説明

複合材料の製造方法

【課題】プリフォームへの含浸時の反応を軽減することができ、クラックの発生を防止することができる複合材料の製造方法を提供する。
【解決手段】炭化ホウ素の強化材と金属ケイ素のマトリックスとからなる複合材料の製造方法であって、炭化ホウ素のプリフォーム130から分離して、溶融金属ケイ素に炭化ホウ素含有材料140を混合し事前溶解させ、炭化ホウ素含有材料140を混合した事前溶解材料をプリフォーム130に含浸させる。このように、金属ケイ素の含浸前に金属ケイ素に炭化ホウ素を溶け込ませることで、プリフォーム130への含浸時の反応を軽減することができ、クラックを防止することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化ホウ素の強化材と金属ケイ素のマトリックスとからなる複合材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、炭化ホウ素の強化材と金属ケイ素のマトリックスとの複合材料(以下、BC/Si複合材料)が様々な分野で利用されている。このような複合材料の製造工程において金属ケイ素を炭化ホウ素のプリフォームへ含浸させる際に炭化ホウ素の強化材と反応し、クラックが生じる場合がある。そして、このようなクラックの防止するための炭化ホウ素複合体の製造方法が提案されている(たとえば特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1記載の炭化ホウ素複合体の製造方法は、反応性炭素質成分の不在の下で溶浸を行い、ケイ素化した炭化ホウ素を製造する。そして、ケイ素溶浸材が炭化ホウ素に接触する前に、ホウ素源もしくは炭素源、またはホウ素と炭素の両方をケイ素中に合金化または溶解させることによって炭化ホウ素と溶浸中のケイ素との反応を抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2007−513854号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
図9、図10は、このような従来の炭化ホウ素複合体の製造方法の一場面を示す断面図である。図9、図10に示すように、容器910内に炭化ホウ素のプリフォーム930および炭化ホウ素含有材料940を配置しておき、溶融金属950をプリフォーム930に含有させることで、上記の炭化ホウ素複合体を製造することができる。
【0006】
しかしながら、特許文献1記載の炭化ホウ素複合体の製造方法は、炭化ホウ素成分を事前に金属ケイ素に溶解させることにより炭化ホウ素プリフォームに含浸させているが、十分に事前溶解しないうちに含浸が行われるとクラックが発生しやすくなる。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、プリフォーム含浸時の反応を軽減することができ、クラックの発生を防止できる複合材料の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)上記の目的を達成するため、本発明の複合材料の製造方法は、炭化ホウ素の強化材と金属ケイ素のマトリックスとからなる複合材料の製造方法であって、炭化ホウ素のプリフォームから分離して、溶融金属ケイ素に炭化ホウ素含有材料を混合し事前溶解させ、前記炭化ホウ素含有材料を混合した事前溶解材料を前記プリフォームに含浸させることを特徴としている。
【0009】
このように、金属ケイ素の含浸前に金属ケイ素に炭化ホウ素を溶け込ませることで、プリフォームへの含浸時の反応を軽減することができ、クラックを防止することができる。
【0010】
(2)また、本発明の複合材料の製造方法は、炭化ホウ素の強化材と金属ケイ素のマトリックスとからなる複合材料の製造方法であって、外容器内に溶融金属を浸透可能にする内容器を設置し、前記外容器内で内容器外に炭化ホウ素のプリフォームを設置し、前記内容器内に金属ケイ素および炭化ホウ素含有材料を設置する工程と、前記内容器内で金属ケイ素を溶融させ、前記炭化ホウ素含有材料を溶融金属ケイ素に混合し事前溶解させ、事前溶解材料を生成する工程と、前記事前溶解材料に前記内容器を浸透させ、前記内容器を浸透した事前溶解材料を前記プリフォームに含浸させる工程とを含むことを特徴としている。
【0011】
このように、あらかじめ内容器内で溶融金属ケイ素に炭化ホウ素を溶け込ませ、その事前溶解材料の内容器からの浸透を利用して、プリフォームに含浸させることで、プリフォーム含浸時の反応を軽減することができ、クラックを防止することができる。
【0012】
(3)また、本発明の複合材料の製造方法は、前記内容器は、カーボン製シートにより形成されていることを特徴としている。これにより、溶融ケイ素がカーボンと反応しつつ、内容器を浸透するため、溶融金属をプリフォームに含浸させることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、プリフォーム含浸時の反応を軽減することができ、クラックの発生を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】第1の実施形態に係る複合材料の製造方法の一場面を示す平面図である。
【図2】第1の実施形態に係る複合材料の製造方法の一場面を示す断面図である。
【図3】第1の実施形態に係る複合材料の製造方法の一場面を示す断面図である。
【図4】第1の実施形態に係る複合材料の製造方法の一場面を示す断面図である。
【図5】第1の実施形態に係る複合材料の製造方法の一場面を示す断面図である。
【図6】第2の実施形態に係る複合材料の製造方法の一場面を示す断面図である。
【図7】第2の実施形態に係る複合材料の製造方法の一場面を示す断面図である。
【図8】第2の実施形態に係る複合材料の製造方法の一場面を示す断面図である。
【図9】従来の複合材料の製造方法の一場面を示す断面図である。
【図10】従来の複合材料の製造方法の一場面を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。また、説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては同一の参照番号を付し、重複する説明は省略する。
【0016】
[第1の実施形態]
本発明に係るBC/Si複合材料(複合材料)は、炭化ホウ素の強化材と金属ケイ素のマトリックスとからなり、マトリックス中に強化材が分散した構造を有している。BC/Siは、炭化ホウ素(BC、ボロンカーバイド)のプリフォームに金属ケイ素を含浸することで得られる。用いられる金属ケイ素は、単体でも合金でもよい。なお、BC/Si複合材料は、実質的に炭化ホウ素の強化材と金属ケイ素のマトリックスとからなるものであり、若干の不純物を含んでいてもよい。
【0017】
図1は、複合材料の製造方法の一場面を示す平面図、図2〜図5は、複合材料の製造方法の一場面を示す断面図である。図1および図2に示すように、まず外容器110内に、内容器120を設置し、外容器110の内で、内容器120の外に、炭化ホウ素のセラミック多孔質体からなるプリフォーム130を設置する。なお、図2は、図1の断面Aを矢印の方向から見た断面図である。
【0018】
外容器110は、有底開口の容器であり、溶融金属ケイ素150の含浸時に金属を保持する。そして、内容器120は、有底開口の容器であり、溶融金属を保持しうるが、容器の壁が孔径の細かい多孔体で形成されている。したがって、溶融金属を保持しつつ、所定時間後は浸透により透過する。このように、内容器120は、所定時間、溶融金属を分離できるものが好ましい。このような内容器120は、カーボン製シートを折り込んで作製できる。これにより、溶融金属ケイ素150を溶融させたとき、溶融金属がカーボンと反応しつつ、内容器を浸透するため、内容器120を透過した溶融金属をプリフォームに含浸させることができる。
【0019】
カーボン製シートは、比重1程度の多孔体であることが好ましく、その場合の厚さは、0.4〜0.8mm程度であることが好ましい。なお、内容器120は、金属ケイ素とは濡れ性の悪い窒化ホウ素の箱に細かい孔を開けて事前溶解材料を浸み出させるものでもよい。このように、内容器120は、必ずしも上記のような形態に限られるものではなく、金属ケイ素150への炭化ホウ素含有材料の事前溶解および、事前溶解材料のプリフォーム130への含浸を妨げることがなければどのような仕切りでもよい。
【0020】
次に、内容器120内に、炭化ホウ素含有材料140および金属ケイ素150を設置し、図3に示すように金属ケイ素150を溶融させる。炭化ホウ素含有材料140は、溶融させる金属ケイ素150に対して所定の割合以上含まれたものであればよく、たとえばB4C/Si複合材料の端材でよい。また、炭化ホウ素含有材料140は、塊状であってもよく、粉末であってもよいが、炭化ホウ素を重量比で40%以上含むことが好ましい。
【0021】
これにより、図4に示すように含浸前に分離された金属ケイ素150に炭化ホウ素含有材料140が溶けて反応し、事前溶解材料155が生成される。このように、含浸前に金属にプリフォームを構成する材料を溶け込ませることで、プリフォーム130への含浸時の反応を軽減することができ、クラックを防止することができる。
【0022】
次に、時間を超えると内容器120の側壁から事前溶解材料155が浸み出す。そして、図5に示すように、事前溶解材料155をプリフォーム130に含浸させる。なお、含浸工程において、溶融した金属ケイ素150が直接に接触しないように治具を設け、プリフォーム130を外容器110の底から浮かせてもよい。
【0023】
次に、外容器110内を自然冷却し、室温まで冷却する。このようにして冷却された複合材料160を外容器110から分離して取り出すことで、複合材料160を得ることができる。得られた複合材料160は、たとえば耐衝撃材料として用いることができる。
【0024】
[第2の実施形態]
上記の実施形態では、事前溶解材料155を、直接、プリフォーム130に含浸させるが、熱膨張率を考慮し両者の間にBC/Si複合材料のセッターを介してもよい。炭化ホウ素の熱膨張率は4.5×10−6/K、ケイ素の熱膨張率は2.6×10−6/Kであるため、金属ケイ素の熱膨張率は、強化材を形成する炭化ホウ素の熱膨張率より小さく、(金属ケイ素の熱膨張率)<(複合材料の熱膨張率)<(炭化ホウ素の熱膨張率)の関係が成立している。BC/Siの熱膨張率は3.0×10−6/Kである。
【0025】
図6〜図8は、複合材料260の製造方法の一場面を示す断面図である。図6に示すように、まず外容器110内に、セッター270を敷き、セッター270上に、セラミック多孔質体の炭化ホウ素のプリフォーム130を設置する。
【0026】
次に、図7に示すように、内容器120内に設置した金属ケイ素150を溶融させる。そして、内容器120内で炭化ホウ素含有材料140を金属ケイ素150に溶かし、事前反応させておく。このようにして、生成された事前溶解材料155を、セッター270を介してプリフォーム130に含浸させる。セッター270を介して事前溶解材料155をプリフォーム130に含浸させるため、複合材料260は、残留金属ケイ素150に、直接、接触しない。
【0027】
事前溶解材料155は、金属ケイ素が主成分であり、プリフォーム130を形成するセラミックスの熱膨張率より小さい熱膨張率を有する。したがって、含浸させる事前溶解材料155の熱膨張率は、得られる複合材料260の熱膨張率より小さい。仮にセッター270を設けていなければ、冷却時の複合材料260の収縮により複合材料260に引張力が生じるが、本実施形態ではBC/Si複合材料のセッター270を設けているため、引張力を小さくすることができる。なお、事前溶解材料155が直接に接触しないようにセッター270上に治具を設け、プリフォーム130をセッター270から浮かせてもよい。
【0028】
次に、図8に示すように、外容器110内を自然冷却し、室温まで冷却する。複合材料260は、セッター270および事前溶解材料155とともに冷却により収縮するが、材質に応じて収縮率が異なる。複合材料260の収縮率は、金属ケイ素150よりもセッター270の収縮率に近い。したがって、セッター270には金属ケイ素150による引張力が働くが、複合材料260に働く引張力はセッター270によるもののみとなり小さくなる。その結果、形成された複合材料260にクラックが発生し難くなる。このようにして冷却された複合材料260をセッター270から分離して取り出すことで、複合材料260を得ることができる。
【0029】
なお、上記のセッター270として炭化ホウ素セラミック多孔質体で形成されているものを用いることもできる。その場合、セッター270を介して事前溶解材料155をプリフォーム130に含浸させるとセッター270にも事前溶解材料155が含浸する。
【0030】
この場合も、事前溶解材料155が含浸したセッター270が複合材料260に直接に接触することになり、複合材料260は、残留金属ケイ素150と接触しない。そして、(金属の熱膨張率)<(含浸工程後のセッターの熱膨張率)の関係が成り立ち、含浸工程に利用した後のセッター270は、製造される複合材料260の熱膨張率以上の熱膨張率を有する。したがって、複合材料260は冷却時に外部との熱膨張差により受ける引張力が小さくなり、複合材料260にクラックが発生し難くなる。
【0031】
このようにプリフォーム130の下に、複合材料260と同様若しくは事前溶解材料155よりもプリフォーム130との熱膨張差が小さい材質のセッター270を敷き浸透することにより、冷却収縮による引張力が軽減される。そして、複合材料260の金属含浸時の残留合金における影響から発生する複合材料260の割れ・クラックを抑制することができる。特に、複合材料260を耐衝撃部材として使用する際には、クラックのような不良は人命にも関わるため、効果が大きい。
【0032】
(実施例)
【実施例1】
【0033】
市販の炭化ホウ素粉末(平均粒径23μm、純度95%以上)にバインダーとして12.8%と水60%を混合したスラリーを型に流しこみ成形したものを、150℃で焼成し、密度1.30g/cmの炭化ホウ素プリフォームを作成した。作成したプリフォームは外容器110内に設置した。また、カーボン製シートを折り込んで形成した内容器には、炭化ホウ素含有材料としてのBC/Si複合材料および含浸に必要量のケイ素合金を入れた。そして、1,410℃で4時間加熱してケイ素合金を溶融させた後、1,550℃で24時間加熱し、事前溶解材料を内容器から透過させると同時に、さらに透過した事前溶解材料をプリフォームに含浸させた。
【実施例2】
【0034】
C/Si複合材料のセッター上にプリフォームを設置した以外は、実施例1の条件と同様にして含浸を行なった。
【0035】
(結果)
実施例1として、SiC等による変質部分のない複合材料を得ることができた。実施例1の複合材料には、クラックは見つからなかった。実施例2は、さらにセッターの設置により残留合金に接触せず浸透を行なうことができた。実施例2の複合材料にもクラックなどの不具合は発生していなかった。
【符号の説明】
【0036】
110 外容器
120 内容器
130 プリフォーム
140 炭化ホウ素含有材料
150 金属ケイ素
155 事前溶解材料
160、260 BC/Si複合材料(複合材料)
270 セッター

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化ホウ素の強化材と金属ケイ素のマトリックスとからなる複合材料の製造方法であって、
炭化ホウ素のプリフォームから分離して、溶融金属ケイ素に炭化ホウ素含有材料を混合し事前溶解させ、
前記炭化ホウ素含有材料を混合した事前溶解材料を前記プリフォームに含浸させることを特徴とする複合材料の製造方法。
【請求項2】
炭化ホウ素の強化材と金属ケイ素のマトリックスとからなる複合材料の製造方法であって、
外容器内に溶融金属を浸透可能にする内容器を設置し、前記外容器内で内容器外に炭化ホウ素のプリフォームを設置し、前記内容器内に金属ケイ素および炭化ホウ素含有材料を設置する工程と、
前記内容器内で金属ケイ素を溶融させ、前記炭化ホウ素含有材料を溶融金属ケイ素に混合し事前溶解させ、事前溶解材料を生成する工程と、
前記事前溶解材料に前記内容器を浸透させ、前記内容器を浸透した事前溶解材料を前記プリフォームに含浸させる工程と、を含むことを特徴とする複合材料の製造方法。
【請求項3】
前記内容器は、カーボン製シートにより形成されていることを特徴とする請求項1または請求項2記載の複合材料の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate