの縁を互いに縫い合わせて構成してもよい。
【0034】
また、スーツの上着には、所謂総裏の無いものがある。その上着も、裏細腹にプリーツを形成することで、発明の目的が達成される。
【0035】
その上着の具体例を、図9〜図12に基づいて説明する。図9に示すように、背裏は、観音背裏5a−1とベント部裏地5a−2しかなく、これ等は裏細腹5bに縫いつながれない。このような上着では、裏細腹(これも伸縮性の無い生地からなる)5bの背側の端縁が、表地2の継ぎつなぎ部に縫い合わされる。
【0036】
図9の8は見返し、2bは、表地の後ろ身頃であり、その後ろ身頃2bと細腹身頃2c(図10参照)は、縫い目15の位置で互いに縫い合わされている。
【0037】
その縫い目15に沿って裏細腹5bの背側の端縁部が、細腹身頃2cの縫い代部に縫いつけられており(16がその部分の縫い目)、その縫い目16の延長上において、裏細腹5bの脇下部位にプリーツ10を設けている。
【0038】
その図9のプリーツ10は、図11に示すように、裏細腹5bの突片5f{図11(a)参照。これは、図3の突片に比べて2倍強の幅を有する}を、先ず、折り目20に沿って折り込み{図11(b)参照}、次に、折り目19に沿って折り戻し{図11(c)参照}、折り目19に沿った縁にミシンがけする{図11(d)参照}。
【0039】
そして、さらに、2度折りした突片5fの一部(表地に縫い合わされない箇所)を図12に示す縫い目18の位置で互いに縫い合わせ、突片5fの突端の縁(縫い代)を縫い目17(図10参照。これは縫い目16の延長上にある)が形成されるように表地に縫い付ける手順を経て形成されている。
【0040】
このプリーツ10も裏細腹5bに覆い隠されており、上着の裏側を見ただけではその存在が殆どわからない。このように、プリーツ10を裏細腹5bに形成しても、上着の着用感向上の目的が達成される。
【0041】
なお、以上の説明は男性用スーツの上着を例に挙げて行ったが、この発明は、裏地のある上着の全てに適用できる。ジャケットやコート、所謂アウターと言ったスーツ以外の着衣の上着にも適用できる。適用対象の上着が女性用であるか男性用であるかも問わない。
【符号の説明】
【0042】
1 上着
2 表地
2a 前身頃
2b 後ろ身頃
2c 細腹身頃
3 袖
4 襟
5 裏地
5a 背裏
5a−1 観音背裏
5a−2 ベント部裏地
5b 裏細腹
5c 胴裏
5d 袖裏
5e,5f 突片
6 サイドポケット
7 胸ポケット
8 身返し
9 脇当て
10、11 プリーツ
12 縫い代
13〜18 縫い目
19,20 折り目
【特許請求の範囲】
【請求項1】
伸縮性の無い生地で構成される裏地(5)を有し、その裏地に、背裏(5a)と裏細腹(5b)が含まれ、その背裏(5a)と裏細腹(5b)の脇下での相互継ぎつなぎ部に対して背裏(5a)と裏細腹(5b)が互いに離反する方向への開き代を付与するプリーツ(10)を前記裏地(5)に設け、そのプリーツ(10)を裏地(5)と表地(2)とで覆い隠した、裏地を有する上着。
【請求項2】
伸縮性の無い生地で構成される裏細腹(5b)を有し、その裏細腹(5b)に対して当該裏細腹(5b)が後ろ身頃(2b)から離反する方向への開き代を付与するプリーツ(10)を、脇下において前記裏細腹(5b)に設け、そのプリーツ(10)を裏細腹(5b)と表地(2)とで覆い隠した、裏地を有する上着。
【請求項3】
前記プリーツ(10)を、前記背裏(5a)と裏細腹(5b)の相互継ぎつなぎ部に対応させて形成した突片(5e、5f)のどちらか一方(例えば5e)をその一方の突片の突出方向とは反対方向、かつ、表地(2)と当該突片(5e)を有する側の裏地との間に入り込む方向に折り込み、その突片(5e)の突端の縁と他方の突片(5f)の突端の縁を互いに縫い合わせて作った請求項1に記載の裏地を有する上着。
【請求項4】
前記背裏(5a)の背幅方向中央部にも、裏地に対して背幅方向への開き代を付与するプリーツ(11)を設けた請求項1又は3に記載の裏地を有する上着。
【請求項1】
伸縮性の無い生地で構成される裏地(5)を有し、その裏地に、背裏(5a)と裏細腹(5b)が含まれ、その背裏(5a)と裏細腹(5b)の脇下での相互継ぎつなぎ部に対して背裏(5a)と裏細腹(5b)が互いに離反する方向への開き代を付与するプリーツ(10)を前記裏地(5)に設け、そのプリーツ(10)を裏地(5)と表地(2)とで覆い隠した、裏地を有する上着。
【請求項2】
伸縮性の無い生地で構成される裏細腹(5b)を有し、その裏細腹(5b)に対して当該裏細腹(5b)が後ろ身頃(2b)から離反する方向への開き代を付与するプリーツ(10)を、脇下において前記裏細腹(5b)に設け、そのプリーツ(10)を裏細腹(5b)と表地(2)とで覆い隠した、裏地を有する上着。
【請求項3】
前記プリーツ(10)を、前記背裏(5a)と裏細腹(5b)の相互継ぎつなぎ部に対応させて形成した突片(5e、5f)のどちらか一方(例えば5e)をその一方の突片の突出方向とは反対方向、かつ、表地(2)と当該突片(5e)を有する側の裏地との間に入り込む方向に折り込み、その突片(5e)の突端の縁と他方の突片(5f)の突端の縁を互いに縫い合わせて作った請求項1に記載の裏地を有する上着。
【請求項4】
前記背裏(5a)の背幅方向中央部にも、裏地に対して背幅方向への開き代を付与するプリーツ(11)を設けた請求項1又は3に記載の裏地を有する上着。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2012−21237(P2012−21237A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−157743(P2010−157743)
【出願日】平成22年7月12日(2010.7.12)
【出願人】(399027255)株式会社リオンドール (3)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年7月12日(2010.7.12)
【出願人】(399027255)株式会社リオンドール (3)
【Fターム(参考)】
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