説明

補強繊維シート

【課題】補強効果に優れ、補強繊維の使用量が増しても強度利用率の低下が少ない一方向性補強繊維シートを提供する。
【解決手段】補強繊維からなる繊維群を一単位として、それが一方向に複数単位配列された繊維補強シートにおいて、該繊維群は、補強繊維が撚り合わされてなる補強繊維群であり、該繊維シートの表裏面には、各補強繊維群(1)と交差する被覆補助繊維(2)が各補強繊維群の長さ方向に配置され、かつ、被覆補助繊維は、からみ補助繊維(3)により結束されて袋状経編組織を形成しており、上記補強繊維群は、該袋状経編組織に多段で経挿入されていることを特徴とする補強繊維シート。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、補強繊維シートに関し、詳細には、建築物等の構造物やパイプ等の成形体の補強用に好適な補強繊維シートに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、老朽化等により強度や耐久性の低下した土木・建築構造体の補強方法として、補強繊維シートを含む繊維強化樹脂を構造物に接着して補強する補強方法が注目されている。また、繊維強化プラスチックからなるパイプ等の成形においても、強化基材として補強繊維シートを用いる成形方法が多用されている。
【0003】
これらの方法に用いうる補強繊維シートの代表例としては、炭素繊維やアラミド繊維等の高強力繊維を用いてなる補強繊維シートが挙げられる。かかる補強繊維シートにおいては、補強繊維同士が交錯するとクリンプを生じ、せっかくの高強力繊維の強力利用率が低下するため、補強繊維を一方向に引き揃えて配列させた補強繊維シートが種々提案されている。そのような一方向性補強繊維シートにおいては、シートとしての形態を安定させるために、補強繊維とは別に補助繊維を用い、該補助繊維を経糸および緯糸として織組織を形成し、補強繊維群を保持した補強繊維シートが提案されている(例えば、特許文献1参照)。しかし、この補強繊維シートにおいても、シートに応力が加わると、織物を構成する補助繊維の締め付けにより、補強繊維にクリンプを生じるおそれがある。
【0004】
また、補助繊維による編組織を利用して補強繊維群を保持するものとして、補強繊維群を一方向に畝状に配列し、各補強繊維群の表面には該補強繊維群と交差する被覆補助繊維を該補強繊維群の長さ方向に配置し、隣り合う補強繊維群の畝間で、上記被覆補助繊維をからみ補助繊維により経編組織で結束した補強繊維シートが提案されている(例えば、特許文献2参照)。この編組織を利用した補強繊維シートにおいては、被覆補助繊維は、からみ補助繊維により結束されて袋状経編組織を形成しており、この袋状経編組織に補強繊維群が経挿入された組織が形成されている。
【0005】
【特許文献1】特開平7−243149号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特開平10−37051号公報(特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の袋状経編組織に補強繊維群が経挿入された組織はよく考えられたものであるが、接着剤の浸透性を考慮して補強繊維群間の空隙を多く取って配列させているものであり、補強性を向上するために補強繊維を密に配列させた場合についてまで配慮されたものではない。それゆえ、十分な補強効果を確保するためには、経挿入される補強繊維群1本あたりの繊度を大きくする必要があるが、そこに問題点がある。それは、補強繊維群を編機に供給して挿入するものであるゆえ、補強繊維群1本あたりの繊度が大きくなるにつれ、工程通過性が低下し、補強繊維シートの製造時においてガイド、筬、ニードルなどの屈曲部において擦過されることにより補強繊維単糸間に糸長差を生じやすくなる。その結果として、補強繊維シートにおいて、補強繊維の原糸の強度と補強繊維の使用量から計算される値ほどには高い引張強力が得られない、すなわち強度利用率が低下するという問題が生じる。
【0007】
かかる状況に鑑み、本発明の課題は、補強効果に優れ、補強繊維の使用量が増しても強度利用率の低下が少ない一方向性補強繊維シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を解決できるものであり、
[1] 補強繊維からなる繊維群を一単位として、それが一方向に複数単位配列された繊維補強シートにおいて、該繊維群は、補強繊維が撚り合わされてなる補強繊維群であり、該繊維シートの表裏面には、各補強繊維群と交差する被覆補助繊維が各補強繊維群の長さ方向に配置され、かつ、被覆補助繊維は、からみ補助繊維により結束されて袋状経編組織を形成しており、上記補強繊維群は、該袋状経編組織に多段で経挿入されていることを特徴とする補強繊維シート。
[2] 補強繊維群において、補強繊維は撚り係数Kが2000〜7000で撚り合わされている前項[1]に記載の補強繊維シート、
ただしK=T×(DT)1/2
T :撚り合わせ数(回/m)
DT:撚り糸の総繊度(dtex)
[3] 補強繊維群の配列密度が20〜200本/2.54cmである前項[1]または[2]に記載の補強繊維シート、
[4] 経編組織の緯方向密度が片面あたり10〜150コース/2.54cmである前項[1]〜[3]のいずれか1に記載の補強繊維シート、
[5] 補助繊維の繊度が200dtex以下である前項[1]〜[4]のいずれか1に記載の補強繊維シート、
[6] 補助繊維の初期引張抵抗度が10〜200cN/dtexである前項[1]〜[5]のいずれか1に記載の補強繊維シート、
[7] 補助繊維がポリオレフィン系繊維である前項[1]〜[6]のいずれか1に記載の補強繊維シート、
[8] 補強繊維の引張強度が15〜60cN/dtex以上である前項[1]〜[7]のいずれか1に記載の補強繊維シート、
[9] 補強繊維群の繊度が1000〜50000dtexである前項[1]〜[8]のいずれか1に記載の補強繊維シート、および
[10] 補強繊維が芳香族ポリアミド繊維である前項[1]〜[10]のいずれか1に記載の補強繊維シート
に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の補強繊維シートは、補強効果に優れるとともに、作業時に要求される形態安定性および柔軟性にも優れた補強繊維シートであり、建築物等の構造物やパイプ等の成形体の補強に好適であり、特に、石油パイプライン、水道管、下水管、ガス管等の流体輸送用樹脂パイプの補強に好適である。
すなわち、本発明の繊維補強シートは、補強繊維群が多段挿入されているため、補強繊維の強度利用率が高く、編幅あたりの強力が大きい。
本発明の繊維補強シートのうち、補強繊維が撚り係数K=2000〜7000で撚り合わされている態様は、補強繊維群の形態保持性において特に優れる。
本発明の繊維補強シートのうち、補助繊維の初期引張抵抗値が10〜200cN/dtexである態様は、補強繊維シートの耳部のカールを防止できるという効果も有する。
本発明の繊維補強シートのうち、被覆補助繊維がポリオレフィン繊維である態様は、ポリオレフィン樹脂パイプの補強に特に好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、図を参照しつつ本発明を詳細に説明する。図1は、本発明の補強繊維シートの一例を示す拡大部分模式図であり、(A)はおもて面、(B)はうら面である。1は補強繊維群、2は被覆補助繊維であり、3はからみ補助繊維である。
【0011】
図1の補強繊維シートにおいては、補強繊維群(1)が一方向に複数本配列されている。 補強繊維群とは、補強繊維からなる繊維群である。本発明においては、補強繊維が撚り合わされてなる補強繊維群を一単位、すなわち1本の補強繊維群とする。
【0012】
上記補強繊維群において、補強繊維が撚り合わされているのは、補強繊維群において補強繊維がバラけないようにして、補強繊維群の形態を保持するためである。ただし、あまり強く撚り合わされていると、強力の低下、撚りトルクによる糸としての扱い難さといった弊害を生じる傾向にあるので、低撚りとするのが好ましい。具体的には、補強繊維群を1本の撚り糸として、下記式で示される撚り係数Kが2000〜7000であることが好ましい。
K=T×(DT)1/2
なお、上式において、Tは撚り数(回/m)を表わし、DTは撚り糸の総繊度(dtex)を表わす。
【0013】
図1に示されるように、本発明の補強繊維シートのおもて面(A)においては、補強繊維群(1)と交差する被覆補助繊維(2)が補強繊維群の長さ方向に配置されている。図1から明らかなように、被覆補助繊維が補強繊維群と交差するというのは、被覆補助繊維が該補強繊維群の中心線を跨いで左右に振られていることを意味し、被覆補助繊維はそのように左右に振られて反転しつつ、補強繊維群の長さ方向に配置されているのである。
【0014】
同様に、図1に示す補強繊維シートのうら面(B)においても、補強繊維群(1)と交差する被覆補助繊維(2)が補強繊維群の長さ方向に配置されている。
【0015】
図1において、補強繊維群の間で、おもて面(A)に配置された被覆補助繊維(2)とうら面(B)に配置されたもうひとつの被覆補助繊維(2)とが、からみ補助繊維(3)により結束されて、袋状経編組織が形成されている。そして、補強繊維群(1)がこの袋状経編組織に、経挿入された形態となって、本発明の補強繊維シートが構成されているのである。かかる構成により、補強繊維群は被覆補助繊維からなる袋状経編組織内に保持されて目ズレ防止が図られるので、補強繊維シートとしての形態安定性が得られる。また、補強繊維群は一方向に並列に規則正しく配列されることになり、補強繊維間には樹脂を含浸することも容易にできる。
【0016】
本発明の補強繊維シートにおいては、上記の補強繊維群が経挿入されていることについて、多段で経挿入されていることが重要である。なお、図1はおもて面(A)およびうら面(B)の平面図であり、多段挿入された繊維群は補強繊維シートの厚さ方向に整然と積み上がっている例を想定しているため、多段挿入の様子を表すことまではできていない。
【0017】
そこで、図2を用いて多段挿入について説明する。図2は、図1の補強繊維シートにおける補強繊維群の配列方向と垂直な断面から見た拡大部分模式図であり、(a)は補強繊維群が2段に挿入されている場合、(b)は補強繊維群が3段に挿入されている場合を示すが、補強繊維群を多段に挿入する段数としては、多段すなわち2段以上であればよく、特に限定されるものではない。段数は多いほうが補強繊維の使用量を増すことができるが、一方で段数が多くなるに連れて積み上げられた段が崩れるおそれが高くなる傾向にある。そのような要因を考慮すれば、多段挿入の段数としては、2〜5段が好ましく、2〜3段がより好ましい。ただし、多段挿入された補強繊維群は、必ずしも段が崩れずに整然と積み上がっていなければならないというものではなく、多少の崩れは許容されうる。
【0018】
本発明において、上記のように補強繊維群を多段に挿入することは、補強繊維の使用量を増して補強効果を高めるうえで非常に有利である。例えば、ある繊度dの補強繊維群を1本ずつ挿入する場合に比べて、繊度d/n(nは自然数)の補強繊維群をn段挿入する方が補強繊維の強度利用率を高めやすい。これは、補強繊維群1本あたりの繊度がある程度以上大きくなるにつれ、工程通過性が低下する傾向にあり、補強繊維シートの製造時においてガイド、筬、ニードルなどの屈曲部において擦過されることにより単糸間に糸長差を生じやすくなることによる。なお、補強繊維の強度利用率としては、85%以上が好ましく、90%以上がより好ましい。
【0019】
かかる構成をなす本発明の補強繊維シートは、一般的なラッセル経編の改良により製造することができる。被覆補助繊維とからみ補助繊維との経編組織の形成は、例えば「新しい繊維の知識」(鎌倉書房発行、1994年改訂第3版、P104〜P107)に準じて行われる。例えば図1の補強繊維シートは、経編機へのクリールとして、上からからみ補助繊維(3)被覆補助繊維(2)、多段の補強繊維群(1)及び被覆補助繊維(2)を編成し、ラッシェル経編機に供給することにより製造される。
【0020】
上記の被覆補助繊維とからみ補助繊維とにより構成される袋状経編組織における緯方向密度、即ち被覆補強繊維の2.54cmあたりのコース数としては、片面あたり10〜150コースが好ましく、20〜60コースがより好ましい。2.54cmあたりのコース数を片面あたり10コース以上とすることは、形態が安定してシートが取り扱いやすい点や、補強繊維群が経方向に揃いやすく強度利用率が高まる点で好ましい。一方、2.54cmあたりのコース数を片面あたり150コース以下とすることが好ましいのは、150コースを超えると補強繊維群が必要以上に強く保持されて動き難くなり、補強繊維シート全体が硬くなる傾向にあるからである。
【0021】
本発明の補強繊維シートにおける補強繊維群の配列密度としては、特に限定されるものではなく、補強繊維群の繊度に応じ、補強効果や樹脂含浸性等を考慮して適宜設定すればよいが、20〜200本/2.54cmが好ましく、40〜100本/2.54cmがより好ましい。補強繊維シートを薄くしたい場合や製編性を向上させたい場合には補強繊維群の配列密度を小さめに設定するのが有利であり、形態安定性やシート幅あたりの強度を高くしたい場合には補強繊維群の配列密度を大きめに設定するのが有利である。なお、多段挿入における1段あたりの配列密度としては、10〜50本/2.54cmが好ましく、15〜40本/2.54cmがより好ましい。
【0022】
また、補強繊維群の1本(一単位)あたりの繊度としては、1000〜20000dtexが好ましく、3000〜15000dtexがより好ましい。1000dtex以上とすることは形態安定性や強度を確保するうえで好ましいが、上記した工程通過性を良好に保って補強繊維の強度利用率を保つうえでは過度に繊度を大きくしないことが好ましい。
【0023】
補強繊維群を構成する補強繊維としては、特に限定されるものではないが、原糸での引張強度が15cN/dtex〜60cN/dtexである繊維が好ましい。補強繊維の具体例としては、ポリエチレン繊維、炭素繊維、ガラス繊維、芳香族ポリアミド繊維などが挙げられ、それらのうち、炭素繊維、芳香族ポリアミド繊維が好ましく、柔軟性に優れる点から芳香族ポリアミド繊維がより好ましく、中でも、強力が高いことからポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維が高く特に好ましい。ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維は例えば東レデュポン株式会社製「ケブラー(登録商標)29」などの市販品として入手可能である。
【0024】
補強繊維の単補強繊維の単繊維フィラメント繊度としては、特に限定されるものではないが、0.1dtex〜3dtexが好ましく、1dtex〜2dtexが特に好ましい。単繊維フィラメント繊度が大きくなるにつれ、一般的には曲げ硬さが大きくなり、シートが硬めになってゆく傾向にある。
【0025】
なお、本発明の補強繊維シートの目付としては、特に限定されるものではなく、補強繊維群の繊度や配列密度によっても変化するが、300〜2000g/mが好ましく、500〜1500g/mがより好ましい。
【0026】
また、被覆補助繊維およびからみ補助繊維(これらをまとめて単に「補助繊維」ということがある)としては、補強繊維シートとしての形態安定性を確保できる範囲において、剛性が低い繊維を使用することが好ましい。これは、剛性の高い繊維を補助繊維に使用すると、補強繊維シートの耳部がカールを起こしやすい傾向にあるためであり、また、シートに応力がかかった際に補強繊維にクリンプを生じやすい傾向にあるためである。さらに、剛性が低い補助繊維を使用することにより、補強繊維シートは曲げ硬さの小さい柔軟なシートとなるので、工事などに使用する際に取り扱いやすく、作業性に優れた補強繊維シートを得ることができる。かかる理由から、補助繊維の繊度としては、250dtex以下が好ましく、15〜180dtexがより好ましく、20〜100dtexが特に好ましい。同様の理由から、補助繊維の初期引張抵抗度としては、15〜200cN/dtexが好ましく、20〜150cN/dtexがより好ましく、25〜100cN/dtexが特に好ましい。ここで、初期引張抵抗度とは、JIS L1013 8.19 1項B法に従って測定される初期引張抵抗度(ヤング率)をいう。
【0027】
また、補強繊維シートの使用目的である補強効果に実質的に寄与するのは専ら補強繊維(群)であって、補助繊維は、補強効果への実質的な寄与が期待できないので、補強繊維シートが補強対象物に定着された後には、もはや繊維の形態をとどめない方が好ましい場合もある。例えば、補強繊維シートの外側から熱可塑性樹脂層を被覆して熱加工を行う際などに、補助繊維が補強繊維群同士を拘束しないである程度自由に動けるようにしたほうが補強繊維シートひいては補強対象物の可撓性が高くなるので良い場合や、熱加工後には補強繊維群のクリンプや欠陥がなくなって補強繊維ひいては補強繊維シートの強力および弾性率が高くなるので良い場合がある。
【0028】
そのように、補強繊維シートに熱可塑性樹脂をマトリックス樹脂として溶融含浸させて使用する場合には、補助繊維の融点が該マトリックス樹脂の融点以下となるようにすることが好ましく、それによって補助繊維を融解させてマトリックス樹脂中に取り込ませてしまうことができる。
【0029】
具体的には、補助繊維を融解させたい場合を考慮すれば、補助繊維の融点としては、260℃以下が好ましく、190〜210℃がより好ましく、130〜190℃が特に好ましい。本発明の繊維補強シートの使用においてポリオレフィン系樹脂を溶融含浸させる場合には、補助繊維の融点としては190℃以下が好ましい。
【0030】
補助繊維を構成する素材という観点からは、特に限定されるものではなく、天然繊維、半合成繊維、合成繊維の中から適宜選択可能であるが、合成繊維が好ましく、中でもポリオレフィン系繊維、ポリビニルアルコール系繊維、ポリエステル系繊維が好ましい。
【0031】
特に、本発明の補強繊維シートを石油、天然ガスその他の液体もしくは気体の輸送用パイプの成形用に用いる場合、それらのパイプにはポリオレフィン系樹脂が多用されることから、補助繊維としては、ポリオレフィン系繊維が特に好ましく、ポリエチレン繊維がとりわけ好ましい。なお、本発明の補強繊維シートとポリオレフィン系樹脂とを用いて成形されて得られる繊維強化樹脂パイプは、鉄鋼製パイプと比較して、軽量なため作業性および輸送性に優れ、フレキシブルなため作業性に優れるとともに地震などのショックに強く、さらに耐腐食性に優れるという利点を有するので、上記の液体もしくは気体の輸送用パイプとして今後ますます有望である。
【0032】
以上のように構成される本発明の補強繊維シートは、補助繊維により形成される袋状経編組織によって高強力の補強繊維が平行度を保って形態安定良く配列されているために、目ズレが少ないとともに、作業時に曲げやすい柔らかさを備えている。しかも、補強繊維群を多段で挿入することにより、補強繊維の強度利用率を大きく下げることなく補強繊維の使用量を増して補強効果を大きく高めることができる。したがって、本発明の補強繊維シートは、上記したパイプ補強のみならず、高架の橋げたや床、建物の柱・壁などの補強にも有用であり、施工時の取り扱い性、軽量性に優れ、また引張強力、剪断強力も高いので補強用部材として他の素材にはみられない工業的価値の高いものである。
【0033】
さらに、本発明の補強繊維シートには樹脂を容易に含浸させることができるので、特に、樹脂を含浸させて使用すれば、上記したパイプの補強用に限らず、一般的な構造物を含め、高架の橋げたや床板、建物の柱、壁などの補強材として最適である。
【実施例】
【0034】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、実施例に記載の特性は、以下の方法により測定ないし評価したものである。
1.撚り数(回/m):
JIS(1999) L1013 8.13.1の撚り数項の記載に従って測定した。
2.補強繊維群の配列密度(本/2.54cm):
シート幅3cm間の補強繊維群を抜き出して本数(単位数)を実測し、2.54cmあたりの本数に換算した。
3.袋状経編組織の緯密度(コース/2.54cm):
JIS(1999) L1018 8.8項記載の密度に従った。
4.繊度(dtex):
JIS(1999) L1013 B法に従った。
5.初期引張抵抗度(cN/dtex):
JIS(1999) L1013 8.19.1項B法に従った。
6.引張強度(cN/dtex):
JIS(1999) L1013 8.5.1項に従った。
7.シートの引張強さ(N/2.54cm):
JIS(1999) L1018 8.13項 カットストリップ法に従った。なお、30mm幅の試験片を用いて測定した値を2.54cm幅あたりの強さに換算した。
8.補強繊維の強度利用率(%):
補強繊維の原糸での強度S、シートの引張強さL1(N/30mm)、該シート30mm幅中の補強繊維の合計繊度D(dtex)をそれぞれ測定して、下記式により算出した。
式: [強度利用率(%)]={(L/D)/S}×100
【0035】
9.カール性 :
編地のカール性を、カールが少ないほど良好であるとして以下の基準で官能的に評価した。
極めて良好 ◎
良好 〇
やや不良 △
不良 ×
10.樹脂含浸性:
エポキシ樹脂(セメダイン社製、♯1500)とアミン系硬化剤の3対1の混合液を用いてシートに付着させた。付着量は、付着前のシートの質量に対して10質量%とした。樹脂硬化後に、シートの曲げ硬さを官能的に調べて、曲げ硬さが硬いほど含浸性が良好であるとして以下の基準で評価した。
極めて良好 ◎
良好 〇
やや不良 △
不良 ×
11.シート取り扱い性:
曲げ柔らかさおよび巻きつけ性を官能評価した。
極めて良好 ◎
良好 〇
やや不良 △
不良 ×
12.総合評価:
シートの特性値、樹脂含浸性、シート取り扱い性および編成性などから総合的に評価した。
極めて良好 ◎
良好 〇
やや不良 △
不良 ×
【0036】
[実施例1]
補強繊維群としては、ポリパラフェニレンテレフタールアミド繊維(東レ・デュポン株式会社製「“ケブラー”(登録商標)29」の繊度4900dtex(単繊維フィラメント繊度1.6dtex、強度18.9cN/dtex)のものにS撚り57回/mを施したものを補強繊維群の一単位として、2段挿入の経挿入で、2段の合計繊度が9800dtexとなるようにして用いた。被覆補助繊維としては、ポリエチレンテレフタレート繊維(東レ株式会社製「“テトロン”(登録商標)」)の繊度84dtex/単繊維フィラメント数24本のものを用いて表面と裏面の押さえ糸とした。
からみ補助繊維としては、ポリエチレンテレフタレート繊維(東レ株式会社製「“テトロン”(登録商標)」)の繊度56dtex/単繊維フィラメント数12本のものを用いて表面と裏面の押さえ糸を絡めるようにして用いた。
上記の被覆補助繊維、補助繊維および補強繊維群を、補強繊維群が2段の経挿入となるようにしてラッセル経編機に供給して、図1に示す袋状経編組織を構成し、表1に示す特性を有する補強繊維シートを得た。
なお、経編組織の設計条件としては、ウェール(W/25mm)28.0、コース(C/2.54cm)20、筬5とした。
【0037】
[実施例2]
補強繊維群として、ポリパラフェニレンテレフタールアミド繊維(東レ・デュポン株式会社製「“ケブラー”(登録商標)29」)の繊度3300dtex(単繊維フィラメント繊度1.6dtex、強度18.9cN/dtex)のものにS撚り71回/mを施したものを補強繊維群の一単位として、3段挿入の経挿入で、3段の合計繊度が9900dtexとなるようにして用いたこと、ならびに被覆補助繊維、補助繊維および補強繊維群を、補強繊維群が3段の経挿入となるようにしてラッセル経編機に供給したこと以外は、実施例1と同じにして、図1に示す袋状経編組織を構成し、表1に示す特性を有する補強繊維シートを得た。
【0038】
[実施例3]
被覆補助繊維として、ポリエチレン繊維を用いた実施例である。
被覆補助繊維として、ポリエチレン繊維(東洋紡株式会社製、「“ダイニーマ”(登録商標)」の56dtex/単繊維フィラメント数12本のものを用いたこと以外は、実施例2と同じことをして、図1に示す袋状経編組織を構成し、表1に示す特性を有する補強繊維シートを得た。
【0039】
[比較例1]
従来技術に相当する、補強繊維群を一単位の1段挿入とした比較例である。
補強繊維群として、ポリパラフェニレンテレフタールアミド繊維(東レ・デュポン株式会社製「“ケブラー”(登録商標)29」)の繊度9900dtex(単繊維フィラメント繊度1.6dtex、強度18.9cN/dtex)のものにS撚り40回/mを施したものを補強繊維群の一単位として、1段挿入の経挿入で用いたこと、被覆補助繊維、補助繊維および補強繊維群を、補強繊維群が1段の経挿入となるようにしてラッセル経編機に供給したことならびに設計条件において筬4としたこと以外は、実施例1と同じことをして、図1に示す袋状経編組織を構成し、表1に示す特性を有する補強繊維シートを得た。
【0040】
[実施例4,5]
補強繊維群における撚り数を変更した実施例である。
一単位の補強繊維群における撚り数をS撚り25回/m(実施例4)またはS撚り140回/m(実施例5)としたこと以外は、実施例2と同じことをして、図1に示す袋状経編組織を構成し、表1に示す特性を有する補強繊維シートを得た。
【0041】
上記実施例および比較例の補強繊維シートの特性を表1に示す。
【0042】
【表1】

【0043】
表1の結果が示すように、実施例1、2の補強繊維シートは、いずれも好ましい特性を有するものであった。特に、補強繊維群を多段挿入することにより、強度利用率は85%を超える好ましい値になった。これは、多段挿入することにより、細い補強繊維群を用いることができるのでガイドや筬などの屈曲部において単繊維フィラメント糸が揃いやすく強度利用率が上がることや、単繊維フィラメント糸間の糸長差が生じにくいので、糸切れや供給張力変動が少なく、工程通過性に優れるからである。
実施例3では、被覆補助繊維としてポリエチレン繊維を用いた例であるが、編地のカール性が小さく、ポリエチレンのパイプ補強を行うには融点がほぼ同じであって相融性が良いので好ましく用いることができる。
実施例4、5の補強繊維シートは、補強繊維の撚り数を変更したものであるが、撚り係数が小さくなる実施例4も、撚り係数が大きくなる実施例5も強度利用率の低下傾向が見られるので、実施例1〜3の方がより好ましいことがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の補強繊維シートの一例の拡大部分模式図であり、(A)はおもて面、(B)はうら面である。
【図2】本発明の繊維補強シートにおける補強繊維群の挿入形態を例示する拡大部分模式図(断面図)である。
【符号の説明】
【0045】
1 補強繊維群
2 被覆補助繊維
3 からみ被覆補助繊維

【特許請求の範囲】
【請求項1】
補強繊維からなる繊維群を一単位として、それが一方向に複数単位配列された繊維補強シートにおいて、該繊維群は、補強繊維が撚り合わされてなる補強繊維群であり、該繊維シートの表裏面には、各補強繊維群と交差する被覆補助繊維が各補強繊維群の長さ方向に配置され、かつ、被覆補助繊維は、からみ補助繊維により結束されて袋状経編組織を形成しており、上記補強繊維群は、該袋状経編組織に多段で経挿入されていることを特徴とする補強繊維シート。
【請求項2】
補強繊維群において、補強繊維は撚り係数Kが2000〜7000で撚り合わされている請求項1に記載の補強繊維シート。
ただしK=T×(DT)1/2
T :撚り合わせ数(回/m)
DT:撚り糸の総繊度(dtex)
【請求項3】
補強繊維群の配列密度が20〜200本/2.54cmである請求項1または2に記載の補強繊維シート。
【請求項4】
袋状経編組織の緯方向密度が片面あたり10〜150コース/2.54cmである請求項1〜3のいずれか1に記載の補強繊維シート。
【請求項5】
補助繊維の繊度が200dtex以下である請求項1〜4のいずれか1に記載の補強繊維シート。
【請求項6】
補助繊維の初期引張抵抗度が10〜200cN/dtexである請求項1〜5のいずれか1に記載の補強繊維シート。
【請求項7】
補助繊維がポリオレフィン系繊維である請求項1〜6のいずれか1に記載の補強繊維シート。
【請求項8】
補強繊維の引張強度が15〜60cN/dtex以上である請求項1〜7のいずれか1に記載の補強繊維シート。
【請求項9】
補強繊維群の繊度が1000〜50000dtexである請求項1〜8のいずれか1に記載の補強繊維シート。
【請求項10】
上記補強繊維が芳香族ポリアミド繊維である請求項1〜9のいずれか1に記載の補強繊維シート。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−7871(P2008−7871A)
【公開日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−177609(P2006−177609)
【出願日】平成18年6月28日(2006.6.28)
【出願人】(000219266)東レ・デュポン株式会社 (288)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】