説明

視覚再生補助装置

【課題】 患者の負担を減らし、視覚再生を好適に行える視覚再生補助装置を提供する。
【解決手段】
刺激部の複数の電極から電気刺激パルスを出力させて網膜を刺激して撮影部で撮影された被写体像を患者に認識させる視覚再生補助装置は、撮影部で得られた被写体画像を構成する画素を所定の閾値で高い輝度値の画素と低い輝度値の画素に2値化して画像データを生成し、画像データと電極の配列に基づき電気刺激パルス信号の出力条件と電気刺激パルス信号を出力させる電極を指定する電気刺激パルス用データを生成する画像処理部と、高い輝度値の画素に基づき電気刺激パルス信号を出力させる第1刺激モードと低い輝度値の画素に基づき電気刺激パルス信号を出力させる第2刺激モードとを選択する選択手段と、を備え、画像処理部は選択手段で選択された刺激モードに基づき電気刺激パルス用データを生成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は患者の視覚を再生する視覚再生補助装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、失明治療技術の一つとして、複数の電極が形成された基板を有する体内装置を体内に埋植し、網膜を構成する細胞を電気刺激して視覚の再生を試みる視覚再生補助装置の研究がされている。例えば、視覚再生補助装置では、患者の体外に固定されたカメラ等で撮像された映像を所定の信号に変換し、患者の体内に設置された体内装置に送信する。一方、体内装置は患者の網膜に電気刺激を与えるための複数の電極を備えており、体外装置から送信された信号に基づき各電極から電気刺激パルス信号(電荷)を出力させる。これにより、網膜を構成する細胞が電気刺激されて、体外装置で撮影された画像に基づき患者の視覚が再生されるようになる(例えば、特許文献1参照)。このような刺激は、撮影画像における輝度の高い領域に対応する電極から電気刺激パルス信号が出力されることで撮影画像の特徴部分を認識させようとするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007‐97630号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、白色の背景に対して黒色で書かれた文字等の撮影画像に基づき視覚再生が行われる場合等、撮影された画像に輝度値の高い範囲が広く含まれる場合には、輝度値の高い領域に対応する電極から電気刺激パルス信号が出力され、必要とされる特定の情報(例えば文字等)に対応する電極からは出力されないため、患者が必要とする情報が上手く認識されない可能性がある。また、このような刺激状態であると網膜に対する刺激の総量(電荷量)が大きくなり、患者にとって負担となる。
【0005】
また、近年の研究では、網膜に対する刺激が継続されて行なわれると、網膜の反応が次第に鈍くなる現象(アダプテーションと呼ばれる)が生じる可能性があることが知られてきており、網膜に与えられる刺激の総量が大きくなるほど、アダプテーションが強く現れる傾向にあることも示唆されている。
【0006】
本発明は、上記従来技術の問題点に鑑み、患者の負担を減らすことができると共に、視覚再生を好適に行うことができる視覚再生補助装置を提供することを技術課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は以下のような構成を備えることを特徴とする。
【0008】
(1) 被写体を撮影するための撮影部と、基板上に所定の間隔で配列された複数の電極を有し患者眼に設置される刺激部と、を有し、該刺激部の前記複数の電極から電気刺激パルスを出力させて網膜を構成する細胞を刺激することにより前記撮影部で撮影された被写体像を患者に認識させる視覚再生補助装置において、前記撮影部で撮影された被写体画像を構成する各画素を所定の閾値に基づき該閾値よりも高い輝度値の画素と低い輝度値の画素とに分けて2値化した画像データを生成すると共に、該画像データと前記複数の電極の配列に基づき電気刺激パルス信号の出力条件と該電気刺激パルス信号を出力させる電極を指定するための電気刺激パルス用データを生成するための画像処理部と、前記高い輝度値の画素に基づいて前記電気刺激パルス信号を出力させる前記電極を指定する第1刺激モードと、前記低い輝度値の画素に基づいて電気刺激パルス信号を出力させる前記電極を指定する第2刺激モードとの複数の刺激モードを選択するための選択手段と、を備え、前記画像処理部は,前記選択手段で選択された刺激モードに基づき前記電気刺激パルス用データを生成することを特徴とする。
(2) (1)の視覚再生補助装置において、前記第2刺激モードは、背景に対して暗い被写体を撮影する場合に明暗を逆転させて患者に特定の情報を認識させるためのモードであることを特徴とする。
(3) (2)の視覚再生補助装置において、前記特定の情報とは、文字、数字又は図形であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、患者の負担を減らすことができると共に、視覚再生を好適に行うことができる視覚再生補助装置を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の実施形態を図面に基づき説明する。図1は視覚再生補助装置の構成の概略ブロック図である。視覚再生補助装置1は、外界(被写体)を撮影する体外装置1aと、網膜を構成する細胞に電気刺激を与え視覚の再生を促す体内装置1bとに大別される。
【0011】
体外装置1aは、患者が掛ける眼鏡又はバイザ(図示を略す)と、バイザに取り付けられるCCDカメラ等の撮影装置2と、撮影装置2で撮影された被写体画像の各画素をその輝度値に基づき二値化して二値化画像データを得ると共に、二値化した画像データに基づき電気刺激パルス用データを生成するための画像処理部10と、視覚再生補助装置1全体に電力を供給するための電力供給源(電源)3と、画像データに基づく電気刺激パルス用データの生成条件,被写体画像の二値化の判断基準である輝度の閾値等の情報や後述する各電極25の配列情報等が予め記憶されている記憶部(メモリ)4と、メモリ4に記憶された電気刺激パルス用データの生成条件を患者が選択するための選択手段となるコントローラ5と、体外装置1a側で生成された画像データ(電気刺激パルス用データ)及び電力を、体内装置1bに送信するための一次コイルからなる送信手段6等で構成されている。なお、画像処理部10は送信手段から電気刺激パルス用データと電力とを送信手段6を用いて体内装置1b側に送るための制御部の役目も果たしている。また、送信手段6の中心には磁石(図示を略す)が取り付けられており、これにより後述する体内装置1b側の受信手段21との位置が固定される。
【0012】
なお、本実施形態では、被写体画像を二値化して得られた画像データを構成する各画素のうち、所定の閾値よりも高い輝度値の画素(二値化した一方の明るい画素)に基づいて電気刺激を行うための電気刺激パルス用データが生成される第1刺激モードと、所定の閾値よりも低い輝度値の画素(二値化した一方の暗い画素)に基づいて電気刺激を行うための電気刺激パルス用データが生成される第2刺激モードとの2種類の電気刺激パルス用データの生成条件(認識条件)がメモリ4に記憶されており、コントローラ5によって2種類の電気刺激パルス用データの生成条件を選択させることができる。
【0013】
これにより、コントローラ5によって第1刺激モードが選択されると、実際のものの見え方(明るさ)に近い条件での電気刺激が行なわれるように、電気刺激パルス用データが生成される。これにより、患者は現実に近い見え方での視覚再生が行われる。一方、コントローラ5の操作で第2刺激モードが選択されると、実際のものの見え方(明るさ)が反転(明暗が反転)された状態での電気刺激が行なわれるように、電気刺激パルス用データが生成される。これにより、例えば、実際には白色の背景(白地)に黒色の文字、数字、図形等が書かれている映像が、電気刺激により患者には黒色の背景(黒地)に白色の文字、数字、図形等が書かれているように認識されるようになる。
【0014】
つまり、患者に知覚させたい情報が閾値よりも低い輝度で表現されている場合において、第2刺激モードが選択されることで、必要な情報を患者に認識させるための網膜E1の電気刺激が効率よく行なわれるようになる。また、これにより体内装置1b側で、電源3から供給される電力が効率よく使用されるようになる。
以上のように、複数の刺激方式が選択可能に用意されることで、用途に応じてより好適に網膜E1の電気刺激が行われるようになる。
【0015】
一方、体内装置1bは、体外装置1aから送信される電気刺激パルス用データ及び電力を電磁波で受信する受信手段21と、体内装置1bの制御を行うための制御部22と、複数の電極25と、から構成されている。これにより、制御部22は受信手段21で受信された電磁波から電気刺激パルス用データを復調する。また、受信手段21で受信された電磁波から抽出された電力は体内装置1b全体の駆動に使用される他、電極25から出力される電気刺激パルス信号として使用される。なお、複数の電極25としては、数十〜数百以上の電極が図示を略す基板上に所定の間隔で配列されており、各電極25は各々制御部22に電気的に接続されている。基板は、電極25が網膜側となるように例えば網膜上、網膜下、或いは強膜(強膜と脈絡膜との間も含む)に設置される。
【0016】
次に、以上の構成を備える視覚再生補助装置1の動作を説明する。まず、患者はコントローラ5を操作して、その目的に応じた刺激方式(第1刺激モード又は第2刺激モード)を選択する。例えば、患者が周囲を確認しながら移動する状況では、実際の見え方に近い電気刺激が行なわれる第1刺激モードが選択される。一方、患者が文字を認識したい場合など、通常黒色等、輝度値の低い色にて表示されている部分の情報を効率よく抽出したい場合には、第2刺激モードが選択される。なお、ここでは患者が文字認識を行おうとする場合に、コントローラ5によって第2刺激モードが選択された場合を例に挙げて説明する。
【0017】
撮影装置2による被写体の撮影が行われると、画像処理部10による被写体像の画像処理が行われる。ここで、図2に本実施形態の画像処理部10による電気刺激パルス用データ作成手順のフローチャートを示す。はじめに、ステップ101で、画像処理装置10は入力された(撮影により得られた)被写体画像を構成する各画素の輝度を抽出して二値化処理を行う。具体的には、画像処理部10は、予めメモリ4に記憶されている輝度の閾値と各画素の輝度値とを比較して、閾値よりも高い輝度値の画素と低い輝度値の画素とに振り分ける処理を行う。また、画像処理部10は2値化処理の一環として、用意されている電極(数、配置)にて撮影画像が表現できるように画像の単純化等の処理も行う。
【0018】
次に、ステップ102で、画像処理部10は、コントローラ5で選択された刺激モードの確認を行う。ここで、第1刺激モードが選択されている場合には、ステップ103に移り、画像処理部10は、二値化により閾値よりも輝度が高いと判定された画素と電極25の配列とに基づき、網膜を構成する細胞への電気刺激が行なわれるように、電気刺激パルス信号を出力させる電極25の指定と、信号の出力条件を定めた電気刺激パルス用データを生成する。一方、第2刺激モードが選択されている場合には、ステップ104に移り、画像処理部10は、二値化により閾値も輝度が低いと判定された画素と電極25の配列とに基づき、網膜を構成する細胞への電気刺激が行なわれるように、電気刺激パルス信号を出力させる電極25の指定と、信号の出力条件を定めた電気刺激パルス用データを生成する。なお、ここでは、ステップ104で第2刺激モードでの電気刺激パルス用データの生成が行なわれる。
【0019】
以上のように、電気刺激パルス用データが生成されたら、ステップ105で、画像処理部10は電源3から供給される電力(交流電力)を、ステップ103又はステップ104で生成された電気刺激パルス用データに基づき変調することにより、データが重畳した電力伝送用の電磁波を生成する。そして、生成された電磁波は、送信手段6と受信手段21とのコイルリンクにより、体内装置1b側に送信されるようになる。
【0020】
一方、受信コイル21で電磁波が受信された体内装置1b側では、制御部22は電磁波から、電気刺激パルス用データ及び電力を抽出する。そして、抽出された電力が体内装置1b全体の駆動に使用される共に、制御部22は、復調された電気刺激パルス用データで指定された各電極25から電気刺激パルスを出力させる。これにより、患者の網膜E1の所定部位が電気刺激されるようになる。
【0021】
ここで、図3に網膜E1を構成する細胞を各刺激モード(第1刺激モード、第2刺激モード)で電気刺激したときの視覚再生についての説明図を示す。なお、図3(a)は、撮影装置2で撮影される被写体像の例であり、白色の背景Bに黒色の「N」の文字Tが描かれている例が示されている。一方、図3(b)は第1刺激モードでの電気刺激が行なわれた場合に患者に知覚される像についての説明図、図3(c)は第2刺激モードで電気刺激が行われた場合に患者に知覚される像についての説明図である。なお、図3(b)と図3(c)において、電極25による網膜の刺激部位に対応する範囲STが白色で、電極25による網膜の刺激部位に対応する範囲NSTが黒色で示されている。
【0022】
つまり、図3(a)に示すように、患者に与えたい情報(ここでは、文字T)が輝度の低い文字等で表されており、背景Bに対してその割合(面積)が小さい場合には、図3(c)に示される第2刺激モードの方が、患者の網膜をより少ない刺激量で効率よく刺激できることが分かる。このように、少ない刺激量で効率よく患者の網膜が刺激されると、患者の負担を減らすことができると共に、刺激が継続されることで生じるアダプテーション(刺激による網膜の反応が鈍くなる現象)の発生も好適に抑制されるようになる。一方、図3(b)に示されるように、第1刺激モードが選択されると、図3(a)に示される実際の被写体像に近い知覚が得られることがわかる。
【0023】
以上のように、用途に応じた複数の刺激モードが選択可能に設けられることで、目的に応じて効率よく網膜の電気刺激が行なわれうるようになる。また、被写体像を二値化することで得られる画像データを用いるだけで、上述した複数の刺激モードが選択できるようになるので、電極数にかかわらず、簡単な制御で用途に応じた網膜の電気刺激を行うことができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】視覚再生補助装置の構成の概略ブロック図である。
【図2】電気刺激パルス用データ作成手順のフローチャートである。
【図3】各刺激モードで電気刺激したときの視覚再生についての説明図である。
【符号の説明】
【0025】
1 視覚再生補助装置
1a 体外装置
1b 体内装置
3 電力供給源
4 記憶部
5 コントローラ
10 画像処理部
22 制御部
25 電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被写体を撮影するための撮影部と、基板上に所定の間隔で配列された複数の電極を有し患者眼に設置される刺激部と、を有し、該刺激部の前記複数の電極から電気刺激パルスを出力させて網膜を構成する細胞を刺激することにより前記撮影部で撮影された被写体像を患者に認識させる視覚再生補助装置において、
前記撮影部で撮影された被写体画像を構成する各画素を所定の閾値に基づき該閾値よりも高い輝度値の画素と低い輝度値の画素とに分けて2値化した画像データを生成すると共に、該画像データと前記複数の電極の配列に基づき電気刺激パルス信号の出力条件と該電気刺激パルス信号を出力させる電極を指定するための電気刺激パルス用データを生成するための画像処理部と、
前記高い輝度値の画素に基づいて前記電気刺激パルス信号を出力させる前記電極を指定する第1刺激モードと、前記低い輝度値の画素に基づいて電気刺激パルス信号を出力させる前記電極を指定する第2刺激モードとの複数の刺激モードを選択するための選択手段と、を備え、
前記画像処理部は,前記選択手段で選択された刺激モードに基づき前記電気刺激パルス用データを生成することを特徴とする視覚再生補助装置。
【請求項2】
請求項1の視覚再生補助装置において、
前記第2刺激モードは、背景に対して暗い被写体を撮影する場合に明暗を逆転させて患者に特定の情報を認識させるためのモードであることを特徴とする視覚再生補助装置。
【請求項3】
請求項2の視覚再生補助装置において、
前記特定の情報とは、文字、数字又は図形であることを特徴とする視覚再生補助装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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