説明

複合トロリ線

【課題】 トロリ摺動面の磨耗による機械的強度や電気的特性の急激な変化を防止し、これらに対する信頼性のより高い複合トロリ線を提供する。
【解決手段】 導電性材料からなる導電性線状体(2)の長手方向軸に沿って高強度連続長繊維体(3)を埋入させた複合トロリ線である。高強度連続長繊維体(3)の複数を導電性線状体(2)の長手方向中心軸から偏心した位置に分散配置させたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道車両などに電気を導くためのトロリ線に関し、特に、芯線として高強度連続長繊維体を埋入させた複合トロリ線に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両に電気を導くための鉄道用のトロリ線において、空中に架線されたトロリ線の張力を高めて架空を機械的に安定させる目的でトロリ線の長手方向に沿って芯線を与えた複合トロリ線が開発されている。その1つとして、長手方向の線膨張を低減し温度変化に対して架空を機械的に安定させるべく、線膨張係数の小さい無機材料や高分子材料からなる長繊維を芯線に用いた複合トロリ線が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1では、正の線膨張係数を有する金属からなる導電性線状体の中心部にその長手方向に沿って、負の線膨張係数を有する高分子材料からなるフィラー状体、線状体、ケーブル状体、又は、棒状体の芯線を埋め込み、長手方向の線膨張を抑制させた複合トロリ線を開示している。
【0004】
また、特許文献2では、導電性線状体の外周部にその長手方向に沿って伸びる溝を設け、負の線膨張係数を有する高分子材料からなるロッド状体、ヤーンプリプレグやシートプリプレグを巻いた繊維などの芯線を接着剤で固定した複合トロリ線を開示している。
【0005】
さらに、特許文献3では、負の線膨張係数を有する高分子材料の周囲を正の線膨張係数を有する導電性材料で包囲して互いを機械的に強固に密着させて複合化させた複合トロリ線を開示している。導電性材料からなる円筒管内に負の線膨張係数を有する高分子材料からなる長繊維細線を複数挿入してこれをスエージング加工することで、導電性線状体と芯線からなる複合トロリ線を得ている。
【0006】
上記したような特許文献1乃至3に開示された複合トロリ線では、長手方向の機械的特性、特に線膨張特性は埋め込まれた芯線としての高分子材料の材料特性に依存する。そこで、導電性線状体と芯線とを強固に接合して導電性線状体から芯線が剥離しないようにすることが重要である。
【0007】
特許文献3では、スエージング加工により導電性材料と芯線との密着性を高め接合強度を上げているが、高分子材料からなる長繊維細線を束ねてメッキし、その表面に導電性材料と同種類の金属層を形成してからスエージング加工をすることが好ましいことをさらに開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2003−281942号公報
【特許文献2】特開2006−172838号公報
【特許文献3】特開2008−235259号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、鉄道車両に電気を導くための鉄道用のトロリ線では、集電用のパンタグラフ舟体との摺動によりトロリ摺動面が徐々に磨耗していく。そのため芯線がトロリ摺動面に裸出することがある。かかる場合、導電性材料と芯線との密着性を高め接合強度を上げたとしても、芯線がトロリ摺動面に裸出し磨耗すれば、複合トロリ線の長手方向の機械的特性が急激に変化してしまう。
【0010】
また、特許文献1乃至3に開示されたような芯線に使用される高分子材料は一般的に導電性を有さないから、芯線が磨耗により表面に裸出し、該表面に占める芯線の面積の割合が大きくなると、パンタグラフ舟体と導電性線状体との接触面積が減少し、電気抵抗が急激に上昇してしまう。
【0011】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、トロリ摺動面の磨耗による機械的強度や電気的特性の変化を防止し、これらに対する信頼性のより高い複合トロリ線を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明による複合トロリ線は、導電性材料からなる導電性線状体の長手方向軸に沿って高強度連続長繊維体を埋入させた複合トロリ線であって、前記高強度連続長繊維体の複数を前記導電性線状体の長手方向中心軸から偏心した位置に分散配置させたことを特徴とする。
【0013】
かかる発明によれば、高強度連続長繊維体が導電性線状体の長手方向中心軸から偏心した位置に分散配置されているので、集電用のパンタグラフ舟体との摺動によりトロリ摺動面が磨耗し移動しても、高強度連続長繊維体を表面から裸出させづらいのである。また、高強度連続長繊維体を偏心配置したことによる複合トロリ線の反り上がりに対して、高強度連続長繊維体を分散配置したことでこれを抑制できる。つまり、トロリ摺動面の磨耗による機械的強度や電気的特性の急激な変化を防止できて、これらに対する信頼性を高めることができる。
【0014】
上記した発明において、前記高強度連続長繊維体は1本の高強度連続長繊維からなることを特徴としてもよい。
【0015】
かかる発明によれば、仮に、高強度連続長繊維体がトロリ摺動面に裸出しても、該トロリ摺動面に占める高強度連続長繊維体の面積の割合を小さくできるので、パンタグラフ舟体と導電性線状体との接触面積が急激に減少しない。また、かかるトロリ摺動面の磨耗により磨滅してしまう高強度連続長繊維体の割合も少ない。よって、トロリ摺動面の磨耗による機械的強度や電気的特性の急激な変化を防止できて、これらに対する信頼性を高めることができるのである。
【0016】
上記した発明において、前記繊維束は複数の前記高強度連続長繊維を撚り合わせてなることを特徴としてもよい。
【0017】
かかる発明によれば、高強度連続長繊維体をトロリ摺動面に裸出させないようにしつつ、高強度連続長繊維を導電性線状体により高い密度で与えることができる。故に、複合トロリ線の機械的強度をより高めつつ、トロリ摺動面の磨耗による機械的強度の急激な変化に対する信頼性を高め得る。
【0018】
上記した発明において、前記高強度連続長繊維体は前記高強度連続長繊維を撚り合わせてなることを特徴としてもよい。
【0019】
かかる発明によれば、複数の高強度連続長繊維の長手方向の相対的ずれを抑制できて、複合トロリ線の機械的強度をより高め得る。
【0020】
上記した発明において、前記高強度連続長繊維が低熱膨張高分子材料からなることを特徴とする。また、前記低熱膨張高分子材料長繊維は負の熱膨張係数を有することを特徴としてもよい。
【0021】
かかる発明によれば、複合トロリ線の長手方向の線膨張を低減し、熱変動に対する機械的強度の変化を抑制し得る。
【0022】
上記した発明において、側面対称位置に吊下のための一対の係止溝を有し、一対の前記係止溝を結ぶ線を挟んでトロリ摺動面と反対側に前記高強度連続長繊維体を主として分散配置させたことを特徴としてもよい。
【0023】
かかる発明によれば、トロリ摺動面は一対の係止溝を結ぶ線を越えて磨耗することはなく、高強度連続長繊維体が表面に裸出して磨滅してしまうことを防止できる。一方、高強度連続長繊維体を偏心配置したことによる複合トロリ線の反りを係止溝がリブとなって防止できる。すなわち、トロリ摺動面の磨耗による機械的強度や電気的特性の急激な変化を防止し、これらに対する信頼性が非常に高いのである。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明による複合トロリ線の斜視図である。
【図2】本発明による複合トロリ線の断面図である。
【図3】本発明による複合トロリ線の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の1つの実施例による複合トロリ線について図1乃至図3を用いて説明する。
【0026】
図1及び図2に示すように、複合トロリ線1は、鉄道車両に電力を導くための長尺の複合架空線である。複合トロリ線1は、略円形状の断面を有し、断面中心部よりも上方に、外方に向けて開口する一対のV字溝6が左右対称に長手方向軸Xに沿って形成されている。V字溝6には図示しない吊架線から伸びるハンガーの留め金が係止され、これによって複合トロリ線1を吊架線から吊り下げられる。また、断面下方の長手方向軸Xに沿ったトロリ摺動面11がパンタグラフの舟体との摺動面となり、後述するように複合トロリ線1の使用とともに磨耗して上方に移動する。
【0027】
複合トロリ線1は、導電主線としての導電性線状体2と、導電性線状体2の機械的強度を高めるために芯線として与えられる高強度連続長繊維体3の複数とを含む。
【0028】
導電性線状体2は、電力輸送用の導電性材料からなり、例えば、銅又は銅系合金などの導電性の高い金属材料からなる。
【0029】
高強度連続長繊維体3は、少なくとも導電性線状体2よりも高い引張強度を有する単数又は複数の連続長繊維からなり、例えば、炭素繊維やアラミド繊維などの高強度繊維である。ここでは、温度変化による複合トロリ線1の長手方向の伸びを低減させることを目的に、低熱膨張の高分子材料であって、負の熱膨張係数を有する高分子材料からなる連続長繊維を使用した。連続長繊維の繊維径は約10ミクロンであり、これを100本程度束ねて1つの高強度連続長繊維体3とした。このように高強度連続長繊維体3に連続長繊維を複数与えることで、複合トロリ線1により高い密度で連続長繊維を与えることができて、複合トロリ線1の機械的強度をより高め得るのである。
【0030】
複数の高強度連続長繊維体3は、複合トロリ線1の長手方向中心軸、すなわち、導電性線状体2の長手方向中心軸から偏心した位置に分散して配置されている。かかる長繊維体配置領域4のマトリクス2’は、導電性状体2と実質的に同材料からなる。長繊維体配置領域4は、その少なくとも一部をV字溝6同士を結んだ線Yよりも上方に位置し、高強度連続長繊維体3がV字溝6同士を結んだ線Yよりも上方に主として配置される。
【0031】
ところで、長繊維体配置領域4内において、高強度連続長繊維体3同士は互いに接触しておらず、高強度連続長繊維体3の全てを1カ所に束ねたときに比べて、マトリクス2’との接触面積をより大とできる。これによりマトリクス2’との強固な接着が得られる。また、マトリクス2’は導電性線状体2と実質的に同材料であるため、マトリクス2’と導電性線状体2とも強固に接着できる。つまり、高強度連続長繊維体3を導電性線状体2に対して強固に固定できる。
【0032】
以上において、導電性線状体2及び高強度連続長繊維体3のような異材を複合化させ、特に、金属材料と負の熱膨張係数を有するような高分子材料とを複合化させて、これを複合トロリ線1の長手方向中心軸から偏心した位置に配置することで、複合トロリ線1は反り上がりを生じやすくなる。一方、高強度連続長繊維体3を長繊維体配置領域4内に分散配置したことにより、各高強度連続長繊維体3とマトリクス2’との間のミスマッチをマトリクス2’が吸収し、複合トロリ線1の反り上がりを抑制するのである。さらに、長繊維体配置領域4の少なくとも一部をV字溝6同士を結んだ線Yよりも上方に位置させ、すなわち、V字溝6同士を結んだ線Yを挟んで位置させることにより、V字溝6がリブとして働き、この反り上がりを防止できる。
【0033】
ところで、図3に示すように、複合トロリ線1を使用していると、パンタグラフの舟体と接するトロリ摺動面11が磨耗により上方へ向けて移動していく。一方、高強度連続長繊維体3は導電性線状体2の長手方向中心軸から偏心した位置に分散配置されているので、このトロリ摺動面11の移動に対して、その表面に裸出しづらい。また、V字溝6を係止されて吊架される複合トロリ線1において、トロリ摺動面11は一対のV字溝6を結ぶ線Yを越えて磨耗することはなく、高強度連続長繊維体3がトロリ摺動面11に裸出しないのである。
【0034】
上記したような複合トロリ線1は、以下のような製造方法で製造される。すなわち、高強度連続長繊維体3の表面にメッキなどでマトリクス材2’からなる層を与える。そして、導電性線状体2を形成するための導電性材料からなる細管の偏心位置に前記したメッキを与えた高強度連続長繊維体3を挿入配置する。また、導電性材料からなるワイヤを挿入配置する。これをダイスを使って線引き成形すると複合トロリ線1が得られる。なお、かかる方法は公知である故に詳述しない。
【0035】
上記した実施例において、高強度連続長繊維体3は、トロリ摺動面11に裸出せず、トロリ摺動面11の移動に伴って磨滅してしまうことはないから、機械的強度や電気的特性の急激な変化を防止できて、これらに対する信頼性を高めることができる。
【0036】
なお、上記した実施例において、高強度連続長繊維体3の複数の連続長繊維は撚り合わせられていてもよい。これによれば、複数の連続長繊維の長手方向の相対的ずれを抑制できて、複合トロリ線1の機械的強度をより高め得るのである。
【0037】
また、他の実施例として、高強度連続長繊維体3を連続長繊維の1本としてもよい。仮に、高強度連続長繊維体3がトロリ摺動面11に裸出しても、該トロリ摺動面11に占める高強度連続長繊維体3の面積の割合を小さくできるので、パンタグラフ舟体と導電性線状体2との接触面積が急激に減少せず、また、かかる磨耗により同時に磨滅してしまう高強度連続長繊維体3の割合も少なくできる。よって、トロリ摺動面11の磨耗による機械的強度や電気的特性の急激な変化を防止できて、これらに対する信頼性を高めることができるのである。
【0038】
以上、本発明による代表的実施例を説明したが、本発明は必ずしもこれに限定されるものではなく、当業者であれば、本発明の主旨又は添付した請求項の範囲を逸脱することなく種々の代替実施例及び改変例を見出すことができるだろう。
【符号の説明】
【0039】
1 複合トロリ線
2 導電性線状体
2’ マトリクス材
3 高強度連続長繊維体
4 長繊維体配置領域
6 V字溝
11 トロリ摺動面


【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性材料からなる導電性線状体の長手方向軸に沿って高強度連続長繊維体を埋入させた複合トロリ線であって、前記高強度連続長繊維体の複数を前記導電性線状体の長手方向中心軸から偏心した位置に分散配置させたことを特徴とする複合トロリ線。
【請求項2】
前記高強度連続長繊維体は1本の高強度連続長繊維からなることを特徴とする請求項1記載の複合トロリ線。
【請求項3】
前記高強度連続長繊維体は複数の高強度連続長繊維を束ねた繊維束であることを特徴とする請求項1記載の複合トロリ線。
【請求項4】
前記高強度連続長繊維体は前記高強度連続長繊維を撚り合わせてなることを特徴とする請求項3記載の複合トロリ線。
【請求項5】
前記高強度連続長繊維は低熱膨張高分子材料からなることを特徴とする請求項1乃至4のうちの1つに記載の複合トロリ線。
【請求項6】
前記低熱膨張高分子材料は負の線膨張係数を有することを特徴とする請求項5記載の複合トロリ線。
【請求項7】
側面対称位置に吊下のための一対の係止溝を有し、一対の前記係止溝を結ぶ線を挟んでトロリ摺動面と反対側に前記高強度連続長繊維体を主として分散配置させたことを特徴とする請求項1乃至6のうちの1つに記載の複合トロリ線。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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