説明

複合繊維用スピンブロック

【課題】既存の貼付け型導管ブロックを使用する複合繊維用のスピンブロックが抱えている、低融点ポリマーの溶融温度が高融点ポリマーの溶融温度とスピンブロック内で同一になってしまうことに起因する問題、即ち、特に低融点ポリマーの高温に夜熱劣化、単糸繊度が小さな複合繊維の低流量紡糸による滞留時間の増加による熱劣化とこれに起因する様々な問題を解消できる複合繊維用スピンブロックを提供する。
【解決手段】互いに融点が異なる2種類の熱可塑性ポリマーを紡糸口金パック内で合流させて複合ポリマー流を形成させて、形成した複合ポリマー流を紡糸口金から紡出して複合繊維を溶融紡糸するスピンブロックが、
(1)高温用スピンブロック部と低温用スピンブロック部とにそれぞれ分離され、
(2)高融点と低融点のポリマーを輸送する低融点ポリマー用と高融点ポリマー用の導管とがそれぞれ前記高温用スピンブロック部と前記低温用スピンブロック部とにそれぞれ接続され、
(3)前記2つのスピンブロック部には、前記各導管からそれぞれ独立して供給される低融点と高融点のポリマーとをそれぞれ受け入れて前記紡糸口金パックへ計量しながら連続的に供給する高温用と低温用のギヤポンプとがそれぞれ設けられ、
(4)更に前記2つのスピンブロック部には、個別かつ独立に各所定温度にそれぞれ加熱する高温用と低温用の加熱手段とをそれぞれ備え、
(5)前記低温用スピンブロック部を経由させて前記高温用スピンブロック部へ低融点ポリマーを供給して高温用スピンブロック部へ直接的に連続供給された高融点ポリマーと合流させて紡糸口金パック内で複合ポリマー流を形成させて複合繊維として紡出する設備であること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、互いに異なる2成分以上の熱可塑性ポリマーからなる複合繊維を溶融紡糸する際に用いる複合繊維用の溶融紡糸装置(以下、スピンブロックと称する)に関する。
【背景技術】
【0002】
互いに成分が異なる2種類以上の熱可塑性ポリマーを溶融押出機から個別にそれぞれ押し出し、これらの熱可塑性ポリマーを紡糸口金パックの内部で様々に合流させて、サイドバイサイド型複合繊維、シースコア型複合繊維、海島型複合繊維などの複合繊維としてとして紡出することが一般に行なわれている。このような複合繊維の溶融紡糸プロセスにおいて、高品質な糸を得るためには、紡糸口金パックの内部で各成分ポリマーを合流させる流路設計の最適化も必要である。また、融点の異なるポリマーを用いることから、紡糸口金パック内部における粘度差や吐出時の紡出速度差をコントロールすることも高品質な糸を得る上で重要な要因となっている。
【0003】
そこで、このような観点から複合繊維の溶融紡糸においては、各ポリマーの特性に合わせたポリマー物性のコントロールが安定紡糸を行なう上で必要とされているが、例えば、高融点ポリマーとの融点差が大きな低融点ポリマーや共重合系ポリマーを使用したり、あるいは、添加剤を多く含むポリマーを使用したりする場合には、一般的に行なわれている複合繊維の運転条件でを採用した紡糸技術では安定製糸が困難な場合が多い。
【0004】
しかも、既存の複合繊維の溶融紡糸設備は、例えば、特許文献1(実開昭62−118178号公報)、あるいは特許文献2(実公平2−26943号公報)などにも開示されているように、高温に加熱されたスピンブロックに低融点側のポリマー導管を導管ブロックとして組み込んだ構造を採用している。そして、溶融押出機から吐出された低融点ポリマーをこの低融点ポリマー導管へ分配するようにしている。
【0005】
このように導管ブロックをスピンブロックに取付けるメリットとしては、既存の単一種ポリマーのみを溶融紡糸する単一種ポリマー専用のスピンブロックに対して低融点ポリマーの導管ブロックを取付けるだけで、単一種ポリマー専用のスピンブロックの大幅な改造を行う必要がないという点である。しかも、単一種ポリマー専用のスピンブロックを複合繊維用のスピンブロックに容易に改造できるので、設備投資を抑制できるメリットがある。
【0006】
しかしながら、このような貼付け型の導管ブロックを使用したスピンブロックの大きな欠点は、低融点ポリマーの導管ブロックを高温に設定されたスピンブロックの壁面に貼付けた上で分配輸送を行うことである。すなわち、スピンブロックの設定温度は、高融点ポリマーを輸送しなければならないため、どうしても高融点ポリマーの融点以上に加熱しなければならない宿命を有している。
【0007】
したがって、低融点ポリマーは、どうしても高融点ポリマーの融点以上に加熱されたスピンブロック内を輸送されることになる。このため、構造上低融点ポリマーの導管ブロックの温度、つまり低融点側のポリマー温度が高温に設定されたスピンブロック温度と同一になってしまう。つまり、低融点ポリマーの導管ブロックを独立させて温度制御することが不可能であり、低融点ポリマーの溶融押出機から低温吐出されたポリマーはスピンブロックに輸送された直後から高温状態に晒される結果となる。このことは、熱に弱い低温ポリマーの熱劣化を促進することとなり、熱劣化に起因する紡糸調子の悪化と、2成分ポリマー間での粘度コントロールの自由度を低下させる要因ともなっている。
【0008】
また、近年の市場で要求されているソフトな風合いを有する繊維製品を得ようとする場合、単糸繊度が小さい(つまり、単糸径が細い)繊維が必要とされるが、細い繊維はポリマー流量が少なくなるため低吐出量での運転条件となる。このため、スピンブロック内でのポリマーの滞留時間が長くなり安定した紡糸を実現できず、生産可能な複合繊維の銘柄や商品群が制限されるといった問題が生じていた。
【0009】
更に、得られる繊維の品質以外にも高温のスピンブロックに低融点ポリマーの導管ブロックを組み込む方式では、配管の熱膨張率差に起因して、ポリマー漏れが発生し易いという設備構造上の問題もある。そのため、設計段階での十分な検証と考慮が必要となるため設備導入設計、検証期間の増大を招いている。特に、大型の多錘複合繊維用スピンブロックの設計は困難を極める傾向にあり、大型の複合繊維用スピンブロックの実現を阻害する要因の一つともなっている。
【0010】
また、低融点の劣化が生じ易いポリマーを使用すると、ポリマー流路や導管中に劣化したポリマーが生じて流路や配管が閉塞し易いという2次的な問題があり、閉塞が生じた場合は、ポリマー導管を全て取外し、更にはスピンブロックを生産現場から取外した上で焼却し劣化ポリマーを取り出す必要がある。しかし、一度繊維の生産を停止してしまうと機会損失は甚大であり事業への損害も大きなものとなる。
【0011】
【特許文献1】実開昭62−118178号(実願昭61−3066号のマイクロフィルム)
【特許文献2】実公平2−26943号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
以上に説明した従来技術の諸問題に鑑み、本発明が解決しようとする課題は、「既存の貼付け型導管ブロックを使用する複合繊維用のスピンブロックが抱えている、低融点ポリマーの溶融温度が高融点ポリマーの溶融温度とスピンブロック内で同一になってしまうことに起因する問題、即ち、特に低融点ポリマーの高温に夜熱劣化、単糸繊度が小さな複合繊維の低流量紡糸による滞留時間の増加による熱劣化とこれに起因する様々な問題を解消できる複合繊維用スピンブロックを提供する」ことにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
ここに、前記課題を解決するための発明として、請求項1に記載の「 互いに融点が異なる2種類の熱可塑性ポリマーを紡糸口金パック内で合流させて複合ポリマー流を形成させて、形成した複合ポリマー流を紡糸口金から紡出して複合繊維を溶融紡糸するスピンブロックにおいて、
前記スピンブロックは、
(1)高温用スピンブロック部と低温用スピンブロック部とにそれぞれ分離され、
(2)溶融した高融点ポリマーと低融点ポリマーとを輸送する低融点ポリマー用の導管と高融点ポリマー用の導管とがそれぞれ前記高温用スピンブロック部と前記低温用スピンブロック部とにそれぞれ接続され、
(3)前記高温用スピンブロック部と前記低温用スピンブロック部には、前記各導管からそれぞれ独立して供給される前記低融点ポリマーと前記高融点ポリマーとをそれぞれ受け入れて前記紡糸口金パックへ計量しながら連続的に供給する高温用ギヤポンプと低温用ギヤポンプとがそれぞれ設けられ、
(4)更に前記高温用スピンブロック部と前記低温用スピンブロック部には、個別かつ独立に各所定温度にそれぞれ加熱する高温用加熱手段と低温用加熱手段とをそれぞれ備え、
(5)前記低温用スピンブロック部を経由させて前記高温用スピンブロック部へ前記低融点ポリマーを供給して前記高温用スピンブロック部へ直接的に連続供給された前記高融点ポリマーと合流させて前記紡糸口金パック内で複合ポリマー流を形成させて複合繊維として紡出する設備であることを特徴とする複合繊維用スピンブロック」が提供される。
【0014】
その際、本発明は、「前記高温用スピンブロック部と前記低温用スピンブロック部を接続する配管を熱膨張による歪みを緩和する構造とした請求項1に記載の複合繊維用スピンブロック」とすることが好ましい。
【0015】
また、本発明は「前記高温用加熱手段及び前記低温用加熱手段がそれぞれ前記高温用スピンブロック部及び前記低温用スピンブロック部に設けられた圧力室に封入された熱媒によって加熱する手段である請求項1又は請求項2に記載の複合繊維用スピンブロック」とすることが好ましい。
【0016】
更に、本発明は、「前記高温用加熱手段及び前記低温用加熱手段の各熱媒が封入されたそれぞれ圧力室の外側に前記低融点ポリマーと前記高融点ポリマーの流路及び配管を組み込んだ各ブロックを着脱自在に取付けた請求項1〜3の何れかに記載の複合繊維用スピンブロック」とすることが好ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
ここで、図1は、本発明に係る複合繊維用スピンブロックの一実施形態例を示した概略構成図である。また、図2は従来の複合繊維用スピンブロックの一実施形態例を示した概略構成図である。なお、これら図1及び図2において、実質的に同一の機能を果たす部材については、同一の参照符号を使用している。
【0018】
前記図1及び図2において、共通に使用した参照符号について説明すると、参照符号1は複合繊維に使用する高融点ポリマーを溶融押出しする溶融押出機を、そして、参照符号2は低融点ポリマーの溶融押出機をそれぞれ示す。また、参照符号3及び4は高融点ポリマーの導管と低融点ポリマーの導管とをそれぞれ示し、参照符号8及び9は高温用ギヤポンプと低温用ギヤポンプをそれぞれ示す。更に、参照符号10は紡糸口金パックを、そして、参照符号11は紡糸口金パック10に装着された紡糸口金をそれぞれ示す。
【0019】
次に、図2に示した参照符号5は低融点ポリマーの導管ブロックを示し、図1に示した参照符号6及び7は、高温用スピンブロック及び低温用スピンブロックをそれぞれ示し、参照符号12及び13は、高温用熱媒加熱手段と低温用熱媒加熱手段をそれぞれ示す。このとき、高温用スピンブロック部6と低温用スピンブロック部7とは、互いに熱的に切り離されており、それぞれのスピンブロック部6及び7は、高温用熱媒加熱手段12と低温用熱媒加熱手段13によって個別かつ独立にそれぞれ温度制御できるようにされている。
【0020】
なお、スピンブロック部6及び7を加熱する加熱手段としては、前述のように、ダウサーム(商品名)などの熱媒を前記スピンブロック部6及び7内に設けた圧力室にそれぞれ封入し、加熱された前記熱媒によって前記スピンブロック部6及び7をそれぞれ加熱する方式が、均一加熱と言う点から好ましい。しかしながら、本発明においては、このような熱媒加熱手段に限定されるものではなく、周知の電気ヒータによる加熱手段を採用することもできる。
【0021】
以下、本発明に係る複合繊維用スピンブロックについて、図1を参照しながら、必要に応じて図2に例示した従来の複合繊維用スピンブロックと対比しながら説明する。
図1に例示した実施形態においては、一方において、高融点ポリマー用溶融押出機1から押し出された高融点ポリマーは、高融点ポリマー導管3を通じて、高温用スピンブロック部6に導入される。また、他方において、低融点ポリマー用溶融押出機2から押し出された低融点ポリマーは、低融点ポリマー導管4を通じて、低温用スピンブロック部7に導かれる。
【0022】
したがって、高融点ポリマーと低融点ポリマーは、独立した経路を経てそれぞれのスピンブロック部6及び7へ互いに干渉されずに独立した状態で個別に供給される。このため、それぞれのポリマーの加熱温度を互いに干渉することなく独立して制御することができる。つまり、それぞれのポリマーに最適化した温度に制御することができる。しかも、本発明では、スピンブロック部6及び7も独立してそれぞれ高温用と低温用に分離して設けられている。このため、高温用スピンブロック部6と低温用スピンブロック部7は、それぞれ高温用熱媒加熱手段12と低温用熱媒加熱手段13によって任意の温度に互いに干渉されることなく独立に加熱することができる構造となっている。
【0023】
更に、高融点ポリマーと低融点ポリマーをそれぞれ紡糸口金パック10へ連続的に計量供給する高温用ギヤポンプ8と低温用ギヤポンプ9もそれぞれの高温用スピンブロックと低温用スピンブロック部7とに分離して設けられている。したがって、この点からも高融点ポリマーの計量供給に対しては高温用に最適化された高温用ギヤポンプ8を使用でき、低融点ポリマーの計量供給に対しては低温用に最適化された低温用ギヤポンプ9を使用できるという利点がある。特に、低融点ポリマーの溶融粘度が低い場合には、計量精度をより向上させるために低溶融粘度のポリマーの計量供給に最適化された低温用ギヤポンプ9を使用することが望ましい。
【0024】
これに対して、従来のスピンブロックの実施形態例を図2に示すが、従来のスピンブロックは、本発明のように高融点ポリマー用のスピンブロック部6と低融点ポリマー用のスピンブロック部7というように分離されておらず、これらが一体化されている。しかも、既に説明したように高融点ポリマーを流動状態にして流路内や廃管内を輸送するためには、高融点ポリマーが固化しない溶融温度にした一体型スピンブロック6を使用しなければならない。つまり、一体型の高温用スピンブロック6にする必要がある。
【0025】
したがって、当然のことながら、この一体型の高温用スピンブロック6に組み込むギアポンプ8及び9についても、それぞれ独立に温度制御できない。したがって、低融点ポリマーは必要以上に加熱されるので、その溶融粘度が更に低下すると言う事態を惹起し、計量供給精度が低下する低溶融粘度域での使用を余儀なくされる。しかも、熱劣化しやすい低融点ポリマーが必要以上に加熱されるのでより熱劣化が促進されると言う問題もある。
【0026】
つまり、図2に例示した従来の複合繊維用スピンブロック6においては、低融点ポリマーの導管ブロック5は高温に加熱された一体型スピンブロック6に組み込まれてしまうため、その内部を流れる低融点ポリマーの温度がどうしても高温用スピンブロック6の温度と同一となってしまう傾向を回避することが困難である。何故ならば、低融点側のポリマー温度が高温用スピンブロック6に導かれた以降は独立に温度コントロールできない構造となっているからである。したがって、スピンブロックサイズが大型化した場合や、低流量での溶融紡糸を行う場合には、低融点ポリマーは長時間にわたって高温側のスピンブロック6内に滞留することになる。このため、著しい熱劣化を誘発することとなり安定した紡糸が行えなくなる。
【0027】
しかしながら、熱劣化の関係で低融点ポリマーの溶融温度を高融点ポリマーの溶融温度とどうしても同じにできない場合が生じる。このような場合には断熱材などを介在させることによって低融点ポリマーが流れる導管ブロック5を熱的に切り離すこともできる。ところが、このような場合であっても導管ブロック5は一体型スピンブロック6の幅方向に埋め込む構造をとる必要があるため、熱膨張による幅方向の伸びが生じ、導管ブロック5のつなぎ目よりポリマー漏れが生じ易い構造となっている。しかも、このような断熱材による方法では、低融点ポリマーの温度を最適に制御することはできない。
【0028】
更に、一体型スピンブロック6内に設けたポリマー流路は一般的にはポリマー配管としてスピンブロック6内に埋め込むことが多い。このため、特に熱劣化が懸念される低融点のポリマーが懸念どおりに劣化すると、パイプを閉塞してしまうという事態を惹起する。しかしながら、このようにして埋め込まれたパイプが一度でも閉塞した場合には、ケミカル洗浄によって詰まりを解消することが困難であることが多い。このため、スピンブロック6を解体した上でスピンブロック6を焼却処理し、この焼却処理によってパイプ内のポリマー詰まりを除去する必要があり、生産における多大な機会損失を招く。
【0029】
以上に説明したように、図2に例示した従来のスピンブロック6では、スピンブロックが一体化されているのに対して、図1に例示した本発明に係るスピンブロック部6及び7では、高融点ポリマー用と低融点ポリマー用とにそれぞれ分離されている。したがって、それぞれの融点近辺の温度に最適設定されたスピンブロック部6及び7内の流路を通じてポリマー輸送を行うことが可能となり、特に低融点側のポリマーの熱劣化を抑制することが可能である。
【0030】
しかしながら、高融点ポリマーと低融点ポリマーとを合流させて複合ポリマー流を形成させて紡糸口金パック10から紡出することを考慮すると、高融点ポリマーの溶融温度に合わせて、どうしても紡糸口金パック10を高温用スピンブロック部6に設けなければならない。このような理由から、複合繊維を良好に溶融紡糸するためには、紡糸口金パック10内で高融点ポリマーと低融点ポリマーを合流させる流路設計が重要である。そこで、低温用スピンブロック部7から出て高温用スピンブロック部6に入る低融点ポリマーの入口は、高温用スピンブロック部6に設けられる紡糸口金パック10にできるだけ近い位置に設ける。また、低融点ポリマーが高温用スピンブロック部6に滞留する時間をできるだけ短縮できるように、高温用スピンブロック部6内での低融点ポリマーの流路あるいは配管の配置が設計されている。
【0031】
このようにすることにより、各ポリマーが合流している時間をできるだけ短くすることが可能となり、しかも、低融点ポリマーの温度に合わせて個別かつ独立に温度制御された低温用スピンブロック部6を新たに導入することにより、低融点ポリマーを紡糸口金パック10への入口の直前まで熱劣化の発生を可能な限り抑制しながら輸送することが可能な複合繊維用スピンブロックが具現化される。
【0032】
以上に説明したように、本発明に係るスピンブロック部6及び7では、低温用スピンブロック部7から高温用スピンブロック部6へ導入される低融点ポリマーは、高温に設定された高温用スピンブロック部6内で高温に晒される時間を極力低減できる構造としている。つまり、各ポリマーの流路や配管は勿論のこと、そこを流れる各ポリマーの温度も互いに干渉し合わないように、各溶融押出機1及び2から各ポリマー導管3及び4とギヤポンプ8及び9を介して各スピンブロック部6及び7へ互いに個別制御できる構造を採用している。
【0033】
したがって、各ポリマーに対する個別の温度制御は勿論のこと個別の流量制御も容易に行なえる。このため、単糸繊度が小さな複合繊維についても、熱劣化などの副作用を効果的に抑制しながら、溶融紡糸することができる。したがって、様々な銘柄の繊維製品を本発明に係るスピンブロックを使用することによって、安定且つ優れた品質を維持しながら製造できると言う効果を奏する。
【0034】
また本発明のスピンブロックは、高温用スピンブロック部6と低温用スピンブロック部7に分離して設けられてそれぞれ所定の温度に加熱されている。したがって、個々のスピンブロック部6又は7では、ポリマー配管などの熱膨張率は同じ材質の物を使用する限りにおいてそれぞれのスピンブロック部6及び7では一定とすることができる。したがって、各スピンブロック部6及び7内での熱膨張に起因するポリマー漏れを解消することができる。しかしながら、低温用スピンブロック部7と高温用スピンブロック部6を接続する配管だけが問題となるが、このような配管接続については、周知のテレスコープ型やベロー型など伸縮継手、あるいはエクスパンション構造配管などを採用することで容易に熱膨張の影響を解消できる。
【0035】
更に、本発明に係るスピンブロックでは、特に熱劣化を起こし易くて流路や配管が閉塞しやすい低温側のスピンブロック部7は勿論のこと、高温側のスピンブロック部6についても、ポリマーが通過する流路は全て個々にブロック化して、熱媒加熱手段12及び13の熱媒が封入されている圧力室の各外壁に着脱自在に貼り付ける構造としている。したがって、導管中でポリマー閉塞が発生した場合でも、スピンブロック全体を解体すること無く、ブロック化した部分のみを取り外してポリマー除去できる構造としている。
【0036】
このような構造設計を可能とするのは、従来のスピンブロック部6では、低融点ポリマーと高融点ポリマーとでを共用することによる相互の温度干渉や流量干渉に起因する複雑な問題を解消するのが容易ではないのに対して、本発明に係るスピンブロック部6及び7ではこのような相互干渉と言う問題を本質的に回避できるからである。
【0037】
このように低温側と高温側のスピンブロックを個別に温度制御を可能な方式とすることによりポリマー熱劣化の抑制を行うことは勿論のこと、低融点ポリマーと高融点ポリマーとの温度差を積極的に設定することが可能となる。このため、複合繊維の溶融紡糸において重要な要因を占める「各ポリマー成分の粘度差制御の自由度」も大きなものとなり複合繊維のセクション設計や、紡糸口金11から吐出するポリマーの吐出速度制御も容易となる。その結果、紡糸口金11から吐出された直後のポリマーのベンディング防止や紡糸孔のエッジ部への異物堆積による断糸をも抑制することが可能となって、技術難度の高い複合繊維銘柄の安定生産が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明に係るスピンブロックの一実施形態例の配置を模式的に示した概要図である。
【図2】従来のスピンブロックの実施形態例の配置を模式的に示した概要図である。
【符号の説明】
【0039】
1.高融点ポリマー用溶融押出機
2.低融点ポリマー用溶融押出機
3.高融点ポリマーの導管
4.低融点ポリマーの導管
5.低融点ポリマーの導管ブロック
6.高温用スピンブロック
7.低温用スピンブロック
8.高温用ギヤポンプ
9.低温用ギヤポンプ
10.紡糸口金パック
11.紡糸口金
12.高温用熱媒加熱手段
13.低温用熱媒加熱手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに融点が異なる2種類の熱可塑性ポリマーを紡糸口金パック内で合流させて複合ポリマー流を形成させて、形成した複合ポリマー流を紡糸口金から紡出して複合繊維を溶融紡糸するスピンブロックにおいて、
前記スピンブロックは、
(1)高温用スピンブロック部と低温用スピンブロック部とにそれぞれ分離され、
(2)溶融した高融点ポリマーと低融点ポリマーとを輸送する低融点ポリマー用の導管と高融点ポリマー用の導管とがそれぞれ前記高温用スピンブロック部と前記低温用スピンブロック部とにそれぞれ接続され、
(3)前記高温用スピンブロック部と前記低温用スピンブロック部には、前記各導管からそれぞれ独立して供給される前記低融点ポリマーと前記高融点ポリマーとをそれぞれ受け入れて前記紡糸口金パックへ計量しながら連続的に供給する高温用ギヤポンプと低温用ギヤポンプとがそれぞれ設けられ、
(4)更に前記高温用スピンブロック部と前記低温用スピンブロック部には、個別かつ独立に各所定温度にそれぞれ加熱する高温用加熱手段と低温用加熱手段とをそれぞれ備え、
(5)前記低温用スピンブロック部を経由させて前記高温用スピンブロック部へ前記低融点ポリマーを供給して前記高温用スピンブロック部へ直接的に連続供給された前記高融点ポリマーと合流させて前記紡糸口金パック内で複合ポリマー流を形成させて複合繊維として紡出する設備であることを特徴とする複合繊維用スピンブロック。
【請求項2】
前記高温用スピンブロック部と前記低温用スピンブロック部を接続する配管を熱膨張による歪みを緩和する構造とした請求項1に記載の複合繊維用スピンブロック。
【請求項3】
前記高温用加熱手段及び前記低温用加熱手段がそれぞれ前記高温用スピンブロック部及び前記低温用スピンブロック部に設けられた圧力室に封入された熱媒によって加熱する手段である請求項1又は請求項2に記載の複合繊維用スピンブロック。
【請求項4】
前記高温用加熱手段及び前記低温用加熱手段の各熱媒が封入されたそれぞれ圧力室の外側に前記低融点ポリマーと前記高融点ポリマーの流路及び配管を組み込んだ各ブロックを着脱自在に取付けた請求項1〜3の何れかに記載の複合繊維用スピンブロック。

【図1】
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【図2】
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