説明

複合材料および装飾品

【課題】可視光領域における反射率が、赤色波長領域で極大、あるいは、青色波長領域で極小となるように管理する方法では、極値が製造条件の変動によって目標とする波長からずれ易いため、色調が安定しづらいという不具合がある。
【解決手段】Ptを主成分とする1または複数の第1相と、Cuを含む1または複数の第2相と、を有し、かつ、表面における自然光の反射率が可視光領域の波長に対して単調増加するとともに、変曲点を波長520〜600nmの範囲に有すること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、PtおよびCuを含む複合材料とこれを少なくとも一部に使用した装飾品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年嗜好の多様化によりPtに関して多色化が求められている。例えばPtを含むピンク色の金属材料としては、In−PdとPt−In合金の金属間化合物とを混合したものがある(たとえば特許文献1参照)。
【0003】
また、Ptとアルミニウム(Al)との金属間化合物PtAlにCuを添加し、あるいはPt・Al・Cuを一緒に溶融させることにより、種々の色を発現させることも試みられている(たとえば特許文献2参照)。
【0004】
このような特許文献1,2の金属材料は、可視光領域における反射率の波長依存性を赤色波長領域で大きく、青色波長領域で小さくなるようにすることで、よりピンク発色が強くなるように制御するというものであった(図3、図4参照)。
【特許文献1】特開2000−226625号公報
【特許文献2】特開平3−158430号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1では、Ptの含有量は12重量%となり、これ以上にPt含有量を上げた場合には灰色あるいは黄色を呈してしまい、良好なピンク系発色が望めない。
【0006】
一方、特許文献2では、PtとAlとの金属間化合物PtAlにCuを添加したもの、あるいはPt・Al・Cuを一緒に溶融させて形成したものであるため、その全体が鏡面研磨加工がしづらい金属間化合物となってしまい、良好なPtの輝きを得るのが困難である。
【0007】
さらに、これらの特許文献1,2のような金属材料では、反射率の波長依存性が青色波長領域に極小値、赤色波長領域に極大値を持つものが多い。このような金属材料である場合、製造条件によって極値が敏感に変動しやすいため、目的とする色調に安定しないという不具合もあり得る。
【0008】
例えば、図3では赤色波長側の反射率が高く、青色波長側の反射率が低くなっているが、このようななだらかな変化では、赤色波長領域の広い範囲で高い波長を確保することができない。さらに、黄色〜緑色の波長の影響により、審美性のあるピンク色を得ることが難しくなる。
【0009】
また例えば、図4では特に青色波長領域に極小値があり、極小値の位置する波長が変動し易く、さらに低波長側で増加傾向にあるため、安定したピンク色を得ることが難しくなる。
【0010】
本発明は、審美性に優れたピンク色の複合材料および装飾品を安定して提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の第1の側面においては、Ptを主成分とする1または複数の第1相と、Cuを含む1または複数の第2相と、を有し、かつ、表面における自然光の反射率の波長依存性曲線が、波長400〜700nmにかけて単調増加するとともに、変曲点が波長520〜600nmの範囲にあることを特徴とする。
【0012】
さらに、前記反射率の波長依存性曲線を示す2次導関数の値が、波長400〜700nmにかけて正負正の順で変化することを特徴とする。
【0013】
さらに、前記反射率が波長680nmにおいて70%以上、波長400nmにおいて55%以下であることを特徴とする。
【0014】
さらに、前記第1相は金属間化合物を構成していないPt元素を少なくとも有し、前記第2相はAuとCuとの金属間化合物を少なくとも有し、前記第1相及び第2相中に存在する金属元素の含有率が、Pt25〜75質量%、Cu15〜46質量%、Au9〜25質量%、Pd1〜4質量%であり、Pt、Cu、Au及びPdの総和が99質量%以上であることを特徴とする。
【0015】
また、本発明の第2の側面は、前記複合材料により形成された装飾品を提供するものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、Ptを主成分とする1または複数の第1相と、Cuを含む1または複数の第2相と、を有し、かつ、表面における自然光の反射率の波長依存性曲線が、波長400〜700nmにかけて単調増加するとともに、変曲点が波長520〜600nmの範囲にあることにより、赤色波長領域で反射率が安定して高く、黄色や緑色波長領域で急激に反射率が下がり、青色の波長領域でさらに反射率を下げることができるので、赤色以外の異なる色が混ざることが低減される。また、可視光領域において反射率の波長依存性曲線に極値が存在しないので、極値の波長位置の変動によって色が不安定になることが低減される。
【0017】
その結果、審美性に優れ、製造条件による影響の少ない安定したピンク色の複合材料の提供を実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下においては、本発明に係る複合材料および装飾品について、図1、図2を例にとって説明する。
【0019】
本発明の一実施形態は、Ptを主成分とする1または複数の第1相と、Cuを含む1または複数の第2相と、を有し、かつ、表面における自然光の反射率の波長依存性曲線が、波長400〜700nmにかけて単調増加するとともに、変曲点が波長520〜600nmの範囲にあるものである。
【0020】
例えば、図1において第1相11はPtを主成分とし、第2相12はCuを主成分とする複合材料1である。このような複合材料1の反射率の波長依存性曲線は、例えば図2に示すものであり、赤色波長領域での反射率を高く維持し易くなる。そして黄色〜緑色波長領域においては、反射率を急激に低減できるので、黄色や緑色の波長が混ざらない鮮やかなピンク発色とさせ易い。さらに、青色波長領域での反射率を安定して抑えることができるので、青色の波長が混ざらない鮮やかなピンク発色とさせ易い。
【0021】
ここで反射率の波長依存性曲線の変曲点は、反射率の波長依存性のデータ(可視光領域を400〜700nmとして、全反射率を1%単位、波長を10nm単位で測定したもの)を用いて最小二乗法で得られた曲線の2次導関数から求めることができる。
【0022】
さらに、本発明の一実施形態は、前記反射率の波長依存性曲線を示す関数の2次導関数の値が、波長400〜700nmにかけて正負正の順で変化することが好ましい。
【0023】
以下、可視光領域における2次導関数の値が正負正のものを凸凹凸の曲線、可視光領域における2次導関数の値が負正負を凹凸凹の曲線として表現する。
【0024】
凸凹凸の曲線であれば凹凸凹の曲線のものよりもさらに、青色波長領域の短波長側で反射率を低減させやすく、黄色〜緑色の波長領域での反射率の変化(青色波長領域から赤色波長領域への反射率の変化)を急峻にすることができ、赤色波長領域での反射率を安定して高く維持することができる。これにより、ピンク発色の色相が変動しづらくすることができる。
【0025】
さらに、本発明の一実施形態は、前記反射率が波長680nmにおいて70%以上、波長400nmにおいて55%以下であることが好ましい。この範囲であれば、赤色波長領域と青色波長領域の反射率の差をより一層顕著にすることで、審美性の高いピンク色を実現し易くした。なお、複合材料1のこれら反射率の測定については、算術平均表面粗さが0.030μm以上0.054μm以下の範囲で研磨した試料を使用する。
【0026】
さらに、本発明の一実施形態では、前記第1相は金属間化合物を構成していないPt元素を少なくとも有し、前記第2相はAuとCuとの金属間化合物を少なくとも有し、前記第1相及び第2相中に存在する金属元素の含有率が、Pt25〜75質量%、Cu15〜46質量%、Au9〜25質量%、Pd1〜4質量%であり、Pt、Cu、Au及びPdの総和が99質量%以上であることが好ましい。ピンク系色Ptを作製するためには、有色金属をPt中に固溶させずに保持することによって達成することができ、これにより、色合いが銅の色に近くなりすぎないピンク色とすることができる。これは金属白色の金属間化合物PtCuに対して、赤色の金属間化合物AuCuの割合が多くすることができるためであり、この組成はこれを実現するようにPtCuやAuCuとして消費されるCuの組成を考慮して配合されている。なお組成は、EDS(エネルギー分散型X線分析)半定量分析によって計算することができる。すなわち、表面から数μmの深さ領域より発生する特性X線を検出して、各元素分析を行い、そのピーク強度から組成を計算することができる。
【0027】
次に、本発明の複合材料の製造方法を、放電プラズマ焼結法により指輪1を形成する場合を例にとって説明する。
【0028】
まず、複合材料全体に存在する金属元素の含有率が、Pt25〜75質量%、Cu15〜46質量%、Au9〜25質量%、Pd1〜4質量%であり、Pt、Cu、Au及びPdの総和が99質量%以上となるように、Ptを含むPt粉末と、Cuを含むCu粉末との混合粉末を調合し、平均粒径が45〜106μm、純度が99.9%以上のものとするのが好ましい。
【0029】
次いで、混合粉末を焼結金型内に充填してリング形状に成形した後、この成形体に対して、真空雰囲気中で、低電圧でパルス状電流を印加する。これにより、成形体の粒子の間隙において、放電プラズマが瞬間的に発生し、成形体が焼結される。ここで、成形体を形成するときの成形圧力は、たとえば100MPa以上550MPaとされる。複合材料1に気孔が発生せず、原料充填による応力集中で金型が破損することもない。焼成温度は、たとえば200℃以上500℃以下とされる。焼成温度を200℃以上500℃以下とすれば、焼結不良や過焼成により脆くならない。印加パルス電圧は、たとえば4V以上20V以下とされる。印加パルス電圧を4V以上20V以下とすれば、充分な放電が起き、異常放電が起きづらいため、目的とする組織状態が得易くなる。昇温・保持時間を含めた焼結時間は、概ね5〜20分程度の比較的短時間である。
【0030】
本発明は、指輪、首飾り、ブレスレット、時計およびメガネなどの装飾品に限らず、たとえば食器、置物、ゴルフクラブ、携帯電話、ボタンとして使用することもできる。
【実施例】
【0031】
(実施例1)
まず、反射率の波長依存性と色相及びその安定性との対応について実施例を示す。
(試料の作製)
混合粉末を焼結金型においてリング状に成形した後、放電プラズマ焼結法によりリング状に形成し、試料のサイズは、内径19.8mm、外径23mm、厚み5mmに設定した。
【0032】
具体的には、Ptを含むPt粉末と、Cuを含むCu粉末とを、Ptを25〜75質量%、Cuを15〜46質量%、Auを9〜25質量%、Pdを1〜4質量%有し、Pt、Cu、Au及びPdの総和が99.9質量%を占めるように制御した混合粉末とした。Pt粉末、Cu粉末としては、平均粒径が45〜106μm、純度が99.9%以上のものを使用した。成形圧力は、100MPa〜550MPa、焼成温度は、200℃以上500℃以下、印加パルス電圧は、4V〜20V、焼結時間は、5〜20分の範囲で制御した。
【0033】
反射率の波長依存性の短波長側の変曲点を変曲点1、長波長側の変曲点を変曲点2としたとき、変曲点1における反射率を43〜47%、変曲点2における反射率を73〜77%の範囲のものを採用して比較評価している(参考例5,6を除く)。ここで、参考例1,2,3,4の変曲点1,2は、原料の粒径を制御することで調節でき、参考例5,6の400nmと680nmにおける反射率は、PtとCuとの比を制御することで調節できる。通常、反射率の波長依存性の曲線は凸凹凸の曲線を示す。凹凸凹の曲線であっても使用可能であるが、試料自体を作成するのが難しく、凸凹凸の曲線の方が本発明の効果には適しているので、ここでは説明しないこととする。
【0034】
(反射率の波長特性)
反射率は、表面を鏡面加工した試料について、「CM−3700d」(ミノルタ株式会社)を用いて測定した。鏡面加工は、バフを用いて研磨することにより、算術平均表面粗さRaが0.030μm以上0.054μm以下の範囲となるように行なった。基準光源はJIS規格(Z−8720)より「測色用標準イルミナント(標準の光)及び標準光源」として「D65」とし、視野角は10°に設定した。波長特性は、ピーク波長を400nm〜700nmの範囲で変化させたときの全反射光の反射率として評価した。
【0035】
(色の評価)
色の評価は、Labの分析装置として、コニカミノルタ社製分光測定計CM−508dを用い、JIS Z 8729に準じて測定した結果を表1に示した。理想的なLabとしては、L=80以上、B=3〜6、b=6〜10が好ましい。
【0036】
(安定性)
ここで試料の安定性とは、組織状態の均一性で評価し、20倍の工場顕微鏡で表面を観察したときに、ピンク発色していない部分が確認されない場合は○、ピンク発色していない部分が確認された場合×を付している。
【0037】
以上の結果を表1に示す。
【0038】
【表1】

【0039】
(結果の考察)
試料1(参考例1)では変曲点1が500nmに位置しているので、青色波長領域での反射率の低減が不十分なため、色相が紫色に近くなる。試料5(参考例2)では変曲点2が620nmに位置しているので、黄色〜緑色波長領域での反射率の低減が不十分なため、色相が橙色に近くなる。
【0040】
試料12(参考例3 特許文献1の(イ))、試料13(参考例4 特許文献2のNo5)においては、いずれも短波長側で反射率が上がっているため、ピンク色として審美性が悪く、さらに、青色波長領域に極小値を有するため均一性が悪く色相が安定しない。
【0041】
一方、試料2,3,4,6,7,8,9,10,11では、短波長側の変曲点1および長波長側の変曲点2がともに520〜600nmの範囲にあることで、短波長側の反射率を低減できるので、より鮮やかなピンクを呈することが可能になる。特に可視光領域では上に凸凹凸となっていれば、長波長側の反射率を積算で多く得ることができるので、どの位置でもより安定して審美性の高いピンク色を呈することが可能になる。また、400nmと680nmにおける反射率が離れていれば、より鮮やかなピンク発色を得ることができる。
【0042】
(実施例2)
次に、複合材料の組成と色相との対応について実施例を示す。
【0043】
(試料の作製)
粉末全体での組成は表2に示した通りとし、他は実施例1と同様に作製した。
【0044】
ここで、金属白色の金属間化合物PtCuに対して、赤色の金属間化合物AuCuの割合を多くするため、PtCuやAuCuとして消費されるCuの組成を考慮するため、CuとAuの比については概ね固定されている。
(色の評価)
実施例1と同様に評価した。
【0045】
以上の結果を表2に示す。
【0046】
【表2】

【0047】
(結果の考察)
表2から分かるように、まず色に関して色相では、試料No.15〜19、21、22は、視認可能なピンク色を呈していた。これに対して、試料No.14(参考例5)は、Pt組成が多すぎるためピンク色を呈するものではなかった。また色に関して明度では、試料No.20(参考例6)はPtが少なすぎるため、Pt本来の輝き(明度)を得ることができなかった。
【0048】
以上の結果から、本発明の試料No.15〜19、21、22のように、審美性のあるピンク色の金属光沢を維持したもの提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明に係る複合材料における組織状態の一実施形態を示す模式図である。
【図2】本発明に係る複合材料における一実施形態の反射率の波長依存性のグラフである。
【図3】従来の複合材料における一実施形態の反射率の波長依存性のグラフである。
【図4】従来の複合材料における一実施形態の反射率の波長依存性のグラフである。
【符号の説明】
【0050】
1 複合材料
11 第1相
12 第2相

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Ptを主成分とする1または複数の第1相と、Cuを含む1または複数の第2相と、を有し、かつ、表面における自然光の反射率の波長依存性曲線が、波長400〜700nmにかけて単調増加するとともに、変曲点が波長520〜600nmの範囲にあることを特徴とする複合材料。
【請求項2】
前記反射率の波長依存性曲線を示す2次導関数の値が、波長400〜700nmにかけて正負正の順で変化することを特徴とする請求項1に記載の複合材料。
【請求項3】
前記反射率が波長680nmにおいて70%以上、波長400nmにおいて55%以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の複合材料。
【請求項4】
前記第1相は金属間化合物を構成していないPt元素を少なくとも有し、前記第2相はAuとCuとの金属間化合物を少なくとも有し、前記第1相及び第2相中に存在する金属元素の含有率が、Pt25〜75質量%、Cu15〜46質量%、Au9〜25質量%、Pd1〜4質量%であり、Pt、Cu、Au及びPdの総和が99質量%以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の複合材料。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の複合材料を用いたことを特徴とする装飾品。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−287084(P2009−287084A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−140624(P2008−140624)
【出願日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】