複合特性が改善されたアルミニウム合金製品及び該製品の製造方法
【解決手段】厚さ約4インチ以下のアルミニウム合金製品であって、溶体化熱処理され、焼入れされ、人工時効された前記合金製品から作られた部品は、強度、破壊靱性及び耐食性について改良された複合特性を有しており、前記合金は、Zn:約6.8〜約8.5重量%、Mg:約1.5〜約2.00重量%、Cu:約1.75〜約2.3重量%、Zr:約0.05〜約0.3重量%、Mn:約0.1重量%未満、Cr:約0.05重量%未満、残部Al、随伴元素及び不純物である。また、前記アルミニウム合金製品を製造する方法である。本開示合金は、商業用航空機の構造部材の製造に有用であり、前記構造部材として、限定するものではないが、組立式又は一体型構造の上ウイングスキン、上ウィングストリンガー、スパーキャップ、スパーウェブ、リブ、リブフィート又はリブウェブが挙げられる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
<関連出願の説明>
本願は、2007年5月14日に出願された米国一部継続出願第11/748,021号、発明の名称「複合特性が改善されたアルミニウム合金製品(aluminum alloy products)及び該製品の人工時効方法」の優先権を主張し、該出願は、引用を以てその全体が本願に組み込まれるものとする。
【背景技術】
【0002】
<発明の分野>
本開示は、アルミニウム合金に関するものであり、特にアルミニウム協会による7000系(又は7XXX)アルミニウム(“Al”)合金に関する。より具体的には、商業用航空機の構造部材の製造に有用で、厚さが最大4インチのアルミニウム合金製品に関する。
【0003】
<関連技術の説明>
航空宇宙産業が新たなシリーズの航空機を製造するに伴い、アルミニウム合金に対する産業の需要はますます高まってきている。新しいジェット機のサイズが大きくなり、また、現在のジェット旅客機モデルの最大積量がより重くなり、及び/又は、飛行距離がより長くなり、性能及びコストの改善が進むにつれて、ウィング構成部品などの構造部品における軽量化への需要は増え続けている。
【0004】
従来の航空機のウィング構造は図1に示されており、全体が符号(2)で示されるウィングボックス(wing box)を含んでいる。ウィングボックス(2)は、ウィングの主要強度部品として機体から外方に延在し、図1の紙面とほぼ直交している。ウィングボックス(2)において、上ウィングスキン(4)と下ウィングスキン(6)は離間し、その間には、垂直構造部材又はスパー(spar)(12)(20)が設けられている。ウィングボックス(2)はまた、一方のスパーから他方のスパーに延在するリブを含んでいる。これらのリブは図1の紙面と平行に存在するのに対し、ウィングのスキンとスパーは図1の紙面と直交している。
【0005】
上ウィングのカバーは、典型的には、スキン(4)と補強要素又はストリンガー(8)とを具えている。これらの補強要素は別々の構成にして締結することもできるが、スキンと一体に作ることで、ストリンガーとリベットを別々に設ける必要性をなくすこともできる。飛行中、商業用航空機の上ウィングの構造は圧縮負荷を受けるため、高い圧縮強度をもつ合金が求められる。この要請により、所定の破壊靱性レベルを維持しつつ、より高い圧縮強度を有する合金が開発されてきた。今日の大型航空機の上ウィングの構造部材は、典型的には、7150アルミニウム(米国再発行特許第34,008号)、7499アルミニウム(米国特許第5,560,789号)又は7055アルミニウム(米国特許第5,221,377号)のように、高強度7XXX系アルミニウム合金から作られている。より最近では、改善された7055アルミニウム合金が米国特許第7,097,719号に開示されている。
【0006】
しかしながら、超大型航空機の開発により、新たな設計条件が要求されている。ウィングの大型化及び高重量化により、航空機の総離陸重量が増加するため、これらの航空機は着陸時の下方曲げ負荷(down-bending loads)が大きく、上ウィング構造部材に高い引張負荷が作用する。現在の上ウィング用合金の引張強度はこれら下方曲げ負荷に十分耐えることはできるが、これら合金の破壊靱性は不足するため、上カバーの胴体側部分(inboard portions)の設計基準が制限される。このため、超大型航空機の上側構造部材用合金は、強度を多少犠牲にしても、非常に高い破壊靱性を有する合金が要請されるようになった。この合金は、2324合金(米国特許第4,294,625号)のような下ウィングスキン合金により近いものである。つまり、超大型航空機の上ウィング構造部材における強度と靱性の最適な組合せは、最大限の軽量化を達成するために、高破壊靱性化と低強度化へ移行したのである。
【0007】
ウィングスパー及びリブ要素において、減量化及びコスト削減のために用いられる設計及び合金製品に対しては、摩擦攪拌溶接等の新たな溶接技術もまた、多くの新たな可能性を有している。スパーの性能を最大限にするには、上ウィングスキンに接合するスパーの部分は上ウィングスキンと同様な特性を有し、下ウィングスキンに接合するスパーの部分は下ウィングスキンと同様な特性を有する必要がある。このため、上側スパーキャップ(14)又は(22)と、ウェブ(18)又は(20)と、下側スパーキャップ(16)又は(24)とを具え、締結具(図示せず)によって接合された“組立(ビルトアップ、built-up)式”のスパーが用いられるようになった。この“組立式”スパーの構造により、各構成部品に最適な合金製品を用いることができる。しかしながら、取付けに必要な締結具の数が多いため、組立て費用が増大する。また、締結具と締結具孔は構造的に弱い連結であるため、部品の厚みを厚くせねばならず、複数の合金を用いることの性能の利点は幾分低下する。
【0008】
組立式スパーに関連する組立て費用を抑える方策の一例として、単一合金を厚板からスパー全体を機械加工すること、押出し又は鍛造することが挙げられる。この機械加工処理は、部品の“ホッギングアウト(hogging out)”としても知られている。この設計では、ウェブと上スパーの接合及びウェブと下スパーの接合は必要でなくなる。このようにして作られるワンピース型のスパーは、“一体型スパー(integral spar)”として称されることもある。一体型スパーを作るのに理想的な合金は、上ウィング合金がもつ強度特性と、下ウィング合金がもつ破壊靱性及び他の損傷許容特性とを兼ね備えているものである。通常は、両方の特性を同時に達成することは難しく、上スキンの特性条件と下スキンの特性条件との間で中間的なものとなる。一体型スパーが解消させなければならない問題の一つとして、出発材料(starting stock)として用いられる厚肉製品の強度と靱性は、同じ合金及び質別(temper)から作られたものでも、典型的には、“組立式”スパーに一般的に用いられる薄肉製品の特性より劣ることがある。それゆえ、中間的特性と一体型スパーでの厚肉製品の使用は、重量の面で不利となってしまう。上スパーキャップと下スパーキャップの両方に必要な特性を適度に具えると共に、焼入れ感受性が低く厚肉の製品でも良好な特性を保有する厚肉製品用の合金として、米国特許第6,972,110号に開示された7085合金がある。一体型スパーのもう一つの問題は、合金の如何に拘わらず、購入重量(buy weight)(つまり、購入される材料)と飛行重量(fly weight)(航空機で飛行する材料の重量)の比率(“購入対飛行(buy to fly)”とも称される)が高いことである。このため、一体型スパーが組立式スパーと比べて、組立て費用の削減によってもたらされるコスト高の利点が、少なくとも一部は損なわれる。
【0009】
しかしながら、摩擦攪拌溶接等の新たな技術は、重量と費用の両面でさらに改善できる可能性がある。複数の要素が、摩擦攪拌溶接もしくは他の先進溶接又は接合方法によって接合されたスパーは、組立式スパーと一体型スパーの利点を兼ね備えている。このような方法を用いることで、より薄肉の製品のほか、各スパー構成部品用に最適化された複数種類の合金、製品形態及び/又は質別を利用することが可能となる。このことで、一体型スパーの組立費用面での利点という重要な部分を維持しつつ、合金製品/質別に対する選択肢が拡がり、組立式スパーにおけるのと同様、材料の購入対飛行を向上させることができる。
【0010】
米国特許第5,865,911号には、超大型航空機の下ウィングスキン構造部材及びウィングスパー部材として、7000系合金が開示されている。この合金は、2024及び2324(米国特許第4,294,625号)のような現在使われている下ウィング合金と比べて、薄肉プレートの強度、靱性、及び耐疲労性が改善されている。強度と靱性における同様な特性は、表1に示すように、7085合金(米国特許第6,972,110号)の薄肉プレートでも得られている。薄肉製品形態におけるこれら合金のいずれも、下ウィングカバーの構造部材用として、また、複数の要素が機械的締結又は溶接によって接合されたスパーの下スパーキャップ及びウェブ用材料として有用であろう。これらの合金はまた、組立式又は一体型設計のいずれにおいても、リブ用として適している。ところが、これらの合金で達成できる強度レベルは大型商業用航空機の上ウィング構造部材に用いるには一般的に不十分である。上スパーキャップ、スパーウェブ及びリブには、適切な靱性が維持されることを条件として、強度をより高めることが有利である。
【表1】
【0011】
それゆえ、超大型航空機において、上ウィング構造部材に用いられている現在の合金の許容強度レベルを維持しつつ、それよりも有意に高い靱性を有する合金が必要とされている。このような合金は、複数の要素が機械的締結又は溶接によって接合された上スパーキャップ及びスパーウェブに使用される他、組立式又は一体型設計のウィングリブにも有益であろう。超大型航空機及びウィングでの必要性について具体的に説明したが、このような合金はまた、機体用としても、また、小型機の組立式及び一体型両方の構造用としても有益である。加えて、軍用車両の装甲等の非航空機用部品としても、本発明合金から作られることはできるだろう。
【発明の概要】
【0012】
<発明の要旨>
宇宙航空機の構造部品として特に適した新規なアルミニウム合金製品を提供する。一態様において、新規なアルミニウム合金(“本開示合金又は本発明合金”と称することもある)は、Zn:約6.80〜約8.5重量%、Mg:約1.5又は1.55〜約2.00重量%、Cu:約1.75〜約2.30重量%、Zr:約0.05〜約0.3重量%、Mn:約0.1重量%未満、Cr:約0.05重量%未満、残部実質的にAl、随伴元素及び不純物である。アルミニウム合金製品は、厚さ約4インチ以下、場合によっては約2.5インチ以下又は2.0インチ以下であって、許容レベルの強度を維持しつつ、これら用途に用いられる従来合金よりも有意に高い破壊靱性を有しており、その逆もしかりである。
【0013】
一の発明では、アルミニウム合金製品を提供する。該製品のアルミニウム合金は、Zn:約6.80〜約8.5重量%、Mg:約1.5又は1.55〜約2.00重量%、Cu:約1.75〜約2.30重量%、Zr:約0.05〜約0.3重量%、Mn:約0.1重量%未満、Cr:約0.05重量%未満、残部Al、随伴元素及び不純物である。アルミニウム合金に溶体化熱処理、焼入れ(quenched)及び人工時効が施されると、製造された部品は、改善された強度と破壊靱性を具える。一実施例において、合金は少量の鉄及び珪素不純物を含んでいる。一実施例において、合金は不純物として、Fe:約0.15重量%以下及びSi:約0.12重量%以下を含んでいる。一実施例において、合金は不純物として、Fe:約0.08重量%以下及びSi:約0.06重量%以下を含んでいる。一実施例において、合金は不純物として、Fe:約0.04重量%以下及びSi:約0.03重量%以下を含んでいる。アルミニウム合金は、例えば、圧延シート、圧延プレート、押出又は鍛造の形態である。幾つかの実施例において、アルミニウム合金製品は、厚みが最も厚い位置での厚さは2.5インチ又は2.0インチ未満である。幾つかの実施例において、アルミニウム合金製品は、厚みが最も厚い位置での厚さは約2.5インチ〜4インチである。
【0014】
一の発明では、アルミニウム合金は、圧延プレートの形態であり、厚さは、2.5インチ未満で、例えば2.00インチ以下である。一実施例において、圧延プレートのアルミニウム合金は、Zn:6.8〜8.5重量%、Mg:1.5〜2.0重量%、Cu:1.75〜2.3重量%、Zr、Hf、Sc、Mn及びVの少なくとも一種:0.25重量%以下、及びAl:約89.95重量%以下を含んでいる。一実施例において、アルミニウム合金は、Zn:7.5〜8.5重量%、Cu:1.9〜2.3重量%、Mg:1.5〜2.0重量%、Zr、Hf、Sc、Mn及びVの少なくとも一種:0.25重量%以下、及びAl:約89.1重量%以下を含んでいる。一実施例において、アルミニウム合金は、Zn:7.8〜8.5重量%、Cu:1.95〜2.25重量%、Mg:1.7〜2.0重量%、Zr、Hf、Sc、Mn及びVの少なくとも一種:0.25重量%以下、及びAl:約88.55重量%以下を含んでいる。一実施例において、アルミニウム合金は、Zn:7.9〜8.2重量%、Cu:2.05〜2.15重量%、Mg:1.75〜1.85重量%、Zr、Hf、Sc、Mn及びVの少なくとも一種:0.25重量%以下、及びAl:約88.3重量%以下を含んでいる。一実施例において、アルミニウム合金は、Zn:7.4〜8.0重量%、Cu:1.95〜2.25重量%、Mg:1.7〜2.0重量%、Zr、Hf、Sc、Mn及びVの少なくとも一種:0.25重量%以下、及びAl:約88.95重量%以下を含んでいる。一実施例において、アルミニウム合金は、Zn:7.5〜7.9重量%、Cu:2.05〜2.20重量%、Mg:1.8〜1.9重量%、Zr、Hf、Sc、Mn及びVの少なくとも一種:0.25重量%以下、及びAl:約88.65重量%以下を含んでいる。これらの様々な実施例において、アルミニウム合金は、Zr:0.05〜約0.3重量%、Mn:約0.1重量%未満、及びCr:約0.05重量%未満を含んでもよい。これらの実施例のいずれにおいても、アルミニウム合金は、本質的に前記成分(アルミニウムを除く)から構成され、残部はアルミニウム並びに随伴元素及び不純物である。これらの実施例のいずれにおいても、アルミニウム合金製品は、厚みが最も厚い位置での厚さは約2.5又は2.0インチ未満である。
【0015】
一の発明では、アルミニウム合金は、プレートの形態であり、厚さは、2.5又は3.0インチ又は2.51インチ〜約3.5インチ、3.75インチ又は4.0インチである。一実施例において、プレートのアルミニウム合金は、Zn:6.8〜8.5重量%、Mg:1.5〜2.0重量%、Cu:1.75〜2.3重量%、Zr、Hf、Sc、Mn及びVの少なくとも一種:0.25重量%以下、及びAl:約89.95重量%以下を含んでいる。一実施例において、アルミニウム合金は、Zn:7.4〜8.0重量%、Cu:1.9〜2.3重量%、Mg:1.55〜2.0重量%、Zr、Hf、Sc、Mn及びVの少なくとも一種:0.25重量%以下、及びAl:約89.15重量%以下を含んでいる。一実施例において、アルミニウム合金は、Zn:7.5〜7.9重量%、Cu:2.05〜2.20重量%、Mg:1.6〜1.75重量%、Zr、Hf、Sc、Mn及びVの少なくとも一種:0.25重量%以下、及びAl:約88.55重量%以下を含んでいる。これらの様々な実施例において、アルミニウム合金は、Zr:0.05〜約0.3重量%、Mn:約0.1重量%未満、及びCr:約0.05重量%未満を含むこともできる。これら実施例のいずれにおいても、アルミニウム合金は、本質的に前記成分(アルミニウムを除く)から構成され、残部はアルミニウム並びに随伴元素及び不純物である。
【0016】
アルミニウム合金製品は、改良された強度及び靱性特性を実現する。一実施例において、アルミニウム合金製品は、厚さ約2.5インチ又は2.00インチ以下のセクションを含み、長手方向に最小引張降伏強度を有し、図3A又は図3BのA−A線の線上、線より上及び右側の領域(すなわち、網掛け領域)には、L−T方向に平面ひずみ破壊靱性を有している。一実施例において、合金は厚さ約2.5インチ又は2.00インチ以下のセクションを含み、引張降伏強度を有し、図4のB−B線の線上、線より上及び右側の領域(すなわち、網掛け領域)には、L−T方向に見かけの平面応力破壊靱性を有しており、これらは、初期亀裂長さ(2ao)が約4インチ、厚さ約0.25インチの中央亀裂入りの幅16インチパネルで計測したものである。
【0017】
一実施例において、アルミニウム合金製品は、厚さ約2.00インチ又は2.5インチ〜3.0インチ又は3.125インチ又は3.25インチのセクションを含み、LT(long transverse)方向に引張降伏強度を有し、図7のC−C線の線上、線より上及び右側の領域(すなわち、網掛け領域)には、T−L方向に平面ひずみ破壊靱性を有している。一実施例において、アルミニウム合金製品は、厚さ(例えば、最も厚い位置)約2.00インチ又は2.5インチ〜3.0インチ又は3.125インチ又は3.25インチのセクションを含み、ST(short transverse)方向に引張降伏強度を有し、図9のE−E線の線上、線より上及び右側の領域(すなわち、網掛け領域)には、S−L方向に平面ひずみ破壊靱性を有している
【0018】
一実施例において、アルミニウム合金製品は、厚さ(例えば、最も厚い位置)約2.75インチ、3.0インチ、3.125インチ又は3.25インチ〜約3.5インチ、3.75インチ又は4インチのセクションを含み、LT方向に引張降伏強度を有し、図8のD−D線の線上、線より上及び右側の領域(すなわち、網掛け領域)には、T−L方向に平面ひずみ破壊靱性を有している。一実施例において、アルミニウム合金製品は、厚さ約2.75インチ、3.0インチ、3.125インチ又は3.25インチ〜約3.5インチ、3.75インチ又は4インチのセクションを含み、ST方向に引張降伏強度を有し、図10のD−D線の線上、線より上及び右側の領域(すなわち、網掛け領域)には、S−L方向に平面ひずみ破壊靱性を有している。
【0019】
アルミニウム合金製品は優れた耐食性をも実現する。一実施例において、合金製品の耐食性は、EXCOランクで常に“EB”以上である。一実施例において、合金製品は、交互浸漬での応力腐食割れ抵抗性試験を常にパスし、T74質別の応力レベルは35ksi、T76質別の応力レベルは25ksi、T79質別の応力レベルは15ksiである。一実施例において、アルミニウム合金製品は、海岸環境の応力腐食割れ抵抗性試験を常にパスし、T74質別の応力レベルは35ksi、T76質別の応力レベルは25ksi、T79質別の応力レベルは15ksiである。一実施例において、アルミニウム合金製品の耐食性はEXCOランクで常に“EB”以上であり、交互浸漬の応力腐食割れ抵抗性試験及び海岸環境での応力腐食割れ抵抗性試験の両方を常にパスし、T74質別の応力レベルは35ksi、T76質別の応力レベルは25ksi、T79質別の応力レベルは15ksiである。一実施例において、アルミニウム合金製品の耐食性はEXCOランクで常に“EB”以上であり、交互浸漬での応力腐食割れ抵抗性試験及び沿岸環境での応力腐食割れ抵抗性試験の両方を常にパスし、T74質別の応力レベルは35ksi、T76質別の応力レベルは25ksi、T79質別の応力レベルは15ksiであり、上述した引張降伏強度及び破壊靱性の特性を達成している。アルミニウム合金製品は、他の応力腐食割れ抵抗性試験についても同じ様にパスするであろう。
【0020】
アルミニウム合金製品は、様々な用途に用いることができる。一実施例において、アルミニウム合金製品は宇宙航空機の構造部品である。宇宙航空機の構造部品は、上ウィングパネル(スキン)、上ウィングストリンガー、一体ストリンガーを有する上ウィングカバー、スパーキャップ、スパーウェブ、リブ、リブフィート又はリブウェブ、補強要素及びそれらの組合せのいずれでもよい。一実施例において、アルミニウム合金製品は機体部品(例えば、機体のスキン)である。一実施例において、アルミニウム合金製品は装甲部品(例えば、電動式車両の)である。一実施例において、アルミニウム合金製品は石油・ガス産業において用いられる(例えば、パイプ等の構造部品として)。
【0021】
アルミニウム合金製品は、様々な方法で生成することができる。例えば、部品の作製は、融接又は固相溶接法により、質別が同じか又は異なる略同じ合金から作られた1又は複数のアルミニウム合金製品に溶接された合金製品から行なうことができる。一実施例において、アルミニウム合金製品は、異なる合金組成の1又は複数のアルミニウム合金製品に接合されて、マルチ合金部品が作製される。一実施例において、前記製品は機械的締結によって接合される。一実施例において、アルミニウム合金製品は融接又は固相溶接法によって接合される。一実施例において、アルミニウム合金製品は、部品の製造プロセスにおいて、単独で時効成形されるか、又は他の合金製品に接合後に時効成形される。一実施例において、アルミニウム合金製品は繊維金属積層材又は他の強化材によって強化される。
【0022】
アルミニウム合金及びアルミニウム合金製品の製造方法も提供する。一の発明において、方法は、アルミニウム合金を航空機の構造部品に成形又は形成するステップを含んでいる。方法は、アルミニウム合金(例えば、前記組成の何れかを有するアルミニウム合金)を生成すること、圧延、押出及び鍛造からなる群から選択される1又は複数の方法によって合金を均質化及び熱間加工を行なうこと、合金を溶体化熱処理すること、合金を焼入れすること、並びに合金を応力除去することを含むことができる。人工時効処理された構造部品は、強度と破壊靱性について改良された複合特性を具備する。一実施例において、合金は焼入れされるとき厚さは約4インチ未満である。一実施例において、方法は、部品は単独で時効成形するか、又は他の合金製品に接合後に時効成形することを含んでいる。
【0023】
一実施例において、構造部品を成形又は形成するステップは機械加工を含んでいる。一実施例において、機械加工は人工時効を施した後か、又は複数の時効段階の間に行われる。一実施例において、機械加工は溶体化熱処理より前に行われる。
【0024】
一実施例において、構造部品を成形又は形成するステップは、他の部品に接合する前又は後のどちらかに時効成形することを含んでいる。一実施例において、構造部品を成形又は形成するステップの少なくとも一部は、人工時効の前に行われるか、又は人工時効の少なくとも一部を行なっている間に行われる。
【0025】
一実施例において、合金は、(i)約150〜275°Fでの第1時効段階と、(ii)約290〜335°Fの第2時効段階とを含む方法によって人工時効が施される。一実施例において、第1時効段階(i)は、約200〜260°Fで行われる。一実施例において、第1時効段階(i)は、約2〜約18時間行われる。一実施例において、第2時効段階は約290〜325°Fで約4〜約30時間行われる。一実施例において、第2時効段階(ii)は約290〜315°Fで約6〜約30時間行われる。一実施例において、第2時効段階(ii)は約300〜325°Fで約7〜約26時間行われる。一実施例において、時効段階の一方又は両方は、複数の温度時効効果の統合を含んでいる。一実施例において、部品を、該部品と同じ合金又は異なる合金又は質別の別の部品に溶接するために、時効段階の一方又は両方が中断される。
【0026】
他の実施例において、合金は、(i)約290〜335°Fでの第1時効段階と、(ii)約200〜275°Fの第2時効段階とを含む方法によって人工時効が施される。一実施例において、第1時効段階(i)は約290〜325°Fで約4〜約30時間行われる。一実施例において、第1時効段階(ii)は約290〜315°Fで約6〜約30時間行われる。一実施例において、第1時効段階(i)は約300〜325°Fで約7〜約26時間行われる。一実施例において、時効段階の一方又は両方は、複数の温度時効効果の統合を含んでいる。一実施例において、部品を、該部品と同じ合金又は異なる合金又は質別の別の部品に溶接するために、時効段階の一方又は両方が中断される。
【0027】
他の実施例において、合金は、(i)約150〜275°Fでの第1時効段階と、(ii)約290〜335°Fの第2時効段階と、(iii)約200〜275°Fでの第3時効段階とを含む方法によって人工時効が施される。一実施例において、第1時効段階(i)は、約200〜260°Fで行われる。一実施例において、第1時効段階(i)は、約2〜約18時間行われる。一実施例において、第2時効段階(ii)は約290〜325°Fで約4〜約30時間行われる。一実施例において、第2時効段階(ii)は約290〜315°Fで約6〜約30時間行われる。一実施例において、第2時効段階(ii)は約300〜325°Fで約7〜約26時間行われる。一実施例において、第3時効段階(iii)は約230〜260°Fで少なくとも約2時間以上行われる。一実施例において、第3時効段階(iii)は約240〜255°Fで約18時間以上行われる。一実施例において、時効段階のうちの1、2又は全部の段階は、複数の温度時効効果の統合を含んでいる。一実施例において、部品を、該部品と同じ合金又は異なる合金又は質別の別の部品に溶接するために、時効段階のうちの1、2又は全部の段階は中断される。
【0028】
この方法は、合金部品を接合することを含むこともできる。一実施例において、1又は複数の部品は機械的締結によって接合される。一実施例において、1又は複数の部品は溶接によって接合される。一実施例において、部品は電子ビーム溶接によって接合される。一実施例において、部品は摩擦攪拌溶接によって接合される。一実施例において、一部品は他のアルミニウム製品に締結又は溶接されることにより、マルチ合金及び/又は複数質別(multi-temper)の部品が作られる。
【0029】
前記の態様、取組及び/又は実施例の様々な組合せによって、有用な種々アルミニウム合金製品及び部品を作られることは理解されるであろう。ここでの開示のこれら及び他の態様、利点並びに新規な特徴の一部を以下に説明するが、当業者であれば、以下の説明及び図面の審査の際に明らかであろうし、開示の実施すによって理解できるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0030】
本開示の理解をより完全なものとするために、添付図面を参照して、以下に説明する。
【0031】
【図1】図1は、航空機のウィングの典型的なウィングボックス構造の横断面図である。
【0032】
【図2A】図2Aは、本発明の合金組成の実施例を示しており、主要合金元素であるCu及びZnについて、7085合金、7055合金及び7499合金との含有量の比較を示している。
【図2B】図2Bは、本発明の合金組成の実施例を示しており、主要合金元素であるMg及びZnについて、7085合金、7055合金及び7499合金との含有量の比較を示している。
【0033】
【図2C−1】図2C−1は、本開示の合金組成(例えば、厚さが2又は2.5インチ以下のアルミニウム合金プレートを製造するのに有用な組成)の実施例を示している。
【図2C−2】図2C−2は、本開示の合金組成(例えば、厚さが2又は2.5インチ以下のアルミニウム合金プレートを製造するのに有用な組成)の実施例を示している。
【図2D−1】図2D−1は、本開示の合金組成(例えば、厚さが2又は2.5インチ以下のアルミニウム合金プレートを製造するのに有用な組成)の実施例を示している。
【図2D−2】図2D−2は、本開示の合金組成(例えば、厚さが2又は2.5インチ以下のアルミニウム合金プレートを製造するのに有用な組成)の実施例を示している。
【0034】
【図2E】図2Eは、本開示の合金組成(例えば、厚さが約2又は2.5インチ以上のアルミニウム合金プレートを製造するのに有用な組成)の実施例を示している。
【図2F】図2Fは、本開示の合金組成(例えば、厚さが約2又は2.5インチ以上のアルミニウム合金プレートを製造するのに有用な組成)の実施例を示している。
【0035】
【図3A】図3Aは、(i)T79質別のプレート状発明例合金A−Dと、(ii)プレート状の幾つかの他の従来合金について、典型的なL−T平面ひずみ破壊靱性KIcと長手方向の最小引張降伏強度との関係を示すグラフである。
【0036】
【図3B】図3Bは、(i)T79質別のプレート状発明例合金A−Dと、(ii)プレート状の幾つかの他の従来合金について、典型的なL−T平面ひずみ破壊靱性KIcと長手方向の最小引張降伏強度との関係を示すグラフである。
【0037】
【図4】図3Aは、(i)T79質別のプレート状発明例合金A−Dと、(ii)プレート状の幾つかの他の従来合金について、典型的なL−T平面応力破壊靱性Kappと実際の又は測定された引張降伏強度との関係を示すグラフである。
【0038】
【図5】図5は、発明例合金組成物のうちの2つについて、腐食曝露後、0時間、6時間及び12時間の3種類の第3ステップ時効を施したもので、LT方向における残存強度率を比較するグラフである。
【0039】
【図6】図6は、発明例合金と従来の7055合金について、腐食曝露後、12時間の第2ステップ時効を施したもので、LT方向における残存強度率を比較するグラフである。
【0040】
【図7】図7は、(i)T74質別の発明例合金E(厚さ3.125インチ)と、(ii)幾つかの他の従来合金(厚さ約3インチ)とについて、典型的なL−T平面ひずみ破壊靱性KIcと典型的なLT引張降伏強度との関係を示すグラフである。
【0041】
【図8】図8は、(i)T74質別の発明例合金F(厚さ4.0インチ)と、(ii)幾つかの他の従来合金(厚さ約4インチ)とについて、典型的なL−T平面ひずみ破壊靱性KIcと典型的なLT引張降伏強度との関係を示すグラフである。
【0042】
【図9】図9は、(i)T74質別の発明例合金E(厚さ3.125インチ)と、(ii)幾つかの他の従来合金(厚さ約3インチ)とについて、典型的なS−L平面ひずみ破壊靱性KIcと典型的なST引張降伏強度との関係を示すグラフである。
【0043】
【図10】図10は、(i)T74質別の発明例合金F(厚さ4.0インチ)と、(ii)幾つかの他の従来合金(厚さ約4インチ)とについて、典型的なS−L平面ひずみ破壊靱性KIcと典型的なST引張降伏強度との関係を示すグラフである。
【0044】
図面全体を通じて、同じ引用符号は、同じ要素を表している。
【0045】
<詳細な説明>
図1は、上ウイングスキン(4)及びストリンガー(8)と、下ウイングスキン(6)及びストリンガー(10)とがスパー(12)(18)によって隔てられた典型的なウイングボックス構造(2)の横断面を示す概略図である。ストリンガー(4)(10)は締結によって別途取り付けられることができるが、別個のストリンガー及びリベットを不要にするためにスキンと一体に作られることもできる。ウイングの上面及び下面の各々を被覆するのに必要なウイングパネル(4)(6)は、航空機サイズ及びウイング設計に応じて、典型的には、2又は3又は4である。一体型スキン及びストリンガー設計の場合、もっと多くのパネルが必要となることもある。上スキン及び下スキンを具える複数のパネルは、典型的には、機械的締結によって接合される。これらの継手は、航空機の重量を増加する。
【0046】
スパーは例えば“組立式”にて、上スパーキャップ(14)又は(22)と、下スパーキャップ(16)又は(24)と、ウエブ(18)又は(26)とが機械的締結によって接合されることができるし、一体型のワンピース構造とすることもできるが、夫々に利点と不利とがある。組立式スパーは、スパー部品の各々に最適な合金製品を用いることができ、一体型スパーに比べて“購入対飛行”が改善される。典型的には、上スパーキャップは、高い圧縮強度を必要とするのに対し、下スパーキャップは、強度は低くても、破壊靱性及び疲労亀裂成長抵抗性等の損傷許容特性はより高いものが必要とされる。一体型スパーは組立費用は低減されるが、その特性は、上側スキンと下側スキンに要求される条件の折衷的なものとならざるを得ないため、その性能は組立式構造のものよりも劣る。また、一体型スパー用の出発材料として用いられる厚肉製品の強度と靱性は、典型的には、組立式スパー用に用いられる薄肉製品に劣る。
【0047】
ウイングボックスは、一方のスパーから他方のスパーへ全体的に延在するリブ(図示せず)をさらに含んでいる。これらのリブは、図1の紙面と平行である。一方、ウイングスキンとスパーは図1の紙面と直交している。スパーと同様、リブは、組立式でも一体型でもよいが、スパーの場合と同じ様に、夫々に利点と不利とがある。しかしながら、リブの最適特性は幾分異なり、上下ウイングスキンとストリンガーに接続するリブ脚部は高い強度が有利であるが、リブのウエブは高い剛性(stiffness)が有利である。より典型的には、ウイングリブは一体型構造であり、特性は、リブ脚部とリブウエブに要求される条件の折衷的なものである。
【0048】
摩擦撹拌溶接や電子ビーム溶接等の新しい溶接技術は、現在の組立式及び一体型構造の利点を維持しつつ、それらの不利を最小にできる新たな構造概念が可能となる。例えば、上スキンを作るために用いられる異なるウイングパネル(4)は、機械的締結継手に代えて摩擦撹拌溶接によって接合することにより、上スキンの重量を低減できる。スパーとリブは最適化された複数の合金、質別から作られ、各スパー及びリブ要素は摩擦撹拌溶接によって接合されるので、組立式スパーにおける薄肉製品の性能の利点と良好な購入対飛行を維持しつつ、一体型スパー又はリブと同様の組立費用の削減が可能となる。例えば、上スパーキャップ(14)(22)は高強度合金又は質別押出品から作られ、下スパーキャップ(16)(24)は低強度損傷許容合金又は質別押出品から作られ、スパーウエブ(18)(26)は中強度合金又は質別プレートから作られ、3要素は、摩擦撹拌溶接又は電子ビーム溶接によって接合されることができる。一体型と組立式とがミックスされた構造を用いることで、組立費用の低減と共に、要素のフェイル・セーフティ及び損傷許容性が改善される。例えば、上スパーキャップ(14)(22)は、摩擦撹拌溶接によってスパーウエブ(12)(20)に接合されることで組立費用が低減され、下スパーキャップ(16)(24)は機械的に締結されることで損傷許容性が改善される。組立式と一体型とがミックスされた溶接構造における損傷許容性の更なる改善は、繊維金属積層材及び米国特許第6595467号に記載された他の強化材で強化することによって達成される。
【0049】
米国特許第6972110号に記載された合金(商品名称は7085)は、主として、低焼入れ感受性が重要な厚肉品(厚さ4〜8インチ又はそれ以上)に用いられる。低焼入れ感受性は、厚肉品の焼入れが可能な組成を注意深く制御することによって達成され、強度、靱性及び耐食性について、従来の厚肉品(例えば、7050、7010、7040材)よりも優れた組合せが達成される。AA7085として登録された組成は、低Cu(約1.3〜約1.9重量%)及び低Mg(約1.3〜約1.68重量%)であり、これは商業用航空宇宙用合金に用いられる最も希薄レベルである。特性が最も最適化されたZnレベル(約7〜約9.5重量%)は、7050、7010、7040材で規定された量よりもずっと多いレベルである。これは、Zn含有量が多いほど焼入れ感受性(quench sensitivity)が大きくなるというこれまでの教唆に反するものである。それどころか、7085材ではZn量が多くなるほど、実際には、厚肉ピースの遅い焼入れ条件に対して効果的あることがわかった。米国特許第6972110号は、厚肉の本願合金の強度び靱性改善のかなりの部分は、合金成分の特定された組合せによるものである。
【0050】
米国特許第5221377号は、典型的には、厚さ2インチ以下のプレート及び押出に用いられる7055合金に関するもので、Mg量が少ないと破壊靱性が向上することを教唆している。溶質量の増加によって強度が向上すると、典型的には、靱性が低下することも、先行技術において認識されている。
【0051】
本発明合金は、主として、厚さ約4インチ以下、場合によっては約2.0又は2.5以下の薄肉合金製品を目的として、大型商業用航空機におけるウイングスキン、ウイングストリンガー及び上スパーキャップを含む上側構造部材に適している。これらの用途では、多くの場合高い強度を必要とし、その利点を享受するが、これは、7085材の組成によって達成されることができる。同じように、スパーウエブ、リブ及びその他の航空宇宙部品等の他の部品にも有用である。強度向上のために、本発明合金では、Mgを増加させて、約1.5又は1.55〜約2.0重量%であり、Cuの範囲は約1.75〜約2.30重量%である。Znの量は幾分少なく、約6.8〜約8.5重量%である。図2A及び図2Bは、主要合金元素のCuとZn、MgとZnについて、本発明合金の実施例と、7085(米国特許第6972110号)及び7055(米国特許第5221377号)及び7449との比較を示している。本発明合金の適当な組成は、実線の四角枠によって示されている。図2A及び図2Bに含まれる発明例合金A−Fの組成は以下に記載する。
【0052】
一の発明において、本開示合金は、厚さ2.5インチ未満(例えば、2.00インチ以下)のプレートの形態である。一実施例において、アルミニウム合金プレートは、Zn:6.8〜8.5重量%、Mg:1.5〜2.0重量%、Cu:1.75〜2.3重量%、Zr、Hf、Sc、Mn及びVの少なくとも一種:0.25重量%以下、及びAl:約89.95重量%以下である(図2A及び図2B参照)。他の実施例として、図2C−1、図2C−2、図2D−1及び図2D−2を参照すると、アルミニウム合金は、Zn:7.5〜8.5重量%、Cu:1.9〜2.3重量%、Mg:1.5〜2.0重量%、Zr、Hf、Sc、Mn及びVの少なくとも一種:0.25重量%以下、及びAl:約89.1重量%以下である(図2C−1及び図2C−2の発明例1参照)。他の実施例において、アルミニウム合金は、Zn:7.8〜8.5重量%、Cu:1.95〜2.25重量%、Mg:1.7〜2.0重量%、Zr、Hf、Sc、Mn及びVの少なくとも一種:0.25重量%以下、及びAl:約88.55重量%以下である(図2C−1及び図2C−2の発明例2参照)。一実施例において、アルミニウム合金は、Zn:7.9〜8.2重量%、Cu:2.05〜2.15重量%、Mg:1.75〜1.85重量%、Zr、Hf、Sc、Mn及びVの少なくとも一種:0.25重量%以下、及びAl:約88.3重量%以下である(図2C−1及び図2C−2の発明例3参照)。一実施例において、アルミニウム合金は、Zn:7.4〜8.0重量%、Cu:1.95〜2.25重量%、Mg:1.7〜2.0重量%、Zr、Hf、Sc、Mn及びVの少なくとも一種:0.25重量%以下、及びAl:約88.95重量%以下である(図2D−1及び図2D−2の発明例4参照)。一実施例において、アルミニウム合金は、Zn:7.5〜7.9重量%、Cu:2.05〜2.20重量%、Mg:1.8〜1.9重量%、Zr、Hf、Sc、Mn及びVの少なくとも一種:0.25重量%以下、及びAl:約88.65重量%以下である(図2D−1及び図2D−2の発明例5参照)。これらの様々な実施例において、アルミニウム合金は、Zr:0.05〜約0.3重量%、Mn:約0.1重量%未満、及びCr:約0.05重量%未満を含んでもよい。これらの実施例のいずれにおいても、アルミニウム合金は、本質的に前記成分(アルミニウムを除く)から構成され、残部はアルミニウム並びに随伴元素及び不純物である。
【0053】
他の一の発明では、アルミニウム合金は、プレートの形態であり、厚さは、2.5又は3.0インチ又は2.51インチ〜約3.5インチ、3.75インチ又は4.0インチである。一実施例において、プレートのアルミニウム合金は、Zn:6.8〜8.5重量%、Mg:1.5〜2.0重量%、Cu:1.75〜2.3重量%、Zr、Hf、Sc、Mn及びVの少なくとも一種:0.25重量%以下、及びAl:約89.95重量%以下である(図2A及び図2B参照)。他の実施例として、図2E及び図2Fを参照すると、アルミニウム合金は、Zn:7.4〜8.0重量%、Cu:1.9〜2.3重量%、Mg:1.55〜2.0重量%、Zr、Hf、Sc、Mn及びVの少なくとも一種:0.25重量%以下、及びAl:約89.15重量%以下である(図2E及び図2Fの発明例1参照)。一実施例において、アルミニウム合金は、Zn:7.5〜7.9重量%、Cu:2.05〜2.20重量%、Mg:1.6〜1.75重量%、Zr、Hf、Sc、Mn及びVの少なくとも一種:0.25重量%以下、及びAl:約88.55重量%以下である(図2E及び図2Fの発明例2参照)。これらの様々な実施例において、アルミニウム合金は、Zr:0.05〜約0.3重量%、Mn:約0.1重量%未満、及びCr:約0.05重量%未満を含むこともできる。これら実施例のいずれにおいても、アルミニウム合金は、本質的に前記成分(アルミニウムを除く)から構成され、残部はアルミニウム並びに随伴元素及び不純物である。
【0054】
米国特許第6972110号の開示からは、本開示合金の組成を変えることで、合金の焼入れ感受性が7085合金よりも幾分大きくなるであろうが、これはかなり可能性がある。しかしながら、7085合金の組成の利点の一部を保持するが、どの場合も、本開示合金が企図する薄肉合金製品では焼入れ感受性に対する懸念は少ない。組成が変わると、強度が高くなり、Mg含有量が多くなるため、破壊靱性に対して悪影響を有することも考えられた。本開示合金の強度と靱性は、Mgの範囲が7085合金と現在の上ウイング用合金7055及び7449合金との間にあるとき、本開示合金の強度と靱性は、これら合金の間に含まれるであろう。これは強度の場合にも同じであった。しかしながら、本開示合金の強度と破壊靱性の複合特性の改善は、予想された7055合金と7449合金だけではなく、7085合金にももたらさせれたことは驚くべきことであった。それゆえ、本開示合金は、現在用いられている合金よりもすぐれた強度及び靱性の複合特性をもたらすことができる“最適な(sweet)”組成領域を特定するもので、これは予期し得なかったものである。
【0055】
本開示の合金製品は、溶融及びダイレクトチル(DC)のインゴット鋳造を含む多少なりとも公知の方法に作製されることができ、インゴットに特徴的な内部構造特性を具備することができる。当該分野で広く知られているように、例えば、チタン及びボロン、又はチタン及び炭素を含む従来の結晶粒微細化材を用いることもできる。この組成のインゴットが鋳造された後、表面が削られ(必要に応じて)、約800°〜約900°F、又は約850°〜約900°Fの1又は複数の温度まで加熱することにより均質化処理される。均質化処理の後、プレート又はシートへ圧延加工されるか、特別形状のセクションに押出又は鍛造加工される。多くの航空宇宙用の場合、本開示組成から作られた合金製品は、断面厚さが4インチ以下、3.75インチ以下又は3.5インチ以下であり、約2.5インチ以下又は2.0インチ以下である。製品は、所望により、約850°〜約900°Fの間の1又は複数の温度で加熱することによって溶体化熱処理が施され、可溶性の亜鉛、マグネシウム及び銅の大部分、場合によっては全部又は略全部が溶液にされる。物理的プロセスは必ずしも完全とは限らないので、溶体化処理工程において、おそらく、これら主要合金元素が全て残らずに溶解されることはないだろう。前述した温度に加熱した後、製品は急速冷却又は焼入れされ、溶体化熱処理が完了する。このような冷却は、適当サイズのタンクに入れられた冷水中での浸漬又は水スプレーによって行われる。また、補助又は代替の冷却手段として空気冷却を用いることもできる。冷却後、製品によっては機械的に応力除去される必要があり、最大約8%、例えば約1%〜約3%の延伸及び/又は圧縮等が施される。
【0056】
溶体化熱処理及び焼入れされた製品は、冷間加工の有無に拘わらず、析出硬化可能状態、又は人工時効の準備が整った状態にあると考えられる。人工時効は、2ステップ処理又は3ステップ処理でもよいが、用途によっては単一ステップでも十分な場合がある。しかしながら、各ステップの間又は各段階の間で境界となるような明確なラインはない。所定の(又は目標とする)処理温度から上方及び/又は下方への温度傾斜を付与することで析出(時効)効果を生成することができる。このような傾斜条件及びそれらの析出硬化効果を時効処理プログラム全体に組み入れることが必要な場合もある。この傾斜条件の組み入れについては、米国特許第3645804号に詳細に記載されており、その開示の全ては引用を以て本願へ記載加入されるものとする。
【0057】
米国特許第6972110号は、7075合金に対する3ステップの時効処理を開示しており、その開示全体は、引用を以て本願への記載加入されるものとする。米国特許第6972110号と同じ温度範囲の3ステップ時効処理は本開示合金に用いられることができるが、主要用途の中には2ステップ処理が適している場合もある。2ステップ処理は、低温度ステップの後に高温度ステップを行なうもので、その逆の場合もある。例えば2ステップ処理は、上ウイングスキン及びストリンガーにも用いられる。これらの部品は航空機製造者によってしばしば時効成形され、ウイングの輪郭が得られる。時効成形中、部品は、通常は約250〜400°Fの高温のダイの中で数時間乃至数十時間保持され、クリープ及び応力緩和プロセスを通じて所望輪郭に成形される。時効成形は、人工時効処理と共に行われることもあり、特の高温度ではクリープは最も迅速に起こる。時効成形は、典型的には、オートクレーブ炉の中で行われる。大型商業用航空機の航空機ウイングパネルを時効成形するのに必要なオートクレーブ炉及びダイは大きくて費用がかかるため、結果的には、製造プロセス中に殆ど用いられていない。それゆえ、生産処理量を最大化するためには、時効成形はできるだけ短いサイクルで合金製品に所望される輪郭及び特性を達成できることが好ましい。この目的を達成するには、第3ステップを短縮するか又は完全に省略することが有利である。低温−高温の2ステップ処理において、第1ステップは合金製造者によって行われることにより、時効成形プロセスに必要な時間を最小にすることができる。
【0058】
発明例合金に関するSCCの考察結果では、第3ステップを短縮するか又は省略した場合でも、上ウイングスキン及びストリンガーに対するSCCの条件を充足させることができることを示している。厚肉製品用途では7085合金に3ステップ処理が施されるが、この処理は、上ウイング及び他の高強度用途での本開示合金に対しては一般的に不要であるが、これには幾つかの理由がある。例えば、上ウィング部品に対するSCCの条件は、リブ又はスパーのような厚肉製品用途に対する条件よりは厳しくはない。スパー、具体的には、下部分は引張応力を受けるのに対し、上ウイング部品は主として圧縮応力を受けるからである。引張応力のみがSCCに関係する。また、厚肉製品から機械加工された一体型スパー又はリブは、ST方向に大きな設計応力を有することもできる。例えば、プレートから作られた一体型スパーのスパーキャップは、母材プレートのL−ST平面内にある。これに対し、上ウィングスキン及びストリンガーの主要設計応力は、大部分がL−LT平面内にあり、SCCが起こり難い。これらの差異があるため、現在用いられている上ウィング用7055合金及び7449合金のST方向における最小限のSCC条件は15又は16ksiであり、これらの合金は高強度T79質別で用いられることができるのに対し、スパー、リブその他の厚肉製品は、典型的には、SCCの最小限条件が夫々25ksi及び35ksiである低強度T76質別及びT74質別に用いられる。
【0059】
本開示合金はまた、機械的締結または溶接により接合される複数部品、複数種類の合金からなるスパー又はリブでの使用が想定されている。前述したように、これらの用途でのSCC条件は、上ウィングスキン及びストリンガーよりも厳しくなるであろう。しかしながら、薄肉品から作られる複数部品のスパーの場合、結晶粒組織は、厚板から機械加工された一体型スパーよりも、SCC抵抗に対してはより好ましい配向である。例えばスパーキャップは、L−ST面ではなく、母材プレート又は押出品のSCC抵抗がより大きなL−LT面から機会加工されることができる。L及びLT方向での最小限のSCC特性は、低SCC抵抗及び高強度の質別であったとしても、典型的には40ksiよりは大きく、これは、低強度及び高SCC抵抗の質別におけるST方向の25ksi及び35ksiよりも大きい。このように、7085合金に対してしばしば用いられる第3ステップの時効処理は、本開示合金に対しては、より厳しいSCC条件が要求されるスパー、リブその他の用途においてさえ短縮又は省略されることができるだろう。第3ステップが短縮又は省略されると、典型的には約1〜約2ksi程度の僅かな強度低下を招くことにはなるが、この強度低下は厚肉製品では実施されることができない高強度質別を用いることによって補うことができる。その場合でも、本開示の組立用、一体型用又は複数部品用の中には、耐食性のさらなる改良のために、或いは破壊靱性のさらなる向上のために、T74又はT73のような低強度質別が好ましい場合もある。
【0060】
複数種類の合金からなるスパー又はリブが溶接によって接合される場合、本開示合金によって行われる時効処理にフレキシビリティがもたらされることは好ましい特性である。溶接は、融接法又は摩擦攪拌溶接などの固体状態法のどちらの場合も、溶接後の時効は典型的には溶接部の強度及び腐食特性を向上させる上で好ましいため、最終合金の調質ではなく、中間の調質において行われる。例えば、本開示合金を、下スパーキャップにより適した強度及び損傷許容特性を有する別の合金に溶接する場合、本開示合金の2ステップ処理又は3ステップ処理のどちらかの処理の中で最初の時効ステップを実施した後に行われることができる。他方の合金は、別の7XXX合金か、又は組成がかなり異なる合金、例えば米国特許第4,961,792号に係るアルミニウム−リチウム合金を挙げることができる。この合金は、1ステップ又は2ステップ又は3ステップからなる独自の典型的な時効処理が施される。2種類の合金製品が接合されると、溶接後時効処理は必ず一緒に行われなければならないため、本開示合金に対する時効実施は、接合される合金の時効条件に応じて2ステップ又は3ステップの処理が必要となる場合がある。それゆえ、本願合金が、利用可能な時効ステップの数及び時間に関してフレキシビリティを有することは、溶接された複数種類合金部品に対して有用である。その場合でも、用いられる特定の合金によっては、各合金の典型的な時効処理に対する条件をある程度妥協する必要がある。
【0061】
溶接によって接合された本開示合金を用いることで複数種類の合金からなる複合部品を製造及び時効する際、本開示合金と同様な組成を有するが、各部品の強度及び靱性についてバランスのとれた所望特性を得るために添加される合金元素量が増減されている7XXX合金を用いることで幾分簡素化されることはできる。このような合金に対する典型的な溶接前及び溶接後の時効処理は、組成が異なる合金の場合よりも適合性が大きいため、それらの典型的な処理に対する調節はほとんど必要でない。或いはまた、強度と靱性に所望の差異を設けるのに、本開示合金だけを使用して異なる調質処理を行なうことで達成できる場合がある。例えば、本開示合金のみから作られたスパーについて、上キャップに高強度T79質別、スパーウエブに中強度で高靱性のT76質別、下スパーキャップには低強度で靱性が最も高いT73質別を用いることができる。典型的には、T76及びT73の時効時間はT79質別よりも長い。複数種類の調質処理が施された溶接スパーの場合、例えばT79の上スパーに対する溶接前時効は第1ステップのみで行われ、T76のスパーウェブに対しては第1ステップと第2ステップの一部が行われ、T73の下スパーキャップに対しては第1ステップと第2ステップの大部分が行われる。これは、各部品に対して別々に行われることができるし、又は同じ炉からの取出しをずらすことによって行われることができる。一旦溶接されると、接合された部品に対して同じ溶接後時効処理が行われることになる。溶接前及び溶接後の時効処理の選択が適切であれば、各部品に対する典型的な時効処理を妥協することなく行なうことができる。
【実施例1】
【0062】
本開示合金族の前記実施例と同様な組成を有するインゴットA〜Dを、商業的大規模のインゴットとして鋳造した。また、7085アルミニウム合金の1インゴットを、対照として鋳造した。これらのインゴットは、表面を切削した後、約870°〜約900°Fの最終均熱温度で均質化処理を施した。合金Aと合金Bの各々について1インゴットを、厚さ1.07インチ、幅135インチのプレートに熱間圧延した。合金Aと合金Bの各々について別のインゴットを、厚さ1.10インチ及び幅111インチのプレートに熱間圧延した。以下では、前者のプレートをプレート1、後者のプレートをプレート2と称する。合金Cと合金Dの各々について1インゴットを、プレート2と同じ厚さ及び幅に熱間圧延した。プレート1とプレート2の大きさは、超大型航空機の上ウィングパネルの代表的なサイズである。7085対照合金は、プレート1と同じ厚さ及び幅に熱間圧延した。プレートは、約880°〜約895°Fで約70〜100分間の溶体化熱処理が行われ、水スプレーによって室温まで焼入れし、約1.5〜約3%の冷延伸が施された。合金A−D及び7085対照のプレートから採取した試料に対し、公知の3ステップ時効処理(例えば、米国特許第6,972,110号に開示されている)を使用し、上ウィング部品に適した高強度T79型質別に時効処理した。3ステップ処理は、第1ステップが約250°Fで約6時間、第2ステップが約308°Fで約7時間、第3ステップが約250°Fで約24時間で構成される。また、7055アルミニウム合金の改良型(米国特許第7,097,719号)の試料を、厚さ及び幅が同じか又は同様で、生産ロットが異なるプレートから切り出し、高強度T7951調質と数回の過時効調質処理を施して、強度レベルを低下させて破壊靱性を向上させた。インゴットA−Dの組成、及び様々な従来合金の組成を表2に示している。7055改良型のT7951調質に対する時効処理は2ステップ処理で、第1ステップが302°Fで10時間、第2ステップが6時間である。過時効調質は、第1ステップの時間を約10時間から、約19〜約24時間へ延ばすことで行なった。
【表2】
【0063】
発明例合金A〜D並びに7085及び改良型7055対照について、引張強度、圧縮強度、平面ひずみ(KIc)破壊靱性、見掛け平面応力(Kapp)破壊靱性及び剥離抵抗特性を測定した。引張試験はASTM規格E8及びB557に基づいて行ない、圧縮試験はASTM規格E9に基づいて行なった。平面ひずみ(KIc)破壊靱性試験は、ASTM規格E399に基づいて行なった。平面ひずみ破壊靱性試験の試験片は、厚さはプレートの全厚で、幅Wは3インチである。平面応力(Kapp)破壊靱性試験は、ASTM規格E561及びB646に基づいて行なった。当業者であれば、Kappの数値は、典型的には、試験片の幅が大きくなるにつれて大きくなるということは認識し得るであろう。Kappはまた、試験片の厚さ、初期亀裂長さ及び試験クーポンの幾何学的形状にも影響を受ける。それゆえ、Kapp値の比較で信頼性があるのは、幾何学的形状、幅、厚さ及び初期亀裂長さが同じ試験片どうしの比較のみである。それゆえ、発明例合金並びに7085及び7055対照に関する試験は全て、呼び寸法が同じで、幅16インチ、厚さ0.25インチ及び初期疲労予亀裂長さ(2ao)が4インチの中央亀裂入りM(T)試験片を用いて行なった。該試験片は、プレートの板厚中央(T/2)に中心がある。ASTM G34に準拠したEXCO法を用いた剥離試験もまた行われた。採取した試験片は、板厚中央(T/2)及び10分の1厚さ(T/10)である。
【0064】
発明例合金A〜D及び7085名目組成について、測定された特性を表3に示している。合金Aのプレート1サイズは、7085名目組成と比べ、引張降伏強度及び最終引張強度では、L方向及びLT方向の両方向で約3ksiの増加が認められ、強度は約4%向上した。一方、合金Bは、引張降伏強度及び最終引張強度で約5ksiの増加が認められ、約6%向上した。合金C及び合金Dは、さらに高い強度を示した。両合金における引張降伏強度及び最終引張強度の増加は約7ksiであり、約8%の向上である。これらの強度の向上は、航空機製造業者にとって大きな意義を有すると考えられている。優れた剥離抵抗特性を保持しつつ強度の向上を得ることができ、発明例合金の全ての試料はEXCOランクでEAを達成している。
【表3】
【0065】
図3A、図3B及び図4は、強度と靱性について、発明例合金A〜Dと従来合金との比較を示している。図3A及び図3Bは、L−T方向における平面ひずみ破壊靱性KIcの比較を示しており、これは、発明例合金A〜D、7085材試料対照ロット(表3)、下ウイング用としてより好適な低強度時効処理が施された7085材薄肉プレートの別の4ロット(表1)、T7951質別及び過時効調質処理された改良型7055材について、L(圧延)方向の最小引張降伏強度の関数として示しており、上ウイングにおける負荷の主方向に対応する値である。さらに、薄肉プレート形態における他の従来合金の代表的な破壊KIC破壊靱性を示している。発明例合金と過時効調質の7055材については、材料仕様が現在存在しないため、最小引張降伏強度は、測定値から3ksiを差し引くことによって推定した。本開示合金に対する1つの最小性能ラインは、A−A線で示される。このA−A線は、式FT=−2.3*(TYS)+229であり、TYSは、ASTM規格E8及びB557に基づいて測定されたプレートのL引張降伏強度(ksi)であり、FTは、ASTM規格E399に基づいて測定されたプレートのL−T平面ひずみ破壊靱性(ksi√インチ)である。
【0066】
図3Aは、本開示の薄肉プレート合金製品の潜在的特性を強調表示した網掛け領域を含んでいる。網掛け領域の境界線は、36ksi√インチの最小L−T靱性と、74ksiの最小強度と、前記式FT=−2.3*(TYS)+229で表されるA−A線である。図3Aの網掛け領域は、T74材の薄肉プレート合金製品に特に適しているが、他の質別合金(例えば、T6、T73、T76、T79)についても、網掛け領域に含まれる特性を具備させることができる。
【0067】
図3Bもまた、本開示の薄肉プレート合金製品の潜在的特性を強調表示した網掛け領域を含んでいる。網掛け領域の境界線は、30ksi√インチの最小靱性と、79ksiの最小強度と、前記式FT=−2.3*(TYS)+229で表されるA−A線である。図3Bの網掛け領域は、T76材の薄肉プレート合金製品に特に適しているが、他の質別合金(例えば、T6、T73、T74、T79)についても、網掛け領域に含まれる特性を具備させることができる。
【0068】
図4は、L−T方向における本開示合金の実施例と、7085材の5ロット及び改良型7055材との値について、L引張降伏強度と見かけの平面応力破壊靱性(Kapp)の比較を示している。7085材の強度と靱性の複合特性は、改良型7055材よりも向上していることは明らかである。本開示合金の最小性能の1つは、式FT=−4.0*(TYS)+453であるB−B線によって示され、前記式中、TYSは、ASTM規格E8及びASTM規格B557に基づいて測定されたプレートのL引張降伏強度(ksi)であり、FTは、プレートのL−T平面応力破壊靱性(Kapp)であり、FTは、アルミニウム合金プレートのT/2位置から採取した中央亀裂アルミニウム合金試料について、ASTM規格E561及びB646に準拠して測定したものであり、前記試料は、幅16インチ、厚さ0.25インチ、初期疲労予亀裂長さ4インチである。
【0069】
本開示合金と同じ又は同程度の強度レベルを達成するために有意の過時効を行なったときも、7055材の破壊靱性はかなり低い。本開示合金のCuとMg量は7085材と改良型7055材との間にあり、FeとSiの含有量は同様に低いから、本開示合金で達成可能な強度と靱性の複合特性は、7085材と改良型7055材との間になることが予想された。しかしながら、驚いたことに、本開示合金の強度と靱性の複合特性は、改良型7055材より向上するだけでなく、7085材に対しても向上することを示した。このように、本開示合金のこれら実施例は、従来合金よりもすぐれた強度及び靱性の複合特性をもたらすことができる最適な(sweet)組成領域である。Kapp値及び相対的向上は、用いられる種類及び寸法の試験クーポンに対応するので、同様な相対的向上は、試験クーポンの他の種類及びサイズにも観察されることが予想される。しかしながら、当該分野の専門家であれば、実際のKapp値は、前述した他の種類及びサイズの試料では有意の相違があり、その相違の大きさも異なることは認識し得るであろう。
【0070】
図4はまた、本開示の薄肉プレート合金製品の潜在特性を強調表示した網掛け領域を含んでいる。網掛け領域の境界線は、100ksi√インチの最小靱性(Kapp)、80ksiの最小引張降伏強度、及び前述の式FT=−4.0*(TYS)+453であるB−B線である。図4の網掛け領域は、T79材の薄肉プレート合金製品に特に適しているが、他の質別合金(例えば、T6、T73、T74、T76)についても、網掛け領域に含まれる特性を具備させることができる。本開示の薄肉プレート製品の中には、図4の網掛け領域によって画定される平面応力破壊靱性と引張降伏強度の値を両方とも実現できるだけでなく、図3A及び/又は図3Bの網掛け領域によって画定される平面ひずみ破壊靱性と引張降伏強度の値を実現できるものがある。
【実施例2】
【0071】
実施例1で作製した発明例合金A及び合金Bのプレートについて、溶体化熱処理、焼入れ処理及び延伸処理(W51質別)した4組の試料について、実施例1で用いられた3ステップ時効のうち最初の2つの時効ステップを施した。続いて、第1組の試料について、実施例1と同じ24時間時効による第3ステップを行なった。第2組と第3組については、時効時間は第1組よりも短く、6時間と12時間である。第4組の試料については、第3ステップは行なっていない(0時間)。直径0.125インチの引張試料を、圧延直角方向(LT)と厚さ方向(ST)に機械加工し、交互浸漬(AI)応力腐食割れ抵抗性試験及び海岸(seacoast; SC)曝露試験(海岸環境下の応力腐食割れ抵抗性試験と称されることもある)の両試験を行なった。交互浸漬試験は、ASTM規格G44, G47及び/又はG49に従って行なった。より具体的に説明すると、3.5%NaCl水溶液に10分間浸漬した後、50分間空気乾燥するサイクルに曝露し、その間、所定の応力レベルを達成するのに必要な一定応力の応力が加えられた。海岸曝露試験は、アルコアのロードアイランド、Pt.Judith海岸曝露サイトにて、以下に記載のとおり実施した。
【0072】
ST方向については、第3ステップ時効時間は、0時間、12時間及び24時間の3種類、応力レベルは、16ksi及び20ksiの2種類の中から選択した。第1の応力レベルは、現在の上ウイング合金である7055材及び7499材のST方向における最小条件を表している。第2の応力レベルは、25%高い応力レベルに対応する。7XXX合金のST方向におけるAI試験の曝露日数は、典型的には20又は30日間であるか、又は破損が起こるまでである。これらの試験において、AI試験の最大曝露日数は、異なる時効処理の性能をより良く評価するために、150日まで延長した。海岸曝露では、最大曝露時間は477日であった。応力腐食割れ(SCC)試験の結果を表4に示している。
【表4】
【0073】
合金Aの結果では、第3ステップの時効時間が0時間(第3ステップなし)、12時間及び24時間のパネル2は、第3時効ステップの有無に関係なく、また第3時効ステップの時効時間が短い場合も長い場合も、本開示合金のSCC抵抗性に有意な違いはなかった。全ての場合において、7XXX合金のAI SCCでは、標準曝露日数破損までの日数は、現在の上ウイング合金の最小条件である16ksi及びそれより20%高い応力レベルの20ksiの両方で20日又は30日の標準曝露時間を超えた。破損までの日数は、時効時間が異なる3種類について同じであった。第3ステップの3種類の時効時間のSCC抵抗は海岸曝露でも同じであった。合金A、パネル1と、発明例合金B、パネル2について、第3ステップの時効時間12時間だけで評価した。パネル1は、パネル2よりも薄肉・幅広であるので、異なる粒度・軸比をもつことが予想され、SCC抵抗についても異なることが予想される。合金A、パネル1の試験結果はパネル2よりも僅かに良好であった。合金B、パネル2の結果は、合金A、パネル2と同等以上であった。
【0074】
SCC試験はLT方向でも行なった。LT方向について、曝露を30日、47日及び90日後に中断し、試料をASTM G139に準拠した破壊荷重試験を行なった。曝露した試料の残存強度率(%)と曝露していない試料の引張強度との比較を求めた。LT方向の応力レベルは、42ksi及び63ksiであり、夫々、本開示合金のLT降伏強度の約50%及び75%に相当する。この試験はより短時間でより多くの定量情報を得るための手段であり、SCC抵抗がより大きいLT方向に有用である。LT方向は、SCC抵抗性がより小さなST方向よりも、試料の破損時間がより長いため、分散(scatter)がより大きくなるためである。第1の実験では、発明例合金A及びBについて、47日の曝露期間の後、0時間、6時間及び12時間の第3ステップの時効処理を施して、破壊荷重試験を行なった。第2の実験では、発明例合金A及び7055-T7951対照について、AIでの30日及び47日の曝露期間の後及び90日の海岸曝露の後、各合金に対してLT降伏強度の50%及び75%に相当する応力レベルで破壊荷重試験を行なった。両方の実験では、応力を印加しない試料も含まれている。応力を印加した試料と応力を印加していない試料を含めることにより、全面腐食及び孔食で生じる強度損失とSCCで生じる損失は分離されることができる。
【0075】
第1実験の結果は図3に示されており、プロットされている各データポイントは5試料の結果を平均したものである。残存強度率(percentage retained strength)は、曝露試料の強度と非曝露試料の強度の比を百分率で表したものである。試験結果では、第3時効ステップを省略したとき、全面腐食抵抗(応力印加なし)又はSCC抵抗(応力印加)に損失はなかった。第3ステップを行わない試料は、6時間又は12時間の第3ステップを行なった試料よりも残存強度は大きかった。時効時間に関しては、合金Bが合金Aよりも優れていた。第2の実験の結果は図4に示されており、プロットされている各データポイントは5試料の結果を平均したものである。図6は、本開示合金と従来合金7055についてLT方向における残存強度率の比較を示すグラフであり、各合金は、3.5%NaCl溶液で30日及び47日間の曝露の後及び90日間の海岸曝露の後、各合金の降伏強度の50%及び75%の応力レベルで12時間の第2ステップの時効処理したものである。3種類の曝露について、発明例合金Aは7055合金と比べて、応力印加していないものも応力印加したものも、2種類の応力レベルでの残存強度率は大きかった。
【0076】
腐食試験結果では、2ステップと3ステップの時効処理は両方とも、本開示合金の耐食性能は上ウイング用途の許容レベルであることを示している。2ステップ処理の不利な点は、表4に示されるように、発明例合金Aの強度が僅かに低いことである。第3ステップの時効時間24時間の場合と比べると、第3ステップなしの降伏強度約は1ksi大きかった。前述したように、本開示合金の時効処理の適応性(flexibility)は有利な特性である。2ステップ処理の典型的が用途は、上ウイングスキン及びストリンガー等であり、時効は、航空機の製造業者又は請負業者による時効成形プロセス中に部分的又は完全に行われ、最大の生産処理量を達成するためには時効成形サイクルはできるだけ短いことが好ましい。この点について、2ステップ処理を行なった本開示合金の場合、合計均熱時間は13時間であり、現在の上ウイング用合金に対する改善をもたらす。第1ステップが材料メーカーで行われ、第2ステップだけが時効成形プロセスで行われる場合、時効成形条件によっては、この時間を約7時間までさらに短縮することができる。
【0077】
3ステップ処理が適用されるのは、組立式構造の上ウイングスパー又はスパーウエブ等の用途として、材料メーカーにより、材料が完全時効状態で供給されるときである。T76質別又はT74質別等の低強度質別品は、2ステップ処理又は3ステップ処理のどちらかのステップを使用し、合金製品の結晶粒配向に関する設計応力の要件及び方向によっては、これら用途に適用することもできる。本開示合金がマルチ合金部材の一部として他の合金製品に溶接され、溶接後時効されるとき、本開示合金が接合されるべき合金の時効処理条件によっては、2ステップ処理又は3ステップ処理を用いられることができる。本開示合金によってもたらされる適応性は、補強材料を取り付けるのに用いられる接着剤の硬化サイクルと本開示合金の時効とを組み合わせるのにも有用である。
【実施例3】
【0078】
実施例1で溶体化熱処理、焼入れ処理及び延伸処理(W51質別)して作製した合金Aプレートを機械加工し、厚さ0.5インチ、幅6インチ、長さ35インチでのパネルを作製した。2099材の押出試料は、T3511質別であり、機械加工で同じ寸法のものを作製した。両方とも。長さ寸法は圧延方向であり、2099材はアルミニウム協会に登録された商業的に入手可能なアルミニウム−リチウム合金であり、組成は、Cu:2.4−3.0重量%、Mg:0.1−0.5重量%、Zn:0.4−1.0重量%、Mn:0.1−0.5重量%、Zr:0.05−0.12%、Li:1.6−2.0重量%、残部Al及び随伴不純物である。発明例合金A及び2099材のパネルは、摩擦撹拌溶接により、溶接ラインがパネルの長さに沿うように接合される。本開示合金と2099材の複合化は組成が大きく異なる組合せであり、例えば、マルチ合金のスパー又はリブに用いられることができる。スパーの場合、本開示合金は、高圧縮強度が必要とされる上側キャブ及びウエブに用いられることができ、2099材は、高い疲労亀裂進展抵抗性が有利な下側スパーキャップに用いられることができる。同様に、リブでは、本開示合金は高強度が重要な脚に用いられることができ、2099材は高合成及び低密度が有利なスパーウエブに用いられることができる。
【0079】
合金A及び2099材のパネルは、摩擦撹拌溶接作業を行う前に、別々に時効処理される。合金Aの溶接前時効処理は第1ステップが250°Fで6時間であり、2099材の溶接前時効処理は、第1ステップと第2ステップが本開示合金の場合とは異なる時間及び/又は温度である。接合されたパネルの溶接後時効処理は、必然的に同じであり、第1ステップが250°Fで6時間であり、第2ステップが305°Fで18時間である。溶接後時効は、溶接された部位の強度と耐食特性を向上させるのに好ましい。溶接特性、特に強度と耐食特性を向上させるためには、溶接後時効はできるだけ多く行なうべきである。しかしながら、異なる合金の場合、各合金の時効条件が別々であり、各合金に所望される最終質別は異なるため、時効処理は制限される。各合金の溶接前時効処理及びマルチ合金パネルの溶接後時効処理は、本開示合金ではT76型質別をターゲットとするように、2099材ではT83型質別をターゲットとするようにに注意深く選択される。それでも、両合金の時効処理はある程度の妥協(compromise)が必要であるが、本開示合金の場合、良好な特性を得るために利用可能な時効ステップの数及び時間に関する適応性が大きいため、この点で有利である。
【0080】
溶接後時効の後、母材金属(溶接部及び熱影響部の外側)、熱影響部(HAZ)及び溶接部について、引張強度、圧縮強度、引張弾性係数、圧縮弾性係数及び破壊靱性を含む機械的特性を測定した。各部位の程度及びその内部の試料の位置は、溶接部の横断面をビッカースの微小硬度(VHN)値及び光学顕微鏡写真を用いて測定した。試験は、ASTM試験方法に準拠して行なった。引張試験はASTM規格のE8及びB557、圧縮試験はE9、引張及び圧縮弾性係数試験はE111、平面ひずみ破壊靱性はE399に準拠して行なった。引張特性はL方向及びLT方向を測定した。圧縮強度及び弾性係数の測定はL方向だけである。平面ひずみ破壊靱性試料は、T−L方向であり、幅2インチで、全パネル厚さである。破壊試料は、機械加工溝(亀裂進展の予想平面を表す)が対象部位に合致するように、パネルから切除した。溶接部及びHAZ部から2つの試料を採取し、一方の試料の機械加工ノッチ方向は、溶接工程で摩擦撹拌溶接ツールが移動した方向と同じ方向であり、別の試料の機械加工ノッチ方向は、摩擦撹拌溶接ツールの移動方向と反対方向である。これらの試験結果を表5に示している。
【表5】
【0081】
溶接前時効処理(合金毎に異なる)及び溶接後時効処理(全ての合金に対して同じ)が施された各合金の母材金属は、各合金に対する時効処理条件に妥協をした場合でも、標的とされる質別で要求される強度及び靱性を達成した。なお、HAZ及び溶接部は、一般的な溶接部と同様、これら特性は低かった。溶接部位は、摩擦撹拌溶接が行われている間、本質的に溶体化熱処理されるので、この部位の人工時効は溶接後時効処理中にだけ起こる。同じように、HAZは溶接が行われている間に加熱されるが、温度は溶体化熱処理温度よりも低いので、合金元素を完全に溶体化させるには不十分である。このため、溶接後時効処理中、HAZの時効作用は制限を受けるので、その強度及び破壊靱性は損なわれる。これらの要因があるにも拘わらず、溶接効率(溶接部の強度と母材金属の強度の比)はかなり良好であった。溶接部とHAZが含まれる試料を、溶接ラインと直交する方向に溶接効率を測定したところ、2099材のLT方向の母材金属強度と比べて、引張降伏強度(TYS)は71%、最大引張強度は81%であった。
【0082】
溶接部とHAZにおける破壊靱性も満足すべきものであった。溶接部の破壊靱性は、合金Aの母材金属と同等であったが、HAZでの破壊靱性は、合金Aと2099材の両方とも、溶接部側の方が母材側よりも低かったが、それでも、殆どの航空機構造の条件を充足するのに十分であった。
【0083】
溶接後時効の後、接合されたパネルに対して、応力腐食割れ(SCC)試験及び剥離試験を行なった。SCC試験では、厚さ0.235インチの板状引張試験片を、板厚中央位置で、溶接部及びHAZを直交して横切るように機械加工した。これらの試験片について、26ksi及び35ksiの2種類の応力レベルで、ASTM規格G44, G47及び/又はG49に準拠した交互浸漬試験を行なった。250日間の曝露日数を経過しても破損は起こらなかった。剥離試験では、溶接部、HAZ及び母材金属を含む全パネル厚の2種類の矩形試料について、ASTM規格G34に準拠したEXCO試験方法を用いて試験を行なった。この試験法は、本開示合金のような7XXX合金に対しては、適度に加速された試験法である。全パネル厚の第2組の試料について、ASTM規格G85に準拠した乾式ボトムMASTMAASISを用いて試験を行なった。この試験方法は、2099材に対しては適当に加速された試験法である。合金A及び2099材の母材金属は両方とも、剥離腐食性の等級はEAであった。この等級は、良好な耐食性を有することを示しており、各合金が目標とする質別品の代表的な性能と一致する。両合金が混合された溶接部では、EXCO試験方法の等級はEBであり、これも十分良好な剥離耐食性を示している。溶接部については、溶接後時効処理が施されるのみであるので、この部位の耐食性能は幾分低下すると考えられる。2099材のHAZはMASTMAASISでの等級はPであったが、合金AのHAZは部分腐食があり、EXCOの等級はEDであった。この耐食性は、スパーやリブ等の航空機の内部構造には不合格であるかもしれないが、摩擦撹拌溶接のパラメータを最適化したり、溶接中に冷却手段を用いてHAZへの熱入力を低減することによって改善されることはできるであろう。この部位は、腐食防止手段を用いることによって使用中に保護されることもできる。例えば、陽極酸化処理及び内部構造の腐食防止用として既に一般的に用いられている腐食防止塗料を適用する前に、本開示合金よりもアノード性のアルミニウム合金を、溶射又はその他方法により溶接ラインに沿って施すことができる。合金Aと2099材との腐食電位の差によって起こる電解腐食は、合金の局部腐食の原因となることがある。この場合、本開示合金と同様な組成で成分を増減した合金を用いると、組成が大きく異なる2種類の合金よりも腐食電位の差が小さくなるであろう。また、異なる質別に本開示合金を単独使用することも、HAZの耐食性向上に有効である。
【実施例4】
【0084】
2つのインゴットを商業的規模の大きなインゴットとして鋳造した。インゴットの組成は、本開示のものと同じである。第1インゴットは合金Eであり、第2インゴットは合金Fである。また、アルミニウム協会7085合金を4インゴット、アルミニウム協会7050合金6インゴットを対照として鋳造した。合金E及び合金Fのインゴット、7050対照及び7085対照のインゴットの組成、並びにアルミニウム協会に規定された7085及び7050合金の組成範囲を表6に記載している。
【表6】
【0085】
インゴットは表面を削り取った後、約870°〜910°Fの最終均熱温度で均質化処理を施した。合金Eのインゴットは、厚さ3.125インチのプレートに熱間圧延され、合金Fのインゴットは、厚さ4.0インチのプレートに熱間圧延された。これらの寸法は、一体化された機械加工部品に用いられる航空宇宙用プレートの代表例である。7085対照インゴットのロット1−3は、厚さ約4インチのプレートに熱間圧延される。7085対照インゴットのロット4は厚さ約3インチのプレートに熱間圧延される。3つの7050対照インゴットは厚さ約4インチのプレートに熱間圧延される。別の7050対照インゴットは厚さ約3インチのプレートに熱間圧延される。全てのインゴットは、LT方向に15%未満の交差圧延が施された。全てのプレートは、約880°F〜900°Fの温度で約2〜4時間の溶体化熱処理が行われ、水スプレーによって室温まで焼入れし、約1.5〜3%の冷延伸が施された。
【0086】
合金Eプレート及び合金Fプレートから試料を得た。これらの試料は、従来の3ステップ処理を用いてT74型質別(一体化された機械加工部品に適している)に時効処理された。この3ステップ処理は、第1ステップが250°Fで約6時間、第2ステップが310°Fで15〜20時間、第3ステップが250°Fで約24時間である。合金E及び合金Fの試料の一部は、第2ステップの時効処理を15時間行なった(試料1)。合金Fの他の試料は、第2ステップの時効処理を18時間行なった(試料2)。合金Eの他の試料は、第2ステップの時効処理を20時間行なった(試料2)。7085材の4インチ対照ロットについても、従来の3ステップ時効処理を用いて、T74質別まで時効処理した。7085対照ロットのロット4(3インチプレート)の試料1は、従来の3ステップ式時効処理を用いて、T76質別まで時効処理した。7085対照ロットのロット4(3インチプレート)の試料2は、従来の3ステップ時効処理を用いて、T74質別まで時効処理した。7050対照ロットは、従来の2ステップ時効処理を用いて、T74質別まで時効処理した。
【0087】
合金E、合金F、7085対照ロット及び7050対照ロットの試料について、引張特性及び平面ひずみ(KIc)の破壊靱性を測定した。引張試験は、ASTM規格E8及びB557に従って行なった。平面ひずみ(KIc)の破壊靱性試験は、ASTM規格E399に従って行なった。合金Eの平面ひずみ破壊靱性試料は、T−L方向で厚さ2インチ、幅Wが4インチであり、S−L方向で厚さ1インチ、幅Wが2インチである。合金Fの平面ひずみ破壊靱性試料は、T−L方向及びS−L方向の両方とも厚さ1インチ、幅Wが2インチである。合金E及びFの破壊靱性試料は、プレートの板厚中央(T/2)に中心がある。4インチ対照7085プレートの平面ひずみ破壊靱性試料は、T−L方向で厚さ2インチ、幅Wが4インチであり、S−L方向で厚さ1.5インチ、幅Wが3インチである。3インチ対照7085プレートの平面ひずみ破壊靱性試料は、T−L方向で厚さ1.75インチ、幅Wが5インチであり、S−L方向で厚さ1.25インチ、幅Wが2.5インチである。4インチ対照7085プレートの破壊靱性試料は、T−L方向でプレートの4分の1厚さ(T/4)、S−L方向でプレートの板厚中央(T/2)に中心がある。3インチ対照7085プレートの破壊靱性試料は、T−L方向及びS−L方向の両方でプレートの板厚中央(T/2)に中心がある。対照7050プレートのT−L方向の平面ひずみ破壊靱性試料は、厚さ2インチ、幅Wが4インチである。3インチ対照7050プレートのS−L方向の平面ひずみ破壊靱性試料は、厚さ1インチ、幅Wが2インチである。4インチ厚対照7050プレートのS−L方向の平面ひずみ破壊靱性試料は、厚さ1.5インチ、幅Wが3インチである。対照7050プレートの破壊靱性試料は、T−L方向及びS−L方向の両方ともプレートの板厚中央(T/2)に中心がある。合金Fについて、ASTM規格G34に準拠したEXCO法を用いた剥離試験を行なった。採取した試験片は、2分の1厚さ(T/2)、4分の1厚さ(T/4)及び10分の1厚さ(T/10)である。
【0088】
合金E、合金F、7085対照ロット及び7050対照ロットは表7に示されている。約3インチのプレート厚さでは、合金Eは7050対照ロットと比べて、LT方向で、引張降伏強度で約9〜12ksi、最終引張強度で約6〜8ksiの増加が認められた。同様に、合金Eは7050対照ロットと比べて、ST方向で、引張降伏強度で約8〜10ksi、最終引張強度で約6〜8ksiの増加が認められた。約4インチのプレート厚さでは、合金Fは7050対照ロットと比べて、LT方向で、引張降伏強度で約7〜9ksi、最終引張強度で約3〜4ksiの増加が認められた。同様に、合金Fは7050対照ロットと比べて、ST方向で、引張降伏強度で約5〜7ksi、最終引張強度で約4〜5ksiの増加が認められた。合金Fは、T74質別の7085対照ロットと比べて、LT方向及びST方向の両方とも引張降伏強度及び最終引張強度が約2〜5ksi向上した。これらの強度の向上は、航空機製造業者により、意義深いものと考えられている。
【表7】
【0089】
合金E及び厚さ約3インチの様々な従来合金の特性を図7に示している。より具体的には、図7は、LT(long transverse)方向の引張降伏強度の関数としてT−L方向における平面ひずみ破壊靱性(KIc)と、合金E(厚さ3.125インチ)、7050対照ロット(厚さ約3インチ)及び3インチの7085ロットのデータとの比較を示している。合金Eは、7050対照ロットと同等の靱性を有し、有意に高い引張強度を具えている。合金Eはまた、7085合金と同等の強度対靱性関係を有しているが、以下に記載するように、7085合金では、海岸環境SCC試験に合格することはできない。換言すれば、合金Eは、同じように作製された同サイズの7085合金と同等以上の応力腐食抵抗性を具えつつ、該7085合金よりも高いLT強度を具えている。このように、前述の厚さ範囲におけるLT強度、T−L靱性及び耐食性に関する合金Eの複合特性は、これまで達成されなかったものである。
【0090】
図7は、本開示の合金プレート製品の潜在的特性を強調表示した網掛け領域を含んでいる。網掛け領域の境界線は、22ksi√インチの最小靱性と、72ksiの最小強度と、式FT_TL=−1.0*(TYS_LT)+98で表されるC−C線である。前記式中、TYS_LTは、ASTM規格E8及びASTM B557に基づいて測定されたプレートのLT引張降伏強度(ksi)であり、FT_TLは、ASTM規格E399に基づいて測定されたプレートのT−L平面ひずみ破壊靱性(ksi√インチ)である。図7の網掛け領域は、T73、T74、T76又はT79質別の厚さ約2.0乃至2.5インチから約3.0インチ、3.125インチ又は3.25インチのプレート合金製品に特に適している。
【0091】
合金Fと厚さ4インチの様々な従来合金の特性を図8に示している。より具体的には、図8は、LT(long transverse)方向の引張降伏強度の関数としてT−L方向における平面ひずみ破壊靱性(KIc)と、合金F(厚さ4.0インチ)、7050対照ロット(厚さ約4インチ)及び4インチの7085対照ロットのデータとの比較を示している。合金Fは、7050対照ロットと同等の靱性を有し、有意に高い引張強度を具えている。合金Fはまた、7085合金と同等の強度対靱性関係を有しているが、以下に記載するように、7085合金では、海岸環境SCC試験に合格することはできない。換言すれば、合金Fは、同じように作製された同サイズの7085合金と同等以上の応力腐食抵抗性を具えつつ、該7085合金よりも高いLT強度を具えている。このように、前述の厚さ範囲におけるLT強度、T−L靱性及び耐食性に関する合金Fの複合特性は、これまで達成されなかったものである。
【0092】
図8は、本開示の合金プレート製品の潜在的特性を強調表示した網掛け領域を含んでいる。網掛け領域の境界線は、21ksi√インチの最小靱性と、71ksiの最小強度と、式FT_TL=−1.0*(TYS_LT)+98で表されるD−D線である。前記式中、TYS_LTは、ASTM規格E8及びB557に基づいて測定されたプレートのLT引張降伏強度(ksi)であり、FT_TLは、ASTM規格E399に基づいて測定されたプレートのT−L平面ひずみ破壊靱性(ksi√インチ)である。図8の網掛け領域は、T73、T74、T76又はT79質別の厚さ約3.0乃至3.125インチ又は3.25インチから約3.5インチ、3.75インチ又は4インチのプレート合金製品に特に適している。
【0093】
合金Eと厚さ約3インチの様々な従来合金の特性を図9に示している。より具体的には、図8は、ST(short transverse)方向の引張降伏強度の関数としてS−L方向における平面ひずみ破壊靱性(KIc)と、合金E(厚さ3.125インチ)、7050対照ロット(厚さ約3インチ)及び3インチの7085対照ロットのデータとの比較を示している。合金Eは、7050対照ロットと同等の靱性を有し、有意に高い引張強度を具えている。合金Eは、7085対照ロットと同等の強度対靱性関係を有しているが、後記するように、7085合金では、海岸環境SCC試験をパスすることはできない。換言すれば、合金Eは、同じように作製された同サイズの7085合金と同等以上の応力腐食抵抗性を具えつつ、該7085合金よりも高いST強度を具えている。このように、前述の厚さ範囲におけるST強度、S−L靱性及び耐食性に関する合金Eの複合特性は、これまで達成されなかったものである。
【0094】
図9はまた、本開示の合金プレート製品の潜在的特性を強調表示した網掛け領域を含んでいる。網掛け領域の境界線は、22ksi√インチの最小靱性と、69ksiの最小強度と、式FT_SL=−1.1*(TYS_ST)+99で表されるE−E線である。前記式中、TYS_STは、ASTM規格E8及びASTM B557に基づいて測定されたプレートのST引張降伏強度(ksi)であり、FT_SLは、ASTM規格E399に基づいて測定されたプレートのS−L平面ひずみ破壊靱性(ksi√インチ)である。図9の網掛け領域は、T73、T74、T76又はT79質別の厚さ約2.0乃至2.5インチから約3.0インチ、3.125インチ又は3.25インチのプレート合金製品に特に適している。
【0095】
合金Fと厚さ4インチの様々な従来合金の特性を図10に示している。より具体的には、図10は、ST(short transverse)方向の引張降伏強度の関数としてS−L方向における平面ひずみ破壊靱性(KIc)と、合金F(厚さ4.0インチ)、7050対照ロット(厚さ約4インチ)及び4インチの7085対照ロットのデータとの比較を示している。合金Fは、7050対照ロットと同等の靱性を有し、有意に高い引張強度を具えている。合金Fはまた、7085合金と同等の強度対靱性関係を有しているが、以下に記載するように、7085合金では、海岸環境SCC試験をパスすることはできない。換言すれば、合金Fは、同じように作製された同サイズの7085合金と同等以上の応力腐食抵抗性を具えつつ、該7085合金よりも高いST強度を具えている。このように、前述の厚さ範囲におけるST強度、S−L靱性及び耐食性に関する合金Fの複合特性は、これまで達成されなかったものである。
【0096】
図10はまた、本開示の合金プレート製品の潜在的特性を強調表示した網掛け領域を含んでいる。網掛け領域の境界線は、20ksi√インチの最小靱性と、66ksiの最小強度と、式FT_SL=−1.1*(TYS_ST)+99で表されるF−F線である。前記式中、TYS_STは、ASTM規格E8及びASTM B557に基づいて測定されたプレートのST引張降伏強度(ksi)であり、FT_SLは、ASTM規格E399に基づいて測定されたプレートのS−L平面ひずみ破壊靱性(ksi√インチ)である。図10の網掛け領域は、T73、T74、T76又はT79質別の厚さ約2.0乃至2.5インチから約3.0インチ、3.125インチ又は3.25インチのプレート合金製品に特に適している。
【0097】
両方の時効条件における合金Fについて、ASTM規格G34に準拠した剥離腐食抵抗性(EXCO)試験を用いて試験を行なった。合金FのEXCOランクは“EA”であり、これは7XXX合金の良好な剥離腐食抵抗性と一致する。同様な結果は、合金EをEXCO試験した場合にも得られた。このように、合金Fの全ての試験片はEXCOランクがEAであり、本開示合金は、優れた剥離抵抗特性を保有しつつ、強度の向上を達成する。
【0098】
合金E、合金F及び7085合金について2種類の応力腐食割れ試験を行なった。第1の試験は、交互浸漬(AI)の加速された応力腐食割れ(SCC)試験であり、合金E及び合金Fの試料1及び試料2、7085合金対照プレートについて行なった。試験片は、ST方向のT/2位置から採取し、試験は、ASTM規格G44、G47及び/又はG49に従って行なった。AI SCC試験結果を表8(4インチ)及び表9(3インチ)に示している。
【表8】
【表9】
【0099】
合金E及び合金Fは、40ksi及び50ksiの応力レベル(T74質別としての最小条件よりも夫々、5ksi及び15ksi高い)での性能は満足すべきものであった。
【0100】
合金Eの試料1及び試料2についてST方向のT/2位置から試験片を採取し、海岸環境SCC試験を行なった。7085合金についても海岸環境試験を行なった。海岸環境SCC試験の試験片は、一定ひずみフィクスチャー(加速された実験室SCC試験で用いられるものと同様)の中で試験が行われた。海岸SCC試験条件は、試料をラックを介して海岸環境に連続的に曝露することを含んでおり、試料は地面から約1.5mの位置で、水平から45°向いていおり、試料の面は卓越風(prevailing wind)に面している。試料は、海岸線から約100mの位置である。一実施例において、海岸線は岩場であり、卓越風が試料に向かうようにして、塩水ミストにアグレッシブに曝露されるようにした(Alcoa Inc.のUSA, Rohde Island, Pt.Judithの海岸曝露ステーションと同様な場所にて)。合金E及び7085合金の海岸SCC試験結果は表10に示されている。
【表10】
【0101】
合金Eの多くの試料は、40ksi及び50ksiで262日間曝露しても破損(試験片が2つに分離した時又は割れが裸眼で観察された時)は起こらなかった。合金EのLT強度は、試料1が74.7ksi、試料2が77.6ksiであった。これに対し、同様な厚さの7085合金のLT強度は68.6ksi及び69.4ksiしかなく、前者は5試料に破損はなかったが、後者は5試料中2試料が破損した。7085合金の場合、厚さ3インチでLT強度レベルが72ksiになるように処理すると、海岸環境SCC試験(35ksiでST方向)は常に不合格となるが、合金E(本開示によって規定される他の合金)は、同じ強度及びSCC応力レベルでの海岸環境SCC試験は常に合格する。
【0102】
このように、本開示合金は、前記厚さ範囲において、強度、靱性及び耐食性について今まで実現されていない複合特性を達成することができる。一実施例において、T74質別のアルミニウム合金製品が提供される。アルミニウム合金製品は、第1プレート、第2プレート及び/又は第3プレートから作られる。第1プレートが用いられるとき、第1プレートの厚さは約2.00インチ以下であり、前述したように、図2C−1、2C−2、2D−1及び2D−2の発明例1、2、3、4又は5の何れかの合金組成、又は図2E及び2Fの発明例1又は2の何れかの合金組成を有する。第2プレートが用いられるとき、第2プレートの厚さは2.00インチ超3.00インチ以下であり、前述したように、図2C−1、2C−2、2D−1及び2D−2の発明例1、2、3、4又は5の何れかの合金組成、又は図2E及び2Fの発明例1又は2の何れかの合金組成を有する。第3プレートが用いられるとき、第3プレートの厚さは3.00インチ超4.00インチ以下であり、前述したように、図2C−1、2C−2、2D−1及び2D−2の発明例1、2、3、4又は5の何れかの合金組成、又は図2E及び2Fの発明例1又は2の何れかの合金組成を有する。アルミニウム合金製品は、他の成分(例えば、前述した組成レベルの他の成分)を含むことができる。また、これらのどの実施例についても、アルミニウム合金は、本質的に前記成分からなり(アルミニウムを除く)、残部アルミニウム及び随伴元素及び不純物である。
【0103】
この実施例において、どの第1プレートも、強度対靱性は、式FT≧−2.3*(TYS)+229で表される関係を充足し、前記式中、TYSは、ASTM規格E8及びB557に基づいて測定された第1プレートのL引張降伏強度(ksi)であり、FTは、ASTM規格E399に基づいて測定された第1プレートのT−L平面ひずみ破壊靱性(ksi√インチ)であり、第1プレートのTYSは74ksi以上、第1プレートのFTは36ksi√インチ以上である。これら実施例の幾つかは、プレートの引張降伏強度が約75ksi以上、例えば約76ksi以上又は約77ksi以上又は約78ksi以上又は約79ksi以上又は約80ksi以上である。これら実施例の幾つかは、プレートの靱性が約40ksi√インチ以上、例えば約42ksi√インチ以上又は約44ksi√インチ以上又は約46ksi√インチ以上又は約48ksi√インチ以上又は約50ksi√インチ以上である。
【0104】
この実施例において、どの第2プレートも、式FT_TL≧−1.0*(TYS_LT)+98で表される関係を充足し、前記式中、TYS_LTは、ASTM規格E8及びB557に基づいて測定された第2プレートのLT引張降伏強度(ksi)であり、FT_TLは、ASTM規格E399に基づいて測定された第2プレートのT−L平面ひずみ破壊靱性(ksi√インチ)であり、第2プレートのTYS_LTは72ksi以上、第2プレートのFT_TLは24.5ksi√インチ以上である。これら実施例の幾つかは、プレートの引張降伏強度が約73ksi以上、例えば約74ksi以上又は約75ksi以上又は約76ksi以上又は約77ksi以上である。これら実施例の幾つかは、プレートの靱性が約25ksi√インチ以上、例えば約26ksi√インチ以上又は約27ksi√インチ以上又は約28ksi√インチ以上である。
【0105】
この実施例において、どの第2プレートも、式FT_SL≧−1.1*(TYS_ST)+99で表される関係を充足し、前記式中、TYS_STは、ASTM規格E8及びASTM B557に基づいて測定された第2プレートのST引張降伏強度(ksi)であり、FT_SLは、ASTM規格E399に基づいて測定された第2プレートのS−L平面ひずみ破壊靱性(ksi√インチ)であり、第2プレートのTYS_STは69ksi以上、第2プレートのFT_SLは25ksi√インチ以上である。これら実施例の幾つかは、プレートの引張降伏強度が約69.5ksi以上、例えば約70ksi以上又は約70.5ksi以上又は約71ksi以上である。これら実施例の幾つかは、プレートの靱性が約26ksi√インチ以上、例えば約27ksi√インチ以上又は約28ksi√インチ以上又は約29ksi√インチ以上又は約30ksi√インチ以上又は約31ksi√インチ以上である。
【0106】
この実施例において、どの第3プレートも、式FT_TL≧−1.0*(TYS_LT)+98で表される関係を充足し、前記式中、TYS_LTは、ASTM規格E8及びASTM B557に基づいて測定された第3プレートのLT引張降伏強度(ksi)であり、FT_TLは、ASTM規格E399に基づいて測定された第3プレートのT−L平面ひずみ破壊靱性(ksi√インチ)であり、第3プレートのTYS_LTは71ksi以上、第3プレートのFT_TLは23ksi√インチ以上である。これら実施例の幾つかは、プレートの引張降伏強度が約71.5ksi以上、例えば約72ksi以上又は約72.5ksi以上又は約73ksi以上又は約73.5ksi以上又は約74ksi以上である。これら実施例の幾つかは、プレートの靱性が約24ksi√インチ以上、例えば約25ksi√インチ以上又は約26ksi√インチ以上又は約27ksi√インチ以上又は約28ksi√インチ以上又は約29ksi√インチ以上である。
【0107】
この実施例において、どの第3プレートも、式FT_SL≧−1.1*(TYS_ST)+99で表される関係を充足し、前記式中、TYS_STは、ASTM規格E8及びB557に基づいて測定された第3プレートのST引張降伏強度(ksi)であり、FT_SLは、ASTM規格E399に基づいて測定された第3プレートのS−L平面ひずみ破壊靱性(ksi√インチ)であり、第3プレートのTYS_STは66ksi以上、第2プレートのFT_SLは23ksi√インチ以上である。これら実施例の幾つかは、プレートの引張降伏強度が約66.5ksi以上、例えば約67ksi以上又は約67.5ksi以上又は約68ksi以上又は約68.5ksi以上又は約69ksi以上である。これら実施例の幾つかは、プレートの靱性が約24ksi√インチ以上、例えば約25ksi√インチ以上又は約26ksi√インチ以上又は約27ksi√インチ以上又は約28ksi√インチ以上である。
【0108】
この実施例において、第1プレート、第2プレート又は第3プレートのどのプレートも1又は複数の応力腐食割れ試験を常に合格する。特定の実施例において、T74質別の規定に基づくと、プレートは、ST方向35ksi以上又はST方向約40ksi以上又はST方向約45ksi以上で180日間の海岸環境応力腐食割れ(SCC)抵抗性試験(後述する)に常に合格である。幾つかの実施例において、プレートは、前記応力レベルにおける海岸環境SCC試験に合格し、230日以上又は280日以上又は330日以上又は365日以上である。特定の実施例において、プレートの交互浸漬SCC試験(ASTM規格G44, G47及び/又はG49に基づく)の30日間以上に常に合格する。幾つかの実施例において、プレートの交互浸漬SCC試験結果は、40日以上又は60日以上又は80日以上又は100日以上である。従来の7XXX系合金のT74質別では、(i)所定厚さ範囲における前記強度、(ii)所定厚さ範囲における前記靱性、(iii)所定厚さ範囲における前記強度対靱性関係、及び(iv)所定厚さ範囲における前記SCC試験の一方又は両方に常に合格すること、の全部を達成することはできない。
【0109】
他の実施例において、T76質別のアルミニウム合金製品が提供される。アルミニウム合金製品は、第1プレート、第2プレート及び/又は第3プレートから作られる。第1プレートが用いられるとき、第1プレートの厚さは約2.00インチ以下であり、前述したように、図2C−1、2C−2、2D−1及び2D−2の発明例1、2、3、4又は5の何れかの合金組成、又は図2E及び2Fの発明例1又は2の何れかの合金組成を有する。第2プレートが用いられるとき、第2プレートの厚さは2.00インチ超3.00インチ以下であり、前述したように、図2C−1、2C−2、2D−1及び2D−2の発明例1、2、3、4又は5の何れかの合金組成、又は図2E及び2Fの発明例1又は2の何れかの合金組成を有する。第3プレートが用いられるとき、第3プレートの厚さは3.00インチ超4.00インチ以下であり、前述したように、図2C−1、2C−2、2D−1及び2D−2の発明例1、2、3、4又は5の何れかの合金組成、又は図2E及び2Fの発明例1又は2の何れかの合金組成を有する。アルミニウム合金製品は、他の成分(例えば、前述した組成レベルの他の成分)を含むことができる。また、これらのどの実施例についても、アルミニウム合金は、本質的に前記成分からなり(アルミニウムを除く)、残部アルミニウム及び随伴元素及び不純物である。
【0110】
この実施例において、全ての第1プレートは、強度と靱性の関係が、式FT≧−2.3*(TYS)+229を充足し、前記式中、TYSは、ASTM規格E8及びB557に基づいて測定された第1プレートのL引張降伏強度(ksi)であり、FTは、ASTM規格E399に基づいて測定された第1プレートのL−T平面ひずみ破壊靱性(ksi√インチ)であり、第1プレートのTYSは79ksi以上、第1プレートのFTは30ksi√インチ以上である。これら実施例の幾つかは、プレートの引張降伏強度が約80ksi以上、例えば約81ksi以上又は約82ksi以上又は約83ksi以上又は約84ksi以上又は約85ksi以上又は約86ksi以上である。これら実施例の幾つかは、プレートの靱性が約32ksi√インチ以上、例えば約34ksi√インチ以上又は約36ksi√インチ以上又は約38ksi√インチ以上又は約40ksi√インチ以上又は約42ksi√インチ以上である。
【0111】
この実施例において、全ての第2プレートは、強度と靱性の関係が、式FT_TL≧−1.0*(TYS_LT)+98を充足し、前記式中、TYS_LTは、ASTM規格E8及びB557に基づいて測定された第2プレートのLT引張降伏強度(ksi)であり、FT_TLは、ASTM規格E399に基づいて測定された第2プレートのT−L平面ひずみ破壊靱性(ksi√インチ)であり、第2プレートのTYS_LTは76ksi以上、第2プレートのFT_TLは22ksi√インチ以上である。これら実施例の幾つかは、プレートの引張降伏強度が約77ksi以上、例えば約78ksi以上又は約79ksi以上又は約80ksi以上又は約81ksi以上である。これら実施例の幾つかは、プレートの靱性が約22.5ksi√インチ以上、例えば約23ksi√インチ以上又は約23.5ksi√インチ以上又は約24ksi√インチ以上又は約24.5ksi√インチ以上又は約25ksi√インチ以上である。
【0112】
この実施例において、全ての第2プレートは、強度と靱性の関係が、式FT_SL≧−1.1*(TYS_ST)+99を充足し、前記式中、TYS_STは、ASTM規格E8及びB557に基づいて測定された第2プレートのST引張降伏強度(ksi)であり、FT_SLは、ASTM規格E399に基づいて測定された第2プレートのS−L平面ひずみ破壊靱性(ksi√インチ)であり、第2プレートのTYS_STは71ksi以上、第2プレートのFT_SLは22ksi√インチ以上である。これら実施例の幾つかは、プレートの引張降伏強度が約71.5ksi以上、例えば約72ksi以上又は約72.5ksi以上又は約73ksi以上である。これら実施例の幾つかは、プレートの靱性が約23ksi√インチ以上、例えば約24ksi√インチ以上又は約25ksi√インチ以上又は約26ksi√インチ以上又は約27ksi√インチ以上又は約28ksi√インチ以上である。
【0113】
この実施例において、全ての第3プレートは、強度と靱性の関係が、式FT_TL≧−1.0*(TYS_LT)+98を充足し、前記式中、TYS_LTは、ASTM規格E8及びB557に基づいて測定された第3プレートのLT引張降伏強度(ksi)であり、FT_TLは、ASTM規格E399に基づいて測定された第3プレートのT−L平面ひずみ破壊靱性(ksi√インチ)であり、第3プレートのTYS_LTは75ksi以上、第3プレートのFT_TLは21ksi√インチ以上である。これら実施例の幾つかは、プレートの引張降伏強度が約75.5ksi以上、例えば約76ksi以上又は約76.5ksi以上又は約77ksi以上又は約77.5ksi以上又は約78ksi以上である。これら実施例の幾つかは、プレートの靱性が約22ksi√インチ以上、例えば約23ksi√インチ以上又は約24ksi√インチ以上又は約25ksi√インチ以上又は約26ksi√インチ以上又は約27ksi√インチ以上である。
【0114】
この実施例において、全ての第3プレートは、強度と靱性の関係が、式FT_SL≧−1.1*(TYS_ST)+99を充足し、前記式中、TYS_STは、ASTM規格E8及びB557に基づいて測定された第3プレートのST引張降伏強度(ksi)であり、FT_SLは、ASTM規格E399に基づいて測定された第3プレートのS−L平面ひずみ破壊靱性(ksi√インチ)であり、第3プレートのTYS_STは70ksi以上、第2プレートのFT_SLは20ksi√インチ以上である。これら実施例の幾つかは、プレートの引張降伏強度が約70.5ksi以上、例えば約71ksi以上又は約71.5ksi以上又は約72ksi以上又は約72.5ksi以上又は約73ksi以上である。これら実施例の幾つかは、プレートの靱性が約21ksi√インチ以上、例えば約22ksi√インチ以上又は約23ksi√インチ以上又は約24ksi√インチ以上又は約25ksi√インチ以上である。
【0115】
この実施例において、第1プレート、第2プレート又は第3プレートのどのプレートも1又は複数の応力腐食割れ試験に常に合格する。特定の実施例において、T76質別の規定に基づくと、プレートは、ST方向約25ksi以上(例えば25ksi〜34ksi)で180日間の海岸環境応力腐食割れ(SCC)抵抗性試験(後述する)に常に合格である。幾つかの実施例において、プレートは、前記応力レベルにおける海岸環境SCC試験に合格し、230日以上又は280日以上又は330日以上又は365日以上である。特定の実施例において、プレートの交互浸漬SCC試験(ASTM規格G44, G47及び/又はG49に基づく)の30日間以上に常に合格する。幾つかの実施例において、プレートの交互浸漬SCC試験結果は、40日以上又は60日以上又は80日以上又は100日以上である。従来の7XXX系合金のT74質別では、(i)所定厚さ範囲における前記強度、(ii)所定厚さ範囲における前記靱性、(iii)所定厚さ範囲における前記強度対靱性関係、及び(iv)所定厚さ範囲における前記SCC試験の一方又は両方に常に合格すること、の全部を達成することはできない。
【0116】
一実施例において、アルミニウム合金は宇宙航空機の上ウイングスキンに用いられる。上ウイングスキンは厚さ約2.00インチ以下のアルミニウム合金プレートから作られることができ、アルミニウム合金は、図2C−1、2C−2、2D−1及び2D−2の発明例1、2、3、4又は5の何れかの合金組成を有する。アルミニウム合金製品は、他の成分(例えば、前述した組成レベルの他の成分)を含むことができる(頻度は低いが)。また、これらのどの実施例についても、アルミニウム合金は、本質的に前記成分からなり(アルミニウムを除く)、残部アルミニウム及び随伴元素及び不純物である。これらの実施例において、アルミニウム合金は、強度対靱性が、式FT≧−4.0*(TYS)+453で表される関係を充足し、前記式中、TYSは、ASTM規格E8及びB557に基づいて測定されたプレートのL引張降伏強度(ksi)であり、FTは、アルミニウム合金プレートのT/2位置から採取した中央亀裂アルミニウム合金試料について、ASTM規格E561及びB646に準拠して測定されたL−T平面応力破壊靱性(Kapp)であり、FTは、アルミニウム合金プレートのT/2位置から採取した中央亀裂アルミニウム合金試験片について、ASTM規格E561及びB646に準拠して測定したものであり、前記試験片は、幅16インチ、厚さ0.25インチ、初期疲労予亀裂長さ4インチである。幾つかの実施例において、プレートのTYSは約80ksi以上、例えば約81ksi以上又は約82ksi以上又は約83ksi以上又は約84ksi以上又は約85ksi以上である。幾つかの実施例において、プレートの靱性は約100ksi√インチ以上、例えば約101ksi√インチ以上又は約102ksi√インチ以上又は約103ksi√インチ以上又は約104ksi√インチ以上又は約105ksi√インチ以上である。上ウイングスキンプレートは、引張降伏強度及び平面応力破壊靱性の改良の他に、平面ひずみ破壊靱性(K1c)の向上をも達成することができる。このように、これらの実施例において、プレートの強度対靱性の関係は、式FT-K1C≧−2.3*(TYS)+229を充足し、前記式中、TYSは、前記のL引張降伏強度であり、FT-K1Cは、ASTM規格E399に基づいて測定されたプレートのL−T平面ひずみ破壊靱性(ksi√インチ)であり、プレートのFT-K1Cは34ksi√インチ以上である。これら実施例の幾つかは、プレートのFT-K1C破壊靱性が約36ksi√インチ以上、例えば約38ksi√インチ以上又は約40ksi√インチ以上又は約42ksi√インチ以上である。従来の7XXX系合金では、(i)所定厚さ範囲における前記強度、(ii)所定厚さ範囲における前記靱性、及び(iii)所定厚さ範囲における前記強度対靱性関係、の全部を達成することはできない。なお、これら合金は、前記実施例2に示された耐食性を達成することができるかもしれない。
【0117】
本開示の大部分は合金プレートに関するものであるが、本開示合金に対する同様な改善は、例えば押出及び鍛造等の他の製品形態においても実現できるであろう。本開示について具体的実施例を詳細に説明したが、当該分野の専門家であれば、開示の教唆全体を参照することにより、開示の詳細に種々の改変及び代替をなし得るであろう。それゆえ、開示された具体的構成は例示にしかすぎず、本開示の範囲を限定するものではないから、本開示の範囲は特許請求の範囲の全範囲及びその均等物全体によって定められるべきである。
【技術分野】
【0001】
<関連出願の説明>
本願は、2007年5月14日に出願された米国一部継続出願第11/748,021号、発明の名称「複合特性が改善されたアルミニウム合金製品(aluminum alloy products)及び該製品の人工時効方法」の優先権を主張し、該出願は、引用を以てその全体が本願に組み込まれるものとする。
【背景技術】
【0002】
<発明の分野>
本開示は、アルミニウム合金に関するものであり、特にアルミニウム協会による7000系(又は7XXX)アルミニウム(“Al”)合金に関する。より具体的には、商業用航空機の構造部材の製造に有用で、厚さが最大4インチのアルミニウム合金製品に関する。
【0003】
<関連技術の説明>
航空宇宙産業が新たなシリーズの航空機を製造するに伴い、アルミニウム合金に対する産業の需要はますます高まってきている。新しいジェット機のサイズが大きくなり、また、現在のジェット旅客機モデルの最大積量がより重くなり、及び/又は、飛行距離がより長くなり、性能及びコストの改善が進むにつれて、ウィング構成部品などの構造部品における軽量化への需要は増え続けている。
【0004】
従来の航空機のウィング構造は図1に示されており、全体が符号(2)で示されるウィングボックス(wing box)を含んでいる。ウィングボックス(2)は、ウィングの主要強度部品として機体から外方に延在し、図1の紙面とほぼ直交している。ウィングボックス(2)において、上ウィングスキン(4)と下ウィングスキン(6)は離間し、その間には、垂直構造部材又はスパー(spar)(12)(20)が設けられている。ウィングボックス(2)はまた、一方のスパーから他方のスパーに延在するリブを含んでいる。これらのリブは図1の紙面と平行に存在するのに対し、ウィングのスキンとスパーは図1の紙面と直交している。
【0005】
上ウィングのカバーは、典型的には、スキン(4)と補強要素又はストリンガー(8)とを具えている。これらの補強要素は別々の構成にして締結することもできるが、スキンと一体に作ることで、ストリンガーとリベットを別々に設ける必要性をなくすこともできる。飛行中、商業用航空機の上ウィングの構造は圧縮負荷を受けるため、高い圧縮強度をもつ合金が求められる。この要請により、所定の破壊靱性レベルを維持しつつ、より高い圧縮強度を有する合金が開発されてきた。今日の大型航空機の上ウィングの構造部材は、典型的には、7150アルミニウム(米国再発行特許第34,008号)、7499アルミニウム(米国特許第5,560,789号)又は7055アルミニウム(米国特許第5,221,377号)のように、高強度7XXX系アルミニウム合金から作られている。より最近では、改善された7055アルミニウム合金が米国特許第7,097,719号に開示されている。
【0006】
しかしながら、超大型航空機の開発により、新たな設計条件が要求されている。ウィングの大型化及び高重量化により、航空機の総離陸重量が増加するため、これらの航空機は着陸時の下方曲げ負荷(down-bending loads)が大きく、上ウィング構造部材に高い引張負荷が作用する。現在の上ウィング用合金の引張強度はこれら下方曲げ負荷に十分耐えることはできるが、これら合金の破壊靱性は不足するため、上カバーの胴体側部分(inboard portions)の設計基準が制限される。このため、超大型航空機の上側構造部材用合金は、強度を多少犠牲にしても、非常に高い破壊靱性を有する合金が要請されるようになった。この合金は、2324合金(米国特許第4,294,625号)のような下ウィングスキン合金により近いものである。つまり、超大型航空機の上ウィング構造部材における強度と靱性の最適な組合せは、最大限の軽量化を達成するために、高破壊靱性化と低強度化へ移行したのである。
【0007】
ウィングスパー及びリブ要素において、減量化及びコスト削減のために用いられる設計及び合金製品に対しては、摩擦攪拌溶接等の新たな溶接技術もまた、多くの新たな可能性を有している。スパーの性能を最大限にするには、上ウィングスキンに接合するスパーの部分は上ウィングスキンと同様な特性を有し、下ウィングスキンに接合するスパーの部分は下ウィングスキンと同様な特性を有する必要がある。このため、上側スパーキャップ(14)又は(22)と、ウェブ(18)又は(20)と、下側スパーキャップ(16)又は(24)とを具え、締結具(図示せず)によって接合された“組立(ビルトアップ、built-up)式”のスパーが用いられるようになった。この“組立式”スパーの構造により、各構成部品に最適な合金製品を用いることができる。しかしながら、取付けに必要な締結具の数が多いため、組立て費用が増大する。また、締結具と締結具孔は構造的に弱い連結であるため、部品の厚みを厚くせねばならず、複数の合金を用いることの性能の利点は幾分低下する。
【0008】
組立式スパーに関連する組立て費用を抑える方策の一例として、単一合金を厚板からスパー全体を機械加工すること、押出し又は鍛造することが挙げられる。この機械加工処理は、部品の“ホッギングアウト(hogging out)”としても知られている。この設計では、ウェブと上スパーの接合及びウェブと下スパーの接合は必要でなくなる。このようにして作られるワンピース型のスパーは、“一体型スパー(integral spar)”として称されることもある。一体型スパーを作るのに理想的な合金は、上ウィング合金がもつ強度特性と、下ウィング合金がもつ破壊靱性及び他の損傷許容特性とを兼ね備えているものである。通常は、両方の特性を同時に達成することは難しく、上スキンの特性条件と下スキンの特性条件との間で中間的なものとなる。一体型スパーが解消させなければならない問題の一つとして、出発材料(starting stock)として用いられる厚肉製品の強度と靱性は、同じ合金及び質別(temper)から作られたものでも、典型的には、“組立式”スパーに一般的に用いられる薄肉製品の特性より劣ることがある。それゆえ、中間的特性と一体型スパーでの厚肉製品の使用は、重量の面で不利となってしまう。上スパーキャップと下スパーキャップの両方に必要な特性を適度に具えると共に、焼入れ感受性が低く厚肉の製品でも良好な特性を保有する厚肉製品用の合金として、米国特許第6,972,110号に開示された7085合金がある。一体型スパーのもう一つの問題は、合金の如何に拘わらず、購入重量(buy weight)(つまり、購入される材料)と飛行重量(fly weight)(航空機で飛行する材料の重量)の比率(“購入対飛行(buy to fly)”とも称される)が高いことである。このため、一体型スパーが組立式スパーと比べて、組立て費用の削減によってもたらされるコスト高の利点が、少なくとも一部は損なわれる。
【0009】
しかしながら、摩擦攪拌溶接等の新たな技術は、重量と費用の両面でさらに改善できる可能性がある。複数の要素が、摩擦攪拌溶接もしくは他の先進溶接又は接合方法によって接合されたスパーは、組立式スパーと一体型スパーの利点を兼ね備えている。このような方法を用いることで、より薄肉の製品のほか、各スパー構成部品用に最適化された複数種類の合金、製品形態及び/又は質別を利用することが可能となる。このことで、一体型スパーの組立費用面での利点という重要な部分を維持しつつ、合金製品/質別に対する選択肢が拡がり、組立式スパーにおけるのと同様、材料の購入対飛行を向上させることができる。
【0010】
米国特許第5,865,911号には、超大型航空機の下ウィングスキン構造部材及びウィングスパー部材として、7000系合金が開示されている。この合金は、2024及び2324(米国特許第4,294,625号)のような現在使われている下ウィング合金と比べて、薄肉プレートの強度、靱性、及び耐疲労性が改善されている。強度と靱性における同様な特性は、表1に示すように、7085合金(米国特許第6,972,110号)の薄肉プレートでも得られている。薄肉製品形態におけるこれら合金のいずれも、下ウィングカバーの構造部材用として、また、複数の要素が機械的締結又は溶接によって接合されたスパーの下スパーキャップ及びウェブ用材料として有用であろう。これらの合金はまた、組立式又は一体型設計のいずれにおいても、リブ用として適している。ところが、これらの合金で達成できる強度レベルは大型商業用航空機の上ウィング構造部材に用いるには一般的に不十分である。上スパーキャップ、スパーウェブ及びリブには、適切な靱性が維持されることを条件として、強度をより高めることが有利である。
【表1】
【0011】
それゆえ、超大型航空機において、上ウィング構造部材に用いられている現在の合金の許容強度レベルを維持しつつ、それよりも有意に高い靱性を有する合金が必要とされている。このような合金は、複数の要素が機械的締結又は溶接によって接合された上スパーキャップ及びスパーウェブに使用される他、組立式又は一体型設計のウィングリブにも有益であろう。超大型航空機及びウィングでの必要性について具体的に説明したが、このような合金はまた、機体用としても、また、小型機の組立式及び一体型両方の構造用としても有益である。加えて、軍用車両の装甲等の非航空機用部品としても、本発明合金から作られることはできるだろう。
【発明の概要】
【0012】
<発明の要旨>
宇宙航空機の構造部品として特に適した新規なアルミニウム合金製品を提供する。一態様において、新規なアルミニウム合金(“本開示合金又は本発明合金”と称することもある)は、Zn:約6.80〜約8.5重量%、Mg:約1.5又は1.55〜約2.00重量%、Cu:約1.75〜約2.30重量%、Zr:約0.05〜約0.3重量%、Mn:約0.1重量%未満、Cr:約0.05重量%未満、残部実質的にAl、随伴元素及び不純物である。アルミニウム合金製品は、厚さ約4インチ以下、場合によっては約2.5インチ以下又は2.0インチ以下であって、許容レベルの強度を維持しつつ、これら用途に用いられる従来合金よりも有意に高い破壊靱性を有しており、その逆もしかりである。
【0013】
一の発明では、アルミニウム合金製品を提供する。該製品のアルミニウム合金は、Zn:約6.80〜約8.5重量%、Mg:約1.5又は1.55〜約2.00重量%、Cu:約1.75〜約2.30重量%、Zr:約0.05〜約0.3重量%、Mn:約0.1重量%未満、Cr:約0.05重量%未満、残部Al、随伴元素及び不純物である。アルミニウム合金に溶体化熱処理、焼入れ(quenched)及び人工時効が施されると、製造された部品は、改善された強度と破壊靱性を具える。一実施例において、合金は少量の鉄及び珪素不純物を含んでいる。一実施例において、合金は不純物として、Fe:約0.15重量%以下及びSi:約0.12重量%以下を含んでいる。一実施例において、合金は不純物として、Fe:約0.08重量%以下及びSi:約0.06重量%以下を含んでいる。一実施例において、合金は不純物として、Fe:約0.04重量%以下及びSi:約0.03重量%以下を含んでいる。アルミニウム合金は、例えば、圧延シート、圧延プレート、押出又は鍛造の形態である。幾つかの実施例において、アルミニウム合金製品は、厚みが最も厚い位置での厚さは2.5インチ又は2.0インチ未満である。幾つかの実施例において、アルミニウム合金製品は、厚みが最も厚い位置での厚さは約2.5インチ〜4インチである。
【0014】
一の発明では、アルミニウム合金は、圧延プレートの形態であり、厚さは、2.5インチ未満で、例えば2.00インチ以下である。一実施例において、圧延プレートのアルミニウム合金は、Zn:6.8〜8.5重量%、Mg:1.5〜2.0重量%、Cu:1.75〜2.3重量%、Zr、Hf、Sc、Mn及びVの少なくとも一種:0.25重量%以下、及びAl:約89.95重量%以下を含んでいる。一実施例において、アルミニウム合金は、Zn:7.5〜8.5重量%、Cu:1.9〜2.3重量%、Mg:1.5〜2.0重量%、Zr、Hf、Sc、Mn及びVの少なくとも一種:0.25重量%以下、及びAl:約89.1重量%以下を含んでいる。一実施例において、アルミニウム合金は、Zn:7.8〜8.5重量%、Cu:1.95〜2.25重量%、Mg:1.7〜2.0重量%、Zr、Hf、Sc、Mn及びVの少なくとも一種:0.25重量%以下、及びAl:約88.55重量%以下を含んでいる。一実施例において、アルミニウム合金は、Zn:7.9〜8.2重量%、Cu:2.05〜2.15重量%、Mg:1.75〜1.85重量%、Zr、Hf、Sc、Mn及びVの少なくとも一種:0.25重量%以下、及びAl:約88.3重量%以下を含んでいる。一実施例において、アルミニウム合金は、Zn:7.4〜8.0重量%、Cu:1.95〜2.25重量%、Mg:1.7〜2.0重量%、Zr、Hf、Sc、Mn及びVの少なくとも一種:0.25重量%以下、及びAl:約88.95重量%以下を含んでいる。一実施例において、アルミニウム合金は、Zn:7.5〜7.9重量%、Cu:2.05〜2.20重量%、Mg:1.8〜1.9重量%、Zr、Hf、Sc、Mn及びVの少なくとも一種:0.25重量%以下、及びAl:約88.65重量%以下を含んでいる。これらの様々な実施例において、アルミニウム合金は、Zr:0.05〜約0.3重量%、Mn:約0.1重量%未満、及びCr:約0.05重量%未満を含んでもよい。これらの実施例のいずれにおいても、アルミニウム合金は、本質的に前記成分(アルミニウムを除く)から構成され、残部はアルミニウム並びに随伴元素及び不純物である。これらの実施例のいずれにおいても、アルミニウム合金製品は、厚みが最も厚い位置での厚さは約2.5又は2.0インチ未満である。
【0015】
一の発明では、アルミニウム合金は、プレートの形態であり、厚さは、2.5又は3.0インチ又は2.51インチ〜約3.5インチ、3.75インチ又は4.0インチである。一実施例において、プレートのアルミニウム合金は、Zn:6.8〜8.5重量%、Mg:1.5〜2.0重量%、Cu:1.75〜2.3重量%、Zr、Hf、Sc、Mn及びVの少なくとも一種:0.25重量%以下、及びAl:約89.95重量%以下を含んでいる。一実施例において、アルミニウム合金は、Zn:7.4〜8.0重量%、Cu:1.9〜2.3重量%、Mg:1.55〜2.0重量%、Zr、Hf、Sc、Mn及びVの少なくとも一種:0.25重量%以下、及びAl:約89.15重量%以下を含んでいる。一実施例において、アルミニウム合金は、Zn:7.5〜7.9重量%、Cu:2.05〜2.20重量%、Mg:1.6〜1.75重量%、Zr、Hf、Sc、Mn及びVの少なくとも一種:0.25重量%以下、及びAl:約88.55重量%以下を含んでいる。これらの様々な実施例において、アルミニウム合金は、Zr:0.05〜約0.3重量%、Mn:約0.1重量%未満、及びCr:約0.05重量%未満を含むこともできる。これら実施例のいずれにおいても、アルミニウム合金は、本質的に前記成分(アルミニウムを除く)から構成され、残部はアルミニウム並びに随伴元素及び不純物である。
【0016】
アルミニウム合金製品は、改良された強度及び靱性特性を実現する。一実施例において、アルミニウム合金製品は、厚さ約2.5インチ又は2.00インチ以下のセクションを含み、長手方向に最小引張降伏強度を有し、図3A又は図3BのA−A線の線上、線より上及び右側の領域(すなわち、網掛け領域)には、L−T方向に平面ひずみ破壊靱性を有している。一実施例において、合金は厚さ約2.5インチ又は2.00インチ以下のセクションを含み、引張降伏強度を有し、図4のB−B線の線上、線より上及び右側の領域(すなわち、網掛け領域)には、L−T方向に見かけの平面応力破壊靱性を有しており、これらは、初期亀裂長さ(2ao)が約4インチ、厚さ約0.25インチの中央亀裂入りの幅16インチパネルで計測したものである。
【0017】
一実施例において、アルミニウム合金製品は、厚さ約2.00インチ又は2.5インチ〜3.0インチ又は3.125インチ又は3.25インチのセクションを含み、LT(long transverse)方向に引張降伏強度を有し、図7のC−C線の線上、線より上及び右側の領域(すなわち、網掛け領域)には、T−L方向に平面ひずみ破壊靱性を有している。一実施例において、アルミニウム合金製品は、厚さ(例えば、最も厚い位置)約2.00インチ又は2.5インチ〜3.0インチ又は3.125インチ又は3.25インチのセクションを含み、ST(short transverse)方向に引張降伏強度を有し、図9のE−E線の線上、線より上及び右側の領域(すなわち、網掛け領域)には、S−L方向に平面ひずみ破壊靱性を有している
【0018】
一実施例において、アルミニウム合金製品は、厚さ(例えば、最も厚い位置)約2.75インチ、3.0インチ、3.125インチ又は3.25インチ〜約3.5インチ、3.75インチ又は4インチのセクションを含み、LT方向に引張降伏強度を有し、図8のD−D線の線上、線より上及び右側の領域(すなわち、網掛け領域)には、T−L方向に平面ひずみ破壊靱性を有している。一実施例において、アルミニウム合金製品は、厚さ約2.75インチ、3.0インチ、3.125インチ又は3.25インチ〜約3.5インチ、3.75インチ又は4インチのセクションを含み、ST方向に引張降伏強度を有し、図10のD−D線の線上、線より上及び右側の領域(すなわち、網掛け領域)には、S−L方向に平面ひずみ破壊靱性を有している。
【0019】
アルミニウム合金製品は優れた耐食性をも実現する。一実施例において、合金製品の耐食性は、EXCOランクで常に“EB”以上である。一実施例において、合金製品は、交互浸漬での応力腐食割れ抵抗性試験を常にパスし、T74質別の応力レベルは35ksi、T76質別の応力レベルは25ksi、T79質別の応力レベルは15ksiである。一実施例において、アルミニウム合金製品は、海岸環境の応力腐食割れ抵抗性試験を常にパスし、T74質別の応力レベルは35ksi、T76質別の応力レベルは25ksi、T79質別の応力レベルは15ksiである。一実施例において、アルミニウム合金製品の耐食性はEXCOランクで常に“EB”以上であり、交互浸漬の応力腐食割れ抵抗性試験及び海岸環境での応力腐食割れ抵抗性試験の両方を常にパスし、T74質別の応力レベルは35ksi、T76質別の応力レベルは25ksi、T79質別の応力レベルは15ksiである。一実施例において、アルミニウム合金製品の耐食性はEXCOランクで常に“EB”以上であり、交互浸漬での応力腐食割れ抵抗性試験及び沿岸環境での応力腐食割れ抵抗性試験の両方を常にパスし、T74質別の応力レベルは35ksi、T76質別の応力レベルは25ksi、T79質別の応力レベルは15ksiであり、上述した引張降伏強度及び破壊靱性の特性を達成している。アルミニウム合金製品は、他の応力腐食割れ抵抗性試験についても同じ様にパスするであろう。
【0020】
アルミニウム合金製品は、様々な用途に用いることができる。一実施例において、アルミニウム合金製品は宇宙航空機の構造部品である。宇宙航空機の構造部品は、上ウィングパネル(スキン)、上ウィングストリンガー、一体ストリンガーを有する上ウィングカバー、スパーキャップ、スパーウェブ、リブ、リブフィート又はリブウェブ、補強要素及びそれらの組合せのいずれでもよい。一実施例において、アルミニウム合金製品は機体部品(例えば、機体のスキン)である。一実施例において、アルミニウム合金製品は装甲部品(例えば、電動式車両の)である。一実施例において、アルミニウム合金製品は石油・ガス産業において用いられる(例えば、パイプ等の構造部品として)。
【0021】
アルミニウム合金製品は、様々な方法で生成することができる。例えば、部品の作製は、融接又は固相溶接法により、質別が同じか又は異なる略同じ合金から作られた1又は複数のアルミニウム合金製品に溶接された合金製品から行なうことができる。一実施例において、アルミニウム合金製品は、異なる合金組成の1又は複数のアルミニウム合金製品に接合されて、マルチ合金部品が作製される。一実施例において、前記製品は機械的締結によって接合される。一実施例において、アルミニウム合金製品は融接又は固相溶接法によって接合される。一実施例において、アルミニウム合金製品は、部品の製造プロセスにおいて、単独で時効成形されるか、又は他の合金製品に接合後に時効成形される。一実施例において、アルミニウム合金製品は繊維金属積層材又は他の強化材によって強化される。
【0022】
アルミニウム合金及びアルミニウム合金製品の製造方法も提供する。一の発明において、方法は、アルミニウム合金を航空機の構造部品に成形又は形成するステップを含んでいる。方法は、アルミニウム合金(例えば、前記組成の何れかを有するアルミニウム合金)を生成すること、圧延、押出及び鍛造からなる群から選択される1又は複数の方法によって合金を均質化及び熱間加工を行なうこと、合金を溶体化熱処理すること、合金を焼入れすること、並びに合金を応力除去することを含むことができる。人工時効処理された構造部品は、強度と破壊靱性について改良された複合特性を具備する。一実施例において、合金は焼入れされるとき厚さは約4インチ未満である。一実施例において、方法は、部品は単独で時効成形するか、又は他の合金製品に接合後に時効成形することを含んでいる。
【0023】
一実施例において、構造部品を成形又は形成するステップは機械加工を含んでいる。一実施例において、機械加工は人工時効を施した後か、又は複数の時効段階の間に行われる。一実施例において、機械加工は溶体化熱処理より前に行われる。
【0024】
一実施例において、構造部品を成形又は形成するステップは、他の部品に接合する前又は後のどちらかに時効成形することを含んでいる。一実施例において、構造部品を成形又は形成するステップの少なくとも一部は、人工時効の前に行われるか、又は人工時効の少なくとも一部を行なっている間に行われる。
【0025】
一実施例において、合金は、(i)約150〜275°Fでの第1時効段階と、(ii)約290〜335°Fの第2時効段階とを含む方法によって人工時効が施される。一実施例において、第1時効段階(i)は、約200〜260°Fで行われる。一実施例において、第1時効段階(i)は、約2〜約18時間行われる。一実施例において、第2時効段階は約290〜325°Fで約4〜約30時間行われる。一実施例において、第2時効段階(ii)は約290〜315°Fで約6〜約30時間行われる。一実施例において、第2時効段階(ii)は約300〜325°Fで約7〜約26時間行われる。一実施例において、時効段階の一方又は両方は、複数の温度時効効果の統合を含んでいる。一実施例において、部品を、該部品と同じ合金又は異なる合金又は質別の別の部品に溶接するために、時効段階の一方又は両方が中断される。
【0026】
他の実施例において、合金は、(i)約290〜335°Fでの第1時効段階と、(ii)約200〜275°Fの第2時効段階とを含む方法によって人工時効が施される。一実施例において、第1時効段階(i)は約290〜325°Fで約4〜約30時間行われる。一実施例において、第1時効段階(ii)は約290〜315°Fで約6〜約30時間行われる。一実施例において、第1時効段階(i)は約300〜325°Fで約7〜約26時間行われる。一実施例において、時効段階の一方又は両方は、複数の温度時効効果の統合を含んでいる。一実施例において、部品を、該部品と同じ合金又は異なる合金又は質別の別の部品に溶接するために、時効段階の一方又は両方が中断される。
【0027】
他の実施例において、合金は、(i)約150〜275°Fでの第1時効段階と、(ii)約290〜335°Fの第2時効段階と、(iii)約200〜275°Fでの第3時効段階とを含む方法によって人工時効が施される。一実施例において、第1時効段階(i)は、約200〜260°Fで行われる。一実施例において、第1時効段階(i)は、約2〜約18時間行われる。一実施例において、第2時効段階(ii)は約290〜325°Fで約4〜約30時間行われる。一実施例において、第2時効段階(ii)は約290〜315°Fで約6〜約30時間行われる。一実施例において、第2時効段階(ii)は約300〜325°Fで約7〜約26時間行われる。一実施例において、第3時効段階(iii)は約230〜260°Fで少なくとも約2時間以上行われる。一実施例において、第3時効段階(iii)は約240〜255°Fで約18時間以上行われる。一実施例において、時効段階のうちの1、2又は全部の段階は、複数の温度時効効果の統合を含んでいる。一実施例において、部品を、該部品と同じ合金又は異なる合金又は質別の別の部品に溶接するために、時効段階のうちの1、2又は全部の段階は中断される。
【0028】
この方法は、合金部品を接合することを含むこともできる。一実施例において、1又は複数の部品は機械的締結によって接合される。一実施例において、1又は複数の部品は溶接によって接合される。一実施例において、部品は電子ビーム溶接によって接合される。一実施例において、部品は摩擦攪拌溶接によって接合される。一実施例において、一部品は他のアルミニウム製品に締結又は溶接されることにより、マルチ合金及び/又は複数質別(multi-temper)の部品が作られる。
【0029】
前記の態様、取組及び/又は実施例の様々な組合せによって、有用な種々アルミニウム合金製品及び部品を作られることは理解されるであろう。ここでの開示のこれら及び他の態様、利点並びに新規な特徴の一部を以下に説明するが、当業者であれば、以下の説明及び図面の審査の際に明らかであろうし、開示の実施すによって理解できるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0030】
本開示の理解をより完全なものとするために、添付図面を参照して、以下に説明する。
【0031】
【図1】図1は、航空機のウィングの典型的なウィングボックス構造の横断面図である。
【0032】
【図2A】図2Aは、本発明の合金組成の実施例を示しており、主要合金元素であるCu及びZnについて、7085合金、7055合金及び7499合金との含有量の比較を示している。
【図2B】図2Bは、本発明の合金組成の実施例を示しており、主要合金元素であるMg及びZnについて、7085合金、7055合金及び7499合金との含有量の比較を示している。
【0033】
【図2C−1】図2C−1は、本開示の合金組成(例えば、厚さが2又は2.5インチ以下のアルミニウム合金プレートを製造するのに有用な組成)の実施例を示している。
【図2C−2】図2C−2は、本開示の合金組成(例えば、厚さが2又は2.5インチ以下のアルミニウム合金プレートを製造するのに有用な組成)の実施例を示している。
【図2D−1】図2D−1は、本開示の合金組成(例えば、厚さが2又は2.5インチ以下のアルミニウム合金プレートを製造するのに有用な組成)の実施例を示している。
【図2D−2】図2D−2は、本開示の合金組成(例えば、厚さが2又は2.5インチ以下のアルミニウム合金プレートを製造するのに有用な組成)の実施例を示している。
【0034】
【図2E】図2Eは、本開示の合金組成(例えば、厚さが約2又は2.5インチ以上のアルミニウム合金プレートを製造するのに有用な組成)の実施例を示している。
【図2F】図2Fは、本開示の合金組成(例えば、厚さが約2又は2.5インチ以上のアルミニウム合金プレートを製造するのに有用な組成)の実施例を示している。
【0035】
【図3A】図3Aは、(i)T79質別のプレート状発明例合金A−Dと、(ii)プレート状の幾つかの他の従来合金について、典型的なL−T平面ひずみ破壊靱性KIcと長手方向の最小引張降伏強度との関係を示すグラフである。
【0036】
【図3B】図3Bは、(i)T79質別のプレート状発明例合金A−Dと、(ii)プレート状の幾つかの他の従来合金について、典型的なL−T平面ひずみ破壊靱性KIcと長手方向の最小引張降伏強度との関係を示すグラフである。
【0037】
【図4】図3Aは、(i)T79質別のプレート状発明例合金A−Dと、(ii)プレート状の幾つかの他の従来合金について、典型的なL−T平面応力破壊靱性Kappと実際の又は測定された引張降伏強度との関係を示すグラフである。
【0038】
【図5】図5は、発明例合金組成物のうちの2つについて、腐食曝露後、0時間、6時間及び12時間の3種類の第3ステップ時効を施したもので、LT方向における残存強度率を比較するグラフである。
【0039】
【図6】図6は、発明例合金と従来の7055合金について、腐食曝露後、12時間の第2ステップ時効を施したもので、LT方向における残存強度率を比較するグラフである。
【0040】
【図7】図7は、(i)T74質別の発明例合金E(厚さ3.125インチ)と、(ii)幾つかの他の従来合金(厚さ約3インチ)とについて、典型的なL−T平面ひずみ破壊靱性KIcと典型的なLT引張降伏強度との関係を示すグラフである。
【0041】
【図8】図8は、(i)T74質別の発明例合金F(厚さ4.0インチ)と、(ii)幾つかの他の従来合金(厚さ約4インチ)とについて、典型的なL−T平面ひずみ破壊靱性KIcと典型的なLT引張降伏強度との関係を示すグラフである。
【0042】
【図9】図9は、(i)T74質別の発明例合金E(厚さ3.125インチ)と、(ii)幾つかの他の従来合金(厚さ約3インチ)とについて、典型的なS−L平面ひずみ破壊靱性KIcと典型的なST引張降伏強度との関係を示すグラフである。
【0043】
【図10】図10は、(i)T74質別の発明例合金F(厚さ4.0インチ)と、(ii)幾つかの他の従来合金(厚さ約4インチ)とについて、典型的なS−L平面ひずみ破壊靱性KIcと典型的なST引張降伏強度との関係を示すグラフである。
【0044】
図面全体を通じて、同じ引用符号は、同じ要素を表している。
【0045】
<詳細な説明>
図1は、上ウイングスキン(4)及びストリンガー(8)と、下ウイングスキン(6)及びストリンガー(10)とがスパー(12)(18)によって隔てられた典型的なウイングボックス構造(2)の横断面を示す概略図である。ストリンガー(4)(10)は締結によって別途取り付けられることができるが、別個のストリンガー及びリベットを不要にするためにスキンと一体に作られることもできる。ウイングの上面及び下面の各々を被覆するのに必要なウイングパネル(4)(6)は、航空機サイズ及びウイング設計に応じて、典型的には、2又は3又は4である。一体型スキン及びストリンガー設計の場合、もっと多くのパネルが必要となることもある。上スキン及び下スキンを具える複数のパネルは、典型的には、機械的締結によって接合される。これらの継手は、航空機の重量を増加する。
【0046】
スパーは例えば“組立式”にて、上スパーキャップ(14)又は(22)と、下スパーキャップ(16)又は(24)と、ウエブ(18)又は(26)とが機械的締結によって接合されることができるし、一体型のワンピース構造とすることもできるが、夫々に利点と不利とがある。組立式スパーは、スパー部品の各々に最適な合金製品を用いることができ、一体型スパーに比べて“購入対飛行”が改善される。典型的には、上スパーキャップは、高い圧縮強度を必要とするのに対し、下スパーキャップは、強度は低くても、破壊靱性及び疲労亀裂成長抵抗性等の損傷許容特性はより高いものが必要とされる。一体型スパーは組立費用は低減されるが、その特性は、上側スキンと下側スキンに要求される条件の折衷的なものとならざるを得ないため、その性能は組立式構造のものよりも劣る。また、一体型スパー用の出発材料として用いられる厚肉製品の強度と靱性は、典型的には、組立式スパー用に用いられる薄肉製品に劣る。
【0047】
ウイングボックスは、一方のスパーから他方のスパーへ全体的に延在するリブ(図示せず)をさらに含んでいる。これらのリブは、図1の紙面と平行である。一方、ウイングスキンとスパーは図1の紙面と直交している。スパーと同様、リブは、組立式でも一体型でもよいが、スパーの場合と同じ様に、夫々に利点と不利とがある。しかしながら、リブの最適特性は幾分異なり、上下ウイングスキンとストリンガーに接続するリブ脚部は高い強度が有利であるが、リブのウエブは高い剛性(stiffness)が有利である。より典型的には、ウイングリブは一体型構造であり、特性は、リブ脚部とリブウエブに要求される条件の折衷的なものである。
【0048】
摩擦撹拌溶接や電子ビーム溶接等の新しい溶接技術は、現在の組立式及び一体型構造の利点を維持しつつ、それらの不利を最小にできる新たな構造概念が可能となる。例えば、上スキンを作るために用いられる異なるウイングパネル(4)は、機械的締結継手に代えて摩擦撹拌溶接によって接合することにより、上スキンの重量を低減できる。スパーとリブは最適化された複数の合金、質別から作られ、各スパー及びリブ要素は摩擦撹拌溶接によって接合されるので、組立式スパーにおける薄肉製品の性能の利点と良好な購入対飛行を維持しつつ、一体型スパー又はリブと同様の組立費用の削減が可能となる。例えば、上スパーキャップ(14)(22)は高強度合金又は質別押出品から作られ、下スパーキャップ(16)(24)は低強度損傷許容合金又は質別押出品から作られ、スパーウエブ(18)(26)は中強度合金又は質別プレートから作られ、3要素は、摩擦撹拌溶接又は電子ビーム溶接によって接合されることができる。一体型と組立式とがミックスされた構造を用いることで、組立費用の低減と共に、要素のフェイル・セーフティ及び損傷許容性が改善される。例えば、上スパーキャップ(14)(22)は、摩擦撹拌溶接によってスパーウエブ(12)(20)に接合されることで組立費用が低減され、下スパーキャップ(16)(24)は機械的に締結されることで損傷許容性が改善される。組立式と一体型とがミックスされた溶接構造における損傷許容性の更なる改善は、繊維金属積層材及び米国特許第6595467号に記載された他の強化材で強化することによって達成される。
【0049】
米国特許第6972110号に記載された合金(商品名称は7085)は、主として、低焼入れ感受性が重要な厚肉品(厚さ4〜8インチ又はそれ以上)に用いられる。低焼入れ感受性は、厚肉品の焼入れが可能な組成を注意深く制御することによって達成され、強度、靱性及び耐食性について、従来の厚肉品(例えば、7050、7010、7040材)よりも優れた組合せが達成される。AA7085として登録された組成は、低Cu(約1.3〜約1.9重量%)及び低Mg(約1.3〜約1.68重量%)であり、これは商業用航空宇宙用合金に用いられる最も希薄レベルである。特性が最も最適化されたZnレベル(約7〜約9.5重量%)は、7050、7010、7040材で規定された量よりもずっと多いレベルである。これは、Zn含有量が多いほど焼入れ感受性(quench sensitivity)が大きくなるというこれまでの教唆に反するものである。それどころか、7085材ではZn量が多くなるほど、実際には、厚肉ピースの遅い焼入れ条件に対して効果的あることがわかった。米国特許第6972110号は、厚肉の本願合金の強度び靱性改善のかなりの部分は、合金成分の特定された組合せによるものである。
【0050】
米国特許第5221377号は、典型的には、厚さ2インチ以下のプレート及び押出に用いられる7055合金に関するもので、Mg量が少ないと破壊靱性が向上することを教唆している。溶質量の増加によって強度が向上すると、典型的には、靱性が低下することも、先行技術において認識されている。
【0051】
本発明合金は、主として、厚さ約4インチ以下、場合によっては約2.0又は2.5以下の薄肉合金製品を目的として、大型商業用航空機におけるウイングスキン、ウイングストリンガー及び上スパーキャップを含む上側構造部材に適している。これらの用途では、多くの場合高い強度を必要とし、その利点を享受するが、これは、7085材の組成によって達成されることができる。同じように、スパーウエブ、リブ及びその他の航空宇宙部品等の他の部品にも有用である。強度向上のために、本発明合金では、Mgを増加させて、約1.5又は1.55〜約2.0重量%であり、Cuの範囲は約1.75〜約2.30重量%である。Znの量は幾分少なく、約6.8〜約8.5重量%である。図2A及び図2Bは、主要合金元素のCuとZn、MgとZnについて、本発明合金の実施例と、7085(米国特許第6972110号)及び7055(米国特許第5221377号)及び7449との比較を示している。本発明合金の適当な組成は、実線の四角枠によって示されている。図2A及び図2Bに含まれる発明例合金A−Fの組成は以下に記載する。
【0052】
一の発明において、本開示合金は、厚さ2.5インチ未満(例えば、2.00インチ以下)のプレートの形態である。一実施例において、アルミニウム合金プレートは、Zn:6.8〜8.5重量%、Mg:1.5〜2.0重量%、Cu:1.75〜2.3重量%、Zr、Hf、Sc、Mn及びVの少なくとも一種:0.25重量%以下、及びAl:約89.95重量%以下である(図2A及び図2B参照)。他の実施例として、図2C−1、図2C−2、図2D−1及び図2D−2を参照すると、アルミニウム合金は、Zn:7.5〜8.5重量%、Cu:1.9〜2.3重量%、Mg:1.5〜2.0重量%、Zr、Hf、Sc、Mn及びVの少なくとも一種:0.25重量%以下、及びAl:約89.1重量%以下である(図2C−1及び図2C−2の発明例1参照)。他の実施例において、アルミニウム合金は、Zn:7.8〜8.5重量%、Cu:1.95〜2.25重量%、Mg:1.7〜2.0重量%、Zr、Hf、Sc、Mn及びVの少なくとも一種:0.25重量%以下、及びAl:約88.55重量%以下である(図2C−1及び図2C−2の発明例2参照)。一実施例において、アルミニウム合金は、Zn:7.9〜8.2重量%、Cu:2.05〜2.15重量%、Mg:1.75〜1.85重量%、Zr、Hf、Sc、Mn及びVの少なくとも一種:0.25重量%以下、及びAl:約88.3重量%以下である(図2C−1及び図2C−2の発明例3参照)。一実施例において、アルミニウム合金は、Zn:7.4〜8.0重量%、Cu:1.95〜2.25重量%、Mg:1.7〜2.0重量%、Zr、Hf、Sc、Mn及びVの少なくとも一種:0.25重量%以下、及びAl:約88.95重量%以下である(図2D−1及び図2D−2の発明例4参照)。一実施例において、アルミニウム合金は、Zn:7.5〜7.9重量%、Cu:2.05〜2.20重量%、Mg:1.8〜1.9重量%、Zr、Hf、Sc、Mn及びVの少なくとも一種:0.25重量%以下、及びAl:約88.65重量%以下である(図2D−1及び図2D−2の発明例5参照)。これらの様々な実施例において、アルミニウム合金は、Zr:0.05〜約0.3重量%、Mn:約0.1重量%未満、及びCr:約0.05重量%未満を含んでもよい。これらの実施例のいずれにおいても、アルミニウム合金は、本質的に前記成分(アルミニウムを除く)から構成され、残部はアルミニウム並びに随伴元素及び不純物である。
【0053】
他の一の発明では、アルミニウム合金は、プレートの形態であり、厚さは、2.5又は3.0インチ又は2.51インチ〜約3.5インチ、3.75インチ又は4.0インチである。一実施例において、プレートのアルミニウム合金は、Zn:6.8〜8.5重量%、Mg:1.5〜2.0重量%、Cu:1.75〜2.3重量%、Zr、Hf、Sc、Mn及びVの少なくとも一種:0.25重量%以下、及びAl:約89.95重量%以下である(図2A及び図2B参照)。他の実施例として、図2E及び図2Fを参照すると、アルミニウム合金は、Zn:7.4〜8.0重量%、Cu:1.9〜2.3重量%、Mg:1.55〜2.0重量%、Zr、Hf、Sc、Mn及びVの少なくとも一種:0.25重量%以下、及びAl:約89.15重量%以下である(図2E及び図2Fの発明例1参照)。一実施例において、アルミニウム合金は、Zn:7.5〜7.9重量%、Cu:2.05〜2.20重量%、Mg:1.6〜1.75重量%、Zr、Hf、Sc、Mn及びVの少なくとも一種:0.25重量%以下、及びAl:約88.55重量%以下である(図2E及び図2Fの発明例2参照)。これらの様々な実施例において、アルミニウム合金は、Zr:0.05〜約0.3重量%、Mn:約0.1重量%未満、及びCr:約0.05重量%未満を含むこともできる。これら実施例のいずれにおいても、アルミニウム合金は、本質的に前記成分(アルミニウムを除く)から構成され、残部はアルミニウム並びに随伴元素及び不純物である。
【0054】
米国特許第6972110号の開示からは、本開示合金の組成を変えることで、合金の焼入れ感受性が7085合金よりも幾分大きくなるであろうが、これはかなり可能性がある。しかしながら、7085合金の組成の利点の一部を保持するが、どの場合も、本開示合金が企図する薄肉合金製品では焼入れ感受性に対する懸念は少ない。組成が変わると、強度が高くなり、Mg含有量が多くなるため、破壊靱性に対して悪影響を有することも考えられた。本開示合金の強度と靱性は、Mgの範囲が7085合金と現在の上ウイング用合金7055及び7449合金との間にあるとき、本開示合金の強度と靱性は、これら合金の間に含まれるであろう。これは強度の場合にも同じであった。しかしながら、本開示合金の強度と破壊靱性の複合特性の改善は、予想された7055合金と7449合金だけではなく、7085合金にももたらさせれたことは驚くべきことであった。それゆえ、本開示合金は、現在用いられている合金よりもすぐれた強度及び靱性の複合特性をもたらすことができる“最適な(sweet)”組成領域を特定するもので、これは予期し得なかったものである。
【0055】
本開示の合金製品は、溶融及びダイレクトチル(DC)のインゴット鋳造を含む多少なりとも公知の方法に作製されることができ、インゴットに特徴的な内部構造特性を具備することができる。当該分野で広く知られているように、例えば、チタン及びボロン、又はチタン及び炭素を含む従来の結晶粒微細化材を用いることもできる。この組成のインゴットが鋳造された後、表面が削られ(必要に応じて)、約800°〜約900°F、又は約850°〜約900°Fの1又は複数の温度まで加熱することにより均質化処理される。均質化処理の後、プレート又はシートへ圧延加工されるか、特別形状のセクションに押出又は鍛造加工される。多くの航空宇宙用の場合、本開示組成から作られた合金製品は、断面厚さが4インチ以下、3.75インチ以下又は3.5インチ以下であり、約2.5インチ以下又は2.0インチ以下である。製品は、所望により、約850°〜約900°Fの間の1又は複数の温度で加熱することによって溶体化熱処理が施され、可溶性の亜鉛、マグネシウム及び銅の大部分、場合によっては全部又は略全部が溶液にされる。物理的プロセスは必ずしも完全とは限らないので、溶体化処理工程において、おそらく、これら主要合金元素が全て残らずに溶解されることはないだろう。前述した温度に加熱した後、製品は急速冷却又は焼入れされ、溶体化熱処理が完了する。このような冷却は、適当サイズのタンクに入れられた冷水中での浸漬又は水スプレーによって行われる。また、補助又は代替の冷却手段として空気冷却を用いることもできる。冷却後、製品によっては機械的に応力除去される必要があり、最大約8%、例えば約1%〜約3%の延伸及び/又は圧縮等が施される。
【0056】
溶体化熱処理及び焼入れされた製品は、冷間加工の有無に拘わらず、析出硬化可能状態、又は人工時効の準備が整った状態にあると考えられる。人工時効は、2ステップ処理又は3ステップ処理でもよいが、用途によっては単一ステップでも十分な場合がある。しかしながら、各ステップの間又は各段階の間で境界となるような明確なラインはない。所定の(又は目標とする)処理温度から上方及び/又は下方への温度傾斜を付与することで析出(時効)効果を生成することができる。このような傾斜条件及びそれらの析出硬化効果を時効処理プログラム全体に組み入れることが必要な場合もある。この傾斜条件の組み入れについては、米国特許第3645804号に詳細に記載されており、その開示の全ては引用を以て本願へ記載加入されるものとする。
【0057】
米国特許第6972110号は、7075合金に対する3ステップの時効処理を開示しており、その開示全体は、引用を以て本願への記載加入されるものとする。米国特許第6972110号と同じ温度範囲の3ステップ時効処理は本開示合金に用いられることができるが、主要用途の中には2ステップ処理が適している場合もある。2ステップ処理は、低温度ステップの後に高温度ステップを行なうもので、その逆の場合もある。例えば2ステップ処理は、上ウイングスキン及びストリンガーにも用いられる。これらの部品は航空機製造者によってしばしば時効成形され、ウイングの輪郭が得られる。時効成形中、部品は、通常は約250〜400°Fの高温のダイの中で数時間乃至数十時間保持され、クリープ及び応力緩和プロセスを通じて所望輪郭に成形される。時効成形は、人工時効処理と共に行われることもあり、特の高温度ではクリープは最も迅速に起こる。時効成形は、典型的には、オートクレーブ炉の中で行われる。大型商業用航空機の航空機ウイングパネルを時効成形するのに必要なオートクレーブ炉及びダイは大きくて費用がかかるため、結果的には、製造プロセス中に殆ど用いられていない。それゆえ、生産処理量を最大化するためには、時効成形はできるだけ短いサイクルで合金製品に所望される輪郭及び特性を達成できることが好ましい。この目的を達成するには、第3ステップを短縮するか又は完全に省略することが有利である。低温−高温の2ステップ処理において、第1ステップは合金製造者によって行われることにより、時効成形プロセスに必要な時間を最小にすることができる。
【0058】
発明例合金に関するSCCの考察結果では、第3ステップを短縮するか又は省略した場合でも、上ウイングスキン及びストリンガーに対するSCCの条件を充足させることができることを示している。厚肉製品用途では7085合金に3ステップ処理が施されるが、この処理は、上ウイング及び他の高強度用途での本開示合金に対しては一般的に不要であるが、これには幾つかの理由がある。例えば、上ウィング部品に対するSCCの条件は、リブ又はスパーのような厚肉製品用途に対する条件よりは厳しくはない。スパー、具体的には、下部分は引張応力を受けるのに対し、上ウイング部品は主として圧縮応力を受けるからである。引張応力のみがSCCに関係する。また、厚肉製品から機械加工された一体型スパー又はリブは、ST方向に大きな設計応力を有することもできる。例えば、プレートから作られた一体型スパーのスパーキャップは、母材プレートのL−ST平面内にある。これに対し、上ウィングスキン及びストリンガーの主要設計応力は、大部分がL−LT平面内にあり、SCCが起こり難い。これらの差異があるため、現在用いられている上ウィング用7055合金及び7449合金のST方向における最小限のSCC条件は15又は16ksiであり、これらの合金は高強度T79質別で用いられることができるのに対し、スパー、リブその他の厚肉製品は、典型的には、SCCの最小限条件が夫々25ksi及び35ksiである低強度T76質別及びT74質別に用いられる。
【0059】
本開示合金はまた、機械的締結または溶接により接合される複数部品、複数種類の合金からなるスパー又はリブでの使用が想定されている。前述したように、これらの用途でのSCC条件は、上ウィングスキン及びストリンガーよりも厳しくなるであろう。しかしながら、薄肉品から作られる複数部品のスパーの場合、結晶粒組織は、厚板から機械加工された一体型スパーよりも、SCC抵抗に対してはより好ましい配向である。例えばスパーキャップは、L−ST面ではなく、母材プレート又は押出品のSCC抵抗がより大きなL−LT面から機会加工されることができる。L及びLT方向での最小限のSCC特性は、低SCC抵抗及び高強度の質別であったとしても、典型的には40ksiよりは大きく、これは、低強度及び高SCC抵抗の質別におけるST方向の25ksi及び35ksiよりも大きい。このように、7085合金に対してしばしば用いられる第3ステップの時効処理は、本開示合金に対しては、より厳しいSCC条件が要求されるスパー、リブその他の用途においてさえ短縮又は省略されることができるだろう。第3ステップが短縮又は省略されると、典型的には約1〜約2ksi程度の僅かな強度低下を招くことにはなるが、この強度低下は厚肉製品では実施されることができない高強度質別を用いることによって補うことができる。その場合でも、本開示の組立用、一体型用又は複数部品用の中には、耐食性のさらなる改良のために、或いは破壊靱性のさらなる向上のために、T74又はT73のような低強度質別が好ましい場合もある。
【0060】
複数種類の合金からなるスパー又はリブが溶接によって接合される場合、本開示合金によって行われる時効処理にフレキシビリティがもたらされることは好ましい特性である。溶接は、融接法又は摩擦攪拌溶接などの固体状態法のどちらの場合も、溶接後の時効は典型的には溶接部の強度及び腐食特性を向上させる上で好ましいため、最終合金の調質ではなく、中間の調質において行われる。例えば、本開示合金を、下スパーキャップにより適した強度及び損傷許容特性を有する別の合金に溶接する場合、本開示合金の2ステップ処理又は3ステップ処理のどちらかの処理の中で最初の時効ステップを実施した後に行われることができる。他方の合金は、別の7XXX合金か、又は組成がかなり異なる合金、例えば米国特許第4,961,792号に係るアルミニウム−リチウム合金を挙げることができる。この合金は、1ステップ又は2ステップ又は3ステップからなる独自の典型的な時効処理が施される。2種類の合金製品が接合されると、溶接後時効処理は必ず一緒に行われなければならないため、本開示合金に対する時効実施は、接合される合金の時効条件に応じて2ステップ又は3ステップの処理が必要となる場合がある。それゆえ、本願合金が、利用可能な時効ステップの数及び時間に関してフレキシビリティを有することは、溶接された複数種類合金部品に対して有用である。その場合でも、用いられる特定の合金によっては、各合金の典型的な時効処理に対する条件をある程度妥協する必要がある。
【0061】
溶接によって接合された本開示合金を用いることで複数種類の合金からなる複合部品を製造及び時効する際、本開示合金と同様な組成を有するが、各部品の強度及び靱性についてバランスのとれた所望特性を得るために添加される合金元素量が増減されている7XXX合金を用いることで幾分簡素化されることはできる。このような合金に対する典型的な溶接前及び溶接後の時効処理は、組成が異なる合金の場合よりも適合性が大きいため、それらの典型的な処理に対する調節はほとんど必要でない。或いはまた、強度と靱性に所望の差異を設けるのに、本開示合金だけを使用して異なる調質処理を行なうことで達成できる場合がある。例えば、本開示合金のみから作られたスパーについて、上キャップに高強度T79質別、スパーウエブに中強度で高靱性のT76質別、下スパーキャップには低強度で靱性が最も高いT73質別を用いることができる。典型的には、T76及びT73の時効時間はT79質別よりも長い。複数種類の調質処理が施された溶接スパーの場合、例えばT79の上スパーに対する溶接前時効は第1ステップのみで行われ、T76のスパーウェブに対しては第1ステップと第2ステップの一部が行われ、T73の下スパーキャップに対しては第1ステップと第2ステップの大部分が行われる。これは、各部品に対して別々に行われることができるし、又は同じ炉からの取出しをずらすことによって行われることができる。一旦溶接されると、接合された部品に対して同じ溶接後時効処理が行われることになる。溶接前及び溶接後の時効処理の選択が適切であれば、各部品に対する典型的な時効処理を妥協することなく行なうことができる。
【実施例1】
【0062】
本開示合金族の前記実施例と同様な組成を有するインゴットA〜Dを、商業的大規模のインゴットとして鋳造した。また、7085アルミニウム合金の1インゴットを、対照として鋳造した。これらのインゴットは、表面を切削した後、約870°〜約900°Fの最終均熱温度で均質化処理を施した。合金Aと合金Bの各々について1インゴットを、厚さ1.07インチ、幅135インチのプレートに熱間圧延した。合金Aと合金Bの各々について別のインゴットを、厚さ1.10インチ及び幅111インチのプレートに熱間圧延した。以下では、前者のプレートをプレート1、後者のプレートをプレート2と称する。合金Cと合金Dの各々について1インゴットを、プレート2と同じ厚さ及び幅に熱間圧延した。プレート1とプレート2の大きさは、超大型航空機の上ウィングパネルの代表的なサイズである。7085対照合金は、プレート1と同じ厚さ及び幅に熱間圧延した。プレートは、約880°〜約895°Fで約70〜100分間の溶体化熱処理が行われ、水スプレーによって室温まで焼入れし、約1.5〜約3%の冷延伸が施された。合金A−D及び7085対照のプレートから採取した試料に対し、公知の3ステップ時効処理(例えば、米国特許第6,972,110号に開示されている)を使用し、上ウィング部品に適した高強度T79型質別に時効処理した。3ステップ処理は、第1ステップが約250°Fで約6時間、第2ステップが約308°Fで約7時間、第3ステップが約250°Fで約24時間で構成される。また、7055アルミニウム合金の改良型(米国特許第7,097,719号)の試料を、厚さ及び幅が同じか又は同様で、生産ロットが異なるプレートから切り出し、高強度T7951調質と数回の過時効調質処理を施して、強度レベルを低下させて破壊靱性を向上させた。インゴットA−Dの組成、及び様々な従来合金の組成を表2に示している。7055改良型のT7951調質に対する時効処理は2ステップ処理で、第1ステップが302°Fで10時間、第2ステップが6時間である。過時効調質は、第1ステップの時間を約10時間から、約19〜約24時間へ延ばすことで行なった。
【表2】
【0063】
発明例合金A〜D並びに7085及び改良型7055対照について、引張強度、圧縮強度、平面ひずみ(KIc)破壊靱性、見掛け平面応力(Kapp)破壊靱性及び剥離抵抗特性を測定した。引張試験はASTM規格E8及びB557に基づいて行ない、圧縮試験はASTM規格E9に基づいて行なった。平面ひずみ(KIc)破壊靱性試験は、ASTM規格E399に基づいて行なった。平面ひずみ破壊靱性試験の試験片は、厚さはプレートの全厚で、幅Wは3インチである。平面応力(Kapp)破壊靱性試験は、ASTM規格E561及びB646に基づいて行なった。当業者であれば、Kappの数値は、典型的には、試験片の幅が大きくなるにつれて大きくなるということは認識し得るであろう。Kappはまた、試験片の厚さ、初期亀裂長さ及び試験クーポンの幾何学的形状にも影響を受ける。それゆえ、Kapp値の比較で信頼性があるのは、幾何学的形状、幅、厚さ及び初期亀裂長さが同じ試験片どうしの比較のみである。それゆえ、発明例合金並びに7085及び7055対照に関する試験は全て、呼び寸法が同じで、幅16インチ、厚さ0.25インチ及び初期疲労予亀裂長さ(2ao)が4インチの中央亀裂入りM(T)試験片を用いて行なった。該試験片は、プレートの板厚中央(T/2)に中心がある。ASTM G34に準拠したEXCO法を用いた剥離試験もまた行われた。採取した試験片は、板厚中央(T/2)及び10分の1厚さ(T/10)である。
【0064】
発明例合金A〜D及び7085名目組成について、測定された特性を表3に示している。合金Aのプレート1サイズは、7085名目組成と比べ、引張降伏強度及び最終引張強度では、L方向及びLT方向の両方向で約3ksiの増加が認められ、強度は約4%向上した。一方、合金Bは、引張降伏強度及び最終引張強度で約5ksiの増加が認められ、約6%向上した。合金C及び合金Dは、さらに高い強度を示した。両合金における引張降伏強度及び最終引張強度の増加は約7ksiであり、約8%の向上である。これらの強度の向上は、航空機製造業者にとって大きな意義を有すると考えられている。優れた剥離抵抗特性を保持しつつ強度の向上を得ることができ、発明例合金の全ての試料はEXCOランクでEAを達成している。
【表3】
【0065】
図3A、図3B及び図4は、強度と靱性について、発明例合金A〜Dと従来合金との比較を示している。図3A及び図3Bは、L−T方向における平面ひずみ破壊靱性KIcの比較を示しており、これは、発明例合金A〜D、7085材試料対照ロット(表3)、下ウイング用としてより好適な低強度時効処理が施された7085材薄肉プレートの別の4ロット(表1)、T7951質別及び過時効調質処理された改良型7055材について、L(圧延)方向の最小引張降伏強度の関数として示しており、上ウイングにおける負荷の主方向に対応する値である。さらに、薄肉プレート形態における他の従来合金の代表的な破壊KIC破壊靱性を示している。発明例合金と過時効調質の7055材については、材料仕様が現在存在しないため、最小引張降伏強度は、測定値から3ksiを差し引くことによって推定した。本開示合金に対する1つの最小性能ラインは、A−A線で示される。このA−A線は、式FT=−2.3*(TYS)+229であり、TYSは、ASTM規格E8及びB557に基づいて測定されたプレートのL引張降伏強度(ksi)であり、FTは、ASTM規格E399に基づいて測定されたプレートのL−T平面ひずみ破壊靱性(ksi√インチ)である。
【0066】
図3Aは、本開示の薄肉プレート合金製品の潜在的特性を強調表示した網掛け領域を含んでいる。網掛け領域の境界線は、36ksi√インチの最小L−T靱性と、74ksiの最小強度と、前記式FT=−2.3*(TYS)+229で表されるA−A線である。図3Aの網掛け領域は、T74材の薄肉プレート合金製品に特に適しているが、他の質別合金(例えば、T6、T73、T76、T79)についても、網掛け領域に含まれる特性を具備させることができる。
【0067】
図3Bもまた、本開示の薄肉プレート合金製品の潜在的特性を強調表示した網掛け領域を含んでいる。網掛け領域の境界線は、30ksi√インチの最小靱性と、79ksiの最小強度と、前記式FT=−2.3*(TYS)+229で表されるA−A線である。図3Bの網掛け領域は、T76材の薄肉プレート合金製品に特に適しているが、他の質別合金(例えば、T6、T73、T74、T79)についても、網掛け領域に含まれる特性を具備させることができる。
【0068】
図4は、L−T方向における本開示合金の実施例と、7085材の5ロット及び改良型7055材との値について、L引張降伏強度と見かけの平面応力破壊靱性(Kapp)の比較を示している。7085材の強度と靱性の複合特性は、改良型7055材よりも向上していることは明らかである。本開示合金の最小性能の1つは、式FT=−4.0*(TYS)+453であるB−B線によって示され、前記式中、TYSは、ASTM規格E8及びASTM規格B557に基づいて測定されたプレートのL引張降伏強度(ksi)であり、FTは、プレートのL−T平面応力破壊靱性(Kapp)であり、FTは、アルミニウム合金プレートのT/2位置から採取した中央亀裂アルミニウム合金試料について、ASTM規格E561及びB646に準拠して測定したものであり、前記試料は、幅16インチ、厚さ0.25インチ、初期疲労予亀裂長さ4インチである。
【0069】
本開示合金と同じ又は同程度の強度レベルを達成するために有意の過時効を行なったときも、7055材の破壊靱性はかなり低い。本開示合金のCuとMg量は7085材と改良型7055材との間にあり、FeとSiの含有量は同様に低いから、本開示合金で達成可能な強度と靱性の複合特性は、7085材と改良型7055材との間になることが予想された。しかしながら、驚いたことに、本開示合金の強度と靱性の複合特性は、改良型7055材より向上するだけでなく、7085材に対しても向上することを示した。このように、本開示合金のこれら実施例は、従来合金よりもすぐれた強度及び靱性の複合特性をもたらすことができる最適な(sweet)組成領域である。Kapp値及び相対的向上は、用いられる種類及び寸法の試験クーポンに対応するので、同様な相対的向上は、試験クーポンの他の種類及びサイズにも観察されることが予想される。しかしながら、当該分野の専門家であれば、実際のKapp値は、前述した他の種類及びサイズの試料では有意の相違があり、その相違の大きさも異なることは認識し得るであろう。
【0070】
図4はまた、本開示の薄肉プレート合金製品の潜在特性を強調表示した網掛け領域を含んでいる。網掛け領域の境界線は、100ksi√インチの最小靱性(Kapp)、80ksiの最小引張降伏強度、及び前述の式FT=−4.0*(TYS)+453であるB−B線である。図4の網掛け領域は、T79材の薄肉プレート合金製品に特に適しているが、他の質別合金(例えば、T6、T73、T74、T76)についても、網掛け領域に含まれる特性を具備させることができる。本開示の薄肉プレート製品の中には、図4の網掛け領域によって画定される平面応力破壊靱性と引張降伏強度の値を両方とも実現できるだけでなく、図3A及び/又は図3Bの網掛け領域によって画定される平面ひずみ破壊靱性と引張降伏強度の値を実現できるものがある。
【実施例2】
【0071】
実施例1で作製した発明例合金A及び合金Bのプレートについて、溶体化熱処理、焼入れ処理及び延伸処理(W51質別)した4組の試料について、実施例1で用いられた3ステップ時効のうち最初の2つの時効ステップを施した。続いて、第1組の試料について、実施例1と同じ24時間時効による第3ステップを行なった。第2組と第3組については、時効時間は第1組よりも短く、6時間と12時間である。第4組の試料については、第3ステップは行なっていない(0時間)。直径0.125インチの引張試料を、圧延直角方向(LT)と厚さ方向(ST)に機械加工し、交互浸漬(AI)応力腐食割れ抵抗性試験及び海岸(seacoast; SC)曝露試験(海岸環境下の応力腐食割れ抵抗性試験と称されることもある)の両試験を行なった。交互浸漬試験は、ASTM規格G44, G47及び/又はG49に従って行なった。より具体的に説明すると、3.5%NaCl水溶液に10分間浸漬した後、50分間空気乾燥するサイクルに曝露し、その間、所定の応力レベルを達成するのに必要な一定応力の応力が加えられた。海岸曝露試験は、アルコアのロードアイランド、Pt.Judith海岸曝露サイトにて、以下に記載のとおり実施した。
【0072】
ST方向については、第3ステップ時効時間は、0時間、12時間及び24時間の3種類、応力レベルは、16ksi及び20ksiの2種類の中から選択した。第1の応力レベルは、現在の上ウイング合金である7055材及び7499材のST方向における最小条件を表している。第2の応力レベルは、25%高い応力レベルに対応する。7XXX合金のST方向におけるAI試験の曝露日数は、典型的には20又は30日間であるか、又は破損が起こるまでである。これらの試験において、AI試験の最大曝露日数は、異なる時効処理の性能をより良く評価するために、150日まで延長した。海岸曝露では、最大曝露時間は477日であった。応力腐食割れ(SCC)試験の結果を表4に示している。
【表4】
【0073】
合金Aの結果では、第3ステップの時効時間が0時間(第3ステップなし)、12時間及び24時間のパネル2は、第3時効ステップの有無に関係なく、また第3時効ステップの時効時間が短い場合も長い場合も、本開示合金のSCC抵抗性に有意な違いはなかった。全ての場合において、7XXX合金のAI SCCでは、標準曝露日数破損までの日数は、現在の上ウイング合金の最小条件である16ksi及びそれより20%高い応力レベルの20ksiの両方で20日又は30日の標準曝露時間を超えた。破損までの日数は、時効時間が異なる3種類について同じであった。第3ステップの3種類の時効時間のSCC抵抗は海岸曝露でも同じであった。合金A、パネル1と、発明例合金B、パネル2について、第3ステップの時効時間12時間だけで評価した。パネル1は、パネル2よりも薄肉・幅広であるので、異なる粒度・軸比をもつことが予想され、SCC抵抗についても異なることが予想される。合金A、パネル1の試験結果はパネル2よりも僅かに良好であった。合金B、パネル2の結果は、合金A、パネル2と同等以上であった。
【0074】
SCC試験はLT方向でも行なった。LT方向について、曝露を30日、47日及び90日後に中断し、試料をASTM G139に準拠した破壊荷重試験を行なった。曝露した試料の残存強度率(%)と曝露していない試料の引張強度との比較を求めた。LT方向の応力レベルは、42ksi及び63ksiであり、夫々、本開示合金のLT降伏強度の約50%及び75%に相当する。この試験はより短時間でより多くの定量情報を得るための手段であり、SCC抵抗がより大きいLT方向に有用である。LT方向は、SCC抵抗性がより小さなST方向よりも、試料の破損時間がより長いため、分散(scatter)がより大きくなるためである。第1の実験では、発明例合金A及びBについて、47日の曝露期間の後、0時間、6時間及び12時間の第3ステップの時効処理を施して、破壊荷重試験を行なった。第2の実験では、発明例合金A及び7055-T7951対照について、AIでの30日及び47日の曝露期間の後及び90日の海岸曝露の後、各合金に対してLT降伏強度の50%及び75%に相当する応力レベルで破壊荷重試験を行なった。両方の実験では、応力を印加しない試料も含まれている。応力を印加した試料と応力を印加していない試料を含めることにより、全面腐食及び孔食で生じる強度損失とSCCで生じる損失は分離されることができる。
【0075】
第1実験の結果は図3に示されており、プロットされている各データポイントは5試料の結果を平均したものである。残存強度率(percentage retained strength)は、曝露試料の強度と非曝露試料の強度の比を百分率で表したものである。試験結果では、第3時効ステップを省略したとき、全面腐食抵抗(応力印加なし)又はSCC抵抗(応力印加)に損失はなかった。第3ステップを行わない試料は、6時間又は12時間の第3ステップを行なった試料よりも残存強度は大きかった。時効時間に関しては、合金Bが合金Aよりも優れていた。第2の実験の結果は図4に示されており、プロットされている各データポイントは5試料の結果を平均したものである。図6は、本開示合金と従来合金7055についてLT方向における残存強度率の比較を示すグラフであり、各合金は、3.5%NaCl溶液で30日及び47日間の曝露の後及び90日間の海岸曝露の後、各合金の降伏強度の50%及び75%の応力レベルで12時間の第2ステップの時効処理したものである。3種類の曝露について、発明例合金Aは7055合金と比べて、応力印加していないものも応力印加したものも、2種類の応力レベルでの残存強度率は大きかった。
【0076】
腐食試験結果では、2ステップと3ステップの時効処理は両方とも、本開示合金の耐食性能は上ウイング用途の許容レベルであることを示している。2ステップ処理の不利な点は、表4に示されるように、発明例合金Aの強度が僅かに低いことである。第3ステップの時効時間24時間の場合と比べると、第3ステップなしの降伏強度約は1ksi大きかった。前述したように、本開示合金の時効処理の適応性(flexibility)は有利な特性である。2ステップ処理の典型的が用途は、上ウイングスキン及びストリンガー等であり、時効は、航空機の製造業者又は請負業者による時効成形プロセス中に部分的又は完全に行われ、最大の生産処理量を達成するためには時効成形サイクルはできるだけ短いことが好ましい。この点について、2ステップ処理を行なった本開示合金の場合、合計均熱時間は13時間であり、現在の上ウイング用合金に対する改善をもたらす。第1ステップが材料メーカーで行われ、第2ステップだけが時効成形プロセスで行われる場合、時効成形条件によっては、この時間を約7時間までさらに短縮することができる。
【0077】
3ステップ処理が適用されるのは、組立式構造の上ウイングスパー又はスパーウエブ等の用途として、材料メーカーにより、材料が完全時効状態で供給されるときである。T76質別又はT74質別等の低強度質別品は、2ステップ処理又は3ステップ処理のどちらかのステップを使用し、合金製品の結晶粒配向に関する設計応力の要件及び方向によっては、これら用途に適用することもできる。本開示合金がマルチ合金部材の一部として他の合金製品に溶接され、溶接後時効されるとき、本開示合金が接合されるべき合金の時効処理条件によっては、2ステップ処理又は3ステップ処理を用いられることができる。本開示合金によってもたらされる適応性は、補強材料を取り付けるのに用いられる接着剤の硬化サイクルと本開示合金の時効とを組み合わせるのにも有用である。
【実施例3】
【0078】
実施例1で溶体化熱処理、焼入れ処理及び延伸処理(W51質別)して作製した合金Aプレートを機械加工し、厚さ0.5インチ、幅6インチ、長さ35インチでのパネルを作製した。2099材の押出試料は、T3511質別であり、機械加工で同じ寸法のものを作製した。両方とも。長さ寸法は圧延方向であり、2099材はアルミニウム協会に登録された商業的に入手可能なアルミニウム−リチウム合金であり、組成は、Cu:2.4−3.0重量%、Mg:0.1−0.5重量%、Zn:0.4−1.0重量%、Mn:0.1−0.5重量%、Zr:0.05−0.12%、Li:1.6−2.0重量%、残部Al及び随伴不純物である。発明例合金A及び2099材のパネルは、摩擦撹拌溶接により、溶接ラインがパネルの長さに沿うように接合される。本開示合金と2099材の複合化は組成が大きく異なる組合せであり、例えば、マルチ合金のスパー又はリブに用いられることができる。スパーの場合、本開示合金は、高圧縮強度が必要とされる上側キャブ及びウエブに用いられることができ、2099材は、高い疲労亀裂進展抵抗性が有利な下側スパーキャップに用いられることができる。同様に、リブでは、本開示合金は高強度が重要な脚に用いられることができ、2099材は高合成及び低密度が有利なスパーウエブに用いられることができる。
【0079】
合金A及び2099材のパネルは、摩擦撹拌溶接作業を行う前に、別々に時効処理される。合金Aの溶接前時効処理は第1ステップが250°Fで6時間であり、2099材の溶接前時効処理は、第1ステップと第2ステップが本開示合金の場合とは異なる時間及び/又は温度である。接合されたパネルの溶接後時効処理は、必然的に同じであり、第1ステップが250°Fで6時間であり、第2ステップが305°Fで18時間である。溶接後時効は、溶接された部位の強度と耐食特性を向上させるのに好ましい。溶接特性、特に強度と耐食特性を向上させるためには、溶接後時効はできるだけ多く行なうべきである。しかしながら、異なる合金の場合、各合金の時効条件が別々であり、各合金に所望される最終質別は異なるため、時効処理は制限される。各合金の溶接前時効処理及びマルチ合金パネルの溶接後時効処理は、本開示合金ではT76型質別をターゲットとするように、2099材ではT83型質別をターゲットとするようにに注意深く選択される。それでも、両合金の時効処理はある程度の妥協(compromise)が必要であるが、本開示合金の場合、良好な特性を得るために利用可能な時効ステップの数及び時間に関する適応性が大きいため、この点で有利である。
【0080】
溶接後時効の後、母材金属(溶接部及び熱影響部の外側)、熱影響部(HAZ)及び溶接部について、引張強度、圧縮強度、引張弾性係数、圧縮弾性係数及び破壊靱性を含む機械的特性を測定した。各部位の程度及びその内部の試料の位置は、溶接部の横断面をビッカースの微小硬度(VHN)値及び光学顕微鏡写真を用いて測定した。試験は、ASTM試験方法に準拠して行なった。引張試験はASTM規格のE8及びB557、圧縮試験はE9、引張及び圧縮弾性係数試験はE111、平面ひずみ破壊靱性はE399に準拠して行なった。引張特性はL方向及びLT方向を測定した。圧縮強度及び弾性係数の測定はL方向だけである。平面ひずみ破壊靱性試料は、T−L方向であり、幅2インチで、全パネル厚さである。破壊試料は、機械加工溝(亀裂進展の予想平面を表す)が対象部位に合致するように、パネルから切除した。溶接部及びHAZ部から2つの試料を採取し、一方の試料の機械加工ノッチ方向は、溶接工程で摩擦撹拌溶接ツールが移動した方向と同じ方向であり、別の試料の機械加工ノッチ方向は、摩擦撹拌溶接ツールの移動方向と反対方向である。これらの試験結果を表5に示している。
【表5】
【0081】
溶接前時効処理(合金毎に異なる)及び溶接後時効処理(全ての合金に対して同じ)が施された各合金の母材金属は、各合金に対する時効処理条件に妥協をした場合でも、標的とされる質別で要求される強度及び靱性を達成した。なお、HAZ及び溶接部は、一般的な溶接部と同様、これら特性は低かった。溶接部位は、摩擦撹拌溶接が行われている間、本質的に溶体化熱処理されるので、この部位の人工時効は溶接後時効処理中にだけ起こる。同じように、HAZは溶接が行われている間に加熱されるが、温度は溶体化熱処理温度よりも低いので、合金元素を完全に溶体化させるには不十分である。このため、溶接後時効処理中、HAZの時効作用は制限を受けるので、その強度及び破壊靱性は損なわれる。これらの要因があるにも拘わらず、溶接効率(溶接部の強度と母材金属の強度の比)はかなり良好であった。溶接部とHAZが含まれる試料を、溶接ラインと直交する方向に溶接効率を測定したところ、2099材のLT方向の母材金属強度と比べて、引張降伏強度(TYS)は71%、最大引張強度は81%であった。
【0082】
溶接部とHAZにおける破壊靱性も満足すべきものであった。溶接部の破壊靱性は、合金Aの母材金属と同等であったが、HAZでの破壊靱性は、合金Aと2099材の両方とも、溶接部側の方が母材側よりも低かったが、それでも、殆どの航空機構造の条件を充足するのに十分であった。
【0083】
溶接後時効の後、接合されたパネルに対して、応力腐食割れ(SCC)試験及び剥離試験を行なった。SCC試験では、厚さ0.235インチの板状引張試験片を、板厚中央位置で、溶接部及びHAZを直交して横切るように機械加工した。これらの試験片について、26ksi及び35ksiの2種類の応力レベルで、ASTM規格G44, G47及び/又はG49に準拠した交互浸漬試験を行なった。250日間の曝露日数を経過しても破損は起こらなかった。剥離試験では、溶接部、HAZ及び母材金属を含む全パネル厚の2種類の矩形試料について、ASTM規格G34に準拠したEXCO試験方法を用いて試験を行なった。この試験法は、本開示合金のような7XXX合金に対しては、適度に加速された試験法である。全パネル厚の第2組の試料について、ASTM規格G85に準拠した乾式ボトムMASTMAASISを用いて試験を行なった。この試験方法は、2099材に対しては適当に加速された試験法である。合金A及び2099材の母材金属は両方とも、剥離腐食性の等級はEAであった。この等級は、良好な耐食性を有することを示しており、各合金が目標とする質別品の代表的な性能と一致する。両合金が混合された溶接部では、EXCO試験方法の等級はEBであり、これも十分良好な剥離耐食性を示している。溶接部については、溶接後時効処理が施されるのみであるので、この部位の耐食性能は幾分低下すると考えられる。2099材のHAZはMASTMAASISでの等級はPであったが、合金AのHAZは部分腐食があり、EXCOの等級はEDであった。この耐食性は、スパーやリブ等の航空機の内部構造には不合格であるかもしれないが、摩擦撹拌溶接のパラメータを最適化したり、溶接中に冷却手段を用いてHAZへの熱入力を低減することによって改善されることはできるであろう。この部位は、腐食防止手段を用いることによって使用中に保護されることもできる。例えば、陽極酸化処理及び内部構造の腐食防止用として既に一般的に用いられている腐食防止塗料を適用する前に、本開示合金よりもアノード性のアルミニウム合金を、溶射又はその他方法により溶接ラインに沿って施すことができる。合金Aと2099材との腐食電位の差によって起こる電解腐食は、合金の局部腐食の原因となることがある。この場合、本開示合金と同様な組成で成分を増減した合金を用いると、組成が大きく異なる2種類の合金よりも腐食電位の差が小さくなるであろう。また、異なる質別に本開示合金を単独使用することも、HAZの耐食性向上に有効である。
【実施例4】
【0084】
2つのインゴットを商業的規模の大きなインゴットとして鋳造した。インゴットの組成は、本開示のものと同じである。第1インゴットは合金Eであり、第2インゴットは合金Fである。また、アルミニウム協会7085合金を4インゴット、アルミニウム協会7050合金6インゴットを対照として鋳造した。合金E及び合金Fのインゴット、7050対照及び7085対照のインゴットの組成、並びにアルミニウム協会に規定された7085及び7050合金の組成範囲を表6に記載している。
【表6】
【0085】
インゴットは表面を削り取った後、約870°〜910°Fの最終均熱温度で均質化処理を施した。合金Eのインゴットは、厚さ3.125インチのプレートに熱間圧延され、合金Fのインゴットは、厚さ4.0インチのプレートに熱間圧延された。これらの寸法は、一体化された機械加工部品に用いられる航空宇宙用プレートの代表例である。7085対照インゴットのロット1−3は、厚さ約4インチのプレートに熱間圧延される。7085対照インゴットのロット4は厚さ約3インチのプレートに熱間圧延される。3つの7050対照インゴットは厚さ約4インチのプレートに熱間圧延される。別の7050対照インゴットは厚さ約3インチのプレートに熱間圧延される。全てのインゴットは、LT方向に15%未満の交差圧延が施された。全てのプレートは、約880°F〜900°Fの温度で約2〜4時間の溶体化熱処理が行われ、水スプレーによって室温まで焼入れし、約1.5〜3%の冷延伸が施された。
【0086】
合金Eプレート及び合金Fプレートから試料を得た。これらの試料は、従来の3ステップ処理を用いてT74型質別(一体化された機械加工部品に適している)に時効処理された。この3ステップ処理は、第1ステップが250°Fで約6時間、第2ステップが310°Fで15〜20時間、第3ステップが250°Fで約24時間である。合金E及び合金Fの試料の一部は、第2ステップの時効処理を15時間行なった(試料1)。合金Fの他の試料は、第2ステップの時効処理を18時間行なった(試料2)。合金Eの他の試料は、第2ステップの時効処理を20時間行なった(試料2)。7085材の4インチ対照ロットについても、従来の3ステップ時効処理を用いて、T74質別まで時効処理した。7085対照ロットのロット4(3インチプレート)の試料1は、従来の3ステップ式時効処理を用いて、T76質別まで時効処理した。7085対照ロットのロット4(3インチプレート)の試料2は、従来の3ステップ時効処理を用いて、T74質別まで時効処理した。7050対照ロットは、従来の2ステップ時効処理を用いて、T74質別まで時効処理した。
【0087】
合金E、合金F、7085対照ロット及び7050対照ロットの試料について、引張特性及び平面ひずみ(KIc)の破壊靱性を測定した。引張試験は、ASTM規格E8及びB557に従って行なった。平面ひずみ(KIc)の破壊靱性試験は、ASTM規格E399に従って行なった。合金Eの平面ひずみ破壊靱性試料は、T−L方向で厚さ2インチ、幅Wが4インチであり、S−L方向で厚さ1インチ、幅Wが2インチである。合金Fの平面ひずみ破壊靱性試料は、T−L方向及びS−L方向の両方とも厚さ1インチ、幅Wが2インチである。合金E及びFの破壊靱性試料は、プレートの板厚中央(T/2)に中心がある。4インチ対照7085プレートの平面ひずみ破壊靱性試料は、T−L方向で厚さ2インチ、幅Wが4インチであり、S−L方向で厚さ1.5インチ、幅Wが3インチである。3インチ対照7085プレートの平面ひずみ破壊靱性試料は、T−L方向で厚さ1.75インチ、幅Wが5インチであり、S−L方向で厚さ1.25インチ、幅Wが2.5インチである。4インチ対照7085プレートの破壊靱性試料は、T−L方向でプレートの4分の1厚さ(T/4)、S−L方向でプレートの板厚中央(T/2)に中心がある。3インチ対照7085プレートの破壊靱性試料は、T−L方向及びS−L方向の両方でプレートの板厚中央(T/2)に中心がある。対照7050プレートのT−L方向の平面ひずみ破壊靱性試料は、厚さ2インチ、幅Wが4インチである。3インチ対照7050プレートのS−L方向の平面ひずみ破壊靱性試料は、厚さ1インチ、幅Wが2インチである。4インチ厚対照7050プレートのS−L方向の平面ひずみ破壊靱性試料は、厚さ1.5インチ、幅Wが3インチである。対照7050プレートの破壊靱性試料は、T−L方向及びS−L方向の両方ともプレートの板厚中央(T/2)に中心がある。合金Fについて、ASTM規格G34に準拠したEXCO法を用いた剥離試験を行なった。採取した試験片は、2分の1厚さ(T/2)、4分の1厚さ(T/4)及び10分の1厚さ(T/10)である。
【0088】
合金E、合金F、7085対照ロット及び7050対照ロットは表7に示されている。約3インチのプレート厚さでは、合金Eは7050対照ロットと比べて、LT方向で、引張降伏強度で約9〜12ksi、最終引張強度で約6〜8ksiの増加が認められた。同様に、合金Eは7050対照ロットと比べて、ST方向で、引張降伏強度で約8〜10ksi、最終引張強度で約6〜8ksiの増加が認められた。約4インチのプレート厚さでは、合金Fは7050対照ロットと比べて、LT方向で、引張降伏強度で約7〜9ksi、最終引張強度で約3〜4ksiの増加が認められた。同様に、合金Fは7050対照ロットと比べて、ST方向で、引張降伏強度で約5〜7ksi、最終引張強度で約4〜5ksiの増加が認められた。合金Fは、T74質別の7085対照ロットと比べて、LT方向及びST方向の両方とも引張降伏強度及び最終引張強度が約2〜5ksi向上した。これらの強度の向上は、航空機製造業者により、意義深いものと考えられている。
【表7】
【0089】
合金E及び厚さ約3インチの様々な従来合金の特性を図7に示している。より具体的には、図7は、LT(long transverse)方向の引張降伏強度の関数としてT−L方向における平面ひずみ破壊靱性(KIc)と、合金E(厚さ3.125インチ)、7050対照ロット(厚さ約3インチ)及び3インチの7085ロットのデータとの比較を示している。合金Eは、7050対照ロットと同等の靱性を有し、有意に高い引張強度を具えている。合金Eはまた、7085合金と同等の強度対靱性関係を有しているが、以下に記載するように、7085合金では、海岸環境SCC試験に合格することはできない。換言すれば、合金Eは、同じように作製された同サイズの7085合金と同等以上の応力腐食抵抗性を具えつつ、該7085合金よりも高いLT強度を具えている。このように、前述の厚さ範囲におけるLT強度、T−L靱性及び耐食性に関する合金Eの複合特性は、これまで達成されなかったものである。
【0090】
図7は、本開示の合金プレート製品の潜在的特性を強調表示した網掛け領域を含んでいる。網掛け領域の境界線は、22ksi√インチの最小靱性と、72ksiの最小強度と、式FT_TL=−1.0*(TYS_LT)+98で表されるC−C線である。前記式中、TYS_LTは、ASTM規格E8及びASTM B557に基づいて測定されたプレートのLT引張降伏強度(ksi)であり、FT_TLは、ASTM規格E399に基づいて測定されたプレートのT−L平面ひずみ破壊靱性(ksi√インチ)である。図7の網掛け領域は、T73、T74、T76又はT79質別の厚さ約2.0乃至2.5インチから約3.0インチ、3.125インチ又は3.25インチのプレート合金製品に特に適している。
【0091】
合金Fと厚さ4インチの様々な従来合金の特性を図8に示している。より具体的には、図8は、LT(long transverse)方向の引張降伏強度の関数としてT−L方向における平面ひずみ破壊靱性(KIc)と、合金F(厚さ4.0インチ)、7050対照ロット(厚さ約4インチ)及び4インチの7085対照ロットのデータとの比較を示している。合金Fは、7050対照ロットと同等の靱性を有し、有意に高い引張強度を具えている。合金Fはまた、7085合金と同等の強度対靱性関係を有しているが、以下に記載するように、7085合金では、海岸環境SCC試験に合格することはできない。換言すれば、合金Fは、同じように作製された同サイズの7085合金と同等以上の応力腐食抵抗性を具えつつ、該7085合金よりも高いLT強度を具えている。このように、前述の厚さ範囲におけるLT強度、T−L靱性及び耐食性に関する合金Fの複合特性は、これまで達成されなかったものである。
【0092】
図8は、本開示の合金プレート製品の潜在的特性を強調表示した網掛け領域を含んでいる。網掛け領域の境界線は、21ksi√インチの最小靱性と、71ksiの最小強度と、式FT_TL=−1.0*(TYS_LT)+98で表されるD−D線である。前記式中、TYS_LTは、ASTM規格E8及びB557に基づいて測定されたプレートのLT引張降伏強度(ksi)であり、FT_TLは、ASTM規格E399に基づいて測定されたプレートのT−L平面ひずみ破壊靱性(ksi√インチ)である。図8の網掛け領域は、T73、T74、T76又はT79質別の厚さ約3.0乃至3.125インチ又は3.25インチから約3.5インチ、3.75インチ又は4インチのプレート合金製品に特に適している。
【0093】
合金Eと厚さ約3インチの様々な従来合金の特性を図9に示している。より具体的には、図8は、ST(short transverse)方向の引張降伏強度の関数としてS−L方向における平面ひずみ破壊靱性(KIc)と、合金E(厚さ3.125インチ)、7050対照ロット(厚さ約3インチ)及び3インチの7085対照ロットのデータとの比較を示している。合金Eは、7050対照ロットと同等の靱性を有し、有意に高い引張強度を具えている。合金Eは、7085対照ロットと同等の強度対靱性関係を有しているが、後記するように、7085合金では、海岸環境SCC試験をパスすることはできない。換言すれば、合金Eは、同じように作製された同サイズの7085合金と同等以上の応力腐食抵抗性を具えつつ、該7085合金よりも高いST強度を具えている。このように、前述の厚さ範囲におけるST強度、S−L靱性及び耐食性に関する合金Eの複合特性は、これまで達成されなかったものである。
【0094】
図9はまた、本開示の合金プレート製品の潜在的特性を強調表示した網掛け領域を含んでいる。網掛け領域の境界線は、22ksi√インチの最小靱性と、69ksiの最小強度と、式FT_SL=−1.1*(TYS_ST)+99で表されるE−E線である。前記式中、TYS_STは、ASTM規格E8及びASTM B557に基づいて測定されたプレートのST引張降伏強度(ksi)であり、FT_SLは、ASTM規格E399に基づいて測定されたプレートのS−L平面ひずみ破壊靱性(ksi√インチ)である。図9の網掛け領域は、T73、T74、T76又はT79質別の厚さ約2.0乃至2.5インチから約3.0インチ、3.125インチ又は3.25インチのプレート合金製品に特に適している。
【0095】
合金Fと厚さ4インチの様々な従来合金の特性を図10に示している。より具体的には、図10は、ST(short transverse)方向の引張降伏強度の関数としてS−L方向における平面ひずみ破壊靱性(KIc)と、合金F(厚さ4.0インチ)、7050対照ロット(厚さ約4インチ)及び4インチの7085対照ロットのデータとの比較を示している。合金Fは、7050対照ロットと同等の靱性を有し、有意に高い引張強度を具えている。合金Fはまた、7085合金と同等の強度対靱性関係を有しているが、以下に記載するように、7085合金では、海岸環境SCC試験をパスすることはできない。換言すれば、合金Fは、同じように作製された同サイズの7085合金と同等以上の応力腐食抵抗性を具えつつ、該7085合金よりも高いST強度を具えている。このように、前述の厚さ範囲におけるST強度、S−L靱性及び耐食性に関する合金Fの複合特性は、これまで達成されなかったものである。
【0096】
図10はまた、本開示の合金プレート製品の潜在的特性を強調表示した網掛け領域を含んでいる。網掛け領域の境界線は、20ksi√インチの最小靱性と、66ksiの最小強度と、式FT_SL=−1.1*(TYS_ST)+99で表されるF−F線である。前記式中、TYS_STは、ASTM規格E8及びASTM B557に基づいて測定されたプレートのST引張降伏強度(ksi)であり、FT_SLは、ASTM規格E399に基づいて測定されたプレートのS−L平面ひずみ破壊靱性(ksi√インチ)である。図10の網掛け領域は、T73、T74、T76又はT79質別の厚さ約2.0乃至2.5インチから約3.0インチ、3.125インチ又は3.25インチのプレート合金製品に特に適している。
【0097】
両方の時効条件における合金Fについて、ASTM規格G34に準拠した剥離腐食抵抗性(EXCO)試験を用いて試験を行なった。合金FのEXCOランクは“EA”であり、これは7XXX合金の良好な剥離腐食抵抗性と一致する。同様な結果は、合金EをEXCO試験した場合にも得られた。このように、合金Fの全ての試験片はEXCOランクがEAであり、本開示合金は、優れた剥離抵抗特性を保有しつつ、強度の向上を達成する。
【0098】
合金E、合金F及び7085合金について2種類の応力腐食割れ試験を行なった。第1の試験は、交互浸漬(AI)の加速された応力腐食割れ(SCC)試験であり、合金E及び合金Fの試料1及び試料2、7085合金対照プレートについて行なった。試験片は、ST方向のT/2位置から採取し、試験は、ASTM規格G44、G47及び/又はG49に従って行なった。AI SCC試験結果を表8(4インチ)及び表9(3インチ)に示している。
【表8】
【表9】
【0099】
合金E及び合金Fは、40ksi及び50ksiの応力レベル(T74質別としての最小条件よりも夫々、5ksi及び15ksi高い)での性能は満足すべきものであった。
【0100】
合金Eの試料1及び試料2についてST方向のT/2位置から試験片を採取し、海岸環境SCC試験を行なった。7085合金についても海岸環境試験を行なった。海岸環境SCC試験の試験片は、一定ひずみフィクスチャー(加速された実験室SCC試験で用いられるものと同様)の中で試験が行われた。海岸SCC試験条件は、試料をラックを介して海岸環境に連続的に曝露することを含んでおり、試料は地面から約1.5mの位置で、水平から45°向いていおり、試料の面は卓越風(prevailing wind)に面している。試料は、海岸線から約100mの位置である。一実施例において、海岸線は岩場であり、卓越風が試料に向かうようにして、塩水ミストにアグレッシブに曝露されるようにした(Alcoa Inc.のUSA, Rohde Island, Pt.Judithの海岸曝露ステーションと同様な場所にて)。合金E及び7085合金の海岸SCC試験結果は表10に示されている。
【表10】
【0101】
合金Eの多くの試料は、40ksi及び50ksiで262日間曝露しても破損(試験片が2つに分離した時又は割れが裸眼で観察された時)は起こらなかった。合金EのLT強度は、試料1が74.7ksi、試料2が77.6ksiであった。これに対し、同様な厚さの7085合金のLT強度は68.6ksi及び69.4ksiしかなく、前者は5試料に破損はなかったが、後者は5試料中2試料が破損した。7085合金の場合、厚さ3インチでLT強度レベルが72ksiになるように処理すると、海岸環境SCC試験(35ksiでST方向)は常に不合格となるが、合金E(本開示によって規定される他の合金)は、同じ強度及びSCC応力レベルでの海岸環境SCC試験は常に合格する。
【0102】
このように、本開示合金は、前記厚さ範囲において、強度、靱性及び耐食性について今まで実現されていない複合特性を達成することができる。一実施例において、T74質別のアルミニウム合金製品が提供される。アルミニウム合金製品は、第1プレート、第2プレート及び/又は第3プレートから作られる。第1プレートが用いられるとき、第1プレートの厚さは約2.00インチ以下であり、前述したように、図2C−1、2C−2、2D−1及び2D−2の発明例1、2、3、4又は5の何れかの合金組成、又は図2E及び2Fの発明例1又は2の何れかの合金組成を有する。第2プレートが用いられるとき、第2プレートの厚さは2.00インチ超3.00インチ以下であり、前述したように、図2C−1、2C−2、2D−1及び2D−2の発明例1、2、3、4又は5の何れかの合金組成、又は図2E及び2Fの発明例1又は2の何れかの合金組成を有する。第3プレートが用いられるとき、第3プレートの厚さは3.00インチ超4.00インチ以下であり、前述したように、図2C−1、2C−2、2D−1及び2D−2の発明例1、2、3、4又は5の何れかの合金組成、又は図2E及び2Fの発明例1又は2の何れかの合金組成を有する。アルミニウム合金製品は、他の成分(例えば、前述した組成レベルの他の成分)を含むことができる。また、これらのどの実施例についても、アルミニウム合金は、本質的に前記成分からなり(アルミニウムを除く)、残部アルミニウム及び随伴元素及び不純物である。
【0103】
この実施例において、どの第1プレートも、強度対靱性は、式FT≧−2.3*(TYS)+229で表される関係を充足し、前記式中、TYSは、ASTM規格E8及びB557に基づいて測定された第1プレートのL引張降伏強度(ksi)であり、FTは、ASTM規格E399に基づいて測定された第1プレートのT−L平面ひずみ破壊靱性(ksi√インチ)であり、第1プレートのTYSは74ksi以上、第1プレートのFTは36ksi√インチ以上である。これら実施例の幾つかは、プレートの引張降伏強度が約75ksi以上、例えば約76ksi以上又は約77ksi以上又は約78ksi以上又は約79ksi以上又は約80ksi以上である。これら実施例の幾つかは、プレートの靱性が約40ksi√インチ以上、例えば約42ksi√インチ以上又は約44ksi√インチ以上又は約46ksi√インチ以上又は約48ksi√インチ以上又は約50ksi√インチ以上である。
【0104】
この実施例において、どの第2プレートも、式FT_TL≧−1.0*(TYS_LT)+98で表される関係を充足し、前記式中、TYS_LTは、ASTM規格E8及びB557に基づいて測定された第2プレートのLT引張降伏強度(ksi)であり、FT_TLは、ASTM規格E399に基づいて測定された第2プレートのT−L平面ひずみ破壊靱性(ksi√インチ)であり、第2プレートのTYS_LTは72ksi以上、第2プレートのFT_TLは24.5ksi√インチ以上である。これら実施例の幾つかは、プレートの引張降伏強度が約73ksi以上、例えば約74ksi以上又は約75ksi以上又は約76ksi以上又は約77ksi以上である。これら実施例の幾つかは、プレートの靱性が約25ksi√インチ以上、例えば約26ksi√インチ以上又は約27ksi√インチ以上又は約28ksi√インチ以上である。
【0105】
この実施例において、どの第2プレートも、式FT_SL≧−1.1*(TYS_ST)+99で表される関係を充足し、前記式中、TYS_STは、ASTM規格E8及びASTM B557に基づいて測定された第2プレートのST引張降伏強度(ksi)であり、FT_SLは、ASTM規格E399に基づいて測定された第2プレートのS−L平面ひずみ破壊靱性(ksi√インチ)であり、第2プレートのTYS_STは69ksi以上、第2プレートのFT_SLは25ksi√インチ以上である。これら実施例の幾つかは、プレートの引張降伏強度が約69.5ksi以上、例えば約70ksi以上又は約70.5ksi以上又は約71ksi以上である。これら実施例の幾つかは、プレートの靱性が約26ksi√インチ以上、例えば約27ksi√インチ以上又は約28ksi√インチ以上又は約29ksi√インチ以上又は約30ksi√インチ以上又は約31ksi√インチ以上である。
【0106】
この実施例において、どの第3プレートも、式FT_TL≧−1.0*(TYS_LT)+98で表される関係を充足し、前記式中、TYS_LTは、ASTM規格E8及びASTM B557に基づいて測定された第3プレートのLT引張降伏強度(ksi)であり、FT_TLは、ASTM規格E399に基づいて測定された第3プレートのT−L平面ひずみ破壊靱性(ksi√インチ)であり、第3プレートのTYS_LTは71ksi以上、第3プレートのFT_TLは23ksi√インチ以上である。これら実施例の幾つかは、プレートの引張降伏強度が約71.5ksi以上、例えば約72ksi以上又は約72.5ksi以上又は約73ksi以上又は約73.5ksi以上又は約74ksi以上である。これら実施例の幾つかは、プレートの靱性が約24ksi√インチ以上、例えば約25ksi√インチ以上又は約26ksi√インチ以上又は約27ksi√インチ以上又は約28ksi√インチ以上又は約29ksi√インチ以上である。
【0107】
この実施例において、どの第3プレートも、式FT_SL≧−1.1*(TYS_ST)+99で表される関係を充足し、前記式中、TYS_STは、ASTM規格E8及びB557に基づいて測定された第3プレートのST引張降伏強度(ksi)であり、FT_SLは、ASTM規格E399に基づいて測定された第3プレートのS−L平面ひずみ破壊靱性(ksi√インチ)であり、第3プレートのTYS_STは66ksi以上、第2プレートのFT_SLは23ksi√インチ以上である。これら実施例の幾つかは、プレートの引張降伏強度が約66.5ksi以上、例えば約67ksi以上又は約67.5ksi以上又は約68ksi以上又は約68.5ksi以上又は約69ksi以上である。これら実施例の幾つかは、プレートの靱性が約24ksi√インチ以上、例えば約25ksi√インチ以上又は約26ksi√インチ以上又は約27ksi√インチ以上又は約28ksi√インチ以上である。
【0108】
この実施例において、第1プレート、第2プレート又は第3プレートのどのプレートも1又は複数の応力腐食割れ試験を常に合格する。特定の実施例において、T74質別の規定に基づくと、プレートは、ST方向35ksi以上又はST方向約40ksi以上又はST方向約45ksi以上で180日間の海岸環境応力腐食割れ(SCC)抵抗性試験(後述する)に常に合格である。幾つかの実施例において、プレートは、前記応力レベルにおける海岸環境SCC試験に合格し、230日以上又は280日以上又は330日以上又は365日以上である。特定の実施例において、プレートの交互浸漬SCC試験(ASTM規格G44, G47及び/又はG49に基づく)の30日間以上に常に合格する。幾つかの実施例において、プレートの交互浸漬SCC試験結果は、40日以上又は60日以上又は80日以上又は100日以上である。従来の7XXX系合金のT74質別では、(i)所定厚さ範囲における前記強度、(ii)所定厚さ範囲における前記靱性、(iii)所定厚さ範囲における前記強度対靱性関係、及び(iv)所定厚さ範囲における前記SCC試験の一方又は両方に常に合格すること、の全部を達成することはできない。
【0109】
他の実施例において、T76質別のアルミニウム合金製品が提供される。アルミニウム合金製品は、第1プレート、第2プレート及び/又は第3プレートから作られる。第1プレートが用いられるとき、第1プレートの厚さは約2.00インチ以下であり、前述したように、図2C−1、2C−2、2D−1及び2D−2の発明例1、2、3、4又は5の何れかの合金組成、又は図2E及び2Fの発明例1又は2の何れかの合金組成を有する。第2プレートが用いられるとき、第2プレートの厚さは2.00インチ超3.00インチ以下であり、前述したように、図2C−1、2C−2、2D−1及び2D−2の発明例1、2、3、4又は5の何れかの合金組成、又は図2E及び2Fの発明例1又は2の何れかの合金組成を有する。第3プレートが用いられるとき、第3プレートの厚さは3.00インチ超4.00インチ以下であり、前述したように、図2C−1、2C−2、2D−1及び2D−2の発明例1、2、3、4又は5の何れかの合金組成、又は図2E及び2Fの発明例1又は2の何れかの合金組成を有する。アルミニウム合金製品は、他の成分(例えば、前述した組成レベルの他の成分)を含むことができる。また、これらのどの実施例についても、アルミニウム合金は、本質的に前記成分からなり(アルミニウムを除く)、残部アルミニウム及び随伴元素及び不純物である。
【0110】
この実施例において、全ての第1プレートは、強度と靱性の関係が、式FT≧−2.3*(TYS)+229を充足し、前記式中、TYSは、ASTM規格E8及びB557に基づいて測定された第1プレートのL引張降伏強度(ksi)であり、FTは、ASTM規格E399に基づいて測定された第1プレートのL−T平面ひずみ破壊靱性(ksi√インチ)であり、第1プレートのTYSは79ksi以上、第1プレートのFTは30ksi√インチ以上である。これら実施例の幾つかは、プレートの引張降伏強度が約80ksi以上、例えば約81ksi以上又は約82ksi以上又は約83ksi以上又は約84ksi以上又は約85ksi以上又は約86ksi以上である。これら実施例の幾つかは、プレートの靱性が約32ksi√インチ以上、例えば約34ksi√インチ以上又は約36ksi√インチ以上又は約38ksi√インチ以上又は約40ksi√インチ以上又は約42ksi√インチ以上である。
【0111】
この実施例において、全ての第2プレートは、強度と靱性の関係が、式FT_TL≧−1.0*(TYS_LT)+98を充足し、前記式中、TYS_LTは、ASTM規格E8及びB557に基づいて測定された第2プレートのLT引張降伏強度(ksi)であり、FT_TLは、ASTM規格E399に基づいて測定された第2プレートのT−L平面ひずみ破壊靱性(ksi√インチ)であり、第2プレートのTYS_LTは76ksi以上、第2プレートのFT_TLは22ksi√インチ以上である。これら実施例の幾つかは、プレートの引張降伏強度が約77ksi以上、例えば約78ksi以上又は約79ksi以上又は約80ksi以上又は約81ksi以上である。これら実施例の幾つかは、プレートの靱性が約22.5ksi√インチ以上、例えば約23ksi√インチ以上又は約23.5ksi√インチ以上又は約24ksi√インチ以上又は約24.5ksi√インチ以上又は約25ksi√インチ以上である。
【0112】
この実施例において、全ての第2プレートは、強度と靱性の関係が、式FT_SL≧−1.1*(TYS_ST)+99を充足し、前記式中、TYS_STは、ASTM規格E8及びB557に基づいて測定された第2プレートのST引張降伏強度(ksi)であり、FT_SLは、ASTM規格E399に基づいて測定された第2プレートのS−L平面ひずみ破壊靱性(ksi√インチ)であり、第2プレートのTYS_STは71ksi以上、第2プレートのFT_SLは22ksi√インチ以上である。これら実施例の幾つかは、プレートの引張降伏強度が約71.5ksi以上、例えば約72ksi以上又は約72.5ksi以上又は約73ksi以上である。これら実施例の幾つかは、プレートの靱性が約23ksi√インチ以上、例えば約24ksi√インチ以上又は約25ksi√インチ以上又は約26ksi√インチ以上又は約27ksi√インチ以上又は約28ksi√インチ以上である。
【0113】
この実施例において、全ての第3プレートは、強度と靱性の関係が、式FT_TL≧−1.0*(TYS_LT)+98を充足し、前記式中、TYS_LTは、ASTM規格E8及びB557に基づいて測定された第3プレートのLT引張降伏強度(ksi)であり、FT_TLは、ASTM規格E399に基づいて測定された第3プレートのT−L平面ひずみ破壊靱性(ksi√インチ)であり、第3プレートのTYS_LTは75ksi以上、第3プレートのFT_TLは21ksi√インチ以上である。これら実施例の幾つかは、プレートの引張降伏強度が約75.5ksi以上、例えば約76ksi以上又は約76.5ksi以上又は約77ksi以上又は約77.5ksi以上又は約78ksi以上である。これら実施例の幾つかは、プレートの靱性が約22ksi√インチ以上、例えば約23ksi√インチ以上又は約24ksi√インチ以上又は約25ksi√インチ以上又は約26ksi√インチ以上又は約27ksi√インチ以上である。
【0114】
この実施例において、全ての第3プレートは、強度と靱性の関係が、式FT_SL≧−1.1*(TYS_ST)+99を充足し、前記式中、TYS_STは、ASTM規格E8及びB557に基づいて測定された第3プレートのST引張降伏強度(ksi)であり、FT_SLは、ASTM規格E399に基づいて測定された第3プレートのS−L平面ひずみ破壊靱性(ksi√インチ)であり、第3プレートのTYS_STは70ksi以上、第2プレートのFT_SLは20ksi√インチ以上である。これら実施例の幾つかは、プレートの引張降伏強度が約70.5ksi以上、例えば約71ksi以上又は約71.5ksi以上又は約72ksi以上又は約72.5ksi以上又は約73ksi以上である。これら実施例の幾つかは、プレートの靱性が約21ksi√インチ以上、例えば約22ksi√インチ以上又は約23ksi√インチ以上又は約24ksi√インチ以上又は約25ksi√インチ以上である。
【0115】
この実施例において、第1プレート、第2プレート又は第3プレートのどのプレートも1又は複数の応力腐食割れ試験に常に合格する。特定の実施例において、T76質別の規定に基づくと、プレートは、ST方向約25ksi以上(例えば25ksi〜34ksi)で180日間の海岸環境応力腐食割れ(SCC)抵抗性試験(後述する)に常に合格である。幾つかの実施例において、プレートは、前記応力レベルにおける海岸環境SCC試験に合格し、230日以上又は280日以上又は330日以上又は365日以上である。特定の実施例において、プレートの交互浸漬SCC試験(ASTM規格G44, G47及び/又はG49に基づく)の30日間以上に常に合格する。幾つかの実施例において、プレートの交互浸漬SCC試験結果は、40日以上又は60日以上又は80日以上又は100日以上である。従来の7XXX系合金のT74質別では、(i)所定厚さ範囲における前記強度、(ii)所定厚さ範囲における前記靱性、(iii)所定厚さ範囲における前記強度対靱性関係、及び(iv)所定厚さ範囲における前記SCC試験の一方又は両方に常に合格すること、の全部を達成することはできない。
【0116】
一実施例において、アルミニウム合金は宇宙航空機の上ウイングスキンに用いられる。上ウイングスキンは厚さ約2.00インチ以下のアルミニウム合金プレートから作られることができ、アルミニウム合金は、図2C−1、2C−2、2D−1及び2D−2の発明例1、2、3、4又は5の何れかの合金組成を有する。アルミニウム合金製品は、他の成分(例えば、前述した組成レベルの他の成分)を含むことができる(頻度は低いが)。また、これらのどの実施例についても、アルミニウム合金は、本質的に前記成分からなり(アルミニウムを除く)、残部アルミニウム及び随伴元素及び不純物である。これらの実施例において、アルミニウム合金は、強度対靱性が、式FT≧−4.0*(TYS)+453で表される関係を充足し、前記式中、TYSは、ASTM規格E8及びB557に基づいて測定されたプレートのL引張降伏強度(ksi)であり、FTは、アルミニウム合金プレートのT/2位置から採取した中央亀裂アルミニウム合金試料について、ASTM規格E561及びB646に準拠して測定されたL−T平面応力破壊靱性(Kapp)であり、FTは、アルミニウム合金プレートのT/2位置から採取した中央亀裂アルミニウム合金試験片について、ASTM規格E561及びB646に準拠して測定したものであり、前記試験片は、幅16インチ、厚さ0.25インチ、初期疲労予亀裂長さ4インチである。幾つかの実施例において、プレートのTYSは約80ksi以上、例えば約81ksi以上又は約82ksi以上又は約83ksi以上又は約84ksi以上又は約85ksi以上である。幾つかの実施例において、プレートの靱性は約100ksi√インチ以上、例えば約101ksi√インチ以上又は約102ksi√インチ以上又は約103ksi√インチ以上又は約104ksi√インチ以上又は約105ksi√インチ以上である。上ウイングスキンプレートは、引張降伏強度及び平面応力破壊靱性の改良の他に、平面ひずみ破壊靱性(K1c)の向上をも達成することができる。このように、これらの実施例において、プレートの強度対靱性の関係は、式FT-K1C≧−2.3*(TYS)+229を充足し、前記式中、TYSは、前記のL引張降伏強度であり、FT-K1Cは、ASTM規格E399に基づいて測定されたプレートのL−T平面ひずみ破壊靱性(ksi√インチ)であり、プレートのFT-K1Cは34ksi√インチ以上である。これら実施例の幾つかは、プレートのFT-K1C破壊靱性が約36ksi√インチ以上、例えば約38ksi√インチ以上又は約40ksi√インチ以上又は約42ksi√インチ以上である。従来の7XXX系合金では、(i)所定厚さ範囲における前記強度、(ii)所定厚さ範囲における前記靱性、及び(iii)所定厚さ範囲における前記強度対靱性関係、の全部を達成することはできない。なお、これら合金は、前記実施例2に示された耐食性を達成することができるかもしれない。
【0117】
本開示の大部分は合金プレートに関するものであるが、本開示合金に対する同様な改善は、例えば押出及び鍛造等の他の製品形態においても実現できるであろう。本開示について具体的実施例を詳細に説明したが、当該分野の専門家であれば、開示の教唆全体を参照することにより、開示の詳細に種々の改変及び代替をなし得るであろう。それゆえ、開示された具体的構成は例示にしかすぎず、本開示の範囲を限定するものではないから、本開示の範囲は特許請求の範囲の全範囲及びその均等物全体によって定められるべきである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
宇宙航空機の上ウイングスキンであって、該上ウイングスキンはアルミニウム合金からなり、該アルミニウム合金は、本質的に、Zn:7.5−8.5重量%、Cu:1.95−2.25重量%、Mg:1.7−2.0重量%、Zr、Hf、Sc、Mn及びVのうちの少なくとも1種:0.25重量%以下、残部アルミニウム、随伴元素及び不純物であり、
前記上ウイングスキンは、厚さ2.00インチ以下のプレートから作られ、
前記プレートは、強度−靱性の関係が、式FT_LT≧−4.0*(TYS_L)+453を充足し、
プレートはTYS_Lが80ksi以上であり、
プレートはFT_LTが100ksi√インチ以上であり、
TYS_Lは、ASTM規格E8及びB557に基づいて測定されたプレートのL引張降伏強度(ksi)であり、
FT_LTは、プレートのT/2位置から採取した、幅16インチ、厚さ0.25インチ、初期疲労予亀裂長さ4インチの中央亀裂アルミニウム合金試験片について、ASTM規格E561及びB646に基づいて測定されたプレートのL−T平面応力破壊靱性Kapp(ksi√インチ)である、上ウイングスキン。
【請求項2】
アルミニウム合金は、本質的に、Zn:7.5−8.5重量%、Cu:2.05−2.15重量%、Mg:1.75−1.85重量%、Zr、Hf、Sc、Mn及びVのうちの少なくとも1種:0.25重量%以下、残部アルミニウム、随伴元素及び不純物である請求項1の上ウイングスキン。
【請求項3】
本質的に、Zn:7.5−8.5重量%、Cu:1.95−2.25重量%、Mg:1.7−2.0重量%、Zr、Hf、Sc、Mn及びVのうちの少なくとも1種:0.25重量%以下、残部アルミニウム、随伴元素及び不純物からなるアルミニウム合金の薄肉プレート製品であって、
前記薄肉プレートは、厚さ2.00インチ以下であり、
前記薄肉プレートは、強度−靱性の関係が、式FT_K1C≧−2.3*(TYS_L)+229を充足し、
薄肉プレートはTYS_Lが74ksi以上であり、
薄肉プレートはFT_K1Cが36ksi√インチ以上であり、
TYS_Lは、ASTM規格E8及びB557に基づいて測定された薄肉プレートのL引張降伏強度(ksi)であり、
FT_K1CはASTM規格E399に基づいて測定された薄肉プレートのL−T平面ひずみ破壊靱性(ksi√インチ)であり、
前記破壊靱性試験片の厚みは、プレートの全厚みである、アルミニウム合金の薄肉プレート製品。
【請求項4】
本質的に、Zn:7.5−8.5重量%、Cu:1.9−2.3重量%、Mg:1.5−2.0重量%、Zr、Hf、Sc、Mn及びVのうちの少なくとも1種:0.25重量%以下、残部アルミニウム、随伴元素及び不純物からなるアルミニウム合金の薄肉プレート製品であって、
前記薄肉プレートは、厚さ2.00インチ以下であり、
前記薄肉プレートは、強度−靱性の関係が、式FT_LT≧−4.0*(TYS_L)+453を充足し、
薄肉プレートはTYS_Lが80ksi以上であり、
薄肉プレートはFT_LTが100ksi√インチ以上であり、
TYS_Lは、ASTM規格E8及びB557に基づいて測定された薄肉プレートのL引張降伏強度(ksi)であり、
FT_LTは、薄肉プレートのT/2位置から採取した、幅16インチ、厚さ0.25インチ、初期疲労予亀裂長さ4インチの中央亀裂アルミニウム合金試験片について、ASTM規格E561及びB646に基づいて測定されたプレートのL−T平面応力破壊靱性Kapp(ksi√インチ)である、アルミニウム合金の薄肉プレート製品。
【請求項5】
本質的に、Zn:7.4−8.0重量%、Cu:1.9−2.3重量%、Mg:1.55−2.0重量%、Zr、Hf、Sc、Mn及びVのうちの少なくとも1種:0.25重量%以下、残部アルミニウム、随伴元素及び不純物からなるアルミニウム合金の厚肉プレート製品であって、
前記厚肉プレートは、厚さ2.00インチ〜3.25インチであり、
前記厚肉プレートは、強度−靱性の関係が、式FT_TL≧−1.0*(TYS_LT)+98を充足し、
厚肉プレートはTYS_LTが72ksi以上であり、
厚肉プレートはFT_TLが22ksi√インチ以上であり、
TYS_LTは、ASTM規格E8及びB557に基づいて測定された厚肉プレートのLT引張降伏強度(ksi)であり、
FT_TLは、厚肉プレートのT/2位置で、ASTM規格E399に基づいて測定されたT−L平面ひずみ破壊靱性(ksi√インチ)である、アルミニウム合金の厚肉プレート製品。
【請求項6】
FT_TLは24.5ksi√インチ以上である請求項5の厚肉プレート製品。
【請求項7】
TYS_TLは76ksi以上である請求項5又は6の厚肉プレート製品。
【請求項8】
厚肉プレートは、強度−靱性の関係が、式FT_SL≧−1.1*(TYS_ST)+99を充足し、
厚肉プレートはTYS_STが69ksi以上であり、
厚肉プレートはFT_SLが22ksi√インチ以上であり、
TYS_STは、ASTM規格E8及びB557に基づいて測定された厚肉プレートのST引張降伏強度(ksi)であり、
FT_SLは、厚肉プレートのT/2位置で、ASTM規格E399に基づいて測定されたS−L平面ひずみ破壊靱性(ksi√インチ)である、請求項5乃至7の何れかのアルミニウム合金の厚肉プレート製品。
【請求項9】
FT_SLは25ksi√インチ以上である請求項8の厚肉プレート製品。
【請求項10】
TYS_STは71ksi以上である請求項8又は9の厚肉プレート製品。
【請求項11】
厚肉プレートは、板厚中央(T/2)でST方向に採取された試験片について、ASTM規格G44、G47及びG49に基づき、30日間以上、25ksiの応力レベルで試験された交互浸漬応力腐食割れ抵抗試験に常に合格する、請求項5乃至10の何れかのアルミニウム合金の厚肉プレート製品。
【請求項12】
厚肉プレートは、板厚中央(T/2)でST方向に採取された試験片について、ASTM規格G44、G47及びG49に基づき、30日間以上、35ksiの応力レベルで試験された交互浸漬応力腐食割れ抵抗試験に常に合格する、請求項5乃至10の何れかのアルミニウム合金の厚肉プレート製品。
【請求項13】
厚肉プレートは、板厚中央(T/2)でST方向に採取された試験片について、180日間以上、25ksiの応力レベルで試験された海岸環境応力腐食割れ抵抗試験に常に合格する、請求項11又は12のアルミニウム合金の厚肉プレート製品。
【請求項14】
厚肉プレートは、板厚中央(T/2)でST方向に採取された試験片について、180日間以上、35ksiの応力レベルで試験された海岸環境応力腐食割れ抵抗試験に常に合格する、請求項11又は12のアルミニウム合金の厚肉プレート製品。
【請求項15】
本質的に、Zn:7.4−8.0重量%、Cu:1.9−2.3重量%、Mg:1.55−2.0重量%、Zr、Hf、Sc、Mn及びVのうちの少なくとも1種:0.25重量%以下、残部アルミニウム、随伴元素及び不純物からなるアルミニウム合金の厚肉プレート製品であって、
前記厚肉プレートは、厚さ2.75インチ〜4インチであり、
前記厚肉プレートは、強度−靱性の関係が、式FT_TL≧−1.0*(TYS_LT)+98を充足し、
厚肉プレートはTYS_LTが71ksi以上であり、
厚肉プレートはFT_TLが21ksi√インチ以上であり、
TYS_LTは、ASTM規格E8及びB557に基づいて測定された厚肉プレートのLT引張降伏強度(ksi)であり、
FT_TLは、厚肉プレートのT/2位置で、ASTM規格E399に基づいて測定されたT−L平面ひずみ破壊靱性(ksi√インチ)である、アルミニウム合金の厚肉プレート製品。
【請求項16】
FT_TLは23ksi√インチ以上である請求項15の厚肉プレート製品。
【請求項17】
TYS_LTは74ksi以上である請求項15又は16の厚肉プレート製品。
【請求項18】
厚肉プレートは、強度−靱性の関係が、式FT_SL≧−1.1*(TYS_ST)+99を充足し、
厚肉プレートはTYS_STが66ksi以上であり、
厚肉プレートはFT_SLが20ksi√インチ以上であり、
TYS_STは、ASTM規格E8及びB557に基づいて測定された厚肉プレートのST引張降伏強度(ksi)であり、
FT_SLは、厚肉プレートのT/2位置で、ASTM規格E399に基づいて測定されたS−L平面ひずみ破壊靱性(ksi√インチ)である、請求項15乃至17の何れかのアルミニウム合金の厚肉プレート製品。
【請求項19】
FT_SLは23ksi√インチ以上である請求項18の厚肉プレート製品。
【請求項20】
TYS_STは69ksi以上である請求項18又は19の厚肉プレート製品。
【請求項21】
厚肉プレートは、板厚中央(T/2)でST方向に採取された試験片について、ASTM規格G44、G47及びG49に基づき、30日間以上、25ksiの応力レベルで試験された交互浸漬応力腐食割れ抵抗試験に常に合格する、請求項15乃至20の何れかのアルミニウム合金の厚肉プレート製品。
【請求項22】
厚肉プレートは、板厚中央(T/2)でST方向に採取された試験片について、ASTM規格G44、G47及びG49に基づき、30日間以上、35ksiの応力レベルで試験された交互浸漬応力腐食割れ抵抗試験に常に合格する、請求項15乃至20の何れかのアルミニウム合金の厚肉プレート製品。
【請求項23】
厚肉プレートは、板厚中央(T/2)でST方向に採取された試験片について、180日間以上、25ksiの応力レベルで試験された海岸環境応力腐食割れ抵抗試験に常に合格する、請求項21又は22のアルミニウム合金の厚肉プレート製品。
【請求項24】
厚肉プレートは、板厚中央(T/2)でST方向に採取された試験片について、180日間以上、35ksiの応力レベルで試験された海岸環境応力腐食割れ抵抗試験に常に合格する、請求項21又は22のアルミニウム合金の厚肉プレート製品。
【請求項25】
本質的に、Zn:7.5−7.9重量%、Cu:2.05−2.20重量%、Mg:1.6−1.75重量%、Zr、Hf、Sc、Mn及びVのうちの少なくとも1種:0.25重量%以下、残部アルミニウム、随伴元素及び不純物であるアルミニウム合金。
【請求項1】
宇宙航空機の上ウイングスキンであって、該上ウイングスキンはアルミニウム合金からなり、該アルミニウム合金は、本質的に、Zn:7.5−8.5重量%、Cu:1.95−2.25重量%、Mg:1.7−2.0重量%、Zr、Hf、Sc、Mn及びVのうちの少なくとも1種:0.25重量%以下、残部アルミニウム、随伴元素及び不純物であり、
前記上ウイングスキンは、厚さ2.00インチ以下のプレートから作られ、
前記プレートは、強度−靱性の関係が、式FT_LT≧−4.0*(TYS_L)+453を充足し、
プレートはTYS_Lが80ksi以上であり、
プレートはFT_LTが100ksi√インチ以上であり、
TYS_Lは、ASTM規格E8及びB557に基づいて測定されたプレートのL引張降伏強度(ksi)であり、
FT_LTは、プレートのT/2位置から採取した、幅16インチ、厚さ0.25インチ、初期疲労予亀裂長さ4インチの中央亀裂アルミニウム合金試験片について、ASTM規格E561及びB646に基づいて測定されたプレートのL−T平面応力破壊靱性Kapp(ksi√インチ)である、上ウイングスキン。
【請求項2】
アルミニウム合金は、本質的に、Zn:7.5−8.5重量%、Cu:2.05−2.15重量%、Mg:1.75−1.85重量%、Zr、Hf、Sc、Mn及びVのうちの少なくとも1種:0.25重量%以下、残部アルミニウム、随伴元素及び不純物である請求項1の上ウイングスキン。
【請求項3】
本質的に、Zn:7.5−8.5重量%、Cu:1.95−2.25重量%、Mg:1.7−2.0重量%、Zr、Hf、Sc、Mn及びVのうちの少なくとも1種:0.25重量%以下、残部アルミニウム、随伴元素及び不純物からなるアルミニウム合金の薄肉プレート製品であって、
前記薄肉プレートは、厚さ2.00インチ以下であり、
前記薄肉プレートは、強度−靱性の関係が、式FT_K1C≧−2.3*(TYS_L)+229を充足し、
薄肉プレートはTYS_Lが74ksi以上であり、
薄肉プレートはFT_K1Cが36ksi√インチ以上であり、
TYS_Lは、ASTM規格E8及びB557に基づいて測定された薄肉プレートのL引張降伏強度(ksi)であり、
FT_K1CはASTM規格E399に基づいて測定された薄肉プレートのL−T平面ひずみ破壊靱性(ksi√インチ)であり、
前記破壊靱性試験片の厚みは、プレートの全厚みである、アルミニウム合金の薄肉プレート製品。
【請求項4】
本質的に、Zn:7.5−8.5重量%、Cu:1.9−2.3重量%、Mg:1.5−2.0重量%、Zr、Hf、Sc、Mn及びVのうちの少なくとも1種:0.25重量%以下、残部アルミニウム、随伴元素及び不純物からなるアルミニウム合金の薄肉プレート製品であって、
前記薄肉プレートは、厚さ2.00インチ以下であり、
前記薄肉プレートは、強度−靱性の関係が、式FT_LT≧−4.0*(TYS_L)+453を充足し、
薄肉プレートはTYS_Lが80ksi以上であり、
薄肉プレートはFT_LTが100ksi√インチ以上であり、
TYS_Lは、ASTM規格E8及びB557に基づいて測定された薄肉プレートのL引張降伏強度(ksi)であり、
FT_LTは、薄肉プレートのT/2位置から採取した、幅16インチ、厚さ0.25インチ、初期疲労予亀裂長さ4インチの中央亀裂アルミニウム合金試験片について、ASTM規格E561及びB646に基づいて測定されたプレートのL−T平面応力破壊靱性Kapp(ksi√インチ)である、アルミニウム合金の薄肉プレート製品。
【請求項5】
本質的に、Zn:7.4−8.0重量%、Cu:1.9−2.3重量%、Mg:1.55−2.0重量%、Zr、Hf、Sc、Mn及びVのうちの少なくとも1種:0.25重量%以下、残部アルミニウム、随伴元素及び不純物からなるアルミニウム合金の厚肉プレート製品であって、
前記厚肉プレートは、厚さ2.00インチ〜3.25インチであり、
前記厚肉プレートは、強度−靱性の関係が、式FT_TL≧−1.0*(TYS_LT)+98を充足し、
厚肉プレートはTYS_LTが72ksi以上であり、
厚肉プレートはFT_TLが22ksi√インチ以上であり、
TYS_LTは、ASTM規格E8及びB557に基づいて測定された厚肉プレートのLT引張降伏強度(ksi)であり、
FT_TLは、厚肉プレートのT/2位置で、ASTM規格E399に基づいて測定されたT−L平面ひずみ破壊靱性(ksi√インチ)である、アルミニウム合金の厚肉プレート製品。
【請求項6】
FT_TLは24.5ksi√インチ以上である請求項5の厚肉プレート製品。
【請求項7】
TYS_TLは76ksi以上である請求項5又は6の厚肉プレート製品。
【請求項8】
厚肉プレートは、強度−靱性の関係が、式FT_SL≧−1.1*(TYS_ST)+99を充足し、
厚肉プレートはTYS_STが69ksi以上であり、
厚肉プレートはFT_SLが22ksi√インチ以上であり、
TYS_STは、ASTM規格E8及びB557に基づいて測定された厚肉プレートのST引張降伏強度(ksi)であり、
FT_SLは、厚肉プレートのT/2位置で、ASTM規格E399に基づいて測定されたS−L平面ひずみ破壊靱性(ksi√インチ)である、請求項5乃至7の何れかのアルミニウム合金の厚肉プレート製品。
【請求項9】
FT_SLは25ksi√インチ以上である請求項8の厚肉プレート製品。
【請求項10】
TYS_STは71ksi以上である請求項8又は9の厚肉プレート製品。
【請求項11】
厚肉プレートは、板厚中央(T/2)でST方向に採取された試験片について、ASTM規格G44、G47及びG49に基づき、30日間以上、25ksiの応力レベルで試験された交互浸漬応力腐食割れ抵抗試験に常に合格する、請求項5乃至10の何れかのアルミニウム合金の厚肉プレート製品。
【請求項12】
厚肉プレートは、板厚中央(T/2)でST方向に採取された試験片について、ASTM規格G44、G47及びG49に基づき、30日間以上、35ksiの応力レベルで試験された交互浸漬応力腐食割れ抵抗試験に常に合格する、請求項5乃至10の何れかのアルミニウム合金の厚肉プレート製品。
【請求項13】
厚肉プレートは、板厚中央(T/2)でST方向に採取された試験片について、180日間以上、25ksiの応力レベルで試験された海岸環境応力腐食割れ抵抗試験に常に合格する、請求項11又は12のアルミニウム合金の厚肉プレート製品。
【請求項14】
厚肉プレートは、板厚中央(T/2)でST方向に採取された試験片について、180日間以上、35ksiの応力レベルで試験された海岸環境応力腐食割れ抵抗試験に常に合格する、請求項11又は12のアルミニウム合金の厚肉プレート製品。
【請求項15】
本質的に、Zn:7.4−8.0重量%、Cu:1.9−2.3重量%、Mg:1.55−2.0重量%、Zr、Hf、Sc、Mn及びVのうちの少なくとも1種:0.25重量%以下、残部アルミニウム、随伴元素及び不純物からなるアルミニウム合金の厚肉プレート製品であって、
前記厚肉プレートは、厚さ2.75インチ〜4インチであり、
前記厚肉プレートは、強度−靱性の関係が、式FT_TL≧−1.0*(TYS_LT)+98を充足し、
厚肉プレートはTYS_LTが71ksi以上であり、
厚肉プレートはFT_TLが21ksi√インチ以上であり、
TYS_LTは、ASTM規格E8及びB557に基づいて測定された厚肉プレートのLT引張降伏強度(ksi)であり、
FT_TLは、厚肉プレートのT/2位置で、ASTM規格E399に基づいて測定されたT−L平面ひずみ破壊靱性(ksi√インチ)である、アルミニウム合金の厚肉プレート製品。
【請求項16】
FT_TLは23ksi√インチ以上である請求項15の厚肉プレート製品。
【請求項17】
TYS_LTは74ksi以上である請求項15又は16の厚肉プレート製品。
【請求項18】
厚肉プレートは、強度−靱性の関係が、式FT_SL≧−1.1*(TYS_ST)+99を充足し、
厚肉プレートはTYS_STが66ksi以上であり、
厚肉プレートはFT_SLが20ksi√インチ以上であり、
TYS_STは、ASTM規格E8及びB557に基づいて測定された厚肉プレートのST引張降伏強度(ksi)であり、
FT_SLは、厚肉プレートのT/2位置で、ASTM規格E399に基づいて測定されたS−L平面ひずみ破壊靱性(ksi√インチ)である、請求項15乃至17の何れかのアルミニウム合金の厚肉プレート製品。
【請求項19】
FT_SLは23ksi√インチ以上である請求項18の厚肉プレート製品。
【請求項20】
TYS_STは69ksi以上である請求項18又は19の厚肉プレート製品。
【請求項21】
厚肉プレートは、板厚中央(T/2)でST方向に採取された試験片について、ASTM規格G44、G47及びG49に基づき、30日間以上、25ksiの応力レベルで試験された交互浸漬応力腐食割れ抵抗試験に常に合格する、請求項15乃至20の何れかのアルミニウム合金の厚肉プレート製品。
【請求項22】
厚肉プレートは、板厚中央(T/2)でST方向に採取された試験片について、ASTM規格G44、G47及びG49に基づき、30日間以上、35ksiの応力レベルで試験された交互浸漬応力腐食割れ抵抗試験に常に合格する、請求項15乃至20の何れかのアルミニウム合金の厚肉プレート製品。
【請求項23】
厚肉プレートは、板厚中央(T/2)でST方向に採取された試験片について、180日間以上、25ksiの応力レベルで試験された海岸環境応力腐食割れ抵抗試験に常に合格する、請求項21又は22のアルミニウム合金の厚肉プレート製品。
【請求項24】
厚肉プレートは、板厚中央(T/2)でST方向に採取された試験片について、180日間以上、35ksiの応力レベルで試験された海岸環境応力腐食割れ抵抗試験に常に合格する、請求項21又は22のアルミニウム合金の厚肉プレート製品。
【請求項25】
本質的に、Zn:7.5−7.9重量%、Cu:2.05−2.20重量%、Mg:1.6−1.75重量%、Zr、Hf、Sc、Mn及びVのうちの少なくとも1種:0.25重量%以下、残部アルミニウム、随伴元素及び不純物であるアルミニウム合金。
【図1】
【図2A】
【図2B】
【図2C−1】
【図2C−2】
【図2D−1】
【図2D−2】
【図2E】
【図2F】
【図3A】
【図3B】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図2A】
【図2B】
【図2C−1】
【図2C−2】
【図2D−1】
【図2D−2】
【図2E】
【図2F】
【図3A】
【図3B】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【公表番号】特表2010−527408(P2010−527408A)
【公表日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−508429(P2010−508429)
【出願日】平成20年5月14日(2008.5.14)
【国際出願番号】PCT/US2008/006253
【国際公開番号】WO2008/156532
【国際公開日】平成20年12月24日(2008.12.24)
【出願人】(500277629)アルコア インコーポレイテッド (49)
【公表日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年5月14日(2008.5.14)
【国際出願番号】PCT/US2008/006253
【国際公開番号】WO2008/156532
【国際公開日】平成20年12月24日(2008.12.24)
【出願人】(500277629)アルコア インコーポレイテッド (49)
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