説明

製紙用ベルト

【課題】ボイドが無く、強度的にも優れた製紙用ベルトを提供する。
【解決手段】製紙用ベルト10は、縦方向および横方向の糸を含む基材層11と、少なくともその一部が基材層の裏面側から基材層中に入り込み、基材層の裏面側に配置された裏面側樹脂層12と、相対的に粘度が低く、基材層11の表面側から基材層11中に入り込んだ第1樹脂層13と、短繊維15を分散して含み、第1樹脂層13よりも粘度が高く、第1樹脂層13の表面側に配置された第2樹脂層14とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、製紙用ベルトに関し、特に湿紙を加圧脱水処理するために用いられるシュープレス用ベルトに関するものである。
【背景技術】
【0002】
製紙用ベルトとしては、シュープレスベルト、カレンダーベルト、トランスファーベルト等がある。
【0003】
シュープレス用ベルト等の製紙用ベルトに対する一般的な要求特性として、強度、耐クラック性、耐摩耗性、可撓性および水、油、ガス等に対する非透過性を挙げることができる。これらの諸特性を備えた材料として、ウレタンポリマーと硬化剤とを反応させて得られるポリウレタンが一般的に使用されている。
【0004】
製紙技術においては、プレスされる湿紙から搾り出した水を運び去るために、ベルトの外表面に湿紙の走行方向に沿って多数の排水溝を設けることが知られている。例えば、そのような排水溝を備えた抄紙機のベルトが米国特許第4,559,258号公報(特許文献1)に記載されている。
【0005】
特許第2889341号公報(特許文献2)は、脱水プレス用ベルトを開示している。この公報に開示された脱水プレス用ベルトは、基布層と、該基布層の少なくとも一面側に形成された中間弾性層と、該中間弾性層の外側に形成された表面弾性層と、基布層の他面側に形成された裏面弾性層とを備え、これらを接合一体化したものである。表面弾性層を形成する前に中間弾性層を形成するのは、基布層内に残存する空気を追い出すためである。この公報に開示された実施形態では、表面弾性層、中間弾性層および裏面弾性層の材質がポリウレタンである。また、表面弾性層のショアA硬度が裏面弾性層のショアA硬度よりも高く、中間弾性層のショアA硬度がその中間の硬さを有している。表面弾性層Aは、内部に繊維を有していない。
【0006】
特公平3−75673号公報(特許文献3)は、伸長ニッププレス(extended nip press)用のブランケットを開示している。この公報に開示されたブランケットにおいては、ブランケットの使用中にバンド状本体の層分離やクリープを防ぐために、繊維をランダムに配向させたポリウレタンでブランケット本体を製造している。
【0007】
特開平10−77593号公報(特許文献4)は、広幅ニッププレスに使用する平行溝付ブランケットを開示している。この公報に開示されたブランケットにおいては、ポリウレタン層が織物または綿布のループ状下地上に形成されている。ポリウレタン層は、クロスマシン方向に延びる多数の細い繊維を有する。繊維は、ポリウレタン層の強度を向上させる。
【特許文献1】米国特許第4,559,258号公報
【特許文献2】特許第2889341号公報
【特許文献3】特公平3−75673号公報
【特許文献4】特開平10−77593号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許第2889341号公報(特許文献2)に開示された脱水用プレスベルトにおいては、表面弾性層が繊維を含まないポリウレタンからなるので、クラックが発生したとき、そのクラックが進展し易いという傾向がある。また、表面弾性層に排水溝を形成する場合、溝形状を強固に保つことができず、溝が変形し易いという傾向もある。
【0009】
そこで、特公平3−75673号公報(特許文献3)や、特開平10−77593号公報(特許文献4)に教示されているように、ポリウレタン層中に繊維を分散させることにより、ポリウレタン層の強化を図ることが考えられる。
【0010】
しかしながら問題になるのは、ポリウレタン層中に繊維を含ませると粘度が高くなるので、基布中に繊維含有ポリウレタン層を含浸させようとすると、基布中にボイドが残る可能性がある。
【0011】
また、特開平10−77593号公報に見られるように、繊維をクロスマシン方向(CD)方向に配向させると、クロスマシン方向(CD方向)とマシン方向(MD方向)との強度差が大きくなり、亀裂がCD方向に発生し易く、また発生した亀裂がCD方向に進展し易くなる。
【0012】
さらに、ポリウレタン層中に含ませる繊維の長さが長いと、繊維同士が絡まり易く、繊維を均一に分散させることが困難になる。繊維が絡んだ所は応力集中点となり、亀裂発生等の原因となる。
【0013】
この発明の目的は、ボイドがなく、強度的にも優れた製紙用ベルトを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
この発明に従った製紙用ベルトは、縦方向および横方向の糸を含む基材層と、少なくともその一部が基材層の裏面側から基材層中に入り込み、基材層の裏面側に配置された裏面側樹脂層と、相対的に粘度が低く、基材層の表面側から基材層中に入り込んだ第1樹脂層と、短繊維を分散して含み、第1樹脂層よりも粘度が高く、第1樹脂層の表面側に配置された第2樹脂層とを備える。
【0015】
縦方向および横方向の糸を含む基材層としては、織布や、糸を縦方向および横方向に配列させた構成などが挙げられる。製紙用ベルトが縦方向および横方向の糸を含む基材層を備えることにより、マシン方向(MD方向)およびクロスマシン方向(CD方向)の強度が強くなり、それらの方向への伸びを抑えることができる。特公平3−75673号公報(特許文献3)に開示された伸長ニップレス用ブランケットの場合、基布等の基材層を備えていないので、MD方向およびCD方向の強度が弱く、伸びが大きくなる。そのような伸びは、クラックの原因となることが多い。
【0016】
基材層の表面側から基材層中に入り込む第1樹脂層は、相対的に粘度が低いので、縦方向および横方向の糸を含む基材層中に浸透し易い。従って、基材層中にボイドが残らない。
【0017】
第1樹脂層の表面側に配置される第2樹脂層は、第1樹脂層よりも粘度が高く、短繊維を分散して含むので、強度が向上する。また、仮にクラックが発生したとしても、短繊維が存在することにより、クラックの進展を抑制することができる。さらに、第2樹脂層表面に排水溝を形成する場合、溝形状を強固に保つことができる。
【0018】
好ましくは、第2樹脂層中の短繊維は、ランダムに配向している。短繊維をランダムに配向させることにより、MD方向、CD方向および厚み方向の強度差が無くなり、亀裂の発生や、進展を抑制できる。
【0019】
好ましい短繊維の長さは、0.01mm〜3mmの範囲内である。短繊維の長さが3mmを超えると、繊維同士が絡み合い、繊維の均一分散を阻害する。また、絡み合った所が、亀裂発生等の原因となる応力集中点になる。繊維の長さが0.01mmを下回るようであれば、繊維含有による補強効果が得難くなる。より好ましい短繊維の長さは、0.1mm〜2mmの範囲である。
【0020】
第2樹脂層中の短繊維の含有量は、好ましくは質量基準で、0.5%〜10%の範囲である。短繊維含有量が10%を超えるようであれば、樹脂の粘度が上昇して流動性が無くなり、ハンドリングの問題が生ずるようになる。短繊維含有量が0.5%を下回るようであれば、繊維含有による補強効果が得難くなる。
【0021】
第2樹脂層中に短繊維を均一に分散させるために、好ましくは、分散性処理された短繊維、すなわちRFL処理またはシラン処理を施された短繊維を使用する。このような短繊維であれば、繊維同士の絡み合いが無くなる。RFL処理またはシラン処理により、短繊維と樹脂との接着性も改善される。
【0022】
第1樹脂層を基材層中に浸透し易くするために、一つの実施形態では、第1樹脂層中に繊維を含ませない。繊維を含まないことにより、樹脂の粘度が低くなり、基材層中に良好に浸透してボイドの残存を防ぐ。他の実施形態として、第1樹脂層の粘度を低く抑えられる程度に、第1樹脂層中に繊維を含ませるものであってもよい。
【0023】
製紙用ベルトを構成する樹脂としては、強度および耐水性の観点から、ポリウレタンが好ましい。そこで、好ましい実施形態では、第1および第2樹脂層の材質をポリウレタンとする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
図1は、この発明の一実施形態に係る製紙用ベルトを示す断面図である。この実施形態に係る製紙用ベルト10は、湿紙を加圧脱水処理するために用いられるシュープレス用ベルトである。製紙用ベルト10は、基材層11と、少なくともその一部が基材層11の裏面側から基材層中に入り込み、基材層の裏面側に配置された裏面側樹脂層12と、相対的に粘度が低く、基材層の表面側から基材層11中に入り込んだ第1樹脂層13と、第1樹脂層13の表面側に配置された第2樹脂層14とを備える。
【0025】
基材層11は、縦方向および横方向の糸を含む。製紙用ベルト10が基材層11を内部に有することにより、マシン方向(MD方向)およびクロスマシン方向(CD方向)の強度が強くなり、それらの方向への伸びを抑えることができる。
【0026】
第1樹脂層13および第2樹脂層14の材質は、好ましくは、ポリウレタンである。第1樹脂層13は、基材層11中に良好に浸透して、基材層中にボイドを残さないようにするために、その粘度が低くされている。粘度を低くするための方法の一例として、第1樹脂層13が繊維を含まないようにする。あるいは、基材層11中への浸透を良好にできる程度に粘度を低くできるのであれば、第1樹脂層13が少量の繊維を含むものであってもよい。第1樹脂層13は、基材層11の表面側を完全に埋める高さまで形成される。
【0027】
第2樹脂層14は、第1樹脂層13に比べて粘度が高く、短繊維15を分散して含む。第2樹脂層14が均一分散した短繊維15を含むことにより、その強度が向上する。また、仮に第2樹脂層14中にクラックが発生したとしても、短繊維15が存在することにより、クラックの進展を抑えることができる。
【0028】
図1に示した実施形態では、第2樹脂層14の表面に、ベルト走行に沿って延びる多数の排水溝16が形成されている。第2樹脂層14が短繊維15を含むことにより、排水溝16の形状を強固に維持するので、良好な排水性を維持できる。
【0029】
MD方向、CD方向および厚み方向の強度差を無くすために、第2樹脂層14中の短繊維15は、ランダムに配向されるのが好ましい。このような短繊維15のランダム配向により、亀裂の発生や、亀裂の進展を効果的に抑制できる。
【0030】
また、短繊維15を均一に分散させるために、好ましくは、分散性処理された短繊維、すなわちRFL処理またはシラン処理された短繊維を使用する。このような短繊維を使用することにより、繊維同士の絡み合いを無くすことができる。
【0031】
繊維同士の絡み合いを無くすという観点を考慮すると、好ましい短繊維の長さは、0.01mm〜3mmの範囲である。より好ましい範囲は、0.1mm〜2mmである。
【0032】
短繊維15の含有量は、好ましくは質量基準で、0.5%〜10%の範囲である。10%を超えるような短繊維含有量であれば、第2樹脂層14の粘度が高くなりすぎてハンドリングの問題が生ずるようになる。一方、0.5%を下回るような短繊維含有量であれば、繊維含有による補強効果が得難くなる。
【0033】
強度を向上させる短繊維15の材質として、パラ系芳香族ポリアミドが好ましい。他の繊維としては、メタ系芳香族ポリアミド繊維、ポリアリレート繊維、ポリケトン繊維、ポリベンザゾール繊維、セラミック繊維、ガラス繊維、グラファイト、超高分子量ポリエチレン、炭素繊維等を使用できる。
【0034】
図2は、この発明の他の実施形態に係る製紙用ベルトを示す断面図である。図示する製紙用ベルト20は、図1に示した実施形態と同様、基材層21と、裏面側樹脂層22と、第1樹脂層23と、短繊維25を均一に分散させている第2樹脂層24とを備える。図2に示した実施形態が、図1の実施形態と異なるのは、第2樹脂層24が排水溝を有していない点のみである。それ以外の構成については同じであるので、詳しい説明を省略する。
【0035】
以上、図面を参照してこの発明の実施形態を説明したが、この発明は、図示した実施形態のものに限定されない。図示した実施形態に対して、この発明と同一の範囲内において、あるいは均等の範囲内において、種々の修正や変形を加えることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0036】
この発明は、ボイドの残存が無く、耐クラック性に優れた高強度の製紙用ベルトとして有利に利用され得る。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】この発明の一実施形態に係る製紙用ベルトの断面図である。
【図2】この発明の他の実施形態に係る製紙用ベルトの断面図である。
【符号の説明】
【0038】
10 製紙用ベルト、11 基材層、12 裏面側樹脂層、13 第1樹脂層、14 第2樹脂層、15 短繊維、16 排水溝、20 製紙用ベルト、21 基材層、22 裏面側樹脂層、23 第1樹脂層、24 第2樹脂層、25 短繊維。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
縦方向および横方向の糸を含む基材層と、
少なくともその一部が前記基材層の裏面側から基材層中に入り込み、基材層の裏面側に配置された裏面側樹脂層と、
相対的に粘度が低く、前記基材層の表面側から基材層中に入り込んだ第1樹脂層と、
短繊維を分散して含み、前記第1樹脂層よりも粘度が高く、前記第1樹脂層の表面側に配置された第2樹脂層とを備える、製紙用ベルト。
【請求項2】
前記短繊維は、前記第2樹脂層中にランダムに配向している、請求項1に記載の製紙用ベルト。
【請求項3】
前記短繊維の長さは、0.01mm〜3mmの範囲内である、請求項1または2に記載の製紙用ベルト。
【請求項4】
前記短繊維の長さは、0.1mm〜2mmの範囲内である、請求項3に記載の製紙用ベルト。
【請求項5】
前記第2樹脂層中の短繊維の含有量は、質量基準で0.5%〜10%の範囲である、請求項1〜4のいずれかに記載の製紙用ベルト。
【請求項6】
前記短繊維は、RFL処理またはシラン処理を施されたものである、請求項1〜5のいずれかに記載の製紙用ベルト。
【請求項7】
前記第1樹脂層は、繊維を含まない、請求項1〜6のいずれかに記載の製紙用ベルト。
【請求項8】
前記第1および第2樹脂層の材質は、ポリウレタンである、請求項1〜7のいずれかに記載の製紙用ベルト。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−156778(P2008−156778A)
【公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−346670(P2006−346670)
【出願日】平成18年12月22日(2006.12.22)
【出願人】(000114710)ヤマウチ株式会社 (82)
【Fターム(参考)】