説明

補助材を有する炭素発泡体

本発明は、内部に補助材が配された孔を有する炭素発泡体を含む炭素発泡体複合体、及び、その炭素発泡体複合体の製造方法を提供する。この炭素発泡体複合体は、耐久性及び防水性を必要とする様々な分野に用いることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素発泡体(carbon foam)に関する。具体的に、その炭素発泡体は、例えば、高温における使用に対し、例えば耐久性及び防水性を有する材料を提供できるように、その発泡体の液体親和性(fluid affinity)又は表面エネルギーを改質する補助材(supplemental material)を含む。より具体的に、本発明は、もとの発泡体(parent foam)の孔にポリマー発泡体物質(polymeric foam material)のような更なる補助材を含む多孔質構造の元の炭素発泡体に関する。また、この発明は、そのような炭素発泡体物質の製造方法を含む。
【背景技術】
【0002】
炭素発泡体は、高熱伝導性又は低熱伝導性に結びついたその低密度に基づいて、最近注目を集めている。従来から、炭素発泡体は、2つの一般的なルートによって製造されてきた。高度に黒鉛化可能な発泡体(highly graphitizable foam)は、高圧における中間相ピッチ(mesophase pitch)の熱処理によって製造されてきた。これらの発泡体は、高熱伝導性及び高電気導電性を有する傾向がある。例えば、クレットによる米国特許番号第6、033、506号には、中間相ピッチを、1000psiの圧力下に加熱して、90〜200ミクロンのサイズを有する相互接続した孔を有する開放セル発泡体(open-cell foam)を製造することが記載されている。この文献によれば、2800℃に熱処理を施すと、発泡体中の固体部分が、0.366nmの層間間隔(interlayer spacing)を有する高度の結晶性黒鉛構造となる。この発泡体は、それ以前の発泡体よりも圧縮強度(compressive strength)が大きいとされる(0.53g/ccの密度に対して3.4Mpa、又は、500psi)。
【0003】
ハードキャッスル(Hardcastle)らによる米国特許番号第6,776、936号には、800psiの圧力下、型(mold)内でピッチを加熱することによって、密度0.678〜1.5g/ccを有する炭素発泡体を製造することが記載されている。この発泡体は、高度に黒鉛化可能であり、かつ、高熱導電性(250 W/m°K程度)を有するとされる。
【0004】
文献[H. J. Anderson et al. in Proceedings of the 43d International SAMPE Meeting, p756 (1998)]には、炭素発泡体が中間相ピッチから製造され、その後、酸化的熱硬化(oxidative thermosetting)、及び、900℃までの炭化(carbonization)を受けることがで記載されている。この発泡体は、様々な形状を有する相互接続した孔からなる開口セル構造(open cell structure)を有する。ここで、孔の直径は、39〜480ミクロンである。
【0005】
文献[Rogers et al., in Proceedings of the 45th SAMPE Conference, pg293 (2000)]には、石炭系前駆体から高圧下での熱処理を通じて圧縮強度2000〜3000psi、及び、密度0.35〜0.45g/ccを有する炭素発泡体(この場合、強度/密度の比率は、約6000psi/g/ccである。)を製造する方法が記載されている。これらの発泡体は、サイズが1000ミクロン以下の相互接続した孔からなる開放セル構造を有する。前述した中間相ピッチとは違って、これらは、高度に黒鉛化可能なものではない。最近の文献には、このタイプの発泡体の特性が記載されている。文献[High Performance Composites September 2004, pg.25]参照。この発泡体は、密度0.27g/ccにおいて圧縮強度800psiを有するか、又は、3000psi/g/ccの強度対密度の比率を有する。
【0006】
スチラー(Stiller)らによる米国特許番号第5、888、469号には、水素処理された石炭抽出物の圧力熱処理に(pressure heat treatment)よって炭素発泡体を製造することが記載されている。これらの物質は、0.2〜0.4g/ccの密度に対し600psiの高い圧縮強度を有するとされている(強度/密度の比率は、1500〜3000psi/g/ccである。)。これらの発泡体は、黒鉛化できないガラス質の炭素又はガラス状の炭素よりも強いとされている。
【0007】
炭素発泡体は、ポリマー又はポリマー前駆体の混合物を直接に炭化することによって製造され得る。マイケルによる米国特許番号第3,302、999号には、ポリウレタンポリマー発泡体を200〜255℃にて加熱(大気中)した後、不活性雰囲気(900℃)において炭化することによって炭素発泡体を製造することが記載されている。これらの発泡体は、0.085〜0.387g/ccの密度及び、130〜2040psiの圧縮強度(強度/密度の割合は1529〜5271psi/g/ccである。)を有する。
【0008】
ドロージ(Droege)による米国特許番号第5,945、084号には、水酸化ベンゼン及びアルデヒド(フェノール系樹脂前駆体)由来の有機ゲルを熱処理することによって開放セル構造の炭素発泡体を製造することが記載されている。この発泡体は、0.3〜0.9g/ccの密度を有し、かつ、2〜50nmのサイズを有する小さいメソ細孔で構成されている。
【0009】
メルキュウリ(Mercuri)らによる文献[Proceedings of the 9th Carbon Conference, pg.206 (1969)]には、フェノール系樹脂の熱分解によって炭素発泡体を製造することが記載されている。密度1〜1.04g/ccの密度を有する発泡体において、密度に対する圧縮強度の比率は、2380〜6611psi/g/ccであった。密度0.25g/ccの炭素発泡体において、この孔(pore)は楕円の形状を有し、そして、その直径は約25〜75ミクロンであった。
【0010】
スタンキウィッツ(Stankiewicz)による米国特許番号第6,103,149号には、0.6〜1.2の制御されたアスペクト比を有する炭素発泡体が記載されている。この特許権者は、ユーザが理想的に1.0のアスペクト比を有する優れた特性の完全等方性の発泡体を求めている点を指摘している。開放セル構造の炭素発泡体は、ポリウレタン発泡体に炭化樹脂を含浸した後、熱硬化及び炭化を行うことによって製造される。もとのポリウレタン発泡体における孔のアスペクト比は、1.3〜1.4から0.6〜1.2に変わる。
【0011】
炭素発泡体が、ポリマー発泡体ブロック、特に、フェノール系発泡体ブロック(不活性雰囲気又は空気が除かれた雰囲気下で炭化される。)から製造されるのが有利である。これによって、高温での使用に十分な密度、圧縮強度、及び、密度に対する圧縮強度の比率を有する炭素発泡体が得られる。また、これらの特徴に基づいて、ポリマー発泡体ブロックの炭化を通じて製造された炭素発泡体は、複合体ツーリング(composite tooling)のような高温での使用に適合され、かつ、その発泡体は所定のサイズ及び構造(配置)に製造され、又は、特定のサイズ及び形状に機械加工され得る。上質の炭素発泡体、及び、ポリマーブロックの炭化を通じて前記炭素発泡体を製造する方法については、米国特許公開公報第20060086043号に記載されている。この特許文献の記載内容は、参考までに本明細書に含まれる。
【0012】
炭素発泡体の製造技術がますます広がる中で、炭素発泡体の孔に更なる材料を提供するための様々な試みがなされていた。米国特許特許第6,323,160号(ムージーら)には、高密度(圧縮)炭素発泡体から炭素/炭素複合材を製造することが記載されている。また、その文献によれば、その複合材は、開放セル炭素発泡体プリフォームから製造されるが、そのプリフォームは、その後、炭素質の材料の添加によって圧縮される。特に、炭素発泡体は、化学蒸着法、熱間等静圧圧縮成形、加圧含浸炭化(pressurized impregnation carbonization)、真空圧力浸透(vacuum pressure infiltration)、ピッチ若しくは樹脂注入、又は、これらの圧縮法の組み合わせによって、圧縮される。
【0013】
しかしながら、従来の技術によって製造された大部分の炭素発泡体及び改質された(modified)炭素発泡体は、幅広い高温での使用(用途)に必要とされる質(特性)を有しなかった。多くの炭素発泡体は、湿潤環境(比較的高湿度の環境を含む。)にさらされると水を吸収する問題を抱えていた。また、幅広い特性を持たせた炭素発泡材(carbon foam material)に対するニーズも存在していた。
【0014】
したがって、制御可能なセル構造を有し、そのセル構造に補助材(supplemental material)が導入された炭素発泡体が求められていた。ここで、補助材は、液体透過に対する耐性を含めて、様々な幅広い液体親和性、及び/又は、表面エネルギー特性を提供することができ、それにより、その補助材を含んだ炭素発泡体は様々な用途に適合されることになる。より幅広い特性を有する炭素発泡体を製造できる能力は、異なる環境における炭素発泡体の使用には必須とされていた。また、補助材を含んだ炭素発泡体を製造する方法が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】米国特許番号第6,776,936号
【特許文献2】米国特許番号第5,888,469号
【特許文献3】米国特許番号第3,302,999号
【特許文献4】米国特許番号第5,945,084号
【特許文献5】米国特許番号第6,103,149号
【特許文献6】米国特許公開公報第20060086043号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、補助材(supplemental material)を含有する炭素発泡体(carbon foam)に提供する。この炭素発泡体は、特定の用途に対し基材(substrate)である炭素発泡体と補助材との複合体の液体親和性及び表面エネルギー特性を合わせる(調整できる)その能力に基づいて、様々な分野において使用され得る。本発明の発泡体複合体は、今までなかった軽量特性と強度の組み合わせを提供できる密度、圧縮強度、及び、圧縮強度:密度の比率を示す炭素発泡体骨格を有している。また、元の発泡体(比較的球状のより大きい孔とより小さい孔が組み合わせられたもの)のモノリシック特性(monolithic nature)及び複峰性のセル構造(bimodal cell structure)は、容易に機械加工され得る所定のサイズ及び構造(配置)に製造され得る炭素発泡体骨格を提供する。
【0017】
より具体的に、本発明に係る複合体における炭素発泡体骨格は、約0.05〜約0.4g/cc(grams per cubic centimeter)の密度を有し、約2000psi(pound per square inch)の圧縮強度を有する(例えば、ASTM C695に基づいて測定される。)。高温にて使用しようとするときに重要とされる前記炭素発泡体の特徴は、密度に対する強度の比率(強度:密度の比率)である。かかる使用又は用途には、約5000psi/g/cc以上、より好ましくは、約7000psi/g/cc以上の強度:密度の比率が要求されることが多い。
【課題を解決するための手段】
【0018】
炭素発泡体骨格は、要求される高い水準の圧縮強度を提供するために、孔の比較的均一な分布を有するべきである。また、この孔は、比較的等方性を有するべきである。ここで、等方性とは、孔が比較的球状であることを意味し、より具体的に、孔が平均して約1.0(完全な球状である。)〜約1.5、好ましくは、約1.0〜約1.25のアスペクト比(aspect ratio)を有することを意味する。このアスペクト比は、孔におけるより長い寸法をそのより短い寸法で割って決めることができる。
【0019】
その発泡体の全孔隙率(total porosity)は、約65%〜約95%であり、より好ましくは、約70%〜約95%である。また、複峰型の孔分布(bimodal pore distribution)、つまり、2つの平均孔サイズの組み合わせ(その一次分画(primary fraction)は、よりサイズの大きい孔であり、その副次分画(minor fraction)は、よりサイズの小さい孔である。)を有するのが有利である。好ましくは、孔のうち、孔体積(pore volume)の約90%以上、より好ましくは、孔体積の約95%以上が、よりサイズの大きい分画であり、そして、孔体積の約1%以上、より好ましくは、孔体積の約2%〜約10%がよりサイズの小さい分画である。
【0020】
炭素発泡体骨格における複峰型の孔分布のうちよりサイズの大きい分画は、その直径が約10〜約150ミクロンであり、より好ましくは、その直径が約15〜約95ミクロンであり、最も好ましくは、その直径が約25〜約95ミクロンである。より小さい分画の孔は、その直径が約0.8〜約3.5ミクロン、より好ましくは、その直径が約1〜約2ミクロンの孔を含む。炭素発泡体骨格の特性は、開放セル構造を提供するが、その開放セル構造は、前記炭素発泡体骨格の内部構造における補助材の透過(浸透)を可能にする。
【0021】
炭素発泡体骨格を製造するためには、ポリマー発泡体ブロック(polymer foam block)、特に、フェノール系発泡体ブロックを不活性雰囲気又は空気を除いた雰囲気下で約500℃以上(より好ましくは、約800℃以上)かつ約3200℃以下の温度にて炭化して、その後に起こる補助材の浸透(infiltration)を可能にする炭素発泡体を製造することが有利である。
【0022】
補助材は、炭素発泡体骨格にある孔の内部に配されて、その発泡体の液体親和性を向上し、又は、変えるポリマー発泡体であるのが好ましい。モノマー前駆体、例えば、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、又は、ポリイミドは前記発泡体骨格の孔内で発泡され得る。それ以外に、ポリオレフィン、例えば、ジアゾ(diazo)前駆体からのポリメチレンを使用すると、炭素発泡体骨格の孔内で自発的に成長する。また、その後前記炭素発泡体内で発泡されるポリマー前駆体には、炭素発泡体複合体の用途に基づいて、異なる特性を持たせることができる。炭素発泡体骨格における孔は、電気重合可能なポリマー(electropolymerizable polymer)、電気蒸着金属(electrodeposition of metal)、又は、無電解の金属蒸着(electroless deposition of metal)によって被覆又は注入され得る。また、黒鉛化可能な前駆体は、炭素発泡体骨格の孔内で発泡されて、熱伝導性及び電気伝導性のない発泡体をより伝導性のものにする。また、炭素発泡体骨格内で発泡されるべき補助材は、触媒物質を含むことができるが、その触媒物質は、発泡の際に、重金属分離又はガス分離用の高温耐久性のフィルタを形成することができる。
【0023】
よって、本発明の目的は、様々な用途に用いられる特性を有する炭素発泡体複合材(carbon foam composite material)にある。
【0024】
本発明の別の目的は、高温での使用に適した密度、圧縮強度、及び、圧縮強度:密度の比率を有する炭素発泡体骨格(carbon foam skeleton)を有する炭素発泡体(carbon foam composite)にある。
【0025】
本発明の別の目的は、補助材が炭素発泡体の骨格構造内へ注入できるように、多孔の、セル構造、及び、相互接続した多孔構造を提供できる孔の分布を備えた炭素発泡体を有する炭素発泡体複合体(carbon foam composite)にある。
【0026】
本発明の別の目的は、より大きい炭素発泡体構造を提供できるように結合され、又は、容易に機械加工できるだけでなく、所定のサイズ及び形状(配置)を有するように製造され得る炭素発泡体骨格(carbon foam skeleton)を有する炭素発泡体材(carbon foam material)にある。
【0027】
本発明の別の目的は、もとの炭素発泡体(parent carbon foam)の液体親和性を変える炭素発泡体骨格の孔内に配されたポリマー発泡体にある。
【0028】
本発明の別の目的は、炭素発泡体骨格の孔内で発泡され得るモノマー前駆体にある。それにより、より防水性に優れた炭素発泡体材を得ることができる。
【0029】
本発明の別の目的は、より絶縁性、伝導性の、又は、触媒活性を有する発泡体の製造といった様々な特性を提供できるように、炭素発泡体骨格の孔を満たすのに用いられる補助材(supplemental material)にある。
【0030】
本発明の更なる別の目的は、その内部に補助材を有する孔を有する炭素発泡体の製造方法にある。
【発明の効果】
【0031】
本発明の補助材を含有する炭素発泡体は、特定の用途に対し基材である炭素発泡体と補助材との複合体の液体親和性及び表面エネルギー特性を合わせるその能力に基づいて、様々な分野において使用され得る。本発明の発泡体複合体は、今までなかった軽量特性と強度の組み合わせを提供できる密度、圧縮強度、及び、圧縮強度:密度の比率を示す炭素発泡体骨格を有している。また、元の発泡体(比較的球状のより大きい孔とより小さい孔が組み合わせられたもの)のモノリシック特性(monolithic nature)及び複峰性のセル構造(bimodal cell structure)は、容易に機械加工され得る所定のサイズ及び構造(配置)に製造され得る炭素発泡体骨格を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下の説明から当業者にとって明らかであろうこれらの特徴などは、特定の用途に合わせられる物理的特性を有する物質(材料)を製造できるように、炭素発泡体の孔に注入された後炭素発泡体骨格内で発泡されるモノマー前駆体を有する炭素発泡体骨格で構成された炭素発泡体複合体を提供することによって達成される。本発明の補助材を有する炭素発泡体は、約0.05〜約0.4の密度、約2000psi以上の圧縮密度、及び、約65〜約95%の孔隙率(porosity)を有する炭素発泡体骨格を有するのが好ましい。炭素補助材の製造に用いられる炭素発泡体骨格の孔は、平均して約1.0〜約1.5のアスペクト比を有する。
【0033】
孔の体積(volume)の約90%以上が約10〜約150ミクロンの直径を有するのが好ましい。孔の体積の約95%以上が約25〜約95ミクロンの直径を有するのが最も好ましい。孔の体積の約1%以上が、約0.8〜約3.5ミクロンの直径を有するのが有利である。より好ましくは、孔の体積の約2〜約10%が、約1〜約2ミクロンの直径を有する。
【0034】
炭素発泡体骨格の孔を満たすのに使用される補助材には、その炭素発泡体骨格の表面エネルギー特性又は液体親和性を変えるためにその炭素発泡体の孔内で発泡されるモノマー前駆体又は発泡性ポリオレフィンが含まれる。また、補助材には、より高い熱伝導性及び電気伝導性を有する炭素発泡材を製造するのに用いられる黒鉛化可能な前駆体及び炭素発泡材の伝導性を改善できる電気重合可能なポリマーが含まれる。
【0035】
本発明の発泡体は、先ず不活性雰囲気又は空気を除いた雰囲気下でポリマー発泡体、特に、フェノール系発泡体を炭化して、炭素発泡体骨格(本明細書では、それを、「炭素発泡体基材」、または、「もとの炭素発泡体」とも呼ぶ。)を形成することによって製造される。その後、前記炭素発泡体の孔の方に補助材を挿入し、加圧技術又は熱誘導発泡法(thermally induced foaming)を用いてそれを発泡する。
【0036】
前述した一般的な説明、及び、以下の詳細な説明は、本発明の具体例を提供すると共に、特許請求の範囲に記載された本発明の本質を理解するための概観又はフレームワークを提供する。
【0037】
炭素発泡体骨格として用いる炭素発泡体は、ポリマー発泡体、例えば、ポリウレタン発泡体又はフェノール系発泡体から製造される。ここで、炭素発泡体が、フェノール系発泡体であるのが好ましい。フェノール系樹脂は、フェノールとアルデヒドとの反応生成物に基づく様々な構造からなるポリマー又はオリゴマーである。フェノール系樹脂は、酸性又は塩基性触媒の存在下でフェノール又は置換フェノールとアルデヒド、特に、ホルムアルデヒドとの反応によって製造される。フェノール樹脂発泡体は、オープンセル及びクローズドセルからなる硬化システムである。この樹脂は、概してホルムアルデヒド:フェノールの比率(様々であるが、約2:1であるのが好ましい。)で水酸化ナトリウムによって触媒された水性レゾール(resole)である。遊離フェノール及びホルムアルデヒドの含量は、低くなければならない。ホルムアルデヒドスカベンジャーとしてウレアを用いることも可能である。
【0038】
発泡体は、樹脂の水含量を調整し、かつ、界面活性剤(例えば、エトキシ化非イオン性)、発泡剤(例えば、ペンタン、塩化メチレン、又は、クロロフルオロカーボン)、及び、触媒(例えば、トルエンスルホン酸、または、フェノールスルホン酸)を加えることによって製造することができる。このスルホン酸が、反応を触媒する一方で、発熱反応(exotherm)によって、樹脂中に乳化されている発泡剤を蒸発させ(evaporate)、かつ、その発泡体を膨張させる。界面活性剤は、セルサイズ及び開放対閉鎖セルユニット(open-to-closed cell unit)の比率を制御する。バッチ工程も連続工程も用いられる。連続工程において、機械類は、連続ポリウレタン発泡体に用いられる物と同様である。発泡体の特性は、主にセル構造及び密度に依存する。
【0039】
好ましいフェノールは、 レゾルシノールであるが、アルデヒドと縮合生成物を形成できるその他のフェノールをも用いることができる。かかるフェノールは、一価又は多価フェノール、ピロカテコール、ハイドロキノン、アルキル置換フェノール(例えば、クレゾール、又は、キシレノール)、多核(多環)一価又は多価フェノール(例えば、ナフトール、p,p’−ジヒドロキシジフェニルジメチルメタン、若しくは、ヒドロキシアントラセン)などがある。
【0040】
発泡体出発物質を製造するのに用いられるフェノールは、フェノールと同様にアルデヒドと反応できる非フェノール系化合物と混合して使用され得る。
【0041】
溶液に用いられる好ましいアルデヒドとして、ホルムアルデヒドがある。その他のアルデヒドとして、同様にフェノールと反応するものが含まれる。これらには、例えば、アセトアルデヒド、及び、ベンズアルデヒドがある。
【0042】
一般的に、本発明の方法に用いられるフェノール及びアルデヒドとして、米国特許第3,960,761号、及び、第5,047,225号に記載されたものがある。この特許文献の記載内容は、参考までに本明細書に含まれる。
【0043】
本発明における炭素発泡体骨格を製造するための出発物質として用いられるポリマー発泡体は、形成すべき炭素発泡体骨格に望まれる最終密度を反映した(即ち、それに似た)初期密度(initial density)を有しなければならない。言い換えれば、ポリマー発泡体は、約0.1〜約0.6g/cc、好ましくは、約0.1〜約0.4g/ccの密度を有しなければならない。
【0044】
ポリマー発泡体を炭素発泡体に転換させるために、不活性雰囲気又は空気が除かれた雰囲気下で(例えば、窒素存在下で)約500℃から、好ましくは約800℃から約3200℃までの温度に加熱することによって、その発泡体を炭化する。ここで、ポリマー発泡体が数日にわたって所定の温度に達するようにその加熱速度を制御しなければならないが、それは、ポリマー発泡体が炭化工程において約50%以上収縮することがあるからである。効果的な炭化のためにはポリマー発泡体のピース(piece)を均一に加熱する必要がある。
【0045】
不活性雰囲気又は空気が除かれた雰囲気下で加熱されたポリマー発泡体を使用することによって、非黒鉛化(non-graphitizing)ガラス質炭素発泡体が得られる。この発泡体は、出発ポリマー発泡体の密度に近い密度を有するが、約2000psi以上の圧縮強度、及び、5000psi/g/cc以上、好ましくは、約7000psi/g/cc以上の強度:密度の比率を有する。この炭素発泡体は、平均して約1.0〜約1.5のアスペクト比、好ましくは、約1.0〜約1.25のアスペクト比を有する等方性孔の比較的均一な分布を示す。
その結果得られる炭素発泡体は、約65%〜約95%、より好ましくは、約70〜約95%の全孔隙率を有する。通常孔隙率のような特徴、並びに、個々の孔のサイズ及び形状は、明視野照明を用いるエポキシ顕微鏡マウント(epoxy microscopy mount)を使用するなどして光学的に測定され、かつ、メディアサイベメチック社(Media Cybemetic)(マリーランド州、シルバースプリングに所在する。)製のイメージ−プロソフトウェア(Image-Pro Software)のような商業用ソフトウェアを用いて決定することができる。
【0046】
その他、本発明における炭素発泡体骨格用の炭素発泡体は、高圧下での中間相ピッチの熱処理によって製造され得る。こうした炭素発泡体の製造方法では、開放セル構造の炭素発泡体が得られる。前記セル構造には、高度に相互接続した孔(porosity)が存在し、それにより、前記発泡体が、炭素発泡体の内部空隙への補助材の含浸に適合される。
【0047】
炭素発泡体の孔に注入するために選ばれた補助材は、本発明の炭素発泡体複合体に異なる特徴をもたらし得る様々な前駆体から選択され得る。そのような補助材の一つに、本発明の炭素発泡体材に安定した強い電気導電性をもたらす電気重合可能なポリマーがある。また、補助材は、炭素発泡体骨格の孔に蒸着された金属を含む。特に、その蒸着は、化学溶液槽における金属イオンの還元を通じて炭素発泡体骨格の孔の内面に伝導性物質を蒸着(無電解)させることを含む。また、伝導性物質の還元により炭素発泡体骨格の孔の内面上に前記伝導性物質を蒸着させる電着法(electrodeposition)によって、伝導性物質が炭素発泡体骨格の孔内へ蒸着され得る。
【0048】
別の具体例において、補助材は、炭素骨格の孔内で発泡されて、より高い熱伝導性及び電気伝導性を有する本発明の物(材料)を形成する黒鉛化可能な前駆体であっても良い。そのような前駆体は、フェノール系発泡体だけでなく、十分な熱にさらされると炭素質物質に転換され得る中間相ピッチ物質をも含む。好ましい具体例において、前駆体は、合成熱硬化性樹脂、例えば、ノボラック及びレゾールを含むフェノールホルムアルデヒド樹脂である。
【0049】
補助材は、様々な触媒を含んでも良い。ここで、触媒は、炭素発泡体骨格に注入されると、本発明の物(材料)に触媒特性を持たせる。これらの触媒は、当業者に知られた遷移金属(均一系触媒又は不均一系触媒として使用される。)を含み得る。また、補助材が、本発明に係る炭素発泡体の重金属分離への使用(適用)を可能にする触媒複合体を含んでも良い。
【0050】
炭素発泡体骨格の孔内で使用される補助材は、その炭素発泡体骨格の孔の内部で発泡され得るモノマー前駆体であっても良い。これらの前駆体は、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニル、ポリビニルブチラール、ポリウレタン樹脂、ポリスチレン、アクリル、エポキシ、フェノール、ポリイミド、ポリメチレン、ポリスチレン、ポリオレフィン、ポリウレタン、及び、これらの組み合わせを含む。これらの前駆体が炭素発泡体骨格の孔内にあると、その前駆体は様々な方法によって発泡され得る。例えば、炭素発泡体骨格の孔の内部において、ジアゾ前駆体からポリメチレンが自発的に発泡する。
【0051】
これらの前駆体を用いてポリマー発泡体を生成することで、異なる環境における炭素発泡体の使用に伴う様々な問題を解決することができる。例えば、本発明に係る発泡体物質は、炭素発泡体骨格における有意な重量増加を伴わずに、より優れた防水性及び耐久性を有するようになる。また、ポリマー発泡体内に触媒又は伝導性成分のような様々な材料(物質)を含ませることによって、本発明に係る炭素発泡体複合体に様々な新たな特性を持たせることができる。
【0052】
炭素発泡体骨格における複数の孔に、前述のモノマー前駆体のうちいずれかからのクローズドセルポリマー発泡体を注入することが好ましい。炭素発泡体の孔内に補助材を含んだ炭素発泡体を形成することに関する好ましい実施例では、熱可塑性ポリマーが用いられる。このポリマーを炭素発泡体へ注入すると、このポリマーが炭素発泡体骨格を埋める。その後、前記注入された(loaded)炭素発泡材を所定の温度で加圧して、前駆体材料にガスを溶かす。その後、この圧力を解除すると、前駆体中に溶けたガスが溶解されなくなり、それにより、炭素発泡体骨格の孔内で前記前駆体材料が発泡される。内部に補助材を含んだ炭素発泡体を製造するこの工程に使用された前駆体は、ポリスチレンのような疎水性の熱可塑性ポリマーを含み得る。
【0053】
このプロセスに用いられる前駆体を、真空注入(vacuum infusion)によって、炭素発泡体骨格の孔の方に注入することができる。前記真空注入では、真空によって、補助材が炭素発泡体骨格の孔の方に引かれる。
【0054】
別の具体例において、圧送注入(pressure filling)によって、ポリオレフィンのような熱可塑性ポリマーを炭素発泡体骨格の孔内へ注入(挿入)することができる。前記圧送注入では、圧力勾配における差異を用いて、補助材を炭素発泡体骨格の孔内へ動かせる。
【0055】
補助材前駆体を含有する炭素発泡体骨格に対する加圧は、二酸化炭素を含むガスによって行われるべきである。このガスは、ヒドロクロロフルオロカーボン、及び、前駆体の発泡を促す内部化学的発泡剤(internal chemical blowing agent)として使用されるヘキサンのような炭化水素を含んでも良い。
【0056】
更なる別の具体例において、炭素発泡体骨格へ液体炭化水素と予混合された樹脂を注入した後、前記液体炭化水素と予混合された樹脂を含んだ炭素発泡体を加熱して、前記炭素発泡体骨格内で前記樹脂を発泡させることによって、補助材を含んだ孔を有する炭素発泡体を製造することができる。ヘキサンと予混合された前記樹脂の発泡体骨格への注入が終わると、温度を上げて、反応性樹脂の(熱的に誘導された)発泡を開始する。そのような樹脂には、ポリウレタン、フェノールアルデヒド樹脂(例えば、のボラック、レゾール)などがある。それとは別に、補助材が炭素発泡体の外孔(exterior porosity)を占めるように、単に炭素発泡体骨格の一番外側に前記補助材を注入することもできる。この技術により、開放された内孔を維持しながらも、外部的にシールされた炭素発泡材を得ることができる。より具体的に、補助材は、炭素発泡体骨格の表面に存在する孔にのみ注入され、或いは、骨格表面の2つのセル直径以内の孔に注入されて、骨格内への液体の輸送を妨げる役割をする。例えば、樹脂又はその他のセメント材料をもとの発泡体の表面に適用して、積層体を形成し又はその発泡体をシールするときに、その補助材は発泡体の内孔への樹脂の望まれない浸透を防止する役割をすることができる。
【0057】
前述のプロセス及び製品は、補助材を含む炭素発泡体としての本発明の物を説明したものであるが、その炭素発泡体は黒鉛発泡体であっても良い。
【0058】
したがって、本発明を実施することによって、今までなかった特性を有する本発明の発泡体を得ることができる。これらの補助材を含んだ炭素発泡体は、高い圧縮強度:密度の比率を有する一方で、その使用された補助材によって、炭素発泡体は様々な幅広い物理的及び化学的特徴を有するようになる。、好ましい具体例によれば、その補助材は、もとの炭素発泡体の液体親和性を改質して(即ち、変えて)、その発泡体の能動的及び受動的な湿潤性(active and passive wettability)の両方をも減少させることができる。
【0059】
本明細書に引用された特許文献及び論文などは、参考までに本明細書に含まれることとする。
【0060】
前記説明は、当業者が本発明を実施することを可能にするために提供したものである。本明細書を読んだ当業者にとって明らかな変更及び変形までは扱っていない。しかしながら、特許請求の範囲によって定まる本発明の技術的範囲には、そのような変形及び変更が含まれると解すべきである。特許請求の範囲は、本発明に意図される目的を満たすものであれば、その順番及び配置を変えたステップ及び構成要素をも含むものとする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に補助材が配された孔を有する炭素発泡体を含む炭素発泡体複合体であって、前記炭素発泡体複合体の表面エネルギー及び液体親和性が、前記炭素発泡体の表面エネルギー及び液体親和性と異なることを特徴とする炭素発泡体複合体。
【請求項2】
前記補助材が、電気重合可能なポリマーであることを特徴とする請求項1に記載の炭素発泡体複合体。
【請求項3】
前記補助材が、金属であることを特徴とする請求項1に記載の炭素発泡体複合体。
【請求項4】
前記補助材が、黒鉛化可能な発泡体前駆体であることを特徴とする請求項1に記載の炭素発泡体複合体。
【請求項5】
前記補助材が、触媒であることを特徴とする請求項1に記載の炭素発泡体複合体。
【請求項6】
前記補助材が、表面における2つのセル直径以内の前記炭素発泡体の孔のみを満たすことを特徴とする請求項1に記載の炭素発泡体複合体。
【請求項7】
前記補助材が、ポリマー発泡体であることを特徴とする請求項1に記載の炭素発泡体複合体。
【請求項8】
前記ポリマー発泡体が、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニル、ポリビニルブチラール、ポリウレタン樹脂、ポリスチレン、アクリル、エポキシ、フェノール、ポリイミド、ポリメチレン、ポリスチレン、ポリオレフィン、ポリウレタン、及び、これらの組み合わせからなる群から選択されたものであることを特徴とする請求項6に記載の炭素発泡体複合体。
【請求項9】
もとの炭素発泡体を提供して、前記炭素発泡体の孔に補助材を導入することを含む内部に補助材を含んだ孔を有する炭素発泡体の製造方法であって、前記補助材/もとの炭素発泡体が、前記もとの炭素発泡体とは異なる表面エネルギー及び液体親和性を有することを特徴とする製造方法。
【請求項10】
前記製造方法が、a)炭素発泡体に熱可塑性ポリマーを注入して、前記熱可塑性ポリマーを含んだ炭素発泡体を製造するステップと、b)前記熱可塑性ポリマーを含んだ炭素発泡体を所定の温度で加圧するステップと、c)前記熱可塑性ポリマーを含んだ炭素発泡体に対する前記加圧を解除して、前記炭素発泡体内の前記ポリマーを発泡させるステップと、を含むことを特徴とする請求項9に記載の製造方法。
【請求項11】
前記ステップ(a)における前記熱可塑性ポリマーが、疎水性の熱可塑性ポリマーであることを特徴とする請求項10に記載の製造方法。
【請求項12】
前記ステップ(a)における前記熱可塑性ポリマーを真空注入によって注入することを特徴とする請求項10に記載の製造方法。
【請求項13】
前記ステップ(a)における前記熱可塑性ポリマーを、圧力充填によって注入することを特徴とする請求項10に記載の製造方法。
【請求項14】
前記ステップ(b)における前記熱可塑性ポリマーを含んだ炭素発泡体を、少なくとも二酸化炭素を含有するガスによって加圧することを特徴とする請求項10に記載の製造方法。
【請求項15】
前記炭素発泡体は、黒鉛発泡体であることを特徴とする請求項10に記載の製造方法。
【請求項16】
前記製造方法が、a)発泡剤と予混合された樹脂を注入して、前記樹脂を注入した炭素発泡体を形成するステップと、b)前記樹脂を注入した炭素発泡体を加熱して、前記炭素発泡体内で前記樹脂を発泡させるステップと、を含むことを特徴とする請求項9に記載の製造方法。
【請求項17】
前記炭素発泡体の前記孔の内部に金属を蒸着することを特徴とする請求項9に記載の製造方法。

【公表番号】特表2010−526017(P2010−526017A)
【公表日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−506603(P2010−506603)
【出願日】平成20年4月30日(2008.4.30)
【国際出願番号】PCT/US2008/062017
【国際公開番号】WO2008/137456
【国際公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【出願人】(507393218)グラフテック インターナショナル ホールディングス インコーポレーテッド (22)
【氏名又は名称原語表記】GrafTech International Holdings Inc.
【Fターム(参考)】