説明

補強用コードおよびその製造方法

【課題】 補強用コード内部への水や油の浸入を抑えて、耐水性・耐油性を向上できる補強用コードの製造方法を提供する。
【解決手段】 補強用繊維束の側面に、高分子材料による被覆層を押出成形によって形成することを特徴とする補強用コードの製造方法である。前記高分子材料として、熱可塑性エラストマー、ゴム、またはそれらの混合材料を用いることが好ましい。前記補強用繊維束は、予めゴムラテックス等を含浸して乾燥した下地被覆層を形成することが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、補強用コードおよびその製造方法に関し、さらにこの補強用コードを埋設した製品に関する。
【背景技術】
【0002】
歯付きゴムベルトなどの製品について、その強度や耐久性を向上させるために、ガラス繊維や化学繊維などを補強用繊維としてマトリクス内に埋設することが、広く行われている。しかし、これらの製品を長期にわたって使用していると、補強用繊維が屈曲のため疲労して強度が低下したりする。また、水分や油分が内部に侵入することによって、繊維を被覆しているラテックスの被覆層が膨潤し、繊維束の撚りが解れ、強度の低下を早めるなどの問題があることが知られている。
【0003】
そこで、補強用繊維において、製品の耐屈曲性を改善するため、あるいは、水や油の浸入に対して特性の変化が小さくなるように、種々の工夫がなされている。例えば、本出願人は、特開2003−253568号公報や特開2003−268678号公報等において、水や油に対して特性の変化が小さいラテックス処理剤をガラス繊維に含浸させることにより、水や油の浸入に対して特性の変化を改善する技術を開示している。
【0004】
また、本出願人は、特開平11−217739号公報において、ラテックスを含浸させたガラス繊維を数本束ねて乾燥し撚りをかけた後に、必要に応じてさらにその上にラテックスを含有する水溶性処理剤で被覆層を形成させることによって、耐屈曲性と耐水・耐油性の両方を改善する技術を開示している。
【特許文献1】特開2003−253568号公報
【特許文献2】特開2003−268678号公報
【特許文献3】特開平11−217739号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、昨今、特に自動車の用途において、歯付きベルトの耐久性のさらなる向上が求められている。しかしながら、上述した技術等では、形成させた被覆層に製法に起因して微細な穴が存在しており、水や油の浸入を完全に防ぐことは困難であった。
【0006】
さらに、コードによって補強されたゴムベルトを強く屈曲すると、コードにかかる曲げ応力によって撚りが解れて、ベルトの破断強度を低下させてしまうことがある。
【0007】
加えて、コードで補強されたゴムベルトが、長期間、高温状態で使用されると、ラテックスを乾燥硬化させた被覆層は、徐々にその硬度が硬くなり、屈曲に弱くなってしまうことがある。
【0008】
本発明は、以上のような問題点に着目してなされたものである。その目的とするところは、補強用コード内部への水や油の浸入を抑えて、耐水性・耐油性を向上できる補強用コードの製造方法、およびそれによって得られる補強用コードを提供することにある。また、屈曲に対しても撚りが解けることがなく、耐屈曲性を向上できる補強用コードの製造方法、およびそれによって得られる補強用コードを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述の目的を達成するために、本発明者が鋭意研究を行った結果、補強用繊維束の側面に、押出成形によって高分子材料の被覆層を形成して補強用コードとすると、それを用いた製品の耐屈曲性、耐水・耐油性を向上できることがわかった。
【0010】
すなわち、本発明は、請求項1に記載の発明として、
補強用繊維束の側面に、高分子材料による被覆層を押出成形によって形成することを特徴とする補強用コードの製造方法である。
【0011】
請求項2に記載の発明として、
請求項1に記載の補強用コードの製造方法において、
前記高分子材料として、熱可塑性エラストマー、ゴム、またはそれらの混合材料を用いる補強用コードの製造方法である。
【0012】
請求項3に記載の発明として、
請求項1または2に記載の補強用コードの製造方法において、
前記高分子材料として、スチレン系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、ウレタン系エラストマー、ポリブチレンテレフタレート系エラストマー、ニトリルゴム、アクリルゴム、水素化ニトリルゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム、エチレンプロピレンゴム、クロロプレンゴム、クロロスルフォン化ポリエチレン、ブチルゴムのうち、少なくとも1つを用いる補強用コードの製造方法である。
【0013】
請求項4に記載の発明として、
請求項1〜3のいずれか1項に記載の補強用コードの製造方法において、
前記補強用繊維束に予め撚りをかけておき、その側面に前記被覆層を形成する補強用コードの製造方法である。
【0014】
請求項5に記載の発明として、
請求項1〜4のいずれか1項に記載の補強用コードの製造方法において、
前記補強用繊維を集束したものに、予めゴムラテックス、樹脂、またはこれらの混合物を含浸し乾燥して下地被覆層を形成し、これに撚りをかけて補強用繊維束とし、該繊維束の側面に前記被覆層を形成する補強用コードの製造方法である。
【0015】
請求項6に記載の発明として、
請求項5に記載の補強用コードの製造方法において、
前記ゴムラテックスは、ビニルピリジン・スチレン・ブタジエン3元共重合ラテックス、ブタジエンラテックス、ブタジエン・スチレン共重合体ラテックス、ジカルボキシル化ブタジエン・スチレン共重合体ラテックス、エチレンプロピレンラテックス、クロルスルホン化ポリエチレンラテックス、フッ素ゴムラテックス、アクリルゴムラテックス、水素化ニトリルゴムラテックスのうち、少なくとも1つを含ませる補強用コードの製造方法である。
【0016】
請求項7に記載の発明として、
請求項1〜6のいずれか1項に記載の補強用コードの製造方法において、
前記補強用コードは、前記被覆層の上に、さらに、ゴム、架橋剤、カーボッブラック、溶剤を含んだ処理剤でオーバーコート層を形成する補強用コードの製造方法である。
【0017】
請求項8に記載の発明として、
請求項7に記載の補強用コードの製造方法において、
前記ゴムを、主成分としてクロルスルホン化ポリエチレンを含むゴムとする補強用コードの製造方法である。
【0018】
請求項9に記載の発明として、
請求項1〜8のいずれか1項に記載の補強用コードの製造方法によって得られた補強用コードである。
【0019】
請求項10に記載の発明として、
請求項9に記載の補強用コードを補強材として用いた製品である。
【0020】
請求項11に記載の発明として、
請求項10に記載の製品において、
前記製品が歯付きベルトである補強用コードを補強材として用いた製品である。
【発明の効果】
【0021】
本発明による補強用コードは、以上のような構成を有しているので、以下のような効果を奏する。
【0022】
すなわち、本発明による補強用コードは、押出成形によって高分子材料の被覆層を補強用繊維束に被覆している。このため、その被覆層には微細な穴を生じることがなく、油や水の侵入を防ぐことができる。したがって、この補強用コードを用いた製品における耐水性や耐油性を、飛躍的に向上させることができる。
【0023】
また、本発明によれば、押出成形によって形成された被覆層により、その内部の補強繊維束が強固に結束されている。このため、厳しい条件の屈曲に対しても、撚りが解けることがない。したがって、この補強用コードを用いた製品における耐屈曲性を、飛躍的に向上させることができる。
【0024】
このように、本発明の補強用コードを用いた製品は、耐屈曲性、耐水性や耐油性などの耐久性に優れている。また、本発明にかかる製品は、耐久性に優れるので歯付きベルトなどの用途に適している。
【0025】
さらに、本発明による補強用コードにおいて下地被覆層を設ける場合、補強用繊維に含浸させる下地被覆層には、耐油性や耐水性が要求されない。このため、コストの安いラテックスや樹脂の水溶物を用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態について、詳細に説明する。
【0027】
(補強用繊維)
本発明の補強用コードにおける補強用繊維は、製品を補強する機能があれば、その種類や形状を特に限定されるものではない。
例えば、ガラス繊維、ビニロン繊維に代表されるポリビニルアルコール繊維、ポリエステル繊維、ナイロン、アラミド(芳香族ポリアミド)などのポリアミド繊維、ポリアリレート繊維、ポリケトン繊維、カーボン繊維またはポリパラフェニレンベンゾオキサゾール(PBO)繊維などを利用することができる。これらのなかでも、寸法安定性、耐熱性、引張り強度等に優れるガラス繊維が好適である。本発明による製品が歯付きベルトの場合には、ガラス繊維が最もよく用いられている。
【0028】
ガラス繊維におけるガラスの種類は、特に限定されるものではないが、一般的な無アルカリガラスよりも、引張り強度に優れる高強度ガラスが好ましい。
【0029】
なお、繊維の構成は特に限定されるものではないが、ガラス繊維の最小構成単位であるフィラメントは、その平均径が5〜13μmのものが好ましい。このフィラメントを50〜2000本集束剤にて集束し、これを1本または複数本を引き揃えて、ガラス繊維とする。このガラス繊維を複数本引き揃えて、補強用繊維束とする。この補強用繊維束の側面に、押出成形によって被覆層を形成する。この被覆層は、押出成形機によって形成されるとよい。このような技術は、絶縁被覆された電線の製造などにおいて、広く知られている技術である。
【0030】
なお、上述のガラス繊維は、まず撚りをかけて下撚りとし、この下撚りを複数本引き揃えて、下撚りの方向とは逆方向に上撚りをかけて、補強用繊維束として用いるとよい。
【0031】
このほか、上撚りを行わないものや、下撚りと上撚りの方向を同一としたもの、あるいは、補強用繊維束の中心部分と外層部分で材質の異なる繊維を用いたり、下撚りや上撚りの方向を変えたものなど、種々の構成を用いることができる。このように、撚りをかけたコードは、歯付きベルトなどの用途に適している。
【0032】
(押出成形による被覆層)
この被覆層は、耐屈曲性を向上させるために、柔軟であることが好ましい。したがって、常温で柔軟なエラストマー性を有する素材が好適である。具体的には、熱可塑性エラストマーやゴム等が適している。また、被覆層を成形した後、オーバーコート層を形成する場合や、マトリクスに埋設する工程にて曝される温度域で、溶解あるいは発泡しないような材料を用いることが望ましい。また、マトリクスやオーバーコート層との接着力も求められるので、それらとなじみのよい材料が望ましい。
【0033】
押出成形される被覆層において、高分子材料としては、スチレン系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、ウレタン系エラストマー、ポリブチレンテレフタレート系エラストマー、ニトリルゴム、アクリルゴム、水素化ニトリルゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム、エチレンプロピレンゴム、クロロプレンゴム、クロロスルフォン化ポリエチレン、ブチルゴムのうち、少なくとも1つを含むものが好ましい。
【0034】
また、被覆層の原料は、その成形性や成形条件あるいは成形後の特性を種々変化させる目的で、ガラス短繊維、カーボンブラック、シリカや種々の有機繊維を含ませてもよい。
【0035】
このように、押出成形によって形成された被覆層は、従来技術であるラテックスを含浸させた被覆層に比べて、材質的により緻密である。このため、本発明による補強用コードでは、水や油等がその内部に侵入することを防ぐことができる。また、材質的に強固であり、一体に成形されているので、その内部にあるものを結束する力が強い。このため、内部の補強用繊維の構造を保持する働きが強い。この働きは、撚りのかけられた補強用コードにおいて顕著である。
【0036】
以上のように、本発明による補強用コードでは、補強用繊維束に押出成形による被覆層を形成している。
【0037】
(下地被覆層)
さらに、この補強用繊維束は、予め下地被覆層を形成しておくことが好ましい。
例えば、上述したガラス繊維に、レゾルシン−ホルマリン縮合物と、ゴムラテックスとの混合水溶液に浸漬し乾燥させて下地被覆層を形成するとよい。
【0038】
製品として、特に強度や耐屈曲性が要求される場合には、下地被覆層を設けることが好ましい。これは、下地被覆層を設けることにより、補強用繊維同士が直接触れることがなく、強度や耐屈曲性を向上させるのに、有利だからである。
この下地被覆層は、補強用繊維に水性処理剤を塗布し、乾燥硬化させることによって、下地被覆層を形成するとよい。以下に、下地被覆層について詳述する。
【0039】
水性処理剤に含まれる主剤は、ビニルピリジン・スチレン・ブタジエン3元共重合ラテックス、ブタジエンラテックス、ブタジエン・スチレン共重合体ラテックス、ジカルボキシル化ブタジエン・スチレン共重合体ラテックス、エチレンプロピレンラテックス、クロルスルホン化ポリエチレンラテックス、フッ素ゴムラテックス、アクリルゴムラテックス、水素化ニトリルゴムラテックスのうち1つあるいは複数のラテックスを含んでもよい。
【0040】
また、水性処理剤は、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、低分子ポリオレフィン樹脂の乳化物または水分散型レジンを含んでいてもよい。
【0041】
また水性処理剤には、補強用繊維とラテックスとの接着性向上の目的で、レゾルシン−ホルマリン縮合物を含ませてもよい。本発明の場合には、押出成形による被覆層によって、補強用繊維の構造が保持されている。このため、レゾルシン−ホルマリン縮合物をラテックスに含ませることは必須ではない。また、ホルマリンを用いないことによって、環境への負荷を減らすこともできる。
【0042】
さらに、水性処理剤には、カーボンブラックを含ませてもよい。安価な無機充填剤としてカーボンブラックを加えることにより、補強用コードの製造コストを抑えることができる。さらに、補強用コードとマトリクスとの接着性を効果的に高めることができる。
【0043】
なお、水性処理剤には、カーボンブラック以外の無機充填剤や可塑剤、老化防止剤、金属酸化物や架橋剤または架橋助剤など、その他の構成成分を適宜含ませてもよい。無機充填剤としては、シリカ粒子を挙げることができる。
【0044】
以上述べたレゾルシン−ホルマリン縮合物とカーボンブラックの両方を、水性処理剤に含ませてもよい。
【0045】
水性処理剤は、下地被覆層の構成成分を水溶媒中に分散させた形態が好ましい。水溶媒であれば、取り扱い性がよく、構成成分の濃度管理が容易である。さらに、有機溶媒と比較して、環境負荷が格段に軽減されるからである。
【0046】
この水性処理剤における下地被覆層の構成成分の含有比率は、ゴムラテックスの質量を100としたときの固形分比で、レゾルシン−ホルマリン縮合物は0〜100の範囲が好ましく、5〜30の範囲がより好ましい。
【0047】
これらのうち、レゾルシン−ホルマリン縮合物が多すぎれば、相対的にゴムラテックスが少なくなるため、下地被覆層の硬度が高くなりすぎ、結果的に製品の耐屈曲性が低下する。
【0048】
補強用繊維に水性処理剤を塗布し、下地被覆層を形成する方法は、特に限定されるものではない。通常は、補強用繊維を水性処理剤の入った水槽中に浸漬し、これを引き上げた後に乾燥炉により、水を除去するとよい。また、水を除去するための乾燥条件も限定されるものではないが、例えば80〜320℃の雰囲気下に、0.1〜2分間曝露することを示すことができる。
【0049】
下地被覆層の付着率には、好ましい範囲が存在する。なお、被覆層の付着率Rとは、乾燥後のコードでガラス繊維質量に対して、どの程度の質量の被覆層が付着したかを示す質量百分率であり、次式で与えられる。
R(%)=((C1−C0)/C0)×100
被覆前ガラス繊維乾燥質量:C0、被覆後ガラス繊維乾燥質量:C1
【0050】
この下地被覆層の付着率は、10〜30質量%が好ましく、さらには12〜25質量%が好適である。この付着率が10質量%未満の場合は、補強用繊維束の全側面を下地被覆層で覆うことが困難となる。
一方、30質量%を超えると、下地被覆層の形成において、水性処理剤の液垂れが問題となり易い。さらには、下地被覆層が厚すぎて、補強用コードの中心部と周辺部とで特性が異なってしまう、などの問題を生じ易い。
【0051】
(オーバーコート)
このようにして得られた補強用コードは、さらに、マトリクスとの接着力を向上させる目的で、ゴム、架橋剤、カーボッブラック、溶剤や接着剤を含んだ処理剤でオーバーコートを施すことが望ましい。このゴムには、クロロスルホン化ポリエチレンが好ましく用いられる。
【0052】
このようにして得られた補強用コードを、ベルト等の製品のマトリクスに埋設する手段は、特に限定されるものではない。特に、歯付きベルト製品では、自動車用あるいはプリンタ用の歯付きベルトの製造で知られている手段を用いることができる。このようにして得られる製品は、本発明による補強用コードを埋設することによって、高い耐久性を持っている。
【0053】
ベルトのマトリクスとしては、水素化ニトリルゴムとメタクリル酸亜鉛を微分散した水素化ニトリルゴムを主成分とするゴムや、クロロプレンゴム、エチレンプロピレンゴムを主成分とするゴムや、ポリウレタン等の高分子材料が好ましく適用できる。
【0054】
以下、実施例や比較例を用いて、本発明をさらに具体的に説明する。
【0055】
(実施例1)
実施例1では、ガラス繊維(Eガラス組成 平均径9μmのフィラメントを200本集束)を3本引き揃えて、公知の方法により表1に示す水溶性処理剤を塗布し、これを150℃に設定した乾燥炉内で1分間乾燥し、下地被覆層を形成しガラス繊維とした。
【0056】
(表1)
水溶性処理剤の組成
──────────────────────────────
H−NBR(固形分40%)(*1) 100質量部
RF 10質量部
──────────────────────────────
(*1) ZETPOL LATEX、日本ゼオン社製
RF:レゾルシン−ホルマリン縮合物
【0057】
このガラス繊維を8回/10cmの下燃りをかけ、この下撚りしたものを11本引き揃えて8回/10cmの上撚りをかけて、補強用繊維束とした。この補強用繊維束の質量に対して、下地被覆層の付着率は20質量%であった。
【0058】
次に、この補強用繊維束の側面に、図1に示した押出成形機により、ポリアミド系エラストマーの一種であるナイロン12を厚さ0.1mm程度の被覆層を形成した。被覆成形時の温度は170℃である。この温度は、オーバーコート層の形成時や、製品の成形時に加えられる温度よりも高い。このナイロン被覆層は、製品において補強用繊維束を、強固に保持することができる。
【0059】
図1において、押出成形機1は、主として押出機構部11と、クロスヘッド部15とを含んで構成されている。押出機構部11は、シリンダ12と、スクリュー13と、図示しないヒータなどによって構成される。被覆層を形成する高分子材料14は、図示しないホッパからシリンダ12内に供給され、ヒータによって加熱溶融されて、スクリュー13の回転によって、クロスヘッド部15に送られる。送られた高分子材料14は、クロスヘッド部15において、図示しない搬送機構によって移動する補強用繊維束21の側面に押し出され、被覆層22が形成される。こうして、補強用コード2が製造される。
【0060】
図2にクロスヘッド部15の一例の断面拡大図を示す。図2において、クロスヘッド部15は、ダイス16,17と、ランド部を有する芯金18とによって構成されている。ダイス16,17と芯金18との間の空間に、溶融された高分子材料14が押出機構部によって送られてくる。そして、この高分子材料14が、補強用繊維束21の側面に押し出されて被覆層22を形成し、補強用コード2を完成させる。なお、この例示では、ダイスは分割型となっている。
【0061】
図3に、押出成形によって被覆層を形成した補強用コード2の表面を、走査型電子顕微鏡(SEM、日本電子株式会社製、JSM−T330A)にて、観察した結果を示した。撮影条件は加圧電圧20kVとした。図3より明らかなように、本発明の特徴である押出成形による被覆層の表面は、非常に滑らかであり、水や油の侵入を許すような微細な穴は認められなかった。
【0062】
さらに、この補強用コードに、オーバーコート層を形成した。このオーバーコート層は、クロロスルホン化ポリエチレン、イソシアネート、カーボッブラック、P−ニトロソベンゼン、キシレンやトルエンの混合物を塗布し乾燥して形成した。ここで、塗布と乾燥の工程は、例えば2回繰り返すとよい。このようにして、本発明の製造方法によって、補強用コードが得られる。なお、オーバーコート層は、補強用コードとマトリクスとの接着性を向上させるのに有効である。
【0063】
図4(a)は、このようにして得られた補強用コード2の断面模式図である。補強用コード2は、まず複数のフィラメントを束ねたガラス繊維20に下地被覆層23を形成し、これに撚りをかけて補強用繊維束21とし、この側面に被覆層22を形成している。さらに、これにオーバーコート層24を形成して、補強用コード2としている。なお、図4(a)では、外形線を見やすくするためにハッチングは施さなかった。
【0064】
つづいて、本発明の補強用コードを用いて、平ベルトを作製した。表2に示した組成のマトリクスに、上述の補強用コードを公知の手段で埋設して、幅19mm厚み5mmの平ベルトに成形した。なお、ベルト部分長さは300mmとした。
【0065】
図4(b)は、この平ベルト3の断面模式図である。平ベルト3は、マトリクスであるゴム31の中に、補強用コード2が埋設されている。
【0066】
(表2)
マトリクスの組成
───────────────────────────────────
H−NBR(*2) 70質量部
H−NBR/ZDMA(*3) 30質量部
ZnO 10質量部
ステアリン酸 1質量部
カーボンブラック 30質量部
Trioctyl Trimellitate 5質量部
硫黄 0.1質量部
1,3-Bis-(t-butylperoxy-isopropyl)-benzene 6質量部
───────────────────────────────────
(*2) ZETPOL 2020、日本ゼオン社製
(*3) ZSC 2000L、日本ゼオン社製
【0067】
このようにして得た製品の耐久性を、以下のようにして評価した。すなわち、この平ベルトを、図5に示すような屈曲試験装置5にかけ、試験前後の引張り強度を求め、これらの強度より強度保持率を求めた。強度保持率は、次式により算出し、この指標にて製品の耐久性を評価した。
強度保持率(%)=(試験後の引張り強度/試験前の引張り強度)×100
【0068】
図5において、屈曲試験装置5は、まず、試験環境を作り出すヒーティングバス50を備えている。補強用コード2の一端は、リニアモーター51に接続され、順次プーリー52,52に架けられている。平ベルト3は、ローラー53にて屈曲させられ、このローラー周辺は、ヒーティングバス50内に納められている。補強用コード2の他端は、順次プーリー52,52に架けられ、重り54に接続されている。
【0069】
このようにして、リニアモーター51にて試験片を往復動させ、ローラー53沿う平ベルト部分30において、繰り返し屈曲試験を行った。なお、ヒーティングバス50内は、水55か油55を入れて、試験できる構造となっている。
【0070】
屈曲試験の環境条件は、以下の耐熱試験、注水試験、注油試験の3種類とし、屈曲回数はいずれも20000回とした。
・耐熱試験:ヒートバスに何も入れず空気とし、環境温度を80℃に設定した
・注水試験:ヒートバスに水を入れて、常温とした
・注油試験:ヒートバスに油を入れて、120℃に設定した
以上の結果を表3に併せて示した。
【0071】
次に、得られた補強用コードを、96℃の温水に24時間浸漬して、吸水率を測定した結果を表3に示す。また、同様に120℃の油に24時間浸漬して、吸油率を測定した結果も表3に併せて示す。
【0072】
(表3)
────────────────────────────────────────
実施例1 実施例2 比較例1
────────────────────────────────────────
補強用コード 下地被覆層 H-NBR + RF なし H-NBR + RF
被覆層 ナイロン12 ナイロン12 なし
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
平ベルトの 耐熱試験 98 85 83
強度保持率(%) 注水試験 96 65 60
注油試験 90 60 46
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
補強用コードの 水浸漬試験 3.9 3.9 12.7
吸水吸油率(%) 油浸漬試験 3.5 3.5 14.5
────────────────────────────────────────
H−NBR + RF:水溶性水素化ニトリルゴム(H-NBR)と、レゾルシン−ホルマリン(RF)縮合物との混合物
【0073】
(実施例2)
実施例2は、実施例1における下地被覆層を省略したものである。そのほかは、実施例1と同様にして平ベルトを製造した。
【0074】
(比較例1)
比較例1は、実施例1における押出成形による被覆層を省略したものである。そのほかは、実施例1と同様にして平ベルトを製造した。
【0075】
表3に示した結果より、押出成形による被覆層を形成することによって、コードへの水や油が浸入を防ぐのに大きな効果があることがわかった。また、ベルト屈曲疲労試験での強度保持率を飛躍的に増大させることができることがわかった。
【0076】
(実施例3、4および比較例2)
実施例3、4および比較例2は、それぞれ実施例1、2および比較例1において、オーバーコート層を省略し、そのほかは同様にして補強用コードを製造した。それらにおける吸水率と吸油率を測定し、その結果を表4に示す。
【0077】
(表4)
────────────────────────────────────────
実施例3 実施例4 比較例2
────────────────────────────────────────
補強用コード 下地被覆層 H-NBR + RF なし H-NBR + RF
被覆層 ナイロン12 ナイロン12 なし
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
補強用コードの 水浸漬試験 5.0 4.8 32.3
吸水吸油率(%) 油浸漬試験 3.1 3.2 29.3
────────────────────────────────────────
H−NBR + RF:水溶性水素化ニトリルゴム(H-NBR)と、レゾルシン−ホルマリン(RF)縮合物との混合物
【0078】
表3と表4に示した結果より、押出成形による被覆層は、オーバーコート層の有無に拘わらず、補強用コードの内部へ水や油の浸入を防ぐことができ、耐屈曲性の改善に大きな効果のあることがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】本発明に用い得る押出成形機の一例を説明する模式図である。
【図2】本発明に用い得る押出成形機のクロスヘッド部の一例を説明する断面模式図である。
【図3】本発明による補強用コードの被覆層の表面を、走査型電子顕微鏡にて観察した写真である。
【図4】本発明による(a)補強用コードと(b)平ベルトの断面模式図である。
【図5】屈曲試験装置を説明する図である。
【符号の説明】
【0080】
1:押出成形機
11:押出機構部
12:シリンダ
13:スクリュー
14:高分子材料
15:クロスヘッド部
16,17:ダイス
18:芯金
2:補強用コード
20:ガラス繊維
21:補強用繊維束
22:被覆層
23:下地被覆層
24:オーバーコート層
3:平ベルト
31:マトリクス
5:屈曲試験装置
50:ヒーティングバス
51:リニアモーター
52:プーリー
53:ローラー
54:重り
55:水、油

【特許請求の範囲】
【請求項1】
補強用繊維束の側面に、高分子材料による被覆層を押出成形によって形成することを特徴とする補強用コードの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の補強用コードの製造方法において、
前記高分子材料として、熱可塑性エラストマー、ゴム、またはそれらの混合材料を用いる補強用コードの製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の補強用コードの製造方法において、
前記高分子材料として、スチレン系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、ウレタン系エラストマー、ポリブチレンテレフタレート系エラストマー、ニトリルゴム、アクリルゴム、水素化ニトリルゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム、エチレンプロピレンゴム、クロロプレンゴム、クロロスルフォン化ポリエチレン、ブチルゴムのうち、少なくとも1つを用いる補強用コードの製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の補強用コードの製造方法において、
前記補強用繊維束に予め撚りをかけておき、その側面に前記被覆層を形成する補強用コードの製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の補強用コードの製造方法において、
前記補強用繊維を集束したものに、予めゴムラテックス、樹脂、またはこれらの混合物を含浸し乾燥して下地被覆層を形成し、これに撚りをかけて補強用繊維束とし、該繊維束の側面に前記被覆層を形成する補強用コードの製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載の補強用コードの製造方法において、
前記ゴムラテックスは、ビニルピリジン・スチレン・ブタジエン3元共重合ラテックス、ブタジエンラテックス、ブタジエン・スチレン共重合体ラテックス、ジカルボキシル化ブタジエン・スチレン共重合体ラテックス、エチレンプロピレンラテックス、クロルスルホン化ポリエチレンラテックス、フッ素ゴムラテックス、アクリルゴムラテックス、水素化ニトリルゴムラテックスのうち、少なくとも1つを含ませる補強用コードの製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の補強用コードの製造方法において、
前記補強用コードは、前記被覆層の上に、さらに、ゴム、架橋剤、カーボッブラック、溶剤を含んだ処理剤でオーバーコート層を形成する補強用コードの製造方法。
【請求項8】
請求項7に記載の補強用コードの製造方法において、
前記ゴムを、主成分としてクロルスルホン化ポリエチレンを含むゴムとする補強用コードの製造方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の補強用コードの製造方法によって得られた補強用コード。
【請求項10】
請求項9に記載の補強用コードを補強材として用いた製品。
【請求項11】
請求項10に記載の製品において、
前記製品が歯付きベルトである補強用コードを補強材として用いた製品。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−307361(P2006−307361A)
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−128829(P2005−128829)
【出願日】平成17年4月27日(2005.4.27)
【出願人】(000004008)日本板硝子株式会社 (853)
【Fターム(参考)】