説明

複合繊維

【課題】制電性に富んだ扱い易いものとし、かつ染色後の発色性も改善したポリエステル系複合糸を提供する。
【解決手段】非導電層Aと導電層Bとからなる複合繊維であって、非導電層が繊維表面の少なくとも70%を占めてなり、非導電層が、非導電層のポリエステル中の酸性分に対し金属スルホネート基含有イソフタル酸を0.5〜10モル%含有する繊維形成性ポリエステルであり、導電層が、導電性被膜を有する酸化チタン粒子を含む熱可塑性重合体であるポリエステル系複合繊維。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静電気の発生が抑制されたポリエステル系複合繊維に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリエステルあるいはポリエステル/綿混用品の作業着等の制電性改善として白度
に優れたポリエステル導電糸の開発はなされてきた。例えば、特許文献1に示すように、
導電性を有するポリエステル糸を、ポリエステル糸に混用して布帛とし、摩擦帯電圧を測
定したところ良好なる制電性を示している。このポリエステル導電糸は、布帛に混用した
後に、作業着等にするために染色をする。例えば、ポリエステル100%布帛に混用する
ものであれば、分散染料にて染色する。また、ポリエステル/綿混用品であると分散染料
/Vat染料或いは分散染料・反応染料での染色をする。
【特許文献1】特開平5−51811号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、ポリエステル系導電糸は、分散染料にて染色をしても鮮明なる色を得がた
い。
本発明は、ポリエステル系複合糸を制電性に富んだ扱い易いものとし、かつ発色性も改善
することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者等は、静電気の発生を抑制でき、発色性に優れた導電性ポリエステル系繊維につ
いて鋭意解析した結果、導電層に導電性被膜を有する酸化チタン粒子を含有する熱可塑性
ポリマーを使用し、保護層としての非導電層にカチオン染色可能なるポリエステルを使用
するポリエステル系導電糸に達した。
即ち、本発明のポリエステル系複合繊維は、非導電層と導電層とからなる複合繊維であっ
て、非導電層が繊維表面の少なくとも70%を占めてなり、非導電層が、非導電層のポリ
エステル中の酸性分に対し金属スルホネート基含有イソフタル酸を0.5〜10モル%含
有する繊維形成性ポリエステルであり、導電層が、導電性被膜を有する酸化チタン粒子を
含む熱可塑性重合体であるポリエステル系複合繊維である。
【発明の効果】
【0005】
本発明のポリエステル系複合繊維は、繊維表面にカチオン可染型ポリエステルからなる非
導電層を設けることにより、染色後の発色性に優れ、しかも主に繊維内部は、熱可塑性重
合体と導電性被膜を有する酸化チタン粒子とからなる導電層であるため静電気を抑える効
果を十分に発揮する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明のポリエステル系複合繊維は、熱可塑性重合体と導電性被覆を有する酸化チタン粒
子とからなる導電層と、金属スルホネート其含有イソフタル酸を含有する繊維形成性ポリ
エステルからなる非導電層とが接合されてなる導電性複合繊維である。
【0007】
非導電層の金属スルホネート基含有イソフタル酸(以下SIPと称する)は、非導電層の
ポリエステル中に含有する酸成分に対し、0.5〜10モル%であることが必要である。
SIPが0.5モル%未満であると、カチオン可染性が低下し、鮮明色が得られない。ま
た、SIPが10モル%を超えると、重合度が進まず、ポリマーの分子量が上がらず、紡
糸をしても糸とならない。
【0008】
SIPは、例えば、5−金属スルホイソフタル酸ジメチル(以下SIPMと称する)又は
ジメチル基をエチレングリコールでエステル化させた化合物(以下SIPEと称する)が
挙げられる。SIPMを多量にスラリー槽へ投入するとスラリー物性を悪化させることが
あるのでSIPEを採用するのが好ましい。
また、SIP中金属はナトリウム、カリウム、リチウムなどが挙げられるが、最も好まし
いのはナトリウムである。ここで、SIP成分は、共重合、混練など、いずれの形態で含
有してもよいが、繊維の染色時の均一性の点から、共重合せしめたものであることが好ま
しい。
【0009】
上記ポリエステルとは、具体的には、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフ
タレート、ポリエチレンナフタレート等、繊維形成能のあるポリエステルポリマーを示す
。該繊維形成性ポリエステルには酸化チタンを含有してもよい。
【0010】
導電層には、導電性被覆を有する酸化チタンを含有する。導電性被膜としては、例えば、
酸化銅、酸化銀、酸化亜鉛、酸化カドミウム、酸化錫、酸化鉛、酸化マンガンなどが挙げ
られる。導電性被膜には第2成分を添加しても良い。
第2成分としては、異種金属の酸化物、同種又は異種金属等が挙げられる。例えば、酸化
銅/銅、酸化亜鉛/酸化アルミニウム、酸化錫/酸化アンチモン、酸化亜鉛/亜鉛、酸化
アルミニウム/アルミニウム、酸化錫/錫、酸化アンチモン/アンチモン及びそれらの酸
化物の一部が還元されたものを含有するもの等が好適である。
【0011】
導電性被膜を有する酸化チタン粒子は、粉末状での比抵抗が10Ω・cm(オーダー
)以下、特に10Ω・cm(オーダー)以下が好ましい。
【0012】
上記粒子の比抵抗は、直径1cmの円筒に10gの試料を詰め上部からピストンによっ
て200kgの圧力を加えて直流(0.1〜100V)を印加して測定する。
【0013】
導電性被膜を有する酸化チタン粒子の粒径は、小さいものが可紡性及び導電性の見地か
ら望ましい。例えば、平均粒径1μm以下、特に0.7μm以下、最も好ましくは0.5
〜0.01μmのものが使用される。粒径が小さいほどポリマーと混合したとき、ポリマ
ー中における分散性に優れ、また混合物の導電性が優れる。
【0014】
導電性被膜は、例えば、真空蒸着法や金属化合物(例えば、有機酸塩)を付着させ、焼
成して酸化物にすることや、それを部分還元することで形成することができる。
【0015】
導電性粒子と混合し導電層を形成するポリマーとしては、公知のあらゆる熱可塑性重合体
を使用することが出来る。例えば、ポリアミド、ポリエステル、ポリオレフィン、ポリカ
ーボネートなど、多数のものが挙げられる。
【0016】
導電層における導電性被膜を有する酸化チタンの混合率は、30〜85重量%であること
が好ましい。
導電性被膜を有する酸化チタンの混合率が上記範囲内であれば、導電性能良好である。
【0017】
本発明の複合導電性繊維は、非導電層が繊維表面を少なくとも70%占めていることが
必要であり、例えば、図1〜図4に示すような断面形状の複合繊維とすることが好適であ
る。
染色の均一性を考えると、図1〜図4に示すような、非導電層が繊維表面全体を占めて
いる繊維とすることが好適である。
【0018】
導電層と非導電層の比率は繊維横断面積比率で1:30〜2:1であることが好ましい。
導電層の比率が2:1より大きいと、強度が下がり、紡糸巻き取りが不可能となる。また
、導電層の比率が1:30より小さいと導電性不足となり、制電性能を発揮できなくなる

【0019】
複合繊維の導電層に使用するポリマーと導電性被膜を有する酸化チタンとを混合する方法
は特に規定されず、2軸混練など公知の方法にて混合する。得られた導電性樹脂を用いて
、複合繊維の製造は、例えば、導電性樹脂と非導電層用のポリエステルとをそれぞれ溶融
して、例えば、図1に示す断面形状となるように紡糸口金より吐出する。
【0020】
吐出した複合糸を冷風により冷却した後、油剤を付与して公知の巻き取り機にて巻き取り
248dtex/24fの未延伸糸を得る。マルチフィラメントのみならず、モノフィラ
メントでもよい。巻き取り速度は導電層、非導電層の組み合わせ、比率に適したスピード
であれば良いが、糸質、及び巻き取り易さなどから、600m/min〜1600m/m
inが望ましい。
【0021】
得られた未延伸糸を80℃〜120℃の熱をかけながら延伸をして、ポリエステル系複
合繊維を得る。
【0022】
得られた複合繊維を、製織または製編等した後、カチオン染料にて120℃にて45分
〜60分染色する。
染色された布帛は、静電気の発生も抑えられ、鮮明色が得られる画期的なものである。
【実施例】
【0023】
以下実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれによって限定されるもの
ではない。
【0024】
(1)制電性
制電性は、本発明品を非導電のポリエステル糸の筒編みの10cm間隔に編みこみ、JI
SL−1094 摩擦帯電減衰測定法にて測定し、摩擦直後及び60秒後の帯電圧の値を
示した。
【0025】
(2)発色性
染色性は、本発明品及び比較対象品を筒編みにしたものをKayacryl Red
GL 2omfと酢酸0.2cc/l浴比1:50にて染色を行い、その結果を目視で判
断して、鮮明色であれば○、鮮明でなければ×とした。
【0026】
(実施例1)
酸化アンチモンをドーピングした酸化錫をコーテシングした酸化チタン粒子をポリエチレ
ンに75重量%含有せしめたポリマーを導電層とする。ポリエステル中に含有する酸成分
に対し、1.5モル%のSIPMを含有した繊維形成性ポリエステルを保護層とし、図1
のような断面となるように複合し、275℃、直径0.25mmのオリフィスから紡出し
、冷却・オイリングして1200m/minの速度で巻き取り、100℃の熱をかけなが
ら延伸して80dtex/24fの延伸糸を得た。
また、得られた延伸糸を非導電ポリエステル糸の筒編み中に10cm間隔になるように編
みこみ、制電性を評価した。
得られた延伸糸を筒編みしてKyacryl Red GL 2omfと酢酸0.2cc
/l浴比1:50にて120℃×60分の染色を実施した。
評価結果を表1に示す。
染色斑は見られず、着用試験による静電気の発生も見られなかった。
【0027】
(比較例1)
アンチモンをドーピングした錫をコーテシングした酸化チタン粒子をポリエチレンに75
wt%含有せしめたポリマーを導電層とする。ポリエステル中に含有する酸成分に対し、
0.2モル%のSIPMを含有した繊維形成性ポリエステルを保護層とする。導電層と保
護層を第1図のような断面となるように複合し、275℃、直径0.25mmのオリフィ
スから紡出し、冷却・オイリングして1200m/minの速度で巻き取り、100℃の
熱をかけながら延伸して80dtex/24fの延伸糸を得た。
得られた延伸糸を筒編みしてKyacryl Red GL 2omfと酢酸0.2cc
/l浴比1:50にて120℃×60分の染色を実施した。
また、得られた延伸糸を非導電ポリエステル糸の筒編み中に10cm間隔になるように編
みこみ、制電性を評価した。
評価結果を表1に示す。
【0028】
(比較例2)
アンチモンをドーピングした錫をコーテシングした酸化チタン粒子をポリエチレンに75
wt%含有せしめたポリマーを導電層とする。ポリエステル中に含有する酸成分に対し、
12モル%のSIPMを含有した繊維形成性ポリエステルを保護層とする。導電層と保護
層を第1図のような断面となるように複合し、275℃、直径0.25mmのオリフィス
から紡出したが糸を採取することが出来なかった。
【0029】
(比較例3)
導電性被覆を有する酸化チタン粒子を含まないポリエチレンを芯とする。ポリエステル中
に含有する酸成分に対し、2.5モル%のSIPMを含有した繊維形成性ポリエステルを
保護層とする。導電層と保護層を第1図のような断面となるように複合し、275℃、直
径0.25mmのオリフィスから紡出し、冷却・オイリングして1200m/minの速
度で巻き取り、100℃の熱をかけながら延伸して80dtex/24fの延伸糸を得た

得られた延伸糸を筒編みしてKyacryl Red GL 2omfと酢酸0.2cc
/l浴比1:50にて120℃×60分の染色を実施した。
また、得られた延伸糸を非導電ポリエステル糸の筒編み中に10cm間隔になるように編
みこみ、制電性を評価した。
評価結果を表1に示す。
【0030】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明は、カチオン染色が可能で発色性が良好であり、静電気発生も少なくできるポリエ
ステル系複合繊維である。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明のポリエステル系複合繊維の横断面の具体例である。
【0033】
【図2】本発明のポリエステル系複合繊維の横断面の具体例である。
【0034】
【図3】本発明のポリエステル系複合繊維の横断面の具体例である。
【0035】
【図4】本発明のポリエステル系複合繊維の横断面の具体例である。
【符号の説明】
【0036】
A:非導電層
B:導電層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非導電層と導電層とからなる複合繊維であって、非導電層が繊維表面の少なくとも70%
を占めてなり、非導電層が、非導電層のポリエステル中の酸性分に対し金属スルホネート
基含有イソフタル酸を0.5〜10モル%含有する繊維形成性ポリエステルであり、導電
層が、導電性被膜を有する酸化チタン粒子を含む熱可塑性重合体であることを特徴とする
ポリエステル系複合繊維。
【請求項2】
導電層における導電性被膜を有する酸化チタン粒子の混合率が30〜85重量%である請
求項1記載のポリエステル系複合繊維。
【請求項3】
導電層と非導電層の比率が面積比率で1:30〜2:1である請求項1記載のポリエステ
ル系複合繊維。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−59588(P2010−59588A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−229325(P2008−229325)
【出願日】平成20年9月8日(2008.9.8)
【出願人】(305037123)KBセーレン株式会社 (97)
【Fターム(参考)】