説明

補体活性検査方法

【課題】抗体医薬によって誘導されるCDCに影響する補体活性を測定し得る補体活性検査方法の提供。
【解決手段】抗体医薬により誘導される補体活性を検査する方法であって、(a)細胞培養容器内に、抗体医薬に対する抗原を発現している標的培養細胞と、抗体医薬を添加して培養する工程と、(b)前記工程(a)の後、前記細胞培養容器内に、検査対象者由来の補体含有物を添加する工程と、(c)前記工程(b)の後、前記細胞培養容器内の標的培養細胞における死細胞の量又は割合を求める工程と、を有することを特徴とする補体活性検査方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗体医薬に対する感受性に影響を与える、抗体医薬により誘導される投与対象者の補体活性を検査する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、遺伝子組み換え技術を応用したヒトキメラ抗体・ヒト化抗体医薬が上市されている。臨床で用いられている抗体医薬としては、抗Her2ヒト化抗体であり、Her2陽性乳がんに対し有効とされているトラスツマブ(一般名)や、抗CD20キメラ抗体であり、Bリンパ腫に対し有効とされているリツキシマブ(rituximab;一般名)、同じく抗CD20抗体であり、CD20陽性非ホジキンリンパ腫に対し有効とされているイブリツモマブ(一般名)等が知られている。
【0003】
抗体医薬の作用機序としては、シグナリングによる増殖抑制やアポトーシス誘導、補体依存性細胞障害(CDC)、抗体依存性細胞障害(ADCC)等が挙げられる。中でもCDCは、血中に豊富に存在する補体が抗体を直接認識し、抗体医薬が結合した標的細胞を攻撃するため、抗体医薬の投与から比較的短時間で効果を発揮し得ると考えられている(例えば、非特許文献1参照。)。しかしながら、抗体医薬は全ての患者に対して有効であるとは限らず、例えば、Bリンパ腫患者の中には、リツキシマブ抵抗性の者も存在していることが知られている(例えば、非特許文献2参照。)。したがって、抗体医薬を投与する場合には、投与対象である患者の該抗体医薬に対する感受性、すなわち、該抗体医薬が該患者の生体内において有効に作用し得るか否かを、予め検査しておくことが好ましい。
【0004】
抗体医薬に対する感受性は、多くの要素により決定されるが、主に、投与対象者の病変細胞の状態と投与対象者の免疫状態の2つの要素が関与していると考えられている。ここで、投与対象者の病変細胞の状態に影響する要素として、例えば、抗原の発現状況や、CD46、CD55、CD59等の、補体によって形成される細胞膜障害性複合体への防御に関係する因子の発現状況等が挙げられる。一方、投与対象者の免疫状態に影響する要素として、例えば、血中の補体量や補体活性等が挙げられる。特にCDCに対する感受性は、投与対象者の補体活性に大きな影響を受けると考えられる。
【0005】
実際に、リツキシマブの投与により、患者の補体量が急速に減少することが報告されており、投与対象者の補体活性が治療効果に影響すること示唆されている(例えば、非特許文献3参照。)。このため、例えば、抗体医薬の投与前に投与対象者の補体活性を検査しておくことにより、該抗体医薬の治療効果の予測精度を改善することができる。また、抗体医薬投与期後や投与による治療期間中に、投与対象者の補体活性を検査することにより、抗体医薬による治療効果や影響等を評価することもできる。
【0006】
従来は、補体活性を検査する方法として、Mayer法を応用したMayer法50%溶血法やMayer法相対比濁法等が臨床上広く用いられている。これらの方法は、ヒツジ赤血球に対する抗体とヒツジ赤血球とが結合した感作ヒツジ赤血球に、検査対象者の血清を添加して接触させ、感作ヒツジ赤血球の50%を溶血させることができる補体量を血清補体価(CH50)として補体活性を測定するものである。Mayer法は定量性に富み、精度や再現性も高く、適切なCH50の測定法とされている。
【非特許文献1】オリバー・マンチェスら(Oliver Manches et al.)、ブラッド(Blood)、第101巻、第3号、第949〜954ページ、2003年
【非特許文献2】ジェームズ・M・フォーランら(James M. Foran et al.)、ブリティッシュ・ジャーナル・オブ・ヘマトロジー(British Journal of Hematology)、第114巻、第881ページ、2001年
【非特許文献3】アダム・D/ケネディら(et al.)、ジャーナル・オブ・イミュノロジー(Journal of Immunology)、第172巻、第3280〜3288ページ、2004年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、Mayer法では、投与対象者の血清の総合的な補体活性を測定するものであり、特定の抗体医薬に対する補体活性を測定することは困難である。特に、感作ヒツジ赤血球を溶血させる活性を測定しており、抗体医薬により誘導されるCDCを直接的に測定するものではなく、抗体医薬に対する感受性を評価する上では、必ずしも適当ではなかった。
【0008】
本発明は、抗体医薬によって誘導されるCDCに影響する補体活性を測定し得る補体活性検査方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、抗体医薬に対する抗原を定常的に発現している標的培養細胞、抗体医薬、及び検査対象者由来の補体含有物を用いて、抗体医薬によって誘導されるCDCを計測することにより、抗体医薬のCDCに影響する補体活性を直接的に測定し得ることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
本発明は、
(1)抗体医薬により誘導される補体活性を検査する方法であって、(a)細胞培養容器内に、抗体医薬に対する抗原を発現している標的培養細胞と、抗体医薬を添加して培養する工程と、(b)前記工程(a)の後、前記細胞培養容器内に、検査対象者由来の補体含有物を添加する工程と、(c)前記工程(b)の後、前記細胞培養容器内の標的培養細胞における死細胞の量又は割合を求める工程と、を有することを特徴とする補体活性検査方法、
(2)前記工程(c)が、(c1)前記工程(b)の後、前記細胞培養容器内の標的培養細胞において、細胞ごとに生死を判定し、死細胞の量を求める工程、であることを特徴とする前記(1)記載の補体活性検査方法、
(3)前記工程(a)が、(a’)細胞培養容器内に、抗体医薬に対する抗原を発現している標的培養細胞と、前記抗体医薬に対する抗原を発現していない対照培養細胞と、抗体医薬とを、添加して培養する工程、であることを特徴とする前記(1)又は(2)記載の補体活性検査方法、
(4)前記工程(c)が、(c2−1)前記工程(b)の後、前記細胞培養容器内の標的培養細胞において、細胞ごとに生死を判定し、死細胞の割合を求める工程と、(c2−2)前記工程(b)の後、前記細胞培養容器内の対照培養細胞において、細胞ごとに生死を判定し、死細胞の割合を求める工程と、(c2−3)前記工程(c2−2)により求められた対照培養細胞における死細胞の割合を考慮して、前記工程(c2−1)により求められた標的培養細胞における死細胞の割合に基づいて前記補体含有物の補体活性を評価する工程と、であることを特徴とする前記(3)記載の補体活性検査方法、
(5)前記工程(c)が、(c3)前記工程(b)の後、細胞培養容器ごとに、生細胞又は死細胞特異的に検出されるシグナル強度を測定することにより、前記細胞培養容器内の標的培養細胞における死細胞の量又は割合を求める工程、であることを特徴とする前記(1)記載の補体活性検査方法、
(6)前記シグナル強度が、染色強度又は蛍光強度であることを特徴とする前記(5)記載の補体活性検査方法、
(7)前記工程(b)の前に、(d)前記細胞培養容器内の細胞ごとに生死を判定する工程と、を有することを特徴とする前記(1)〜(6)のいずれか記載の補体活性検査方法、
(8)細胞の生死を、染色試薬を前記細胞培養容器内に添加し、細胞染色の有無により判定することを特徴とする前記(1)〜(7)のいずれか記載の補体活性検査方法、
(9)前記染色試薬が核染色試薬であることを特徴とする前記(8)記載の補体活性検査方法、
(10)前記補体含有物が血清であることを特徴とする前記(1)〜(9)のいずれか記載の補体活性検査方法、
(11)前記検査対象者がCD20陽性非ホジキンリンパ腫の患者であることを特徴とする前記(1)〜(10)のいずれか記載の補体活性検査方法、
(12)前記抗体医薬がリツキシマブであることを特徴とする前記(1)〜(11)のいずれか記載の補体活性検査方法。
(13)前記標的培養細胞がCD20陽性細胞であることを特徴とする前記(1)〜(12)のいずれか記載の補体活性検査方法、
(14)前記CD20陽性細胞がDaudi細胞であることを特徴とする前記(13)記載の補体活性検査方法。
(15)前記CD20陽性細胞がRaji細胞であることを特徴とする前記(13)記載の補体活性検査方法、
(16)前記CD20陽性細胞がRamos細胞であることを特徴とする前記(13)記載の補体活性検査方法、
(17)前記CD20陽性細胞が人工的にヒトCD20遺伝子を導入し、発現させた細胞であることを特徴とする前記(13)記載の補体活性検査方法、
を、提供するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の補体活性検査方法を用いることにより、特定の抗体医薬により誘導されるCDC等の細胞障害に影響する補体活性を直接測定することができるため、補体活性をより高精度に検査することができる。したがって、本発明の補体活性検査方法は、抗体医薬に対する感受性評価の適正化に資することが期待される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明において、抗体医薬とは、生体内に投与された場合に、該生体内に存在する抗原と結合することにより何らかの効果を生ずる抗体であれば、特に限定されるものではなく、薬事法上の医薬品であってもよく、薬事法上の医薬品以外の抗体であってもよい。また、ヒトに投与される抗体医薬であってもよく、ヒト以外の生物種に投与される抗体医薬であってもよい。抗体医薬の抗原は生体分子であればよく、例えば、タンパク質、糖鎖、脂質、核酸、低分子化合物等のいずれを抗原とする抗体であってもよい。特異性が高く、より高い生理的効果が期待できることから、細胞表面に存在する分子、例えば、タンパク質、糖鎖、脂質等を抗原とする抗体医薬であることが好ましく、細胞膜に埋め込まれており、エピトープが細胞膜表面に提示されている膜タンパク質を抗原とする抗体医薬であることがより好ましい。
【0013】
抗体医薬には、ヒト抗体、マウス抗体等の一の生物種由来の抗体、抗体分子の可変領域と定常領域が、それぞれ異種の生物種由来の抗体であるキメラ抗体、再構成抗体等があるが、いずれの種類の抗体であってもよい。ここで、再構成抗体とは、ドナー生物種由来の相補性決定領域CDR部分のみをアクセプター生物種由来の抗体に移植(再構成)した抗体を意味する。本発明の補体活性検査方法においては、CDCを誘導し得るものであり、ヒトに投与した場合に、異物認識応答が生じにくい抗体であることが好ましい。特に、ヒト抗体、ヒト以外の動物種由来の可変領域とヒト由来の定常領域を有するキメラ抗体、ヒト以外の動物種由来のCDR部分のみをヒト由来の抗体に移植した再構成抗体(ヒト化抗体)等であることが好ましい。
【0014】
本発明において、標的培養細胞は、抗体医薬に対する抗原を細胞表面に発現している培養細胞であれば、特に限定されるものではなく、検査対象である抗体医薬の種類等を考慮して適宜決定することができる。また、元々抗原を発現している培養細胞であってもよく、公知の形質転換技術を用いて、人工的に抗原のエピトープをコードする遺伝子を導入すること等により、抗原のエピトープを細胞膜表面に提示するように恒常的に発現させた安定発現株であってもよい。例えば、蛍光タンパク質と融合した抗原を発現させた培養細胞を用いることにより、抗原の発現量の確認や、イメージサイトメーター等による細胞の検出等が簡便に行うことができる。その他、元々抗原を発現していない培養細胞等の利用も可能になる。
【0015】
例えば、抗体医薬がリツキシマブである場合には、標的培養細胞として、CD20陽性細胞(CD20を発現している細胞)を用いることができる。CD20陽性細胞として、例えば、Daudi細胞、Raji細胞、Ramos細胞等がある。また、抗体医薬がトラスツマブである場合には、Her(ハーセプチン)2陽性細胞を用いることができ、Her2陽性細胞として、例えば、MCF7細胞等がある。抗体医薬がセツキシマブ(一般名)である場合には、標的培養細胞として、EGF−R(Epidermal Growth Factor Receptor)陽性細胞を用いることができる。抗体医薬がアレムツズマブ(一般名)である場合には、標的培養細胞として、CD52陽性細胞を用いることができる。本発明においては、抗体医薬がリツキシマブである場合に、標的培養細胞として、Daudi細胞、Raji細胞、又はRamos細胞を用いることが好ましく、Daudi細胞又はRaji細胞を用いることがより好ましく、Daudi細胞を用いることがさらに好ましい。 その他、CD20陽性細胞としては、人工的にヒトCD20遺伝子を導入し、発現させた細胞も用いることができる。
【0016】
抗原を発現している培養細胞が複数種類ある場合には、1細胞当たりの抗原の発現量、CDCに対する感受性等を考慮して、使用する標的培養細胞を決定することができる。例えば、CDCに対する感受性が高い培養細胞を用いた場合には、感受性が低い培養細胞を用いた場合よりも、より低い補体活性も検出することができる。
【0017】
本発明の補体活性検査方法は、抗体医薬により誘導される補体活性を検査する方法であって、(a)細胞培養容器内に、抗体医薬に対する抗原を発現している標的培養細胞と、抗体医薬を添加して培養する工程と、(b)前記工程(a)の後、前記細胞培養容器内に、検査対象者由来の補体含有物を添加する工程と、(c)前記工程(b)の後、前記細胞培養容器内の標的培養細胞における死細胞の量又は割合を求める工程と、を有することを特徴とする。抗原を介して標的培養細胞と抗体医薬を結合させた感作標的培養細胞と、検査対象者由来の補体とを接触させると、補体が活性化させ、CDCが誘導される。したがって、補体の接触後の標的培養細胞における死細胞の割合や量は、検査対象者由来の補体の活性を反映しており、死細胞の割合や量を求めることにより、抗体医薬により誘導されるCDC等の細胞障害に影響する補体活性を直接測定することができる。
【0018】
以下、工程ごとに説明する。
まず、工程(a)として、細胞培養容器内に、抗体医薬に対する抗原を発現している標的培養細胞と、抗体医薬を添加して培養する。標的培養細胞と抗体医薬は、細胞培養容器内へ同時に添加してもよく、該細胞培養容器内で予め標的培養細胞を培養し、その後抗体医薬を添加してもよい。例えば、培養培地に、標的培養細胞と抗体医薬を添加した培養物を、細胞培養容器内へ添加してもよい。また、標的培養細胞を、予め細胞培養容器内で培養後、抗体医薬を添加してもよい。これにより、細胞培養容器内の標的培養細胞に、細胞表面に発現している抗原を介して抗体医薬を結合させ、感作標的培養細胞とすることができる。
【0019】
添加される抗体医薬量は特に限定されるものではなく、細胞培養容器内の標的培養細胞数や培養密度等を考慮して適宜決定することができる。検査結果の精度や安定性を向上させるためには、細胞培養容器内の標的培養細胞の50%以上、好ましくは80%以上を感作標的培養細胞とし得る量の抗体医薬を添加することが好ましい。標的培養細胞数に対して適当な量の抗体医薬を添加することにより、細胞培養容器内のほぼ全ての標的細胞を感作標的培養細胞とすることができる。
【0020】
工程(a)における標的培養細胞の培養は、D’MEM(ダルベッコ変法イーグル培地)やRPMI1640培地等の、該標的培養細胞と同一種類の培養細胞の培養に通常用いられる培養培地等を用いて、常法に基づき培養することができる。例えば、Daudi細胞、Raji細胞等の血球系培養細胞の場合には、RPMI1640培地を用いて37℃、5%CO雰囲気下で培養することができる。なお、培養細胞は、炭酸水素ナトリウム溶液やHEPES Buffer等を添加することにより、培養培地のpHを調整することにより、CO濃度無制御環境下でも培養することができる。また、標的培養細胞は、FBS(Fetal Bovine Serum)等の血清を添加した培養培地を用いて培養してもよい。その他、CDC観察や細胞の生死判定等に適した緩衝液等を用いて培養してもよい。該緩衝液として、例えば、PBS(phosphate−buffered saline、リン酸緩衝生理食塩水)、Hanks−Buffer等がある。
【0021】
予め細胞培養容器内で培養した標的培養細胞に、抗体医薬を添加する場合には、抗体医薬の添加は、既に細胞培養容器内に存在する培養培地に抗体医薬の濃縮液を適量添加することにより行ってもよく、細胞培養容器内の培養培地を抗体医薬溶液に置換することにより行っても良い。培養培地と置換する抗体医薬溶液としては、無血清の培養培地に抗体医薬を含有させた溶液であってもよく、CDC観察や細胞の生死判定等に適した緩衝液に抗体医薬を含有させた溶液であってもよい。
【0022】
添加される抗体医薬は標識分子により予め標識しておいたものであってもよい。例えば、標識抗体医薬を用いた場合には、標識分子を検出することによって、標的培養細胞に実際に抗体医薬が結合したか否かを確認することができる。また、標識抗体医薬により、抗体医薬が結合した感作標的培養細胞と非感作標的培養細胞とを識別することができ、非感作標的培養細胞をCDCに対するネガティブコントロールとして用いることもできる。抗体医薬の標識に用いられる標識分子は、抗体を標識する場合に通常用いられるものであれば特に限定されるものではないが、簡便に光学的観察が可能となるため蛍光物質であることが好ましい。なお、抗体医薬の標識に用いられる蛍光分子は、フルオレセインやローダミン等の公知の蛍光物質の中から、後の工程における細胞の生死判定に使用される染色試薬等の検出波長とクロスし難い物質を適宜選択して用いることができる。また、抗体医薬の標識は常法により行うことができる。
【0023】
標的培養細胞の培養に用いられる細胞培養容器は、培養細胞の培養に通常用いられるいずれの容器を用いてもよいが、1×10〜1×10個程度の少量の細胞の培養に適した寸法、容量を有する容器を用いることが好ましい。具体的には、96ウェルプレートや384ウェルプレート等のマルチウェルプレート、直径2mm程度の孔を開けた厚さ4mm程度のシリコン樹脂をガラス底容器に圧着した容器等を用いることが可能である。また、後の工程において、培養細胞の生死判断を顕微鏡観察等の光学的手段により行う場合には、標的培養細胞を予め、ガラス底容器等の光学的観察に適した培養容器を用いて培養することが好ましい。
【0024】
微小の孔を開けた薄いシリコン樹脂をガラス底容器に圧着した培養容器では、該孔部分に細胞を添加して培養するが、このように、微小の培養容器を用いる場合には、培養培地にミネラルオイル等を添加して、培養培地の蒸発を抑制しつつ培養することが好ましい。なお、ミネラルオイルは、培養培地や補体含有物等に対して比重が軽いため、後の工程において補体含有物等をミネラルオイル上から添加した場合であっても、補体含有物は自動的にミネラルオイルの層を通過し、その下にある培養培地と混合する。また、ミネラルオイルは通常、顕微鏡観察等の光学的な観察にも影響を与えることはない。
【0025】
その後、工程(b)として、細胞培養容器内に、検査対象者由来の補体含有物を添加する。これにより、細胞培養容器内の感作標的培養細胞と検査対象者由来の補体を接触させることができる。細胞培養容器内への補体含有物の添加は、工程(a)における抗体医薬の添加と同様に、既に細胞培養容器内に存在する培養培地に補体含有物の濃縮液を適量添加することにより行ってもよく、細胞培養容器内の培養培地を補体含有物溶液に置換することにより行っても良い。既に細胞培養容器内に存在する培養培地に補体含有物の濃縮液を適量添加する場合には、培養培地に対して5〜20%の量の補体含有物の濃縮液を添加することが好ましい。
【0026】
本発明において補体含有物とは、検査対象者由来の補体が含有されているものであれば、特に限定されるものではないが、通常は、血液や組織液等の検査対象者から採取された体液やその希釈液等が用いられる。本発明においては、特に、血液、血漿、血清、又はこれらの希釈液であることが好ましく、血清又は血清の希釈液であることがより好ましい。なお、血液等の体液の希釈には、PBS等の通常生体試料の希釈に用いられる溶液を適宜用いることができる。
【0027】
細胞培養容器内の感作標的培養細胞と検査対象者由来の補体を接触させると、補体が活性化され、CDCが誘導される。CDCの誘導効率(以下、CDC効率と略記することがある。)は補体活性に依存するため、補体活性は、CDC効率を測定することにより、検査することができる。例えば、CDC効率が高い場合には、補体活性が高く、CDC効率が低い場合には、補体活性が低いと判断することができる。一方、CDCが誘導された感作標的培養細胞は、通常は該障害により死細胞となることから、CDC効率は、補体添加により死細胞となった細胞の割合として表すことができる。したがって、補体添加により死細胞となった細胞の割合を求めることにより、補体活性を評価することが可能となる。
【0028】
具体的には、工程(b)の後、工程(c)として、細胞培養容器内の標的培養細胞における死細胞の量又は割合を求めることにより、工程(b)において添加した補体含有物中の補体の活性を検査することができる。ここで、検査対象者由来の補体の活性が高い場合には、検査対象者由来の補体の活性が低い場合よりも、死細胞のが高くなる。そこで、予め補体活性が分かっている補体等をコントロールとし、検査対象者由来の補体(補体含有物)を用いた場合に求められた死細胞の量や割合を、コントロールの補体を用いた場合の死細胞の量や割合と比較することにより、検査対象者由来の補体の活性を相対的に評価することができる。その他、同一の検査対象者から異なる時期に採取した補体含有物の補体活性を比較することも可能である。
【0029】
例えば、検査対象者由来の補体含有物として特定の疾患の患者由来の血清を、コントロールの補体補体含有物として健常者由来の血清を、それぞれ用いた場合に、特定の疾患の患者由来の血清を用いた場合に求められた死細胞の量や割合が、健常者由来の血清を用いた場合に求められた死細胞の量や割合よりも小さい場合には、該患者の血清中の補体活性は、健常者に比べて低いと評価することができる。一方、該患者由来の血清を用いた場合に求められた死細胞の割合が、健常者由来の血清を用いた場合に求められた死細胞の割合等とほぼ同等又はより大きい場合には、該患者の血清中の補体活性は、健常者と同等又はそれ以上であると評価することができる。
【0030】
抗体医薬に対する抗原を有している患者であっても、補体活性が非常に低い場合には、該抗体医薬による十分な治療効果を得られない場合がある。本発明の補体活性検査方法を用いることにより、抗体医薬に対する感受性、すなわち、臨床において当該抗体医薬を患者に投与した場合に、治療効果が期待できる患者であるか否かを、より適正に評価することが可能となる。
【0031】
なお、補体と感作標的培養細胞とが接触した後、活性化された補体によりCDCが誘導され、感作標的培養細胞が死ぬまでには、一定の反応時間が必要となる。このため、補体含有物添加直後に、工程(c)を行った場合には、CDCによる細胞死が引き起こされる前に細胞の生死判定を行うことになってしまう。したがって、工程(b)において、補体含有物を添加した後、一定時間細胞を静置する等により反応時間を担保した上で工程(c)を行うことにより、安定的で信頼性の高い結果を得ることができる。ここで、該反応時間は、抗体医薬の種類、標的培養細胞の種類、細胞培養容器の容積等を考慮して、適宜決定することができる。例えば、工程(b)において、補体含有物を添加した後、該細胞培養容器を1〜30分間、好ましくは3〜15分間静置した後、細胞の生死判定を行うことができる。
【0032】
細胞培養容器内の標的培養細胞における死細胞の量や割合は、細胞の生存度検査として知られる種々の方法を使用して求めることができる。例えば、細胞培養容器内の標的培養細胞全体の死細胞の量又は割合を求める方法であってもよく、細胞培養容器内の細胞ごとに生死を判定し、生細胞と死細胞を計数して、死細胞の割合を求める方法であってもよい。細胞培養容器内の標的培養細胞全体の死細胞の量又は割合を求める方法は、特に細胞培養容器内のほぼ全ての標的培養細胞が感作されている場合に有効であり、検査試料間の誤差が少なく、より安定した結果を得ることができる。一方で、細胞ごとに生死を判定する方法では、判定対象の細胞の感作の有無も判断することにより、細胞培養容器内に、感作されている標的培養細胞と感作されていない標的培養細胞とが混在している場合であっても、精度の高い検査結果を得ることができる。
【0033】
細胞培養容器内の標的培養細胞全体の死細胞の量や割合は、細胞培養容器ごとに、生細胞又は死細胞特異的に検出されるシグナル強度を測定することにより求めることができる。シグナル強度としては、高感度であり、測定が簡便であることから、染色強度又は蛍光強度であることが好ましい。例えば、トリパンブルー染色、PI染色等の細胞染色により、生細胞又は死細胞を選択的に染色し、これによって発せられる染色強度等を、マイクロプレートリーダー等を用いて測定することにより、標的培養細胞全体の死細胞の量や割合を求めることができる。
【0034】
例えば、PI染色等により死細胞を選択的に染色した場合のように、死細胞特異的に検出されるシグナル強度を測定する場合には、標的培養細胞の数、抗体医薬の添加量、細胞培養容器内の培養培地(又は緩衝液)等の条件を均一にした複数の細胞培養容器のうち、補体含有物を添加した細胞培養容器から検出されるシグナル強度と、補体含有物を添加しなかった細胞培養容器から検出されるシグナル強度とを比較することにより、死細胞の量を求めることができる。
その他、MTTアッセイ等のように、生細胞が有する酵素活性を利用して、細胞培養容器内の全生細胞による酵素反応量を、プレートリーダー等を用いて測定し、該測定結果に基づき、死細胞の割合を求める方法等もある。例えば、補体含有物を添加しなかった場合の酵素反応量に対する、補体含有物を添加した場合の酵素反応量の割合が生細胞の割合率となり、1からこの生細胞の比率を引いた値が死細胞の割合となる。
【0035】
細胞ごとに生死を判定する方法としては、例えば、生細胞のみ又は死細胞のみを選択的に染色し得る染色試薬等を添加し、細胞ごとに染色の有無を、各染色試薬の検出に適した波長の光を照射して、光学的手段により識別する方法等がある。死細胞を選択的に染色し得る染色試薬として、例えば、PI(ヨウ化プロピディウム)、トリパンブルー、クリスタルバイオレット等がある。特に、死細胞の核のみを選択的に染色する核染色試薬であるPI等であることが好ましい。
【0036】
各細胞の染色の有無は、レーザー走査型共焦点顕微鏡等の光学顕微鏡、フローサイトメーター、イメージングサイトメーター等の汎用されている光学観察装置を用いて識別することができる。例えば、顕微鏡による観察や、イメージングサイトメーターを用いた測定により染色の有無を判定する場合には、標的培養細胞数が少量の場合であっても測定することができるため、コスト・資源的に有利である。
【0037】
細胞ごとに生死を判定する場合には、解析対象の細胞の数が多いほど、解析結果の信頼性は向上する。一方で、解析対象の細胞数が多すぎると、データの取得、解析に長時間を要する。また、解析結果の信頼性の点から、一の細胞培養容器内の細胞数は、添加する抗体量及び補体量で十分に感作させ得る数であることが重要である。その他、顕微鏡やイメージサイトメーター等を用いて解析する場合には、細胞が細胞培養容器底面に単層で存在することも重要である。これらの事情を考慮すると、解析対象となる標的培養細胞の数は、望ましくは20〜50000個、より望ましくは100〜20000個、さらに望ましくは200〜3000個、最も好ましくは500〜2000個である。
【0038】
このような細胞の生死判定に関わる染色試薬は、工程(c)において、すなわち、CDC誘導後に細胞培養容器内に添加してもよく、予め添加しておいてもよい。例えば、工程(b)において、補体含有物と同時に添加してもよく、工程(b)の前に、工程(a)において、抗体医薬と同時に、又は前後して添加してもよく、工程(a)において、予め細胞の生死判定に関わる染色試薬を含有する培養用培地に懸濁した標的培養細胞を、細胞培養容器内に添加してもよい。これにより、CDC誘導後細胞が死んだ時点で速やかに細胞の生死判定をすることができる。
【0039】
また、工程(b)の前に該染色試薬を添加しておくことにより、補体含有物添加前、例えば工程(b)と(a)の間にも、細胞培養容器内の細胞ごとに生死を判定することができる。特に、顕微鏡観察やイメージングサイトメーターを用いた測定により細胞ごとに生死を判定する場合には、補体含有物添加前と補体含有物添加後に、計測視野内の細胞の生死判定を行うことにより、観察視野中の標的培養細胞のうち、補体含有物添加前に生細胞であり、補体含有物添加後に死細胞となった細胞数、すなわち補体活性依存的に死細胞となった細胞数を精確に計数することができるため、より信頼性の高い死細胞割合(CDC効率)を求めることができる。
さらに、工程(a)において、同時にHoechst33342に代表されるような生細胞染色色素を添加しておくことにより、イメージングサイトメーターによる細胞の認識を容易にすることも可能である。
【0040】
計測視野を限定しない場合であっても、例えば、細胞培養容器内の標的培養細胞のうち、補体含有物添加前の生細胞数をA、補体含有物添加前の死細胞数をB、補体含有物添加後の生細胞数をC、補体含有物添加後の死細胞数をDとした場合に、CDC効率(%)は下記式(1)を用いて精確に算出することができる。
式(1)・・・ CDC効率(%)=(D−B)/A×100
【0041】
その他、工程(a)における抗体医薬添加前に、染色試薬を添加しておくことにより、用いる標的培養細胞が、検査に適当な状態の細胞であるかどうかを確認することができる。また、一般的には、標的培養細胞は、抗体医薬添加のみによっては障害を受けないが、標的培養細胞の生死判定を、抗体医薬添加前と抗体医薬添加後に行うことにより、抗体医薬添加による標的培養細胞への影響の有無を確認することができる。
【0042】
本発明の補体活性検査方法においては、例えば、工程(a)において、細胞培養容器内に、標的培養細胞と対照培養細胞と抗体医薬とを添加して培養する等により、細胞培養容器内に、標的培養細胞と対照培養細胞とを共培養した状態で行うこともできる。対照培養細胞は、抗体医薬に対する抗原を発現していないため、工程(a)において添加される抗体医薬が結合せず、感作細胞は形成されない。つまり、理論的には、工程(b)において補体含有物を添加した場合にも、CDCは誘発されず、死細胞の割合は、補体含有物添加前後で変化しない。このため、対照培養細胞は、ネガティブコントロールとして使用することができる。
【0043】
具体的には、例えば、工程(b)の後、細胞培養容器内の標的培養細胞において、細胞ごとに生死を判定し、得られた死細胞の割合に基づいて前記補体含有物の補体活性を評価する場合に、標的培養細胞と同様に細胞ごとに生死を判定して求められた対照培養才能の死細胞の割合を考慮することにより、より信頼性の高い評価を行うことができる。例えば、補体含有物添加により、対照培養細胞の死細胞割合が有意に高くなった場合には、使用した補体含有物中には、補体以外に細胞障害を誘発する不特定の物質が含有されている可能性があり、検査には不適当であると判断することができる。特に、標的培養細胞と対照培養細胞を同一の細胞培養容器内で共培養し、検査を行う場合には、両細胞を完全に同一条件で比較を行うことができるため、検査条件が適切であったかどうかを正確に評価することができる。
【0044】
本発明において、対照培養細胞は、抗体医薬に対する抗原を細胞表面に発現していない培養細胞であれば、特に限定されるものではなく、検査対象である抗体医薬の種類等を考慮して適宜決定することができる。例えば、抗体医薬としてリツキシマブを、標的培養細胞としてDaudi細胞又はRaji細胞を、それぞれ用いた場合には、対照培養細胞として、K562細胞等のCD20陰性のT細胞由来培養細胞等を好適に用いることができる。
【0045】
但し、対照培養細胞は、同一の細胞培養容器内で標的培養細胞と共培養した場合に、標的培養細胞と明確に識別可能であることが必要である。このため、色素や蛍光分子等により標識された培養細胞を対照培養細胞として用いることが好ましい。例えば、対照培養細胞として、共培養前に予め、PKH染色、DiO染色、Hoechst染色等により染色した培養細胞を用いてもよく、GFP(Green Fluorescent Protein)等の蛍光タンパク質を恒常的に発現させた安定発現株を用いてもよい。但し、抗体医薬の標識分子や細胞の生死判定に用いる染色試薬等とは検出波長の異なる染色試薬や蛍光分子等で標識する必要がある。
【0046】
本発明の補体活性検査方法においては、特に、抗体医薬としてリツキシマブを、標的培養細胞としてDaudi細胞又はRaji細胞を、補体含有物としてCD20陽性非ホジキンリンパ腫の患者由来の補体含有物をそれぞれ用いることにより、CD20陽性非ホジキンリンパ腫患者のリツキシマブ誘導CDC感受性を適正に評価することができる。日本国内において、CD20陽性非ホジキンリンパ腫は、非ホジキンリンパ腫の約70%を占める疾患であり、B細胞においては通常CD20抗原が発現している場合が多い。そのため、抗−CD20抗体と補体の組合せによりCDCを生じさせることが可能であり、本発明の補体活性検査方法の検査対象となり得る。
【0047】
本発明の補体活性検査方法が適用可能なCD20陽性非ホジキンリンパ腫の具体例としては、前駆Bリンパ芽球性白血病/リンパ腫、慢性リンパ性白血病/小リンパ球性リンパ腫、B細胞前リンパ細胞性白血病、リンパ形質細胞性リンパ腫、脾片縁帯B細胞リンパ腫、ヘアリー細胞白血病、形質細胞腫瘍、節外製濾胞辺縁帯B細胞リンパ腫、節製濾胞辺縁帯B細胞リンパ腫、濾胞性リンパ腫、マントル細胞リンパ腫、びまん性大細胞型B細胞性リンパ腫、縦隔大細胞型B細胞リンパ腫、血管内大細胞型B細胞リンパ腫、原発性滲出液リンパ腫などがある。
【実施例】
【0048】
次に実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0049】
[実施例1]
抗体医薬としてリツキシマブを、標的培養細胞としてCD20陽性細胞であるRaji細胞をそれぞれ用いて、健常者ボランティア6名から提供された凍結血清(No.1〜No.6)の補体活性を検査した。リツキシマブは、Roche社のリツキサンを用いた。
具体的には、5μg/mLとなるようにPI(Dojin社製)を、さらに10μg/mLとなるようにリツキシマブを加えたフェノールレッド非含有RPMI1640培地(インビトロジェン社製)に、常法により培養されたRaji細胞を懸濁し、6×10個/100μLとなるように細胞懸濁液を調製した。次に、100μLの該細胞懸濁液を、ガラスボトムディッシュD1111000(松浪硝子工業社製)のガラスボトムディッシュ中央部(ガラス部分)に投入した。
このガラスボトムディッシュを、ステージインキュベータシステムMI−IBC/OLYMPUS・GM2000(東海ヒット社製)を搭載したレーザー共焦点顕微鏡FV1000(OLYMPUS社製)上に設置し、PI蛍光染色像及び透過光像を撮影し、生細胞数(A)と死細胞数(B)をそれぞれカウントした。
続いて、10μLの溶解した各凍結血清を、それぞれ、細胞をなるべく動かさないように静かに、ステージインキュベータ中の細胞懸濁液に添加し、10分間静置した。その後、PI蛍光染色像及び透過光像を撮影し、生細胞数(C)と死細胞数(D)をそれぞれカウントした。得られた細胞数を用いて、下記の式よりそれぞれのCDC効率を算出した。
CDC効率(%) = (D−B)/A×100
【0050】
図1は、各凍結血清(No.1〜No.6)の算出されたCDC効率を示した図である。エラーバーの付加されているものは、独立した3回の試行の結果算出されたCDC効率を示している。これらの結果から明らかであるように、抗体医薬としてリツキシマブを、標的培養細胞としてRaji細胞を、それぞれ用いて、本発明の補体活性検査方法を行うことにより、血清中の補体活性を検出することができる。
【0051】
[実施例2]
標的培養細胞としてRaji細胞に代えてDaudi細胞を用いたこと、及び、実施例1で用いた6種の凍結血清のうち、No.1、4〜6の4種を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、凍結血清の補体活性を検査した。
図2は、各凍結血清(No.1、4〜6)に対して、独立した3回の試行の結果算出されたCDC効率を示した図である。これらの結果から明らかであるように、抗体医薬としてリツキシマブを、標的培養細胞としてRaji細胞を、それぞれ用いて、本発明の補体活性検査方法を行うことにより、血清中の補体活性を検出することができる。
【0052】
特に、Daudi細胞を用いた実施例2の場合では、Raji細胞を用いた実施例1の場合に比べて、いずれの凍結血清を用いた場合でもCDC効率が90%以上と比較的値となった。また、いずれの場合でも標準偏差(SD)が10%以下となり、Raji細胞を用いた場合に比べて、再現性が高いことが明らかになった。
ここで、患者由来の補体の活性は、健常者由来の補体よりも低くなっていることが予想される。したがって、健常者由来の補体含有物を用いた場合に、CDC効率が80%以上、好ましくは90%以上と高く、また標準偏差(SD)が10%以下、好ましくは5%以下となるような培養細胞は、抗体医薬投与対象者の補体活性が健常者より低い場合に、その差を明確に示すことに有効であり、このような培養細胞を標的培養細胞として用いることにより、抗体医薬投与対象者の補体活性をより適正に評価し得る。
【0053】
[実施例3]
実施例1で用いた凍結血清No.1を室温又は氷上で保存した後のCDC効率を求めた。
具体的には、凍結血清No.1を、室温で2、5、11時間、氷上で0、3、6、10時間、それぞれ保存した後、抗体医薬としてリツキシマブを、標的培養細胞としてDaudi細胞をそれぞれ用いて、実施例1と同様にしてCDC効率を算出した。
図3は、各保存処理後の血清に対して、独立した3回の試行の結果算出されたCDC効率を示した図である。図中「◆」が室温保存した血清の結果であり、「□」が氷上保存した血清の結果である。この結果、室温保存した血清では、保存時間依存的にCDC効率が低下していたが、氷上保存した血清では、3〜10時間の保存時間においてCDC効率に大きな変化は観察されなかった。
これらの結果は、血清等の補体含有物の取り扱いは室温よりも氷上で行うことが好ましいという見解と合致する。したがって、これらの結果から、本発明の補体活性検査方法が、適正に補体活性を検査し得ること、及び、本発明の補体活性検査方法を用いることにより、補体含有物の保存条件の補体活性に対する影響を評価し得ることが明らかである。
【0054】
[実施例4]
実施例1で用いた凍結血清No.1の凍結再融解後のCDC効率を求めた。
具体的には、凍結血清No.1を、1〜4回凍結再融解を繰り返した後、抗体医薬としてリツキシマブを、標的培養細胞としてDaudi細胞をそれぞれ用いて、実施例1と同様にしてCDC効率を算出した。
図4は、各回数の凍結再融解後の血清に対して、独立した3回の試行の結果算出されたCDC効率を示した図である。この結果、凍結再融解を繰り返す回数依存的にCDC効率が低下することが観察された。
これらの結果は、血清等の生体試料中の補体活性は、凍結融解処理を繰り返すことにより低下し易いという見解と合致する。したがって、これらの結果から、本発明の補体活性検査方法が、適正に補体活性を検査し得ること、及び、本発明の補体活性検査方法を用いることにより、補体含有物の凍結融解処理の補体活性に対する影響を評価し得ることが明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明の補体活性検査方法を用いることにより、特定の抗体医薬により活性化される補体活性をより高精度に検査することができるため、抗体医薬に対する感受性評価等の分野において利用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】実施例1において、各凍結血清(No.1〜No.6)の算出されたCDC効率を示した図である。
【図2】実施例2において、各凍結血清(No.1、4〜6)の算出されたCDC効率を示した図である。
【図3】実施例3において、各保存処理後の血清に対して、独立した3回の試行の結果算出されたCDC効率を示した図である。図中「◆」が室温保存した血清の結果であり、「□」が氷上保存した血清の結果である。
【図4】実施例4において、各回数の凍結再融解後の血清に対して、独立した3回の試行の結果算出されたCDC効率を示した図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗体医薬により誘導される補体活性を検査する方法であって、
(a)細胞培養容器内に、抗体医薬に対する抗原を発現している標的培養細胞と、抗体医薬を添加して培養する工程と、
(b)前記工程(a)の後、前記細胞培養容器内に、検査対象者由来の補体含有物を添加する工程と、
(c)前記工程(b)の後、前記細胞培養容器内の標的培養細胞における死細胞の量又は割合を求める工程と、
を有することを特徴とする補体活性検査方法。
【請求項2】
前記工程(c)が、
(c1)前記工程(b)の後、前記細胞培養容器内の標的培養細胞において、細胞ごとに生死を判定し、死細胞の量を求める工程、
であることを特徴とする請求項1記載の補体活性検査方法。
【請求項3】
前記工程(a)が、
(a’)細胞培養容器内に、抗体医薬に対する抗原を発現している標的培養細胞と、前記抗体医薬に対する抗原を発現していない対照培養細胞と、抗体医薬とを、添加して培養する工程、
であることを特徴とする請求項1又は2記載の補体活性検査方法。
【請求項4】
前記工程(c)が、
(c2−1)前記工程(b)の後、前記細胞培養容器内の標的培養細胞において、細胞ごとに生死を判定し、死細胞の割合を求める工程と、
(c2−2)前記工程(b)の後、前記細胞培養容器内の対照培養細胞において、細胞ごとに生死を判定し、死細胞の割合を求める工程と、
(c2−3)前記工程(c2−2)により求められた対照培養細胞における死細胞の割合を考慮して、前記工程(c2−1)により求められた標的培養細胞における死細胞の割合に基づいて前記補体含有物の補体活性を評価する工程と、
であることを特徴とする請求項3記載の補体活性検査方法。
【請求項5】
前記工程(c)が、
(c3)前記工程(b)の後、細胞培養容器ごとに、生細胞又は死細胞特異的に検出されるシグナル強度を測定することにより、前記細胞培養容器内の標的培養細胞における死細胞の量又は割合を求める工程、
であることを特徴とする請求項1記載の補体活性検査方法。
【請求項6】
前記シグナル強度が、染色強度又は蛍光強度であることを特徴とする請求項5記載の補体活性検査方法。
【請求項7】
前記工程(b)の前に、
(d)前記細胞培養容器内の細胞ごとに生死を判定する工程と、
を有することを特徴とする請求項1〜6のいずれか記載の補体活性検査方法。
【請求項8】
細胞の生死を、染色試薬を前記細胞培養容器内に添加し、細胞染色の有無により判定することを特徴とする請求項1〜7のいずれか記載の補体活性検査方法。
【請求項9】
前記染色試薬が核染色試薬であることを特徴とする請求項8記載の補体活性検査方法。
【請求項10】
前記補体含有物が血清であることを特徴とする請求項1〜9のいずれか記載の補体活性検査方法。
【請求項11】
前記検査対象者がCD20陽性非ホジキンリンパ腫の患者であることを特徴とする請求項1〜10のいずれか記載の補体活性検査方法。
【請求項12】
前記抗体医薬がリツキシマブであることを特徴とする請求項1〜11のいずれか記載の補体活性検査方法。
【請求項13】
前記標的培養細胞がCD20陽性細胞であることを特徴とする請求項1〜12のいずれか記載の補体活性検査方法。
【請求項14】
前記CD20陽性細胞がDaudi細胞であることを特徴とする請求項13記載の補体活性検査方法。
【請求項15】
前記CD20陽性細胞がRaji細胞であることを特徴とする請求項13記載の補体活性検査方法。
【請求項16】
前記CD20陽性細胞がRamos細胞であることを特徴とする請求項13記載の補体活性検査方法。
【請求項17】
前記CD20陽性細胞が人工的にヒトCD20遺伝子を導入し、発現させた細胞であることを特徴とする請求項13記載の補体活性検査方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−232736(P2009−232736A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−82265(P2008−82265)
【出願日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【出願人】(000173588)財団法人癌研究会 (34)
【Fターム(参考)】