説明

視標呈示装置

【課題】 被検者の瞳孔間距離に基づいて視差を持つ視標の融像位置が最適になるように調整することにより、より正確な検査が行える視標呈示装置を提供すること。
【解決手段】 被検者の両眼視機能を検査するために被検者の左右眼に視標を呈示する視標呈示装置において、ディスプレイを有し、被検者の左右眼に対して視差を持った視標を表示する表示手段と、被検者の瞳孔間距離を入力する瞳孔間距離入力手段と、前記瞳孔間距離入力手段によって入力された前記瞳孔間距離に基づき、前記視標が基準位置から融像位置まで浮き上がって認識されるか、又は沈み込んで認識されるように、前記視標の視標間隔を調節して前記ディスプレイに表示する制御手段と、を有すること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検者の両眼視機能を検査するために被検者の左右眼に視標を呈示する視標呈示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶パネル等のディスプレイに視標を呈示(表示)することによって被検者眼の視力等を検査する視標呈示装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。このような装置では、ディスプレイに表示する視標を変えることにより、様々な種類、形状、サイズ、等の視標を被検者眼に呈示できる。また、このような装置では、偏光等を利用して視標を被検者の左眼に呈示するための左眼用視標と、被検者の右眼に呈示するための右眼用視標に分離している。左眼用視標と右眼用視標のディスプレイ上での表示間隔(視標間隔)を持たせることによって、視標に視差を持たせている。これにより、被検者には、視標がディスプレイから浮き上がって(又は、沈み込んで)認識される。このようにして、立体視機能検査等の両眼視機能検査が行える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−207569号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような視差を持った視標を被検者が左右眼で見ると、視標は浮き上がって見える、又は沈み込んで見える。しかし、被検者の左右眼の瞳孔間距離が異なると、視標の浮き上がり量(距離)又は沈み込み量(距離)が異なって見える。すなわち、視差を持つ視標の融像位置は、瞳孔間距離の異なる被検者の左右眼には異なって見える。
【0005】
本発明は、上記従来技術の問題点に鑑み、被検者の瞳孔間距離に基づいて視差を持つ視標の融像位置が最適になるように調整することにより、より正確な検査が行える視標呈示装置を提供することを技術課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記課題を解決するために、以下の構成を有することを特徴とする。
(1) 被検者の両眼視機能を検査するために被検者の左右眼に視標を呈示する視標呈示装置において、ディスプレイを有し、被検者の左右眼に対して視差を持った視標を表示する表示手段と、被検者の瞳孔間距離を入力する瞳孔間距離入力手段と、前記瞳孔間距離入力手段によって入力された前記瞳孔間距離に基づき、前記視標が基準位置から融像位置まで浮き上がって認識されるか、又は沈み込んで認識されるように、前記視標の視標間隔を調節して前記ディスプレイに表示する制御手段と、を有する、ことを特徴とする。
(2) (1)の視標呈示装置において、前記制御手段は、前記瞳孔間距離と前記基準位置から前記融像位置までの融像距離との積を被検者から前記融像位置までの距離で除して求めた視標間隔に基づき、前記視標の視標間隔を調節して前記ディスプレイに表示する、ことを特徴とする。
(3) (1)又は(2)の視標呈示装置において、前記ディスプレイは、カラー表示可能なディスプレイであって、1ピクセル内に複数種類の単色の各輝度を変更して表示可能な複数のサブピクセルを有するディスプレイであり、前記制御手段は、前記視標を表示するピクセルと境界を成すピクセルにおいて、前記視標間隔に基づき、1つのサブピクセルの輝度を制御する、ことを特徴とする。
(4) (3)の視標呈示装置において、前記制御手段は、前記視標を黒色又は白色の何れか1色で前記ディスプレイに表示する、ことを特徴とする。
(5) (4)の視標呈示装置において、前記制御手段は、前記ディスプレイに表示される前記視標の背景を前記視標の反対色で表示する、ことを特徴とする。
(6) 被検者の両眼視機能を検査するための視標を呈示する視標呈示装置は、視標を表示するためのディスプレイと、被検者の左右眼の瞳孔間距離を入力する瞳孔間距離入力部と、ディスプレイに立体視検査用の左眼用視標及び右眼用視標を表示させる制御部であって、被検者の両眼視で見える融像視標が、「基準位置から所定の融像位置までの融像距離」浮き上がって又は沈み込んで認識されるように、入力された瞳孔間距離に基づいて左眼用視標と右眼用視標との左右方向の視標間隔を取得し、取得した視標間隔に基づいてディスプレイに左眼用視標及び右眼用視標を表示させる制御部と、を備える、ことを特徴とする。
(7) (6)の視標呈示装置において、制御部は、瞳孔間距離と融像距離との積を、被検者から融像位置までの距離で除して視標間隔を求める、ことを特徴とする。
(8) (6)又は(7)の視標呈示装置において、制御部は、ディスプレイが有する1ピクセルの整数倍より細かな距離として,視標間隔を被検者に認識させるために、右眼用視標及び左眼視標の少なくとも一方の境界であって、左右方向の境界が位置するピクセルの輝度を取得し、取得した視標間隔に基づいて変える、、ことを特徴とする。
(9) (6)又は(7)の視標呈示装置において、ディスプレイは、1ピクセル毎に色の異なる複数のサブピクセルが左右方向に並べられたカラーディスプレイであり、制御部は、1ピクセルの整数倍より細かな距離として視標間隔を被検者に認識させるために、右眼用視標及び左眼用視標の少なくとも一方の境界であって、左右方向の境界が位置するピクセル内の各サブピクセルの輝度を、取得した視標間隔に基づき、視標側から背景側に順に変化させる、ことを特徴とする。
(10) (9)の視標呈示装置において、制御部は、視標を黒色又は白色の何れか1色でディスプレイに表示する、ことを特徴とする。
(11) (10)の視標呈示装置において、制御部は、ディスプレイに表示される視標の背景を視標の反対色で表示する、ことを特徴とする。
(12) (6)〜(11)の何れかの視標呈示装置は、基準位置から所定の融像位置までの融像距離を入力する融像距離入力部を備えている、ことを特徴とする。
(13) (6)〜(12)の何れかの視標呈示装置において、左眼用視標及び右眼用視標は、同一形状、同一サイズ及び同一色である、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、被検者の瞳孔間距離に基づいて視差を持つ視標の融像位置が最適になるように調整することにより、より正確な検査が行える。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。図1は、本実施形態の視標呈示装置の概略外観図である。視標呈示装置100の筐体10の前面には、表示手段である視標呈示部30が設けられている。視標呈示部30は、被検者との距離が6m等の遠方距離の位置に置かれた場合にも所定サイズの視力検査用視標70a(例えば、VA(Visual Acuity)2.0のランドルト環視標)等の視標が呈示(表示)可能な大きさを持つ画面を備えており、内部にはカラー液晶ディスプレイ31が配置されている(図2参照)。ディスプレイ31には、例えば、解像度SXGAの19インチ、17インチ、等のものを用いることができる。なお、筐体10は、壁に掛けて使用できる薄型とされている。
【0009】
筐体10の前面の下方には、操作手段(操作部)であるリモートコントローラ(以下、リモコン)60からの赤外通信信号を受信する受信部11が設けられている。また、筐体10の下部には、装置100の設置距離(被検者(被検者眼)から視標呈示部30までの距離)の設定(入力)等の各種設定(入力)を行うための設定手段(設定部(入力部))であるファンクションキー12が設けられている。
【0010】
リモコン60は、視標呈示部30(ディスプレイ31)に呈示(表示)される視標を選択するための選択手段(選択部(セレクタ))である複数の視標選択キー(ボタン)61と、選択された視標等の情報を表示する表示手段(表示部)である液晶ディスプレイ62と、赤外通信信号を送信する送信部63と、を備えている。また、リモコン60は、装置100の設置距離を入力するための入力手段(入力部)である設置距離入力キー(ボタン)64と、被検者の瞳孔間距離(PD(pupillary distance))を入力するための入力手段(入力部)である瞳孔間距離入力キー(ボタン)65と、視差を持つ視標の融像距離を入力するための入力手段(入力部)である融像距離入力キー(ボタン)66と、を備えている。なお、被検者に呈示される立体視検査用の視標は、被検者の左眼に呈示するための左眼用視標と、被検者の右眼に呈示するための右眼用視標とを有している。立体視検査用の左眼用視標と右用視標は、左右方向におて所定の視標間距離離れて呈示される。被検者の左眼に左眼用視標が見え、被検者の右眼に右眼用視標が見え、被検者がそれぞれの視標を融像(一つの像として見る)すると、視標は浮き上がって(又は沈み込んで)認識される。なお、融像距離とは、基準面(基準位置、ここでは、ディスプレイ31の表示面)から浮き上がって見える、又は沈み込んで見える視標までの距離とする。なお、融像距離は、被検者から浮き上がって見える、又は沈み込んで見える視標までの距離としてもよい。
【0011】
図2は、視標呈示部30の概略構成図と装置100の制御系の概略ブロック図とである。視標呈示部30は、カラーディスプレイであるカラー液晶ディスプレイ31と、ディスプレイ31の前面に配置(貼付)されたシート状の偏光光学部材32と、を備えている。ディスプレイ31には、1ピクセルで様々な色が表示できるように、赤色、青色及び緑色(光の三原色)のサブピクセルが1ピクセル内に左右方向(ここでは、水平方向と一致する)に並べられている。偏光光学部材32は、少なくともディスプレイ31の視標呈示(表示)領域をカバーする大きさを持っている。
【0012】
ディスプレイ31と受信部11とファンクションキー12とは、装置100の制御手段(制御部)である制御ユニット40に接続されている。また、制御ユニット40には、様々な視標のデータを記憶する記憶手段(記憶部)であるメモリ41が接続されており、また、リモコン60からの指令信号を解読するデコーダ回路等を備えている。制御ユニット40は、リモコン60からの視標切換えの指令信号等の入力により、ディスプレイ31の各ピクセルの表示を制御する。また、制御ユニット40は、ディスプレイ31に表示させた視標の境界(視標と背景との境界)において、ピクセル毎にサブピクセル処理することにより、視標の表示(呈示)位置が移動したように被検者に見せる(認識させる)(詳しくは後述する)。
【0013】
偏光光学部材32について説明する。ディスプレイ31からは、所定の方向(垂直方向,水平方向又は斜め45度方向)の偏光軸を持つ直線偏光の光が出射される。本実施形態では、垂直方向の偏光軸を持つ直線偏光の光が出射される。偏光光学部材32は、ディスプレイ31が持つ1ピクセルの所定倍の大きさに対応して左右方向に延びるライン状で且つ縦方向(鉛直方向)に交互に配置された光学領域32aと光学領域32bとを備えている。光学領域32aと光学領域32bとは、ディスプレイ31からの直線偏光の光を通過させるときに、互いに直交する偏光軸を持つ直線偏光の光に変換する。本実施形態では、偏光光学部材32として、位相差機能を持つ1/2波長板と同等の機能を持つものが使用されている。1/2波長板は、周知のように、入射光の偏光軸が1/2波長板の高速軸(又は低速軸)に対して角度θで入射したときに、その振動方向を2×θ回転させる。すなわち、1/2波長板は、入射光の偏光方向に対して高速軸(又は低速軸)である光学的主軸方向を傾斜させることにより、入射光の偏光軸方向(振動方向)を回転させる機能を持つものであり、入射光の光量をそのまま維持できる特性を持つものである。
【0014】
立体視検査等の両眼視機能検査では、互いに直交する偏光軸を持つ偏光フィルタ91Lと偏光フィルタ91Rとを備える偏光眼鏡90を被検者が装用し、被検者の左眼の前に偏光フィルタ91Lが配置され、被検者の右眼の前に偏光フィルタ91Rが配置される。本実施形態の偏光フィルタ91Lは45度方向に偏光軸を持っており、偏光フィルタ91Rは135度方向に偏光軸を持っている。また、被検者が偏光眼鏡90を装用する代わりに、左右の検査窓に球面レンズ、柱面レンズ、補助レンズ、等が切換え配置される自覚式屈折力検査装置(以下、ホロプタ)200が使用されてもよい。この場合には、ホロプタ200は、互いに直交する偏光軸を持つ偏光フィルタ201L(45度方向に偏光軸を持つ)と偏光フィルタ201R(135度方向に偏光軸を持つ)とを備え、被検者の左眼の前に配置される左検査窓に偏光フィルタ201Lが配置され、被検者の右眼の前に配置される右検査窓に偏光フィルタ201Rが配置される。
【0015】
一方、光学領域32aは左眼用の光学領域であり、本実施形態では、その光学的主軸方向は、偏光眼鏡90又はホロプタ200が備える左眼用の偏光フィルタ91L又は201Lの偏光方向である45度方向と一致した偏光方向の光にディスプレイ31からの光を変換するように配置されている。また、光学領域32bは右眼用の光学領域であり、本実施形態では、その光学的主軸方向は、偏光眼鏡90又はホロプタ200が備える右眼用の偏光フィルタ91R又は201Rの偏光方向である135度方向と一致した偏光方向の光にディスプレイ31からの光を変換するように配置されている。このため、被検者が左右眼の前に配置された偏光フィルタ91L及び91R、又は偏光フィルタ201L及び201Rを通して視標呈示部30を見ると、左眼には偏光フィルタ91L又は201Lを透過可能な光学領域32aからの光のみが視認され、光学領域32bからの光は偏光フィルタ91R又は201Rで遮断されることによって視認されない。逆に、右眼には偏光フィルタ91R又は201Rを透過可能な光学領域32bからの光のみが視認され、光学領域32aからの光は偏光フィルタ91L又は201Lで遮断されることによって視認されない。このようにして、被検者の左右眼に入射する光を分離でき、被検者の左右眼にそれぞれ異なる視標を呈示できる。すなわち、視差を持つ視標を被検者の左右眼に呈示できる。
【0016】
次に、ディスプレイ31に呈示(表示)される三桿検査用視標について説明する。図3は、本実施形態の三桿検査用視標(画像)を正面から見た状態を示す図である。図4は、三桿検査用視標と被検者の瞳孔間距離との関係を説明する図である。図5は、サブピクセル処理について説明する図である。図6は、三桿検査用視標の見え方を模式的に示した図である。
【0017】
なお、本実施形態では、検査距離(=装置100の設置距離)DEを2.5mとしており、検査の基準となる視標からの浮き上がり量又は沈み込み量を2cmとしている。また、装置の設置距離は、2.5mから6.0mまで50cm刻みで設定可能となっている。
【0018】
視標(画像)70には、簡易的な三桿検査をするために、3種類の視標が含まれている。本実施形態の視標70は、三桿計での三桿検査を模した検査が行えるように、桿(棒)状の視標とされている。視標70は、被検者から検査距離DE離れた位置に見える(認識される)、検査の基準となる視標(第1視標)71と、基準視標71から融像距離FD分浮き出がって被検者に見える(認識される)視標(第2視標)72と、基準視標71から融像距離FD分沈み込んで被検者に見える(認識される)視標(第2視標)73と、を含んでいる。視標70の背景70aは白色であり、視標71、72及び73は、すべて同一色の黒色である。また、視標71、72及び73は、同形状、同サイズとされる。
【0019】
視標71は、左右眼に同じ位置に認識されるように、1つの視標である。視標72は、左眼用視標72Lと右眼用視標72Rとを含む。視標72Lと視標72Rとは、間隔W2隔てられている。被検者の両眼視によって、視標72が融像して見えるように、視標72L及び72Rは、同形状、同サイズ及び同色とされる。視標73は、左眼用視標73Lと右眼用視標73Rとを含む。視標73Lと視標73Rとは、間隔W3隔てられている。被検者の両眼視によって、視標73が融像して見えるように、視標73L及び73Rは、同形状、同サイズ及び同色とされる。間隔W2は、検査距離DEと被検者の瞳孔間距離PDとに基づいて定められており、何れの瞳孔間距離PDであっても視標72は視標呈示部30の画面から一定距離(融像距離FD)分浮き上がって見える(認識される)ような間隔とされている。同様に、間隔W3は、検査距離DEと被検者の瞳孔間距離PDとに基づいて定められており、何れの瞳孔間距離PDであっても視標73は視標呈示部30の画面から一定距離(融像距離FD)分沈み込んで見える(認識される)ような間隔とされている。
【0020】
本実施形態の装置での三桿検査は、三桿計での三桿検査を模した検査が行えるように、検査距離DEが2.5mに設定されており、被検者の瞳孔間距離PDに拘らず、視標72の浮き上がり量と視標73の沈み込み量とが共に2cmに設定されている。検査距離DEは、三桿計での三桿検査において被検者眼から固定配置された左右2つの桿までの距離と等しくなっている。融像距離FD(浮き上がり量及び沈み込み量)は、三桿計での三桿検査において被検者眼が深視力を持つと判定される条件に基づいて設定されている。すなわち、三桿計での三桿検査においては、被検者の操作によって移動される中央の桿が左右の桿から前後2cm以内に位置されることにより、三桿検査の合格が判定される。このため、融像距離FDは、この条件に合うようになっている。
【0021】
また、本実施形態では、視標70は、ベクターデータとしてメモリ41に記憶されている。制御ユニット40は、検査距離DE、瞳孔間距離PD及び融像距離FDに基づいて視標間隔(視標間距離)W2及びW3を求め(取得し)、求められた視標間隔W2及びW3に基づいて視標70を生成し、視標呈示部30に呈示する(ディスプレイ31に表示する)。
【0022】
次に、瞳孔間距離PDと融像距離FDとの関係を説明する。ここでは、浮き上がって見せる場合を例に挙げて説明する。図4では、各位置を点として示している。左眼ELと右眼ERとが並ぶ面Sは、検査距離DEを隔てて、左眼用視標PLと右眼用視標PRとが並ぶ面T(視標呈示部30の画面と一致)と対向している。左眼ELと視標PLとを結んだ線分と右眼ERと視標PLとを結んだ線分との交点に、視標の融像位置FPができる。面Tから融像位置FPまでの距離が融像距離FDとなる。左眼ELと右眼ERとの間隔を瞳孔間距離PDとし、視標PLと視標PRとの間隔を視標間隔Wとする。
【0023】
ここで、立体視検査における視差は、左眼ELと融像位置FPとを結んだ線分と右眼ERと融像位置FPとを結んだ線分とが成す角度θ1と、左眼ELと面Tの中心Cとを結んだ線分と右眼ERと中心Cとを結んだ線分とが成す角度θ2と、の差分となる。従って、検査距離DEと視標間隔Wとがそれぞれ一定であれば、視差は、瞳孔間距離PDに拘らず一定となる。しかし、融像距離FDは、瞳孔間距離PDに応じて変化する。具体的に、瞳孔間距離PDと融像距離FDとの関係を示すと、図4における三角形の関係から、以下の式1のようになる。なお、DE−FDは、被検者から融像位置FPまでの距離になる。
【0024】
PD:W=DE−FD:FD (式1)
式1を、融像距離FDについて解くと、以下の式2のようになる。
【0025】
FD=W・DE/(PD+W) (式2)
式2から、融像距離FDは、瞳孔間距離PDに依存することがわかる。また、融像距離FDは、視標間隔Wに依存することがわかる。式1を視標間隔Wについて解くと、以下の式3のようになる。
【0026】
W=PD・FD/(DE−FD) (式3)
本実施形態では、融像距離FDを一定(2cm)とし、瞳孔間距離PDを変数とし、融像距離FDを一定とできるような視標間隔Wを求め、視標を生成する。
【0027】
次に、視標間隔Wの調節幅を説明する。例えば、瞳孔間距離PDを1mmステップで入力して、何れの場合にも融像距離FDを2cmとする場合を例に挙げ、瞳孔間距離PDを60mmの場合と59mmの場合とで視標間隔Wの差を説明する。式3において、FD=20(mm)、DE=2500(mm)とすると、PD=60(mm)の場合は、W=0.484(mm)となり、PD=59(mm)の場合は、W=0.476(mm)となる。瞳孔間距離PDと視標間隔Wとの関係は、線形であるため、瞳孔間距離PDが1mm変化すれば、視標間隔Wは0.008mm程度変化させればよいこととなる。従って、検査距離DEが2.5mの場合の使用において、視標呈示部30(ディスプレイ30)の解像度が0.008mmであれば、瞳孔間距離PDが1mmステップで変化する場合に対応した視標を呈示することができる。
【0028】
次に、視標間隔Wの調節表示について説明する。図5は、視標72又は73において、左右眼の何れかに呈示する場合での境界周辺の2ピクセルを模式的に示したものである。各ピクセルには、色の異なる複数のサブピクセルを左右方向に並べられている。各ピクセル81及び82は、3つのサブピクセルを備える。サブピクセルとしては、赤色を表示する(赤色発光する)ためのサブピクセル81R及び82Rと、緑色を表示する(緑色発光する)ためのサブピクセル81G及び82Gと、青色を表示する(青色発光する)ためのサブピクセル81B及び82Bと、である。各サブピクセルは、各単色を256階調の輝度で独立して表示(発光)可能であり、輝度としては、0〜255までとする。すべてのサブピクセルの輝度が0であれば、ピクセルは黒色として見え(認識され)、すべてのサブピクセルの輝度が255であれば、ピクセルは白色として見える(認識される)。
【0029】
ピクセル81とピクセル82との間には、境界Bがある。ピクセル81は、すべてのサブピクセル(81R、81G、81B)が輝度0であり、黒色として見える(認識される)。一方、ピクセル82は、すべてのサブピクセル(82R、82G、82B)が輝度255であり、白色として見える(認識される)。この場合、視標72又は73の輪郭の位置は、境界Bにあるように見える。
【0030】
この状態において、サブピクセル82Rを輝度0にすると、ビクセル82は、シアン色として見える(認識される)。しかし、ピクセル81の隣のサブピクセル82Rは、黒色として見える(認識される)。このため、被検者にとって、視標72又は73の輪郭の位置は、境界Bを越えてサブピクセル82Rとサブピクセル82Gの境界B1にあるように見える(認識される)。このとき、ピクセル82は、シアン色に見えるものの、視標72又は73の周辺では黒色と白色とで表示されている(見えている)ことと、ピクセル82が1ピクセル分しかないことと、から、被検者にシアン色が見える(認識される)ことは少ない。同様に、サブピクセル82G又は82Bの輝度を0にすることによっても、視標72又は73の輪郭の位置を変更して被検者に見せる(認識させる)ことができる。
【0031】
このようにして、1ピクセル内の3つのサブピクセルの輝度を変えることにより、視標72又は73の輪郭の位置(視標間隔)を1ピクセルよりも下のオーダーで変更できる。制御ユニット40は、視標間隔がディスプレイ31が有するピクセルの整数倍より細かな距離となる場合に、サブピクセル処理を行う。制御ユニット40は、左眼用視標及び左眼視標の少なくとも一方に対してサブピクセル処理を行う。例えば、一方の視標の境界を処理する場合、一方の視標の左右方向の輪郭(両側の輪郭)に対して、それぞれ処理する。制御ユニット40は、演算により視標の境界のピクセルの輝度(サブピクセルの輝度)を取得し、ディスプレイ31の表示制御を行う。これによって、制御ユニット40が求めた視標間隔(被検者のPDに対応する)で、被検者に立体検査用視標が呈示可能となる。
【0032】
以上の説明では、サブピクセルの輝度を0又は255としたが、サブピクセルの輝度を段階的に変更することによっても、視標72又は73の輪郭の位置を変更できる。例えば、サブピクセルの256階調の輝度を8等分する。輝度は、1ステップ当り32の数値で変更することとなる。例えば、サブピクセル82Rの輝度を127とすると、境界Bと境界B1との間の発光量が半分になり、サブピクセル82Rとサブピクセル82Gとの間で発光量に濃淡差が生じる。これにより、被検者には、境界Bと境界B1との間の境界B2に視標72又は73の輪郭の位置があるように見える(認識される)。すなわち、サブピクセル82Rの輝度(サブピクセル間の濃淡差)に応じて、視標72の輪郭の位置を境界Bから境界B1内で移動させて認識させることができる。これは、サブピクセル82G及び82Bにおいても同様である。また、ピクセル内のサブピクセルは、視標側から背景側に順(この場合は、82R、82G、82Bの順)に輝度を変化させることで、境界の位置(輪郭)を視標側から背景側へと移動させる(移動したように被検者に認識させる)ことができる。
【0033】
このようにして、視標の輪郭の位置を1つのサブピクセル内で変更させて被検者に認識させることができる。上記のサブピクセル処理をするためには、背景70aと視標72又は73とのコントラスをできるだけ高くすると共に、視標72又は73の境界の色の影響を軽減するために、視標72又は73の色は白色と黒色との一方から選択することが好ましく、背景70aの色も白色と黒色との他方から選択することが好ましい。
【0034】
上記の例では、1つのサブピクセルの輝度を8等分としたため、1ピクセル(ピクセル82)では、視標72又は73の輪郭の位置を、8×3の24通りで調節することができる。従って、1ピクセルが0.19mm程度のディスプレイを視標呈示部30に用いる場合、視標72又は73の輪郭の位置を、0.008mm程度のステップで調節することができる。
【0035】
以上のような構成を有する視標呈示装置100での三桿検査における動作について説明する。検者は、検査の前に装置100の設定を行い、また、検査距離DE(被検者の検査位置)と融像距離FDとを決定し、リモコン60のキー64及び66又はファンクションキー12を操作して入力する。する。また、被検者の瞳孔間距離PDをリモコン60のキー65又はファンクションキー12を操作して入力する。瞳孔間距離PDは、瞳孔間距離計等で予め入手しておく。制御ユニット40は、リモコン60又はファンクションキー12からの指令信号に基づいて、検査距離DE、融像距離FD及び瞳孔間距離PDをメモリ41に記憶させる。
【0036】
次に、検者は、偏光眼鏡90を装用した被検者又は左右眼前にホロプタ200を配置した被検者を検査位置に位置させ、キー61を操作して三桿検査用視標70を呈示させる。制御ユニット40は、リモコン60からの指令信号に基づいて、メモリ41に記憶された検査距離DE、融像距離FD及び瞳孔間距離PDを呼び出し(読み出し)、視標70の融像距離(浮き上がり量及び沈み込み量)が設定(入力)された融像距離FDになるように、検査距離DE及び瞳孔間距離PDに基づいて視標72の視標間隔W2と視標73の視標間隔W3とを求める。制御ユニット40は、求めた視標間隔W2及びW3に基づいて、視標70(視標71、72及び73)を生成する。制御ユニット40は、視標70の表示に際して、ディスプレイ31のサブピクセル処理を行う。視標70のうち、左眼用の視標72L及び73Lが、光学領域32a及び偏光フィルタ91L又は201Lを介して、被検者の左眼ELに入射する。同様に、右眼用の視標72R及び73Rが、光学領域32b及び偏光フィルタ91R又は201Rを介して、被検者の右眼ERに入射する。視標71は、左右眼EL及びERにそれぞれ入射して認識される。被検者には、視標71は、ディスプレイ31の画面の位置である被検者から2.5m離れた位置に見える(認識される)。また、視標72が視標71から浮き上がって見え(認識され)、視標73が視標71から沈み込んで見える(認識される)。
【0037】
そして、検者は、3つの視標71、72及び73がどのように見えるかを被検者に確認する。視標72が視標71よりも前方(手前側)にあるように見えると被検者が答えるか、又は視標73が視標71よりも後方(奥側)にあるように見えると被検者が答えれば、被検者が三桿検査に合格する深視力を持つものと判定できる。
【0038】
このようにして、本装置によれば、簡単な構成で三桿検査が行える。また、被検者の瞳孔間距離に拘らず、一定の融像距離だけ視標が浮き上がって見える、又は沈み込んで見える。このため、検査の精度を向上できる。
【0039】
なお、以上の説明では、三桿検査用視標(画像)が3種類の視標を含む構成としているが、これに限るものではない。検査の基準となる視標と、基準視標に対して所定量浮き上がって見える(認識される)視標と所定量沈み込んで見える(認識される)視標との何れかと、を含むものであってもよい。
【0040】
また、以上の説明では、視標をベクターデータ(ベクターイメージ)としてメモリに記憶させ、瞳孔間距離の設定(入力)結果に基づいて制御ユニットが視標間隔を求め、ディスプレイに表示するものとしたが、これに限るものではない。異なる複数の瞳孔間距離に対応する複数の視標画像をメモリ41に記憶させ、瞳孔間距離の入力に基づいて制御ユニット40が適切な視標画像をメモリ41から読み出してディスプレイ31に表示するものとしてもよい。なお、これは、検査距離及び融像距離についても同様である。
【0041】
また、以上の説明では、検査距離と設置距離とが一致する場合を例に挙げたが、これに限るものではない。視標の融像距離は、基準となる位置から浮き上がって見える、又は沈み込んで見えればよい。従って、例えば、設置距離を5.0mとし、基準視標71が設置距離から2.5m浮き上がって見え、さらに、視標72が視標71から融像距離分浮き上がって見え、視標73が視標71から融像距離分沈み込んで見えるようにしてもよい。
【0042】
また、以上の説明では、被検者の左右眼に呈示される視標を分離するために、所定の偏光軸を持つ偏光光学部材、偏光フィルタ、等を用いるものとしているが、円偏光を利用してもよい。また、以上の説明では、被検者の左右眼に呈示される視標を分離するために、ディスプレイの前面に配置された偏光光学部材と、被検者眼の前に配置される偏光眼鏡又はホロプタと、を用いるものとしているが、これに限るものではない。色を用いて視標を分離する構成、液晶シャッタを用いて視標を分離する構成、等であってもよい。例えば、被検者の左眼に呈示される視標を赤色とし、被検者の右眼に呈示される視標を緑色とし、赤緑眼鏡(左眼用に赤色フィルタが配置され、右眼用に緑色フィルタが配置された眼鏡)を被検者に装用させて検査するものであってもよい(もちろん、前述と同様に、ホロプタに赤色フィルタと緑色フィルタとを配置してもよい)。なお、色は赤緑に限定されるものではない。また、被検者の左右眼に入射する光を所定の時間間隔で交互に透過・遮断させる液晶シャッタ機能付き眼鏡を被検者に装用させ、所定の時間間隔に同期させて左眼用視標と右眼用視標とを交互に呈示(表示)して検査するものであってもよい。
【0043】
なお、以上の説明では、ディスプレイ30のピクセルにおいて、サブピクセル処理をすることで、視標の輪郭の位置を調節する構成としたが、これに限るものではない。視標の境界に位置するピクセルにおいて、ピクセル単位で処理する構成としてもよい。具体的には、ピクセルをグレースケールで輝度を変化させる。言い換えると、ピクセル内のサブピクセルの輝度を同じ値として輝度を変更する構成とする。このため、ディスプレイは、必ずしもカラーディスプレイでなくてもよい。モノクロディスプレイでもよい。
【0044】
なお、以上の説明では、簡易的な三桿検査をするために視標を呈示するものとしたが、被検者の立体視機能等の両眼視機能を検査するために視標を呈示するものであればよい。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本実施形態の視標呈示装置の概略外観図である。
【図2】視標呈示部の概略構成図と装置の制御系の概略ブロック図とである。
【図3】本実施形態の三桿検査用視標(画像)を正面から見た状態を示す図である。
【図4】三桿検査用視標と被検者の瞳孔間距離との関係を説明する図である。
【図5】サブピクセル処理について説明する図である。
【図6】三桿検査用視標の見え方を模式的に示した図である。
【符号の説明】
【0046】
30 視標呈示部
31 ディスプレイ
32 偏光光学部材
40 制御ユニット
41 メモリ
60 リモコン
100 視標呈示装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検者の両眼視機能を検査するために被検者の左右眼に視標を呈示する視標呈示装置において、
ディスプレイを有し、被検者の左右眼に対して視差を持った視標を表示する表示手段と、
被検者の瞳孔間距離を入力する瞳孔間距離入力手段と、
前記瞳孔間距離入力手段によって入力された前記瞳孔間距離に基づき、前記視標が基準位置から融像位置まで浮き上がって認識されるか、又は沈み込んで認識されるように、前記視標の視標間隔を調節して前記ディスプレイに表示する制御手段と、
を有する、
ことを特徴とする視標呈示装置。
【請求項2】
請求項1の視標呈示装置において、
前記制御手段は、前記瞳孔間距離と前記基準位置から前記融像位置までの融像距離との積を被検者から前記融像位置までの距離で除して求めた視標間隔に基づき、前記視標の視標間隔を調節して前記ディスプレイに表示する、
ことを特徴とする視標呈示装置。
【請求項3】
請求項1又は2の視標呈示装置において、
前記ディスプレイは、カラー表示可能なディスプレイであって、1ピクセル内に複数種類の単色の各輝度を変更して表示可能な複数のサブピクセルを有するディスプレイであり、
前記制御手段は、前記視標を表示するピクセルと境界を成すピクセルにおいて、前記視標間隔に基づき、1つのサブピクセルの輝度を制御する、
ことを特徴とする視標呈示装置。
【請求項4】
請求項3の視標呈示装置において、
前記制御手段は、前記視標を黒色又は白色の何れか1色で前記ディスプレイに表示する、
ことを特徴とする視標呈示装置。
【請求項5】
請求項4の視標呈示装置において、
前記制御手段は、前記ディスプレイに表示される前記視標の背景を前記視標の反対色で表示する、
ことを特徴とする視標呈示装置。
【請求項6】
被検者の両眼視機能を検査するための視標を呈示する視標呈示装置は、
視標を表示するためのディスプレイと、
被検者の左右眼の瞳孔間距離を入力する瞳孔間距離入力部と、
ディスプレイに立体視検査用の左眼用視標及び右眼用視標を表示させる制御部であって、被検者の両眼視で見える融像視標が、「基準位置から所定の融像位置までの融像距離」浮き上がって又は沈み込んで認識されるように、入力された瞳孔間距離に基づいて左眼用視標と右眼用視標との左右方向の視標間隔を取得し、取得した視標間隔に基づいてディスプレイに左眼用視標及び右眼用視標を表示させる制御部と、
を備える、ことを特徴とする視標呈示装置。
【請求項7】
請求項6の視標呈示装置において、
制御部は、瞳孔間距離と融像距離との積を、被検者から融像位置までの距離で除して視標間隔を求める、ことを特徴とする視標呈示装置。
【請求項8】
請求項6又は7の視標呈示装置において、
制御部は、ディスプレイが有する1ピクセルの整数倍より細かな距離として,視標間隔を被検者に認識させるために、右眼用視標及び左眼視標の少なくとも一方の境界であって、左右方向の境界が位置するピクセルの輝度を取得し、取得した視標間隔に基づいて変える、、ことを特徴とする視標呈示装置。
【請求項9】
請求項6又は7の視標呈示装置において、
ディスプレイは、1ピクセル毎に色の異なる複数のサブピクセルが左右方向に並べられたカラーディスプレイであり、
制御部は、1ピクセルの整数倍より細かな距離として視標間隔を被検者に認識させるために、右眼用視標及び左眼用視標の少なくとも一方の境界であって、左右方向の境界が位置するピクセル内の各サブピクセルの輝度を、取得した視標間隔に基づき、視標側から背景側に順に変化させる、ことを特徴とする視標呈示装置。
【請求項10】
請求項9の視標呈示装置において、
制御部は、視標を黒色又は白色の何れか1色でディスプレイに表示する、ことを特徴とする視標呈示装置。
【請求項11】
請求項10の視標呈示装置において、
制御部は、ディスプレイに表示される視標の背景を視標の反対色で表示する、ことを特徴とする視標呈示装置。
【請求項12】
請求項6〜11の何れかの視標呈示装置は、
基準位置から所定の融像位置までの融像距離を入力する融像距離入力部を備えている、ことを特徴とする視標呈示装置。
【請求項13】
請求項6〜12の何れかの視標呈示装置において、
左眼用視標及び右眼用視標は、同一形状、同一サイズ及び同一色である、ことを特徴とする視標呈示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−213633(P2012−213633A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−83094(P2012−83094)
【出願日】平成24年3月30日(2012.3.30)
【出願人】(000135184)株式会社ニデック (745)