説明

複合糖質ワクチン

複合糖質ワクチンならびにこれを調製および使用する方法が記載されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2009年3月23日出願の米国仮出願第61/162、619号の出願日遡及の特典を主張し、参照によりその全体を本明細書に包含する。
【0002】
技術分野
本発明は、複合糖質、例えば、複合糖質ワクチンに関する。
【背景技術】
【0003】
大抵の病原菌は、通常、高分子量(高MW)表面多糖を産生し、細菌性表面を被覆し取り囲むカプセルにする。これら表面炭水化物は、移動性貪食細胞および組織定着性マクロファージ(微生物の成長と拡散を制限し、微生物原因疾患を防ぐ能力の多くを説明できる重要な宿主防衛機序を構成する細胞群)による食作用に対抗して細菌性病原体に実質的な保護を提供する(Janeway et al.、Immunobiology、6th edition、Garland Science Publishing.New York、2005)。固有の多糖構造は、様々な形で機能し、免疫系との細菌性相互作用に影響を与え、また、炭水化物の微細構造がその特性を−さらに実際に免疫応答特性そのものを−決定づけることができるパラダイムとなる。
【0004】
数十年前、マウスを使った調査で、炭水化物はT細胞非依存性抗原であることが明らかになった。Barrett、Adv.Pediatr.、32:139−158(1985);Coutinho、Nature New Biol.、245:12−14(1973);Coutinho et al.、Eur J Immunol、3:299−306(1973);Guttormsen et al.、Infect Immun、67:6375−6384(1999);McGhee et al.、MicrobialImmunol.、28:261−280(1984)。精製多糖は、最低限のIgGへのスイッチを伴う、特異的IgM応答を誘導する。IgMからIgGアイソタイプへの免疫グロブリンクラススイッチ誘導失敗、および抗原による再誘発後の抗体産生増加の欠如は、古典的T細胞非依存免疫応答の特徴である。多糖のタンパク質への結合によりT細胞ヘルプを誘発する炭水化物特異的応答が起こり、ワクチンの有効性を改善した。Guttormsen et al.、同上;Sood et al.、Expert Opin Investig Drugs、7:333−347(1988)を参照。最近の複合糖質ワクチン創出は、生物医科学における大きなサクセスストーリーの1つとなっている。大抵の免疫集団では、インフルエンザ菌タイプbの感染症、ワクチン型の小児の肺炎球菌、および髄膜炎菌(グループBを除く)は、ほぼ駆逐されている。Lesinski and Westerink、Curr、Drug Targets Infect.Disord.、1:325−334(2001);Weintraub、Carbohydr.Res.、338:2539−2547(2003)。
【0005】
最近の機構的パラダイムは、複合糖質ワクチンに対する防御反応は免疫系で演じられる「トリック」に基づいているということである。Guttormsen et al.、同上;Lesinski and Westerink、J.Microbiol.Methods、47:135−149(2001).おそらく、抗多糖抗体の産生に特異的なB細胞が複合糖質を取り込み、共有結合タンパク質から、MHC分子と連携してペプチドを認識するT細胞へ、ペプチドを提示するのであろう。B細胞の刺激(結果的に炭水化物特異的抗体の産生を伴う)およびペプチド認識CD4T細胞の活性化がT細胞ヘルプを生じ、これによりIgGへの免疫グロブリンクラススイッチおよびメモリー応答を促進する。免疫グロブリンクラススイッチおよびB細胞メモリーは、CD80および/またはCD86のCD28との相互作用を経由の、CD40のCD40リガンドとの相互作用を経由の、また、同様に他の同時刺激分子との相互作用を経由の、B細胞の同時刺激に依存する。
【0006】
しかし、T細胞は、炭水化物を認識することができる。糖ペプチドのプロセッシングおよびT細胞によるMHC−I/II提示と認識に関していくつかの報告がある。Abdel et al.、Eur J Immunol、26:544−551(1996);Corthay et al.、Eur J Immunol、28:2580−2590(1998);Dong et al.、Nature、409(6816):97−101(2001);Dzhambazov et al.、Eur J Immunol、35:357−366(2005); Hanish and Ninkovic、Curr Protein and Peptide Sci、7:307−315(2006);Haurum et al.、J Exp Med、180:739−744(1994);Hudrisier et al.、J Biol Chem、 274:36274−36280(1999);Jensen et al.、J Immunol、158:3769−3778(1997);Michaelson et al.、Eur J Immunol、22:1819−1825(1992); Vlad et al.、J Exp Med、196:1435−1446(2002); Werdelin et al.、Proc Natl Acad Sci USA、99:9611−9613(2002).
これらの研究のほとんどは翻訳後にグリコシル化されたタンパク質のプロセッシングと提示に関し検討している。これらのエピトープは、ペプチドに結合した単純な単糖類または二糖類であるように見える。MHC−Iは、単なるペプチド部位ではなく糖ペプチドのタイプのエピトープに結合することが明らかになっている。さらに、T細胞受容体(TCR)のプロセッシングされた糖ペプチドへの結合は、MHCに結合しているグリカンおよびペプチドの両方により形成されたエピトープとTCRの接触に依存することが示された。Haurum et al.、J Exp Med、180:739−744(1994)。例えば、Holmdahlとその共同研究者は、II型コラーゲン(CII)のT細胞認識において、エピトープグリコシレーションが重大な役割を果たすことを示した。Corthay et al.、Eur J Immunol、28:2580−2590(1998);Dzhambazov et al.、Eur J Immunol、35:357−366(2005);Michaelson et al.、Eur J Immunol、22:1819−1825(1992)。これらの研究者は、ヒトとラットの健常な関節軟骨で免疫優性T細胞エピトープがO‐グリコシル化されていることを見つけた。腫瘍抗原ムチン様糖タンパク質1(MUC1)由来の糖ペプチドエピトープの研究が特に重要である。HanishおよびNinkovic、同上。腫瘍細胞においては、タンパク質グリコシレーションによりCD4T細胞により認識される腫瘍特異的糖ペプチドエピトープが形成される。Vlad et al.(2002)、同上;Werdelin et al.、Proc Natl Acad Sci USA、99:9611−9613(2002)。グリコシレーションパターンの変化は、T細胞のエピトープ認識を変化させることができる。HanishおよびNinkovic、同上。
【0007】
過去15年間、多糖が主要成分であるいくつかのワクチンで臨床用途への導入に成功している。これらの内、最も成功したワクチンは、複合糖質で、この場合、細菌性標的の莢膜多糖(CPS)がタンパク質キャリアと結合し、この結合によりT細胞ヘルプが誘発されIgMからlgGへのスイッチ、持続性応答、および小児での免疫原性を促進する。これらのワクチンの成功度合いは、免役される集団やその特異的ワクチンの特性により変わる。例えば、肺炎球菌の複合体は、小児で大いに成功したが、大人では期待に応えることができなかった(Siber et al.、Science 265(5177):1385−1387(1994))。
【0008】
複合糖質ワクチンの調製用の基本的方針として最も広く受け入れられている仮説は、そのワクチンが、おそらく樹状細胞および/またはマクロファージによるプロセッシング後に多糖特異的B細胞により取り込まれることである。(Guttormsen et al.、Inf.Imm.67(12):6375−6384(1999);Jones、Anais da Academia Brasileira de Ciencias 77(2):293−324(2005)).その後に、キャリアタンパク質のペプチドエピトープがT細胞に提示される。たとえT細胞がMHC−II結合ペプチドにより活性化されたにしても、得られたヘルプがこれらの活性化T細胞により多糖特異的B細胞に提供され、多糖特異的IgGの産生を誘導する。しかし、T細胞エピトープが、複合糖質キャリアから生成されたペプチドにより形成されたかまたは炭化水素とペプチドの両方により作られたエピトープにより形成されたか、あるいはそうでないか、については、ほとんど、ないしは全く情報がない。
【発明の概要】
【0009】
本発明は、少なくとも部分的には、強化された免疫原性を有し、またそれ故に優れた治療効果を有する複合糖質ワクチンを作る方法の発見に基づいている。
【0010】
従って、一態様では、本発明は糖化ペプチド複合体(glycated peptide conjugate)を調製する方法を提供する。この方法は、多糖(polysaccharides)集団を取得し;任意選択として多糖集団を処理し約5〜20kDa、例えば、約10〜15kDa、例えば、約10kDaまたは15kDa、の平均分子量を有するオリゴ糖の集団を作り;オリゴ糖集団を、切断可能成分(cleavable moieties)、例えば、酸不安定配列またはプロテアーゼ認識配列、例えば、カテプシンまたはカスパーゼ認識配列により相互に結合した複数の反復ペプチド単位を含むポリペプチドと接触させるステップを含み、ここで各ペプチド単位は、
(i)MHC−II結合配列であって、50アミノ酸以下、例えば、40アミノ酸以下、30アミノ酸以下、20アミノ酸以下、または15アミノ酸以下、例えば、約8〜15アミノ酸の結合配列;
(ii)1つまたは複数のリジン残基;好ましくは、末端、例えば、C末端、に1つのリジンがあり、内部リジンが無く(一部の実施形態では、各ペプチドは単一のリジン残基をC末端に有する);および
任意選択として(iii)MHC−II結合配列とリジン残基を結合する1つまたは複数のアミノ酸;から構成され、
例えば、還元アミノ化によって、オリゴ糖をリジン残基に直接結合させるために十分な条件の下、ペプチド単位に対するオリゴ糖の比率が、約1:1になるようにして、
それにより糖化ペプチド複合体を調製する。
【0011】
一部の実施形態では、各ペプチド単位が同じMHC−II結合配列を含み;他の実施形態では、ペプチド単位が複数のMHC−II結合配列を含む。
【0012】
別の態様では、本発明は、糖化ペプチド/ナノ粒子複合体の調製方法を提供する。この方法は、多糖集団を取得し;任意選択で多糖集団を処理して約5〜20kDa、例えば、約10〜15kDa、例えば、約10kDaまたは15kDaの平均分子量を有するオリゴ糖集団を作り;オリゴ糖集団をペプチド単位の集団と接触させるステップを含み、ここで各ペプチド単位は、
(i)MHC−II結合配列であって、50アミノ酸以下、例えば、40アミノ酸以下、30アミノ酸以下、20アミノ酸以下、または15アミノ酸以下、例えば、約8〜15アミノ酸の結合配列;
(ii)1つまたは複数のリジン残基;好ましくは、末端、例えば、C末端、に1つのリジンがあり、内部リジンが無く(一部の実施形態では、各ペプチドは単一のリジン残基をC末端に有する);および
任意選択として(iii)MHC−II結合配列とリジン残基を結合する1つまたは複数のアミノ酸;から構成され、
例えば、還元アミノ化によって、オリゴ糖をリジン残基に直接結合させるために十分な条件の下、ペプチド単位に対するオリゴ糖の比率が、約1:1になるようにして、それにより糖化ペプチド複合体を調製し;生体適合性ナノ粒子を提供し;切断可能なリンカー、例えば、酸不安定配列またはプロテアーゼ認識配列、例えば、カテプシンまたはカスパーゼ認識配列を使って生体適合性ナノ粒子にペプチドN末端を結合させる。
【0013】
さらなる態様では、本発明は、本明細書記載の方法により調製された糖化ペプチド複合体および糖化ペプチドナノ粒子複合体を提供する。
【0014】
さらなる態様では、本発明は、糖化ペプチド複合体を特徴とし、この糖化ペプチド複合体は、
(1)ポリペプチド部であって、切断可能成分、例えば、酸不安定配列またはプロテアーゼ認識配列、例えば、カテプシンまたはカスパーゼ認識配列、により相互に結合した複数の反復ペプチド単位を含み、ここで各ペプチド単位が、
(i)MHC−II結合配列であって、50アミノ酸以下、例えば、40アミノ酸以下、30アミノ酸以下、20アミノ酸以下、または15アミノ酸以下、例えば、約8〜15アミノ酸の結合配列;
(ii)1つまたは複数のリジン残基であって、好ましくは、末端、例えば、C末端、に1つのリジンがあり、内部リジンが無い(一部の実施形態では、各ペプチドは単一のリジン残基をC末端に有する)リジン残基;および
任意選択として(iii)MHC−II結合配列とリジン残基を結合する1つまたは複数のアミノ酸;から構成されるポリペプチド部;さらに
(2)好ましくは、約5〜20kDa、例えば、約10〜15kDa、例えば、約10kDaまたは15kDaの平均分子量を有し、ペプチド単位に対するオリゴ糖の比率が約1:1となるようにリジン残基に直接結合したオリゴ糖部、を含む。
【0015】
また別の態様では、本発明は、複数の糖化ポリペプチドを含む糖化ペプチド/ナノ粒子複合体を特徴とし、各糖化ポリペプチドは、
(1)ペプチド単位部であって、
(i)MHC−II結合配列であって、50アミノ酸以下、例えば、40アミノ酸以下、30アミノ酸以下、20アミノ酸以下、または15アミノ酸以下、例えば、約8〜15アミノ酸の結合配列;
(ii)1つまたは複数のリジン残基であって、好ましくは、末端、例えば、C末端、に1つのリジンがあり、内部リジンが無い(一部の実施形態では、各ペプチドは単一のリジン残基をC末端に有する)リジン残基;および
任意選択として(iii)MHC−II結合配列とリジン残基を結合する1つまたは複数のアミノ酸;から構成されるペプチド単位部;および
(2)オリゴ糖であって、好ましくは、約5〜20kDa、例えば、約10〜15kDa、例えば、約10kDaまたは15kDaの平均分子量を有し、ペプチド単位に対するオリゴ糖の比率が約1:1となるようにリジン残基に直接結合し、糖化ペプチドがペプチド単位のC末端で切断可能はリンカー、例えば、酸不安定配列またはプロテアーゼ認識配列、例えば、カテプシンまたはカスパーゼ認識配列、を介して、生体適合性ナノ粒子に結合しているオリゴ糖、を含む。
【0016】
一部の実施形態では、多糖がウイルス、細菌、原虫類、および菌類からなる群より選択された病原体由来である。他の実施形態では、多糖が、腫瘍関連糖タンパク質由来である。
【0017】
一部の実施形態では、多糖の処理が、多糖をオゾン分解または酵素消化、例えば、1つまたは複数のグリコシターゼ、に曝すことを含む。
【0018】
一部の実施形態では、各ペプチド単位が、同じMHC−II結合配列を含む。一部の実施形態では、ペプチド単位が、複数のMHC−II結合配列を含む。
【0019】
また、本発明の別の態様では、患者の免疫応答を誘導する方法を特徴とする。この方法は、本明細書記載の治療に有効な量の糖化ペプチド複合体または糖化ペプチド/ナノ粒子複合体を登用することを含む。
【0020】
さらなる態様では、本発明は、薬剤的に許容可能なキャリア中の、本明細書記載の糖化ペプチド複合体および/または糖ペプチド/ナノ粒子複合体を含む組成物を提供する。
【0021】
また、本発明は、本明細書記載の糖ペプチド複合体および/または糖化ペプチド/ナノ粒子複合体の患者の免疫応答を誘導するための使用、および患者の免疫応答を誘導するための薬剤の製造における使用も含む。この薬剤は、感染しているまたは感染のリスクのある患者、または腫瘍のあるヒトに対する感染の治療または予防手段に使用することができる。この薬剤は、本明細書記載に記載のいかなる形態であってもよく、また、単独で投与しても、例えば、アジュバントや免疫刺激薬と組み合わせて投与してもよい。
【0022】
別に定義されていなければ、本明細書で用いられている全ての技術科学用語は、通常、本発明の属する当業者により理解されているのと同じ意味を有する。方法と材料は、本明細書中で本発明における使用を目的として記載されている;当技術分野で既知の他の適切な方法と材料もまた使用可能である。材料、方法、および実施例は説明のためのみのものであり、制限を意図するものではない。全ての出版物、特許出願、特許、配列、データベース項目、および他の本明細書の参考文献は、全体が参照によって組み込まれる。矛盾が生じた場合には、定義を含め、本明細書が優先する。
【0023】
その他の本発明の特色と優位点は、以下の詳細な説明と図、および請求項から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】GBSIIIの放射標識とそれに続くキャリアタンパク質/ペプチドとの結合の代表的な方法の模式図である。
【図2】図2A−Eはラージ細胞溶解産物の免疫沈降結果を示す。図2Aは、ラージB細胞エンドソームの溶解産物中で分析された[H]GBSIIIを示す線グラフである(18時間インキュベーション後)。分子の大きさは、Superose 12ゲル浸透クロマトグラフィーにより測定された。細胞表面含有物は、HLA−DR mAbで免疫沈降された。免疫共沈降産物中には[H]GBSIII型は認められなかった。図2Bは、ラージB細胞エンドソームから分析された[H]GBSIII−OVAを示す線グラフである(3時間、6時間、および18時間のインキュベーション後)。ここでも、分子の大きさの分布をSuperose 12クロマトグラフィーで求めた。図2Cは、マウス脾細胞表面から得て、抗体とHLAIA/IE複合体と共に免疫共沈降した[H]GBSIII−OVAのSuperose 12カラムによる溶出プロファイルを示す線グラフである(18時間のインキュベーション後)。図2Dは、GBSIII、OVA、またはGBSIII−OVAとインキュベーション(18時間)し、続いて、GBSIIIにAlexaFluor633結合mAbで細胞表面染色した後のBMDCのフローサイトメトリー分析結果を示すヒストグラムおよび棒グラフである。図2Eは、GBSIII、OVAp、およびHLA−DRに抗体でそれぞれ染色したSDSゲルのウェスタンブロッティングにより検出されたHLA−DRと糖化ペプチドエピトープの複合体を示す図である。*各GBSIII−OVApバンドの定量デンシトメトリー分析は、対応するGBSIIIバンドで正規化して実施した。
【図3】図3A−Bはラージ細胞の[H]GBSIII−OVAおよび[H]GBSIII−TTによる免疫沈降結果を示す。図3Aは、[H]GBSIII−OVAとインキュベートした(18時間)ラージB細胞からの結果を示す棒グラフである。細胞表面含有物は、HLA−DR mAb、および対照としてのLAMP−1 mAb(HLA−DQまたはHLA−DP mAbでの免疫共沈降では、LAMP−1バックグラウンドと比べて、p>0.05で、優位な放射能の強化は認められなかった。データは平均±SD値として表されている。図3Bは、[H]GBSIII−TTをラージB細胞由来のMHC−IImAbで免疫共沈降した結果を示す線グラフである。Superose 12分子サイジングカラム分析(三角マーク)により低分子量GBSIII(約10kDa)がラージ細胞表面のMHC−II分子に結合していることが明らかになった。陰性対照として、この実験をMHC−II欠損ラージ細胞(RJ2.2.5)で繰り返し行ったが、トリチウム標識したオリゴ糖は細胞表面で検出されなかった(四角マーク)。免疫共沈降に使われたMHC−IIに対するmAbの対照として、LAMP−1に対する抗体を使用した。この免疫沈降では、カウントは全く検出されなかった。
【図4A】ラージB細胞(3x10/mL/ウエル)のエンドソーム中のGBSIII[H]−OVA(20μg、1800cpm/ng)の処理(プロセッシング)を示す線グラフである。GBSIII[H]−OVAをラージ細胞中で、単独またはROS捕捉剤((4A)D−マンニトール、(4B)4−OH TEMPO、(4C)ナトリウムピルビン酸塩)の存在下、18時間インキュベートした。全細胞溶解産物由来の最終生成物をSuperose 12カラムで分析した。
【図4B】ラージB細胞(3x10/mL/ウエル)のエンドソーム中のGBSIII[H]−OVA(20μg、1800cpm/ng)の処理(プロセッシング)を示す線グラフである。GBSIII[H]−OVAをラージ細胞中で、単独またはROS捕捉剤((4A)D−マンニトール、(4B)4−OH TEMPO、(4C)ナトリウムピルビン酸塩)の存在下、18時間インキュベートした。全細胞溶解産物由来の最終生成物をSuperose 12カラムで分析した。
【図4C】ラージB細胞(3x10/mL/ウエル)のエンドソーム中のGBSIII[H]−OVA(20μg、1800cpm/ng)の処理(プロセッシング)を示す線グラフである。GBSIII[H]−OVAをラージ細胞中で、単独またはROS捕捉剤((4A)D−マンニトール、(4B)4−OH TEMPO、(4C)ナトリウムピルビン酸塩)の存在下、18時間インキュベートした。全細胞溶解産物由来の最終生成物をSuperose 12カラムで分析した。
【図5A】T細胞増殖実験を示す棒グラフである。照射APC(10/ウエル)およびCD4+T細胞(10/ウエル)を、抗原の存在下37℃、5%COで4日間インキュベートし(最適化増殖時間)、採取に先立ちHチミジンで8時間処理した。放射能の取り込みを液体シンチレーションにより測定した。各APC−T細胞集団に対するHカウント(cpm)を抗原のないAPCとT細胞混合物(陰性対照、通常200−500cpmのHカウントが発生)のHカウントで除算した。この数値が刺激指数(SI)である。APCは照射されても急速に増殖できないため、HカウントはT細胞の増殖を示す。無刺激T細胞のSIを1に正規化した。例えば、3のSIは、無刺激(抗原無添加)混合物に比べてその混合物中に3倍多いT細胞があると見なすことが可能である。
【図5B】T細胞増殖実験を示す棒グラフである。照射APC(10/ウエル)およびCD4+T細胞(10/ウエル)を、抗原の存在下37℃、5%COで4日間インキュベートし(最適化増殖時間)、採取に先立ちHチミジンで8時間処理した。放射能の取り込みを液体シンチレーションにより測定した。各APC−T細胞集団に対するHカウント(cpm)を抗原のないAPCとT細胞混合物(陰性対照、通常200−500cpmのHカウントが発生)のHカウントで除算した。この数値が刺激指数(SI)である。APCは照射されても急速に増殖できないため、HカウントはT細胞の増殖を示す。無刺激T細胞のSIを1に正規化した。例えば、3のSIは、無刺激(抗原無添加)混合物に比べてその混合物中に3倍多いT細胞があると見なすことが可能である。
【図6】図6A−EはGBSIII−OVA免疫化に応答したCD4+T細胞増殖の棒グラフである。糖化ペプチドがMHC−IIによりAPC表面に提示されると、CD4+T細胞は炭水化物を認識する。BALB/cマウスは、2倍用量のGBSIII−OVA投与を受けた。これらのマウス由来の脾臓CD4+T細胞をGBSIII−OVAを用いてインビトロで9日間増幅させた。T細胞分泌IL−2(図6A)、IL−4(図6B)、およびIFNγ(図6C)の検出のために、増幅されたT細胞集団、ならびに、放射未処置マウスの脾細胞のエリスポットアッセイを、異種のキャリア(GBSIII−TT)に結合したGBSIIIを含むいくつかの抗原と共に実施した。TT免疫化マウス由来のリンパ球を使った調査の全3つのサイトカインを伴って、陽性対照として、TTは単独で強い応答を誘導した。ELISAを使って、GBSIII−OVAを2回免疫したマウス由来の血清中の、OVA(図6D)およびGBSIII(図6E)特異的なIgG抗体のサブクラスを評価した。*GBSIII(50ng/mL)に対する参照抗体のA405が0.5に達したとき、A405が0.5になった希釈度の逆数を抗体力価として記録した。
【図7】図7A−DはGBSIII−OVApによる免疫化後のT細胞増殖を示す。野生型(wt)BALB/cマウス(7A)およびDO11.10マウス(7B)をGBSIII−OVApで3回免疫(2週間隔で)した。未処理照射脾臓APC(105/ウエル)を、各マウス株由来のCD4+T細胞(105/ウエル)と4日間同時培養し、OVApまたはGBSIII−OVAp(OVApと同量になるよう調節)で刺激した。採取8時間前に[H]チミジンを組み込み、増殖を測定した。データは、平均±SD値として表した。陰性対照は、GBSIII(7.5μg)、組み換えOVAp(2.5μg)、または無抗原による刺激を含み、全陰性対照に500cpm未満の[H]チミジンを組み込んだ。陽性対照として、ブドウ球菌エンテロトキシンAで同時培養を誘導して野生型T細胞で54、700cpm、DO11.10T細胞では500cpm未満を組み込む。その細胞が未処理DO11.10マウス由来であるか、またはGBSIII−OVAp免疫マウス由来であるかに関わらず、CD4+T細胞のOVApに対する同様の高レベルでの応答は示されていない(7Cおよび7D)。ブレフェルジンAは抗原提示をブロックし(小胞体中にMHC−IIをトラップすることにより)、また、mAbとIA/IE複合体はマウスMHC−IIをブロックする。
【図8】図8A−CはGBSIII−OVApによる免疫後の抗体力価を示す棒グラフである。DO11.10および野生型(wt)Balb/cマウスをGBSIII−OVApで3回免疫し、ELISAを使ってGBSIII特異的IgG(8A)およびGBSII特異的IgM(8B)の力価を測定した。また、単独で2回免疫したDO11.10およびwtマウスのOVAp特異的IgG力価も示す(8C)。*参照抗体のGBSIII(50ng/mL)に対するA405が0.5になったとき、0.5のA405が得られた希釈度の逆数を抗体力価とした。wtおよびDO11.10マウスの両方は、GBSIIIやOVApに対し免疫前に検出可能な抗体が無かった。
【図9】GBSIII−TT刺激マウス由来B細胞、およびTT刺激マウスまたはGBSIII−TT刺激マウス由来T細胞を投与されたマウスの免疫を復活させるためのIgG応答を示す線グラフである(両群に対しp<0.01)。食塩水処理したドナーから未処理BおよびT細胞を受けたマウスを対照として使った。全群間の差は、Kruskal−Wallisノンパラメトリック分析により検証した。
【図10】図10A−Cは3種のワクチンGBSIII−OVA(9A)、GBSIII−OVAp(10B)、GBSIII−OVAextpep(10C)を模式的に表現したものである。GBSIII−OVAとGBSIII−OVApは嵩高い基質様構造を有するが、他方、GBSIII−OVAextpepは高度に均一な単鎖構造を有する。
【図11】III−OVAおよびIII−OVAextpepで免疫化したマウス由来血清の存在下、ヒト血液PMNLによるIII型B群連鎖球菌のオプソニン化貪食作用を示す。正常なマウス血清およびGBSIII−TT免疫マウス由来ウサギ血清を対照として使用した。
【図12】0.2μg、2μg、または20μgのIII−OVAextpepまたはIII−OVAで免疫したマウスに対する用量反応アッセイ結果を示した棒グラフである。
【図13】III−TT、III−OVA、またはIII−OVAextpepで免疫した母に産まれ、III型B群連鎖球菌(GBSIII)の攻撃を受けた子の生存割合を示す棒グラフである。
【図14】図14A−Bは異なる抗原の組み合わせからなる初回と2回目の投与を受けたBALB/cマウスのGBSIIIに対するELISAによる定量的抗体力価を示す棒グラフである。(14A):0日目に刺激され、14日目に初回抗原刺激と追加免疫抗原の異なる組み合わせで追加免疫したマウスから21日目に採取した血清のGBSIII特異的IgG力価(μg/mL)。(14B):GBSIII、GBSIII−OVA、またはGBSIII−TTで刺激したマウスから14日目に採取した血清のGBSIII特異的IgG力価(μg/mL)。***GBSIII−OVA刺激、GBSIII追加免疫マウスおよびGBSIII刺激、GBSIII−TT追加免疫マウスは、GBSIII−OVA刺激、GBSIII−OVA追加免疫マウスおよびGBSIII−OVA刺激、GBSIII−TT追加免疫マウス(p<0.0001)の両方より有意に低いGBSIII特異的IgG力価を有していた。
【図15A】双性イオンヘパロサン(例えば、大腸菌K5多糖体)オリゴ糖誘導体の構造である。
【図15B】双性イオンヘパロサンオリゴ糖に対し行ったヒトT細胞アッセイの結果を示す棒グラフである。SEA抗原(陽性対照)に対するT細胞数を100に正規化した。オリゴ糖は4μg/mlであった。T細胞刺激を8日間にわたって測定した。
【発明を実施するための形態】
【0025】
前述のように(背景を参照)、T細胞の複合糖質活性化を説明する支配的パラダイムは、たとえ炭水化物が非常に強力な共有結合(多くの場合の第二級アミン)により蛋白質に結合しているにしても、ペプチドが提示されT細胞に認識されるということだけである。この古典的仮説は、APC内の多糖で何が起こっているかや、どのようにして炭水化物とタンパク質がエンドソーム(エンドソーム内で第二級アミン結合を切断する機序は知られていない)内でばらばらになり、次いでT細胞にペプチドのみを提示するか、を説明できない。
【0026】
本明細書に記載のように、糖化ペプチドは、提示専門細胞のAPCにより実際にT細胞に提示される。さらに、本複合糖質ワクチン中でMHCIIにより提示される炭水化物(約10kDa)は、天然起源多糖(通常100kDaより大きく、数百万kDaまで)よりずっと小さい。
【0027】
本明細書記載の調査から得られた複合糖質ワクチンのプロセッシングと提示の機序に関する知識は、新生代ワクチンの設計と合成に適用できる。この情報は、本発明者が標的特異的、構造ベースのワクチン候補を設計することを可能にする。限定を意図するものではないが、1つの理論として、この設計は、エンドソームプロセッシングステップを(一部または全部を)省いて、MHCII経路による糖化ペプチドの提示をさらに早くする可能性がある。さらに、この設計は、投与ワクチン重量当たりで高比率の免疫原性糖化ペプチドが得られ、また、同じ用量でより強い応答得られる可能性が在り、または使用用量の減少化を可能とする。
【0028】
このような新ワクチンには、下記のものが含まれる:
1)炭水化物、切断可能リンカーにより結合された反復T細胞エピトープ、例えば、OVApを含むポリペプチド構築物に共有結合で結合した、例えば、約5〜20kDa、例えば、10〜15kDa、の炭水化物(B細胞受容体に効果的に架橋し、B細胞を活性化するために必要であれば、さらに小さいまたは大きい)。これは、多くの糖化ペプチド残基を生成する酸性のエンドソーム中のポリペプチドの解重合を可能にする。
2)炭水化物、切断可能リンカーにより結合された複数の異なるT細胞ペプチドエピトープを含むポリペプチド構築物に共有結合で結合した、例えば、約5〜20kDa、例えば、10〜15kDa、の炭水化物(B細胞受容体に効果的に架橋し、B細胞を活性化するために必要であれば、さらに小さくまたは大きくてもよい)。これには、より大きなT細胞レパートリーの動員ができるようにすべきである。
3)T細胞エピトープ、例えば、OVAextpep、の1つの末端に切断可能なリンカーで共有結合した、約5〜20kDa、例えば、10〜15kDaの炭水化物(MHC−II結合多糖のサイズ)を、例えば、含む複合糖質ワクチンの糖化ペプチド抗原エピトープでコートした生体高分子ベースのナノ粒子。
【0029】
これらの各実施形態には、下記の要素が含まれる:
I:炭水化物成分:目的の病原体または腫瘍由来の多糖またはオリゴ糖、任意選択として、約5〜20kDa、例えば、10〜15kDaの平均分子量を有するように処理され、またはB細胞受容体に効果的に架橋し、B細胞を活性化するために必要に応じさらに小さくまたは大きく;さらに、
II:少なくとも1つのペプチド単位であって、MHC−II結合配列およびリジン、好ましくは1つの末端に1つのリジンを含み、このリジンに炭水化物が直接結合しているペプチド単位。
【0030】
ペプチド単位は、樹状細胞やB細胞等の抗原提示細胞(APC)上のMHC−II分子に結合するアンカーとして作用し、このアンカーを介して炭水化物がMHC−IIに結合し、T細胞に提示する。MHC−II結合配列は、ほとんどまたは全く分解が必要でない小さいペプチド単位として提示され、さらに炭水化物は予備消化されAPCによって容易に提示可能であるより小さいサイズになるので、エンドソーム経由のプロセッシング時間が大きく縮小され、より早い免疫応答が得られる。これらの要素を特定し、選択し、調製する方法は、当技術分野でよく知られている。次に代表的要素のリストを示す。
【0031】
炭水化物抗原
本明細書記載の組成物は、免疫応答が求められる任意の多糖、例えば、任意の病原体、例えば、ウイルス、細菌、真菌、または原虫類、から得られた多糖;糖タンパク質;または細胞、例えば、腫瘍細胞、を使って作ることができる。「多糖」は、通常、グリコシド結合により結合した単糖残基で構成される任意の直鎖または分岐高分子を意味し、従ってオリゴ糖を含む。目的の炭水化物を特定し、入手する方法は、当技術分野で既知である。例えば、Dormitzer et al.、Trends Biotechnol.26(12):659−667(2008)を参照。
【0032】
炭水化物含有構造体は、細菌表面に多く存在し(Nikaido、RevInfectDis、10:S279−S281(1988))、これには、莢膜、リポ多糖、タイコ酸、ペプチドグリカン、および糖タンパク質が含まれる。CPSは数百の反復単位からなり、各単位は、1つから8つの糖類を含み、これらは、通常は(常にではないが)グリコシド結合により結合している。糖類の組成物、環形状、リンケージ位置、アノマー中心配置、異性体型、高次構造、および電荷モチーフの変動は全て、免疫性エピトープに存在する差異に寄与する。これらの構造要素のいずれも本明細書記載の方法と組成物に使用可能である。
【0033】
一部の実施形態では、本明細書記載の複合糖質組成物は、細菌由来の炭水化物、例えば、莢膜多糖(CPS)、を使って作られる。代表的な細菌には、肺炎球菌、肺炎球菌、髄膜炎菌、髄膜炎菌、インフルエンザ菌(例えば、インフルエンザ菌b)、チフス菌、志賀赤痢菌、バクテロイデスフラギリス、A群およびB群連鎖球菌、サルモネラ、大腸菌、コレラ菌、シトロバクター属、ハフニア属、プロテウス属、ブドウ球菌、および肺炎桿菌が含まれる。例えば、Vliegenthart et al.、FEBS Letters 580:2945-2950(2006)、およびこの中の引用文献;Jones、Anaisda Academia Brasileira de Ciencias 77(2):293−324(2005)(特に表IとII)およびこの中の引用文献;Cohen et al.、J.Immunol.180:2409-2418(2008);およびWeintraub、Carbohydrate Research 338:2539−2547(2003)、を参照。
【0034】
一部の実施形態では、本明細書記載の複合糖質組成物は、寄生生物、例えば、細胞表面炭水化物、例えば、グリコシルホスファチジルイノシトールアンカー(GPI)、由来の炭水化物を使って作られる。一般的には、細菌は臨床的に関連のある細菌、すなわち、病原性(疾患の原因となる)細菌である。代表的寄生生物には、熱帯熱マラリア原虫(マラリア);トキソプラズマ原虫(トキソプラズマ症)、および森林型熱帯リーシュマニア(リーシュマニア症)が含まれる。例えば、Vliegenthart et al.、FEBS Letters 580:2945-2950(2006)、 およびそこに引用された文献を参照。
【0035】
一部の実施形態では、本明細書記載の複合糖質組成物は、ウイルス由来炭水化物、例えば、ウイルスエンベロープ糖タンパク質、例えば、N−グリカン由来の炭水化物を使って作られる。一般的には、ウイルスは、臨床的に関連のあるウイルス、すなわち、病原性(疾患の原因となる)ウイルスである。代表的なウイルスには、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)(例えば、HIV−1糖タンパク質gp120)、RSウィルス(RSV)、B型肝炎ウイルス(HBV)、水痘帯状疱疹、単純疱疹ウィルス2型、狂犬病、麻疹、およびエボラウイルス、が含まれる。例えば、Wang、Current Opinion in Drug Discovery & Development 9(2):194−206(2006);Johnson et al.、Journal of General Virology 83:2663−2669(2002);Langenberg、Ann.Int.Med.122(12):889−898(1995);Vafai、Vaccine 13(14):1336−1338(1995);Ruigrok and Gerlier、PNAS 104(52):20639-20640(2007)、を参照。
【0036】
一部の実施形態では、本明細書記載の複合糖質組成物は、腫瘍細胞由来の炭水化物、例えば、細胞表面炭水化物、例えば、糖タンパク質由来の炭水化物を使って作られる。代表的糖タンパク質には、ムチン−1(MUC−1)(乳癌)、NER−2/neu(乳癌)、癌治療性抗原(CEA)(例えば、結腸直腸、肺、乳および膵癌)、p53、シアリルTn(STn)(乳癌);およびGloboH(乳および前立腺癌)が含まれる。また、ガングリオシド分子(例えば、GM2、GD2、GD3)が、いくつかの癌細胞上で再度発現した。例えば、Vliegenthart et al.、FEBS Letters 580:2945-2950(2006)、 および引用文献;Xu et al.、J Exp Med.199(5):707-716(2004)、を参照。
【0037】
本明細書記載の複合糖質の炭水化物部は、任意選択として天然のまたは完全な多糖を、約10〜20kDa、例えば、10〜15kDa、例えば、10kDaの平均分子量の集団に分解して調製しても良い。例えば、酸、塩基、酸化手法(例えば、活性酸素または窒素種を使って)、または酵素触媒加水分解を使って、多糖を調製する方法は当技術分野で既知である。例えば、オゾン分解を使うことができ、この方法は、例えば、Paoletti et al.、J.Biol.Chem.265(30)18278−18283(1990);Kalka−Molletal.、J.Immunol.164:719-724(2000);および米国特許第6、027、733号と6、274、144号に記載されている。一部の実施形態では、複数の方法を組み合わせて所望の平均分子量を有する多糖組成物を作っている。
【0038】
多糖を分解するプロセスは、当技術分野で既知の方法、例えば、米国特許第6、027、733および6、274、144に記載のFPLC、を使ってモニター可能で、また、所望の平均分子量になったところで停止できる。
別の実施形態では、天然のまたは完全な多糖が使用可能である。
【0039】
MHC−IIに結合したT細胞エピトープ
通常、MHC−II結合配列は、T細胞エピトープ、例えば、CD4+Tヘルパー細胞エピトープ(Etlinger et al.、Science 249:423−425(1990))を含むペプチドである。T細胞ヘルプを誘導できる多くのCD4+エピトープは、当技術分野で既知である。例えば、Etlingeretal.、1990、同上;Valmori et al.、J.Immunol.149:717−721(1992);Saddetal.、Immunology 76:599−603(1992);Kumar et al.、J.Immunol.148:1499−1505(1992);Kaliyaperumal et al.、Eur J Immunol 25:3375−3380(1995);De Velascoetal.、Infect.Immun.63:961−968(1995);Falugietal.、Eur.J.Immunol.31:3816-3824(2001);およびBixer et al.、Adv.Exp.Med.Biol V:175−180(1989))を参照。
【0040】
本発明の方法と組成物に使えるCD4+エピトープには、ジフテリアトキソイド(DT)、破傷風毒素(TI)、熱帯熱マラリア原虫サーカムスポロゾイト、B型肝炎表面抗原、B型肝炎核コアタンパク質、H.インフルエンザ基質タンパク質、H.インフルエンザ赤血球凝集素、B群髄膜炎菌外膜タンパク質複合体(OMPC)、肺炎球菌毒素ニューモリシン、および熱衝撃蛋白質、例えば、ウシ結核菌およびライ菌由来の、およびこれらの組換えにより作られ遺伝的に解毒された変異体、または組み換えにより作られた緑膿菌体外毒素Aまたはブドウ球菌体外毒素またはトキソイドの無毒変異体由来のものが含まれる。例えば、Amir−Kroll et al.、Vaccine 24:6555-6563(2006);Amir−Kroll et al.、Journal of Immunology 170:6165-6171(2003);およびKonen−Waisman et al.、J.Inf.Dis.179:403-13(1999)を参照。
【0041】
一部の実施形態では、MHC−II結合配列は、ジフテリアトキソイドの交差反応性物質(CRM197)(Shelly et al.、Inf.Immun.65:242-247(1997))、キーホールリンペットヘモシアニン(KLH)、または髄膜炎菌の外膜複合体(Vella et al.、Inf.Immun.60:4977-4983(1992))、由来である。例えば、Vliegenthart et al.、FEBS Letters 580:2945-2950(2006)、およびその引用文献を参照。
【0042】
T細胞エピトープペプチドは、合成または組換え、例えば、当技術分野で既知の細菌系や他の細胞培養系での発現、により作ることができる。例えば、組み換え型のペプチドは、ホスト細胞中のコードした核酸から発現により生成することができる。 任意のホスト細胞が特定のワクチン系による個人の要求に応じて使用可能である。 当業者なら、適切なホスト細胞を容易に選択ならびに使用可能であろう。一部の実施形態では、細菌の操作と成長が容易であることから、細菌性ホストが組み換え型蛋白質の産生に使われる。代表的な細菌性宿主 は大腸菌である。例えば、米国特許第6、855、321号を参照。固相と溶液を組み合わせた方法も使用可能である。例えば、Riniker et al.、Tetrahedron(49)41:9307−9320(1993)に記載の方法の改良を参照。
【0043】
T細胞エピトープは、いかなる内部リジン残基も含まないことが好ましいが、少なくとも1つのリジン残基を末端、例えば、C末端に含むように修飾されても良い。一部の実施形態では、ただ1つのリジン残基をC末端またはN末端に有する。リジン残基の配置は、炭水化物に結合した際のペプチドのMHC−IIに結合する能力を保持する必要性のみに制約されている。
【0044】
また、一部の実施形態では、MHC結合配列とリジン残基間に1つまたは複数のアミノ酸、すなわちスペーサー配列があってもよい。このようなスペーサー配列は、リジン以外の任意のアミノ酸でよく、また、通常、柔軟で小さなR基を有し、これによりT細胞に提示するため結合した炭化水素の立体障害を避け、最適の配置およびMHC−IIに結合するペプチドエピトープに対するアクセスを可能にする。リンカー中に含むことが適切な代表的アミノ酸には、グリシン、アラニン、およびセリンが挙げられる。
【0045】
MHC結合配列が単一ポリペプチド中で直列に結合した場合(ナノ粒子の表面上の場合と対照的に)の実施形態では、ペプチド単位は、切断可能成分、例えば、プロテアーゼまたは他の酵素、または酸に不安定な化学成分により認識され切断されるアミノ酸配列、により結合される。多くのこのような切断可能成分が当技術分野で既知である。例えば、切断可能配列には、カテプシンに認識されるものを含んでもよい。これらは、例えば、ConusandSimon、Biochemical Pharmacology 76:1374-1382(2008);Arnold et al.、Eur.J.Biochm.249:171−179(1997);Roberts、Drug News Perspect 18(10):605(2005);およびPluger et al.、Eur.J.Immunol.32:467-476(2002)に記載されている。一部の実施形態では、切断可能配列は、エンドソーム中に存在するプロテアーゼのための認識配列である。
【0046】
酸に不安定な成分もまた当技術分野で既知であり、Riniker et al.、Tetrahedron(49)41:9307−9320(1993)にあるように、4−(4−ヒドロキシメチル−3−メトキシフェノキシ)酪酸(シグマ)を含んでも良い。
【0047】
非ペプチドMHC結合成分
一部の実施形態では、MHC結合成分は、アミノ酸配列よりはむしろ、小分子、ポリマー、またはペプチド類似体である。この実施形態では、複合体ワクチンは、タンパク質またはペプチドでないキャリア分子と結合した細菌、ウイルス、寄生生物または腫瘍由来の多糖またはオリゴ糖を含んでもよい。当分野の技術であれば、MHC−II結合部位に合う適切な大きさの任意の分子を選択、使用し、静電気的な、疎水性の、ファンデルワールスの、または他の既知の2分子を相互に結合させる化学力によってその部位に結合することが可能であろう。1つの例が双性イオン分子、例えば、ポリサッカライドA(PSA)のような双性イオン炭水化物である。これらは、MHC−IIへの結合を可能にする双性イオン電荷または疎水性特性等の物理化学的特性を有する合成分子であってもよい。誘導された免疫応答の標的になるべき多糖またはオリゴ糖は、このキャリア分子に結合される。キャリアがペプチドに代わりアンカーとして作用してMHC−IIに結合し、本出願に記載された糖化ペプチドと類似の方式でT細胞受容体による標的多糖またはオリゴ糖の認識が可能となろう。これらの新規糖化キャリア分子は、ヘルパー機能および抗体産生に必要なT細胞応答を誘導することが可能となろう。
【0048】
PSAのような天然の双性イオン多糖の代わりに、化学的に改良した、構造的に明確なオリゴ糖をキャリア分子として使用可能である。
【0049】
糖化ペプチドナノ粒子
本明細書記載の糖化ペプチドに切断可能リンカーを介して結合したナノ粒子も、本発明に従って作ることができる。従って、本発明は、さらに生体適合性ナノ粒子に結合した糖化ペプチドを含む組成物を含み、任意選択でそのナノ粒子を経由してAPC、例えば、DCやB細胞を標的にする共存抗体を一緒に含んでもよい。MHC結合配列を含むペプチド単位がナノ粒子に結合している場合の実施形態では、各ペプチドとナノ粒子の間に切断可能成分が存在することになる。代表的ナノ粒子には、Xu et al.、Macromol.Biosci.7:968-974(2007)に記載されたものが含まれる。
【0050】
本明細書記載の方法や組成物に使えるナノ粒子は、(i)生体適合性がある、すなわち、製薬上妥当な量を使用した場合、生きた動物に重大な有害反応を引き起こさない;(ii)結合成分が共有結合で結合可能な特徴的官能基、(iii)相互作用成分のナノ粒子に対する低い非特異的結合性を示す、および(iv)溶液中で安定である、すなわち、ナノ粒子が沈殿しない、という要件を満たす物質から作られる。ナノ粒子は、単分散の(ナノ粒子一個が物質の単結晶、例えば、金属の単結晶)であっても、多分散(ナノ粒子一個が複数の結晶、例えば、2、3、または4個)であってもよい。
【0051】
多くの生体適合性ナノ粒子、例えば、有機または無機ナノ粒子、が当技術分野で既知である。リポソーム、デンドリマー、炭素ナノマテリアルおよび高分子ミセルが有機ナノ粒子の例である。量子ドットも使用可能である。無機ナノ粒子には、金属ナノ粒子、例えば、Au、Ni、PtおよびTiOナノ粒子が含まれる。磁気ナノ粒子もまた使用可能で、例えば、デキストランまたはPEG分子に囲まれたFe2+および/またはFe3+コアを有する10〜20nmの球状ナノクリスタルがある。
【0052】
一部の実施形態では、コロイド金ナノ粒子が使われ、例えば、Qian et al.、Nat.Biotechnol.26(1):83−90(2008);米国特許第7060121号;7232474号;および米国特許公開公報2008/0166706に記載されている。多機能ナノ粒子を構築し使用するための適切なナノ粒子および方法が、例えば、Sanvicens and Marco、Trends Biotech.、26(8):425−433(2008)で考察されている。
【0053】
一部の実施形態では、ナノ粒子は、官能基経由で本明細書記載の糖化ペプチドに付着(結合)している。一部の実施形態では、ナノ粒子は、官能基を含むポリマーと結合しており、また、金属酸化物を相互に分散状態に保つ役割もしている。ポリマーは、合成高分子、例えば、限定されないが、ポリエチレングリコールまたはシラン、天然高分子、または合成または天然高分子の誘導体またはこれらの組み合わせ、であってもよい。親水性のポリマーが有用である。一部の実施形態では、ポリマー「コーティング」は、磁性金属酸化物の周りの連続皮膜ではなく、金属酸化物に付着し、取り囲んだ伸長ポリマー鎖の「メッシュ状」または「雲状」である。ポリマーは、デキストラン、プラナン(pullanan)、カルボキシデキストラン、カルボキシメチルデキストラン、および/または還元型カルボキシメチルデキストランを含む多糖や誘導体を含んでもよい。金属酸化物は、相互に接触しているか、またはポリマーにそれぞれ捕捉されるかまたは取り囲まれている1つまたは複数の結晶の集まりであってもよい。
【0054】
他の実施形態では、ナノ粒子は、非高分子官能基組成物に結合している。ポリマーに結合していない安定化し、官能性を持たせたナノ粒子を合成する方法は既知であり、また、本発明の範囲にある。このような方法は、例えば、Halbreich et al.、Biochimie、80(5−6):379−90、1998に記載されている。
【0055】
一部の実施形態では、ナノ粒子は、直径で約1〜100nm未満、例えば、約25〜75nm、例えば、約40〜60nm、または約50〜60nm未満の全体寸法を有する。一部の実施形態では、ポリマー成分は、例えば、コーティングの形で約5〜20nmまたはそれ以上の厚さであってもよい。ナノ粒子の全体寸法は、約15〜200nm、例えば、約20〜100nm、約40〜60nm;または約60nmである。
【0056】
ナノ粒子の合成
ナノ粒子を調製可能な種々の方法があるが、いずれの方法でも、結果はナノ粒子を結合成分に結合するために使用可能な官能基を有したナノ粒子でなければならない。
【0057】
例えば、糖化ペプチドは、機能性ポリマーまたは表面機能付加した非高分子金属酸化物に共有結合することにより酸化物ナノ粒子に結合可能である。後者の方法では、ナノ粒子は、Albrecht et al.、Biochimie、80(5−6):379−90(1998)の方法の考え方に従って合成可能である。ジメルカプトコハク酸は、ナノ粒子に結合し、カルボキシル官能基を付与する。官能基化されたとは、所望の成分をナノ粒子、例えば、本明細書記載の糖化ペプチドまたは抗体に結合するために使用されるアミノまたはカルボキシルまたはその他の反応基が存在することを意味する。
【0058】
別の実施形態では、糖化ペプチドは、ナノ粒子に結合した官能基化されたポリマー経由でナノ粒子に結合する。一部の実施形態では、ポリマーは親水性である。具体的実施形態では、複合体は、末端アミノ、スルフヒドリル、またはリン酸塩基を有するオリゴヌクレオチド、および親水性高分子上にアミノまたはカルボキシ基を有する超常磁性鉄酸化物ナノ粒子を使って作られる。カルボキシおよびアミノ誘導体化ナノ粒子を合成するいくつかの方法がある。機能付加し、コートしたナノ粒子の合成法については、以降でさらに詳細に検討する。
【0059】
カルボキシ官能基化したナノ粒子は、例えば、Gorman(国際公開番号00/61191参照)の方法に従って作ることができる。カルボキシ官能基化したナノ粒子は、また、強塩基中でブロモまたはクロロ酢酸と反応させてカルボキシル基を結合することにより多糖コートナノ粒子から作ることができる。さらに、カルボキシ官能基化した粒子状物質は、無水コハク酸または無水マレイン酸等の試薬を使ってアミノからカルボキシ基へ変換することによって、アミノ機能付加したナノ粒子から作ることができる。
【0060】
ナノ粒子寸法は、反応条件を調節することにより、例えば、米国特許第5、262、176号に記載があるように、温度を変えることにより、制御可能である。均一粒径の材料は、例えば、米国特許第5、492、814に記載されているように、遠心分離、限外濾過、またはゲル濾過を使って粒子状物質を分別することにより作ることができる。
【0061】
また、ナノ粒子は、過ヨウ素酸塩で処理して、アルデヒド基を形成することも可能である。アルデヒド含有ナノ粒子を、次にジアミン(例えば、エチレンジアミンまたはヘキサンジアミン)と反応させて、これによりシッフ塩基を形成し、次に水素化ホウ素ナトリウムまたはシアノ水素化ホウ素ナトリウムで還元することができる。
【0062】
デキストランコートナノ粒子を、例えば、エピクロロヒドリンを使って作り、架橋することもできる。アンモニアを添加して、エポキシ基と反応させるとアミン基が生成する。Hogemann et al.、Bioconjug.Chem.2000.11(6):941−6、およびJosephson et al.、Bioconjug.Chem.、1999、10(2):186−91を参照。
【0063】
水可溶のカルボジイミドおよびエチレンジアミンまたはヘキサンジアミン等のジアミンを使ってカルボキシ官能基化したナノ粒子を、アミノ官能基化した磁性粒子状物質に変換可能である。
【0064】
アビジンまたはストレプトアビジンをナノ粒子に結合させて、オリゴヌクレオチドまたはポリペプチド等のビオチン化結合成分と共に使用可能である。例えば、Shen et al.、Bioconjug.Chem.、1996、7(3):311−6を参照。同様に、ビオチンをナノ粒子に結合させて、アビジン標識結合成分と共に使用できる。
【0065】
これら全ての方法で、限外濾過、透析、磁気分離、または他の手段によりナノ粒子から低分子量化合物を分離することができる。例えば、サイズ排除クロマトグラフィーにより、未反応糖化ペプチドをリガンドナノ粒子複合体から分離することができる。
【0066】
一部の実施形態では、コロイド金ナノ粒子を当技術分野で既知の方法、例えば、Qian et al.、Nat.Biotechnol.26(1):83−90(2008);米国特許第7060121号;7232474号;および米国特許公開公報2008/0166706に記載のような方法を使って作成可能である。
【0067】
一部の実施形態では、ナノ粒子は、ペグ化される(例えば、米国特許第7291598号;5145684号;6270806号;7348030号、等に記載のように)。
【0068】
一部の実施形態では、糖化ペプチドを、完全なユニットのようにナノ粒子に結合する;一部の実施形態では、ペプチド単位を、炭水化物が添加される前にナノ粒子に結合する。
【0069】
複合糖質を構築する方法
本明細書記載の複合糖質で、ペプチドを、例えば、還元アミノ化を使って、共有結合で直接炭水化物に結合するのが好ましい。他の方法は当技術分野で既知である。例えば、Vliegenthart et al.、FEBS Letters 580:2945-2950(2006)、および引用文献を参照。化学的リンカー、すなわち、ヘキサン酸、アジピン酸、またはその他の二官能性カップリング分子、を使わないのが好ましい。例えば、Jones、 Anaisda Academia Brasileirade Ciencias 77(2):293−324(2005)を参照。
【0070】
複合糖質は当技術分野で既知の方法、例えば、他の複合糖質ワクチンを作る方法、を使って構築可能である。例えば、Purcell et al.、Nat.Rev.Nat.Rev.Drug Disc.6:404−414(2007);Falugietal.、Eur.J.Immunol.31:3816-3824(2001);Dziadek et al.、Chem.Eur.J.14:5908-5917(2008)を参照。
【0071】
代表的複合糖質
B群連鎖球菌(GBS)複合糖質:GBSは、新生児の重篤な細菌感染の主要原因である。Schuchat、Lancet、353:51−56(1999)。症例の約80%で、病原体の直接母子感染により新生児のGBS感染が起こり、この病原体は健全な女性の25〜40%の肛門生殖器粘膜にコロニー形成する(上記Schuchat(1999)論文で解説されている)。出産前に適切な抗生物質を全てのGBS陽性の女性に投与すべきである(GBS疾患発生率を劇的に減らす処置)とする疾病管理予防センターの勧告にも拘わらず、米国だけでも、GBSは、いまでも新生児の年間2500例の感染と100例の死亡の原因となっている。いずれにせよ、この抗生物質治療を提供するという政策は、抗生物質抵抗の恐れのために、長期的には継続できそうもない。従って、通常、有効なワクチン接種が長期にわたるGBS疾患の発生率を減らす唯一の手段であると考えられている。
【0072】
GBSワクチン開発の理論的根拠は、新生児感染のリスクがGBSを取り囲む莢膜多糖(CPS)抗原に特異的な抗体の母体中レベルに逆比例するという観察に裏付けられている(DeJong et al.、Int Immunol、16(2):205−213(2004);Paoletti et al.、Infect Immun、69:6696−6701(2001))。その意味は、防御的IgGが胎盤を介して母親から乳児に移されるということである。本明細書記載のGBSに対するワクチン開発の手法は、精製CPS抗原で調製した複合体ワクチンの生成である。全9つのGBS血清型に対する複合体ワクチンを開発し、類似血清型のGBSに対して機能的に活性であるCPS特異的IgGを誘導する前臨床試験で提示した。Paoletti and Madoff、Semin Neonatol、7:315−323(2002)。
【0073】
Ia、Ib、II、III、およびV型GBS由来のCPSで調製した複合体ワクチンの1相および2相臨床試験で、健康な大人において、これらの調製が安全で、高度の免疫原性を示すことが明らかになった。(PaolettiおよびMadoff(2002)の上記論文で概説)。GBSワクチン研究の長い歴史により、このワクチンが、複合糖質抗原プロセッシング、提示および刺激されたT細胞による応答のキャラクタリゼーションの研究のための理想的プロトタイプになっている。記載されたGBSIII複合糖質は「モデル」抗原であり、現実の、重要な疾患に関連している。
【0074】
製剤処方
本明細書記載の治療に有効な量の1つまたは複数の組成物(すなわち、有効な(治療用)試薬として、単独またはナノ粒子に結合して、本明細書記載の複合糖質を含む)は、患者、例えば、ヒト、への投与に適した医薬組成物に組み込むことができる。このような組成物は、通常、組成物および薬剤的に許容可能なキャリアを含む。本明細書で使われる用語の「薬剤的に許容可能なキャリア」は、医薬品の投与に適合する、任意かつ全ての溶媒、分散媒、被覆材、抗菌および抗真菌剤、等張吸収遅延剤、等、を含むことが意図されている。薬剤的活性物質のためのこのような媒質と試薬の使用は既知である。従来の媒質または試薬がその活性化合物と不適合である場合を除き、このような媒質は本発明の組成物に使用可能である。補充性活性化合物、例えば、リガンド分解抑制剤、もまた、組成物に組み入れることができる。
【0075】
医薬組成物は、目的の投与経路に適合するように処方可能である。非経口、皮内、または皮下への適用に使われる溶液または懸濁液には、次の成分が含まれる:無菌希釈剤、例えば、注射用水、食塩水溶液、不揮発性油、ポリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコールまたはその他の合成溶媒;抗菌薬、例えば、ベンジルアルコールまたはメチルパラベン;抗酸化剤、例えば、アスコルビン酸またはナトリウム重亜硫酸塩;キレート化剤、例えば、エチレンジアミン四酢酸;緩衝液、例えば、酢酸塩、クエン酸塩、またはリン酸塩および浸透圧調製用薬剤、例えば、塩化ナトリウムまたはデキストロース。pHは酸または塩基、例えば、塩酸または水酸化ナトリウムで調整可能である。非経口製剤は、ガラスまたはプラスチック製のアンプル、ディスポーザブル注射器または多人数用バイアル中に封入できる。
【0076】
注射可能な用途に適した医薬組成物には、無菌注射用溶液または分散液の即時調製のための無菌水性溶液(水溶性の場合)または分散液および無菌粉末が含まれる。静脈内投与に対する適切なキャリアには、生理食塩水、静菌性水、CREMOPHOR EL(登録商標)(ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油;BASF、パーシッパニー、ニュージャージー)または燐酸塩緩衝食塩水(PBS)が含まれる。全てのケースで、組成物は無菌でなければならず、また、容易に注射可能である程度に流動性が必要である。製造と貯蔵の条件下で安定でなければならず、また細菌や真菌等の微生物の汚染活動に対し保護されなければならない。キャリアは、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセリン、プロピレングリコール、および液体ポリエチレングリコール、等)、および適切なそれらの混合物を含む溶剤または分散媒であってもよい。例えば、レシチンのようなコーティングによって、分散液の場合には必要粒径の維持によって、また、界面活性剤の使用によって、適した流動度を維持可能である。微生物の活動の予防は、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、アスコルビン酸、チメロサール、等の種々の抗菌性および抗真菌性薬剤によって達成できる。多くの場合、等張薬剤、例えば、糖質、多価アルコール、例えば、マンニトール、ソルビトール、塩化ナトリウム、を組成物中に含めることが好ましいと考えられる。注射用組成物の遷延吸収は、組成物中に吸収を遅らせる薬剤、例えば、モノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチン、を含めることにより生じさせることができる。
【0077】
無菌注射用溶液は、必要に応じ、単独または上に列挙した成分の組み合わせと共に適切な溶剤中に入れた必要量の組成物(例えば、本明細書記載の試薬)を組み込み、続いて濾過滅菌することにより調製できる。通常、分散液は、活性化合物を、基本的分散媒および上に列挙したものの中から必要な他の成分を含む無菌賦形剤中に組み入れることにより調製できる。無菌注射溶液調製用の無菌粉末の場合は、調製の好ましい方法は、真空乾燥および凍結乾燥で、これら方法により、前に濾過滅菌した溶液から有効成分プラス任意の追加の所望の成分を得ることができる。
【0078】
経口組成物は、通常、不活性の希釈剤または食用キャリアを含む。これらは、ゼラチンカプセル剤に封入されるか、錠剤に圧縮成形されうる。経口治療投与の目的のため、活性化合物が賦形剤と一緒に組み入れられ、錠剤、トローチ、またはカプセル剤の形で使うことができる。また、経口組成物は、口腔洗浄薬としての用途に流動性キャリアを使って調製可能である。この場合、流動性キャリア中の化合物は、経口で適用され、うがいされ、はき出され、または飲み込まれる。薬剤的に適合したバインダー、および/またはアジュバント物質が組成物の一部として含まれてもよい。錠剤、丸剤、カプセル剤、トローチ等は、下記の成分、または類似の特性の化合物のいずれかを含んでもよい:バインダー、例えば、微結晶性セルロース、トラガカントゴムまたはゼラチン;賦形剤、例えば、デンプンまたはラクトース、崩壊剤、例えば、アルギン酸、PRIMOGEL(登録商標)(ナトリウムカルボキシメチルデンプン)、またはコーンスターチ;潤滑剤、例えば、ステアリン酸マグネシウムまたはSTEROTES(登録商標);流動促進剤、例えば、コロイド状二酸化ケイ素;甘味料、例えば、ショ糖またはサッカリン;または香味料、例えば、ペパーミント、サリチル酸メチル、またはオレンジ香料。
【0079】
全身性の投与も経粘膜的または経皮的手段により可能である。経粘膜的または経皮的投与には、浸透されるべきバリアに対し適切な浸透剤が製剤中に使用される。このような浸透剤は、一般的に既知であり、例えば、経粘膜的投与に対しては、洗浄剤、胆汁酸塩、およびフシジン酸誘導体が含まれる。経粘膜的投与は、点鼻薬または坐剤の使用により達成可能である。経皮的投与に対しては、活性化合物は、当技術分野で一般的に知られているように、軟膏、塗剤、ゲル、またはクリームに製剤される。
【0080】
一実施形態では、活性化合物は、埋没物およびマイクロカプセル化したデリバリーシステムを含む放出制御処方のような、体内からの急速排除に対して化合物を保護するキャリアと共に調製される。エチレンビニル酢酸塩、ポリ酸無水物、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリオルトエステル、およびポリ乳酸等の生分解性、生体適合性ポリマーを使用可能である。これらの製剤を調整する方法は当業者には自明であろう。また、市販材料が、Alza CorporationおよびNova Pharmaceuticals、Incから入手可能である。リポソーム懸濁液(モノクローナル抗体とウイルス抗原複合体に感染した細胞を標的にしたリポソームを含む)も薬剤的に許容可能なキャリアとして使用可能である。これらは当業者に既知の方法、例えば、米国特許第4、522、811号に記載のような方法、を使って調整可能である。
【0081】
核酸分子は、ベクターに挿入でき、遺伝子治療ベクターとして使用可能である。遺伝子治療ベクターは、例えば、静脈内注射、局所投与(米国特許第5、328、470号)または、定位注入(例えば、Chen et al.、PNAS 91:3054−3057、1994参照)によって、患者に送達可能である。遺伝子治療ベクターの薬剤には、受容可能希釈剤中の遺伝子治療ベクターが含まれ、または遺伝子送達賦形剤が埋め込まれた徐放基質を含むことも可能である。あるいは、全遺伝子送達ベクターが、組み換え型細胞から未変化で作られる、例えば、レトロウイルスベクター、場合は、薬剤が遺伝子デリバリーシステムを作る1つまたは複数の細胞を含んでもよい。
【0082】
投与インストラクションと一緒に、医薬組成物を、容器、パック、またはディスペンサー中に入れることができる。一態様では、医薬組成物を、キットの一部として入れることもできる。
【0083】
通常、医薬組成物を投与する用量により、毒性、刺激またはアレルギー反応のような望ましくない副作用もなく、予防および/または治療のための意図した目的の遂行が促進される。個人のニーズは変化するかもしれないが、製剤有効量の好適範囲の決定は、当分野の技術の範囲内で可能である。ヒト用量は、動物の研究から容易に推定可能である(Katocs et al.、27章:「レミントンの薬科学」、第18版、Gennaro、ed.、Mack Publishing Co.、イーストン、ペンシルベニア州、1990)。通常、製剤の有効量を得るために必要な用量は、当業者により調節可能であるが、いくつかの因子により変化するものである。これらの因子には、受診者の年齢、健康、身体的病状、体重、タイプおよび疾患または障害の程度、もし必要なら、治療の頻度、同時実施治療の性質、および所望の効果の性質と範囲が挙げられる(Nies et al.、3章:Goodman & Gilman's「治療の薬理学的基礎」、第9版、Hardman et al.、eds.、McGraw−Hill、ニューヨーク、ニューヨーク州、1996)。
【0084】
免疫応答を誘導する方法
本明細書には、また、例えば、哺乳類動物、例えば、ヒトまたは非ヒト哺乳類動物の患者の免疫応答を誘導する方法も提供されている。本明細書記載の複合糖質は、例えば、ワクチンとしての使用のために、未変性多糖自体に対する免疫応答を誘導するのに特に有効である。従って、この方法には、免疫保護が必要な患者の特定、および患者の免疫応答を誘導するのに十分な量の本明細書記載の複合糖質の患者への投与が含まれる。一部の実施形態では、方法には、患者への1回または複数回の追加の投与、例えば、追加の接種が含まれる。
【0085】
本明細書記載の方法は、任意の患者に適用可能であるが、免疫力が低下したまたは免疫不全の患者、およびワクチン接種に対し典型的な応答不良患者、ならびに感染リスクが高い人に特に有効である。このような患者には、非常に若い人(例えば、24月齢未満の乳児)、末期腎臓疾患(ESRD)の患者(特に血液透析の人)、化学療法と照射治療を受けている癌患者、HIV/AIDSの患者、アルコール中毒者、薬物乱用者、糖尿病患者、高齢者(特に長期介護施設にいる人)、侵襲性手術の患者(例えば、器官移植)、および急性期ケア環境にある他の患者が挙げられる。
【0086】
一部の実施形態では、本明細書記載の組成物は、アジュバントまたは免疫賦活薬と同時投与される。一部の実施形態では、本明細書記載の組成物は、アジュバントまたは免疫賦活薬のいずれも伴わず投与される。
【実施例】
【0087】
本発明はさらに下記の実施例により説明されるが、これは請求項に記載された本発明の範囲を制限するものではない。
実施例1−モデル複合糖質の炭水化物部はMHC−IIを介してAPC表面で発現する
複合糖質がどのようにしてT細胞を活性化するかについて、現在受け入れられているパラダイムは、炭水化物が非常に強力な共有結合によりタンパク質に結合(多くの場合二級アミン)しているにしても、T細胞にペプチドが提示され、認識されるということだけである。この古典的仮説では、APC内の多糖に何が起きているか、またはエンドソーム中でどのようにして炭水化物とタンパク質を分解し、正しいペプチドをT細胞に提示するか、説明できない。しかし、特定のCPS−例えば、総腸管グラム陰性偏性嫌気性菌バクテロイデスフラジリスの多糖A(PSA)−は、Toll様受容体(TLR)を介して自然免疫系を活性化し、獲得免疫系と連携して自然免疫系がこれらの分子に応答して作用する。Wang et al.、J Exp Med、203:2853−2863(2006).PSAは、抗原提示細胞(APC)によりプロセッシングされ、主要組織適合性クラスII(MHCII)経路を介してCD4T細胞に提示される。結果的にT細胞が活性化される。Cobb et al.、Cell、117:677−687(2004)。本発明者等は、糖化ペプチドは、正しくプロセッシングされておれば、提示専門細胞APCによりT細胞に提示されることが可能である、との仮説を立てた。この新しい概念は、複合体ワクチンおよび糖タンパク質含有ウイルスおよび細菌による感染に関し、古典的教示に反する。仮説が探究の価値があるか否かを判定するために、GBSIIIを使って実験を行った。このGBSIIIの反復ユニット構造をモデル多糖として図1に示す。GBSIIIは、古典的T細胞非依存的抗原であると考えられる。Guttormsen et al.、Infect Immun、67:6375−6384(1999)。マウスでは、キャリアタンパク質に共有結合で結合する場合のみに、GBSIIIを使った免疫化により有意な量のIgG抗体が誘導された(図1には、複合化に使われる代表的化学反応を示す)。
【0088】
実施例2−糖化ペプチドはAPC表面に提示される
MHCII結合糖化ペプチドがAPC表面に提示されるか否かを判定するために、免疫共沈降(co−IP)、フローサイトメトリー、およびウェスタンブロット実験を行った。最初、PSAおよびN−アセチル化PSAのように、純粋なGBSIIIがAPCのエンドソーム内で解重合されるか否かを評価した。(Cobb et al.(2004)、同上を参照)、(Duan et al.、Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.105(13):5183−5188(2008))にあるPSAに関する報告と同じ方法を使って、放射標識したGBSIIIをラージB細胞と共に18時間インキュベートした。次に、ミクロソームをラージ細胞から単離し、エンドソーム内のGBSIII分子の大きさ(大きさにばらつきがあり、平均で約15kDaであるが、カラムの総容積にいくつかの物質が含まれている)が元の分子(平均で150kDa;カラムの空隙容積に溶出)よりも有意に小さいことを確認した(図2a)。co−IP実験(図2a)の次に、PSAの場合の報告(Cobb et al.(2004)、同上を参照)と類似の実験を行った。表面免疫複合体をmAbとMHCIIの複合体と沈降させた。細胞を純粋な非複合多糖とインキュベートした場合、予想通り、MHCIIの存在下、GBS炭水化物は細胞表面に認められなかった。これらのデータにより、複合GBSIIIはエンドソーム内で解重合されるが、純粋な炭水化物はMHCII分子にロードされ得ず、従って細胞表面に提示できないことが明らかである。PSA−MHCII結合への化学反応のキーは双生イオン電荷モチーフであり、これは、非複合GBSIII(他の炭水化物と同様に)では欠けている。Hデキストランは同様にエンドソーム内でプロセッシングされることがわかった。これらの知見は、多糖にT細胞非依存性を与える少なくとも1つの機序が、必ずしもAPCが多糖をMHC−IIにロードできる大きさに解重合できないことではなく、MHCIIに結合できないことであることを示唆している。
【0089】
複合糖質([H]GBSIII−OVA)のマウス脾臓単核細胞(図2C)またはラージB細胞(図3A)とのインキュベーション後のmAbとMHCII複合体を使ったco−IP実験で、[H]GBSIIIが表面結合していることが示された。[H]GBSIII−OVAを抗原とするco−IP実験では、表面結合GBSIIIは、C57Bl/6野生型マウスおよび種々のノックアウト株(図2C)由来の脾細胞上の抗HLA−IA/IEを用いて探索された。野生型およびMHCIマウス由来の脾細胞は、両方ともその表面上に炭水化物を提示した(約10kDa)が、MHCII(H2−Ab1)マウス由来細胞は、その表面にGBSIIIが欠けていた。APCとしてラージB細胞を使ったco−IPでは、HLA−DR分子の存在下、炭水化物エピトープが細胞表面に存在したことが立証された(図3A)。MHC分子が炭水化物を提示していることおよび複合糖質ワクチン中での炭水化物提示がキャリアとしてのOVAに特異的でないことを証明するために、破傷風トキソイド([H]GBSIII−TT)に結合したGBSIIIの複合体を調製した。ラージB細胞および後者のワクチン構築物を用いたCo−IP調査でも、また、HLA−DRの存在下、GBSIIIがラージB細胞表面上に存在する(図3B)が、MHCII欠如ラージ由来細胞株、RJ2.2.5の表面に存在しないことが示された。全てのco−IP実験で、mAbとLAMP−1複合体を陰性対照として使用したが、これは細胞表面には無く、エンドソームの区画中にのみ存在している。
【0090】
co−IP実験の検証のために、フローサイトメトリーを使ってAPCによる炭水化物エピトープの提示を調べた。マウス骨髄由来樹状細胞(BMDC)を、GBSIII、OVA、またはGBSIII−OVAと共に18時間インキュベートした。細胞をGBSIII特異的なフルオロフォア複合mAbを用いて4℃で標識し、次に固定した。GBSIII−OVAインキュベートしたBMDCの膜のみGBSIII抗体で標識し、純粋な非複合GBSIIIまたはOVAとインキュベートした細胞の膜には標識しなかった(図2D)。
【0091】
上記実験では、多糖がキャリアタンパク質に複合化しているときのみ、炭水化物エピトープはMHCII経路で提示され屡ことが明らかになった。この観察に対する1つの説明は、GBSIII炭水化物エピトープ(例えば、糖化ペプチド中の)に結合しているときのみ、それらのエピトープは分子結合できるということである。おそらく、共有結合で炭水化物エピトープに結合しているペプチドエピトープが生成し、MHCIIに結合し、そして炭水化物をMHCII分子上のAPC表面に運ぶ。この可能性を、MHCIIタンパク質により提示されたものがペプチドに化学的に結合したGBSIIIであるかどうかを調べることにより検討した。キャリア分子として単一ペプチドエピトープを含む複合糖質と共にインキュベートしたラージB細胞の細胞表面抽出物に対してウェスタンブロット実験を行った。卵白アルブミンペプチドエピトープ、OVA323−339、をGBSIIIに複合化しGBSIII−OVApを形成した。OVA323−339は、OVA(23)のTおよびB細胞エピトープを示す。このペプチドは、そのN末端でN−アセチル化されており、また、C末端で4つのアミノ酸で伸長して多糖への非ランダム結合を可能にした。この修飾は、MHCIIとαβTCRに対する純粋なペプチド結合に影響を与えなかった。複合糖質のペプチドの炭水化物に対する比率は、重量比で、3:1であった;この値は、ペプチド分子に結合した炭水化物の8平均反復単位に相当し、多糖鎖に沿った約10kDaの糖化ペプチドエピトープを作り出す値である。10kDaの大きさは、ラージB細胞およびマウス脾細胞とインキュベートした多糖/タンパク質複合体の細胞表面に見つかった解重合された炭水化物の大きさに類似であった。GBSIII−OVApおよび純粋なGBSIIIを、それぞれラージB細胞とインキュベートし、細胞表面含有物を集め、可溶化して、トリスグリシン/ポリアクリルアミドゲルで操作し、その後、ウェスタンブロット分析のため、2フッ化ポリビニリデン膜に転写した。膜をHLA−DR抗体、またはGBSIIIまたはOVApに対する抗体とインキュベートした。HLA−DR、炭水化物、およびペプチドを含む免疫複合体の全てで、GBSIII−OVApとインキュベートした細胞から得られた細胞表面抽出物のゲル上に約80kDaにバンドが認められたが、GBSIIIでインキュベートした細胞からのものでは認められなかった。(図2E)。HLA−DRαβダイマー(それ自体のペプチドを導入したまたは空の)を、前に記載したように(24)(データは示していない)、約65kDaのHLA−DRmAbで標識した。炭水化物はゲル中で蛋白質よりゆっくり動くので、複合体非結合HLA−DRと糖化ペプチド-HLA−DR複合体の間の約15kDaの大きさの差(タンパク質マーカーにより測定)は、糖化ペプチド(約10kDa)の大きさを表している。
【0092】
実施例3−GBSIII−OVAのエンドソームプロセッシング
GBSIII−OVAのエンドソームプロセッシングの動力学に関する予備調査も行った。3時間、6時間、または18時間のGBSIII[H]−OVAとのインキュベーション後、ラージ細胞のエンドソームを集めた(図2B)。結果は、プロセッシングは3時間で開始され、18時間までに完了することを示唆している。
【0093】
予備データは、複合体ワクチン(例えば、III−OVA)の炭水化物部がAPCによりT細胞に提示される産物へのプロセッシングという機序に基づき取得された。活性酸素種(ROS)による多糖プロセッシングの有望なメカニズムが明らかになった。エンドソーム中のGBSIIIのプロセッシングにおける活性窒素種およびグリコシダーゼの適切な役割がある。
【0094】
ラージB細胞による取り込みの後、III−OVAはより小さい分子に分解される(図4A〜C)。分解は、ヒドロキシルラジカル捕捉剤D−マンニトール(図4A)または超酸化物捕捉剤4−ヒドロキシルTEMPO(図4B)によって抑制されるが、ヒドロペルオキシド捕捉剤ピルビン酸塩には抑制されない(図4C)。
【0095】
これらのデータは、GBSIII−OVAの炭水化物部は、APCエンドソーム/リソソーム内でROS、最も可能性の高いものとしては超酸化物およびヒドロキシルラジカル、により解重合されることを示している。
【0096】
ラージB細胞株を使ったこの結果により、複合糖質ワクチンが糖化ペプチドエピトープを含むという仮説に対する支持が得られた。要約すると、データは、キャリアタンパク質と複合している場合は、GBSIIIの約10kDaの部分が、MHCII分子と結合してAPC表面で提示されるということを示唆している。
【0097】
3つのキーとなる対照実験を行い炭水化物の提示が実験上の人為産物であったといういかなる可能性をも排除した。最初に、非複合多糖を複合多糖と比較し、非複合多糖がエンドソーム中で解重合したが、表面に提示はされなかった一方、複合化糖質はエンドソーム中の解重合も細胞表面提示も両方行われた。第2に、トリチウム標識複合糖質のプロセッシングと提示をラージ細胞とRJ2.2.5細胞(MHCIIタンパク質が欠如したラージB細胞株)で比較した。RJ2.2.5細胞で提示が無いことによりラージ細胞で観察されたことはMHCII分子によるということが明らかになった。最後に、実験全体で、モノクローナル抗体とMHCII分子、抗HLA−DR複合体と一緒に最終免疫沈降ステップを行った際、表面抽出物も対照抗体(例えば、抗LAMP−1抗体)と共に沈降した。この抗体は陰性対照の働きをした。
【0098】
B細胞は、キーとなるAPCであり、プロセッシングされた複合糖質ワクチンの抗原エピトープをCD4+T細胞に提示する。従って、これらのプロセッシングと提示の実験でラージB細胞株の使用は適切である。一次細胞でこれらの実験を検証するために、マウス脾リンパ球および骨髄由来の樹状細胞(BMDC)をAPCとして使って上記実験を繰り返した。
【0099】
実施例4−OVAペプチド(OVAp)特異的T細胞はIII−OVApエピトープを認識しない
この実施例は、特定のペプチド(OVAp)を認識するCD4+T細胞受容体(TCR)が、そのペプチドが莢膜多糖(GBSIII)と複合化された場合、同じペプチドを認識しなかったことを実証する実験について記載する。この実験は、糖化ペプチドエピトープの炭水化物部が特定のTCRにより特異的に認識されうるという仮説を裏付ける証拠を集めるため行った。GBSIII−OVApがOVAp特異的T細胞クローンならびにOVAp単独によるT細胞増殖を誘導しないことを示すことにより、III−OVApがペプチド特異的T細胞により認識されることができない糖化ペプチドエピトープを有するということが示唆されることになろう。
【0100】
卵白アルブミン抗原エピトープOVA323−339は、OVAのT細胞およびB細胞エピトープを表し、これは、BALB/cマウスにおける即時型過敏症応答生成と成長にとって重要である。McFarland et al.、Biochemistry、38:16663−16670(1999)。ペプチドは、OVApの両末端にリジン基を付加(OVAp19:2つのリジン基を17aaOVApに追加した19アミノ酸を指す名称)することにより設計、調製される。このペプチドを、GBSIIIと複合化(GBSIII−OVAp)し、野生型BALB/cマウス由来の照射APCをBALB/cまたはOVApT細胞マウス(D011.10)由来のCD4+T細胞と同時インキュベートするT細胞増殖実験を行った;D011.10は、T細胞受容体を発現するT細胞受容体遺伝子導入系でMHCクラスII(I−A)分子と連携して卵白アルブミン由来OVAペプチド323−339(OVAp)を認識する(図5A〜B)。APC+T細胞混合物をGBSIII(8.7μg、10μgGBSIII−OVAp中のGBSIII含量に対する当量)、GBSIII−OVA(10μg)、OVA(4.5μg、10μgGBSIII−OVA中のOVA含量に対する当量)、GBSIII−OVAp(10μg)、OVAp(1.3μg、10μgGBSIII−OVAp中のOVAp含量に対する当量)、OVAp19(1.3μg)で刺激した。
【0101】
対照として、同じ実験を抗HLAIA/IE(および抗HLAIA/IEに対する対照としてそのアイソタイプ)を添加して繰り返し、T細胞刺激がMHCII提示によることを示す。OVApと同じアミノ酸含量で、全体の順番が異なるスクランブルしたOVAペプチド、scOVAp、を調製した。このペプチドを使用して、TCR特異性はOVApに対してのみであることを示した。このスクランブルしたペプチドは、T細胞増殖性を誘導しなかった。ブドウ球菌エンテロトキシンA(SEA、10ng)およびコンカナバリンA(conA、10ng)スーパー抗原を陽性対照として使用した(約50〜1000刺激指数)。
【0102】
本実験の全対照は完璧に機能した。MHCII分子が抗HLAIA/IEによりブロックされると、III−OVA(p)もOVA(p)もどちらもT細胞増殖を刺激できなかった。また、抗HLAIA/IEのアイソタイプが存在すると、増殖活性は元の値のままであった。このことにより、T細胞増殖性のMHCII依存性が明らかである。図5A〜Bでは、わかりやすくするため、この実験のキーとなる結果のみを示した。
【0103】
GBSIIIは、野生型BALB/cまたはOVAT細胞マウス由来のT細胞を刺激しなかった。GBSIII−OVAおよびOVAは、2つの異なる細胞集団を選択的に刺激した。GBSIII−OVAは、BALB/cT細胞の増殖を誘導することができた(SI:2.1)が、OVAp特異的T細胞を刺激しなかった(SI:1.1)。他方、OVAは、OVApT細胞を刺激した(SI:3.4)が、BALB/cT細胞を刺激できなかった(SI:0.8)。この観察結果は、両抗原は異なるT細胞エピトープを介してT細胞を刺激していることを示唆している。GBSIII−OVAのエピトープはOVAT細胞によって認識され得ないが、BALB/cT細胞にはGBSIII−OVAエピトープを認識するT細胞受容体レパートリーがある。
【0104】
OVApおよびGBSIII−OVApの刺激に関して興味ある観察がなされた。OVApは、OVAp特異的T細胞の極端な増殖を誘導する(SI:2935.0)が、BALB/cT細胞の刺激に関しては効果が無い(SI:0.85)。他方、GBSIII−OVApは、両グループのT細胞を刺激する(BALB/cT細胞SI:4.0、OVApT細胞SI:53.6)。この観察と同じパターンがOVAとIII−OVAの刺激でも認められた。BALB/cT細胞は、OVAp用のTCRが欠如しているが、III−OVApの抗原エピトープを認識でき、これは、III−OVApおよびOVApの両方に対し1つのペプチドエピトープが存在できるだけなので、III−OVApが糖質分子を伴ったエピトープを有していることを示唆している。この実験から導き出される別の非常に重要な潜在的結論は、GBSIII−OVApによるOVAT細胞刺激のT細胞増殖(SI:53.6)が、同量のOVApによる刺激(SI:2935.0)に比べて約60分の一に減少しているので、OVApT細胞はIII−OVApエピトープを認識しないということであった。
【0105】
実際、10μgGBSIII−OVAp(1.3μgOVAp含量を有す)に比べて、OVApの系列希釈でもまだ良好な刺激を示した(0.13μgOVAp−SI:781、0.013μgOVAp−SI:35)。これらの結果は、III−OVApが糖化ペプチドエピトープを有しており、そのエピトープが提示された場合、OVApT細胞のTCRはこの糖化ペプチドを認識せず、OVAp刺激に比べて、これらのT細胞の刺激の劇的な減少を生ずることを示唆している。
【0106】
実施例5−糖化ペプチドに対するCD4+T細胞の応答
T細胞は、特定のMHCII結合炭水化物(ZPS)を認識し、この認識が生物学的に重要な結果をもたらす。MHCII結合に必要なZPSの特有で重要な化学特性は、双性イオン電荷モチーフであり、これにより静電的ZPSMHCII結合が可能となる。非複合化GBSIIIおよびほぼ全ての他の炭水化物は、双性イオン電荷モチーフが欠如しており、代わりに、その反復ユニット構造の一部として、負に帯電した基のみか、または帯電基が全くないかである。これらの知見は、多糖にT細胞非依存性を与える少なくとも1つの機序は、MHCIIに結合できないことであり、必ずしもCD4+T細胞のαβTCRが炭水化物を認識できないことではないことを示唆している。
【0107】
T細胞増殖アッセイを行いエンドソーム中で産生され、APCの表面に提示されたMHCII結合糖化ペプチドの炭水化物部をT細胞が認識できるか否かを判定した。野生型BALB/cマウスをGBSIII−OVAで免疫し、GBSIII−OVAにより産生されたエピトープを認識するT細胞のレパートリーを増幅した。CD4+T細胞をこれらのマウスの脾臓から集め、APCの存在下、9日間インビトロでGBSIII−OVAによる刺激によりさらに増幅した。この手法は、OVA(ペプチド)を認識するT細胞のみでなく、GBSIIIエピトープ(すなわち、ペプチド結合炭水化物の認識により)を認識するT細胞およびGBSIII−OVAエピトープ(すなわち、ペプチドと炭水化物両方の認識により)を認識するT細胞の増殖も促進する意図があった(このようなT細胞があれば)。また、この手順は、9日間の同時培養期間中に、刺激されていないT細胞(すなわち、これらの抗原に対し特異的でないもの)を除外した。同時培養後、IL−2−、IL−4−、およびIFN−γ−産生CD4+T細胞を増幅したT細胞とAPCの再刺激同時培養の上澄みを使ってELISPOTアッセイを行った(図6A、6B、および6C)。いくつかの抗原をELISPOTアッセイに使用した。最初、T細胞のOVAおよびGBSIII−OVA再刺激のためのサイトカインのプロファイルを比較した。図6Bおよび6Cに示すように、OVAは、GBSIII−OVAに比べ有意に高いIFN−γ分泌、および有意に低いIL−4分泌を誘導した。この結果は、OVAが、Th2およびTh1細胞の両方を刺激する一方、GBSIII−OVAは、優先的にTh2細胞を刺激することを示唆している。OVA単独に比較して、GBSIII−OVAによる多量のIL−4産生は、複合糖質ワクチンに対する至適免疫応答の誘導についての有益な情報を示す可能性がある。
【0108】
GBSIII−OVA免疫マウス由来の血清中に現れたOVA特異的IgGのサブクラス(IgG1、IgG2a、IgG2b)は、IFN−γおよびIL−4の両方がB細胞を刺激していることを示唆し、一方、GBSIII特異的IgGサブクラス(IgG1のみ)はIL−4によるB細胞刺激を示した(図6Dおよび6E)。この知見は、特有のCD4+T細胞集団がIgGスイッチを操作する糖化ペプチドの炭水化物部に応答することを示唆している。
【0109】
炭水化物応答T細胞集団の存在を確認するため、ELISPOTアッセイにより再度調査した。GBSIII−OVA(前に検討済み)を使った初期の9日間の増幅後使用されたCD4+T細胞を、このアッセイ中でGBSIII複合糖質を使って再刺激した。この複合糖質では、GBSIII多糖が異なるキャリアタンパク質、破傷風トキソイド(TT)、と複合化されGBSIII−TTを産生した。使用されたT細胞は、最初GBSIII−OVAで増幅されたため、GBSIIIまたはOVAから産生されたエピトープのみを認識した。この集団がGBSIIIのみを認識するT細胞亜集団を含んでいる場合は、それらはTTではなく、GBSIII−TTによって刺激されるであろう。実際、図6A、6Bおよび6Cに示されたデータは、この仮定を検証し、T細胞集団のGBSIII多糖の認識を明確に示している。
【0110】
実施例6-OVAp特異的TCRの糖化ペプチドに対する応答
次に、T細胞応答が1つのキャリアペプチドの方向にのみ向いている複合糖質を構築した。完全長タンパク質との特定の複合体は、複合後、さらに免疫原性の強いペプチドを提示し、単独の場合のタンパク質キャリアにより提示されたペプチドより免疫原性の強いペプチドに対する強化免疫応答が得られる可能性があった。単一のペプチドT細胞エピトープを含むGBSIII−OVApを抗原として使用した。OVAp特異的TCR遺伝子導入(DO11.10)マウスおよび野生型(BALB/c)マウスの両方から、各マウス株をGBSIII−OVApで2週おき3回免疫した後、リンパ細胞を採取した。T細胞増殖実験では、野生型(BALB/c)マウス由来照射APCを、免疫BALB/cマウス(図7A)または免疫DO11.10マウス(図7B)由来のCD4+T細胞と共に同時インキュベートした。iAPC/CD4+T−細胞混合物をインビトロで3つの抗原:GBSIII−OVAp(10μg);GBSIII(7.5μg、GBSIII−OVApの10−μg用量中のGBSIII含量に相当);およびOVAp(2.5μg、GBSIII−OVApの10−μg用量中のOVAp含量に相当)で刺激した。
【0111】
GBSIIIは、野生型BALB/cまたはOVApT細胞遺伝子導入マウス由来のT細胞を刺激しなかった。GBSIII−OVApで免疫した野生型マウス由来のCD4+T細胞は、ワクチンに使われている特異的ペプチドのみが投与された場合よりも、複合体が投与された場合の方が良好に応答した(p=0.009);この意味するところは、ペプチドよりはむしろGBSIIIOVApの炭水化物部がTCRに提示されたということである。GBSIII−OVApおよびOVApの両方に対して同じ単一の抗原性ペプチドとの複合体の形成は、これらの2つの抗原に対する異なるT細胞応答が、異なるペプチドエピトープの提示によるということでは説明され得ないことを立証している。DO11.10CD4+T細胞を使って、OVApは非常に強力な増殖応答を誘導した(285、000cpm;図7B)。重要な知見は、同時培養物がGBSIII−OVApで刺激された場合は、DO11.10CD4+T細胞が、OVApを認識しているようには見えなかったことであった。増殖が、同量のOVApで刺激した場合(285、000cpm)に比べ、GBSIII−OVApで刺激したDO11.10T細胞で約1/23(12、687cpm)に低下した。これらの結果は、III−OVApが、提示されても、DO11.10遺伝子導入OVA特異的T細胞のTCRによって認識されない糖化ペプチドエピトープを持っていることを示唆している。結果として、これらT細胞のGBSIII−OVApによる刺激は、OVApによる刺激に比べ激減した。また、これらの知見は、炭水化物がAPC表面上のOVAp提示をマスキングしていることを示唆している。ブレフェルジンAをAPC/CD4+同時培養時に添加し、MHCIIの提示をブロックした場合(小胞体内部のMHCII分子をトラップすることにより)、または抗HLA−IA/IEが添加されT細胞によるMHCII認識を阻害した場合、T細胞刺激は観察されなかった。この結果は、MHCIIによるプロセッシングおよび提示が必要であることを確証させるものである(図7Cおよび7D)。さらに、OVApとして同じアミノ酸含量であるが、全体としては異なる配列のスクランブルしたOVAペプチド、scOVAp、を使用した。GBSIII−OVAp免疫野生型またはDO11.10マウス由来のAPCとCD4+T細胞の同時培養物は、スクランブルしたペプチドに応答しなかった(<500cpm);すなわち、TCRはOVAp配列のみを有するペプチドに特異的であった。
【0112】
実施例7−B細胞による多糖特異的抗体アイソタイプスイッチ媒介
多糖特異的抗体(IgG)の応答がペプチドエピトープの認識によるものか、または炭水化物エピトープの認識によるものなのかを判定するため、DO11.10OVAp特異的TCR遺伝子導入マウスおよびGBSIII−OVApで免疫した野生型BALB/cマウスを使って、GBSIII特異的IgG力価を測定した。DO11.10遺伝子導入マウスは、GBSIII特異的IgGを産生しなかったが、一方野生型マウスは、GBSIII特異的IgGの高い力価を示した(図8A)。さらに、DO11.10マウスおよび野生型マウスは、同等量のGBSIII特異的IgMを生じ、この結果は、DO11.10マウスにおけるIgG産生の欠如が、少ない数のGBSIII特異的B細胞によるものではないことを示している(Fig.8A)。これらの結果は、ヘルパーT細胞のTCRによるGBSIIIの認識がB細胞による多糖特異的IgG分泌を誘導するという仮説を裏付けるものである。DO11.10マウスは、複合糖質ワクチンの炭水化物エピトープを認識するT細胞レパートリーが欠如しているので、DO11.10T細胞は、B細胞の多糖特異的IgG分泌を誘導できなかった。野生型およびDO11.10マウスをOVAp(無多糖)で免疫した場合、DO11.10マウスが、より高い力価のOVAp特異的IgGを産生した(図8C)。後者の実験により、DO11.10マウスのIgG産生能力の欠如によって、GBSIII特異的抗体産生に失敗したことの説明はできないことを示した。
【0113】
実施例8:T細胞はAPC表面の複合糖質と連携して提示された炭水化物に応答し得る
データは、PSAやGBSIII等の細菌性CPSが、エンドソーム中でより小さい分子にプロセッシングされうることを示唆している。これらの炭水化物は、分解された形でAPC表面上を行き交い、そこで検出されてMHCIIに結合するように思われる。既発表研究では、生物学的に重要な結果と共に、T細胞が特定の多糖(ZPS)に応答することが明確に示されている。Mazmanian et al.、Cell、122:107−118(2005);Ruiz−Perez et al.、PNAS、102:16753−16758(2005);Wang et al.、J Exp Med、203:2853−2863(2006)。次に、MHCIIにより提示された、ペプチドを介してMHCIIに結合した炭水化物(糖化ペプチド)にT細胞が応答するか否かを判定した。再度、仮説は、複合糖質または糖タンパク質をプロセッシングする場合、タンパク質由来ペプチドエピトープを提示するのと同様に、APCが糖化ペプチドをT細胞に対し提示するということであった。
【0114】
養子免疫細胞移入実験を行った。細胞ドナーBalb/cマウス群は、GBSIII−TTワクチンまたはTT単独により初回刺激を受けた。GBSIII−TT刺激マウスの脾臓由来のB細胞(10)を未処理Balb/cレシピエント(群当たり6匹のマウス)の2つの群に移入した。これらは、また、GBSIII−TT刺激またはTT刺激動物由来のCD4T細胞(0.5x10)も受けた。CD4+T細部および食塩水レシピエントの未処理マウス由来のB細胞を対象として用いた。細胞移入の24時間後、細胞レシピエントをGBSIII−TTワクチンで免疫した。GBSIII−TT免疫動物由来のT細胞を受けたマウスの免疫応答は、TT単独で免疫された動物由来のT細胞を受けたマウスより、有意に向上した(p<0.01;図9)。
【0115】
全レシピエントマウスが、同じプール(GBSIII−TT免疫化)由来のB細胞を与えられたので、復活免疫化動物の応答の大きさの差異はT細胞ソース(GBSIII−TT刺激対TT刺激ドナー)に起因する。TT免疫動物由来のT細胞のレシピエントよりも、GBSIII−TT刺激動物由来のT細胞のレシピエントにおいてより好ましいペプチド(より良好なT細胞エピトープを伴った)が提示される可能性はある。しかし、TT免疫復活よりも、ドナーT細胞の方がGBSIII−TTでより良好に刺激されること、すなわち、GBSIII−TT刺激ドナー由来のT細胞が糖化ペプチドで刺激され、そのため糖化ペプチドを認識したこと、また、復活免疫化動物が複合糖質を受けたために、III−TT免疫動物由来のT細胞を受けた動物は、今や、ペプチド単独よりも良好な糖化ペプチドを認識するT細胞を有すること、等も同様にあり得ることである。
【0116】
これらのデータは、T細胞が、ペプチドと糖化ペプチドを区別して認識するという仮説を裏付けるものである。
【0117】
実施例9:ペプチド複合糖質の最適化
マウスをIII−OVAp19(OVAp19は19アミノ酸を意味し、OVAの17aaTCR依存抗原エピトープ、OVAp、の各末端に付加した2つのリジン基を含む)で免疫した場合、GBSIII特異的IgGの分泌が観察されなかった。GBSIII−OVApがIgM−IgGスイッチを誘導できなかったことに対する推定される理由は、III−OVApの設計に関係のあることかもしれない。この構築物中のペプチドは、NおよびC末端の両方から多糖に共有結合で結合している。この両側の結合は、高度架橋複合体中にペプチドを捕捉し、エンドソーム中でMHCII分子によるペプチドの認識を最小化する可能性がある。(図10B)。GBSIII−OVA延長ペプチド複合体(III−OVAextpep)を設計し合成した(図10C)。ここで、OVAp(323−339)をC末端上で4アミノ酸で延長し、リジンをC末端残基とした。N末端のアミノ官能性は、N末端アミンのアセチル化によりブロックした。延長OVApを設計し、合成した:(N−アセチル)−ISQAVHAAHAEINEAGRESGK。このペプチドは、非常に均一な単鎖構築物をもたらすC末端リジン基を介してGBSIIIとのみ複合できる。また、延長部分(ESGK)は、ペプチドと糖質の間に空隙を生成し、MHCII分子のペプチドに対するアクセスを可能にする。この複合体は、標的特異的であるように設計され(タンパク質特異的免疫応答を誘発するタンパク質キャリアが無い)、また、この構築物は、高度に架橋したタンパク質複合体に比べ分子当たり1オーダー多い抗原エピトープを含む(タンパク質多糖複合体の場合の1〜2エピトープとは対照的に、多糖の10反復単位毎に1ペプチドがあり10〜15糖化ペプチドエピトープになる)。
【0118】
4群のBALB/c(群当たり4匹のマウス)を、1)GBSIII単独、2)OVA、3)III−OVA、または4)III−OVAextpepで3回免疫した(0、14、28日目)。35日目に集めた血液から血清を採取した。精製しGBSIIIに対するマウスIgG2aモノクローナル抗体を使って各血清中のGBSIII特異的IgG量を定量した。図12に示したように、用量反応分析では、III−OVAextpepまたはIII−OVAで免疫したマウスは、III−OVAextpepおよびIII−OVAの濃度の増加と共により多くのIII−IgGを産生したことが明らかになった。
【0119】
III−OVAextpepのGBSIII特異的IgG抗体の分泌を誘導する能力は、このワクチンが、多形核白血球(PMNL)によるIII型B群連鎖球菌の食作用を誘導するのに強力である可能性を示唆している。これを試験するために、III−OVAextpepで免疫したマウスの血清を使って、オプソニン化貪食作用アッセイを行った。図11に示すように、III−OVAextpep免疫マウスからの血清は、細菌をオプソニン化し、その食作用を可能にすることに関し、III−OVA免疫マウスからの血清と同等の強力さであった。III−OVAextpep免疫マウス由来の血清は、III−OVA免疫マウス由来の血清より約7倍少ないGBSIII特異的IgGを含むことを知ると、III−OVAextpep血清のオプソニン化貪食作用を誘導する能力はIII−OVA血清よりもさらに大きい。
【0120】
新生仔マウス保護アッセイを行ってIII−OVAextpepの保護能力を調べた。雌マウスをIII−OVAextpepで免疫したが、これらの免疫雌マウスが妊娠している場合、GBSIII特異的IgG抗体が胎盤を通過して胎児に到達する。次に、その子はIII型B群連鎖球菌の攻撃を受けた。攻撃後0、24、48、および72時間の時点でGSBIIIに攻撃された子のパーセント生存率を測定した。図13に示すように、III−OVAextpep免疫母から生まれた子の生存により、III−OVAextpepがGBSIIIの攻撃に対してマウスを保護する能力を有することが立証された。
【0121】
実施例10−インビボプライミングアッセイ
糖化ペプチドの炭水化物部のCD4+T細胞による認識が、複合糖質に対する体液性免疫応答の誘導における主要因子であるか否かを判定するため、BALB/cマウスをGBSIII−OVAで初回刺激し、GBSIIIOVAまたはGBSIII−TTで追加免疫した。GBSIII特異的IgGの血清中レベルを測定した(図14)。3群のマウスを対照として使った:(1)GBSIII−TTで初回刺激と追加免疫したマウス、(2)GBSIIIで初回刺激し、GBSIII−TTで追加免疫したマウス、および(3)GBSIII−OVAで初回刺激し、GBSIIIで追加免疫したマウス。CD4+ヘルパーT細胞によるペプチド認識が、B細胞による多糖特異的IgG分泌を誘発することが仮定されている。従って、GBSIII−OVAで初期刺激しGBSIII−TTで追加免疫したマウスに比べ、GBSIII−OVAで初回刺激と追加免疫したマウスGBSIIIに対する血清IgGの方がより高い力価をしめすことが期待されよう。すなわち、初回刺激キャリアタンパク質からのペプチドに対するT細胞の記憶のために、同じキャリアタンパク質による初回刺激と追加免疫の方が異種のキャリアによる追加免疫よりも有意に多くのT細胞ヘルプを誘発すると推定できるであろう。あるいは、糖化ペプチドの炭水化物部に対するT細胞記憶の状態で、GBSIII特異的IgG力価は、複合体中の同じキャリアタンパク質による追加免疫に依存しないであろう。図14Aに示すように、GBSIII−OVA初期刺激マウスのGBSIII−TTによる追加免疫は、GBSIII−OVAによる初回刺激と追加免疫と類似のGBSIII特異的IgG分泌を誘導した(p>0.05、ns)。この結果は、炭水化物特異的免疫応答を誘導するT細胞ヘルプは、ペプチド認識ではなく、炭水化物認識を経由して取り込まれることを示している。初回刺激後のGBSIII特異的IgG力価を図14Bに示す。
【0122】
実施例11.非ペプチドキャリア成分
これらの実験では、MHC結合成分は双性イオン炭水化物、すなわち、多糖A(PSA)である。PSAは、双性イオン電荷を有し、MHCIIに結合する。誘導された免疫応答の標的になる多糖またはオリゴ糖がこのキャリア分子に結合する。PSAキャリアはペプチドに代わりMHCIIに結合するためのアンカーの役割をし、標的多糖またはオリゴ糖は、本出願に記載の糖化ペプチドの場合と類似の方法により、T細胞受容体による認識に使用可能となる。これらの糖化キャリア分子は、ヘルパー機能と抗体産生に必要なT細胞応答を誘導する。
【0123】
双イオン性ヘパロサン(大腸菌K5多糖、図15A参照)オリゴ糖誘導体をCD4+T細胞刺激により試験した。双性イオンヘパロサンオリゴ糖をT細胞非依存性抗原と複合化し、キャリアのMHCII分子への結合により、T細胞への提示を可能とした。双性イオンヘパロサンオリゴ糖に対し、ヒトT細胞アッセイを行った。SEA抗原(陽性対照)に対するT細胞数を100に正規化した。オリゴ糖を4μg/mlとした。T細胞刺激を8日間にわたり測定した。
図15Bに示すように、これらの構築物は、非常に高いT細胞増殖を誘導した。
【0124】
追加文献




【0125】
他の実施形態
本発明をその詳細な説明と合わせて記載したが、これまでの記述は説明を意図しているもので、本発明の範囲を限定するものではなく、添付の請求項により規定されることは理解されるべきである。他の態様、特徴、および変更は、以下の請求項の範囲に含まれる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
糖化ペプチド複合体を調製する方法であって:
多糖の集団を取得するステップ;
任意選択で、多糖の集団を処理して約5〜20kDaの平均分子量を有するオリゴ糖の集団を作るステップ;
オリゴ糖の集団を、切断可能成分を使って相互に結合された複数の反復ペプチド単位を含むポリペプチドと接触させるステップであって、各ペプチド単位が:
(i)MHC-II結合配列;
(ii)1つまたは複数のリジン残基;および任意選択として、
(iii)MHC-II結合配列とリジン残基を結合する1つまたは複数のアミノ酸;から構成されるステップ;
オリゴ糖を直接リジン残基に結合させるために十分な条件の下、
それにより糖化ペプチド複合体を調製するステップ;を含む方法。
【請求項2】
糖化ペプチド/ナノ粒子複合体を調製する方法であって:
多糖の集団を取得するステップ;
任意選択で、多糖の集団を処理して約5〜20kDaの平均分子量を有するオリゴ糖の集団を作るステップ;
オリゴ糖の集団を、ペプチド単位の集団と接触させるステップであって、各ペプチド単位が:
(i)MHC-II結合配列;
(ii)1つまたは複数のリジン残基;および任意選択として、
(iii)MHC-II結合配列とリジン残基を結合する1つまたは複数のアミノ酸;から構成されるステップ;
オリゴ糖を直接リジン残基に結合させるために十分な条件の下、
それにより糖化ペプチド複合体を調製するステップ;
生体適合性ナノ粒子を供給するステップ;および
ペプチドのN末端を切断可能なリンカーにより生体適合性ナノ粒子に結合するステップ;を含む方法。
【請求項3】
多糖がウイルス, 細菌, 原虫類,および真菌からなる群より選択される病原体由来である、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
多糖が腫瘍関連糖タンパク質由来である、請求項1または2記載の方法。
【請求項5】
多糖の処理が多糖をオゾン分解または酵素消化に曝すことを含む、請求項1または2記載の方法。
【請求項6】
各ペプチドがC末端に単一リジン残基を有する、請求項1または2記載の方法。
【請求項7】
切断可能成分が酸不安定配列である、請求項2記載の方法。
【請求項8】
切断可能成分がプロテアーゼ認識配列である、請求項2記載の方法。
【請求項9】
各ペプチド単位が同じMHC-II結合配列を含む、請求項2記載の方法。
【請求項10】
ペプチド単位が複数のMHC-II結合配列を含む、請求項2記載の方法。
【請求項11】
請求項1または3〜10のいずれかに記載の方法により調製される糖化ペプチド複合体。
【請求項12】
請求項2〜10のいずれかに記載の方法により調製される糖化ペプチド/ナノ粒子複合体。
【請求項13】
糖化ペプチド複合体であって:
切断可能成分により相互に結合された複数の反復ペプチド単位を含むポリペプチドであって、各ペプチド単位が:
(i)MHC-II結合配列;
(ii)1つまたは複数のリジン残基;および任意選択として、
(iii) MHC-II結合配列とリジン残基を結合する1つまたは複数のアミノ酸;から構成されるポリペプチド;
オリゴ糖であって,好ましくは、約5〜20kDaの平均分子量を有し、リジン残基に直接結合しているオリゴ糖;を含む糖化ペプチド複合体。
【請求項14】
糖化ペプチド/ナノ粒子複合体であって:
複数の糖化ペプチドであって,それぞれが、
(i)MHC-II結合配列;
(ii)1つまたは複数のリジン残基;および任意選択として、
(iii) MHC-II結合配列とリジン残基を結合する1つまたは複数のアミノ酸;
から構成される複数のペプチド単位;
好ましくは、約5〜20kDaの平均分子量を有し、ペプチド単位のリジン残基に直接結合しているオリゴ糖;を含む糖化ペプチド;を含み、
糖化ペプチドが切断可能なリンカーを介してペプチド単位のC末端で生体適合性ナノ粒子に結合している糖化ペプチド/ナノ粒子複合体。
【請求項15】
多糖がウイルス、細菌、原虫類、および真菌からなる群より選択される病原体由来である、請求項13記載の糖化ペプチド複合体または請求項14記載の糖化ペプチド/ナノ粒子複合体。
【請求項16】
多糖が腫瘍関連糖タンパク質由来である、請求項13記載の糖化ペプチド複合体または請求項14記載の糖化ペプチド/ナノ粒子複合体。
【請求項17】
多糖の処理が多糖をオゾン分解または酵素消化に曝すことを含む、請求項13記載の糖化ペプチド複合体または請求項14記載の糖化ペプチド/ナノ粒子複合体。
【請求項18】
各ペプチドがC末端に単一リジン残基を有する、請求項13記載の糖化ペプチド複合体または請求項14記載の糖化ペプチド/ナノ粒子複合体。
【請求項19】
切断可能成分が酸不安定配列である、請求項13記載の糖化ペプチド複合体、または請求項14記載の糖化ペプチド/ナノ粒子複合体。
【請求項20】
切断可能成分がプロテアーゼ認識配列である、請求項13記載の糖化ペプチド複合体または請求項14記載の糖化ペプチド/ナノ粒子複合体。
【請求項21】
各ペプチド単位が同じMHC-II結合配列を含む、請求項13記載の糖化ペプチド複合体または請求項14記載の糖化ペプチド/ナノ粒子複合体。
【請求項22】
ペプチド単位が複数のMHC-II結合配列を含む、請求項13記載の糖化ペプチド複合体または請求項14記載の糖化ペプチド/ナノ粒子複合体。
【請求項23】
患者の免疫応答を誘導する方法であって、治療有効量の請求項11もしくは13記載の糖化ペプチド複合体、または請求項12もしくは14記載の糖化ペプチド/ナノ粒子複合体を投与することを含む方法。
【請求項24】
請求項11もしくは13記載の糖化ペプチド複合体、または請求項12もしくは14記載の糖化ペプチド/ナノ粒子複合体を薬剤的に許容可能なキャリア中に含む組成物。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15A】
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【図15B】
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【公表番号】特表2012−521423(P2012−521423A)
【公表日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−502024(P2012−502024)
【出願日】平成22年1月8日(2010.1.8)
【国際出願番号】PCT/US2010/020536
【国際公開番号】WO2010/110931
【国際公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(511230635)ザ ブリガム アンド ウーメンズ ホスピタル,インク (2)
【Fターム(参考)】