説明

補完データ伝送方法及びデータ伝送システム

【課題】SD−SDI方式またはHD−SDI方式を採用する装置間でアナログ放送の補完データを伝送することが可能な補完データ伝送方法を提供する。
【解決手段】アナログ放送用の映像信号の垂直帰線期間に重畳される補完データをアナログ/デジタル変換器12に入力して擬似的にSD−SDI方式のフォーマットとなる擬似SDIデータに変換するようにし、この擬似SDIデータをマトリクススイッチ11によりHD−SDI方式の本線系とは別の伝送路に伝送し、最終段でインサータ16により本線系の映像ストリームデータを擬似SDIデータに置き換えるようにしている。このとき、マトリクススイッチ11の出力経路に用いたダウンコンバータ14及びストリーム処理器15の処理時間に合わせて擬似SDIデータを遅延器17で遅延してタイミングを揃える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば映像処理システムにおいて、SD(Standard Definition)−SDI(Serial Digital Interface)方式またはHD(High Definition)−SDI方式を採用する装置間で映像信号の垂直帰線期間に重畳すべく補完データを伝送する補完データ伝送方法及びデータ伝送システムに関する。
【背景技術】
【0002】
地上波放送システムにおいて、デジタル放送が普及しており、このようなデジタル放送では、放送局用の機器やシステムとして、アナログ放送対応からデジタル技術の導入による番組制作のための放送局の設備までを含めたデジタル放送対応の移行期にある。この移行期において、アナログ放送とデジタル放送とが並存することになる。なお、デジタル放送の放送局用の機器やシステムは、SD(Standard Definition)−SDI(Serial Digital Interface)方式またはHD(High Definition)−SDI方式に準拠するようになされている。
【0003】
上記デジタル放送では、特に、アナログ放送で実施されているように、映像・音声以外に、字幕データや番組に付随する各種データ、さらにネットキューといったネット放送局間で使用される放送制御データを、ベースバンド映像信号の垂直帰線期間(VBI:Vertical Blanking Interval)に補完データとして多重して伝送することも求められている。なお、ネットキューは、放送設備において、CMや番組への差し替え、音声モードの切替タイミングを知らせるために使用される。
【0004】
ところで、アナログ放送の補完データと、デジタル放送の補完データとでは規格が異なっており、アナログ放送の補完データをSD−SDI方式またはHD−SDI方式を採用する機器で取り扱うことが困難となる。
【0005】
なお、この種に関連する従来技術として、特許文献1に、SDフォーマットの番組素材をHDフォーマットの番組素材に変換し、HDフォーマットの番組素材をSDフォーマットの番組素材に変換する技術が示されている。但し、この特許文献1に記載のものは、アナログ放送の補完データを、SD−SDI方式またはHD−SDI方式を採用する機器で取り扱えるようにするものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−203738公報。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
以上述べたように、SD−SDI方式またはHD−SDI方式を採用する機器では、アナログ放送の補完データを取り扱うことが困難である。
【0008】
そこで、この発明の目的は、SD−SDI方式またはHD−SDI方式を採用する装置間でアナログ放送の補完データを伝送することが可能な補完データ伝送方法及びデータ伝送システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、この発明に係る補完データ伝送方法は、映像ストリームデータを伝送するためのSD(Standard Definition)−SDI(Serial Digital Interface)方式またはHD(High Definition)−SDI方式を採用する複数の入出力系統の伝送路を切り替えるマトリクススイッチと、このマトリクススイッチの少なくとも一部の入力端子に接続されるアナログ/デジタル変換器と、マトリクススイッチの少なくとも一部の出力端子に接続され映像ストリームデータに処理を加えて出力するストリーム処理器と、マトリクススイッチのストリーム処理器が接続されない出力端子に接続され、入力信号をストリーム処理器の処理に要する時間相当の遅延時間遅延して出力する遅延器と、ストリーム処理器の出力を遅延器の出力に置き換えて出力する置き換え器とを備えるデータ伝送システムに用いられ、映像の垂直帰線期間に重畳するべくアナログ放送用の補完データをアナログ/デジタル変換器に入力し、当該補完データを擬似的にSD−SDI方式のフォーマットとなる擬似SDIデータに変換し、擬似SDIデータをマトリクススイッチにて遅延器に導出させ、置き換え器において、遅延器の出力が入力された時点でストリーム処理器の出力を遅延器の出力に置き換えるようにしたものである。
【0010】
この構成によれば、アナログ放送用の補完データをアナログ/デジタル変換器に入力して擬似的にSD−SDI方式のフォーマットとなる擬似SDIデータに変換するようにし、この擬似SDIデータをSD−SDI方式またはHD−SDI方式の本線系とは別の伝送路に伝送し、最終段で置き換え器により本線系の映像ストリームデータを擬似SDIデータに置き換えるようにしている。このとき、マトリクススイッチの出力経路に用いたストリーム処理器の処理時間に合わせて擬似SDIデータを遅延してタイミングを揃えるようにしている。
【0011】
従って、設備コストを増加させることなく、擬似SDIデータのフォーマットを利用してSD−SDI方式またはHD−SDI方式の装置間でアナログ放送用の補完データをスルーさせることができる。また、本線系の映像ストリームデータを擬似SDIデータに置き換える時のタイミング制御も容易に行えるようになる。
【発明の効果】
【0012】
この発明によれば、SD−SDI方式またはHD−SDI方式を採用する装置間でアナログ放送の補完データを伝送することが可能な補完データ伝送方法及びデータ伝送システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】この発明の一実施形態とするSDI方式を採用するデータ伝送システムの構成を示すブロック図。
【図2】同実施形態のアナログ/デジタル変換器にて生成されるSD−SDI方式の信号の例を示す図。
【図3】同実施形態のインサータの制御処理手順を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、この発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。
図1は、この発明の一実施形態とするSDI方式を採用するデータ伝送システムの構成を示すもので、符号11はレートフリーのマトリクススイッチである。なお、ここでは説明を簡単にするため、マトリクススイッチ11の入力チャンネル(系統)数を4チャンネルとし、出力チャンネル(系統)数を2チャンネルとし、各チャンネル入出力はSD−SDI方式及びHD−SDI方式による映像ストリームデータであるものとする。
【0015】
この実施形態では、マトリクススイッチ11の第1入力チャンネルにアナログ/デジタル変換器(A/D)12を接続し、第2入力チャンネルにアップコンバータ(U/C)13を接続している。また、マトリクススイッチ11の第1出力チャンネルをHD−SDI方式による本線系とし、第2出力チャンネルをSD−SDI方式による系としている。
【0016】
本線系には、ダウンコンバータ(D/C)14、ストリーム処理器(NET−RX)15及びインサータ16が設けられる。また、SD−SDI方式による系には、遅延器(DL)17及び補完データ切替スイッチャー18が設けられる。
【0017】
アナログ/デジタル変換器12は、アナログ放送信号を擬似的にSD−SDI方式のデータ(以下、擬似SDIデータと称する)に変換するもので、擬似SDIデータのうち補完データをマトリクススイッチ11に出力し、補完データ以外の映像ストリームデータをアップコンバータ13に出力する。アップコンバータ13は、入力されたSD−SDI方式の映像ストリームデータをHD−SDI方式の映像ストリームデータに変換してマトリクススイッチ11に出力する。
【0018】
ダウンコンバータ14は、HD−SDI方式の映像ストリームデータをSD−SDI方式の映像ストリームデータに変換する。ストリーム処理器15は、SD−SDI方式の映像ストリームデータに対し処理を加えて出力する。この処理としては、例えば、任意のビットレートの映像ストリームデータを本システムで要求されるビットレートに変換したり、現用系と予備系を切り替えるものがある。また、ストリーム処理器15は、例えばネットキューデータの付け替えも行っている。
【0019】
インサータ16は、ストリーム処理器15の出力を補完データ切替スイッチャー18の出力に置き換えて出力する。このインサータ16の出力は、例えば番組ネット回線を介して他の放送局に伝送される。
【0020】
遅延器17は、マトリクススイッチ11の出力をダウンコンバータ14及びストリーム処理器15に要する処理時間遅延して補完データ切替スイッチャー18に出力する。補完データ切替スイッチャー18は、APC(自動番組送出制御装置)19からの制御でストリーム処理器15の出力と遅延器17の出力とを選択的に導出する。
【0021】
上記APC19は、マトリクススイッチ11及び補完データ切替スイッチャー18に対し、オペレータによる指定入力操作による切替制御情報に従って任意の入出力チャンネル間を接続させる。
【0022】
上記構成において、以下にその処理動作を説明する。
例えば、キー局から番組ネット回線を介してアナログ放送信号が本システムに送られてきたとする。そうすると、アナログ放送信号は、アナログ/デジタル変換器12により擬似SDIデータに変換される。この擬似SDIデータのうち、補完データはマトリクススイッチ11により遅延器17を設けた系へ導出され、映像ストリームデータはアップコンバータ13でHD−SDI方式の映像ストリームデータに変換され、マトリクススイッチ11により本線系へ導出される。
【0023】
図2は、上記アナログ/デジタル変換器12で生成される補完データの例を示すもので、図2(a)は一般のSD−SDI方式の伝送フォーマット、図2(b)は補完データを重畳したアナログ放送信号、図2(c)はアナログ放送信号の補完データをSD−SDI方式に変換した信号である。
【0024】
図2(a)に示すように、SD−SDI方式の信号のヘッダは可変長で、固定パターンの開始コードから始まり、映像信号に重畳するべくライン情報及びパケット長を表す情報が存在する。この補完データがネットキューデータである場合、ライン情報は19ライン、20ライン、282ライン及び283ラインを表す。一方、補完データが字幕データである場合、ライン情報は18ライン及び281ラインを表す。また、パケットデータ部も可変長で、ここには補完データそのものが存在する。
【0025】
上記アナログ/デジタル変換器12では、図2(b)のアナログ放送信号をデジタル信号に変換し、図2(c)に示すようにヘッダに例えば音声信号の波形データを挿入した擬似的なSD−SDI方式の信号に生成する。
【0026】
このようにして生成された擬似SDIデータは、遅延器17及び補完データ切替スイッチャー18を介してインサータ16に供給される。なお、本線系にて例えばネットキューデータを出力する場合があるため、補完データ切替スイッチャー18にて本線での割り込み信号か遅延器17からの擬似SDIデータかをAPC19にて自動制御を行う。
【0027】
ところで、ダウンコンバータ14では、HD−SDI方式の映像ストリームデータを処理するために時間がかかるので、処理を実行すると他の経路との間でタイミング関係がくずれてしまうことになる。そこで、本発明では、SD−SDI方式による系に遅延器17を介在し、遅延器17の遅延時間をダウンコンバータ14及びストリーム処理器15の処理に要する時間に設定するようにして、インサータ16における本線系の映像ストリームデータと擬似SDIデータとの入力タイミングを揃えるようにした。
【0028】
図3は、インサータ16の制御処理手順を示すフローチャートである。
まず、インサータ16は、補完データ切替スイッチャー18からの擬似SDIデータ入力の有無を監視し(ステップST3a)、擬似SDIデータ入力があった場合には(Yes)、本線系の映像ストリームデータに代えて擬似SDIデータを出力し(ステップST3b)、擬似SDIデータ入力がない場合には(No)、本線系の映像ストリームデータをそのまま出力する(ステップST3c)。
【0029】
ここで、補完データがネットキューデータである場合には、映像信号の19ライン、20ライン、282ライン及び283ラインに重畳されることになり、字幕データである場合には、映像信号の18ライン及び281ラインに重畳される。
【0030】
以上のように上記実施形態では、アナログ放送用の映像信号の垂直帰線期間に重畳される補完データをアナログ/デジタル変換器12に入力して擬似的にSD−SDI方式のフォーマットとなる擬似SDIデータに変換するようにし、この擬似SDIデータをマトリクススイッチ11によりHD−SDI方式の本線系とは別の伝送路に伝送し、最終段でインサータ16により本線系の映像ストリームデータを擬似SDIデータに置き換えるようにしている。このとき、マトリクススイッチ11の出力経路に用いたダウンコンバータ14及びストリーム処理器15の処理時間に合わせて擬似SDIデータを遅延器17で遅延してタイミングを揃えるようにしている。
【0031】
従って、設備コストを増加させることなく、SD−SDI方式のフォーマットを利用してHD−SDI方式の本線系をスルーさせてアナログ放送用の補完データを伝送することができる。また、インサータ16において、本線系の映像ストリームデータを擬似SDIデータに置き換える時のタイミング制御も容易に行えるようになる。
【0032】
なお、上記実施形態では、ネットキューデータ及び字幕データを映像信号の垂直帰線期間に重畳する例について説明したが、ネットキューデータ及び字幕データのうちの1つであってもよく、またネットキューデータ及び字幕データ以外のものであってもよい。
【0033】
尚、本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0034】
11…マトリクススイッチ、12…アナログ/デジタル変換器、13…アップコンバータ、14…ダウンコンバータ、15…ストリーム処理器、16…インサータ、17…遅延器、18…補完データ切替スイッチャー、19…APC。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
映像ストリームデータを伝送するためのSD(Standard Definition)−SDI(Serial Digital Interface)方式またはHD(High Definition)−SDI方式を採用する複数の入出力系統の伝送路を切り替えるマトリクススイッチと、このマトリクススイッチの少なくとも一部の入力端子に接続されるアナログ/デジタル変換器と、前記マトリクススイッチの少なくとも一部の出力端子に接続され前記映像ストリームデータに処理を加えて出力するストリーム処理器と、前記マトリクススイッチの前記ストリーム処理器が接続されない出力端子に接続され、入力信号を前記ストリーム処理器の処理に要する時間相当の遅延時間遅延して出力する遅延器と、前記ストリーム処理器の出力を前記遅延器の出力に置き換えて出力する置き換え器とを備えるデータ伝送システムに用いられ、
映像の垂直帰線期間に重畳するべくアナログ放送用の補完データを前記アナログ/デジタル変換器に入力し、当該補完データを擬似的にSD−SDI方式のフォーマットとなる擬似SDIデータに変換し、
前記擬似SDIデータを前記マトリクススイッチにて前記遅延器に導出させ、
前記置き換え器において、前記遅延器の出力が入力された時点で前記ストリーム処理器の出力を前記遅延器の出力に置き換えることを特徴とする補完データ伝送方法。
【請求項2】
前記補完データは、放送局間制御に必要なネットキューデータであることを特徴とする請求項1記載の補完データ伝送方法。
【請求項3】
前記補完データは、字幕データであることを特徴とする請求項1記載の補完データ伝送方法。
【請求項4】
映像ストリームデータを伝送するためのSD(Standard Definition)−SDI(Serial Digital Interface)方式またはHD(High Definition)−SDI方式を採用する複数の入出力系統の伝送路を切り替えるマトリクススイッチと、
このマトリクススイッチの少なくとも一部の入力端子に接続され、映像の垂直帰線期間に重畳するべくアナログ放送用の補完データを入力し、当該補完データを擬似的にSD−SDI方式のフォーマットとなる擬似SDIデータに変換するアナログ/デジタル変換器と、
前記マトリクススイッチの少なくとも一部の出力端子に接続され前記映像ストリームデータに処理を加えて出力するストリーム処理器と、
前記マトリクススイッチの前記ストリーム処理器が接続されない出力端子に接続され、入力信号を前記ストリーム処理器の処理に要する時間相当の遅延時間遅延して出力する遅延器と、
前記遅延器の出力が入力された時点で、前記ストリーム処理器の出力を前記遅延器の出力に置き換えて出力する置き換え器と、
前記アナログ/デジタル変換器の出力を前記遅延器に導出するように前記マトリクススイッチを切替制御する切替制御器とを具備したことを特徴とするデータ伝送システム。
【請求項5】
前記補完データは、放送局間制御に必要なネットキューデータであることを特徴とする請求項4記載のデータ伝送システム。
【請求項6】
前記補完データは、字幕データであることを特徴とする請求項4記載のデータ伝送システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−273211(P2010−273211A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−124495(P2009−124495)
【出願日】平成21年5月22日(2009.5.22)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】