説明

複合積層構造体

端部(8)を有する複合積層体と、端部(8)に支えられ、衝撃時に破砕する樹脂からなる衝撃表示部(9)とを有する構造体。破砕によって、例えば亀裂、衝撃表示部からの1以上の破片の離脱等の、衝撃損傷の目に見える証拠が永久に残る。衝撃表示部は、このような衝撃損傷の目に見える証拠になるだけでなく、衝撃を保護する要素にもなる。典型的には、衝撃表示部(9)は、複合積層体を形成する材料より脆く、弱い樹脂からなる。例えば、複合積層体を形成する材料は強化部材であるが、衝撃表示部を形成する樹脂は、非強化部材である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合積層構造体及びそのような構造体の衝撃損傷を示す方法に関する。特に、その構造体は航空機部品の一部である場合があるが、それに限らない。
【背景技術】
【0002】
多くの航空機部品は複合積層材料から作られている。例えば、航空機翼の縦通材、補強材、及び桁構造体は全て複合積層構造体状である。このような構造体は、それを取付けるべく設計された通りに取付けられた場合には強固だが、衝撃損傷に対しては脆弱であり、その結果、層間剥離が起きることもある。層間剥離が起きると、構造体は弱くなり、最終的には壊れる。特に脆弱なのは、衝撃の生じる複合積層構造体の端部(複合積層構造体の層が終端する箇所)であり、特に衝撃が端部に向かって生じる場合(すなわち、端部に垂直で構造体を形成する積層体の平面に平行な方向に衝撃があった場合)に弱い。
【0003】
衝撃力の大部分が端部に向かう方向である場合、複合積層構造を有する積層体の層間の結合が衝撃によって損傷され、層間剥離を引き起こすか、或いは層間剥離の影響を強める。このような衝撃は、メンテナンス時、例えば、通常は露出していない複合積層構造体の端部表面が露出している時に、作業者が構造体上での作業時に工具を落とした結果起きることもある。また、別の場合では、例えば、作業者が構造体の上に座ったり、立ったり、或いは、構造体に直接又は工具やその他の道具で触ったりすることで、複合積層構造体が長年に亘って摩耗し、その結果損傷されることもある。例えば、航空機の作業をしている間に、作業者が工具や工具箱をこのような構造体の端部表面上に置くことは通常良く行われる。複合積層構造体の端部は、概して、少なくともメンテナンス中には、上述のような直接的な摩耗や直接的な衝撃に曝される。複合部の製造や組立のときにも、同様の衝撃を受ける危険が存在する。
【0004】
航空機部品を設計する時には、航空機の複合積層構造体の強度及びその他の機械的特性に影響を及ぼす要因、例えば上述のような要因、が考慮される。そして、上述のような要因に対応するために、大抵は複合積層構造体を更に強固にすることが必要になり、その結果、寸法も重量も増えることになる。
【0005】
積層複合体の端部を強化する公知の方法の一つは、例えば特許文献1に記載されるような端部保護部材を使うことである。別の解決法では、複合積層体の端部をロール成形端部、即ち、層を折り畳んで形成した端部、とする。しかし、これら周知の方法では、衝撃の証拠を充分に目に見える形で提供できないことが課題である。目に見える証拠が構造体には必要であろう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許出願公開第2006/0234007号明細書
【発明の概要】
【0007】
本発明の第一態様は、端部を有する複合積層体と、端部に支えられ、衝撃時に破砕する樹脂からなる衝撃表示部とを有する構造体を提供する。
本発明の第二態様は、衝撃表示部を破砕することを含む、このような構造体の衝撃損傷表示方法を提供する。
【0008】
破砕が起こるために、例えば亀裂、衝撃表示部からの1以上の破片の離脱等の、衝撃損傷の目に見える証拠が永久に残る。衝撃表示部は、このような衝撃損傷の目に見える証拠になるだけでなく、衝撃エネルギーの一部を吸収して、衝撃から保護する要素にもなる。
【0009】
典型的には、衝撃表示部は、複合積層体を形成する材料より脆く、弱い樹脂からなる。例えば、複合積層体を形成する材料は強化材であり、衝撃表示部を形成する樹脂は、非強化材である。
典型的には、複合積層体は、エポキシ樹脂などの熱硬化性材料からなる。衝撃表示部を形成する材料は、同じ熱硬化性樹脂、或いは、同程度或いはより低い温度で硬化する樹脂である。
衝撃表示部は、長さが限定されているか、或いは端部の長さの少なくとも半分以上を占める細片であってもよい。
【0010】
本発明の一実施例においては、複合積層体の複数の層は端部において終端する。別の例では、端部は、層を折り畳んで形成する、ロール成形端部である。
衝撃表示部は、共硬化、相互結合、又は二次結合によって端部に付着され得る。衝撃表示部が共硬化によって端部に付着される場合、衝撃表示部は複合積層体に(例えば、端部に樹脂を多く含む複合積層体を形成することにより)一体的に形成され得る。
【0011】
一例では、ノズルから樹脂を押し出し、押し出された材料を硬化によって端部に相互結合して、衝撃表示部を端部に形成する。
別の例では、熱硬化性樹脂からなるビードを雌型に入れ、複合積層体の端部を雌型の中に挿入し、ビードと複合積層体とを加熱し、それにより複合積層体が硬化し、ビードは端部に共硬化される。
別の例では、複合積層体の各層は強化相と母材樹脂相を有し、複合積層体の端部を雌型に挿入し、端部と雌型の間に隙間を形成し、複合積層体を加熱し、それにより母材樹脂相が隙間へ流れ込んで、衝撃表示部を形成する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
ここで、本発明の実施例を、添付の図面を参照して説明する。
【図1】縦通材に衝撃表示部を適用する方法を示す斜視図
【図2】衝撃表示部を支える縦通材の端面図
【図3】縦通材を形成するための3つの段階の第1段階を示す図
【図4】縦通材を形成するための3つの段階の第2段階を示す図
【図5】縦通材を形成するための3つの段階の第3段階を示す図
【図6】衝撃表示部を支える別の縦通材の端面図
【図7】衝撃表示部を支える更に別の縦通材の端面図
【図8】衝撃表示部を支えるロール成形された縦通材の端面図
【図9】共硬化製造工程を行った場合の端面図
【図10】衝撃表示部を縦通材と一体的に形成する製造工程を行った場合の端面図
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1に示す縦通材1は、ブレード2と一組のフランジ3、4を有する。縦通材は、図3〜図5に示す工程で形成される。第一段階では、平面状装填体5aが雄型形成具6上に配置される。装填体5は、シートを積み重ねて形成した積層構造体であり、各シートは熱硬化性エポキシ樹脂を含浸させた複数の単一方向性炭素繊維を含む。これらのシートは、従来から「プリプレグ(prepreg)」として知られている。図3では、個々のプリプレグシートを概略的に示すが、明瞭にするためにそれ以外の図面では個々のシートは示さない。
【0014】
その後、図4にあるように装填体5aを成形工具の上で変形させ、U字型に成形する。そして、U字型部5bを切断し、図5に示すような2つのL字型部5c、5dを形成する。L字型部5c、5dを、図2のように背面同士を合わせて配置する。L字型部5c、5dの背面同士を合わせて配置した後に共硬化し、それにより縦通材は硬化し、L字型部は結合する。
【0015】
縦通材1の長さ方向を0度、縦通材の高さ方向を90度と定義する。縦通材の構造は、0度/±45度/90度の方向へ向けられた縦通材内の繊維の百分率を示す表記によって表される。典型的な縦通材のレイアップは、60/30/10である。従って、繊維の60パーセントは0度方向を向き、30パーセントは±45度方向を向き、10パーセントは90度方向を向いている。
縦通材は露出された上端部8を含み、図1に示すように、この部分には機械加工が施され、(硬化後に)密封される。
【0016】
形状切断機10が端部8に沿って動き、材料を切除して図2に示すような溝11を形成する。清浄装置12は、機械加工で生じる材料屑を取り除く。液体エポキシ樹脂をノズル14から押し出して、溝にビードを形成する。仕上げ工具15は、所望の形状のスロット16を有し、工具15をノズル14の後方で端部に沿って動かし、ビード13から余分な樹脂を取り除く。
【0017】
尚、これらの工程は一列で行われ、それにより端部8が機械加工されるのと同時にビード13が作られる。
その後、樹脂を硬化させ、それによりビードを端部8へ相互結合させて、図2に示すように衝撃表示部9を溝11内に形成する。
【0018】
機械加工工程を省いて、図6の8aに示すように縦通材の上端部を平坦にしてもよい。図7に示す別の実施例では、図4に示す変形工程で、プリプレグの積層が互いに滑り、プリプレグのシートが終端するL字型部の端部8bが角をなす。よって、この場合、機械加工工程を別途設けなくても、溝が形成される。
図6及び図7の場合、縦通材と衝撃表示部9a、9bは、別々に硬化されるのではなく、共硬化される。
【0019】
図8に、ロール成形縦通材を示す。これは、単一のプリプレグ積層体を折り曲げて、ロール成形端部8cを形成することによって作る。樹脂ビードを押し出し、それをロール成形端部8cに相互結合することにより、衝撃表示部9cをロール成形端部8cに付着する。
【0020】
図9に示す別の製造工程では、未硬化エポキシ樹脂からなるビード20を雌型21に入れ、縦通材ブレード2を雌型の中に挿入し、型の組立体を加熱し、それにより縦通材とビード20を共硬化によって互いに結合することによって、衝撃表示部を縦通材の端部に形成する。
【0021】
図10に示す更に別の製造工程では、縦通材ブレードを雌型21に挿入し、端部8と雌型の隙間22を形成し、縦通材を加熱し、それによりブレード内のエポキシ樹脂母材が隙間22へ流れ込んで、衝撃表示部を縦通材に一体的に形成する。
【0022】
上記の衝撃表示部は、衝撃時に破砕し、1以上の亀裂及び/又は1以上の破片が生じる材料で作られる。EA9394エポキシ樹脂は必要な破砕特性を有することが分かっているが、他の材料も考えられる。例えば、ビードを硬化するために加熱する必要がないように、樹脂は室温で硬化するものであってもよい。
【0023】
尚、衝撃表示部は、複合積層体を形成する材料よりも、脆く、弱い樹脂で作られる。例えば、非強化EA9394樹脂は、複合積層体を形成する炭素繊維強化プリプレグよりも脆く、弱い。また、各衝撃表示部は曲線状の凸状外面を有し、衝撃表示部の厚さは端部の幅を横断する方向に変化する。このことで、多くの利点がある。
− 平坦な細片であるよりも、破砕しやすい。
− 破砕後、1以上の破片が離脱しやすい。
− 破砕後の亀裂や穴が側面から目に付きやすい。
【0024】
本発明を1以上の好ましい実施例を参照して記載したが、添付する特許請求の範囲に記載する発明の範囲を逸脱しない限り、各種の変更又は修正を行い得るものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
端部を有する複合積層体と、端部に支えられ、衝撃時に破砕する樹脂からなる衝撃表示部とを有する、ことを特徴とする構造体。
【請求項2】
衝撃表示部は、複合積層体を形成する材料よりも脆く、弱い樹脂からなる、ことを特徴とする請求項1に記載の構造体。
【請求項3】
衝撃表示部はエポキシ樹脂からなる、ことを特徴とする請求項1または2に記載の構造体。
【請求項4】
樹脂は非強化樹脂である、ことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の構造体。
【請求項5】
樹脂は100℃未満、好ましくは50℃未満の温度で硬化する熱硬化性樹脂である、ことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の構造体。
【請求項6】
積層構造体は第一温度で硬化する熱硬化性材料からなり、樹脂は第一温度より低い第二温度で硬化する熱硬化性材料からなる、ことを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の構造体。
【請求項7】
衝撃表示部は端部の溝内に配置される、ことを特徴とする請求項1からいずれか1項に記載の構造体。
【請求項8】
衝撃表示部の厚さは、端部の幅を横断する方向に変化する、ことを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載の構造体。
【請求項9】
衝撃表示部の外面が凸状である、ことを特徴とする請求項8に記載の構造体。
【請求項10】
衝撃表示部は端部の長さの少なくとも半分以上を占める細片である、ことを特徴とする請求項1から9いずれか1項に記載の構造体。
【請求項11】
複合積層体の複数の層は、端部で終端している、ことを特徴とする請求項1から10のいずれか1項に記載の構造体。
【請求項12】
端部は、積層構造体を折り畳んだ層で形成されるロール成形端部である、ことを特徴とする請求項1から10のいずれか1項に記載の構造体。
【請求項13】
請求項1からいずれか1項に記載の構造体を有する航空機部品。
【請求項14】
衝撃表示部を破砕することを含む、請求項1からいずれか1項に記載の構造体の衝撃損傷表示方法。
【請求項15】
衝撃表示部から1以上の破片を離脱することを更に含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
ノズルから樹脂を押し出して端部に衝撃表示部を形成することを含む、請求項1から12のいずれか1項に記載の構造体の製造方法。
【請求項17】
衝撃表示部を端部に共硬化することを含む、請求項1から12のいずれか1項に記載の構造体の製造方法。
【請求項18】
熱硬化性樹脂からなるビードを雌型に入れ、複合積層体の端部を雌型の中に挿入し、ビードと複合積層体とを加熱し、それにより複合積層体が硬化し、ビードは端部に共硬化される、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
複合積層体の各層は強化相と母材樹脂相を有し、複合積層体の端部を雌型に挿入し、端部と雌型の間に隙間を形成し、複合積層体を加熱し、それにより母材樹脂相が隙間へ流れ込んで、衝撃表示部を形成する、請求項1から12のいずれか1項に記載の構造体の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公表番号】特表2010−536024(P2010−536024A)
【公表日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−519528(P2010−519528)
【出願日】平成20年8月4日(2008.8.4)
【国際出願番号】PCT/GB2008/050657
【国際公開番号】WO2009/019511
【国際公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【出願人】(508305926)エアバス ユーケー リミティド (38)
【Fターム(参考)】