説明

複合体

【課題】 第1部材と第2部材とが強固に嵌め合わされ、その嵌合が緩みにくい複合体を提供する。
【解決手段】 窒化珪素を主成分とするセラミック焼結体を基体1aとする第1部材1と、金属またはグラファイトからなる第2部材2とを嵌め合わしてなり、第1部材1は、第2部材2と接する表面に珪素を含む粒状体1bが一体化しており、粒状体1bの一部から窒化珪素を主成分とする針状結晶1cおよび柱状結晶1dの少なくともいずれかが複数伸びている複合体である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイカスト用スリーブ、シンクロールやサポートロール等の溶融金属めっき用ロールおよび溶融金属攪拌用回転体等に用いられる複合体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ダイカスト鋳造法は、アルミニウム、マグネシウム、亜鉛等の金属材料を鋳造する方法であり、自動車部品、家電部品等の各種部品の製造に用いられている。
【0003】
そして、このようなダイカスト鋳造法を用いたダイカストマシンは、円筒状のスリーブ内に溶融金属を供給し、このスリーブ内を摺動するプランジャチップによって、スリーブと連通する成型型のキャビティ内に溶融金属を射出し、冷却固化させることにより各種部品を製造する装置である。このようなダイカストマシンに用いられるスリーブとして、例えば、特許文献1では、金属材料からなる外筒の内面に、常温における熱伝導率が50W/(m・K)以上の窒化ケイ素を主成分とするセラミックス焼結体からなる内筒を焼嵌めて構成したダイカスト用スリーブが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−272360号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1で提案されたダイカスト用スリーブは、プランジャチップが摺動を繰り返すうちに、内筒と外筒との接合が緩み、内筒が軸方向または円周方向に位置ずれすることがあった。その結果、溶融金属の注入口が部分的に塞がれ、溶融金属の供給が不安定になるという問題があった。
【0006】
本発明は、上記課題を解決すべく案出されたものであり、セラミック焼結体からなる部材と金属またはグラファイトからなる部材とが強固に嵌め合わされ、その嵌合が緩みにくい複合体を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の複合体は、窒化珪素を主成分とするセラミック焼結体を基体とする第1部材と、金属またはグラファイトからなる第2部材とを嵌め合わしてなり、前記第1部材は、前記第2部材と接する表面に珪素を含む粒状体が一体化しており、該粒状体の一部から窒化珪素を主成分とする針状結晶および柱状結晶の少なくともいずれかが複数伸びていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明の複合体によれば、窒化珪素を主成分とするセラミック焼結体を基体とする第1部材と、金属またはグラファイトからなる第2部材とを嵌め合わしてなり、前記第1部材は、前記第2部材と接する表面に珪素を含む粒状体が一体化しており、粒状体の一部から窒化珪素を主成分とする針状結晶および柱状結晶の少なくともいずれかが複数伸びていることにより、第2部材と接する第1部材の表面にある粒状体、針状結晶や柱状結晶がくさびとなり、第2部材は高いアンカー効果を得ることができることから、第1部材と第2部材とを強固に嵌め合わせることができるとともに、当接する部材との摺動や自らの回転による嵌合の緩みを抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本実施形態の複合体の一例を示すダイカスト用スリーブの断面図である。
【図2】本実施形態の複合体の他の例である溶融金属めっき用ロールを示す、(a)は断面図であり、(b)は溶融金属めっき用ロールを備えてなる溶融金属めっき装置の概略を示す模式図である。
【図3】本実施形態の複合体の他の例である溶融金属攪拌用回転体を備えた脱ガス処理装置の一部を破断した正面図である。
【図4】本実施形態の複合体を構成する第1部材の一例を模式的に示す、(a)は第1部材の表面の部分平面図であり、(b)は(a)のA−A’線での断面図であり、(c)は(b)のB部の部分拡大図である。
【図5】本実施形態の複合体を構成する第1部材において、第2部材と接する基体の表面に一体化している粒状体を示す断面写真である。
【図6】本実施形態の複合体を構成する第1部材の他の例を模式的に示す、(a)は第1部材の表面の部分平面図であり、(b)は(a)のC−C’線での断面図である。
【図7】本実施形態の複合体を構成する第1部材の他の例を模式的に示す、(a)は第1部材の表面の部分平面図であり、(b)は(a)のD−D’線での断面図であり、(c)は(a)のE−E’線での断面図である。
【図8】本実施形態の複合体を構成する第1部材の他の例を模式的に示す、(a)は第1部材の表面の部分平面図であり、(b)は(a)のF−F’線での断面図であり、(c)は(b)のG部の部分拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本実施形態の複合体の例について説明する。図1は、本実施形態の複合体の一例を示すダイカスト用スリーブの断面図である。
【0011】
図1に示す例のダイカスト用スリーブ20は、アルミニウム、マグネシウム、亜鉛等の金属材料を鋳造するダイカストマシンに装着されて用いられるダイカスト用スリーブ20であって、窒化珪素を主成分とするセラミック焼結体からなる第1部材(内筒)1と、金属またはグラファイトからなる第2部材(外筒)2とが嵌め合わされてなる。ダイカスト用スリーブ20は、溶融金属を外部から第1部材1の内部に供給するための注入口3を備えている。この注入口3から供給された溶融金属は、第1部材1の内部を第1部材1の軸方向に摺動するプランジャチップ4によって、ダイカスト用スリーブ20と連通する成形型(図示しない)のキャビティ内に射出され、冷却固化させるようになっている。
【0012】
ここで、第2部材2は、機械的強度が高く、線膨張係数が低い金属材料、例えば、インバー(鉄63.5質量%、ニッケル36.5質量%)、スーパーインバー(鉄63質量%、ニッケル32質量%、コバルト5質量%)、ステンレスインバー(鉄36.5質量%、コバルト54質量%、クロム9.5質量%)であることが好適である。また、上記以外に、ニッケル、コバルト
、チタンおよびアルミニウムを含み、例えば、これら成分の含有量はそれぞれ31質量%以上33質量%以下、13質量%15量%以下、2質量%以上3質量%以下、0.5質量%以上1質
量%以下であって、残部が鉄である金属材料であってもよい。
【0013】
ここで、第1部材1の寸法は、例えば、外径が120mm以上140mm以下、内径が80mm以上100mm以下、長さが380mm以上420mm以下の円筒体であり、第2部材2の寸法は
、例えば、外径が80mm以上100mm以下、内径が50mm以上70mm以下、長さが380mm以上420mm以下の円筒体である。
【0014】
次に、図2は、本実施形態の複合体の他の例である溶融金属めっき用ロールを示す、(a)は断面図であり、(b)は溶融金属めっき用ロールを備えてなる溶融金属めっき装置
の概略を示す模式図である。
【0015】
図2に示す例の溶融金属めっき用ロール30は、窒化珪素を主成分とするセラミック焼結体からなる第1部材(胴部)1と、金属またはグラファイトからなる第2部材(軸部)2,2’とが嵌め合わされてなる。そして、溶融金属めっき用ロール30は、シンクロール30aまたはサポートロール30bとして、鋼板5を亜鉛等の溶融金属6を入れる容器7内に浸漬され、走行させながら連続的にめっきを行なう溶融金属めっき装置40に装着されて用いられる。
【0016】
シンクロール30aは、容器7内の底部に配置され、焼鈍炉(図示しない)から容器7内に向かって進行する鋼板5との接触に伴って回転し、鋼板5の進行方向を上向きに変えるものであり、サポートロール30bは、シンクロール30aの上方で鋼板5を両側から挟むように対向配置された1対のロールであり、外部のモーター(図示しない)により駆動され、鋼板5の進行方向を保ちながら、シンクロール30aとの接触によって生じた鋼板5の反りを矯正するものである。
【0017】
ここで、第1部材1の寸法は、例えば、外径が200mm以上220mm以下、内径が155m
m以上175mm以下,長さが1300mm以上1500mm以下である。また、第2部材2の寸法
は、例えば、細径側(図2(a)では、第2部材2の左側)では、外径が130mm以上150mm以下、内径が70mm以上90mm以下であり、太径側(図2(a)では、第2部材2の右側)では、外径が165mm以上185mm以下、内径が120mm以上140mm以下であって、細径側および太径側の各長さを合わせた全長は450mm以上500mm以下である。
【0018】
次に、図3は、本実施形態の複合体の他の例である溶融金属攪拌用回転体を備えた脱ガス処理装置の一部を破断した正面図である。
【0019】
図3に示す例の脱ガス処理装置60は、溶融金属6を入れる容器7と、溶融金属6を混合攪拌するための第1部材(ローター)1が第2部材(シャフト)2に嵌め合わされた溶融金属攪拌用回転体50と、第2部材2の他方の端部にフランジ継手8a,8bを介してボルト9およびナット10で接続した回転軸11と、この回転軸11を回転するための回転駆動機構12とを備えている。ここで、第1部材1は、窒化珪素を主成分とするセラミック焼結体からなり、第2部材2は、金属またはグラファイトからなる。
【0020】
そして、フランジ継手8bは処理ガスGを供給するための供給口Iと内部にガス供給路Pとを有し、第2部材2はこのガス供給路Pに連通したガス供給路Pを内部に有しており、ガス供給路Pは第2部材2に接続した第1部材1のガス供給路Pと連通して、第1部材1の放出口Eから処理ガスGが容器7内の溶融金属6中に放出される。
【0021】
この脱ガス処理装置60を用いた溶融金属6中の不純物6aは、容器7中の溶融金属6に浸漬した第1部材1および第2部材2を、回転駆動機構12の回転駆動により回転させながら、処理ガスGを供給口Iからガス供給路P,P,Pを通じて放出口Eから溶融金属6中に吹き込み、この処理ガスGを溶融金属6の回転によって生じる遠心力により微細化して分散させ、溶融金属6中の水素や非金属酸化物等の不純物6aを気泡に取り込んだり付着させたりすることにより効率的に除去されることとなる。
【0022】
ここで、第1部材1の寸法は、例えば、外径が240mm以上260mm以下、内径が60mm以上70mm以下、厚さが25mm以上35mm以下であり、第2部材2の寸法は、例えば、外径が60mm以上70mm以下、内径が35mm以下45mm以下、長さが900mm以上1100mm
以下である。
【0023】
図4は、本実施形態の複合体を構成する第1部材の一例を模式的に示す、(a)は第1部材の表面の部分平面図であり、(b)は(a)のA−A’線での断面図であり、(c)は(b)のB部の部分拡大図である。
【0024】
図1〜3に示す例のダイカスト用スリーブ20、溶融金属めっき用ロール30、溶融金属攪拌用回転体50は、窒化珪素を主成分とするセラミック焼結体からなる第1部材1と、金属またはグラファイトからなる第2部材2とを嵌め合わしてなり、図4(a)および図4(b)に示すように、第1部材1は、第2部材2と接する基体1aの表面に珪素を含む粒状体1bが一体化している。ここで、粒状体1bとは、珪素を含む粉末を混合し粉砕してスラリーとし、噴霧乾燥機で乾燥させた顆粒または珪素を含む粉末を用いて焼成した焼結体を粉砕した敷粉等の粉粒体が焼成されてなるものである。そして、本実施形態の複合体を構成する第1部材1の基体1aの表面に存在する粒状体1bの一部から、窒化珪素を主成分とする針状結晶1cおよび柱状結晶1dの少なくともいずれかが複数伸びている。このような表面形態であることにより、嵌め合わされた第1部材1と第2部材2との間において、第2部材2と接する基体1aの表面に存在する粒状体1b、針状結晶1cや柱状結晶1dがくさびとなり、第2部材2は高いアンカー効果を得ることできることから、第1部材1と第2部材2とを強固に嵌め合わせることができるとともに、当接する部材との摺動や自らの回転による嵌合の緩みを抑えることができるので、ダイカスト用スリーブ20、溶融金属めっき用ロール30、溶融金属攪拌用回転体50などに、長期間に亘って好適に用いることができる。
【0025】
ここで、窒化珪素を主成分とするセラミック焼結体である基体1aは、窒化珪素を80質量%以上含有してなるものであり、特に、90質量%以上含有していることが好適である。その他に焼結助剤として、酸化マグネシウム(MgO)および酸化カルシウム(CaO)の少なくともいずれかならびに希土類元素の酸化物(例えば、Sc,Y,La,Ce,Pr11,Nd,Pm,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,YbおよびLuの少なくともいずれか)が含まれていてもよい。
【0026】
基体1aの主成分である窒化珪素は、X線回折法を用いて同定することができる。また、窒化珪素の含有量は、蛍光X線分析法またはICP(Inductively Coupled Plasma)発光分光分析法により珪素(Si)の含有量を求め、この含有量を窒化珪素(Si)に換算することで求めることができる。
【0027】
また、基体1aの表面に一体化された多数の粒状体1bは、珪素を含むものであり、具体的には、珪素、窒化珪素、酸化珪素およびサイアロンの少なくともいずれかであることが好ましく、これらの成分は薄膜X線回折法または透過電子顕微鏡法を用いて同定することができる。また、粒状体1bは、任意の断面において、例えば、幅が10μm以上48μm以下であり、高さが16μm以上52μm以下である。このような粒状体1bの幅および高さは、光学顕微鏡を用い、倍率を100倍以上1000倍以下の範囲で測定することができる。こ
こで、幅とは、この断面において、粒状体1bの両側の未隆起部から未隆起部までの長さのことであり、高さとは、粒状体1bの両側の未隆起部と未隆起部とを結ぶ基準線から垂直に取れる直線のうち最も長い長さのことである。
【0028】
また、粒状体1bの一部から複数伸びている針状結晶1cまたは柱状結晶1dは、窒化珪素を主成分とするものであり、窒化珪素を60質量%以上含有してなることが好適であり、さらに、70質量%以上含有していることがより好適である。
【0029】
この針状結晶1cまたは柱状結晶1dの主成分である窒化珪素は、薄膜X線回折法または透過電子顕微鏡法を用いて同定することができる。また、窒化珪素の含有量は、透過電
子顕微鏡法により珪素(Si)の含有量を求め、この含有量を窒化珪素(Si)に換算することで求めることができる。また、針状結晶1cまたは柱状結晶1dは、例えば、粒状体1bの表面からの突出長さは2μm以上10μm以下であり、突出長さの中間の位置における直径は0.2μm以上5μm以下である。このような針状結晶1cまたは柱状結
晶1dは、光学顕微鏡を用い、倍率を100倍以上1000倍以下として確認することができる
。なお、粒状体1bの一部から複数伸びている針状結晶1cまたは柱状結晶1dは、伸びる方向が揃っていない方がより強固に嵌め合わせることができる。
【0030】
図5は、本実施形態の複合体を構成する第1部材において、第2部材と接する基体の表面に一体化している粒状体を示す断面写真である。図5に示す例の断面写真では、基体1aの表面に対して半球状に一体化している粒状体1bと半球状以外の形状である粒状体1bとを示している。粒状体1bは、基体1aの表面に対して半球状に一体化していることが好ましい。粒状体1bのように、基体1aの表面に対して半球状に一体化しているときには、焼成後の残留応力が半球状以外の形状である粒状体1bに比べて粒状体1bの周辺に残りにくいので、第1部材1の機械的強度が低下するおそれを少なくすることができる。
【0031】
なお、本実施形態における半球状とは、真球、扁平球および回転楕円体等のほぼ中心の位置で切断した形状を含み、表面全体にわたって角部がない形状をいい、半球状に一体化している粒状体1bの個数の比率は、粒状体1b全数に対して55%以上であることが好適である。
【0032】
図6は、本実施形態の複合体を構成する第1部材の他の例を模式的に示す、(a)は第1部材の表面の部分平面図であり、(b)は(a)のC−C’線での断面図である。
【0033】
本実施形態の複合体を構成する第1部材1は、図6に示す例のように、粒状体1bが複数の列状に配置されていることが好ましい。粒状体1bが複数の列状に配置されているときには、場所による嵌合強度のばらつきを抑えることができる。このように、複数の列状に配置された、隣り合う粒状体1bの各中心点の間隔aは、例えば0.1mm以上0.5mm以下であることが好ましい。
【0034】
図7は、本実施形態の複合体を構成する第1部材の他の例を模式的に示す、(a)は第1部材の表面の部分平面図であり、(b)は(a)のD−D’線での断面図であり、(c)は(a)のE−E’線での断面図である。
【0035】
図6に示す例の第1部材1では、粒状体1bは、図中に矢印で方向を示すX方向およびY方向のうち、Y方向のみ複数の列状に配置されていたが、図7に示す例の第1部材1では、X方向およびY方向ともに複数の列状に配置されている。このように、X方向およびY方向ともに複数の列状に配置されているときには、場所による嵌合強度のばらつきをさらに抑えることができる。このように、X方向およびY方向ともに複数の列状に配置された、隣り合う粒状体1bの各中心点の間隔b,cは、いずれも例えば、0.1mm以上0.5mm以下であることが好ましい。
【0036】
また、第1部材1における粒状体1bは、密度が48個/cm以上502個/cm以下
であることが好適である。粒状体1bの密度がこの範囲であるときには、粒状体1bが散在したり、凝集したりすることなく、適正な間隔で粒状体1bが配置されることとなるので、適正な間隔で配置された粒状体1bの一部から、窒化珪素を主成分とする針状結晶1cおよび柱状結晶1dの少なくともいずれかが複数伸びていることによって、第1部材1と第2部材2とをより強固に嵌め合わせることができる。特に、粒状体1bは、密度が102個/cm以上448個/cm以下であることがより好適である。
【0037】
粒状体1bの密度は、光学顕微鏡を用いて、倍率を100倍以上1000倍以下として第1部
材1の表面から、例えば、170μm×170μmの範囲を選び、その範囲における粒状体1bの個数を数えて、1cm当りの粒状体1bの密度を算出すればよい。
【0038】
また、粒状体1bは、アルミニウムの酸化物を含んでいることが好適である。粒状体1bがアルミニウムの酸化物を含んでいるときには、焼結工程で液相焼結がより促進されて、粒状体1bは第1部材1に強固に固着されて一体化されたものとなる。特に、アルミニウムの酸化物がアルミン酸マグネシウムであるときには、粒状体1bが第1部材1に強固に固着されて一体化されることとなるので、より強固に第1部材1と第2部材2とを嵌め合わせることができる。なお、粒状体1bに含まれるアルミニウムの酸化物は、薄膜X線回折法または透過電子顕微鏡法を用いて同定することができる。
【0039】
また、アルミニウムの酸化物の含有量は、粒状体1bよりも基体1aの方が少ないことが好適である。アルミニウムの酸化物の含有量が、粒状体1bよりも基体1aの方が少ないときには、この粒状体1bと基体1aとの含有量が等しいときや基体1aの方の含有量が多いときよりも、基体1aを形成する結晶およびこれら結晶間に存在する粒界相におけるフォノンの伝搬が進みやすくなるので、基体1aの両主面間における熱伝導が促進され、熱応力によって第1部材1にクラックや破壊が生じにくくすることができる。
【0040】
特に、基体1aにおけるアルミニウムの酸化物の含有量は、0.1質量%以下であること
がより好適である。このアルミニウムの酸化物の含有量は、ICP発光分光分析法により求めることができる。具体的には、まず、アルミニウムの酸化物を薄膜X線回折法または透過電子顕微鏡法を用いて同定し、ICP発光分光分析法により求められた金属元素であるアルミニウムの含有量を、同定された組成式に応じたアルミニウムの酸化物の含有量に換算することにより求めることができる。
【0041】
図8は、本実施形態の複合体を構成する第1部材の他の例を模式的に示す、(a)は第1部材の表面の部分平面図であり、(b)は(a)のF−F’線での断面図であり、(c)は(b)のG部の部分拡大図である。
【0042】
図8に示す例の第1部材1では、基体1aの表面に窒化珪素を主成分とする針状結晶1eおよび柱状結晶1fを有しており、針状結晶1eおよび柱状結晶1fよりも粒状体1bから伸びる針状結晶1cおよび柱状結晶1dの径が細いことが好ましい。このように、針状結晶1eおよび柱状結晶1fよりも、粒状体1bの一部から伸びている針状結晶1cおよび柱状結晶1dの径が細いときには、針状結晶1cおよび柱状結晶1dが、針状結晶1eおよび柱状結晶1fよりも径が太いときよりも第2部材2と接する表面積が増えるので、第1部材1と第2部材2とをさらに強固に嵌め合わせることができる。
【0043】
針状結晶1c、柱状結晶1d、針状結晶1eおよび柱状結晶1fのそれぞれの径の測定は、まず、第1部材1の一部を切り出して樹脂に埋め込んだ後、破断面をクロスセクションポリシャ法によって研磨して粒状体1bを含む研磨面を作製する。次に、光学顕微鏡を用いて、倍率を50倍以上1000倍以下として、上記研磨面において測定する。
【0044】
具体的には、上記研磨面から例えば170μm×170μmの範囲を4箇所抽出し、抽出した各箇所に対して針状結晶1cまたは柱状結晶1dと、針状結晶1eまたは柱状結晶1fとをそれぞれ5個抽出し、各結晶の突出長さの中間の位置における直径を測定する。針状結晶1cまたは柱状結晶1dが、針状結晶1eまたは柱状結晶1fよりも径が細い状態とは、針状結晶1cまたは柱状結晶1dの平均直径が、針状結晶1eまたは柱状結晶1fの平均直径よりも小さい状態をいう。特に、針状結晶1cまたは柱状結晶1dの平均直径と、
針状結晶1eまたは柱状結晶1fの平均直径との差は、3μm以上であることが好適である。
【0045】
また、基体1aは、粒状体1bよりも平均粒径が小さい窒化珪素を主成分とする結晶からなることが好適である。基体1aが、粒状体1bよりも平均粒径が小さい窒化珪素を主成分とする結晶からなるときには、基体1aおよび粒状体1bのそれぞれの平均粒径が同じであるときよりも基体1aの強度を高くすることができるので、基体1aの厚みを薄くしても、信頼性が損なわれるおそれを少なくすることができる。特に、基体1aにおける窒化珪素を主成分とする結晶の平均粒径は、0.5μm以上14μm以下であることが好適で
ある。
【0046】
なお、基体1aおよび粒状体1bのそれぞれにおける各結晶の平均粒径は、第1部材1の破断面で測定することができる。具体的には、破断面の100μm×100μmにおける範囲から、基体1aおよび粒状体1bをそれぞれ構成する結晶の平均粒径は、光学顕微鏡を用いて、倍率を50倍以上500倍以下とし、JIS R 1670−2006に準拠して求めればよい
。ただし、基体1aおよび粒状体1bにおける結晶の個数は、それぞれ少なくとも10個とすればよい。また、基体1aおよび粒状体1bのそれぞれにおける結晶の各平均粒径が破断面で測定しにくい場合は、第1部材1の一部を切り出して樹脂に埋め込んだ後、クロスセクションポリシャ法によって破断面を研磨して得られた研磨面を用いればよい。
【0047】
そして、第1部材1の機械的特性は、3点曲げ強度が750MPa以上であり、動的弾性
率が300GPa以上であり、ビッカース硬度(H)が13GPa以上であり、破壊靱性(
1C)が5MPam1/2以上であることが好ましい。これらの機械的特性を上記範囲とすることより、第1部材1と第2部材2とが嵌め合わされてなる複合体は、特に、耐クリープ性やヒートサイクルに対する耐久性を向上させることができるので、高い信頼性が得られるとともに長期間にわたって使用することができる。
【0048】
なお、3点曲げ強度については、JIS R 1601−2008(ISO 17565:2003(M
OD))に準拠して測定すればよい。ただし、第1部材1の厚みが薄く、第1部材1から切り出した試験片の厚みを3mmとすることができない場合には、第1部材1の厚みをそのまま試験片の厚みとして評価するものとし、その結果が上記数値を満足することが好ましい。
【0049】
また、動的弾性率については、JIS R 1602−1995で規定される超音波パルス法に準拠して測定すればよい。ただし、第1部材1の厚みが薄く、第1部材1から切り出した試験片の厚みを10mmとすることができない場合には、片持ち梁共振法を用いて評価するものとし、その結果が上記数値を満足することが好ましい。ただし、そのままの厚みで評価して上記数値を満足することができないほどに第1部材1の厚みが薄いときには、試験片寸法や得られた測定値から計算式により3点曲げ強度および動的弾性率を求めればよい。
【0050】
ビッカース硬度(Hv)および破壊靱性(K1C)については、それぞれJIS R 1610−2003(ISO 14705:2000(MOD))、JIS R 1607−1995に規定される
圧子圧入法(IF法)に準拠して測定すればよい。なお、第1部材1の厚みが薄く、第1部材1から切り出した試験片の厚みをそれぞれJIS R 1610−2003、JIS R 1607−1995 圧子圧入法(IF法)で規定する0.5mmおよび3mmとすることができない
ときには、第1部材1の厚みをそのまま試験片の厚みとして評価してその結果が上記数値を満足することが好ましい。ただし、そのままの厚みで評価して上記数値を満足することができないほどに第1部材1の厚みが薄いとき、例えば0.2mm以上0.5mm未満のときには、第1部材1に加える試験力を0.245N,試験力を保持する時間を15秒としてビッカー
ス硬度(Hv)および破壊靱性(K1C)を測定すればよい。
【0051】
次に、本実施形態の複合体の製造方法について説明する。
【0052】
まず、β化率が20%以下である窒化珪素の粉末と、焼結助剤として酸化マグネシウム(MgO)および酸化カルシウム(CaO)の粉末の少なくともいずれかならびに希土類元素の酸化物(例えば、Sc,Y,La,Ce,Pr11,Nd,Pm,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,YbおよびLuの少なくともいずれか)の粉末とを、バレルミル、回転ミル、振動ミル、ビーズミル、サンドミル、アジテーターミル等を用い、パラフィンワックス、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリエチレングリコール(PEG)等の有機バインダーとともに湿式混合し、粉砕してスラリーを作製する。
【0053】
ここで、窒化珪素の粉末とこれら焼結助剤の粉末の合計との総和を100質量%とすると
、焼結助剤である酸化マグネシウムの粉末および酸化カルシウムの粉末の少なくともいずれかを2〜7質量%、希土類元素の酸化物の粉末を7〜16質量%となるようにすればよい。
【0054】
ところで、窒化珪素には、その結晶構造の違いにより、α型およびβ型という2種類の窒化珪素が存在する。α型は低温で、β型は高温で安定であり、1400℃以上でα型からβ型への相転移が不可逆的に起こる。ここで、β化率とは、X線回折法で得られたα(102
)回折線とα(210)回折線との各ピーク強度の和をIα、β(101)回折線とβ(210)
回折線との各ピーク強度の和をIβとしたときに、次の式によって算出される値である。β化率={Iβ/(Iα+Iβ)}×100 (%)
窒化珪素の粉末のβ化率は、第1部材1の強度および破壊靱性値に影響する。β化率が20%以下の窒化珪素の粉末を用いるのは、強度および破壊靱性値をともに高くすることができるからである。β化率が20%を超える窒化珪素の粉末は、焼成工程で粒成長の核となって、粗大で、しかもアスペクト比の小さい結晶となりやすく、強度および破壊靱性値とも低下するおそれがある。そのため、特に、β化率が10%以下の窒化珪素の粉末を用いるのが好ましい。
【0055】
窒化珪素および焼結助剤の粉末の粉砕で用いるボールは、不純物が混入しにくい材質、あるいは第1部材1と同じ材料組成の窒化珪素質焼結体からなるボールが好適である。なお、窒化珪素および焼結助剤の粉末の粉砕は、粒度分布曲線の累積体積の総和を100%と
した場合の累積体積が90%となる粒径(D90)が3μm以下となるまで粉砕することが、焼結性の向上および結晶組織の柱状化または針状化の点から好ましい。粉砕によって得られる粒度分布は、ボールの外径、ボールの量、スラリーの粘度、粉砕時間等で調整することができる。スラリーの粘度を下げるには分散剤を添加することが好ましく、短時間で粉砕するには、予め累積体積50%となる粒径(D50)が1μm以下の粉末を用いることが好ましい。
【0056】
次に、得られたスラリーをASTM E 11−61に記載されている粒度番号が200のメ
ッシュより細かいメッシュの篩いに通した後に乾燥させて窒化珪素を主成分とする顆粒(以下、窒化珪素質顆粒という。)を得る。乾燥は、噴霧乾燥機で乾燥させてもよく、他の方法であっても何ら問題ない。そして、冷間静水圧加圧法を用いて窒化珪素質顆粒を円筒状または円柱状等の所望形状に成形し、必要に応じて切削加工を施して窒化珪素質成形体を得る。
【0057】
次に、この窒化珪素質成形体の表面に珪素を含む顆粒または敷粉等の多数の粉粒体を載
置する。載置する方法は、篩い等を用いて振り掛ける、または粉粒体に溶媒等を加えてスラリーとし、刷毛やローラ等を用いて塗布してもよい。なお、粉粒体を構成する粉末は、例えば、珪素の粉末、窒化珪素の粉末、酸化珪素の粉末およびサイアロンの粉末の少なくともいずれかと、焼結助剤である酸化マグネシウムおよび酸化カルシウムの粉末の少なくともいずれかならびに希土類元素の酸化物の粉末である。なお、顆粒とは、例えば上記粉末を混合し粉砕してスラリーとし、噴霧乾燥機で乾燥させたものであり、敷粉とは、上記粉末を用いて焼成した焼結体を粉砕したもの等である。
【0058】
ここで、基体1aの表面に対して半球状に一体化している粒状体1bとするには、球状の顆粒を用いればよい。また、複数の列状に配置されている粒状体1bとするには、粉粒体を複数の列状に配置可能なローラ等を用いて載置すればよく、隣り合う粉粒体の間隔は、例えば、0.125mm以上0.625mm以下とすればよい。
【0059】
また、基体1aの表面上の粒状体1bの密度を48個/cm以上502個/cm以下と
するには、窒化珪素質成形体の表面上の粉粒体の密度を31個/cm以上321個/cm
以下とすればよい。
【0060】
また、基体1aの表面から伸びる針状結晶1eまたは柱状結晶1fの径よりも、粒状体1bの一部から伸びる針状結晶1cまたは柱状結晶1dの径を細くするには、基体1aよりも粒状体1bを構成する焼結助剤の含有量を少なくすればよい。
【0061】
また、基体1aが粒状体1bよりも平均粒径が小さい窒化珪素を主成分とする結晶から構成するには、基体1aの主成分である窒化珪素の粉末の平均粒径を粒状体1bの原料である珪素の粉末、窒化珪素の粉末、酸化珪素の粉末およびサイアロンの粉末から選択された粉末の平均粒径よりも小さくすればよい。例えば、基体1aの主成分である窒化珪素の粉末の平均粒径を0.7μm以上1μm以下とし、粒状体1bの原料である珪素の粉末,窒
化珪素の粉末,酸化珪素の粉末およびサイアロンの粉末から選択された粉末の平均粒径を5μm以上10μm以下とすればよい。
【0062】
また、粒状体1bがアルミニウムの酸化物を含んでいるものとするには、粉粒体を構成する粉末にアルミニウムの酸化物となる成分を添加すればよい。さらに、アルミニウムの酸化物の含有量が、粒状体1bよりも基体1aの方が少ないこととするには、粉粒体を構成する粉末と、基体1aとなる原料粉末とにおけるアルミニウムの酸化物の添加量を調整すればよい。
【0063】
次に、表面に粉粒体を載置した窒化珪素質成形体を黒鉛抵抗発熱体が設置された焼成炉内に入れて焼成する。焼成炉内には窒化珪素質成形体の含有成分の揮発を抑制するために、酸化マグネシウムおよび希土類元素の酸化物等の成分を含んだ共材を配置してもよい。温度については、室温から300〜1000℃までは真空雰囲気中にて昇温し、その後、窒素ガ
スを導入して、窒素分圧を15〜300kPaに維持する。この状態における窒化珪素質成形
体の開気孔率は40〜55%程度であるため、窒化珪素質成形体中には窒素ガスが十分充填される。1000〜1400℃付近では焼結助剤として添加した成分が固相反応を経て、液相成分を形成し、1400℃以上の温度域で、α型からβ型への相転移が不可逆的に起こる。そして、焼成炉内の温度をさらに上げて、温度を1700℃以上1800℃未満として、4時間以上10時間以下保持することによって、基体1aの表面に珪素を含む粒状体1bが一体化しており、粒状体1bの一部から、窒化珪素を主成分とする結晶粒の成長により針状結晶1cおよび柱状結晶1dの少なくともいずれかが複数伸びている第1部材1を得ることができる。
【0064】
そして、例えば、550℃以上600℃以下に加熱した金属またはグラファイトからなる第2部材2に、上述した方法により得られた第1部材1を嵌め合わせることにより、本実施形
態の複合体を得ることができる。
【0065】
また、第1部材1を第2部材2に嵌め合わせた後、第2部材2が冷却したときに生じる圧縮力によって、第1部材1にクラックを生じにくくするために、ろう材、例えば、JIS Z 3261−1998で規定される銀ろう(BAg−8)を、予め、第1部材1と第2部材2とが接する面に塗布し、温度および時間をそれぞれ780℃以上900℃以下、3分以上10分以下として保持した後、冷却してもよい。
【0066】
以下、本発明の実施例を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【実施例1】
【0067】
まず、β化率が10%(すなわち、α化率が90%)である窒化珪素の粉末と、焼結助剤として酸化マグネシウム(MgO)の粉末および酸化エルビウム(Er)の粉末とを、回転ミルを用いて湿式混合し、粒径(D90)が1μm以下となるまで粉砕してスラリーとした。ここで、窒化珪素の粉末とこれら焼結助剤の粉末との合計の総和を100質量%
としたとき、焼結助剤である酸化マグネシウムの粉末および酸化エルビウムの粉末は、それぞれ5質量%、10質量%とした。
【0068】
次に、得られたスラリーをASTM E 11−61に記載されている粒度番号が250のメ
ッシュの篩いに通した後に噴霧乾燥機を用いて乾燥させることによって窒化珪素質顆粒を得た。そして、冷間静水圧加圧法により円筒状の窒化珪素質成形体を得た。
【0069】
次に、窒化珪素を主成分とし、表1に示す含有量の酸化マグネシウムおよび酸化エルビウムを焼結助剤とする粉粒体である顆粒を上述した方法と同じ方法により得た。そして、窒化珪素質成形体の表面上の粉粒体の密度を異ならせるため、表面形状の異なるローラを用いて各試料の窒化珪素質成形体の表面に粉粒体を載置した。その後、光学顕微鏡を用いて、倍率を800倍として窒化珪素質成形体の表面から、170μm×170μmの範囲を選び、
その範囲における粉粒体の個数を数え、1cm当りの粉粒体の密度を算出した。
【0070】
次に、表面に粉粒体を載置した窒化珪素質成形体を黒鉛抵抗発熱体が設置された焼成炉内に入れて焼成した。なお、焼成炉内には窒化珪素質成形体の含有成分の揮発を抑制するために、酸化マグネシウムおよび酸化エルビウムを含んだ共材を配置した。温度については、室温から500℃までは真空雰囲気中にて昇温し、その後、窒素ガスを導入して、窒素
分圧を30kPaに維持した。そして、焼成炉内の温度をさらに上げて、温度を1750℃として、表1に示す時間で保持することによって、図3に示す第1部材(ローター)1を得た。
【0071】
そして、光学顕微鏡を用いて、倍率を800倍として基体1aの表面において、170μm×170μmの範囲を選び、その範囲における粒状体1bの個数を数え、1cm当りの粒状
体1bの密度を算出した。
【0072】
また、針状結晶1c,柱状結晶1d,針状結晶1eおよび柱状結晶1fのそれぞれの径を測定した。具体的には、まず第1部材(ローター)1の先端の一部を切り出して樹脂に埋め込んだ後、クロスセクションポリシャ法によって研磨して粒状体1bを含む研磨面を作製した。具体的には、走査型電子顕微鏡用試料作製装置(クロスセクションポリッシャ、日本電子株式会社製SM―09010)を用い、照射するアルゴンイオンの加速電圧を6k
Vとし、検出されるアルゴンイオンの電流の最大値の70〜80%となるようにアルゴンガスの流量を調整し、研磨時間を8時間とした。
【0073】
次に、光学顕微鏡を用いて、倍率を800倍として、上記研磨面から170μm×170μmの
範囲を4箇所抽出し、抽出した各箇所に対して針状結晶1cまたは柱状結晶1dと、第2の針状結晶1eまたは柱状結晶1fとをそれぞれ5個抽出し、各結晶の突出長さの中間の位置における直径を測定した。そして、針状結晶1cまたは柱状結晶1dの平均直径および針状結晶1eまたは柱状結晶1fの平均直径を算出した。これらの算出値を表1に示す。
【0074】
次に、グラファイトからなる筒状の第2部材(シャフト)2を用意した。そして、第1部材1を加熱した後、筒状の第2部材2の下端を第1部材1に嵌め合わせて図3に示す溶融金属攪拌用回転体50を得た。
【0075】
そして、第1部材1を固定し、万能試験機((株)島津製作所製、オートグラフAG−IS)を用いて第2部材2を軸方向に引っ張り、第1部材1もしくは第2部材2が破損する、または、第1部材1が第2部材2から抜けるときの荷重をせん断力として測定し、その値を表1に示した。ここで、せん断力の値の大きさで、第1部材1と第2部材2との嵌合強度を評価した。なお、万能試験機のクロスヘッドの速度は、1mm/分とした。
【0076】
【表1】

【0077】
表1に示す通り、試料No.1は、焼成時の1750℃での保持時間が短く、粒状体1bの一部から伸びている窒化珪素を主成分とする針状結晶1cまたは柱状結晶1dが認められないことから、せん断力の値が小さく、第1部材1と第2部材2との嵌合強度が低かった。
【0078】
一方、試料No.2〜11は、粒状体1bの一部から、窒化珪素を主成分とする針状結晶1cまたは柱状結晶1dが複数伸びていることから、せん断力の値が大きく、第1部材1と第2部材2との嵌合強度が高く、信頼性の高い複合体であることがわかった。
【0079】
また、試料No.3〜10は、粒状体1bの密度が48個/cm以上502個/cm以下
であることから、粒状体1bの密度がこの範囲外の試料No.2,11よりもせん断力の値が大きく、第1部材1と第2部材2との嵌合強度が高かった。特に、粒状体1bの密度が102個/cm以上448個/cm以下である試料No.5〜8は、せん断力の値がさらに大きく、第1部材1と第2部材2との嵌合強度がより高かった。
【0080】
また、試料No.6と試料No.7を比べると、試料No.6は基体1aの表面から窒化珪素を主成分とする針状結晶1eまたは柱状結晶1fが、針状結晶1cまたは柱状結晶1dは、針状結晶1eまたは柱状結晶1fよりも径が細いことから、針状結晶1cまたは柱状結晶1dと、針状結晶1eまたは柱状結晶1fとの径が同一である試料No.7より
もせん断力の値が大きく、第1部材1と第2部材2との嵌合強度が高かった。
【実施例2】
【0081】
まず、実施例1で示した方法と同じ方法で窒化珪素質成形体を作製した。そして、窒化珪素を主成分とし、酸化マグネシウムおよび酸化エルビウムを焼結助剤とする粉末を用いた粉粒体(試料No.12は球状の顆粒、No.13は非球状の敷粉)を窒化珪素質成形体の表面に載置した。なお、酸化マグネシウムおよび酸化エルビウムの各含有量は、窒化珪素とこれら焼結助剤との合計の総和を100質量%として、いずれの試料も2質量%とし、粉
粒体1bの密度はいずれの試料も208個/cmとした。なお、試料No.12に用いた球
状の顆粒については、上記粉末を混合し粉砕してスラリーとし、噴霧乾燥機で乾燥させたものであり、試料No.13に用いた非球状の敷粉については、上記粉末を用いて焼成した焼結体を粉砕したものを用いた。
【0082】
次に、表面に粉粒体を載置した窒化珪素質成形体を黒鉛抵抗発熱体が設置された焼成炉内に入れて焼成した。なお、焼成炉内には窒化珪素質成形体の含有成分の揮発を抑制するために、酸化マグネシウムおよび酸化エルビウムを含んだ共材を配置した。温度については、室温から500℃までは真空雰囲気中にて昇温し、その後、窒素ガスを導入して、窒素
分圧を30kPaに維持した。そして、焼成炉内の温度をさらに上げ、温度を1750℃として、7時間保持することによって、図1に示す、円筒状の第1部材(内筒)1である試料No.12,13を得た。
【0083】
また、比較例として、窒化珪素質成形体の表面に粉粒体1bを載置しないこと以外は上述した条件と同じ条件で焼成した、第1部材(内筒)1である試料No.14を得た。
【0084】
そして、試料No.12〜14のそれぞれの3点曲げ強度をJIS R 1601−2008に準拠して測定し、その測定値を表2に示した。
【0085】
また、3点曲げ強度を測定した後に、光学顕微鏡を用いて、倍率を500倍とし、破断面
における170μm×170μmの範囲を選び、粒状体1bの形状を観察し、その結果を表2に示した。
【0086】
【表2】

【0087】
表2に示す通り、試料No.12は、粒状体1bが基体1aの表面に対して半球状に一体化していることから、基体1aの表面に対して半球状以外の形状で一体化している試料No.13に比べて、焼成後の残留応力が粒状体1bの周辺に残りにくくなっているので、試料No.14と同等の機械的強度を有することが分かった。このことから、粒状体1bが基体1aの表面に対して半球状に一体化している複合体は、基体1aの強度が低下するおそれが少なく、信頼性が高いことがわかった。
【実施例3】
【0088】
まず、実施例1で示した方法と同じ方法で窒化珪素質成形体を作製した。そして、窒化珪素を主成分とし、酸化マグネシウムおよび酸化エルビウムを焼結助剤とする粉粒体である敷粉を窒化珪素質成形体の表面に、表3に示す配置となるように載置した。なお、酸化マグネシウムおよび酸化エルビウムの各含有量は、窒化珪素とこれら焼結助剤との合計の総和を100質量%として、いずれも2質量%とし、粉粒体の密度は25個/cmとした。
【0089】
次に、表面に粉粒体を載置した窒化珪素質成形体を黒鉛抵抗発熱体が設置された焼成炉内に入れて焼成した。なお、焼成炉内には窒化珪素質成形体の含有成分の揮発を抑制するために、酸化マグネシウムおよび酸化エルビウムを含んだ共材を配置した。温度については、室温から500℃までは真空雰囲気中にて昇温し、その後、窒素ガスを導入して、窒素
分圧を30kPaに維持した。そして、焼成炉内の温度をさらに上げ、温度を1750℃として、6時間保持することによって、図1に示す円筒状の第1部材(内筒)1である試料No.15〜17をそれぞれ5個ずつ得た。
【0090】
なお、試料No.15〜17は、表面がそれぞれ図4,6,7に示す形状の第1部材(内筒)1である。
【0091】
そして、実施例1で示した方法と同様の方法で、用意した金属からなる第2部材(外筒)2にそれぞれの試料の第1部材(内筒)1を嵌め合わせた。次に、各試料の5個のせん断力を測定し、せん断力のばらつきを順位付けし、ばらつきが最も小さかったものを1、中間であったものを2、ばらつきが最も大きかったものを3として表3に記入した。
【0092】
【表3】

【0093】
表3に示す通り、試料No.16,17は、粒状体1bが複数の列状に配置されていることから、試料No.15と比較してせん断力のばらつきが小さいことから、嵌め合わせ強度のばらつきが小さいと言える。
【0094】
特に、試料No.17は、粒状体1bがX方向およびY方向とも複数の列状に配置されていることから、せん断力のばらつきが最も小さかった。
【0095】
この結果から、粒状体1bが複数の列状に配置されている第1部材1を複合体に用いれば、信頼性の高い複合体とできることがわかった。
【実施例4】
【0096】
まず、実施例1に示した方法と同じ方法で窒化珪素質成形体を作製した。そして、窒化珪素を主成分とし、表4に示す成分を焼結助剤とする粉末を用いた粉粒体である敷粉を窒化珪素質成形体の表面に載置した。なお、これら焼結助剤の各含有量は、窒化珪素とこれら焼結助剤との合計の総和を100質量%として、表4に示す通りとし、粉粒体の密度はい
ずれの試料も301個/cmとした。そして、実施例3に示した方法と同じ方法で焼成す
ることによって、図1に示す第1部材(内筒)1である試料No.18〜20を得た。
【0097】
そして、試料No.18〜20の3点曲げ強度をJIS R 1601−2008(ISO 17565
:2003(MOD))に準拠して測定し、その値を表4に示した。なお、粒状体1bに含まれるアルミニウムの酸化物は、薄膜X線回折法を用いて、酸化物を構成する成分を同定したところ、試料No.19には、酸化アルミニウムが含まれており、試料No.20には、アルミン酸マグネシウムが含まれていた。
【0098】
【表4】

【0099】
表4に示す通り、試料No.19,20は、粒状体1bにアルミニウムの酸化物を含んでいることによって、焼結工程で液相焼結がより促進されて、粒状体1bが基体1aに強固に固着されていることにより、機械的強度を高められることがわかった。さらに、試料No.20は、アルミニウムの酸化物がアルミン酸マグネシウムであることから、より強固に粒状体1bが基体1aに固着されて、さらに機械的強度を高められることがわかった。
【0100】
この結果から、粒状体1bがアルミニウムの酸化物を含んでいる第1部材1を複合体に用いれば、信頼性の高い複合体とできることがわかった。
【実施例5】
【0101】
まず、β化率が10%(即ち、α化率が90%)である窒化珪素の粉末と、焼結助剤として酸化マグネシウムの粉末および酸化エルビウムの粉末とを、回転ミルを用いて湿式混合し、粒径(D90)が1μm以下となるまで粉砕してスラリーとした。
【0102】
ここで、基体1aにおける酸化マグネシウムおよび酸化エルビウムの含有量については、それぞれ3質量%、14質量%とし、酸化アルミニウム(Al)については、表5に示す含有量となるように調整した。そして、実施例1で示した方法と同じ方法で窒化珪素質成形体を作製した。
【0103】
次に、窒化珪素を主成分とし、粒状体1bにおける酸化マグネシウム、酸化エルビウムおよび酸化アルミニウムの各含有量が、それぞれ3質量%、14質量%、0.5質量%となる
ように調整された粉粒体である顆粒を実施例1で示した方法と同じ方法により得た。そして、ローラを用いて各試料の窒化珪素質成形体の表面に粉粒体を載置し、粉粒体の密度は、301個/cmとし、実施例3の試料No.13を得た方法と同じ方法で図1に示す第1
部材(内筒)1を作製した。
【0104】
そして、熱定数測定装置(アルバック理工(株)製、TC−7000)を用いて、レーザフラッシュによる2次元法により各試料の厚み方向における熱拡散率αを測定した。また、超高感度型示差走査熱量計(セイコーインスツルメンツ(株)製、DSC−6200)を用いて、示唆走査熱量法(DSC法)により各試料の比熱容量Cを測定した。さらに、JIS
R 1634−1998に準拠して、各試料のかさ密度ρ(kg/m)を測定した。
【0105】
そして、これらの方法によって求められた値を、次式のκ=α・C・ρに代入して、各試料の厚み方向における熱伝導率κ(W/(m・K))を算出し、その値を表5に示した。
【0106】
【表5】

【0107】
表5に示す通り、試料No.21,22は、アルミニウムの酸化物の含有量が、粒状体1bよりも基体1aの方が少ないことから、アルミニウムの酸化物の含有量が、基体1aよりも粒状体1bの方が多い試料No.23,24よりも熱伝導率が高くなっており、基体1aを形成する結晶およびこれら結晶間に存在する粒界相におけるフォノンの伝搬が進みやすくなっているので、基体1aの内周面から外周面に向かう熱伝導が促進され、熱応力によって第1部材1にクラックや破壊が生じにくくできることがわかった。
【0108】
この結果から、アルミニウムの酸化物の含有量が粒状体1bよりも基体1aの方が少ない第1部材1を複合体に用いれば、信頼性の高い複合体とできることがわかった。
【実施例6】
【0109】
まず、β化率が10%(即ち、α化率が90%)である窒化珪素の粉末と、焼結助剤として酸化マグネシウムの粉末および酸化エルビウムの粉末とを、回転ミルを用いて湿式混合し、粒径(D90)がそれぞれ表6に示すように0.6μm、0.8μm、1.0μmとなるまで粉
砕して3種類のスラリーを得た。ここで、窒化珪素の粉末とこれら焼結助剤の粉末との合計の総和を100質量%とすると、焼結助剤である酸化マグネシウムの粉末および酸化エル
ビウムの粉末は、それぞれ5質量%、10質量%とした。
【0110】
次に、得られたスラリーをASTM E 11−61に記載されている粒度番号が250のメ
ッシュの篩いに通した後に噴霧乾燥機を用いて乾燥させることによって、3種類の窒化珪素質顆粒を得た。そして、それぞれの窒化珪素質顆粒を用いて冷間静水圧加圧法により円筒状の窒化珪素質成形体を得た。
【0111】
次に、窒化珪素を主成分とし、酸化マグネシウムおよび酸化エルビウムを焼結助剤とする粉粒体をローラを用いて各試料の窒化珪素質成形体の表面に載置した。そして、実施例2に示した方法と同じ方法で焼成することによって、図1に示す円筒状の第1部材(内筒)1である試料No.25〜27を得た。
【0112】
そして、試料No.25〜27のそれぞれの3点曲げ強度をJIS R 1601−2008に準拠して測定し、その測定値を表6に示した。また、基体1aおよび粒状体1bにおける窒化
珪素を主成分とする結晶の各平均粒径を測定するために、試料の一部を切り出して樹脂に埋め込んだ後、クロスセクションポリシャ法によって研磨して得られた研磨面を、光学顕微鏡を用い、倍率を200倍とし、JIS R 1670−2006に準拠して求め、その測定値を
表6に示した。
【0113】
【表6】

【0114】
表6に示す通り、基体1aが粒状体1bよりも平均粒径が小さい窒化珪素を主成分とする結晶からなる試料No.25,26は、基体1aおよび粒状体1bのそれぞれの平均粒径が同じである試料No.27よりも基体1aの強度が高いので、同じ強度が求められる場合において、第1部材(内筒)1の厚みを薄くすることができる。
【0115】
また、上記結果から、本実施形態の複合体において、第1部材1は、第2部材2と接する表面に珪素を含む粒状体1bが一体化しており、粒状体1bの一部から窒化珪素を主成分とする針状結晶1cおよび柱状結晶1dの少なくともいずれかが複数伸びていることにより、第2部材2と接する第1部材1の表面に存在する粒状体1b、針状結晶1cや柱状結晶1dがくさびとなり高いアンカー効果を得ることができることから、第1部材1と第2部材2とを強固に嵌め合わせることができるとともに、当接する部材との摺動や自らの回転による嵌合の緩みを抑えることができることがわかった。
【符号の説明】
【0116】
1:第1部材
1a:基体
1b:粒状体
1c:針状結晶(粒状体から伸びる)
1d:柱状結晶(粒状体から伸びる)
1e:針状結晶(第1部材から伸びる)
1f:柱状結晶(第1部材から伸びる)
2:第2部材
3:注入口
4:プランジャチップ
5:鋼板
6:溶融金属
7:容器
8:フランジ継手
9:ボルト
10:ナット
11:回転軸
12:回転駆動機構
20:ダイカスト用スリーブ
30:溶融金属めっき用ロール
40:溶融金属めっき装置
50:溶融金属攪拌用回転体
60:脱ガス処理装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒化珪素を主成分とするセラミック焼結体を基体とする第1部材と、金属またはグラファイトからなる第2部材とを嵌め合わしてなり、前記第1部材は、前記第2部材と接する表面に珪素を含む粒状体が一体化しており、該粒状体の一部から窒化珪素を主成分とする針状結晶および柱状結晶の少なくともいずれかが複数伸びていることを特徴とする複合体。
【請求項2】
前記粒状体は、前記基体の表面に対して半球状に一体化していることを特徴とする請求項1に記載の複合体。
【請求項3】
前記粒状体は、複数の列状に配置されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の複合体。
【請求項4】
前記粒状体は、密度が48個/cm以上502個/cm以下であることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の複合体。
【請求項5】
前記粒状体は、アルミニウムの酸化物を含んでいることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の複合体。
【請求項6】
前記アルミニウムの酸化物の含有量は、前記粒状体よりも前記基体の方が少ないことを特徴とする請求項5に記載の複合体。
【請求項7】
前記基体の表面に、窒化珪素を主成分とする針状結晶または柱状結晶を有しており、該針状結晶または該柱状結晶よりも前記粒状体から伸びている前記針状結晶または前記柱状結晶の径が細いことを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれかに記載の複合体。
【請求項8】
前記基体は、前記粒状体よりも平均粒径が小さい窒化珪素を主成分とする結晶からなることを特徴とする請求項1乃至請求項7のいずれかに記載の複合体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−23413(P2013−23413A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−160017(P2011−160017)
【出願日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】