説明

複合紡糸用口金

【課題】少なくても2種類以上のポリマーを用いる溶融紡糸において、サイドバイサイド型、芯鞘型、海島型などをコンパクトに円周配列に収めることを可能とした構造を有する複合紡糸用口金を提供する。
【解決手段】少なくても2成分以上のポリマーを有する複合紡糸用口金であって、前記口金の一部を構成する複数枚の口金分配板群1,2,3,4が上下に積層されると共に、各口金分配板の中心近傍へ各成分ポリマーがそれぞれ分離して口金板中心部の近傍11A,B,Cに分配供給され、各成分ポリマーを複数個の放射状の溝流路21,31,41と、口金板中心に対して同心円状に形成された環状の溝流路22,23,32,33,42,43とへ分配供給し、最下部の積層口金分配板4の下方で複合単繊維を構成する各成分ポリマーを近傍に集めて一組とし、これらの組を複数組形成した構造を備えたことを特徴とする複合紡糸用口金である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステル、ポリアミドの熱可塑性合成樹脂を原料とする2成分以上の複合繊維を溶融紡糸するための複合紡糸方法とそのための複合紡糸口金に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在に至るまで、ポリエステル、ポリアミド、ポリオレフィンなどのポリマーを溶融紡糸する際に、1種類のポリマーだけを紡糸するための専用の溶融紡糸装置が広く使用されている。ところが、繊維の高付加価値や差別化といる観点から、例えば、異なる2種類のポリマーをサイドバイサイドに貼り合わせることによって、得られる繊維に潜在捲縮を与えたり、あるいは海島型の複合繊維から海成分を除去して極細繊維を得たりする複合紡糸が行なわれるようになってきた。
【0003】
しかしながら、現在の技術では単に潜在捲縮機能や極細機能を有するだけでは高付加価値繊維とは言えず、例えば、制電性や撥水性、光の被透過性等の更なる機能を付加することにより、高機能繊維の実現が必要とされる。このため、サイドバイサイド型複合繊維を構成する2成分のポリマーの内、第1成分ポリマーを上記のような機能性を有するポリマーを選定すると共に、第2成分ポリマーの樹脂種、溶融粘度、重合度、あるいは熱収縮率を異なるものに選定した高機能繊維や、複数の機能性ポリマーによる極細繊維などによって、さらなる高付加価値が必要とされる。
【0004】
また、2種類のポリマーの機能繊維においても、生産性向上のため、1つの口金で極力多くの繊維を得るために、ポリマーを紡出するための吐出孔群を最適に配列することが工夫され、これら吐出孔群に各種ポリマーを分配する際には、できるだけ滞留時間の差異を減らし均質なポリマー物性を得ることが合成繊維の紡糸においては望まれる。
【0005】
このような、口金の流路構造に関しては、特許文献1において、サイドバイサイド型複合繊維の生産性を著しく向上させ、加えて複合紡糸設備全体を単独種ポリマー専用の紡糸設備並みにコンパクトなものとし、その設備製造コスト、運転コストを著しく向上させる技術を開示している。確かにこの方法によって、複合合成繊維のコンパクト化は可能ではあるが、ポリマーの数は2種類に限定されてしまうという問題がある。
【0006】
また、従来慣用されている、紡出された複合繊維群に対して冷却風を横方向から吹き付ける所謂「横吹き紡糸筒」を用いて異方冷却を行なうことも行なわれている。この横吹き紡糸筒は、サイドバイサイド型複合繊維に対して異方冷却技術を行なうために併用される慣用技術ではあるが、近年はコンジュゲート用円筒状糸条冷却装置も提案されており、2種類以上のポリマーに対して、円周にポリマーをできるだけ滞留時間の差異を小さく分配する方法が必要とされている。
【特許文献1】特開2001−234425号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
以上に述べた従来技術が有する問題に鑑み、本発明が解決しようとする課題は、「少なくても2種類以上のポリマーを用いる溶融紡糸において、サイドバイサイド型、芯鞘型、海島型などをコンパクトに円周配列に収めることを可能とする分岐構造を有する溶融紡糸用口金」を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
ここに、前記の課題を解決するための本発明として、「少なくても2成分のポリマーを有する複合紡糸用口金であって、前記口金の一部を構成する複数枚の口金分配板群が上下に積層されると共に、前記積層口金分配板群は各成分のポリマーを合流させること無く下方の各口金分配板の中心近傍へ各成分ポリマーをそれぞれ分離して分配供給するバイパス孔を形成し、少なくとも前記バイパス孔から各口金分配板の口金板中心部に供給された各成分ポリマーを複数個の放射状の溝流路で口金板中心から半径方向に向って分岐し、分岐した前記放射状の溝流路から口金板中心に対して同心円状に形成された環状の溝流路に各成分ポリマーを分配し、前記環状の溝流路に穿設された分配孔群から下方に位置する各口金分配板を貫通して最下部の積層口金分配板の下方に各成分ポリマーをそれぞれ分配供給し、最下部の積層口金分配板の下方で複合単繊維を構成する各成分ポリマーを近傍に集めて一組としてこれらの組を複数組形成した構造を備えたことを特徴とする複合紡糸用口金」が提供される。
【発明の効果】
【0009】
このように本発明の溶融紡糸口金を用いることにより、少なくても2種類以上のポリマーを用いる溶融紡糸において、サイドバイサイド型、芯鞘型、海島型などをコンパクトに円周配列に収めることを可能とする分岐構造を有する溶融紡糸用口金が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以上に述べた本発明の実施形態について、図面を参照にしながら詳細に説明する。
図1は、本発明の複合繊維溶融紡糸用口金のポリマー分配板の一部を模式的に例示した各平面図(上面図)であって、図1(a)〜図1(d)は、符号1で示した第1口金分配板、符号2で示した第2口金分配板、符号3で示した第3口金分配板、そして、符号4で示した第4口金分配板をそれぞれ示す。
【0011】
なお、これらの第1口金分配板1から第4口金分配板4は複合紡糸用口金の一部を構成し、第1口金分配板1を上にして第4口金分配板4まで順番にそれぞれ重ね合わせて使用される。したがって、図1(a)〜図1(d)に例示した4枚の口金分配板1,2,3,4については、重ね合わせ時の各ポリマー流路の位置関係がずれないように配慮して、そのままの状態で重ねあわせができるように同位相で図面が記載されている。このとき、口金分配板同士の重ね合わせ面はメタルタッチシールされ、これによって、ポリマー漏れの発生を防止している。
【0012】
本発明の複合繊維溶融紡糸用口金は、以上に説明した4枚の口金分配板1,2,3,4の上部と下部にも、これら口金分配板1,2,3,4以外の口金板を備えているが、これらの口金板については説明を省略する。何故ならば、当業者であれば、本発明に係る4枚の口金分配板1,2,3,4の構造を知れば、これらを芯鞘型複合繊維、サイドバイサイド型複合繊維などの口金に応用することは単なる設計事項であるからである。
【0013】
ここで、図1に例示した4枚の口金分配板1,2,3,4の実施態様では、複合紡糸に使用するポリマーは3種類であって、以下、これら3種類のポリマーをAポリマー、Bポリマー、そして、Cポリマーとそれぞれ称する。更に、第1口金分配板1〜第4口金分配板4に図示する参照符号において、これらのポリマーが流れる流路にどの種類のポリマーが流れるのかを明示するために、そのポリマーのアルファベットを含ませてある。例えば、図中の参照符号が「10A」と記載されていれば、この参照符号中にはアルファベットの「A」を含むのでAポリマーが流れていることを意味する。
【0014】
図1において、3種類のAポリマー、Bポリマー及びCポリマーは、図1(a)に例示したように、図示省略した上部口金板から3つのポリマー導入孔10A,10B,10Cへそれぞれ供給され、第1口金分配板1の下面中心部に開口するポリマー供給孔11A,11B,11Cへそれぞれ供給される。
【0015】
本発明においては、図1(a)に例示したポリマー供給孔11Aから供給されるAポリマーは、図1(b)に例示した第2口金分配板2のポリマー受入溝20Aへ供給される。また、ポリマー供給孔11Bから供給されるBポリマーは、図1(b)に例示した第2口金分配板2に穿設されたバイパス孔20Bを通過して図1(c)に例示した第3口金分配板3のポリマー受入溝30Bへ供給される。そして、ポリマー供給孔11Cから供給されるCポリマーは、図1(b)と図1(c)に例示した第2口金分配板2と第3口金分配板3とに穿設されたバイパス孔20Cを通過して図1(d)に例示した第4口金分配板4のポリマー受入溝40Cへ互いに合流することなく、分流状態で直接供給される。したがって、この過程において、3種類のAポリマー、Bポリマー及びCポリマーは、それぞれ分離して独立に流れ、互いに合流することはない。
【0016】
このようにして、Aポリマーがポリマー供給には孔11Aから第2口金分配板2のポリマー受入溝20Aに供給されると、図1(b)に例示したように、3つの放射状の溝流路21A1,21A2,21A3を介して第2口金分配板2の外周方向へ放射状に分配される。また、第2口金分配板2には、放射状の溝流路21A1,21A2,21A3の他に、3つの内部環状の溝流路22A1,22A2,22A3と1つの外部環状の溝流路23Aが同心円状に形成されている。
【0017】
したがって、放射状の溝流路21A1,21A2,21A3を介して第2口金分配板2の外周方向へ分配されたAポリマーは、これらの環状の溝流路22A1,22A2,22A3及び23Aへも分配供給されることになる。このとき、前述の環状の溝流路22A1,22A2,22A3及び23AにはAポリマーの分配孔群24A(図では36個の分配孔群の例が記載されている)が第2口金分配板2、第3口金分配板3及び第4口金分配板4を貫通して穿設されており、分配孔群24Aからそれぞれ独立に第4口金分配板4の下方へと供給される。
【0018】
また、前述の第1口金分配板1のポリマー供給孔11Bから供給されたBポリマーは、第2口金分配板2のバイパス孔20Bを通過し、図1(c)に例示した、第3口金分配板3のポリマー受入溝30Bへ直接流入する。そして、第2口金分配板2におけるAポリマーの場合と同様に、第3口金分配板3に設けられた放射状の溝流路31B1,31B2,31B3を介して環状の溝流路32B1,32B2,32B3及び33BにBポリマーがそれぞれ供給され、Bポリマーの分配孔群34B(Aポリマーの場合と同様に36個の分配孔群が穿設されている)からそれぞれ独立に第4口金分配板4の下方へ供給される。
【0019】
更に、前述の第1口金分配板1のポリマー供給孔11Cから供給されたポリマーも同様にして、第2口金分配板2と第3口金分配板3にそれぞれ穿設された各バイパス孔20Cを通過し、図1(d)に例示した、第4口金分配板4のポリマー受入溝40Cへ直接流入する。そして、Aポリマー及びBポリマーの場合と同様に、第4口金分配板4に設けられた放射状の溝流路41C1,41C2,41C3を介して環状の溝流路42C1,42C2,42C3及び43CにCポリマーがそれぞれ供給され、Cポリマーの分配孔群44C(Aポリマー及びCポリマーの場合と同様に36個の分配孔群が穿設されている)からそれぞれ独立に第4口金分配板4の下方へ供給される。
【0020】
以上に説明したように、Aポリマー、Bポリマー及びCポリマーは、図1(d)に例示したように、口金板の半径方向に互いに隣接した各3個の分配孔22A,33B,44Cをその近傍に集めて1組として合計で36組の分配孔群を形成しながら第4口金分岐板4の下方へ供給されることとなる。なお、これらの好ましい組数は、その数が8組以上であって、120組以下である。何故ならば、組数が8組未満と少ない場合は、本発明に係る複合紡糸用口金のような構造を採用せずに撚り簡単な構造のものを採用することができるからである。また、120組を超えると口金構造が複雑となり、しかも、積層口金分配板群の積層面におけるメタルタッチシールが難しくなり、ポリマー漏れを好適に抑制することが困難となるからである。
【0021】
このとき、実際に溶融紡糸を行なう際には第4口金分岐板4より下にも、サイドバイサイド型複合単繊維群、芯鞘型複合単繊維群、海島型複合単繊維群、もしくはそれらの組み合わせからなる複合単繊維群を形成するための各種ポリマー流部が形成された口金板(図示せず)を経た後、吐出孔より紡出されることはいうまでもない。ただし、第4口金分岐板4の下流に形成されるこれらの口金板群(図示せず)は、当業者であれば適宜実施可能な設計事項であるので、これらの説明については省略する。
【0022】
本発明においては、第1口金分配板1からAポリマー、Bポリマー及びCポリマーがポリマー供給孔11A,11B,11Cよりそれぞれ第2口金分配板2、第3口金分配板3及び第4口金分配板4の中央部に設けられたポリマー受入溝20A,30B,40Cへとそれぞれ流入する。その後、各ポリマーは、ポリマー受入溝20A,30B,40Cからそれぞれ口金板中心方向へ流路を向け、口金板中心から外周側へ向って放射状に形成された放射状の溝流路21A1,21A2,21A3、31B1,31B2,31B3、41C1,41C2,41C3へそれぞれ分岐供給される。その際、分岐させる流路の数は、各ポリマーの滞留差を無くすように設計することが望ましいので、これを実現するために、口金板中心からポリマー成分数の整数倍とすることが好ましい。また、このようにすることによって各口金分配板1,2,3,4の設計が安易になる。
【0023】
なお、放射状の溝流路21A1,21A2,21A3、31B1,31B2,31B3、41C1,41C2,41C3の各ポリマーの分岐数については、図1の実施態様において用いるポリマー成分の数と同数である3分岐としているが、これにより各ポリマーが中心に向かうための流路と、放射状に等配されて外周側へに向かう流路をバランスよく設置することができ、かつ、各ポリマーが流れる流路間隔をできるだけ離すことが可能となってシール性が向上し、これによって口金内でのポリマー漏れを抑制することができる。ただし、放射状の溝流路の分岐数に関して、図1の実施態様ではポリマー成分数と同数(1倍)である3分岐を用いたが、図2の第2口金分配板の実施態様例に示すようにポリマー成分数の2倍である6分岐でもよく、このようにポリマー成分数の整数倍(特に、1倍から5倍)であることが好ましい。
【0024】
次に、放射状の溝流路21A1,21A2,21A3、31B1,31B2,31B3、41C1,41C2,41C3を流れる各ポリマーをそれぞれ複数の円周方向へ同心円状に環状の溝流路として2列に分岐させる。なお、前記環状の溝流路は、図1の実施態様では2列に分岐させる場合を記載しているが、2列以上分岐させるようにしても良い。
【0025】
このとき、図1からも明らかなように、内周側円周分岐部の環状の溝流路22A1,22A2,22A3、32B1,32B2,32B3、42C1,42C2,42C3と外周側円周分岐部の環状の溝流路23A、33B,43Cとでは、ポリマー滞留時間差が発生する恐れがある。この点については、環状の溝流路の流路断面に関して、外周列側の環状の溝流路23A、33B,43Cの流路断面積を内周列側の環状の溝流路22A1,22A2,22A3、32B1,32B2,32B3、42C1,42C2,42C3の流路断面積より小さくすることにより滞留時間差を緩和することが可能である。ただし、流路断面積を変化させる場合においては、用いるポリマーの熱劣化特性などをも考慮して適宜調整すべきものであることは言うまでもない。もちろん、溝流路の溝形状を部分的に変えることも可能ではあるが、加工コストの面から得策ではない。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の複合紡糸用金に用いる口金分配板の一実施形態を例示した平面図である。
【図2】複合紡糸用金に用いる第2口金分配板の他の実施形態を例示した平面図である。
【符号の説明】
【0027】
1:第1口金分配板
2:第2口金分配板
3:第3口金分配板
4:第4口金分配板
10A,10B,10C:ポリマー導入孔
11A,11B,11C:ポリマー供給孔
20B,20C:バイパス孔
20A,30B,40C:ポリマー受入溝
21A1,21A2,21A3,31B1,31B2,31B3,41C1,41C2,41C3:放射状の溝流路
22A1,22A2,22A3,32B1,32B2,32B3,42C1,42C2,42C3:内周側の環状の溝流路
23A,33B,43C:外周側の環状の溝流路
24A,34B,44C:分配孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくても2成分のポリマーを有する複合紡糸用口金であって、前記口金の一部を構成する複数枚の口金分配板群が上下に積層されると共に、前記積層口金分配板群は各成分のポリマーを合流させること無く下方の各口金分配板の中心近傍へ各成分ポリマーをそれぞれ分離して分配供給するバイパス孔を形成し、少なくとも前記バイパス孔から各口金分配板の口金板中心部に供給された各成分ポリマーを複数個の放射状の溝流路で口金板中心から半径方向に向って分岐し、分岐した前記放射状の溝流路から口金板中心に対して同心円状に形成された環状の溝流路に各成分ポリマーを分配し、前記環状の溝流路に穿設された分配孔群から下方に位置する各口金分配板を貫通して最下部の積層口金分配板の下方に各成分ポリマーをそれぞれ分配供給し、最下部の積層口金分配板の下方で複合単繊維を構成する各成分ポリマーを近傍に集めて一組としてこれらの組を複数組形成した構造を備えたことを特徴とする複合紡糸用口金。
【請求項2】
前記環状の溝流路が口金板中心に対して同心円状に2列以上形成されたことを特徴とする、請求項1に記載の複合紡糸用口金。
【請求項3】
前記環状の溝流路において、外周列側の環状の溝流路の流路断面積が内周列側の環状の溝流路の流路断面積よりも小さいことを特徴とする請求項1又は2に記載の複合紡糸用口金。
【請求項4】
各口金分配板中心から半径方向へ放射状に分岐させる、前記放射状の溝流路の分岐数が複合単繊維を構成する成分ポリマーの数の整数倍であることを特徴とする、請求項1〜3の何れかに記載の複合紡糸用口金。
【請求項5】
最下部の積層口金分配板の下方で複合単繊維を構成する各成分ポリマーを一組として近傍に集めるに際して、各組の各成分ポリマーを口金分配板の中心から半径方向へ向うように配列させることを特徴とする、請求項1〜4の何れかに記載の複合紡糸用口金。

【図1】
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【図2】
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