説明

複合めっき材

【課題】好適な耐摩耗性を備える複合めっき材を提供する。
【解決手段】Ni−Pをベース材とし、六価クロムを非含有化すると共に、炭化ホウ素の分散剤を共折率10%以上15%以下にして均一に分散させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐摩耗性を高めた複合めっき材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、耐摩耗性の高いめっき材として硬質クロムめっきが広く採用されているが、処理工程で、公害物質となる六価クロムを生じるため、成分物質を蒸発化して皮膜を形成させるPVD法(物理的蒸着法)や、溶射等により皮膜を形成させるドライコーティングを採用し、処理工程で六価クロムを生じないようにしている。
【0003】
一方、他のめっき材としては、ニッケル(Ni)−リン(P)をベース材とし、炭化ホウ素の分散剤を2〜8%体積で均一に分散させるようにしたものがある(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2002−146598号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、PVD法(物理的蒸着法)を用いた場合には、設備費が高価であると共に処理時間が長いため、製造コストが高くなるという問題があった。又、溶射を用いた場合には、歩留まりが低く、皮膜の密着性が好ましくないという問題があった。更に、他のめっき材として炭化ホウ素の分散剤を2〜8%体積にした場合には、耐摩耗性が充分でないという問題があった。
【0005】
本発明は、上述の実情に鑑み、好適な耐摩耗性を備える複合めっき材を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、Ni−Pをベース材とし、六価クロムを非含有化すると共に、炭化ホウ素の分散剤を共折率10%以上15%以下にして均一に分散させたことを特徴とする複合めっき材、にかかるものである。
【0007】
本発明は、Pの含有量を0.3%以上1.0%未満にすることが好ましい。
【0008】
本発明は、分散剤の粒径を0.001μmから3μmにすることが好ましい。
【0009】
このように、本発明の複合めっき材によれば、炭化ホウ素の分散剤を共折率10%以上15%以下にして均一に分散させるので、好適な耐摩耗性を備えることができる。又、六価クロムを非含有化して六価クロムを生じないようにすると共に、通常の設備で処理し得るため、PVD法に比べて短時間に処理して製造コストを低減することができる。更に、溶射に比べて歩留まりが高く、PVDより容易に厚膜にすることができる。
【0010】
Pの含有量を0.3%以上1.0%未満にすると、リンにより所望の硬さにすると共に、低摩擦係数を生じるニッケルの特徴を維持するので、好適な耐摩耗性を備えると共に好適な低摩擦係数を備えることができる。
【0011】
分散剤の粒径を0.001μmから3μmにすると、相手材の摩耗量を抑制するので、好適な耐摩耗性を備えると共に好適な相手攻撃性にすることができる。
【発明の効果】
【0012】
以上説明したように、本発明の複合めっき材によれば、好適な耐摩耗性を備えることができるという優れた効果を奏し得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を図面に基いて説明する。
【0014】
図1〜図6は本発明を実施する形態例を示すものである。
【0015】
本発明の実施の形態例における複合めっき材は、Ni(ニッケル)−P(リン)をベース材とし、六価クロムを非含有化すると共に、炭化ホウ素の分散剤を共折率10%以上15%以下にして均一に分散させている。
【0016】
又、同時に複合めっき材は、Pの含有量を0.3%以上1.0%未満、炭化ホウ素の分散剤の粒径を0.001μmから3μm、好ましくは0.01μm以上2μm以下にしている。
【0017】
更に、複合めっき材を使用する際には、従来からある通常の設備で処理することが可能である。なお、ステンレス等の難めっき材は、処理時に3μm以下のストライクめっきの上に施すことが好ましい。
【0018】
ここで、複合めっきにおける炭化ホウ素(分散剤)の分散状態を図1の断面組織の写真により説明すると、Ni(ニッケル)−P(リン)をベース材(写真では白い部分)に、粒径0.01〜2μmの炭化ホウ素の分散剤(写真では黒い部分)が均一に分散していることが明らかである。
【0019】
又、複合めっきの摩耗量及び摩擦係数を、図2に示す如く往復動摩耗試験により、従来のCrめっきと、従来のCrNめっきとにより比較した。ここで、複合めっきは、炭化ホウ素の分散剤の共折率13.3%、Pの含有量0.84%、炭化ホウ素の分散剤の粒径0.1〜2μmであり、夫々の試料片Sをボール形状にすると共に相手材を鋳鉄製のブロックBにし、荷重10Kg、速度1m/sec.、滑り距離6000m、潤滑油を油量0.05ccの条件で測定した。この場合、図3のグラフに示す如く、複合めっきの摩耗量及び摩擦係数が最も低いことが明らかであり、耐摩耗性が好適であることを示している。
【0020】
次に、分散粒子量(共折率)と摩耗量の関係を説明するよう、複合めっきにおける耐摩耗性を更に試験した。この時、好適な耐摩耗性の状態は摩耗量が2μm以下であることから、図4のグラフに示す如く、摩耗量の目標値(2μm以下)になるものは、分散粒子量(共折率)が10%以上であることが明らかになった。ここで、分散粒子量(共折率)を15%より大きくすると、分散剤の粒子同士が接しやすくなり、皮膜が脆化してめっきが割れるという問題がある。
【0021】
更に、複合めっきにおける低摩擦係数を試験し、複合めっき(Ni−Pめっき)のリンの含有量(P量)と硬さ(ヴィカース硬さ(HV))の関係を説明すると、図5のグラフに示す如く、リンの含有量(P量)を徐々に増やした場合、1.0%近傍までは硬さが増加し、それ以後は徐々に低下することが明らかになった。一方で、リンの含有量(P量)が1.0%から増えていくと、Ni(ニッケル)の特徴である低摩擦の特徴が消失して摩擦係数が増加する。又、Pの含有量(P量)を0.3%未満にした場合には、所定の硬さを得ることができない。なお、下記の表1には、P量が0.8%の場合の摩擦係数と、8%の場合の摩擦係数の例を示す。
[表1]
摩擦係数
0.8%P−Ni 0.045
8%P−Ni 0.055
【0022】
更に又、複合めっきの分散粒子材における相手材攻撃性すなわち相手材の摩耗量を試験し、分散粒子の粒径と相手材の摩耗量の関係を説明すると、分散粒子の粒径が大きくなる場合には、それに伴って相手材の摩耗量(相手攻撃性)が増加していることが明らかになった。図6には、分散粒子の粒径3μmの場合と分散粒子の粒径5μmの場合における複合めっきの皮膜の摩耗量及び相手材の摩耗量を示しており、分散粒子の粒径5μmの場合に、相手材の摩耗量が大きいことを示している。ここで、分散粒子の粒径を0.001%より小さくすると、製造コストが著しく大きくなる。
【0023】
このように、本発明の実施の形態例の複合めっき材によれば、炭化ホウ素の分散剤を共折率10%以上15%以下にして均一に分散させるので、好適な耐摩耗性を備えることができる。又、六価クロムを非含有化して六価クロムを生じないようにすると共に、通常の設備で処理し得るため、PVD法に比べて短時間に処理して製造コストを低減することができる。更に、溶射に比べて歩留まりが高く、めっき材の密着性を向上させることができる。
【0024】
Pの含有量を0.3%以上1.0%未満にすると、リンにより所望の硬さにすると共に、低摩擦係数を生じるニッケルの特徴を維持するので、好適な耐摩耗性を備えると共に好適な低摩擦係数を備えることができる。
【0025】
分散剤の粒径を0.001μmから3μmにすると、相手材の摩耗量を抑制するので、好適な耐摩耗性を備えると共に好適な相手攻撃性にすることができる。ここで、分散剤の粒径を0.01μmから2μmにした場合には、相手材の摩耗量を更に抑制して一層好適な相手攻撃性にすることができる。
【0026】
なお、本発明は、上述の実施の形態にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の実施の形態例における複合めっきの断面組織を示す写真である。
【図2】摩耗試験の一例の概略を示す概念図である。
【図3】本発明の実施の形態における複合めっきと、従来のCrめっきと、従来のCrNめっきとを摩耗量で比較したグラフである。
【図4】本発明の実施の形態における複合めっきの分散粒子量(共折率)と摩耗量の関係を示すグラフである。
【図5】本発明の実施の形態における複合めっきのP量と硬さの関係を示すグラフである。
【図6】本発明の実施の形態における複合めっきの分散粒子の粒径と相手材の摩耗量の関係のグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Ni−Pをベース材とし、六価クロムを非含有化すると共に、炭化ホウ素の分散剤を共折率10%以上15%以下にして均一に分散させたことを特徴とする複合めっき材。
【請求項2】
Pの含有量を0.3%以上1.0%未満にしたことを特徴とする請求項1記載の複合めっき材。
【請求項3】
分散剤の粒径を0.001μmから3μmにしたことを特徴とする請求項1記載の複合めっき材。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図1】
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