説明

補強ALCパネルおよびその製造方法

【課題】
パネルに作用する正圧荷重並びに負圧荷重の両荷重方向に対して、それぞれ均等に曲げ剛性を高めて曲げひび割れなどの不具合を生じ難くする。さらに、パネル壁面に孔を開けた場合でも、曲げひび割れ荷重の低下を抑えると共に、それがパネル許容荷重を上回ることができる補強ALCパネルおよびその製造方法の提供。
【解決手段】
ALCパネルP1の長辺小口面1に、硬化後におけるダンベル物性の破断時伸びが180%以下である弾性接着剤を介して、鋼板2が貼着されている補強ALCパネル。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に建築物の外壁、間仕切壁、床、屋根などの構造体として使用するALCパネルの改良に関するものである。
さらに詳しくは、パネルに作用する正圧荷重並びに負圧荷重の両荷重方向に対して、それぞれ均等に曲げ剛性を高めて、曲げひび割れなどの不具合を生じ難くする。
さらに、パネル壁面に孔を貫通させた場合でも、JIS A5416における曲げひび割れ荷重の低下を抑えると共に、それがパネル許容荷重を上回ることができる補強ALCパネルおよびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般にALCパネルと称される軽量気泡コンクリートパネルは、コンクリートに比べて多孔質であるため、軽量性および断熱性が優れており、これらの特性を活かして建築材料、例えば、建物の外壁、間仕切壁、床、屋根などの用途に広く使用されている。
【0003】
そのため、ALCパネル壁面にガス・水道その他の設備配管を通すための孔開け加工がされることも多く、その際に、その孔開けによって、パネルに埋設された補強鉄筋(縦筋)が同時に切断されてしまうと、当初のパネル(曲げ)強度を維持できなくなってしまう。
【0004】
そこで、たとえ、孔開け加工されても、所定のパネル強度が維持されるように、パネルを補強する方法が従来から試みられている。
その代表的な手段としては、パネル壁面に補強用鋼板を貼着する方法(例えば、特許文献1、2参照)や、パネル内部に補強用鋼板を埋設する方法(例えば、特許文献3参照)が知られている。
【0005】
しかし、補強用鋼板を壁面に貼着したALCパネルでは、鋼板が表面に露出して壁面の見栄えが悪くなり、それを隠すための内装材をさらに貼着することが必要となる。
さらに、パネル壁面に孔開けを必要とする場合、貼着された鋼板を避けて孔を開ける位置を設定しなければならないという問題を包含していた。
また、補強用鋼板を埋設したALCパネルでは、パネルの製造過程が煩雑となり多くの手間を必要とするばかりか、補強用鋼板が邪魔をして孔開け位置が著しく制約されるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−336843号公報
【特許文献2】特開平08−004256号公報
【特許文献3】特開平05−086671号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上述した従来技術における問題点の解決を課題として検討した結果、達成されたものである。
【0008】
したがって、本発明の目的は、パネルに作用する正圧荷重並びに負圧荷重の両荷重方向に対して、それぞれ均等に曲げ剛性を高めて、曲げひび割れなどの不具合を生じ難くする。
さらに、パネル壁面に孔を貫通させた場合でも、JIS A5416における曲げひび割れ荷重の低下を抑えると共に、それがパネル許容荷重を上回ることができる補強ALCパネルおよびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために本発明によれば、ALCパネルの長辺小口面に、硬化後におけるダンベル物性の破断時伸びが180%以下である弾性接着剤を介して、鋼板が貼着されていることを特徴とする補強ALCパネルが提供される。
【0010】
なお、本発明の補強ALCパネルにおいては、前記鋼板が前記ALCパネルの長辺小口面に形成された切欠溝内に配置されていること、前記鋼板の幅寸法が前記ALCパネルの厚さの30%以上であると共に、長さ寸法が前記ALCパネルの長さの65〜90%であること、および、前記鋼板の厚さが0.8〜1.6mmであることが、いずれも好ましい条件として挙げられる。
【0011】
また、本発明の補強ALCパネルの製造方法は、ALCパネルの長辺小口面に、硬化後におけるダンベル物性の破断時伸びが180%以下である弾性接着剤を介して、鋼板を貼着することを特徴とし、この場合には、前記鋼板として、幅寸法が前記ALCパネルの厚さの30%以上であると共に、長さ寸法が前記ALCパネルの長さの65〜90%である鋼板を用いることが好ましい。
なお、本発明におけるダンベル物性の破壊時伸び(%)とは、JIS K6251(硬化物性の伸び)に準じた試験方法による測定値である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、以下に説明するとおり、パネルに作用する正圧荷重並びに負圧荷重の両荷重方向に対して、それぞれ均等に曲げ剛性を高めて、曲げひび割れなどの不具合を生じ難くする。
さらに、パネル壁面に孔を貫通させた場合でも、JIS A5416における曲げひび割れ荷重の低下を抑えると共に、それがパネル許容荷重を上回ることができる補強ALCパネルの提供と、そのパネルを製造することができる。
また、本発明によれば、パネルのじん性が高くなるため大きく変形しても破壊し難くくなり、結果として最大破壊荷重を大きくすることが可能となる。
さらに、壁面に孔を貫通させたパネルであっても、曲げひび割れがその孔周囲のみに集中することがなくなり、その部分での局部的な破壊の発生を防止する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1(A)】本発明のALCパネルの第1実施例を示す斜視図である。
【図1(B)】本発明のALCパネルの第1実施例を示す正面図である。
【図1(C)】本発明のALCパネルの第1実施例を示す断面図である。
【図2(A)】本発明のALCパネルの第2実施例を示す斜視図である。
【図2(B)】本発明のALCパネルの第2実施例を示す正面図である。
【図2(C)】本発明のALCパネルの第2実施例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態について具体的に説明する。
【0015】
本発明の補強ALCパネルは、その長辺小口面に、硬化後におけるダンベル物性の破断時伸びが180%以下である弾性接着剤を介して、鋼板が貼着されていることを特徴としている。
【0016】
本発明で使用するALCパネルとは、珪素質原料、石灰質原料、水、アルミニウム粉末および界面活性剤などからなる原料スラリーを、必要に応じて補強鉄筋を配置した型枠内へ打設し、この原料スラリーを半硬化状態とした後、これをオートクレーブ養生することにより製造されたものである。この原料スラリーの主成分は、珪素質原料および石灰質原料であり、ここでいう珪素質原料の具体例としては、石英、クリストバライト、珪砂・珪石粉、フライアッシュなどの二酸化珪素含有化合物が、また石灰質原料の具体例としては、生石灰、消石灰などが挙げられる。
【0017】
まず、図1に基づき、本発明の補強ALCパネルの第1実施例について説明する。
【0018】
図1において、補強ALCパネルP1(以下、パネルP1と呼ぶ)は、その長辺小口面1に、後述する弾性接着剤を介して鋼板2が貼着されている。
この鋼板2によりパネルP1に作用する正圧荷重並びに負圧荷重の両荷重方向に対して、それぞれ均等に曲げ剛性を高めて、曲げひび割れなどの不具合を生じ難くする。
さらに、図示したようにパネルP1に孔3を貫通させた場合においても、パネル内部に配置された補強鉄筋(縦筋)の一部が切断されているにも係わらず、曲げひび割れ荷重の低下を抑えると共に、それがパネル許容荷重を上回ることができる。
【0019】
かかる効果を得るために、本発明で使用する鋼板2の幅寸法はパネルPの厚さの30%以上であると共に、その長さ寸法がパネルP1の長さの65〜90%であり、この鋼板2がパネルP1の長辺小口面において、長さ方向の中央部から上下へ均等に延びていることが望ましい。
【0020】
ここで、鋼板2の幅寸法がパネルP1の厚さの30%未満では、鋼板2による補強効果に多くが期待できない。
また、長さ寸法が上記の範囲を下回る場合は補強効果が小さくなり、上回る場合は鋼板が重くなりコスト高になると共に、その取り扱い性や貼着作業性が悪くなり、好ましくない。
【0021】
また、鋼板2の厚さは0.8〜1.6mmの範囲であれば十分であり、0.8mm未満では補強効果が小さくなり、1.6mmを超えると鋼板が重くなり同上の不具合が発生して好ましくない。
【0022】
なお、鋼板2は、硬化後におけるダンベル物性の破断時伸びが180%以下である弾性接着剤を介して、パネルP1の長辺小口面1に貼着されていることが重要であり、この条件を満たせば硬化後の接着剤がパネルP1に対し所定の粘性以下で固着されるため、パネルP1の曲げ(たわみ)に対しても十分に追従して補強効果が発揮されることになる。
すなわち、鋼板2に引剥力が働いたときには、接着界面で破壊を生じることなく、パネルP1の母材が鋼板2に固着した状態で剥離(母材の破壊)するため、パネルの曲げひび割れ荷重および最大破壊荷重が向上するようになる。
一方、使用する接着剤の硬化後におけるダンベル物性の破断時伸びが180%を超える場合には、パネルP1の母材に対する固着力が小さくなり、補強効果が発揮されない。
【0023】
本発明で使用し得る硬化後におけるダンベル物性の破断時伸びが100%を超える弾性接着剤としては、一液形エポキシ変成弾性接着剤や天然石用シリコーン変性ポリマー型弾性接着剤、より具体的には市販品の「セメダインPM165」、「セメダインPM155」などが挙げられる。
【0024】
このようにその長辺小口面1に特定の弾性接着剤を介して鋼板2が貼着されて構成された本発明の補強パネルP1は、正圧荷重並びに負圧荷重の両荷重方向に対して、それぞれ均等に曲げ剛性を高めて、曲げひび割れなどの不具合を生じ難くする。
さらに、パネル壁面に孔を貫通させた場合でも、曲げひび割れ荷重の低下を抑えると共に、それがパネル許容荷重を上回ることができる。
さらに、パネルP1を建て込んだ際に、鋼板2が隣接するパネル間の目地部に納まるため、壁面の見栄えを阻害することがなくなる。そして、接着剤の経年劣化の抑制も図ることが可能となる。
しかも、例えば、火災時においても鋼板2が火炎に直接曝されないため接着剤の性能劣化が生じ難くなる。そのため、パネル壁面から鋼板2が剥がれ落ちて、パネルの強度低下を招くことがない。
【0025】
次に、図2に示した第2実施例は、鋼板2がパネルP2の長辺小口面1に形成された切欠溝4内に配置されている点が、上述した第1実施例と相違している。
【0026】
この第2実施例のように、パネルP2の長辺小口面1に形成された切欠溝4内に、硬化後におけるダンベル物性の破断時伸びが180%以下の弾性接着剤を介して鋼板2を貼着することにより、切欠溝4内に鋼板2が納められて、パネルP2の長辺小口面1と鋼板2とが同一平面とした。
また、長辺小口面1に形成された切欠溝4の深さを鋼板2の板厚以上として、その切欠溝内部へ鋼板2を完全に収めて、さらに、ロックウールなどの耐火材を残りの空間に充填しておくこともできる。これにより、火災時においても鋼板2が火炎に直接曝されないため接着剤の性能劣化が生じ難くなり、パネル壁面から鋼板2が剥がれ落ちて、パネルの強度低下を招くことがなくなる。
上記構造により、パネルP2の長辺小口面1に鋼板が露出することがなく、建て込まれたパネル間において鋼板の厚みによる隙間がなくなり、壁面全体の見栄えが向上するというさらなる効果が得られる。
【0027】
上記の構造からなる本発明の補強ALCパネルを製造するに際しては、パネルP1の長辺小口面に、硬化後におけるダンベル物性の破断時伸びが180%以下である弾性接着剤を介して鋼板2を直接貼着するか、あるいはパネルP2のように長辺小口面に予め形成した切欠溝4内に、前記弾性接着剤を介して鋼板2を貼着するという簡略的な手段を採用すれば足りるため、補強のための費用には多くを必要とせず、かなり経済的に所望の補強効果を達成することが可能である。
【実施例】
【0028】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに詳述する。
【0029】
実施例(表1参照)において、曲げひび割れ荷重の下限値を加えた時のたわみ量、曲げひび割れ荷重、最大破壊荷重は、いずれもJIS A5416に規定された「パネルの曲げ強さ試験」に準じ、外壁仕様として、幅600mm × 長さ2700mm × 厚さ100mmのALCパネルについて測定した。
ここで、曲げひび割れ荷重の下限値を加えた時のたわみ量は、前記寸法のALCパネルにおいてJIS A5416に基づいて算出された「曲げひび割れ荷重の下限値=1539N」時のパネル中央部におけるたわみ量(mm)である。
【0030】
[実施例1〜8]
幅600mm × 長さ2700mm × 厚さ100mmのALCパネル(このALCパネルは、直径5mmの補強鉄筋をパネル上側(圧縮側)に3本、パネル下側(引張側)に3本とした鉄筋マットを2段、鉄筋かぶり15mmの条件で埋設されている。)の左右長辺小口面に、接着剤として「セメダインPM155」(硬化後におけるダンベル物性の破断時伸び:180%)または「セメダインPM165」(硬化後におけるダンベル物性の破断時伸び:100%)を介して、表1に示した形状寸法の鋼板各2枚をそれぞれ貼着した。
【0031】
また、各パネルの壁面中央に直径160mmの丸孔を貫通させたものと、丸孔を設けないものについて評価した。なお、丸孔を貫通させた場合には、その丸孔によりパネル内部における引張側の補強鉄筋5(図1,図2中の下側中央位置)が1本切断されている。
【0032】
得られた各パネルについて、曲げひび割れ荷重の下限値を加えた時のたわみ量、曲げひび割れ荷重、最大破壊荷重を評価した結果を表1に示す。
【0033】
[比較例1〜6]
上記実施例と同様のALCパネルを使用し、鋼板の貼着を省略したもの(比較例1、2)、長辺小口面ではなくパネル壁面に鋼板を貼着したもの(比較例3〜6)について、同様に曲げひび割れ荷重の下限値を加えた時のたわみ量、曲げひび割れ荷重、最大破壊荷重を評価した結果を表1に示す。なお、パネル壁面へ鋼板を貼着する場合は、パネルの引張側壁面の幅方向における両端部付近であってその長さ方向に沿って、2枚の鋼板を平行かつ等間隔となるように配置した。
【0034】
【表1】

【0035】
表1の結果から明らかなように、鋼板を貼着していないALCパネル(比較例1、2)に比べて、本発明の補強ALCパネル(実施例1〜8)は、いずれも、曲げひび割れ荷重の下限値を加えた時のたわみ量が小さくなり、また、曲げひび割れ荷重の低下を抑えると共に、それが所定のパネルが有する許容荷重を上回ることができた。そして、最大破壊荷重においても大きく向上させることができた。
また、壁面に鋼板を貼着したALCパネル(比較例3〜6)は、補強効果は認められるものの、外観の見栄えが悪いと共に、鋼板が貼着されている位置を避けて丸孔を開けることが必要であった。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明によれば、パネルに作用する正圧荷重並びに負圧荷重の両荷重方向に対して、それぞれ均等に曲げ剛性を高めて、曲げひび割れなどの不具合を生じ難くする。
さらに、パネル壁面に孔を貫通させた場合でも、曲げひび割れ荷重の低下を抑えると共に、それがパネル許容荷重を上回ることができる。
これにより、ALCパネルを用いる建築分野へ貢献するところが極めて大きいといえる。
【符号の説明】
【0037】
P1,P2 ALCパネル
1 長辺小口面
2 鋼板
3 孔
4 切欠溝
5 補強鉄筋

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ALCパネルの長辺小口面に、硬化後におけるダンベル物性の破断時伸びが180%以下である弾性接着剤を介して、鋼板が貼着されていることを特徴とする補強ALCパネル。
【請求項2】
前記鋼板が、前記ALCパネルの長辺小口面に形成された切欠溝内に配置されていることを特徴とする請求項1に記載の補強ALCパネル。
【請求項3】
前記鋼板の幅寸法が前記ALCパネルの厚さの30%以上であると共に、長さ寸法が前記ALCパネルの長さの65〜90%であることを特徴とする請求項1または2に記載の補強ALCパネル。
【請求項4】
前記鋼板の厚さが0.8〜1.6mmであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の補強ALCパネル。
【請求項5】
ALCパネルの長辺小口面に、硬化後におけるダンベル物性の破断時伸びが180%以下である弾性接着剤を介して、鋼板を貼着することを特徴とする補強ALCパネルの製造方法。
【請求項6】
前記鋼板として、幅寸法が前記ALCパネルの厚さの30%以上であると共に、長さ寸法が前記ALCパネルの長さの65〜90%である鋼板を用いることを特徴とする請求項5に記載の補強ALCパネルの製造方法。

【図1(A)】
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【図1(B)】
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【図1(C)】
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【図2(A)】
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【図2(B)】
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【図2(C)】
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【公開番号】特開2011−202391(P2011−202391A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−69669(P2010−69669)
【出願日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【出願人】(000185949)クリオン株式会社 (105)
【Fターム(参考)】