説明

製紙用フェルト

【課題】 基布を2枚以上積層してなる基体を含む製紙用フェルトにおいて、基体の製紙面側の面の平滑性を向上させる。
【解決手段】 製紙面側基布7及び走行面側基布8を積層してなる基体2にバット繊維層3をニードリングした製紙用フェルト1であって、製紙面側基布7は、経糸11と緯糸(12とを織り合わせて形成され、緯糸は、モノフィラメント糸であり、経糸は、2本のフィラメントを撚り合わせた撚り糸であり、緯糸の丈方向における単位長さ当たりの本数は、経糸の前記単位長さ当たりの撚り数の2倍以上とし、経糸は、緯糸を丈方向に横切るナックル部において、撚りが緩められて製紙面側基布の厚み方向に各フィラメントが互いに重なり合わないように配置された弛緩部17と、互いに隣接する緯糸間において、弛緩部よりも撚りが集中した撚り部18とを有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抄紙機において湿紙を運搬、搾水、乾燥等するために使用される製紙用フェルトに係り、詳しくは基布を2枚以上積層してなる基体を含む製紙用フェルトに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、抄紙機で使用する製紙用フェルトとして、経糸及び緯糸を互いに織り合わせた帯状の基布を2枚以上積層して基体を形成し、この基体の製紙面側(製紙用フェルトが湿紙を保持する面側)の面及び走行面側(製紙用フェルトが湿紙を保持する面側)の面にバット繊維層をニードリングによって結合したものがある。このような製紙用フェルトの基体は、基布の構成を各層で変化させることができるため、例えば、最も製紙面側に配置される基布の経糸及び緯糸の直径を小さくする共に糸密度を大きくする一方、他の走行面側(抄紙機に装着された状態でローラに接触する面側)の基布の経糸及び緯糸の直径を大きくする共に密度を小さくすることによって、製紙面の平滑性及び搾水性を共に向上させることができる。
【0003】
このような製紙用フェルトにおいて、基体の最も製紙面側に配置される基布の経糸及び緯糸の一方に、撚り数が比較的少ない甘撚り糸を使用し、他方にモノフィラメント糸を使用したものがある(例えば、特許文献1)。このような製紙用フェルトでは、甘撚り糸が径方向からの荷重を受けた際に扁平化し易いため、経糸及び緯糸のナックル部の凹凸が低減され、基布の平滑性を向上させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−200819号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、経糸及び緯糸の一方の甘撚り糸は径方向からの荷重を受けて一部が扁平化するものの、一部に撚り部(甘撚り糸を構成する各糸が互いに交差する部分)が形成されるため、撚り部が経糸及び緯糸の他方のモノフィラメント糸と厚み方向において重なり、基布の平滑性が低下する虞がある。
【0006】
本発明は、以上の問題を鑑みてなされたものであって、基布を2枚以上積層してなる基体を含む製紙用フェルトにおいて、基体の製紙面側の面の平滑性を向上させることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は、基布(7、8)を2枚以上積層してなる基体(2)と、前記基体にニードリングされたバット繊維層(3)とを有する製紙用フェルト(1)であって、前記基体の内で最も製紙面側に配置された製紙面側基布(7)は、丈方向に延在する複数の経糸(11)と幅方向に延在する複数の緯糸(13)とを織り合わせて形成され、前記緯糸は、モノフィラメント糸であり、前記経糸は、2又は3本のフィラメントを撚り合わせた撚り糸であり、前記緯糸の丈方向における単位長さ当たりの本数は、前記経糸が2本のフィラメントの撚り糸である場合には前記経糸の前記単位長さ当たりの撚り数の2倍以上とし、前記経糸が3本のフィラメントの撚り糸である場合には前記経糸の前記単位長さ当たりの撚り数の3倍以上とし、前記経糸は、前記緯糸を丈方向に横切るナックル部において、撚りが緩められて前記製紙面側基布の厚み方向に各フィラメントが互いに重なり合わないように配置された弛緩部(17)と、互いに隣接する前記緯糸間において、前記弛緩部よりも撚りが集中した撚り部(18)とを有することを特徴とする。ここでナックル部は、より詳細には、製紙面側基布を製紙面側の面又は走行面側の面に正対する方向から見た際に、経糸と緯糸が互いに重なり合う部分をいう。
【0008】
この構成によれば、経糸は、製紙面側基布の厚み方向において緯糸と重なる部分においては、緯糸から厚み方向に荷重を受けることによって、撚りが緩められ(戻され)、弛緩部が形成される。弛緩部では、撚り糸を構成する各フィラメントは互いに平行に延在する。一方、弛緩部が形成されることによって、経糸の一部には撚りが集中した撚り部が形成されるが、この撚り部が隣り合う緯糸間に配置されることによって、撚り部と緯糸とが基布の厚み方向に重なり合わないため、製紙面側基布の表面を平滑にすることができる。また、経糸が2本のフィラメントからなる場合には、単位長さ当たりの緯糸の本数を、単位長さ当たりの経糸の撚り回数の2倍以上とすることで、撚り部の撚りを1/2回転として厚み方向における幅を最小にしつつ、撚り部を隣接する緯糸間の空間に配置することができ、製紙面側基布の製紙面側の面を平滑にすることができる。また、経糸が3本のフィラメントからなる場合には、単位長さ当たりの緯糸の本数を、単位長さ当たりの経糸の撚り回数の3倍以上とすることで、撚り部の撚りを1/3回転として厚み方向における幅を最小にしつつ、撚り部を隣接する緯糸間の空間に配置することができ、製紙面側基布の製紙面側の面を平滑にすることができる。
【0009】
本発明の他の側面は、前記撚り部は、前記経糸が前記厚み方向において前記経糸が前記厚み方向に前記緯糸を跨ぐ部分に配置されていることを特徴とする。ここで、経糸が厚み方向に緯糸を跨ぐ部分は、より詳細には、経糸が、緯糸の製紙面側から走行面側、又は走行面側から製紙面側へと製紙面側基布の厚み方向に延在する部分をいう。
【0010】
この構成によれば、経糸の撚り部が厚み方向において製紙面側基布の内部に配置されるため、製紙面側基布の表面を平滑にすることができる。
【0011】
本発明の他の側面は、前記緯糸は、0.22mm〜0.28mmの直径を有するモノフィラメント糸であり、丈方向に14本/25.4mm〜32本/25.4mmの密度で配置され、経糸は、2又は3本の0.17mm〜0.23mmの直径を有するフィラメントを撚り数3.0回/25.4mm〜8.0回/25.4mmで撚り合わせた撚り糸であることを特徴とする。
【0012】
この構成によれば、製紙面側基布は、表面が平滑となると共に、所定の厚みを有するようになる。製紙面側基布が所定の厚みを有することによって、製紙面側基布よりも走行面側に配置された基布の表面形状が基体の製紙面の形状として現れることを抑制することができる。
【発明の効果】
【0013】
以上の構成によれば、基布を2枚以上積層してなる基体を含む製紙用フェルトにおいて、基体の製紙面側の面の平滑性を向上させることができる。また、早期にフェルトの形態が安定するため、初期なじみが向上し、搾水性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】製紙用フェルトの概略断面図
【図2】2本のフィラメントからなる撚り糸を経糸とした製紙面側基布の構成を示す(A)概略平面図、(B)概略断面図
【図3】3本のフィラメントからなる撚り糸を経糸とした製紙面側基布の構成を示す(A)概略平面図、(B)概略断面図
【図4】フェルトの水保持能力を測定するための測定装置の概略構成図
【図5】プレス回数によるフェルトの水保持能力の変化を示すグラフであって、(A)実施例1、(B)比較例1、(C)比較例2、(D)比較例3
【図6】(A)実施例1、(B)比較例1、(C)比較例2のマーク試験結果を示す像
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態を詳細に説明する。以下の実施形態に係る製紙用フェルトは、抄紙機において抄紙を運搬する搬送手段として用いられ、抄紙の加圧脱水工程等に使用される。
【0016】
図1に示すように、実施形態に係る製紙用フェルト(以下、単にフェルトという)1は、シート状の基体2の表面及び裏面に、ニードリングによってバット繊維層3を積層一体化したものである。フェルト1(基体2)の長手方向を丈方向といい、長手方向に直交する方向を幅方向という。フェルト1は、丈方向において環状に連続しており、外面を製紙面4、内面を走行面5という。フェルト1は、抄紙機のロールに掛け渡され、走行面5においてロールの表面に接触し、製紙面4上に湿紙を保持する。
【0017】
基体2は、製紙面側に配置された製紙面側基布7と、製紙面側基布7の走行面側に配置された走行面側基布8との2枚の基布を積層して構成されている。製紙面側基布7及び走行面側基布8は、それぞれ、丈方向に沿って延在する経糸11、12と、幅方向に沿って延在する緯糸13、14とが互いに交絡して織製された織布である。経糸11、12及び緯糸13、14の材質は、特に限定はなく、例えばポリアミド、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル等の合成樹脂材料であってよい。
【0018】
製紙面側基布7の経糸11は、直径が0.17mm〜0.23mmのフィラメントを2又は3本、撚り数が3〜8回/25.4mm(1インチ)で撚り合わせた撚り糸(約245〜448dtex)である。経糸11は、各フィラメントに下撚りが加えられていない片撚り糸であることが好ましい。製紙面側基布7の緯糸13は、直径が0.22mm〜0.28mmのモノフィラメント糸(約410〜665dtex)である。
【0019】
経糸11は、幅方向において30〜53本/25.4mmの密度で配置され、緯糸13は、丈方向において14〜32本/25.4mmの密度で配置されている。ここで、緯糸13の丈方向における単位長さ(25.4mm)当たりの本数は、経糸11の単位長さ(25.4mm)当たりの撚り回数の2倍以上となるように設定されている。例えば、経糸の撚り数が8回/25.4mmである場合には、緯糸は16本/25.4mm以上の密度で配置されている。
【0020】
製紙面側基布7の経糸11及び緯糸13の織組織は、1重織の様々な形態を採用することができ、例えばヒラ組織、経糸3/1組織、経糸2/2組織、経糸4/1組織、経糸5/1組織等であってよい。ここで、「/」の前の数字は、経糸が緯糸を跨ぐ(連続して緯糸の製紙面側を通過する)本数を表し、「/」の後の数字は、経糸が緯糸を潜る(連続して緯糸の走行面側を通過する)本数を表している。例えば、経糸3/1組織は、経糸が連続して3本の緯糸の製紙面側を通過した後、1本の緯糸の走行面側を通過する組織である。
【0021】
走行面側基布8は、経糸12及び緯糸14に、モノフィラメント糸や撚り糸を使用することができ、織組織は1重織または2重織の例えばヒラ組織、経糸3/1組織、経糸2/2組織、経糸4/1組織、経糸5/1組織、経2重組織等の公知のものであってよい。走行面側基布8の経糸12及び緯糸14の選択例を、製紙面側基布7の経糸11及び緯糸13の選択例と共に表1に示す。
【0022】
【表1】

【0023】
図2は、経糸11を2本のフィラメントを撚り合わせた撚り糸として構成した経糸3/1組織の製紙面側基布7の概略平面図及び概略断面図である。
【0024】
図2(A)及び(B)に示すように、経糸11は撚り数が単位長さ(25.4mm)当たり3〜8回と比較的少ないため、緯糸13と厚み方向において重なる部位では、経糸11は撚りが戻されて、経糸11を構成する各フィラメントが幅方向に並び、平行に丈方向へと延在した状態となる。すなわち、経糸11は、撚りが戻され、厚み方向に扁平化した弛緩部17を形成する。一方、経糸11の弛緩部17の長手方向における両側には撚りが集中した撚り部18が形成される。これは、経糸11は緯糸13から厚み方向に荷重を受けるため、長手方向の全域にわたって撚りが均一に形成されるよりも弛緩部17と撚り部18とを形成して撚りが不均一となった方が、経糸の形態が安定するためである。
【0025】
撚り部18は、1/2回転(180°)の撚りを有している。経糸11を2本のフィラメントから構成した場合には、1/2回転の撚りは、2つの弛緩部17の間に撚り部18を形成する際の最小の回転となる。撚り部での回転が最小となることで、撚り部の厚み方向における幅は最小となる。経糸11は、2本のフィラメントを撚り合わせて構成した場合、撚り部18の単位長さ当たりの数は、単位長さ当たりの撚り数の2倍となる。
【0026】
本実施形態では、緯糸13の丈方向における単位長さ当たりの本数が、経糸11の単位長さ当たりの撚り数の8倍となっているため、各撚り部18は、隣り合う緯糸13間の空間に配置されるようになる。これにより、撚り部18と緯糸13とは厚み方向に重ならない(整合しない)ため、製紙面側基布7の製紙面に凹凸を形成し難く、製紙面の平滑性が高められる。
【0027】
また、図2(A)に示すように、撚り部18は、経糸11が厚み方向において緯糸13を横切る部分、すなわち経糸11が緯糸13を製紙面側から走行面側、又は走行面側から製紙面側へと横切る部分に設けられることが好ましい。これにより、撚り部18は製紙面側基布7の厚み方向における内部に埋没するため、製紙面側基布7の製紙面の平滑性を更に高めることができる。
【0028】
以上のような製紙面側基布7は、経糸11が、緯糸13と厚み方向に重なる部分では扁平化した弛緩部17を形成しつつ、隣り合う緯糸13間の空間に対応する部分に厚みが大きくなる撚り部18を形成するため、平滑な製紙面を形成し、紙にマークを発生させ難い。また、経糸11を構成する各フィラメントが程度な太さ(直径)を有するため、経糸11に起因する凹凸(緯糸13との重なり部分に形成されるナックル部)を低減することができる一方、製紙面側基布7が薄くなり過ぎないように適度な厚さに形成し、走行面側基布8の凹凸が基体2の製紙面として現れることを抑制することができる。
【0029】
本実施形態における経糸11は、各フィラメントに下撚りが加えられていない片撚り糸であるため、撚り位置の移動が比較的容易であり、弛緩部17及び撚り部18が容易に形成されるようになっている。また、経糸11の単位長さ(25.4mm)当たりの撚り数を3〜8回としたため、弛緩部17及び撚り部18の形成が容易であると共に、バット繊維層3との絡みも良好に形成することができる。
【0030】
製紙面側基布7内では、経糸11が当初の形態から弛緩部17及び撚り部18を形成し、弛緩部17において扁平化している。通常の撚り糸を経糸に使用した場合には、湿紙の加圧脱水工程においてフェルト1が搾水ロール間で圧縮されることによって、撚り糸が厚み方向に扁平化して製紙面側基布の厚みが変化するが、本実施形態のフェルト1では経糸11が当初より扁平化しているため、搾水ロールに圧縮されても製紙面側基布7の厚み変化は小さくなる。また、フェルト1の使用継続に伴う製紙面側基布7の厚みの変化(薄化)も、当初から扁平化しているため小さくなる。
【0031】
図3は、経糸11を2本のフィラメントを撚り合わせた撚り糸として構成した経糸3/1組織の製紙面側基布7の概略平面図及び概略断面図である。経糸11を3本のフィラメントからなる撚り糸から構成した場合には、2本のフィラメントからなる撚り糸から構成した場合と異なり、緯糸13の丈方向における単位長さ(25.4mm)当たりの本数は、経糸11の単位長さ当たりの撚り回数の3倍以上となるように設定されている。経糸11を3本のフィラメントから構成した場合には、撚り部18は1/3回転(120°)することで、2つの弛緩部17の間に撚り部18を形成する際の最小の回転となる。撚り部18における回転が最小となることで、撚り部18の厚み方向における幅が最小となる。
【0032】
上述したように、経糸11は、2本又は3本のフィラメントを撚り合わせた撚り糸とすることが好ましい。経糸11を4本以上のフィラメントを撚り合わせた撚り糸とすると、弛緩部17において、各フィラメントが厚み方向に重ならないように配置することが困難になるためである。
【実施例】
【0033】
本願発明を適用したフェルト(実施例1)と、比較対象としてのフェルト(比較例1、2、3)とを以下に示すように構成し、各種試験を行った結果を以下に示す。実施例1と比較例1〜3のフェルト1は、製紙面側基布7の構成が相違し、走行面側基布8及びバット繊維層3の構成は同様である。
【0034】
実施例1に係るフェルト1の製紙面側基布7は、直径が0.20mmのフィラメントを2本、撚り数が5回/25.4mm(1インチ)で撚り合わせた経糸11と、直径が0.25mmのモノフィラメント糸である緯糸13とを、1重織で経糸3/1組織で織製したものである。経糸11の幅方向における密度は40本/25.4mmであり、緯糸13の丈方向における密度は30本/25.4mm(経糸11の単位長さ当たりの撚り数の6倍)である。
【0035】
比較例1に係るフェルト1の製紙面側基布7は、実施例1よりも経糸11を構成するフィラメントが多く、経糸11の単位長さ当たりの撚り数が少なくなったものである。比較例1に係るフェルト1の製紙面側基布7は、直径が0.15mmのフィラメントを6本、撚り数が2回/25.4mm(1インチ)で撚り合わせた経糸11と、直径が0.25mmのモノフィラメント糸である緯糸13とを、1重織で経糸3/1組織で織製したものである。経糸11の幅方向における密度は20本/25.4mmであり、緯糸13の丈方向における密度は30本/25.4mmである。
【0036】
比較例2に係るフェルト1の製紙面側基布7は、実施例1よりも経糸11の単位長さ当たりの撚り数を少なくし、各フィラメントを細くしたものである。比較例2に係るフェルト1の製紙面側基布7は、直径が0.03mmのフィラメントを50本、撚り数が3回/25.4mm(1インチ)で撚り合わせた経糸11と、直径が0.25mmのモノフィラメント糸である緯糸13とを、1重織で経糸3/1組織で織製したものである。経糸11の幅方向における密度は25本/25.4mmであり、緯糸13の丈方向における密度は30本/25.4mmである。
【0037】
比較例3に係るフェルト1の基体2は、緯糸の1本に対して製紙面側経糸と走行面側経糸とを交絡させた経2重織組織の基布1枚から構成されている。比較例3に係るフェルト1を構成する基布は、4本の直径が0.20mmのフィラメントを下撚り5回/25.4mm、上撚り6回/25.4mmで撚り合わせた2×2撚り糸(フィラメントを2本ずつ撚り合わせた後、その撚り合わされた2本の撚り糸同士を更に撚り合わせた撚り糸)である緯糸と、4本の直径が0.20mmのフィラメントを下撚り5回/25.4mm、上撚り6回/25.4mmで撚り合わせた2×2撚り糸である製紙面側経糸及び走行面側経糸とを経糸2重織で織製したものである。緯糸の丈方向における密度は20本/25.4mmであり、製紙面側経糸の幅方向における密度は25本/25.4mm、走行面側経糸の幅方向における密度は25本/25.4mmである。
【0038】
実施例1及び比較例1及び2の走行面側基布8は、4本の直径が0.20mmのフィラメントを下撚り5回/25.4mm、上撚り6回/25.4mmで撚り合わせた2×2撚り糸である経糸12と、4本の直径が0.20mmのフィラメントを下撚り5回/25.4mm、上撚り6回/25.4mmで撚り合わせた2×2撚り糸である緯糸14とを、1重織で経糸3/1組織で織製したものである。経糸12の幅方向における密度は20本/25.4mmであり、緯糸14の丈方向における密度は20本/25.4mmである。実施例1及び比較例1〜3のバット繊維層3は、ポリアミド系の樹脂からなる11dtexの繊維を、製紙面側に600g/m、走行面側に200g/mでニードリングして形成した。
【0039】
以上のように構成した実施例1及び比較例1〜3のフェルト1について、フェルトの搾水性の経時変化(プレス回数)を図4に示す測定装置50を用いて測定した。図4に示すように、測定装置50は、フェルト1を支持すると共に回転させる2つのローラ51と、フェルト1に水を供給するシャワー52と、一定の吸引力を有し、フェルト1に保持された水を吸い出すサクションボックス53と、フェルト1を加圧し、搾水する2つの搾水ロール54と、搾水ロール54によってフェルト1から搾り出された水を回収するプレス水回収部55とを有している。フェルト1は、シャワー52、サクションボックス53、搾水ロール54を順に通過するように回転する。測定は、丈方向長さ200cm、幅方向長さ14cmのフェルト1を、走行速度1000m/分、搾水ロール54が加える圧力50kg/cm、周回数(プレス回数)15万回とし、各周回においてサクションボックス53で回収される水量及びプレス水回収部55で回収される水量を測定した。ここでは、サクションボックス53及びプレス水回収部55で回収される水量を割合(%)で表す。
【0040】
以上の測定を各フェルト1について行った結果を図5に示す。各フェルト1においてサクションボックス53で回収される水量(%)を表すグラフを61、71、81、91とし、プレス水回収部55で回収される水量(%)を表すグラフを62、72、82、92とする。図5の各図に示す結果は、サクションボックス53で回収される水量(%)が大きいほどフェルト1の水の透水性が高いことを表している。また、周回数の増加に伴う、サクションボックス53で回収される水量(%)の変化は、使用に応じてフェルト1の透水性が変化することを表しており、変化が継続するものはフェルト1の性質が安定しないことを表している。
【0041】
図5(A)に示すように実施例1のフェルト1は、4万回転まではサクションボックス53で回収される水量(%)が大きく減少し、その後値が安定する。これに対して、図5(B)〜(D)に示す比較例1〜3のフェルト1では、サクションボックス53で回収される水量(%)は、周回数に応じて減少を続け安定しないことがわかる。これは、比較例1〜3のフェルト1は、搾水ロール54の圧縮を受けるにつれて、撚り糸である経糸11が徐々に扁平化していくのに対し、実施例1の経糸12は当初より扁平化しているため搾水ロール54の圧縮を受けても形態が変化しないためと考えられる。以上より、実施例1のフェルト1は、比較例1〜3のフェルトに比べて、早期にフェルトの形態が安定化し、フェルト1の水分保持量(透水性)が安定することが確認された。
【0042】
図6に実施例1及び比較例1、2のマーク試験結果を示す。マーク試験は、圧力の大きさに応じて発色濃度が変化する圧力測定フィルム(富士フイルムのプレスケール)を使用し、この圧力測定フィルムを実施例1及び比較例1、2のフェルト1の製紙面4に重ねてプレスロールによって50kN/mで加圧し、各フェルト製紙面の凹凸に応じた像を圧力測定フィルム上に形成することによって行った。
【0043】
図6の(A)は実施例1、(B)は比較例1、(C)は比較例2のマーク試験結果を示す。図6の各像から明らかなように、実施例1は、比較例1、2よりも製紙面4が平滑となっていることが確認される。比較例1では、実施例1に比べて筋状の形態となっている。これは、比較例1のフェルト1では、経糸11を構成するフィラメントの数が多いために、経糸11が扁平化し難く、経糸11の形状が製紙面の形状に影響を与えたと考えられる。比較例2では、実施例1に比べて筋状の形態となっているが、これは、経糸11を構成するフィラメントが細く、本数が少ないために、製紙面側基布7が厚み方向に薄くなり、走行面側基布8の表面形状がフェルト1の製紙面4に影響を与えたものと考えられる。
【0044】
以上で具体的実施形態の説明を終えるが、本発明は上記実施形態に限定されることなく幅広く変形実施することができる。例えば、走行面側基布8は1枚に限らず、2枚以上を積層させてもよい。
【符号の説明】
【0045】
1…製紙用フェルト、2…基体、3…バット繊維層、4…製紙面、5…走行面、7…製紙面側基布、8…走行面側基布、11、12…経糸、13、14…緯糸、17…弛緩部、18…撚り部、50…測定装置、51…ローラ、52…シャワー、53…サクションボックス、54…搾水ロール、55…プレス水回収部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基布を2枚以上積層してなる基体と、前記基体にニードリングされたバット繊維層とを有する製紙用フェルトであって、
前記基体の内で最も製紙面側に配置された製紙面側基布は、
丈方向に延在する複数の経糸と幅方向に延在する複数の緯糸とを織り合わせて形成され、
前記緯糸は、モノフィラメント糸であり、
前記経糸は、2又は3本のフィラメントを撚り合わせた撚り糸であり、
前記緯糸の丈方向における単位長さ当たりの本数は、前記経糸が2本のフィラメントの撚り糸である場合には前記経糸の前記単位長さ当たりの撚り数の2倍以上とし、前記経糸が3本のフィラメントの撚り糸である場合には前記経糸の前記単位長さ当たりの撚り数の3倍以上とし、
前記経糸は、前記緯糸を丈方向に横切るナックル部において、撚りが緩められて前記製紙面側基布の厚み方向に各フィラメントが互いに重なり合わないように配置された弛緩部と、互いに隣接する前記緯糸間において、前記弛緩部よりも撚りが集中した撚り部とを有することを特徴とする製紙用フェルト。
【請求項2】
前記撚り部は、前記経糸が前記厚み方向に前記緯糸を跨ぐ部分に配置されていることを特徴とする請求項1に記載の製紙用フェルト。
【請求項3】
前記緯糸は、0.22mm〜0.28mmの直径を有するモノフィラメント糸であり、丈方向に14本/25.4mm〜32本/25.4mmの密度で配置され、
経糸は、2又は3本の0.17mm〜0.23mmの直径を有するフィラメントを撚り数3.0回/25.4mm〜8.0回/25.4mmで撚り合わせた撚り糸であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の製紙用フェルト。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−224961(P2012−224961A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−94416(P2011−94416)
【出願日】平成23年4月20日(2011.4.20)
【出願人】(000229852)日本フエルト株式会社 (55)
【Fターム(参考)】