説明

製パン用小麦粉の製造法

【課題】ソフト系小麦を用いて、製パン適性に優れ、かつ高品質で老化耐性に優れるパン類が得られる製パン用小麦粉の製造法を提供すること。
【解決手段】主としてソフト系小麦からなる原料小麦を常法により製粉して得られた小麦粉を、平均粒径の異なる以下の(A)〜(C)の3部分に分割し、(A)の部分と(C)の部分を混合することを特徴とする、製パン用小麦粉の製造法。
(A)主として粒径が15μm未満の小麦粉で構成され、平均粒径が15μm未満の小麦粉からなる部分
(B)主として粒径が15〜40μmの小麦粉で構成され、平均粒径が15〜40μmの小麦粉からなる部分
(C)主として粒径が40μmを超える小麦粉で構成され、平均粒径が40μmを超える小麦粉からなる部分

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製パン用の原料として好適な製パン用小麦粉の製造法、およびその方法によって得られる製パン用小麦粉、さらにはその製パン用小麦粉を主成分とする製パン用小麦粉組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
小麦粉は、一般的にロール粉砕および篩分けにより採取されるが、その粒度分布は、約5μm〜約180μmにわたっている。
また、小麦粉は、その組成として澱粉と蛋白質がその95重量%以上を占めており、小麦粉の粒径画分に着目すると、蛋白質画分、小粒澱粉画分、大粒澱粉画分、蛋白質と澱粉が複合構造をなす画分の4つの画分に大まかに分類される。ただし、小粒澱粉画分および大粒澱粉画分の小麦粉粒の表面には、微量の蛋白質が付着していることがある。
【0003】
一方、製パン用小麦粉は通常、外国産の強力小麦および/または準強力小麦を主原料として製造されているが、近年日本産の強力系小麦を用いて「国産小麦パン」として製造販売されることが増加してきている。しかしながら、日本産の強力系小麦は生産量が少なく、また品質的にも外国産の強力小麦および/または準強力小麦に比べ、製パン適性がまだまだ劣るという状況である。
【0004】
また、原料を軟質小麦とし、粒径が45〜150μmの大きさの粒が80質量%以上で、かつ45〜100μmの大きさの粒が60質量%以上である小麦粉が、高品質のパン類や中華麺類が得られる小麦粉として提案されている(特許文献1参照)。
【0005】
【特許文献1】特開2005−328789号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、ソフト系小麦を用いて、製パン用の原料として従来用いられている日本産の強力系小麦を主体として用いたものと同等かそれ以上に製パン適性に優れ、かつ高品質で老化耐性に優れるパン類が得られる製パン用小麦粉の製造法を提供することにある。
【0007】
従来、製粉工程において、上記の4つの画分を明確に分けることは困難であり、画分の違いによる二次加工適性を把握することは困難であった。
そこで本発明者等は、小麦粉を粒径の違いにより幾つかの部分に分割して、それらの二次加工適性を検証し、特徴のある小麦粉を得るために鋭意研究を重ねてきた。
その結果、日本産の普通小麦等のソフト系小麦から得られる小麦粉を用いても、該小麦粉を、粒径の大きい粗粉、粒径が中程度の中粉、粒径の小さい微粉の3つの部分に分割し、該粗粉と該微粉とを混合することにより、日本産の強力系小麦用いた場合と同等かそれ以上の製パン適性を有する小麦粉が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明は、主としてソフト系小麦からなる原料小麦を常法により製粉して得られた小麦粉を、平均粒径の異なる以下の(A)〜(C)の3部分に分割し、(A)の部分と(C)の部分を混合することを特徴とする、製パン用小麦粉の製造法を提供するものである。
(A)主として粒径が15μm未満の小麦粉で構成され、平均粒径が15μm未満の小麦粉からなる部分(以下、微粉部分という)
(B)主として粒径が15〜40μmの小麦粉で構成され、平均粒径が15〜40μmの小麦粉からなる部分(以下、中粉部分という)
(C)主として粒径が40μmを超える小麦粉で構成され、平均粒径が40μmを超える小麦粉からなる部分(以下、粗粉部分という)
また、本発明は、上記の本発明の製造法で得られる製パン用小麦粉を50質量%以上含有する製パン用小麦粉組成物を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の製パン用小麦粉の製造法によれば、原料としてソフト系小麦粉を用いているにもかかわらず、製パン適性に優れ、かつ高品質で老化耐性に優れるパン類が得られる製パン用小麦粉を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明に使用される原料小麦としては、主としてソフト系小麦が挙げられ、このソフト系小麦の品種としてはソフトレッドホイートおよびソフトホワイトホイート等がある。ソフトレッドホイートの例としては日本産の普通小麦、米国産のソフトレッドウインター(SRW)等があり、ソフトホワイトホイートの例としては米国産のホワイトホイート(WW)、オーストラリア産のオーストラリアスタンダードホイート(ASW)等がある。
本発明に使用される原料小麦としては、これらのソフト系小麦を単品で使用しても、あるいは2種以上混合使用してもよく、かつこれらのソフト系小麦を50質量%以上、好ましくは80質量%以上含む主原料として使用する。
本発明に使用される原料小麦としては、主原料として使用するソフト系小麦以外に、ハード系小麦、セミハード系小麦を目的に応じて混合して使用してもよい。
【0011】
本発明においては、上記のように主としてソフト系小麦からなる原料小麦を、常法により製粉して得られた小麦粉を用いる。この小麦粉は灰分が0.5質量%以下のものを用いることが好ましい。
【0012】
本発明においては、上記の小麦粉を、平均粒径の異なる前記の(A)微粉部分、(B)中粉部分および(C)粗粉部分の3部分に分割する。
この分割の方法としては、空気分級および/または篩分けによる方法が挙げられる。
【0013】
空気分級による方法の場合は、日清エンジニアリング社製のターボクラシファイア(商品名)などの空気分級機を使用して行えばよく、篩分けによる方法の場合は、目開き約15μmの篩および目開き約40μmの篩を使用して行えばよい。本発明においては、これらの、空気分級と篩分けを適宜組合わせて行ってもよい。
【0014】
この分割によって得られる各部分の割合はおおよそ以下のようになる。
(A)微粉部分が約10〜20質量%
(B)中粉部分が約30〜50質量%
(C)粗粉部分が約40〜50質量%
また、この分割は、以下のように分割することが好ましい。すなわち、(A)微粉部分の小麦粉における粒径が15μm未満の小麦粉の構成割合、(B)中粉部分の小麦粉における粒径が15〜40μmの小麦粉の構成割合、および(C)粗粉部分の小麦粉における粒径が40μmを超える小麦粉の構成割合が、各々60質量%以上、好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上であるように分割する。
【0015】
次いで、上記のように分割した3部分のうち、(A)の微粉部分と(C)の粗粉部分を混合する。この混合によって、本発明の目的とする製パン用小麦粉を得ることができる。
【0016】
本発明でいう小麦粉の平均粒径を求めるには、小麦粉の粒径分布を測定すればよい。この粒径分布は、例えば日機装株式会社製「マイクロトラック粒径分布測定装置9200FRA」を用いて乾式で測定することができる。なお粒径の頻度とは、粒径分布を解析し、計算した「検出頻度割合」である(日機装株式会社製の上記装置9200FRAに添付された資料「マイクロトラック粒度分析計測定結果の見方」参照)。
【0017】
次に、本発明の製パン用小麦粉組成物について説明する。
本発明の製パン用小麦粉組成物は、前記の本発明の製造方法により(A)の微粉部分と(C)の粗粉部分を混合して得た製パン用小麦粉を、必要に応じて強力粉、準強力粉等の通常の製パン用小麦粉と混合して、その含有量を50質量%以上、好ましくは70質量%以上となるように調整したものである。
【0018】
本発明の製パン用小麦粉組成物には、本発明の製造方法により得られた製パン用小麦粉および前記した通常の製パン用小麦粉以外に、そば粉、米粉、コーンフラワー、大麦粉等の穀粉類;タピオカ澱粉、馬鈴薯澱粉、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、小麦澱粉等の澱粉およびこれらのα化、エーテル化、エステル化、アセチル化、架橋処理等の加工澱粉等;卵粉;増粘剤;油脂類;乳化剤;食塩等の無機塩類;活性グルテン;酵素剤;色素類等、通常の製パンに用いられる副原料を配合することができる。
【実施例】
【0019】
次に本発明をさらに具体的に説明するために実施例を挙げるが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0020】
実施例1
日本産の普通小麦(品種;ホクシン)100質量%からなる原料を常法により製粉し、灰分0.37質量%の小麦粉(母体小麦粉)を採取した。この小麦粉を空気分級機(日清エンジニアリング社製のターボクラシファイア)を用いて、粒径約15μm近傍と約40μm近傍のカットポイントで分級し、以下の(A)〜(C)の3部分に分けた小麦粉を調整した。
(A)粒径が15μm未満の小麦粉の構成割合が約75質量%で、平均粒径が14μmの微粉部分
(B)粒径が15〜40μmの小麦粉の構成割合が約70質量%で、平均粒径が25μmの中粉部分
(C)粒径が40μmを超える小麦粉の構成割合が約87質量%で、平均粒径が85μmの粗粉部分
分級前の母体小麦粉、(A)の微粉部分、(B)の中粉部分および(C)の粗粉部分について、日機装株式会社製「マイクロトラック粒径分布測定装置9200FRA」を用いて、それぞれの粒径分布を測定した。その結果を図1〜4にそれぞれ示す。
次いで、上記(A)の微粉部分と上記(C)の粗粉部分を混合して、本発明の製パン用小麦粉を得た。この製パン用小麦粉の粒径分布の測定結果を図5に示す。また、この製パン用小麦粉の灰分は0.41質量%、粗蛋白は12.1質量%であった。
【0021】
対照例1
日本産の強力系小麦(キタノカオリ)100質量%からなる原料を常法により製粉し、灰分0.36質量%の小麦粉を採取した。これを対照例1とした。
【0022】
試験例1
実施例1および対照例1の小麦粉をそれぞれ100質量部用いて、以下の製パン配合および製パン工程で処理して食パンをそれぞれ得た。すなわち、小麦粉100質量部、イースト4質量部、イーストフード0.1質量部、食塩2質量部、砂糖5質量部、脱脂粉乳2質量部および水を適宜質量部(表1中に記載)加えて低速で2分間、中速で4分間、高速で1分間混捏した後、ショートニング5質量部を加え、さらに中速で3分間、高速で1分間混捏してパン生地を得た(捏上げ温度28.0℃)。
得られたパン生地を室温で20分間発酵させ、次に1個260gに分割した後、20分間ベンチタイムをとった。次にこの生地を成形して1斤型に2個詰めた後、温度38℃および湿度85%の条件下で45分間ホイロをとった後、温度210℃の条件下で30分間焼成して食パンを得た。
実施例1および対照例1の小麦粉の製パン適性(ミキシング耐性および分割・成形時作業性)と、得られた各食パンの内相、食感および味・香りを、表2に示す評価基準に基づいて10人のパネラーにより評価した。その結果(10人のパネラーの平均点)を表1に示す。
【0023】
【表1】

【0024】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】実施例1で用いた分級前の母体小麦粉の粒径分布の測定結果を示す図である。
【図2】実施例1で分割した(A)の微粉部分の粒径分布の測定結果を示す図である。
【図3】実施例1で分割した(B)の中粉部分の粒径分布の測定結果を示す図である。
【図4】実施例1で分割した(C)の粗粉部分の粒径分布の測定結果を示す図である。
【図5】実施例1で得られた本発明の製パン用小麦粉の粒径分布の測定結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主としてソフト系小麦からなる原料小麦を常法により製粉して得られた小麦粉を、平均粒径の異なる以下の(A)〜(C)の3部分に分割し、(A)の部分と(C)の部分を混合することを特徴とする、製パン用小麦粉の製造法。
(A)主として粒径が15μm未満の小麦粉で構成され、平均粒径が15μm未満の小麦粉からなる部分
(B)主として粒径が15〜40μmの小麦粉で構成され、平均粒径が15〜40μmの小麦粉からなる部分
(C)主として粒径が40μmを超える小麦粉で構成され、平均粒径が40μmを超える小麦粉からなる部分
【請求項2】
(A)〜(C)の3部分において、(A)粒径が15μm未満の小麦粉、(B)粒径が15〜40μmの小麦粉、および(C)粒径が40μmを超える小麦粉の各割合が60質量%以上である、請求項1記載の製パン用小麦粉の製造法。
【請求項3】
(A)〜(C)の3部分の分割方法が空気分級および/または篩分けによる方法である、請求項1または2記載の製パン用小麦粉の製造法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の方法で得られる、製パン用小麦粉。
【請求項5】
請求項4記載の小麦粉を50質量%以上含有する、製パン用小麦粉組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−72954(P2008−72954A)
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−255901(P2006−255901)
【出願日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【出願人】(301049777)日清製粉株式会社 (128)
【Fターム(参考)】