補強金具
【課題】既設管の接続箇所に取り付けることにより離脱防止機能を発揮し、しかも抜止め部材の爪部の接触領域を増やして離脱防止力を向上できる補強金具を提供すること。
【解決手段】既設管の接続箇所に取り付けられ、その受口挿口間での抜け出しを防止するように構成された補強金具10において、周方向の複数箇所に分割部15を有し、挿口に外嵌装着される外嵌部材11と、受口に係合可能な係合部12と、挿口の外周面に食い込み可能な爪部14を有し、周方向の複数箇所に配設された抜止め部材13とを備え、分割部15の両分割面15a,15bから爪部14が突出するとともに、分割部15を閉じた状態では、その突出した爪部14同士が管軸方向に重なるように配置される。
【解決手段】既設管の接続箇所に取り付けられ、その受口挿口間での抜け出しを防止するように構成された補強金具10において、周方向の複数箇所に分割部15を有し、挿口に外嵌装着される外嵌部材11と、受口に係合可能な係合部12と、挿口の外周面に食い込み可能な爪部14を有し、周方向の複数箇所に配設された抜止め部材13とを備え、分割部15の両分割面15a,15bから爪部14が突出するとともに、分割部15を閉じた状態では、その突出した爪部14同士が管軸方向に重なるように配置される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、補強金具に関し、詳しくは、土中埋設水道管などの既設管の接続箇所に取り付けて離脱防止力を高める補強金具に関する。
【背景技術】
【0002】
土中埋設水道管などの既設管の接続箇所では、一方の管の端部に形成された受口に、他方の管の端部に形成された挿口を挿入し、その受口挿口間をシール材によって密封した管継手が採用されている。この種の管継手のうち、或るものは受口挿口間での抜け出しを防止するための機構を備えた離脱防止管継手として構成され、また或るものはそのような機構を備えない管継手として構成されている。離脱防止管継手の中には、受口挿口間に所定範囲での伸縮機能を付与した耐震管継手も含まれる。
【0003】
地震などの不測の事態に備えて、既設管の接続箇所の全てに離脱防止管継手を採用することが理想的であり、一部の既設管では離脱防止管継手への取り替えが進められている。しかし、既設管を離脱防止管継手に取り替える作業は容易ではなく、短期間で数多くの既設管を取り替えることは、技術的にも経済的にも困難であり現実的ではない。そこで、従来、既設管の接続箇所に取り付けることにより、離脱防止機能を発揮できるようにした補強金具が提案されている。
【0004】
例えば下記特許文献1には、受口から挿口にわたって外嵌される筒状のハウジングと、そのハウジングの一端を受口に係合させる第1の部材と、ハウジングの他端を挿口に係合させる第2の部材とを備えた補強金具が記載されている。この補強金具は割り構造を有し、ハウジングが周方向に二分割されている。また、第2の部材としての抜止め部材(ロック部材)は、周方向に一つ割りであるか、或いは周方向に沿って複数に分割されているが、既設管に取り付けるためには、抜止め部材の構造は後者のタイプでなければならない。
【0005】
かかる補強金具は、受口挿口間に抜け出し力が作用すると、抜止め部材の爪部(刃部)が挿口の外周面に食い込んで、離脱を防止するように構成されている。ところが、抜止め部材が周方向に沿って複数に分割されていると、挿口の外周面に対する爪部の接触領域が断続的に形成されるため、接触領域間に形成された非接触領域にて応力集中が起こり、管内のライニング層にクラックを生じることがある。また、そのような非接触領域では離脱防止力が発現されないことから、地震などに起因した強大な外力に対して離脱を防止するには、これを更に改善する余地があった。
【0006】
これに対し、本出願人による下記特許文献2では、抜止め部材の爪部同士を管軸方向に重ねて配置することにより、優れた離脱防止効果を発揮しうる管継手の離脱防止装置が提案されている。上述したような割り構造を有する補強金具においても、受口挿口間での離脱防止力を高める観点から、上記離脱防止装置のように爪部の接触領域が連続的に形成される構造を採用することが望ましいものの、それに適した具体的な構造は知られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平10−122466号公報
【特許文献2】特開2008−309186号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、既設管の接続箇所に取り付けることにより離脱防止機能を発揮し、しかも抜止め部材の爪部の接触領域を増やして離脱防止力を向上できる補強金具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的は、下記の如き本発明により達成できる。即ち、本発明に係る補強金具は、互いに接続される一方の管の端部に形成された受口に、他方の管の端部に形成された挿口を挿入してなる既設管の接続箇所に取り付けられ、その受口挿口間での抜け出しを防止するように構成された補強金具において、周方向の複数箇所に分割部を有し、前記挿口に外嵌装着される外嵌部材と、前記受口に係合可能な係合部と、前記挿口の外周面に食い込み可能な爪部を有し、周方向の複数箇所に配設された抜止め部材とを備え、前記分割部の両分割面から前記爪部が突出するとともに、前記分割部を閉じた状態では、その突出した前記爪部同士が管軸方向に重なるように配置されるものである。
【0010】
本発明に係る補強金具は、上記の如き構成を備えるため、既設管の接続箇所に取り付けることで離脱防止機能を発揮することができる。それでいて、分割部を閉じた状態では、分割部の両分割面から突出した抜止め部材の爪部同士が管軸方向に重なるように配置されるため、分割部においても爪部の接触領域を周方向に連続させることができる。その結果、抜止め部材の爪部の接触領域を増やし、それにより離脱防止力を向上することができる。
【0011】
本発明では、前記挿口の周方向全域に前記爪部の接触領域を形成可能に構成されたものが好ましい。かかる構成によれば、爪部の非接触領域が形成される余地が無く、分割部の近傍を含めた周方向の全域にわたって爪部の接触領域が形成されるため、離脱防止力を効果的に向上することができる。
【0012】
本発明では、前記両分割面の間に隙間を設けて前記分割部を閉じた状態にて、その両分割面から突出した前記爪部同士が管軸方向に重なるように配置されるものが好ましい。これにより、分割部において爪部の接触領域を連続させ易くなり、挿口の外径のバラツキにも対応することができる。また、本発明の一態様として、分割部に取り付けた締結具の締め付けによって爪部を食い込ませる構成が考えられるが、その場合には両分割面の間に隙間を設ける必要があるため、上記の構成が特に有用となる。
【0013】
本発明では、前記分割部に、締結具を挿通するための挿通孔と、前記分割部を閉じたときに径方向外側に向かって互いから遠ざかる方向に延びる一対の当接面とを有するフランジが設けられ、前記一対の当接面を互いに当接させることで前記分割部をV字状に開けるように構成されているものが好ましい。
【0014】
補強金具の取り付け作業では、作業者の負担軽減と施工時間の短縮を図るうえで、外嵌部材を構成する複数の分割片を予め仮組みし、それを挿口に外嵌装着することが好適である。上記構成によれば、フランジの当接面同士を当接させて分割部をV字状に開けることから、仮組みによる取り付け作業を安定して簡便に行うことができる。また、本発明では、分割部の両分割面から爪部が突出するため、施工時における爪部同士の干渉を回避する観点からも、かかる構成が有用である。
【0015】
上記において、前記挿通孔が長穴状に形成されており、前記挿通孔に前記締結具を挿通した状態で、前記一対の当接面を互いに当接させて前記分割部をV字状に開くことが可能に構成されたものが好ましい。かかる構成によれば、フランジの挿通孔に締結具を挿通した状態でありながら、一対の当接面を互いに当接させて分割部をV字状に開けるため、上述した仮組みによる施工性の改善効果がより適切に得られる。
【0016】
本発明では、前記抜止め部材の内周面に周方向に延びる複数本の前記爪部が形成されていて、その内の少なくとも1本の前記爪部が、他の前記爪部に対して管軸方向に間隔を設けて且つ両端部の周方向位置をずらして配置されているものが好ましい。かかる構成によれば、挿口の外周面に対する爪部の食い込み作用を安定して発揮でき、そのうえ、周方向に隣り合う抜止め部材の間において、それらの爪部を管軸方向に互いに重なるように適切に配置することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の第1実施形態に係る補強金具を既設管の接続箇所に取り付けた状態を示す側面図
【図2】図1の補強金具を管軸方向に沿って見た図
【図3】図1に示す補強金具の縦断面図
【図4】補強金具を取り付ける前の状態を示す図
【図5】抜止め部材を内周側から見た展開図
【図6】抜止め部材に押圧部材としての押ボルトを設けたときの断面図
【図7】本発明の第2実施形態に係る補強金具を管軸方向に沿って見た図
【図8】図7の補強金具の分割部に設けたフランジの側面図
【図9】仮組みした補強金具を吊るし上げた様子を示す図
【図10】本発明の別実施形態を示す半断面図
【図11】本発明の別実施形態に係る補強金具の要部断面図
【図12】本発明の別実施形態に係る抜止め部材を内周側から見た展開図
【図13】本発明の別実施形態に係る抜止め部材を内周側から見た展開図
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
【0019】
[第1実施形態]
図1は、既設管としての流体管P1,P2の接続箇所に、本発明の第1実施形態に係る補強金具10を取り付けた状態を示す側面図である。この接続箇所では、互いに接続される一方の管P1の端部に形成された受口1に、他方の管P2の端部に形成された挿口2が挿入され、その受口挿口間での抜け出しを補強金具10により防止している。本実施形態の流体管P1,P2は、土中に埋設されるダクタイル鋳鉄製の水道管であるが、ガス管やプラント用配管等の他の流体管であっても構わない。
【0020】
図2は、その補強金具10を管軸方向に沿って図1の左方向から見た図である。図3は、補強金具10の縦断面図であり、図2のA−A断面に相当する。挿口2に外嵌された押輪4は、環状のシール材3を管軸方向から押圧して圧縮している。これにより受口1の内周面と挿口2の外周面との間が密封され、管P1と管P2とが水密に接続される。受口1のフランジ1aと押輪4のフランジ4aにはT頭ボルト41が挿通され、そのボルト41に螺合したナット42を締め付けることにより、押輪4がシール材3を圧縮した状態で受口1に接続固定される。
【0021】
補強金具10は、流体管P1,P2の接続箇所に取り付けられ、受口挿口間での抜け出しを防止するように構成されている。補強金具10は、周方向の複数箇所に分割部15を有し、挿口2に外嵌装着される外嵌部材11と、外嵌部材11から管軸方向に延びて受口1の外周側に達し、受口挿口間に抜け出し力が作用したときに受口1に係合可能な係合部12と、挿口2の外周面に食い込み可能な爪部14を有し、外嵌部材11の内周側にて周方向の複数箇所に配設された抜止め部材13とを備える。
【0022】
補強金具10は、管P1,P2の接続箇所に取り付け可能な割り構造を有する。本実施形態では、外嵌部材11が周方向の二箇所に分割部15を有し、図4に示すような二つの分割片11A,11Bにより構成されている。分割部15に設けられたフランジ16には、それぞれボルトとナットからなる締結具17を挿通するための挿通孔16aが形成されており、この締結具17の締結操作により外嵌部材11の締め付け具合を調整することができる。
【0023】
かかる構成により、管P1,P2の接続箇所を取り外すことなく、そのままの状態で補強金具10を外嵌装着できるため、既設管への取り付け作業が極めて容易に行える。本発明では、外嵌部材11が三つ以上の分割部を有するものでもよい。また、本実施形態では、分割部15の各々に二つの締結具17(図1参照)が設けられているが、締結具の数は用途やサイズ等に鑑みた必要強度に応じて適宜に変更できる。
【0024】
係合部12は、受口1のフランジ1aの背面に入り込んだフック形状を有し、受口挿口間に抜け出し力が作用したときには、これが受口1のフランジ1aに引っ掛かって係合する。図3の状態では、係合部12の先端とフランジ1aの背面との間に伸縮代dを設けているが、これを延長又は短縮してもよく、或いは無しにしても構わない。伸縮代dを設けた場合には、受口挿口間に伸縮機能を付与して耐震性能を高めることができる。本実施形態では、係合部12が周方向の四箇所に設けられているが、係合部の数や周方向の長さは特に制限されない。
【0025】
外嵌部材11の内周面には、挿口2に向かって開口する環状溝5が設けられており、その内部に複数の抜止め部材13が収容されている。このように複数の抜止め部材13を環状溝5に一括して収容することにより、個別に収容する場合に比べて構造を簡素化できる。抜止め部材13の爪部14は、挿口2の外周面に沿って湾曲しながら周方向に延び、断面三角形状に形成されている。本実施形態では、抜止め部材13が周方向の六箇所に、各分割片11A,11Bに三つずつ配設されているが、抜止め部材の数や周方向の長さは特に制限されない。
【0026】
抜止め部材13の外側面には、受口1に向かって大径となる傾斜面13aが形成され、これと同じ方向に傾斜した環状溝5のテーパ面51に対して内方から接触している。そのため、受口1から挿口2が管軸方向に離脱する外力が作用したときには、楔効果によって抜止め部材13を挿口2側に押圧し、挿口2の外周面に対する爪部14の接触抵抗を増大して、離脱防止力を高めることができる。
【0027】
図5は、抜止め部材13を内周側から見た展開図である。本実施形態では、抜止め部材13として、抜止め部材13Aと抜止め部材13Bの二種を採用し、それらを交互に配置して周方向に隣り合わせている。抜止め部材13Aは、爪部14として、管軸方向に間隔を設けて平行配置された二本の爪部14A1,14A2を有し、これと同様に抜止め部材13Bも二本の爪部14B1,14B2を有する。爪部14A1と爪部14B1、爪部14A2と爪部14B2は、それぞれ同じ管軸方向位置に配置されている。
【0028】
各抜止め部材13A,13Bでは、2本の爪部のうちの一方が、他方に対して両端部の周方向位置をずらして配置されている。即ち、抜止め部材13Aでは、爪部14A1が爪部14A2よりも長く、爪部14A2の両端部よりも爪部14A1が周方向に張り出しており、抜止め部材13Bでは、爪部14B2が爪部14B1よりも長く、爪部14B1の両端部よりも爪部14B2が周方向に張り出している。そのようにして、抜止め部材13Aの爪部14A1と抜止め部材13Bの爪部14B2とを、管軸方向に互いに重なるように配置している。
【0029】
図4に示すように、外嵌部材11の分割部15には、互いに対向する分割面15a,15bが径方向に沿って延設されている。本発明では、両分割面15a,15bから爪部14が突出し、図2の如く分割部15を閉じた状態では、その突出した爪部14同士が管軸方向に重なるように配置される。これにより、分割部15においても爪部14の接触領域を周方向に連続させることができ、挿口2の外周面に対する爪部14の接触領域を増やして離脱防止力を向上できる。
【0030】
具体的には、隣り合う一組の抜止め部材13の間に分割部15を設定し、その一組の抜止め部材13のうち一方を抜止め部材13Aとし、他方を抜止め部材13Bとしつつ、爪部14A1が分割面15aから突出し、爪部14B2が分割面15bから突出するようにしている。そして、締結具17を締結して分割部15を閉じた状態では、図5で示したように爪部14A1と爪部14B2が管軸方向に互いに重なって配置される。分割面15a,15bを基準とした爪部14の突出長さpは、数mm〜十数mm程度が例示される。
【0031】
本発明では、補強金具10が割り構造を有するものの、上述のように分割部15においても爪部14の接触領域が周方向に連続するため、挿口2の周方向全域において爪部14の接触領域を形成することができる。この場合、挿口2の外周面に対する爪部14の接触領域の周方向長さの割合は100%となり、離脱防止力を効果的に向上できる。
【0032】
両分割面15a,15bから突出した爪部14同士が管軸方向に重なるように配置されるのは、少なくとも各爪部14が挿口2の外周面に食い込むときであればよい。但し、構造上、抜止め部材13の径方向での移動ストロークは数ミリ程度となることから、爪部14を食い込ませる前の状態において、爪部14同士が予め管軸方向に重なるように配置されていてもよい。
【0033】
爪部14同士が管軸方向に重なる領域の周方向長さは、例えば5〜8mmであるが、本発明はこれに限られるものではない。また、周方向に隣り合う爪部14の間隔、即ち爪部14A1と爪部14B1との間隔、並びに爪部14A2と爪部14B2との間隔は、例えば1〜3mmであるが、本発明はこれに限定されない。
【0034】
図2に示すように、本実施形態では、両分割面15a,15bの間に隙間Gを設けて分割部15を閉じた状態で、その両分割面15a,15bから突出した爪部14同士が管軸方向に重なるように配置される。これにより、分割部15において爪部14の接触領域を連続させ易くなり、挿口2の外径のバラツキにも対応することができる。本実施形態では、分割部15に隙間Gを設けた状態で、各抜止め部材13の内周面が挿口2の外周面に当接し、そこから締結具17を締め付けることで爪部14が食い込むように構成しているため、分割部15に隙間Gを設ける必要があり、かかる構成が特に有用となる。
【0035】
この補強金具10を管P1,P2の接続箇所に取り付けるに際しては、図4に示す状態から分割片11A,11Bを近接させて分割部15を閉じ、挿口2に外嵌部材11を外嵌装着して、爪部14の先端が挿口2の外周面に軽く食い込むまで締結具17を締め付ければよい。受口挿口間に抜け出し力が作用した場合には、既述のように挿口2への爪部14の食い込みが楔効果により増大する。
【0036】
両分割面15a,15bには、締結具17と干渉しない位置に、突起6aとこれが嵌合される嵌合孔6bとからなる調芯ガイド(図1,2では不図示)を設けている。このため、外嵌部材11を挿口2に外嵌装着するに際し、分割片11A,11Bの相対位置を精度良く調整した状態で分割部15を閉じることができる。その結果、分割面15a,15bから突出した爪部14同士が、施工時に干渉して損傷することを防止できる。
【0037】
本実施形態は、外嵌部材11が挿口2を図2の上下方向から挟み込むため、各分割片11A,11Bの中央に配設された抜止め部材13では、締結具17の締め付けにより爪部14が挿口2に均等に押し付けられる。しかし、その他の抜止め部材13では、偏って押し付けられることにより楔効果に支障を来たす恐れがある。そのような懸念がある場合には、抜止め部材13を径方向内側に押圧する押圧部材を設けることが有用である。
【0038】
例えば、各分割片11A,11Bの両端に配設された抜止め部材13に、図6のような押ボルト7を設けておけば、外嵌部材11を装着した後、押ボルト7を操作して抜止め部材13を挿口2側に押圧することで、爪部14を均等に押し付けることができる。これにより、受口挿口間に抜け出し力が作用した際には、各抜止め部材13における楔効果を偏りなく発現して、離脱防止力の改善効果を確保できる。
【0039】
上記では、両分割面15a,15bの間に隙間Gを設け、締結具17の締め付けにより爪部14が食い込むように構成した例を示したが、本発明はこれに限られず、分割部15を閉じたときに両分割面15a,15bの間に隙間が設けられないものでも構わない。その場合、締結具17の締め付けにより爪部14を食い込ませることができないため、図6の押ボルト7のような押圧部材を抜止め部材13の各々に設置することが好ましい。
【0040】
[第2実施形態]
図7は、本発明の第2実施形態に係る補強金具20を管軸方向に沿って見た図である。この補強金具20は、以下に説明する構成の他は、前述した補強金具10と略同様の構成・作用であるので、共通点を省略して主に相違点について説明する。
【0041】
補強金具20は、周方向の四箇所に分割部25を有し、四つの分割片21A〜21Dからなる外嵌部材21を備える。係合部22及び抜止め部材23は、周方向の十四箇所に設けられ、分割片21A及び分割片21Cに四つずつ、分割片21B及び分割片21Dに三つずつ割り当てられている。第1実施形態と同様に、分割部25の各々では、両分割面から爪部24が突出し、その突出した爪部24同士が管軸方向に重なるように配置されている。
【0042】
各分割部25には、ボルトとナットからなる締結具27が挿通される挿通孔26aと、分割部25を閉じた状態にて径方向外側に向かって互いから遠ざかる方向に延びる一対の当接面28とを有するフランジ26が設けられている。本実施形態では、フランジ26が図8に示すように三つの挿通孔26aを有しており、その中の一つの挿通孔26a1が長穴状に形成されている。
【0043】
施工時においては、作業者の負担軽減と施工時間の短縮を図るべく、分割片21A〜21Dを予め仮組みし、それを管P1,P2の接続箇所に取り付けることが望ましい。また、既設管の口径が比較的大きい場合(例えば呼び径でφ500以上)には、各分割片21A〜21Dが重量物となるため、それらをクレーンで吊るし上げ、降下作業により上方から装着することが好適である。
【0044】
図9は、仮組みした補強金具20を吊るし上げた様子を示している。分割片21Aと分割片21Bに結び付けたワイヤ8の上端は、不図示のクレーンに繋がれている。各分割部25では、分割片21Cと分割片21Dとの間を除き、締結具27を緩目に締結している。このとき、テーパ状に傾斜した一対の当接面28を互いに当接させることで、分割部25がV字状に開くようにガイドし、仮組みによる取り付け作業を安定して簡便に行うことができる。また、分割部25をV字状に開くことで、両分割面から突出した爪部24同士を周方向に離間させ、それらが施工時に干渉して損傷することを防止できる。
【0045】
この仮組み状態では、長穴状に形成された挿通孔26a1にのみ締結具27を挿通しており、挿通孔26aに締結具27を挿通した状態でも分割部25をV字状に開けるようにしている。この仮組みした補強金具20を降下させて、管P1,P2の接続箇所に上方から外嵌し、各挿通孔26aに挿通した締結具27を締め付けて分割部25を閉じれば、図7の状態となる。このように、本実施形態によれば、外嵌部材21を挿口2に外嵌装着する作業が安定して簡便になる。
【0046】
[他の実施形態]
(1)本発明は上述した実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変更が可能である。したがって、例えば本発明の補強金具を構成する各部材の形状やサイズは適宜に変更可能である。
【0047】
(2)前述の実施形態では、既設管の接続箇所に、押輪を受口に近接させることでシール材を圧縮するメカニカルタイプの管継手を採用した例を示したが、本発明はこれに限られず、図10に示すような受口9がセルフシーリング機能を有するスリップオンタイプの管継手であっても構わない。この補強金具30では、受口挿口間に抜け出し力が作用したときに、係合部32が受口9の段部9aに係合可能に構成されている。かかる構造においても、分割部35の両分割面から抜止め部材33の爪部34が突出し、その突出した爪部同士が管軸方向に重なるように配置される。
【0048】
(3)前述の実施形態では、受口挿口間に抜け出し力が作用した際に、フック状の係合部を受口のフランジに引っ掛けて係合させる例を示したが、本発明はこれに限られず、例えば受口の外周面に食い込み可能な爪部を有する抜止め部材を係合部に配設し、それにより係合部を受口に係合するようにしても構わない。
【0049】
また、本発明では、係合部を受口のフランジに引っ掛けるものに限られず、係合具を利用して係合させるものでも構わない。例えば図11に示す補強金具60では、ボルト62a及びナット62bからなる係合具により係合部62を構成している。ボルト62aは、受口1のフランジ1aの背面側に頭部が配置されたT頭ボルトであり、押輪4のフランジ4a及び外嵌部材61のフランジ61aを貫通して、ナット62bにより締結されている。受口挿口間に抜け出し力が作用したときには、この係合部62により補強金具60が受口1と係合すると共に、挿口2の外周面に抜止め部材の爪部64が食い込む。
【0050】
この補強金具60を取り付けるに際しては、フランジ1aとフランジ4aとを連結していた既設のボルト(図3におけるT頭ボルト41)を、それよりも長いT頭ボルト62aに入れ替え、そのボルト62aを挿口2に外嵌装着した外嵌部材61のフランジ61aに挿通し、ナット62bで締め付ければよい。ボルト62aへの入れ替えは、周方向の複数箇所にて、例えば一本置きにて行われる。かかる構成の補強金具によれば、径方向外方への飛び出しを抑えられると共に、コストも低減できる。
【0051】
(4)本発明では、図5に例示したように、抜止め部材の内周面に周方向に延びる複数本の爪部が形成されていて、その内の少なくとも1本の爪部が、他の爪部に対して管軸方向に間隔を設けて且つ両端部の周方向位置をずらして配置されているものが好ましい。尚、図12に示すように、一種の抜止め部材を使用していても、爪部の接触領域を周方向に連続させることは可能である。抜止め部材13Cは、互いに周方向位置をずらした二本の爪部14C1,爪部14C2を有し、外嵌部材の分割部は例えば破線BLの位置に設定される。
【0052】
(5)前述の実施形態では、抜止め部材が二本の爪部を有する例を示したが、爪部の本数はこれに制限されず、一本又は三本以上でも構わない。図13では、抜止め部材13D,13Eが、それぞれ一本の爪部14D,14Eを有しており、その爪部14Dと爪部14Eとが管軸方向に互いに重なるように配置されている。
【符号の説明】
【0053】
1 受口
2 挿口
3 シール材
4 押輪
10,20 補強金具
11,21 外嵌部材
12,22 係合部
13,23 抜止め部材
14,24 爪部
15,25 分割部
15a,15b 分割面
16,26 フランジ
16a,26a 挿通孔
17,27 締結具
28 当接面
P1,P2 流体管(既設管)
【技術分野】
【0001】
本発明は、補強金具に関し、詳しくは、土中埋設水道管などの既設管の接続箇所に取り付けて離脱防止力を高める補強金具に関する。
【背景技術】
【0002】
土中埋設水道管などの既設管の接続箇所では、一方の管の端部に形成された受口に、他方の管の端部に形成された挿口を挿入し、その受口挿口間をシール材によって密封した管継手が採用されている。この種の管継手のうち、或るものは受口挿口間での抜け出しを防止するための機構を備えた離脱防止管継手として構成され、また或るものはそのような機構を備えない管継手として構成されている。離脱防止管継手の中には、受口挿口間に所定範囲での伸縮機能を付与した耐震管継手も含まれる。
【0003】
地震などの不測の事態に備えて、既設管の接続箇所の全てに離脱防止管継手を採用することが理想的であり、一部の既設管では離脱防止管継手への取り替えが進められている。しかし、既設管を離脱防止管継手に取り替える作業は容易ではなく、短期間で数多くの既設管を取り替えることは、技術的にも経済的にも困難であり現実的ではない。そこで、従来、既設管の接続箇所に取り付けることにより、離脱防止機能を発揮できるようにした補強金具が提案されている。
【0004】
例えば下記特許文献1には、受口から挿口にわたって外嵌される筒状のハウジングと、そのハウジングの一端を受口に係合させる第1の部材と、ハウジングの他端を挿口に係合させる第2の部材とを備えた補強金具が記載されている。この補強金具は割り構造を有し、ハウジングが周方向に二分割されている。また、第2の部材としての抜止め部材(ロック部材)は、周方向に一つ割りであるか、或いは周方向に沿って複数に分割されているが、既設管に取り付けるためには、抜止め部材の構造は後者のタイプでなければならない。
【0005】
かかる補強金具は、受口挿口間に抜け出し力が作用すると、抜止め部材の爪部(刃部)が挿口の外周面に食い込んで、離脱を防止するように構成されている。ところが、抜止め部材が周方向に沿って複数に分割されていると、挿口の外周面に対する爪部の接触領域が断続的に形成されるため、接触領域間に形成された非接触領域にて応力集中が起こり、管内のライニング層にクラックを生じることがある。また、そのような非接触領域では離脱防止力が発現されないことから、地震などに起因した強大な外力に対して離脱を防止するには、これを更に改善する余地があった。
【0006】
これに対し、本出願人による下記特許文献2では、抜止め部材の爪部同士を管軸方向に重ねて配置することにより、優れた離脱防止効果を発揮しうる管継手の離脱防止装置が提案されている。上述したような割り構造を有する補強金具においても、受口挿口間での離脱防止力を高める観点から、上記離脱防止装置のように爪部の接触領域が連続的に形成される構造を採用することが望ましいものの、それに適した具体的な構造は知られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平10−122466号公報
【特許文献2】特開2008−309186号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、既設管の接続箇所に取り付けることにより離脱防止機能を発揮し、しかも抜止め部材の爪部の接触領域を増やして離脱防止力を向上できる補強金具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的は、下記の如き本発明により達成できる。即ち、本発明に係る補強金具は、互いに接続される一方の管の端部に形成された受口に、他方の管の端部に形成された挿口を挿入してなる既設管の接続箇所に取り付けられ、その受口挿口間での抜け出しを防止するように構成された補強金具において、周方向の複数箇所に分割部を有し、前記挿口に外嵌装着される外嵌部材と、前記受口に係合可能な係合部と、前記挿口の外周面に食い込み可能な爪部を有し、周方向の複数箇所に配設された抜止め部材とを備え、前記分割部の両分割面から前記爪部が突出するとともに、前記分割部を閉じた状態では、その突出した前記爪部同士が管軸方向に重なるように配置されるものである。
【0010】
本発明に係る補強金具は、上記の如き構成を備えるため、既設管の接続箇所に取り付けることで離脱防止機能を発揮することができる。それでいて、分割部を閉じた状態では、分割部の両分割面から突出した抜止め部材の爪部同士が管軸方向に重なるように配置されるため、分割部においても爪部の接触領域を周方向に連続させることができる。その結果、抜止め部材の爪部の接触領域を増やし、それにより離脱防止力を向上することができる。
【0011】
本発明では、前記挿口の周方向全域に前記爪部の接触領域を形成可能に構成されたものが好ましい。かかる構成によれば、爪部の非接触領域が形成される余地が無く、分割部の近傍を含めた周方向の全域にわたって爪部の接触領域が形成されるため、離脱防止力を効果的に向上することができる。
【0012】
本発明では、前記両分割面の間に隙間を設けて前記分割部を閉じた状態にて、その両分割面から突出した前記爪部同士が管軸方向に重なるように配置されるものが好ましい。これにより、分割部において爪部の接触領域を連続させ易くなり、挿口の外径のバラツキにも対応することができる。また、本発明の一態様として、分割部に取り付けた締結具の締め付けによって爪部を食い込ませる構成が考えられるが、その場合には両分割面の間に隙間を設ける必要があるため、上記の構成が特に有用となる。
【0013】
本発明では、前記分割部に、締結具を挿通するための挿通孔と、前記分割部を閉じたときに径方向外側に向かって互いから遠ざかる方向に延びる一対の当接面とを有するフランジが設けられ、前記一対の当接面を互いに当接させることで前記分割部をV字状に開けるように構成されているものが好ましい。
【0014】
補強金具の取り付け作業では、作業者の負担軽減と施工時間の短縮を図るうえで、外嵌部材を構成する複数の分割片を予め仮組みし、それを挿口に外嵌装着することが好適である。上記構成によれば、フランジの当接面同士を当接させて分割部をV字状に開けることから、仮組みによる取り付け作業を安定して簡便に行うことができる。また、本発明では、分割部の両分割面から爪部が突出するため、施工時における爪部同士の干渉を回避する観点からも、かかる構成が有用である。
【0015】
上記において、前記挿通孔が長穴状に形成されており、前記挿通孔に前記締結具を挿通した状態で、前記一対の当接面を互いに当接させて前記分割部をV字状に開くことが可能に構成されたものが好ましい。かかる構成によれば、フランジの挿通孔に締結具を挿通した状態でありながら、一対の当接面を互いに当接させて分割部をV字状に開けるため、上述した仮組みによる施工性の改善効果がより適切に得られる。
【0016】
本発明では、前記抜止め部材の内周面に周方向に延びる複数本の前記爪部が形成されていて、その内の少なくとも1本の前記爪部が、他の前記爪部に対して管軸方向に間隔を設けて且つ両端部の周方向位置をずらして配置されているものが好ましい。かかる構成によれば、挿口の外周面に対する爪部の食い込み作用を安定して発揮でき、そのうえ、周方向に隣り合う抜止め部材の間において、それらの爪部を管軸方向に互いに重なるように適切に配置することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の第1実施形態に係る補強金具を既設管の接続箇所に取り付けた状態を示す側面図
【図2】図1の補強金具を管軸方向に沿って見た図
【図3】図1に示す補強金具の縦断面図
【図4】補強金具を取り付ける前の状態を示す図
【図5】抜止め部材を内周側から見た展開図
【図6】抜止め部材に押圧部材としての押ボルトを設けたときの断面図
【図7】本発明の第2実施形態に係る補強金具を管軸方向に沿って見た図
【図8】図7の補強金具の分割部に設けたフランジの側面図
【図9】仮組みした補強金具を吊るし上げた様子を示す図
【図10】本発明の別実施形態を示す半断面図
【図11】本発明の別実施形態に係る補強金具の要部断面図
【図12】本発明の別実施形態に係る抜止め部材を内周側から見た展開図
【図13】本発明の別実施形態に係る抜止め部材を内周側から見た展開図
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
【0019】
[第1実施形態]
図1は、既設管としての流体管P1,P2の接続箇所に、本発明の第1実施形態に係る補強金具10を取り付けた状態を示す側面図である。この接続箇所では、互いに接続される一方の管P1の端部に形成された受口1に、他方の管P2の端部に形成された挿口2が挿入され、その受口挿口間での抜け出しを補強金具10により防止している。本実施形態の流体管P1,P2は、土中に埋設されるダクタイル鋳鉄製の水道管であるが、ガス管やプラント用配管等の他の流体管であっても構わない。
【0020】
図2は、その補強金具10を管軸方向に沿って図1の左方向から見た図である。図3は、補強金具10の縦断面図であり、図2のA−A断面に相当する。挿口2に外嵌された押輪4は、環状のシール材3を管軸方向から押圧して圧縮している。これにより受口1の内周面と挿口2の外周面との間が密封され、管P1と管P2とが水密に接続される。受口1のフランジ1aと押輪4のフランジ4aにはT頭ボルト41が挿通され、そのボルト41に螺合したナット42を締め付けることにより、押輪4がシール材3を圧縮した状態で受口1に接続固定される。
【0021】
補強金具10は、流体管P1,P2の接続箇所に取り付けられ、受口挿口間での抜け出しを防止するように構成されている。補強金具10は、周方向の複数箇所に分割部15を有し、挿口2に外嵌装着される外嵌部材11と、外嵌部材11から管軸方向に延びて受口1の外周側に達し、受口挿口間に抜け出し力が作用したときに受口1に係合可能な係合部12と、挿口2の外周面に食い込み可能な爪部14を有し、外嵌部材11の内周側にて周方向の複数箇所に配設された抜止め部材13とを備える。
【0022】
補強金具10は、管P1,P2の接続箇所に取り付け可能な割り構造を有する。本実施形態では、外嵌部材11が周方向の二箇所に分割部15を有し、図4に示すような二つの分割片11A,11Bにより構成されている。分割部15に設けられたフランジ16には、それぞれボルトとナットからなる締結具17を挿通するための挿通孔16aが形成されており、この締結具17の締結操作により外嵌部材11の締め付け具合を調整することができる。
【0023】
かかる構成により、管P1,P2の接続箇所を取り外すことなく、そのままの状態で補強金具10を外嵌装着できるため、既設管への取り付け作業が極めて容易に行える。本発明では、外嵌部材11が三つ以上の分割部を有するものでもよい。また、本実施形態では、分割部15の各々に二つの締結具17(図1参照)が設けられているが、締結具の数は用途やサイズ等に鑑みた必要強度に応じて適宜に変更できる。
【0024】
係合部12は、受口1のフランジ1aの背面に入り込んだフック形状を有し、受口挿口間に抜け出し力が作用したときには、これが受口1のフランジ1aに引っ掛かって係合する。図3の状態では、係合部12の先端とフランジ1aの背面との間に伸縮代dを設けているが、これを延長又は短縮してもよく、或いは無しにしても構わない。伸縮代dを設けた場合には、受口挿口間に伸縮機能を付与して耐震性能を高めることができる。本実施形態では、係合部12が周方向の四箇所に設けられているが、係合部の数や周方向の長さは特に制限されない。
【0025】
外嵌部材11の内周面には、挿口2に向かって開口する環状溝5が設けられており、その内部に複数の抜止め部材13が収容されている。このように複数の抜止め部材13を環状溝5に一括して収容することにより、個別に収容する場合に比べて構造を簡素化できる。抜止め部材13の爪部14は、挿口2の外周面に沿って湾曲しながら周方向に延び、断面三角形状に形成されている。本実施形態では、抜止め部材13が周方向の六箇所に、各分割片11A,11Bに三つずつ配設されているが、抜止め部材の数や周方向の長さは特に制限されない。
【0026】
抜止め部材13の外側面には、受口1に向かって大径となる傾斜面13aが形成され、これと同じ方向に傾斜した環状溝5のテーパ面51に対して内方から接触している。そのため、受口1から挿口2が管軸方向に離脱する外力が作用したときには、楔効果によって抜止め部材13を挿口2側に押圧し、挿口2の外周面に対する爪部14の接触抵抗を増大して、離脱防止力を高めることができる。
【0027】
図5は、抜止め部材13を内周側から見た展開図である。本実施形態では、抜止め部材13として、抜止め部材13Aと抜止め部材13Bの二種を採用し、それらを交互に配置して周方向に隣り合わせている。抜止め部材13Aは、爪部14として、管軸方向に間隔を設けて平行配置された二本の爪部14A1,14A2を有し、これと同様に抜止め部材13Bも二本の爪部14B1,14B2を有する。爪部14A1と爪部14B1、爪部14A2と爪部14B2は、それぞれ同じ管軸方向位置に配置されている。
【0028】
各抜止め部材13A,13Bでは、2本の爪部のうちの一方が、他方に対して両端部の周方向位置をずらして配置されている。即ち、抜止め部材13Aでは、爪部14A1が爪部14A2よりも長く、爪部14A2の両端部よりも爪部14A1が周方向に張り出しており、抜止め部材13Bでは、爪部14B2が爪部14B1よりも長く、爪部14B1の両端部よりも爪部14B2が周方向に張り出している。そのようにして、抜止め部材13Aの爪部14A1と抜止め部材13Bの爪部14B2とを、管軸方向に互いに重なるように配置している。
【0029】
図4に示すように、外嵌部材11の分割部15には、互いに対向する分割面15a,15bが径方向に沿って延設されている。本発明では、両分割面15a,15bから爪部14が突出し、図2の如く分割部15を閉じた状態では、その突出した爪部14同士が管軸方向に重なるように配置される。これにより、分割部15においても爪部14の接触領域を周方向に連続させることができ、挿口2の外周面に対する爪部14の接触領域を増やして離脱防止力を向上できる。
【0030】
具体的には、隣り合う一組の抜止め部材13の間に分割部15を設定し、その一組の抜止め部材13のうち一方を抜止め部材13Aとし、他方を抜止め部材13Bとしつつ、爪部14A1が分割面15aから突出し、爪部14B2が分割面15bから突出するようにしている。そして、締結具17を締結して分割部15を閉じた状態では、図5で示したように爪部14A1と爪部14B2が管軸方向に互いに重なって配置される。分割面15a,15bを基準とした爪部14の突出長さpは、数mm〜十数mm程度が例示される。
【0031】
本発明では、補強金具10が割り構造を有するものの、上述のように分割部15においても爪部14の接触領域が周方向に連続するため、挿口2の周方向全域において爪部14の接触領域を形成することができる。この場合、挿口2の外周面に対する爪部14の接触領域の周方向長さの割合は100%となり、離脱防止力を効果的に向上できる。
【0032】
両分割面15a,15bから突出した爪部14同士が管軸方向に重なるように配置されるのは、少なくとも各爪部14が挿口2の外周面に食い込むときであればよい。但し、構造上、抜止め部材13の径方向での移動ストロークは数ミリ程度となることから、爪部14を食い込ませる前の状態において、爪部14同士が予め管軸方向に重なるように配置されていてもよい。
【0033】
爪部14同士が管軸方向に重なる領域の周方向長さは、例えば5〜8mmであるが、本発明はこれに限られるものではない。また、周方向に隣り合う爪部14の間隔、即ち爪部14A1と爪部14B1との間隔、並びに爪部14A2と爪部14B2との間隔は、例えば1〜3mmであるが、本発明はこれに限定されない。
【0034】
図2に示すように、本実施形態では、両分割面15a,15bの間に隙間Gを設けて分割部15を閉じた状態で、その両分割面15a,15bから突出した爪部14同士が管軸方向に重なるように配置される。これにより、分割部15において爪部14の接触領域を連続させ易くなり、挿口2の外径のバラツキにも対応することができる。本実施形態では、分割部15に隙間Gを設けた状態で、各抜止め部材13の内周面が挿口2の外周面に当接し、そこから締結具17を締め付けることで爪部14が食い込むように構成しているため、分割部15に隙間Gを設ける必要があり、かかる構成が特に有用となる。
【0035】
この補強金具10を管P1,P2の接続箇所に取り付けるに際しては、図4に示す状態から分割片11A,11Bを近接させて分割部15を閉じ、挿口2に外嵌部材11を外嵌装着して、爪部14の先端が挿口2の外周面に軽く食い込むまで締結具17を締め付ければよい。受口挿口間に抜け出し力が作用した場合には、既述のように挿口2への爪部14の食い込みが楔効果により増大する。
【0036】
両分割面15a,15bには、締結具17と干渉しない位置に、突起6aとこれが嵌合される嵌合孔6bとからなる調芯ガイド(図1,2では不図示)を設けている。このため、外嵌部材11を挿口2に外嵌装着するに際し、分割片11A,11Bの相対位置を精度良く調整した状態で分割部15を閉じることができる。その結果、分割面15a,15bから突出した爪部14同士が、施工時に干渉して損傷することを防止できる。
【0037】
本実施形態は、外嵌部材11が挿口2を図2の上下方向から挟み込むため、各分割片11A,11Bの中央に配設された抜止め部材13では、締結具17の締め付けにより爪部14が挿口2に均等に押し付けられる。しかし、その他の抜止め部材13では、偏って押し付けられることにより楔効果に支障を来たす恐れがある。そのような懸念がある場合には、抜止め部材13を径方向内側に押圧する押圧部材を設けることが有用である。
【0038】
例えば、各分割片11A,11Bの両端に配設された抜止め部材13に、図6のような押ボルト7を設けておけば、外嵌部材11を装着した後、押ボルト7を操作して抜止め部材13を挿口2側に押圧することで、爪部14を均等に押し付けることができる。これにより、受口挿口間に抜け出し力が作用した際には、各抜止め部材13における楔効果を偏りなく発現して、離脱防止力の改善効果を確保できる。
【0039】
上記では、両分割面15a,15bの間に隙間Gを設け、締結具17の締め付けにより爪部14が食い込むように構成した例を示したが、本発明はこれに限られず、分割部15を閉じたときに両分割面15a,15bの間に隙間が設けられないものでも構わない。その場合、締結具17の締め付けにより爪部14を食い込ませることができないため、図6の押ボルト7のような押圧部材を抜止め部材13の各々に設置することが好ましい。
【0040】
[第2実施形態]
図7は、本発明の第2実施形態に係る補強金具20を管軸方向に沿って見た図である。この補強金具20は、以下に説明する構成の他は、前述した補強金具10と略同様の構成・作用であるので、共通点を省略して主に相違点について説明する。
【0041】
補強金具20は、周方向の四箇所に分割部25を有し、四つの分割片21A〜21Dからなる外嵌部材21を備える。係合部22及び抜止め部材23は、周方向の十四箇所に設けられ、分割片21A及び分割片21Cに四つずつ、分割片21B及び分割片21Dに三つずつ割り当てられている。第1実施形態と同様に、分割部25の各々では、両分割面から爪部24が突出し、その突出した爪部24同士が管軸方向に重なるように配置されている。
【0042】
各分割部25には、ボルトとナットからなる締結具27が挿通される挿通孔26aと、分割部25を閉じた状態にて径方向外側に向かって互いから遠ざかる方向に延びる一対の当接面28とを有するフランジ26が設けられている。本実施形態では、フランジ26が図8に示すように三つの挿通孔26aを有しており、その中の一つの挿通孔26a1が長穴状に形成されている。
【0043】
施工時においては、作業者の負担軽減と施工時間の短縮を図るべく、分割片21A〜21Dを予め仮組みし、それを管P1,P2の接続箇所に取り付けることが望ましい。また、既設管の口径が比較的大きい場合(例えば呼び径でφ500以上)には、各分割片21A〜21Dが重量物となるため、それらをクレーンで吊るし上げ、降下作業により上方から装着することが好適である。
【0044】
図9は、仮組みした補強金具20を吊るし上げた様子を示している。分割片21Aと分割片21Bに結び付けたワイヤ8の上端は、不図示のクレーンに繋がれている。各分割部25では、分割片21Cと分割片21Dとの間を除き、締結具27を緩目に締結している。このとき、テーパ状に傾斜した一対の当接面28を互いに当接させることで、分割部25がV字状に開くようにガイドし、仮組みによる取り付け作業を安定して簡便に行うことができる。また、分割部25をV字状に開くことで、両分割面から突出した爪部24同士を周方向に離間させ、それらが施工時に干渉して損傷することを防止できる。
【0045】
この仮組み状態では、長穴状に形成された挿通孔26a1にのみ締結具27を挿通しており、挿通孔26aに締結具27を挿通した状態でも分割部25をV字状に開けるようにしている。この仮組みした補強金具20を降下させて、管P1,P2の接続箇所に上方から外嵌し、各挿通孔26aに挿通した締結具27を締め付けて分割部25を閉じれば、図7の状態となる。このように、本実施形態によれば、外嵌部材21を挿口2に外嵌装着する作業が安定して簡便になる。
【0046】
[他の実施形態]
(1)本発明は上述した実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変更が可能である。したがって、例えば本発明の補強金具を構成する各部材の形状やサイズは適宜に変更可能である。
【0047】
(2)前述の実施形態では、既設管の接続箇所に、押輪を受口に近接させることでシール材を圧縮するメカニカルタイプの管継手を採用した例を示したが、本発明はこれに限られず、図10に示すような受口9がセルフシーリング機能を有するスリップオンタイプの管継手であっても構わない。この補強金具30では、受口挿口間に抜け出し力が作用したときに、係合部32が受口9の段部9aに係合可能に構成されている。かかる構造においても、分割部35の両分割面から抜止め部材33の爪部34が突出し、その突出した爪部同士が管軸方向に重なるように配置される。
【0048】
(3)前述の実施形態では、受口挿口間に抜け出し力が作用した際に、フック状の係合部を受口のフランジに引っ掛けて係合させる例を示したが、本発明はこれに限られず、例えば受口の外周面に食い込み可能な爪部を有する抜止め部材を係合部に配設し、それにより係合部を受口に係合するようにしても構わない。
【0049】
また、本発明では、係合部を受口のフランジに引っ掛けるものに限られず、係合具を利用して係合させるものでも構わない。例えば図11に示す補強金具60では、ボルト62a及びナット62bからなる係合具により係合部62を構成している。ボルト62aは、受口1のフランジ1aの背面側に頭部が配置されたT頭ボルトであり、押輪4のフランジ4a及び外嵌部材61のフランジ61aを貫通して、ナット62bにより締結されている。受口挿口間に抜け出し力が作用したときには、この係合部62により補強金具60が受口1と係合すると共に、挿口2の外周面に抜止め部材の爪部64が食い込む。
【0050】
この補強金具60を取り付けるに際しては、フランジ1aとフランジ4aとを連結していた既設のボルト(図3におけるT頭ボルト41)を、それよりも長いT頭ボルト62aに入れ替え、そのボルト62aを挿口2に外嵌装着した外嵌部材61のフランジ61aに挿通し、ナット62bで締め付ければよい。ボルト62aへの入れ替えは、周方向の複数箇所にて、例えば一本置きにて行われる。かかる構成の補強金具によれば、径方向外方への飛び出しを抑えられると共に、コストも低減できる。
【0051】
(4)本発明では、図5に例示したように、抜止め部材の内周面に周方向に延びる複数本の爪部が形成されていて、その内の少なくとも1本の爪部が、他の爪部に対して管軸方向に間隔を設けて且つ両端部の周方向位置をずらして配置されているものが好ましい。尚、図12に示すように、一種の抜止め部材を使用していても、爪部の接触領域を周方向に連続させることは可能である。抜止め部材13Cは、互いに周方向位置をずらした二本の爪部14C1,爪部14C2を有し、外嵌部材の分割部は例えば破線BLの位置に設定される。
【0052】
(5)前述の実施形態では、抜止め部材が二本の爪部を有する例を示したが、爪部の本数はこれに制限されず、一本又は三本以上でも構わない。図13では、抜止め部材13D,13Eが、それぞれ一本の爪部14D,14Eを有しており、その爪部14Dと爪部14Eとが管軸方向に互いに重なるように配置されている。
【符号の説明】
【0053】
1 受口
2 挿口
3 シール材
4 押輪
10,20 補強金具
11,21 外嵌部材
12,22 係合部
13,23 抜止め部材
14,24 爪部
15,25 分割部
15a,15b 分割面
16,26 フランジ
16a,26a 挿通孔
17,27 締結具
28 当接面
P1,P2 流体管(既設管)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに接続される一方の管の端部に形成された受口に、他方の管の端部に形成された挿口を挿入してなる既設管の接続箇所に取り付けられ、その受口挿口間での抜け出しを防止するように構成された補強金具において、
周方向の複数箇所に分割部を有し、前記挿口に外嵌装着される外嵌部材と、
前記受口に係合可能な係合部と、
前記挿口の外周面に食い込み可能な爪部を有し、周方向の複数箇所に配設された抜止め部材とを備え、
前記分割部の両分割面から前記爪部が突出するとともに、前記分割部を閉じた状態では、その突出した前記爪部同士が管軸方向に重なるように配置されることを特徴とする補強金具。
【請求項2】
前記挿口の周方向全域に前記爪部の接触領域を形成可能に構成された請求項1に記載の補強金具。
【請求項3】
前記両分割面の間に隙間を設けて前記分割部を閉じた状態にて、その両分割面から突出した前記爪部同士が管軸方向に重なるように配置される請求項1又は2に記載の補強金具。
【請求項4】
前記分割部に、締結具を挿通するための挿通孔と、前記分割部を閉じたときに径方向外側に向かって互いから遠ざかる方向に延びる一対の当接面とを有するフランジが設けられ、前記一対の当接面を互いに当接させることで前記分割部をV字状に開けるように構成されている請求項1〜3いずれか1項に記載の補強金具。
【請求項5】
前記挿通孔が長穴状に形成されており、前記挿通孔に前記締結具を挿通した状態で、前記一対の当接面を互いに当接させて前記分割部をV字状に開くことが可能に構成された請求項4に記載の補強金具。
【請求項6】
前記抜止め部材の内周面に周方向に延びる複数本の前記爪部が形成されていて、その内の少なくとも1本の前記爪部が、他の前記爪部に対して管軸方向に間隔を設けて且つ両端部の周方向位置をずらして配置されている請求項1〜5いずれか1項に記載の補強金具。
【請求項1】
互いに接続される一方の管の端部に形成された受口に、他方の管の端部に形成された挿口を挿入してなる既設管の接続箇所に取り付けられ、その受口挿口間での抜け出しを防止するように構成された補強金具において、
周方向の複数箇所に分割部を有し、前記挿口に外嵌装着される外嵌部材と、
前記受口に係合可能な係合部と、
前記挿口の外周面に食い込み可能な爪部を有し、周方向の複数箇所に配設された抜止め部材とを備え、
前記分割部の両分割面から前記爪部が突出するとともに、前記分割部を閉じた状態では、その突出した前記爪部同士が管軸方向に重なるように配置されることを特徴とする補強金具。
【請求項2】
前記挿口の周方向全域に前記爪部の接触領域を形成可能に構成された請求項1に記載の補強金具。
【請求項3】
前記両分割面の間に隙間を設けて前記分割部を閉じた状態にて、その両分割面から突出した前記爪部同士が管軸方向に重なるように配置される請求項1又は2に記載の補強金具。
【請求項4】
前記分割部に、締結具を挿通するための挿通孔と、前記分割部を閉じたときに径方向外側に向かって互いから遠ざかる方向に延びる一対の当接面とを有するフランジが設けられ、前記一対の当接面を互いに当接させることで前記分割部をV字状に開けるように構成されている請求項1〜3いずれか1項に記載の補強金具。
【請求項5】
前記挿通孔が長穴状に形成されており、前記挿通孔に前記締結具を挿通した状態で、前記一対の当接面を互いに当接させて前記分割部をV字状に開くことが可能に構成された請求項4に記載の補強金具。
【請求項6】
前記抜止め部材の内周面に周方向に延びる複数本の前記爪部が形成されていて、その内の少なくとも1本の前記爪部が、他の前記爪部に対して管軸方向に間隔を設けて且つ両端部の周方向位置をずらして配置されている請求項1〜5いずれか1項に記載の補強金具。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
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【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2010−261480(P2010−261480A)
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−110937(P2009−110937)
【出願日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【出願人】(396020361)株式会社水道技術開発機構 (113)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【出願人】(396020361)株式会社水道技術開発機構 (113)
【Fターム(参考)】
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