説明

複数のカセットにおける独立したエレクトロトランスファのための機器

エレクトロトランスファ処理が、エレクトロブロッティング・カセットを受容し、かつ、一体の電源と、コントローラと、カセットの対応の電気接点と係合する、ハウジング内の電気接点を通して使用者が複数のカセットの各々を個々に監視及び制御するディスプレイとを有する、機器において実施される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2009年12月11日に出願された米国仮出願第61/285,661号の優先権を主張する。これら双方の仮出願の内容が、ここで参照により組み込まれるものである。
【0002】
本発明はゲル電気泳動の分野に関し、特に、種を検知、識別、かつ計量できるシート状支持マトリックスに種を分離させたスラブゲルから、電気泳動的に分離された種を搬送することに関するものである。
【背景技術】
【0003】
スラブゲル内で電気泳動的に分離されたタンパク質、核酸、その他の生物学的種を識別、定量化するにあたっては、ゲル内で実行することよりも簡単であるため、しばしばニトロセルロース、ナイロン、ポリビニル・ジフルオリド、或いは同様の材料からなる薄膜に転送される。一般的な転送技術としては電気ブロッティング法がある。この方法では、ゲルと薄膜の平面が直接接触した状態に置かれ、それらに対し横断する方向に電流が流され、これによりゲル内で種を駆り集めるのと同様な方法で種が転送されるようになっている。種がDNAフラグメントの場合、この転送は、その発案者(英国の生物学者エドウィン・M・サザン)の名をとってサザンブロットと名付けられている。これに対する形で、RNAフラグメントの転送はノーザンブロッティング、タンパク質やポリペプチドの転送はウェスタンブロットと夫々名付けられている。一旦転送が生じたならば、薄膜上の種は、種そのものに適切な方法によって分析される。例えば、サザン及びノーザン・ブロット分析では、薄膜上の種をハイブリダイゼーションプローブを使って処理し、その後、蛍光性か発色性染料を用いて種に標識が付けられる。又、ウェスタンブロットでは、種は抗体処理され、その後は従来からの標識法を用いて抗体検出が行われるようになっている。
【0004】
サザンタイプ、ノーザンタイプ及びウエスタンタイプのエレクトロ・ブロッティングは全て、湿式、乾式、セミドライ式のいずれで実施することができる。湿式のブロッティングでは、ゲルと薄膜は互い違いに積層されてスタックを成し、同スタックは、壁上にワイヤ電極又は平板電極を据え付けたタンク中のトランスファ緩衝液に浸される。その後、電極は励起され、溶質をゲルから薄膜まで移動させる。セミドライ・ブロッティングでは、トランスファ緩衝液に浸したフィルタペーパーが使用され、スタックはその上部と下部にフィルタペーパーを配し、両フィルタペーパー間にゲルと薄膜を配置して“ブロッティングサンドイッチ”を構成している。次いで、電極が、湿ったフィルタペーパーの露出面に直接接触するように配置される。乾式エレクトロ・ブロッティングではゲルに存在するもの以外の液体緩衝剤を使用しない。湿式、乾式、セミドライのエレクトロ・ブロッティング、その関連物質及び機器に関する記述は、2006年12月7日に公開された米国特許出願公開第2006/0272946号(特許文献1)、2006年12月14日に公開されたマルガリートら(Invitrogen)の米国特許出願公開第2006/0278531号(特許文献2)、2009年1月29日に公開された米国特許出願公開第2009/0026079号(特許文献3)、1989年6月20日発行のリトルハーレス(アメリカンバイオネティックス)の米国特許第4,840,714号(特許文献4)、1989年12月26日発行のダイソンら(アマシャム・インターナショナル)の米国特許第4,889,606号(特許文献5)、1991年5月7日発行のシュエット(ライフ・テクノロジーズ)の米国特許第5,013,420号(特許文献6)、1994年10月18日発行のチャンら(アボット・ラボラトリーズ)の米国特許第5,356,772号(特許文献7)、2005年8月29日発行のカマチョ(ホーファ科学機器)の米国特許第5,445,723号(特許文献8)、1996年1月9日発行のボケット(ベルタンアンドシー)の米国特許第5,482,613号(特許文献9)、及び2003年7月15日発行のチェン(ウエルテックエンタープライズ会社)米国特許第6,592,734号(特許文献10)で見られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許出願公開第2006/0272946号
【特許文献2】米国特許出願公開第2006/0278531号
【特許文献3】米国特許出願公開第2009/0026079号
【特許文献4】米国特許第4,840,714号
【特許文献5】米国特許第4,889,606号
【特許文献6】米国特許第5,013,420号
【特許文献7】米国特許第5,356,772号
【特許文献8】米国特許第5,445,723号
【特許文献9】米国特許第5,482,613号
【特許文献10】米国特許第6,592,734号
【発明の概要】
【0006】
本発明は単一のエレクトロトランスファ・カセット又は2つ以上のカセットにおいて、同時かつ個別にエレクトロトランスファを実行することができる機器に関する。用語としての“エレクトロトランスファ・カセット”はここでは、電極を備えかつゲルや他の媒体を収納可能な任意の容器を意味するものとして使用され、ゲルや他の媒体は、マイクロタイタープレート・ウエルのような二次元配列+薄膜、或いは他の二次元マトリックス内で分配される化学か生物学的種を含み、そのような配列又はマトリックスに対しては電極によって生成された電界の影響によって種が転送されることになる。その機器は、スラブ・ゲルからエレクトロ・ブロッティングを実行するように設計されたカセットに特に適している。その機器は又、カセット内部にある電極に電気的接続された外面に電気接点を有するカセットに適している。機器は電源を備え、その電源を各カセットに接続するバッテリ接触技術を用いることで、機器がカセットの全容量と共に使用されるか、同機器の全容量よりも少ない唯1つのカセット又は多数のカセットと共に使用されるのを可能にし、機器内にあるカセットに必要な電力だけを利用している。バッテリスタイルの電気接点は機器の内部に取り付けられ、機器が空になったり、空きスペースができた時でさえもユーザーの手が届かないようなっており、電流に対しユーザーが不注意に露出するのを回避している。機器の接点とカセットの接続は単純に機器の中にカセットを挿入することで達成され、発明の実施形態によっては機器は、カセットを取り除いた時、個々のカセット用電気接点への電力供給をブロックする自動リレーを備える。好ましい設計として、機器は垂直方向に積み重ねた状態で複数カセットを保持することにより、機器に対し、最小限のベンチスペースを消費するような小さな占有面積を提供する。機器の更なる特徴部分は、以下に続く説明と添付図面から明白となろう。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】2つのカセットを収納する本発明による機器の斜視図である。
【図2】2つのカセットの内、一方を完全に挿入し、他方を部分的に挿入させた状態の図1の機器の斜視図である。
【図3】図1の機器の断面図である。
【図4】図1の機器の内部にある1組の電気相互接続の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
説明に役立つ例としてのエレクトロブロッティング・カセットと共に、本発明の機器と共に使用可能なエレクトロブロッティング・カセットは、共同所有の、2009年12月10日に出願された“電気接点と回転ロック機構を一体化したエレクトロブロッティング・カセット”(発明者:M. Latham)というタイトルの米国暫定特許出願第61/285,277号、及び2010年8月26日公開の“手動解除可能な調整可能な間隔の電極を備えたエレクトロブロッティング・カセット”(発明者:M. Latham)という発明の名称の米国付与前特許公開第2010−0213064号に記載されている。
【0009】
図1及び図2に示された機器11は、垂直方向に積み重ねた2つのカセットを保持する。双方共に、機器の前面にあるスロット状開口部を介するか、或いは機器の内壁に沿って異なる高さのガイドレールを伴った単一の開口部を介したスライド挿入によって、個々に挿入される。図2の下カセットは、デモンストレーションのためその一部が挿入された形で示されている。本発明の範囲内に含まれる機器は、任意数のカセットを収納するように構成することができ、2つ、3つ、4つ、5つ又は6つのカセットを収納する機器がおそらく最も一般的なものとなるであろう。受容スロット又は受容位置は図示するように垂直方向に配置してもよく、又水平方向でも、或いは縦・横列の2次元配列を成すように配置しても良い。機器は全てのスロットや位置をカセットで満たした状態で使用可能であり、又、1つまたはそれ以上のスロットや位置が空き、使用してない状態で使用することも可能である。電子機器は個々の位置と、これら位置を占めるカセットに対し夫々独立した制御を可能にするように設計される。
【0010】
機器の前面には、タイミング、電圧、電流、及び一般的には運転パラメータ、及び機器故障診断法によって検知された挿入カセットの数を示すインジケータのような任意の追加パラメータを含み、各カセットのエレクトロブロッティング処理の状態を示すディスプレイ14が設けられる。そのディスプレイは、個々のカセットのためのプログラミング制御を組み入れたタッチスクリーンであっても良い。或いは又、そのプログラミング制御を、ディスプレイと機器ハウジングの隣接面を覆うメンブレン・キーパッドか、或いはハウジングそれ自身に組み込まれたキーパッドに組み入れることも可能である。
【0011】
図3は機器ハウジング21の断面を示しており、ここでは図2に示すように上カセット12は完全に挿入され、下カセット13は部分挿入された状態にある。ハウジングの内部に据え付けられるのがプリント回路基板22と電源23である。電源23は、万能入力部と30Vの出力部を備えたもののような一般的に市販されたコンポーネントであっても良い。DC出力は、各カセットへの電圧を制御する、基板22上の増幅器へと導かれる。基板上の増幅器と他の構成部品は、各カセットスロットに付き1個づつ設けられる、多数の独立した電気チャンネルを構成することが好ましい。ハウジング(ファン用取り付け枠のみ図示)の後壁に据え付けられるファン24は電子部品を冷却する。本実施形態における電源23と基板22は、機器の小さい設置面積と、それによる逆のベンチスペースを保つ積み重ね配置構造において、上カセットスロットの上部に位置決めされる。
【0012】
図4は、機器ハウジングの後壁の内面部分の拡大図である。この壁面に取り付けられるのが、例えばスチールのような磁気応答性材料からなる1組のスラッグである。スラッグは、カセットが機器内に挿入された際に各カセットの後部にある磁石と一直線上に並び、スラッグと磁石は、挿入されたカセットを定位置に固定する働きを持つ。カセットを挿入、又は除去した上での個々のカセットスロット用電子機器の起動を制御するため、リードリレーも又、ハウジングのこれらスラッグの領域に組み込まれ、カセットで占有されない各位置における電気接点への電力供給を阻止する。カセット挿入によって起動しかつカセット除去によって作動停止可能な、任意のリレーを使用することができる。
【0013】
また、図4で見えるものは、カセットが挿入された際に、各カセットの後部にある電気接点に接触することによりカセットに電圧を供給する電気接点33,34,35,36である。使用可能な多くのタイプの接点の中で、例はバッテリスタイルの接点であって、即ち当該技術では“ポゴピン”として公知のバネ仕掛けの接点である。図示された実施形態では、カセットには、各電極に対して2つの電気接点が含まれ、中央の2本のピン34、35がカセット上の単一のアノード接点と係合する一方で、外側の2本のピン33、36がカセット上でアノード接点の側方に位置する2つのカソード接点と係合することになる。複数の接点を過剰に設けることは接続の信頼性をより高める上で好ましいが、各電極に対し1個の接点でも充分であろう。これらのピンの数、位置は、カセット上の接点の数や空間配置の如何なる変形に対応して多様なものとなるであろう。ピンは、カセットに対しストッパとして作用すると共にカセット後端面とハウジング後壁との間の接触を防止する剛性スリーブ41,42,43,44の内側に据え付けられる。スチールのスラッグを取り囲む隆起ボス45、46は同様な機能を果たす。スロット内に入るカセットをガイドするために、ハウジングは又、カセットスロットの側壁の内面に、カセットの側端上の突起部と嵌合する水平溝を備えても良く、またその逆のパターンで前者に突起部、後者に水平溝を設けるようにしても良い。溝により、カセット用として個々のスロットの必要性を排除することができ、その代わりに開口部内に複数の高さを以て溝を形成し、これにより個々のカセットを位置決めさせると共にそれらをハウジングの内方後壁にある電気的相互接続と一直線状に並ばせることで、ハウジングを、積み重ねた状態にある全数のカセットを収納するための単一の大きな開口部を有して構成することができる。
【0014】
電気泳動的に分離された種を、スラブゲルから、例えばニトロセルロース、ナイロン、ポリビニル・ジフルオライド、その他の材料からなる薄膜(生学実験室では通常、その薄膜上で処置や分析が行われる)のようなシート状マトリックスへと転送するエレクトロブロッティング処理において上記説明による機器を使用するためには、最初、ゲルと薄膜が通常、緩衝剤を湿らせたフィルタペーパーと組合わせた状態で積み重ねられ、アノードとカソードとしての平板電極と外部の電気接点を備えたカセットに配置される。次に、カセットは、多くの場合追加のカセットと共に機器内に配置され、その機器は電極に電荷を印加するようにプログラミングされて、種を薄膜へと移動させるのに充分な電界をゲルと薄膜の平面に対し横断する方向に生成する。上述したように、このようにして単一のカセットを処理することが可能であり、或いは2つ以上のカセットを同じ機器内で同一の条件、又は個々に制御された条件下で同時に処理することが可能である。
【0015】
図面に示された構造、形状及び配置に構造に関連して、未だ本発明の概念内に含まれるような更なる代替案には、平面以外の接触面、異なる数の可動ペグ、長方形カセット上において異なった配置関係や位置にあるペグ、及び当業者に容易に明白となるような他の変形例が含まれる。
【0016】
ここに添付された請求項において、用語“a”や“an”は“1つ又はそれ以上”を意味する目的をもつ。また用語“comprise”や“comprises”、“comprising”などcompriseの変形体に関し、それらが“工程”や“構成要素”の列挙に先立って使用される場合、更なる工程や構成要素を追加したとしても請求の範囲からは排除されないことを意味する意図がある。本出願で引用した特許、特許出願、その他の公表参考資料は全て、それらの全体において参照することによりここに組み入れられる。ここに引用された任意の参考資料や一般的な先行技術と本願明細書の明確な教示との間の如何なる不一致も、本願明細書中の教示に好意的に解決されるものであることを意図している。これは、単語やフレーズの当該技術暗黙の定義と、同じ単語やフレーズに関し本願明細書で明確に提供される定義の間の如何なる相違も含んでいる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のカセットを受容する大きさの内部空洞を有するハウジングと、
前記ハウジング内にある電源、及び前記内部空洞内にあってその中に挿入された各カセットに前記電源を接続するための個々の電気接点と、
前記ハウジング内に挿入された各カセットのエレクトロトランスファ処理を個々に監視しかつ制御するための手段と、を有することを特徴とするエレクトロトランスファ機器。
【請求項2】
前記電気接点はバネ仕掛けの接点であることを特徴とする請求項1に記載のエレクトロトランスファ機器。
【請求項3】
前記ハウジングは、前記複数のカセットを、垂直方向に積み重ねた状態で受容するように構成されることを特徴とする請求項1に記載のエレクトロトランスファ機器。
【請求項4】
前記ハウジングは、前記カセットをスライドさせて入れる前方開口部を有することを特徴とする請求項3に記載のエレクトロトランスファ機器。
【請求項5】
前記ハウジングは、個々のカセットを前記ハウジング内に固定する磁気接点を有することを特徴とする請求項1に記載のエレクトロトランスファ機器。
【請求項6】
更に、カセットが前記ハウジング内に挿入された時だけ前記電気接点を前記電源に係合させることになる電気リレーを有することを特徴とする請求項1に記載のエレクトロトランスファ機器。
【請求項7】
前記ハウジングは、2〜6個のカセットを収納することを特徴とする請求項3に記載のエレクトロトランスファ機器。
【請求項8】
電気泳動的に分離された種をスラブゲルからシート状マトリックスへと転送する方法であって、該方法は、
(a)各スラブゲルとシート状マトリックスを、アノード板と、カソード板と、前記アノード板と前記カソード板の夫々のための外部電気接点とを有するエレクトロブロッティング・カセットに配置する工程と、
(b)各カセットを、
(i)複数のカセットを受容する大きさの内部空洞を有するハウジングと、
(ii)前記ハウジング内にある電源、及び前記内部空洞内にあって前記電源を、前記各カセット上の前記外部電気接点に接続する個々の内部電気接点と、
(iii)前記ハウジング内に挿入された各カセットのエレクトロブロッティング処理を個々に監視しかつ制御するための手段とを有する機器に挿入する工程と、
(c)挿入された各カセットの第1及び第2平板電極に電荷を印加し、前記種を前記スラブゲルから前記シート状マトリックスへと前記挿入されたカセット内で電気泳動的に移動させる工程とを有することを特徴とする方法。
【請求項9】
前記ハウジングは、前記複数のカセットを、垂直方向に積み重ねた状態で受容するように構成されることを特徴とする請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記ハウジングは、個々のカセットを前記ハウジング内に固定する磁気接点を有することを特徴とする請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記内部電気接点はバネ仕掛けの接点であることを特徴とする請求項8に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2013−513801(P2013−513801A)
【公表日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−543289(P2012−543289)
【出願日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際出願番号】PCT/US2010/059756
【国際公開番号】WO2011/072158
【国際公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【出願人】(591099809)バイオ−ラッド ラボラトリーズ,インコーポレイティド (79)