説明

補強膜付き触媒層−電解質膜積層体、補強膜付き膜−電極接合体、及び固体高分子形燃料電池、並びにこれらの製造方法

【課題】イオン伝導性高分子電解質膜における厚さムラの発生を防止することができ、且つ生産性の高い補強膜付き触媒層−電解質膜積層体、補強膜付き膜−電極接合体、及び固体高分子形燃料電池、並びにこれらの製造方法を提供する。
【解決手段】イオン伝導性高分子電解質膜及び補強膜を準備する工程と、イオン伝導性高分子電解質膜の両面に触媒層を形成する工程と、補強膜において、一方面側から切断刃により切断することで、触媒層を露出させるための開口を中央部に形成する工程と、補強膜の一方面がイオン伝導性高分子電解質膜の少なくとも一方面に対向するよう補強膜を配置し、補強膜の他方面側から加圧することにより、イオン伝導性高分子電解質膜に補強膜を接着する工程と、を備える、補強膜付き触媒層−電解質膜積層体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、補強膜付き触媒層−電解質膜積層体、補強膜付き膜−電極接合体、及び固体高分子形燃料電池、並びにこれらの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、電解質の両面に電極が配置され、水素と酸素の電気化学反応により発電する電池であり、発電時に発生するのは水のみである。このように従来の内燃機関と異なり、二酸化炭素等の環境負荷ガスを発生しないために次世代のクリーンエネルギーシステムとして普及が見込まれている。その中でも特に固体高分子形燃料電池は、作動温度が低く、電解質の抵抗が少ないことに加え、活性の高い触媒を用いるので小型でも高出力を得ることができ、家庭用コージェネレーションシステム等として早期の実用化が見込まれている。
【0003】
固体高分子形燃料電池は、プロトン伝導性を有する固体高分子電解質膜を用い、この電解質膜の両面に触媒層及び導電性多孔質基材を順に積層している。そして、この触媒層及び導電性多孔質基材からなる電極の周囲を囲むようにガスケットを配置し、さらにこれをセパレータで挟んだ構造を有している。この固体高分子形燃料電池を発電させるために、一方の電極に水素などの燃料ガスが供給され、他方の電極に酸素などの酸化剤ガスが供給される。
【0004】
このような固体高分子形燃料電池においては、電解質膜の破損防止や有効利用等の観点から、電解質膜に補強膜が接着されることがある(例えば、特許文献1及び2参照)。この補強膜は、通常、打ち抜き等により中央部に開口が形成されるが、このとき、開口周縁部には凸部が発生する。この凸部が電解質膜に接触した状態で熱プレス等により補強膜と電解質膜とを接着させると、凸部分に圧力が集中し、電解質膜の厚さにムラが生じてしまう。この電解質膜における厚さムラの発生を防止するために、特許文献3には、補強膜の開口周縁部をレーザ処理や熱処理によりトリム加工して凸部を除去するものが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3052536号公報
【特許文献2】特開2004−47230号公報
【特許文献3】特開2010−129247号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上述したような固体高分子形燃料電池は、通常、数百セル単位でスタックされて利用されるため、全ての補強膜にレーザ処理や熱処理を施すと、その分時間や労力が余計に費やされることとなり、生産性が低いという問題があった。
【0007】
そこで、本発明は、イオン伝導性高分子電解質膜における厚さムラの発生を防止することができ、且つ生産性の高い補強膜付き触媒層−電解質膜積層体、補強膜付き膜−電極接合体、及び固体高分子形燃料電池、並びにこれらの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る補強膜付き触媒層−電解質膜積層体の製造方法は、上記課題を解決するためになされたものであり、イオン伝導性高分子電解質膜及び補強膜を準備する工程と、前記イオン伝導性高分子電解質膜の両面に触媒層を形成する工程と、前記補強膜において、一方面側から切断刃により切断することで、前記触媒層を露出させるための開口を中央部に形成する工程と、前記補強膜の一方面が前記イオン伝導性高分子電解質膜の少なくとも一方面に対向するよう前記補強膜を配置し、前記補強膜の他方面側から加圧することにより、前記イオン伝導性高分子電解質膜に前記補強膜を接着する工程と、を備えている。
【0009】
上記製造方法は、補強膜の一方面側から切断刃で切断することにより、補強膜に開口を形成する。このとき、補強膜において、他方面側では開口周縁部に凸部が形成されるが、一方面側では凸部は生じない。この補強膜は、凸部が生じていない一方面側がイオン伝導性高分子電解質膜に対向するようイオン伝導性高分子電解質膜上に配置され、他方面側から加圧されるため、凸部によってイオン伝導性高分子電解質膜にかかる圧力が不均一になることがなく、イオン伝導性高分子電解質膜に厚さムラが生じるのを防止することができる。また、補強膜の凸部の除去を行う必要がないため、生産性を向上させることもできる。なお、本発明において、電解質膜に触媒層を形成する工程と、電解質膜に補強膜を接着する工程との実施順は特に限定されるものではなく、どちらの工程を先に実施してもよい。
【0010】
上記製造方法において、補強膜の方がイオン伝導性高分子電解質膜よりもISO14577に基づくマルテンス硬度が小さいことが好ましい。この方法によれば、補強膜を加圧した際に、補強膜の変形がイオン伝導性高分子電解質膜より優先して起こり、イオン伝導性高分子電解質膜に圧さムラが生じるのを防止できる。なお、本発明における「ISO14577に基づくマルテンス硬度」とは、圧子に荷重をかけながら測定対象物に押し込むことにより求められる物性値であり、(試験荷重)/(試験荷重下での圧子の表面積)[N/mm2] として求められる。
【0011】
マルテンス硬度の測定は、例えば、超微小硬さ試験システム ピコデンターHM500(商品名、株式会社フィッシャー・インストルメンツ製)を用いて行うことが可能である。この測定装置は、四角錘の圧子、又は三角錘の圧子を、所定の比較的小さい試験荷重をかけながら測定対象物に押し込み、所定の押し込み深さに達した時点でその押し込み深さから圧子が接触している表面積を求め、上記式よりマルテンス硬度を求めるものである。つまり、定荷重測定条件で圧子を測定対象物に押し込んだ際に、押し込まれた深さに対するそのときの応力をマルテンス硬度として定義するものである。測定条件は測定対象物の表面から厚さ方向へ、一定荷重印加速度(10mN/mm2/sec)で四角錘形状圧子を深さ膜厚の1/10の深さまで押し込み、測定する。
【0012】
また、上記製造方法において、補強膜の開口内に触媒層全体を配置することもできるし、補強膜の開口周縁部を触媒層の外周縁部上に配置することもできる。補強膜の開口周縁部を触媒層の外周縁部上に配置する場合は、触媒層が補強膜とイオン伝導性高分子電解質膜との間で緩衝材の役割を果たすため、より確実にイオン伝導性高分子電解質膜の厚さムラを防止することができる。
【0013】
また、上記製造方法において、補強膜は、イオン伝導性高分子電解質膜に接着する接着層と、この接着層上に設けられる基材層とを有していてもよい。この基材層は、ガスリーク防止の観点から、燃料ガス及び酸化剤ガスの透過を防ぐガスバリア性を有することが好ましい。
【0014】
本発明に係る補強膜付き膜−電極接合体の製造方法は、上述したような補強膜付き触媒層−電解質膜積層体の製造方法と、前記触媒層上に導電性多孔質基材を形成する工程と、を備えている。なお、本発明において、触媒層上に導電性多孔質基材を形成する工程、及び電解質膜に補強膜を接着する工程の実施順は特に限定されるものではなく、どちらの工程を先に実施してもよい。
【0015】
上記製造方法において、補強膜の開口内に導電性多孔質基材全体を配置することもできるし、補強膜の開口周縁部を導電性多孔質基材の外周縁部上に配置することもできる。補強膜の開口周縁部を導電性多孔質基材の外周縁部上に配置する場合は、導電性多孔質基材が補強膜とイオン伝導性高分子電解質膜との間で緩衝材の役割を果たすため、より確実にイオン伝導性高分子電解質膜の厚さムラを防止することができる。
【0016】
本発明に係る固体高分子形燃料電池の製造方法は、上述したような補強膜付き膜−電極接合体の製造方法と、前記触媒層及び前記導電性多孔質基材を含む電極の周囲を囲うよう、前記補強膜上にガスケットを設ける工程と、前記電極及び前記ガスケット上にセパレータを設ける工程と、を備えている。
【0017】
本発明に係る補強膜付き触媒層−電解質膜積層体は、イオン伝導性高分子電解質膜と、前記イオン伝導性高分子電解質膜の両面に形成された触媒層と、一方面側から切断刃により切断することで形成された開口を中央部に有し、前記開口から前記触媒層を露出させるよう、前記一方面が前記イオン伝導性高分子電解質膜の少なくとも一方面に接着した補強膜と、を備え、前記補強膜は、前記切断刃により形成され他方面側に突出する凸部を前記開口の周縁部に有している。
【0018】
上記補強膜付き触媒層−電解質膜積層体の補強膜は、補強膜において、切断刃により開口を形成した際に生じた凸部がイオン伝導性高分子電解質膜と反対側の他方面にあるため、補強膜をイオン伝導性高分子電解質膜に加圧接着させた際、この凸部によってイオン伝導性高分子電解質膜にかかる圧力が不均一になることがない。このため、この補強膜付き触媒層−電解質膜積層体は、イオン伝導性高分子電解質膜に厚さムラが生じるのを防止することができ、また、凸部を除去する必要がないため、生産性を向上させることができる。
【0019】
上記補強膜付き触媒層−電解質膜積層体は、補強膜の開口内に触媒層全体が配置されていてもよいし、補強膜の開口周縁部が触媒層の外周縁部上に配置されていてもよい。補強膜の開口周縁部が触媒層の外周縁部上に配置されている場合は、触媒層が補強膜とイオン伝導性高分子電解質膜との間で緩衝材の役割を果たすため、より確実にイオン伝導性高分子電解質膜の厚さムラを防止することができる。
【0020】
また、上記補強膜付き触媒層−電解質膜積層体は、補強膜の方がイオン伝導性高分子電解質膜よりもISO14577に基づくマルテンス硬度が小さくなるよう構成することが好ましい。この構成によれば、イオン伝導性高分子電解質膜と補強膜とを加圧接着する際にイオン伝導性高分子電解質膜に掛かる圧力ムラがより緩和される。
【0021】
また、上記補強膜付き触媒層−電解質膜積層体において、補強膜は、イオン伝導性高分子電解質膜に接着する接着層と、この接着層上に設けられる基材層とを有していてもよい。この基材層は、ガスリーク防止の観点から、燃料ガス及び酸化剤ガスの透過を防ぐガスバリア性を有することが好ましい。
【0022】
本発明に係る補強膜付き膜−電極接合体は、上述したような補強膜付き触媒層−電解質膜積層体と、前記触媒層上に形成された導電性多孔質基材と、を備えている。
【0023】
上記補強膜付き膜−電極接合体は、補強膜の開口内に導電性多孔質基材全体が配置されていてもよいし、補強膜の開口周縁部が導電性多孔質基材の外周縁部上に配置されていてもよい。補強膜の開口周縁部が導電性多孔質基材の外周縁部上に配置されている場合は、導電性多孔質基材が補強膜とイオン伝導性高分子電解質膜との間で緩衝材の役割を果たすため、より確実にイオン伝導性高分子電解質膜の厚さムラを防止することができる。
【0024】
また、本発明に係る固体高分子形燃料電池は、上述したような補強膜付き膜−電極接合体と、前記触媒層及び前記導電性多孔質基材を含む電極の周囲を囲うよう、前記補強膜上に設けられたガスケットと、前記電極及び前記ガスケット上に設けられたセパレータと、を備えている。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、イオン伝導性高分子電解質膜における厚さムラの発生を防止し、且つ生産性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の一実施形態に係る固体高分子形燃料電池の正面断面図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る補強膜付き膜−電極接合体の正面断面図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る補強膜付き膜−電極接合体の部分拡大正面断面図である。
【図4】本発明の一実施形態に係る補強膜付き膜−電極接合体の平面図である。
【図5】本発明の一実施形態に係る固体高分子形燃料電池の製造方法を示す正面断面図である。
【図6】本発明の一実施形態に係る補強膜の製造方法を示す正面断面図である。
【図7】上記実施形態の変形例に係る補強膜付き触媒層−電解質膜積層体の正面断面図である。
【図8】上記実施形態の変形例に係る補強膜付き膜−電極接合体の正面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明に係る補強膜付き触媒層−電解質膜積層体、補強膜付き膜−電極接合体、及び固体高分子形燃料電池、並びにこれらの製造方法の実施形態について図面を参照しつつ説明する。
【0028】
本実施形態に係る固体高分子形燃料電池10は、図1に示すように、補強膜付き膜−電極接合体20と、ガスケット1と、セパレータ2とを備えている。補強膜付き膜−電極接合体20は、図2に示すように、イオン伝導性高分子電解質膜3、触媒層4、導電性多孔質基材5、及び補強膜7を備えている。なお、この補強膜付き膜−電極接合体20から導電性多孔質基材5を除いたものが、本発明の補強膜付き触媒層−電解質膜積層体30に相当する。
【0029】
補強膜付き膜−電極接合体20は、図2に示すように、イオン伝導性高分子電解質膜3の両面において、イオン伝導性高分子電解質膜3よりも一回り小さい触媒層4及び導電性多孔質基材5が順に積層されている。なお、触媒層4及び導電性多孔質基材5は各々イオン伝導性高分子電解質膜3と同じ大きさに形成してもよく、また、触媒層4と導電性多孔質基材5とを異なる大きさに形成することもできる。図3に示すように、触媒層4及び導電性多孔質基材5からなる電極6の外周縁からイオン伝導性高分子電解質膜3の外周縁までの距離Aは、0〜10mmであることが好ましい。イオン伝導性高分子電解質膜2の厚さは、通常20〜250μm程度、好ましくは20〜80μm程度である。触媒層3の厚さは、通常1〜200μm程度、好ましくは5〜100μm程度であり、導電性多孔質基材5の厚さは、通常50〜500μm程度、好ましくは100〜400μm程度である。
【0030】
図2及び図4に示すように、補強膜付き膜−電極接合体20は、中央部に開口71が形成された補強膜7を有している。補強膜7は、イオン伝導性高分子電解質膜3よりも一回り大きく形成されており、開口71から電極6が露出するようイオン伝導性高分子電解質膜3の両面に接着するとともに、イオン伝導性高分子電解質膜3の外側で外周縁部同士が互いに接着している。なお、図3に示すように、補強膜7の外周縁からイオン伝導性高分子電解質膜3の外周縁までの距離Bは、0〜150mmであることが好ましい。補強膜7の内周縁から電極6の外周縁までの距離Cは、5mm以下であることが好ましく、イオン伝導性高分子電解質膜3に対する負荷防止の観点から、補強膜7の内周縁と電極6の外周縁とが接触していることがより好ましい。また、図2に示すように、補強膜7は、外側面である第1面72において、外側に突出する凸部73が開口71の周縁部に形成されているが、この凸部73は後述するトムソン刃91により開口71を形成した際に生じたものである。
【0031】
図3に示すように、補強膜7は、燃料ガス及び酸化剤ガスの透過を防止する基材層74と、イオン伝導性高分子電解質膜3に接着する接着層75とを有している。この基材層74の膜厚は5〜500μmであることが好ましく、接着層75の膜厚は1〜500μmであることが好ましい。なお、接着層75のマルテンス硬度は、基材層74のマルテンス硬度、及びイオン伝導性高分子電解質膜3のマルテンス硬度よりも小さいことが好ましい。接着層75のマルテンス硬度が基材層74のマルテンス硬度よりも小さい場合、後述のトムソン刃91により開口71を作製する際、基材層74が接着層75の支えとなり、トムソン刃91の押し込み量を軽減し、結果的に凸部73の大きさを小さくすることができる。接着層75、基材層74、及びイオン伝導性高分子電解質膜3のマルテンス硬度は、例えば、超微小硬さ試験システム ピコデンターHM500(商品名、株式会社フィッシャー・インストルメンツ製)を用いて測定され、特に限定されるものではないが、例えば、接着層75のマルテンス硬度が0.1N/mm2〜50N/mm2であるのに対し、基材層のマルテンス硬度が20N/mm2〜200N/mm2、イオン伝導性高分子電解質膜3のマルテンス硬度は5N/mm2〜120N/mm2であることが好ましい。
【0032】
このような補強膜付き膜−電極接合体20の電極6を囲むように枠状のガスケット1が設けられ、ガスケット1及び電極6上にセパレータ2が設けられている(図1)。セパレータ2は、導電性多孔質基材5と対向する領域にガス流路21が形成されており、導電性多孔質基材5と電気的に接続されている。
【0033】
次に、上述したように構成された固体高分子形燃料電池10の各構成要素の材料について説明する。
【0034】
イオン伝導性高分子電解質膜3は、例えば、基材上に水素イオン伝導性高分子電解質を含有する溶液を塗工し、乾燥することにより形成される。水素イオン伝導性高分子電解質としては、例えば、パーフルオロスルホン酸系のフッ素イオン交換樹脂、より具体的には、炭化水素系イオン交換膜のC−H結合をフッ素で置換したパーフルオロカーボンスルホン酸系ポリマー(PFS系ポリマー)等が挙げられる。電気陰性度の高いフッ素原子を導入することで、化学的に非常に安定し、スルホン酸基の解離度が高く、高いイオン伝導性が実現できる。このような水素イオン伝導性高分子電解質の具体例としては、デュポン社製の「Nafion」(登録商標)、旭硝子(株)製の「Flemion」(登録商標)、旭化成(株)製の「Aciplex」(登録商標)、ゴア(Gore)社製の「Gore Select」(登録商標)等が挙げられる。水素イオン伝導性高分子電解質含有溶液中に含まれる水素イオン伝導性高分子電解質の濃度は、通常5〜60重量%程度、好ましくは20〜40重量%程度である。なお、上記の水素イオン伝導性高分子電解質膜以外には、アニオン導電性高分子イオン伝導性高分子電解質膜や液状物質含浸膜も挙げられる。アニオン伝導性イオン伝導性高分子電解質膜としては炭化水素系樹脂又はフッ素系樹脂等が挙げられ、具体的には、炭化水素系樹脂として、旭化成(株)製のAciplex(登録商標)A201,211,221や、トクヤマ(株)製のネオセプタ(登録商標)AM−1,AHA等が挙げられ、フッ素系樹脂として、東ソー(株)製のトスフレックス(登録商標)IE−SF34等が挙げられる。また液状物質含浸膜としては、例えば、ポリベンゾイミダゾール(PBI)等が挙げられる。
【0035】
触媒層4は、公知の白金含有の触媒層(カソード触媒及びアノード触媒)とすることができる。具体的には、触媒粒子を担持させた炭素粒子と、水素イオン伝導性高分子電解質とを含有する。水素イオン伝導性高分子電解質としては、上述したイオン伝導性高分子電解質膜3に使用されるものと同じ材料を使用することができる。
【0036】
触媒粒子としては、例えば、白金や白金化合物等が挙げられる。白金化合物としては、例えば、ルテニウム、パラジウム、ニッケル、モリブデン、イリジウム、鉄等からなる群から選ばれる少なくとも1種の金属と、白金との合金等が挙げられる。なお、通常は、カソード側の触媒層に含まれる触媒粒子は白金であり、アノード側の触媒層に含まれる触媒粒子は前記金属と白金との合金である。
【0037】
炭素粒子は、導電性を有しているものであれば限定的ではなく、公知又は市販のものを広く使用できる。例えば、カーボンブラックや、黒鉛、活性炭等を1種又は2種以上で用いることができる。カーボンブラックの例としては、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、ランプブラック等を挙げることができる。炭素粒子の算術平均粒子径は通常5nm〜200nm程度、好ましくは20〜80nm程度である。この炭素粒子の平均粒子径は、例えば、粒子径分布測定装置LA−920:(株)堀場製作所製等により測定できる。
【0038】
導電性多孔質基材5としては、公知であり、燃料極、空気極を構成する各種の導電性多孔質基材を使用することができる。導電性多孔質基材5は、燃料である燃料ガス及び酸化剤ガスを効率よく触媒層4に供給するため、多孔質の導電性基材からなり、多孔質の導電性基材としては、例えば、カーボンペーパーやカーボンクロス等が挙げられる。
【0039】
補強膜7は、基材層74及び接着層75から構成されているが、基材層74の材料としては、水蒸気、水、燃料ガス及び酸化剤ガスに対するバリア性を有するポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリメチルテンペン、ポリフェニレンオキサイド、ポリサルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンサルファイドなどを好ましく使用することができる。なお、ポリエステルとして、具体的には、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリブチレンナフタレート等を挙げることができる。
【0040】
接着層75の材料としては、ポリオレフィン系樹脂が好ましく、例えば、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、エチレン−α・オレフィン共重合体、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリイソブテン、ポエイソブチレン、ポリブタジエン、ポリイソプレン、エチレン−メタクリル酸共重合体、あるいはエチレン−アクリル酸共重合体等のエチレンと不飽和カルボン酸との共重合体、エチレン−アクリル酸エチル共重合体、アイオノマー樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体等を使用することができる。また、それらを変性した酸変性ポリオレフィン系樹脂、シラン変性ポリオレフィン系樹脂を使用することができ、その中でもポリプロピレンや高密度ポリエチレンを使用することが硬度の点で好ましい。
【0041】
ガスケット1としては、熱プレスに耐えうる強度を保ち、かつ、外部に燃料及び酸化剤を漏出しない程度のガスバリア性を有しているものを使用することができ、例えば、ポリエチレンテレフタレートシートやテフロン(登録商標)シート、シリコンゴムシート等が挙げられる。
【0042】
セパレータ2としては、公知であり、燃料電池内の環境においても安定な導電性板であればよく、一般的には、カーボン板にガス流路21を形成したものが用いられる。また、セパレータ2をステンレス等の金属により構成し、金属の表面にクロム、白金族金属又はその酸化物、導電性ポリマーなどの導電性材料からなる被膜を形成したものや、同様にセパレータを金属によって構成し、この金属の表面に銀、白金族の複合酸化物、窒化クロム等の材料によるメッキ処理を施したもの等も使用可能である。
【0043】
次に、上述したように構成された固体高分子形燃料電池10の製造方法について説明する。
【0044】
まず、図5(a)及び(b)に示すように、上述した材料からなるイオン伝導性高分子電解質膜3を準備し、このイオン伝導性高分子電解質膜3の両面に触媒層4を形成する。この触媒層4は、例えば、塗布や転写等、種々の方法により形成することができるが、本実施形態では、後述する触媒層形成用転写シート8による転写で形成する。
【0045】
ここで、触媒層形成用転写シート8の製造方法について説明する。まず、上述した触媒粒子を担持させた炭素粒子及び水素イオン伝導性高分子電解質を適当な分散媒に混合、分散して触媒層形成用組成物を作製する。そして、所望の膜厚の触媒層4が形成されるよう、必要に応じて離型層を介し、この触媒層形成用組成物を転写用基材81上に塗工する。なお、触媒層形成用組成物の塗工方法としては、スクリーン印刷や、スプレーコーティング、ダイコーティング、ナイフコーティング等の公知の塗工方法を挙げることができる。触媒層形成用組成物を塗工した後、所定の温度及び時間で乾燥することにより転写用基材81上に触媒層4が形成される。乾燥温度は、通常40〜100℃程度、好ましくは60〜80℃程度であり、乾燥時間は、乾燥温度にもよるが、通常5分〜2時間程度、好ましくは10分〜1時間程度である。
【0046】
触媒層形成用組成物に使用される分散媒としては、各種アルコール類、各種エーテル類、各種ジアルキルスルホキシド類、水又はこれらの混合物等が挙げられ、これらの中でもアルコール類が好ましい。アルコール類としては、例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、tert−ブタノール等の炭素数1〜4の一価アルコールや、各種の多価アルコール等が挙げられる。
【0047】
転写用基材81としては、例えば、ポリイミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリパルバン酸アラミド、ポリアミド(ナイロン)、ポリサルホン、ポリエーテルサルホン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテル・エーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリアリレート、ポリエチレンナフタレート等の高分子フィルム等を挙げることができる。また、エチレンテトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロパーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等の耐熱性フッ素樹脂を用いることもできる。さらに、転写用基材81は、高分子フィルム以外にアート紙、コート紙、軽量コート紙等の塗工紙、ノート用紙、コピー用紙などの非塗工紙であっても良い。転写用基材81の厚さは、取り扱い性及び経済性の観点から、通常6〜100μm程度、好ましくは10〜30μm程度とするのがよい。従って、転写用基材81としては、安価で入手が容易な高分子フィルムが好ましく、ポリエチレンテレフタレート等がより好ましい。
【0048】
図5に戻って固体高分子形燃料電池10の製造方法の説明を続ける。図5(a)に示すように、触媒層4がイオン伝導性高分子電解質膜3に対向するよう、触媒層形成用転写シート8をイオン伝導性高分子電解質膜3の両面に配置する。次に、触媒層形成用転写シート8の背面側から熱プレスを施すことで触媒層4をイオン伝導性高分子電解質膜3に転写する。そして、図5(b)に示すように、イオン伝導性高分子電解質膜3及び触媒層4から転写用基材81を剥離することにより、イオン伝導性高分子電解質膜3に触媒層4が形成される。なお、イオン伝導性高分子電解質膜3において、作業性の観点からは両面同時に触媒層4を形成することが好ましいが、片面ずつ触媒層4を形成することもできる。また、転写不良を避けるために、熱プレスの加圧レベルは、通常0.5〜20MPa程度、好ましくは1〜10MPa程度であり、加圧に際して加圧面が加熱されることが好ましい。加熱温度は、イオン伝導性高分子電解質膜3の破損や変形等を避けるために、通常200℃以下、好ましくは150℃以下とするのがよい。
【0049】
次に、図5(c)に示すように、イオン伝導性高分子電解質膜3に補強膜7を接着する。ここで、補強膜7の製造方法について説明すると、まず、上述した材料からなるシート状の基材層74を準備する。次に、上述した接着層75の材料を溶融させ、これを溶融押し出し法により基材層74上に押し出すことで、基材層74及び接着層75を有する補強膜前駆体を形成する。その後、図6(a)に示すような切断器具9によりこの補強膜前駆体の中央部に開口71を形成することで、補強膜7が完成する。
【0050】
切断器具9は、図6(a)に示すように、補強膜前駆体を打ち抜くためのトムソン刃(切断刃)91、及び補強膜前駆体を支持するための支持板92を備えている。トムソン刃91は、金属製であり、平面視が四角形の枠状に形成され、内側垂直面911及び外側傾斜面912を有している。また、トムソン刃91の内側には、例えば、スポンジやゴムといった弾性収縮可能な多孔質体93が充填されている。支持板92の材料としては、例えば、樹脂、金属、又はセラミックス等が挙げられるが、打ち抜き性の観点からは樹脂が好ましい。
【0051】
このような切断器具9において、接着層75が下になるよう補強膜前駆体をトムソン刃91及び多孔質体93上に載置し、これらの上方に支持板92を固定する(図6(a))。この状態でトムソン刃91及び多孔質体93を上方に移動させると、補強膜前駆体の中央部が接着層75側から打ち抜かれて開口71が形成され、補強膜7が完成する(図6(b))。このとき、補強膜7の第1面72における開口71の周縁部には、一般的にバリと呼ばれる凸部73が形成される。なお、補強膜前駆体は、打ち抜きに際し、上面が支持板92に支持されるとともに下面が多孔質体93に接触することで過剰変形が抑制される。
【0052】
図5に戻って固体高分子形燃料電池10の製造方法の説明を続ける。上述したようにして作製された補強膜7を、凸部73が形成された第1面72が外側に向くとともに開口71から触媒層4が露出するよう、イオン伝導性高分子電解質膜3の両面上に配置する(図5(c))。そして、この補強膜7の第1面72側から熱プレスを施すことで補強膜7をイオン伝導性高分子電解質膜3に接着させると、補強膜付き触媒層−電解質膜積層体30が完成する。なお、イオン伝導性高分子電解質膜3において、作業性の観点からは両面同時に補強膜7を接着させることが好ましいが、片面ずつ補強膜7を接着させてもよい。また、熱プレスの加圧レベルは、通常0.5〜20MPa程度、好ましくは1〜10MPa程度であり、接着性向上の観点から、加圧に際して加圧面が加熱されることが好ましい。加熱温度は、イオン伝導性高分子電解質膜3の破損や変形等を避けるために、通常200℃以下、好ましくは150℃以下とするのがよい。
【0053】
そして、図5(d)に示すように、補強膜7の開口71内の触媒層4上に導電性多孔質基材5を配置し、この導電性多孔質基材5を触媒層4に熱圧着すると補強膜付き膜−電極接合体20が完成する。
【0054】
その後、図5(e)に示すように、触媒層4及び導電性多孔質基材5からなる電極6の周囲を囲うよう、ガスケット1を補強膜7上に配置する。そして、ガス流路21が導電性多孔質基材5と対向するよう、セパレータ2を導電性多孔質基材5及びガスケット1上に配置し、セパレータ2と導電性多孔質基材5とを電気的に接続させることにより、固体高分子形燃料電池10が完成する。
【0055】
以上のように、上記実施形態においては、補強膜7は、トムソン刃91により第1面72に凸部73が形成されるが、この第1面72が外側を向くようにイオン伝導性高分子電解質膜3上に配置される。このため、補強膜7をイオン伝導性高分子電解質膜3に加圧接着する際、凸部73によってイオン伝導性高分子電解質膜3にかかる圧力が不均一になることがなく、イオン伝導性高分子電解質膜3に厚さムラが生じるのを防止することができる。また、補強膜7から凸部73を除去する必要がないため、生産性を向上させることができ、さらに、製造コストを削減することもできる。
【0056】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。例えば、上記実施形態では、補強膜付き触媒層−電解質膜積層体30における補強膜7の開口71内に触媒層4が形成されていたが、図7における補強膜付き触媒層−電解質膜積層体300のように、開口71の周縁部を触媒層4の外周縁部上に配置することもできる。また、上記実施形態では、補強膜付き膜−電極接合体20における補強膜7の開口71内に導電性多孔質基材5が形成されていたが、図8における補強膜付き膜−電極接合体200のように、開口71の周縁部が導電性多孔質基材5の外周縁部上に配置することもできる。
【0057】
また、上記実施形態においては、イオン伝導性高分子電解質膜3上に触媒層4を形成した後、イオン伝導性高分子電解質膜3に補強膜7を接着していたが、各工程の実施順は特に限定されるものではなく、例えば、イオン伝導性高分子電解質膜3に補強膜7を接着した後に触媒層4を形成してもよい。また、上記実施形態では、イオン伝導性高分子電解質膜3に補強膜7を接着した後に導電性多孔質基材5を形成していたが、導電性多孔質基材5の形成後に補強膜7をイオン伝導性高分子電解質膜3に接着することもできる。
【0058】
また、上記実施形態においては、補強膜7は、イオン伝導性高分子電解質膜3の両面に接着していたが、イオン伝導性高分子電解質膜3の片面にのみ接着していてもよい。
【0059】
また、上記実施形態においては、熱プレスによって補強膜7をイオン伝導性高分子電解質膜3に接着させていたが、補強膜7をイオン伝導性高分子電解質膜3に接着させる際、少なくとも補強膜7が加圧されればよく、必ずしも加圧面を加熱する必要はない。
【0060】
また、上記実施形態においては、トムソン刃91による打ち抜きで補強膜7の開口71を形成していたが、切断刃による切断であれば特に限定されず、例えば、エッチング刃を用いた打ち抜き、レザー刃、シェア刃、又はスコア刃等を用いたスリット等により補強膜に開口を形成することもできる。
【0061】
また、上記実施形態においては、補強膜7は、接着層75及び基材層74の二層から構成されていたが、三層以上で構成されていてもよく、例えば、上記実施形態の接着層75及び基材層74上に、ガスケット1に接着するための接着層をさらに積層してもよい。また、補強膜7は単層構成としてもよく、この場合は、上述した基材層74と同様の材料、又は接着層75と同様の材料を用いることができる。なお、補強膜7が単層の場合、補強膜7とイオン伝導性高分子電解質膜3とを接着させるために、例えば、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン樹脂等を含む公知又は市販の接着剤を使用してもよい。
【0062】
また、上記実施形態においては、イオン伝導性高分子電解質膜3、触媒層4、導電性多孔質基材5、補強膜7、及び開口71等の各構成要素は全て平面視矩形状となっていたが、例えば、平面視円形状等、種々の形状に形成することができる。
【実施例1】
【0063】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0064】
(実施例1)
まず、触媒層形成用転写シート8を次の要領で作製した。白金触媒担持カーボン(白金担持量:45.7wt%、田中貴金属社製、TEC10E50E)2gに、1−ブタノール10g、3−ブタノール10g、フッ素樹脂(5wt%ナフィオンバインダー、デュポン社製)20g及び水6gを加え、これらを分散機にて攪拌混合することにより、触媒層形成用組成物を調製した。そして、転写用基材81としてポリエステルフィルム(東レ製、X44、膜厚25μm)を準備し、この転写用基材81上に触媒層形成用組成物を塗布して乾燥させ、これを50×50mmの大きさに切断した。
【0065】
次に、イオン伝導性高分子電解質膜3として、63×63mmの大きさに切断された膜厚53μmのNRE212CS(Dupont社製)を準備し、このイオン伝導性高分子電解質膜3に触媒層4が対向するよう、上述した触媒層形成用転写シート8をイオン伝導性高分子電解質膜3の両面に中心を合わせて配置した。そして、135℃、5.0MPa、150秒の条件で熱プレスすることで、イオン伝導性高分子電解質膜3の両面に触媒層4を形成し、触媒層−電解質膜積層体を作製した。なお、触媒層4の厚さは20μmである。
【0066】
続いて、補強膜7を次の要領で作製した。まず、基材層74として二軸延伸ポリエチレンナフタレート(帝人社製、テオネックス、膜厚12μm)を準備し、この基材層74上に、溶融させた状態の不飽和カルボン酸グラフト変性ポリプロピレン(住友化学製 アドマー 『SF−741』)を30μmの厚さで押し出して接着層75を形成し、補強膜前駆体とした。そして、全体の大きさが80×80mmとなるとともに中央部に52×52mmの大きさの開口71が形成されるよう、この補強膜前駆体を接着層75側から基材層74側に向かってトムソン刃で打ち抜いて補強膜7を作製した。
【0067】
この補強膜7を、接着層75がイオン伝導性高分子電解質膜3に対向するよう、上述した触媒層−電解質膜積層体の両面に中心を合わせて配置した。そして、130℃、1.0MPa、30秒の条件で熱プレスすることで補強膜7を触媒層−電解質膜積層体に接着させ、補強膜付き触媒層−電解質膜積層体30を作製した。
【0068】
次に、補強膜7の開口71から露出している触媒層4上に、49×49mmの大きさに切断されたカーボンペーパー(東レ社製、TGP−H−090、厚さ280μm)を導電性多孔質基材5として積層し、補強膜付き膜−電極接合体20を形成した。さらに、この補強膜付き膜−電極接合体20にガスケット1及びセパレータ2を設置して固体高分子形燃料電池10を作製した。
【0069】
(実施例2)
イオン伝導性高分子電解質膜3にFumapemA((フマテック製)を使用した以外は実施例1と同様の方法で固体高分子形燃料電池10を作製した。
【0070】
(比較例1)
補強膜の作製方法以外は上記実施例と同様の方法で固体高分子形燃料電池を作製した。比較例の補強膜は、上記実施例と同様の方法で補強膜前駆体を作製し、この補強膜前駆体を基材層74側から樹脂層75側から打ち抜くことにより作製された。
【0071】
(硬度測定)
上記実施例1、2、及び比較例で使用したイオン伝導性高分子電解質膜3と接着層75の硬度を、超微小硬さ試験システム ピコデンターHM500(商品名、株式会社フィッシャー・インストルメンツ製)を用いて測定した。測定条件は25℃の室内環境で表面から垂直方向へ、一定荷重印加速度(10mN/mm2/sec)で四角錘形状圧子を深さ膜厚の1/10の深さまで押し込み、測定した。
【0072】
【表1】

【0073】
(評価方法)
上記実施例1、2及び比較例1で作製した各固体高分子形燃料電池に対し、負荷変動サイクル試験を実施した。測定条件は、セル温度80℃、燃料利用率70%、酸化剤利用率40%、加湿温度50℃とし、200時間後及び1000時間後のイオン伝導性高分子電解質膜の破損を目視で確認した。その結果、比較例1ではイオン伝導性高分子電解質膜の破損が確認されたのに対し、実施例1及び2では、イオン伝導性高分子電解質膜の破損は無く、耐久性が向上していることが確認された(表2)。
【0074】
また、上記実施例1、2及び比較例1における各イオン伝導性高分子電解質膜の膜厚を測定した。その結果、比較例1は、イオン伝導性高分子電解質膜において、補強膜の開口周縁部に接触する部分の膜厚が、それ以外の部分の膜厚に対し大きく変化していた。一方、実施例1及び2は、イオン伝導性高分子電解質膜において、補強膜の開口周縁部に接触する部分の膜厚と、それ以外の部分の膜厚との差が、比較例と比べて小さく、厚さムラが生じていないことを確認することができた(表2)。
【0075】
【表2】

【符号の説明】
【0076】
10 固体高分子形燃料電池
20、200 補強膜付き膜−電極接合体
30、300 補強膜付き触媒層−電解質膜積層体
1 ガスケット
2 セパレータ
3 イオン伝導性高分子電解質膜
4 触媒層
5 導電性多孔質基材
6 電極
7 補強膜
71 開口
74 基材層
75 接着層
73 凸部
91 トムソン刃(切断刃)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン伝導性高分子電解質膜及び補強膜を準備する工程と、
前記イオン伝導性高分子電解質膜の両面に触媒層を形成する工程と、
前記補強膜において、一方面側から切断刃により切断することで、前記触媒層を露出させるための開口を中央部に形成する工程と、
前記補強膜の一方面が前記イオン伝導性高分子電解質膜の少なくとも一方面に対向するよう前記補強膜を配置し、前記補強膜の他方面側から加圧することにより、前記イオン伝導性高分子電解質膜に前記補強膜を接着する工程と、
を備える、補強膜付き触媒層−電解質膜積層体の製造方法。
【請求項2】
前記補強膜は、前記イオン伝導性高分子電解質膜よりもISO14577に基づくマルテンス硬度が小さい、請求項1に記載の補強膜付き触媒層−電解質膜積層体の製造方法。
【請求項3】
前記補強膜の開口周縁部が前記触媒層の外周縁部上に配置される、請求項1又は2に記載の補強膜付き触媒層−電解質膜積層体の製造方法。
【請求項4】
前記補強膜は、前記イオン伝導性高分子電解質膜に接着する接着層、及び前記接着層上に設けられる基材層を有する、請求項1〜3のいずれかに記載の補強膜付き触媒層−電解質膜積層体の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の補強膜付き触媒層−電解質膜積層体の製造方法と、
前記触媒層上に導電性多孔質基材を形成する工程と、
を備える、補強膜付き膜−電極接合体の製造方法。
【請求項6】
前記補強膜の開口周縁部が前記導電性多孔質基材の外周縁部上に配置される、請求項5に記載の補強膜付き膜−電極接合体の製造方法。
【請求項7】
請求項5又は6に記載の補強膜付き膜−電極接合体の製造方法と、
前記触媒層及び前記導電性多孔質基材を含む電極の周囲を囲うよう、前記補強膜上にガスケットを設ける工程と、
前記電極及び前記ガスケット上にセパレータを設ける工程と、
を備える、固体高分子形燃料電池の製造方法。
【請求項8】
イオン伝導性高分子電解質膜と、
前記イオン伝導性高分子電解質膜の両面に形成された触媒層と、
一方面側から切断刃により切断することで形成された開口を中央部に有し、前記開口から前記触媒層を露出させるよう、前記一方面が前記イオン伝導性高分子電解質膜の少なくとも一方面に接着した補強膜と、
を備え、
前記補強膜は、前記開口の周縁部に、前記切断刃により形成され他方面側に突出する凸部を有する、補強膜付き触媒層−電解質膜積層体。
【請求項9】
前記補強膜は、前記イオン伝導性高分子電解質膜よりもISO14577に基づくマルテンス硬度が小さい、請求項8に記載の補強膜付き触媒層−電解質膜積層体。
【請求項10】
前記補強膜は、前記開口の周縁部が前記触媒層の外周縁部上に配置されている、請求項8又は9に記載の補強膜付き触媒層−電解質膜積層体。
【請求項11】
前記補強膜は、前記イオン伝導性高分子電解質膜に接着する接着層、及び前記接着層上に設けられる基材層を有する、請求項8〜10のいずれかに記載の補強膜付き触媒層−電解質膜積層体。
【請求項12】
請求項8〜11のいずれかに記載の補強膜付き触媒層−電解質膜積層体と、
前記触媒層上に形成された導電性多孔質基材と、
を備える、補強膜付き膜−電極接合体。
【請求項13】
前記補強膜は、前記開口の周縁部が前記導電性多孔質基材の外周縁部上に配置されている、請求項12に記載の補強膜付き膜−電極接合体。
【請求項14】
請求項12又は13に記載の補強膜付き膜−電極接合体と、
前記触媒層及び前記導電性多孔質基材を含む電極の周囲を囲うよう、前記補強膜上に設けられたガスケットと、
前記電極及び前記ガスケット上に設けられたセパレータと、
を備える、固体高分子形燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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