説明

製紙用フェルト及びその製造方法

【課題】製造コストの低減及び納期の短縮化を図ると共に、製紙機内を走行する際の振動や製品に発生するマークを低減する。
【解決手段】有端の織布片を丈方向に複数接合して得られる基布を有する製紙用フェルトにおいて、織布片11が、幅方向に対して傾斜した方向に延在する接合縁部12で相互に接合されたものとする。特に織布片の接合縁部が、幅方向に対して傾斜して配された緯糸22に沿って、幅方向に対して傾斜した状態に形成され、接合縁部において経糸21のみが相互に接合されたものとする。さらに織布片が、原反織布を幅方向に対して傾斜した切断ラインで切断して得られたものであり、切断縁部が製紙機上で耳部となるものとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有端の織布片を丈方向に複数接合して得られる基布を少なくとも1層有する基布層にバット繊維層を一体化させた製紙用フェルト及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
製紙用フェルトの基布は、一般的に袋織り、すなわち製紙機上の緯糸を織機上で経糸(整経糸)とし、製紙機上の経糸を織機上で打込み糸として、無端状に製織する方法により製作されるが、この袋織りでは、丈寸法に応じて整経幅を変えなければならず、様々な丈寸法の基布を製織する場合には、準備作業に手間を要し、さらに耳部の折り癖を直す工程が必要になることから、製造コストが嵩み、また納期が長期化するという問題がある。
【0003】
このような問題を解決するため、有端の織布片の接合縁部に設けたループをかみ合わせて芯線を通して接合する手法や、接合縁部の経糸及び緯糸を超音波溶着などにより相互に溶着して接合する手法により、有端の織布片を丈方向に複数接合して基布を製作する技術が知られている(特許文献1・2参照)。また、小幅の長い織物をらせん状に巻いて所要の幅寸法及び丈寸法の基布を製作する技術が知られている(特許文献2参照)。
【特許文献1】特開昭63−54840号公報
【特許文献2】特表2006−510812号公報
【特許文献3】特許第3027414号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかるに、有端の織布片を丈方向に複数接合する構成において、従来のように接合部が幅方向に真直に延びていると、物性が地部と異なる接合部が、プレスロールのニップ部に一度に進入するため、衝撃が大きくなり、大きな振動を発生させると共に、湿紙に過大な圧力が作用してマークを発生させるという問題が生じる。
【0005】
本発明は、このような従来技術の問題点を解消するべく案出されたものであり、その主な目的は、製造コストの低減及び納期の短縮化を図ると共に、製紙機内を走行する際の振動や製品に発生するマークを低減することができるように構成された製紙用フェルト及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このような課題を解決するために、本発明においては、請求項1に示すとおり、有端の織布片を丈方向に複数接合して得られる基布を少なくとも1層有する基布層にバット繊維層を一体化させた製紙用フェルトにおいて、前記織布片が、幅方向に対して傾斜した方向に延在する接合縁部で相互に接合されたものとした。
【0007】
これによると、有端の織布片を丈方向に複数接合して基布が製作されるため、袋織りの場合のように、様々な丈寸法の基布を製織する場合にその丈寸法に応じて整経幅を変える手間や、耳部の折り癖を直す工程が不要となり、製造コストを低減すると共に納期の短縮化を図ることができる。
【0008】
そして、接合部が幅方向に対して傾斜した方向に延びた状態となることから、プレスロールのニップ部に接合部が徐々に進入するようになるため、衝撃が小さくなり、振動を低減すると共に、湿紙に過大な圧力が作用することを避けてマークの発生を抑えることができる。
【0009】
前記製紙用フェルトにおいては、請求項2に示すとおり、前記織布片の接合縁部が、幅方向に対して傾斜して配された緯糸に沿うように形成され、前記接合縁部において経糸のみが相互に接合された構成とすることができる。
【0010】
これによると、緯糸を接合しないため、接合状態が乱雑になる不具合を避けることができ、これにより接合不良に起因する製品のマーク発生や接合強度の低下を回避することができる。また、緯糸が幅方向の途中で切断された状態とならないため、切断された緯糸がフェルト表面から突き出て製品の品質を低下させるなどの不具合を避けることができる。
【0011】
前記製紙用フェルトにおいては、請求項3に示すとおり、前記織布片が、緯糸を織機上で経糸とし、経糸を織機上で打込糸として製織された原反織布を、幅方向に対して傾斜した切断ラインで切断して得られたものであり、切断縁部が製紙機上で耳部となる構成とすることができる。
【0012】
これによると、緯糸が幅方向に対して傾斜して配されると共にこの緯糸に沿って接合縁部が幅方向に対して傾斜した状態に形成された織布片を簡単に得ることができる。
【0013】
さらに、原反織布の丈方向が製紙機上の幅方向となり、原反織布の幅方向が製紙機上の丈方向となり、原反織布の切断位置を変えることで任意の幅寸法の基布を製作することができ、また接合する織布片の枚数を増減すると共に適宜に切除することで任意の丈寸法の基布を製作することができる。また、経糸及び緯糸の関係が袋織りの場合と同様となるため、織布片の元になる原反織布の製織と一般的な袋織り製織とを、経糸及び緯糸を入れ替えることなく行うことができる。
【0014】
この場合、原反織布の耳部が接合縁部となるが、接合が完了した状態での全体が所要の丈方向寸法となるように、原反織布を丈方向の切断ラインで切断した場合には、その丈方向の切断ラインによる切断縁部が接合縁部となる。
【0015】
前記製紙用フェルトにおいては、請求項4に示すとおり、前記基布層が、少なくとも2層を前記織布片を相互に接合して得られた基布で構成され、これらの基布の緯糸本数密度を6本/cm以下とした構成とすることができる。
【0016】
これによると、基布の目付が過大となることを避けることができ、特に柔軟性が確保されるため、掛け入れ性を向上させることができる。
【0017】
この場合、例えば1重織の基布を3枚重ね合わせた3層構造では、このうちの2つの層の基布の緯糸本数密度を通常の半分とすると、1重織の基布と2重織の基布とを重ね合わせた2層構造の一般的な基布と同等の緯糸本数密度とすることができる。
【0018】
前記製紙用フェルトにおいては、請求項5に示すとおり、前記基布層が、少なくとも2層を前記織布片を相互に接合して得られた基布で構成され、これらの基布が、前記織布片相互の接合部の幅方向に対する傾斜方向を互いに逆向きにして配置された構成とすることができる。
【0019】
これによると、各層の接合部の傾斜方向が互いに逆向きとなるため、各層の糸がX字状に配置された、いわゆる多軸基布となり、寸法安定性や走行安定性を向上させることができる。その上、各層の基布が互いの糸が交差した状態で重なるため、大きな開口を確保することができ、搾水性の低下を抑えることができる。
【0020】
この他に、織布片を相互に接合して得られた基布同士で接合部を丈方向にずらした構成としても良く、これにより製品に発生するマークや製紙機内を走行する際の振動をより一層低減することができる。
【0021】
なお、基布層を構成する基布を全て、織布片を接合した基布とする他、袋織りによる無接合の織物からなる基布を適宜に組み合わせることも可能である。
【0022】
また、本発明においては、請求項6に示すとおり、有端の織布片を丈方向に複数接合して得られる基布を少なくとも1層有する基布層にバット繊維層を一体化させた製紙用フェルトの製造方法において、原反織布を幅方向に対して傾斜した切断ラインで切断して有端の織布片を得る切断工程と、この切断工程で得られた前記織布片において、原反織布で耳部となる縁部、あるいは原反織布を丈方向の切断ラインで切断した切断縁部を接合縁部として、複数の前記織布片を相互に接合する接合工程とを有するものとした。
【0023】
これによると、有端の織布片が、幅方向に対して傾斜した接合縁部で相互に接合されるため、接合部が幅方向に対して傾斜した方向に延びた状態となり、製紙機内を走行する際の振動や製品に発生するマークを低減することができる。
【0024】
さらに、有端の織布片の接合縁部が、幅方向に対して傾斜して配された緯糸に沿って、幅方向に対して傾斜した状態に形成され、接合縁部において経糸のみが相互に接合されて、緯糸が接合されないため、接合状態が乱雑になる不具合を避けることができ、これにより接合不良に起因する製品のマーク発生や接合強度の低下を回避することができる。また、緯糸が幅方向の途中で切断された状態とならないため、切断された緯糸がフェルト表面から突き出て製品の品質を低下させるなどの不具合を避けることができる。
【0025】
前記製紙用フェルトの製造方法においては、請求項7に示すとおり、前記切断工程において、溶融切断により前記原反織布を切断する構成とすることができる。
【0026】
これによると、原反織布を切断した際に、経糸と緯糸とが交差する部分で経糸と緯糸とが同時に加熱されて溶融することで、経糸及び緯糸が互いに強固に接合されるため、糸の抜け出しが阻止され、糸の解れを抑えることができ、これにより解れた糸により生じる製紙機の損傷などの不具合を防止することができる。
【発明の効果】
【0027】
このように本発明によれば、有端の織布片を丈方向に複数接合して基布が製作されるため、製造コストを低減することができ、また納期を短縮することができる。そして、接合部が幅方向に対して傾斜した方向に延びた状態となるため、製紙機内を走行する際の振動や製品に発生するマークを低減することができる。さらに、原反織布を斜めに切断して得られた織布片を経緯逆にして接合することにより、目的の寸法の基布を容易に製造することができる。また、各層の基布を接合部の傾斜方向を互いに逆向きにして重ね合わせることにより、寸法安定性や走行安定性を向上させると共に、大きな開口を確保して搾水性の低下を抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照しながら説明する。
【0029】
図1は、本発明によるフェルトの一例を示す断面図である。このフェルトFは、基布層1にバット繊維層2をニードリングにより積層一体化してなるものであり、基布層1は、第1〜第3の3枚の基布3〜5を重ね合わせたラミネート構造をなしている。第1〜第3の各基布3〜5は、1重織であり、以下に示すように有端の織布片を丈方向に複数枚接合して無端状をなしている。
【0030】
図2は、図1に示した基布を示す模式的な斜視図である。第1の基布3は、有端の織布片11を複数枚(ここでは3枚)丈方向に接合して無端状に形成される。各織布片11の接合縁部12は、幅方向に対して傾斜した状態となっており、各織布片11の接合縁部12を相互に接合してできた接合部13が、幅方向に対して傾斜した方向に延びている。なお、図1に示した第2の基布4及び第3の基布5も、この第1の基布3と同様である。
【0031】
図3は、図2に示した基布の要部を示す模式的な平面図であり、(A)に接合前の状態を、(B)に接合後の状態をそれぞれ示している。有端の織布片11においては、経糸21及び緯糸22が丈方向及び幅方向に対して斜めに配され、接合縁部12は、緯糸22に沿うように幅方向に対して斜めに形成されている。この接合縁部12では、経糸21のみが切断された状態となっており、経糸21のみが相互に接合される。また、幅方向の端に位置する耳部14では、丈方向に対して斜めに配された経糸21が途中で切断された状態となっている。
【0032】
図4は、図2に示した基布の接合部の傾斜角度を説明する模式図である。接合部13が幅方向に対して傾斜した方向に延びていると、プレスロール41のニップ領域(フェルトFに圧接する領域)42に接合部13が一度に進入しないため、衝撃が小さくなり、振動を低減すると共に、湿紙に過大な圧力が作用することを避けてマークの発生を抑えることができる。
【0033】
ここで、接合部13の幅方向に対する傾斜角度αが大きくなるのに伴って、プレスロール41のニップ領域42に接合部13が一度に進入する幅W1が小さくなり、これに応じて衝撃が小さくなり、この接合部13の傾斜角度αは、フェルトFの幅Wf、及びプレスロール41のニップ幅Wnに応じて、所要の効果が得られるように設定すれば良い。特に接合部13の傾斜角度αは30°以下とすることが好ましい。接合部13(緯糸22)の傾斜角度αが30°より大きいと、丈方向の引張力によりフェルトFが丈方向に伸長すると同時に幅方向に収縮する、いわゆる幅入りが許容限度を超える不都合が生じる。
【0034】
図5は、図2に示した基布の製作の要領を示す模式図である。有端の織布片11は、織機51で製織された原反織布52を幅方向に対して傾斜した切断ラインで切断して得られ、この切断により形成された切断縁部が完成状態での耳部14となり、織布片11を接合縁部12で接合する際には、この耳部14が一直線状になるように織布片11を揃える。
【0035】
またここでは、織機上の耳部53が接合縁部12となるが、完成状態での全体が所要の丈寸法となるように、原反織布52を丈方向の切断ラインで切断した場合には、その丈方向の切断ラインによる切断縁部が接合縁部12となる。
【0036】
織機51は、ボビン55に巻かれた打込糸となる糸材をグリッパー56に把持させて杼口に通す構成のいわゆるスルザー織機であり、この織機51上の打込糸が完成状態での経糸21となり、織機51上の経糸(整経糸)が完成状態での緯糸22となる(図3参照)。
【0037】
図6は、図3に示した織布片の接合状況を詳しく示す平面図である。ここでは、2つの織布片11の接合縁部12を相互に接合するために、その接合縁部12の各々において緯糸22を端から所要の本数除去してできた経糸21のみの部分が互いに重複するように重ね合わされ、ここに経糸21に架設された態様で架橋糸61が緯糸22と平行に配置されて、この架橋糸51と経糸21とが超音波溶着される。
【0038】
図7は、図3に示した基布の耳部を詳しく示す平面図である。原反織布42を切断して得られる織布片11の耳部14では、経糸21及び緯糸22が斜めに切断されることで、経糸21と緯糸22とが交差する部分が一定間隔をおいて現れる。ここで、糸を溶融切断するヒートカッター(熱溶融カッター、超音波カッターなど)を用いて原反織布42を切断すると、経糸21と緯糸22とが交差する部分で、経糸21と緯糸22とが同時に加熱されて溶融することで、経糸21及び緯糸22が互いに強固に接合される。この溶融接合部71では、経糸21及び緯糸22の抜け出しが阻止され、経糸21及び緯糸22の解れを抑えることができる。
【0039】
なお、耳部14の解れを防止する上で前記の溶融接合は充分に効果的であるが、さらに強化するために、耳部14に液状の合成樹脂材を充填する、あるいはシート状(フィルム状)の合成樹脂材を貼り付けるなどの樹脂加工を追加実施するようにしても良い。
【0040】
図8は、図1に示した基布の重ね合わせの一例を示す模式的な斜視図である。ここでは、2枚の基布4・5相互で接合部13の幅方向に対する傾斜方向が互いに逆になるように2枚の基布4・5が重ね合わされる。これにより2枚の基布4・5の接合部13が全体的に重なり合うことを避けることができるため、製紙機内を走行する際の振動を低減すると共に製品に発生するマークを抑えることができる。
【0041】
このように2枚の基布4・5で接合部13の傾斜方向を逆向きとするには、図5に示した要領で2枚の基布4・5を同様に製作した後、一方の表裏を反転させれば良い。
【0042】
図9は、図8に示した2枚の基布を重ね合わせた状態を詳しく示す平面図である。2枚の基布4・5が、接合部13の幅方向に対する傾斜方向が互いに逆向きになるように重ね合わされることで、図9(A)に示すように、経糸21及び緯糸22の傾斜方向も2枚の基布4・5で互いに逆向きになり、基布4・5の経糸21同士がX字状に配置されると共に基布4・5の緯糸22同士がX字状に配置された、いわゆる多軸基布となり、寸法安定性や走行安定性が向上する。
【0043】
ここで、図9(B)に示すように、2枚の基布91・92で経糸93及び緯糸94が幅方向に対して傾斜していない場合には、2枚の基布91・92が一方の開口(糸間の隙間)を他方の糸が塞ぐように重なると、全体としての開口が狭くなり、また、2枚の基布91・92が互いの開口が整合するように重なると、全体としての開口の状態は殆ど変わらず、2枚の基布91・92の各々の開口と糸の位置関係に応じて全体としての開口の状態が大きく変化する不都合が生じる。
【0044】
一方、図9(A)に示すように、経糸21及び緯糸22が傾斜し、且つその傾斜方向が2枚の基布4・5で互いに逆向きになると、2枚の基布4・5が互いの糸が交差した状態で重なるため、全体としての開口はそれ程狭められず、また2枚の基布4・5の各々の開口と糸の位置関係に応じて全体としての開口の状態が大きく変化することもない。
【0045】
また、小幅の長い織布をらせん状に巻いて基布を製作する場合には、傾斜角度を大きくとることに限界があるが、ここでは、傾斜角度を任意に設定することが可能であり、基布の設計条件(糸の本数密度)等を考慮して十分な開口が得られる適切な傾斜角度に設定すれば良い。一般的には、経糸21の丈方向(進行方向)に対する傾斜角度β(=α)を±10°から±22.5°とし、2枚の基布4・5の各経糸21の相対角度を20°〜45°とすると、大きな開口を確保することができる。
【0046】
なお、前記のように経糸21及び緯糸22の傾斜方向が互いに逆向きになる2枚の基布4・5に、さらに丈方向及び幅方向に経糸及び緯糸が配された通常の基布を重ね合わせることも可能であり、このようにすると、糸の方向がさらに増えるため、寸法安定性や走行安定性をより一層向上させることができる。
【0047】
図10は、図1に示した基布の重ね合わせの一例を示す模式的な側面図である。ここでは、3枚の基布3〜5相互で接合部13が丈方向にずらして配置されるように3枚の基布3〜5が重ね合わされている。これによると、接合部13が互いに離間しているため、接合部13の影響を分散させることができ、製紙機内を走行する際の振動や製品に発生するマークを低減することができる。
【0048】
図11は、図5に示した織布片の接合に用いられる接合装置を示す正面図である。図12は、図11に示した接合装置による作業状況を示す上面図である。図11に示すように、この接合装置111は、超音波振動子及びホーンを備えたヘッド112とアンビル113との間に、織布片11の接合縁部12を挟み込んで、その接合縁部12を加圧しながら超音波振動を印加して、接合縁部12の経糸を溶着するものであり、ヘッド112及びアンビル113を備えた接合ユニット114が、織布片11の接合箇所数に応じて複数(ここでは3基)並べて設けられている。
【0049】
接合ユニット114は、床面上に延設されたガイドレール115に沿って移動し、ヘッド112は、図12中に(i)〜(iv)に示すように、接合ユニット114の本体に対して前後に進退するように設けられており、ヘッド112を最後退位置(i)から1回の溶着操作ごとに前進させて段階的に溶着箇所をずらし、さらにヘッド112が最前進位置(iv)に到達すると接合ユニット114全体を前進させて、次の溶着箇所の溶着を行い、このヘッド112の前進動作と接合ユニット114の前進動作とを繰り返して接合作業が進められる。
【0050】
また、図11に示したように、この接合装置111では、織布片11が嵩張らないようにするため、織布片11を巻き軸に巻き付けた状態で収容する収容ユニット116が接合ユニット114の間に設けられている。さらに、端に位置する接合ユニット114で一方の接合縁部12が接合される織布片11の他方の接合縁部12を反対側の端に位置する接合ユニット114に導くために、織布片11を1対のガイドローラ117に巻き掛けて接合ユニット114の上方に掛け渡すようにしている。
【0051】
図13は、図1に示した基布の具体例を示している。上層の第1の基布は5/1崩織り、中間層の第2の基布及び下層の第3の基布は平織りとなっている。
【0052】
上層の第1の基布の経糸には、φ0.2mmのフィラメントを2本撚り合わせた撚り糸が用いられる。中間層の第2の基布及び下層の第3の基布の経糸には、φ0.2mmのフィラメントを2本撚り合わせた撚り糸をさらに3本撚り合わせた撚り糸が用いられる。上層の第1の基布、中間層の第2の基布及び下層の第3の基布の緯糸には、φ0.2mmのフィラメントを2本撚り合わせた撚り糸をさらに2本撚り合わせた撚り糸が用いられる。
【0053】
ラミネート構造の基布では、1重織の基布を上側に、2重織の基布を下側にそれぞれ配した2層構造が一般的であり、この場合、各基布の緯糸本数密度を8本/cmとすると、基布全体の緯糸本数密度は16本/cmとなる。
【0054】
これに対して、本基布では、高い強度を確保するために1重織の基布を3枚重ね合わせた3層構造とすると共に、基布目付が過大になるのを避けるため、緯糸本数密度を従来より低く設定している。すなわち、上層の第1の基布の緯糸の緯糸本数密度は、製紙面の平滑性に影響を及ぼすことから、従来通りの8本/cmとし、中間層の第2の基布及び下層の第3の基布の緯糸本数密度を、従来の半分の4本/cmとしており、これにより基布全体の緯糸本数密度を従来通りの16本/cmとすることができる。
【0055】
このように少なくとも2層を織布片を相互に接合して得られた基布で形成した場合には、その基布の緯糸本数密度を通常より小さくする、望ましくは緯糸本数密度を6本/cm以下とすると良く、これにより基布の目付が過大となることを避けることができ、特に柔軟性が確保されるため、掛け入れ性を向上させることができる。
【0056】
図14は、糸の本数密度が不均一な場合の開口の状態を示す平面図である。基布においては、部位によって糸の本数密度に微妙な差異があり一様ではない。このため、図14(A)に示すように、2枚の基布で経糸及び緯糸が幅方向に対して傾斜していない場合には、2枚の基布を重ね合わせたときの全体としての開口率が位置によって異なり、開口率の低い部分と開口率の高い部分とが生じる。このように開口率が不均一であると、搾水の均一性が損なわれてしまう。特に、糸径の大きな経糸の影響が大きく、進行方向(丈方向)に延びた経縞状の搾水斑が発生し、紙に経糸方向の筋状マークが現れる問題が生じる。
【0057】
一方、図14(B)に示すように、経糸及び緯糸が傾斜し、且つその傾斜方向が2枚の基布で互いに逆向きになる場合には、糸の本数密度が、2枚の基布を重ね合わせたときの全体としての開口率に及ぼす影響は小さく、糸の本数密度が不均一でも開口率は概ね均一となり、経縞状の斑にはならない。
【0058】
図15は、糸の傾斜角が小さい場合に発生する干渉縞を示す平面図である。前記のように、小幅の長い織布をらせん状に巻いて基布を製作する場合には、糸の傾斜角度を大きくとることに限界があるが、このように糸の傾斜角度が小さいと、多くの場合、2枚の基布を重ね合わせた際に、開口率の低い帯状領域Aが周期的に現れる干渉縞が、図15(A)に示すように幅方向に、あるいは図15(B)に示すように斜め方向に発生する。
【0059】
このような開口率の不均一は、基布にバット繊維層を一体化させるニードルパンチング工程において、繊維の移動性に悪影響を及ぼすため、バット繊維層の繊維密度を不均一にさせてしまい、開口率の不均一に加えて繊維密度の不均一の影響により、搾水斑が発生し易くなり、また振動が起き易くなる問題が生じる。これに対して、本発明では、糸の傾斜角度を任意に設定することができ、開口率や繊維密度の不均一を招くことのない十分に大きな傾斜角度に設定することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明にかかる製紙用フェルト及びその製造方法は、製造コストの低減及び納期の短縮化を図ると共に、製紙機内を走行する際の振動や製品に発生するマークを低減することができる効果を有し、抄紙機のプレスパート(圧搾部)で用いられるプレスフェルトや、ドライパート(乾燥部)で用いられるドライヤーフェルトなどとして有用である。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明によるフェルトの一例を示す断面図である。
【図2】図1に示した基布を示す模式的な斜視図である。
【図3】図2に示した基布の要部を示す模式的な平面図である。
【図4】図2に示した基布の接合部の傾斜角度を説明する模式図である。
【図5】図2に示した基布の製作の要領を示す模式図である。
【図6】図3に示した織布片の接合状況を詳しく示す平面図である。
【図7】図3に示した基布の耳部を詳しく示す平面図である。
【図8】図1に示した基布の重ね合わせの一例を示す模式的な斜視図である。
【図9】図8に示した2枚の基布を重ね合わせた状態を詳しく示す平面図である。
【図10】図1に示した基布の重ね合わせの一例を示す模式的な側面図である。
【図11】図5に示した織布片の接合に用いられる接合装置を示す正面図である。
【図12】図11に示した接合装置による作業状況を示す上面図である。
【図13】図1に示した基布の具体例を示す図である。
【図14】糸の本数密度が不均一な場合の開口の状態を示す平面図である。
【図15】糸の傾斜角が小さい場合に発生する干渉縞を示す平面図である。
【符号の説明】
【0062】
1 基布層
3〜5 基布
11 織布片
12 接合縁部
13 接合部
14 耳部
21 経糸
22 緯糸
51 織機
52 原反織布
53 耳部
71 溶融接合部
111 接合装置
112 ヘッド
113 アンビル
114 接合ユニット
115 ガイドレール
116 収容ユニット
117 ガイドローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有端の織布片を丈方向に複数接合して得られる基布を少なくとも1層有する基布層にバット繊維層を一体化させた製紙用フェルトであって、
前記織布片が、幅方向に対して傾斜した方向に延在する接合縁部で相互に接合されたことを特徴とする製紙用フェルト。
【請求項2】
前記織布片の接合縁部が、幅方向に対して傾斜して配された緯糸に沿うように形成され、前記接合縁部において経糸のみが相互に接合されたことを特徴とする請求項1に記載の製紙用フェルト。
【請求項3】
前記織布片が、緯糸を織機上で経糸とし、経糸を織機上で打込糸として製織された原反織布を、幅方向に対して傾斜した切断ラインで切断して得られたものであり、切断縁部が製紙機上で耳部となることを特徴とする請求項2に記載の製紙用フェルト。
【請求項4】
前記基布層が、少なくとも2層を前記織布片を相互に接合して得られた基布で構成され、これらの基布の緯糸本数密度を6本/cm以下としたことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の製紙用フェルト。
【請求項5】
前記基布層が、少なくとも2層を前記織布片を相互に接合して得られた基布で構成され、これらの基布が、前記織布片相互の接合部の幅方向に対する傾斜方向を互いに逆向きにして配置されたことを特徴とする請求項2若しくは請求項3に記載の製紙用フェルト。
【請求項6】
有端の織布片を丈方向に複数接合して得られる基布を少なくとも1層有する基布層にバット繊維層を一体化させた製紙用フェルトの製造方法であって、
原反織布を幅方向に対して傾斜した切断ラインで切断して有端の織布片を得る切断工程と、
この切断工程で得られた前記織布片において、原反織布で耳部となる縁部、あるいは原反織布を丈方向の切断ラインで切断した切断縁部を接合縁部として、複数の前記織布片を相互に接合する接合工程とを有することを特徴とする製紙用フェルトの製造方法。
【請求項7】
前記切断工程において、溶融切断により前記原反織布を切断することを特徴とする請求項6に記載の製紙用フェルトの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2010−31394(P2010−31394A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−191738(P2008−191738)
【出願日】平成20年7月25日(2008.7.25)
【出願人】(000229852)日本フエルト株式会社 (55)
【Fターム(参考)】