説明

複合材料及びその製造方法

【課題】燃焼合成法(SHS:Self-propagating High-Temperature Synthesis)により製造される複合材料に関し、残存する金属アルミ成分を極力少なくして耐熱性・耐摩耗性を高めるとともに、組織を緻密化して高強度を示す複合材料を簡便な方法で提供することを目的とする。
【解決手段】チタン−アルミ金属間化合物を主成分にする連続相を有する複合材料15において、金属チタン粉末(Ti)及びセラミックス粉末(AlTi)を含む混合粉末12と、溶融させたアルミ11と、を燃焼合成反応させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃焼合成法(SHS:Self-propagating High-Temperature Synthesis)により製造される複合材料及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃焼合成法とは、燃焼反応による発熱により化学反応を連鎖的に起こし目的とする物質を合成する方法である。このように燃焼合成法は、反応熱を利用した合成方法であるため、素材を燃焼合成反応が励起する温度に設定するだけで、エネルギーを投入することなく、物質の合成を進行させることが可能で、省エネルギーの観点からも注目されている。
しかし燃焼合成法は、反応が急激で急速な温度上昇を伴うため、生成する複合材料が膨張するなどの諸問題が発生やすく、反応の制御が難しい。このため、燃焼合成反応を安定化させつつ所望の特性を複合材料に付与することの困難性が欠点となり、現時点で、工業的な応用が進んでいないのが実情である。
【0003】
このような欠点を克服し所定の特性を付与するため以下のような公知技術が存在する。
(1)燃焼合成反応と同時に加圧操作を組み合わせて、緻密でかつ接合性に優れた特性を複合材料に付与する技術が開示されている(例えば、特許文献1,2)。
(2)アルミ複合材料からなる基材の上に燃焼合成が可能な粉末層を設ける。そして、燃焼合成反応を起して粉末層をセラミックス化(複合化)するとともに、その反応熱により基材と粉末層との界面においても燃焼合成反応を起こし接合を強固にする技術が開示されれている(例えば、特許文献3)。
(3)溶融アルミを浸透させて燃焼合成反応を起こし、アルミナイド金属間化合物を含んだ複合材料を得る方法において、空隙率や金属の体積率を制御してアルミの浸透を促進し、結合が強固になる特性を複合材料に付与する技術が開示されている(例えば、特許文献4−7)。
【特許文献1】特開平9−71479号公報
【特許文献2】特開平11−172351号公報
【特許文献3】特開平5−148614号公報
【特許文献4】特開2004−211109号公報
【特許文献5】特開2004−346368号公報
【特許文献6】特開2004−307883号公報
【特許文献7】特開2004−353087号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1,2に開示されている技術では、複合材料の構成材料の間で焼結時の収縮率が異なるために、割れ・剥離が生じやすい問題がある。さらに、複合材料への加圧操作が不可欠となるため、設備が大規模化し、複雑形状やニアネットシェープの成形が困難化し追加工が必要になる問題がある。また焼結温度が大きく相違する構成材料を複合化することが困難な問題がある。
また、特許文献3に開示されている技術では、燃焼合成反応により放出される反応熱が基材で冷やされるため、基材と粉末層との接合に寄与する反応が途中で停止してしまい、充分な接合強度が得られない問題がある。これを改善するため燃焼合成における反応熱を大きくすると粉末層が多孔質になったり膨張したりして目的の構造を有する複合材料が得られない問題がある。
そして、特許文献4−7に開示されている技術は、燃焼合成による反応熱により温度上昇させ溶融アルミの濡れ性を向上させて浸透力を高め、空間や粒子間の間隙を充填し、緻密な複合材料が得られる方法である。しかし、特許文献4−7(特許文献1−3も同様)の複合材料の組織には、金属アルミ成分が多く残存するため、摺動材などとして高温・高負荷環境で使用すると溶融して相手材に溶着したり磨耗したり複合材料自体が破壊したりす問題がある。
本発明は、このような問題を解決することを課題とし、複合材料に残存する金属アルミ成分を極力少なくして耐熱性・耐摩耗性を高めるとともに、組織を緻密化して高強度を示す複合材料を簡便な方法で提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記した課題を解決するために、本発明は、チタン−アルミ金属間化合物を主成分にする連続相を有する複合材料を、金属チタン粉末及びセラミックス粉末を含む混合粉末と、溶融アルミと、を燃焼合成反応させて成すことを手段にする。
発明がこのような手段から構成されることにより、前記混合粉末に溶融アルミが浸透する際に、前記金属チタン粉末及び前記溶融アルミから前記チタン−アルミ金属間化合物が生成し発熱する第1化学反応を起し、この発熱を利用して前記セラミックス粉末及び残存する前記溶融アルミからアルミ系化合物が生成し吸熱する第2化学反応を起すことになる。
これにより、燃焼合成反応の急激さを緩和するとともに、複合材料に残存ずる金属アルミ成分を低減させることができる。
【0006】
さらに前記セラミックス粉末は、平均粒径が1〜3μmの範囲に含まれることを手段とし、また前記混合粉末は、配合される前記金属チタン粉末及び前記セラミックス粉末のモル比が1:3.5〜1:20の範囲に含まれることを手段としている。
発明がこのような手段から構成されることにより、燃焼合成反応を励起するのに必要な焼成温度を従来よりもはるかに低い900〜1200℃に設定することが可能になる。更に、セラミックス粉末と溶融アルミとの第2化学反応が促進されることとなり、燃焼合成反応を安定化させるとともに残存する金属アルミ成分がほとんど無い複合材料が得られる。
【0007】
また、前記セラミックス粉末は、TiO、NiO、SiO、Nb、B、MnO、FeO、Fe、CuO、CuO、ZnO、TiN、FeN、Ca、MoNから選択される化合物のうち少なくとも一つを含むことを手段としている。
発明がこのような手段から構成されることにより、前記セラミックス粉末が金属窒化物である場合は、複合材料の連続相中に、窒化アルミを含む分散相が形成される。また、前記セラミックス粉末が金属酸化物である場合は、複合材料の連続相中に、酸化アルミを含む分散相が形成されることになる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、燃焼合成反応の急激な反応を抑制できるので組織を緻密化して、高強度の複合材料が提供される。そして、内部に残存する金属アルミ成分を極力少なくできるので、耐熱性・耐摩耗性の高い複合材料が提供される。またこのような複合材料を簡便な方法で提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
図面を参照して、本発明について説明する。
図1は、本発明の実施形態を示す複合材料の製造方法の工程図である。
図1(a)に示すように、るつぼ13内に混合粉末12を敷き詰め、さらにその上に固体アルミ(Alインゴット11)を設置する。
ここで、混合粉末12は、少なくとも金属チタン粉末(以下、Ti粉末という)及びセラミックス粉末(TiN)を含むものである。なお混合粉末12は、るつぼ13内でタッピング充填して敷き詰めるが、予め圧粉成形してこれを底面に載置してもよい。
【0010】
図1(b)に示すように、るつぼ13は、混合粉末12上にAlインゴット11を接触配置させ、これらを均一に加熱することができる焼成炉14に設置される。この焼成炉14は、Alインゴット11を溶融させるとともに、後記する燃焼合成反応を励起するのに必要なエネルギーを供給するものである。
このように、焼成炉14にセットされた直後のAlインゴット11と混合粉末12との界面部分は、図1(f)にその断面の概念図で示すように、隣接するTi粉末及びTiN粉末に適度の間隙を有している。
【0011】
図1(c)に示すように、焼成炉14の焼成温度Tを、後に生成するAlTi(チタン−アルミ金属間化合物)の溶融温度以下でかつAlインゴット11の溶融温度以上に設定する。すると、Alインゴット11の一部が融解し、図1(g)に示されるように、溶融アルミが、Ti粉末及びTiN粉末の連続した間隙を充填して図1(d)に示すように混合粉末12の全体に浸透していく。
【0012】
このように、溶融アルミが充填さていく過程において、次の反応式(1)(2)に示されるような燃焼合成反応が進行することになる。反応式(1)は、溶融アルミ及びTi粉末が化学反応(以下、「第1化学反応」という)してAlTi(チタン−アルミ金属間化合物)を生成する発熱反応である。そしてこの第1化学反応が連鎖的に起こり、溶融アルミが、瞬時に混合粉末12に浸透していくことになる。またTi粉末及びTiN粉末の間隙がAlTi(チタン−アルミ金属間化合物)を主成分にする連続相に置換されていくことになる。
【0013】
<燃焼合成反応>
3Al + Ti → AlTi + 146kJ (1)
Al + TiN + 20kJ → AlN + Ti (2)
【0014】
そして、図1(h)及び反応式(2)に示されるように、第1化学反応の発熱を利用して残存する溶融アルミ及びTiN(セラミックス粉末)が化学反応(以下、「第2化学反応」という)を起してAlN(アルミ系化合物)を生成して吸熱する。そもそもTiNの存在によるヒートマス向上効果がある上に、更にこの吸熱により、第1化学反応(発熱)による急激な温度上昇が抑制され、これにより燃焼合成反応の全体が安定的に進行することとなる。また、焼成炉14内の焼成温度Tは、連続相を形成するAlTi(チタン−アルミ金属間化合物)の溶融温度より低く設定されているために、複合材料15は膨張することなく良質なものが得られる。
なお第2化学反応(反応式(2))において生成した金属チタン(Ti)は、反応式(1)によりAlTi(チタン−アルミ金属間化合物)に変化することとなる。
【0015】
図1(e)に示されるように、燃焼合成反応が終了して生成した複合材料15は、室温に戻された後、るつぼ13から取り外される。図1(i)は、複合材料15の断面を顕微鏡観察したものである。これより、複合材料15は、第1化学反応(発熱)により生成したAlTi(チタン−アルミ金属間化合物)を主成分にする連続相と、第2化学反応(吸熱)により生成したAlN(アルミ系化合物)及び未反応のTiN(セラミックス粉末)が均一に分散した分散相と、から形成され、金属アルミがほとんど残存し無い緻密な組織を備えていることがわかる。
なお、実施形態において複合材料15は、残留アルミ相と複合化相とが二層に分離したものを示しているが、このような形態に限定されるものでなく、残留アルミ相に複合化相が部分的に分散する場合、残留アルミ相と複合相とが全体的に分散する場合も含まれる。
【0016】
次に、図2を参照して混合粉末におけるTi粉末とTiN(セラミック粉末)との最適混合率について検討を行う。
図2は、焼成温度Tを900℃、1000℃、1200℃、1400℃に設定した際、混合粉末(Ti/TiN)の各混合率における反応到達温度を曲線(A,B,C,D)としてそれぞれ示すグラフである。
これら反応到達温度曲線A,B,C,Dは、混合粉末(Ti/TiN)の各混合率における反応エンタルピー変化から導いた理論曲線である。
【0017】
ところで、前記したとおり、連鎖的な燃焼合成反応を安定的に起させるためには、混合粉末(Ti/TiN)の反応到達温度が、AlTi(チタン−アルミ金属間化合物)の溶融温度以下でかつAlインゴット11の溶融温度以上である必要がある。すなわち、図2中、安定反応域Eに示されるように、反応到達温度曲線A,B,C,Dが、Alの流動域でかつAlTiの固定域に含まれるように混合粉末(Ti/TiN)の混合率を設定する必要がある。
【0018】
図3は、混合粉末と金属Alとの混合物の示差熱分析(DTA:Differential Thermal Analysis)結果を示すグラフである。図3(a)は混合粉末の混合率がTi−90体積%TiNのものを示し、図3(b)はTi−95体積%TiNのものを示している。
このDTA測定結果より、チタン−アルミ金属間化合物を形成する燃焼合成反応の励起温度を認定することができる。すなわち、図3(a)(b)からは発熱ピークがそれぞれ885℃及び835℃近傍に観測されていることから、この温度域を燃焼合成反応の励起温度と認定することができる。説明が前後したが、図2における反応到達温度曲線A,B,C,Dで焼成温度Tが900℃以上に設定されているのは、燃焼合成反応の励起温度よりも高温に設定する必要があるためである。
【0019】
またこの励起温度におけるDTA曲線のピーク形状から混合粉末の各組成における燃焼合成反応の急激さについて定性的な分析が可能になる。この図3(a)と図3(b)のDTA曲線のピーク形状を対比すると、前者のピークの方が、強度ならびに面積が大きいといえる。つまり、混合粉末においてTiN(セラミックス粉末)の混合率が高まる程、燃焼合成反応の急激さが抑制される結果が得られた。この結果は、先に説明した燃焼合成反応(反応式(1)(2))及び後に図4を参照して説明する実験結果との整合がとれているといえる。
【0020】
図4(a)に示す表は、焼成炉14(図1参照)の焼成温度Tを800〜1400℃の範囲で設定し、Ti/TiN混合率をTi混合率0〜100%の範囲で条件を変えて燃焼合成反応させ、その反応の安定性を評価した結果を示す表である。これらのうち、砂地模様を付した条件設定の結果については図4(b)において断面の全体観察写真を、図4(c)において部分断面の顕微鏡観察写真を掲載した。
【0021】
図4(a)に示されるように、TiN混合率が80%未満の結果については、焼成温度に無関係で不安定反応(×1,×2,×3)を示している。これらのうち(×3)で示される条件設定においては図4(b)の対応する全体観察写真に示すように、反応により複合材料の形状が大きく変形したり、内部に多孔質状態が見られた。
このようになる理由は、図2に示すように、TiN混合率が80%未満では、反応到達温度曲線A−DがいずれもAlTiの流動域にあることの関連性が示唆される。すなわち、TiN混合率が80%未満の組成においては、急激に燃焼合成反応が励起し、複合材料の連続相を構成するAlTiが流動する程高温になるためと考えられる。またTiN混合率が0%の結果が急激な膨張(×1)を示す不安定反応であるのも同様の理由と考えられる。
【0022】
また、図4(a)で焼成温度Tが800℃の結果については、TiN混合率に無関係で、部分的にしか燃焼合成反応しない不安定反応(×2)を示している。このようになる理由は、金属Ti粉末と溶融アルミとが燃焼合成反応する励起温度が、図3に示すように、800℃より高温(835℃、885℃)であることの関連性が示唆される。
すなわち、焼成温度が800℃では、燃焼合成反応が励起しないため、溶融アルミの混合粉末への浸透がすすまないことによると考えられる。
またTiN混合率が96%(モル比で1:20)より大きい場合も、不安定反応(部分反応(×2)、未浸透状態(×4))を示すのは、一部が燃焼合成反応しても反応到達温度が励起温度に到達しないため連鎖反応がすすまないためと考えられる。このため溶融アルミがセラミック粉末(TiN)中に浸透できないと考えられる。
【0023】
一方で、図4(a)で焼成温度が900℃から1200℃までで、TiN混合率が93%から96%にかけては、残留アルミ相と複合相とが明確な分離を示す程の安定反応◎を示している(図4(b)の◎に該当する全体観察写真を参照)。また図4(c)のうち安定反応◎に該当する顕微鏡写真からは、複合層の組織が非常に緻密であることがわかる。ただし、焼成温度Tが高くなると、残留アルミ中へAlTi成分が分散していく程度が大きくなるといえる。
また図4(a)で焼成温度が1400℃で、TiN混合率が80%から96%にかけては、残留アルミ相と複合相とが全体的に分散する程度の安定反応△を示している(図4(c)の△に該当する全体観察写真を参照)。
【0024】
以上の結果より、混合粉末12(図1参照)は、配合される金属チタン粉末(Ti)及び前記セラミックス粉末(TiN)のモル比が1:3.5〜1:20(セラミック粉末の混合率において80%から96%)の範囲に含まれることが好ましいといえる。
前記範囲の下限であるモル比1:3.5未満の範囲においては、複合材料15が多孔質状態を示す程度に燃焼合成反応が不安定となる。また前記範囲の上限であるモル比1:20を超える範囲においては、複合材料15が部分反応又は未浸透状態を示す程度に燃焼合成反応が不安定となる。
【0025】
図5は、本発明の実施品(実施例)、鋳鉄FC250(比較例1)、金属アルミ材(実施例2)からなる試験片を作製し引き摺り試験による摺動耐熱限界性を評価したグラフである。
実験条件は、5kg・mのトルクをかけた状態で、回転板の回転速度を500rpmとし、相手材としてフェノール樹脂複合材とした。
結果は、本発明の実施品(実施例)では、到達温度が747℃の表面耐熱性を示し、鋳鉄FC250(比較例1)の表面耐熱性(到達温度797℃)とほぼ同等の結果が得られた。また本発明の実施品(実施例)は、金属アルミ(比較例2)の表面耐熱性(到達温度501℃)よりも優れた結果が得られた。
本発明の実施品の複合材料が、このような高温・高強度性能を備えるのは、高温特性に優れるチタン−アルミ金属間化合物を主成分とする連続層を有し、組織が緻密化していることに関連すると考えられる。
【0026】
次に、燃焼合成反応を良好に進行させるに必要なセラミック粉末(TiN)の粒子径の最適範囲について検討する。
図6に示す表は、焼成温度(900〜1400℃)、金属チタン粉末(Ti)の粒子径(45〜250μm)、セラミックス粉末(TiN)の粒子径(1〜53μm)の範囲で条件を変えて燃焼合成反応させ、反応安定性の評価を示す表である。
この結果より、セラミックス粉末は、平均粒径が1〜3μm、より好ましくは1〜1.5μmの範囲に含まれる。
【0027】
この平均粒径が下限の1μm未満であれば、TiNがTi粉末の周囲に凝集しAl−Ti間の接触を阻害するため、前記した第1化学反応(発熱)が抑制されて連鎖的な燃焼合成反応がすすまないと考えられる。一方この平均粒径が上限の3μmより大きければ、溶融アルミとセラミック粉末とが接触する有効面積が低下すると考えられる。その結果、前記した第2化学反応(吸熱)が抑制されて、第1化学反応(発熱)が急激に進行してしまうと考えられる。
【0028】
次に、混合粉末12(図1参照)に混合するセラミックス粉末としてTiN以外にも適用することができる他の物質について検討する。
図7に示す表は、混合粉末に混合されるセラミックス粉末として金属酸化物(Al,SiO,TiO,ZrO,CaO,MgO,NiO)、金属窒化物(BN,TiN)を適用した場合、燃焼合成反応の反応安定性の評価した表である。そして、目視評価において、○は健全な良品を示し、△は溶融アルミの一部未浸透部が有ることを示し、×は激しく反応して膨張したことを示している。
さらに、第1化学反応(発熱)により生成し複合材料の連続相を構成するチタン−アルミ金属間化合物(AlTi)と、第2化学反応(吸熱)により生成し分散相を構成するアルミ系化合物(Al,AlN…)と、未反応のまま分散相を構成するセラミック粉末と、残留アルミ(Al)との組成比率を表すX線回折分析(XRD:X-Ray Diffraction spectroscopy)結果も示している。
【0029】
前記した摺動耐熱特性の観点から、複合材料中に含まれるチタン−アルミ金属間化合物(AlTi)は多く、Alは少なく検出されることが好ましい。また安定的に燃焼合成反応を進行させる観点から、第2化学反応(吸熱)を進めてアルミ系化合物が多く生成されることが好ましいといえる。
そこでXRD分析より、Al含有量が多くアルミ系化合物が少なく検出されるもの(例えば、図7(6)(7)(8))は、第2化学反応(吸熱)が稀なために燃焼合成反応が不安定であることが示唆され、目視による浸透反応の評価結果(△)と一致する知見が得られた。
【0030】
この図7に示される評価結果と記載省略した実験結果とより、セラミックス粉末は、実施形態に示したTiNの他、FeN、Ca、MoNや、金属酸化物であるTiO、NiO、SiO、Nb、B、MnO、FeO、Fe、CuO、CuO、ZnO等の化合物も有効である知見が得られた。また、これらの化合物のうち複数を選択して適用することも有効である知見が得られた。
【0031】
以上説明したように、本発明では、複合材料に残存する金属アルミ成分が極力少なくなるのでこの複合材料の耐熱性・耐摩耗性を高めることができる。さらに、この複合材料は緻密な組織を有するため高強度を示す。また特別な設備を利用することなく燃焼合成法(SHS)を実行できるので、複合材料を簡便な方法で提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】(a)〜(e)は本発明の実施形態を示す複合材料の製造方法の工程図であり、(f)〜(h)はそれぞれの工程における複合材料の断面の概念図であり、(i)は最終工程における複合材料の断面のSEM観察図である。
【図2】焼成温度を900℃、1000℃、1200℃、1400℃に設定した際、混合粉末(Ti/TiN)の混合率における反応到達温度を曲線としてそれぞれ示すグラフである。
【図3】(a)Ti/90体積%TiN(b)Ti/95体積%TiNの混合率を示す混合粉末と金属Alとの混合物の示差熱分析(DTA)結果を示すグラフである。
【図4】焼成温度(800〜1400℃)、Ti/TiN混合率(Ti混合率0〜100%)の範囲で条件を変えて燃焼合成反応させ、反応安定性の評価を示す表であり、◎は残留アルミ相と複合相とが明確な分離を示す程の安定反応を示し、○は残留アルミ相に複合相が部分的に分散する程度の安定反応を示し、△は残留アルミ相と複合相とが全体的に分散する程度の安定反応を示し、×1は複合材料が急激に膨張を示す程度の不安定反応を示し、×2は複合材料に燃焼合成反応が部分的にしか励起しない程度の不安定反応を示し、×3は複合材料が多孔質状態を示す程度の不安定反応を示し、×4は溶融アルミがセラミック粉末(TiN)中にほとんど浸透しない程度の不安定反応を示している。
【図5】本発明の実施品(実施例)、鋳鉄FC250(比較例1)、金属アルミ材(実施例2)からなる試験片を作製し引き摺り試験による摺動耐熱限界性を評価したグラフである。
【図6】焼成温度(900〜1400℃)、金属チタン粉末(Ti)の粒子径(45〜250μm)、セラミックス粉末(TiN)の粒子径(1〜53μm)の範囲で条件を変えて燃焼合成反応させ、形成される複合材料の評価を示す表である。
【図7】混合粉末に混合されるセラミックス粉末として金属酸化物(Al,SiO,TiO,ZrO,CaO,MgO,NiO)、金属窒化物(BN,TiN)を適用した場合、燃焼合成反応の反応安定性の評価した表である。さらに、複合材料の連続相を構成するチタン−アルミ金属間化合物(AlTi)と、分散相を構成するセラミック粉末と、同じく分散相を構成するアルミ系化合物と、残留アルミ(Al)との組成比率を表すX線回折分析(XRD)結果も示している。
【符号の説明】
【0033】
11 Alインゴット(固体アルミ、溶融アルミ)
12 混合粉末
14 焼成炉
15 複合材料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタン−アルミ金属間化合物を主成分にする連続相を有する複合材料において、
金属チタン粉末及びセラミックス粉末を含む混合粉末と、溶融アルミと、を燃焼合成反応させて成ることを特徴とする複合材料。
【請求項2】
請求項1に記載の複合材料において、
前記セラミックス粉末は、平均粒径が1〜3μmの範囲に含まれることを特徴とする複合材料。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の複合材料において、
前記混合粉末は、配合される前記金属チタン粉末及び前記セラミックス粉末のモル比が1:3.5〜1:20の範囲に含まれることを特徴とする複合材料。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の複合材料において、
前記セラミックス粉末は、TiO、NiO、SiO、Nb、B、MnO、FeO、Fe、CuO、CuO、ZnO、TiN、FeN、Ca、MoNから選択される化合物のうち少なくとも一つを含むことを特徴とする複合材料。
【請求項5】
チタン−アルミ金属間化合物を主成分にする連続相を有する複合材料の製造方法において、
金属チタン粉末及びセラミックス粉末を含む混合粉末に固体アルミを接触させる工程と、
焼成温度を、前記チタン−アルミ金属間化合物の溶融温度以下でかつ前記固体アルミの溶融温度以上に設定する工程と、
前記混合粉末に前記固体アルミが溶融した溶融アルミを浸透させる工程と、
前記金属チタン粉末及び前記溶融アルミが第1化学反応して前記チタン−アルミ金属間化合物を生成して発熱する工程と、
前記発熱を利用して前記セラミックス粉末及び残存する前記溶融アルミが第2化学反応してアルミ系化合物を生成して吸熱する工程と、を含むことを特徴とする複合材料の製造方法。

【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図1】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−75105(P2008−75105A)
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−253087(P2006−253087)
【出願日】平成18年9月19日(2006.9.19)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2006年3月21日に社団法人日本金属学会により発行された「2006年春期(第138回)大会・日本金属学会講演概要」にて発表 〔刊行物等〕 2006年3月22日に社団法人日本金属学会が主催した「2006年春期(第138回)大会」にて発表 〔刊行物等〕 2006年9月16日に社団法人日本金属学会により発行された「2006年秋期(第139回)大会・日本金属学会講演概要」にて発表 〔刊行物等〕 2006年9月17日に社団法人日本金属学会が主催した「2006年秋期(第139回)大会」にて発表
【出願人】(501327156)
【出願人】(501327145)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】