説明

複合樹脂シート用組成物、複合樹脂シート及びその製造方法

【課題】透明性を維持しつつ靭性が高い複合樹脂シートの提供。
【解決手段】脂環式エポキシ基を有する、かご型のシルセスキオキサンを含むエポキシ樹脂100質量部、1分子中に2つ以上のエチレン性不飽和基を有する、少なくとも1種のエチレン性不飽和基含有化合物5〜25質量部およびガラス繊維を含有し、前記エチレン性不飽和基含有化合物の単独重合体のガラス転移温度が200℃以上である、複合樹脂シート用組成物、及び、本発明の複合樹脂シート用組成物を加熱して製造され、前記製造の際に、前記エチレン性不飽和基含有化合物が重合して柔軟性付与剤を形成し、前記エポキシ樹脂100質量部、前記柔軟性付与剤5〜25質量部および前記ガラス繊維を含有する、複合樹脂シート。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は複合樹脂シート用組成物、複合樹脂シート及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ガラスとの代替が可能な透明複合体として、脂環式エポキシ基等を有するシルセスキオキサン等を含有する組成物をマトリックス樹脂とし、ガラス繊維織布等を補強材とする複合体が提案されている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011−6610号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、エポキシ基等を有するシルセスキオキサンだけでは非常に固く脆い硬化物となることを本発明者は見出した。
そこで、本発明は、透明性を維持しつつ靭性が高い複合樹脂シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、脂環式エポキシ基を有するかご型のシルセスキオキサン[例えば、耐熱性(8官能以上の脂環式エポキシ基を有することにより高い耐熱性)、透明性(シロキサン骨格を持たせることによりガラスの屈折率に近くなる)を持つ脂環式エポキシ基を有するシルセスキオキサン化合物]を含むエポキシ樹脂に、1分子中に2つ以上のエチレン性不飽和基を有する化合物[例えば(メタ)アクリル樹脂]を添加する組成物によって、複合樹脂シートが、その透明性を落とすことなく靭性(強靭性)が付与され脆さを改善して柔軟性を有する(例えば、耐屈曲性に優れる。)ことが可能であることを見出し、本発明を完成させた。
【0006】
すなわち、本発明は、下記1〜10を提供する。
1. 脂環式エポキシ基を有する、かご型のシルセスキオキサンを含むエポキシ樹脂100質量部、1分子中に2つ以上のエチレン性不飽和基を有する、少なくとも1種のエチレン性不飽和基含有化合物5〜25質量部およびガラス繊維を含有し、
前記エチレン性不飽和基含有化合物の単独重合体のガラス転移温度が200℃以上である、複合樹脂シート用組成物。
2. 前記エチレン性不飽和基含有化合物が前記エポキシ樹脂と反応しない上記1に記載の複合樹脂シート用組成物。
3. 前記シルセスキオキサンの量が前記エポキシ樹脂全量中の50質量%以上である上記1または2に記載の複合樹脂シート用組成物。
4. 前記シルセスキオキサンが下記式(A−1)〜下記式(A−3)のいずれかで表される化合物である上記1〜3のいずれかに記載の複合樹脂シート用組成物。
【化1】


【化2】


【化3】


[式(A−1)〜(A−3)中それぞれにおいて、複数のRのうち少なくとも2個または全部のRが脂環式エポキシ基を有する。]
5. 前記エチレン性不飽和基含有化合物が前記エポキシ樹脂と反応可能な基を有さない上記1〜4のいずれかに記載の複合樹脂シート用組成物。
6. 前記エポキシ樹脂がさらに、エステル基を持つ脂環式エポキシ樹脂を含む上記1〜5のいずれかに記載の複合樹脂シート用組成物。
7. 前記エステル基を持つ脂環式エポキシ樹脂の量が前記エポキシ樹脂全量中の50質量%以下である上記6に記載の複合樹脂シート用組成物。
8. 上記1〜7のいずれかに記載の複合樹脂シート用組成物を加熱して製造され、
前記製造の際に、前記エチレン性不飽和基含有化合物が重合して柔軟性付与剤を形成し、前記エチレン性不飽和基含有化合物は前記シルセスキオキサンと反応せず、
前記エポキシ樹脂100質量部、前記柔軟性付与剤5〜25質量部および前記ガラス繊維を含有する、複合樹脂シート。
9. 前記柔軟性付与剤が、前記エチレン性不飽和基含有化合物の1種または2種以上を重合させることによって得られるポリマーである上記8に記載の複合樹脂シート。
10. 前記エチレン性不飽和基含有化合物は前記エポキシ樹脂と反応しない上記8又は9に記載の複合樹脂シート。
【発明の効果】
【0007】
本発明の複合樹脂シート用組成物は、透明性を維持しつつ靭性が高い複合樹脂シートとなることができる。
本発明の複合樹脂シートは、透明性を維持しつつ靭性が高い。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明について以下詳細に説明する。まず初めに本発明の複合樹脂シート用組成物(本発明の組成物)について説明する。
本発明の組成物は、
脂環式エポキシ基を有する、かご型のシルセスキオキサンを含むエポキシ樹脂100質量部、1分子中に2つ以上のエチレン性不飽和基を有する、少なくとも1種のエチレン性不飽和基含有化合物5〜25質量部およびガラス繊維を含有し、
前記エチレン性不飽和基含有化合物の単独重合体のガラス転移温度が200℃以上である、複合樹脂シート用組成物である。
【0009】
エポキシ樹脂について以下に説明する。本発明の組成物に含有されるエポキシ樹脂は脂環式エポキシ基を有する、かご型のシルセスキオキサンを含む。エポキシ樹脂に少なくとも含まれるシルセスキオキサンは、脂環式エポキシ基を有し、シルセスキオキサン骨格の構造がかご型であれば特に制限されない。シルセスキオキサンのかご型の骨格は、その骨格を形成するシロキサン結合(Si−O−Si)の一部が開裂して、閉じていた空間が開いた状態となった部分かご型であってもよい。
脂環式エポキシ基は、1つ以上の脂環式基と1つ以上のオキシラン基を有する化合物であるものであれば特に制限されない。脂環式エポキシ基としては例えば、シクロへキセンオキシド基、ノルボルネンオキシド基、ノルボルナンオキシド基が挙げられる。
脂環式エポキシ基は、2価の炭化水素基(例えば、メチレン基、エチレン基のようなアルキレン基)を介してシルセスキオキサンのケイ素原子と結合することができる。このような脂環式エポキシ基を有する基としては、例えば、(エポキシシクロヘキサン)メチル基のような脂環式エポキシ基を有する基が挙げられる。
シルセスキオキサンが有する脂環式エポキシ基の数は、透明性、強靭性により優れ、耐熱性に優れるという観点から、8〜12官能であるのが好ましく、8〜10官能であるのがより好ましい。
【0010】
シルセスキオキサンは、透明性、強靭性により優れるという観点から、下記式(A−1)〜下記式(A−3)のいずれかで表される化合物であるのが好ましく、透明性、強靭性により優れ、耐熱性に優れるという観点から、下記式(A−1)及び/又は下記式(A−2)で表される化合物であるのがより好ましい。
【化4】


【化5】


【化6】


[式(A−1)〜(A−3)中それぞれにおいて、複数のRのうち少なくとも2個または全部のRが脂環式エポキシ基を有する。]
【0011】
複数のRのうち少なくとも2個が脂環式エポキシ基を有する場合、それ以外のRは炭化水素基であれば特に制限されない。炭化水素基は例えばエポキシ基のような官能基(脂環式エポキシ基を除く。)を有することができる。
シルセスキオキサンはそれぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。シルセスキオキサンはその製造について特に制限されない。例えばテトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド水溶液、水酸化ナトリウム水溶液のようなアルカリ触媒を使用して、脂環式エポキシ基を有するトリアルコキシシランを縮合させることによって脂環式エポキシ基を有するかご型のシルセスキオキサンを製造することができる。
【0012】
シルセスキオキサンの量は、ガラス繊維とマトリックス樹脂との屈折率の値を合わせて透明性、強靭性をより優れるものとし、耐熱性に優れるという観点から、エポキシ樹脂全量中の50質量%以上あるのが好ましく、60〜90質量%であるのがより好ましい。
脂環式エポキシ基を有するかご型のシルセスキオキサンを以下「エポキシ基含有シルセスキオキサン」ということがある。
【0013】
エポキシ樹脂は、透明性、強靭性により優れ、耐熱性に優れるという観点から、さらに、脂肪族系エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂及びエステルを持つエポキシ樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種を含有するのが好ましく、エステルを持つ脂環式エポキシ樹脂を含むのがより好ましい。ただし、脂肪族系若しくは脂環式エポキシ樹脂又はエステル基を持つ脂肪族系若しくは脂環式エポキシ樹脂は脂環式エポキシ基を有するかご型のシルセスキオキサンを含まない。エステル基と脂環式エポキシ基とを結合する有機基は特に制限されない。有機基は例えば、酸素原子、窒素原子、硫黄原子のようなヘテロ原子を有することができる炭化水素基とすることができる。エステル基を持つ脂環式エポキシ樹脂としては、例えば、3、4−エポキシシクロヘキセニルメチル−3′,4′−エポキシシクロヘキセンカルボキシレート、3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキサンカルボキシレートのようなモノエステル;ビス(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル)アジペート、ビス(3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシルメチル)アジペートのようなジエステルが挙げられる。
【0014】
エステル基を持つ脂環式エポキシ樹脂の量は、透明性、強靭性により優れ、耐熱性に優れるという観点から、エポキシ樹脂全量中の50質量%以下であるのが好ましく、10〜40質量%であるのがより好ましい。
【0015】
エポキシ樹脂は、熱時の耐着色性に優れるという観点から、芳香族エポキシ樹脂を含まないのが好ましい。芳香族エポキシ樹脂としては2官能、3官能以上のものが挙げられる。具体的には例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、トリスフェノール型エポキシ樹脂、芳香族炭化水素基を有するグリシジルアミン型エポキシ樹脂が挙げられる。
エポキシ樹脂がさらに芳香族エポキシ樹脂を含有する場合、芳香族エポキシ樹脂の量は、耐着色性を低下させず、耐熱性に優れるという観点から、エポキシ樹脂全量中の50質量%以下であるのが好ましく、5〜40質量%であるのがより好ましい。
【0016】
本発明において強靭性により優れるという観点から、エポキシ樹脂はエチレン性不飽和基含有化合物と反応しないのが好ましい。特に、エポキシ基含有シルセスキオキサン樹脂はエチレン性不飽和基含有化合物と反応しないのが好ましい。このためエポキシ樹脂(特にエポキシ基含有シルセスキオキサン樹脂)はエチレン性不飽和基含有化合物と反応可能な基を有さないのが好ましい。エチレン性不飽和基含有化合物と反応可能な基としては、エチレン性不飽和基含有化合物がビニル系樹脂、(メタ)アクリル樹脂である場合、ビニル基、(メタ)アクリロイル基、(メタ)アクリロイルオキシ基、(メタ)アクリレート基が挙げられる。エポキシ基含有シルセスキオキサン樹脂が有する官能基はオキシラン基(脂環式エポキシ基を含む。)のみとすることができる。
エポキシ樹脂はそれぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0017】
エチレン性不飽和基含有化合物について以下に説明する。本発明の組成物に含有されるエチレン性不飽和基含有化合物は、1分子中に2つ以上のエチレン性不飽和基を有する化合物である。エチレン性不飽和基としては、例えば、ビニル基、(メタ)アクリロイル基、(メタ)アクリロイルオキシ基、(メタ)アクリレート基が挙げられる。本発明において、(メタ)アクリルはアクリルおよびメタクリルのうちの両方または一方を意味する。(メタ)アクリレート基等も同様である。エチレン性不飽和基の数は1分子中2個以上であり、透明性、強靭性により優れ、耐熱性に優れるという観点から、2〜16個であるのが好ましい。
2つ以上のエチレン性不飽和基が結合する有機基は特に制限されない。有機基としては例えば、脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、芳香族炭化水素基、これらの組合わせが挙げられる。また有機基は例えば、酸素原子、窒素原子、硫黄原子のようなヘテロ原子を1つ以上持つ基を有することができる。ヘテロ原子を持つ基としては例えば、エステル結合[例えば、(メタ)アクリロイル基、(メタ)アクリロイルオキシ基]、カルボン酸、エーテル結合、イソシアヌレート骨格、これら組み合わせが挙げられる。有機基は2個以上の炭化水素基がヘテロ原子を1つ以上持つ基を介して結合してもよい。
エチレン性不飽和基含有化合物はエポキシ基と反応可能な官能基(例えばエポキシ基、アミノ基、ヒドロキシ基)を有さないのが好ましい態様の1つとして挙げられる。
エチレン性不飽和基含有化合物は単量体であるのが好ましい態様の1つとして挙げられる。本発明においてエチレン性不飽和基含有化合物はポリマー(例えば、ビニルポリマー、エポキシ基または水酸基を有するビニルポリマー)を含まないのが好ましい態様の1つとして挙げられる。
エチレン性不飽和基含有化合物としては例えば、(メタ)アクリレート基を有する化合物[(メタ)アクリレート化合物]、(メタ)アクリル酸、ジエン系化合物、スチレン系化合物、が挙げられる。
エチレン性不飽和基含有化合物は、透明性、強靭性により優れ、耐熱性に優れるという観点から(メタ)アクリレート化合物[(メタ)アクリル樹脂]であるのが好ましい。(メタ)アクリレート化合物が有するエステル結合を形成するために使用されるヒドロキシ化合物は特に制限されない。例えば、ヒドロキシ基を有する脂肪族炭化水素(鎖状、分岐状のいずれであってもよく、不飽和結合を有してもよい。)が挙げられる。(メタ)アクリレート化合物としては、例えば、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレートのようなトリメチロールプロパンの(メタ)アクリレート;トリシクロデカンジメチロールジ(メタ)アクリレート、のようなトリシクロデカンジメチロールの(メタ)アクリレート;ペンタエリスリトールの(ジ)〜(テトラ)(メタ)アクリレート(ペンタエリスリトールのヒドロキシ基が2〜4個の(メタ)アクリレートに置換されている化合物を意味する。以下同様。);ジペンタエリスリトールの(ジ)〜(ヘキサ)(メタ)アクリレート、のようなポリペンタエリスリトールのアクリレート;イソシアヌル酸EO(エチレンオキシド)変性トリアクリレート(例えば、トリス(2−アクリロイルオキシエチル)イソシアヌレート);ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、エトキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、プロポキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、1,10−デカンジオールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、1,9−ノナンジオールジアクリレートのような2官能(メタ)アクリレート(既に例示したなかで2官能のものを含む。);エトキシ化グリセリントリアクリレート、エトキシ化ペンタエリスリトールテトラアクリレートのような3官能以上の(メタ)アクリレート(既に例示した中で3官能以上のものを含む。)が挙げられる。
なかでも、透明性、強靭性により優れ、樹脂混合状態での低粘度化に優れるという観点から、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリシクロデカンジメタノールジメタクリレートが好ましい。
エチレン性不飽和基含有化合物はそれぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0018】
本発明において、エチレン性不飽和基含有化合物は、透明性、強靭性により優れるという観点から、エポキシ樹脂と反応しないのが好ましい。具体的には、エチレン性不飽和基含有化合物がエポキシ樹脂と反応可能な基を有さないこととすることができる。エポキシ樹脂と反応可能な基は、エポキシ基、ヒドロキシ基、アミノ基、チオール基、カルボキシル基が挙げられる。
本発明において、エチレン性不飽和基含有化合物がエポキシ樹脂と反応しないことによって、エポキシ樹脂はエポキシ樹脂同士で硬化し、エチレン性不飽和基含有化合物はエチレン性不飽和基含有化合物同士で重合することができる。このことによって、得られる硬化物(複合樹脂シート)は、エポキシ樹脂をマトリックスとする、共連続相及び/又は海島構造のモルフォロジーを有すると考えられる。そして、このようなマトリックスを有することによって共連続相及び/又はドメインとしてのエチレン性不飽和基含有化合物のポリマー(後述する本発明の複合樹脂シートにおける柔軟性付与剤)はエポキシ樹脂に対して柔軟性を付与しその結果得られる硬化物(複合樹脂シート)は靭性に優れると考えられる。
【0019】
前記エチレン性不飽和基含有化合物は、透明性、強靭性により優れ、耐熱性に優れるという観点から、その単独重合体のガラス転移温度が200℃以上であるのが好ましく、230℃以上であるのがより好ましい。
【0020】
本発明において、エチレン性不飽和基含有化合物の量は、透明性、強靭性に優れ、耐熱性に優れるという観点から、エポキシ樹脂100質量部に対して5〜25質量部であり、5〜20質量部であるのが好ましい。
【0021】
ガラス繊維について以下に説明する。本発明の組成物は補強材としてガラス繊維を使用する。本発明の組成物に含有されるガラス繊維は特に制限されない。例えば、ガラスクロスのようなガラス繊維織布;ガラス不織布が挙げられる。なかでも、透明性、強靭性により優れ、耐熱性に優れるという観点から、ガラス繊維織布が好ましく、ガラスクロスがより好ましい。
ガラス繊維のガラス材料の種類としては例えば、Eガラス、Cガラス、Aガラス、Sガラス、Tガラス、Dガラス、NEガラス、クオーツ、低誘電率ガラス、高誘電率ガラスなどが挙げられる。なかでも、透明性、強靭性により優れ、耐熱性に優れ、不純物が少ないと言う観点から、Eガラス、NEガラスが好ましい。
ガラス繊維の屈折率は1.55〜1.57が好ましく、1.555〜1.565がより好ましい。ガラス繊維はそれぞれ単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0022】
ガラス繊維の量は、透明性、強靭性により優れ、耐熱性に優れるという観点から、組成物全量中の30〜70質量%であるのが好ましく、45〜65質量%であるのがより好ましい。
【0023】
本発明の組成物はさらに前記エポキシ樹脂の硬化剤を含有することができる。本発明の組成物がさらに使用することができる、エポキシ樹脂の硬化剤は、エポキシ樹脂に使用することができる硬化剤であれば特に制限されない。例えば、酸無水物、ポリアミン、ポリフェノール、ポリメルカプタン、カチオン重合系、アニオン重合系が挙げられる。なかでも、透明性、強靭性により優れ、耐熱性に優れるという観点から、酸無水物が好ましい。
【0024】
酸無水物としては、例えば、無水フタル酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸のような芳香族酸無水物;脂環式酸無水物が挙げられる。脂環式酸無水物が有する脂環式炭化水素は不飽和結合を有することができる。脂環式酸無水物としては、例えば、無水マレイン酸、テトラヒドロ無水フタル酸、無水ナジック酸、無水メチルナジック酸のような不飽和脂環式カルボン酸無水物;ヘキサヒドロ無水フタル酸、3−メチル−シクロヘキサンジカルボン酸無水物、4−メチル−シクロヘキサンジカルボン酸無水物、3−メチル−シクロヘキサンジカルボン酸無水物と4−メチル−シクロヘキサンジカルボン酸無水物の混合物、ノルボルナン−2,3−ジカルボン酸無水物、メチルノルボルナン−2,3−ジカルボン酸無水物のような飽和脂環式カルボン酸無水物が挙げられる。なかでも、耐着色性、低粘度の点で優れるという観点から、脂環式酸無水物が好ましく、飽和脂環式カルボン酸無水物がより好ましく、4−メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、これらの組み合わせがさらに好ましい。
硬化剤はそれぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0025】
硬化剤の量は、透明性、強靭性により優れ、耐熱性に優れるという観点から、エポキシ樹脂中のエポキシ基に対し、0.7〜1.5当量となる量であるのが好ましく、0.8〜1.1当量であるのがより好ましい。
【0026】
本発明の組成物は、必要に応じて透明性、強靭性等の特性を損なわない範囲で、さらに添加剤を含有することができる。添加剤としては、例えば、エポキシ樹脂以外の熱硬化性樹脂、エチレン性不飽和基含有化合物以外の付加重合可能なモノマー、ゴム、熱可塑性樹脂、シランカップリング剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、染顔料、ガラス繊維以外の無機フィラー、難燃剤、触媒(例えば、アミン、イミダゾール化合物、有機ホスフィン化合物、これらの塩のようなエポキシ樹脂の硬化触媒)、有機過酸化物硬化剤、ラジカル開始剤、熱カチオン重合開始剤、過酸化物系熱重合開始剤、光ラジカル重合開始剤、光カチオン重合開始剤、熱安定剤、溶剤が挙げられる。
【0027】
本発明の組成物はその製造方法について特に制限されない。例えば、ガラス繊維以外の成分(エポキシ樹脂及びエチレン性不飽和基含有化合物を少なくとも含有する。)を予め混合し、その後、(1)得られた混合物とガラス繊維とを直接混合する方法、または(2)未硬化の混合物または混合物を溶剤に溶解させたワニスをガラス繊維に含浸させる方法等が挙げられる。混合物(ガラス繊維以外の成分の混合物)を例えば室温〜60℃に加熱して使用することができる。
また本発明の組成物をプリプレグとして製造することができる。本発明の組成物の硬化(架橋)を完全に行わず、本発明の組成物を半架橋の状態(Bステージ)とし、その後、例えば、これを減圧下で脱気しながら、または、プレス機等で挟んで加圧しながら、加熱硬化させることによって本発明の組成物をプリプレグとすることができる。
【0028】
本発明の組成物を使用する際の温度(架橋温度、完全に硬化させる場合)は80〜200℃とすることができる。
本発明の組成物を用いて得られる硬化物の屈折率と、本発明の組成物に含有されるガラス繊維との屈折率との差は、優れた透明性を維持するため0.01以下であることが好ましく、0.005以下であることがより好ましい。
【0029】
本発明の複合樹脂シートについて以下に説明する。
本発明の複合樹脂シートは、
本発明の複合樹脂シート用組成物を加熱して製造され、
前記製造の際に、前記エチレン性不飽和基含有化合物が重合して柔軟性付与剤を形成し、
前記エポキシ樹脂100質量部、前記柔軟性付与剤5〜25質量部および前記ガラス繊維を含有する、複合樹脂シートである。
【0030】
本発明の複合樹脂シートは、例えば、本発明の複合樹脂シート用組成物を加熱することによって製造することができる。本発明の複合樹脂シートに使用される組成物は本発明の組成物であれば特に制限されない。そして本発明の複合樹脂シートに含有される柔軟性付与剤は、本発明の組成物に含有される、1分子中に2つ以上のエチレン性不飽和基を有する、少なくとも1種のエチレン性不飽和基含有化合物が重合することによって得られるポリマーである。ポリマーとしては、例えば、上記(メタ)アクリレート化合物のホモポリマー、コポリマーが挙げられる。本発明の複合樹脂シートは当該ポリマーを含有することのよって、透明性を落とすことなく、エポキシ樹脂の脆さを改善してエポキシ樹脂に靭性が付与され、全体として柔軟性を有する(例えば、耐屈曲性に優れる。)ようになり、硬さと柔軟性のバランスに優れる。ポリマーは(メタ)アクリレート化合物以外のエチレン性不飽和基含有化合物をモノマーとして使用することができる。具体的なポリマーとしては、例えば、トリメチロールプロパントリアクリレート及び/又はトリシクロデカンジメチロールジメタクリレートをモノマーとして用いて得られる少なくとも1種のポリマーが挙げられる。
本発明の複合樹脂シートにおいて、その製造の際(製造時)に、前記エチレン性不飽和基含有化合物が重合して柔軟性付与剤を形成する。一方、エポキシ樹脂はエポキシ樹脂同士で硬化する。
本発明の複合樹脂シートにおいて、エチレン性不飽和基含有化合物(柔軟性付与剤)がエポキシ樹脂と反応しないことが好ましい。これは、本発明の組成物においてエポキシ樹脂とエチレン性不飽和基含有化合物とが反応しないのが好ましいことと同様である。
組成物を加熱する際の温度(架橋温度)は80〜200℃とすることができる。
本発明の複合樹脂シートのガラス転移温度は、透明性、強靭性により優れ、耐熱性に優れるという観点から、200〜250℃であるのが好ましい。
【0031】
本発明の複合樹脂シートは例えば、ガラス代替材料、透明封止材として使用することができ、その具体的な用途としては、例えば、LED用封止材、ディスプレー用基板(液晶表示素子用基板、有機EL表示素子用基板、カラーフィルター用基板、電子ペーパー用基板)、太陽電池基板、タッチパネル等の光学用途が挙げられる。
【実施例】
【0032】
以下に、実施例を示して本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらに限定されない。
<評価>
下記のようにして得られた複合樹脂シートを用いて、複合樹脂シートのガラス転移温度(Tg)、複合樹脂シートの透明性、耐屈曲性を以下に方法で評価した。結果を第1表に示す。
1.ガラス転移温度(Tg):各硬化物(複合樹脂シート)について、動的粘弾性測定(Dynamic Mechanical Analysis)を歪み0.01%、周波数10Hz、昇温速度5℃/分の条件で、室温から200℃までの温度領域において、強制伸長加振を行って貯蔵弾性率を測定した。そして、tanδのピーク値を各複合樹脂シートのガラス転移温度Tgとした。
2.透明性:各硬化物(複合樹脂シート)について、JIS K 0115:2004に準じ、紫外・可視(UV−Vis)吸収スペクトル測定装置(島津製作所社製)を用いて波長400nmにおける透過率を測定した。
透過率が85%以上の場合透明性が良好であるとする。
3.耐屈曲性:各硬化物(複合樹脂シート)から得られた、幅10mm×長さ70mm×厚さ80μmの大きさの試験片の両端を手で持ち、試験片を曲げて元の状態に戻す操作を30回繰り返した。試験片に折れ目または裂け目が生じるか否かを検証した。
○:30回の繰り返し操作で、外観に全く変化が認められなかった場合
△:30回の繰り返し操作の途中で、裂け目が生じた場合
×:1回目で折れた場合
【0033】
<複合樹脂シートの製造>
下記のようにして得られた複合樹脂シート用樹脂組成物100gを60℃に加熱し、これにガラスクロス(日東紡社製、商品名1080(厚さ55μm)、大きさ縦10cm、横10cm、重さ0.47g、材料ガラスはEガラス、平織)浸漬して、ガラスクロスに複合樹脂シート用を含浸させ、未硬化の複合樹脂シートを製造した。得られた未硬化の複合樹脂シートを減圧下で脱気しながら100℃で30分、150℃で2時間、200℃で30分加熱硬化させ、厚さ80μmの複合樹脂シートを製造した。加熱硬化後の複合樹脂シートは完全に硬化されたものである。得られた複合樹脂シートの重さは1.17gであった。
【0034】
<複合樹脂シート用組成物の製造>
下記第1表に示す成分を同表に用いる量(質量部)で用いこれらを混合して複合樹脂シート用樹脂組成物を製造した。なお第1表中の酸無水物の量は、エポキシ樹脂全量が有するエポキシ基に対する、酸無水物が有する酸無水物当量として示す。得られた複合樹脂シート用樹脂組成物を樹脂1〜12とする。
【0035】
【表1】

【0036】
第1表に示されている各成分は、以下のとおりである。
・エポキシ樹脂(1):公知のシルセスキオキサンの製造方法により、信越化学工業社製KBM303[2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン]200gを260gのメチルエチルケトンに溶解させ、20mlの水を添加した。1N水酸化ナトリウム水溶液15mlを触媒(アルカリ触媒として)使用し、室温の条件下において加水分解縮合させた。反応後KBM303のメトキシ基が完全に消失していることを1H−NMR分析で確認した。また、GPC分析で単分散であることを確認した。GPC分析の結果が単分散であったことは得られたエポキシ樹脂がラダー型ではないことを示すと考えられる。得られたエポキシ樹脂をエポキシ樹脂(1)とする。エポキシ樹脂(1)は脂環式エポキシ基を有するかご型のシルセスキオキサンであり、上記式(A−1)で表される化合物および上記式(A−2)で表される化合物の混合物であると考えられる。
・エポキシ樹脂(2):ダイセル化学工業社製、セロキサイド 2021P、3、4−エポキシシクロヘキセニルメチル−3′,4′−エポキシシクロヘキセンカルボキシレート
・エチレン性不飽和基を有するシルセスキオキサン:商品名AC−SQ、東亞合成株式会社製、エチレン性不飽和基としてアクリル基を有する
・芳香族多官能エポキシ樹脂:トリスフェノール型エポキシ樹脂、商品名テクモアVG3101、三井化学株式会社製
・酸無水物:新日本理化製、MH700、4−メチルヘキサヒドロ無水フタル酸/ヘキサヒドロ無水フタル酸=70/30
・触媒:リン触媒、サンアプロ社製U−CAT5003、第4級ホスホニウムブロマイド
・アクリル樹脂(1):新中村化学工業株式会社製A−TMPT、トリメチロールプロパントリアクリレート、(トリメチロールプロパントリアクリレートの単独重合体のガラス転移温度>250℃)
・アクリル樹脂(2):新中村化学工業株式会社製A−DCP、トリシクロデカンジメタノールジメタクリレート、(トリシクロデカンジメタノールジメタクリレートの単独重合体のガラス転移温度250℃)
・粒状アクリルポリマー:前記A−TMPT、トリメチロールプロパントリアクリレート100重量部に有機過酸化物硬化剤:1,1−ジ(t−ヘキシルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサンを3重量部添加し、80℃2時間、200℃1時間で硬化させた。硬化物をボールミルにて粉砕し、平均粒径5μmの粉体を得た。
・有機過酸化物硬化剤(1):日油株式会社製パーヘキサTMH、1,1−ジ(t−ヘキシルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン
・熱安定剤:チバ・ジャパン株式会社製IRGANOX1135、化合物名イソオクチル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート
【0037】
第1表に示す結果から明らかなように、エチレン性不飽和基含有化合物を含有しない比較例1、2は耐屈曲性が低く、靭性が付与されず、硬さと柔軟性とのバランスが悪かった。脂環式エポキシ基を有さず代わりにエチレン性不飽和基を有するシルセスキオキサンを含有する比較例3はガラス転移温度が低く耐熱性に劣った。エポキシ樹脂100質量部に対して25質量部を超えるエチレン性不飽和基含有化合物を含有する比較例4は透明性が低かった。モノマーとしてのエチレン性不飽和基含有化合物を含有せず代わりに粒状アクリルポリマーを含有する比較例5は透明性が低く耐屈曲性が悪かった。脂環式エポキシ基を有さず代わりにエチレン性不飽和基を有するシルセスキオキサンを含有し、さらに芳香族多官能エポキシ樹脂を含有し、エチレン性不飽和基含有化合物を含有しない比較例6はガラス転移温度が低く耐熱性、透明性が低かった。
これに対して、実施例1〜7は、透明性を維持しつつ、靭性が高い複合樹脂シートが得られた。また実施例1〜7は、ガラス転移温度が200℃以上と高く耐熱性に優れる。
本発明の複合樹脂シートは、透明性に優れ、靭性が高く、硬さと柔軟性とのバランスに優れるので耐屈曲性が優れ、耐熱性に優れたものとなる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂環式エポキシ基を有する、かご型のシルセスキオキサンを含むエポキシ樹脂100質量部、1分子中に2つ以上のエチレン性不飽和基を有する、少なくとも1種のエチレン性不飽和基含有化合物5〜25質量部およびガラス繊維を含有し、
前記エチレン性不飽和基含有化合物の単独重合体のガラス転移温度が200℃以上である、複合樹脂シート用組成物。
【請求項2】
前記エチレン性不飽和基含有化合物が前記エポキシ樹脂と反応しない請求項1に記載の複合樹脂シート用組成物。
【請求項3】
前記シルセスキオキサンの量が前記エポキシ樹脂全量中の50質量%以上である請求項1または2に記載の複合樹脂シート用組成物。
【請求項4】
前記シルセスキオキサンが下記式(A−1)〜下記式(A−3)のいずれかで表される化合物である請求項1〜3のいずれかに記載の複合樹脂シート用組成物。
【化1】


【化2】


【化3】


[式(A−1)〜(A−3)中それぞれにおいて、複数のRのうち少なくとも2個または全部のRが脂環式エポキシ基を有する。]
【請求項5】
前記エチレン性不飽和基含有化合物が前記エポキシ樹脂と反応可能な基を有さない請求項1〜4のいずれかに記載の複合樹脂シート用組成物。
【請求項6】
前記エポキシ樹脂がさらに、エステル基を持つ脂環式エポキシ樹脂を含む請求項1〜5のいずれかに記載の複合樹脂シート用組成物。
【請求項7】
前記エステル基を持つ脂環式エポキシ樹脂の量が前記エポキシ樹脂全量中の50質量%以下である請求項6に記載の複合樹脂シート用組成物。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の複合樹脂シート用組成物を加熱して製造され、
前記製造の際に、前記エチレン性不飽和基含有化合物が重合して柔軟性付与剤を形成し、 前記エポキシ樹脂100質量部、前記柔軟性付与剤5〜25質量部および前記ガラス繊維を含有する、複合樹脂シート。
【請求項9】
前記柔軟性付与剤が、前記エチレン性不飽和基含有化合物の1種または2種以上を重合させることによって得られるポリマーである請求項8に記載の複合樹脂シート。
【請求項10】
前記エチレン性不飽和基含有化合物は前記エポキシ樹脂と反応しない請求項8又は9に記載の複合樹脂シート。

【公開番号】特開2013−107986(P2013−107986A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−254013(P2011−254013)
【出願日】平成23年11月21日(2011.11.21)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】