説明

製紙用添加剤の製造法

【目的】 製紙用添加剤として好適な分岐型の両性アクリルアミド形共重合体を得る。
【構成】 (A)アクリルアミドおよび/またはメタアクリルアミド、(B)上記(A)成分と共重合可能なカチオン基を有するビニルモノマー、(C)上記(A)成分と共重合可能なアニオン基を有するビニルモノマー、および(D)必要に応じて上記(A)成分と共重合可能なノニオン性モノマーを共重合させて得られる水溶性共重合体ならびに(E)多官能エポキシ化合物を、特定割合で架橋反応させる製紙用添加剤の製造法。
【効果】 優れた製紙用添加剤としての諸効果、特に紙力増強効果ならびに優れた作業性が認められる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、製紙用添加剤として有用な分岐構造を有する両性アクリルアミド系共重合体の製造法に関するものである。
【0002】
【従来技術】近年、製紙用添加剤、特に紙力増強剤が紙、板紙の製造に際し重要視されて来ている。この背景としては、原木供給事情の悪化に伴い実質のパルプの使用が制限されたこと、さらに省エネルギーや資源の有効利用の目的で古紙の再利用の必然性が一段と強まったことが挙げられ、その結果として紙、板紙の改質剤としての製紙用添加剤は一層不可欠なものとなっている。
【0003】一方、抄紙機の高速化に伴う生産性の向上、あるいは紙の多様化に応じた品質向上の目的で、濾水性向上剤および紙力増強剤への依存度とその使用範囲はさらに広まっている。かかる状況下に製紙用添加剤としては、ポリアクリルアミド系が主流となっている。
【0004】ポリアクリルアミド系製紙用添加剤は、イオン性によりアニオンタイプ、カチオン(両性も含む)タイプに分類できる。例えば、該アニオンタイプとしては、アクリルアミドとアニオン基を有するビニルモノマ−であるα,β−不飽和モノカルボン酸あるいはα,β−不飽和ジカルボン酸との共重合、またはポリアクリルアミド系共重合体の部分加水分解物などが知られている。他方、カチオン(両性)タイプとしては、イオン性官能基の導入方法の相違に基づいて、変性タイプと共重合タイプのものがある。例えば、変性タイプとしては、ポリアクリルアミド系共重合体のホフマン転位物、マンニッヒ変性物などがあり、一方、共重合タイプとしては、カチオン基を有するビニルモノマ−と(メタ)アクリルアミド、必要に応じて陰イオン性ビニルモノマ−あるいはその他の共重合しうるノニオン性ビニルモノマ−を共重合してなる各種共重合体が知られている(特開昭60−94697号)。
【0005】しかしながら、近年、製紙用添加剤の使用条件はますます厳しくなってきたため、従来公知の比較的低分子量のポリアクリルアミド系製紙用添加剤では、添加剤としての効果の点で限界にきている。そのため、性能の向上を図るべく高分子量化の手段が採られるが、単に高分子量化した場合には得られる共重合体の粘度が過度に上昇するため、抄紙時の分散性が不良となる。その結果、かかる共重合体を製紙用添加剤として使用した場合には過度の凝集が生じ、成紙の地合い乱れを引き起こしやすい。
【0006】この問題点を解消すべく、架橋剤を使用することにより分岐構造を持たせ、得られる共重合体の粘度上昇を抑えながらその分子量を増加させる試みがなされているが、架橋剤として多官能性ビニルモノマ−を用いた場合には多官能性ビニルモノマ−の反応性が不十分であったり、均一な分岐構造を導入しがたいため、製紙用添加剤としての効果は未だ十分でなかった。
【0007】
【発明の解決すべき課題】そこで、本発明者はこれらの課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、従来の直鎖状構造を有する両性アクリルアミド系重合体を特定の架橋剤と反応させることにより容易に所望の分岐構造を導入することができ、これにより優れた諸効果を有する製紙用添加剤を収得できるという知見を得た。本発明はかかる知見に基づき完成されたものである。
【課題を解決するための手段】すなわち本発明は、(A)アクリルアミドおよび/またはメタアクリルアミド、(B)上記(A)成分と共重合可能なカチオン基を有するビニルモノマー、(C)上記(A)成分と共重合可能なアニオン基を有するビニルモノマー、および(D)必要に応じて上記(A)成分と共重合可能なノニオン性モノマーを共重合させて得られる水溶性共重合体ならびに(E)多官能エポキシ化合物を、該共重合体の各モノマー成分合計量に対し(E)多官能エポキシ化合物の使用量が0.1〜2モル%となる割合で、架橋反応させることを特徴とする製紙用添加剤の製造法に係る。
【0008】本発明において、上記(A)成分であるアクリルアミドまたはメタアクリルアミドは単独使用または併用できるが、経済性の面からはアクリルアミドを単独使用するのが良い。
【0009】前記カチオン性モノマ−である(B)成分としては、代表的なものにはジメチルアミノエチル(メタ)アクリレ−ト、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレ−ト、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、もしくはジエチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミドなどの第三級アミノ基を有するビニルモノマ−またはそれらの塩酸、硫酸、酢酸などの無機酸もしくは有機酸の塩類、または該第三級アミノ基含有ビニルモノマ−とメチルクロライド、ベンジルクロライド、ジメチル硫酸、エピクロルヒドリンなどの四級化剤との反応によって得られる第四級アンモニウム塩基を含有するビニルモノマ−などがある。
【0010】前記アニオン性モノマ−である(C)成分としては、例えばアクリル酸、メタクリル酸等のモノカルボン酸;マレイン酸、フマ−ル酸、イタコン酸等のジカルボン酸;ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸などの有機スルホン酸;またはこれら各種有機酸のナトリウム塩、カリウム塩等が該当する。
【0011】また、所望により上記の構成モノマ−の他に、これらと共重合可能な任意のモノマ−を導入することも可能である。任意のモノマー成分である(D)成分としては、炭素数1〜8のアルコ−ルとアクリル酸もしくはメタクリル酸とのエステル、アクリロニトリル、スチレン、酢酸ビニル、メチルビニルエ−テルなどのノニオン性モノマ−などが挙げられる。
【0012】本発明において使用する前記(E)成分である多官能エポキシ化合物としては、水溶性であり且つ分子内に2個以上のエポキシ基を有する限り特に制限なく使用することができる。(E)成分の代表的なものとしては、(ポリ)エチレングリコールジグリシジルエーテル、(ポリ)プロピレングリコールジグリシジルエーテル、(ポリ)グリセリンジグリシジルエーテル、(ポリ)グリセリントリグリシジルエーテルなどの各種公知のものを挙げることができる。
【0013】本発明の特徴は、製紙用添加剤として有効である直鎖状の両性アクリルアミド系共重合体を、前記(E)成分により架橋させてなる分岐型の両性アクリルアミド系共重合体を提供することにあるが、本発明を逸脱しない範囲で両性アクリルアミド系共重合体を製造する際に多官能性ビニルモノマ−を併用してもさしつかえない。該多官能性ビニルモノマ−としては、エチレングリコ−ルジ(メタ)アクリレ−ト、ジエチレングリコ−ルジ(メタ)アクリレ−ト、トリエチレングリコ−ルジ(メタ)アクリレ−ト等のジ(メタ)アクリレ−ト類、メチレンビス(メタ)アクリルアミド、エチレンビス(メタ)アクリルアミド、ヘキサメチレンビス(メタ)アクリルアミド等のビス(メタ)アクリルアミド類、アジピン酸ジビニル、セバシン酸ジビニル等のジビニルエステル類、アリルメタクリレート、エポキシアクリレ−ト類、ウレタンアクリレ−ト類、ジビニルベンゼン、グリシジル(メタ)アクリレート等の2官能性ビニルモノマ−;1,3,5−トリアクリロイルヘキサヒドロ−S−トリアジン、トリアリルイソシアヌレート、N,N−ジアリルアクリルアミド等の3官能性ビニルモノマ−;テトラメチロ−ルメタンテトラアクリレ−ト、テトラアリルピロメリテ−ト等の4官能性ビニルモノマ−などを例示できる。
【0014】本発明において、(A)〜(D)の各成分の使用量は、得られる共重合体の製紙用添加剤としての性能を十分考慮して決定されねばならず、そのためそれぞれ以下の範囲とされる。すなわち(A)成分は(A)、(B)、(C)および(D)成分の総モル和に対し通常98〜60モル%、好ましくは96〜70モル%;(B)成分は同様に1〜20モル%、好ましくは2〜15モル%;(C)成分は同様に1〜20モル%、好ましくは2〜15モル%;(D)成分は同様に25モル%以下、好ましくは20モル%以下とされる。従って、この範囲外ではいずれの場合でも十分な紙力増強効果は得られない。
【0015】更に、本発明において使用する(E)成分の使用量は、得られる共重合体の製紙用添加剤としての性能に最も重要な影響を及ぼすため、特に慎重に決定されねばならない。通常は、前記架橋前の水溶性共重合体の各モノマー成分合計量に対し、(E)成分の使用量は0.1〜2モル%、好ましくは0.2〜1.5モル%の範囲とされる。0.1モル%未満の場合には分岐構造が不十分であり製紙用添加剤としての効果、例えば架橋前の共重合体の紙力増強効果に比べて架橋による該効果の向上がほとんど認められず、好ましくない。また、2モル%を越える場合には、得られる架橋共重合体の架橋度が高くなりすぎるため、粘土が高くなりすぎたり、水溶性が低下したり、場合によっては非水溶性となるため好ましくない。
【0016】本発明に用いられる架橋反応前の共重合体の合成は、従来公知の各種方法により行うことができる。例えば、所定の反応容器に上記各種モノマ−((A)〜(D)成分)および水を仕込み、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩、またはこれらと亜硫酸水素ナトリウムのごとき還元剤とを組み合わせた形のレドックス系重合開始剤等の通常のラジカル重合開始剤を加え、また必要に応じて、イソプロピルアルコ−ル、アリルアルコ−ル等の連鎖移動剤を適宜使用し、攪拌下、加温することにより目的とする水溶性且つ両性のアクリルアミド系共重合体を得ることができる。得られる共重合体の粘度は、作業性の点から通常は固形分濃度15重量%に換算して約15000cps以下とするのが良い。
【0017】ついで、上記で得られた架橋前の両性アクリルアミド系共重合体と(E)成分とを、それぞれ前記の所定割合で同時に仕込み、または(E)成分を分割もしくは徐々に仕込み、十分な撹拌条件下に通常40〜90℃程度で0.5〜3時間反応させればよい。かかる条件下に高分子であるにもかかわらず比較的低粘度の製紙用添加剤を容易に収得できる。
【0018】上記のようにして得られる、本発明の分岐型且つ両性のアクリルアミド系共重合体は近時の厳しい抄紙条件下でも製紙用添加剤としての優れた諸効果を奏しうる。なお、本発明の製紙用添加剤が、いかなる理由によりかかる優れた効果を発現するかは定かではないが、生成ポリマ−が均一で高い分岐構造を有するため、パルプ繊維間での接点が多くなり、結果として製紙用添加剤としての種々の特徴ある性能が発現するものと推察される。
【0019】
【発明の効果】本発明により得られる特定の分岐型共重合体を製紙用添加剤として使用することにより、架橋反応前の直鎖状共重合体と比較して一層優れた製紙用添加剤としての効果、特に紙力増強効果ならびに優れた作業性が認められる。また従来の多官能性ビニルモノマ−による部分架橋構造ポリマ−と比較して、一層容易に分岐型のアクリルアミド系共重合体である製紙用添加剤を提供できるという多大の効果が奏される。
【0020】本発明では、両性のアクリルアミド系共重合体に対し前記(E)成分を適用し架橋させることを必須とするものであるが、当然にアニオン性アクリルアミド系共重合体やカチオン性アクリルアミド系共重合体にも同様に(E)成分で架橋することにより、所望の分岐構造を導入できる。しかしながら、製紙用添加剤としての効果、特に紙力増強効果の点で本発明で得られる分岐型両性アクリルアミド系共重合体には及ばない。
【0021】
【実施例】以下、実施例および比較例を挙げて本発明をより具体的に説明する。なお、部および%はいずれも重量基準による。
【0022】実施例1撹拌機、温度計、還流冷却管および窒素ガス導入管を備えた四つ口フラスコに、アクリルアミド60部、80%アクリル酸水溶液4部、ジメチルアミノエチルメタクリレ−ト7部およびイオン交換水280部を仕込み、窒素ガスを通じて反応系内の酸素を除去した。次に、系内を40℃にし撹拌下に重合開始剤として過硫酸アンモニウム0.25部および亜硫酸水素ナトリウム0.15部を投入した。85℃まで昇温した後、2時間保温した。重合終了後、イオン交換水115部を投入し、固形分15.2%、粘度(25℃)が4000cpsの共重合体水溶液を得た。ついで、該共重合体水溶液にエチレングリコールジグリシジルエーテル0.8部を一度に添加し、70℃で1時間架橋反応を行った。得られた分岐型共重合体水溶液の性状値を表2に示す。
【0023】実施例2〜8および比較例1〜5実施例1において、(A)〜(D)成分、(E)成分の種類とそれらの使用量のうちいずれか少なくとも1種を表1のように変えたほかは、実施例1と同様の操作を行い共重合体水溶液を得た。各実施例および比較例で得られた各共重合体水溶液の組成を表1に、また性状値を表2に示す。
【0024】


表中、AM:アクリルアミド DM:ジメチルアミノエチルメタクリレートDMAPAM:ジメチルアミノプロピルアクリルアミドDMC:メタクロイルオキシトリメチルアンモニウムクロリドAA:アクリル酸 IA:イタコン酸 AN:アクリロニトリルBA:ブチルアクリレートTAF:1,3,5−トリアクリロイルヘキサヒドロ−S−トリアジンEGDGE:エチレングリコールジグリシジルエーテルGTGE:グリセリントリジグリシジルエーテルを示す。
なお、(E)成分の使用量は(A)〜(D)成分の合計量に対するモル%を示す。
【0025】


【0026】(性能評価方法1)段ボ−ル古紙をナイアガラ式ビーターにて叩解し、カナディアン・スタンダ−ド・フリ−ネス(C.S.F)420mlに調整したパルプに硫酸バンドを1.6%添加してpH5.5とし、ついで上記各実施例および比較例で得られた各共重合体水溶液を紙力増強剤として対パルプ0.6%を添加し、撹拌した後、パルプスラリ−濃度を0.1%になるように希釈し、タッピ・シートマシンにて脱水し、5Kgで2分プレスして、坪量150g/m2 となるよう抄紙した。次いで回転型乾燥機で105℃において3分間乾燥し、20℃、65%R.H.の条件下に24時間調湿したのちJIS P 8112に準じ、比破裂強度を測定した。結果を表3に示す。
(性能評価方法2)BKPをナイアガラ式ビーターにて叩解し、(C.S.F)550mlに調整したパルプ(pH6.8)に、上記各実施例および比較例で得られた各共重合体水溶液を上記と同様に添加し、上記と同様の操作を行い、比破裂強度を測定した。結果を表3に示す。
【0027】


【0028】表3の結果より、本発明方法で得られる分岐型の両性アクリルアミド系共重合体は、従来品に比して比較的低粘度であり、更には優れた紙力増強効果が発現すると認められる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 (A)アクリルアミドおよび/またはメタアクリルアミド、(B)上記(A)成分と共重合可能なカチオン基を有するビニルモノマー、(C)上記(A)成分と共重合可能なアニオン基を有するビニルモノマー、および(D)必要に応じて上記(A)成分と共重合可能なノニオン性モノマーを共重合させて得られる水溶性共重合体ならびに(E)多官能エポキシ化合物を、該共重合体の各モノマー成分合計量に対し(E)多官能エポキシ化合物の使用量が0.1〜2モル%となる割合で、架橋反応させることを特徴とする製紙用添加剤の製造法。
【請求項2】 前記水溶性共重合体と(E)成分との反応温度が40〜90℃である請求項1記載の製紙用添加剤の製造法。