説明

製本加工方法及び製本加工装置

【課題】 本発明は、製本冊子の装丁に樹脂含浸紙製のカーフを使用したときに、製本冊子断裁加工時における切断面の品質安定性を向上させる加工方法及び装置を提供することにある。
【解決手段】 樹脂含浸紙製のカーフを含む製本冊子の製本加工方法及び製本加工装置において、製本冊子の断裁予定部位を加熱して、加熱状態を保持したまま製本冊子を断裁製本加工する製本加工方法及び製本冊子を供給する供給手段と、製本冊子を搬送する搬送手段と、製本冊子の断裁予定部位を加熱する加熱手段と、製本冊子を断裁する断裁手段を備えたことを特徴とする製本加工装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製本冊子の装丁に樹脂含浸紙製のカーフを使用したときに、製本冊子断裁加工時における切断面の品質安定性を向上させる加工方法及び装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
環境保護を目的とし、冊子の装丁に用いる材料が、加工性の良い従来の塩ビ製の材料からアクリル酸エステル共重合体系の樹脂を含浸させた用紙に変更されている。この樹脂含浸紙は、燃やしても有害ガスを発生しにくいという特性があり、塩ビに代わる装丁材料として適している。
【0003】
樹脂含浸紙は、塩ビ材料を装丁に用いるときと同様にコシがあり、手触りや加工適性も良いものとして使用されている。しかしながら、樹脂含浸紙の粘り気のある性質が影響し、断裁刃のわずかな磨耗が影響し、冊子断裁時に断裁面において、毛羽立ちのような断裁不良が発生しやすい問題点がある(以下、毛羽立ちのような断裁不良を「むかれ」という。)。
【0004】
こうした問題点を解消するために、断裁刃の交換頻度を上げて、断裁刃を常時鋭利な状態に保つことで対応していた。しかし、刃の交換頻度を上げることは、生産機械の不稼働時間を増やすこととなり、断裁刃の交換に頼らずに、断裁品質を保つ生産方法が求められていた。
【0005】
冊子の製本装置としては、裁断テーブル上に載置された製本用束紙、仮とじ本等の3辺を裁断する装置として、三つ刃裁断機などが開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
また、断裁加工の品質についての技術としては、製本三方断裁加工工程において、中綴本背部両端の天地断裁部分に発生する背むしれや、断裁仕上り外観上の歪みを防止するための製本断裁方法及び断裁装置として、中綴本の天地断裁方法及び断裁装置が開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【0007】
小冊子の切断に際して、紙粉が小冊子の切り口近傍に付着することがないようにし、また、その切断面を綺麗なものとするために、レーザービームによって小冊子を裁断する方法として、小冊子の縁部切断方法が開示されている(例えば、特許文献3参照)。
【0008】
また、各種商業印刷物としての冊子の仕様や形態に対する多様な要望に対応するための能率的な多品種少量生産体制を実現するシステムとして、中綴冊子のインライン製本加工システムが開示されている(例えば、特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特公平1−55957号公報
【特許文献2】特開昭61−109693号公報
【特許文献3】特開2005−288479号公報
【特許文献4】特開2000−6547号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1については、所望の製本版型に合わせるように裁断することができるものであり、裁断の品質について保証するものではなく、三つ刃による三方断裁をしたとしても、樹脂含浸紙の切断に最適な切断面を得るとは限らなかった。
【0011】
アクリル酸エステル共重合体系の樹脂含浸紙は、温めると粘り気が弱くなるという特性があることから、これまで、ラインヒータによって冊子全体を温めて断裁していた。しかし、冊子の焦げ付きが懸念されることから所望の温度に加熱することができず、期待したほどの効果はなかった。そこで、冊子の切断部分だけを高温で温める機構を見出し、鋭意研究した結果、良好な加工をする方法と装置を開発するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0012】
樹脂含浸紙製のカーフを含む製本冊子の製本加工方法において、製本冊子の断裁予定部位を加熱して、加熱状態を保持したまま製本冊子を断裁製本加工することを特徴とする製本加工方法である。
【0013】
樹脂含浸紙製のカーフを含む製本冊子の製本加工装置において、製本冊子を供給する供給手段と、製本冊子を搬送する搬送手段と、製本冊子の断裁予定部位を加熱する加熱手段と、製本冊子を断裁する断裁手段を備えたことを特徴とする製本加工装置である。
【0014】
加熱手段は、ラインヒータ又はハロゲンライトを含む熱源から構成される加熱装置であることを特徴とする製本加工装置である。
【0015】
加熱手段は、製本冊子の断裁予定部位以外へのハロゲンライトを含む熱源からの熱照射を遮断するための熱遮断手段を備えたことを特徴とする製本加工装置である。
【発明の効果】
【0016】
搬送部位に沿って設置した加熱装置により、冊子背部に加熱を施し、冊子背部に柔軟性を持たせた状態で、断裁を実施することで、冊子背部のむかれを解消できた。
【0017】
さらに、柔軟性を保持した冊子を断裁することで、断裁刃の耐久性の向上も図ることができ、断裁刃交換の頻度及び不稼動時間の削減にもつながった。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】製本装置で製造される冊子を示す図である。
【図2】加熱部と断裁部の工程を示す概略図である。
【図3】ラインヒータによる加熱工程について示す断面図である。
【図4】ラインヒータによる加熱工程について示す図である。
【図5】(a)ハロゲンライトによる加熱工程について断面を示す図である。(b)ハロゲンライトによる加熱工程について上方からの斜視を示す図である。
【図6】ハロゲンライトによる加熱工程について示す図である。
【図7】断裁部での冊子の断裁方法の工程を示す図である。
【図8】正常な冊子と「むかれ」発生状態の冊子を断裁方向からの視点で示す図である。
【図9】正常な冊子と「むかれ」発生状態の冊子を冊子背部の上面からの視点で示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明を実施するための形態について、図面を参照して説明する。しかしながら、本発明はこれに限定されるものではなく、特許請求の範囲記載における技術的思想の範囲内であれば、その他の色々な実施の形態が含まれる。
【0020】
本装置は、供給部より冊子を供給し、冊子に断裁加工を施し排出する機構となっている。図2は、加熱部と断裁部の工程を示す概略図である。断裁部5前には、冊子を加熱するための加熱部を設けている。供給部より供給した冊子の断裁予定部位は、搬送爪により、搬送され、第1の加熱部3及び第2の加熱部4で加熱される。加熱された冊子は、再び搬送爪により搬送され、断裁部5で断裁加工され排出される。
【0021】
加熱部の加熱装置により加熱された断裁予定部位の冊子背部は、加熱による熱が冷めずに持続している間は、柔軟性を持つ。冊子背部への加熱による熱を保持し、柔軟性を維持したまま、断裁部まで搬送する。
【0022】
加熱の条件として、加熱装置の個数・時間・距離・照射角度などは、冊子の品質を損なわない条件が望ましい。断裁部での断裁時に、冊子背部への加熱により、冊子背部の柔軟性が保持されていれば、加熱装置の設置位置の限定は必要ない。例えば、断裁装置に付属していて、断裁直前に加熱しても問題ない。
【0023】
断裁部では、加熱部による加熱によって、冊子背部の柔軟性が保持されたままの状態で断裁される。断裁部を経て形成された冊子は、むかれが発生していない冊子として次工程ヘ排出される。
【0024】
加熱装置としては、ハロゲンライト又はラインヒータが挙げられる。この加熱装置を選定する理由として、局所的な加熱が可能なこと、短時間での高い伝熱性を有すること、発熱体の寿命が長いこと及び省スペースで設置できることなどであるが、これらの条件を満たす加熱装置であればハロゲンライト又はラインヒータ以外の加熱装置であっても良い。
【0025】
図5(a)、図5(b)及び図6では、ハロゲンライトの照射による場合を示している。冊子を断裁する箇所の冊子背部のみを局所的にかつ効果的に加熱させるため、加熱部の搬送ガイドに穴状の加工を施している。この穴状の加工により、冊子背部のみに照射可能とし、加熱が不要な箇所への照射を防ぐことができる。
【0026】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例に限定されない。
【実施例1】
【0027】
本発明の実施形態として、加熱部にラインヒータ6を用いて、冊子背部2を加熱し断裁する方法について詳述する。実施例1の場合、搬送速度50rpm/分、ラインヒータ6の設定温度110度の条件で実施した。
【0028】
図2に示すように製本加工装置供給部より供給された冊子1は第1の加熱部3へ搬送される。加熱方法として、図3及び図4のようにラインヒータ6を搬送ガイド8aの下部に設けている。冊子1が供給され、加熱部に搬送している間は、ラインヒータ6は常時加熱し続ける状態にある。冊子1の供給を停止し、加熱部に冊子1が搬送されない場合は加熱を停止する設定となっている。
【0029】
第1の加熱部3へ搬送された冊子1は、冊子背部2が加熱される。第1のラインヒータ6で搬送ガイド8aを加熱し、加熱された搬送ガイド8aにより冊子背部2に伝熱され、これにより冊子背部2を加熱し、冊子背部2の断裁予定部位に柔軟性を持たせている。ただし、加熱された搬送ガイド8aから冊子背部2を間接的に加熱させるため、冊子背部2以外へも若干加熱されるが、冊子1に焦げ付きなどの悪影響を与えない程度であれば問題ない。
【0030】
第1の加熱部3で冊子背部2を加熱された冊子1は、第2の加熱部4へ搬送される。冊子背部2を確実に加熱させるため加熱部は2箇所設置した。第2の加熱部4では、第1の加熱部3と同様に第2のラインヒータ6により冊子背部2が加熱される。冊子背部2が加熱された冊子1は、断裁部5まで搬送される。断裁部5に搬送された冊子1の冊子背部2は、40度程度に加熱されていることが望ましい。このときの冊子背部2の加熱状態は約30度であった。
【0031】
断裁部5では冊子1をクランプ12で押さえ、図7のように天部及び地部を同時に断裁する。断裁された冊子背部断裁面は、むかれがわずかに発生するものの所望の断裁品質を得られた。
【実施例2】
【0032】
実施例2では、加熱部をハロゲンライト7の照射により冊子背部2を加熱し、断裁する方法とした。実施例1より更に、必要箇所以外を加熱させないようにするため、冊子背部2にハロゲンライト7で局所的に照射し、加熱する機構とした。冊子1が供給され、第1の加熱部3手前の搬送ライン上に冊子1が供給されている間は、冊子1をセンサにより感知し、ハロゲンライト7が点灯する設定となっている。第1の加熱部3手前で、冊子1の供給停止をセンサで感知すると、ハロゲンライト7は消灯する設定となっている。実施例2の場合、搬送速度50rpm/分、ハロゲンライト7の設定温度130度の条件で実施した。以下に詳述する。
【0033】
供給部より冊子を供給する。実施例1と同様に第1の加熱部3へ冊子1が搬送される。ここで、断裁予定部位の冊子背部2のみにハロゲンライト7からの照射をするため、搬送ガイド8aは、図5(a)、図5(b)及び図6に示すように、搬送ガイド8a及びコーナー部分を削り取った熱遮断板9から構成される。熱遮断板9には穴状の加工が施された、熱遮断板窓部10が設けられている。
【0034】
第1の加熱部3では図5に示すように、ハロゲンライト7を用いて熱遮断版9の斜め下方向から冊子背部2に局所的に照射し、加熱する形態となっている。冊子背部2には、ハロゲンライト7からの照射熱が、熱遮断板窓部10を通して直接的に加熱される。実施例2では、熱遮断板9の効果による、ハロゲンライトの照射熱を遮断する効果により、冊子1の冊子背部2以外への加熱が無く、必要箇所のみへの加熱が可能となった。
【0035】
第1の加熱部3で冊子背部2を加熱された冊子1は、第2の加熱部4へ搬送される。冊子背部2を確実に加熱させるため加熱部は2箇所設置した。第2の加熱部4では、第1の加熱部3と同様に第2のハロゲンライト7により冊子背部2は加熱される。冊子背部2が加熱された冊子1は、断裁部5まで搬送される。断裁部5に搬送された冊子1の冊子背部2は、40度程度に加熱されていることが望ましい。実施例2は実施例1より、冊子背部2に高い柔軟性を持たせることが可能となった。このときの冊子背部2の加熱状態は約40度であった。
【0036】
断裁部5では、冊子1をクランプ12で押さえ、図7のように天部及び地部を同時に断裁する。冊子背部2をハロゲンライト7により効果的に加熱されたため、高い柔軟性を持たせたまま断裁された。実施例2の冊子背部断裁面は、実施例1より高い断裁品質を得られた。冊子背部2のむかれの解消となり、期待された品質が得られた。
【0037】
断裁後の、むかれが解消された冊子は、次工程へ排出される。
【0038】
以上2つの実施例から、むかれを解消するためには、加熱部にハロゲンライトを用いることでより良い結果を得られたが、ラインヒータについても、所望の断裁品質は得られた。設定温度の変更やラインヒータでの加熱時間を調節することにより、冊子の加熱状態は調整できることから、適宜、条件を満たす加熱装置を選定すれば良い。
【符号の説明】
【0039】
1 冊子
2 冊子背部
3 第1の加熱部
4 第2の加熱部
5 断裁部
6 ラインヒータ
7 ハロゲンライト
8a 搬送ガイド(加熱側)
8b 搬送ガイド(非加熱側)
9 熱遮断板
10 熱遮断板窓部
11 断裁刃
12 クランプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂含浸紙製のカーフを含む製本冊子の製本加工方法において、前記製本冊子の断裁予定部位を加熱して、前記加熱状態を保持したまま前記製本冊子を断裁製本加工することを特徴とする製本加工方法。
【請求項2】
樹脂含浸紙製のカーフを含む製本冊子の製本加工装置において、前記製本冊子を供給する供給手段と、前記製本冊子を搬送する搬送手段と、前記製本冊子の断裁予定部位を加熱する加熱手段と、前記製本冊子を断裁する断裁手段を備えたことを特徴とする製本加工装置。
【請求項3】
前記加熱手段は、ラインヒータ又はハロゲンライトを含む熱源から構成される加熱装置であることを特徴とする請求項2記載の製本加工装置。
【請求項4】
前記加熱手段は、前記製本冊子の断裁予定部位以外へのハロゲンライトを含む熱源からの熱照射を遮断するための熱遮断手段を備えたことを特徴とする請求項2又は3記載の製本加工装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2011−200982(P2011−200982A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−71292(P2010−71292)
【出願日】平成22年3月26日(2010.3.26)
【出願人】(303017679)独立行政法人 国立印刷局 (471)
【Fターム(参考)】