説明

親和性が低下した抗体およびそれを作製する方法

本発明は、合理的に設計され親和性が低下した新規の抗体を作製するための方法を提供する。本発明の方法は、全体の三次元抗体構造を改変することなく、親抗体の抗原結合活性を減少させるかまたは除去するように設計された可変ドメインを有する抗体を作製する。本発明の方法を用いて作製された抗体を種々のアッセイ法で用いることにより、研究者は特異的抗原-抗体相互作用により生じる効果を他の非特異的抗体効果と区別することが可能になる。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、その全内容が参照により本明細書に組み入れられる2010年1月28日に出願された米国特許仮出願第61/299,162号の権利についての優先権を主張する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
モノクローナル抗体は、抗原を高度な特異性で結合できるその能力のため、研究、診断および治療用試薬として幅広く用いられている。抗原に対するその特異的結合に加えて、モノクローナル抗体は、そのFc領域を介して補体系およびエフェクター細胞を活性化し得る。抗体の生物学的特性を正確に解明するために、適切な対照が必須である。適切な対照なくしては、抗体の特異的結合活性と抗体の生化学的および生物学的な効果の間の因果関係を立証することは困難である。
【0003】
現在使用されている対照モノクローナル抗体は以下のものを含む:1.公知の標的抗原を持たない天然に生じる形質細胞腫により分泌される抗体;2. KLH(キーホールリンペットヘモシアニン)等の進化的に離れた種由来の抗原に対して産生された抗体;3. 所望の抗原とは別個の公知の標的抗原と反応性の抗体。
【0004】
これらの場合の各々において、使用される対照抗体は、明らかにされていない可変ドメイン、および不確かな抗原特異性を有する。かつ、3番目の場合には、交差反応性の問題が残っている。このため、現在使用できる対照抗体が使用される場合、交差反応性または非特異的結合等の問題が起こることも珍しくない。さらに、理想的な対照抗体を欠如しているため、通常生理食塩溶液等の製剤ビヒクルを対照として用いて研究はしばしば行われている。このような場合、観察された生化学的ならびに/または生物学的な効果が、特異的な抗原/抗体相互作用の直接的な結果であるのか、または、抗体分子の他の部分の、もしくは宿主細胞タンパク質等の抗体調製物中に存在する混入物の相互作用および生物学的効果等の非特異的効果の結果であるのかを区別することが、不可能ではないとしても困難である。少なくともこれらの理由のため、改善され、合理的に設計された対照抗体が現在非常に必要とされている。
【発明の概要】
【0005】
一局面において、本発明は、低下した結合能力を持つ相補性決定領域(CDR)を産生するための方法であって、以下の工程を含む方法を提供する:(a)CDRポリペプチド内から、抗原と相互作用することができる少なくとも1つの結合アミノ酸を同定する工程;および(b)得られるCDRが該抗原との結合における低下した能力を有するように、該CDRポリペプチド内の少なくとも1つの該アミノ酸を改変する工程。ある態様においては、CDRは抗体内または抗体断片内に位置する。ある態様においては、該方法はさらに抗原結合の喪失を確認する工程を含む。確認工程はFACS分析により達成されてもよい。
【0006】
別の局面において、本発明は、低下した結合能力を持つ抗体または抗体断片を産生するための方法であって、以下の工程を含む方法を提供する:(a)抗体内または抗体断片内から、抗原と相互作用することができる少なくとも1つの結合アミノ酸を同定する工程;および(b)得られる抗体が該抗原との結合における低下した能力を有するように、該抗体内または該抗体断片内の少なくとも1つの該アミノ酸を改変する工程。ある態様においては、該方法は、抗原結合の喪失を確認する工程をさらに含む。確認工程はFACs分析により達成されてもよい。
【0007】
ある態様においては、相互作用は水素結合、塩橋および/またはファンデルワールス力である。ある特定の態様では、結合アミノ酸はアスパラギン酸、グルタミン酸、リジン、アルギニン、セリン、スレオニン、チロシン、アスパラギン、ヒスチジンまたはグルタミンである。別の態様においては、結合アミノ酸はチロシン、セリン、アスパラギン、アスパラギン酸、トリプトファン、アルギニン、フェニルアラニンまたはグリシンである。ある態様においては、結合アミノ酸は非結合アミノ酸で置換されている。ある態様においては、非結合アミノ酸はアラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリンまたはメチオニンである。
【0008】
本発明のある特定の態様においては、結合アミノ酸を同定する工程は、CDRと抗原との複合体を表す結晶構造を分析することにより行われる。
【0009】
別の局面において、本発明は、本発明の方法を用いて作製された抗体または抗体断片を含む。ある態様においては、本発明の抗体または抗体断片は約10-7超または約10-7の解離定数(KD)を有する。ある態様において、本発明の抗体または抗体断片は、免疫グロブリン分子全体、scFv、Fab断片、Fab'断片、F(ab')2、Fd断片、Fvまたはジスルフィド結合したFvである。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の対照抗体の作製を表すフローチャートを示す。
【図2】特定のCDRアミノ酸が抗体-抗原相互作用に関与している頻度を示す。
【図3】Fvドメイン、FabドメインおよびFcドメインを含む抗体構造の例示的模式図を示す。
【図4】組換え抗体産生の例示的方法を図示する。
【図5】OKT3抗体および本発明のある例示的対照抗体についての抗体産生を示す。
【図6】本発明のある例示的対照抗体のヒトジャーカット細胞への結合を証明するFACSプロットを示す。
【図7】本発明のある例示的対照抗体のヒトPBMCへの結合を証明するFACSプロットを示す。
【図8】OKT3重鎖をコードするpME-wtOKT3 HCベクターのマップを示す。
【図9】OKT3軽鎖をコードするpME-wtOKT3 LCベクターのマップを示す。
【図10】OKT3およびOKT3バリアントのジャーカット細胞への結合を示す。
【図11】バリアント抗体の薬物動態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
発明の詳細な説明
本発明は、抗体の三次元構造を実質的に改変することなく抗原結合を減少させるかまたは除去する十分に特徴付けられた可変ドメインを有する、親和性が低下した新規の抗体を提供する。本発明をより簡単に理解できるようにするために、ある特定の用語および句を以下ならびに明細書全体を通して定義する。
【0012】
「抗体」という用語は、生物学および生体医学の分野において十分に理解されており、かつ、一般に、抗体全体および任意の抗体断片、またはそれらの一本鎖を指す。抗体は、形質細胞として知られる特殊化したBリンパ球により分泌される糖タンパク質である。多くのタンパク質中に見出される共通の構造ドメインを含有するため、抗体はまた免疫グロブリン(Ig)とも呼ばれる。抗体は大概、典型的にはジスルフィド結合により接続された2つの重(H)鎖および2つの軽(L)鎖、または、それらの抗原結合部分を含む。各重鎖は重鎖可変領域(VH)および重鎖定常領域を含む。各軽鎖もまた可変領域(VL)および定常領域を含む。軽鎖定常領域は、一つのドメインであるCLを含む。VHおよびVL領域は、フレームワーク領域(FR)と名付けられたより保存される領域が散在している、相補性決定領域(CDR)と名付けられた超可変性の領域にさらに細分することができる。各VHおよびVLは、3つのCDRおよび4つのFRから構成され、アミノ末端からカルボキシ末端へ以下の順序で配置される:FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4。重鎖および軽鎖の可変領域は、抗原と相互作用する結合ドメインを含有する。
【0013】
本発明は抗体断片もまた含む。抗体断片の例は以下のものを含む:(i)VH、VL、CLおよびCH1ドメインからなる一価の断片であるFab断片;(ii)ヒンジ領域においてジスルフィド架橋により連結される2つのFab断片を含む二価の断片F(ab')2断片;(iii)VHおよびCH1ドメインからなるFd断片;(iv)抗体の単一の腕のVHおよびVLドメインからなるFv断片;(v)VHドメインからなるdAb断片(Wardら、(1989) Nature 341: 544-546);ならびに、(vi)単離された相補性決定領域(CDR)または(vii)合成リンカーにより任意で接合されていてもよい、2つもしくはそれ以上の単離されたCDRの組み合わせ。さらに、Fv断片の2つのドメインであるVHおよびVLは別々の遺伝子によりコードされているが、組換え方法を用いて、一価の分子を形成するようにVHおよびVL領域がペアを形成する単一のタンパク質鎖として作製されることを可能にする合成リンカーによりそれらを接合できる(一本鎖Fv(scFV)として知られる;Birdら、(1988) Science 242: 423-426;およびHustonら、(1988) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85: 5879-5883参照)。このような一本鎖抗体もまた抗体の「抗原結合部分」という用語により包含されるよう意図されている。本明細書中で使用される場合、「抗体」および「抗体断片」は、特に断りがない限り、本発明を記述するために互換的に使用される。
【0014】
「超可変領域」、「HVR」または「HV」という用語は、配列が超可変性であり、かつ、構造的に確定されたループを形成する、抗体の可変ドメインの領域を指す。一般に、抗体は6つのHVRを含み、3つをVH中(H1、H2、H3)におよび3つをVL(L1、L2、L3)中に含む。抗体分子において、VHドメインの3つのHVRおよびVLドメインの3つのHVRは、抗体結合表面を形成するように三次元構造にまとめられる。これらの配列は標的抗原の三次元構造と相補的な表面を形成するため、HVRはまた相補性決定領域(CDR)としても知られる。
【0015】
「CDR」およびその複数形の「CDRs」という用語は相補性決定領域(CDR)を指し、そのうちの3つが軽鎖可変領域の結合特質を作り出し(CDRL1、CDRL2およびCDRL3)、かつ3つが重鎖可変領域の結合特質を作り出す(CDRH1、CDRH2およびCDRH3)。CDRは抗体分子の機能活性に寄与し、かつ、足場またはフレームワーク領域を含むアミノ酸配列により分離されている。正確な定義によるCDRの境界および長さは、様々な分類および番号付けシステムに依存する。そのため、CDRについては、Kabat、Chotia、コンタクト(contact)またはその他の任意の境界定義を参照することができる。境界が異なるものの、これらのシステムのそれぞれがある程度の所謂「超可変領域」を構成する重複を可変配列内に有する。これらのシステムに従ったCDRの定義はそのため、隣接するフレームワーク領域に関して、その長さおよび境界領域が異なる。例えば、Kabat、Chothia、および/またはMacCallumらを参照のこと(Kabatら、「免疫学的興味におけるタンパク質の配列(Sequences of Proteins of Immunological Interest)」第5版、アメリカ合衆国保健社会福祉省、1992年;Chothiaら、J.Mol.Biol.、1987年、196: 901;および、MacCallumら、J.Mol.Biol.、1996年、262: 732、各々の全てが参照により組み入れられる)。
【0016】
「フレームワーク領域」または「FR」残基は、本明細書中に定義される通り、HVR残基以外の可変ドメイン残基である。例示的なフレームワーク領域がSEQ ID NO:15〜22として提供される。
【0017】
本明細書中の「Fc領域」という用語は、免疫グロブリン重鎖のC末端領域を定義するために使用され、天然配列のFc領域およびバリアントFc領域を含む。免疫グロブリン重鎖のFc領域の境界は異なる場合があるが、ヒトIgG重鎖Fc領域は通常、Cys226の位置のアミノ酸残基から、そのカルボキシ末端のPro230まで伸びると定義される。Fc領域のC末端リジン(EU番号付けシステムによると残基447)は、例えば、抗体の産生もしくは精製の間に、または、抗体の重鎖をコードする核酸の組換えによる遺伝子操作により、取り除かれ得る。従って、完全抗体の組成物は、全てのK447残基が取り除かれた抗体集団、K447残基が全く取り除かれていない抗体集団、および、K447残基を持つ抗体と持たない抗体の混合物である抗体集団を含み得る。本発明の抗体としての使用に好適な天然配列Fc領域は、IgG、IgM、IgA、IgDおよびIgEを含む。
【0018】
「Fc受容体」または「FcR」は、抗体のFc領域に結合する受容体を表す。好ましいFcRは天然配列ヒトFcRである。さらに、好ましいFcRはIgG抗体と結合するものであり(γ受容体)、かつ、対立遺伝子バリアントおよびこれらの受容体のオルタナティブスプライシング型を含むFcγRI、FcγRII、およびFcγRIIIサブクラスを含む。FcγRII受容体は、その細胞質ドメインが主に異なっている類似のアミノ酸配列を有するFcγRIIA(「活性化受容体」)およびFcγRIIB(「阻害性受容体」)を含む。活性化受容体FcγRIIAは、その細胞質ドメイン中に免疫受容体チロシンを基礎とした活性モチーフ(ITAM)含有する。阻害性受容体FcγRIIBは、その細胞質ドメイン中に免疫受容体チロシンを基礎とした阻害モチーフ(ITIM)を含有する(M. Daeron, Annu. Rev. Immunol. 15: 203-234 (1997)参照)。FcRは以下の文献に概説される:RavetchおよびKinet, Annu. Rev. Immunol. 9: 457-92 (1991);Capelら, Immunomethods 4: 25-34 (1994);ならびに、Haasら, J. Lab. Clin. Med. 126: 330-41 (1995)。その他のアイソタイプに結合するものならびに今後同定されるであろうものを含むその他のFcRは、本明細書中で「FcR」という用語により包含される。
【0019】
抗体は異種、同種もしくは同系、またはそれらの改変された形体(例えば、ヒト化、キメラ等々)であり得る。抗体はまた完全にヒト型であってもよい。本明細書中で使用される場合の「モノクローナル抗体」という用語は、単一の結合特異性および特定のエピトープに対する親和性を示す抗体を指す。従って、「ヒトモノクローナル抗体」という用語は、単一の結合特異性を示し、かつ、ヒト生殖細胞系または非生殖細胞系免疫グロブリン配列由来の可変領域および定常領域を有する抗体を指す。一態様において、ヒトモノクローナル抗体は、ヒト重鎖および軽鎖の導入遺伝子を含むゲノムを有する遺伝子導入非ヒト動物、例えば、遺伝子導入マウスから得られたB細胞を不死化細胞に融合したものを含むハイブリドーマにより産生される。
【0020】
本発明のある態様では、抗体またはその断片は、潜在的なグリコシル化部位を減少させるかまたは除去するために改変される。このような改変抗体はしばしば「非グリコシル化(aglycosylated)」抗体と呼ばれる。抗体またはその抗原結合断片の結合親和性を改善するために、抗体のグリコシル化部位を例えば、突然変異誘発(例えば、部位特異的突然変異誘発)により改変することができる。「グリコシル化部位」は真核細胞により糖残基結合のための位置として認識されるアミノ酸残基を指す。オリゴ糖等の炭水化物が結合されるアミノ酸は典型的にはアスパラギン(N結合)、セリン(O結合)およびスレオニン(O結合)残基である。抗体内または抗原結合断片内の潜在的なグリコシル化部位を同定するため、例えば、Center for Biological Sequence Analysis(N結合グリコシル化部位を予測する場合には、http://www.cbs.dtu.dk/services/NetNGlyc/、および、O結合グリコシル化部位を予測する場合にはhttp://www.cbs.dtu.dk/services/NetOGlyc/参照)により提供されるウェブサイト等の一般に入手できるデータベースを用いて抗体の配列が調べる。抗体のグリコシル化部位を改変するための追加の方法は米国特許第6,350,861号および同第5,714,350号に記載されている。さらに、抗体のグリコシル化はそれが産生される細胞、抗体の形態および細胞培養条件により影響され得る。本発明の好ましい細胞発現システムはヒト細胞発現システムである。
【0021】
「ヒト化抗体」という用語は、ヒト以外の哺乳動物由来の抗体のCDR、ならびにヒト抗体のFR領域および定常領域からなる抗体を指す。ヒト化抗体は、ヒト体内でのヒト化抗体の抗原性が低下しているため、治療剤中の有効成分として有用である。治療適用という状況においてヒト化抗体に対して親和性が低下した抗体を設計することが本発明の目的である。
【0022】
「組換え抗体」という用語は、(a)免疫グロブリン遺伝子に関して遺伝子導入したものであるかもしくはトランスクロモソーマル(transchromosomal)である動物(例えば、マウス)またはそれらから調製されたハイブリドーマから単離された抗体(以下の段落Iにさらに記載される)、(b)例えばトランスフェクトーマなどの抗体を発現するように形質転換された宿主細胞から単離された抗体、(c)組換えコンビナトリアル抗体ライブラリーから単離された抗体、ならびに(d)免疫グロブリン遺伝子配列の他のDNA配列へのスプライシングを含むその他の任意の手段により調製、発現、作出または単離された抗体等の組換え手段により調製、発現、作出または単離された全ての抗体を含む。このような組換え抗体は生殖細胞系および/または非生殖細胞系の免疫グロブリン配列由来の可変領域および定常領域を有する。ある態様ではしかしながら、このような組換え抗体は、インビトロ突然変異誘発(または、Ig配列について遺伝子導入した動物が使用される場合には、インビボ体細胞変異)に供することができ、そのため従って、組換え抗体のVH領域およびVL領域のアミノ酸配列は、ヒト生殖細胞系のVH配列およびVL配列に由来しかつ関連するが、インビボの生殖細胞レパートリー内には天然で存在しない場合がある。
【0023】
「二重特異性モノクローナル抗体」という用語は、その結合腕中に、二つの異なる型の抗原に対する二重の特異性を有するモノクローナル抗体を指す。二重特異性モノクローナル抗体は、自然には生じず、組換えDNAまたは細胞融合技術により作製されなければならない。この手法により、このような抗体が細胞毒性細胞(CD3などの受容体を用いて)および癌標的細胞(CD19など)に同時に結合することが可能となり、標的癌細胞のより効率的な致死が可能となる。二重特異性抗体の一方または両方の腕が抗原に対する低下したもしくは除去された親和性を有するように、二重特異性抗体の親和性が低下した抗体を設計することが、本発明の目的である。
【0024】
「KD」という用語は、特定の抗体-抗原相互作用の解離平衡定数を指すよう意図されている。抗体が一価のエピトープに結合する強さの度合いが、親和性と呼ばれる。ある場合において、抗体は抗原と多価の相互作用を構成し得る。このような場合、抗体/抗原相互作用の見掛けの解離平衡定数は一価の解離定数と異なり得る。
【0025】
抗体上の抗原結合部と特異的抗原の抗原決定エピトープの間に存在する非共有結合に依存して、親和性は異なる。典型的な状況においては、抗体はその特異的結合特性のために使用され、かつ、例えば、組換えタンパク質を分析物として、および抗体をリガンドとして用いてBIACORE機器において表面プラズモン共鳴(SPR)技術により決定された場合、抗体は、およそ10-8M、10-9Mもしくは10-10Mよりも小さい、またはさらに低い等のおよそ10-7Mよりも小さい親和性(KD)で結合し、かつ、予め決定された抗原もしくは密接に関連する抗原以外の非特異的抗原(例えば、BSA、カゼイン)への結合についての親和性よりも少なくとも1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2.0、2.5、3.0、3.5、4.0、4.5、5.0、6.0、7.0、8.0、9.0もしくは10.0倍のまたはそれより大きい親和性で予め決定された抗原に結合する。「抗原を認識する抗体」および「抗原に特異的な抗体」の句は、本明細書中で、「抗原と特異的に結合する抗体」という用語と互換的に使用される。「低下した親和性」を有する抗体は、10-7Mよりもおよそ10もしくは100もしくは1000倍大きい等の、およそ10-7Mよりも大きいKDを指す。抗原への特異的結合が殆どまたは全くない抗体を設計することが本発明の目的である。ある態様においては、本発明の抗体は、約10-7超または約10-7の解離定数(KD)を有する。より好ましくは、本発明の抗体は、約10-6超または約10-6の解離定数(KD)を有する。最も好ましくは、本発明の抗体は、定義された抗原に対する検出可能な特異的結合を全く有さない。
【0026】
Igクラスに依存して最大5個までの構造分子が、任意の一つの抗体を形成するように組み合わされ得る。哺乳動物では5クラスのIgがあり(IgG、IgM、IgA、IgDおよびIgE)、かつ鳥類では3 クラスある(IgY、IgMおよびIgE)。選択された哺乳動物ではIgGおよびIgAは、重鎖の保存領域中の多型によってアイソタイプと呼ばれるサブクラスにさらに細分化される。
【0027】
「核酸分子」または「ポリヌクレオチド」という用語はDNA分子およびRNA分子を含むよう意図されている。核酸分子は一本鎖または二本鎖であり得るが、好ましくは二本鎖DNAである。
【0028】
本発明は、ヌクレオチド配列によりコードされる抗体、もしくはアミノ酸配列を含有する抗体の結合特質に有意に影響しないか、または該結合特質を改変しないヌクレオチドおよびアミノ酸の配列改変を含む、図中に示される配列の「保存的配列改変」をさらに包含する。このような保存的配列改変はヌクレオチドおよびアミノ酸の置換、付加および欠失を含む。部位特異的変異誘発およびPCR仲介変異誘発等の当技術分野において公知の標準的な技術によって、改変は図中に示される配列中に導入され得る。保存的アミノ酸置換はアミノ酸残基が類似の側鎖を有するアミノ酸残基で置換されるものを含む。類似の側鎖を有するアミノ酸残基のファミリーは当技術分野において明らかにされている。これらのファミリーは、塩基性側鎖(例えば、リジン、アルギニン、ヒスチジン)、酸性側鎖(例えば、アスパラギン酸、グルタミン酸)、非電荷極性側鎖(例えば、グリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニン、チロシン、システイン、トリプトファン)、非極性側鎖(例えば、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン)、β分枝側鎖(例えば、スレオニン、バリン、イソロイシン)および芳香族側鎖(例えば、チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジン)を持つアミノ酸を含む。
【0029】
従って、本明細書中に開示される重鎖および軽鎖可変領域ヌクレオチド配列によりコードされる抗体、ならびに/または、本明細書中に開示される重鎖および軽鎖の可変領域アミノ酸配列を含有する抗体は、保存的に改変された類似の配列によりコードされるかまたはそれらの配列を含有する実質的に類似した抗体を含む。本明細書中に開示される配列(即ち、重鎖および軽鎖可変領域)に基づいて、このような実質的に類似する抗体をどのようにして作製できるかについて以下にさらに検討される。
【0030】
遺伝子配列を提供するために、本発明の核酸組成物は標準的技術により突然変異されていても良い。コード配列については、これらの突然変異は所望によりアミノ酸配列に影響し得る。特に、本明細書中に記載される天然のV、D、J、定常、スイッチおよびその他のこのような配列と実質的に相同な、または、これに由来するDNA配列が企図される(ここで、「由来する」とは、配列が別の配列と同一であるか、またはそれより改変されたことを指す)。
【0031】
以下の小節において本発明の種々の局面をさらに詳細に記載する。
【0032】
I.親和性が低下した抗体
本発明の親和性が低下した抗体は、抗原に対する結合を除去するかまたは減少させるために合理的に設計された抗体である。現時点で好ましい親和性が低下した抗体は、CDR領域を除いては全ての点で野生型(天然)抗体に類似し、かつ、野生型抗体に対して識別可能な三次元構造変化を殆ど示さない抗体である。例示的な抗体は、10倍低下した抗原に対する結合親和性を示すものである。好ましくは、親和性が低下した抗体は、100倍低下した抗原に対する結合親和性で抗原に結合する。より好ましくは、親和性が低下した抗体は、1000倍低下した抗原に対する結合親和性で抗原に結合する。最も好ましくは、親和性が低下した抗体は、抗原に対する実質的な結合を全く示さず、かつ、バックグラウンド結合レベルを超える抗原への特異的結合は検出できない。親和性は、表面プラズモン共鳴、または、放射性リガンド結合試験、または、フローサイトメトリーを含む一般的な実験方法により測定できる。本発明の親和性が低下した抗体は、抗原に対する特異的結合を保持するその野生型(天然)対応物のための対照試薬として、抗体の使用を含む多くのインビボおよびインビトロの適用において有用である。
【0033】
本発明の親和性が低下した抗体は、組換えDNA技術およびその他の標準的な分子細胞生物学技術等の種々の公知の技術を用いて産生できる。
【0034】
親和性が低下した組換え抗体は、当技術分野において周知の組換えDNA技術および遺伝子移入方法を用いて作製できる(Morrison, S. (1985) Science 229: 1202)。例えば、コード配列、公知の抗原特異性を持つ抗体コードポリヌクレオチドは、標準的な分子生物学技術(例えば、ポリメラーゼ連鎖反応)により増幅でき、かつ、発現ベクター(例えば、pME)中に連結することができる。コードされる抗体の抗原結合を崩壊するために、標準的な部位特異的変異誘発技術を用いて発現ベクター中に突然変異を導入できる。突然変異させた抗体重鎖および軽鎖遺伝子をコードする発現ベクターは、当技術分野において公知の技術(例えば、リン酸カルシウム沈降、エレクトロポレーション、リポフェクション)を用いて宿主細胞(例えば、293T細胞、CHO細胞)中に形質移入できる。
【0035】
宿主細胞中への発現ベクターの導入に続いて、細胞は培地中に突然変異させた抗体を産生し、かつ分泌し始める。例えば、突然変異させた抗体を発現する細胞を同定し、かつ選択することにより長期の大規模抗体産生を達成できる。当技術分野において公知の技術を用いて、これらの培養上清および/または細胞から、組換え抗体を単離および精製することができる。あるいは、突然変異させた抗体を、その他の発現システムにおいてもしくは完全な生物中で産生できるか、または合成的に産生することもできる。
【0036】
別の態様においては、抗体の重鎖および/または軽鎖が種々の種由来の定常ドメインに融合されたキメラ抗体として親和性が低下した抗体を作製できる。
【0037】
さらに、米国特許第5,565,332号等に開示される標準的なプロトコールに従って、親和性が低下したヒト化抗体を作製できる。別の態様においては、当技術分野において公知の技術を用い、例えば、米国特許第5,565,332号、同第5,871,907号または同第5,733,743号に記載される通りに、特定の抗体鎖のポリペプチド鎖および複製可能な汎用ディスプレイパッケージの成分の融合体をコードする核酸分子を含むベクターと、単一の結合対メンバーの第二のポリペプチド鎖をコードする核酸分子を含有するベクターの間の組換えにより、抗体鎖を産生できる。
【0038】
親和性が低下した抗体は、当技術分野において公知の組換えDNA技術を用いて、例えば、Robisonら国際特許公報PCT/US86/02269、Akiraら欧州特許出願第184,187号、Taniguchi M. 欧州特許出願第171,496号、Morrisonら欧州特許出願第173,494号、NeubergerらPCT出願WO86/01533、Cabillyら米国特許第4,816,567号、Cabillyら欧州特許出願第125,023号、Betterら(1988)Science 240: 1041-43、Liuら(1987)Proc. Natl. Acad. Sci. USA 84: 3439-3443、Liuら(1987)J. Immunol. 139: 3521-3526、Sunら(1987)Proc. Natl. Acad. Sci. USA 84: 214-218、Nishimuraら(1987)Cancer Res. 47: 999-1005、Woodら(1985)Nature 314: 446-449、およびShawら(1988)J. Natl. Cancer Inst. 80: 1553-1559、Morrison, S.L.(1985)Science 229: 1202-1207、Oiら(1986)Biotechniques 4: 214、Winter 米国特許第5,225,539号、Jonesら(1986)Nature 321: 552-525、Verhoeyanら(1988)Science 239: 1534、およびBeidlerら(1988)J. Immunol. 141: 4053-4060に記載の方法を用いて産生できる。
【0039】
本発明のさらに別の局面においては、親和性が低下した抗体を作製するおよび/または発現させるために、部分的なもしくは公知の抗体配列を用いることができる。抗体は、主として6つの重鎖および軽鎖の相補性決定領域(CDR)に位置するアミノ酸残基を介して、標的抗原と相互作用する。このため、CDR内のアミノ酸配列は、CDR外の配列よりも個々の抗体間でより多様である。CDR配列は殆どの抗体-抗原相互作用を担うため、異なる性質の異なる抗体由来のフレームワーク配列上に移植した、特定の抗体由来のCDR配列を含む発現ベクターを構築することにより、特定の抗体の特性を模倣する組換え抗体を発現させることができる(例えば、Riechmann, L.ら(1998)Nature 332: 323-327、Jones, P.ら(1986)Nature 321: 522-525およびQueen, C.ら(1989)Proc. Natl. Acad. Sci. USA 86: 10029-10033参照)。このようなフレームワーク配列は、生殖細胞系または非生殖細胞系の抗体遺伝子配列を含む、公共のDNAデータベースから得ることができる。これらの生殖細胞系配列は、B細胞成熟の間にV(D)J接合により形成される、完全に組み立てられた可変遺伝子を含まないため、成熟抗体遺伝子配列とは異なるであろう。生殖細胞系遺伝子配列はまた、均等に可変領域に亘って、個々における高親和性の第二のレパートリー抗体についての配列とも異なるであろう。例えば、体細胞突然変異はフレームワーク領域のアミノ末端部分において比較的にまれである。例えば、体細胞突然変異は、フレームワーク領域1のアミノ末端部分およびフレームワーク領域4のカルボキシ末端部分において比較的にまれである。さらに、多くの体細胞突然変異は抗体の結合特性を著しくは変化させない。このため、元の抗体の結合特性と類似した結合特性を有する組換え完全抗体を再構築するために、特定の抗体の全DNA配列を得る必要はない(1999年3月12日に出願されたPCT/US99/05535参照)。この目的のためには、CDR領域に亘る部分的な重鎖および軽鎖の配列が典型的には十分である。どの生殖細胞系および/または非生殖細胞系の可変遺伝子セグメントおよび連結遺伝子セグメントが組換え抗体の可変遺伝子に寄与したかを判定するために部分配列は使用される。その後、生殖細胞系配列および/または非生殖細胞系配列が可変領域の欠落している部分を埋めるために使用される。重鎖および軽鎖のリーダー配列は、タンパク質成熟の間に切断され、かつ、最終的な抗体の特性には寄与しない。欠落している配列を付加するため、ライゲーションまたはPCR増幅によりクローニングしたcDNA配列を合成オリゴヌクレオチドにより組み合わせることができる。あるいは、可変領域全体を、短く重なり合うオリゴヌクレオチドとして合成し、かつPCR増幅により組み合わせて、完全に合成された可変領域クローンを作製することができる。本工程は、特定の制限部位の除去もしくは包含、または、特定のコドン最適化等のある種の利点を有する。本工程はまた、一つの種(例えば、ヒト)における特定の免疫グロブリンコード配列のライブラリーをスクリーニングして、他の種(例えば、マウス)における公知の抗体配列から同種の免疫グロブリンコード配列を設計するために使用できる。
【0040】
ハイブリドーマ由来の重鎖および軽鎖の転写物のヌクレオチド配列は、天然配列と同等のアミノ酸コード容量の合成V配列を作製するための、合成オリゴヌクレオチドの重なり合うセットを設計するために使用される。合成の重鎖配列およびカッパ鎖配列は三つの点おいて天然配列と異なり得る:一連の反復ヌクレオチド塩基がオリゴヌクレオチド合成およびPCR増幅を容易にするよう中断されている点;コザックの法則(Kozak, 1991, J. Biol. Chem.)に従い最適翻訳開始部位が導入されている点;および、翻訳開始部位の上流に制限部位が遺伝子操作されている点。
【0041】
重鎖および軽鎖の両方の可変領域のために、最適化されたコードおよび対応する非コード鎖配列が、対応する非コードオリゴヌクレオチドのおよその中間点で30〜50ヌクレオチドに分けられる。従って、各鎖について、150〜400ヌクレオチドのセグメントに及ぶ重なり合う二本鎖のセットにオリゴヌクレオチドを組み立てることができる。その後、プールは150〜400ヌクレオチドのPCR増幅産物を産出するための鋳型として使用される。典型的には、単一の可変領域オリゴヌクレオチドセットが、2つの重なり合うPCR産物を産生するために別々に増幅される2つのプールに分けられる。これらの重なり合う産物はその後PCR増幅により全可変領域を形成するように結合される。発現ベクター構築物中に容易にクローニングできる断片を作製するために、PCR増幅において、重鎖および軽鎖の定常領域の重なり合う断片を含めることも望ましい場合がある。
【0042】
再構築された重鎖および軽鎖の可変領域はその後、発現ベクター構築物を形成するために、クローニングされたプロモーター、リーダー配列、翻訳開始、リーダー配列、定常領域、3'未翻訳、ポリアデニル化および転写終結配列と組み合わされる。重鎖および軽鎖の発現構築物は、単一のベクター中に組み合わせるか、宿主細胞中に、同時形質移入するか、連続的に形質移入するか、または別々に形質移入し、その後両鎖を発現する宿主細胞を形成するように融合することができる。
【0043】
この用途のためのプラスミドは、当技術分野において公知であり、かつ、以下の実施例の段落に示されるプラスミドを含む。その他の重鎖アイソタイプの発現、または、ラムダ軽鎖を含む抗体の発現のために、類似するプラスミドを構築することができる。従って、本発明の抗体はまた、異なる種由来の抗体の種々のアイソタイプ(IgG、IgE、IgA、IgMおよびIgD)を含む。
【0044】
本発明のさらに別の局面においては、親和性が低下した抗体は、ファージおよび/または酵母のディスプレイ技術を用いて作製できる。例えば、公知の抗原特異性の抗体の重鎖可変領域(VH)および軽鎖可変領域(VL)を一本鎖Fv断片として融合し、かつ、ファージおよび/または酵母表面上に提示できる。このようなscFvの提示はその標的抗原への強い結合活性を示すであろう。Fv断片の1つまたは複数のCDRにおいてランダム突然変異誘発を行うことができ、それによりファージライブラリーを構築する。ライブラリーは最早抗原結合を示さないクローンについて選択され、それにより、抗原結合を除去するかまたは減少させるCDR突然変異を同定することができる。
【0045】
親和性が低下した抗体の抗原特異性の減少および/または除去の確認は、当技術分野において公知の方法を用いて行うことができる。減少した抗原結合の証明のために有用な技術は、例えば、FACs分析、免疫ブロット、競合的結合アッセイ法、免疫組織化学および表面プラズモン共鳴技術を含む。抗原と抗体の間の相互作用を担うアミノ酸(結合アミノ酸)は、例えば、抗原表面上のアミノ酸と抗体のCDR領域中のアミノ酸の間の相互作用の分析により同定できる。これらの相互作用の性質は、ファンデルワールス力、水素結合および塩橋の3つの主なカテゴリーに分類できる。水素結合は、抗原決定基とCDRアミノ酸側鎖の間の水分子を介する場合もあるが、相互作用は、抗原決定基とCDRアミノ酸側鎖の間において最も一般的に形成される。ファンデルワールス力相互作用に最も頻繁に関与するCDRアミノ酸には、Ala、Phe、Ile、Leu、Asn、Pro、Gln、Val、TrpおよびTyrが含まれる。塩橋を最も頻繁に形成するCDRアミノ酸には、Asp、Glu、ArgおよびLysが含まれる。水素結合相互作用に最も頻繁に関与するCDRアミノ酸には、Asp、Glu、His、Lys、Arg、SerおよびTyrが含まれる。抗原相互作用に関与するCDRアミノ酸の分析は、ある種のアミノ酸がその他のものよりも抗体/抗原相互作用に関与する可能性が高いパターンを明らかにする。結合アミノ酸/抗原相互作用は、CDR領域内の特異的アミノ酸の部位特異的突然変異誘発(突然変異)または抗原-抗体複合体の結晶構造の分析(結晶(x-tal))のどちらかにより決定された。この分析で使用された抗体は表1に列挙される。
【0046】
(表1)抗体/抗原相互作用分析に使用された抗体


【0047】
抗体/抗原相互作用の分析は、Tyrが抗原決定基と最も頻繁に相互作用し、全相互作用の約四分の一を占め、続いて、相互作用の約14%を担うSerが続くことを明らかにする(表2、図2)。AsnおよびGluを加えたこれら4つのアミノ酸は全接触の半分以上(56%)を占めていた。このような抗原接触CDRアミノ酸の偏りは、抗原決定基と最も相互作用する可能性があるCDRアミノ酸を同定するためのアルゴリズムを作成することを可能にする。簡潔には、CDR領域は当技術分野において公知でかつ上に記載される方法に基づいて同定される。公知の結晶構造の抗体については、抗原決定基に接触するCDR残基を決定するために構造を分析することができる。その構造が知られていないかまたは入手できない抗体については、抗原相互作用に関与している可能性があるCDR残基は、表2および図3に示される頻度に基づいて決定できる。
【0048】
本発明の親和性が低下した抗体は、抗原を結合できる抗体中の抗体/抗原接触(結合アミノ酸)に関与する1つまたは複数のアミノ酸の改変により作製できる。結合アミノ酸は、これらに限定されないが、結晶構造分析およびアミノ酸接触頻度統計の使用(表2および図3)を含む、当技術分野において公知のまたは本明細書中に記載のいずれかの技術を用いて同定できる。ある態様では、少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29または30個の結合アミノ酸が改変される。ある態様では、結合アミノ酸の少なくとも10%、25%、50%、60%、70%、80%、85%、90%、95%または100%が改変される。結合アミノ酸の改変は、これらに限定されないが、結合アミノ酸の非結合アミノ酸への置換および/または結合アミノ酸の欠失を含む、抗原との接触を形成する結合アミノ酸の能力を崩壊する任意の方法を用いて行ってもよい。結合アミノ酸はまた、結合アミノ酸の上流もしくは下流のどちらかの、抗原と接触する結合アミノ酸の能力を崩壊する欠失、置換または挿入により改変することができる。
【0049】
(表2)抗原決定基に接触するCDRアミノ酸の頻度

【0050】
II.単離された核酸分子
本発明の一局面は、本発明のポリペプチドをコードする単離された核酸分子、ならびに、これらのポリペプチドをコードする核酸分子を同定するためのハイブリダイゼーションプローブとして充分な核酸断片、および、核酸分子の増幅または突然変異のためのPCRプライマーとして使用するための断片と関係する。本明細書中で使用される場合、「核酸分子」または「ポリヌクレオチド」という用語は、DNA分子(例えば、cDNAまたはゲノムDNA)およびRNA分子(例えば、mRNA)および、ヌクレオチドアナログを用いて作製されたDNAまたはRNAのアナログを含むよう意図されている。核酸分子は一本鎖または二本鎖であり得るが、好ましくは二本鎖DNAである。
【0051】
本発明の核酸分子は、標準的分子生物学技術および本明細書中に提供される配列情報を用いて単離できる。例えば、本発明の核酸分子は、本発明の配列に基づいて設計された合成オリゴヌクレオチドプライマーを用いたポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により単離できる。
【0052】
本発明の核酸分子は、標準的なPCR増幅技術に従って、cDNA、mRNAまたは代わりにゲノムDNAを鋳型として、かつ、適切なオリゴヌクレオチドプライマーを用いて増幅できる。このようにして増幅された核酸分子は適切なベクター中にクローニングでき、かつDNA配列分析により特徴付けすることができる。さらに、本発明の核酸配列に対応するオリゴヌクレオチドは、例えば自動DNA合成機を用いるような標準的な合成技術により調製できる。
【0053】
別の態様においては、本発明の単離された核酸分子は、記載された核酸分子に対する相補物である核酸分子を含む。記載された核酸分子に対して相補的な核酸分子とは、本発明のヌクレオチド配列にハイブリダイズし、それにより安定な二本鎖を形成することができるように記載されたヌクレオチド配列に対して十分に相補的なものである。
【0054】
さらに別の態様においては、本発明の単離された核酸分子は、本発明のヌクレオチド配列の全長と少なくとも約70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%もしくはそれ以上同一であるヌクレオチド配列を含むか、または、これらのヌクレオチド配列のいずれかの一部分を含む。
【0055】
本発明はさらに、本発明のポリペプチドをコードするヌクレオチド配列とは、遺伝子コードの縮重により異なり、かつ、それぞれのヌクレオチド配列によりコードされるポリペプチドと同じものをコードする核酸分子を包含する。別の態様において、本発明の単離された核酸分子は本発明のポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を有する。
【0056】
本発明の核酸分子の相同体に対応する核酸分子は、本明細書中に開示される核酸に対するその相同性に基づいて、本明細書中に開示されるcDNAまたはその部分をハイブリダイゼーションプローブとして用いて、ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下、標準的なハイブリダイゼーション技術に従って単離できる。
【0057】
従って、別の態様において、本発明の単離された核酸分子は、少なくとも15、20、25、30個またはそれ以上のヌクレオチドの長さであり、かつ、本発明の核酸分子を含む核酸分子に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズする。
【0058】
本明細書中で使用される場合、「ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする」という用語は、互いに対して有意に同一のまたは相同なヌクレオチド配列が互いに対してハイブリダイズしたままであるハイブリダイゼーションおよび洗浄のための条件を表すよう意図されている。好ましくは、少なくとも約70%、より好ましくは少なくとも約80%、より一層好ましくは少なくとも約85%または90%互いに同一な配列が互いに対してハイブリダイズしたままであるような条件である。このようなストリンジェントな条件は、当業者に公知であり、かつ、Current Protocols in Molecular Biology、Ausubelら編、John Wiley & Sons, Inc.(1995)の第2、4および6段落に見出され得る。追加のストリンジェントな条件はMolecular Cloning: A Laboratory Manual、Sambrookら、Cold Spring Harbor Press、Cold Spring Harbor、N.Y.(1989)、第7、9および11章に見出され得る。ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件の非限定的な例は、4×または6×塩化ナトリウム/クエン酸ナトリウム(SSC)中での約65〜70℃におけるハイブリダイゼーション(または、約42〜50℃における4×SSC+50%ホルムアミド中でのハイブリダイゼーション)に続いての、1×SSC中の約65〜70℃における1回または複数回の洗浄を含む。ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件のさらなる非限定的な例は、6×SSC、45℃におけるハイブリダイゼーションに続いての0.2×SSC、0.1%SDS中の65℃における1回または複数回の洗浄を含む。高度にストリンジェントなハイブリダイゼーション条件の非限定的な例は、1×SSC中の約65〜70℃におけるハイブリダイゼーション(または、1×SSC+50%ホルムアミド中の約42〜50℃におけるハイブリダイゼーション)に続いての0.3×SSC中の約65〜70℃における1回もしくは複数回の洗浄を含む。ストリンジェンシーが低下したハイブリダイゼーション条件の非限定的な例は、4×SSC中または6×SSC中の約50〜60℃におけるハイブリダイゼーション(または代わりに、6×SSC+50%ホルムアミド中の約40〜45℃におけるハイブリダイゼーション)に続いての2×中の約50〜60℃における1回もしくは複数回の洗浄を含む。上記した値の中間の範囲、例えば、65〜70℃または42〜50℃もまた本発明に包含されるよう意図されている。ハイブリダイゼーションバッファー中および洗浄バッファー中、SSPE(1×SSPEは0.15M NaCl、10mM NaH2PO4、および1.25mM EDTA、pH7.4である)でSSC(1×SSCは0.15M NaClおよび15mMクエン酸ナトリウムである)を置換でき;洗浄は、ハイブリダイゼーションが終了した後、各々15分間行われる。長さが50塩基対よりも短いと予想されるハイブリッドについてのハイブリダイゼーション温度は、ハイブリッドの融点(Tm)よりも5〜10℃低くあるべきであり、Tmは以下の式により決定される。長さが18塩基対よりも短いハイブリッドについては、Tm(℃)=2(A+T塩基の数)+4(G+C塩基の数)である。長さが18塩基対から49塩基対の間のハイブリッドについては、Tm(℃)=81.5+16.6(log10[Na+])+0.41(%G+C)-(600/N)であり、Nはハイブリッド中の塩基数であり、かつ[Na+]はハイブリダイゼーションバッファー中のナトリウムイオン濃度(1×SSC=0.165Mについての[Na+])である。例えば、ニトロセルロースまたはナイロン膜である膜への核酸分子の非特異的ハイブリダイゼーションを減らすため、ハイブリダイゼーションおよび/または洗浄バッファーに、ブロッキング試薬(例えば、BSA、またはサケもしくはニシン精子キャリヤーDNA)、界面活性剤(例えば、SDS)、キレート剤(例えば、EDTA)、フィコール、PVP等々を含むがこれらに限定されない追加の試薬が添加されても良いことが熟達した専門家には認識されるであろう。特にナイロン膜を使用する場合のストリンジェントなハイブリダイゼーション条件の追加の非限定的な例は、0.25〜0.5M NaH2PO4、7%SDS中の約65℃におけるハイブリダイゼーションに続いての0.02M NaH2PO4、1%SDSによる65℃における1回もしくは複数回の洗浄である(例えば、ChurchおよびGilbert(1984)Proc. Natl. Acad. Sci. USA 81: 1991-1995参照)(または代わりに0.2×SSC、1%SDS)。
【0059】
当業者はさらに、本発明の核酸分子中に突然変異により変化が導入され、それによって、本発明のコードされるポリペプチドの機能的能力を変えることなく、該ポリペプチドのアミノ酸配列中における変化を引き起こし得ることを認識するであろう。例えば、「非必須」アミノ酸残基におけるアミノ酸置換を引き起こすヌクレオチド置換を本発明の核酸分子中に作製できる。「非必須」アミノ酸残基とは、生物学的特性を改変することなく本発明の核酸分子において改変できる残基であるのに対し、「必須」アミノ酸残基は生物学的特性に必要とされる。例えば、抗体分子の構造的完全性に重要なアミノ酸残基は改変を特に受け入れられないものと予想される。
【0060】
従って、本発明の別の局面は、活性に必須ではないアミノ酸残基に変化を含有する本発明のポリペプチドをコードする核酸分子に関係する。このようなポリペプチドは図2〜7のものとアミノ酸配列が異なるものの、生物活性を維持している。一態様において、単離された核酸分子は、ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含み、このポリペプチドは、本発明のポリペプチドと少なくとも約71%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%またはそれ以上同一であるアミノ酸配列を含む。
【0061】
本発明のポリペプチドと同一なポリペプチドをコードする単離された核酸分子は、コードされるポリペプチドに1つもしくは複数のアミノ酸の置換、付加または欠失が導入されるように、本発明のヌクレオチド配列中に1つもしくは複数のヌクレオチド置換、付加もしくは欠失を導入することにより作出できる。突然変異は、部位特異的突然変異誘発およびPCR媒介突然変異誘発等の標準的な技術により本発明の核酸分子中に導入できる。一態様において、保存的アミノ酸置換が一つまたは複数の予想された非必須アミノ酸残基において行われる。「保存的アミノ酸置換」は、アミノ酸残基が類似した側鎖を有するアミノ酸残基で置き換えられるものである。類似した側鎖を有するアミノ酸残基のファミリーは当技術分野において明らかにされている。これらのファミリーは、塩基性側鎖を持つアミノ酸(例えば、リジン、アルギニン、ヒスチジン)、酸性側鎖を持つアミノ酸(例えば、アスパラギン酸、グルタミン酸)、非荷電極性側鎖を持つアミノ酸(例えば、アスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニン、チロシン、システイン)、非極性側鎖を持つアミノ酸(例えば、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン)、β分枝側鎖を持つアミノ酸(例えば、スレオニン、バリン、イソロイシン)および芳香族側鎖を持つアミノ酸(例えば、チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジン)を含む。従って、本発明のポリペプチド中の予想される非必須アミノ酸残基(例えば、図2〜7中のもの)は同じ側鎖ファミリー由来の別のアミノ酸残基と置換できる。あるいは、別の態様において、飽和突然変異誘発等によって本発明の核酸分子の全体または部分に沿って突然変異をランダムに導入でき、かつ、生物活性について得られた変異体をスクリーニングして、活性を維持する変異体を同定することができる。本発明の核酸分子の突然変異誘発に続いて、コードされるポリペプチドを組換えにより発現でき、かつ、ポリペプチドの活性を判定することができる。
【0062】
細胞株内または微生物内における本発明の核酸分子の発現特徴は、挿入された調節エレメントが本発明の核酸分子と作動可能に連結されるように、安定な細胞株またはクローン化された微生物のゲノム中に異種性DNA調節エレメントを挿入することにより改変し得る。例えば、当業者に周知であり、かつ、例えば、Chappel米国特許第5,272,071号、1991年5月16日に公開されたPCT公報番号WO91/06667に記載される標的化相同組換え等の技術を用いて、異種性調節エレメントは、本発明の核酸分子と作動可能に連結されるように、安定な細胞株またはクローン化された微生物中に挿入され得る。
【0063】
III.単離されたポリペプチド分子
本発明の一局面は単離されたポリペプチドに関係する。一態様において、本発明のポリペプチドは、細胞または組織源から、標準的なタンパク質精製技術を用いた適切な精製スキームにより単離できる。別の態様においては、本発明のポリペプチドは組換えDNA技術により産生される。あるいは、本発明のポリペプチドは標準的なペプチド合成技術を用いて化学的に合成できる。
【0064】
「単離された」または「精製された」ポリペプチドは、本発明のポリペプチドが得られる細胞由来もしくは組織源由来の細胞材料またはその他の混入するタンパク質を実質的に含まないか、あるいは、化学的に合成された場合には化学的前駆物質またはその他の化学物質を実質的に含まない。「細胞材料を実質的に含まない」という言い回しは、ポリペプチドが、単離される細胞または組換え生産された細胞の細胞性成分から分離されているポリペプチドである、本発明のポリペプチド調製物を含む。一態様において、「細胞材料を実質的に含まない」という言い回しは、本発明のものでないタンパク質(本明細書中、「混入タンパク質」とも呼ばれる)を約30%(乾重量)よりも少なく、より好ましくは本発明のものでないタンパク質を約20%よりも少なく、さらに一層好ましくは本発明のものでないタンパク質を約10%よりも少なく、かつ、最も好ましくは本発明のものでないタンパク質を約5%よりも少なく有する、本発明のポリペプチド調製物を含む。本発明のポリペプチドが組換え産生されている場合、また実質的に培地を含まないことも好ましく、即ち、培地は、タンパク質調製物の容量の約20%よりも少ない、より好ましくは約10%よりも少ない、かつ最も好ましくは約5%よりも少ない量に相当する。
【0065】
「化学的前駆体またはその他の化学物質を実質的に含まない」という言い回しは、ポリペプチドがポリペプチドの合成に関与する化学的前駆体またはその他の化学物質から分離された、本発明のポリペプチド調製物を含む。一態様において、「化学的前駆体またはその他の化学物質を実質的に含まない」という言い回しは、化学的前駆体または本発明のものでないタンパク質を約30%(乾重量)よりも少なく、より好ましくは化学的前駆体または本発明のものでないタンパク質を約20%よりも少なく、さらに一層好ましくは化学的前駆体または本発明のものでないタンパク質を約10%よりも少なく、かつ最も好ましくは化学的前駆体または本発明のものでないタンパク質を約5%よりも少なく有する、本発明のポリペプチド調製物を含む。
【0066】
別の態様において、本発明のポリペプチド(例えば、本発明の親和性が低下した抗体をコードするもの)は、SEQ ID NO:1〜14の1つまたは複数を含むアミノ酸配列を有する。
【0067】
2つのアミノ酸配列または2つの核酸配列のパーセント同一性を決定するために、配列は最適比較目的のために整列される(例えば、最適な整列のために第一および第二のアミノ酸または核酸の配列の一方もしくは両方にギャップを導入でき、かつ、比較対象について非同一配列を無視できる)。一態様において、比較対象として整列された参照配列の長さは、参照配列の長さの少なくとも30%、好ましくは少なくとも40%、より好ましくは少なくとも50%、さらに一層好ましくは少なくとも60%、かつさらに一層好ましくは少なくとも70%、80%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、99.5%または99.9%である。対応するアミノ酸位置またはヌクレオチド位置のアミノ酸残基またはヌクレオチドがその後比較される。第一の配列中の位置が、第二の配列中の対応する位置のアミノ酸残基またはヌクレオチドで占められている場合、その時には、これらの分子はその位置において同一である(本明細書中で使用される場合、アミノ酸または核酸の「同一性」はアミノ酸または核酸の「相同性」と同等である)。この2つの配列間のパーセント同一性は、2つの配列の最適に整列するために導入される必要があるギャップの数および各ギャップの長さを考慮に入れた、これらの配列において共通する同一な位置の数の関数である。
【0068】
記載されたポリペプチドのアミノ酸配列は、当業者が対応するポリペプチドを産生するのを可能にする。このようなポリペプチドは、本発明のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの原核または真核の宿主細胞中での発現により産生できる。あるいは、このようなポリペプチドは化学的方法により合成できる。組換え宿主中の異種ポリペプチドの発現、ポリペプチドの化学合成、およびインビトロ翻訳の方法は当技術分野において周知であり、かつ、参照により本明細書に組み入れられる、Maniatisら、Molecular Cloning: A Laboratory Manual(1989)第二版、Cold Spring Harbor, N.Y.;BergerおよびKimmel、Methods in Enzymology第152巻、Guide to Molecular Cloning Techniques(1987)Academic Press, Inc.、Sandiego、Calif.;Merrifield, J.(1969)J. Am. Chem. Soc. 91: 501;Chaiken I.M.(1981)CRC Crit. Rev. Biochem. 11: 255;Kaiserら(1989)Science 243: 187;Merrifield, B.(1986)Science 232: 342;Kent, S.B.H.(1988)Annu. Rev. Biochem. 57: 957;ならびに、Offord, R.E.(1980)Semisynthetic Proteins、Wiley Publishingにさらに記載されている。
【0069】
IV.組換え発現ベクターおよび宿主細胞
本発明の別の局面は、本発明のポリペプチド(またはその一部)をコードする核酸分子を含有するベクター、好ましくは発現ベクターに関係する。本明細書中で使用される場合、「ベクター」という用語は、それに連結された別の核酸を運ぶことができる核酸分子を指す。ベクターの一つの型は、追加のDNAセグメントを連結することができる環状の二本鎖DNAループを指す「プラスミド」である。別の型のベクターは、ウイルスゲノム中に追加のDNAセグメントをすることが連結できるウイルスベクターである。あるベクターは、それが導入された宿主細胞中で自己複製できる(例えば、細菌の複製起点を有する細菌ベクター、および哺乳類のエピソームベクター)。その他のベクター(例えば、哺乳類の非エピソームベクター)は、宿主細胞への導入後、宿主細胞のゲノム中に組み込まれ、かつそれにより宿主ゲノムと共に複製される。さらに、あるベクターは作動可能に連結された遺伝子の発現を指示することができる。このようなベクターは本明細書中で「発現ベクター」と呼ばれる。一般に、組換えDNA技術において役立つ発現ベクターはしばしばプラスミドの形態をとる。プラスミドはベクターの最も一般的に使用される形態であるため、本明細書中において「プラスミド」および「ベクター」は互換的に使用できる。しかしながら、本発明は、同等の機能を提供するウイルスベクター(例えば、複製欠損レトロウイルス、アデノウイルスおよびアデノ関連ウイルス)等のこのような他の形態の発現ベクターも含むよう意図されている。
【0070】
本発明の組換え発現ベクターは、本発明の核酸を核酸の宿主細胞中での発現に適する形態で含み、これは、組換え発現ベクターが、発現に使用される宿主細胞に基づいて選択された1つまたは複数の、発現される核酸配列に作動可能に連結された制御配列を含むことを意味する。組換え発現ベクターにおいて、「作動可能に連結された」は、所望のヌクレオチド配列が、ヌクレオチド配列の発現を可能にする方法で、制御配列に連結されていることを意味するよう意図されている(例えば、インビトロ転写/翻訳システムにおいて、または、宿主細胞にベクターが導入される場合には宿主中において)。「制御配列」という用語は、プロモーター、エンハンサーおよびその他の発現調節エレメント(例えば、ポリアデニル化シグナル)を含むよう意図されている。このような制御配列は、例えば、Goeddel(1990)Methods Enzymol. 185: 3-7に記載されている。制御配列は、ヌクレオチド配列の構成的発現を多くの型の宿主細胞において指示するもの、および、ある宿主細胞においてのみヌクレオチド配列の発現を指示するもの(例えば、組織特異的制御配列)を含む。当業者には、発現ベクターの設計が、形質転換される宿主細胞の種類、タンパク質の所望の発現レベル等々の要素等に依存することが察知されるであろう。本発明の発現ベクターは、融合タンパク質またはペプチドを含む、本明細書中に記載されるような核酸にコードされるタンパク質またはペプチドをそれによって産生するために宿主細胞に導入できる。
【0071】
本発明の組換え発現ベクターは、本発明のポリペプチドの原核または真核の細胞中での発現のために設計できる。例えば、ポリペプチドは、大腸菌等の細菌細胞、昆虫細胞(バキュロウイルス発現ベクターを用いて)、酵母細胞、または哺乳動物細胞中で発現できる。好適な宿主細胞はさらに上述のGoeddel(1990)中で議論されている。あるいは、組換え発現ベクターは、例えば、T7プロモーター制御配列およびT7ポリメラーゼを用いて、インビトロにおいて転写および翻訳できる。
【0072】
原核生物におけるポリペプチドの発現は、融合タンパク質または非融合タンパク質のいずれかの発現を指示する構成的プロモーターまたは誘導可能プロモーターを含有するベクターにより、大腸菌中で最も頻繁に行われる。融合ベクターはその中にコードされるポリペプチドに多数のアミノ酸を、通常、組換えポリペプチドのアミノ末端に付加する。このような融合ベクターは、典型的には3つの目的を果たす:(1)組換えポリペプチドの発現を増加するため;(2)組換えポリペプチドの可溶性を増加するため;ならびに、(3)親和性精製においてリガンドとして作用することにより組換えポリペプチドの精製を助けるため。融合発現ベクターにおいてはしばしば、融合タンパク質の精製後に組換えポリペプチドの融合部分からの分離を可能にするために、融合部分および組換えポリペプチドの連結部にタンパク質分解性の切断部位が導入されている。このような酵素およびそれらの同起源の認識配列は、第Xa因子、トロンビンおよびエンテロキナーゼを含む。典型的な融合発現ベクターは、グルタチオンS-トランスフェラーゼ(GST)、マルトースE結合タンパク質またはプロテインAを標的組換えポリペプチドに各々融合するpGEX(Pharmacia Biotech Inc.;Smith, D.B.およびJohnson, K.S.(1988)Gene 67: 31-40)、pMAL(New England Biolabs, Beverly, Mass.)ならびにpRIT5(Pharmacia, Piscataway, NJ)を含む。
【0073】
好適な誘導可能な非融合大腸菌発現ベクターの例は、pTrc(Amannら(1988)Gene 69: 301-315)およびpET1Id(Studierら(1990)Methods Enzymol. 185: 60-89)を含む。pTrcベクターからの標的遺伝子発現は、ハイブリッドtrp-lac融合プロモーターからの宿主RNAポリメラーゼ転写に依存する。pET11dベクターからの標的遺伝子発現は、共発現したウイルスRNAポリメラーゼ(T7 gn1)に媒介されるT7 gn10-lac融合プロモーターからの転写に依存する。このウイルスポリメラーゼは、lacUV5プロモーターの転写制御下のT7 gn1遺伝子を持つ常在プロファージから、宿主株BL21(DE3)またはHMS174(DE3)により供給される。
【0074】
大腸菌中での組換えポリペプチド発現を最大にするための一つのストラテジーは、組換えポリペプチドをタンパク質分解する能力が損なわれた宿主細菌中でポリペプチドを発現することである(Gottesman, S.(1990)Methods Enzymol. 185: 119-128)。別のストラテジーは、発現ベクター中に挿入される核酸の核酸配列を、各アミノ酸についての個々のコドンを大腸菌中で優先的に用いられるものに改変することである(Wadaら(1992)Nucleic Acids Res. 20: 2111-2118)。このような本発明の核酸配列の改変は標準的なDNA合成技術により行うことができる。
【0075】
別の態様において、発現ベクターは酵母発現ベクターである。酵母S.セレビシアエ(S. cerevisiae)中での発現のためのベクターの例は、pYepSec1(Baldariら(1987)EMBO J. 6: 229-234)、pMFa(KurjanおよびHerskowitz(1982)Cell 30: 933-943)、pJRY88(Schultzら(1987)Gene 54: 113-123)、pYES2(Invitrogen Corporation, San Diego, Calif.)ならびにpicZ(Invitrogen Corp,San Diego, Calif.)を含む。
【0076】
あるいは、本発明のポリペプチド(例えば、図2〜7)は、バキュロウイルス発現ベクターを用いて昆虫細胞中で発現できる。ポリペプチドの培養昆虫細胞(例えば、Sf9細胞)中での発現に使用できるバキュロウイルスベクターは、pAcシリーズ(Smithら(1983)Mol. Cell Biol. 3: 2156-2165)ならびにpVLシリーズ(LucklowおよびSummers(1989)Virology 170: 31-39)を含む。
【0077】
さらに別の態様において、本発明の核酸(例えば、図2〜7)は哺乳動物発現ベクターを用いて哺乳動物細胞中で発現される。哺乳動物発現ベクターの例は、pCDM8(Seed, B.(1987)Nature 329: 840)およびpMT2PC(Kaufmanら(1987)EMBO J. 6: 187-195)を含む。哺乳動物細胞中で使用される場合、発現ベクターの制御機能はしばしばウイルス調節エレメントにより提供される。例えば、一般に使用されるプロモーターは、ポリオーマ、アデノウイルス2型、サイトメガロウイルスおよびシミアンウイルス40由来である。原核細胞と真核細胞の両方についてのその他の好適な発現ベクターについては、Sambrook J.ら、Molecular Cloning: A Laboratory Manual第二版、Cold Spring Harbor Laboratory、Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor、N.Y.、1989年の第16および17章を参照のこと。
【0078】
別の態様において、組換え哺乳動物発現ベクターは、核酸の発現を優先的に特定の細胞型において指示できる(例えば、核酸の発現のために組織特異的調節エレメントが使用される)。組織特異的調節エレメントは当技術分野において公知である。好適な組織特異的プロモーターの非限定的な例は、アルブミンプロモーター(肝臓特異的;Pinkertら(1987)Genes Dev. 1: 268-277)、リンパ球特異的プロモーター(CalameおよびEaton(1988)Adv. Immunol. 43: 235-275)、T細胞受容体の特定のプロモーター(WinotoおよびBaltimore(1989)EMBO J. 8: 729-733)ならびに免疫グロブリン(Banerjiら(1983)Cell 33: 729-740;QueenおよびBaltimore(1983)Cell 33: 741-748)、ニューロン特異的プロモーター(例えば、神経フィラメントプロモーター;ByrneおよびRuddle(1989)Proc. Natl. Acad. Sci. USA 86: 5473-5477)、膵臓特異的プロモーター(Edlundら(1985)Science 230: 912-916)、ならびに、乳腺特異的プロモーター(例えば、乳清プロモーター;米国特許第4,873,316号および欧州特許出願公開第264,166号)を含む。発生的に調節されるプロモーターもまた包含され、例えば、マウスhoxプロモーター(KesselおよびGruss(1990)Science 249: 374-379)ならびにα-フェトプロテインプロモーター(CampesおよびTilghman(1989)Genes Dev. 3: 537-546)がある。
【0079】
本発明の別の局面は、組換え発現ベクター内に、または、宿主細胞ゲノムの特異的部位中への相同組換えを可能にする配列を含む核酸分子内に、発明の核酸分子が導入された宿主細胞に関連する。「宿主細胞」および「組換え宿主細胞」という用語は本明細書中で互換的に使用される。このような用語は、特定の対象細胞だけでなく、このような細胞の子孫または潜在的な子孫を指すことが理解される。突然変異または環境の影響によりある種の改変が後続の世代において起こり得るため、このような子孫は実際には親細胞とは同一ではない場合があるが、本発明で使用される用語の範囲内に依然として含まれる。
【0080】
宿主細胞は任意の原核細胞または真核細胞であり得る。例えば、本発明のポリペプチドは、大腸菌等の細菌細胞中、昆虫細胞中、酵母中または哺乳動物細胞(チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO)もしくはCOS細胞等)中で発現できる。その他の好適な宿主細胞は当業者に公知である。
【0081】
ベクターDNAは、原核細胞または真核細胞に従来の形質転換技術または形質移入技術を介して導入できる。本明細書中で使用される場合、「形質転換」および「形質移入」という用語は、リン酸カルシウムまたは塩化カルシウム共沈、DEAE-デキストラン媒介形質移入、リポフェクション、またはエレクトポーレションを含む、外来核酸(例えば、DNA)を宿主細胞に導入するための種々の当技術分野において認識される技術を指すよう意図されている。宿主細胞を形質転換細胞または宿主細胞に形質移入するための好適な方法はSambrookら(Molecular Cloning: A Laboratory Maunal 第二版、Cold Spring Harbor Laboratory、Cold Sprig Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor、N.Y.、1989年)およびその他の実験マニュアル中に見出すことができる。
【0082】
哺乳動物細胞の安定的な形質移入のため、使用される発現ベクターおよび形質移入技術に依存して、細胞の小さい画分のみが外来DNAをそのゲノム中に組み込む場合があることが知られている。これらの組み込み物を同定しかつ選択するために、選択マーカー(例えば、抗生物質に対する耐性)をコードする遺伝子が所望の遺伝子と共に宿主細胞中に一般的に導入される。好ましい選択マーカーは、G418、ハイグロマイシンおよびメトトレキサート等の薬物に対する耐性を付与するものを含む。選択マーカーをコードする核酸は、本発明のポリヌクレオチドと同じベクター上において宿主細胞中に導入できるか、または、別のベクター上において導入できる。導入された核酸により安定に形質移入された細胞は薬剤選択により同定できる(例えば、他の細胞は死滅するのに対し、選択マーカーを組み込んだ細胞は生き残る)。
【0083】
培養物中の原核または真核の宿主細胞等の本発明の宿主細胞は、本発明のポリペプチドを産生(即ち、発現)するために使用できる。従って、本発明はさらに、本発明の宿主細胞を使用して本発明のポリペプチドを産生するための方法を提供する。一態様において、該方法は、本発明のポリペプチドが産生されるように、本発明の宿主細胞(本発明のポリペプチドをコードする組換え発現ベクターが導入された)を好適な培地中で培養することを含む。別の態様において、該方法はさらに本発明のポリペプチドを培地または宿主細胞から単離することを含む。
【0084】
本発明の宿主細胞はまた、以下に記載される通り、非ヒト遺伝子導入動物を産生するために使用できる。
【0085】
V.使用方法
親和性が低下した抗体は、例えば、所定の治療レジメンの有効性を判定するために、臨床試験工程の一部として組織中のポリペプチドレベルを診断的または予後的にモニターするように設計されたアッセイ法において使用できる。抗体を検出可能な物質にカップリングすること(即ち、物理的に連結すること)により検出を容易にできる。検出可能な物質の例は、種々の酵素、補欠分子団、蛍光材料、発光材料、生物発光材料および放射活性材料を含む。好適な酵素の例は、西洋ワサビペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、P-ガラクトシダーゼまたはアセチルコリンエステラーゼを含み、好適な補欠分子団複合体の例は、ストレプトアビジン/ビオチンおよびアビジン/ビオチンを含み、好適な蛍光材料は、ウンベリフェロン、フルオレセイン、フルオレセインイソチオシアネート、ローダミン、ジクロロトリアジニルアミンフルオレセイン、ダンシルクロリドまたはフィコエリトリンを含み、発光材料の例はルミノールを含み、生物発光材料の例はルシフェラーゼ、ルシフェリンおよびエクオリンを含み、ならびに、好適な放射活性材料の例は125I、131I、35Sおよび3Hを含む。
【実施例】
【0086】
実施例1 親和性が低下した新規抗体の作製および特徴決定
抗体構造または発現に影響することなく抗原結合を減少させるかまたは除去するため、OKT3相補性決定領域のアミノ酸配列を改変した。本発明の対照抗体の例示的なCDR配列を表3に列挙する。親和性が低下した得られた抗体は、正常に発現し(図3)、かつ、ヒトジャーカット細胞(図4)またはヒト末梢血単核球(PBMC、図5)を結合する能力が最小限であるかもしくはそのような能力が無かった。
【0087】
(表3)例示的な親和性が低下した抗体のCDR配列

【0088】
細胞株および培地
ヒト293T細胞は、10%ウシ胎児血清(FBS)(Invitrogen, Gibco, Carlsbad, CA)、2mM L-グルタミンおよび40ug/mlのゲンタマイシンを補充したダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)中で維持された。抗ヒトCD3抗体産生ハイブリドーマ細胞株であるマウスOKT3は、10%FBS、1mMピルビン酸ナトリウム、2mM L-グルタミンおよび40ug/mlのゲンタマイシンを含有するIscoveの変法ダルベッコ培地(IMDM)中で生育させた。ヒト白血病T細胞ラインのジャーカットE6.1を10%FBS、2mM L-グルタミンおよび40ug/mlゲンタマイシンを補充したRPMI培地中で生育させた。全ての培地および補充物は、FBSを除いて、Lonza、Walkville、MDから購入した。
【0089】
OKT3重鎖および軽鎖発現プラスミドの構築
総RNAをOKT3ハイブリドーマ細胞株からInvitrogenのTRIzol試薬を用いて単離した。SuperScript(商標)III逆転写酵素(Invitrogen)およびオリゴ(dT)12-18プライマー(Invitrogen)を用いてcDNAを合成した。マウスOKT3重鎖(アクセッション番号A22261)および軽鎖(アクセッション番号A22259)ヌクレオチド配列のGenbank記録に基づいて、OKT3ハイブリドーマのdTプライミングされたcDNAを鋳型としてポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により重鎖および軽鎖の全コード配列を増幅し、かつ、pMEと呼ばれるCMV最初期遺伝子プロモーターにより駆動される哺乳動物発現プラスミド中にクローニングした。プラスミドpME-wtOKT3 HC(図6)の全ヌクレオチド配列はSEQ ID NO:23に表され、かつ、プラスミドpME-wtOKT3LC(図7)の全ヌクレオチド配列はSEQ ID NO:24に表される。
【0090】
OKT3重鎖および軽鎖バリアントをコードする発現プラスミドの構築
CDR内の種々の抗原接触アミノ酸をアラニンで置換したOKT3重鎖および軽鎖バリアントを作製するために、標準的なPCR技術を用いて部位特異的突然変異誘発を行った。突然変異を持つPCR断片を、同じ発現プラスミドpME中にクローニングした。得られたプラスミドをシークエンシング反応により確認した。
【0091】
形質移入
標準的なリン酸カルシウム法を用いて、OKT3抗体およびバリアント抗体を一過性形質移入により産生した。簡単にいうと、形質移入の20〜24時間前に293T細胞を6ウェルプレート中に6×105細胞/3ml 293T培地/ウェルでまいた。形質移入の3時間前に培地を10%FBS、25mMヘペスバッファーおよび40ug/mlゲンタマイシンを補充したIMDMに替えた。形質移入工程は、最初に、OKT3重鎖および軽鎖プラスミドDNAを、各々8μg、31μlの2M CaCl2および滅菌水と最終容量250μlになるように混合することにより行った。その後DNA/カルシウム混合物をゆっくりと250μlの2×HBSバッファー(pH7.12において281mM NaCl、100mM HEPES、1.5mM Na2HPO4)に添加した。形質移入混合物を、室温で20分間インキュベートし、かつその後293T培養物にゆっくりと添加した。形質移入から12〜16時間後、培地を再び完全293T培地に替えた。形質移入から40〜48時間後、OKT3バリアント抗体を含有する培養上清を回収し、かつ続いての分析に使用した。
【0092】
抗体定量
一過性形質移入により産生されたOKT3抗体およびバリアント抗体の量を、製造者によるプロトコールに従い、Guava RapidQuantマウスIgGキット(Guava Technologies, Hayward, CA)によって判定した。簡単にいうと、各形質移入由来の10μlの上清をIgG捕獲ビーズと40分間震盪しながらインキュベートした。続いて、FITC結合ヤギ抗マウスIgGを各試料に添加し、かつ60分間震盪しながらインキュベートした。試料の容量を200μlまで増やし、Guava EasyCyteシステム(Guava)に流した。各試料中の抗体濃度は、試料の平均蛍光チャンネル(MFI)を標準のそれと比較することにより算出した。
【0093】
ヒト末梢単核細胞(hPBMC)の単離
ヒト末梢単核細胞(hPBMC)をFicoll-paque勾配法を用いて単離した。簡単にいうと、ヒト全血を、1×リン酸緩衝塩類溶液(PBS)で1:1希釈し、かつ注意深くFicoll-paque(血液試料容量の0.4容量)(GE Healthcare, Uppsala, Sweden)の一番上に載せた。900gにおける30分間の遠心分離の後、血液とFicoll-paqueの境界面のhPBMCを注意深く抽出した。細胞懸濁液を1×PBSで1:3希釈し、かつ400gで10分間、8〜20℃において回転させた。細胞ペレットを、もう一回1×PBSにより400gで10分間、8〜20℃で洗浄し、かつ、フローサイトメトリー分析のためにFACSバッファー(2%FCS、0.1%NaN3を加えたPBS)で希釈した。
【0094】
フローサイトメトリー
ヒトジャーカット細胞(96ウェルプレート中において1×105細胞/ウェル)またはhPBMC(96ウェルプレート中において3×105細胞/ウェル)を、100μlのOKT3およびバリアントの形質移入上清と共に4℃で60分間インキュベートし、かつ200μlのFACSバッファーで2回洗浄した。細胞を100μlのフィコエリトリン(PE)結合ヤギ抗マウス免疫グロブリンG(Invitrogen-Caltag, Carlsbad, CA)により4℃で60分間染色し、かつ200ulのFACSバッファーで2度洗浄した。その後、細胞を1%パラホルムアルデヒドで15分間、4℃において固定し、かつ、FACSバッファーで一度洗浄した。その後、Guava EaseCyte Plusシステム(Guava Technologies, Inc., Hayward, CA)における分析のために、細胞を200μlのFACSバッファーに再懸濁した。
【0095】
ジャーカット細胞へのOKT3およびOKT3バリアントの結合
総数1×105個のジャーカット細胞を連続的に希釈したOKT3抗体またはOKT3バリアント抗体、続いてPE結合ヤギ抗マウスIgGとインキュベートし、かつFACSにより分析した。1600ng/mlで、OKT3バリアントの結合は0.4ng/mlのOKT3抗体と匹敵する。従って、OKT3バリアントの結合親和性は親のOKT3抗体のそれよりもおよそ4000倍小さい(図8)。
【0096】
バリアント抗体の薬物動態
バリアントIgG2a抗体の薬物動態分析。CDR突然変異重鎖(SEQ ID NO:26)およびCDR突然変異軽鎖(SEQ ID NO:47)の共発現によりIgG2a抗体を産生した。このバリアント抗体が親抗体OKT3の抗原であるCD3に最早結合しないことは明らかであるものの、この抗体がまだ別の抗原と思いがけなく相互作用するかどうかは不明である。これを試験する一つの方法は、内因性循環IgG2a抗体と類似のインビボ半減期を有するかどうか判定することである。バリアント抗体をB6マウスに投与し、かつ、21日目まで血清試料を集めた。組換えIgG2a抗体の濃度をアロタイプ特異的抗マウス抗体により測定した。抗体の半減期は、薬物動態プロファイルのβ相を当てはめることにより算出し、かつ、13.75日であると判定された(図9)。この半減期は、マウスIgG2a抗体について報告されている10〜15日の半減期と良く一致している(Talbotp, P.J.およびBuchmeie M.J. "Catabolism of homologous murine monoclonal hybridoma IgG antibodies in mice." Immunology 60: 485-489, 1987)。長い血清半減期は、この抗体が予期されない抗原と相互作用する可能性が低いこと、および、インビボシステムがこのバリアント抗体を同じアイソタイプの内因性の免疫グロブリンと区別できないことを示唆する。
【0097】
参照による組み入れ
本明細書中に挙げられる全ての文献、特許および特許出願は、あたかも各文献、特許または特許出願が参照により組み入れられることを具体的かつ個別に示されているかのように、その全体が参照により本明細書に組み入れられる。矛盾する場合には、本明細書中の全ての定義を含めて、本出願が優先される。
【0098】
またその全体が参照により組み入れられるのは、ワールドワイドウェブ上のゲノム科学研究所(The Institute for Genomic Research)(TIGR)および/またはワールドワイドウェブ上の国立バイオテクノロジー情報センター(National Center for Biotechnology Information)(NCBI)等の公共のデータベースへの登録に対応するアクセッション番号が付されている全てのポリヌクレオチドおよびポリペプチド配列である。
【0099】
等価物
当業者であれば、ルーチンな実験以上は用いずに本明細書中に記載される本発明の特定の態様に対する多数の等価物を認識または確知できるであろう。このような等価物は、添付の特許請求の範囲により包含されるよう意図されている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
改変された抗体または抗体断片が抗原に対する低下した結合能を有するように、低下した結合能力を持つ該抗体または該抗体断片を産生するための方法であって、以下の工程を含む方法:
(a)標的抗原の情報を取得する工程;
(b)該抗体内または該抗体断片内において、標的抗原と相互作用することができる結合アミノ酸を合理的に同定する工程;
(c)得られる抗体または抗体断片が該抗原との結合における低下した能力を有するように、該抗体内または該抗体断片内の結合アミノ酸配列を改変する工程;および
(d)改変された該抗体または該抗体断片の該標的抗原に対する結合親和性を試験する工程。
【請求項2】
抗原との相互作用を減少させるかまたは除去するために、低下した特異的結合能力を持つ相補性決定領域(CDR)を産生するための方法であって、以下の工程を含む方法:
(a)重鎖可変領域または軽鎖可変領域であるCDRポリペプチド配列内から、該CDRポリペプチド配列中の少なくとも1つのアミノ酸を同定する工程であって、該アミノ酸が該抗原と相互作用することができる、工程;および
(b)該CDRポリペプチドのアミノ酸配列を改変する工程。
【請求項3】
前記CDRポリペプチド配列中のアミノ酸を改変する前記工程が、少なくとも1つのアミノ酸を相互作用しないアミノ酸と置換することにより行われる、請求項2記載の方法。
【請求項4】
1つのアミノ酸と前記抗原の間の相互作用が、水素結合、弱い共有結合性相互作用、極性力(polar force)、非極性力、塩橋およびファンデルワールス力からなる群より選択される分子間引力である、請求項2記載の方法。
【請求項5】
前記CDRポリペプチド配列中の前記アミノ酸が、アスパラギン酸、グルタミン酸、リジン、アルギニン、セリン、スレオニン、チロシン、アスパラギン、ヒスチジンおよびグルタミンからなる群より選択される、請求項2記載の方法。
【請求項6】
前記CDRポリペプチド配列中の前記アミノ酸が、チロシン、セリン、アスパラギン、アスパラギン酸、トリプトファン、アルギニン、フェニルアラニンおよびグリシンからなる群より選択される、請求項2記載の方法。
【請求項7】
前記相互作用しないアミノ酸が、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリンおよびメチオニンからなる群より選択される、請求項3記載の方法。
【請求項8】
前記相互作用しないアミノ酸がアラニンである、請求項6記載の方法。
【請求項9】
相互作用する前記アミノ酸を同定する前記工程が、前記CDRポリペプチド配列と前記抗原との複合体を表す結晶構造を分析することにより行われる、請求項2記載の方法。
【請求項10】
前記CDRポリペプチド配列が抗体内または抗体断片内に位置する、請求項2記載の方法。
【請求項11】
前記抗体または前記抗体断片が、
(a)免疫グロブリン分子全体;
(b)scFv;
(c)Fab断片;
(d)Fab'断片;
(e)F(ab')2;
(f)Fv;
(g)Fd断片;および
(h)ジスルフィド結合したFv
からなる群より選択される、請求項10記載の方法。
【請求項12】
抗原結合の喪失を確認する工程をさらに含む、請求項10記載の方法。
【請求項13】
前記確認する工程がFACS、ELISAまたは放射免疫測定法により達成される、請求項12記載の方法。
【請求項14】
前記抗体が、約10-7超または約10-7の近似解離定数(KD)を有する、請求項10記載の方法。
【請求項15】
請求項10記載の、低下した結合能力を持つ抗体。
【請求項16】
抗原との相互作用を減少させるかまたは除去するために、低下した結合能力を持つ抗体または抗体断片を産生するための方法であって、以下の工程を含む方法:
(a)抗体内または抗体断片内から、該抗原と相互作用することができる少なくとも1つのアミノ酸を同定する工程;および
(b)該抗体または該抗体断片のアミノ酸配列を改変する工程。
【請求項17】
前記抗体または前記抗体断片のアミノ酸を改変する前記工程が、少なくとも1つのアミノ酸を相互作用しないアミノ酸と置換することにより行われる、請求項16記載の方法。
【請求項18】
1つのアミノ酸と前記抗原の間の相互作用が、水素結合、弱い共有結合性相互作用、極性力、非極性力、塩橋およびファンデルワールス力からなる群より選択される分子間引力である、請求項16記載の方法。
【請求項19】
前記抗体中または前記抗体断片中の前記アミノ酸が、アスパラギン酸、グルタミン酸、リジン、アルギニン、セリン、スレオニン、チロシン、アスパラギン、ヒスチジンおよびグルタミンからなる群より選択される、請求項16記載の方法。
【請求項20】
前記抗体中または前記抗体断片中の前記アミノ酸が、チロシン、セリン、アスパラギン、アスパラギン酸、トリプトファン、アルギニン、フェニルアラニンおよびグリシンからなる群より選択される、請求項16記載の方法。
【請求項21】
前記相互作用しないアミノ酸が、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリンおよびメチオニンからなる群より選択される、請求項17記載の方法。
【請求項22】
前記相互作用しないアミノ酸がアラニンである、請求項21記載の方法。
【請求項23】
相互作用する前記アミノ酸を同定する前記工程が、前記抗体または前記抗体断片と前記抗原との複合体を表す結晶構造を分析することにより行われる、請求項16記載の方法。
【請求項24】
抗原結合の喪失を確認する工程をさらに含む、請求項16記載の方法。
【請求項25】
前記確認する工程がFACS、ELISAまたは放射免疫測定法により達成される、請求項24記載の方法。
【請求項26】
前記抗体または前記抗体断片が、約10-7超または約10-7の近似解離定数(KD)を有する、請求項16記載の方法。
【請求項27】
前記抗体および前記抗体断片が、
(a)免疫グロブリン分子全体;
(b)scFv;
(c)Fab断片;
(d)Fab'断片;
(e)F(ab')2;
(f)Fv;
(g)Fd断片;および
(h)ジスルフィド結合したFv
からなる群より選択される、請求項16記載の方法。
【請求項28】
請求項16記載の、低下した結合能力を持つ抗体または抗体断片。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公表番号】特表2013−518131(P2013−518131A)
【公表日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−551344(P2012−551344)
【出願日】平成23年1月28日(2011.1.28)
【国際出願番号】PCT/US2011/022998
【国際公開番号】WO2011/094593
【国際公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【出願人】(512197319)アブ バイオサイエンシズ インコーポレイテッド (1)
【Fターム(参考)】