説明

複合紡糸用口金装置と同口金装置を用いた複合繊維の製造方法

【課題】構造が簡単であって、複雑な口金装置パックが不要であり、フィラメントの構成本数や成分比率の変更が容易にでき、しかも安定した複合液流が得られる複合形態や複合比率も均一化される接合型複合紡糸繊維の紡糸口金装置及び同繊維の製造方法を提供する。
【解決手段】同心円状の複合液流からなる相溶性の低い二種類の紡糸原液を紡糸するための接合型複合繊維の複合紡糸用口金装置11に関する。複数の吐出孔12が一つの円周上に等間隔で且つ前記同心円状の複合液流の2成分18,19の境界線上に配置されている。前記吐出孔12は、前記複合液流を導入する略逆円錐台状の原液導入部13と、円柱状の吐出部15と、前記原液導入部13と前記吐出部15とを連結する吐出方向に湾曲する湾曲面を有する連結部とを備えている。好ましくは、前記原液導入部13の導入角が60°未満である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二種類の異なるポリマーからなる複合繊維を製造するために用いる複合紡糸口金装置と同複合紡糸口金装置を用いた接合型複合繊維の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
複合繊維を製造する装置は、従来から数多く提案されている。例えば、特開2000−248421号公報(特許文献1)によれば、紡糸口金装置パック中に二以上の紡糸原液を個別の送液ラインを通して送液し、各口金装置孔の直前で紡糸原液を複合して吐出し、芯鞘構造の複合繊維を製造する。また例えば、特開2002−173821号公報(特許文献2)や特開2006−138048号公報(特許文献3)には、同心円状に複合した複合液流を、同心円上に形成された円形溝に沿って配された複数の吐出孔を有する紡糸紡糸口金装置から吐出して、サイドバイサイド型の接合型複合繊維を製造している。
【特許文献1】特開2000−248421号公報
【特許文献2】特開2002−173821号公報
【特許文献3】特開2006−138048号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、上記特許文献1に開示された紡糸装置では、円筒形状のパック本体シェルの内部に、下から口金板を3段に密接積層され、その上に同心円上に中心濾過部と環状濾過部とを有する有底濾過部材が配される。この有底濾過部材の底部から下部ポリマー分散板、下部フィルター、濾過サンド部が順次積層される。更に、この濾過サンド部の上に、トップインサート、中空ロックリング、ウェアプレートを順次積み重ね、前記トップインサート、中空ロックリング及びウェアプレートとの間に形成される円盤状空間部にシール部材が密接して介装されている。しかも、前記各積層部材には、それぞれに異なるポリマーの分配用孔や溝が形成されている。
【0004】
このように特許文献1に開示された紡糸装置は、きわめて複雑で且つ構成部材ごとに極めて高い加工精度が要求される紡糸口金装置パックが必要であって、フィラメントの構成本数や成分比率を容易に変更することは可能ではあるにしても、使用する紡糸口金装置の種類や紡糸原液の組み合わせ次第では複合液流が不安定となり、各吐出孔から形成される複合繊維の複合形態や複合比率が不均一になることがある。
【0005】
一方、上記特許文献2及び3に開示されたサイドバイサイド型の接合型複合繊維の製造法によれば、複数の単なる円柱状の吐出孔が円形状の凹溝に沿って所定のピッチで配されている。すなわち、同心円状に複合された二以上の種類の複合紡糸液流を前記凹溝に供給し、各吐出孔から接合型の複合繊維を紡糸する。そのため、複合紡糸液の境界部が不安定となりやすく、上記特許文献1と同様に、各吐出孔から吐出される複合繊維の複合形態や複合比率が不均一になることがあり、各吐出孔において所望の複合比率をもって確実に複合されるという保証はない。
【0006】
本発明は、こうした従来の課題を解消すべくなされたものであり、その具体的な目的は構造が簡単であって、複雑な口金装置パックが不要であり、フィラメントの構成本数や成分比率の変更が容易にでき、しかも安定した複合液流が得られることから複合形態や複合比率も均一化される接合型複合紡糸繊維の紡糸口金装置及びそ同繊維の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の基本構成は、同心円状の複合液流からなる二種類の紡糸原液を紡糸するための接合型複合繊維の複合紡糸用口金装置であって、複数の吐出孔が一つの円周上に等間隔で且つ前記同心円状の複合液流の体積占有率より算出した同心円状の複合液流の2成分の境界線上に配置されてなり、前記吐出孔が、前記複合液流を導入する略逆円錐台状の原液導入部と、円柱状の吐出部と、前記原液導入部と前記吐出部とを連結する吐出方向に湾曲する湾曲面を有する連結部とを備えている。好ましい態様によれば、前記原液導入部の導入角が60°未満である。
【0008】
また、本発明の第2の基本構成は、相溶性の低い二種類の紡糸原液を同心円状の複合液流としたのち、上記複合紡糸用口金装置を用いて紡糸する接合型複合紡糸繊維の製造方法にある。
【発明の効果】
【0009】
上述の構成を備えた複合紡糸用口金装置を用いれば、フィラメントの構成本数や成分比率の変更が容易にでき、しかも安定した複合液流が得られ、製造する繊維の品種や口金装置の大きさに係わらず、複合繊維の複合形態や複合比率を均一化することができる。上記原液導入部の導入角度θが60°以上とすると、2成分の境界部が層状に流れにくくなり、接合流が乱れやすくなる。また、本発明方法に使用する二種類の紡糸原液は相溶性が低いことが望ましく、相溶性が高いと複合紡糸用口金装置より吐出する前に紡糸原液が互いに溶解し合ってしまい、高品質の接合型複合繊維を得ることが難しい。更に、前記複合液流の外側に配置される紡糸原液の粘度を内側に配置される紡糸原液の粘度よりも低くすることが好ましい。内側の紡糸原液の粘度を高くすることによって、より複合比率の均一化が図れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明に係る複合紡糸用口金装置の好適な実施形態を図面を参照しながら具体的に説明する。
図1は本発明の複合紡糸用口金装置に用いる紡糸口金装置パックを複合液流導入部側より見た平面図である。
【0011】
各吐出孔12は、同一円周上に等間隔に配置される必要がある。吐出孔12の配置が一つの円周上にない場合や、孔間隔が不均等に配置されている場合は、全吐出孔12において各紡糸原液の比率が等しくならず、各単繊維における複合比率や複合形態が均一となりにくくなる。
【0012】
加えて、均一な複合比率や複合形態をもつ複合繊維を得るためには、前記複合紡糸口金装置11の中心O”と複合液流の中心とを一致させて配することが必要である。前記複合紡糸口金装置11の中心O”を複合液流の中心に一致させることにより、全ての吐出孔12, 12,…へと複合液流が均一に分配されやすくなる。
【0013】
更に、均一な複合比率をもつ複合繊維を得るためには、同心円を形成する外層成分18及び内層成分19の占有面積の境界線からなる円形と、各吐出孔12の中心を通って形成される円形とが同一円周上にあることが必要である。2つの円が同心であることにより、全ての吐出孔12, 12,…へと複合液流が均一に分配されやすくなる。複合比率を変更したいときは、同心円状の複合液流の複合比率を変更するとともに、その複合比率の変更に対応して二種類の複合液流の境界線の径を変更した複合紡糸用口金装置11を用いる。
【0014】
二種類の複合液流の境界線の径は、下記の計算式で求められる。
式1:
境界線の径(mm)=2×((S×A/(A+B)/Π))0.5
ただし、S:キャップ状円形口金装置底部の面積(mm2 )、A:内層成分の容積吐出量(mm3 /min)、B:外層成分の容積吐出量(mm3 /min)
【0015】
図2は紡糸原液の導入部分側から吐出孔を見た拡大平面図であり、図3は口金装置の一部断面図、図4は同口金装置の全体断面図である。本発明に係る複合紡糸用口金装置11は、図4に示すように鍔部16と本体17とを有する全体がキャップ状を呈し、これを上下反転させて使われる。この複合紡糸用口金装置11の吐出孔12は、図3に示すように、複合紡糸用口金装置11の前記本体17の底部にあって、所望の径をもつ同一円周上に所定の距離CP(図2参照)を隔て配されている。
【0016】
この吐出孔12は、紡糸原液の導入側から概略で逆円錐台形状をもつ紡糸原液導入部13、同紡糸原液導入部13の吐出側端部に接続する円弧状の連結部14、及び同連結部14の吐出側端部と接続して吐出口まで延びる円柱部15とを有している。本発明にあって、吐出孔12の前記紡糸原液導入部13の導入角θが60°未満である必要がある。ここで紡糸原液導入部13の導入角θとは、図3に示すとおり、紡糸原液導入部13の入口側に向けての導入角度をいう。特に、吐出孔間の距離CP(mm)が紡糸原液導入部13の入口部の直径D+1(mm)を越える場合、紡糸原液導入部13の導入角θが60°以上であると、2成分の境界部が層状に流れにくくなり、接合流が乱れることにより、得られる複合繊維の複合形態が各単繊維で均一となりにくくなる。
【0017】
ここで、吐出孔間の距離CPとは、図2に示すように、隣接する吐出孔12,12の中心O,O’間の距離(mm)をいい、紡糸原液導入部13の入口部の直径Dとは、図2に示すように、口金装置11の中心線方向における紡糸原液導入部13の入口直径(mm)である。
【0018】
一方で紡糸原液導入部13の導入角θが小さくなるほど口金装置の製作が困難となるため、可能な範囲で小さくすることが好ましい。
なお、連結部14の形状は、紡糸原液の移動あたりの加速割合が一定となる定率加速曲線状の斜面とすることが望ましい。
【0019】
本発明にて用いられる二種類の紡糸原液は相溶性が低いことが望ましい。相溶性が高いと紡糸口金装置11より吐出する前に紡糸原液が互いに溶解しあうこととなり複合繊維を得ることが難しくなる。また、本発明に用いられる紡糸原液の粘度は、複合液流の外側に配置される紡糸原液を内側に配置される紡糸原液よりも低くすることが望ましい。内側の紡糸原液の粘度を高くすることによって、より複合比率が均一化されやすくなる。
【0020】
本発明の複合紡糸口金装置11は、乾式紡糸、湿式紡糸、溶融紡糸の何れにも適用が可能であり、乾式紡糸ではセルロースアセテートの置換度や重合度、或いは添加剤の異なる成分の複合化が可能であり、湿式紡糸ではアクリルの共重合成分や重合度の異なる成分の複合化、更に溶融紡糸ではポリエステルの共重合成分や重合度、添加剤の異なる成分を複合化するのに適している。
【0021】
以下、実施例及び比較例をあげて、本発明を更に具体的に説明する。
実施例1,2及び比較例1〜6における断面安定性の評価結果を表1に示す。得られた繊維束の横断面を光学顕微鏡にて観察し、所定の比率と異なる複合繊維、形状が崩れている単繊維の有無を評価した。
【0022】
(実施例1)
紡糸原液として、平均置換度2.41のセルロースジアセテートを塩化メチレン91重量%/メタノール9重量%の混合溶剤に溶解させ、濃度22.1重量%、25℃の粘度850ポイズのセルロースジアセテート原液を調製し、平均置換度2.91のセルローストリアセテートを塩化メチレン91重量%/メタノール9重量%の混合溶剤に溶解させ、濃度21.9重量%、25℃の粘度1100ポイズのセルローストリアセテート原液を調製した。
【0023】
この紡糸原液を固形分比率が50:50となるようにそれぞれ個別の計量ポンプにて計量し、内層がセルローストリアセテート原液、外層がセルロースジアセテート原液であるような、二層の同心円状の複合液流を形成した。この同心円状の複合液流は長さ1mの円筒パイプにより本発明の紡糸口金装置へと送液し、その送液中に前記円筒パイプの外側に配されたプリヒーターを流通する温水により70℃に加熱した。このとき、内層成分の容積吐出量は、4380(mm3 /min)、外層成分の容積吐出量は、4380(mm3 /min)であった。
【0024】
紡糸口金装置としては、内径23.4mmのキャップ状円形口金装置に直径16.5mmの同一円周上に等間隔で、直径32μmの16個の吐出孔が配され、導入角が45°、CPが3.24mm、Dが0.81mmである図1〜図3に示す形状の紡糸口金装置を用い、上記紡糸原液を乾式紡糸法により紡速600m/minで紡糸した。
【0025】
得られた繊維は40dtex、16フィラメント(以下、fと標記する。)であり、セルローストリアセテート成分とセルロースジアセテート成分が重量比50:50で均一にサイドバイサイド型に接合されていた。
【0026】
(実施例2)
30個の吐出孔が配された紡糸口金装置を使用し、吐出量を変更する以外は実施例1と同様に紡糸を行った。得られた繊維は84dtex/30fであり、セルローストリアセテート成分とセルロースジアセテート成分が重量比50:50で均一にサイドバイサイド型に接合されていた。
【0027】
(比較例1〜6)
表1に示す複合比率、吐出孔の配置されている円の直径(PCD)、導入角にて実施例1と同様に紡糸を行って得られた繊維は40dtex/16fおよび、80dtex/30fであり、セルローストリアセテート成分とセルロースジアセテート成分がサイドバイサイド型に接合されていたが、複合比率が不均一である単繊維を含んでいた。
【0028】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の複合紡糸用口金装置全体を導入部側から見た平面図である。
【図2】同複合紡糸用口金装置の吐出孔を拡大して示す部分平面図である。
【図3】本発明の複合紡糸用口金装置の部分断面図である。
【図4】本発明の複合紡糸用口金装置の全体断面図である。
【符号の説明】
【0030】
11 紡糸口金装置
12 吐出孔
13 紡糸原液導入部(直線状斜面)
14 連結部
15 円柱部
16 鍔部
17 本体
18 紡糸原液の外層成分
19 紡糸原液の内層成分
θ 導入角
CP 隣接する吐出孔間の距離
D 紡糸原液導入部の入口径
PCD 吐出孔により形成される円の直径

【特許請求の範囲】
【請求項1】
同心円状の複合液流からなる二種類の紡糸原液を紡糸するための接合型複合繊維の複合紡糸用口金装置であって、
複数の吐出孔が一つの円周上に等間隔で且つ前記同心円状の複合液流の体積占有率より算出した同心円状の複合液流の2成分の境界線上に配置されてなり、
前記吐出孔が、前記複合液流を導入する略逆円錐台状の原液導入部と、円柱状の吐出部と、前記原液導入部と前記吐出部とを連結する吐出方向に湾曲する湾曲面を有する連結部とを備え、
前記原液導入部の導入角が60°未満である、
接合型複合繊維の複合紡糸用口金装置。
【請求項2】
相溶性の低い二種類の紡糸原液を同心円状の複合液流としたのち、請求項1に記載の複合紡糸用口金装置を用いて紡糸する接合型複合紡糸繊維の製造方法。
【請求項3】
前記複合液流の外側に配置される紡糸原液の粘度を内側に配置される紡糸原液の粘度よりも低くする請求項2記載の接合型複合紡糸繊維の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−18914(P2010−18914A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−181108(P2008−181108)
【出願日】平成20年7月11日(2008.7.11)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】