説明

複合センサモジュール、シース管およびシース管継ぎ手部材

【課題】 土木施工あるいは建築施工におけるコンクリートやグラウト等の流動体の型枠やシース管等の充填対象空間への充填状況および鋼材などの腐食状態を、無線通信によりかつ低消費電力でコンクリートの耐久性を損ねることがなく精度良く検出する。
【解決手段】 一対の電極(10a、10b)と、電極間(10a、10b)に挿入された抵抗素子(11)と、電極間(10a、10b)に電圧を印加し、電極間の電気的特性を検出する充填検出部(2)と、鋼材または鋼材の近傍に設けられる金属製の検出用部材(10c)と、検出用部材の電気的特性を測定することにより検出用部材(10c)の腐食を検出する腐食検出部(2)と、充填検出部(2)および腐食検出部(2)の検出結果を読取装置に対して無線送信する無線通信部(3)と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土木施工または建築施工で用いられる流動体が充填対象空間に充填された状況を検出すると共に、コンクリート構造物中に埋設される鉄筋、PC鋼線、鋼製シース管等の鋼材の腐食進行状況を検出する複合センサモジュール、プレストレストコンクリート構造物のグラウト施工で用いられる前記複合センサモジュールを備えたシース管およびシース管継ぎ手部材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、コンクリート構造物を構築する際、型枠で囲まれた閉塞空間内にフレッシュコンクリート等の流動体を打設している。このとき、閉塞空間の形状とフレッシュコンクリートの流動性によって、閉塞空間内の隅々にまでフレッシュコンクリートを充填することができずに、フレッシュコンクリートの硬化後、型枠をはずしたときに初めて打設が不十分であったことが明らかとなる場合がある。このような場合には、当該フレッシュコンクリートが到達しなかった部分に、硬化後に改めてフレッシュコンクリートを打ち足すこととなるが、硬化後のコンクリートに対して新たにフレッシュコンクリートを打設した場合には、これらが一体化せず、新たに打ち足した部分の剥離等を生じることとなる。従って、型枠内にフレッシュコンクリートを打設する際には、型枠内の隅々までフレッシュコンクリートが行き渡っているか否かを、当該フレッシュコンクリートが硬化する前に型枠を設置したまま調査することが必要である。このため、従来は、熟練者が木槌等で型枠を打ち、その打撃音によって経験と勘に基づいて判断することが行われていた。しかしながら、従来の熟練者による経験と勘に基づいた打設確認方法では、確認者による差が大きく、また、充填されていると判断されても実際は充填されていない場合があり得るという問題点があった。
【0003】
最近では、各種充填センサを用いた電気的特性を測定し、充填状況を確認する手法が検討されており、特許文献1(特許2995459号公報)では、1本の電極と1対の熱電対からなるセンサを利用して、電気抵抗と温度を測定することによりセメント混練物の充填状況を確認する技術が提案されている。特許文献1に記載される充填センサは、セメント混練物の充填状況のみを確認するものであり、充填工事を終了し役目を終えた後は、回収しない限りそのままコンクリート中に存在する。
【0004】
また、プレストレストコンクリートは、高張力に耐えうる鋼材を用いて、コンクリートに圧縮応力を与え、従来の鉄筋コンクリートと比べて著しく曲げ耐力を向上させたもので、橋梁、建築構造物、各種タンク、防災設備などに利用されている。
【0005】
プレストレストコンクリートを製造する方法としては、あらかじめ鋼材に緊張力を与えてコンクリートを打設し、コンクリートが硬化した後に緊張を解いてコンクリートに圧縮応力を導入するプレテンション方式と、シース管と呼ばれるパイプ状の鞘管を配置した後にコンクリートを打設し、コンクリートの硬化後にシース管内に通された鋼材を緊張してコンクリートに圧縮応力を導入するポストテンション方式がある。
【0006】
ポストテンション方式のプレストレストコンクリートでは、鋼材とコンクリートとの一体化を図る目的、および鋼材が腐食等により損傷することを防ぐ目的でシース管内にグラウト材が充填される。しかし、シース管内にグラウト材の未充填部があると、水や酸素、さらには海岸付近の構造物に対するケースや凍結防止剤を使用するケースでは塩化物イオンが進入し、長い期間に鋼材が腐食することがあり、プレストレストコンクリートの耐荷性能は大きく低下する。したがって、この工法においてはシース管内全体にグラウト材を行き渡らせる必要がある。
【0007】
従来から、グラウト材の充填を確認する手法として、グラウト材の注入口と逆側に設置されている空気排出口からのグラウト材の排出を直接確認する方法や、シース管内の空隙率から推定される空隙量と実際に注入されるグラウト材の量の対比から充填率を推定する方法、さらには点検用の孔を設け充填を目視確認する方法等がある。そのうち、非破壊検査による方法としては、弾性波を入射させるとともに反射波を受信して検出する方法、X線透過法によってグラウト材の未充填部を検出する方法、超音波を入力して反射波を検出する方法、中性子線の吸収を検出する方法等がある(たとえば、特許文献2として特開平10−54140号公報、特許文献3として特開2001−241187号公報参照)。
【0008】
センサを用いた方法としては、コンクリートの外部まで伸びた導電コードを接続したセンサを埋め込んでグラウト材の充填を確認する方法がある(たとえば、特許文献4として特開平10−231520号公報参照)。また、通信技術を用いてコードレスで、センサが感知した情報を外部で読み取る方法もある(たとえば、特許文献5として特開2001−201373号公報、特許文献6として特開2003−107030号公報参照)。この方法は、構造物の内部情報を内部に埋め込んだセンサで感知し、感知された情報を無線通信により読取装置で読み取り、内部状態を計測する方法である。
【0009】
一方、従来から、鉄筋の腐食診断法としてASTM(American Society for Testingand Materials)のC876−87でコンクリート中の無塗装鉄筋の自然電位の測定法により鉄筋の腐食度合いを測定する手法が広く用いられている(たとえば、特許文献7として特許第3096240号公報参照)。健全なコンクリート構造物中では強アルカリ性のため鉄筋は不働態化しており、その自然電位は凡そ−100mV〜−200mV(CSE)を示す。上記の手法は、塩化物の侵入や中性化(炭酸化)によって鉄筋の活性態となって腐食が進行し、腐食が進行するとその電位が卑方向(負方向に大きくなる)へ変化することに着目し、この自然電位の測定値をもとに腐食の確率を診断するものである。
【0010】
特許文献7(特許第3096240号公報)では、コンクリート構造物中の鉄筋の腐食確率または腐食度を、自然電位を測定して診断する手法が示されている。この手法は、実測した自然電位に対し、コンクリート構造物のかぶり部分のコンクリートの含水率による補正、コンクリートの塩分の有無による補正、コンクリートの炭酸化深さによる補正を行い、コンクリート構造物中の鉄筋の腐食確率または腐食度を高精度で診断する。
【0011】
また、コンクリート中に伝送ケーブルを通して鉄筋の電位を測定し、かぶり部分のコンクリートの影響を除く手法も知られている(たとえば、特許文献8として特許第2511234号公報)。その中では、検査用線材を予め埋設し線材の抵抗、電流を測定することによりPC鋼材の腐食状況を検出する手法も知られている(たとえば、特許文献9として特開平8−94557号公報、特許文献10として特許第3205291号公報参照)。
【特許文献1】特許2995459号公報
【特許文献2】特開平10−54140号公報
【特許文献3】特開2001−241187号公報
【特許文献4】特開平10−231520号公報
【特許文献5】特開2001−201373号公報
【特許文献6】特開2003−107030号公報
【特許文献7】特許第3096240号公報
【特許文献8】特許第2511234号公報
【特許文献9】特開平8−94557号公報
【特許文献10】特許第3205291号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、弾性波や超音波、またはX線や中性子線を用いてコンクリート内部を検出する方法では、いずれも精度が低くグラウト材の充填または未充填の判定が難しい。また、これらの方法は煩雑である。
【0013】
また、内部に埋設されたセンサから導電コードをコンクリートの外部まで伸ばす方法では、導電コードまたは導電コードとコンクリートの接触面が酸素、水または塩化物イオンのような鋼材の腐食因子の通り道になる可能性がある。特に長期間にわたりコンクリート構造物が使用されるとコンクリートの耐久性に大きな差が生じうる。100年を越えるような長期間におけるコンクリートの耐久性を考えた場合、積極的に採用されるべきものではない。
【0014】
また、構造物の内部状態を無線手段により読取装置で計測する方法が知られているが、プレストレスコンクリート構造物のグラウト施工についてシース管へのグラウト材の充填を検出する具体的な方法は提案されていない。
【0015】
また、コンクリートやグラウトなどの流動体に電極を挿入し電極間に電圧を印加した後の電極間電圧値の変化から、この流動体の充填状況を判別しようとした場合、電極間への電圧印加時間の増加に伴い徐々に電極間電圧値は増大することや、電極に電圧を印加した場合には、コンクリート、グラウト、水に電気が蓄積されるため、電圧印加を繰り返し行う毎に電極間電圧値は、徐々に増加していくため安定した電圧値をえることができないことが確認された。前者の現象は、コンクリート、グラウト、水などは各種イオンを多少に関わらず含んでおり、これらイオンの存在により電極への電圧印加時に電極表面に静電2重層が形成され、この静電2重層の影響により、電圧印加時間に対して電極間電圧値が徐々に増加することが原因として生じるものである。また、後者の現象は、電極間に流れた電流がコンクリート、グラウト、水などに蓄電されることが原因として生じるものである。
【0016】
さらに、コンクリート構造物でのグラウト施工におけるグラウトの充填検知においては、コンクリートにアンテナと共にセンサを埋め込んだ場合、コンクリート自体が電波を吸収するために満足な通信感度が得られないといった問題がある。また、内部状態を検知する検知部をコンクリート内部に置き、発信アンテナのみをコンクリート表面に設置した場合、検知部とアンテナは導電コードを使用する必要があるが、鋼材の腐食因子が導電コードを伝ってコンクリート内部へと侵入する可能性があり、コンクリートの耐久性を損ねるといった問題があった。
【0017】
一方、特許文献7に記載されているような自然電位の測定法では、不確定の要素が大きいうえ、実際の診断結果にもバラツキがあって信頼性に欠けるという問題がある。鉄筋の自然電位は、コンクリート表面においてかぶり部分を介して測定されるので、必ずしも鉄筋腐食個所の真の電位を示すものとはならない。また、種々の要因が測定値に影響を及ぼし、電位が変動する原因ともなる。
【0018】
測定値に影響を及ぼすと考えられる主な要因のうち、大きな影響を及ぼすものは電気化学的な要因と抵抗的要因とされている。電気化学的な要因はコンクリートの化学的および物理的性状の不均一性に起因し、抵抗的要因はコンクリート自体や表面の炭酸化層などの抵抗に起因する。そして、それらの原因は含水率や塩分量に左右される。
【0019】
このように、電位はかぶり部分の性状により様々に変動するため、自然電位の測定により判定した状況と実際の腐食状況とが一致せず、上記の測定法は信頼性に欠ける。また、このような方法は、コンクリートの含水率、コンクリートの塩分量、コンクリートの炭酸化深さ測定に対して手間と時間がかかるため、効率的な診断方法とはいえない。
【0020】
一方、腐食検知においては、伝送ケーブルを通じて侵入する可能性のある塩分、酸素、水、炭酸ガス、硫酸イオン、酸性物質など腐食因子の影響の排除と美観向上を図る目的から無線技術を用いた検知手法が考えられるが、無線技術を用いた検知手法においては、腐食センサを稼動させるための電力を如何に確保するかが重要な課題となる。
【0021】
腐食センサの電源として、電池を搭載したり、あるいは、外部から腐食センサに供給される電波を整流して電源として用いたりする手法などがあるが、電池寿命の向上や、読取装置との腐食センサとの距離が離れることによる電波の減衰の影響を少なくするために、腐食センサの電力消費量はなるべく少なくする必要がある。従来の自然電位の測定や腐食因子の測定においては、電力消費量が多いという問題があり、無線技術を利用するための適した腐食状態の検出方法や予測する手法が望まれていた。
【0022】
また、構造物の状態を検知するセンサとして、構造物の施工時の状態および施工後の状態それぞれについて検知するセンサはあり、それぞれのセンサは、使用される時期に対応して別々に設置され、使用されているのが現状である。このため、構造物の複数の状態を一つのセンサで検知できれば、センサの取付作業は一度で済み作業効率の向上が図られ、また、長期にわたり使用できるため省資源化対策にもなり得、設置するセンサの数を減らせることにより構造物の負荷を低減できることから、構造物の施工時および施工後においても構造物の状態を検知できる機能を兼ね備えたセンサが望まれていた。
【0023】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、土木施工あるいは建築施工におけるコンクリートやグラウト等の流動体の型枠やシース管等の充填対象空間への充填状況を確認することと、充填工事終了後には鉄筋コンクリート構造物の耐久性に重大な影響を与える構造物内の鋼材の腐食状態を検知するように機能し、施工時および施工後の2段階で構造物の耐久性の信頼性、安全性を確保するため、充填状況および鋼材などの腐食状態を、無線通信によりかつ低消費電力でコンクリート構造物に大きな負荷をかけることなく精度良く検出することができる複合センサモジュール、シース管およびシース管継ぎ手部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0024】
(1)上記の目的を達成するため、本発明は、以下のような手段を講じた。すなわち、本発明に係る複合センサモジュールは、土木施工または建築施工で用いられる流動体が充填対象空間に充填された状況を検出すると共に、コンクリート構造物中に埋設される鋼材の腐食進行状況を検出する複合センサモジュールであって、一対の電極と、前記電極間に挿入された抵抗素子と、前記電極間に電圧を印加し、前記電極間の電気的特性を検出する充填検出部と、前記鋼材または前記鋼材の近傍に設けられる金属製の検出用部材と、前記検出用部材の電気的特性を測定することにより前記検出用部材の腐食を検出する腐食検出部と、前記充填検出部および前記腐食検出部の検出結果を読取装置に対して無線送信する無線通信部と、を備えることを特徴としている。
【0025】
このように、一対の電極間に抵抗素子が挿入されているので、電気的特性を正確に検出することが可能となる。すなわち、電極間に電圧を印加すると、電極に接触している流動体、すなわち充填対象空間に充填されている流動体に電荷が蓄積し、検出結果に影響を与えてしまうので、電極間に抵抗素子を挿入することによって、抵抗素子において測定対象物(流動体)に蓄積した電荷がジュール熱として消費され、電荷を取り除くことが可能となる。その結果、電極間の電気的特性を正確に検出することが可能となる。さらに、検出結果を読取装置に対して無線送信するため、従来のようにリード線を構造物の外部に引き出すことにより生じていた腐食因子の侵入が回避されるので、構造物の耐久性を向上させることが可能となる。また、鋼材または鋼材の近傍に金属製の検出用部材を設け、少ない電力消費量で検出用部材の腐食を電気的特性の測定により検出する。一般的に、金属製材料の抵抗は極めて小さく、低電圧でごく僅かな電流量を金属製材料に流すことにより、金属製材料の腐食状態を検出することが可能である。このことから、電気的特性の変化から検出用部材の腐食を検出することができ、鉄筋、PC鋼線、鋼製シース管等の鋼材の腐食が生じているかどうかを予想することが可能となる。その結果、把握した情報に基づいて、構造物の補修必要性有無の判断、工事指針策定などを的確かつ短時間に実施でき、コンクリート構造物を健全な状態に保つ維持管理が可能となる。
【0026】
(2)また、本発明に係る複合センサモジュールにおいて、前記充填検出部は、予め定められた一定の電圧印加時間に亘って前記電極間に電圧を印加する電圧印加回路と、前記電圧印加時間が経過した時の前記電極間の電圧を検出する電圧検出回路と、前記電圧検出回路が検出した検出電圧と、予め設定された閾値電圧とを比較し、その比較結果を出力する比較回路と、を備えることを特徴としている。
【0027】
このように、検出した電極間の検出電圧と、予め設定された閾値電圧とを比較するので、回路構成を簡略化し、低消費電力化を図ることが可能となる。また、比較回路の分解能に応じて、測定を複数回行なうことによって、検出精度を向上させることが可能となる。
【0028】
(3)また、本発明に係る複合センサモジュールにおいて、前記一対の電極は、相互に材質が異なる金属で形成されていることを特徴としている。
【0029】
このように、一対の電極が、相互に材質が異なる金属で形成されているので、電極間でいわゆるガルバニック電池が形成され、外部から電極間に電圧を印加しなくても自然現象として電極間に電位差が生じることとなる。本発明によれば、この電位差を電極間の電圧の検出に用いることができるので、電極間に外部から電圧を印加するために必要な電力を低減させることが可能となり、その分、読取装置との無線通信を行なうために必要な電力を大きくすることができる。その結果、読取装置との通信距離を相対的に大きくすることが可能となる。
【0030】
(4)また、本発明に係る複合センサモジュールにおいて、前記一対の電極は、矩形波状または鋸波状に形成された二次元的な凹凸部を備え、前記各電極は、前記凹凸部が相互に噛合するように配置されていることを特徴としている。
【0031】
このように、一対の電極が、矩形波状または鋸波状に形成された二次元的な凹凸部を備えているので、電極と測定対象物(流動体)とが高い確率で接触し、検出精度を高めることが可能となる。すなわち、電極が二次元的な凹凸部を備えていることによって電極全体が広範囲に分散するので、電極の流動体と接触する面積は同一であったとしても、電極の形状が単に平面状または棒状である場合よりも測定対象物(流動体)に接触する確率が高くなる。その結果、電極がわずかに流動体に接触した場合でも敏感に充填状況を検出することが可能となる。また、凹凸部が、矩形波状または鋸波状に形成され、相互に噛合するように配置されているので、配線が容易となり、センサ全体の小型化を図ることが可能となる。
【0032】
(5)また、本発明に係る好ましい複合センサモジュールにおいて、前記一対の電極は、湾曲、または屈曲されていることを特徴としている。
【0033】
このように、一対の電極は、湾曲、または屈曲されているので、三次元方向に対して、電極と測定対象物(流動体)との接触確率を高め、検出精度を高めることが可能となる。
【0034】
(6)また、本発明に係る好ましい複合センサモジュールにおいて、前記一対の電極は、三次元的な凹凸部を備えることを特徴としている。
【0035】
このように、前記一対の電極は、三次元的な凹凸部を備えるので、三次元方向に対して、電極と測定対象物(流動体)との接触確率を高め、検出精度を高めることが可能となる。
【0036】
(7)また、本発明に係る好ましい複合センサモジュールにおいて、前記一対の電極は、基板上に設けられた一対の電極基部と、前記各電極基部から突出する少なくとも一つの突出部と、を備えることを特徴としている。
【0037】
このように、前記一対の電極は、基板上に設けられた一対の電極基部と、前記各電極基部から突出する少なくとも一つの突出部と、を備えるので、電極と測定対象物(流動体)との接触確率をさらに高めることが可能となる。
【0038】
(8)また、本発明に係る複合センサモジュールにおいて、前記検出用部材は、材質の種類または径が異なる2つ以上の金属線からなり、前記金属線は、それぞれ抵抗素子に直列に接続されていることを特徴としている。
【0039】
このように、腐食に対する耐性に応じて材質の種類の異なる金属線を用いたり、径に応じて複数種類の金属線を用いたりする。これにより、腐食の程度を段階的に把握することが可能となり、鋼材の腐食の程度を予想することが可能となる。
【0040】
(9)また、本発明に係る複合センサモジュールにおいて、前記腐食検出部は、前記検出用部材の近傍に設置され、前記検出用部材より電位の貴な金属を材料とするカソード用部材を有し、前記検出用部材と前記カソード用部材とは電気的に接続され、前記カソード用部材は前記検出用部材に対しカソードの役割を果たすものであることを特徴としている。
【0041】
このように、検出用部材の近傍に、電位の貴な金属を材料とするカソード用部材が設置されているため、検出用部材の腐食が進行すると、検出用部材とカソード材との間に腐食電流が流れる。これにより、腐食電流を検出することで検出用部材の腐食を検出することができ、鋼材の腐食の程度を予想することが可能となる。たとえば、鋼材表面積から腐食電流密度を計算することにより鋼材の腐食状況を把握または今後の進行状況を予測することが可能である。また、鋼材などを劣化させる塩素イオンなどの劣化因子の浸透状況をより早く把握することが可能となる。
【0042】
(10)また、本発明に係るシース管は、プレストレストコンクリート構造物におけるグラウト施工に用いられるシース管であって、シース管本体と、前記シース管の管壁に設けられたセンサ取り付け部と、前記センサ取り付け部に取り付けられた請求項1から請求項6のいずれかに記載の複合センサモジュールと、を備え、前記検出用部材は、シース管本体の外周面および/または内周面に沿って設けられていることを特徴としている。
【0043】
この構成により、シース管内へのグラウトの充填状態を正確に検出することが可能となるとともに、従来のようにリード線を構造物の外部に引き出すことにより生じていた腐食因子の侵入が回避されるので、構造物の耐久性を向上させることが可能となる。また、検出用部材をシース管本体の外周面または内周面に沿って設け、その電気的特性を測定することで、検出用部材の腐食を検出するので、シース管またはシース管内のPC鋼線の腐食が生じているかどうかを予想することが可能となる。
【0044】
(11)また、本発明に係るシース管継ぎ手部材は、プレストレストコンクリート構造物におけるグラウト施工に用いられるシース管同士を繋ぐシース管継ぎ手部材であって、シース管継ぎ手部材本体と、前記シース管継ぎ手部材本体に設けられたセンサ取り付け部と、前記センサ取り付け部に取り付けられた請求項1から請求項6のいずれかに記載の複合センサモジュールと、を備え、前記検出用部材は、シース管継ぎ手部材本体の外周面および/または内周面に沿って設けられていることを特徴としている。
【0045】
この構成により、シース管継ぎ手部材内へのグラウトの充填状態を正確に検出することが可能となるとともに、従来のようにリード線を構造物の外部に引き出すことにより生じていた腐食因子の侵入が回避されるので、構造物の耐久性を向上させることが可能となる。また、検出用部材をシース管継ぎ手部材本体の外周面または内周面に沿って設け、その電気的特性を測定することで、検出用部材の腐食を検出するので、シース管またはシース管内のPC鋼線の腐食が生じているかどうかを予想することが可能となる。特に、継ぎ手部材のジョイント部分からシース管内に腐食因子が進入する可能性が高いため、シース管継ぎ手部材にこのような機能を持たせることは有効である。
【発明の効果】
【0046】
本発明に係る複合センサモジュールによれば、一対の電極間に抵抗素子が挿入されているので、電気的特性を正確に検出することが可能となる。すなわち、電極間に電圧を印加すると、電極に接触している流動体、すなわち充填対象空間に充填されている流動体に電荷が蓄積し、検出結果に影響を与えてしまうので、電極間に抵抗素子を挿入することによって、抵抗素子において測定対象物(流動体)に蓄積した電荷がジュール熱として消費され、電荷を取り除くことが可能となる。その結果、電極間の電気的特性を正確に検出することが可能となる。さらに、検出結果を読取装置に対して無線送信するため、従来のようにリード線を構造物の外部に引き出すことにより生じていた腐食因子の侵入が回避されるので、構造物の耐久性を向上させることが可能となる。また、鋼材または鋼材の近傍に金属製の検出用部材を設け、少ない電力消費量で検出用部材の腐食を電気的特性の測定により検出する。一般的に、金属製材料の抵抗は極めて小さく、低電圧でごく僅かな電流量を金属製材料に流すことにより、金属製材料の腐食状態を検出することが可能である。このことから、電気的特性の変化から検出用部材の腐食を検出することができ、鉄筋、PC鋼線、鋼製シース管等の鋼材の腐食が生じているかどうかを予想することが可能となる。その結果、把握した情報に基づいて、構造物の補修必要性有無の判断、工事指針策定などを的確かつ短時間に実施でき、コンクリート構造物を健全な状態に保つ維持管理が可能となる。また、充填センサと腐食センサを別々に設置する必要がないので、取付作業を省力化できるとともに構造物への負荷を軽減できる。そして、施工時から施工後に渡って、センサは役目を終えることなく構造物の維持管理に寄与するので無駄がない。
【0047】
また、本発明に係るシース管、およびシース管継ぎ手部材によれば、シース管またはシース管継ぎ手部材内へのグラウトの充填状態を正確に検出することが可能となるとともに、従来のようにリード線を構造物の外部に引き出すことにより生じていた腐食因子の侵入が回避されるので、構造物の耐久性を向上させることが可能となる。また、検出用部材をシース管またはシース管継ぎ手部材本体の外周面または内周面に沿って設け、その電気的特性を測定することで、検出用部材の腐食を検出するので、シース管またはシース管内のPC鋼線の腐食が生じているかどうかを予想することが可能となる。特に、シース管継ぎ手部材のジョイント部分からシース管内に腐食因子が進入する可能性が高いため、シース管継ぎ手部材にこのような機能を持たせることは有効である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0048】
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態に係る複合センサモジュールの概略構成を示すブロック図である。この複合センサモジュール1は、シース管内に充填されるグラウトの充填状況を検出する機能と、鋼材の腐食状況を検出する機能とを併せ持っている。複合センサモジュール1では、一対の電極10a、10bが、充填対象空間の流動体と接触して、充填状況を検出する。これらの電極10a、10bの間には、抵抗素子11が並列に設けられている。このように、電極10a、10bの間に抵抗素子11が挿入されているので、電気的特性を正確に検出することが可能となる。すなわち、電極10a、10b間に電圧を印加すると、電極に接触しているサンプル、すなわち充填対象空間に充填されている流動体に電荷が蓄積し、検出結果に影響を与えてしまうので、電極間に抵抗素子を挿入することによって、抵抗素子において測定対象物に蓄積した電荷がジュール熱として消費され、電荷を取り除くことが可能となる。その結果、電極間の電気的特性を正確に検出することが可能となる。
【0049】
ここで、抵抗素子11は、電極10a、10bと測定対象物と抵抗素子11とで形成される回路に対し測定対象物と並列に挿入されることから、測定対象物に蓄積した電荷をジュール熱として有効に消費するためには、その抵抗値が小さいものが好ましい。しかし、抵抗素子11の抵抗値が小さ過ぎるとコンクリートやグラウトの抵抗と差がなくなってしまい、空気、水、コンクリートやグラウトにおいてそれぞれ示される電極間電圧値との差が小さくなり、識別することが困難となる。一方、抵抗素子11の抵抗値が大き過ぎる場合には、測定対象物に蓄積した電荷をジュール熱として消費する時間が長くなり、正確に検出することができなくなる。そこで、例えば、水酸化カルシウム飽和水溶液の抵抗率が50〜300Ωcm、水の抵抗率が2〜25kΩcmであることを考慮すると、抵抗素子11の抵抗値の大きさとしては、1kΩ〜1MΩであることが好ましい。
【0050】
図2(a)および(b)は、電極の二次元的な形状を示す図であり、同図に示すように、電極10a、10bは、二次元的な凹凸部を有している。図2(a)では、矩形波状の凹凸部15を有する電極10a、10bが、相互に噛合するように配置され、リード線16がそれぞれに付加されている。また、図2(b)では、矩形波状の凹凸部17を有する電極10a、10bが、相互に対向するように配置され、リード線16がそれぞれに付加されている。電極の凹凸部の形状は、図示したような矩形波状のほか、鋸波状、千鳥状、螺旋状等の形状を取ることができる。電極の凹凸部の形状をこのような形状にすることにより、電極の流動体と接触する面積自体の面積は同一でも、図2に示すように電極が配置されている全体の面積を大きくすることが可能となり、電極部に空気が残る心配が少ない。また、電極2本が平面状または棒状に成形されている場合よりも、電極部全体は大きくなることから、電極部に僅かにコンクリートあるいはグラウトが接触した場合でも敏感に充填状況を検出することが可能となる。なお、電極の外形寸法としては、例えば、5mm×5mm、10mm×10mm、15mm×15mm、20mm×20mm、25mm×25mm程度など、5mm〜25mm程度の範囲内において正方形あるいは長方形のものなどが使用できる。
【0051】
また、矩形波または鋸波状の二次元的な凹凸部が相互に噛合するように配置することによって、電極部分のあらゆる方向からコンクリートあるいはグラウトなどが流れてきても正確に充填状況を検出することができる。また、電極を小型化させることができると共に、微弱な電気抵抗値の変化も検知することが可能となる。また、このように、電極の端部を矩形波状または鋸波状とする以外にも、複数の金属板を金属線等で連結することにより各電極を構成しても良い。このように電極を構成することによって、グラウト等の測定対象物(流動体)が、いずれかの金属板には接触しなくても他の金属板には接触する可能性が高まり、検出精度を向上させることが可能となる。
【0052】
なお、電極の大きさについてであるが、電極面積が大きくなると電極間の液抵抗は小さく、逆に静電容量は大きくなり、電極部の分極抵抗は、電極の置かれている環境条件により異なることが知られている。このことから、コンクリートあるいはグラウトの充填状況をより正確に検出するためには、電極サイズの検討が重要となる。図1の場合、一対の電極10a、10bによって占められる領域は、例えば、約400mmとしている。
【0053】
また、一対の電極10a、10bは、一対の電極は、材質が同一の金属で形成されたものであっても良いし、材質が異なる金属で形成されたものであっても良い。異種金属を電極に用いた場合、異種金属の組合せや、電極間に存在する物質の違いによって電極間に生じる電位差は異なる。異種金属を利用した場合、いわゆる「ガルバニック電池」が形成されるため、電極間に電圧を印加しなくても電位差が自然現象として発生する。その結果、検出時に電力が消費されないことから、その分の電力をセンサと読み取り装置との間の無線通信に用いることが可能となり、通信距離を相対的に大きくすることが可能となる。
【0054】
異種金属を用いる場合、金属の組合せとしては、できる限り電極間電位差が大きくなる金属を組合せた方が良いが、例えば、金とアルミニウム、金と亜鉛などでは、アルミニウムや亜鉛が強アルカリにおいて非常に溶解しやすいため、コンクリートやグラウトの充填工事直後における充填状況の検出には利用できるが、工事完了から数ヵ月後に実施される竣工検査などにおいては、電極が溶解消失して充填状況を確認することができない可能性がある。また、アルカリに溶解する際に水素ガスを発生するため、この水素ガスがPC鋼材を脆弱化させる(水素脆化)可能性がある。一方、電位差が比較的小さくなる金属の組合せでは、水とコンクリートまたは水とグラウトにおける電位差の差が小さくなるが、測定誤差も小さくなる利点がある。
【0055】
このように、異種金属により一対の電極10a、10bを形成する場合、上記問題点を十分に考慮して金属の組合せを決定する必要がある。異種金属の組合せを具体的に挙げると次の通りである。すなわち、電極材質の組み合わせとしては、アルカリ物質中における起電力と水中における起電力の差が僅かでもあれば何でも良く、例えば、鉄とアルミニウム、鉄とステンレス、鉄と亜鉛、鉄と金、鉄とニオブ、鉄と各種金属の合金、炭素と銀、炭素とチタン、炭素と銅、炭素とタングステン、炭素とモリブデン、炭素とステンレス、炭素と金、炭素と真鍮、炭素とスズ、炭素と各種金属の合金、チタンと金、チタンと各種金属の合金、銀と銅、銀とモリブデン、銀とステンレス、銀とスズ、銀と各種金属の合金、アルミニウムと炭素、アルミニウムと銀、アルミニウムとニッケル、アルミニウムとタングステン、アルミニウムとモリブデン、アルミニウムとステンレス、銅と各種金属の合金、ニッケルと真鍮、ニッケルと各種金属の合金、タングステンとニオブ、タングステンと各種金属の合金、モリブデンと各種金属の合金、ステンレスと真鍮、金とスズなどが挙げられる。
【0056】
また、図1に示すように、複合センサモジュール1は、鋼材の腐食状況を検出するためのセンサ回路10cを備えている。センサ回路10cは、金属線A〜A(検出用部材)および抵抗素子R〜Rから構成されている。金属線A〜Aは、鋼材または鋼材の近傍に敷設される。たとえば、樹脂製の膜等の絶縁物を挟んで絶縁物鋼製シース管の表面に敷設してもよいし、PC鋼線の挿通された樹脂製シース管の外周に取り付けることとしてもよい。これにより、測定される電気的特性からかぶりコンクリートの与える種々の要因を排除することができる。さらに、専用の高価な測定器を不要にし、低コストで鋼材の腐食状況の検出精度を高めることができる。なお、図1において金属線A〜Aは複数あるものとして示しているが、1本だけであってもよい。
【0057】
金属線A〜Aは、測定対象となるコンクリート構造物中の鋼材と同種金属からなり、コンクリート構造物が普通の鉄筋コンクリート構造物の場合は鉄線(JIS G3532)又は軟鋼線(JIS G 3505)を使用することが好ましく、プレストレスコンクリート構造物の場合はPC鋼線(JIS G 3536)又はピアノ線(JIS G 3502)を使用することが好ましい。ただし、金属線A〜Aの材料は、これらに限定されるものではなく、既知の種々の線材であってもよい。金属線A〜Aの径は、0.01〜1.0mmの範囲のものであれば何でも良い。ただし、必ずしも検出用部材の形状は、線でなくても構わない。検出用部材には、金属線に限定されず、鋼材などよりも薄く腐食しやすい金属製の薄板なども利用することが可能である。
【0058】
また、検出用部材の材質としては、特に限定されるわけではないが、鉄筋、PC鋼材、鋼製シース管の材質よりも腐食しやすい材質、言い換えれば鉄筋、PC鋼材、鋼製シース管に対して電位が卑となるものが好ましい。
【0059】
なお、金属線A〜Aは断面が円形のものに限られず、楕円形や帯状など種々の形状のものを使用することも可能である。金属線の腐食状態を把握するために検出する電気的特性としては、電気抵抗を含めたインピーダンス、電位差が挙げられる。なお、金属線は長い方が、広い範囲をカバーすることができるため、検出の精度が高くなる。また、一本の金属線において、位置により径の大きさを変えることで、コンクリートの付着性をよくすることができる。その場合には、細い部分により腐食が検出されるため、繰り返し細い部分を設けることで感度を高くすることも可能である。
【0060】
これにより、電気的特性の変化から金属線A〜Aの腐食を検出することができ、鉄筋、PC鋼線、鋼製シース管等の鋼材の腐食が生じているかどうかを予想することが可能となる。その結果、把握した情報に基づいて、構造物の補修必要性有無の判断、工事指針策定などを的確かつ短時間に実施でき、コンクリート構造物を健全な状態に保つ維持管理が可能となる。
【0061】
抵抗素子R〜Rは、金属線A〜Aに直列に接続されている。これにより、金属線が腐食したときには、抵抗値が上がるため金属線の腐食を検出することができる。たとえば、抵抗素子R〜Rの抵抗値r〜rであるとして、腐食のないときのセンサ回路10cの抵抗値はr・・・r/(r+r+・・・+r)であるが、抵抗素子Rに直列接続している金属線Aが断線したときには、センサ回路10cの抵抗値は、r・・・rn−1/(r+r+・・・+rn−1)となり、抵抗が大きくなる。したがって、抵抗値を検出することで腐食を検出できる。なお、抵抗素子R〜Rを金属線A〜Aに接続することなく、金属線そのものの抵抗を用いて腐食を検出してもよい。
【0062】
このように金属線A〜Aに抵抗素子R〜Rを接続することにより、金属線A〜Aに流れる電流が僅かでも金属線A〜Aの僅かな腐食状態を精度良く検出することが可能である。さらには、金属線A〜Aに抵抗素子R〜Rを接続することにより、金属線A〜Aおよび抵抗素子R〜Rで消費される電力は少なく、検出用部材で消費される消費電力を少なくできる。
【0063】
なお、消費電力を少なくするためには、検出用部材全体の抵抗値が大きくなるように抵抗素子R〜Rを組み合わせるのが良い。検出用部材全体の抵抗値としては、例えば、10kΩ〜1MΩの範囲であることが好ましい。10kΩよりも小さい場合には、検出用部材に流れる電流量が大きくなり、検出用部材で消費される消費電力は多くなる。一方、1MΩよりも大きい場合には、検出用部材に流れる電流量は少なくなるが、検出用部材全体の係る電圧が大きくなり消費電力は多くなる。
【0064】
金属線の配置形状としては、並列に配置するだけでなく、深さ方向に対して階段状、円周状に配置することもできる。腐食因子の到来方向に沿って階段状に、金属線A〜Aを配置することにより、コンクリート構造物の外部に近い金属線から腐食されるため、コンクリート構造物中の鋼材の腐食劣化時期をより正確に予測することが可能となる。なお、測定対象の管または鉄筋の径方向に沿って半径の異なる円周状の金属線A〜Aを段階的に配置してもよい。
【0065】
また、図1に示すインタフェース回路12は、電極10a、10b、およびセンサ回路10cとRFID IC13とを接続する回路である。RFID IC13は、検出回路13aおよび無線通信回路13bを有している。検出回路13aは、電極10a、10bに対して電圧を印加し、電極10a、10b間の電気的特性を検出する。電気的特性としては、電極10a、10b間の電圧(電位差)、電気抵抗、インピーダンス、静電容量などがあり、これらを検出することが可能である。第1の実施形態では、電極10a、10b間の電圧を検出することとする。また、検出回路13aは、センサ回路10cに対して電圧を印加し、端子10d、10e間の電気的特性を検出する。電気的特性としては、端子10d、10e間の電圧(電位差)、電気抵抗、インピーダンス、静電容量などがあり、これらを検出することが可能である。第1の実施形態では、端子10d、10e間の電圧を検出することとする。
【0066】
無線通信回路13bは、検出回路13aの検出結果を、アンテナ14を介して、外部の読取装置に対して無線送信する。ここで、インタフェース回路12およびRFID IC13の検出回路13aは、検出部を構成し、RFID IC13の無線通信回路13bおよびアンテナ14は、無線通信部を構成する。
【0067】
次に、図1に示したRFID IC13における検出回路13aについて説明する。図3は、検出回路13aの概略構成を示すブロック図である。検出回路13aにおいて、電圧印加回路30aは、予め定められた一定の電圧印加時間に亘って一対の電極10a、10b間に電圧を印加する。この電圧印加時間は、外部の読取装置からの制御により変更することが可能である。また、電圧印加回路30aは、センサ回路10cに一定の電圧印加時間に亘って一定の電圧を印加するが、パルス信号として一瞬印加するようにしても良い。電圧検出回路30bは、電圧印加回路30aにおける電圧印加時間が経過した時の一対の電極10a、10b間の電圧を検出する。また、センサ回路10cの端子10d、10eの両端の電圧を検出する。比較回路30cは、予め閾値電圧が設定されており、電圧検出回路30bが検出した電極10a、10b間の検出電圧と閾値電圧とを比較し、その比較結果を出力する。これらの電圧印加回路30a、電圧検出回路30bおよび比較回路30cは制御線30dに接続されており、相互にデータを送信および受信することが可能となっている。
【0068】
電圧印加回路30a、電圧検出回路30bおよび比較回路30cは、電極10a、10b間、およびセンサ回路10cに所定電圧を印加し、10a、10b電極間および端子10d、10e間の電気的特性(電圧)を測定するために必要な各種回路、例えば、高出力電流回路、反転増幅回路、同相増幅回路、ボルテージフォロー回路、積分増幅回路、比較演算回路、ヒステリシス特性の比較演算回路、マルチバイブレーター回路、電流−電圧変換回路、などから構成される。そして、これらを構成するように各種抵抗素子やコンデンサ、コイルなどが組み込まれている。
【0069】
また、図1において、無線通信部3を構成するRFID IC13の無線通信回路13bは、変調回路、充電/電源部、メモリなどから構成される。この電源部では、バッテリを搭載するタイプのものであっても良いし、いわゆるバッテリーレス、すなわち、蓄電機能を有し、外部から供給される電磁波による誘導電圧を一時的に蓄えるものであっても良い。無線通信回路13bに含まれるメモリは、全体の制御を行なうオペレーティングシステムが格納されているROM、データの書き換えや構造物の状態を検知するプログラムが格納されているEEPROM、検知した情報を記録するRAMなどで構成される。メモリにはセンサのID番号を搭載してもよく、また、読取装置から構造物の埋め込み位置に関する情報をRAMに書き込み、これら情報をセンサで検知した情報と共に読み取り装置で読み取ってもよい。
【0070】
また、図1における無線通信部3を構成するアンテナ14は、金属類、カーボンファイバーやフェライトなどが用いられ、中空の巻き線、あるいは磁性体巻き線、あるいは基板上にプリント技術を利用して成形したものを用いることが望ましく、PETなどのフィルム間にこれら材料を挟み込んで使用してもよく、またその形状はリング状、棒状、円盤状など適当な形に成型して用いてもよい。
【0071】
以上のように構成された第1の実施形態に係る複合センサモジュールは、コンクリート構造物等の内部に設置される。例えば、打設コンクリートの充填状態を見る場合、複合センサモジュールの取り付け位置は、かぶりコンクリート中であることが望ましい。かぶりコンクリートよりも内側に取り付けた場合、読取装置から発せられた電磁波が鉄筋に吸収され、複合センサモジュールと読取装置間の通信距離が大幅に低下する、あるいは通信できない状態となる。ただし、鉄筋よりも内側に複合センサモジュールを配置した場合、鉄筋自体をアンテナとして利用することにより複合センサモジュールと読取装置との間の通信を可能にできる。
【0072】
複合センサモジュールの取り付け方法としては、次のようなケースも考えられる。電極部のみを充填状況を検出したい箇所に取り付け、検出部2と無線通信部3を一体化させたもの(以降、タグと称す)を鉄筋よりも外側に取り付け、電極部とタグをリード線で接続する取り付け方法を採用することも可能である。この取り付け方法では、電極部の取り付け箇所の制限がなくなる。
【0073】
図示しない読取装置は、アンテナ、変調復調装置、メモリ、CPUと、電源を供給するための電源部とからなり、必要に応じてセンサ部からの情報を直接、あるいはデータ処理を行なって外部出力端子を介して他の装置に出力させてもよい。
【0074】
次に、以上のように構成された第1の実施形態に係る複合センサモジュールの動作について説明する。ここでは、一対の電極間にコンクリート、グラウト、水、空気などの流動体が存在するか否かの判別手法について説明する。図1に示した複合センサモジュール1の検出回路13aは、図3に示すように、比較回路30cを有しており、比較回路30cは、予め設定した閾値電圧と検出電圧とを比べて、比較回路30cへの入力電圧が小さいか大きいかを判定するものである。電圧印加回路30aによって一対の電極10a、10bに所定の電圧を印加した際に電極間の電圧値が予め設定した閾値電圧よりも大きいか小さいかについて、比較回路30cを用いて判定する動作を、閾値電圧を変化させて複数回測定する。
【0075】
ここで、閾値電圧を変化させる場合、閾値電圧を初期設定した後、再び閾値電圧を設定する際に、前回設定した閾値電圧と前回検出された検出電圧との間の電圧値を取るように閾値電圧を再設定するようにしても良い。これにより、検出回数を増やすたびに検出電圧が一定の電圧値に収束するようになる。これにより、検出電圧が実際の電圧値に近づくので、電極に接触している流動体がどのようなものであるかを特定することが可能となり、検出精度を高めることが可能となる。なお、比較回路30cの測定回数を増やすことにより、比較回路30cの分解能を高められる。例えば、印加電圧Vin、測定回数8回の場合、比較回路30cの分解能は、Vin/2となる。
【0076】
上記判定手法を用いて、種々検討を重ねる中で、電圧印加後の電極間の電圧値は、印加時間の増加に伴い徐々に増大することが確認された。また、電極に電圧を印加した場合、コンクリート、グラウト、水に電気が蓄積されるため、比較回路30cを用いて電圧値を判定しようとした場合、電極間電圧値は、徐々に増加していくことが確認された。前者の現象は、コンクリート、グラウト、水などは各種イオンを多少に関わらず含んでおり、これらイオンの存在により電極への電圧印加時に電極表面に静電2重層が形成され、この静電2重層の影響により、電圧印加時間に対して電極間電圧値が徐々に増加することが原因として生じるものである。また、後者の現象は、電極間に流れた電流がコンクリート、グラウト、水などに蓄電されることが原因として生じるものである。
【0077】
上記2つの現象を十分に把握できたことにより、空気、水(水道水、泥水など)、コンクリートやグラウトを正確に判別することが可能となった。
【0078】
具体的な判別方法を以下に示すが、本方法に限定されるものではない。すなわち、電極への電圧印加後に一定時間経過後の電極間電圧値を予め設定した比較電圧値と比較する。空気は、絶縁に近い状態であるため電極間電圧値は印加電圧に近い値を示し、コンクリートやグラウトは、各種水溶性塩類を多量に含んだ状態にあり導電性を示すことから電極間電圧値は、0Vに近い値となる。水(水道水、泥水など)は、空気とコンクリートやグラウトとの範囲内の電圧値を示す。したがって、閾値電圧をコンクリートやグラウトの場合に示される電圧値と水(水道水、泥水など)の場合に示される電圧値の中間値となるように設定した場合、得られる電極間電圧がこの閾値電圧よりも小さい場合には、コンクリートやグラウトであると判定する。閾値電圧よりも大きい場合には、水(水道水、泥水など)と空気のそれぞれで示される電圧の中間値となるように閾値電圧を改めて設定しなおし、得られる電極間電圧が設定しなおした閾値電圧よりも小さい場合には、水であると判定する。得られる電極間電圧が設定しなおした閾値電圧よりも大きい場合には、空気であると判定する。
【0079】
また、センサ回路10cに対し、電圧印加回路30aによって電圧を印加することにより、鋼材の腐食状況を検出する。すなわち、前述したように、抵抗素子R〜Rは、金属線A〜Aに直列に接続されているため、金属線が腐食したときには、抵抗値が上がるため金属線の腐食を検出することができる。たとえば、抵抗素子R〜Rの抵抗値r〜rであるとして、腐食のないときのセンサ回路10cの抵抗値はr・・・r/(r+r+・・・+r)であるが、抵抗素子Rに直列接続している金属線Aが断線したときには、センサ回路10cの抵抗値は、r・・・rn−1/(r+r+・・・+rn−1)となり、抵抗が大きくなる。したがって、抵抗値を検出することで腐食を検出できる。
【0080】
また、抵抗素子は重み付けがされた抵抗値を選定し接続することにより、どの金属線が腐食したか検出できる。
【0081】
(第2の実施形態)
グラウト等の流動体をシース管へ充填した後、一定以上の時間が経過すると、シース管に充填されたグラウト等の流動体が硬化する。そして、硬化に伴って自己収縮または硬化収縮等の現象が見られ、この現象が生じた結果、シース管と硬化したグラウト等との間に僅かな隙間が形成される場合がある。このようなグラウト等の自己収縮または硬化収縮等に起因する僅かな隙間は、施工上問題を生ずることは無く、無視できる誤差の範囲内にあることがほとんどである。
【0082】
しかしながら、自己収縮等による無視できる程度の隙間が生じた場合、電極が平面(二次元的)に構成されていると、収縮したグラウト等と接触しなくなる確率が高まり、「未充填」という判定がなされる可能性がある。そこで、第2の実施形態では、このような無視できるほどの僅かな隙間が生じただけでは判定結果に影響が出ないように、グラウト等の流動体に対して三次元方向への接触確率を高める構成を採っている。
【0083】
図4は、第2の実施形態に係る複合センサモジュールの電極を示す斜視図である。第2の実施形態に係る電極は、一対の電極基部80a、80bが矩形状に形成された基板81の裏面81a上に設けられている。また、各電極基部80a、80bには、三次元的な凹凸部としての複数の突出部82が設けられており、各突出部82は、基板81を、裏面81aから表面81bの方向に、貫いている。ここでは、突出部82の個数を、プラスマイナスそれぞれ4つずつとし、プラス極の突出部82およびマイナス極の突出部82のそれぞれが基板81の対角線上に位置するように配置している。なお、突出部82の個数および基板81における配置は、図4に示すものに限定されるわけではない。なお、水滴が一つの突起に付着した場合と、複数の突起に同時付着した場合とを比較すると、水滴が突起から離脱しやすいのは複数の突起に付着した場合であることが本発明者によって見出されている。このため、突出部82を複数設ける場合は、各突出部82の間隔を水滴の径に近い大きさにすることによって、グラウト施工時に水滴が電極に付着した場合にその水滴を除去しやすくなるという効果が得られる。
【0084】
図4において、突出部82の表面81bからの高さは、0.1mm以上が望ましいが、より好ましくは1mm以上である。グラウト充填等に利用の多い一般的なシース管80mmφの場合、グラウト等の練り混ぜ水量が適切でも0.1mm程度の収縮が起こる。このため、突出部82の表面81bからの高さが0.1mmよりも低い場合、突出部82とグラウト等の硬化体とが接触しなくなる確率が高くなる。さらに、グラウト等の流動体を製造する際の水量が多くなった場合、発生するブリーディングが多くなり、シース管と硬化したグラウト等との間に比較的大きな隙間が形成される場合がある。このような場合に、突出部82の表面81bからの高さが1mmよりも低いと、硬化したグラウト等と接触しない場合が生じる。
【0085】
図5は、シース管の断面図である。シース管90に、突出部82を有する基板81が設けられている。図5において、突出部82の表面81bからの高さは、表面81bからシース管90の内面までの距離dよりも小さくなっている。このため、突出部82がシース管90の内面から飛び出ることがない。突出部82の先端がシース管内に突出すれば、例えば、シース管内に鋼材を通す際に、鋼材と突出部82とが接触し、突出部82が破損する恐れが生ずる。このため、突出部82の表面81bからの高さは、概ね5mm以下とすることが望ましい。また、突出部82の表面81bからの高さが5mmよりも高いと、センサ全体の小型化を図ることが難しくなる。したがって、突出部82の表面81bからの高さは、1mm〜5mmが好ましい範囲であるといえる。
【0086】
以上のように、第2の実施形態によれば、突出部82が複数設けられているため、電極と測定対象物(流動体)との接触確率をさらに高めることが可能となる。
【0087】
(第3の実施形態)
第3の実施形態に係る複合センサモジュールの電極では、フレキシブル基板に二次元的な一対の電極をプリントしたものを、湾曲させ、または屈曲させることにより、三次元的な凹凸をもたせるような構成を採っている。図6(a)〜(c)は、第3の実施形態に係る複合センサモジュールの電極の断面図である。図6(a)に示す例では、フレキシブル基板95の表面95aに、第1の実施形態で示した二次元的な凹凸を有する一対の電極を設け、フレキシブル基板95を湾曲させている。また、図6(b)に示す例では、フレキシブル基板96の表面96aに、第1の実施形態で示した二次元的な凹凸を有する一対の電極を設け、フレキシブル基板96を1回屈曲させている。また、図6(c)に示す例では、フレキシブル基板97の表面97aに、第1の実施形態で示した二次元的な凹凸を有する一対の電極を設け、フレキシブル基板97を交互に3回屈曲させている。
【0088】
図7(a)、(b)は、シース管90の断面図である。図7(a)に示す例では、湾曲したフレキシブル基板95に設けられた電極を用いている。また、図7(b)に示す例では、交互に3回屈曲させたフレキシブル基板97に設けられた電極を用いている。次に、このような各種電極を用いて、実際にグラウトを充填したときの状態について測定した結果を示す。
【0089】
図8は、平面的な形状の電極、第2の実施形態に係る電極および第3の実施形態に係る電極をそれぞれシース管に取り付けて、シース管にグラウトを充填させた後の経過を示す図である。まず、グラウト充填前の電圧値は、1,320mVであった。そして、グラウトをシース管に充填させたときの電圧値は、平面電極の場合は35.2mV、湾曲した電極(第3の実施形態)の場合は26.4mV、突出部を有する電極(第2の実施形態)の場合は35.2mVであった。その後、日数が経過するに従って、グラウトが硬化していくが、上記のように、ブリーディングや自己収縮のため、シース管の内面と硬化したグラウトとの間に僅かな隙間ができることとなる。このため、平面電極の場合は、1日を経過した時点ですでにグラウト充填前の電圧値に近い値を示している。これは、グラウトが収縮したことにより、平面電極との接触の度合いが極端に小さくなったことを示している。
【0090】
一方、三次元的な凹凸を有する第2および第3の実施形態に係る電極、すなわち、湾曲した電極および突出部を有する電極では、15日経過した段階でも安定した数値を示している。これは、硬化したグラウトに接触していることを示している。さらに、28日を経過しても、グラウト充填前の電圧値と比較して、これらの電極では、はるかに小さい値を示しているため、依然として電極がグラウトと接触していることが分かる。このように、一対の電極が、湾曲され、または突出部が設けられているので、三次元方向に対して、電極と測定対象物(流動体)との接触確率を高め、検出精度を高めることが可能となる。
【0091】
なお、上記の測定実験では、敢えて第1の実施形態の平面電極の測定可能範囲を超えた収縮量を生じさせるために、グラウト製造時の練り混ぜ水量を通常の1.3倍とし、(水/セメント)比=55wt%で行っている。上記の測定実験の結果、このような設定で生じた収縮量に対しても、第2および第3の実施形態に係る電極は、硬化したグラウトに接触していることが明らかになっている。この測定実験では、あくまでも第2および第3の実施形態に係る電極の技術的効果を特徴付けるために上記の設定を行ったのであって、通常の水量の場合に、第1の実施形態である平面電極が不適切であることを示すものではない。
【実施例1】
【0092】
次に、第1〜第3の実施形態のいずれかの複合センサモジュールが取り付けられたシース管について説明する。図9は、シース管の外観を示す図である。このシース管40は、プレストレストコンクリート構造物のグラウト施工に用いられ、金属製のものに限らず、樹脂製の市販品のものを利用することができる。鋼製シース管にセンサ取り付け用の穴を開ける場合、使用する工具の状態によってはきれいに穴を開けられない。また、穴あけ後の穴内側にはバリが残ることから、シース管40の材質としては、樹脂製の方が好ましい。樹脂製のシース管では、工具などで開けた穴の内側にバリが残るという問題がないなど、加工を施しやすいとのメリットがある。図9では、シース管40には、複合センサモジュールを取り付けるためのセンサ取り付け部41が設けられている。このセンサ取り付け部41は、シース管40の内面から外面方向に矩形状に突出しており、内面側から見ると矩形の窪みが形成されている。電極をシース管40に取り付ける際、PC鋼材と電極が接触しないように電極とPC鋼材を一定距離、例えば、1〜10mmの間隔を保つ必要がある。少なくとも、電極とPC鋼材の距離は、電極間隔以上に離さなければならない。電極とPC鋼材の距離が、電極間隔よりも狭い場合、電極間に流れるべき電流がPC鋼材に流れてしまう恐れがあるためである。センサ取り付け部41は、シース管40に開けられたセンサ取り付け用の穴を十分にカバーできるものであれば、その形状は特にこだわらないが、シース管40の外径と同じ内径を持った半管状の形状であれば、シース管40への固定が容易であり、好ましい。
【0093】
また、複合センサモジュールの金属線A〜Aは、シース管40の少なくとも外周面または内周面のいずれか一方に沿って設けられる。金属線A〜Aは、直接シース管本体42の外周に巻きつけられている。金属線A〜Aの両端には、リード線L〜Lの一端が接続され、リード線L〜Lの他端は、図示しないインタフェース回路12に接続されている。このように、シース管40は、金属線A〜Aをシース管本体42の外周面または内周面に沿って設け、その電気的特性を測定することで、金属線A〜Aの腐食を検出する。これにより、金属線A〜Aの腐食の進行を検出できるので、シース管またはシース管内のPC鋼線の腐食が生じているかどうかを予想することが可能となる。
【実施例2】
【0094】
図10は、第1〜第3の実施形態のいずれかの複合センサモジュールが取り付けられたシース管継ぎ手部材の外観を示す図である。このシース管継ぎ手部材50は、プレストレストコンクリート構造物のグラウト施工に用いられるシース管どうしを接続するためのものである。シース管継ぎ手部材としては、金属製に限らず樹脂製の市販品のものを利用できる。シース管継ぎ手部材とシース管との接続部分は、少なくとも1cm〜10cm確保する必要がある。接続部分の重なる長さが短い場合、継ぎ手部材とシース管が離れてしまう心配があるためである。図10では、シース管継ぎ手部材50には、複合センサモジュールを取り付けるためのセンサ取り付け部51が設けられている。このセンサ取り付け部51は、図9に示したシース管40のセンサ取り付け部41と同様に、シース管継ぎ手部材50の内面から外面方向に矩形状に突出しており、内面側から見ると矩形の窪みが形成されている。
【0095】
また、金属線A〜Aが、シース管継ぎ手部材本体52の外周に、並列に配置され巻きつけられている。金属線A〜Aの両端には、リード線L〜Lの一端が接続され、リード線L〜Lの他端は、図示しないインタフェース回路12に接続されている。このように、シース管継ぎ手部材50は、金属線A〜Aをシース管継ぎ手部材本体52の外周面または内周面に沿って設け、その電気的特性を測定することで、金属線A〜Aの腐食を検出する。これにより、金属線A〜Aの腐食の進行を検出できるので、シース管またはシース管内のPC鋼線の腐食が生じているかどうかを予想することが可能となる。特に、シース管継ぎ手部材50のジョイント部分からシース管内に腐食因子が進入する可能性が高いため、シース管継ぎ手部材50にこのような機能を持たせることは有効である。
【実施例3】
【0096】
図11は、シース管の外観を示す図である。このシース管60は、図9に示したシース管と同様に、プレストレストコンクリート構造物のグラウト施工に用いられ、金属製のものに限らず、樹脂製の市販品のものを利用することができる。このシース管60には、複合センサモジュール61がシース管本体62に設けられており、グラウトの充填状況を検出することができるようになっている。また、2本の金属線61aが、シース管本体62の外周に、並列に巻きつけられており、これらの金属線61aに電圧を印加したときの抵抗値を測定することにより鋼材の腐食の程度を検出することができるようになっている。また、複合センサモジュール61には、リード線61bの一端が接続され、他端はRFID ICに接続されている。このように、シース管60は、金属線61aをシース管本体62の外周面(または内周面)に沿って設け、その電気的特性を測定することで、金属線61aの腐食を検出する。これにより、金属線61aの腐食の進行を検出できるので、シース管またはシース管内のPC鋼線の腐食が生じているかどうかを予想することが可能となる。
【実施例4】
【0097】
図12は、シース管継ぎ手部材の外観を示す図である。このシース管継ぎ手部材70は、図10に示したシース管継ぎ手部材と同様に、プレストレストコンクリート構造物のグラウト施工に用いられるシース管どうしを接続するためのものである。このシース管継ぎ手部材70には、複合センサモジュール71がシース管継ぎ手部材本体72に設けられており、グラウトの充填状況を検出することができるようになっている。また、2本の金属線71aが、シース管継ぎ手部材本体72の外周に、並列に巻きつけられており、これらの金属線71aに電圧を印加したときの抵抗値を測定することにより鋼材の腐食の程度を検出することができるようになっている。複合センサモジュール71には、リード線71bの一端が接続され、他端はRFID ICに接続されている。このように、シース管継ぎ手部材70は、金属線71aをシース管継ぎ手部材本体72の外周面(または内周面)に沿って設け、その電気的特性を測定することで、金属線71aの腐食を検出する。これにより、金属線71aの腐食の進行を検出できるので、シース管またはシース管内のPC鋼線の腐食が生じているかどうかを予想することが可能となる。
【0098】
以上のように、本実施形態に係る複合センサモジュールによれば、一対の電極10a、10b間に抵抗素子11が挿入されているので、電気的特性を正確に検出することが可能となる。また、鋼材または鋼材の近傍に金属製の検出用部材A〜Aを設けているので、少ない電力消費量で検出用部材の腐食を電気的特性の測定により検出することができる。一般的に、金属製材料の抵抗は極めて小さく、低電圧でごく僅かな電流量を金属製材料に流すことにより、金属製材料の腐食状態を検出することが可能である。このことから、電気的特性の変化から検出用部材の腐食を検出することができ、鉄筋、PC鋼線、鋼製シース管等の鋼材の腐食が生じているかどうかを予想することが可能となる。その結果、把握した情報に基づいて、構造物の補修必要性有無の判断、工事指針策定などを的確かつ短時間に実施でき、コンクリート構造物を健全な状態に保つ維持管理が可能となる。さらに、検出結果を読取装置に対して無線送信するため、従来のようにリード線を構造物の外部に引き出すことにより生じていた腐食因子の侵入が回避されるので、構造物の耐久性を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0099】
【図1】第1の実施形態に係る複合センサモジュールの概略構成を示すブロック図である。
【図2】(a)(b)は、電極の二次元的な形状を示す図である。
【図3】検出回路の概略構成を示すブロック図である。
【図4】第2の実施形態に係る充填センサの電極を示す斜視図である。
【図5】シース管の断面図である。
【図6】(a)〜(c)は、第3の実施形態に係る電極の断面図である。
【図7】(a)および(b)は、シース管80の断面図である。
【図8】平面的な形状の電極、第2の実施形態に係る電極および第3の実施形態に係る電極をそれぞれシース管に取り付けて、シース管にグラウトを充填させた後の経過を示す図である。
【図9】実施例1に係る複合センサモジュールが取り付けられたシース管の外観を示す図である。
【図10】実施例2に係る複合センサモジュールが取り付けられたシース管継ぎ手部材の外観を示す図である。
【図11】実施例3に係る複合センサモジュールが取り付けられたシース管の外観を示す図である。
【図12】実施例4に係る複合センサモジュールが取り付けられたシース管継ぎ手部材の外観を示す図である。
【符号の説明】
【0100】
1 複合センサモジュール
2 検出部
3 無線通信部
10a、10b 電極
10c センサ回路
10d、10e 端子
11 抵抗素子
12 インタフェース回路
13a 検出回路
13b 無線通信回路
14 アンテナ
15 凹凸部
16 リード線
17 凹凸部
30a 電圧印加回路
30b 電圧検出回路
30c 比較回路
30d 制御線
40 シース管
41 センサ取り付け部
42 シース管本体
50 シース管継ぎ手部材
51 センサ取り付け部
52 シース管継ぎ手部材本体
60 シース管
61 複合センサモジュール
61a 金属線
61b リード線
62 シース管本体
70 シース管継ぎ手部材
71 複合センサモジュール
71a 金属線
71b リード線
72 シース管継ぎ手部材本体
80a、80b 電極基部
81 基板
81a 基板81の裏面
81b 基板81の表面
82 突出部
90 シース管
95 フレキシブル基板
95a フレキシブル基板95の表面
96 フレキシブル基板
96a フレキシブル基板96の表面
97 フレキシブル基板
97a フレキシブル基板97の表面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
土木施工または建築施工で用いられる流動体が充填対象空間に充填された状況を検出すると共に、コンクリート構造物中に埋設される鋼材の腐食進行状況を検出する複合センサモジュールであって、
一対の電極と、
前記電極間に挿入された抵抗素子と、
前記電極間に電圧を印加し、前記電極間の電気的特性を検出する充填検出部と、
前記鋼材または前記鋼材の近傍に設けられる金属製の検出用部材と、
前記検出用部材の電気的特性を測定することにより前記検出用部材の腐食を検出する腐食検出部と、
前記充填検出部および前記腐食検出部の検出結果を読取装置に対して無線送信する無線通信部と、を備えることを特徴とする複合センサモジュール。
【請求項2】
前記充填検出部は、
予め定められた一定の電圧印加時間に亘って前記電極間に電圧を印加する電圧印加回路と、
前記電圧印加時間が経過した時の前記電極間の電圧を検出する電圧検出回路と、
前記電圧検出回路が検出した検出電圧と、予め設定された閾値電圧とを比較し、その比較結果を出力する比較回路と、を備えることを特徴とする請求項1記載の複合センサモジュール。
【請求項3】
前記一対の電極は、相互に材質が異なる金属で形成されていることを特徴とする請求項1または請求項2記載の複合センサモジュール。
【請求項4】
前記一対の電極は、矩形波状または鋸波状に形成された二次元的な凹凸部を備え、前記各電極は、前記凹凸部が相互に噛合するように配置されていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の複合センサモジュール。
【請求項5】
前記一対の電極は、湾曲、または屈曲されていることを特徴とする請求項4記載の複合センサモジュール。
【請求項6】
前記一対の電極は、三次元的な凹凸部を備えることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の複合センサモジュール。
【請求項7】
前記一対の電極は、
基板上に設けられた一対の電極基部と、
前記各電極基部から突出する少なくとも一つの突出部と、を備えることを特徴とする請求項6記載の複合センサモジュール。
【請求項8】
前記検出用部材は、材質の種類または径が異なる2つ以上の金属線からなり、
前記金属線は、それぞれ抵抗素子に直列に接続されていることを特徴とする請求項1から請求項7のいずれかに記載の複合センサモジュール。
【請求項9】
前記腐食検出部は、前記検出用部材の近傍に設置され、前記検出用部材より電位の貴な金属を材料とするカソード用部材を有し、
前記検出用部材と前記カソード用部材とは電気的に接続され、前記カソード用部材は前記検出用部材に対しカソードの役割を果たすものであることを特徴とする請求項1から請求項8のいずれかに記載の複合センサモジュール。
【請求項10】
プレストレストコンクリート構造物におけるグラウト施工に用いられるシース管であって、
シース管本体と、
前記シース管の管壁に設けられたセンサ取り付け部と、
前記センサ取り付け部に取り付けられた請求項1から請求項9のいずれかに記載の複合センサモジュールと、を備え、
前記検出用部材は、シース管本体の外周面および/または内周面に沿って設けられていることを特徴とするシース管。
【請求項11】
プレストレストコンクリート構造物におけるグラウト施工に用いられるシース管同士を繋ぐシース管継ぎ手部材であって、
シース管継ぎ手部材本体と、
前記シース管継ぎ手部材本体に設けられたセンサ取り付け部と、
前記センサ取り付け部に取り付けられた請求項1から請求項9のいずれかに記載の複合センサモジュールと、を備え、
前記検出用部材は、シース管継ぎ手部材本体の外周面および/または内周面に沿って設けられていることを特徴とするシース管継ぎ手部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2007−24872(P2007−24872A)
【公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−160579(P2006−160579)
【出願日】平成18年6月9日(2006.6.9)
【出願人】(000000240)太平洋セメント株式会社 (1,449)
【出願人】(000000295)沖電気工業株式会社 (6,645)
【出願人】(391006773)株式会社沖電気コミュニケーションシステムズ (16)
【出願人】(000103769)オリエンタル建設株式会社 (136)
【Fターム(参考)】