説明

製造方法、および製造装置

【課題】製造される個々のアクチュエータの間での、SMAワイヤにより移動される対象物の変位のばらつきを低減し得る技術を提供する。
【解決手段】第1固定部から第2固定部まで張設された形状記憶合金ワイヤの温度変化による形状復元力を利用して対象物の移動を行うアクチュエータを備えた駆動装置の製造方法であって、第1固定部と第2固定部とに形状記憶合金ワイヤを固定する前に、形状記憶合金ワイヤを張架状態に保持する張架工程と、張架工程による張架状態において、形状記憶合金ワイヤを加熱する加熱工程と、加熱工程によって予め設定された加熱状態にされた形状記憶合金ワイヤによって対象物が予め設定された位置に保持されるように、張架工程において形状記憶合金ワイヤに付与される張力が調節された状態で、形状記憶合金ワイヤを第1固定部と第2固定部とに固定する固定工程とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、形状記憶合金が張設されるアクチュエータを備えた駆動装置の製造が可能な製造技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、カメラ付き携帯電話機等に搭載される撮像素子の画素数が増大する等、高画質化が飛躍的に進んでおり、これに伴い、画像撮影という基本機能に加えて、フォーカス機能やズーム機能等を付加することが求められている。
【0003】
これらの機能を付加するには、レンズを光軸方向に移動させるレンズ駆動装置が必要であり、最近では、形状記憶合金(Shape Memory Alloy:SMA)をアクチュエータに用いたレンズ駆動装置が考案されている。この装置は、SMAに通電するなどして加熱し、加熱による収縮力を発生させて、当該収縮力をレンズ駆動力として利用するもので、小型化、軽量化が容易かつ比較的大きな駆動力を得ることができるという利点がある。このSMAを利用するアクチュエータとしては、例えば張設されたSMAワイヤの伸縮によって対象物を移動させるものがある。
【0004】
例えば、特許文献1には、このようなSMAワイヤを用いたアクチュエータを備えた製品の製造装置が示されている。該製造装置においては、アクチュエータの組立においてSMAワイヤを張架する際に、2つの固定部間に張架されたSMAワイヤをオーステナイト相、すなわち弾性係数(弾性値)が高い状態にした後、SMAワイヤに付与される初期張力を所定の値に設定することによって、SMAワイヤの温度変化により移動される対象物の変位ばらつきの抑制を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−220063号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、個々のアクチュエータ製品は、SMAの性能のばらつき、駆動系を構成する部品の寸法のばらつき、および部品の組み付け精度のばらつきなどの影響を受ける。このため、特許文献1の製造装置によってもなお、製造される個々のアクチュエータ製品において、SMAの温度状態に対するSMAワイヤにより移動される対象物の変位のばらつきが解消されないといった問題がある。
【0007】
本発明は、こうした問題を解決するためになされたもので、製造される個々のアクチュエータの間で、SMAワイヤにより移動される対象物の変位のばらつきを低減し得る技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するため、第1の態様に係る製造方法は、第1固定部から第2固定部まで張設された形状記憶合金ワイヤの温度変化による形状復元力を利用して対象物の移動を行うアクチュエータを備えた駆動装置の製造方法であって、前記第1固定部と前記第2固定部とに形状記憶合金ワイヤを固定する前に、前記形状記憶合金ワイヤを張架状態に保持する張架工程と、前記張架工程による張架状態において、前記形状記憶合金ワイヤを加熱する加熱工程と、前記加熱工程によって予め設定された加熱状態にされた前記形状記憶合金ワイヤによって前記対象物が予め設定された位置に保持されるように、前記張架工程において前記形状記憶合金ワイヤに付与される張力が調節された状態で、前記形状記憶合金ワイヤを前記第1固定部と前記第2固定部とに固定する固定工程とを備えたことを特徴とする。
【0009】
第2の態様に係る製造方法は、第1の態様に係る製造方法であって、前記加熱工程において、オーステナイト相からマルテンサイト相への変態過程にある前記形状記憶合金ワイヤが前記加熱状態にされることを特徴とする。
【0010】
第3の態様に係る製造方法は、第2の態様に係る製造方法であって、前記張架工程において、前記形状記憶合金ワイヤに付与される張力が弱められつつ調整されることを特徴とする。
【0011】
第4の態様に係る製造方法は、第3の態様に係る製造方法であって、前記加熱工程において、前記形状記憶合金ワイヤが通電されることにより加熱されることを特徴とする。
【0012】
第5の態様に係る製造方法は、第4の態様に係る製造方法であって、前記加熱工程において、予め設定された電流が前記形状記憶合金ワイヤに通電されることにより前記形状記憶合金ワイヤが前記加熱状態にされることを特徴とする。
【0013】
第6の態様に係る製造方法は、第1から第5の何れか1つの態様に係る製造方法であって、前記加熱工程における加熱手段と前記固定工程における固定手段とが同一の手段によって実現されることを特徴とする。
【0014】
第7の態様に係る製造方法は、第1から第6の何れか1つの態様に係る製造方法であって、前記固定工程において、前記形状記憶合金ワイヤが前記第1固定部と前記第2固定部とに同時に固定されることを特徴とする。
【0015】
第8の態様に係る製造装置は、第1固定部から第2固定部まで張設された形状記憶合金ワイヤの温度変化による形状復元力を利用して対象物の移動を行うアクチュエータの製造が可能な製造装置であって、前記第1固定部と前記第2固定部とに形状記憶合金ワイヤを固定する前に、前記形状記憶合金ワイヤを張架状態に保持するとともに前記形状記憶合金ワイヤに付与する張力を調整可能な張架手段と、前記張架手段による張架状態において、前記形状記憶合金ワイヤを加熱する加熱手段と、前記加熱手段によって予め設定された加熱状態にされた前記形状記憶合金ワイヤによって前記対象物が予め設定された位置に保持されるように、前記張架手段が前記形状記憶合金ワイヤに付与する張力が調節された状態で、前記形状記憶合金ワイヤを前記第1固定部と前記第2固定部とに固定する固定手段とを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
第1から第8の何れの態様に係る発明によっても、形状記憶合金ワイヤによって対象物が予め設定された位置に保持されるように、張架されて予め設定された加熱状態にされた形状記憶合金ワイヤに付与される張力が調整される。そして、該調整状態において形状記憶合金ワイヤが固定部に固定される。従って、個々のアクチュエータの間で、形状記憶合金ワイヤにより移動される対象物の変位のばらつきが低減され得る。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】SMAアクチュエータを駆動源とするレンズ駆動装置の構成例を概略的に示す平面図である。
【図2】図1のレンズ駆動装置の構成を概略的に示す側面図である。
【図3】図1のレンズ駆動装置の構成を概略的に示す側面図である。
【図4】実施形態に係るSMAアクチュエータの製造装置の構成例を概略的に示す平面図である。
【図5】図4の製造装置の構成を概略的に示す側面図である。
【図6】図4の製造装置の構成を概略的に示す正面図である。
【図7】SMAアクチュエータに移動されるキャリアの位置とSMAアクチュエータに流れる電流との関係の1例を模式的に示す図である。
【図8】図7のSMAアクチュエータに移動されるキャリアの位置とSMAアクチュエータの温度との関係を模式的に示す図である。
【図9】実施形態に係る張力の調整がされたSMAアクチュエータに移動されるキャリアの位置とSMAアクチュエータに通電される電流との関係のばらつきの例を模式的に示す図である。
【図10】図9のばらつきを有するSMAアクチュエータに移動されるキャリアの位置とSMAアクチュエータの温度との関係を模式的に示す図である。
【図11】実施形態に係る張力の調整がされたSMAアクチュエータに移動されるキャリアの位置とSMAアクチュエータに通電される電流との関係のばらつきの例を模式的に示す図である。
【図12】図11のばらつきを有するSMAアクチュエータに移動されるキャリアの位置とSMAアクチュエータの温度との関係の例を模式的に示す図である。
【図13】実施形態に係る製造装置の動作フローの1例を示す図である。
【図14】実施形態に係る製造装置の動作フローの1例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。図面では同様な構成および機能を有する部分に同じ符号が付され、下記説明では重複説明が省略される。また、各図面は模式的に示されたものであり、例えば、各図面における画像上の表示物のサイズおよび位置関係等は必ずしも正確に図示されたものではない。なお、説明の便宜上、図4〜図6には直交するXYZの3軸が付されているとともに、図7〜図12には直交するXYの2軸が付されている。
【0019】
<レンズ駆動装置の構成:>
発明の実施形態の説明に先立って、SMAを用いたアクチュエータ(SMAアクチュエータ)の適用例について図1〜図3を用いて説明する。
【0020】
図1〜図3は、SMAを用いたアクチュエータを駆動源とするレンズ駆動装置100の主要構成部分を概略的に示しており、図1は、レンズ側から見た平面図であり、図2および図3は、図1における矢示A1方向から見た側面図を示している。なお、図2は、駆動前の状態を、図3は、駆動後の状態を表している。
【0021】
このレンズ駆動装置100は、主に、レンズユニット1(「被駆動物」、「対象物」とも称される)、このレンズユニット1を光軸AX方向(第1軸方向)に移動させるレバー部材2、SMAアクチュエータ3、ベース部材4、天板5、平行板バネ6a,6bおよびバイアスバネ7等を備え、ベース部材4に対してレンズユニット1等が組み付けられた構成となっている。天板5および平行板バネ6a,6bは、便宜上、図1では省略している。なお、レンズ駆動装置100は、バッテリー駆動の携帯機器等に搭載されるものである。
【0022】
ベース部材4は、レンズ駆動装置100の取り付け対象となる部材(例えば携帯電話機のフレームやマウント基板等)に固定されるものであり、レンズ駆動装置100の底辺を構成する不動の部材である。このベース部材4は、平面視正方形の板状に形成され、全体が樹脂材料等により構成されている。なお、ベース部材4には、撮像センサが取付けられるが、図示は省略している。
【0023】
レンズユニット1は円筒形を有し、撮像レンズ10と、この撮像レンズ10を保持するレンズ駆動枠12と、該レンズ駆動枠12が収納される鏡筒14とから構成されている。撮像レンズ10は、対物レンズ、フォーカスレンズ、ズームレンズ等を有し、図外の撮像素子に対する被写体像の結像光学系を構成している。レンズ駆動枠12は、所謂玉枠(「キャリア」とも称される)であって、鏡筒14と共に光軸AX方向に移動する。レンズ駆動枠12の対物側先端の外周縁部には、周方向に180°の角度差を有して一対の支持部16が突設されている。
【0024】
レンズユニット1は、天板5に形成される開口部分に挿入された状態でベース部材4上に配置されている。詳しくは、一対の支持部16がベース部材4の一対の対角の近傍に位置するように配置されている(図1参照)。
【0025】
ベース部材4および天板5には、それぞれ平行板バネ6a,6bが固定されており、これら平行板バネ6a,6bにレンズユニット1が固定されている。これによってレンズユニット1がベース部材4等に対して変位可能に支持されると共に、その変位自由度が、光軸AXに沿った方向に規制されている。なお、天板5は、ベース部材4に対して図示しない支柱等を介して固定しても良いし、ベース部材4と一体となる構造でも良い。
【0026】
レバー部材2は、支持部16を介してレンズユニット1に係合することによってレンズユニット1に光軸AX方向の駆動力を付与するものである。
【0027】
このレバー部材2は、レンズユニット1の側方、具体的には、ベース部材4の角部であってレンズユニット1の支持部16が位置する角部以外の一の角部に設置されている。このレバー部材2は、光軸AXと直交し、かつ一対の支持部16の並び方向(図1では上下方向)に延びる軸線回りに揺動可能に支持されている。
【0028】
図2に示すように、レバー部材2は、アーム部分21と、このアーム部分21の基端部分から光軸AX方向に延びる延設部分22とを有した側面視逆L字型の形状を有しており、アーム部分21と延設部分22との境となる屈曲部分が、ベース部材4に立設された支持脚8の先端で支持されることによってベース部材4上に支持されている。
【0029】
支持脚8の先端(以下、レバー支持部8aという)の形状は、光軸AX方向と直交する方向(図2の紙面と直交する方向)に延びる略円柱形状とされている。これにより、レバー部材2が、当該レバー支持部8aを支点として光軸AX方向と直交する軸線回りに揺動可能に支持されている。
【0030】
アーム部分21は平面視で円弧状に形成されている。詳しくは、図1に示すように、延設部分22からからレンズユニット1の両側に二股に分かれて当該レンズユニット1の外周面に近接してそれぞれ均等に延び、全体としてレンズユニット1の片側半分を包囲するように形成されている。アーム部分21の先端(両端)は、それぞれレンズユニット1の各支持部16の位置に達している。そして、延設部分22にSMAアクチュエータ3が架け渡され、この架け渡し位置(変位入力部2aという)に光軸AX方向と直交する方向(第2軸方向:図2の左右方向)の移動力F1(図3参照)が入力されることにより、レバー部材2が揺動する。この揺動に伴いアーム部分21の先端(変位出力部2bという)が光軸AX方向に変位し、当該変位出力部2bが各支持部16に係合してレンズユニット1に光軸AX方向の駆動力が付与されることとなる。
【0031】
SMAアクチュエータ3は、レバー部材2に対して移動力F1(図3参照)を付与するもので、例えばNi−Ti合金等のSMAワイヤ3Lで構成される線状アクチュエータである。このSMAアクチュエータ3は、低温で弾性係数が低い状態(マルテンサイト相)において所定の張力を与えられることで伸長し、この伸長状態において熱が与えられると相変態して弾性係数が高い状態(オーステナイト相:母相)に移行し、伸長状態から元の長さに戻る(形状回復する)という性質を有している。すなわち、SMAアクチュエータ3は、SMAワイヤ3Lの温度変化による形状復元力を利用して対象物の移動を行うアクチュエータである。
【0032】
本例では、SMAアクチュエータ3を通電加熱することで、上述の相変態を行わせる構成が採用されている。すなわち、SMAアクチュエータ3は所定の抵抗値を有する導体であることから、当該SMAアクチュエータ3自身に通電することでジュール熱を発生させ、該ジュール熱に基づく自己発熱によりマルテンサイト相からオーステナイト相へ変態させる構成とされている。このため、SMAアクチュエータ3の両端には、通電加熱用の第1電極30aおよび第2電極30bが固着されている。これら電極30a,30bはベース部材4に設けられる所定の電極固定部(「かしめピン」とも称される)33a,33bにそれぞれ固定されている。
【0033】
SMAアクチュエータ3は、図1に示すように、レバー部材2の延設部分22に係合する部分を折り返し地点として、電極30aおよび30bの間に架け渡されている。かかる構成により、SMAアクチュエータ3が電極30a,30bを介して通電加熱され、作動(収縮)すると、レバー部材2に対して移動力F1(図3参照)が付与され、この移動力F1によりレバー部材2が揺動することとなる。
【0034】
なお、電極30a,30bは、ベース部材4のうちレンズユニット1の支持部16の近傍にそれぞれ配置されている。SMAアクチュエータ3のうち各電極30a,30bから折り返し地点までのそれぞれの長さは等しく設定されており、これによって変位入力部2a両側のSMAアクチュエータ3の伸縮量が等しくなってSMAアクチュエータ3作動時のレバー部材2とSMAアクチュエータ3との擦れが防止される。また、延設部分22にはV溝21a(上記変位入力部2aに相当する)が形成されており、当該V溝21aに嵌り込むようにSMAアクチュエータ3が架け渡されることにより、レバー部材2に対してSMAアクチュエータ3が安定的に懸架されている。
【0035】
バイアスバネ7は、SMAアクチュエータ3の作動(収縮)により変位出力部2bが移動する向きとは逆向に、レンズユニット1を光軸AX方向に付勢するものである。このバイアスバネ7は、レンズ駆動枠12の周縁サイズと略合致した径の圧縮コイルバネからなり、レンズ駆動枠12の頂面に一端側(下端側)が当接している。なお、内壁Nは、図示しない枠部材の面のうちベース部材4側の面であり、該枠部材は図示しない支柱等によりベース部材4に対して固定されている。該枠部材には、撮像レンズ10の径と略合致した径の開口部が設けられており、バイアスバネ7の他端側(上端側)は、内壁Nにおける該開口部の周縁部に当接される。
【0036】
なお、SMAアクチュエータ3は、作動していない状態では、レンズユニット1(支持部16)およびレバー部材2を介して作用するバイアスバネ7の押圧力を受けて緊張するようにその線長が設定されている。つまり、その作動状態に拘わらず、常にレバー部材2(アーム部分21)をレンズユニット1(支持部16)に当接(圧接)させるようにその線長が設定されている。この構成により、当実施形態では、支持脚8とレバー部材2とを直接連結することなく支持脚8の先端にレバー部材2を揺動可能に支持しており、また、SMAアクチュエータ3の作動時には、その変位を速やかに伝えて当該レバー部材2を揺動させる構成となっている。
【0037】
<実施形態について:>
<製造装置300の構成:>
図4〜図6は、SMAを用いたSMAアクチュエータ3を駆動源とするレンズ駆動装置100(図1〜図3)におけるSMAアクチュエータ3の、実施形態に係る製造装置300の主要構成部分の構成例を概略的に示している。図4は、製造装置300を撮像レンズ10の光軸方向から見た平面図であり、図5は、製造装置300を図4における矢示A2方向から見た側面図であり、図6は、製造装置300を図4における矢印A3方向から見た正面図である。
【0038】
製造装置300は、ポンチ51a、51b、変位計52、スライダ53、制御部55を主に備えて構成されている。製造装置300は、SMAワイヤ3Lが未だ張られていない半完状態のレンズ駆動装置100一式(「ワーク」とも称される)にSMAワイヤ3Lを張架することにより、ワークにおけるSMAアクチュエータ3を製造する装置である。なお、製造装置300によるSMAアクチュエータ3の製造は、ワークが調整台56に載置された状態で行われる。
【0039】
○制御部55:
制御部55は、製造装置300の各機能要素を統轄制御する制御処理装置である。制御部55は、例えば、汎用のコンピュータ、または専用のハードウエア回路などによって構成される。制御部55は、変位計52が取得するレンズ駆動枠12の変位を示す信号を処理し、該処理の結果に基づいてポンチ51aおよび51bと、スライダ53とを制御する。
【0040】
○スライダ53:
スライダ53は、電極固定部33aおよび33bにそれぞれ設けられた電極30aおよび30bにSMAワイヤ3Lが固定される前に、SMAワイヤ3Lを張架状態に保持する張架部である。スライダ53は、SMAワイヤ3Lの一部をそれぞれ保持可能なSMA線保持部54aおよび54bを備えている。SMA線保持部54aに一部を保持されたSMAワイヤ3Lは、電極30a、延設部分22に設けられたV溝21a、および電極30bを順次に経由してSMA線保持部54bにその一部を保持される。スライダ53は、その底部に車輪を備えるとともに内部に該車輪の駆動機構を備え、調整台56上を、矢印Yaに沿って移動可能である。スライダ53は、V溝21aなどを経由してSMA線保持部54aおよび54bのそれぞれによってSMAワイヤ3Lが張架状態に保持された状態で、矢印Yaに沿って移動することにより、SMAワイヤ3Lに付与する張力を調整可能である。スライダ53の動作は、通信回線CL2を介して制御部55により制御される。
【0041】
○変位計52:
変位計52は、例えば、レーザ変位計などによって構成され、レンズ駆動装置100のレンズ駆動枠12上に不図示の支柱等を介して保持されている。変位計52は、レンズ駆動枠12と変位計52との距離D1、すなわち変位計52に対するレンズ駆動枠12の変位を測定し、測定した距離D1を示す信号を、通信回線CL1を介して制御部55に供給する。制御部55は、距離D1と、予め取得されている変位計52とベース部材4との距離とに基づいて、ベース部材4に対するレンズ駆動枠12の変位を取得する。
【0042】
ポンチ51aおよび51bは、スライダ53によりSMAワイヤ3Lが張架された状態において、形状記憶合金ワイヤを加熱する加熱部として機能するとともに、SMAワイヤ3Lを、電極固定部33aおよび33bにそれぞれ設けられた電極30aおよび30bにそれぞれ固定する固定部としても機能する。
【0043】
○ポンチ51aおよび51b:
ポンチ51aおよび51bの動作は、不図示の駆動装置を介して制御部55により制御される。ポンチ51aおよびポンチ51bの位置は、該駆動装置によってZ軸方向(図5、図6)に沿って移動され得るとともに、その、移動力F2(図5、図6)が該駆動装置により変更され得る。なお、レンズ駆動装置100の内壁Nに係る枠部材と、天板5とには、ポンチ51aおよび51bのそれぞれのZ軸方向に沿った各動線との交差部分にポンチ51aおよび51bがそれぞれ通過可能な貫通孔がそれぞれ設けられている。
【0044】
ポンチ51aおよび51bは、それぞれの先端部50aおよび50bが、電極30aおよび30bに接触した状態で、電極30aおよび30bに接触したSMAワイヤ3Lに対して通電を行うことにより、SMAワイヤ3Lを加熱可能に構成されている。また、該通電に係る電流は変更可能に構成されている。なお、ポンチ51aおよび51bによるSMAワイヤ3Lへの通電によるSMAワイヤ3Lの加熱処理に代えて、例えば、ポンチ51aおよびポンチ51bの先端部50aおよび先端部50bに設けられたヒータの発熱などによってSMAワイヤ3Lの加熱処理が行われたとしても本発明の有用性を損なうものではない。
【0045】
ポンチ51aおよび51bによるSMAワイヤ3Lの電極30aおよび30bへの固定処理においては、先ず、制御部55は、ポンチ51aおよび51bによるSMAワイヤ3Lの加熱状態が、予め設定された加熱状態となるようにポンチ51aおよび51bによるSMAワイヤ3Lへの通電電流を予め設定された値に制御する。さらに、制御部55は、該加熱状態のSMAワイヤ3Lによってレンズ駆動枠12が予め設定された位置に保持されるように、変位計52の出力信号に基づいてスライダ53がSMAワイヤ3Lに付与する張力を調整する。張力についての該調整が行われている状態で、ポンチ51aおよび51bは、制御部55の制御によって移動力F2を増加させて先端部50aおよび50bにそれぞれ接触した電極固定部33aおよび33bを、かしめることにより、SMAワイヤ3Lを、電極固定部33aおよび33bにそれぞれ固定する。なお、ポンチ51aおよび51bが、SMAワイヤ3Lへの通電時の電圧を予め設定された値に制御することによって、ポンチ51aおよび51bによるSMAワイヤ3Lの加熱状態が、予め設定された加熱状態にされる構成が採用されたとしても本発明の有用性を損なうものではない。
【0046】
SMAワイヤ3Lが電極固定部33aおよび33bのそれぞれに固定された状態で、制御部55が、不図示の切断部を制御して、SMAワイヤ3Lのうち電極30aおよび30bからそれぞれSMA線保持部54aおよび54b側へとはみ出ている各部を切断することによりレンズ駆動装置100におけるSMAアクチュエータ3が製造される。
【0047】
ここで、レンズ駆動装置100(図1〜図3)においては、レバー部材2などの寸法のばらつき、バイアスバネ7自体の力量のばらつき、SMAワイヤ3Lの性能のばらつき、および部品同士の摩擦係数のばらつきなどレンズ駆動枠12および撮像レンズ10の変位に対する各種のばらつき要因(誤差要因)が存在する。このために、たとえSMAワイヤ3Lの加熱状態が一定であり、SMAワイヤ3Lに付与される張力が一定に調整されたとしても、レンズ駆動枠12の最終的な変位は、通常、個々のレンズ駆動装置100毎にばらつくこととなる。
【0048】
しかしながら、実施形態に係る製造装置300によれば、SMAアクチュエータ3により移動されるレンズ駆動枠12(対象物)が、各種のばらつき要因から受ける影響を含めて予め設定された位置に保持されるように、張架されて予め設定された加熱状態にされたSMAワイヤ3Lに付与される張力が調整される。そして、その調整状態においてSMAワイヤ3Lが電極固定部33aおよび33bに固定される。従って、SMAワイヤ3Lの加熱状態が一定であれば、製造される個々のレンズ駆動装置100間での、SMAアクチュエータ3により移動される対象物の変位のばらつきが低減され得る。
【0049】
なお、製造装置300において、操作者が、例えば、ポンチ51aおよび51bによるSMAワイヤ3Lの加熱処理と、変位計52の出力信号の認識処理と、スライダ53がSMAワイヤ3Lに付与する張力の調整処理と、ポンチ51aおよび51bによるSMAワイヤ3Lの電極固定部33aおよび33bへの固定処理とのうち少なくとも1つの処理の制御を、制御部55に代わって行ったとしても本発明の有用性を損なうものではない。
【0050】
<キャリア位置のヒステリシスについて:>
図7は、SMAアクチュエータ3によって移動されるキャリアの位置と、SMAアクチュエータ3に流れる電流との関係の1例を模式的に示す図である。また、図8は、図7のSMAアクチュエータ3によって移動されるキャリアの位置と、SMAアクチュエータ3の温度との関係を模式的に示す図である。図7における点41a〜点41eは、図8における点42a〜点42eにそれぞれ対応しており、各対応関係毎のSMAアクチュエータ3の状態は同一である。
【0051】
より詳細には、点41a(点42a)は、SMAアクチュエータ3のSMAへの通電が開始された初期状態に対応している。なお、該初期状態において該SMAはマルテンサイト相の状態である。該SMAには値K0の電流が供給(通電)されており、その温度はT0であり、レンズ駆動枠12の位置は、無限遠の被写体への合焦位置に対応した位置Q1である。
【0052】
位置Q1は、レンズ駆動枠12によって保持された撮像レンズ10のピントが無限遠の被写体に合うときのレンズ駆動枠12の位置である。この状態では、SMAアクチュエータ3は、作動していない状態であり、バイアスバネ7の押圧力を受けてSMAアクチュエータ3のSMAが最も伸びた状態である。また、位置Q1は、レンズ駆動枠12の駆動可能範囲の端部(無限遠側)でもある。より正確には、撮像レンズ10が無限遠に合焦する位置は、通常、該端部よりも僅かにマクロ撮影側(レンズ繰り出し側)に設定される。しかし、図7〜図12の説明においては、便宜上、レンズ駆動枠12が該端部に位置する状態において撮像レンズ10の合焦距離が無限遠であるとして説明を行う。
【0053】
点41b(点42b)は、該初期状態から矢印Y1に沿って該SMAに供給される電流の値が値K2に増加し、該SMAがマルテンサイト相からオーステナイト相への変態を開始した後、レンズ駆動枠12が−Z方向(図5)への移動を開始した状態に対応している。点41b(点42b)において該SMAの温度はT2である。また、初期状態から点41b(点42b)の状態に遷移する間、レンズ駆動枠12は、該SMAの温度の上昇に関わらず初期状態と同じく位置Q1にある。
【0054】
点41c(点42c)は、該SMAに供給される電流の値が矢印Y2に沿ってさらに値K3に増加し、レンズ駆動枠12の位置が所定の位置Q2となった状態に対応している。レンズ駆動枠12が位置Q2にあるときの撮像レンズ10の合焦状態は、レンズ駆動枠12が位置Q1にあるときに比べて、マクロ撮影により適した合焦状態である。点41c(点42c)では、該SMAは、通常、マルテンサイト相からオーステナイト相への変態途中の状態であり、その温度はT3である。なお、点41c(点42c)において、該SMAがオーステナイト相に完全に変態しているとしても本発明の有用性を損なうものではない。
【0055】
点41d(点42d)は、点41c(点42c)における状態から該SMAに供給される電流が矢印Y3に沿って値K4に減少し、レンズ駆動枠12が+Z方向(図5)への移動を開始する状態に対応している。点41d(点42d)において、該SMAのマルテンサイト相への変態が開始され、その温度はT4である。点41c(点42c)から点41d(点42d)の状態に至る経路においてレンズ駆動枠12の位置は、SMAアクチュエータ3の温度の低下に関わらず位置Q2に維持される。
【0056】
そして、点41e(点42e)は、該SMAへの供給電流が矢印Y4に沿ってさらに値K1に減少し、レンズ駆動枠12の位置が再び位置Q1となった状態に対応している。点41e(点42e)において、該SMAは、通常、マルテンサイト相への変態が完全に終了する前の状態であり、その温度は、T1である。
【0057】
図7および図8を用いて上述したようにSMAアクチュエータ3への供給電流およびSMAの温度と、SMAアクチュエータ3により移動される対象物であるレンズ駆動枠12(キャリア)の位置との関係はヒステリシスを有している。後述する図9〜図12においても同様の関係が示されている。レンズ駆動枠12の位置が、位置Q1〜Q2における各位置であるときには、バイアスバネ7の押圧力と、SMAアクチュエータ3の収縮力(形状復元力)に基づく変位出力部2bの移動力とが釣り合っている。また、SMAアクチュエータ3の収縮力は、SMAアクチュエータ3のSMAの温度変化の経路と、製造装置300によってSMAアクチュエータ3のSMAに付与される初期張力とに応じて変動する。
【0058】
点41b〜点41e(点42b〜点42e)によって形成される略平行四辺形は、上述したヒステリシスを示しており、その形状は、個々のレンズ駆動装置100によって異なる。該形状の差異は、個々のレンズ駆動装置100におけるSMAワイヤ自体のヒステリシス特性、レバー部材2などの寸法、バイアスバネ7自体の力量、部品同士の摩擦係数、部品間の組み付け精度などのレンズ駆動枠12の変位に影響する各種の要因のばらつきに起因して生ずる。
【0059】
上記各種の要因のうち、SMAワイヤ自体のヒステリシス特性以外の要因のばらつきは、通常、できるだけ小さくなるようにレンズ駆動装置100の設計が行われる。このため、該ヒステリシスを示す略平行四辺形の形状の差異においては、SMAワイヤ自体のヒステリシス特性の差異が最も支配的な要因となる。
【0060】
また、SMAアクチュエータ3の形成時に製造装置300によってSMAアクチュエータ3に付与される初期張力が変動すると、該ヒステリシスを示す略平行四辺形は、その形状をほぼ維持した状態で、該初期張力の変動に応じて図7および図8におけるX軸方向に平行移動される。
【0061】
そこで、製造装置300では、個々のレンズ駆動装置100ごとにSMAアクチュエータ3およびレンズ駆動装置100の各部品の特性に応じてSMAアクチュエータ3に付与される初期張力の調整が行われる。初期張力は、SMAワイヤ3Lが製造装置300によって電極固定部33aおよび33bに固定される際に、スライダ53により張架されて予め設定された加熱状態にされたSMAワイヤ3Lに付与される張力である。該調整によって製造装置300が製造する個々のSMAアクチュエータ3の間で、SMAアクチュエータ3により移動される対象物(レンズ駆動枠12)の変位のばらつきが低減され得る。
【0062】
図9および図11は、それぞれ、製造装置300による初期張力の調整がされたSMAアクチュエータ3に移動されるキャリア(レンズ駆動枠12)の位置とSMAアクチュエータ3に通電される電流との関係のばらつきの例を模式的に示す図である。また、図10および図12は、図9および図11と同様のばらつきをそれぞれ有するSMAアクチュエータ3により移動されるキャリアの位置とSMAアクチュエータ3の温度との関係を模式的に示す図である。なお、初期張力の調整過程においては、既述したように、SMAワイヤ3Lは、まだ、電極固定部33aおよび33bへの固定がされておらず、初期張力の調整が完了したのちに、該固定と、SMAワイヤ3Lの切断とが行われて、SMAアクチュエータ3が製造される。
【0063】
<SMAアクチュエータ3に付与される初期張力の調整について:>
[マルテンサイト相からオーステナイト相への変態過程における初期張力の調整A:]
図9および図10に示される初期張力の調整例においては、SMAアクチュエータ3のSMAがマルテンサイト相からオーステナイト相に変態する過程において製造装置300によりSMAアクチュエータ3のSMAワイヤ3Lに付与される初期張力の調整Aが行われている。
【0064】
点41t(図9)と点42t(図10)とは、初期張力の調整Aが行われたときに、SMAアクチュエータ3に値Ktの電流が供給されて、その温度が値Ttになるとともに、レンズ駆動枠12の位置が位置Qtとなっていることを示している。なお、点41t(42t)は、電流値Kt(温度Tt)と位置Qtとの相互関係を示しており、点41t(42t)は、点41b(42b)から点41c(42c)に至る経路上の点である。
【0065】
該初期張力の調整Aにおいては、先ず、SMAワイヤ3L(SMAアクチュエータ3)の温度が温度Ttよりも低い状態からSMAワイヤ3Lに値Ktの電流が供給され、SMAワイヤ3Lの温度が温度Ttで安定した状態にされる。より具体的には、例えば、値K1(なお、K1<Kt)の電流がSMAワイヤ3Lに供給された後、値Ktの電流が供給され、温度Ttでの安定状態が実現される。そして、レンズ駆動枠12が予め設定された位置Qtに位置するように、スライダ53の位置が矢印Ya方向(図4)に沿って移動されてSMAワイヤ3Lに付与される初期張力が調整される。
【0066】
点41t(42t)での該初期張力の調整Aが行われた場合に、それぞれ製造される各レンズ駆動装置100におけるSMAがマルテンサイト相へと変態する過程においては、SMAに供給される電流値(SMAの温度)に対するレンズ駆動枠12の位置を示す経路は、通常、それぞれ異なった経路となる。これらの経路の例は、例えば、経路L1、L2などに示される。これらの経路の相違は、SMA自体のヒステリシス特性のばらつきと、レンズ駆動装置100の各部品の性能ばらつきなどに起因して生ずる。
【0067】
一方、各SMAアクチュエータ3のSMAがオーステナイト相へと変態する過程においては、SMAアクチュエータ3への通電電流の値が値K2(Kt、K3)となったときに、SMAの温度はT2(Tt、T3)に制御され得るとともに、レンズ駆動枠12の位置は、位置Q1(Qt、Q2)に制御され得る。従って、初期張力の調整Aが行われた場合には、各種のばらつき要因に関わらず、製造される個々のレンズ駆動装置100間でのSMAへの供給電流に対するレンズ駆動枠12の変位のばらつきが低減され得る。
【0068】
ここで、SMAがマルテンサイト相へと変態する過程において、SMAの温度(通電される電流値)に対するレンズ駆動枠12の位置を示す上述した各経路のうち経路L2の端点の一方は、点42g(図10)である。点42gでは、SMAの温度が温度Tgのときにレンズ駆動枠12が位置Q1に位置する。従って、経路L2に係るSMAアクチュエータ3においては、環境温度が温度Tg(なお、Tg<T1)以下であれば、レンズ駆動枠12位置は、無限遠の被写体に対応した位置Q1に制御され得る。このように、環境温度が、各SMAアクチュエータ3の間での温度Tgのばらつき範囲の下限値以下であれば、各SMAアクチュエータ3の性能のばらつきに関わらず、レンズ駆動枠12位置は、無限遠の被写体に対応した位置Q1に制御され得る。
【0069】
上述したように、各SMAアクチュエータ3の初期張力の調整が、SMAのマルテンサイト相からオーステナイト相への変態過程において行われたとしても本発明の有用性を損なうものではない。なお、SMAの温度(通電電流)と、レンズ駆動枠12の位置との関係におけるヒステリシスの主な要因は、通常、SMA自体のヒステリシス特性である。従って、レンズ駆動枠12の位置を位置Qtとする初期張力の調整は、SMAワイヤ3Lに付与される張力が増加する過程で行われたとしても、また、該張力が減少する過程で行われたとしても本発明の有用性を損なうものではない。
【0070】
[オーステナイト相からマルテンサイト相への変態過程における初期張力の調整B:]
また、図11および図12に示される初期張力の調整例においては、SMAアクチュエータ3のSMAがマルテンサイト相に変態する過程において、SMAアクチュエータ3のSMAワイヤ3Lに付与される初期張力の調整Bが行われている。
【0071】
点41u(図11)と点42u(図12)とでは、SMAアクチュエータ3のSMAがマルテンサイト相に変態する過程において、SMAアクチュエータ3に付与される初期張力が調整されている。また、点41u(点42u)においては、SMAアクチュエータ3に値Kuの電流が供給されて、その温度が値Tuであるとともに、レンズ駆動枠12の位置が位置Qtとなっている。点41u(42u)は、電流値Ku(温度Tu)と位置Qtとの相互関係を示しており、点41u(42u)は、点41d(42d)から点41e(42e)に至る経路上の点である。
【0072】
該初期張力の付与(調整B)においては、先ず、SMAワイヤ3L(SMAアクチュエータ3)の温度が温度Tuよりも高い状態からSMAワイヤ3Lに値Kuの電流が供給されて、SMAワイヤ3Lの温度が温度Tuで安定した状態にされる。より具体的には、例えば、値K3(なお、K3>Ku)の電流がSMAワイヤ3Lに供給された後、値Kuの電流が供給され、温度Tuでの安定状態が実現される。次に、レンズ駆動枠12が予め設定された位置Qtに位置するように、スライダ53が矢印Ya方向(図4)に沿って移動されることによりSMAワイヤ3Lに付与される初期張力の調整Bが行われる。
【0073】
点41u(42u)における初期張力の調整Bが行われた場合、それぞれ製造される各レンズ駆動装置100におけるSMAがオーステナイト相へと変態する過程においては、SMAに供給される電流値(SMAの温度)に対するレンズ駆動枠12の位置の関係は、通常、それぞれ異なった経路となる。これらの経路の例は、例えば、経路L3、L4などに示される。これらの経路の相違は、SMA自体のヒステリシス特性のばらつきと、レンズ駆動装置100の各部品の性能ばらつきなどに起因して生ずる。
【0074】
一方、各SMAアクチュエータ3のSMAがオーステナイト相からマルテンサイト相へと変態する過程においては、SMAアクチュエータ3への通電電流の値が値K1(Ku、K4)となったときに、SMAの温度はT1(Tu、T4)に制御され得るとともに、レンズ駆動枠12の位置は、位置Q1(Qt、Q2)に制御され得る。従って、初期張力の調整Bが行われた場合には、各種のばらつき要因に関わらず、製造される個々のレンズ駆動装置100間でのSMAへの供給電流(温度)に対するレンズ駆動枠12の変位のばらつきが低減され得る。
【0075】
また、初期張力の調整環境の温度が値T1以下である場合に、SMAに供給される電流値が値K1以下であれば、各種のばらつき要因に関わらずレンズ駆動枠12の位置は常に位置Q1となる。すなわち、マルテンサイト相からオーステナイト相への変態過程においてSMAワイヤ3Lに付与される初期張力が調整された場合には、環境温度が温度T1以下であれば、レンズ駆動枠12位置は、無限遠の被写体に対応した位置Q1に制御され得る。なお、温度T1としては、レンズ駆動装置100に対する要求仕様に応じて、例えば、60℃〜70℃などの範囲の温度が採用される。また、SMAについても、マルテンサイト相への変態終了温度が、採用された温度T1に適合する性能のものが採用される。
【0076】
既述したように、初期張力の調整Aが採用されたとしても、各SMAアクチュエータ3の間での温度Tg(図10)の分布範囲を考慮して温度T1よりも十分に低い環境温度においては、レンズ駆動枠12位置は、位置Q1に制御され得るので、本発明の有用性を損なうものではない。
【0077】
しかしながら、初期張力の調整Bが採用された場合には、初期張力の調整Aが採用された場合に比べて、より高い環境温度においても、各SMAアクチュエータ3の性能のばらつきに関わらず、レンズ駆動枠12を無限遠の被写体に対応した位置Q1に制御し得る。
【0078】
なお、既述したように、SMAの温度(電流)と、レンズ駆動枠12の位置との関係におけるヒステリシスの主な要因は、通常、SMA自体のヒステリシス特性である。従って、初期張力の調整Bが、SMAワイヤ3Lに付与される張力が増加する過程で行われたとしても本発明の有用性を損なうものではない。同様に、該初期張力の調整Bが、SMAワイヤ3Lに付与される張力が減少する過程で行われたとしても本発明の有用性を損なうものではない。
【0079】
もっとも、該初期張力の調整Bが、張力が減少する過程で行われた場合には、SMAの相変化に起因してレンズ駆動枠12が移動する方向と、SMAワイヤ3Lに付与される張力が減少することに起因してレンズ駆動枠12が移動する方向とが一致する。従って、SMAアクチュエータ3の周りの環境温度が温度T1以下であれば、撮像レンズ10の駆動系に発生するバックラッシュの大きさに関わらず、レンズ駆動枠12を介して撮像レンズ10の位置を無限遠の被写体に合焦する位置に設定することができる。なお、該バックラッシュの大きさは、各レンズ駆動装置100におけるレバー部材2などの寸法のばらつき、バイアスバネ7自体の力量のばらつき、各部品同士の摩擦係数のばらつき、および各部品の組み付け精度のばらつきなどよってばらつく。
【0080】
<製造装置300の動作:>
図13および図14は、実施形態に係る製造装置300の動作フローの1例を示す図である。以下に、図13および図14を参照しつつ、製造装置300の動作について説明する。
【0081】
先ず、製造装置300によるSMAアクチュエータ3の張力の調整処理等に先立って、SMAワイヤ3Lが張られていない未完成状態のレンズ駆動装置100(「ワーク」とも称される)とスライダ53との調整台56への設置が行われる(図13のステップS110)。該設置においては、具体的には、例えば、先ずワークが調整台56における予め設定された位置に設置され、次に、スライダ53が、ワークから離れた位置にワークに対して相対的に移動可能な状態で設置される。
【0082】
ワークおよびスライダ53の調整台56への設置が完了すると、ワークとスライダ53との間にSMA線(SMAワイヤ3L)を緩く張り架ける張架処理が行われる(図13のステップS120)。具体的には、先ず、スライダ53の一端にあるSMA線保持部54aにSMA線の一部分が固定され、さらに該SMA線が、電極固定部33aの電極30aの溝部、延設部分22のV溝21a、電極固定部33bの電極30bの溝部を順に介して張設される。そして、該SMA線の他の一部分がスライダ53の他端にあるSMA線保持部54bに固定される。
【0083】
SMA線がSMA線保持部54aと54bとに固定されると、ポンチ51aおよび51bが、電極30aおよび30bの上方から、先端部50aおよび50bが電極30aおよび30bとそれぞれ接触するまで、下方向(図5の+Z方向)に移動される。なお、該移動の際に、ポンチ51aおよび51bは、レンズ駆動装置100の内壁Nに係る枠部材と、天板5とにそれぞれ設けられた貫通孔を通過する。先端部50aおよび50bが電極30aおよび30bとそれぞれ接触すると、ポンチ51aおよび51bは、例えば、約10Nの移動力F2(図6)によって電極30aおよび30bを抑えることによって、ワークを調整台56に対して固定する。なお、10Nの移動力F2によって押圧力が加えられたとしても、電極30aおよび30bのそれぞれの溝部は、かしめられることがない強度を有している。この張架処理が完了すると、SMA線は、ワークとスライダ53との間で緩く張られた状態となる。
【0084】
SMA線の緩めの張架処理が完了すると、SMA線は、初期伸び取り処理を施される(図13のステップS130)。具体的には、ポンチ51aおよび51bの先端部50aおよび50bのそれぞれを電極として、例えば、60mAの電流がポンチ51aおよび51bからSMA線に供給される。該電流を供給されることによりSMA線はマルテンサイト相からオーステナイト相への変態途中の状態となる。この状態では、SMA線には張力はあまり付与されていない。なお、SMA線が完全にオーステナイト相に変態した状態でSMA線の初期伸び取りが行われたとしても本発明の有用性を損なうものではない。
【0085】
なお、製品のレンズ駆動装置100においては、電極30aおよび30bから電流が供給されることによってレンズ駆動枠12が移動される。一方、製造装置300によれば、ポンチ51aおよび51bの先端部50aおよび50bのそれぞれを電極として、初期張力の調整時の電流がSMA線に供給される。従って、製造装置300によれば、SMA線の抵抗値、およびSMA線と外部との熱伝導の状態などを実使用時と、調整時とで同じにすることができる。従って、初期張力の調整が、より正確に行われ得る。
【0086】
また、該初期伸び取り処理は、SMA線の内部の応力状態を安定化させるとともに、SMA線の発熱と、SMA線からの外気への放熱との釣り合いによりSMA線の温度を安定化させることを目的として行われる。従って、該初期伸び取り処理は、SMA線の温度が安定すると見込まれる所定の時間継続される。
【0087】
SMA線の初期伸び取りが終了すると、スライダ53がワークに対して相対的に離れる方向に移動されてSMA線には、より強い張力が付与される。該張力の付与により、レンズ駆動枠12は、例えば、ベース部材4から300um程度マクロ撮影側(図5の−Z側)に離れた、設計上の最大変位位置に移動される(図13のステップS140)。なお、SMA線による該最大変位位置へのレンズ駆動枠12の移動は、例えば、設計上のレンズ駆動枠12の駆動ストロークが実際に確保されるか否かを確認することなどを目的として行われる。一方、レンズ駆動枠12が、初期張力の調整時の目標変位位置から、例えば、少なくとも撮像レンズ10の駆動系のバックラッシュの大きさ以上離れた変位位置まで駆動された後に、目標変位位置に移動されれば、該移動はバックラッシュが解消された状態で行われる。従って、レンズ駆動枠12が目標変位位置から少なくともバックラッシュ量以上マクロ側に駆動された状態から、レンズ駆動枠12の位置が目標変位位置に調整されたとしても本発明の有用性を損なうものではない。
【0088】
次に、ポンチ51aおよびポンチ51bから、SMA線をオーステナイト相からマルテンサイト相に至る変態過程の途中の状態で安定化させ得る初期張力調整用の所定の電流が供給され、SMA線の状態の安定化が図られる(図13のステップS150)。該所定の電流としては、例えば、50mA程度の電流が採用される。初期張力調整用の電流がSMA線に供給された状態で、発熱と放熱とのバランスによりSMA線の温度が安定する(平衡する)と見込まれる時間まで時間待ちが行われる。なお、初期張力調整用の電流値はSMA線の線径、あるいは張力調整時の環境温度などに応じて変更される。より具体的には、SMA線の線径は、例えば、SMA線の製造ロット毎に測定されて初期張力調整用の電流値の変更に反映される。また、張力調整時の環境温度の基準温度としては、例えば、25℃が採用され、該基準温度に対する張力調整時の環境温度のずれに応じて初期張力調整用の電流値が変更される。なお、SMA線に付与される初期張力の調整の説明欄において既述したように、SMA線の状態の安定化が、マルテンサイト相からオーステナイト相に至る途中の状態において図られたとしても、本発明の有用性を損なうものではない。
【0089】
オーステナイト相からマルテンサイト相に至る変態過程の途中の状態でSMA線の状態が安定化されると、ワークに対してスライダ53が相対的に近づくようにスライダ53の移動が開始される(図14のステップS160)。
【0090】
該移動の開始によって、SMA線に付与される張力が減少し、レンズ駆動枠12の位置は、図5の+Z方向へと下がっていく。そしてレンズ駆動枠12(キャリア)の位置が、SMAアクチュエータ3の初期張力の調整のための目標位置になったか否かが制御部55によって確認される(図14のステップS170)。なお、該目標位置としては、例えば、ベース部材4から100um上方(−Z方向)の位置などが採用される。
【0091】
ステップS170での確認の結果、レンズ駆動枠12が目標位置に達していなければ、スライダ53によってSMA線に付与された張力の低減処理が継続され(図14のステップS180)、処理はステップS170へと戻される。
【0092】
ステップS170での確認の結果、レンズ駆動枠12が目標位置に達していれば、SMA線に付与された張力の低減処理が停止される(図14のステップS190)。なお、ステップS160〜S190の処理においては、SMA線に付与された張力が低減されるように張力の調整が行われるが、SMA線に付与された張力が増加されつつ張力の調整が行われたとしても本発明の有用性を損なうものではない。
【0093】
SMA線に付与される初期張力の調整処理が終了すると、初期張力が調整された状態で、ポンチ51aおよび51bのそれぞれの先端部50aおよび50bによってSMA線を通された電極30aおよび30bの溝部がそれぞれかしめられる。該かしめ処理によって、SMA線は、電極固定部33aおよび33bの電極30aおよび30bにそれぞれ固定される(ステップS200)。
【0094】
なお、ステップS200における電極30aおよび30bのそれぞれのかしめ処理は、それぞれ先端部50aおよび50bによって同時に、例えば、200Nの移動力F2が電極30aおよび30bのそれぞれに付与されることなどによって行われる。電極30aおよび30bのかしめ処理が同時に行われることによって、各かしめ処理の相互間の影響を抑制できるとともに、処理時間の短縮化を図ることもできる。
【0095】
SMA線が電極固定部33aおよび33bのそれぞれに固定されると、制御部55が、不図示の切断部を制御して、SMA線のうち電極30aおよび30bからそれぞれSMA線保持部54aおよび54b側へとはみ出ている各部を切断する処理が行われる(図14のステップS210)。該切断処理によって調整対象のレンズ駆動装置100におけるSMAアクチュエータ3の製造が完了されるとともに、レンズ駆動装置100の製造が完了される。
【0096】
上述したように、実施形態に係る製造装置300によれば、SMAアクチュエータ3により移動されるレンズ駆動枠12(対象物)が、各種のばらつき要因から受ける影響を含めて予め設定された位置に保持されるように、張架されて予め設定された加熱状態にされたSMAワイヤ3L(SMA線)に付与される張力が調整される。そして、その調整状態においてSMAワイヤ3Lが電極固定部33aおよび33bに固定される。従って、製造される個々のレンズ駆動装置100間での、SMAアクチュエータ3により移動されるレンズ駆動枠12の変位のばらつきが低減され得る。
【符号の説明】
【0097】
1 レンズユニット
2 レバー部材
2a 変位入力部
2b 変位出力部
3 形状記憶合金(SMA)アクチュエータ
3L 形状記憶合金(SMA)ワイヤ
4 ベース部材
6a,6b 平行板バネ
8 支持脚
8a レバー支持部
10 撮像レンズ
51a,51b ポンチ
52 変位計
53 スライダ
55 制御部
56 調整台
100 レンズ駆動装置
300 製造装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1固定部から第2固定部まで張設された形状記憶合金ワイヤの温度変化による形状復元力を利用して対象物の移動を行うアクチュエータを備えた駆動装置の製造方法であって、
前記第1固定部と前記第2固定部とに形状記憶合金ワイヤを固定する前に、前記形状記憶合金ワイヤを張架状態に保持する張架工程と、
前記張架工程による張架状態において、前記形状記憶合金ワイヤを加熱する加熱工程と、
前記加熱工程によって予め設定された加熱状態にされた前記形状記憶合金ワイヤによって前記対象物が予め設定された位置に保持されるように、前記張架工程において前記形状記憶合金ワイヤに付与される張力が調節された状態で、前記形状記憶合金ワイヤを前記第1固定部と前記第2固定部とに固定する固定工程と、
を備えたことを特徴とする製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載された製造方法であって、
前記加熱工程において、
オーステナイト相からマルテンサイト相への変態過程にある前記形状記憶合金ワイヤが前記加熱状態にされることを特徴とする製造方法。
【請求項3】
請求項2に記載された製造方法であって、
前記張架工程において、
前記形状記憶合金ワイヤに付与される張力が弱められつつ調整されることを特徴とする製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載された製造方法であって、
前記加熱工程において、
前記形状記憶合金ワイヤが通電されることにより加熱されることを特徴とする製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載された製造方法であって、
前記加熱工程において、
予め設定された電流が前記形状記憶合金ワイヤに通電されることにより前記形状記憶合金ワイヤが前記加熱状態にされることを特徴とする製造方法。
【請求項6】
請求項1から請求項5の何れか1つの請求項に記載された製造方法であって、
前記加熱工程における加熱手段と前記固定工程における固定手段とが同一の手段によって実現されることを特徴とする製造方法。
【請求項7】
請求項1から請求項6の何れか1つの請求項に記載された製造方法であって、
前記固定工程において、前記形状記憶合金ワイヤが前記第1固定部と前記第2固定部とに同時に固定されることを特徴とする製造方法。
【請求項8】
第1固定部から第2固定部まで張設された形状記憶合金ワイヤの温度変化による形状復元力を利用して対象物の移動を行うアクチュエータの製造が可能な製造装置であって、
前記第1固定部と前記第2固定部とに形状記憶合金ワイヤを固定する前に、前記形状記憶合金ワイヤを張架状態に保持するとともに前記形状記憶合金ワイヤに付与する張力を調整可能な張架手段と、
前記張架手段による張架状態において、前記形状記憶合金ワイヤを加熱する加熱手段と、
前記加熱手段によって予め設定された加熱状態にされた前記形状記憶合金ワイヤによって前記対象物が予め設定された位置に保持されるように、前記張架手段が前記形状記憶合金ワイヤに付与する張力が調節された状態で、前記形状記憶合金ワイヤを前記第1固定部と前記第2固定部とに固定する固定手段と、
を備えたことを特徴とする製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−227998(P2012−227998A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−91102(P2011−91102)
【出願日】平成23年4月15日(2011.4.15)
【出願人】(303000408)コニカミノルタアドバンストレイヤー株式会社 (3,255)
【Fターム(参考)】