説明

複合構造体、その製造方法及びそれを用いた熱電変換素子

【課題】 籠状に結合した化合物をデバイスに応用する際に必要となる籠状構造を基本単位とした複合構造体とそれを用いた熱電変換素子を提供する。
【解決手段】 籠状構造化合物を常温衝撃固化現象を用いたエアロゾルデポジション法により、基材上に複合構造体として形成する。この複合構造体を用いて、熱電変換素子10を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、籠状に結合した化合物をデバイスに応用する際に必要となる籠状構造を基本単位とした複合構造体、熱電変換素子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、エレクトロニクスデバイスは、シリコン、ゲルマニウム、ガリウム−ヒ素などのIII−V族化合物半導体、硫化ヒ素等のII−VI化合物半導体を利用して作られている。従来、これらを用いた素子の高性能化は微細加工の技術によって進展してきた。
【0003】
しかし、微細加工技術が限界に近づきつつある現在、微細化による性能向上はあまり期待できなくなり、素子を構成する物質の特性向上に対する期待が強まってきている。エレクトロニクス分野の更なる発展を望むためには、これまでの電子材料とは大きく異なる物性を有する新材料の開発が必要である。このような新材料として、イオン結合もしくは共有結合により原子が籠状に配列した基本構造が、同一の結合で高次の構造を形成する化合物の開発が進んでいる。
【0004】
半導体クラスレートは、Si、Geからなる籠状構造から構成されている。クラスレート化合物は、物質を構成する元素間の結合様式が従来の物質とは大きく異なること、クラスレート構造内に別の元素を有する事ができる籠状物質であること等の理由から、物質の基本物性が飛躍的に向上することが考えられる。
【0005】
さらに、クラスレート化合物は従来のシリコン結晶等とは大きく異なる構造を有しており、内包する金属を変えることにより、絶縁体から種々のバンドギャップを有する半導体、更には金属や超伝導体として応用することが可能になり、この点からもその応用技術の開発が望まれている。また、光デバイスへの応用も考えられる。
【0006】
具体的な応用として、半導体クラスレートは高い熱電能から熱電変換素子等のエネルギーデバイスへの応用が検討されている。ゼーベック効果を利用した熱電変換素子は、熱エネルギーを電気エネルギーに変換することを可能とする。その性質を利用し、産業・民生用プロセスや移動体から排出される排熱を有効な電力に変換することができるため、熱電変換素子は、環境問題に配慮した省エネルギー技術として注目されている。
【0007】
酸化物籠状化合物は、使用環境における安定性、構成元素が安価であることから多くの応用分野に適応可能であり注目されている。籠状酸化物12CaO・7Al2O3は、籠に酸素ラジカルや電子を包含することができ、その電気的、光学的性質を自由に制御することが可能であり、多方面への応用が期待できる。特に、電子を室温で外部に取出す冷電子放出銃、電子の光吸収を利用した赤外線検出素子、電子の化学反応性を利用した還元試薬などへの展開が期待できる。
【0008】
上記のように籠状構造化合物の持つ有用な特性を電子デバイスに応用する場合、籠状構造化合物の薄膜形成技術の開発がきわめて重要となる。ところが、スパッタ、真空蒸着等の従来の成膜法では、その構造の複雑性から膜形成は困難であった。これは、半導体クラスレートの内包原子であるアルカリ金属・アルカリ土類金属元素は非常に反応性が高く取り扱いが難しく、また、Ba元素等はGe等と比較して蒸発しやすい性質を持つことが一因である。
【0009】
このため、従来の真空蒸着法や分子線エピタキシー(MBE)法ではクラスレート構造を保ったまま成膜することが困難であり、これまで電子デバイスの形成に必要な薄膜試料の作製例は報告されていなかった。
【0010】
ここで、特許文献1には、クラスレート化合物薄膜の形成法が開示されている。その成膜方法は、IV族元素基板上にアルカリ金属の蒸着膜を形成し、その上に該基板と同一材料からなるアモルファス半導体膜を形成した後、基板を加熱処理するという複雑な工程からなり、基板が限定されることから応用できるデバイスは限られる。
【0011】
【特許文献1】特開平11−343110号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
そこで、本発明は、上記従来技術の問題点に鑑みて成されたものであり、第1の目的は、今後、多くの応用デバイスが考えられる籠状構造化合物の薄膜が基材の表面に形成された複合構造体を提供することにある。
【0013】
また、本発明の第2の目的は、籠状構造化合物の薄膜複合構造体の製造方法を提供することにある。
【0014】
さらに、本発明の第3の目的は、一般的な廃熱発電等の用途に供し得る優れた熱電変換素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成するために、本発明では、基材表面に形成され、かつイオン結合もしくは共有結合により原子が籠状に配列した基本構造が同一の結合により高次の構造を形成する化合物の複合構造体であって、前記複合構造体は多結晶であり、前記複合構造体を構成する結晶は実質的に結晶配向性がなく、前記結晶同士の界面にガラス層からなる粒界層が実質的に存在しないことを特徴とする。
【0016】
ここで、前記複合構造体は平均粒径が100nm以下であることが好ましい。また、前記化合物は半導体クラスレートであることが好ましい。
【0017】
前記半導体クラスレートは、周期律表IVB族元素の原子を主体としてなるクラスレート格子と、クラスレート格子の格子間隙に内包されクラスレート格子の構成原子よりも質量の大きな周期律表IA族、IIA族、IIIA族、IB族、IIB族、IIIB族の原子のうちの少なくとも一種のドーピング原子であることが好ましい。
【0018】
あるいは、前記半導体クラスレートは、周期律表IVB族元素の原子を主体としてなるクラスレート格子と、クラスレート格子の格子間隙に内包されクラスレート格子の構成原子よりも質量の大きな周期律表IA族、IIA族、IIIA族、IB族、IIB族、IIIB族の原子のうちの少なくとも一種のドーピング原子と、前記クラスレート格子を構成する原子の少なくとも一部と置換された周期律表VA族、VIA族、VIIA族、VB族、VIB族、VIIB族、VIII族の原子のうちの少なくとも一種の置換原子とを主体としてなるクラスレート化合物であることが好ましい。
【0019】
ここで、前記周期律表IVB族元素は、例えば、SiまたはGeである。
【0020】
また、前記半導体クラスレートは、Ge系、BaGe系、BaAuGe系、BaAuGaGe系、BaPtGe系、BaPdGe系、BaPdGaGe系、BaCuGaGe系、BaAgGaGe系、Si系、BaSi系、BaAuSi系、BaAuGaSi系、BaPtSi系、BaPdSi系、BaPdGaSi系、BaPtGaSi系、BaCuGaSi系及びBaAgGaSi系から成るグループの中から選ばれた少なくとも一つの系のクラスレート化合物であることが好ましい。
【0021】
好ましくは、前記化合物は酸化物籠状物質である。例えば、前記酸化物籠状物質は12CaO・7Al2O3を基体とする。あるいは、前記化合物がエレクトライド化合物であることが好ましい。
【0022】
ここで、前記複合構造体は、常温衝撃固化現象により薄膜状に形成される。前記複合構造体は、エアロゾルデポジション法により形成されることが好ましい。
【0023】
ここで、前記複合構造体は、例えば、熱電変換素子に用いられる。この熱電変換素子は、上下に離間して対向配置された基板の間に、p型の薄膜状の半導体クラスレートからなる複数の熱電膜と、n型の薄膜状の半導体クラスレートからなる複数の熱電膜が交互に配置され、相互に隣接する1組の熱電膜の下端部どうしが間欠的に薄膜電極で接続され、相互に隣接する他の熱電膜の上端部どうしが間欠的に薄膜電極で接続されると共に、隣接するp型の熱電膜の端部とn型の熱電膜の端部とが互い違いに交互に接続されることにより、全ての熱電膜が直列接続されるように複数の電極薄膜で接続されて構成されることが好ましい。
【0024】
また、前記複合構造体は、例えば、ガラス又はプラスチックから成る基材上に形成される。
【0025】
本発明は、籠状構造化合物、特にクラスレート化合物と酸化物籠状物質を任意の基板上に制御性よく形成するためには、常温衝撃固化現象を適用することが有効であるという知見に基づいてなされたものである。
【0026】
上述のように、本発明の複合構造体は、基材表面に形成された、イオン結合もしくは共有結合により原子が籠状に配列した基本構造が同一の結合により高次の構造を形成する化合物の複合構造体であり、前記構造体は多結晶であり、前記構造体を構成する結晶は実質的に結晶配向性がなく、また前記結晶同士の界面にガラス層からなる粒界層が実質的に存在しないことを特徴とする。
【0027】
このような構造を採用することで、ガラス、プラスチック等の任意の基板上に籠状物質を薄膜で形成することが可能となる。
【0028】
また、常温衝撃固化現象、特にエアロゾルデポジション法がこの構造体を形成するためには有効であることを見出した。
【0029】
また、本発明の複合構造体は、平均粒径が100nm以下であることで、強固に結合した薄膜を形成することが可能である。
【0030】
また、本発明の複合構造体を形成する籠状化合物が、半導体クラスレートであることを特徴とする。この半導体クラスレートは、SiまたはGe等の周期律表IVB族元素の原子を主体としてなるクラスレート格子と、クラスレート格子の格子間隙に内包されクラスレート格子の構成原子よりも質量の大きな周期律表IA族、IIA族、IIIA族、IB族、IIB族、IIIB族の原子のうちの少なくとも1種のドーピング原子と、前記クラスレート格子を構成する原子の少なくとも一部と置換された周期律表VA族、VIA族、VIIA族、VB族、VIB族、VIIB族、VIII族の原子のうちの少なくとも1種の置換原子を主体としてなるクラスレート化合物であることを特徴とする複合構造体である。
【0031】
具体的には、半導体クラスレートはGe系、BaGe系、BaAuGe系、BaAuGaGe系、BaPtGe系、BaPdGe系、BaPdGaGe系、BaCuGaGe系、BaAgGaGe系、Si系、BaSi系、BaAuSi系、BaAuGaSi系、BaPtSi系、BaPdSi系、BaPdGaSi系、BaPtGaSi系、BaCuGaSi系、BaAgGaSi系クラスレート化合物が含まれる。
【0032】
これらのクラスレート化合物は、高い熱電能を持つことから熱電変換素子等の電子デバイス分野への適用に適している。
【0033】
また、本発明の複合構造体を形成する籠状化合物が、酸化物籠状物質であることを特徴とする。具体的には、この酸化物籠状物質は12CaO・7Al2O3を基体としており、籠構造内に電子を閉じ込めることで、エレクトライド化合物とすることができる。エレクトライド化合物は電子源、半導体等の電子デバイス分野への適用に適している。
【0034】
また、本発明の複合構造体の製造方法は、常温衝撃固化現象による膜形成であることを特徴とする。常温衝撃固化現象を用いることで、室温で任意の基板上に籠状構造化合物の形成が可能となる。常温衝撃固化現象による膜形成法の中でも、エアロゾルデポジション法は、籠状構造化合物の製造方法として適している。
【0035】
さらに、本発明は、籠状構造化合物、特に半導体クラスレートの複合構造体を熱電変換素子に用いることを特徴とする。本発明の熱電変換素子は、従来材料を用いた熱電変換素子よりも変換効率が高く、任意の基材あるいは基板上に形成可能という利点を持つ。
【発明の効果】
【0036】
本発明によれば、今後、多くの応用デバイスが考えられる籠状構造化合物の薄膜が基材の表面に形成された複合構造体を提供することができる。また、籠状構造化合物の薄膜複合構造体の製造方法を提供することができる。さらに、一般的な廃熱発電等の用途に供し得る優れた熱電変換素子の提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
【実施例1】
【0038】
<半導体クラスレートBa6Ge25の複合構造物の製造>
まず、BaおよびGeから、半導体クラスレートの合成を行った。合成にはCO2レーザー加熱法を用いた。購入したBaおよびGeの表面にはすでに酸化膜が形成されているため、まず酸化膜の除去を行った。Baの酸化を防ぐために、Ar雰囲気グローブボックス内で、表面をカッターで削り、酸化膜を除去した。また、Ge酸化膜の除去は、フッ硝酸(HF:HNO3=1:4)を用いてドラフト中で行った。Baの酸化を防ぐために、Ar雰囲気グローブボックス内で秤量作業を行った。Ge秤量後、CO2レーザー加熱装置の水冷したCu皿の上にBaおよびGeを乗せた。これは、CO2レーザーの吸収が高いBaが上、吸収が低いGeが下になるようにCu皿に乗せ、溶けて液体となったBaをGeに染み込ませるためである。これらの作業もAr雰囲気グローブボックス内で行った。
【0039】
CO2レーザー加熱装置はターボ分子ポンプを用いて5×10-3Pa程度まで真空排気され、その後、Ar置換を行いゲージ圧+0.01MPaの加圧状態で加熱工程を行った。これには加圧にすることで、大気中の酸素がチャンバー内に侵入することを防ぐ意味がある。
【0040】
次に、250W CO2レーザーを用いて、BaおよびGeを加熱、爆発反応させた。未反応の試料をなくすため、反応後10分間加熱を継続した。10分後加熱を止め、水冷Cu皿によって急冷凝固させた。この工程により、クラスレート構造が形成される。これはクラスレート構造が非平衡相であるため、その合成作業は非平衡状態で行われなければならないからである。
【0041】
CO2レーザーには出力およびビームスポットに限界があり、試料全体を均一に加熱することができないため、合成したクラスレート化合物半導体サンプルには未反応の試料が存在する可能性がある。従って、CO2レーザーによる加熱後、アーク炉を用いて再加熱、再溶解・急冷凝固させた。この時、アーク炉内ゲージ圧は-0.02MPa、アーク電流は20mAとした。
【0042】
合成した半導体クラスレートBa6Ge25化合物は、乳鉢で粗粉砕後、ボールミルにより粉砕し微粒子化した。ボールミルの条件は、200rpm、15分である。
【0043】
微粒子化したミクロンオーダーの粒子を用いて、室温衝撃固化現象を用いたエアロゾルデポジション(AD)法による薄膜形成を行った。AD法では、微粒子脆性材料に機械的衝撃力を負荷して粉砕、接合させ成形体を基板上に形成する。ガラス基板を用い、キャリヤガスは酸素、ノズルと基板の入射角は10度、ガス流量12リットル/分、ノズル基板間距離は5mm、成膜速度は0.8μm/min、加振器の振動数は250rpmとし、室温で成膜した。
【0044】
図1に本実施例で作製した半導体クラスレートBa6Ge25化合物の写真を示す。(1)はAD法で作製した半導体クラスレートBa6Ge25化合物薄膜の外観写真である。ガラス基板上に均一に薄膜が形成されていることがわかる。(2)は、AD法で作製した半導体クラスレートBa6Ge25化合物薄膜の顕微鏡写真である。AD法により連続的な膜が形成できていることが分かる。(3)は、ボールミルで形成した半導体クラスレートBa6Ge25化合物の微粒子の走査電子顕微鏡写真である。ミクロンレベルの微粒子が形成されている。(3)に示される微粒子をガラス基板にAD法により、衝突、粉砕、固化させることで、(1)、(2)に示されるような半導体クラスレートBa6Ge25化合物の薄膜を形成することができた。膜厚は約2ミクロンであった。
【0045】
ボールミル後の微粒子、および作製した薄膜のX線回折プロファイルを図2に示す。(1)はクラスレート微粒子、(2)はAD法で形成した薄膜の回折プロファイルである。AD法で形成した薄膜のプロファイルの半値幅は広がっているが、ピーク位置がほぼ一致していることから作製した薄膜はクラスレート構造を保ったまま成膜されていることが確認された。
【0046】
図3に、AD法で形成したクラスレート薄膜の透過光スペクトルを示す。(1)は、AD法で形成したクラスレート薄膜の透過光スペクトル、(2)は、Ge薄膜の透過光スペクトル(文献値)を示す。クラスレート薄膜の吸収端は、Ge薄膜よりも低波長にシフトしており、これはクラスレート構造によるバンド構造の変化がAD膜において観測できていることを示している。
【0047】
以上の結果は、室温衝撃固化現象を使ったAD法により、半導体クラスレートの微粒子を薄膜で形成できることを示すものであり、これは半導体クラスレートの室温における薄膜化の初めての例である。この結果は、半導体クラスレートのエレクトロニクス等への応用を可能にする大きな進展である。
【0048】
上記の説明では半導体クラスレートの組成がBa6Ge25の場合を説明したが、この組成に限定されるものではなく、例えばAu、Pt,Pd,Ag,Gaを一種類以上添加した組成であっても良い。また、Ge単体のクラスレートであっても良い。また、Ge系の材料以外にも、Si系等も有用な半導体クラスレート材料である。
【実施例2】
【0049】
<酸化物籠状物質12CaO・7Al2O3の複合構造物の製造>
炭酸カルシウムとγ−アルミナを12:7の当量混合した原料粉末を酸素1気圧中で,1300℃で2時間焼結し、12CaO・7Al2O3化合物とした。合成した12CaO・7Al2O3化合物は、ボールミルにより粉砕し微粒子化した。
【0050】
微粒子化したミクロンオーダーの粒子を用いて、室温衝撃固化現象を用いたエアロゾルデポジション(AD)法による薄膜形成を行った。AD法では、微粒子脆性材料に機械的衝撃力を負荷して粉砕、接合させ成形体を基板上に形成する。ガラス基板を用い、キャリヤガスは酸素、ノズルと基板の入射角は30度、ガス流量12リットル/分、ノズル基板間距離は5mm、成膜速度は0.3μm/min、加振器の振動数は250rpmとし、室温で成膜した。
【0051】
実施例1と同様に、X線回折測定により、籠状酸化物12CaO・7Al2O3化合物の構造が薄膜においても維持されていることが確認された。
【実施例3】
【0052】
次に、構造物の平均粒径の影響を実施例に基づいて説明する。
【0053】
実施例1と同様の手順で半導体クラスレートBa6Ge25の合成を行い、乳鉢で粗粉砕した微粒子を用いて、AD法による膜形成を行った。ガラス基板を用い、キャリヤガスは酸素、ノズルと基板の入射角は0度、ガス流量12リットル/分、ノズル基板間距離は5mm、成膜速度は0.5μm/min、加振器の振動数は200rpmとし、室温で成膜した。
【0054】
図4に本実施例で作製した半導体クラスレートBa6Ge25化合物の写真を示す。(1)はAD法で作製した半導体クラスレートBa6Ge25化合物薄膜の外観写真である。ガラス基板上に薄膜が形成されているが、膜厚に大きな分布があり、中央部が薄くなっていることが分かる。(2)はAD法で作製した半導体クラスレートBa6Ge25化合物薄膜の顕微鏡写真である。不均一な膜が形成されている。このときのクラスレート構造体の平均粒径は150nmであった。一方、実施例1の均一な膜構造体では、平均粒径は50nmであり、構造体の平均粒径が、均一で緻密な構造体を形成する上では重要となる。
【実施例4】
【0055】
図5は本発明に係る半導体クラスレート化合物の熱電材料を用いて構成された熱電変換素子の一実施形態を示すものである。
【0056】
この実施形態の熱電変換素子10は、上下に離間して対向配置された絶縁物の基板11、12の間に、p型の薄膜状の半導体クラスレートからなる複数の熱電膜13と、n型の薄膜状の半導体クラスレートからなる複数の熱電膜14が交互に配置され、相互に隣接する1組の熱電膜13、14の下端部どうしが間欠的に薄膜電極15で接続され、相互に隣接する他の熱電膜13、14の上端部どうしが間欠的に薄膜電極16で接続されると同時に、隣接するp型の熱電膜13の端部とn型の熱電膜14の端部とが互い違いに交互に接続されて全ての熱電膜が直列接続されるように複数の電極薄膜15、16で接続されている。また、上下の基板間の複数の熱電膜13、14のうち、一側の端部の熱電膜13に接続部17が、他側の端部の熱電膜14に接続部18がそれぞれ接合されて構成されている。
【0057】
基板11,12には、透明樹脂基板を用いたが、樹脂シートを用いても良い。半導体クラスレートにはBaAuGeクラスレートを原料粉末にし、実施例1で説明したAD法により膜形成を行った。薄膜電極にはTi/AuTi膜をスパッタ法で形成した。基板11,12の上下に100度の温度差を加えることで、発電が可能であった。本発明を用いることで、シート状の熱変換素子の製造が可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明で作製した第1の実施例の半導体クラスレートBa6Ge25化合物の写真であり、(1)は複合構造体の外観電子顕微鏡写真、(2)は複合構造体の電子顕微鏡写真、(3)は微粒子の走査電子顕微鏡写真である。
【図2】本発明で作製した第1の実施例の半導体クラスレートBa6Ge25化合物のX線回折プロファイルを示す図である。
【図3】本発明で作製した第1の実施例の半導体クラスレートBa6Ge25化合物の透過率スペクトルを示す図である。
【図4】本発明で作製した半導体クラスレートBa6Ge25化合物の第3の実施例の写真であり、(1)は複合構造体の外観電子顕微鏡写真、(2)は複合構造体の電子顕微鏡写真である。
【図5】本発明の第4の実施例である熱電変換素子の断面構造を示す図である。
【符号の説明】
【0059】
10 熱電変換素子
11、12 基板
13 p型の薄膜状の半導体クラスレートからなる熱電膜
14 n型の薄膜状の半導体クラスレートからなる熱電膜
15,16 薄膜電極
17,18 接続部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材表面に形成され、かつイオン結合もしくは共有結合により原子が籠状に配列した基本構造が同一の結合により高次の構造を形成する化合物の複合構造体であって、
前記複合構造体は多結晶であり、前記複合構造体を構成する結晶は実質的に結晶配向性がなく、前記結晶同士の界面にガラス層からなる粒界層が実質的に存在しないことを特徴とする複合構造体。
【請求項2】
前記複合構造体は平均粒径が100nm以下であることを特徴とする請求項1に記載の複合構造体。
【請求項3】
前記化合物が半導体クラスレートであることを特徴とする請求項1に記載の複合構造体。
【請求項4】
前記半導体クラスレートが、周期律表IVB族元素の原子を主体としてなるクラスレート格子と、クラスレート格子の格子間隙に内包されクラスレート格子の構成原子よりも質量の大きな周期律表IA族、IIA族、IIIA族、IB族、IIB族、IIIB族の原子のうちの少なくとも一種のドーピング原子であることを特徴とする請求項3に記載の複合構造体。
【請求項5】
前記半導体クラスレートが、周期律表IVB族元素の原子を主体としてなるクラスレート格子と、クラスレート格子の格子間隙に内包されクラスレート格子の構成原子よりも質量の大きな周期律表IA族、IIA族、IIIA族、IB族、IIB族、IIIB族の原子のうちの少なくとも一種のドーピング原子と、前記クラスレート格子を構成する原子の少なくとも一部と置換された周期律表VA族、VIA族、VIIA族、VB族、VIB族、VIIB族、VIII族の原子のうちの少なくとも一種の置換原子とを主体としてなるクラスレート化合物であることを特徴とする請求項3に記載の複合構造体。
【請求項6】
前記周期律表IVB族元素は、SiまたはGeであることを特徴とする請求項4又は5に記載の複合構造体。
【請求項7】
前記半導体クラスレートが、Ge系、BaGe系、BaAuGe系、BaAuGaGe系、BaPtGe系、BaPdGe系、BaPdGaGe系、BaCuGaGe系、BaAgGaGe系、Si系、BaSi系、BaAuSi系、BaAuGaSi系、BaPtSi系、BaPdSi系、BaPdGaSi系、BaPtGaSi系、BaCuGaSi系及びBaAgGaSi系から成るグループの中から選ばれた少なくとも一つの系のクラスレート化合物であることを特徴とする請求項3に記載の複合構造体。
【請求項8】
前記化合物が酸化物籠状物質であることを特徴とする請求項1に記載の複合構造体。
【請求項9】
前記酸化物籠状物質が12CaO・7Al2O3を基体とすることを特徴とする請求項8に記載の複合構造体。
【請求項10】
前記化合物がエレクトライド化合物であることを特徴とする請求項1に記載の複合構造体。
【請求項11】
請求項1に記載の複合構造体は、常温衝撃固化現象により薄膜状に形成されることを特徴とする複合構造体の製造方法。
【請求項12】
請求項11に記載の複合構造体は、エアロゾルデポジション法により形成されることを特徴とする複合構造体の製造方法。
【請求項13】
請求項1に記載の複合構造体を用いることを特徴とする熱電変換素子。
【請求項14】
上下に離間して対向配置された基板の間に、p型の薄膜状の半導体クラスレートからなる複数の熱電膜と、n型の薄膜状の半導体クラスレートからなる複数の熱電膜が交互に配置され、
相互に隣接する1組の熱電膜の下端部どうしが間欠的に薄膜電極で接続され、相互に隣接する他の熱電膜の上端部どうしが間欠的に薄膜電極で接続されると共に、
隣接するp型の熱電膜の端部とn型の熱電膜の端部とが互い違いに交互に接続されることにより、全ての熱電膜が直列接続されるように複数の電極薄膜で接続されて構成されることを特徴とする請求項13に記載の熱電変換素子。
【請求項15】
前記複合構造体は、ガラス又はプラスチックから成る基材上に形成されることを特徴とする請求項1に記載の複合構造体。
【請求項16】
籠状構造化合物を常温衝撃固化現象を用いたエアロゾルデポジション法により基材上に形成することを特徴とする複合構造体の製造方法。
【請求項17】
前記エアロゾルデポジション法により、微粒子脆性材料に機械的衝撃力を負荷して粉砕及び接合させて、前記籠状構造化合物を成形体として前記基材上に形成することを特徴とする請求項16に記載の複合構造体の製造方法。

【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図1】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−246326(P2007−246326A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−71358(P2006−71358)
【出願日】平成18年3月15日(2006.3.15)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2006年2月21日 インターネットアドレス「http://securel.gakkai−web.net/gakkai/jsap_pro/」に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2006年3月22日〜26日 応用物理学会・計測自動制御学会・日本結晶学会・日本真空協会・日本顕微鏡学会・日本物理教育学会・日本分光学会主催の「2006年(平成18年)春季第53回応用物理学関係連合講演会」において文書をもって発表
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成17年度新エネルギー・産業技術総合開発機構「ナノテクノロジープログラム(ナノ加工・計測技術)ナノレベル電子セラミックス材料低温成形・集積化技術」に関する委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受けるもの)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】