説明

複合化高分子材料およびこれを含む光学材料

【課題】芳香族ポリカーボネート、芳香族ポリエステル、芳香族ポリエーテル、またはそれらの共重合体を主成分として含む高分子マトリックス中に、金属酸化物微粒子を分散された、上記高分子マトリックスよりも高い屈折率を有する複合化高分子材料を提供する。
【解決手段】本発明の複合化高分子材料は、芳香族ポリカーボネート、芳香族ポリエステル、芳香族ポリエーテル、またはそれらの共重合体を主成分として含む高分子マトリックス中に、金属酸化物微粒子を分散させてなる複合化高分子材料であって、金属酸化物微粒子の一次粒子の平均粒子径は1nm以上30nm未満、かつ、金属酸化物微粒子を構成する金属酸化物の屈折率は2.0以上である。また、本発明の複合化高分子材料は、高分子マトリックスの屈折率よりも、0.005以上高い屈折率を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子マトリックス中に金属酸化物微粒子を分散させてなる複合化高分子材料に関するものであり、詳細には、高分子マトリックスよりも高い屈折率を有する複合化高分子材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、金属酸化物微粒子と高分子とをナノサイズレベルで複合化させた、いわゆる複合化高分子材料(ナノコンポジット)は、従来にない特徴的な物性を発現できる材料として、研究開発されている。特に、金属酸化物微粒子として、粒子径が1nm〜100nmである金属酸化物微粒子が用いられている複合化高分子材料は、従来にない物性を示すことが可能である。したがって、光学材料、電子材料、コーティング材料、ガスバリアー材料、光触媒などの幅広い用途への応用が期待されている。
【0003】
たとえば、光学材料としては、可視光の透過性を損なわないよう、可視光の波長よりも十分小さな一次粒子径を有する高屈折率の金属酸化物微粒子を透明な高分子中に均一に分散させることが研究されている。上記分散が実現すれば、高い透明性および優れた成形加工性を維持したままで、単一の樹脂では達成し得ない高い屈折率を有する複合化高分子材料が得られる可能性がある。
【0004】
このような研究の一環として、従来、たとえば、金属酸化物微粒子として、高屈折率を示す酸化チタンまたは酸化ジルコニウム等を使用し、該金属酸化物微粒子と、熱硬化性樹脂または光硬化性樹脂とを複合化させた、透明かつ高屈折率の複合化高分子材料が知られている。
【0005】
しかしながら、熱硬化性樹脂または光硬化性樹脂を高分子マトリックスとする複合化高分子材料では、複合化の方法や成形方法が非常に限定される。
【0006】
そこで、金属酸化物微粒子を分散させるための媒体である高分子マトリックスとして、熱可塑性樹脂を用いた複合化高分子材料についての研究がなされている。熱可塑性樹脂を用いることによって、射出成形等の汎用的かつ多様な成形方法を目的に応じて選択することが可能となる。熱可塑性樹脂に金属酸化物微粒子を分散させる方法としては、分散剤または表面処理剤を用いる方法が挙げられる。
【0007】
高分子マトリックスに熱可塑性樹脂を用いた複合高分子化材料の具体例としては、金属酸化物微粒子をポリイミド中に分散させた複合化高分子材料を挙げることができる(たとえば、特許文献1を参照)。
【0008】
しかしながら、特許文献1の複合化高分子材料は、溶融温度が高いポリイミドと金属酸化物微粒子とから成っているため、上記複合化高分子材料は高い溶融温度を有する。したがって、上記複合化高分子材料を、射出成形等の汎用的な成形方法を用いて成形することは困難である。
【0009】
また、酸性基または、酸性基および塩基性基の両方で表面修飾されており、粒子径が1〜100nmである金属酸化物超微粒子とポリマーとの複合高分子化材料が知られている(たとえば、特許文献2を参照)。特許文献2によれば、電子供与性基を含有する熱可塑性ポリマーに、上記金属酸化物微粒子を分散させることができる。具体的には、特許文献2に記載の技術は、高分子マトリックスである、電子供与性基を含有する熱可塑性樹脂に対し、有機修飾剤によって表面が酸性基、または酸性基および塩基性基の両方で修飾された金属酸化物微粒子表面のトラップサイトへの電子移動を利用することにより、高分子マトリックスに金属酸化物微粒子をナノコンポジット化分散するものである。
【0010】
また、透明かつ高屈折率の複合化高分子材料を得る方法としては、上記した方法以外にも、金属酸化物微粒子と高分子との相溶性を向上させる方法が知られている。このような方法としては、たとえば、金属酸化物微粒子および高分子のそれぞれに共有結合可能な官能基を導入し、金属酸化物微粒子および高分子を結合させる方法が知られている(たとえば、特許文献3)。
【特許文献1】特開2001−348477号公報(平成13年12月18日公開)
【特許文献2】特開2003−73558号公報(平成15年3月12日公開)
【特許文献3】特開2002−47425号公報(平成14年2月12日公開)
【特許文献4】特開2003−261329号公報(平成15年9月16日公開)
【非特許文献1】Yukiya Hakuta, Haruo Ura, Hiromichi Hayashi, Kunio Arai, 「Effect of water density on polymorph of BaTiO3nanoparticles synthesized under suband supercritical water conditions」, Materials Letters 59, p.1389-1390 (2005).
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上記従来の技術では、汎用の芳香族ポリカーボネート、芳香族ポリエステル、または芳香族ポリエーテルに金属酸化物微粒子を分散させた場合、透明かつ高屈折率を有する複合化高分子材料を得ることができないという問題がある。
【0012】
具体的には、特許文献2に記載の発明の再現性について確認したところ、ビスフェノールAとエピクロロヒドリンとの共重合ポリマー以外のポリマー、例えば、ポリカーボネートを用いた場合、金属酸化物微粒子同士の凝集が生じ、金属酸化物微粒子を均一に分散させることはできなかった。そのため、高分子マトリックスとしてポリカーボネートを用いた場合、透明で高屈折率を有する複合化高分子材料を得ることは困難であった。
【0013】
そこで、汎用の成形方法により成形が可能な汎用の熱可塑性樹脂を用いた高分子マトリックスに金属酸化物微粒子が均一に分散された複合化高分子材料が求められている。特に、汎用の熱可塑性樹脂である芳香族ポリカーボネート、芳香族ポリエステル、または芳香族ポリエーテルを主成分とする高分子マトリックスに対し、金属酸化物微粒子を均一に分散させることができれば、高い透明性および優れた成形加工性を維持したままで、上記高分子マトリックスよりも高い屈折率を有する、有用な複合化高分子材料を得ることが可能となる。
【0014】
本発明は、上記従来の問題点に鑑みなされたものであって、その目的は、芳香族ポリカーボネート、芳香族ポリエステル、芳香族ポリエーテル、またはそれらの共重合体を主成分として含む高分子マトリックス中に、金属酸化物微粒子が均一分散された、上記高分子マトリックスよりも高い屈折率を有する複合化高分子材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の複合化高分子材料は、上記課題を解決するために、芳香族ポリカーボネート、芳香族ポリエステル、芳香族ポリエーテル、またはそれらの共重合体を主成分として含む高分子マトリックス中に、金属酸化物微粒子が分散されてなる複合化高分子材料であって、上記金属酸化物微粒子の一次粒子の平均粒子径は1nm以上30nm未満であり、かつ、金属酸化物微粒子を構成する金属酸化物の屈折率は2.0以上であり、上記高分子マトリックスの屈折率よりも、0.005以上高い屈折率を有することを特徴としている。
【0016】
上記の発明によれば、複合化高分子材料が、芳香族ポリカーボネート、芳香族ポリエステル、芳香族ポリエーテル、またはそれらの共重合体を主成分として含んでいるため、射出成形等の汎用的かつ多様な成形方法を目的に応じて選択することが可能である。すなわち、成形加工性が高まるので、より広い用途に用いることが可能になる。また、金属酸化物微粒子を構成する金属酸化物の屈折率が2.0以上の金属酸化物微粒子は、屈折率向上効果が高く、高い透明性および優れた成形加工性を維持したままで、上記高分子マトリックスの屈折率よりも、0.005以上高い屈折率を有する複合化高分子材料を得ることができる。さらに、複合化高分子材料の屈折率は、高分子マトリックスの屈折率よりも、0.005以上高いため、高い透明性および屈折率を必要とする製品に用いることができる。
【0017】
また、本発明の複合化高分子材料では、上記芳香族ポリカーボネート、芳香族ポリエステル、芳香族ポリエーテル、またはそれらの共重合体は、酸性基を有していることが好ましい。これにより、上記高分子マトリックスと金属酸化物微粒子との相互作用により金属酸化物微粒子の分散性を高めることができる。
【0018】
また、本発明の複合化高分子材料では、上記酸性基がスルホン酸基またはホスホン酸基であることが好ましい。これにより、上記複合化高分子材料における上記金属酸化物微粒子の分散性をさらに向上させることができる。
【0019】
また、本発明の複合化高分子材料では、上記金属酸化物微粒子は、超臨界または亜臨界状態の水中において、水熱反応によって製造された金属酸化物微粒子であることが好ましい。
【0020】
これにより、得られる金属酸化物微粒子はその内部に欠陥および不純物を含みにくく、平均粒子径の分布が狭い。そのため、上記金属酸化物微粒子をさらに高分子マトリックスに均一に分散させることができる。
【0021】
また、本発明の複合化高分子材料では、上記水熱反応によって製造された金属酸化物微粒子を、乾燥状態を経由せずに上記高分子マトリックスに分散させてなることが好ましい。
【0022】
また、本発明の複合化高分子材料では、上記芳香族ポリカーボネート、芳香族ポリエステル、芳香族ポリエーテル、またはそれらの共重合体は、溶剤可溶性を有することが好ましい。
【0023】
これにより、乾燥状態を経由しないことによって、上記金属酸化物微粒子が凝集することを防止できるため、金属酸化物微粒子を高分子マトリックスに均一に分散させることができる。
【0024】
また、本発明の複合化高分子材料では、上記金属酸化物微粒子が、一般式(1)
【0025】
【化1】

【0026】
(式中、R、RおよびRは、それぞれ独立して、水素原子、水酸基、ハロゲン原子、ヘテロ原子を含む置換基が導入されていてもよい炭素数1〜30の炭化水素基、またはヘテロ原子を含む置換基が導入されていてもよい炭素数1〜30のオキシ炭化水素基を表し、yは0または1である)
で示されるリン化合物およびその塩からなる群より選ばれる少なくとも一種の化合物により表面修飾されていることが好ましい。
【0027】
これにより、上記金属酸化物微粒子の疎水性を高めることができるため、複合化高分子材料における上記金属酸化物微粒子の分散性を向上させることができる。
【0028】
また、本発明の複合化高分子材料では、上記金属酸化物微粒子が、一般式(2)
【0029】
【化2】

【0030】
(式中、R、R、RおよびRはそれぞれ独立して、水素原子、水酸基、ハロゲン原子、ヘテロ原子を含む置換基が導入されていてもよい炭素数1〜30の炭化水素基、またはヘテロ原子を含む置換基が導入されていてもよい炭素数1〜30のオキシ炭化水素基を表す)
で示されるケイ素化合物およびその塩からなる群より選ばれる少なくとも一種の化合物により表面修飾されていることが好ましい。
【0031】
これにより、上記金属酸化物微粒子の疎水性を高めることができるため、複合化高分子材料における上記金属酸化物微粒子の分散性を向上させることができる。
【0032】
また、本発明の複合化高分子材料では、上記金属酸化物微粒子がTi、Zr、Tl、Y、Nb、In、Bi、La、Sb、Sc、Pb、およびTaからなる群より選ばれる少なくとも一種の金属の酸化物を含むことが好ましい。
【0033】
上記金属からなる群より選ばれる少なくとも一種の金属の酸化物は屈折率が高く、屈折率が2.0以上である金属酸化物微粒子を容易に調製することができるという利点がある。
【0034】
また、本発明の複合化高分子材料では、上記金属酸化物微粒子が、一般式(3)
TiO2+x・・・(3)
(式中、MはCa、Sr、またはBaを表し、xは0.1〜1.1の数である)
で表される金属酸化物微粒子であることが好ましい。
【0035】
上記金属酸化物は、屈折率が高く、屈折率が2.0以上である、金属酸化物微粒子を容易に調製することができるとともに、得られた複合化高分子材料は高い誘電率を有することとなる。そのため、複合化高分子材料を、軽量で小型の高屈折レンズ、または薄膜コンデンサーとして好適に用いることができる。
【0036】
また、本発明の複合化高分子材料では、上記金属酸化物微粒子の含有率が、5重量%以上90重量%未満であることが好ましい。
【0037】
これにより、複合化高分子材料が有する屈折率を、高分子マトリックスの屈折率よりも0.005以上、容易に向上させることができ、複合化高分子材料の成形加工が容易になる。
【0038】
また、本発明の光学材料は、上記課題を解決するために、上記複合化高分子材料を含むことを特徴としている。
【0039】
本発明によれば、上記光学材料が上記複合化高分子材料を含むことにより、成形が容易であり、高屈折率である光学材料を提供することができる。また、上記光学材料の製造に際し、所望の屈折率を有する光学材料を容易に製造することができる。
【発明の効果】
【0040】
本発明の複合化高分子材料は、以上のように、芳香族ポリカーボネート、芳香族ポリエステル、芳香族ポリエーテル、またはそれらの共重合体を主成分として含む高分子マトリックス中に、金属酸化物微粒子が分散されてなる複合化高分子材料であって、上記金属酸化物微粒子の一次粒子の平均粒子径は1nm以上30nm未満であり、かつ、金属酸化物微粒子を構成する金属酸化物の屈折率は2.0以上であり、上記高分子マトリックスの屈折率よりも、0.005以上高い屈折率を有するものである。
【0041】
それゆえ、射出成形等の汎用的かつ多様な成形方法を目的に応じて選択することが可能であり、成形加工性が高まるので、より広い用途に用いることができるという効果を奏する。また、高い透明性および屈折率を必要とする製品に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0042】
本発明の一実施形態について説明すると以下の通りである。本実施の形態に係る複合化高分子材料は、芳香族ポリカーボネート、芳香族ポリエステル、芳香族ポリエーテル、またはそれらの共重合体を主成分として含む高分子マトリックス中に、金属酸化物微粒子が分散されてなる複合化高分子材料である。以下、詳細に説明する。
【0043】
<金属酸化物微粒子>
本実施の形態に係る複合化高分子材料に含まれる金属酸化物微粒子は、一次粒子の平均粒子径(以下、適宜「平均粒子径」と記す)が、1nm以上30nm未満かつ金属酸化物微粒子を構成する金属酸化物の屈折率が2.0以上の金属酸化物微粒子である。
【0044】
得られる複合化高分子材料の屈折率向上効果は、上記金属酸化物の屈折率と関係する。上記金属酸化物の屈折率が2.0以上であれば、得られる複合化高分子材料の屈折率を大きく向上させることができ、高い透明性および優れた成形加工性を維持したままで、所望の屈折率を有する複合化高分子材料を得ることができる。
【0045】
しかしながら、上記金属酸化物の屈折率が2.0未満である場合には、上記複合化高分子材料の屈折率向上効果が小さく、高い透明性および優れた成形加工性を維持したままで、所望の屈折率を有する複合化高分子材料を得ることは困難となる。上記金属酸化物の屈折率は、大きければ大きいほど好ましいが、屈折率の上限が2.8であれば、材料の入手が容易であるためより好ましい。
【0046】
このような屈折率を有する金属酸化物の具体例としては、Ti、Zr、Tl、Y、Nb、In、Bi、La、Sb、Sc、Pb、およびTa等の金属の酸化物、あるいは、これら金属からなる群より選ばれる少なくとも一種の金属を含む金属の酸化物が挙げられる。
【0047】
上記例示の金属からなる群より選ばれる少なくとも一種の金属の酸化物を含む金属酸化物は屈折率が2.0以上であり、容易に入手することができる。
【0048】
また、上記金属酸化物微粒子の表面が上記以外の金属酸化物で覆われた、いわゆるコアシェル型の構造を有する微粒子であってもよい。すなわち、上記金属酸化物微粒子の形態は特に限定されるものではなく、上記金属酸化物微粒子は、どのような形態を有するものであってもよい。
【0049】
上記の金属酸化物の屈折率が2.0以上であれば、金属酸化物微粒子が結晶性であるか非結晶性であるかに拘らず、好適に用いることができる。
【0050】
上記金属酸化物の中でも、TiOおよびZrOが、屈折率が2.5および2.2と高く、入手が容易であることから好ましい。
【0051】
また、上記金属酸化物微粒子は、上記の金属原子と上記以外のアルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子、Si、またはAlなどの原子からなる複合酸化物微粒子であってもよい。その中でも、金属酸化物の屈折率が高く、また、高分子マトリックスへの分散性に優れるとともに、高い誘電率を有する複合化高分子材料を得ることができることから、以下に示す一般式(3)
TiO2+x・・・(3)
(式中、MはCa、Sr、またはBaを表し、xは0.1〜1.1の数である)
で表される金属酸化物微粒子が好ましい。
【0052】
上記一般式(3)で表される金属酸化物微粒子としては、具体的には、BaTiO、CaTiO、SrTiOなどを挙げることができる。そのなかでも、BaTiOは高い誘電率を有し、金属酸化物の屈折率が2.4と高いため特に好ましい。BaTiOを含む複合化高分子材料は、軽量で小型の高屈折レンズ、または薄膜コンデンサーとして好適に用いることができる。
【0053】
これら金属酸化物微粒子は、一種類のみを用いてもよく、適宜、二種類以上を混合して用いてもよい。
【0054】
また、上記したように、金属酸化物微粒子の一次粒子の平均粒子径は、1nm以上30nm未満である。上記金属酸化物微粒子は、高分子マトリックスおよび有機溶媒に対する分散性が高く、また、可視光の波長よりも十分小さいことから、このような金属酸化物微粒子を高分子マトリックスに均一に分散させることによって、透明性の高い複合化高分子材料を得ることができる。透明性は複合化高分子材料の全光線透過率を測定することによって判別することができ、全光線透過率が高い値を示す場合、透明性は高いと判断できる。また、上記平均粒子径が1nm以上20nm未満であれば、複合化高分子材料の透明性が向上するのでさらに好ましい。
【0055】
上記平均粒子径が1nmよりも小さい場合には、複合化高分子材料を製造する際に、高分子マトリックスの粘度が増大する等の問題が生じる虞がある。また、そのような、微細な金属酸化物微粒子を製造することは現状では困難であり、高い製造コストが必要となる。一方、上記平均粒子径が30nmを超える場合には、金属酸化物微粒子自体の直径が大きいため、複合化高分子材料の透明性が低下する虞がある。
【0056】
上記金属酸化物微粒子は、水熱合成法、ゾル−ゲル法などの公知の製造方法を用いて製造することができる。そのなかでも、特に、特許文献4または非特許文献1に記載された、超臨界または亜臨界状態の水中において、水熱反応によって製造する方法が好ましい。高温、高圧の超臨界または亜臨界状態では、水は非極性のガス状となり、低誘電率の反応場となり、金属酸化物の生成速度が著しく大きくなるとともに、溶存するイオン濃度が極めて低くなることから、2次核発生や過度の結晶成長が生じ難く、生成する粒子径も小さくなる。
【0057】
上記方法により製造された金属酸化物微粒子はその内部に欠陥および不純物(不純構造)を含みにくく、粒子径の分布が狭いため、高分子マトリックスに均一に分散させることができる。
【0058】
上記方法は、原料となる金属塩の水溶液を、流通式反応装置に導入し、高温、高圧の超臨界または亜臨界状態として一定時間反応させた後、反応液を回収することにより行われる。
【0059】
上記金属酸化物微粒子は、表面修飾剤によって表面修飾されていることが好ましい。これにより、上記金属酸化物微粒子の疎水性を高めることができるため、高分子マトリックスに好適に分散させることができる。
【0060】
上記表面修飾剤としては、具体的には、リンを含む表面修飾剤、ケイ素を含む表面修飾剤が挙げられる。
【0061】
リンを含む表面修飾剤としては、一般式(1)
【0062】
【化3】

【0063】
(式中、R、RおよびRは、それぞれ独立して、水素原子、水酸基、ハロゲン原子、ヘテロ原子を含む置換基が導入されていてもよい炭素数1〜30の炭化水素基、またはヘテロ原子を含む置換基が導入されていてもよい炭素数1〜30のオキシ炭化水素基を表し、yは0または1である)
で示されるリン化合物およびその塩からなる群より選ばれる少なくとも一種の化合物(以下、「リン化合物(塩)」と記す)を用いることができる。これらは単独で用いてもよいし二種類以上を混合して用いてもよい。
【0064】
炭化水素基としては、無置換であってもよく、ヘテロ原子を含む置換基が導入されていてもよい。また、飽和炭化水素基であっても不飽和炭化水素基であっても、鎖式炭化水素基であっても環式炭化水素基であっても構わない。上記炭化水素基としては、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、デシル基、ドデシル基、オクタデシル基、2−エチルヘキシル基、シクロヘキシル基、シクロヘキシルメチル基、シクロヘキシルエチル基、ベンジル基、フェネチル基、2−メトキシエチル基、2−エトキシエチル基、2−ブトキシエチル基、フェニル基、トルイル基、4−ノニルフェニル基、ビフェニル基、ナフチル基、ビニル基、3−クロロプロピル基、3−アミノプロピル基、3−メルカプトプロピル基、3−グリシジルオキシプロピル基、等が挙げられる。なかでもオクタデシル基、2−エチルヘキシル基、およびシクロヘキシルメチル基が特に好適に用いられる。
【0065】
また、オキシ炭化水素基も上記炭化水素基同様、無置換であってもよく、ヘテロ原子を含む置換基が導入されていてもよく、飽和していても不飽和でも、鎖式であっても環式であっても構わない。上記オキシ炭化水素基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、ヘプチルオキシ基、オクチルオキシ基、デシルオキシ基、ドデシルオキシ基、オクタデシルオキシ基、2−エチルヘキシルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基、シクロヘキシルメトキシ基、シクロヘキシルエトキシ基、ベンジルオキシ基、フェネチルオキシ基、2−メトキシエトキシ基、2−エトキシエトキシ基、2−ブトキシエトキシ基、2−(2−メトキシ)エトキシエトキシ基、2,2,2−トリフルオロエトキシ基、フェノキシ基、クレジル基、4−ノニルフェノキシ基、クロロフェノキシ基、ビフェニルオキシ基、等を挙げることができる。好ましくは2−エチルヘキシルオキシ基およびシクロヘキシルメトキシ基を挙げることができる。
【0066】
上記リン化合物(塩)として、さらに好ましくは、R、RおよびRのうち1つまたは2つが水酸基であり、かつ少なくとも1つがヘテロ原子を含む置換基が導入されていてもよい炭素数1〜30オキシ炭化水素基であり、かつyが1であるリン酸モノエステル、リン酸ジエステル、ホスホン酸モノエステルおよびそれらの塩である。
【0067】
上記リン酸モノエステルまたはその塩として具体的には、リン酸モノメチルエステル、リン酸モノエチルエステル、リン酸モノ−n−プロピルエステル、リン酸モノ−i−プロピルエステル、リン酸モノ−n−ブチルエステル、リン酸モノ−i−ブチルエステル、リン酸モノ−t−ブチルエステル、リン酸モノペンチルエステル、リン酸モノヘキシルエステル、リン酸モノヘプチルエステル、リン酸モノオクチルエステル、リン酸モノデシルエステル、リン酸モノドデシルエステル、リン酸モノオクタデシルエステル、リン酸モノオレイルエステル、リン酸モノシクロヘキシルエステル、リン酸モノ(シクロヘキシルエチル)エステル、リン酸モノベンジルエステル、リン酸モノフェネチルエステル、リン酸モノ(2−メトキシエチル)エステル、リン酸モノ(2−(2−メトキシエトキシ)エチル)エステル、リン酸モノ(2,2,2−トリフルオロエチル)エステル、リン酸モノフェニルエステル、リン酸モノクレジルエステル、リン酸モノ(4−ノニルフェニル)エステル、リン酸モノビフェニルエステル、リン酸モノ(クロロフェニル)エステルおよびそれらの塩を挙げることができる。
【0068】
また、リン酸モノ(n−ドデシル)エステル、リン酸モノ(2−エチルヘキシル)エステル、リン酸モノ(シクロヘキシルメチル)エステル、リン酸モノ−sec−ブチルエステルおよびそれらの塩を特に好ましく用いることができる。
【0069】
上記リン酸ジエステルとして具体的には、リン酸ジメチルエステル、リン酸ジエチルエステル、リン酸ジ−n−プロピルエステル、リン酸ジ−i−プロピルエステル、リン酸ジ−n−ブチルエステル、リン酸ジ−i−ブチルエステル、リン酸ジ−sec−ブチルエステル、リン酸ジ−t−ブチルエステル、リン酸ジペンチルエステル、リン酸ジヘキシルエステル、リン酸ジヘプチルエステル、リン酸ジオクチルエステル、リン酸ジデシルエステル、リン酸ジドデシルエステル、リン酸ジオクタデシルエステル、リン酸ジシクロヘキシルエステル、リン酸ジ(シクロヘキシルメチル)エステル、リン酸ジ(シクロヘキシルエチル)エステル、リン酸ジベンジルエステル、リン酸ジフェネチルエステル、リン酸ジ(2−メトキシエチル)エステル、リン酸ジ(2−(2−メトキシエトキシ)エチル)エステル、リン酸ジ(2,2,2−トリフルオロエチル)エステル、リン酸ジフェニルエステル、リン酸ジクレジルエステル、リン酸ジ(4−ノニルフェニル)エステル、リン酸ジビフェニルエステル、リン酸ジ(クロロフェニル)エステル等およびそれらの塩を用いることができる。
【0070】
上記ホスホン酸モノエステルおよびその塩として具体的には、メチルホスホン酸、エチルホスホン酸、プロピルホスホン酸、ブチルホスホン酸、ペンチルホスホン酸、ヘキシルホスホン酸、ヘプチルホスホン酸、オクチルホスホン酸、デシルホスホン酸、ドデシルホスホン酸、オクタデシルホスホン酸、2−エチルヘキシルホスホン酸、シクロヘキシルメチルホスホン酸、シクロヘキシルエチルホスホン酸、ベンジルホスホン酸、フェニルホスホン酸、等のモノエステル体およびそれらの塩を用いることができる。
【0071】
ケイ素を含む表面修飾剤としては、一般式(2)
【0072】
【化4】

【0073】
(式中、R、R、RおよびRはそれぞれ独立して、水素原子、水酸基、ハロゲン原子、ヘテロ原子を含む置換基が導入されていてもよい炭素数1〜30の炭化水素基、またはヘテロ原子を含む置換基が導入されていてもよい炭素数1〜30のオキシ炭化水素基を表す)
で示されるケイ素化合物およびその塩からなる群より選ばれる少なくとも一種の化合物(以下、「ケイ素化合物(塩)」と記す)を用いることができる。また、R、R、RおよびRのうち少なくとも1つが炭素数1〜30のオキシ炭化水素基であり、かつ残りの基がすべて炭素数1〜30の炭化水素基であるアルコキシシラン化合物を好ましく用いることができる。
【0074】
炭化水素基としては、無置換であってもよく、ヘテロ原子を含む置換基が導入されていてもよい。また、飽和炭化水素基であっても不飽和炭化水素基であっても、鎖式炭化水素基であっても環式炭化水素基であっても構わない。上記炭化水素基としては、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、デシル基、ドデシル基、オクタデシル基、2−エチルヘキシル基、シクロヘキシル基、ベンジル基、フェネチル基、2−メトキシエチル基、2−エトキシエチル基、2−ブトキシエチル基、フェニル基、トルイル基、4−ノニルフェニル基、ビフェニル基、ナフチル基、ビニル基、3−クロロプロピル基、3−アミノプロピル基、3−メルカプトプロピル基、3−グリシジルオキシプロピル基、等が挙げられる。なかでもオクタデシル基炭化水素基であることが好ましい。
【0075】
また、オキシ炭化水素基も上記炭化水素基同様、無置換であってもよく、ヘテロ原子を含む置換基が導入されていてもよく、飽和していても不飽和でも、鎖式であっても環式であっても構わない。上記オキシ炭化水素基として具体的には、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基等を挙げることができる。
【0076】
上記表面修飾剤は、単独で用いてもよいし2種以上を混合して用いてもよい。
【0077】
上記のリン化合物、ケイ素化合物、これらの塩によって金属酸化物微粒子を表面修飾する方法としては、特に制限されるものでなく公知の方法を用いることができる。たとえば、リン化合物、ケイ素化合物またはこれらの塩のうち少なくとも1種類と金属酸化物微粒子とを、溶媒を用いて接触させる方法を好ましく用いることができる。なお、1種以上のリン化合物(塩)と1種以上のケイ素化合物(塩)とによる表面修飾を併用することも可能である。
【0078】
<高分子マトリックス>
高分子マトリックスは芳香族ポリカーボネート、芳香族ポリエステル、芳香族ポリエーテル、またはそれらの共重合体を主成分として含んでおり、複合化高分子材料の基体となるものである。
【0079】
芳香族ポリカーボネートとしては、2価の芳香族フェノールとホスゲン、ジフェニルカーボネートなどのカーボネート結合生成性の化合物とを反応させることにより得られる、芳香族ポリカーボネートは、耐熱性が高く透明性に優れるため好ましく用いられる。
【0080】
2価の芳香族フェノールとして、具体的には、ハイドロキノン、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジフェニルビフェニル、4,4’’’−ジヒドロキシクォターフェニル、1,5−ジヒドロキシナフタレン、2,7−ジヒドロキシナフタレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレンなどの芳香族ジオール類、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−t−ブチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシブロモフェニル)プロパンなどのビス(ヒドロキシアリール)アルカン類、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサンなどのビス(ヒドロキシアリール)シクロアルカン類、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルフェニルエーテルなどのジヒドロキシアリールエーテル類、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルフィド、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルフェニルスルフィドなどのジヒドロキシアリールスルフィド類、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホキシド、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルフェニルスルホキシドなどのジヒドロキシアリールスルホキシド類、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルフェニルスルホンなどのジヒドロキシアリールスルホン類などが挙げられる。
【0081】
これらのうちでは特に2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノール−A)が製造することが容易であり、耐熱性や成形加工性、透明性に優れるため好ましく用いられる。これらの芳香族ジヒドロキシ化合物は単独または組み合わせて用いることができる。
【0082】
芳香族ポリエステルは、上記の2価の芳香族フェノールと2価の芳香族ジカルボン酸、芳香族カルボン酸エステル、または芳香族カルボン酸ハライドなどのエステル結合生成性の化合物とを反応させることにより得られる。2価の芳香族ジカルボン酸、芳香族カルボン酸エステル、または芳香族カルボン酸ハライドとしては、具体的にはテレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、およびそれらのエステル、ハロゲン化物が挙げられる。中でもビスフェノール−Aと、テレフタル酸10〜90モル%とイソフタル酸90〜10モル%の混合物をからなる、いわゆるポリアリレートが、耐熱性や成形加工性、溶解性、透明性に優れるため好ましく用いられる。
【0083】
芳香族ポリエーテルとしては、1価の芳香族フェノールを酸化重合して得られる、ポリフェニレンエーテルが用いられる。1価の芳香族フェノールとしては、具体的には、フェノール、2−メチルフェノール、2−エチルフェノール、2−プロピルフェノール、2,6−ジメチルフェノール、2,5−ジメチルフェノール、2,3,6−トリメチルフェノール、2−フェニルフェノール、2,6−ジフェニルフェノール、サリチル酸、サリチル酸メチル、サリチル酸エチル、2−ヒドロキシ−3−メチル安息香酸、2−ヒドロキシ−3−メチル安息香酸メチル、2−ヒドロキシ−3−メチル安息香酸エチルなどが挙げられる。
【0084】
さらに、芳香族ポリエーテルとしては、上記の2価の芳香族フェノールと2価の芳香族ハロゲン化物とを反応させることにより得られる芳香族ポリエーテルが用いられる。
【0085】
2価の芳香族ハロゲン化物として、具体的には、p−ジハロベンゼン、m−ジハロベンゼン、4,4’−ジハロビフェニル、4,4’−ジハロベンゾフェノン、4,4’−ジハロジフェニルスルホン、2,6−ジハロベンゾニトリルなどが挙げられる。
【0086】
これらの中でも、ビスフェノール−Aと4,4’−ジハロベンゾフェノンからなる、いわゆるポリアリーレンエーテルケトンや、ビスフェノール−Aと4,4’−ジハロジフェニルスルホンからなる、いわゆるポリスルホンが耐熱性や成形加工性、溶解性、透明性に優れるため好ましく用いられる。
【0087】
さらに、芳香族ポリカーボネート、芳香族ポリエステル、および芳香族ポリエーテルの中から選ばれる2種または3種の骨格を部分構造として構成される、ブロック共重合体を用いることも可能である。このようなブロック共重合体は単一ポリマーの欠点を改良することなどを目的としてこれまでに種々の検討がなされており、それらの公知のブロック共重合体を本発明の目的に反しない限り用いることができる。
【0088】
また、芳香族ポリカーボネート、芳香族ポリエステル、芳香族ポリエーテル、またはそれらの共重合体を「主成分として含む」とは、複合化高分子材料全体の重量に対し、複合化高分子材料中の高分子マトリックス全体の重量に対し、60重量%以上の割合で含んでいることを示す。
【0089】
また、芳香族ポリカーボネート、芳香族ポリエステル、芳香族ポリエーテル、またはそれらの共重合体を構成する芳香環には、酸性基が導入されていてもよい。酸性基としては、スルホン酸基、ホスホン酸基、カルボン酸基などを例示することができる。スルホン酸基またはホスホン酸基であれば、金属酸化物微粒子の分散性がさらに向上するためより好ましい。上記酸性基は、酸型、アルカリ金属あるいはアルカリ土類金属などの金属塩型、またはアンモニウム塩型やホスホニウム塩型などの種々の状態であってもよく、いずれの状態であっても好適に用いることができる。
【0090】
酸性基を有する芳香族ポリカーボネート、芳香族ポリエステル、芳香族ポリエーテル、またはそれらの共重合体を合成する方法としては、酸性基を有するモノマーを用いて(共)重合を行う方法や、高分子反応を用いて上記酸性基を導入する方法等を用いることができる。
【0091】
たとえば、スルホン酸基を導入する方法としては、ポリマーを溶媒中あるいは無溶媒で、硫酸やクロロスルホン酸等のスルホン化剤と接触させる方法や、ハイドロキノンスルホン酸、スルホフタル酸などの化合物をモノマーの一成分として用いて共重合を行う方法、などを挙げることができる。
【0092】
また、ホスホン酸基を導入する方法としては、ポリマーを適当なハロゲン化剤またはハロアルキル化剤と反応させてハロゲンまたはハロメチル基を導入した後、亜リン酸化合物と反応させてホスホン酸基へ変換する方法などが挙げられる。
【0093】
酸性基当量重量(EW)で表される酸性基の導入量は、酸性基の導入による物性変化を抑制するため、1,000g以上であることが好ましい。また、酸性基の導入量が、2,000g以上、200,000g以下の範囲であればさらに好ましい。
【0094】
上記酸性基を有する芳香族ポリカーボネート、芳香族ポリエステル、芳香族ポリエーテル、またはそれらの共重合体と、酸性基を有しない芳香族ポリカーボネート、芳香族ポリエステル、芳香族ポリエーテル、またはそれらの共重合体とを本発明の目的に反しない範囲でブレンドして用いることもできる。
【0095】
上記芳香族ポリカーボネート、芳香族ポリエステル、芳香族ポリエーテル、またはそれらの共重合体の重量平均分子量としては、1,000以上500,000以下であることが好ましく、5,000以上200,000以下がより好ましい。分子量が1,000未満では、複合化高分子材料の成形体の強度が低下する虞があり、分子量が500,000を超えると、複合化高分子材料の粘度が高くなり成形に困難を生ずる虞がある。芳香族ポリカーボネート、芳香族ポリエステル、芳香族ポリエーテル、またはそれらの共重合体は、耐熱性や成形加工性、透明性に優れるため光学材料等の用途に特に好適である。これにより、芳香族ポリカーボネート、芳香族ポリエステル、芳香族ポリエーテル、またはそれらの共重合体を主成分とする高分子マトリックスから構成される複合化高分子材料を、フィルム、薄膜、シート、板、レンズなどの所望の形状に成形するために、従来から用いられている方法、たとえば、溶媒キャスト、溶融押し出し、溶融プレス、および射出成形などを用いることができる。
【0096】
また、高分子マトリックスには、難燃剤、安定剤、可塑剤、界面活性剤などの添加剤を本発明の目的に反しない範囲で使用することも可能である。
【0097】
<複合化高分子材料>
本実施の形態に係る複合化高分子材料は、上記高分子マトリックス中に、上記金属酸化物微粒子を分散させることによって得ることができる。本実施の形態に係る複合化高分子材料の屈折率は、高分子マトリックスの屈折率よりも0.005以上高い値である。複合化高分子材料の屈折率が上記の値であることで、光学材料として好ましく用いることができる。
【0098】
上記複合化高分子材料の屈折率は、高分子マトリックスの屈折率よりも高ければ高いほど好ましい。そして、複合化高分子材料における金属酸化物微粒子の含有率が高いほど、得られる複合化高分子材料の屈折率を向上させることができる。
【0099】
前記したように、本実施の形態にかかる上記金属酸化物微粒子は、上記高分子マトリックスに対する分散性に優れ、上記高分子マトリックスに均一分散させることができるとともに、屈折率向上効果に優れている。したがって、本実施の形態によれば、上記複合化高分子材料における上記金属酸化物微粒子の含有率を変えることにより、得られる複合化高分子材料の屈折率を、所望の値に容易に調整することができる。
【0100】
本実施の形態において、上記複合化高分子材料における金属酸化物微粒子の含有率は、5重量%以上であることが好ましい。上記含有率が5重量%以上であれば、得られる複合化高分子材料の屈折率を、高分子マトリックスの屈折率よりも0.005以上、容易に向上させることができ、実質的な効果が生じる。上記含有率が5%未満である場合には、屈折率の向上効果が小さくなる。また、上記含有率が90重量%以上である場合には、得られる複合化高分子材料の成形加工が困難になる虞がある。そのため、上記含有率の好ましい範囲としては、5%重量以上90重量%未満の範囲内であり、5重量%以上70重量%以下の範囲内であることがより好ましい。
【0101】
なお、高分子マトリックス中における金属酸化物微粒子の分散性は、複合化高分子材料の全光線透過率を測定することによって評価することができ、その全光線透過率は高いほど好ましい。たとえば、複合化高分子材料を光学材料として用いる場合、全光線透過率は70%以上であることが好ましく、全光線透過率が80%以上であることがさらに好ましい。
【0102】
<複合化高分子材料の製造方法>
次に、本実施の形態に係る複合化高分子材料の製造方法について説明する。まず、上記複合化高分子材料の製造方法において金属酸化物微粒子は、超臨界または亜臨界状態の水中において、水熱反応によって製造される。特に、温度350−450℃、圧力20−40MPaの範囲で反応させることが金属酸化物の生成速度が著しく大きくなり好ましい。
【0103】
上記方法は、原料となる金属塩の水溶液を、流通式反応装置に導入し、高温、高圧の超臨界または亜臨界状態として一定時間反応させた後、反応液を回収することにより行われる。得られる金属酸化物微粒子の状態は水性ゾルまたは水性スラリーの状態である。
【0104】
得られた金属酸化物微粒子は、リン化合物(塩)またはシリコン化合物(塩)である修飾剤を用いて表面修飾を行うことが好ましい。表面修飾反応は、無溶媒でも可能であるが、金属酸化物微粒子を分散させた溶媒中に上記修飾剤を添加し、撹拌または超音波処理を行う方法を用いることが好ましい。
【0105】
溶媒としては、修飾剤による金属酸化物微粒子の表面修飾を阻害しなければ特に限定されるものではなく、水または各種の有機溶媒を用いることができる。表面修飾剤の作用効率を向上させるためには、表面修飾前の金属酸化物微粒子の分散性が高い溶媒を用いることが好ましい。これにより、効率良く表面修飾できる。
【0106】
金属酸化物微粒子が水性ゾルとして得られる場合、水性ゾルに直接適切な修飾剤を添加して反応させることも可能である。
【0107】
有機溶媒中で修飾反応を行う場合は、金属酸化物微粒子が分散された水性ゾルまたは水性スラリーに有機溶媒を混合して濃縮を繰り返す溶媒置換法や、水性スラリーを遠心分離して沈降させ、有機溶媒を加えて撹拌または超音波照射を行い有機溶媒中に分散させる方法を用いることができる。
【0108】
表面修飾された金属酸化物微粒子を芳香族ポリカーボネート、芳香族ポリエステル、芳香族ポリエーテル、またはそれらの共重合体中に分散させる方法は特に制限はなく、例えば、乾燥して溶媒を除去した金属酸化物微粒子をポリマーと混合した後、加熱して溶融状態として、撹拌または混練することにより複合化高分子材料を製造することも可能である。しかしながら、金属酸化物微粒子を一旦乾燥させると、金属酸化物微粒子の凝集が強固になる。これにより、金属酸化物微粒子がポリマー中において分散し難くなる虞が生じる。
【0109】
表面修飾された金属酸化物微粒子を、ポリマーを溶解可能な有機溶媒中に分散させて、そこにポリマーを溶解させて均一溶液とした後、乾燥により溶媒を除去する方法、あるいはポリマーの溶解性が低い貧溶媒を加えて析出させる方法により本発明の複合化高分子材料製造することが、金属酸化物微粒子の分散性に優れた複合化高分子材料を製造することができるので好ましい。
【0110】
芳香族ポリカーボネート、芳香族ポリエステル、芳香族ポリエーテル、またはそれらの共重合体は溶剤溶解性を有することが望ましく、そのような有機溶媒としては、具体的には、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン、テトラヒドロフラン、1,3−ジオキソラン、1,4−ジオキサン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド、トルエン、キシレン、クロロベンゼン、o−ジクロロベンゼン等が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いることもできる。また、ポリマー溶液の安定性の向上や複合化高分子材料の特性改良の目的で、上記以外の有機溶媒を本発明の目的に反しない範囲で用いることもできる。
【0111】
表面修飾された金属酸化物微粒子を上記の有機溶媒中に分散させる場合においても、金属酸化物微粒子を一旦乾燥させると、金属酸化物微粒子の凝集が強固になることから、金属酸化物微粒子が有機溶媒において分散し難くなる虞が生じる。したがって、上記水熱反応後の金属酸化物微粒子は、乾燥状態を経由させることなく芳香族ポリカーボネート、芳香族ポリエステル、芳香族ポリエーテル、またはそれらの共重合体を溶解可能な有機溶媒に分散させることが望ましい。
【0112】
表面修飾された金属酸化物微粒子の分散液に、上記の芳香族ポリカーボネート、芳香族ポリエステル、芳香族ポリエーテル、またはそれらの共重合体を溶解可能な有機溶媒を混合して濃縮を繰り返す溶媒置換法、または、表面修飾された金属酸化物微粒子を遠心分離した後、有機溶媒と混合して撹拌または超音波照射を繰り返す方法によって乾燥状態を経由せずに。表面修飾された金属酸化物微粒子を芳香族ポリカーボネート、芳香族ポリエステル、芳香族ポリエーテル、またはそれらの共重合体が溶解可能な有機溶媒中に分散させることが可能になる。
【0113】
上記の製造方法により、芳香族ポリカーボネート、芳香族ポリエステル、芳香族ポリエーテル、またはそれらの共重合体が溶解可能な有機溶媒中に金属酸化物微粒子を均一に分散させることができ、さらに、有機溶媒中に芳香族ポリカーボネート、芳香族ポリエステル、芳香族ポリエーテル、またはそれらの共重合体を溶解させた後、均一溶液にすることができる。その後、上記の溶液を、乾燥によって溶媒を除去するか、または、上記溶液の溶解性が低い貧溶媒を加えて、溶質を析出させることにより本発明の複合化高分子材料を製造することが可能である。
【0114】
<オルガノゾル>
オルガノゾルとは、上記金属酸化物微粒子を有機溶媒中に分散させたものである。金属酸化物微粒子をオルガノゾルを経由して、高分子マトリックスに分散させることによって、金属酸化物微粒子をより分散させることができ、また得られる複合化高分子材料の透明性および屈折率を向上させることができる。
【0115】
上記複合化高分子材料を製造する方法において、金属酸化物微粒子を有機溶媒に分散させた分散液を遠心分離した後に、沈降物を除くことによって、オルガノゾルを得ることができる。オルガノゾルには沈降していない微細な金属酸化物微粒子が多数含まれているため、オルガノゾルを用いて複合化高分子材料を製造した場合、金属酸化物微粒子を複合化高分子材料に非常に効率よく分散させることができる。したがって、高い透明性および屈折率を有する複合化高分子材料を得ることができる。
【0116】
上記オルガノゾルを用いて複合化高分子材料を製造するためには、上記オルガノゾルと芳香族ポリカーボネート、芳香族ポリエステル、芳香族ポリエーテル、またはそれらの共重合体とを撹拌し、その後、乾燥によって溶媒を除去するか、または、貧溶媒を加えて、溶質を析出させればよい。上記方法によれば、高屈折率かつ高い透明性を有する複合化高分子材料を簡便に製造することが可能となる。
【実施例】
【0117】
以下に、実施例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0118】
以下の実施例では水熱反応で得られた金属酸化物微粒子、およびそれに表面修飾反応を行った金属酸化物微粒子について以下の分析を行った。
【0119】
<金属酸化物微粒子の平均粒子径>
透過型電子顕微鏡を用いて100個の粒子の直径を測定して平均値を求めた。
【0120】
<金属酸化物微粒子の表面修飾反応の評価>
乾燥させた金属酸化物微粒子粉末をフーリエ変換赤外吸収(FT−IR)測定装置、NEXUS 470 FT−IR(商品名、ニコレー社製)を用い、KBr法により測定した。
【0121】
また、乾燥させた金属酸化物微粒子粉末を、大気中、10℃/minの速度で昇温し、800℃まで加熱したときの重量減少を測定した。測定装置としては、熱重量−示差熱(TG−DTA)測定装置、Thermo plus TG 8120 (商品名、リガク社製)を用いた。
【0122】
また、以下の製造例では高分子マトリックスとして用いられる各種ポリマー、およびそれらに酸性基を導入したポリマーを合成し評価を行った。その方法を以下に示す。
【0123】
<ポリマーの重量平均分子量>
ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)測定装置、HLC−8220GPC(商品名、東ソー社製)を用い、クロロホルムを展開溶媒として標準ポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)を測定した。
【0124】
<酸性基が導入されたポリマーの当量重量>
MESA500蛍光X線分析装置(商品名、堀場製作所製)を用い、スルホン酸基(−SOH)またはホスホン酸基(−PO)が導入されたポリマー中の硫黄原子またはリン原子の重量濃度を測定し、下記式により当量重量(EW)を求めた。なお、スルホン酸基が導入されたポリスルホンについては、スルホン酸カリウム塩型(−SOK)に変換し、検出されたカリウム原子の重量濃度から当量重量を求めた。
【0125】
EW =100×(S,P,Kの原子量)/(S,P,Kの重量%)
また、以下の実施例では、得られた複合化高分子材料のフィルムを作成して各種の分析・評価を行った。その方法を以下に示す。
【0126】
<複合化高分子材料フィルムの作成方法>
複合化高分子材料を10−25重量%の濃度でジクロロメタンに溶解させた。バーコーターを用いて、この溶液をガラス板上に300−400μmの厚さになるように流延し、室温で1時間静置した。その後、フィルムを剥離して室温で3時間乾燥し、さらに40℃で1時間真空乾燥することによって、40−100μmの厚さのフィルムを作成した。
【0127】
<複合化高分子材料の屈折率>
JIS K 7142に準拠し測定を行った。接触液としては、硫黄ヨウ化メチレンを用い、DR−M4多波長アッベ屈折計(商品名、アタゴ社製)を用いて、波長589nmの屈折率を測定した。
【0128】
<複合化高分子材料の全光線透過率およびヘイズ>
JIS K 7361に準拠し測定を行った。濁度計としては、NDH2000濁度計(商品名、日本電色工業社製)を用いた。
【0129】
<金属酸化物微粒子含有率>
上記のTG−DTA装置を用いて、大気中、得られた複合化高分子材料を10℃/minの割合で昇温し、800℃まで加熱した後に、残存する重量から求めた。これは表面修飾剤に由来する有機成分を除いた金属酸化物微粒子の含有率である。
【0130】
<金属酸化物微粒子の表面修飾反応の評価>
上記の蛍光X線分析装置を用い、複合化高分子材料中における表面修飾剤に由来するリン(P)またはケイ素(Si)原子濃度を測定した。
【0131】
〔製造例1〕
流通式反応装置を用いて、チタニアゾル(石原産業製、品番STS100)をTi濃度0.05Mに希釈した水溶液を流量8ml/minで送液した。同時に超臨界水を流量44ml/minで送液して混合し、反応温度400℃、反応圧力30MPa、滞在時間7.8ミリ秒の条件で水熱合成を行った。その結果、TiO微粒子の水性ゾルを製造した。
【0132】
上記の水性ゾルを乾固して残存するTiO微粒子の濃度を求めたところ0.05w/v%であった。乾燥したTiO微粒子粉末のX線回折パターンは、屈折率2.5のアナタース型TiOに一致した。また、得られたTiO微粒子の平均粒子径を測定した結果、7nmであった。
【0133】
同様にして硝酸ジルコニウム水溶液を原料溶液に用いて、平均粒子径が5nmで0.2w/v%濃度のZrO微粒子の水性ゾルを合成した。乾燥したZrO微粒子粉末のX線回折パターンは、屈折率2.2の正方晶ZrOに一致した。
【0134】
同様にして酸化ニオブゾル(多木化学製バイラール)を原料溶液に用いて、平均粒子径が5nmで4.0w/v%濃度のNb微粒子の水性ゾルを合成した。乾燥したNb微粒子粉末のX線回折パターンは、屈折率2.4の単斜晶Nbに一致した。
【0135】
〔製造例2〕
流通式反応装置を用いて、チタニアゾル(石原産業製、品番STS100)をTi濃度0.05Mに希釈した水溶液、および0.06Mの水酸化バリウム水溶液を、それぞれ流量8ml/minで送液し、同時に超臨界水を44ml/minで送液することによって混合し、反応温度400℃、反応圧力30MPa、滞在時間7.8ミリ秒の条件で水熱合成を行った。その結果、BaTiO微粒子の水性スラリーを製造した。
【0136】
上記の水性スラリーを乾固して残存するBaTiO微粒子の濃度を求めたところ1.6w/v%であった。乾燥したBaTiO微粒子粉末のX線回折パターンは、屈折率2.4の正方晶BaTiOに一致した。また、得られたTiO微粒子の平均粒子径を測定した結果、11nmであった。
【0137】
同様にして、チタニアゾルと硝酸カルシウム水溶液を原料溶液に用いて、平均粒子径が20nmで12w/v%濃度のCaTiO微粒子の水性スラリーを製造した。乾燥したCaTiO微粒子粉末のX線回折パターンは、屈折率2.3の斜方晶CaTiOに一致した。
【0138】
〔製造例3〕
以下にBaTiO微粒子を有機溶媒中に分散させたオルガノゾルに関する製造例を示す。製造例2で製造した平均粒径11nmのBaTiO微粒子の水性スラリー12mlを遠心管に加え、遠心分離した。沈降物をアセトン8ml中に超音波分散させた後、遠心分離した。その後、沈降物をエタノール8ml中に超音波分散させた。さらにリン酸−2−エチルヘキシルエステル(モノ−、ジ−エステル混合物、以下適宜「PAEH」と略す)を0.12ml添加し、40℃で20分間、超音波処理して表面修飾反応を行った後、遠心分離した。沈降物をジクロロメタン8ml中に超音波分散した後、遠心分離により沈降物を除くことにより、BaTiO微粒子がジクロロメタン中に分散した乳白色のオルガノゾルを得た。
【0139】
得られたオルガノゾルの一部を乾固して重量を測定することにより、表面修飾されたBaTiO微粒子のオルガノゾル中の濃度を求めたところ1.7w/v%であった。また、このオルガノゾルは1ヶ月経過しても凝集沈降物を生じることはなく安定したゾル状態を保持していた。
【0140】
さらに、このオルガノゾルの乾固物について、FT−IRスペクトルを測定した結果、PAEHのアルキル基に由来するピークが検出された。また、この乾固物を大気中、800℃まで加熱した結果、15wt%の減量が観測された。
【0141】
〔製造例4〕
以下に部分スルホン化ポリカーボネートに関する製造例を示す。フラスコにポリ(ビスフェノールAカーボネート)(以下適宜「PC」と略す)(アルドリッチ社製:重量平均分子量64,000)10.0gを入れ、ジクロロメタン50mlを加えて窒素雰囲気下で撹拌し、溶解させた。この溶液を0℃に冷却した後、よく撹拌しながら、クロロスルホン酸1.0mlとジクロロメタン4mlとの混合溶液を滴下し、0℃で5時間撹拌した。その後、少量のメタノールを添加して未反応のクロロスルホン酸を分解して反応を停止させた。反応液を大量のメタノールに注いで部分スルホン化ポリカーボネート(以下SPCと記す)を析出させた。得られたSPCをミキサーで粉砕し、吸引ろ過した後、脱イオン水およびメタノールで洗浄し、室温・減圧下で15時間以上乾燥した。スルホン酸当量重量は10,300gであった。また、屈折率は1.586であった。同様の方法でクロロスルホン酸の添加量を変えることによりスルホン酸当量重量が異なるSPCを製造した。
【0142】
〔実施例1〕
フラスコに製造例1にて製造した平均粒径7nmのTiO微粒子の水性ゾル50ml(金属酸化物微粒子25mg相当)にPAEHを10μl加えて室温で30分攪拌して、表面修飾反応を行った。その後5時間静置してTiO微粒子を凝集、沈降させた。遠心分離した後に、得られた沈降物にアセトン2mlを加え、超音波分散させた後、さらに遠心分離する操作を2回繰り返した。得られた沈降物にジクロロメタン1.0mlを加え、超音波分散し、さらにPCを225mg加えてスターラーを用いて撹拌し、PCを溶解させた。この溶液を乾燥して溶媒を除去することにより、PAEHで表面修飾されたTiO微粒子をPCに分散させた複合化高分子材料を得た。
【0143】
得られた複合化高分子材料のフィルムを作製した結果、半透明でむらのないフィルムとして得られた。使用したTiOおよびポリマーの重量、その重量比率、屈折率、厚さ、全光線透過率、ヘイズの評価結果を表1に示す。
【0144】
〔比較例1〕
本比較例では、特許文献3に従って、表面が酸性基と塩基性基との両方で修飾されたTiOを用いた。以下にその製造方法を記す。
【0145】
製造例1にて製造した平均粒径7nmのTiOの水性ゾル660mlをエバポレーターで50mlに濃縮し、アセトン150mlを加えて粒子を沈降させた。この沈降させた粒子を遠心分離した後、沈降物を取り出しアセトン8mlで洗浄(超音波分散させた後遠心分離)し、さらに酢酸エチル8mlで3回洗浄した。洗浄後に得られた沈降物を、酢酸8ml中に超音波分散し、室温で60時間攪拌して酢酸処理を行った。
【0146】
この酢酸で処理した分散液0.8ml(金属酸化物微粒子33mg相当)を抜き出し、遠心分離して得た沈降物を、酢酸エチル1.0mlで3回洗浄し、n−ブタノール1.6mlに分散させて1時間超音波処理した。その後、この分散液に、さらに、トルエン1.6mlとn−ヘキシルアミン0.8mlとを加え、室温で1時間攪拌した後、遠心分離して、表面が酸性基と塩基性基との両方で修飾されたTiOを製造した。
【0147】
得られた沈降物を、メタノール1.0mlで2回洗浄した後、ジクロロメタン0.9ml中において超音波処理することによって分散し、PCを260mg加えて撹拌し、PCを溶解させた。この溶液を乾燥して溶媒を除去することにより、表面が酸性基と塩基性基との両方で修飾されたTiO微粒子をPCに分散させた複合化高分子材料を得た。
【0148】
得られた複合化高分子材料のフィルムを作製した結果、目視では分散むらは無いが不透明なフィルムが得られた。この場合には、複合化高分子材料において、TiO微粒子の分散性は非常に悪く、複合化高分子材料は非常にむらの多いものであった。したがって、屈折率は測定することができなかった。実施例1と同様に評価結果を表1に示す。
【0149】
〔実施例2〕
製造例1に従って製造した平均粒径7nmのTiO微粒子の水性ゾル1000mlにPAEH0.3mlを加えて室温で30分攪拌して、表面修飾反応を行った。その後5時間静置してTiO微粒子を凝集、沈降させた。得られた沈降物を遠心分離し、シクロペンタノン30ml中に超音波分散させた後、さらに遠心分離する操作を2回繰り返した。得られた沈降物をジクロロメタン20ml中に超音波分散した。このジクロロメタン分散液の一部を乾固して重量を測定することにより、表面修飾されたTiO微粒子のジクロロメタン分散液における濃度を求めたところ1.4w/v%であった。
【0150】
その後、ジクロロメタン分散液2.0ml(金属酸化物微粒子28mg相当)に、製造例4で製造したスルホン酸当量重量17,000gのSPCを250mg加え、撹拌してSPCを溶解させた。この溶液を乾燥して溶媒を除去することにより、PAEHで表面修飾されたTiO微粒子をSPCに分散させた複合化高分子材料を得た。
【0151】
得られた複合化高分子材料のフィルムを作製した結果、透明でむらのないフィルムが得られた。実施例1と同様に評価結果を表1に示す。
【0152】
〔実施例3,4〕
実施例2において調製した、表面修飾されたTiO微粒子を1.4w/v%濃度で分散させたジクロロメタン分散液を、表1に示した微粒子重量に相当する容量用い、表1に示した重量のSPCを用いたこと以外は、実施例2と全て同様の操作を行った。実施例1と同様に評価結果を表1に示した。
【0153】
【表1】

【0154】
表1に示すように、PAEHで表面修飾されたTiO微粒子を用いた実施例1は、酸性基と塩基性基との両方で修飾されたTiOを用いた比較例1と比較してPC中の微粒子の分散性が大きく向上していることが明らかである。
【0155】
また、酸性基を有するポリカーボネート(SPC)に分散させた実施例2では、実施例1よりもさらに複合化高分子材料の屈折率が向上する結果となった。また、実施例2〜実施例4の結果から金属酸化物微粒子含有率を増加させるに従って、得られた複合化高分子材料の屈折率は向上することが明らかになった。
【0156】
〔実施例5〕
製造例1に従って製造した平均粒子径が5nmで0.2w/v%濃度のZrO微粒子の水性ゾルを15ml(金属酸化物微粒子30mg相当)に、PAEHを10μl加えて室温で30分攪拌して、表面修飾反応を行った。その後5時間静置してZrO微粒子を凝集、沈降させた。その後、沈降物を遠心分離し、アセトンで2回洗浄した後、ジクロロメタン中に超音波分散し、PC270mgを加え、撹拌してPCを溶解させた。この溶液を乾燥して溶媒を除去することにより、PAEHで表面修飾されたZrO微粒子をPCに分散させた本発明の複合化高分子材料を得た。
【0157】
得られた複合化高分子材料のフィルムを作製した結果、透明でむらのないフィルムが得られた。用いたZrO微粒子、PAEH、ポリマーの使用量、得られた複合化高分子材料高分子材料の屈折率、厚さ、全光線透過率、ヘイズの評価結果を表2に示す。
【0158】
〔実施例6〕
ポリマーとして、240mgのPCと30mgのスルホン酸当量重量16,000gのSPCをブレンドして用いた以外は、実施例5と全て同様の操作を行った。実施例5と同様に評価結果を表2に示した。
【0159】
〔実施例7〕
ポリマーとして、227mgのPCと29mgのスルホン酸当量重量16,000gのSPCをブレンドして用い、ZrO微粒子の水性ゾルを32ml(金属酸化物微粒子64mg相当)を用い、PAEHの使用量を20μlとした以外は、実施例5と全て同様の操作を行った。実施例5と同様に評価結果を表2に示した。
【0160】
【表2】

【0161】
表2より、金属酸化物微粒子としてZrO微粒子を用いた場合にも、リン化合物で表面修飾することにより高い透過率および屈折率が得られるという結果が示された。また、実施例6および7ではPCとスルホン酸基を有するSPCとのブレンド物を用いており、実施例5と同様に、高い透過率および屈折率を有する複合化高分子材料が得られた。これはPCとSPCが相溶性を有することを示しており、分散性向上に大きな効果を示すSPCを製造が容易で安価なPCに一部ブレンドして用いることができることを示しており、実用上大変有用である。
【0162】
いずれの複合化高分子材料においても、その屈折率はポリカーボネートを含む高分子マトリックス(屈折率1.586)よりも0.005以上増加している。
【0163】
〔実施例8−10〕
ポリマーとして、表3に示した重量のスルホン酸当量重量16,000gのSPCを用い、表3に示したZrO微粒子重量に相当する容量の水性ゾルを用い、表3に示した容量のPAEHを用いた以外は、実施例5と全て同様の操作を行った。
【0164】
用いたZrO微粒子、PAEH、SPCの使用量、得られた複合化高分子材料の金属酸化物微粒子含有率、屈折率、厚さ、全光線透過率、ヘイズの評価結果を表3に示した。
【0165】
【表3】

【0166】
表2より、ZrO微粒子含有率の増加とともに、得られた複合化高分子材料の屈折率が増加することが明らかとなった。
【0167】
〔実施例11〕
製造例2に従って製造した平均粒子径11nmのBaTiO微粒子の水性スラリー2.0ml(金属酸化物微粒子32mg相当)を遠心管に入れ、遠心分離した。得られた沈降物をアセトン1.5ml中に超音波分散させた後、遠心分離し、沈降物をエタノール1.8ml中に超音波分散した後、さらに40℃で60分間超音波処理を行い遠心分離した。得られた沈降物をジクロロメタン0.9ml中に超音波分散し、製造例4で製造したスルホン酸当量重量11,200gのSPCを270mg加えて撹拌してSPCを溶解させた。この溶液を乾燥して溶媒を除去することにより、表面修飾されていないBaTiO微粒子をSPCに分散させた、本発明の複合化高分子材料を得た。
【0168】
得られた複合化高分子材料のフィルムを作製した結果、透明でむらのないフィルムが得られた。用いたBaTiO微粒子の平均粒子径、修飾剤、ポリマーの使用量、得られた複合化高分子材料の屈折率、厚さ、全光線透過率、ヘイズの評価結果を表4に示した。
【0169】
〔実施例12〕
製造例2に従って製造した平均粒径11nmのBaTiO微粒子の水性スラリー2.0ml(金属酸化物微粒子32mg相当)を遠心管に入れ、遠心分離した。得られた沈降物をアセトン1.5ml中に超音波分散させた後、遠心分離した。さらに得られた沈降物をエタノール1.8ml中に超音波分散し、40℃で20分間、超音波処理を行った。これに表面修飾剤としてPAEHを20μl添加し、さらに40℃で20分超音波処理を行った後に遠心分離した。沈降物をジクロロメタン0.9ml中に超音波分散し、製造例4で製造したスルホン酸当量重量8,300gのSPCを270mg加えて撹拌し、SPCを溶解させた。この溶液を乾燥して溶媒を除去することにより、表面修飾されていないBaTiO微粒子をSPCに分散させた、本発明の複合化高分子材料を得た。
【0170】
得られた複合化高分子材料のフィルムを作製した結果、透明でむらのないフィルムが得られた。実施例11と同様に評価結果を表4に示した。
【0171】
〔比較例2〕
本比較例は、特許文献3に従ってBaTiO微粒子の表面が酸性基と塩基性基との両方で修飾された金属酸化物微粒子を用いた。製造例2に従って製造した平均粒径11nmのチタン酸バリウム微粒子の水性スラリー2.0ml(金属酸化物微粒子32mg相当)を遠心管に入れ、遠心分離した。次に、得られた沈降物をアセトン0.8mlを用いて洗浄(超音波分散させた後遠心分離)し、続いて酢酸エチル0.8mlで3回洗浄した。得られた沈降物を酢酸0.8ml中に超音波分散し、室温で60時間攪拌した後、遠心分離した。得られた沈降物を酢酸エチル1.0mlにて3回洗浄した後に、沈降物をn−ブタノール1.6mlに分散させて1時間超音波処理した。
【0172】
さらに、超音波処理した溶液にトルエン1.6mlとn−ヘキシルアミン0.8mlとを加え、室温で1時間攪拌した後、遠心分離した。得られた沈降物をメタノール1.0mlで2回洗浄した後、ジクロロメタン0.9ml中に超音波分散し、PCを270mg加えて撹拌し、PCを溶解させた。この溶液を乾燥して溶媒を除去することにより、表面が酸性基と塩基性基との両方で修飾されたBaTiO微粒子をPCに分散させた複合化高分子材料を得た。
【0173】
得られた複合化高分子材料のフィルムを作製した結果、目視によっては分散むらを確認することはできなかったが、不透明なフィルムが得られた。実施例11と同様に評価結果を表4に示した。
【0174】
〔比較例3〕
アルドリッチ社より市販されている平均粒子径が30nmを超える50nm以下のBaTiO微粒子30mgを遠心管に入れ、ジクロロメタン0.9mlを加えて、40℃で20分超音波処理を行った。しかしながら、BaTiO微粒子はほとんど分散しなかった。さらに、BaTiO微粒子とジクロロメタンとの混合物に、スルホン化率3.1モル%のSPCを270mg加えて撹拌し、SPCを溶解させた。この溶液を乾燥して溶媒を除去することにより、表面修飾されていない平均粒子径が30nm以上のBaTiO微粒子をSPCに分散させた複合化高分子材料を得た。
【0175】
得られた複合化高分子材料のフィルムを作製した結果、目視で判別できるほどの分散むらが認められた。実施例11と同様に評価結果を表4に示した。
【0176】
〔比較例4〕
アルドリッチ社より市販されている平均粒径が30nmを超える50nm以下のチタン酸バリウム微粒子30mgを遠心管に入れ、エタノール1.8ml中に超音波分散し、40℃で20分超音波処理を行った。PAEHを20μl添加してさらに40℃で20分超音波処理を行い、遠心分離した。沈降物をジクロロメタン0.9ml中に超音波分散し、製造例4で製造したスルホン酸当量重量11,200gのSPCを270mg加えて撹拌し、SPCを溶解させた。この溶液を乾燥して溶媒を除去することにより、表面修飾された平均粒子径が30nm以上のBaTiO微粒子をSPCに分散させた複合化高分子材料を得た。
【0177】
得られた複合化高分子材料のフィルムを作製した結果、目視によっては分散むらを確認することはできなかったが、不透明なフィルムが得られた。実施例11と同様に評価結果を表4に示した。
【0178】
【表4】

【0179】
表4に示すように、実施例11では、SPCを含む高分子マトリックス(屈折率1.586)よりも0.005以上高い屈折率を有する複合化高分子材料が得られた。また、実施例12のようにBaTiO微粒子の表面をPAEHで修飾することによって、分散性が向上し(全光線透過率が増加)、より屈折率の高い複合化高分子材料が得られた。
【0180】
比較例2では、一次粒子径が30nmを超える50nm以下のBaTiO微粒子を用いたところ、得られた複合化高分子材料は屈折率が測定できないほどの分散ムラが生じる結果となった。さらに、比較例3において、BaTiO微粒子の表面をPAEHによって修飾することによって、得られた複合化高分子材料は全光線透過率を測定できるものであり、BaTiO微粒子の分散性はやや向上したものの、複合化高分子材料の屈折率を測定することはできなかった。このように、BaTiO微粒子の一次粒子径が大きい場合には、金属酸化物微粒子の分散は困難であり、実用的な透明性を有する複合化高分子材料を得ることはできないことが判明した。
【0181】
また、特許文献3に従って修飾処理を行った比較例4では、不透明な複合化高分子材料が得られ、屈折率を評価することができなかった。
【0182】
〔実施例13〕
本実施例は、リン化合物によって表面修飾した金属酸化物微粒子を含む複合化高分子材料に係るものである。製造例2に従って製造した平均粒径11nmのBaTiO微粒子の水性スラリー2.0ml(金属酸化物微粒子32mg相当)を遠心管に入れ、遠心分離した。得られた沈降物をアセトン1.2ml中に超音波分散させた後、遠心分離し、沈降物をN,N−ジメチルアセトアミド1.2ml中に超音波分散した。この分散液にPAEHを10μl添加し、40℃で1時間、超音波処理することによってBaTiO微粒子に表面修飾を施した。
【0183】
反応後遠心分離し、沈降物をジクロロメタン0.9ml中に超音波分散し、製造例4で製造したスルホン酸当量重量10,300gのSPCを270mg加えて撹拌し、溶解させた。この溶液を乾燥して溶媒を除去することにより、表面修飾されたBaTiO微粒子をSPCに分散させた、本発明の複合化高分子材料を得た。
【0184】
得られた複合化高分子材料のフィルムを作製した結果、複合化高分子材料が半透明ないし透明でむらのないフィルムとして得られた。使用したPAEH量、反応条件、得られた複合化高分子材料の屈折率、厚さ、全光線透過率、ヘイズおよび蛍光X線分析により求めた複合化高分子材料中のリン原子含有量を表5に示す。
【0185】
〔実施例14〕
PAEHを10μl添加し、室温、10分間の反応条件下で超音波処理することによってBaTiO微粒子に表面修飾を施した以外は、実施例13と全て同様の操作を行った。実施例13と同様に評価結果を表5に示した。
【0186】
〔実施例15〕
PAEHを2μl添加し、室温、10分間の反応条件下で超音波処理することによってBaTiO微粒子に表面修飾を施した以外は、実施例13と全て同様の操作を行った。実施例13と同様に評価結果を表5に示した。
【0187】
〔実施例16〕
PAEHを10μl添加し、120℃、1時間の反応条件下で超音波処理することによってBaTiO微粒子に表面修飾を施した以外は、実施例13と全て同様の操作を行った。実施例13と同様に評価結果を表5に示した。
【0188】
〔実施例17〕
PAEHを20μl添加し、40℃、40分間の反応条件下で超音波処理することによってBaTiO微粒子に表面修飾を施した以外は、実施例13と全て同様の操作を行った。実施例13と同様に評価結果を表5に示した。
【0189】
〔実施例18〕
PAEHを40μl添加し、40℃、40分間の反応条件下で超音波処理することによってBaTiO微粒子に表面修飾を施した以外は、実施例13と全て同様の操作を行った。実施例13と同様に評価結果を表5に示した。
【0190】
【表5】

【0191】
表5より、表面修飾剤の使用量を増加させると、それに従って粒子表面のリン原子含有量が増加し、同時に全光線透過率も向上することが明らかである。ただし、ある一定量を超えるとリン原子含有量・全光線透過率はそれ以上増加せず、飽和することがわかる。反応時間や反応温度を変えてもリン原子含有量は増加しないことから、微粒子表面の反応サイトがほぼ完全に修飾剤と反応しているとみなされる。修飾反応は室温でも短時間で進行していることがわかる。屈折率はいずれもポリカーボネートを含む高分子マトリックス(屈折率1.586)よりも0.005以上増加している。
【0192】
〔実施例19〕
本実施例は、リン化合物の分子構造について検討した実施例である。表面修飾剤として、リン酸ジ(2−エチルヘキシル)エステルを20μl用いた以外は、実施例17と全て同様の操作を行った。用いたリン化合物、得られた複合化高分子材料の屈折率、厚さ、全光線透過率、ヘイズを表6に示した。
【0193】
〔実施例20〕
表面修飾剤として、リン酸トリス(2−エチルヘキシル)エステルを20μl用いた以外は、実施例17と全て同様の操作を行った。実施例19と同様に評価結果を表6に示した。
【0194】
〔実施例21〕
表面修飾剤として、リン酸モノ(n−ドデシル)エステル(モノ−、ジ−ナトリウム塩混合物)を20mg用いた以外は、実施例17と全て同様の操作を行った。実施例19と同様に評価結果を表6に示した。
【0195】
〔実施例22〕
表面修飾剤として、リン酸エチルエステル(モノ−、ジ−エステル混合物)を20μl用いた以外は、実施例17と全て同様の操作を行った。実施例19と同様に評価結果を表6に示した。
【0196】
〔実施例23〕
表面修飾剤として、リン酸オレイルエステル(モノ−、ジ−エステル混合物)を20μl用いた以外は、実施例17と全て同様の操作を行った。実施例19と同様に評価結果を表6に示した。
【0197】
〔実施例24〕
表面修飾剤として、亜リン酸ジ(n−ブチルエステル)を20μl用いた以外は、実施例17と全て同様の操作を行った。実施例19と同様に評価結果を表6に示した。
【0198】
【表6】

【0199】
表6に示した、実施例20と実施例19、および表5に示した実施例17との比較から、リン酸トリアルキルエステル体はリン酸モノアルキルエステル体およびリン酸ジアルキルエステル体に比べて全光線透過率が低下する傾向にある事が示された。このことより表面修飾剤の構造として、少なくとも1個のP−OH基を有する構造が微粒子との静電相互作用が強く好ましいことがわかる。
【0200】
また、アルキル鎖長が長い場合に、全光線透過率が高い値であることから、アルキル鎖が長い方が、分散性の向上において有利であることも明らかとなった。屈折率はいずれもポリカーボネートを含む高分子マトリックス(屈折率1.586)よりも0.005以上増加している。
【0201】
〔実施例25〕
本実施例は、表面修飾剤としてケイ素化合物を用いた実施例である。
【0202】
製造例2に従って製造した平均粒径11nmのBaTiO微粒子の水性スラリー2.0ml(金属酸化物微粒子32mg相当)を遠心管に入れ、遠心分離した。沈降物をアセトン1.2ml中に超音波分散させた後、遠心分離し、得られた沈降物をエタノール1.2ml中に超音波分散した。これにオクタデシルトリメトキシシランを15μl添加して40℃で60分間、超音波処理を行い、遠心分離した。さらに得られた沈降物をジクロロメタン0.9ml中に超音波分散し、製造例4で製造したスルホン酸当量重量10,300gのSPCを270mg加えて撹拌し、溶解させた。この溶液を乾燥して溶媒を除去することにより、表面修飾されたBaTiO微粒子をSPCに分散させた本発明の複合化高分子材料を得た。
【0203】
得られた複合化高分子材料のフィルムを作製した結果、透明でむらのないフィルムが得られた。蛍光X線分析により求めたフィルム中のSi原子の含有量は0.16wt%であった。使用したケイ素化合物、得られた複合化高分子材料の屈折率、厚さ、全光線透過率、ヘイズを表7に示す。
【0204】
〔実施例26〕
ケイ素化合物として、フェニルトリメトキシシランを15μl添加した以外は、実施例25と全て同様の操作を行った。実施例25と同様に評価結果を表7に示した。
【0205】
〔実施例27〕
ケイ素化合物として、オクチルトリエトキシシランを15μl添加した以外は、実施例25と全て同様の操作を行った。実施例25と同様に評価結果を表7に示した。
【0206】
【表7】

【0207】
表7より、ケイ素化合物によって表面修飾されたBaTiO微粒子は、リン化合物によって表面修飾されたBaTiO微粒子と同等の分散性を有していることが明らかになった。実施例25−実施例27において、屈折率はいずれもポリカーボネートを含む高分子マトリックス(屈折率1.586)よりも0.005以上増加している。
【0208】
〔実施例28〕
本実施例は製造例4に従って製造したオルガノゾルを経由することによって、製造された複合化高分子材料に関するものである。
【0209】
製造例3に従って製造した、PAEHで表面修飾されたBaTiO微粒子40mgに相当する量のオルガノゾルをサンプル管に入れ、製造例4で製造したスルホン酸当量重量12,200gのSPCを270mg加えて撹拌し、溶解させた。この溶液を乾燥して溶媒を除去することにより、表面修飾されたBaTiO微粒子をSPCに分散させた本発明の複合化高分子材料を得た。
【0210】
得られた複合化高分子材料のフィルムを作製した結果、透明でむらのないフィルムとして得られた。使用したゾル中のチタン酸バリウム微粒子量、SPC量、得られた複合化高分子材料の金属酸化物微粒子含有率、屈折率、厚さ、全光線透過率、ヘイズの評価結果を表8に示す。
【0211】
〔実施例29〕
BaTiO微粒子42mgに相当する量のオルガノゾルを用い、SPCを170mg用いた以外は、実施例28と全て同様の操作を行った。実施例28と同様に評価結果を表8に示した。
【0212】
〔実施例30〕
BaTiO微粒子120mgに相当する量のオルガノゾルを用い、SPCを280mg用いた以外は、実施例28と全て同様の操作を行った。実施例28と同様に評価結果を表8に示した。
【0213】
〔実施例31〕
BaTiO微粒子180mgに相当する量のオルガノゾルを用い、SPCを270mg用いた以外は、実施例28と全て同様の操作を行った。実施例28と同様に評価結果を表8に示した。
【0214】
【表8】

【0215】
表8に示すように、複合化高分子材料の屈折率はBaTiOの比率を増加させることにより、大きく向上させることができることが明らかとなった。
【0216】
〔実施例32〕
BaTiO微粒子34mgに相当する量のオルガノゾルを用い、PCを270mg用いた以外は、実施例30と全て同様の操作を行った。使用したゾル中のBaTiO量、SPC量、PC量、得られた複合化高分子材料の屈折率、厚さ、全光線透過率、ヘイズを表9に示した。
【0217】
〔実施例33〕
BaTiO微粒子34mgに相当する量のオルガノゾルを用い、SPCを60mg、PCを210mg用いた以外は、実施例30と全て同様の操作を行った。実施例32と同様に評価結果を表9に示した。
【0218】
〔実施例34〕
BaTiO微粒子51mgに相当する量のオルガノゾルを用い、SPCを63mg、PCを150mg用いた以外は、実施例30と全て同様の操作を行った。実施例32と同様に評価結果を表9に示した。
【0219】
【表9】

【0220】
表9における実施例32の結果から、酸性基を有しないPCを高分子マトリックスの主成分とする場合であっても、上記オルガノゾルを用いることにより、全光線透過率は良好な値が示された。このことから、金属酸化物微粒子の分散性が良好であることが明らかとなった。また、実施例20,実施例21の結果からPCを含む高分子マトリックスにSPCを一部ブレンドすることにより分散性がさらに向上可能なことが明らかになった。得られた複合化高分子材料の屈折率はいずれもポリカーボネートを含む高分子マトリックス(屈折率1.586)よりも0.005以上増加している。
【0221】
〔製造例5〕
以下に芳香族ポリエステルおよびその部分スルホン化ポリマーに関する製造例を示す。ジクロロメタン/水酸化ナトリウム水溶液の混合溶媒中で、相間移動触媒の共存下、ビスフェノール−Aにテレフタル酸ジクロリドとイソフタル酸ジクロリドの等モル混合物を反応させることにより、ポリアリレート(以下適宜「PAR」と略す)(Mw=183,000、屈折率=1.604)を製造した。得られたPARを用いて、上記SPCと同様の方法によりスルホン化して、部分スルホン化ポリアリレート(以下SPARと略す)を製造した。SPARのスルホン酸当量重量は9,300gであった。
【0222】
〔実施例35〕
本実施例は製造例5に従って製造したポリアリレート(PAR)を高分子マトリックスとし、製造例3に従って製造したオルガノゾルを経由することによって、製造された複合化高分子材料に関するものである。
【0223】
BaTiO微粒子30mgに相当する量のオルガノゾルを用い、製造例5に従って製造したPARを270mg用いた以外は、実施例28と全て同様の操作を行った。使用したゾル中のチタン酸バリウム微粒子量、ポリマー量、得られた複合化高分子材料の金属酸化物微粒子含有率、屈折率、厚さ、全光線透過率、ヘイズの評価結果を表10に示す。
【0224】
〔実施例36〕
高分子マトリックスとして、製造例5に従って製造したスルホン酸当量重量が9,300gの部分スルホン化ポリアリレート(SPAR)を270mg用いた以外は、実施例35と全て同様の操作を行った。実施例35と同様に評価結果を表10に示した。
【0225】
〔実施例37〕
BaTiO微粒子120mgに相当する量のオルガノゾルを用い、SPARを280mg用いた以外は、実施例35と全て同様の操作を行った。実施例35と同様に評価結果を表10に示した。
【0226】
〔実施例38〕
BaTiO微粒子240mgに相当する量のオルガノゾルを用い、SPARを240mg用いた以外は、実施例35と全て同様の操作を行った。実施例35と同様に評価結果を表10に示した。
【0227】
【表10】

【0228】
表10における実施例35の結果から、酸性基を有しないPARを高分子マトリックスの主成分とする場合であっても、上記オルガノゾルを用いることにより、全光線透過率は良好な値が示された。このことから、金属酸化物微粒子の分散性が良好であることが明らかとなった。また、酸性基を有するポリアリレート(SPAR)に分散させた実施例36でも、分散性が良好であることが明らかとなった。さらに、実施例37および実施例38の結果から、複合化高分子材料の屈折率はBaTiOの比率を増加させることにより、大きく向上させることができることが明らかとなった。得られた複合化高分子材料の屈折率はいずれもPARを含む高分子マトリックス(屈折率1.604)よりも0.005以上増加している。
【0229】
〔製造例6〕
以下に芳香族ポリエーテルの一種であるポリスルホンの部分スルホン化ポリマー、および部分ホスホン化ポリマーに関する製造例を示す。
【0230】
ポリスルホン(以下適宜「PSF」と略す)(アルドリッチ社製:重量平均分子量102,000)を原料として、上記のSPCと同様の方法によりスルホン化して、部分スルホン化ポリスルホン(以下SPSFと略す)を製造した。SPSFのスルホン酸当量重量は2,700gであった。
【0231】
フラスコにPSF4.0gを入れ、ジクロロエタン28mlを加えて窒素雰囲気下で撹拌し、溶解させた。この溶液にジメトキシメタン0.26gと塩化チオニル0.33gを加え、無水塩化すず(IV)20μlを含むジクロロエタン溶液0.2mlを加え、60℃で2時間撹拌した。反応液を大量のメタノールに注いで析出させ、ミキサーで粉砕し、吸引ろ過した後、脱イオン水およびメタノールで洗浄し、室温・減圧下で乾燥して部分クロロメチル化PSFを合成した。
【0232】
得られた部分クロロメチル化PSF3.4gをN,N−ジメチルアセトアミド(以下適宜「DMAC」と略す)20mlに溶解し、亜リン酸トリエチル2.0mlを加え、150℃で15時間攪拌した。冷却後、反応液を大量のメタノールに注いで析出させ、ミキサーで粉砕し、吸引ろ過した後、脱イオン水およびメタノールで洗浄し、室温・減圧下で乾燥して部分ジエチルホスホノメチル化PSFを合成した。得られた部分ジエチルホスホノメチル化PSF2.5gを濃塩酸20ml中で15時間還流した。冷却後、吸引ろ過した後、脱イオン水およびメタノールで洗浄し、減圧下40℃で乾燥して部分ホスホノメチル化PSF(以下PSF−PAと略す)を製造した。PSF−PAのホスホン酸当量重量は9,100gであった。
【0233】
〔実施例39〕
本実施例は市販のポリスルホン(PSF)を高分子マトリックスとし、製造例3に従って製造したオルガノゾルを経由することによって、製造された複合化高分子材料に関するものである。
【0234】
BaTiO微粒子30mgに相当する量のオルガノゾルを用い、PSFを270mg用いた以外は、実施例28と全て同様の操作を行った。使用したゾル中のチタン酸バリウム微粒子量、ポリマー量、得られた複合化高分子材料の金属酸化物微粒子含有率、屈折率、厚さ、全光線透過率、ヘイズの評価結果を表11に示す。
【0235】
〔実施例40〕
高分子マトリックスとして、製造例6に従って製造したスルホン酸当量重量が2,700gの部分スルホン化ポリスルホン(SPSF)を270mg用いた以外は、実施例39と全て同様の操作を行った。実施例39と同様に評価結果を表11に示した。
【0236】
〔実施例41〕
高分子マトリックスとして、製造例6に従って製造したホスホン酸当量重量が9,100gの部分ホスホン化ポリスルホン(PSF−PA)を270mg用いた以外は、実施例39と全て同様の操作を行った。実施例39と同様に評価結果を表11に示した。
【0237】
【表11】

【0238】
表11における実施例39の結果から、酸性基を有しないポリスルホン(PSF)を高分子マトリックスの主成分とする場合であっても、上記オルガノゾルを用いることにより、全光線透過率は良好な値が示された。このことから、金属酸化物微粒子の分散性が良好であることが明らかとなった。また、スルホン酸基を有するポリスルホン(SPSF)に分散させた実施例40でも、分散性が良好であることが明らかとなった。さらに、ホスホン酸基を有するポリスルホン(PSF−PA)に分散させた実施例41では、全光線透過率が大きく向上することが明らかとなった。得られた複合化高分子材料の屈折率はいずれもPSFを含む高分子マトリックス(屈折率1.628)よりも0.005以上増加している。
【0239】
〔製造例7〕
以下に芳香族ポリエーテルの一種であるポリアリーレンエーテルケトン、その部分スルホン化ポリマー、およびその部分ホスホン化ポリマーに関する製造例を示す。
【0240】
ビスフェノール−Aと4,4’−ジフルオロベンゾフェノンをDMAC中で等モル以上の炭酸カリウム共存下に150℃以上で反応させることにより、ポリアリーレンエーテルケトン(以下適宜「PAEK」と略す)(Mw=127,000、屈折率=1.644)を製造した。これを上記のSPCと同様の方法によりスルホン化して、部分スルホン化ポリアリーレンエーテルケトン(以下SPAEKと略す)を製造した。SPAEKのスルホン酸当量重量は44,000gであった。
【0241】
また、PAEKを原料として上記のPSF−PAと同様の方法により部分ホスホノメチル化PAEK(以下PAEK−PAと略す)を製造した。PAEK−PAのホスホン酸当量重量は19,800gであった。
【0242】
〔実施例42〕
本実施例は製造例7に従って製造したポリアリーレンエーテルケトン(PAEK)を高分子マトリックスとし、製造例3に従って製造したオルガノゾルを経由することによって、製造された複合化高分子材料に関するものである。
【0243】
BaTiO微粒子30mgに相当する量のオルガノゾルを用い、製造例7に従って製造したPAEKを270mg用いた以外は、実施例28と全て同様の操作を行った。使用したゾル中のチタン酸バリウム微粒子量、ポリマー量、得られた複合化高分子材料の金属酸化物微粒子含有率、屈折率、厚さ、全光線透過率、ヘイズの評価結果を表12に示す。
【0244】
〔実施例43〕
高分子マトリックスとして、製造例7に従って製造したスルホン酸当量重量が44,000gの部分スルホン化ポリアリーレンエーテルケトン(SPAEK)を270mg用いた以外は、実施例42と全て同様の操作を行った。実施例42と同様に評価結果を表12に示した。
【0245】
〔実施例44〕
高分子マトリックスとして、製造例7に従って製造したホスホン酸当量重量が19,800gの部分ホスホン化ポリアリーレンエーテルケトン(PAEK−PA)を270mg用いた以外は、実施例42と全て同様の操作を行った。実施例42と同様に評価結果を表12に示した。
【0246】
〔実施例45〕
BaTiO微粒子120mgに相当する量のオルガノゾルを用い、PAEK−PAを280mg用いた以外は、実施例42と全て同様の操作を行った。実施例42と同様に評価結果を表12に示した。
【0247】
〔実施例46〕
BaTiO微粒子240mgに相当する量のオルガノゾルを用い、PAEK−PAを240mg用いた以外は、実施例42と全て同様の操作を行った。実施例42と同様に評価結果を表12に示した。
【0248】
【表12】

【0249】
表12における実施例42の結果から、酸性基を有しないPAEKを高分子マトリックスの主成分とする場合であっても、上記オルガノゾルを用いることにより、全光線透過率は良好な値が示された。このことから、金属酸化物微粒子の分散性が良好であることが明らかとなった。また、スルホン酸基を有するポリアリーレンエーテルケトン(SPAEK)に分散させた実施例43でも、分散性が良好であることが明らかとなった。さらに、ホスホン酸基を有するポリアリーレンエーテルケトン(PAEK−PA)に分散させた実施例44では、全光線透過率が大きく向上することが明らかとなった。さらに、実施例45および実施例46の結果から、複合化高分子材料の屈折率はBaTiOの比率を増加させることにより、大きく向上させることができることが明らかとなった。得られた複合化高分子材料の屈折率はいずれもPAEKを含む高分子マトリックス(屈折率1.644)よりも0.005以上増加している。
【0250】
〔製造例8〕
以下に芳香族ポリカーボネートと芳香族ポリエステルからなるブロックポリマー、およびその部分スルホン化ポリマーに関する製造例を示す。
【0251】
フラスコに40gのPCと1.37gのビスフェノールAを入れ、DMAC160mlを加えて溶解した。これに酢酸亜鉛44mgを加えて160℃で4時間攪拌した。冷却後、反応液を大量のメタノールに注いで析出させ、吸引ろ過した後、脱イオン水およびメタノールで洗浄し、室温・減圧下で乾燥して、水酸基末端のポリカーボネートオリゴマー(以下適宜「OPC」と略す)を製造した。
【0252】
ジクロロメタン/水酸化ナトリウム水溶液の混合溶媒中で、相間移動触媒の共存下、OPCとビスフェノール−Aにテレフタル酸ジクロリドとイソフタル酸ジクロリドの等モル混合物を反応させることにより、PC/PARブロック共重合体(以下適宜「BL1」と略す)(Mw=37,600、屈折率=1.598)を製造した。ブロックの重量比率はPC/PAR=40/60である。得られたBL1を用いて、上記SPCと同様の方法によりスルホン化して、部分スルホン化PC/PARブロックポリマー(以下SBL1と略す)を製造した。SBL1のスルホン酸当量重量は125,000gであった。
【0253】
〔実施例47〕
本実施例は製造例8に従って製造したPC/PARブロック共重合体(BL1)を高分子マトリックスとし、製造例3に従って製造したオルガノゾルを経由することによって、製造された複合化高分子材料に関するものである。
【0254】
BaTiO微粒子30mgに相当する量のオルガノゾルを用い、製造例8に従って製造したBL1を270mg用いた以外は、実施例28と全て同様の操作を行った。使用したゾル中のチタン酸バリウム微粒子量、ポリマー量、得られた複合化高分子材料の金属酸化物微粒子含有率、屈折率、厚さ、全光線透過率、ヘイズの評価結果を表13に示す。
【0255】
〔実施例48〕
高分子マトリックスとして、製造例8に従って製造したスルホン酸当量重量が125,000gの部分スルホン化PC/PARブロックポリマー(SBL1)を270mg用いた以外は、実施例47と全て同様の操作を行った。実施例35と同様に評価結果を表13に示した。
【0256】
〔実施例49〕
BaTiO微粒子120mgに相当する量のオルガノゾルを用い、SBL1を280mg用いた以外は、実施例47と全て同様の操作を行った。実施例47と同様に評価結果を表13に示した。
【0257】
〔実施例50〕
BaTiO微粒子240mgに相当する量のオルガノゾルを用い、SBL1を240mg用いた以外は、実施例47と全て同様の操作を行った。実施例47と同様に評価結果を表13に示した。
【0258】
【表13】

【0259】
表13における実施例47の結果から、酸性基を有しないPC/PARブロック共重合体(BL1)を高分子マトリックスの主成分とする場合であっても、上記オルガノゾルを用いることにより、全光線透過率は良好な値が示された。このことから、金属酸化物微粒子の分散性が良好であることが明らかとなった。また、酸性基を有するPC/PARブロック共重合体(SBL1)に分散させた実施例48でも、分散性が良好であることが明らかとなった。さらに、実施例49および実施例50の結果から、複合化高分子材料の屈折率はBaTiOの比率を増加させることにより、大きく向上させることができることが明らかとなった。得られた複合化高分子材料の屈折率はいずれもPC/PARブロック共重合体を含む高分子マトリックス(屈折率1.598)よりも0.005以上増加している。
【0260】
〔実施例51〕
製造例1に従って製造した平均粒子径が5nmで4w/v%濃度のNb微粒子の水性ゾルを0.8ml(金属酸化物微粒子32mg相当)に、PAEHを20μl加えて室温で30分攪拌して、表面修飾反応を行った。その後5時間静置してNb微粒子を凝集、沈降させた。その後、沈降物を遠心分離し、アセトンで2回洗浄した後、ジクロロメタン中に超音波分散し、PC270mgを加え、撹拌してPCを溶解させた。この溶液を乾燥して溶媒を除去することにより、PAEHで表面修飾されたNb微粒子をPCに分散させた本発明の複合化高分子材料を得た。
【0261】
得られた複合化高分子材料のフィルムを作製した結果、透明でむらのないフィルムが得られた。用いたNb微粒子、PAEH、ポリマー量、得られた複合化高分子材料の金属酸化物微粒子含有率、屈折率、厚さ、全光線透過率、ヘイズの評価結果を表14に示す。
【0262】
〔実施例52〕
ポリマーとして、スルホン酸当量重量17,000gのSPCを270mg用いた以外は、実施例51と全て同様の操作を行った。実施例51と同様に評価結果を表14に示した。
【0263】
〔実施例53〕
Nb微粒子の水性ゾルを2.4ml、PAEHを80μl、ポリマーとしてスルホン酸当量重量17,000gのSPCを225mg用いた以外は、実施例51と全て同様の操作を行った。実施例51と同様に評価結果を表14に示した。
【0264】
【表14】

【0265】
表14より、金属酸化物微粒子としてNb微粒子を用いた場合にも、リン化合物で表面修飾することにより高い透過率および屈折率が得られるという結果が示された。いずれの複合化高分子材料においても、その屈折率はポリカーボネートを含む高分子マトリックス(屈折率1.586)よりも0.005以上増加している。
【0266】
〔実施例54〕
製造例2に従って製造したCaTiO微粒子の水性スラリー0.4ml(金属酸化物微粒子48mg相当)を遠心管に入れ、遠心分離した。得られた沈降物をアセトン1.5ml中に超音波分散させた後、遠心分離した。さらに得られた沈降物をエタノール1.8ml中に超音波分散し、40℃で20分間、超音波処理を行った。これに表面修飾剤としてPAEHを20μl添加し、さらに40℃で20分超音波処理を行った後に遠心分離した。沈降物をジクロロメタン0.9ml中に超音波分散し、スルホン酸当量重量17,000gのSPCを360mg加えて撹拌し、SPCを溶解させた。この溶液を乾燥して溶媒を除去することにより、PAEHで表面修飾されたCaTiO微粒子をSPCに分散させた、本発明の複合化高分子材料を得た。
【0267】
得られた複合化高分子材料のフィルムを作製した結果、透明でむらのないフィルムが得られた。用いたCaTiO微粒子、PAEH、ポリマー量、得られた複合化高分子材料の金属酸化物微粒子含有率、屈折率、厚さ、全光線透過率、ヘイズの評価結果を表15に示す。
【0268】
〔実施例55〕
CaTiO微粒子の水性スラリー1.0ml(金属酸化物微粒子120mg相当)、を遠心管に入れ、遠心分離した。得られた沈降物をアセトン6ml中に超音波分散させた後、遠心分離した。さらに得られた沈降物をエタノール6ml中に超音波分散し、40℃で20分間、超音波処理を行った。これに表面修飾剤としてPAEHを60μl添加し、さらに40℃で20分超音波処理を行った後に遠心分離した。沈降物をジクロロメタン3.6ml中に超音波分散し、スルホン酸当量重量17,000gのSPCを280mg加えて撹拌し、SPCを溶解させた。この溶液を乾燥して溶媒を除去することにより、PAEHで表面修飾されたCaTiO微粒子をSPCに分散させた、本発明の複合化高分子材料を得た。
【0269】
得られた複合化高分子材料のフィルムを作製した結果、透明でむらのないフィルムが得られた。用いたCaTiO微粒子、PAEH、ポリマー量、得られた複合化高分子材料の金属酸化物微粒子含有率、屈折率、厚さ、全光線透過率、ヘイズの評価結果を表15に示す。
【0270】
【表15】

【0271】
表15より、金属酸化物微粒子としてCaTiO微粒子を用いた場合にも、リン化合物で表面修飾することにより高い透過率および屈折率が得られるという結果が示された。いずれの複合化高分子材料においても、その屈折率はポリカーボネートを含む高分子マトリックス(屈折率1.586)よりも0.005以上増加している。
【0272】
なお、本発明は、上記の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内で種々の変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0273】
本発明の複合化高分子材料は、加工が容易であるとともに、優れた屈折率を有しているので、光学材料、電子材料、コーティング材料、ガスバリアー材料、光触媒に応用することができる。特に、光学材料に好ましく応用することが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ポリカーボネート、芳香族ポリエステル、芳香族ポリエーテル、またはそれらの共重合体を主成分として含む高分子マトリックス中に、金属酸化物微粒子が分散されてなる複合化高分子材料であって、
上記金属酸化物微粒子の一次粒子の平均粒子径は1nm以上30nm未満であり、かつ、金属酸化物微粒子を構成する金属酸化物の屈折率は2.0以上であり、
上記高分子マトリックスの屈折率よりも、0.005以上高い屈折率を有することを特徴とする複合化高分子材料。
【請求項2】
上記芳香族ポリカーボネート、芳香族ポリエステル、芳香族ポリエーテル、またはそれらの共重合体は、酸性基を有していることを特徴とする請求項1に記載の複合化高分子材料。
【請求項3】
上記酸性基がスルホン酸基であることを特徴とする請求項2に記載の複合化高分子材料。
【請求項4】
上記酸性基がホスホン酸基であることを特徴とする請求項2に記載の複合化高分子材料。
【請求項5】
上記金属酸化物微粒子は、超臨界または亜臨界状態の水中において、水熱反応によって製造された金属酸化物微粒子であることを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の複合化高分子材料。
【請求項6】
上記水熱反応によって製造された金属酸化物微粒子を、乾燥状態を経由せずに上記高分子マトリックスに分散させてなることを特徴とする請求項5に記載の複合化高分子材料。
【請求項7】
上記芳香族ポリカーボネート、芳香族ポリエステル、芳香族ポリエーテル、またはそれらの共重合体は、溶剤可溶性を有することを特徴とする請求項1に記載の複合化高分子材料。
【請求項8】
上記金属酸化物微粒子が、一般式(1)
【化1】

(式中、R、RおよびRは、それぞれ独立して、水素原子、水酸基、ハロゲン原子、ヘテロ原子を含む置換基が導入されていてもよい炭素数1〜30の炭化水素基、またはヘテロ原子を含む置換基が導入されていてもよい炭素数1〜30のオキシ炭化水素基を表し、yは0または1である)
で示されるリン化合物およびその塩からなる群より選ばれる少なくとも一種の化合物により表面修飾されていることを特徴とする請求項1〜7の何れか1項に記載の複合化高分子材料。
【請求項9】
上記金属酸化物微粒子が、一般式(2)
【化2】

(式中、R、R、RおよびRはそれぞれ独立して、水素原子、水酸基、ハロゲン原子、ヘテロ原子を含む置換基が導入されていてもよい炭素数1〜30の炭化水素基、またはヘテロ原子を含む置換基が導入されていてもよい炭素数1〜30のオキシ炭化水素基を表す)
で示されるケイ素化合物およびその塩からなる群より選ばれる少なくとも一種の化合物により表面修飾されていることを特徴とする請求項1〜7の何れか1項に記載の複合化高分子材料。
【請求項10】
上記金属酸化物微粒子がTi、Zr、Tl、Y、Nb、In、Bi、La、Sb、Sc、Pb、およびTaからなる群より選ばれる少なくとも一種の金属の酸化物を含むことを特徴とする請求項1〜9の何れか1項に記載の複合化高分子材料。
【請求項11】
上記金属酸化物微粒子が、一般式(3)
TiO2+x・・・(3)
(式中、MはCa、Sr、またはBaを表し、xは0.1〜1.1の数である)
で表される金属酸化物微粒子であることを特徴とする請求項10に記載の複合化高分子材料。
【請求項12】
上記金属酸化物微粒子の含有率が、5重量%以上90重量%未満であることを特徴とする請求項1〜11の何れか1項に記載の複合化高分子材料。
【請求項13】
請求項1〜12の何れか1項に記載の複合化高分子材料を含むことを特徴とする光学材料。

【公開番号】特開2008−45109(P2008−45109A)
【公開日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−120189(P2007−120189)
【出願日】平成19年4月27日(2007.4.27)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】