説明

複合材及びその製造方法

【課題】低融点金属の成形部材の表面に種々の物理特性に優れた高融点金属の板状部材を特定の接合方法によって接合させることにより特性が改善された複合材及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】融点が900K以下の低融点金属の成形部材の表面に融点が1300K以上の高融点金属の板状部材が摩擦攪拌接合により接合されている複合材、例えば成形部材が鋳造で成形したアルミニウム、アルミニウム合金、亜鉛合金又はマグネシウム合金からなり、板状部材がチタン、チタン合金、銅、銅合金又は鉄合金からなる複合材、及びその製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は低融点金属の成形部材、例えば鋳造で成形した成形部材の表面に高融点金属の板状部材が摩擦攪拌接合により接合されている複合材及びその製造方法に関し、具体的には、耐食性、耐熱性、耐クリープ性、熱伝導特性、電気伝導特性、耐摩耗性、摺動性、摩擦特性、溶接性、機械的強度、剛性及び軽量性の少なくとも1つの特性が改善されている複合材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、金属材料の機械的強度、耐食性、耐摩耗特性等の改善・向上のために新合金の開発が行われてきた。また、複合材としては金属−セラミックスの複合材が検討され開発されてきた(例えば、特許文献1参照)。一方、表面改質としては鍍金、溶射、CVD/PVD等が開発されてきた。また厚膜の得られるものとしてクラッド溶接がある(例えば、特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2007−043128号公報
【特許文献2】特開平05−069130号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、合金開発では、その合金系が本質的に持っている弱点を克服することができない。金属と非金属との複合化ではそれぞれのもつ長所の複合化が得られても、それらの特性が離れすぎていて例えばセラミックスの脆いという弱点を補うことが難しい。また、表面改質はいずれも比較的薄い層に限定され、しかも密着性が低い。クラッド溶接ではそのような問題はないが、母材を溶融するため複合化する合金系の組合せが限定され、また溶融溶接することで別の問題が生じる。
【0004】
例えば、マグネシウム合金は軽量性に優れているが耐食性、耐熱性、耐摩耗性などが劣り、このことで用途が限定されている。軽量性を生かすためには表面改質での弱点の克服が期待されるが、従来の技術では膜厚及び密着性の点で用途が限定される。一般のクラッド溶接は溶融溶接となりマグネシウム合金の場合には難しい。また、鋳造品は鋳造時にミクロポロシティが生じるので、鋳造品を溶融溶接する際にミクロポロシティからフクレが生じる傾向があり、鋳造品の溶融溶接は一般に難しい。
【0005】
機械的強度、耐食性、耐摩耗特性等の改善・向上のために複合化が必要な例として、エンジンピストンの場合には軽量化は燃費改善に有効であるが、エンジン性能向上のため燃焼温度の上昇等、より高温強度とクリープ強度が要求されるようになっている。軽量化の面ではアルミニウム、アルミニウム合金、マグネシウム合金が望ましく、コスト面から特にダイカスト成形し得ることが望まれるが、強度・耐熱性の面からはアルミニウム、アルミニウム合金でも設計が難しくなりつつあり、またマグネシウム合金では使用温度に耐え得る耐熱性を有する実用合金がない状況である。
【0006】
エンジン部品、特にクランクケースの場合も同様に軽量化が望まれるが、締結部には耐熱強度が必要であり、またクランクの動きによりクランクケースの内壁が摩耗する可能性があるので、耐摩耗性が必要である。従って、締結部やケース内壁の特性の改善・向上のために複合化が望まれる。
【0007】
本発明は、金型鋳造等により容易に成形できる融点が900K以下の低融点金属の成形部材、例えば溶融溶接の困難な鋳造で成形した成形部材の表面に、種々の物理特性に優れた融点が1300K以上の高融点金属の板状部材を特定の接合方法によって接合させることにより耐食性、耐熱性、耐クリープ性、熱伝導特性、電気伝導特性、耐摩耗性、摺動性、摩擦特性、溶接性、機械的強度、剛性及び軽量性の少なくとも1つの特性が改善されている複合材及びその製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記の目的を達成するための方策について種々検討した結果、次の知見を得るに至った。即ち、米国特許第5460317号明細書に記載されている摩擦攪拌接合(FSW、摩擦攪拌結合、摩擦接合等とも呼ばれている)を利用することにより、融点が900K以下の低融点金属の成形部材、例えば溶融溶接の困難な鋳造で成形した成形部材の表面に、塑性加工性等の特性の差異に係わらず、或いはフクレの発生を抑制して、融点が1300K以上の高融点金属の板状部材を接合させることができ、そのことにより耐食性、耐熱性、耐クリープ性、熱伝導特性、電気伝導特性、耐摩耗性、摺動性、摩擦特性、溶接性、機械的強度、剛性及び軽量性の少なくとも1つの特性が改善されている複合材を製造することができる。
【0009】
本発明の複合材は、融点が900K以下の低融点金属の成形部材の表面に、融点が1300K以上の高融点金属の板状部材が摩擦攪拌接合により接合されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の複合材においては、摩擦攪拌接合法を利用しているので、一般的には溶融溶接が難しい鋳造で成形した成形部材の金属種と該成形部材に接合される板状部材の金属種との組合せ範囲が広がり、金属間の接合強度の確保、マグネシウム合金部材やダイカスト素材など溶融溶接が困難な素材の複合化が可能となり、耐食性、耐熱性、耐クリープ性、熱伝導特性、電気伝導特性、耐摩耗性、摺動性、摩擦特性、溶接性、機械的強度、剛性及び軽量性の少なくとも1つの特性が改善されている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の複合材は、融点が900K以下の低融点金属の成形部材の表面に、融点が1300K以上の高融点金属の板状部材が摩擦攪拌接合により接合されているものであるが、低融点金属の融点を900K以下に限定し、高融点金属の融点を1300K以上に限定している理由は臨界的なものではなく、便宜的なものである。即ち、低融点金属の融点が900K以下であれば成形部材を金型鋳造等により容易に作製できるからであり、そのような低融点金属として例えばアルミニウム、アルミニウム合金、亜鉛合金、マグネシウム合金等を挙げることができる。また、高融点金属の融点が1300K以上であればその金属は一般的に耐食性、耐熱性、耐クリープ性、熱伝導特性、電気伝導特性、耐摩耗性、摺動性、摩擦特性、溶接性、機械的強度、剛性等の何れかに優れているからであり、そのような高融点金属として例えばチタン、チタン合金、銅、銅合金、鉄合金(例えばSUS等のステンレス合金等)等を挙げることができる。
【0012】
本発明の複合材においては、摩擦攪拌接合で接合された板状部材により耐食性、耐熱性、耐クリープ性、熱伝導特性、電気伝導特性、耐摩耗性、摺動性、摩擦特性、溶接性、機械的強度、剛性及び軽量性の少なくとも1つの特性が改善されている。どのような特性が改善された複合材とするかは複合材の用途によって決まる。
【0013】
本発明の複合材は、基本的には低融点金属の成形部材と高融点金属の板状部材とが摩擦攪拌接合により接合されているものであるが、該成形部材と該板状部材との間に、塑性加工性が該成形部材の塑性加工性と該板状部材の塑性加工性との間にある板状部材が介在した状態で摩擦攪拌接合により接合されていてもよい。このような場合には摩擦攪拌接合を好都合に実施することができ、また得られる複合材の塑性加工性が改善される。
【0014】
本発明の複合材においては、摩擦撹拌接合で形成される接合部の厚さは板状部材の厚さによって異なるが、0.05〜5ミリであることが好ましく、0.1〜2ミリであることが更に好ましい。
【0015】
成形部材と板状部材との接合により本発明の複合材を製造する際に用いる摩擦攪拌接合による接合として、スポット接合、線状接合又は面接合を採用することができる。線状接合の場合には接合面の任意の箇所で線状に接合されていても、接合面の外周に沿って接合されていてもよい。また、面接合の場合には全面で接合されていても、少なくとも一部で面接合されていてもよい。また、クラッド接合を採用することが好ましい。
【0016】
本発明の複合材の製造に用いる成形部材は好ましくは鋳造で成形したもの、より好ましくは金型鋳造で成形したものであり、この金型鋳造としてダイカスト鋳造、チクソモールディング、低圧鋳造又は重力鋳造を用いることが好ましい。また、鋳造時に生じる成形部材中のミクロポロシティを低減させるために、鋳造で成形した部材に押出し、圧延、鍛造又はプレスによる塑性加工を施してミクロポロシティを低減させて得た成形部材であることが更に好ましい。
【0017】
実用的には、成形部材が鋳造、好ましくは金型鋳造で成形したアルミニウム、アルミニウム合金、亜鉛合金又はマグネシウム合金からなり、板状部材がチタン、チタン合金、銅、銅合金又は鉄合金からなることが好ましい。
【0018】
摩擦撹拌接合により接合されている本発明の複合材においては、従来の表面改質法とは異なって膜厚の制限がなく且つ密着性が良好である。またクラッド溶接と異なって溶融プロセスを経ないため、特にマグネシウム合金や素材にミクロポロシティのある鋳造素材の複合材化に適している。また、成形部材の融点と板状部材の融点との差が大きい場合や、特性上、熱を加えられない部材の場合でも複合化が可能である。鋳造で成形したアルミニウム、アルミニウム合金、亜鉛合金又はマグネシウム合金からなる低融点成形部材の表面に耐食性、耐熱性、耐クリープ性、熱伝導特性、電気伝導特性、耐摩耗性、摺動性、摩擦特性、溶接性、機械的強度、剛性及び軽量性の少なくとも1つの特性に優れた板状合金部材を摩擦攪拌接合により接合させることができる。
【0019】
本発明の複合材を製造する際には、摩擦攪拌接合の作業中にトラブルが発生しないように成形部材の塑性加工性と板状部材の塑性加工性とを近似させた状態で接合することが好ましい。そのために、すくなくとも板状部材を予熱して、好ましくは他の部材も予熱して摩擦攪拌接合を実施することが好ましい。他の部材も予熱する場合には同じ温度に予熱しても、予熱温度が異なっていてもよい。
【0020】
本発明の複合材の実用例として、マグネシウム合金製、アルミニウム合金製又はアルミニウム製のエンジンピストン、エンジンブロック又はクランクケースの摩擦部、締結部又は要強度部に耐熱性、耐摩耗性、摩擦特性又は機械的強度に優れた板状合金部材を摩擦攪拌接合により接合させることができる。具体的な事例として、ダイカストで製造されたアルミニウム製、アルミニウム合金製又はマグネシウム合金製の自動車のエンジンピストンの頭頂部に熱伝導性と耐熱性に優れたチタン板等を摩擦攪拌接合法により接合させることにより、ピストン頭部に要求される耐クリープ性、強度に適合させることができ且つ軽量性を有したピストンを製造することができる。
【0021】
また、自動車エンジンクランクケースなど、マグネシウム部品では摩耗が発生する内壁部にチタン板等を摩擦攪拌接合させることで問題を解決することができ、さらにはマグネシウム製の自動車エンジン部品やその他強度部品の締結部の電食対策、締結軸力アップについても、同様に解決できる。
【0022】
本発明の複合材は、自動車等輸送機器、民生電機・情報家電機器、汎用エンジンの部品、船舶・航空・宇宙・軍需用の部材、土木建設・建築資材、原子力発電・火力発電所の資材に用いられる。
【0023】
実施例1〜5
第1表に示すように、成形部材を金型鋳造するための低融点金属としてACM522(Mg−5Al−2Ca−2ミッシュメタル−0.2Mn合金)、ADC12(Al−11Si−2.5Cu合金)又はAZ91(Mg−9Al−0.7Zn−0.13Mn合金)を用い、金型鋳造法として高圧ダイカスト鋳造、低圧ダイカスト鋳造又はチクソモールディングを採用し、それぞれ直径80mm、高さ10mmの円柱を成形した。また、板状部材として直径80mm、厚さ0.4mmの純チタン円板、直径80mm、厚さ1mmのSS400(一般構造用鋼)の円板、直径80mm、厚さ1mmのSUS304L(ステンレス鋼)の円板、直径80mm、厚さ2mmの純銅の円板又は直径80mm、厚さ0.2mmのSCCrM1A(鋳鋼品)の円板を用いた。
【0024】
各々の板状部材を第2表に示す温度に予熱し、予熱した板状部材を円柱の上面に重ねて摩擦撹拌接合により接合させた。摩擦撹拌接合の条件はツールピンの高さ2.7mm、ツール径M5L、後傾3度、ショルダー径12mmであり、回転速度、前進速度及び押込み量は第2表に示す通りであった。実施例1〜5で得られた複合材の改善された特性は第2表に示す通りであった。また、実施例1で得られた複合材の切断面の写真は図1に示す通りであった。
【0025】
【表1】

【0026】
【表2】

【0027】
比較例1
実施例1と同一の条件で鋳造したACM522合金の円柱の上面に直径2mmの純チタン棒を用いて厚さが2mmとなるようにTIG溶接を試みた。しかしながら、溶接アークによってACM522合金の円柱が溶け落ちた。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】実施例1で得られた複合材の切断面の写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
融点が900K以下の低融点金属の成形部材の表面に、融点が1300K以上の高融点金属の板状部材が摩擦攪拌接合により接合されていることを特徴とする複合材。
【請求項2】
摩擦攪拌接合で接合された板状部材により耐食性、耐熱性、耐クリープ性、熱伝導特性、電気伝導特性、耐摩耗性、摺動性、摩擦特性、溶接性、機械的強度、剛性及び軽量性の少なくとも1つの特性が改善されている請求項1記載の複合材。
【請求項3】
成形部材と板状部材との間に、塑性加工性が成形部材の塑性加工性と板状部材の塑性加工性との間にある板状部材が介在した状態で摩擦攪拌接合により接合されている請求項1又は2記載の複合材。
【請求項4】
摩擦攪拌接合で形成された接合部の厚さが0.05〜5ミリである請求項1〜3の何れかに記載の複合材。
【請求項5】
摩擦攪拌接合による接合がスポット接合、線状接合又は面接合である請求項1〜4の何れかに記載の複合材。
【請求項6】
成形部材と板状部材との接合がクラッド接合である請求項1〜5の何れかに記載の複合材。
【請求項7】
成形部材が鋳造で成形したアルミニウム、アルミニウム合金、亜鉛合金又はマグネシウム合金からなり、板状部材がチタン、チタン合金、銅、銅合金又は鉄合金からなる請求項1〜6の何れかに記載の複合材。
【請求項8】
鋳造がダイカスト鋳造、チクソモールディング、低圧鋳造又は重力鋳造の金型鋳造である請求項7記載の複合材。
【請求項9】
成形部材が鋳造で成形した部材に押出し、圧延、鍛造又はプレスによる塑性加工を施したものである請求項7又は8記載の複合材。
【請求項10】
鋳造で成形したマグネシウム合金製、アルミニウム合金製又はアルミニウム製のエンジンピストン、エンジンブロック又はクランクケースの摩擦部、締結部及び要強度部の少なくとも一部にチタン、チタン合金、銅、銅合金又は鉄合金からなる耐熱性、耐摩耗性、摩擦特性又は機械的強度に優れた板状部材が摩擦攪拌接合により接合されている請求項7〜9の何れかに記載の複合材。
【請求項11】
複合材が自動車等輸送機器、民生電機・情報家電機器、汎用エンジンの部品、船舶・航空・宇宙・軍需用の部材、土木建設・建築資材、原子力発電・火力発電所の資材である請求項1〜9の何れかに記載の複合材。
【請求項12】
成形部材の表面に板状部材を摩擦攪拌接合により接合させる際に、すくなくとも該板状部材を予熱して摩擦攪拌接合を実施することを特徴とする請求項1〜11の何れかに記載の複合材の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2010−5687(P2010−5687A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−170560(P2008−170560)
【出願日】平成20年6月30日(2008.6.30)
【出願人】(000006183)三井金属鉱業株式会社 (1,121)
【Fターム(参考)】