説明

複合粒子の製造方法

【課題】硬磁性粒子と軟磁性粒子とから、出発原料の硬磁性粒子の磁化が改良され且つ保磁力が実質的に維持される高い保磁力および磁化を兼ね備えた複合粒子の製造方法を提供する。
【解決手段】硬磁性相を形成する硬磁性粒子と、軟磁性相を形成する軟磁性粒子とを複合して複合粒子を作製する複合粒子の製造方法であって、前記複合粒子構成材料のうち最も酸化され易い材料の酸化物形成温度以下の温度領域で前記複合粒子を作製することを特徴とする複合粒子の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、新規な複合粒子の製造方法に関し、さらに詳しくは硬磁性相を形成する硬磁性粒子と軟磁性相を形成する軟磁性粒子とを高温処理などの特殊な処理法を用いることなく複合化して、高い保磁力(H)および磁化(M)を有する複合粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
磁性材料としては硬磁性材料と軟磁性材料とがあり、これらをそれぞれ特徴付ける性質は保磁力と最大磁束密度(最大磁化)であることが知られている。すなわち両者の対比において、硬磁性材料は保磁力が大きく永久磁石として高性能を発揮するが最大磁化は小さいのに対して、軟磁性材料は保磁力が小さいが最大磁化が大きいためトランス鉄心等として高性能を発揮する。
【0003】
この硬磁性材料に特徴的な保磁力は磁石の安定性に関係した特性であり、保磁力が大きいほど高温での使用が可能となり又磁石の寿命が長い。
一方、軟磁性材料に特徴的な最大磁化はモーターのトルク等に影響し、最大磁化が大きいほど磁場をかけるとより大きなパワーが出る。
【0004】
そして、これら硬磁性材料および軟磁性材料のそれぞれの特徴を改良する試みがなされてきた(特許文献1、非特許文献1)。
しかし、硬磁性材料および軟磁性材料のそれぞれの特徴が改良されても、硬磁性材料は最大磁化が小さく軟磁性材料は保磁力が小さい点については依然として未解決であった。
このため、近年、コンポジット磁石が検討され始めた(特許文献2〜4、非特許文献2)。
【0005】
【特許文献1】特開2005−175289号公報
【特許文献2】特開2003− 59708号公報
【特許文献3】特開2003−158005号公報
【特許文献4】特開2007− 39794号公報
【非特許文献1】J.Phys.Chem.B(2003年)、107、11022−11030
【非特許文献2】ジャーナル・オブ・ザ・ジャパン・ソサイアティ・オブ・パウダー・アンド・パウダー・メタラージィ(Journal of the Japan Society of Powder and Powder Metallurgy)51(2004年)143
【0006】
上記の特開2005−175289号公報には、沸点200℃以上の有機溶媒中で強磁性を示す金属の有機金属化合物と多価アルコールとアニオン界面活性剤とを非酸化条件下で加熱することによって還元された形状磁気異方性を有する非球状磁性の金属粒子を形成し、回収する磁性材料の製造方法が記載されている。そして、磁性材料として粒子サイズが10〜30nmの非球状Feナノ粒子が具体的に開示されている。
【0007】
上記のJ.Phys.Chem.B(2003年)には、Fe(CO)で示される鉄カルボニルの熱分解によるFeナノ粒子の製造法が記載されている。
【0008】
上記の特開2003−59708号公報には、原料合金の溶湯(例えば1500℃)を急冷して作製した急冷凝固合金を従来よりも長い結晶化熱処理(例えば700〜750℃で1800秒間又は3600秒間)を行うことにより保磁力を上昇させて、RFe14B系(R:希土類元素)の硬磁性相と鉄基硼化物の軟磁性相とが同一組織内に混在し内部にFe微粒子が分散したナノコンポジット磁石粉末およびその製造方法が記載されており、具体的にはナノコンポジット磁石はCrを含有する4元系組成合金が開示されている。
【0009】
上記の特開2003−158005号公報には、硬磁性相および軟磁性相を含有する4〜5元系組成合金の溶湯(例えば1350℃)を急冷する工程と急冷した合金を加熱(例えば680〜720℃)する工程により、交換相互作用によって磁気的に結合した硬磁性相および軟磁性相を有し高い保磁力および磁化を示すナノコンポジット磁石およびその製造方法が記載されている。そして、具体的に開示されているナノコンポジット磁石は図面によればそれぞれほぼ同じ大きさの軟磁性相と硬磁性相とが非接触の状態の組織を有している。
【0010】
上記のジャーナル・オブ・ザ・ジャパン・ソサイアティ・オブ・パウダー・アンド・パウダー・メタラージィには、溶湯を急冷して作製した急冷凝固材を熱処理してFe相を析出させてFe/NdFe14Bナノコンポジット磁石を得る方法が記載されている。
【0011】
上記の特開2007− 39794号公報には、硬磁性合金のナノ粒子と軟磁性金属又は合金のナノ粒子とを混合し、加圧成形し、焼結することによるナノコンポジット磁石の製造方法が記載されている。そして、具体的に開示されているナノコンポジット磁石の製造方法は硬磁性合金組成の合金ナノ粒子とFeナノ粒子との磁界中プレスによる圧縮成形法であり、得られるナノコンポジット磁石の最大エネルギー積(BHmax)および最大磁束密度のシミュレーション結果は単相硬磁性磁石よりも優れていることが示されている。しかし、ナノコンポジット磁石における硬磁性ナノ粒子と軟磁性ナノ粒子との相互作用については記載されていない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
つまり、これら公知の技術による硬磁性材料と軟磁性材料との複合化によるナノコンポジット磁石の製造法は、高温処理や特殊な加圧成形を必要とする製造法であるか、硬磁性ナノ粒子と軟磁性ナノ粒子との相互作用を得ることを意図しない製造法である。
しかし、前記の高温処理を必要とする製造法は結晶化での発熱量が多く制御が難しいため少量ずつの熱処理で温度制御する必要があり、再現性と大量合成の観点から工業的製造法としては不向きな製造法であることが指摘され、また硬磁性粒子と軟磁性ナノ粒子との相互作用が達成されないと高い磁化と保磁力を兼ね備えたナノコンポジット磁石を得ることは困難である。
【0013】
この発明者らは、高温処理などの特殊な成形を用いることなく硬磁性材料と軟磁性材料との相互作用を達成して複合化するために、硬磁性粒子と軟磁性粒子とを、これらの粒子が通常適用される不揮発性有機物質を使用して複合化を試みたところ、NdFe14B/Fe複合粒子の保磁力が大幅に低下することを見出した。
従って、この発明の目的は、硬磁性粒子と軟磁性粒子とから、出発原料の硬磁性粒子の磁化が改良され且つ保磁力が実質的に維持される高い保磁力および磁化を兼ね備えた複合粒子の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
この発明は、硬磁性相を形成する硬磁性粒子と、軟磁性相を形成する軟磁性粒子とを複合して複合粒子を作製する複合粒子の製造方法であって、前記複合粒子構成材料のうち最も酸化され易い材料の酸化物形成温度以下の温度領域で前記複合粒子を作製することを特徴とする複合粒子の製造方法に関する。
この発明の他の態様は、硬磁性相を形成する硬磁性粒子と、軟磁性相を形成する軟磁性粒子とを複合して複合粒子を作製する複合粒子の製造方法であって、所定温度領域以下で且つ15分以内に前記複合粒子を作製することを特徴とする複合粒子の製造方法に関する。
【0015】
さらに、この発明の他の態様は、硬磁性粒子及び軟磁性粒子を溶媒に分散させる分散工程と、前記硬磁性粒子表面に前記軟磁性粒子を還元・析出させる還元剤を前記溶媒に添加して複合粒子前駆体を作製する複合粒子前駆体作製工程と、該複合粒子前駆体表面に付着している前記溶媒を除去すると共に前記複合粒子前駆体を安定化させて複合粒子を作製する仮焼工程と、を含む複合粒子の製造方法であって、前記分散工程、複合粒子前駆体作製工程、及び仮焼工程が、前記複合粒子構成材料のうち最も酸化され易い材料の酸化物形成温度以下の温度領域で行われることを特徴とする複合粒子の製造方法に関する。
【0016】
さらに、この発明の他の態様は、硬磁性粒子及び軟磁性粒子を溶媒に分散させる分散工程と、前記硬磁性粒子表面に前記軟磁性粒子を還元・析出させる還元剤を前記溶媒に添加して複合粒子前駆体を作製する複合粒子前駆体作製工程と、該複合粒子前駆体表面に付着している前記溶媒を除去すると共に前記複合粒子前駆体を安定化させて複合粒子を作製する仮焼工程と、を含む複合粒子の製造方法であって、前記溶媒が揮発性溶媒であることを特徴とする複合粒子の製造方法に関する。
【0017】
さらに、この発明の他の態様は、硬磁性粒子及び軟磁性粒子を溶媒に分散させる分散工程と、該溶媒を攪拌して前記硬磁性粒子と軟磁性粒子とを物理的に衝突させることで複合粒子前駆体を作製する複合粒子前駆体作製工程と、該複合粒子前駆体表面に付着している前記溶媒を除去すると共に前記複合粒子前駆体を安定化させて複合粒子を作製する仮焼工程と、を含む複合粒子の製造方法であって、前記分散工程、複合粒子前駆体作製工程、及び仮焼工程が、前記複合粒子構成材料のうち最も酸化され易い材料の酸化物形成温度以下の温度領域で行われることを特徴とする複合粒子の製造方法に関する。
【0018】
さらに、この発明の他の態様は、硬磁性粒子及び軟磁性粒子を溶媒に分散させる分散工程と、該溶媒を攪拌して前記硬磁性粒子と軟磁性粒子と物理的に衝突させることで複合粒子前駆体を作製する複合粒子前駆体作製工程と、該複合粒子前駆体表面に付着している前記溶媒を除去すると共に前記複合粒子前駆体を安定化させて複合粒子を作製する仮焼工程と、を含む複合粒子の製造方法であって、前記溶媒が揮発性溶媒であることを特徴とする複合粒子の製造方法に関する。
【0019】
さらに、この発明の他の態様は、硬磁性相を形成する硬磁性粒子の表面に軟磁性相を形成する軟磁性粒子を接触・担持させて複合磁性粒子を分離・取得する複合化工程を含み、複合化工程が完了するまでの温度および時間について、出発原料の硬磁性粒子の保磁力が80%以上維持される条件によって複合化することを特徴とする複合粒子の製造方法に関する。
【0020】
この発明において硬磁性相を形成する硬磁性粒子とは、複合粒子を仮焼工程次いで焼結工程によってバルク化して形成される複合磁石中の硬磁性相を与える硬磁性粒子を意味する。また、軟磁性相を形成する軟磁性粒子とは、前記の複合磁石中の軟磁性相を与える軟磁性粒子を意味する。
また、軟磁性粒子とは、軟磁性材料からなる粒子だけでなく外皮(シェル)をも含む。
また、複合粒子前駆体とは溶媒を含んでいる複合粒子のことをいう。
【発明の効果】
【0021】
この発明によれば、複合化に高温での熱処理を必要とせず簡単な操作で、硬磁性粒子と軟磁性粒子との相互作用が達成されて、出発原料の硬磁性粒子の保磁力が実質的に維持され且つ磁化が改良され高い保磁力および磁化を兼ね備えた複合粒子を得ることができる。
この出発原料の硬磁性粒子の保磁力が実質的に維持されるとは、後述の実施例の欄で詳細に説明される測定法による複合粒子についての磁気特性を示すMH曲線における保磁力[M=0emu/gにおける保磁力(H[kOe])(以下、単に保磁力という場合もある。)]が出発原料の硬磁性粒子についての磁気特性を示すMH曲線における保磁力[M=0emu/gにおける保磁力(H[kOe])]の80%以上(好適には90%以上)維持されることを意味する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
この発明における好適な態様を次に示す。
1)前記硬磁性粒子がR−Fe−B合金(R:希土類元素)であり、前記軟磁性粒子がFe又はCoである前記の複合粒子の製造方法。
2)前記溶媒の沸点が100℃以下である前記の複合粒子の製造方法。
3)前記溶媒が揮発性である前記の複合粒子の製造方法。
4)前記溶媒が、無水エタノール、無水ヘキサン、無水テトラヒドロフラン、エタノール、ヘキサン、テトラヒドロフランから選ばれる少なくとも1種である前記の複合粒子の製造方法。
5)前記酸化物形成温度、所定温度が、100℃である前記の複合粒子の製造方法。
6)前記酸化物形成温度、所定温度が、50℃である前記の複合粒子の製造方法。
7)前記仮焼工程が還元雰囲気下に行われる前記の複合粒子の製造方法。
【0023】
この発明においては複合磁性粒子用の硬磁性材料として、硬磁性粒子を使用することが必要である。
前記の硬磁性粒子としては、1nm〜10μm程度、特に30nm〜5μm程度の粒径を有する任意の硬磁性金属又は合金粒子が挙げられる。前記の硬磁性金属又は合金として、例えばR−Fe−B合金(R:希土類元素)、FePt、FePdなど、好適にはR−Fe−B合金(R:希土類元素、例えば、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu等、特にPr、Nd、Sm、Dy、Tb等。以下、例えば以下の記載を省略する。)からなる粒子が挙げられる。特に、硬磁性粒子としてNdFe14B粒子を挙げることができる。
また、FePt又はFePdは容易にnmオーダーの粒子を得ることができ、ナノ複合粒子を得る場合には好適である。
前記のR−Fe−B合金磁性粒子は、合金用原料、例えば希土類金属、好適にはNdインゴットと金属FeとFeBとを溶解して合金とし、得られた合金を粉砕機、例えばビーズミルを用いて粉砕してnmオーダーからμmオーダーまで微細化することによって得ることができる。前記の合金用原料は市販品を使用することができる。また、前記の粉砕は不活性雰囲気下に行うことが好ましい。
【0024】
この発明においては複合磁性粒子用の軟磁性材料としては、軟磁性粒子を使用することが必要である。
前記の軟磁性粒子は、予め形成された軟磁性ナノ粒子であってもよく、あるいは軟磁性粒子を与える軟磁性前駆体の化学還元法によって溶媒中で還元・析出して形成させたものであってもよい。
前記の軟磁性粒子として、予め形成した軟磁性粒子を使用する場合は1〜10nm程度、特に3〜7nm程度、その中でも約5nm程度のFe、Co、Ni、FeB、FeCoなどからなる軟磁性粒子、好適にはFe又はCoからなる磁性粒子、その中でも特にFe粒子(α−Fe粒子)を挙げることができる。
また、前記の軟磁性粒子は、軟磁性粒子を与える軟磁性前駆体の化学還元法によって溶媒中で還元して硬磁性粒子表面に析出させて形成する場合は、軟磁性材料からなる粒子であってもよく外皮状(シェル)であってもよい。
また、前記の軟磁性粒子の量は、複合粒子中の硬磁性粒子の体積割合が平均として約5〜70Vol%、特に約30〜60Vol%となる量であることが好ましい。
【0025】
前記の予め形成された軟磁性ナノ粒子は、例えばFe化合物又はCo化合物を、逆ミセル法、ポリオール還元法によって鉄ナノ粒子又はコバルトナノ粒子として得ることができる。前記のポリオール還元法は、例えばエチレングリコール、ポリエチレングリコール等のポリオールの存在下、加熱することによってナノ粒子を得ることができる。具体的には、高沸点溶媒中、オレイン酸やオレイルアミンの存在下に攪拌下にポリオールを添加してFe化合物又はCo化合物を還元した後、反応混合物を冷却して析出物を取得することによって、Fe又はCoのナノ粒子として得ることができる。
【0026】
また、前記の軟磁性前駆体の化学還元法により複合化の溶媒中で軟磁性前駆体を還元剤によって還元する場合の軟磁性前駆体としては、軟磁性材料がFeの場合はFe2+でもFe3+でもよいが室温程度の温度で溶媒に溶解するものが好ましく、例えばFeCl、Fe(OH)、FeSO、Fe(NO、Fe(acac)、フェロセンなどを挙げることができ、また軟磁性材料がCoの場合はCo2+でもCo3+でもよいが室温程度の温度で溶媒に溶解するものが好ましく、例えばCoCl、CoSO、Co(CHCOO)などを挙げることができる。
【0027】
前記の軟磁性前駆体の化学還元法における還元剤としては、前記の軟磁性材料、好適にはFe又はCoの還元電位(例えばFeの場合は−0.44V)よりも卑の標準酸化還元電位を有するものであれば制限はなく、例えば、NaBH、LiBH、NaBHCNなどを挙げることができる。
前記の還元剤は、原料の軟磁性前駆体から得られる軟磁性粒子の金属1モルに対して1.0〜10モル程度、特に2.0〜5.0モル程度であることが好ましい。
【0028】
この発明の第1の態様においては、硬磁性相を形成する硬磁性粒子と、軟磁性相を形成する軟磁性粒子と複合して複合粒子を作製する際に、複合化が完了するまでの温度および時間について、前記の複合粒子構成材料のうち最も酸化され易い材料の酸化物形成温度以下の温度領域で前記複合粒子を作製することが必要である。
前記の複合粒子構成材料のうち最も酸化され易い材料とは、硬磁性材料がR−Fe−B合金(R:希土類元素)である場合はR−Fe−B合金が挙げられる。
また、前記の酸化物形成温度とは、酸化物形成の可能性が生じる温度のことをいう。
そして、前記の酸化物形成温度以下の温度領域とは、例えば100℃以下の温度、特に50℃以下の温度が挙げられる。つまり、前記の酸化物形成温度は絶対的な温度ではなく時間や雰囲気(例えば、真空度)によっても異なる。また、工程が複数ある場合、工程によって異なる温度であってもよい。前記の温度領域で複合化することによって、得られる複合粒子は後述の実施例の欄に詳細に説明される測定法による出発原料の硬磁性粒子の磁気特性の1つである保磁力が実質的に、好適には80%以上、特に90%以上維持され得る。
【0029】
また、前記の第2の態様において、硬磁性相を形成する硬磁性粒子と、軟磁性相を形成する軟磁性粒子とを複合して複合粒子を作製する際に、所定温度領域以下で且つ15分以内に前記複合粒子を作製することが必要である。
前記の所定温度領域以下とは、後述の実施例の欄に詳細に説明される測定法による出発原料の硬磁性粒子の磁気特性の1つである保磁力が実質的に、好適には80%以上、特に90%以上維持され得る温度領域であり、例えば100℃以下、特に50℃以下の温度が挙げられる。この態様においては、所定温度領域以下で且つ15分以内に前記複合粒子を作製することが必要である。
【0030】
また、前記の第3の態様において、硬磁性粒子及び軟磁性粒子を溶媒に分散させる分散工程と、前記硬磁性粒子表面に前記軟磁性粒子を還元・析出させる還元剤を前記溶媒に添加して複合粒子前駆体を作製する複合粒子前駆体作製工程と、該複合粒子前駆体表面に付着している前記溶媒を除去すると共に前記複合粒子前駆体を安定化させて複合粒子を作製する仮焼工程、を含み、前記各工程が前記複合粒子構成材料のうち最も酸化され易い材料の酸化物形成温度以下の温度領域で行われることが必要である。
【0031】
前記の複合粒子前駆体とは溶媒を含む複合粒子のことをいう。
前記の仮焼工程は、複合粒子前駆体表面に付着している前記溶媒を除去すると共に前記複合粒子前駆体を安定化させて複合粒子を作製する工程であり、還元雰囲気下又は真空下、特に還元雰囲気下が好ましい。前記の真空下とは高度の真空度、例えば5x10−3Pa以下であることが好ましいが、温度が前記の範囲、例えば100℃以下、特に50℃以下に維持できる圧力であれば低度の真空であってもよい。また、前記の各工程が前記複合粒子構成材料のうち最も酸化され易い材料の酸化物形成温度より低い温度領域とは、硬磁性粒子がR−Fe−B合金(R:希土類元素)である場合はR−Fe−B合金の酸化物形成以下の温度、好適には100℃以下の温度、特に50℃以下の温度である温度領域が挙げられる。また、還元雰囲気下又は真空下である場合には溶媒が除かれて後の最終加熱温度は300℃以下であってよい。
【0032】
また、前記の第4の態様において、硬磁性粒子及び軟磁性粒子を溶媒に分散させる分散工程と、前記硬磁性粒子表面に前記軟磁性粒子を還元・析出させる還元剤を前記溶媒に添加して複合粒子前駆体を作製する複合粒子前駆体作製工程と、該複合粒子前駆体表面に付着している前記溶媒を除去すると共に前記複合粒子前駆体を安定化させて複合粒子を作製する仮焼工程を含み、前記溶媒が揮発性溶媒であることが必要である。
前記の揮発性溶媒としては、前記の複合粒子前駆体表面に付着している前記溶媒を除去すると共に前記複合粒子前駆体を安定化させて複合粒子を作製する仮焼工程において、従って前記の真空〜常圧で前記の温度範囲、好適には100℃未満の沸点を有する溶媒を挙げることができる。
このような溶媒としては、エタノール、n−プロパノール、イソープロパノール、メタノール、n−ヘキサン、テトラヒドロフラン、N−メチル−2−ピロリドン、ジフェニルエーテルなど、好適には常圧で前記の温度範囲を満足するエタノール、n−プロパノール、イソープロパノール、メタノール、n−ヘキサン、テトラヒドロフランが挙げられる。
【0033】
また、前記の第5の態様において、硬磁性粒子及び軟磁性粒子を溶媒に分散させる分散工程と、該溶媒を攪拌して前記硬磁性粒子と軟磁性粒子とを物理的に衝突させることで複合粒子前駆体を作製する複合粒子前駆体作製工程と、該複合粒子前駆体表面に付着している前記溶媒を除去すると共に前記複合粒子前駆体を安定化させて複合粒子を作製する仮焼工程を含み、前記各工程が、前記複合粒子構成材料のうち最も酸化され易い材料の酸化物形成温度より低い温度領域で行われることが必要である。
前記の仮焼工程および酸化物形成温度より低い温度領域との温度条件については、前述の態様における条件と同様である。
【0034】
また、前記の第6の態様において、硬磁性粒子及び軟磁性粒子を溶媒に分散させる分散工程と、該溶媒を攪拌して前記硬磁性粒子と軟磁性粒子と物理的に衝突させることで複合粒子前駆体を作製する複合粒子前駆体作製工程と、該複合粒子前駆体表面に付着している前記溶媒を除去すると共に前記複合粒子前駆体を安定化させて複合粒子を作製する仮焼工程を含み、前記溶媒が揮発性溶媒である。
前記の仮焼工程および揮発性溶媒の条件については、前述の態様における条件と同様である。
【0035】
また、前記の第7の態様において、硬磁性相を形成する硬磁性粒子の表面に軟磁性相を形成する軟磁性粒子を接触・担持させて複合磁性粒子を分離・取得する複合化工程を含み、複合化工程が完了するまでの温度および時間について、出発原料の硬磁性粒子の保磁力が80%以上維持される条件によって複合化することが必要である。
前記の複合化工程が完了するまでの温度および時間については前述の条件から選択することができる。
【0036】
前記のいずれの態様においても、硬磁性粒子に軟磁性粒子を接触・担持して複合粒子を作製することが必要である。
前記の各態様において、硬磁性粒子と軟磁性粒子とを均一に分散するために、溶媒としては、酸化を抑制することが可能である溶媒を使用することが好ましく、このような溶媒として好適には比較的水分濃度および溶存酸素濃度が低いものが好ましく、例えばエタノール、n−プロパノール、イソープロパノール、メタノール、n−ヘキサン、テトラヒドロフラン、N−メチル−2−ピロリドン、ジフェニルエーテルなどが挙げられる。
これらの溶媒の中でも、特に揮発性が高いエタノール、ヘキサンおよびテトラヒドロフラン、その中でも水分濃度の低い無水エタノール、無水ヘキサン、無水テトラヒドロフランが好適である。
【0037】
前記の軟磁性粒子を接触・担持する方法が軟磁性前駆体の化学還元法である場合に、軟磁性前駆体と溶媒との組み合わせとして軟磁性前駆体とその軟磁性前駆体を溶解し得る溶媒との組合せが特に好適である。このような軟磁性前駆体と溶媒との組合せとして、(無水)エタノール/FeCl、(無水)エタノール/Fe(acac)、N−メチル−2−ピロリドン/FeCl、テトラヒドロフラン/FeCl、ヘキサン/Fe(acac)の組合せが好適である。
【0038】
また、揮発性の低い(高沸点の)溶媒を使用する場合は、複合磁性粒子を分離・取得する工程の前又は後に、好適には分離・取得前に揮発性の低い溶媒を揮発性の高い前記溶媒で置換した後に複合磁性粒子の分離・取得工程を完了するか、あるいは減圧を適用して分離・取得する際の温度を下げることが好ましい。しかし、全工程の時間に制限があることから、複合化の工程の最初から揮発性の高い沸点が100℃以下の前記溶媒を使用することが好ましい。
また、前記の溶媒としては、界面活性剤は必須ではなく少量でも残存すると得られる複合磁性材料の保磁力低下をもたらす可能性があり、その除去のために多くの時間と温度を必要とするため、界面活性剤を含まないものが好ましい。
【0039】
この発明においては、前記の硬磁性粒子と軟磁性粒子とを接触・担持させることと、複合磁性粒子を分離・取得する複合化全工程において、複合化が完了するまでの温度および時間として、複合磁性粒子を与える硬磁性粒子の磁気特性の1つである保磁力が80%以上、好適には90%以上維持される条件によって複合化を完了することを組み合わせることが必要である。
前記の複合化全工程において、硬磁性粒子と軟磁性粒子とを接触・担持させても複合化が完了するまでの温度および時間が前記の条件を満足しないと、得られる複合磁性粒子の保磁力が大幅に低下し満足のいく複合粒子が得られない。また、硬磁性粒子と軟磁性粒子とを接触・担持させて複合化しないと硬磁性粒子と軟磁性ナノ粒子との相互作用を得ることが容易ではなく、複合粒子の磁化が改善され難い。
【0040】
前記の複合化における硬磁性粒子と軟磁性粒子との接触・担持は、軟磁性粒子を与える軟磁性前駆体の化学還元法によって媒体中で現場で(in situ)硬磁性粒子表面に軟磁性粒子を還元・析出させることによって硬磁性粒子表面にナノ軟磁性粒子を担持させることができる。又は、予め形成した軟磁性粒子を用いて硬磁性粒子と軟磁性粒子を含む媒体を攪拌混合しながら凝集溶媒を添加して、硬磁性粒子表面にナノ軟磁性粒子を担持させることができる。この凝集溶媒としては、揮発性が高いアセトンやエタノールが挙げられる。
次いで、溶媒中で硬磁性粒子表面にナノ軟磁性粒子が担持されて複合化された複合磁性粒子を含む溶媒混合物である複合粒子前駆体から溶媒を除いて、複合粒子を得ることができる。
【0041】
この発明における複合化が完了するまでの好適な温度および時間について、出発原料の硬磁性粒子の磁気特性の1つである保磁力が80%以上、好適には90%以上維持される条件(温度、時間)について、加熱処理前の硬磁性粒子のMH曲線および実施例で得られた複合粒子のMH曲線を示す図1および、種々の温度で加熱処理した硬磁性粒子のMH曲線から求めた保磁力と加熱温度との関係を示す図2および50℃又は100℃における保磁力と加熱温度との関係を示す図3を用いて説明する。
図2は、硬磁性粒子としてR−Fe−B合金の代表例であるNdFe14B粒子を用い、複合化溶媒として高沸点溶媒を用い、加熱する時間を15分間で一定にして、20〜300℃の範囲内の種々の温度で熱処理後の磁性粒子の保磁力維持率(加熱処理前のNdFe14B粒子の保磁力に対する割合を%表示)を示す。
【0042】
図1に示されるように、実施例で得られた複合粒子の磁気特性は、出発原料の硬磁性粒子の磁気特性と比較して磁化が改良され、且つ複合粒子の保磁力が出発原料の1つである硬磁性粒子の保磁力の98%以上維持されており、保磁力が実質的に維持されている。
図2および図3で示される加熱処理後の硬磁性粒子の保磁力が加熱処理前の出発原料である硬磁性粒子の保磁力の80%以上を維持する温度および時間としては、温度が100℃以下(溶媒の凝固温度以上、好適には0℃以上)、その中でも特に50℃以下(0℃以上)であり、時間が100℃では120分間以内、特に60分間以内程度であることが判る。また、前記の範囲内で温度を低くすれば時間としてはより長い時間が可能であり、温度を高くすればより短い時間を採用することが必要であることがわかる。これらの好適な条件はこの明細書の記載に基いて当業者が適宜選択することが可能である。例えば、温度が常温(20℃)であれば、長時間であっても出発原料の1つである硬磁性粒子の保磁力が維持される。
【0043】
また、硬磁性粒子としてNdFe14B粒子以外の磁性粒子を用いる場合も同様に、15分間の一定時間で温度を変えて加熱処理して得られる各温度での硬磁性粒子のMH曲線の保磁力が加熱処理前の出発原料である硬磁性粒子の保磁力の80%以上確保される温度を求めることによって複合化完了までの条件を求めることが可能である。しかし、このような場合も、100℃以下、特に50℃以下の温度、120分以内、特に60分以内の時間であれば複合化の完了までの温度、時間として凡その目安となりえることは明らかである。
【0044】
また、軟磁性材料の供給法として化学還元法を採用する場合に、硬磁性粒子および軟磁性材料前駆体を含む溶媒中に、機械的に攪拌下、還元剤を加えて軟磁性材料前駆体から軟磁性粒子を生じさせることが好ましく、この場合に還元反応が発熱反応であるため極端に短い時間を採用して一度に大量の還元剤を媒体中に投入することは急な発熱をもたらすため、緩やかな還元反応を可能とする還元剤の逐次添加によって硬磁性粒子表面への軟磁性粒子の析出による接触・担持を完了させることが好ましい。前記の還元剤は媒体に均一に分散させて添加してもよい。逐次添加の温度および時間としては、前記の100℃以下、60分以内であることが好ましい。
【0045】
以下、この発明における前記の硬磁性粒子表面に軟磁性粒子を接触・担持させる工程について、この複合化工程の1実施態様を示す図4および他の1実施態様を示す図5を用いて説明する。
図4において、硬磁性粒子の一例であるNdFe14B粒子を溶媒中に分散し、軟磁性粒子の一例であるFe粒子(皮膜)を形成するための前駆体を添加し、還元剤を加えてFeを硬磁性粒子表面に還元・析出させ、さらに攪拌混合を続けてNdFe14B粒子表面にFeをシェル化してNdFe14B粒子表面にFe粒子の接触・担持が達成される。
図5において、化学合成されたα−Fe(分散剤添加)と機械粉砕されたNdFe14B粒子(分散剤添加)が溶媒中で攪拌混合される中、凝集用溶媒としてアセトンが滴下され、粒子同士が衝突、凝集を起こし、NdFe14B粒子表面にα−Fe粒子の接触・担持が達成される。
【0046】
さらに、この発明における複合化工程の他の1実施態様の仮焼工程を示す図6を用いて説明する。
図6において、硬磁性粒子の一例であるNdFe14B粒子と軟磁性粒子の一例であるFe粒子とから、溶媒中で作製された複合粒子前駆体(図示せず)がN、20℃での仮焼工程で複合粒子前駆体表面に付着した溶媒が除かれて複合粒子が作製され、さらに真空、200℃で加熱されて有機物が除かれる。
【0047】
この発明においては、前記のいずれかの方法によって、前記の温度および時間の条件により、溶媒中で硬磁性相を形成する硬磁性粒子の表面に軟磁性相を形成する軟磁性粒子を接触・担持させた後、複合粒子を含む溶媒−複合粒子混合物から複合粒子を分離・取得する。
前記の溶媒−複合粒子混合物から複合磁性粒子を分離・取得する方法としては、溶媒の蒸発および/又はろ過、遠心分離などが挙げられる。還元法による軟磁性前駆体から溶媒中で得られる軟磁性粒子を用いる場合は、未反応の還元剤あるいはその副生物を除去するために複合粒子をろ過や遠心分離した後に複合粒子を溶媒で充分に洗浄することが好ましい。洗浄するための溶媒は前記の高蒸気圧(低沸点)溶媒(揮発性溶媒)が好ましいが他の高蒸気圧(低沸点)溶媒であってもよい。また、溶媒の蒸発は常圧、減圧のいずれであってもよい。
【0048】
この分離・取得の工程は、前記の接触・担持の工程を含めた工程の温度と時間が、前記の条件を満足する、好適には100℃以下、120分以内、特に60分以内で行って硬磁性粒子の保磁力低下を抑制することが必要である。従って、溶媒として種々の理由によって好ましくはないが蒸気圧の低い(沸点の高い)溶媒を用いた場合には、分離・取得の工程の前又は後、好適には分離・取得の工程の前に蒸気圧の高い(沸点の低い)溶媒で置き換えることが好ましい。この溶媒の置き換えはそれ自体公知の方法によって行うことができる。
この発明の方法において、前記の分離・取得の工程は100℃以下、特に50℃以下で可能な限り短時間で行うことが好ましい。
この発明の方法において、可能であれば、15分以内で全ての工程を終らせることが好ましい。15分以内で全ての工程を終らせるためには、例えば、還元剤添加時間を20分から5分へ短縮し、真空乾燥等によって乾燥時間を10分以内とすることによって可能となる。
【0049】
前記の方法によって、酸化が抑制され良好な磁気特性を有する複合粒子を得ることができる。
前記の方法において複合粒子に溶媒が残存する場合には、さらに乾燥することが好ましい。この場合、温度および時間については前記の温度および全体の時間が前記の範囲内となることが好ましい。
また、軟磁性粒子の安定化のために、前記の溶媒を完全に除いた後に、さらに温度を上昇させて加熱する仮焼工程を設けてもよい。この仮焼工程によって、硬磁性粒子表面に担持された軟磁性粒子が薄層化されてもよい。
特に、仮焼工程の一部又は全部が還元雰囲気下に行われると、軟磁性粒子の一部が酸化されている場合であっても還元されて完全に金属化又は合金化されて複合粒子の磁化が改良されるので好ましい。
【0050】
この発明の方法によれば、溶媒中で緩やかな温度条件を採用して均一で高磁化であるだけでなく保磁力が大きく磁気特性の良好な複合粒子を得ることができる。
この発明の方法によって保磁力が実質的に低下しない複合粒子が得られる理由は明らかではないが、酸化および/又は非晶質化、特に酸化による硬磁性粒子へのダメージが少ないためであると考えられる。
【0051】
この発明の方法によって得られる複合粒子は、硬磁性粒子の保磁力を維持しかつ硬磁性粒子と軟磁性粒子との相互作用に基く良好な磁化を維持したコンポジット磁石を与えることができる。
この発明により得られる複合粒子からは、硬磁性相を軟磁性粒子から形成される軟磁性相によって被覆されたバルク体を得ることができる。
【実施例】
【0052】
以下、この発明の実施例を示す。
以下の実施例において、複合粒子および原料の硬磁性粒子のMH曲線はVSM測定(振動試料型磁力計:Vibrating Sample Magnetometer System)によって、装置としてLake Shorc社製のVSM測定装置を用いて測定したものである。
また、複合粒子は、透過型電子顕微鏡(TEM)によって粒子の形状を測定し、エネルギー分散型X線分析(EDX)(TEM−EDX)によって硬磁性粒子部分と軟磁性粒子部分のFe、Ndをそれぞれ分析した。
【0053】
実施例1
1.NdFeB粒子の加熱温度と保磁力の関係図の作成
溶媒としてオレイン酸8mlとオレイルアミン8.5mlとの混合液を容器に入れて、マントルヒーターを用いて所定の温度まで昇温させた。一方、グローブボックス中で単ロール炉で作製したNdFe14Bリボンを乳鉢で粉砕したNdFe14B粒子50mgをこの混合液中に投入し、攪拌しながら15分間所定の温度に保持した。次いで、NdFe14B粒子を取り出し、室温に戻してからアセトンで粒子表面を洗浄した。なお、NdFe14B粒子の取り扱いはいずれもグローブボックス中で行った。
加熱修理前のNdFe14B粒子および各温度で15分間加熱処理したNdFe14B粒子の磁気特性をVSMを用いて評価した。
出発原料の硬磁性粒子であるNdFe14B粒子のMH曲線を実施例1で得られた複合粒子のMH曲線とともに図1に示す。また、各温度での加熱処理後のNdFe14B粒子の保磁力をまとめて図2に示す。
この図2より、硬磁性粒子としてNdFe14B粒子を用いる場合、加熱時間が15分間では100℃以下の温度、特に50℃以下の温度が好適であることがわかる。
【0054】
2.硬磁性粒子としてNdFeB粒子を用いて複合粒子の作製
単ロールで作製したNdFe14Bリボンをグローブボックス中において乳鉢で粉砕した。得られたNdFe14B粒子を反応容器中の無水エタノール(界面活性剤なし)中に分散させた。次いで、Fe前駆体としてFeCl・4HOを加えた。混合物を機械的に攪拌させながら、還元剤としてNaBHを20分間かけて逐次添加した。この間の液の温度は20℃であった。次いで、複合粒子を取り出し、室温に戻してから無水エタノールで粒子表面を洗浄し、真空乾燥によって20℃で10分間乾燥して、複合磁性粒子を取得した。この複合化の全工程に要した時間は30分間であった。
【0055】
得られた複合粒子の磁気特性をVSMを用いて評価した。複合粒子のMH曲線を出発原料であるNdFe14B粒子のMH曲線とともに図1に示す。
得られた複合粒子は、保磁力が15.9kOeであり、出発原料であるNdFe14B粒子の保磁力:16.1kOeと比較して保磁力の低下が抑制されており磁化が改良されている。また、TEM観察より、サブミクロンレベルのNdFeB粒子に5nm程度のFeナノ粒子が担持されており、硬磁性粒子と軟磁性粒子の相互作用が得られる構造であることが確認された。また、複合粒子のTEM像と硬磁性粒子部分および軟磁性粒子部分のそれぞれのTEM−EDXの結果をまとめて図7に示す。
【0056】
実施例2
グローブボックス中で、市販の単ロールで作製したNdFe14Bリボンを乳鉢で粉砕した。得られたNdFe14B粒子を反応容器中の無水エタノール(界面活性剤なし)中に分散させた。次いで、軟磁性粒子として常温で作製したFe粒子(界面活性剤なし、溶媒:無水エタノール)を混合した。混合物を攪拌しながら、アセトンを滴下して凝集を起こしながらNdFeB粒子とFe粒子を複合化させて、複合磁性粒子を取得する。複合化全工程の温度は20〜50℃、時間は120分間である。
この実施例に用いられるFe粒子(界面活性剤なし、溶媒:無水エタノール)のTEM像を図8に示す。
得られる複合粒子は、出発原料であるNdFe14B粒子の保磁力:16.1kOeと比較して保磁力の低下が抑制される。
【0057】
比較例1
NdFe14B粒子とFe前駆体としてのFe(acac)とから、オクチルエーテル(溶媒)およびオレイン酸、オレイルアミン(界面活性剤)(割合:60:1:1、容積比)および還元剤としてヘキサデカンジオールを用いて、230℃で15分間のポリオール還元法を用いた他は実施例1と同様にして、複合粒子を生成させた。
この複合粒子を取り出し、室温に戻してからアセトンで粒子表面を洗浄した。複合粒子の磁気特性をVSMを用いて評価した。得られた複合粒子のMH曲線を出発原料であるNdFe14B粒子のMH曲線とともに図9に示す。複合粒子の保磁力は出発原料の保磁力:16.1kOeから4.1kOeに低下した。
【0058】
参考例1
市販の単ロールで作製したNdFe14Bリボンを乳鉢で粉砕して得られたNdFe14B粒子を種々の雰囲気下、230℃の熱処理温度一定で、15分間熱処理した後、保磁力を測定した。結果は以下の通りであった。
熱処理雰囲気と保磁力(H(kOe))
オレイン酸+オレイルアミン 3.9
オクチルエーテル 9.8
粉のみ(グローブボックス、N雰囲気、酸素濃度0.01%) 6.1
粉のみ(ランプ炉、真空度5x10−3Pa) 16.5
以上の結果は、グローブボックス、溶媒中の水分、酸素濃度の低下ができないならば、高温での処理では雰囲気を変えても、真空の場合を除いて硬磁性粒子の保磁力の大幅な低下は避けられないことを示す。
【0059】
参考例2
実施例1の出発原料のNdFe14B粒子の加熱温度と保磁力の関係図の作成において、温度を50℃又は100℃に固定し、保持する時間を15分〜120分間内で変えた他は同様にして、50℃又は100℃における保磁力の時間依存性を確認した。
結果をまとめて図3に示す。
図3の結果から、硬磁性粒子としてNdFe14B粒子を用いる場合、100℃では保磁力90%以上は、時間として60分以内であり、保磁力80%以上は、時間として120分以内であることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】図1は、この発明の実施例における出発原料の硬磁粒子性であるNdFe14B粒子のMH曲線および複合化によって得られた複合粒子のMH曲線を示す。
【図2】図2は、硬磁性粒子の一例であるNdFe14B粒子を20〜300℃の範囲内の所定の温度で15分間熱処理後の保磁力維持率(加熱処理前の保磁力に対する割合を%表示)を示す。
【図3】図3は、硬磁性粒子の一例であるNdFe14B粒子を50℃又は100℃で15分〜120分間熱処理後の保磁力維持率を示す。
【図4】図4は、この発明における複合化工程の1実施態様を示す。
【図5】図5は、この発明における複合化工程の他の1実施態様を示す。
【図6】図6は、この発明における複合化工程の他の1実施態様の仮焼工程を示す。
【図7】図7は、実施例1で得られた複合磁性粒子のTEM像と硬磁性粒子部分および軟磁性粒子部分のそれぞれのTEM−EDXの結果を示す。
【図8】図8は、実施例で用いられるFe粒子(界面活性剤なし、溶媒:無水エタノール)の一例のTEM像である。
【図9】図9は、比較例1の出発原料の硬磁粒子性であるNdFe14B粒子のMH曲線および複合化によって得られた複合粒子のMH曲線を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
硬磁性相を形成する硬磁性粒子と、軟磁性相を形成する軟磁性粒子とを複合して複合粒子を作製する複合粒子の製造方法であって、前記複合粒子構成材料のうち最も酸化され易い材料の酸化物形成温度以下の温度領域で前記複合粒子を作製することを特徴とする複合粒子の製造方法。
【請求項2】
硬磁性相を形成する硬磁性粒子と、軟磁性相を形成する軟磁性粒子とを複合して複合粒子を作製する複合粒子の製造方法であって、所定温度領域以下で且つ15分以内に前記複合粒子を作製することを特徴とする複合粒子の製造方法。
【請求項3】
前記硬磁性粒子がR−Fe−B合金(R:希土類元素)であり、前記軟磁性粒子がFe又はCoである請求項1又は2に記載の複合粒子の製造方法。
【請求項4】
硬磁性粒子及び軟磁性粒子を溶媒に分散させる分散工程と、前記硬磁性粒子表面に前記軟磁性粒子を還元・析出させる還元剤を前記溶媒に添加して複合粒子前駆体を作製する複合粒子前駆体作製工程と、該複合粒子前駆体表面に付着している前記溶媒を除去すると共に前記複合粒子前駆体を安定化させて複合粒子を作製する仮焼工程と、を含む複合粒子の製造方法であって、前記分散工程、複合粒子前駆体作製工程、及び仮焼工程が、前記複合粒子構成材料のうち最も酸化され易い材料の酸化物形成温度以下の温度領域で行われることを特徴とする複合粒子の製造方法。
【請求項5】
硬磁性粒子及び軟磁性粒子を溶媒に分散させる分散工程と、前記硬磁性粒子表面に前記軟磁性粒子を還元・析出させる還元剤を前記溶媒に添加して複合粒子前駆体を作製する複合粒子前駆体作製工程と、該複合粒子前駆体表面に付着している前記溶媒を除去すると共に前記複合粒子前駆体を安定化させて複合粒子を作製する仮焼工程と、を含む複合粒子の製造方法であって、前記溶媒が揮発性溶媒であることを特徴とする複合粒子の製造方法。
【請求項6】
硬磁性粒子及び軟磁性粒子を溶媒に分散させる分散工程と、該溶媒を攪拌して前記硬磁性粒子と軟磁性粒子とを物理的に衝突させることで複合粒子前駆体を作製する複合粒子前駆体作製工程と、該複合粒子前駆体表面に付着している前記溶媒を除去すると共に前記複合粒子前駆体を安定化させて複合粒子を作製する仮焼工程と、を含む複合粒子の製造方法であって、前記分散工程、複合粒子前駆体作製工程、及び仮焼工程が、前記複合粒子構成材料のうち最も酸化され易い材料の酸化物形成温度以下の温度領域で行われることを特徴とする複合粒子の製造方法。
【請求項7】
硬磁性粒子及び軟磁性粒子を溶媒に分散させる分散工程と、該溶媒を攪拌して前記硬磁性粒子と軟磁性粒子と物理的に衝突させることで複合粒子前駆体を作製する複合粒子前駆体作製工程と、該複合粒子前駆体表面に付着している前記溶媒を除去すると共に前記複合粒子前駆体を安定化させて複合粒子を作製する仮焼工程と、を含む複合粒子の製造方法であって、前記溶媒が揮発性溶媒であることを特徴とする複合粒子の製造方法。
【請求項8】
前記溶媒の沸点が100℃以下である、請求項4〜7のいずれか1項に記載の複合粒子の製造方法。
【請求項9】
前記溶媒が揮発性である、請求項4又は6に記載の複合粒子の製造方法。
【請求項10】
前記溶媒が、無水エタノール、無水ヘキサン、無水テトラヒドロフラン、エタノール、ヘキサン、テトラヒドロフランから選ばれる少なくとも1種である、請求項4〜9のいずれか1項に記載の複合粒子の製造方法。
【請求項11】
前記酸化物形成温度、所定温度が、100℃である、請求項1〜4、6、8〜10のいずれか1項に記載の複合粒子の製造方法。
【請求項12】
前記酸化物形成温度、所定温度が、50℃である、請求項1〜4、6、8〜10のいずれか1項に記載の複合粒子の製造方法。
【請求項13】
前記仮焼工程が還元雰囲気下に行われる、請求項4〜12のいずれか1項に記載の複合粒子の製造方法。
【請求項14】
硬磁性相を形成する硬磁性粒子の表面に軟磁性相を形成する軟磁性粒子を接触・担持させて複合粒子を分離・取得する複合化工程を含み、複合化工程が完了するまでの温度および時間について、出発原料の硬磁性粒子の保磁力が80%以上維持される条件によって複合化することを特徴とする複合粒子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図9】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−30149(P2009−30149A)
【公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−245966(P2007−245966)
【出願日】平成19年9月21日(2007.9.21)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】