説明

複写画像転写方法

【課題】 静電式複写機及びレーザープリンタで出力した文字、写真等の画像を、機械や熱を使うことなく、安全な材料と簡単な操作により、各種の素材に対して強力な密着力で転写できる方法に関するものである。
【解決手段】 水溶性糊料を塗布した水転写紙の表面にトナー画像を設け、その後、トナー画像の表面にアクリル樹脂を主成分とした水系エマルジョンタイプのアクリル接着剤を塗布し、アクリル接着剤の表面にアルコール水溶液1を塗り、その面に被転写素材を圧着し、該水転写紙の裏面より水を含ませ、該水転写紙を該被転写素材から剥離した後、アルコール水溶液2を含ませた塗布具によって、転写したトナー画像面を払拭して該トナー画像からはみ出した接着剤を除去することを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、本出願人が平成6年1月31日に出願した「複写画像転写方法」(特願平6−40305)の改良発明である。静電式複写機、レーザープリンタで出力した文字、写真等の画像を、特別な機械や熱を使うことなく、安全な材料と簡単な操作により、各種の素材に対して強力な密着力で転写できる方法に関するものである。前出願の改良点は作業者の健康面での安全性の向上、並びに消防法上における引火面での安全性の向上を図ったものである。
【背景技術】
【0002】
前出願の具体的な技術は、シリコン等の離形剤を積層した剥離紙にトナー画像を形成するものであった。シリコン等の離形剤の場合、トナー画像を剥離する補助剤として、炭化水素系の有機溶剤を用いる必要があるが、炭化水素はきわめて引火性が強く、近くに裸火がある場合、容易に引火して火災を起こす恐れが高かった。また、画像を転写する際に用いる有機溶剤として、オクタン、イソオクタン、イソプロパノールを提案したが、これらの溶剤は主に工業用に用いられるものであり、一般の家庭やオフィスで用いるには、作業者にとって健康上の有害性が強く不適切なものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特願平6−40305
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記、前発明の欠点を改善するためには、転写用紙から画像を剥離する際に用いる補助剤として、引火性の強い有機溶剤を用いないことである。また、画像を転写する際に用いる転写液として、健康上の有害性が無いか、もしくはきわめて小さい有機溶剤を用いる必要がある。さらに、これらの液体材料の変更をもってして尚且つ、従来の転写性能を低下させることがない方法が求められるものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この発明は、上記目的を達成するために、用紙の表面に水溶性糊料を塗布した水転写紙の表面に、静電式複写機やカラーレーザープリンタによりトナー画像を形成し、その後トナー画像の複写面にアクリル樹脂を主成分とした水系エマルジョンタイプの接着剤を刷毛やスポンジ等の塗布具により塗布し、該接着剤を乾燥させた後、該接着剤の表面にアルコール水溶液1を塗り、該接着剤の面に対して金属板や陶磁器等の被転写素材を重ねて、ヘラ等で圧着した後、該水転写紙の裏面より水を含ませて水溶性糊料を溶融することにより該水転写紙を該被転写素材から剥離した後、アルコール水溶液2を含ませた綿布、ティッシュペーパー等の塗布具にて、転写した画像面を払拭してトナー画像からはみ出した接着剤を除去することにより、トナー画像部分のみを各種素材に転写するものである。
【0006】
水溶性糊料としては、デキストリンあるいはポリビニルアルコール等を用いることができる。これらは乾燥状態で水を含ませると容易に溶融し、トナー画像と紙基材とを剥離する作用がある。静電式複写機やカラーレーザープリンタは、通常に市販されている事務用のもので可能である。これらに用いられているトナーは各種の合成樹脂を主成分としており、最近の機種で用いられている主な樹脂はポリエステル、ポリウレタン等である。これらの樹脂はアルコール水溶液に対して難溶性を示すものである。トナー画像面に塗る接着剤は、水系エマルジョンタイプのアクリル樹脂を主成分としたものを用いる。用途に応じては、機能性を付加するためにシリコン樹脂あるいはポリウレタン樹脂を混合したものを用いることもできる。シリコン樹脂を混合した場合は出来上がる被膜に硬度や耐熱性を高める作用があり、ポリウレタン樹脂を混合した場合は、柔軟性や耐擦過性を高める作用がある。
【0007】
アクリル接着剤は乾燥状態でアルコールを含ませると再溶融し粘着性を生じる。転写に必要な粘着性は過度の溶融せず、わずかに溶融した状態が好ましい。その理由は、樹脂が溶けすぎると充分な粘着力が得られず、また再び乾燥するための時間がかかり作業性も劣るからである。そのため、アルコールを水で希釈して転写に最適な粘着力が出る濃度に調節する必要がある。この数値としては、エタノールを使用した場合、アルコール濃度が10乃至60%(重量比)で転写に適した粘着力を出現させることができる。
【発明の効果】
【0008】
以上説明したように、本発明の複写画像転写方法によれば、特別な機械を使用することなく、一般のオフィスで用いられているカラー複写機や、現在では家庭でも使用され始めているカラーレーザープリンタで出力した文字や写真などの画像を、様々な素材に転写プリントすることができる。
なお、複写機のトナーと同様の性質を有するインクであれば、スクリーン印刷機等によって印刷の手段で形成した画像も、同じ工程で転写させることができる。
転写時に機械を使わず、ヘラ等で擦る方法によるため、素材の形状やサイズに限定されることなく、ライター等の小さい製品から、自動車や建物等の大きな対象物にまで、容易に転写できる利点がある。使用する材料はすべて水溶性であり、消防法上の危険物や、健康上有害性の高い薬品を使わないことから、子供から大人まで誰でも安全に作業をすることができ、家庭用から事務所用にまで用途が大きく広がる利点がある。また、使用する原料は安価なものであるため、制作コストを低く抑えることができ、特殊な設備機材も不要なことから、経費節減の大いなる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】 本発明の(イ)図乃至(ホ)図に示すものは、複写画像転写方法の一部を示す縦断側面図である。
【図2】 同じく本発明の(ヘ)図乃至(ト)図に示すものは、工程の一部を示す縦断側面図である。
【図3】 同じく本発明の(チ)図乃至(リ)図に示すものは、工程の一部を示す縦断側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
この工程により転写された画像は、トナーの周りの下部にアクリル接着剤がはみ出した形であり、いわゆるシールを貼ったような状態で外観上好ましいものではない。そのため、最後の工程として、トナーを溶融せずにアクリル接着剤のみを溶融する有機溶剤で全面を払拭することにより、トナー以外のアクリル接着剤を選択的に除去するものである。ここで用いる有機溶剤としては、エタノールの水溶液40乃至95%(重量比)で良好な結果が得られる。すなわちティッシュペーパーや綿布等に溶液を含ませて画像画全体を払拭すると、トナー以外のはみ出したアクリル樹脂が溶融して拭き取られ、被転写素材にはトナー画像部分のみが残留する。完成した転写画像は、あたかもトナー画像が直接印刷されたような自然な風合いで仕上がり、実用上極めて良好な印刷状態になる。
【0011】
用いるアルコールとしては、エタノールが最良である。その理由は、健康上の有害度が低く、その水溶液は60%(重量比)未満の場合に消防法上の危険物の指定をはずれ、普通物として安全性の高い溶剤となるためである。すなわち、本発明で用いる材料では、すべて水溶性であり、一切の危険物を使わずに制作ができるため、労働安全規則面、消防法面においてきわめて有利な転写手段を提供できるものである。
【実験例】
【0012】
この発明の実施例を図面について説明すると、図1の(イ)図において、(A)は水転写紙を示し、この水転写紙(A)は、吸水性の良い紙(1)の表面にデキストリン、ポリビニルアルコール等の水溶性糊料(2)を積層してある。この水転写紙(A)の表面に対して(ロ)図に示す文字、図柄模様等のトナー画像(3)を複写形成する。この後、トナー画像(3)の複写形成面に対して(ハ)図に示す水系エマルジョンタイプのアクリル接着剤(4)を塗布する。このアクリル接着剤(4)を乾燥させた後に、(ニ)図に示す如く、アルコール水溶液1(5)を該アクリル接着剤(4)に含浸溶融させる。その後、(ホ)図に示す如く、該アクリル接着剤(4)の塗布面に金属板、ガラス、陶磁器等の被転写素材(6)を重ねて圧着してある。
【0013】
更に、図2に示すものは、被転写素材(6)に圧着した後の水転写紙(A)において、該水転写紙(A)の裏面より(ヘ)図に示す如く、水(7)を塗布含浸させた後に、(ト)図に示す如く、水転写紙(A)を分離したものである。
【0014】
また、図3に示すものは、被転写素材(6)に転写したアクリル接着剤(4)とトナー画像(3)において、トナー画像(3)の部分から露出し、はみ出したアクリル接着剤(4)に対して(チ)図に示す如く、トナー画像(3)とアクリル接着剤(4)に対して、アルコール水溶液2(8)を含ませた綿布(9)等にて払拭除去することによって(リ)図に示す如く、トナー画像(3)を溶融することなく、アクリル接着剤(4)のみを除去するものである。
【0015】
実験例で使用した材料を説明すると、
(1)水転写紙は窯業用の吸水性紙の表面にデキストリンを塗布したものである。この用紙の要求される特性は、水を速やかに吸水してデキストリンが速やかに溶融すること、及びコピー適性に優れていることである。コピー適性とは搬送途中での紙詰まりのないこと、複写機の感光体からトナー画像を効率良く転写すること、トナーの定着性が良いこと等である。
(2)トナーの材料は、リコー製のカラーレーザー複写機イマジオMP−C2500のポリエステル系重合トナーである。このトナーは耐溶剤性に優れ、アルコールに対して容易に溶融しない特性を持っている。
(3)アクリル接着剤は、水系エマルジョンタイプのアクリル塗料を使用した。市販のアクリル塗料は各メーカーによって様々な添加物が付与されているが、アルコール水溶液を塗料の成分に応じた濃度に水で希釈することにより、その製品に最適な溶剤を作ることができる。そのアルコール水溶液を塗布乾燥したアクリル塗料に付与することにより、転写に必要充分な接着性が得られた。
(4)アルコール水溶液1は、アクリル接着剤を適度に溶融して接着性を出現させるのに最適な濃度にエタノールを水で希釈して使用した。今回使用したアクリル接着剤の場合は10乃至60%(重量比)で転写に必要な接着性が現出した。
(5)アルコール水溶液2はトナーを溶融することなくアクリル接着剤のみを溶融するための濃度に、エタノールを水で希釈して使用した。払拭するために加える圧力や綿布に含ませる液量によっても溶融性は異なるが、ほぼ40乃至95%(重量比)の濃度で目的を達成することができた。
(6)被転写素材は金属素材としてステンレス板、アルミ板、銅板、真鍮板、ガラス板、タイルを使用した。これらはアクリル接着剤との相性が良く、どの素材においても爪で軽くひっかく程度では脱落しない程度の画像密着性が得られた。
【符号の説明】
【0016】
A 水転写紙
1 吸水性の良い紙
2 水溶性糊料
3 トナー画像
4 アクリル接着剤
5 アルコール水溶液1
6 被転写素材
7 水
8 アルコール水溶液2
9 塗布具

【特許請求の範囲】
【請求項1】
用紙の表面に水溶性糊料(2)を塗布した水転写紙(A)の表面にトナー画像(3)を形成し、その後トナー画像(3)の複写面にアクリル樹脂を主成分として水系エマルジョンタイプのアクリル接着剤(4)を塗布し、該アクリル接着剤(4)を乾燥させた後、該接着剤の表面にアルコール水溶液1(5)を塗り、該アクリル接着剤(4)の面に対して被転写素材(6)を重ねて圧着し、該水転写紙(A)の裏面より水を含ませることにより該水転写紙(A)を該被転写素材(6)から剥離した後、アルコール水溶液2(8)を含ませた塗布具(9)にて、転写した画像面を払拭してトナー画像(3)からはみ出した接着剤を除去することを特徴とする複写画像転写方法。
【請求項2】
アルコール水溶液1(5)はエタノール10乃至60%(重量比)の水溶液であり、アルコール水溶液2(8)はエタノール40乃至95%(重量比)の水溶液であることを特徴とする請求項1の複写画像転写方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−39822(P2013−39822A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−193332(P2011−193332)
【出願日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【出願人】(000243607)
【Fターム(参考)】