複合酸化物粉末の製造方法
【課題】組成の自由度が高く、目標とする組成を有し、かつ、各元素の均一分散性に優れた複合酸化物を効率よく製造することを可能にする。
【解決手段】Baの塩化物、Srの塩化物、Caの塩化物およびLaの塩化物からなる群より選ばれる少なくとも1種である物質Aと、Tiの塩化物およびZrの塩化物の少なくとも1種である物質Bと、酒石酸とを含む水溶液のpHをアルカリ側に調整して、物質Aに由来するBa、Sr、CaおよびLaの少なくとも1種と、物質Bに由来するTiおよびZrの少なくとも1種とを含む複合酸化物前駆体を沈殿させ、この複合酸化物前駆体を熱処理して、Ba、Sr、CaおよびLaからなる群より選ばれる少なくとも1種と、TiおよびZrの少なくとも1種とを主成分とする複合酸化物を合成する。
【解決手段】Baの塩化物、Srの塩化物、Caの塩化物およびLaの塩化物からなる群より選ばれる少なくとも1種である物質Aと、Tiの塩化物およびZrの塩化物の少なくとも1種である物質Bと、酒石酸とを含む水溶液のpHをアルカリ側に調整して、物質Aに由来するBa、Sr、CaおよびLaの少なくとも1種と、物質Bに由来するTiおよびZrの少なくとも1種とを含む複合酸化物前駆体を沈殿させ、この複合酸化物前駆体を熱処理して、Ba、Sr、CaおよびLaからなる群より選ばれる少なくとも1種と、TiおよびZrの少なくとも1種とを主成分とする複合酸化物を合成する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は複合酸化物の製造方法に関し、詳しくは、セラミック電子部品用のセラミック原料として好適に用いることが可能な複合酸化物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、セラミック原料として用いられるBaTiO3、BaZrO3、SrTiO3などの複合酸化物を製造(合成)する方法としては、原料を高温で焼成(仮焼)して複合酸化物を合成する固相反応法が広く知られている。しかしながら、この方法の場合、高温での熱処理(焼成)工程を経て製造されるため、粒径が大きく、しかも不均一になりやすいという問題点がある。
【0003】
そこで、このような問題点を解決する方法として、以下のように、溶液中での化学反応により複合酸化物を合成する方法が提案されている。
【0004】
(1)そのうちの1つは、BaTiO3やSrTiO3などのセラミック原料粉末の製造方法に関するものである(特許文献1参照)。
この特許文献1の方法の場合、硝酸塩や塩化物を出発原料に用い、これらを水に溶かした水溶液にアルカリを加えることにより、まず、Ti、ZrなどのBサイト元素を水酸化物として沈殿させた後、シュウ酸、クエン酸、酒石酸などの有機酸を加えることにより、Ba、Sr、CaなどのAサイト元素を有機酸塩として沈殿させ、濾過、水洗、乾燥して得られる粉末を仮焼、粉砕することによりセラミック原料粉末を得るようにしている。
【0005】
(2)また、溶液中での化学反応により複合酸化物を合成する他の方法として、上記特許文献1の方法に類似する方法が提案されている(特許文献2参照)。この特許文献2の方法の場合、第1の槽にてTi、ZrなどのBサイト元素の水酸化物を沈殿させ、第2の槽にてBa、Sr、CaなどのAサイト元素の有機酸塩を沈殿させた後、第1の槽のスラリーと第2の槽のスラリーを混合し、濾過、水洗、乾燥して得られる粉末を仮焼、粉砕することによりセラミック原料粉末を得るようにしている。
【0006】
(3)溶液中での化学反応により複合酸化物を合成するさらに他の方法は、いわゆるシュウ酸法によりBaTiO3粉末を合成する方法に関するものであり、TiイオンとBaイオンを、シュウ酸バリウムチタニルという化合物として沈殿させた後、洗浄、濾過、仮焼の工程を経てBaTiO3を得るようにしている(非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特公平2−10089号公報
【特許文献2】特公平2−10091号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】マテリアルインテグレーション vol.21 No.7 (2008) pp86−91 「シュウ酸法によるチタン酸バリウムのナノパウダー」
【0009】
しかしながら、上記特許文献1の方法の場合、Bサイト元素を先に沈殿させた後にAサイト元素を沈殿させており、AサイトとBサイトの各成分が別々に沈殿することになるため、沈殿粉全体における各元素の分散性は必ずしも良好ではなく、均一性が不十分になりやすいという問題点がある。
【0010】
また、上記特許文献2の方法の場合も、上記特許文献1の場合と同様に、AサイトとBサイトの各成分を別々に沈殿させた後、両者を混合するようにしていることから、各元素の分散性、均一性は固相法と同程度にとどまり、必ずしも満足できるものではないという問題点がある。
【0011】
一方、引用文献3の方法の場合、AサイトとBサイトの各成分を1つの化合物(シュウ酸バリウムチタニル)として沈殿させるため、BaとTiの分散性は原子レベルで均一であるというメリットがある。
しかしながら、その化合物の組成でしか沈殿粉を得ることができず、組成の自由度が低いという問題点がある。
さらに沈殿粉は数十μm程度の凝集体であるため、仮焼後にこの凝集体骨格が残り、最終製品である複合酸化物(例えば、BaTiO3)に粗大粒子が残りやすいという問題点がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記課題を解決するものであり、組成の自由度が高く、目標とする組成を有し、微細で、かつ、各元素の均一分散性に優れた複合酸化物を効率よく製造することが可能な複合酸化物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するため、本発明の複合酸化物の製造方法は、
(a)Baの塩化物、Srの塩化物、Caの塩化物およびLaの塩化物からなる群より選ばれる少なくとも1種である物質Aと、Tiの塩化物およびZrの塩化物の少なくとも1種である物質Bと、酒石酸とを含む水溶液を調製する工程と、
(b)前記水溶液のpHをアルカリ側に調整することで、前記物質Aに由来するBa、Sr、CaおよびLaの少なくとも1種と、前記物質Bに由来するTiおよびZrの少なくとも1種とを含む複合酸化物前駆体を沈殿させる工程と、
(c)前記複合酸化物前駆体を熱処理して、Ba、Sr、CaおよびLaからなる群より選ばれる少なくとも1種と、TiおよびZrの少なくとも1種とを主成分とする複合酸化物を合成する工程と
を具備することを特徴としている。
【0014】
また、本発明の複合酸化物の製造方法においては、前記酒石酸の添加量を、前記(a)の工程における前記水溶液に含まれる金属イオンのモル量の和の0.3〜2.0倍の範囲とすることが望ましい。
【0015】
また、本発明の複合酸化物の製造方法においては、前記水溶液のpHをアルカリ側に調整する方法として、水酸化アンモニウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウムからなる群より選ばれる少なくとも1種を前記水溶液に添加する方法を用いることが望ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明の複合酸化物の製造方法は、Baの塩化物、Srの塩化物、Caの塩化物およびLaの塩化物からなる群より選ばれる少なくとも1種である物質Aと、Tiの塩化物およびZrの塩化物の少なくとも1種である物質Bと、酒石酸とを含む水溶液のpHをアルカリ側に調整することで、物質Aに由来するBa、Sr、CaおよびLaの少なくとも1種と、物質Bに由来するTiおよびZrの少なくとも1種とを含む複合酸化物前駆体を沈殿させ、この複合酸化物前駆体を熱処理して、Ba、Sr、CaおよびLaからなる群より選ばれる少なくとも1種と、TiおよびZrの少なくとも1種とを主成分とする複合酸化物を合成するようにしているので、組成の自由度が高く、目標とする組成を有し、微細で、かつ、各元素の均一分散性に優れた複合酸化物を効率よく製造することが可能になる。
【0017】
すなわち、本発明においては、上記の物質Aと物質Bが溶解した水溶液のpHをアルカリ側に調整することで、複合酸化物前駆体を沈殿させるようにしているので、各元素の均一分散性に優れた沈殿粉を得ることができる。
したがって、得られた複合酸化物前駆体を、例えば700〜800℃という比較的低い温度で熱処理(仮焼)することにより、目標とする組成の複合酸化物を合成することができる。
【0018】
また、上記の熱処理を行うことにより得られる複合酸化物粉末(仮焼粉)は、100nm程度の微小な1次粒子からなる緩い凝集体であることから、仮焼後に解砕することにより、微細で粒径のそろった複合酸化物を得ることが可能になる。
【0019】
また、本発明によれば、仕込み組成通りの沈殿粉(複合酸化物前駆体)が得られ、それを熱処理(仮焼)することにより、目標とする組成を有する複合酸化物を効率よく得ることができる。したがって本発明は、元素の均一分散性に優れていると同時に、組成の自由度が大きい点において、極めて有意義であるということができる。
【0020】
また、本発明の複合酸化物の製造方法において、酒石酸の添加量を、物質Aと物質Bと酒石酸とを含有する水溶液に含まれる金属イオンのモル量の和の0.3〜2.0倍(すなわち、モル比で0.3〜2.0倍)の範囲とすることにより、水溶液中の金属イオンのほとんどを沈殿物として回収することができるので、仕込み組成通りの沈殿粉(複合酸化物前駆体)を得ることが可能になり、また沈殿物中の金属イオンの分散性が高まるので、本願発明をより実効あらしめることができる。
【0021】
また、本発明の複合酸化物の製造方法においては、水溶液のpHをアルカリ側に調整する方法として、水酸化アンモニウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウムからなる群より選ばれる少なくとも1種を前記水溶液に添加する方法を採用することにより、仕込み組成通りの沈殿粉(複合酸化物前駆体)を確実に沈殿させることが可能になる。
なお、本願発明においては、上述のように、アルカリを添加する方法に限らず、例えば、粉末の状態ではアルカリに該当しない尿素粉末を上記水溶液に添加して、下記の式のように加水分解させ、アルカリ(NH3)を発生させることにより、水溶液のpHをアルカリ側に調整するように構成することも可能である。
(NH2)2CO+H2O → 2NH3+CO2
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】実施例1において得た沈殿粉(複合酸化物前駆体)のSEM像を示す図であり、(a)は5000倍、(b)は30000倍のものである。
【図2】実施例1において得た沈殿粉のWDX元素マッピング分析の結果を示す図である。
【図3】実施例1において沈殿粉を仮焼して得た複合酸化物粉末のX線回折パターンを示す図である。
【図4】実施例1において沈殿粉を仮焼して得た複合酸化物粉末(BaTiO3粉末)のSEM像を示す図であり、(a)は5000倍、(b)は30000倍のものである。
【図5】比較例1において、バリウム原料として炭酸バリウムを用いて得た沈殿粉のWDX元素マッピング分析の結果を示す図である。
【図6】比較例1において、バリウム原料として水酸化バリウムを用いて得た沈殿粉のWDX元素マッピング分析の結果を示す図である。
【図7】塩化バリウム、炭酸バリウム、水酸化バリウムの各種バリウム塩を用いて作製したBaとTiを含む沈殿粉のTG曲線を示す図である。
【図8】実施例3において沈殿粉を仮焼して得た複合酸化物粉末(BaTiO3粉末)のSEM像を示す図であり、(a)は5000倍、(b)は30000倍のものである。
【図9】実施例4において得た沈殿粉のWDX元素マッピング分析の結果を示す図である。
【図10】実施例4において沈殿粉を仮焼することにより得た複合酸化物粉末(BaZrO3粉末)のX線回折パターンを示す図である。
【図11】実施例4において沈殿粉を仮焼することにより得た複合酸化物粉末のSEM像を示す図であり、(a)は5000倍、(b)は30000倍のものである。
【図12】実施例6において得た沈殿粉のWDX元素マッピング分析の結果を示す図である。
【図13】実施例6において沈殿粉を仮焼することにより得た複合酸化物粉末(La2Zr2O7粉末)のSEM像を示す図であり、(a)は3000倍、(b)は30000倍のものである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に本発明の実施例を示して、本発明の特徴とするところをさらに詳しく説明する。
【実施例1】
【0024】
(1)四塩化チタンの16%水溶液に水を加え、Ti濃度0.5mol/L(リットル)の水溶液を作製した。そして、この水溶液に塩化バリウム二水和物をBa濃度が0.5mol/Lになるように加え、透明な水溶液を得た。
次に、この水溶液に酒石酸を、水溶液中のBaとTiのモル数の和の0.5倍になるように加えて、Baの塩化物と、Tiの塩化物と、酒石酸とが溶解した水溶液を調製した。
【0025】
(2)それから、この水溶液にアンモニア水(水酸化アンモニウム28%水溶液)を滴下して、pHを約10に調整し、複合酸化物前駆体である沈殿粉を得た。
なお、上記(1)および(2)の操作は、いずれも常温で、撹拌しながら行った。
【0026】
(3)次に、得られた沈殿粉をろ過、洗浄し、乾燥させた後、所定の条件(温度および時間)で仮焼することにより、仮焼粉(複合酸化物粉末)(この実施例ではBaTiO3粉末)を得た。
【0027】
(評価)
上記(2)の工程で得た沈殿粉を走査型電子顕微鏡により観察した。沈殿粉のSEM像を図1(a)、(b)に示す。図1(a)、(b)より、1次粒子の粒径は数十nm程度であること、1次粒子が集まった凝集体は粒径が数μm程度になっていることがわかる。
【0028】
また、上記(2)の工程で得た沈殿粉を用いて成形体を作製し、その表面をWDX(波長分散型X線分析装置)にて元素のマッピング分析を行い、BaならびにTiの分散状態を評価した。その結果を図2に示す。
図2より、BaおよびTiのいずれについても濃度偏析は認められず、均一な分散状態が得られていることがわかる。
【0029】
また、上記(2)の工程で得た沈殿粉と、上記(3)の工程で、500〜700℃で熱処理(仮焼)することにより得た仮焼粉(複合酸化物粉末)のX線回折パターンを図3に示す。なお、熱処理(仮焼)はいずれも最高温度(図3の縦軸の温度)で1hキープすることにより行った。
【0030】
図3より、仮焼が行われていない沈殿粉(複合酸化物前駆体)は非晶質であることがわかる。また、熱処理(仮焼)温度500℃および600℃でも十分に単一相化していないことがわかる。
これに対し、熱処理(仮焼)温度を700℃とした場合には、BaTiO3の単一相が得られていることがわかる。
【0031】
また、図4(a)、(b)に、900℃、3hの条件で熱処理(仮焼)した仮焼粉(複合酸化物粉末)のSEM像を示す。図4(a)、(b)より、仮焼粉(複合酸化物粉末)は100nm程度の1次粒子が緩やかに凝集した状態の粉末であることがわかる。なお、凝集体の大きさは、上述の図1(a)、(b)に示した沈殿粉の場合と同様、数μm程度である。
【0032】
<比較例>
実施例1の塩化バリウム二水和物の代わりに、炭酸バリウムおよび水酸化バリウム八水和物を用いた以外は、実施例1と同じ方法で沈殿粉を得た。
【0033】
そして、炭酸バリウムを用いて得た沈殿粉と、水酸化バリウム八水和物を用いて得た沈殿粉のそれぞれについて、WDXにて元素マッピング分析を行った。その結果を図5および図6に示す。図5および図6に示すように、いずれの沈殿粉についても元素の偏析が認められた。
【0034】
また、塩化バリウム、炭酸バリウム、水酸化バリウムの各種バリウム塩を用いて得た沈殿粉のTG曲線を図7に示す。
【0035】
図7より、塩化バリウムを用いた場合は、700℃で重量減少が終了しているのに対し、炭酸バリウムと水酸化バリウムを用いた場合には、900℃まで重量減少が続いていることがわかる。実際にバリウム原料として、炭酸バリウムと水酸化バリウムを用いた沈殿粉を種々の温度で仮焼したところ、BaTiO3の単一相が得られるのはいずれも900℃以上の温度であることが確認された。
【0036】
この実施例1より、本発明の製造方法によれば、BaおよびTiのいずれについても濃度偏析は認められず、均一に分散した沈殿粉が得られることが確認された。
また、比較的低い温度で熱処理(仮焼)した場合にも、目的相の単一相が得られることが確認された。
【0037】
さらに、沈殿粉として、微粒な1次粒子が緩やかに凝集した沈殿粉が得られ、その結果、複合酸化物粉末(仮焼粉)としても、緩く凝集した複合酸化物粉末(仮焼粉)が得られ、仮焼後の解砕も容易であることが確認された。また、凝集粒子径は数μmであり、比較的小さいことも確認された。
【実施例2】
【0038】
Ba/Ti比を0.95〜1.05の範囲で変化させたこと以外は、実施例1の場合と同じ方法で、複合酸化物前駆体である沈殿粉を得た。
それから、得られた沈殿粉を900℃、3hの条件で仮焼して仮焼粉(複合酸化物粉末)を得た。そして、この仮焼粉について、XRF(蛍光X線分析法)により組成分析を行った。仕込み組成と、XRFによる分析で求めた組成の関係を表1に示す。
【0039】
【表1】
【0040】
表1より、仕込み組成とほぼ同じ組成の仮焼粉(複合酸化物粉末)が得られていることがわかる。
【0041】
この実施例2より、本発明の方法によれば、目標組成が化学量論比から大きく外れている場合にも、目標組成の複合酸化物粉末を製造することが可能で、組成の自由度が大きいことが確認された。
【実施例3】
【0042】
上記実施例1では、アンモニア水を添加して、複合酸化物の前駆体である沈殿粉を析出させるようにしたが、この実施例3では、アンモニア水の代わりに水酸化ナトリウム水溶液(50%水溶液)を使用して沈殿粉を作製するとともに、沈殿粉を所定の条件で仮焼して複合酸化物粉末(BaTiO3粉末)を作製した。
なお、この実施例3では、アンモニア水の代わりに水酸化ナトリウム水溶液を用いたことを除いて、実施例1の場合と同じ方法、同じ条件で沈殿粉および複合酸化物粉末を作製した。
【0043】
この実施例3で作製した沈殿粉について、BaとTiの分散状態を実施例1の場合と同様の方法で評価したところ、BaおよびTiのいずれについても濃度偏析は認められず、均一な分散状態になっていることが確認された。
【0044】
また、沈殿粉を900℃、3hの条件で仮焼することにより得た仮焼粉(複合酸化物粉末)について、X線回折により相の同定を行ったところ、BaTiO3単相になっていることが確認された。
【0045】
また、仮焼粉(複合酸化物粉末)のSEM像は、図8(a)、(b)に示す通りであり、アンモニア水を用いた実施例1の場合と同様、微小な1次粒子が緩やかな凝集体を形成していることが確認された。
【0046】
この実施例3より、アンモニア水の代わりに水酸化ナトリウムを用いても同様の効果が得られることが確認された。
【実施例4】
【0047】
(1)塩化バリウム二水和物とオキシ塩化ジルコニウム八水和物を1:1のモル比で調合し、水を加えて両者を溶解して透明な水溶液を得た。水溶液中のBa濃度とZr濃度はともに0.5mol/Lとした。
なお、本発明においては、ジルコニウムの塩化物として、安定性などの見地からオキシ塩化物(ZrOCl2・8H2O)を用いることが望ましい。
それから、常温で撹拌しながら、この水溶液に酒石酸を加えた。酒石酸の添加量は、水溶液中のBaとZrのモル数の和の0.7倍とした。
【0048】
(2)それから、酒石酸を加えた水溶液に対し、常温で攪拌を続けながら、アンモニア水(28%水溶液)を滴下することにより、pHを約9.5に調整し、沈殿粉を得た。
【0049】
(3)次に、得られた沈殿粉をろ過、洗浄し、乾燥させた後、所定の条件で仮焼して仮焼粉(複合酸化物粉末)(この実施例ではBaZrO3粉末)を得た。
【0050】
(評価)
沈殿粉について、BaとZrの分散状態を、実施例1の場合と同様の方法で評価した。その結果、図9に示すように、BaとZrに濃度偏析はなく、均一な分散状態が得られていることが確認された。
【0051】
また、上記(2)の工程で得た沈殿粉ならびに、上記(3)の工程で、500〜700℃で熱処理(仮焼)することにより得た仮焼粉(複合酸化物粉末)のX線回折パターンを図10に示す。なお、熱処理(仮焼)はいずれも最高温度で1hキープすることにより行った。
【0052】
図10より、沈殿粉は非晶質であることがわかる。また、熱処理(仮焼)温度700℃でBaZrO3の単一相が得られていることがわかる。
【0053】
また、図11(a)、(b)に800℃、3hで熱処理(仮焼)することにより得た仮焼粉(複合酸化物粉末)のSEM像を示す。図11(a)、(b)より、この仮焼粉(複合酸化物粉末)は、微小な1次粒子が緩やかに凝集した状態の粉末であることがわかる。
【0054】
この実施例4より、複合酸化物粉末としてBaZrO3を製造する場合においても実施例1の場合と同様の効果が得られることが確認された。
【実施例5】
【0055】
(1)四塩化チタンの16%水溶液に水を加え、Ti濃度1.0mol/Lの水溶液を作製した。その後、塩化ストロンチウム六水和物をSr濃度が1.0mol/Lになるように加え、透明な水溶液を得た。
それから、常温で撹拌しながら、この水溶液に酒石酸を加えた。酒石酸の添加量は、水溶液中のSrとTiのモル数の和の0.5倍とした。
【0056】
(2)それから、酒石酸を加えた水溶液に対し、常温で攪拌を続けながら、水酸化ナトリウム水溶液(50%水溶液)を滴下することにより、pHを約13に調整し、沈殿粉を得た。
【0057】
(3)次に、得られた沈殿粉をろ過、洗浄し、乾燥させた後、所定の条件で仮焼することにより仮焼粉(複合酸化物粉末)(この実施例ではSrTiO3粉末)を得た。
【0058】
(評価)
沈殿粉について、SrとTiの分散状態を、実施例1の場合と同様の方法で評価した。その結果、SrとTiに濃度偏析はなく、均一な分散状態が得られていることが確認された。
【0059】
また、沈殿粉を800℃、3hの条件で仮焼して得た仮焼粉(複合酸化物粉末)について、X線回折により相の同定を行ったところ、SrTiO3単相になっていることが確認された。
【0060】
この実施例5より、複合酸化物粉末としてSrTiO3を製造する場合においても実施例1の場合と同様の効果が得られることが確認された。
【実施例6】
【0061】
(1)塩化ランタン七水和物とオキシ塩化ジルコニウム八水和物を1:1のモル比で調合し、水を加えて両者を溶解して透明な水溶液を得た。水溶液中のLa濃度とZr濃度はともに0.5mol/Lとした。
それから、この水溶液を常温で撹拌しながら、酒石酸を加えた。酒石酸の添加量は水溶液中のLaとZrのモル数の和の0.5倍とした。
【0062】
(2)酒石酸を加えた水溶液に対し、常温で攪拌を続けながら、アンモニア水(28%水溶液)を滴下することにより、pHを約10に調整し、沈殿粉を得た。
【0063】
(3)次に、得られた沈殿粉をろ過、洗浄し、乾燥させた後、所定の条件で仮焼することにより仮焼粉(複合酸化物粉末)(この実施例ではLa2Zr2O7粉末)を得た。
【0064】
(評価)
沈殿粉について、LaとZrの分散状態を、実施例1の場合と同様の方法で評価した。その結果、図12に示すように、LaとZrに濃度偏析はなく、均一な分散状態が得られていることが確認された。
【0065】
また、沈殿粉を800℃、3hの条件で仮焼して得た仮焼粉(複合酸化物粉末)について、X線回折により相の同定を行ったところ、La2Zr2O7単相になっていることが確認された。
【0066】
また、図13(a)、(b)に1300℃、3hで熱処理(仮焼)することにより得た仮焼粉(複合酸化物粉末)のSEM像を示す。この図13(a)、(b)より、仮焼粉(複合酸化物粉末)は、微小な1次粒子が緩やかに凝集した状態の粉末であることがわかる。また、凝集体の大きさも数μm程度になっていることがわかる。
【0067】
この実施例6より、複合酸化物粉末としてLa2Zr2O7を製造する場合においても実施例1の場合と同様の効果が得られることが確認された。
【実施例7】
【0068】
(1)素原料として
a)塩化バリウム二水和物、
b)塩化ストロンチウム六水和物、
c)塩化カルシウム二水和物、
d)塩化ランタン七水和物、
e)四塩化チタンの16%水溶液、
f)オキシ塩化ジルコニウム八水和物
を準備し、表2の組成の欄に示す組成となるように各素原料を調合し、水を加えて水溶液を作製した。なお、各水溶液は、金属イオンのモル数が合計1mol/Lになるようにした。
【0069】
【表2】
【0070】
そして、この水溶液を常温で撹拌しながら酒石酸を加えた。酒石酸の添加量は表2に記載の通りとした。なお、表2の酒石酸量の値は、水溶液中の金属イオンのモル数の和の何倍に相当するかを示す値である。
【0071】
(2)それから、酒石酸を加えた水溶液に対し、常温で攪拌を続けながら、アンモニア水(28%水溶液)を滴下することにより、pHを約10に調整し、沈殿粉を得た。
【0072】
(3)次に、得られた沈殿粉をろ過、洗浄し、乾燥させた後、所定の条件で仮焼することにより仮焼粉(表2の組成の欄に示す組成を有する各複合酸化物粉末)を得た。
【0073】
(評価)
洗浄、乾燥させた各沈殿粉について、各元素の分散状態を、実施例1の場合と同様の方法で評価した。その結果、各元素に濃度偏析はなく、均一な分散状態が得られていることが確認された。
【0074】
また、洗浄、乾燥させた各沈殿粉を800℃、3hの条件で仮焼して得た仮焼粉(複合酸化物粉末)について、X線回折により相の同定を行ったところ、いずれも目的相の単相になっていることが確認された。
【0075】
さらに、各仮焼粉(複合酸化物粉末)についてSEM観察を行った結果、微小な1次粒子からなる緩やかな凝集体になっていることが確認された。
【0076】
この実施例7より、表2に示すような種々の複合酸化物粉末を製造する場合においても実施例1の場合と同様の効果が得られることが確認された。
【実施例8】
【0077】
(1)塩化バリウム二水和物とオキシ塩化ジルコニウム八水和物を1:1のモル比で調合し、水を加えて両者を溶解して透明な水溶液を得た。水溶液中のBa濃度とZr濃度はともに0.5mol/Lとした。
この水溶液を常温で撹拌しながら酒石酸を加えた。なお、この実施例では、表3に示すように、酒石酸の添加量を、水溶液中のBaとZrのモル数の和の0.2〜3.0倍の範囲で変化させた。なお、表3の酒石酸量の値は、水溶液中の金属イオンのモル数の和の何倍に相当するかを示す値である。
【0078】
(2)それから、異なる割合で酒石酸を加えた各水溶液に対し、常温で攪拌を続けながら、アンモニア水(28%水溶液)を滴下することにより、pHを約9.5に調整し、沈殿粉を得た。
【0079】
(3)次に、得られた沈殿粉をろ過、洗浄し、乾燥させた後、1000℃、3hの条件で仮焼することにより仮焼粉(複合酸化物粉末)(この実施例ではBaZrO3粉末)を得た。
【0080】
(評価)
得られた仮焼粉(複合酸化物粉末)について、X線回折により相の同定を行った結果を表3に示す。
なお、表3の「結果(異相の有無)」の欄に○(無)と記した試料は、BaZrO3の単相であることが確認された試料であり、×(有)と記した試料は、異相が認められた試料である。
【0081】
【表3】
【0082】
表3より、酒石酸の添加量は、水溶液中の金属イオンのモル数の和の0.3〜2.0倍の範囲とすることが望ましいことがわかる。
すなわち、酒石酸の添加量が0.3倍より少ない場合には、Baイオンのろ液中への溶出が多くなり、異相としてZrO2が多く生成してしまう。一方、酒石酸の添加量が2.0倍よりも多い場合には、Zrイオンのろ液中への溶出が多くなり、異相としてBaCO3が多く生成してしまうことになる。
なお、この傾向は、BaZrO3系の場合に限らず、どの組成系の場合にも同様の傾向があることが確認されている。
【0083】
なお、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、酒石酸を含む原料水溶液の調製方法や成分濃度、沈殿粉(複合酸化物前駆体)を熱処理(仮焼)する際の条件(温度や時間)などに関し、発明の範囲内において、種々の応用、変形を加えることが可能である。
【技術分野】
【0001】
本発明は複合酸化物の製造方法に関し、詳しくは、セラミック電子部品用のセラミック原料として好適に用いることが可能な複合酸化物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、セラミック原料として用いられるBaTiO3、BaZrO3、SrTiO3などの複合酸化物を製造(合成)する方法としては、原料を高温で焼成(仮焼)して複合酸化物を合成する固相反応法が広く知られている。しかしながら、この方法の場合、高温での熱処理(焼成)工程を経て製造されるため、粒径が大きく、しかも不均一になりやすいという問題点がある。
【0003】
そこで、このような問題点を解決する方法として、以下のように、溶液中での化学反応により複合酸化物を合成する方法が提案されている。
【0004】
(1)そのうちの1つは、BaTiO3やSrTiO3などのセラミック原料粉末の製造方法に関するものである(特許文献1参照)。
この特許文献1の方法の場合、硝酸塩や塩化物を出発原料に用い、これらを水に溶かした水溶液にアルカリを加えることにより、まず、Ti、ZrなどのBサイト元素を水酸化物として沈殿させた後、シュウ酸、クエン酸、酒石酸などの有機酸を加えることにより、Ba、Sr、CaなどのAサイト元素を有機酸塩として沈殿させ、濾過、水洗、乾燥して得られる粉末を仮焼、粉砕することによりセラミック原料粉末を得るようにしている。
【0005】
(2)また、溶液中での化学反応により複合酸化物を合成する他の方法として、上記特許文献1の方法に類似する方法が提案されている(特許文献2参照)。この特許文献2の方法の場合、第1の槽にてTi、ZrなどのBサイト元素の水酸化物を沈殿させ、第2の槽にてBa、Sr、CaなどのAサイト元素の有機酸塩を沈殿させた後、第1の槽のスラリーと第2の槽のスラリーを混合し、濾過、水洗、乾燥して得られる粉末を仮焼、粉砕することによりセラミック原料粉末を得るようにしている。
【0006】
(3)溶液中での化学反応により複合酸化物を合成するさらに他の方法は、いわゆるシュウ酸法によりBaTiO3粉末を合成する方法に関するものであり、TiイオンとBaイオンを、シュウ酸バリウムチタニルという化合物として沈殿させた後、洗浄、濾過、仮焼の工程を経てBaTiO3を得るようにしている(非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特公平2−10089号公報
【特許文献2】特公平2−10091号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】マテリアルインテグレーション vol.21 No.7 (2008) pp86−91 「シュウ酸法によるチタン酸バリウムのナノパウダー」
【0009】
しかしながら、上記特許文献1の方法の場合、Bサイト元素を先に沈殿させた後にAサイト元素を沈殿させており、AサイトとBサイトの各成分が別々に沈殿することになるため、沈殿粉全体における各元素の分散性は必ずしも良好ではなく、均一性が不十分になりやすいという問題点がある。
【0010】
また、上記特許文献2の方法の場合も、上記特許文献1の場合と同様に、AサイトとBサイトの各成分を別々に沈殿させた後、両者を混合するようにしていることから、各元素の分散性、均一性は固相法と同程度にとどまり、必ずしも満足できるものではないという問題点がある。
【0011】
一方、引用文献3の方法の場合、AサイトとBサイトの各成分を1つの化合物(シュウ酸バリウムチタニル)として沈殿させるため、BaとTiの分散性は原子レベルで均一であるというメリットがある。
しかしながら、その化合物の組成でしか沈殿粉を得ることができず、組成の自由度が低いという問題点がある。
さらに沈殿粉は数十μm程度の凝集体であるため、仮焼後にこの凝集体骨格が残り、最終製品である複合酸化物(例えば、BaTiO3)に粗大粒子が残りやすいという問題点がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記課題を解決するものであり、組成の自由度が高く、目標とする組成を有し、微細で、かつ、各元素の均一分散性に優れた複合酸化物を効率よく製造することが可能な複合酸化物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するため、本発明の複合酸化物の製造方法は、
(a)Baの塩化物、Srの塩化物、Caの塩化物およびLaの塩化物からなる群より選ばれる少なくとも1種である物質Aと、Tiの塩化物およびZrの塩化物の少なくとも1種である物質Bと、酒石酸とを含む水溶液を調製する工程と、
(b)前記水溶液のpHをアルカリ側に調整することで、前記物質Aに由来するBa、Sr、CaおよびLaの少なくとも1種と、前記物質Bに由来するTiおよびZrの少なくとも1種とを含む複合酸化物前駆体を沈殿させる工程と、
(c)前記複合酸化物前駆体を熱処理して、Ba、Sr、CaおよびLaからなる群より選ばれる少なくとも1種と、TiおよびZrの少なくとも1種とを主成分とする複合酸化物を合成する工程と
を具備することを特徴としている。
【0014】
また、本発明の複合酸化物の製造方法においては、前記酒石酸の添加量を、前記(a)の工程における前記水溶液に含まれる金属イオンのモル量の和の0.3〜2.0倍の範囲とすることが望ましい。
【0015】
また、本発明の複合酸化物の製造方法においては、前記水溶液のpHをアルカリ側に調整する方法として、水酸化アンモニウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウムからなる群より選ばれる少なくとも1種を前記水溶液に添加する方法を用いることが望ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明の複合酸化物の製造方法は、Baの塩化物、Srの塩化物、Caの塩化物およびLaの塩化物からなる群より選ばれる少なくとも1種である物質Aと、Tiの塩化物およびZrの塩化物の少なくとも1種である物質Bと、酒石酸とを含む水溶液のpHをアルカリ側に調整することで、物質Aに由来するBa、Sr、CaおよびLaの少なくとも1種と、物質Bに由来するTiおよびZrの少なくとも1種とを含む複合酸化物前駆体を沈殿させ、この複合酸化物前駆体を熱処理して、Ba、Sr、CaおよびLaからなる群より選ばれる少なくとも1種と、TiおよびZrの少なくとも1種とを主成分とする複合酸化物を合成するようにしているので、組成の自由度が高く、目標とする組成を有し、微細で、かつ、各元素の均一分散性に優れた複合酸化物を効率よく製造することが可能になる。
【0017】
すなわち、本発明においては、上記の物質Aと物質Bが溶解した水溶液のpHをアルカリ側に調整することで、複合酸化物前駆体を沈殿させるようにしているので、各元素の均一分散性に優れた沈殿粉を得ることができる。
したがって、得られた複合酸化物前駆体を、例えば700〜800℃という比較的低い温度で熱処理(仮焼)することにより、目標とする組成の複合酸化物を合成することができる。
【0018】
また、上記の熱処理を行うことにより得られる複合酸化物粉末(仮焼粉)は、100nm程度の微小な1次粒子からなる緩い凝集体であることから、仮焼後に解砕することにより、微細で粒径のそろった複合酸化物を得ることが可能になる。
【0019】
また、本発明によれば、仕込み組成通りの沈殿粉(複合酸化物前駆体)が得られ、それを熱処理(仮焼)することにより、目標とする組成を有する複合酸化物を効率よく得ることができる。したがって本発明は、元素の均一分散性に優れていると同時に、組成の自由度が大きい点において、極めて有意義であるということができる。
【0020】
また、本発明の複合酸化物の製造方法において、酒石酸の添加量を、物質Aと物質Bと酒石酸とを含有する水溶液に含まれる金属イオンのモル量の和の0.3〜2.0倍(すなわち、モル比で0.3〜2.0倍)の範囲とすることにより、水溶液中の金属イオンのほとんどを沈殿物として回収することができるので、仕込み組成通りの沈殿粉(複合酸化物前駆体)を得ることが可能になり、また沈殿物中の金属イオンの分散性が高まるので、本願発明をより実効あらしめることができる。
【0021】
また、本発明の複合酸化物の製造方法においては、水溶液のpHをアルカリ側に調整する方法として、水酸化アンモニウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウムからなる群より選ばれる少なくとも1種を前記水溶液に添加する方法を採用することにより、仕込み組成通りの沈殿粉(複合酸化物前駆体)を確実に沈殿させることが可能になる。
なお、本願発明においては、上述のように、アルカリを添加する方法に限らず、例えば、粉末の状態ではアルカリに該当しない尿素粉末を上記水溶液に添加して、下記の式のように加水分解させ、アルカリ(NH3)を発生させることにより、水溶液のpHをアルカリ側に調整するように構成することも可能である。
(NH2)2CO+H2O → 2NH3+CO2
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】実施例1において得た沈殿粉(複合酸化物前駆体)のSEM像を示す図であり、(a)は5000倍、(b)は30000倍のものである。
【図2】実施例1において得た沈殿粉のWDX元素マッピング分析の結果を示す図である。
【図3】実施例1において沈殿粉を仮焼して得た複合酸化物粉末のX線回折パターンを示す図である。
【図4】実施例1において沈殿粉を仮焼して得た複合酸化物粉末(BaTiO3粉末)のSEM像を示す図であり、(a)は5000倍、(b)は30000倍のものである。
【図5】比較例1において、バリウム原料として炭酸バリウムを用いて得た沈殿粉のWDX元素マッピング分析の結果を示す図である。
【図6】比較例1において、バリウム原料として水酸化バリウムを用いて得た沈殿粉のWDX元素マッピング分析の結果を示す図である。
【図7】塩化バリウム、炭酸バリウム、水酸化バリウムの各種バリウム塩を用いて作製したBaとTiを含む沈殿粉のTG曲線を示す図である。
【図8】実施例3において沈殿粉を仮焼して得た複合酸化物粉末(BaTiO3粉末)のSEM像を示す図であり、(a)は5000倍、(b)は30000倍のものである。
【図9】実施例4において得た沈殿粉のWDX元素マッピング分析の結果を示す図である。
【図10】実施例4において沈殿粉を仮焼することにより得た複合酸化物粉末(BaZrO3粉末)のX線回折パターンを示す図である。
【図11】実施例4において沈殿粉を仮焼することにより得た複合酸化物粉末のSEM像を示す図であり、(a)は5000倍、(b)は30000倍のものである。
【図12】実施例6において得た沈殿粉のWDX元素マッピング分析の結果を示す図である。
【図13】実施例6において沈殿粉を仮焼することにより得た複合酸化物粉末(La2Zr2O7粉末)のSEM像を示す図であり、(a)は3000倍、(b)は30000倍のものである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に本発明の実施例を示して、本発明の特徴とするところをさらに詳しく説明する。
【実施例1】
【0024】
(1)四塩化チタンの16%水溶液に水を加え、Ti濃度0.5mol/L(リットル)の水溶液を作製した。そして、この水溶液に塩化バリウム二水和物をBa濃度が0.5mol/Lになるように加え、透明な水溶液を得た。
次に、この水溶液に酒石酸を、水溶液中のBaとTiのモル数の和の0.5倍になるように加えて、Baの塩化物と、Tiの塩化物と、酒石酸とが溶解した水溶液を調製した。
【0025】
(2)それから、この水溶液にアンモニア水(水酸化アンモニウム28%水溶液)を滴下して、pHを約10に調整し、複合酸化物前駆体である沈殿粉を得た。
なお、上記(1)および(2)の操作は、いずれも常温で、撹拌しながら行った。
【0026】
(3)次に、得られた沈殿粉をろ過、洗浄し、乾燥させた後、所定の条件(温度および時間)で仮焼することにより、仮焼粉(複合酸化物粉末)(この実施例ではBaTiO3粉末)を得た。
【0027】
(評価)
上記(2)の工程で得た沈殿粉を走査型電子顕微鏡により観察した。沈殿粉のSEM像を図1(a)、(b)に示す。図1(a)、(b)より、1次粒子の粒径は数十nm程度であること、1次粒子が集まった凝集体は粒径が数μm程度になっていることがわかる。
【0028】
また、上記(2)の工程で得た沈殿粉を用いて成形体を作製し、その表面をWDX(波長分散型X線分析装置)にて元素のマッピング分析を行い、BaならびにTiの分散状態を評価した。その結果を図2に示す。
図2より、BaおよびTiのいずれについても濃度偏析は認められず、均一な分散状態が得られていることがわかる。
【0029】
また、上記(2)の工程で得た沈殿粉と、上記(3)の工程で、500〜700℃で熱処理(仮焼)することにより得た仮焼粉(複合酸化物粉末)のX線回折パターンを図3に示す。なお、熱処理(仮焼)はいずれも最高温度(図3の縦軸の温度)で1hキープすることにより行った。
【0030】
図3より、仮焼が行われていない沈殿粉(複合酸化物前駆体)は非晶質であることがわかる。また、熱処理(仮焼)温度500℃および600℃でも十分に単一相化していないことがわかる。
これに対し、熱処理(仮焼)温度を700℃とした場合には、BaTiO3の単一相が得られていることがわかる。
【0031】
また、図4(a)、(b)に、900℃、3hの条件で熱処理(仮焼)した仮焼粉(複合酸化物粉末)のSEM像を示す。図4(a)、(b)より、仮焼粉(複合酸化物粉末)は100nm程度の1次粒子が緩やかに凝集した状態の粉末であることがわかる。なお、凝集体の大きさは、上述の図1(a)、(b)に示した沈殿粉の場合と同様、数μm程度である。
【0032】
<比較例>
実施例1の塩化バリウム二水和物の代わりに、炭酸バリウムおよび水酸化バリウム八水和物を用いた以外は、実施例1と同じ方法で沈殿粉を得た。
【0033】
そして、炭酸バリウムを用いて得た沈殿粉と、水酸化バリウム八水和物を用いて得た沈殿粉のそれぞれについて、WDXにて元素マッピング分析を行った。その結果を図5および図6に示す。図5および図6に示すように、いずれの沈殿粉についても元素の偏析が認められた。
【0034】
また、塩化バリウム、炭酸バリウム、水酸化バリウムの各種バリウム塩を用いて得た沈殿粉のTG曲線を図7に示す。
【0035】
図7より、塩化バリウムを用いた場合は、700℃で重量減少が終了しているのに対し、炭酸バリウムと水酸化バリウムを用いた場合には、900℃まで重量減少が続いていることがわかる。実際にバリウム原料として、炭酸バリウムと水酸化バリウムを用いた沈殿粉を種々の温度で仮焼したところ、BaTiO3の単一相が得られるのはいずれも900℃以上の温度であることが確認された。
【0036】
この実施例1より、本発明の製造方法によれば、BaおよびTiのいずれについても濃度偏析は認められず、均一に分散した沈殿粉が得られることが確認された。
また、比較的低い温度で熱処理(仮焼)した場合にも、目的相の単一相が得られることが確認された。
【0037】
さらに、沈殿粉として、微粒な1次粒子が緩やかに凝集した沈殿粉が得られ、その結果、複合酸化物粉末(仮焼粉)としても、緩く凝集した複合酸化物粉末(仮焼粉)が得られ、仮焼後の解砕も容易であることが確認された。また、凝集粒子径は数μmであり、比較的小さいことも確認された。
【実施例2】
【0038】
Ba/Ti比を0.95〜1.05の範囲で変化させたこと以外は、実施例1の場合と同じ方法で、複合酸化物前駆体である沈殿粉を得た。
それから、得られた沈殿粉を900℃、3hの条件で仮焼して仮焼粉(複合酸化物粉末)を得た。そして、この仮焼粉について、XRF(蛍光X線分析法)により組成分析を行った。仕込み組成と、XRFによる分析で求めた組成の関係を表1に示す。
【0039】
【表1】
【0040】
表1より、仕込み組成とほぼ同じ組成の仮焼粉(複合酸化物粉末)が得られていることがわかる。
【0041】
この実施例2より、本発明の方法によれば、目標組成が化学量論比から大きく外れている場合にも、目標組成の複合酸化物粉末を製造することが可能で、組成の自由度が大きいことが確認された。
【実施例3】
【0042】
上記実施例1では、アンモニア水を添加して、複合酸化物の前駆体である沈殿粉を析出させるようにしたが、この実施例3では、アンモニア水の代わりに水酸化ナトリウム水溶液(50%水溶液)を使用して沈殿粉を作製するとともに、沈殿粉を所定の条件で仮焼して複合酸化物粉末(BaTiO3粉末)を作製した。
なお、この実施例3では、アンモニア水の代わりに水酸化ナトリウム水溶液を用いたことを除いて、実施例1の場合と同じ方法、同じ条件で沈殿粉および複合酸化物粉末を作製した。
【0043】
この実施例3で作製した沈殿粉について、BaとTiの分散状態を実施例1の場合と同様の方法で評価したところ、BaおよびTiのいずれについても濃度偏析は認められず、均一な分散状態になっていることが確認された。
【0044】
また、沈殿粉を900℃、3hの条件で仮焼することにより得た仮焼粉(複合酸化物粉末)について、X線回折により相の同定を行ったところ、BaTiO3単相になっていることが確認された。
【0045】
また、仮焼粉(複合酸化物粉末)のSEM像は、図8(a)、(b)に示す通りであり、アンモニア水を用いた実施例1の場合と同様、微小な1次粒子が緩やかな凝集体を形成していることが確認された。
【0046】
この実施例3より、アンモニア水の代わりに水酸化ナトリウムを用いても同様の効果が得られることが確認された。
【実施例4】
【0047】
(1)塩化バリウム二水和物とオキシ塩化ジルコニウム八水和物を1:1のモル比で調合し、水を加えて両者を溶解して透明な水溶液を得た。水溶液中のBa濃度とZr濃度はともに0.5mol/Lとした。
なお、本発明においては、ジルコニウムの塩化物として、安定性などの見地からオキシ塩化物(ZrOCl2・8H2O)を用いることが望ましい。
それから、常温で撹拌しながら、この水溶液に酒石酸を加えた。酒石酸の添加量は、水溶液中のBaとZrのモル数の和の0.7倍とした。
【0048】
(2)それから、酒石酸を加えた水溶液に対し、常温で攪拌を続けながら、アンモニア水(28%水溶液)を滴下することにより、pHを約9.5に調整し、沈殿粉を得た。
【0049】
(3)次に、得られた沈殿粉をろ過、洗浄し、乾燥させた後、所定の条件で仮焼して仮焼粉(複合酸化物粉末)(この実施例ではBaZrO3粉末)を得た。
【0050】
(評価)
沈殿粉について、BaとZrの分散状態を、実施例1の場合と同様の方法で評価した。その結果、図9に示すように、BaとZrに濃度偏析はなく、均一な分散状態が得られていることが確認された。
【0051】
また、上記(2)の工程で得た沈殿粉ならびに、上記(3)の工程で、500〜700℃で熱処理(仮焼)することにより得た仮焼粉(複合酸化物粉末)のX線回折パターンを図10に示す。なお、熱処理(仮焼)はいずれも最高温度で1hキープすることにより行った。
【0052】
図10より、沈殿粉は非晶質であることがわかる。また、熱処理(仮焼)温度700℃でBaZrO3の単一相が得られていることがわかる。
【0053】
また、図11(a)、(b)に800℃、3hで熱処理(仮焼)することにより得た仮焼粉(複合酸化物粉末)のSEM像を示す。図11(a)、(b)より、この仮焼粉(複合酸化物粉末)は、微小な1次粒子が緩やかに凝集した状態の粉末であることがわかる。
【0054】
この実施例4より、複合酸化物粉末としてBaZrO3を製造する場合においても実施例1の場合と同様の効果が得られることが確認された。
【実施例5】
【0055】
(1)四塩化チタンの16%水溶液に水を加え、Ti濃度1.0mol/Lの水溶液を作製した。その後、塩化ストロンチウム六水和物をSr濃度が1.0mol/Lになるように加え、透明な水溶液を得た。
それから、常温で撹拌しながら、この水溶液に酒石酸を加えた。酒石酸の添加量は、水溶液中のSrとTiのモル数の和の0.5倍とした。
【0056】
(2)それから、酒石酸を加えた水溶液に対し、常温で攪拌を続けながら、水酸化ナトリウム水溶液(50%水溶液)を滴下することにより、pHを約13に調整し、沈殿粉を得た。
【0057】
(3)次に、得られた沈殿粉をろ過、洗浄し、乾燥させた後、所定の条件で仮焼することにより仮焼粉(複合酸化物粉末)(この実施例ではSrTiO3粉末)を得た。
【0058】
(評価)
沈殿粉について、SrとTiの分散状態を、実施例1の場合と同様の方法で評価した。その結果、SrとTiに濃度偏析はなく、均一な分散状態が得られていることが確認された。
【0059】
また、沈殿粉を800℃、3hの条件で仮焼して得た仮焼粉(複合酸化物粉末)について、X線回折により相の同定を行ったところ、SrTiO3単相になっていることが確認された。
【0060】
この実施例5より、複合酸化物粉末としてSrTiO3を製造する場合においても実施例1の場合と同様の効果が得られることが確認された。
【実施例6】
【0061】
(1)塩化ランタン七水和物とオキシ塩化ジルコニウム八水和物を1:1のモル比で調合し、水を加えて両者を溶解して透明な水溶液を得た。水溶液中のLa濃度とZr濃度はともに0.5mol/Lとした。
それから、この水溶液を常温で撹拌しながら、酒石酸を加えた。酒石酸の添加量は水溶液中のLaとZrのモル数の和の0.5倍とした。
【0062】
(2)酒石酸を加えた水溶液に対し、常温で攪拌を続けながら、アンモニア水(28%水溶液)を滴下することにより、pHを約10に調整し、沈殿粉を得た。
【0063】
(3)次に、得られた沈殿粉をろ過、洗浄し、乾燥させた後、所定の条件で仮焼することにより仮焼粉(複合酸化物粉末)(この実施例ではLa2Zr2O7粉末)を得た。
【0064】
(評価)
沈殿粉について、LaとZrの分散状態を、実施例1の場合と同様の方法で評価した。その結果、図12に示すように、LaとZrに濃度偏析はなく、均一な分散状態が得られていることが確認された。
【0065】
また、沈殿粉を800℃、3hの条件で仮焼して得た仮焼粉(複合酸化物粉末)について、X線回折により相の同定を行ったところ、La2Zr2O7単相になっていることが確認された。
【0066】
また、図13(a)、(b)に1300℃、3hで熱処理(仮焼)することにより得た仮焼粉(複合酸化物粉末)のSEM像を示す。この図13(a)、(b)より、仮焼粉(複合酸化物粉末)は、微小な1次粒子が緩やかに凝集した状態の粉末であることがわかる。また、凝集体の大きさも数μm程度になっていることがわかる。
【0067】
この実施例6より、複合酸化物粉末としてLa2Zr2O7を製造する場合においても実施例1の場合と同様の効果が得られることが確認された。
【実施例7】
【0068】
(1)素原料として
a)塩化バリウム二水和物、
b)塩化ストロンチウム六水和物、
c)塩化カルシウム二水和物、
d)塩化ランタン七水和物、
e)四塩化チタンの16%水溶液、
f)オキシ塩化ジルコニウム八水和物
を準備し、表2の組成の欄に示す組成となるように各素原料を調合し、水を加えて水溶液を作製した。なお、各水溶液は、金属イオンのモル数が合計1mol/Lになるようにした。
【0069】
【表2】
【0070】
そして、この水溶液を常温で撹拌しながら酒石酸を加えた。酒石酸の添加量は表2に記載の通りとした。なお、表2の酒石酸量の値は、水溶液中の金属イオンのモル数の和の何倍に相当するかを示す値である。
【0071】
(2)それから、酒石酸を加えた水溶液に対し、常温で攪拌を続けながら、アンモニア水(28%水溶液)を滴下することにより、pHを約10に調整し、沈殿粉を得た。
【0072】
(3)次に、得られた沈殿粉をろ過、洗浄し、乾燥させた後、所定の条件で仮焼することにより仮焼粉(表2の組成の欄に示す組成を有する各複合酸化物粉末)を得た。
【0073】
(評価)
洗浄、乾燥させた各沈殿粉について、各元素の分散状態を、実施例1の場合と同様の方法で評価した。その結果、各元素に濃度偏析はなく、均一な分散状態が得られていることが確認された。
【0074】
また、洗浄、乾燥させた各沈殿粉を800℃、3hの条件で仮焼して得た仮焼粉(複合酸化物粉末)について、X線回折により相の同定を行ったところ、いずれも目的相の単相になっていることが確認された。
【0075】
さらに、各仮焼粉(複合酸化物粉末)についてSEM観察を行った結果、微小な1次粒子からなる緩やかな凝集体になっていることが確認された。
【0076】
この実施例7より、表2に示すような種々の複合酸化物粉末を製造する場合においても実施例1の場合と同様の効果が得られることが確認された。
【実施例8】
【0077】
(1)塩化バリウム二水和物とオキシ塩化ジルコニウム八水和物を1:1のモル比で調合し、水を加えて両者を溶解して透明な水溶液を得た。水溶液中のBa濃度とZr濃度はともに0.5mol/Lとした。
この水溶液を常温で撹拌しながら酒石酸を加えた。なお、この実施例では、表3に示すように、酒石酸の添加量を、水溶液中のBaとZrのモル数の和の0.2〜3.0倍の範囲で変化させた。なお、表3の酒石酸量の値は、水溶液中の金属イオンのモル数の和の何倍に相当するかを示す値である。
【0078】
(2)それから、異なる割合で酒石酸を加えた各水溶液に対し、常温で攪拌を続けながら、アンモニア水(28%水溶液)を滴下することにより、pHを約9.5に調整し、沈殿粉を得た。
【0079】
(3)次に、得られた沈殿粉をろ過、洗浄し、乾燥させた後、1000℃、3hの条件で仮焼することにより仮焼粉(複合酸化物粉末)(この実施例ではBaZrO3粉末)を得た。
【0080】
(評価)
得られた仮焼粉(複合酸化物粉末)について、X線回折により相の同定を行った結果を表3に示す。
なお、表3の「結果(異相の有無)」の欄に○(無)と記した試料は、BaZrO3の単相であることが確認された試料であり、×(有)と記した試料は、異相が認められた試料である。
【0081】
【表3】
【0082】
表3より、酒石酸の添加量は、水溶液中の金属イオンのモル数の和の0.3〜2.0倍の範囲とすることが望ましいことがわかる。
すなわち、酒石酸の添加量が0.3倍より少ない場合には、Baイオンのろ液中への溶出が多くなり、異相としてZrO2が多く生成してしまう。一方、酒石酸の添加量が2.0倍よりも多い場合には、Zrイオンのろ液中への溶出が多くなり、異相としてBaCO3が多く生成してしまうことになる。
なお、この傾向は、BaZrO3系の場合に限らず、どの組成系の場合にも同様の傾向があることが確認されている。
【0083】
なお、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、酒石酸を含む原料水溶液の調製方法や成分濃度、沈殿粉(複合酸化物前駆体)を熱処理(仮焼)する際の条件(温度や時間)などに関し、発明の範囲内において、種々の応用、変形を加えることが可能である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)Baの塩化物、Srの塩化物、Caの塩化物およびLaの塩化物からなる群より選ばれる少なくとも1種である物質Aと、Tiの塩化物およびZrの塩化物の少なくとも1種である物質Bと、酒石酸とを含む水溶液を調製する工程と、
(b)前記水溶液のpHをアルカリ側に調整することで、前記物質Aに由来するBa、Sr、CaおよびLaの少なくとも1種と、前記物質Bに由来するTiおよびZrの少なくとも1種とを含む複合酸化物前駆体を沈殿させる工程と、
(c)前記複合酸化物前駆体を熱処理して、Ba、Sr、CaおよびLaからなる群より選ばれる少なくとも1種と、TiおよびZrの少なくとも1種とを主成分とする複合酸化物を合成する工程と
を具備することを特徴とする複合酸化物の製造方法。
【請求項2】
前記酒石酸の添加量を、前記(a)の工程における前記水溶液に含まれる金属イオンのモル量の和の0.3〜2.0倍の範囲とすることを特徴とする請求項1記載の複合酸化物の製造方法。
【請求項3】
前記水溶液のpHをアルカリ側に調整する方法が、水酸化アンモニウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウムからなる群より選ばれる少なくとも1種を前記水溶液に添加する方法であることを特徴とする請求項1または2記載の複合酸化物の製造方法。
【請求項1】
(a)Baの塩化物、Srの塩化物、Caの塩化物およびLaの塩化物からなる群より選ばれる少なくとも1種である物質Aと、Tiの塩化物およびZrの塩化物の少なくとも1種である物質Bと、酒石酸とを含む水溶液を調製する工程と、
(b)前記水溶液のpHをアルカリ側に調整することで、前記物質Aに由来するBa、Sr、CaおよびLaの少なくとも1種と、前記物質Bに由来するTiおよびZrの少なくとも1種とを含む複合酸化物前駆体を沈殿させる工程と、
(c)前記複合酸化物前駆体を熱処理して、Ba、Sr、CaおよびLaからなる群より選ばれる少なくとも1種と、TiおよびZrの少なくとも1種とを主成分とする複合酸化物を合成する工程と
を具備することを特徴とする複合酸化物の製造方法。
【請求項2】
前記酒石酸の添加量を、前記(a)の工程における前記水溶液に含まれる金属イオンのモル量の和の0.3〜2.0倍の範囲とすることを特徴とする請求項1記載の複合酸化物の製造方法。
【請求項3】
前記水溶液のpHをアルカリ側に調整する方法が、水酸化アンモニウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウムからなる群より選ばれる少なくとも1種を前記水溶液に添加する方法であることを特徴とする請求項1または2記載の複合酸化物の製造方法。
【図3】
【図7】
【図10】
【図1】
【図2】
【図4】
【図5】
【図6】
【図8】
【図9】
【図11】
【図12】
【図13】
【図7】
【図10】
【図1】
【図2】
【図4】
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【図8】
【図9】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2011−246297(P2011−246297A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−119285(P2010−119285)
【出願日】平成22年5月25日(2010.5.25)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年5月25日(2010.5.25)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】
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