説明

視覚再生補助装置

【課題】 好適な電気刺激パルス信号を出力できる装置を提供する。
【解決手段】 電気刺激するための電気刺激パルス用データと電力を送信する送信手段を持つ体外装置と、上記データと電力を受信しデータと電力に基づき電極から電気刺激パルス信号を出力する体内装置と、を備える視覚再生補助装置で、体内装置は、データから電気刺激パルス信号と電極を指定する電極指定信号とを生成し電気刺激パルス信号と電極指定信号とを各々異なる導線で送信する第1ユニットと、導線を介して送られる電気刺激パルス信号及び電極指定信号に基づき電極から電気刺激パルス信号を出力する第2ユニットと、を有し、第1ユニットは、電気刺激パルス信号の1刺激における極性を切換え電気刺激パルス慎吾を出力する刺激出力回路と、1刺激の出力期間中,第2ユニットへの電極指定信号の伝送を停止するスイッチング回路と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は患者の視覚の一部又は全部を再生する視覚再生補助装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、失明治療技術の一つとして、複数の電極が形成された基板を有する体内装置を体内に埋植し、網膜を構成する細胞を電気刺激して視覚の再生を試みる視覚再生補助装置の研究がされている。このような視覚再生補助装置は、例えば、体外装置を用いて撮像された映像を所定の信号に変換して体内に設置された体内装置に送信し、電極から電気刺激パルス信号を出力して網膜を構成する細胞を電気刺激することにより、視覚の再生を試みる装置がある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−044323号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような装置では、体外装置から送られてくる電気刺激パルス信号用のデータを用いて多数の電極から電気刺激パルス信号を各々出力して網膜を構成する細胞を電気刺激するため、体外装置からの情報(信号)を受信し処理を行うとともに、各電極に電気刺激パルス信号を分配する機能が必要となる。このため、特許文献1のような装置においては、患者眼に直接設置する部分をできるだけ小型化するために、複数の制御部に各々機能を分担させるようにし、電極に直接繋がる制御部と他の制御部とを導線にて接続するようにしている。この場合、制御部間を繋ぐ導線は電極指定信号用、刺激信号送信用等の複数の導線が必要となる。このような導線は体内における限られたスペースに効率よく収めるために束ねられて用いられる。
【0005】
しかしながら、信号を伝達するための複数の導線を束ねて用いた場合、線間容量が存在するため、1つの刺激信号において正負が切換えられる電気刺激パルス信号では、切換え時の電位変化により意図しない経路に電流が流れ、正負の電荷量のバランスが崩れてしまう場合がある。
【0006】
上記従来技術の問題点に鑑み、好適な電気刺激パルス信号を出力することができる視覚再生補助装置を提供することを技術課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は以下のような構成を備えることを特徴とする。
(1) 患者の視覚を形成する視覚神経系を構成する細胞又は組織を電気刺激するための電気刺激パルス用データと電力を送信する送信手段を持つ体外装置と、該送信手段から送信される前記電気刺激パルス用データと前記電力を受信する受信手段を有し,該受信手段によって受信された前記電気刺激パルス用データと前記電力に基づいて複数の電極から電気刺激パルス信号を出力する体内装置と、を備える視覚再生補助装置において、前記体内装置は、前記受信手段にて受信された前記電気刺激パルス用データから前記電気刺激パルス信号と該電気刺激パルス信号が出力される電極を指定する電極指定信号とを生成し前記電気刺激パルス信号と電極指定信号とを各々異なる導線を用いて送信する第1制御ユニットと、該第1制御ユニットと離れた位置に置かれ,前記第1制御ユニットから前記導線を介して送られる前記電気刺激パルス信号及び前記電極指定信号に基づいて前記複数の電極から前記電気刺激パルス信号を出力する第2制御ユニットと、を有し、前記第1制御ユニットは、前記電気刺激パルス信号の1刺激における極性を切換え双極性の電気刺激パルス信号を生成し出力する刺激出力回路と、該刺激出力回路による少なくとも1刺激の出力期間中,前記第2制御ユニットへの前記電極指定信号の伝送を停止するためのスイッチング回路と、を有することを特徴とする。
(2) (1)の視覚再生補助装置において、前記第1制御ユニットは前記刺激出力回路による前記電気刺激パルス信号の出力期間中以外のタイミングで前記電極指定信号を前記第2制御ユニットに送信することを特徴とする。
(3) (2)の視覚再生補助装置において、前記導線は、前記電気刺激パルス信号の送信用線として少なくとも1本,前記電極指定信号用線として少なくとも2本、これらの合計として少なくとも3本の導線であり、各導線は絶縁性材料にて被覆された状態で1本のケーブルとして束ねられていることを特徴とする。
(4) (1)〜(3)のいずれかの視覚再生補助装置において、前記スイッチング回路は、前記電極指定信号用線をフローティング状態にして前記電極指定信号の伝送を停止することを特徴とする。
(5) (1)〜(4)のいずれかの視覚再生補助装置において、前記スイッチング回路は、前記電極指定信号用線を導通することにより閉回路を形成して前記電極指定信号の伝送を停止することを特徴とする。
(6) (1)〜(5)のいずれかの視覚再生補助装置において、前記第1制御ユニットは前記第2制御ユニットを駆動するための電力に、前記電極指定信号を重畳して伝送することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、好適な電気刺激パルス信号を出力することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の実施の形態を図面を用いて説明する。図1は視覚再生補助装置の外観を示した概略図、図2は視覚再生補助装置における体内装置を示す図である。
【0010】
1は視覚再生補助装置であり、図1及び図2に示すように、外界を撮影するための体外装置10と、網膜を構成する細胞に電気刺激を与え視覚の再生を促す体内装置20とからなる。体外装置10は、患者が掛けるバイザー11と、バイザー11に取り付けられるCCDカメラ等からなる撮影装置12と、外部デバイス13、一次コイルからなる送信手段14等にて構成されている。
【0011】
外部デバイス13には、CPU等の演算処理回路を有するデータ変調手段13a、視覚再生補助装置1(体外装置10及び体内装置20)の電力供給を行うためのバッテリー13bが設けられている。データ変調手段13aは、撮影装置12にて撮影した被写体像を画像処理し、さらに得られた画像処理後のデータを、視覚を再生するための電気刺激パルス用データに変換する処理を行う。送信手段14は、データ変調手段13aにて変換された電気刺激パルス用データ及び後述する体内装置20を駆動するための電力を電磁波として体内装置20側に伝送(無線送信)することができる。この電磁波には、電気刺激パルス用データと電力が重畳されている。この電磁波は、高々20MHz程度の周波数域である。また、送信手段14の中心には図示なき磁石が取り付けられている。磁石は後述する受信手段31との位置固定に使用される。
【0012】
バイザー11は眼鏡形状を有しており、図1に示すように、患者の眼前に装着して使用することができるようになっている。また、撮影装置12はバイザー11の前面に取り付けてあり、患者に視認させる被写体を撮影することができる。 次に、体内装置20の構成を説明する。図2(a)は、体内装置20の外観を示し、図2(b)は刺激部40の断面を示した図である。体内装置20は、大別して体外装置10から送信される電気刺激パルス信号用データや電力を電磁波にて受け取る受信部(第1制御ユニット)30と、網膜を構成する細胞を電気刺激する刺激部(第2制御ユニット)40により構成される。受信部30には、体外装置10からの電磁波を受信する2次コイルからなる受信手段31や、制御部(第1制御ユニット)32が設けられている。制御部32は、受信手段31にて受信された電気刺激パルス用データと電力とを分けると共に、電気刺激パルス用データを基に、視覚を得るための電気刺激パルス信号と、電気刺激パルス信号と対応する電極を指定する電極指定信号等を含む別ユニット(ブロック)用の駆動信号とに変換し、各信号を複数のワイヤー(導線)50を介して、別部品である刺激部40へ送信するための役割を有している(詳細は後述する)。なお、ワイヤー50は絶縁材料にて各々が被覆されているとともに、ケーブル51として一つに束ねられている。このケーブル51によって受信部30と刺激部40とが電気的に接続されている。
【0013】
これら受信手段31や制御部32は、基板33上に形成されている。なお、受信部30には送信手段14を位置固定させるための図示なき磁石が設けられている。帰還電極34は、ワイヤー55にて制御部32に接続され、電極41のそれぞれの帰還電極となる。
【0014】
また、刺激部40には、電気刺激パルス信号を出力する複数の電極41、刺激制御部42が設けられている。各電極41は刺激制御部(第2制御ユニット)42に接続されている。刺激制御部42は、制御部32から送られてきた制御信号(電極指定信号を含む)に基づいて、対応する電気刺激パルス信号を電極41の各々へ振り分けるマルチプレクサ機能を有する(詳細は後述する)。電極41には生体適合性が高い導体、例えば金や白金等の貴金属が用いられる。電極41は基板43上に複数個形成される。刺激制御部42は蓋部材46と設置台45によりハーメチックシール(密封)され、設置台45を介して基板43に実装されている。なお、本実施形態で用いられる基板43は、眼内、特に、層状の眼組織内に設置されるため、眼球の形状に沿うことが好ましく、層間(層内)に長期埋植されても患者の負担が少ないことが好ましい。このため、基板43は、生体適合性が高く、所定の厚さにおいて湾曲可能な材料を長板状に加工したものをベース部としている。この基板内部に複数のリード線43aが形成され、各電極41と刺激制御部42が電気的に接続されている。
【0015】
電極41から出力される電気刺激パルス信号は、1刺激(正負のパルスを合せた1回分の刺激信号)が、正負方向(プラス方向、マイナス方向)にそれぞれ振幅を持つ矩形波を組み合せた双極性(二相性)のパルスとされる。このような双極性のパルスが刺激出力回路である刺激回路ブロック65(又は、電極41)から出力されている時間を出力期間とする。このとき、1つの刺激における正負の電荷量が等しくなるように、電気刺激パルス信号の波形が形成される。これにより、電気刺激される部位での電荷の偏りが低減され、好適に電気刺激がなされる。これらのパルスの強度や持続時間等を変更して、各電極41から出力されることで、網膜を構成する細胞へ様々な刺激が与えられる。
【0016】
また、体内において離れた位置に置かれる受信部30と刺激部40とは複数のワイヤー(導線)50によって電気的に接続されている。ワイヤー50は生体適合性の高い導体、例えば、白金、金等の貴金属が用いられる。また、複数のワイヤー50は、前述したように、生体適合性が高い絶縁性の樹脂、例えば、シリコーン、ポリイミド、ポリパラキシリレン等で包埋されることにより一つに束ねられケーブル51とされる。なお、各ワイヤー50自体もまた上述した樹脂等の生体適合性がよく絶縁性を有する素材にて被覆されている。このワイヤー50を伝わる信号(電力を含む)は、すべて交流とされ、例えば、ワイヤー50が体液等に浸潤されても、浸潤箇所での体液等の電気分解(不可逆的化学反応)が起こらず、生体に悪影響が出ないようにされている。詳細な説明は略すが、ワイヤー50の体液との接触箇所(浸潤箇所、暴露箇所)で、電気分解が起こらない条件は、交流信号の半波(正又は負の極性にある信号、交流信号1周期の半分)当りの電荷量が、生体に影響を及ぼすとされる露出金属の単位面積当りの電荷量(電荷密度)以下であることになる。
【0017】
本実施形態で用いるワイヤー50は、上述した電力、電極指定信号が重畳された交流信号(本明細書では駆動信号と呼ぶ)を伝送するための2本のワイヤーと、電気刺激パルス信号を伝送するための1本のワイヤー、の少なくとも3本のワイヤーが用意されている。
【0018】
次に、受信部30及び刺激部40の構成及び各構成要素の連携を図示し、受信部30側でのスイッチング動作により、電気刺激パルス信号の正負の電荷の偏りを低減する手法について説明する。
【0019】
図3は、体内装置20の内部構成を模式的に示したブロック図である。図中に示されるブロックは、半導体集積回路にて作製された機能ユニットとし、各半導体素子(例えば、MOSFET等のトランジスタ,ダイオード、抵抗、コンデンサ)の組合せにより機能を果たす。各ブロックの詳細な回路構成等は、説明の簡便のため略す。なお、本実施形態では、スイッチング素子としてMOSFETを用いる。
【0020】
図3に示すように、送信手段14と受信手段31がコイルリンクの形態をとり、電気刺激パルス用データ、電力を含む電磁波が受信手段31に受信される。受信された電磁波は、受信手段31と接続される受信ブロック61に交流信号として送られ、受信ブロック61にて電気刺激パルス用データの信号と、電力用の信号に分離される。分離された電力は、受信ブロック61に接続される電源ブロック62へと送られる。電源ブロック62は、交流信号として送られてきた電力を整流器(整流手段)62aで直流化し、接続される各ブロック(変換ブロック63、給電ブロック65、刺激回路ブロック66)に直流電圧の電力を供給する。このとき、刺激回路ブロック66では、この直流電圧が直流電流源DSにも利用される。なお、給電ブロック65が備えるスイッチング回路及び刺激回路ブロック66が備えるHブリッジ回路については、詳細を後述する。
【0021】
また、分離された電気刺激パルス信号用データは、受信ブロック61に接続される変換ブロック63へと送られ、変換ブロック63により電気刺激パルス信号用データから電極指定信号及び各電極41から出力される電気刺激パルス信号の強度、持続時間を指定する電気刺激パルス用パラメータ信号等が抽出される。このとき、それぞれの信号は、一相性(単相性)の矩形状の信号(信号列)として抽出される。
【0022】
抽出された刺激制御部42用の各信号は、変換ブロック63により、電力を交流搬送波信号として、例えば、周波数変調方式によって重畳され、駆動信号が生成される(搬送波が制御信号で変調される)。
【0023】
刺激回路ブロック66は、変換ブロック63から受け取った電気刺激パルス用パラメータ信号に基づき、電源ブロック62から得ている直流電圧(又は電流)を、各電極41から出力させる所定の強度(電流)、所定の持続時間を持つ双極性の電気刺激パルス信号に変換する刺激出力回路の役目を果たす。具体的には、直流電流(後述)の極性を正負に切換えることにより双極性の電流パルス(電気刺激パルス信号)を生成し、出力している。極性切換回路の役目を果たす。これらの電気刺激パルス信号は、先の刺激制御部42用の駆動信号に含まれる電極指定信号の指定を受けた電極41から出力される。
【0024】
また、変換ブロック63により電力である交流搬送波信号に重畳された刺激制御部42用の電極指定信号は、変換ブロック63と接続される給電ブロック65へと送られる。給電ブロック65は、電源ブロック62から供給される直流電圧を電源として、刺激制御部42用の電極指定信号が重畳された交流搬送波信号を生成し、刺激部40へと送る。このように、電源ブロック62、変換ブロック63、給電ブロック65により、交流信号化が行われる。
【0025】
給電ブロック65からは、対となる2本のワイヤー50(50a、50b)が出され、刺激回路ブロック66からは、1本のワイヤー50(50c)が出され、刺激部40に接続される。ワイヤー50cと対となるワイヤー55は、刺激回路66から出され、帰還電極34に接続される。なお、ワイヤー50、55には、それぞれカップリングコンデンサ52が接続される。カップリングコンデンサ52は、ワイヤー50、55を伝送する直流信号成分をカットし、交流信号のみを通過させるフィルタの役割を持っている。
【0026】
次に、給電ブロック65の内部構成を説明する。図示するように、給電ブロック65には、刺激部40に供給する電力源となる交流電圧源AS1、AS2と、交流電圧源AS1、AS2に変換回路63からの制御信号を重畳させるエンコーダ65aと、交流電圧源AS1、AS2に対応し、通電状態を切り換えるスイッチSW1、SW2と、を備える。
【0027】
交流電圧源AS1、AS2は、ワイヤー50a、50bに対してそれぞれ直列に入れられる。また、電気的な接続を切換えるスイッチSW1、SW2は、ワイヤー50a、50bに対してそれぞれ直列に繋がり、オン状態で交流電圧源AS1、AS2とワイヤー50a、50bとを接続する構成とされる。スイッチSW1、SW2がオフ状態においては、ワイヤー50a、50bが導通(短絡)するように、スイッチSW1、SW2の端子が接続されている。スイッチSW1,SW2は、変換ブロック83に接続されその動作制御される(図示を略す)。
【0028】
エンコーダ65aは、それぞれの交流電圧源AS1、AS2に接続され、変換回路63の指令に基づいて、電極指定信号を交流電圧に重畳させる役割を持つ。従って、エンコーダ65aにより重畳(変調)された交流電圧源AS1、AS2の交流信号は、駆動信号とされる。
【0029】
次に、刺激回路66の内部構成を説明する。図示するように、刺激回路ブロック66は、電気刺激パルス信号の極性を切換えるHブリッジ回路(極性切換回路)を持つ。具体的には、一端をGNDに接続された直流電流源DSの他端に、変換ブロック63の指令により切換えられるスイッチSWa、SWb、が並列に接続されている。スイッチSWa、SWbの他端には、それぞれスイッチSWd、SWcが接続され、スイッチSWc、SWdの他端には、直流電圧源Vddが接続される。なお、スイッチSWa、SWdの間のノードN1には、ワイヤー50cが接続され、ワイヤ50cは、マルチプレクサ(図では、MUXと略す)83へと接続される。また、スイッチSWb、SWcの間のノードN2には、ワイヤー55が接続され、ワイヤー55は帰還電極34へと接続される。
【0030】
次に、刺激部40の構成を説明をする。図3のワイヤー50のうち、ワイヤー50a、50b、50cは、刺激制御部42へと接続されている。ワイヤー50a、50bは、刺激制御部42の電源ブロック81及びデコーダ82に並列に接続される。電源ブロック81は、給電ブロック65から送られる交流信号を受け取り、交流信号を整流器(整流手段)81aにて直流化した後、デコーダ82やマルチプレクサ83の駆動電力となる直流電圧を抽出する。デコーダ82は、受け取った駆動信号からマルチプレクサ83の制御信号(電極指定信号等)を抽出し、マルチプレクサ83へと送る。
【0031】
マルチプレクサ83は、デコーダ82と接続されると共に、刺激回路ブロック66とワイヤー50cを介して接続され、さらに、リード線43aを介して各電極41とそれぞれ接続される。マルチプレクサ83は、デコーダ82からの電極指定信号に基づき、刺激回路ブロック66からの電気刺激パルス信号を各電極41へと分配する機能を有している。
【0032】
次に、刺激回路66での電気刺激パルス信号の生成と、その流路について説明する。刺激回路ブロック66の4つのスイッチは、変換ブロック63の指令によりオン・オフを切換え、直流電流源DSからの直流電流の流れる方向(極性)を切換える役割を持つ。具体的には、スイッチSWa、SWcと、スイッチSWb、SWdが対となり、同じ動作をする。また、異なるペアのスイッチでは、動作が逆になるように、例えば、スイッチSWa、SWcが共にオンであれば、スイッチSWb、SWdがオフとなるように4つのスイッチが制御される。例えば、スイッチSWb、SWdがオン、スイッチSWa、SWcがオフであると、ノードN1は、直流電圧源Vddの電位となり、ノードN2は、直流電流源DSに引かれてGND側の電位となる。このとき、刺激電極には、正の電位が印加されることとなり、直流電流源DSからワイヤー55、帰還電極34、刺激電極41、マルチプレクサ83、ワイヤー50cを介して電流が流れることで、電極41から正の刺激電流(パルス)が流れる。逆に、4つのスイッチが逆に動作されると、電極41からは負の刺激電流が流れることとなる。なお、各スイッチのオン時間、オフ時間を制御することにより、電気刺激パルスのパルス幅等が変えられる。
【0033】
このようにして、Hブリッジ回路を利用して、変換ブロック63で制御することにより、正負の電荷を持つ電気刺激パルス信号が電極から出力されることとなる。
【0034】
以上説明した電気刺激パルス信号の極性の切換えにおいて、ノードN1,N2に注目すると、以下のような問題点がある。極性が切換えられる(反転される)際に、各ノードの電位が急激に変化することで、意図しない経路に電流が流れ、正負の電荷量のバランスが崩れてしまう場合がある。これにより、電気刺激に必要とされる電流強度(電荷量)が得られない場合がある。また、意図しない電流により電気刺激パルス信号にノイズが乗ってしまう場合がある。
【0035】
より具体的には、電極41から正方向のパルスが出力されている場合、ノードN1の電位が前述のようにVddとされる。この状態で、極性が反転した負方向のパルスが電極41から出力されるようにHブリッジ回路がスイッチング(制御)されると、ノードN1の電位はGND方向へ急激に下がる。このとき、ワイヤー50a、50bは、受信部30の電位に対してインピーダンスが低くなっているため、ワイヤー50a、50bからみたワイヤー50cの電位が急激に変化することとなる。なお、3本のワイヤー50は、近接しているため、寄生的な線間容量を持っている。従って、ワイヤー50c(ノードN1)の電位が急激に変わると、この電位に対応した電流が線間容量を充放電するように流れる。
【0036】
このような充放電電流がノイズとなって、電気刺激パルス信号に付加される。或いは、電気刺激パルス信号で必要としていた電流強度の一部が充電電流となってしまう。言い換えると、本来電極41から出力される電気刺激パルス信号の電荷の一部が線間容量を充電する電荷として使われてしまい、電極41から出力される電気刺激パルス信号の正負の対称が崩れてしまう。
【0037】
そこで、本発明では、電気刺激パルス信号が電極41から出力される際に、ワイヤー50同士が持つ線間容量を回路上なくすために、以下のようなスイッチングを行う。
【0038】
変換ブロック63は、刺激回路ブロック66による電気刺激パルス信号(1刺激)の少なくとも出力期間中において、給電ブロック65のスイッチSW1及びSW2をオフ状態とし、スイッチSW1とSW2との間を導通状態とする。これにより、ワイヤー50c(ノードN1)からみて、ワイヤー50a、50bは、高インピーダンスとなる。このため、寄生的な線間容量を充放電する経路がなくなり、充放電電流が流れなくなる。このとき、スイッチSW1、SW2によりワイヤー50a、50bが導通状態とされるため、ワイヤー50a、50bが電気的に接続され、閉回路が形成される。このような制御を行うことにより、刺激部40が電極指定信号ののノイズの影響を受けにくくなる。なお、スイッチSW1、SW2は、ワイヤー50a、50bの線間容量が実施的になくなるように動作すればよく、スイッチSW1,SW2がフローティング状態とされていてもよい。また、ワイヤー50a、50bからみて高抵抗の素子に接続される動作をする構成とされてもよい。
【0039】
なお、このようなスイッチSW1,SW2がオフ状態とされるタイミングを図4を用いてさらに具体的に説明する。図4は模式的タイミングチャートである。横軸は時間、縦軸は変換ブロック63にて形成される電気刺激パルス信号の強度又はスイッチのオン・オフ状態を示す。
【0040】
図示するように、スイッチSW1、SW2がオフ状態とされる時間は、変換ブロック63にて電気刺激パルス信号が出力される時間帯(タイミング)を含むものとされる(図4(b))。
【0041】
図4(b)では、電気刺激パルス信号の出力時のみにおいてスイッチSW1、SW2をオフ状態とするものとしたが、これに限るものではない。電気刺激パルス信号が出力されないタイミングで他の信号(電極指定信号等)が伝送するような制御が行われていればよい。例えば、図4(c)に示すように、変換ブロック63は、1つの電気刺激パルス信号の形成時間前の時間帯において、スイッチSW1,SW2を所定時間Sだけオン状態とすることもできる。所定時間Sは、マルチプレクサ83が、電極指定信号を受信できるのに充分な時間であり、かつ、電気刺激パルス信号の出力が開始される前(ここでは、直前)の時間帯に設けられる。
【0042】
図4においては、電気刺激パルス信号として1刺激の例を示したが、実際は前述したような制御が時系列的に並ぶ電気刺激パルス信号の生成の合間に行われることとなる。なお、1刺激を形成する正負のパルスの間に間隔が形成されていてもよい。このような場合であっても1刺激は、正負で形成される1つの電気刺激パルス信号とされる。
【0043】
以上のようにして、電極から出力される電気刺激パルス信号の正負どちらかへの電荷の偏りを低減できる。これにより、好適な電気刺激を出力できる。また、刺激部へ供給する駆動信号を一時的に遮断することで、体内装置20全体の消費電力が抑えられる。
【0044】
次に、このような体内装置20の設置について説明する。図5は刺激部40を眼内に埋植した状態を示す概略図である。帰還電極34は図示するように眼内中央の前眼部寄りの位置に置かれる。これによって、網膜E1は電極41と帰還電極34(不関電極)との間に位置することとなる。よって、電極41からの電気刺激パルス信号電流が効率的に網膜を貫通することとなる。
【0045】
一方、受信手段31は、体外装置10に設けられた送信手段14からの信号(電気刺激パルス用データ及び電力)を受信可能な生体内の所定位置に設置される。例えば、図1に示すように、患者の側頭部の皮膚の下に受信部30(図では受信手段31のみ示している)を埋め込むとともに、皮膚を介して受信部30と対向する位置に送信手段14を設置しておく。受信部30には、送信手段14と同様に磁石が取り付けられているため、埋植された受信部30上に送信手段14を位置させることにより、磁力によって送信手段14と受信部30とが引き合い、送信手段14が側頭部に保持されることとなる。
【0046】
なお、ケーブル51は、側頭部に埋め込まれた受信部30から側頭部に沿って皮膚下を患者眼に向かって延び、患者の上まぶたの内側を通して眼窩に入れられる。眼窩に入れられたケーブル51は、図5に示すように強膜E3の外側を通り、基板43に設置された刺激制御部42に接続される。
【0047】
なお、本実施形態では、体内装置20(刺激部40)の設置位置を強膜E3側に位置させて、強膜E3側(脈絡膜側)から網膜E1を構成する細胞を電気刺激する構成としたが、これに限るものではない。患者眼の網膜を構成する細胞を好適に刺激することが可能な位置に電極を設置することができればよい。例えば、層間に電極及び基板を設置すればよい。刺激部40を患者眼の眼内(網膜上や網膜下)に置き、電極が形成されている基板先端部分を網膜下(網膜と脈絡膜との間)や網膜上に設置するような構成とすることもできる。
【0048】
以上のような構成を備える視覚再生補助装置において、その動作を図6に示す制御系のブロック図を基に説明する。図1に示す撮影装置12により撮影された被写体の撮影データ(画像データ)は、データ変調手段13aに送られる。データ変調手段13aは、撮影した被写体を患者が認識するために必要となる所定のデータパラメータ(電気刺激パルス用データ)に変換し、さらに電磁波として伝送するのに適した変調信号に変調し、送信手段14より電磁波として体内装置20側に送信する。また同時に、データ変調手段13aは、バッテリー13bから供給されている電力を前述した変調信号(電気刺激パルス用データ)の帯域と異なる帯域の電磁波として前記変調信号と合わせて体内装置20側に送信する。
【0049】
体内装置20側では、体外装置10より送られてくる変調信号と電力とを受信手段31にて受け取り、制御部32に送る。制御部32では受けとった信号から、変調信号が使用する帯域の信号を抽出するとともに、この変調信号に基づいて電気刺激パルス用パラメータ信号と制御信号とを生成し、電極指定信号である制御信号を刺激制御部42に送信する。このとき、制御部32では図3の説明で示した各構成ブロックにより、交流信号が生成されており、ワイヤー50を介して刺激制御部42に送られる信号はすべて交流信号とされる(電気刺激パルス信号も含む)。
【0050】
刺激制御部42では受け取った交流信号に基づき前述した方法により、電力及び電極指定信号を抽出する。刺激制御部42は、電極指定信号に基づき、制御部32から供給される電気刺激パルス信号を各電極41に分配し、出力させる。各電極41から出力される電気刺激パルス信号によって網膜E1を構成する細胞が電気刺激され、患者は視覚(擬似光覚)を得る。なお、制御部32は、受信手段31により体内装置20を駆動するための電力を得る。
【0051】
なお、以上説明した本実施形態では、電力と電極指定等の制御信号を重畳して駆動信号としたが、これに限るものではない。電気刺激パルス信号を伝送しない導線が電気的に高インピーダンス状態にされる構成であればよい。例えば、電力と制御信号を個別の導線で伝送する構成とした場合、電気刺激パルス信号の極性が切り換える際に、電気刺激パルス信号を伝達する導線以外の導線を電気的に遮断し高インピーダンス状態にする構成とすればよい。
【0052】
なお、以上説明した本実施形態では、導線を伝送される信号は交流信号としたが、これに限るものではない。離れた位置に置かれる第1制御ユニットと第2制御ユニットとで、制御信号、電力等を伝送する構成であればよく、導線を伝送される信号は直流信号であってもよい。この場合も前述と同様に、電気刺激パルス信号の極性が切換える際に、導線を遮断する構成とすればよい。なお、この場合、第1制御ユニットでの交流変換及び第2制御ユニットでの整流が不要となり、装置を小型化できる。
【0053】
なお、以上説明した本実施形態では、電極41から出力される電気刺激パルス信号の帰還電極として、帰還電極34を前眼部に配置し、ワイヤー55にて受信部30と接続する構成としたが、これに限るものではない。帰還電極をワイヤーで接続しない構成の体内装置を用いてもよい。例えば、刺激部40に設けてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】視覚再生補助装置の外観を示した概略図である。
【図2】本実施形態における視覚再生補助装置の体内装置を示した概略図である。
【図3】体内装置の内部構成を模式的に示したブロック図である。
【図4】スイッチング回路のタイミングチャートである。
【図5】体内装置を体内に設置した状態を示した図である。
【図6】視覚再生補助装置の制御系を示したブロック図である。
【符号の説明】
【0055】
1 視覚再生補助装置
10 体外装置
20 体内装置
30 受信部
31 受信手段
32 制御部
34 帰還電極
40 刺激部
41 電極
42 刺激制御部
43 基板
50、55 ワイヤー
51 ケーブル
65 給電ブロック
66 刺激回路ブロック
83 マルチプレクサ
SW1、SW2、SWa、SWb、SWc、SWd スイッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の視覚を形成する視覚神経系を構成する細胞又は組織を電気刺激するための電気刺激パルス用データと電力を送信する送信手段を持つ体外装置と、
該送信手段から送信される前記電気刺激パルス用データと前記電力を受信する受信手段を有し,該受信手段によって受信された前記電気刺激パルス用データと前記電力に基づいて複数の電極から電気刺激パルス信号を出力する体内装置と、
を備える視覚再生補助装置において、
前記体内装置は、
前記受信手段にて受信された前記電気刺激パルス用データから前記電気刺激パルス信号と該電気刺激パルス信号が出力される電極を指定する電極指定信号とを生成し前記電気刺激パルス信号と電極指定信号とを各々異なる導線を用いて送信する第1制御ユニットと、
該第1制御ユニットと離れた位置に置かれ,前記第1制御ユニットから前記導線を介して送られる前記電気刺激パルス信号及び前記電極指定信号に基づいて前記複数の電極から前記電気刺激パルス信号を出力する第2制御ユニットと、
を有し、
前記第1制御ユニットは、
前記電気刺激パルス信号の1刺激における極性を切換え双極性の電気刺激パルス信号を生成し出力する刺激出力回路と、
該刺激出力回路による少なくとも1刺激の出力期間中,前記第2制御ユニットへの前記電極指定信号の伝送を停止するためのスイッチング回路と、
を有することを特徴とする視覚再生補助装置。
【請求項2】
請求項1の視覚再生補助装置において、前記第1制御ユニットは前記刺激出力回路による前記電気刺激パルス信号の出力期間中以外のタイミングで前記電極指定信号を前記第2制御ユニットに送信することを特徴とする視覚再生補助装置。
【請求項3】
請求項2の視覚再生補助装置において、前記導線は、前記電気刺激パルス信号の送信用線として少なくとも1本,前記電極指定信号用線として少なくとも2本、これらの合計として少なくとも3本の導線であり、各導線は絶縁性材料にて被覆された状態で1本のケーブルとして束ねられていることを特徴とする視覚再生補助装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかの視覚再生補助装置において、
前記スイッチング回路は、前記電極指定信号用線をフローティング状態にして前記電極指定信号の伝送を停止することを特徴とする視覚再生補助装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかの視覚再生補助装置において、
前記スイッチング回路は、前記電極指定信号用線を導通することにより閉回路を形成して前記電極指定信号の伝送を停止することを特徴とする視覚再生補助装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかの視覚再生補助装置において、前記第1制御ユニットは前記第2制御ユニットを駆動するための電力に、前記電極指定信号を重畳して伝送することを特徴とする視覚再生補助装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−187747(P2010−187747A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−32792(P2009−32792)
【出願日】平成21年2月16日(2009.2.16)
【出願人】(000135184)株式会社ニデック (745)
【Fターム(参考)】