説明

裏地用織物

【課題】滑り性、ドレープ性、柔軟性、制電性に優れた、裏地用織物、特に袖用又は膝用裏地として好適な裏地用織物の提供。
【解決手段】経糸又は緯糸のいずれか又は両者に再生セルロース系繊維を用いた裏地用織物であって、該織物表面の動摩擦係数(μ)が0.10〜0.35であることを特徴とする前記織物、及び該裏地用織物の緯糸方向が経方向となるように裁断縫製されて、袖部又は膝部のいずれかに配されていることを特徴とする裏地。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、滑り性、ドレープ性、柔軟性、制電性に優れる快適な裏地用織物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、裏地に用いられる織物(裏地用織物)の多くには、キュプラ、ビスコースレーヨンなどのセルロース繊維、ポリエステルやポリアミドなどの合成繊維等が経緯に用いられている。
【0003】
裏地の役割として、以下に列記する点を挙げることができ:
1.滑りがよく、直接肌に触れても肌を傷めないこと。
2.シルエットを美しく見せること。
3.体からの汚れ(例えば、皮脂など)が表地に移行するのを防いで表地を保護すること。
4.透ける表地に対してもアンダードレスとして、下着などが透けたりしないようにすること。
5.夏場のムレ感やベタツキ感を抑えること。
6.冬場から春にかけて発生する静電気の発生を抑えること。
【0004】
しかしながら、市場に出回っている商品においては、上記役割の全てを十分に満足するものはない。
裏地では、衣類胴部、袖部、膝部に用いられる部位を、それぞれ胴裏、袖裏、膝裏と呼称する。快適な裏地としては、着用する時にこれらの部位の滑り性が良好で、上着の袖通しが良く、また、ズボンやスカートに足を入れる時にまとわりつかず、引っかからない性能の裏地が求められている。更に着用による静電気の発生を抑制してまとわりつきにくいことや、手や足の肌に直接触れた時に肌に刺激を与えないことなどの性能も求められている。さらに、シーズンにより異なるが、夏場においては発汗などによる衣服内のムレ感やベタツキ感を抑制することや、冬場においては空気が乾燥して低湿度となっても静電気の発生を抑制し、衣服のまとわりつきにくいことなどの性能も、求められている。
【0005】
これらの性能を発現させることを目的として、以下の特許文献1には、軽さと通気量を併せ持つ着用感のよい夏向けの裏地用織物が開示されている。特許文献1には、カバーファクター、通気量、撚り係数を規定することで目的を達成できると記載されている。素材としては特にポリエステル系繊維とポリアミド系繊維が好ましいとあり、実施例においては経糸に無撚のポリエステル糸を用い、緯糸には撚糸又は仮撚加工したポリエステル糸を用いてものが開示されている。しかしながら、特許文献1に開示された裏地織物は、滑り性やソフトな風合いが十分なものではなく、滑り性、ドレープ性、柔軟性、制電性に優れる快適な裏地用織物は未だ得られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−81914号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、上記従来技術の問題点を解決しうる、滑り性、ドレープ性、柔軟性、制電性に優れる裏地用織物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは鋭意検討し、実験を重ねた結果、予想外に、特定のセルロース繊維を経糸又は緯糸のいずれかに用いることによって、上記課題が解決しうることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明は下記の通りである。
[1]経糸又は緯糸のいずれか又は両者に再生セルロース系繊維を用いた裏地用織物であって、該織物表面の動摩擦係数(μ)が0.10〜0.35であることを特徴とする前記織物。
【0010】
[2]前記[1]に記載の裏地用織物の緯糸方向が経方向となるように裁断縫製されて、袖部又は膝部のいずれかに配されていることを特徴とする裏地。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る裏地用織物は、滑り性、ドレープ性、柔軟性、制電性に優れ、該裏地用織物の緯糸方向を経方向となるように裁断、縫製して得られた袖用又は膝用裏地は快適な着用感を発現する。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明に用いる再生セルロース系繊維としてはビスコース法レーヨン、ポリノジックレーヨン、精製セルロース繊維、銅アンモニア法レーヨンなどが挙げられる。マルチフィラメントであることが好ましく、無撚糸又は撚糸されたマルチフィラメントが特に好ましい。撚数は0〜1500t/mであることが肌刺激性の点で好ましい。
【0013】
本発明の裏地用織物は、再生セルロース系繊維を少なくとも経糸又は緯糸のいずれかに用いたものであり、経緯糸両方に用いることが好ましい。
【0014】
本発明においては、織物表面の動摩擦係数(μ)は、カトーテック社製のKES−SEを使用して、摩擦面寸法が経緯1cm角で重量が0.49Nの摩擦子に、カナキン3号の綿布(精練布)を取り付け、5cm/分の速度で固定した試料の表面上を滑らせた時の摩擦抵抗力(N)から、以下の式(1)により算出した。
動摩擦係数(μ)=摩擦抵抗力(N)/摩擦子の重量(N) 式(1)
【0015】
具体的な測定方法としては、測定に使用する試料を20℃65%RH環境下で24時間調湿した後、規定の大きさにサンプリングしたものを用いて、測定した。
本発明の裏地用織物は、動摩擦係数(μ)が0.10〜0.35である。0.35を超えると滑り性が低下して、袖通しが悪い。
【0016】
本発明の裏地用織物の緯糸方向を経方向に用いて、裁断縫製して袖用裏地又は膝用裏地として用いることが好ましい。例えば、代表的な袖裏には経ストライプ柄が多用されている。袖裏の柄はストライプ柄が大半であるが、柄のピッチや配色は多種多様である。一方、1柄の使用量はそれ程多くなく、経ストライプ柄での少量多品種生産はコストと納期に多くの課題が残る。これに対して、本発明に係る緯ボーダー柄裏地用織物の緯糸方向を経方向に用いて、裁断縫製して得られたストライプ柄の袖用裏地は少量多品種に最適である。
【0017】
本発明の再生セルロース繊維は、総繊度が44〜135dtexの範囲であることが好ましく、より好ましくは56〜110dtexの範囲である。総繊度が44dtex未満では、摩耗強力が低く、一方、135dtexを超えると厚ぼったくなり好ましくない。
【0018】
再生セルロース繊維マルチフィラメントの単糸繊度は0.8〜2.0dtexであることが好ましく、より好ましくは1.0〜1.9dtexである。単糸繊度が0.8dtex以下では、摩耗強力が低く、一方、2.0dtexを超えると肌触りが悪くなり好ましくない。
【0019】
本発明の織物としては、特に限定はなく、通常の織機を用いて製造することができる。織物の組織としては、平織、綾織、朱子織、その変化組織等が挙げられるが、平織、綾織が特に好ましい。
本発明の織物の加工方法は特に限定されず、染色を施してもよい。例えば、綛やチーズのような糸の状態で行う先染法により緯糸の柄糸を供給することができる。織物の状態で行う後染を施しても特に問題はない。染料、染色助剤、仕上げ加工剤としても、一般に市販されているセルロース繊維の染色に用いているものを目的に応じて任意に選定できる。
【実施例】
【0020】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。
(1)動摩擦係数(μ)
カトーテック社製のKES−SEを使用して、摩擦面寸法が経緯1cm角で重量が0.49Nの摩擦子に、カナキン3号の綿布(精練布)を取り付け、5cm/分の速度で固定した試料の表面上を滑らせた時の摩擦抵抗力(N)から動摩擦係数(μ)を以下の式(1)から算出した。
動摩擦係数(μ)=摩擦抵抗力(N)/摩擦子の重量(N) 式(1)
具体的な測定方法としては、測定に使用する試料を20℃65%RH環境下で24時間調湿した後、規定の大きさにサンプリングしたものを用いて、測定した。
【0021】
(2)ドレープ係数
JIS−L−1096ドレープ法に準じて測定した。測定に使用する試料を20℃、65%RH環境下で24時間調湿した後、規定の大きさにサンプリングしたものを用いて、測定した。
【0022】
(3)摩擦帯電圧
JIS−L−1094 B法に準じて測定した。測定環境は20℃×40%RHにて摩擦布はカナキン3号の綿布(精練布)を使用した。
【0023】
[実施例1]
経糸に84dtex45フィラメントのキュプラ糸[旭化成せんい社製、ベンベルグ(登録商標)]を、緯糸に84dtex45フィラメントでS600t/mのキュプラ糸と予め反応性染料にてブルーに染色した84dtex45フィラメントでS600t/mのキュプラ糸とを用いた平織物を試織し、オープンソーパータイプの精練機にて精練剤1cc/lで80℃×5分間にて精練2槽、湯洗い2槽を経て、水洗し、乾燥した後、170℃×1分の熱セットを行い、実施例1の布帛を得た。
【0024】
[実施例2]
経糸に84dtex45フィラメントのキュプラ糸[旭化成せんい社製、ベンベルグ(登録商標)]を、緯糸に110dtex59フィラメントでS600t/mのキュプラ糸と予め反応性染料にてブルーに染色した110dtex54フィラメントでS600t/mのキュプラ糸とを用いた綾織物を試織した以外は実施例1と同様の方法で精練・乾燥、仕上げを行い、実施例2の布帛を得た。
【0025】
[比較例1]
経糸及び緯糸に84dtex45フィラメントのポリエステル糸を用いた以外は実施例1と同様の平織物で同様の方法で精練・乾燥、仕上げを行い、比較例1の布帛を得た。
【0026】
[比較例2]
経糸が84dtex45フィラメントのポリエステル糸、緯糸に110dtex59フィラメントでS600t/mのポリエステル糸を用いた以外は実施例2と同様の綾織物で同様の方法で精練・乾燥、仕上げを行い、比較例2の布帛を得た。
評価結果を以下の表1に示す。
【0027】
[比較例3]
経糸に84dtex28フィラメントのビスコース法レーヨン糸を、緯糸に110dtex45フィラメントのビスコース法レーヨン糸を用いた綾織物を試織した以外は実施例1と同様の方法で精練・乾燥、仕上げを行い、比較例3の布帛を得た。評価結果を以下の表1に示す。
【0028】
【表1】

【0029】
実施例1と2では、滑り性、ドレープ性、柔軟性、及び制電性に優れているのに対して、比較例1〜3では、滑り性が悪く、ドレープ性が劣り、また比較例1と2では静電気の発生は顕著である。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明に係る裏地用織物は、滑り性、ドレープ性、柔軟性、制電性に優れ、さらに該裏地用織物の緯糸方向を経方向に用いて、裁断縫製して得られた袖用裏地又は膝用裏地は快適な着用感を発現する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
経糸又は緯糸のいずれか又は両者に再生セルロース系繊維を用いた裏地用織物であって、該織物表面の動摩擦係数(μ)が0.10〜0.35であることを特徴とする前記織物。
【請求項2】
請求項1に記載の裏地用織物の緯糸方向が経方向となるように裁断縫製されて、袖部又は膝部のいずれかに配されていることを特徴とする裏地。