説明

親和性基質としての油体および会合タンパク質

【課題】試料から目的分子を分離・精製するための親和性基質としての油体およびこれらの会合タンパク質の使用を提供する。
【解決手段】油体、油体タンパク質オレオシンに付着したリガンド、及びターゲット分子を含有する試料を含む組成物であって、該ターゲット分子が、試料から単離又は分離されることが意図された分子であり、かつ、油体中のリガンド分子と結合する分子である、上記組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の技術分野
本発明は試料から目的分子を分離・精製するための親和性基質としての油体およびこれらの会合タンパク質の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の技術背景
一般的なバイオテクノロジーの分野において、生細胞、血清、または発酵ブイヨンのような複雑な原料から分子を効果的に分離・精製できることは、大変重要である。産業や研究の実験室(ここでは、例えば、精製または部分的に精製されたタンパク質が使用される)における適用は多数あり、先行文献中に十分記載されている。例えば、非特許文献1を参照のこと。
【0003】
近頃分子の分離に主に利用された技術は目的分子の本来の物理的・化学的性質を利用している。親和性(アフィニテイ)に基づいた精製技術は親和性対を形成する2つの分子種間の高い特別な生物学的な認識を利用する点において独特である。親和性対の2つの構成物間の結合はほとんど全ての場合に非共有結合として知られる比較的弱い化学的相互作用の結果として起こる。人工的認識や普通使用下の親和性対のあるものには抗体とそれが結合する抗原基質、核酸が結合するタンパク質と核酸、脂質が結合するタンパク質と脂質、レクチンと炭水化物、ストレプトアビジン/ビオチン錯体、タンパク質A/免疫グロブリンG錯体、およびレセプターとそれが結合する分子が含まれる。
【0004】
一般に、親和性に基づく精製方法には、親和性対の一方が対の他方が存在している流体に不溶な固体基体や基質に固定化されることが必要である。基質に結合した方の親和性対の分子種は一般にリガンドといわれ、液体に溶けた方は一般にターゲットといわれる。しかし、このような定義は厳密な化学的意味におけるいかなる制限をも強制しないことに留意することが重要である。昨今のリガンド固定化技術の大部分は物理的あるいは化学的アプローチに依拠している。物理的なリガンドの固定化には適当な支持体にリガンドが吸着あるいは捕捉されることが含まれ、化学的な固定化はリガンドと基質間の強い架橋あるいは共有結合の形成により特徴づけられる。固定化は、互いを認識する親和性対の構成物の容量が固定化方法により悪影響を受けないような方法で達成されることが求められる。
【0005】
生産方法にしばしば時間と経費がかかることは、リガンドを固定化するための現在利用できる物理的・化学的技術の欠点である。この主な原因は、固定化技術には基質材料とリガンドを別々に製造する必要性があるからである。この両者は次の工程では結合されなければいけないのにである。タンパク質を固定化する別の方法は特許文献1に開示されてあり、綿植物の繊維の酵素の固定化のための生物学的製造系が載っている。この特許は第一に生物学的に製造された酵素固定化系であると思われ、基質とリガンドの1段での製造を可能にするものを開示している。
【0006】
基質へのリガンドの固定化に続いて、種々の親和性に基づく精製技術では親和性固定化リガンドとターゲット構成物間の選択的結合の達成を利用できる。先行技術の親和性に基づく精製技術は灌流親和性クロマトグラフィー、親和性反発クロマトグラフィー、超拡散親和性クロマトグラフィー、親和性沈殿、膜親和性分配、親和性向流限外濾過および親和性沈殿を包含する。最も広く使用される親和性に基づく精製技術、つまり親和性クロマトグラフィーでは、基質含有リガンドがクロマトグラフィーカラムの内側に被覆され、あるいは充填される。従って、ターゲット構成物を含む錯体混合物はクロマトグラフィーカラムに適用される。理想的には、リガンドを特異的に認識するターゲット分子だけが非共有的にクロマトグラフィーカラムに結合し、試料中に存在する他の全ての分子種はカラムを通過する。
【0007】
親和性分配では、実質的に異なる密度の2つの溶液を使用する。ターゲット構成物を含む錯体溶液は親和性リガンドを含む異なる密度の溶液と混合する。混合に続いて、この溶液を放置して2相に分離させる。分子はその大きさ、電荷、および相を形成する溶液との特異な相互作用に依存して、相間に異なって分配される傾向がある。リガンドに結合されるターゲットタンパク質は親和性リガンドを含む相に選択的に分配する。例えば非特許文献2には水溶液からイソオクタン溶液にアビジンを移動させるために、ビオチン含有イソオクタン有機溶液の使用を報告している。しかし、これまでは、親和性分配の使用は、2相系の特異な分配において使用できる適当な親和性基質基体を現在利用できないことを主な理由として制限されてきた。
【0008】
バイオテクノロジーの商業的な発達に対する重要な要因はバイオ製品の精製である。これが、典型的には全コストの50%以上になる(非特許文献3)。多くのタンパク質精製工程はカラム型の分離手順に依拠している。特に、カラムクロマトグラフィーのような大規模な高分離技術やバッチ型に基づくタンパク質精製技術はコストが高い。更に、汚染物が沈降した樹脂を汚したり、カラムをふさぐ可能性があるので、粗材料はカラムクロマトグラフィーやバッチ分離のいずれにもあまり適していない。従って、親和性基質はしばしば精製手順の後の方の段階で使用されるだけである。この段階では実質的な精製は重要であるか、タンパク質は極端に薄い濃度で存在するか、例えば、診断や治療に使用するタンパク質において高値のタンパク質が求められる。バイオテクノロジー的方法で親和性技術を使用することに関するこれらのおよび他のトピックスは非特許文献3により検討された。
【特許文献1】米国(US)特許第5,474,925号明細書
【非特許文献1】R.MeadonとG.Walsh「Biotechnologcal Advances」1999,12:635−646頁
【非特許文献2】CoughlinとBaclaski「Biotechnology Progress」1990,6:307―309頁
【非特許文献3】N.LabrouとY.D.Clonis「Journal of Biotechnology」1994,36:95―119頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
複雑な混合物から生物学的な精製物を分離・精製する新規で安価な方法を開発する必要性がある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、油体として知られる亜細胞の油貯蔵構造およびこれに会合したタンパク質が上記の課題解決のために利用できることを見出した。
【0011】
発明の概要
本発明は親和性基質の製造のための新規な用途の広い生物学的系に関する。本発明者らは油体とこれに会合するタンパク質が、タンパク質、炭水化物、脂質、有機分子、核酸、金属、細胞、および試料からの細胞分画のような広範な種々のターゲット分子の分離のための親和性基質として使用できることを見出した。
【0012】
本発明は試料からターゲット分子を分離する方法を提供する。この方法は(1)(i)直接または間接的にターゲット分子に会合できる油体を(ii)ターゲット分子を含む試料と接触させ、(2)試料からターゲット分子に会合した油体を分離する、ことを含んで構成される。油体とターゲット分子を含んだ試料は油体がターゲットに十分会合できる方法で接触させられる。好ましくは、油体はターゲットと混合される。所望の場合はターゲット分子を油体から更に分離することができる。
【0013】
ある観点では、ターゲット分子は油体または油体タンパク質に親和性があるか、または直接結合する。このようなターゲットの例としては油体に結合する抗体または他のタンパク質を例示できる。
【0014】
別の観点から、リガンド分子は油体とターゲット分子を会合するのに使用できる。
【0015】
ある態様では、リガンドは油体または油体タンパク質に対して本来的な親和性を持っている。特別な態様では、油体タンパク質に結合する抗体である。このような抗体は抗IgG抗体またはタンパク質Aのようなリガンド抗体に対して親和性を有するターゲットを分離するのに利用できる。また、油体タンパク質とターゲットの両方に対して結合特異性を有する2価の抗体を調製できる。また、油体タンパク質に対する抗体はターゲットに対して親和性を有する第二のリガンドに融合し得る。
【0016】
別の態様では、油体または油体タンパク質に共有結合的に付着する。ある態様では、リガンドは油体タンパク質との融合タンパク質として化学的に共役または製造されるタンパク質である(WO96/21029に記載)。後者の場合、融合タンパク質は油体上でターゲットとされかつ発現される。ある例では、油体タンパク質に融合されたリガンドはヒルジンであり得る。別の例では、油体タンパク質に融合されたリガンドはメタロチオネインであり得、試料からカドミウムを分離するのに使用できる。他の例では、油体タンパク質に融合されたリガンドはタンパク質Aであり得、免疫グロブリンを分離するのに使用できる。更に、別の例では、油体タンパク質に融合されたリガンドはセルロース結合タンパク質であり得、試料からセルロースを分離するのに使用できる。
【0017】
別の態様では、リガンドは油体に共有結合的に付着し得る。例えば、リガンドはビオチンのような小さい有機分子であり得る。ビオチン結合油体は試料からアビジンを分離するのに使用できる。
【0018】
また、本発明は親和性基質として使用するための改変した油体も含む。従って、本発明はリガンド分子またはターゲット分子のような分子に会合した油体を含む組成物を含む。ある態様では、その組成物はビオチンのようなリガンド分子に共有結合的に付着した油体を含む。
【0019】
また、本発明は試料からターゲット分子を分離する際に使用するための親和性基質を含み、ターゲット分子に会合し得る油体を含む。親和性基質は油体に会合したリガンド分子を付加的に含み、ここで、リガンド分子はターゲット分子に会合し得る。
【0020】
特許請求の範囲に記載された発明は、以下の特徴を有する。
【0021】
(1)油体と、油体タンパク質オレオシンに付着したリガンドと、ターゲット分子を含有する試料とを含む組成物であって、該ターゲット分子が、試料から単離又は分離されることが意図された分子であり、かつ、油体中のリガンド分子と会合する分子である、上記組成物。
【0022】
(2)前記リガンドがオレオシンとの融合タンパク質であることを特徴とする、(1)記載の組成物。
【0023】
(3)前記リガンド分子がヒルジンであり、及び前記ターゲット分子がトロンビンであることを特徴とする、(1)記載の組成物。
【0024】
(4)前記リガンド分子がプロテインAであり、及び前記ターゲット分子が免疫グロブリンであることを特徴とする、(1)記載の組成物。
【0025】
(5)前記リガンド分子がメタロチオネインであり、及び前記ターゲット分子がカドミウムであることを特徴とする、(1)記載の組成物。
【0026】
(6)前記リガンド分子がセルロース結合タンパク質であり、及び前記ターゲット分子がセルロースであることを特徴とする、(1)記載の組成物。
【0027】
(7)前記リガンド分子が核酸結合タンパク質であり、及び前記ターゲット分子が核酸であることを特徴とする、(1)記載の組成物。
【0028】
(8)前記リガンド分子が一本鎖DNA結合タンパク質又はRNA結合タンパク質であり、及び前記ターゲット分子が一本鎖核酸分子であることを特徴とする、(7)記載の組成物。
【0029】
(9)前記リガンド分子がオレオシンに結合する抗体であることを特徴とする、(1)記載の組成物。
【0030】
(10)前記ターゲット分子が、前記リガンド抗体に結合し得る、細胞、細胞小器官又は細胞成分と会合することを特徴とする、(1)記載の組成物。
【0031】
(11)前記ターゲット分子が、Staphylococcus aureus細菌細胞と会合することを特徴とする、(10)記載の組成物。
【0032】
(12)前記リガンドがオレオシン及び前記ターゲット分子の双方に結合する二価抗体であることを特徴とする、(1)記載の組成物。
【0033】
(13)前記リガンドが、アビジンに共役している抗体であり、及び前記ターゲット分子がビオチンであることを特徴とする、(1)記載の組成物。
【0034】
(14)前記オレオシンが、ナタネ(Brassica spp.)、ダイズ(Glycine max)、ヒマワリ(Helianthus annuus)、ギネアアブラヤシ(Elaeis guineeis)、ココヤシ(Cocus nucifera)、トウゴマ(Ricinus communis)、ベニバナ(Carthamus tinctorius)、アブラナ(Brassica spp.及びSinapis alba)、コエンドロ(Coriandrum sativum)、アマニ/アマ(Linum usitatissimum)、シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)及びトウモロコシ(Zea mays)からなる群から選ばれた植物から誘導されることを特徴とする、(1)記載の組成物。
【0035】
(15)前記油体が、ナタネ(Brassica spp.)、ダイズ(Glycine max)、ヒマワリ(Helianthus annuus)、ギネアアブラヤシ(Elaeis guineeis)、ココヤシ(Cocus nucifera)、トウゴマ(Ricinus communis)、ベニバナ(Carthamus tinctorius)、アブラナ(Brassica spp.及びSinapis alba)、コエンドロ(Coriandrum sativum)、アマニ/アマ(Linum usitatissimum)、シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)及びトウモロコシ(Zea mays)からなる群から得られることを特徴とする、(1)〜(14)のいずれかに記載の組成物。
【0036】
(16)前記リガンド分子が非タンパク質分子であることを特徴とする、(1)記載の組成物。
【0037】
(17)前記リガンド分子がビオチンであることを特徴とする、(16)記載の組成物。
【0038】
本発明の他の目的、特徴、利点は以下の詳細な説明や添付の図面から明らかになるであろう。しかし、詳細な説明や添付の実施例は単に例示であり、種々の変更や修飾も本発明の範囲に入ることが、当業者には明らかであろう。さらに、参考文献としての公知文献、特許、特許出願はその全体を本願に組み入れるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
発明の詳細な説明
前記のとおり、本発明は油体とそれが会合するタンパク質を使用する新規な生物学的親和性基質系に関する。親和性基質は特別なターゲットを高効率で分離するために適し、これは試料からのタンパク質、炭水化物、脂質、核酸、細胞と亜細胞オルガネラ、金属とイオンを含む。
【0040】
本発明は試料からターゲット分子を分離する方法を提供する。この方法は(1)(i)直接または間接的にターゲット分子に会合できる油体を(ii)ターゲット分子を含む試料と接触させ、(2)試料からターゲット分子に会合した油体を分離する、ことを含んで構成される。油体とターゲット分子を含んだ試料は油体がターゲットに十分会合できる方法で接触させられる。好ましくは、油体はターゲットと混合される。ターゲット物と油体の間接的な会合は油体とターゲット分子の両方と会合できるリガンド分子を使用することにより行える。従って、リガンドは油体とターゲット分子を橋かけまたは結合するのに役立つ。所望の場合はターゲット分子を油体と存在すればリガンドから更に分離することができる。
【0041】
親和性基質の各成分は以下に議論する。
【0042】
ターゲット
この明細書中で使用される「ターゲット」の用語は、生物学的混合物のような試料から精製、単離、分離したい(すなわち、されることが意図された)所望の分子を表す。この技術はリガンドが得られ、または油体または油体タンパク質に直接会合または結合するどんなターゲット物とも実際的に使用することができる。可能なリガンド/ターゲット物の対はタンパク質サブユニット/サブユニット会合、抗体/抗原、レセプタータンパク質/シグナル分子、核酸結合タンパク質/核酸、レクチン/炭水化物、脂質結合タンパク質/脂質、イオン結合タンパク質/イオン、および表面エピトープへのリガンド/細胞または亜細胞オルガネラを含み、これに限定されない。ターゲット物はどんな自然源からも得られ、化学的に合成できる。ターゲット物がタンパク質または核酸のような巨大分子である場合、細菌、イースト、植物、昆虫、哺乳動物等を使用して、組み換え型においても製造できる。
【0043】
リガンド
本明細書中で使用する「リガンド」の用語はターゲット分子と油体または油体タンパク質の両方に会合できる分子を示す(以下に議論)。本明細書中で使用する「会合する」の用語はリガンドの油体またはターゲット分子への共有的・非共有的結合の両方を含む。例えば、リガンド分子は共有結合的に油体に付着でき、非共有結合的にターゲット物に会合でき(またその逆も可能である)、またはリガンドは非共有結合的に油体およびターゲット分子の両方と会合できる。リガンドは、油体または油体タンパク質とターゲット分子とを架橋させることができる任意の分子とすることができ、タンパク質、核酸、炭水化物または小さい有機分子を含むことができる。リガンドは、油体と会合する第1の分子およびターゲットと会合する第2の分子の2つの分子から構成することができ、ここで第1の分子と第2の分子とは互いに会合している。
【0044】
この方法に用いられるアフィニティリガンドタンパク質は、天然に存在する既知のリガンド対、例えば前記したものから得ることができる。あるいはまた、リガンドを、細胞または器官から抽出し、化学的に合成したかまたは結合ペプチド配列、抗体から構成されたライブラリーにおいて生成したかまたはDNA配列を発現したタンパク質をスクリーニングすることにより、得ることができる。
【0045】
1つの実施態様において、リガンドは、油体または油体タンパク質に対して本来的な親和性を有する。例えば、リガンドは、油体タンパク質に対する親和性を有する抗体等のタンパク質とすることができる。また、リガンドは、油体または油体タンパク質に対する本来的な親和性を有するタンパク質以外の分子とすることができる。油体または油体タンパク質と結合することができるこのようなリガンドは、ターゲット分子と結合することができる第2の分子と会合することができる。例えば、リガンド分子は、アビジンに共役している抗体とすることができ、これを用いてビオチンを試料から精製することができる。
【0046】
他の実施態様において、リガンドは、油体または油体タンパク質に、化学的手段または組換え手段により共有結合する。融合体または共役体を調製するための化学的手段は、業界において知られており、この手段を用いてリガンド−油体タンパク質融合体を調製することができる。リガンドと油体とを共役させるのに用いる方法は、リガンドがターゲット分子に結合する能力を阻害せずにリガンドを油体タンパク質と結合させることができる必要がある。1つの例において、リガンドは小さい有機分子、例えば油体に共有結合的に付着しているビオチンとすることができる。ビオチン化された油体を用いて、アビジンを試料から分離することができる。本発明はまた、アフィニティマトリクスとして用いるためのビオチン化された油体等の変性油体を包含する。従って、本発明は、リガンドまたはターゲット分子等の分子に付着した油体を含む組成物を包含する。
【0047】
好適例において、リガンドはタンパク質であり、業界において十分知られている方法を用いて油体タンパク質に共役させることができる。2種のタンパク質を共役させることができる数百種の架橋剤が入手可能である。(例えば、“Chemistry of Protein Conjugation and Crosslinking ”.1991, Shans Wong, CRC Press, Ann Arbor参照)。架橋剤は、一般的に、有用であるかまたはリガンドに対して挿入される反応性官能基に基づいて選択する。さらに、反応性官能基がなければ、光活性架橋剤を用いることができる。若干の例において、リガンドと油体タンパク質との間にスペーサーを導入するのが望ましい。業界において知られている架橋剤には、ホモ二官能価(homobifunctional) 架橋剤:グルタルアルデヒド、ジメチルアジピミデートおよびビス(ジアゾベンジジン)並びにヘテロ二官能価(heterobifunctional) 架橋剤:m−マレイミドベンゾイル−N−ヒドロキシスクシンイミドおよびスルホ−m−マレイミドベンゾイル−N−ヒドロキシスクシンイミドが含まれる。
【0048】
リガンドタンパク質−油体タンパク質融合体はまた、組換えDNA手法を用いて調製することができる。このような場合において、リガンドを暗号化するDNA配列を、油体タンパク質を暗号化するDNA配列と融合させ、リガンド−油体タンパク質融合タンパク質(以下に一層詳細に記載する)を発現するキメラDNA分子を得る。組換え融合体タンパク質を調製するために、リガンドを暗号化するDNAの配列を知るかまたはこの配列が入手可能である必要がある。入手可能であるとは、タンパク質リガンドを暗号化することができるDNA配列が、既知のアミノ酸配列から推理できることを意味する。タンパク質リガンドの結合領域を暗号化する部分配列が知られている場合には、リガンドの遺伝子配列全体を用いる必要はない。従って、リガンドは、問題の特定のリガンドタンパク質の完全な配列またはこのタンパク質からの結合領域を含むことができる。
【0049】
所望のリガンドのDNA配列が知られている場合には、遺伝子は、オリゴヌクレオチド合成装置を用いて、化学的に合成することができる。あるいはまた、リガンド遺伝子を有するクローンを、cDNAまたは遺伝子を含むゲノムライブラリーのいずれかから、標識した相補的DNA配列を用いて調査することにより、得ることができる。また、遺伝子を、遺伝子特異性オリゴヌクレオチドプライマーおよびPCRを用いて、特定的にライブラリーから増幅することができる。所望のリガンドのDNA配列が知られていない場合には、部分的なアミノ酸配列を、タンパク質のN末端配列決定により得ることができる(Matsudaira 1987 ;J. Biol.Chem. 262 :10035−10038)。標識したプローブを、このアミノ酸配列から推理されるDNA配列に基づいて合成し、これを用いて、cDNAまたはゲノムライブラリーを、前述のようにしてスクリーニングすることができる。また、遺伝子を有するクローンを、cDNA発現ライブラリーから、タンパク質リガンドに対して挙げられた抗体またはターゲットタンパク質のいずれかを用いて調査することにより、識別することができる。
【0050】
リガンドはまた、ターゲットを有するタンパク質の混合物を調査することより、露出させることができる。ターゲットを、支持マトリクス上に固定化し、これを用いて、細胞および組織から抽出されたタンパク質をスクリーニングするか、または化学的に合成することができる。リガンドタンパク質と固定化されたターゲットとの間の結合に続いて、マトリクスを溶液から分離し、洗浄する。次にタンパク質リガンドをマトリクスから溶出させ、前述のようにして配列決定する。あるいはまた、ファージディスプレーにより生成した組換えタンパク質ライブラリー、例えば組合せペプチド配列(Smith, 1985 ;Science 228 :1315−1317)または抗体の範囲(Griffiths et al., 1994, EMBOJ. 13:3245−3260, Nissim et al., 1994, EMBOJ. 13 :692−698)から構成されるものを、固定化されたターゲットでスクリーニングすることができる。この場合において、タンパク質リガンドとターゲットとを結合させると、リガンドを発現するファージを、非結合性タンパク質を暗号化するファージの大きな複雑な集団から分離し、回収することができる。また、酵母におけるような2つのハイブリッドシステム(FieldsおよびSternglanz, 1994;Trends Genet. 10:286−292)を用いて、リガンドを発現されたcDNAライブラリーから識別することができる。ここで、遺伝子の融合を、ターゲットタンパク質を暗号化する配列とDNA結合タンパク質の配列との間に構成することができる。この構成を含む細胞を、配列が転写アクチベーターの配列に融合されたcDNAライブラリーからの構成物で形質転換する。cDNAライブラリーから得られたリガンドとターゲットタンパク質との結合により、レポーター遺伝子(reporter gene)の転写が可能になる。リガンドを発現するクローンを次に回収する。
【0051】
リガンドを油体に対して特定的に露出させるために、完全なまたは部分的なオレオシンタンパク質を、前述の方法のいずれにおいても、ターゲットとして用いることができる。あるいはまた、タンパク質抽出物、合成ペプチドまたはファージディスプレーライブラリーをスクリーニングするために未加工の油体を用いることもできる。この場合においては、油体はターゲットおよび固定化マトリクスの両方としての作用を有する。この方法を用いて、広範囲のリガンドを露出させることができ;これは、オレオシンに対してのみならず、油体上に存在する他のエピトープに対する親和性をも示す。
【0052】
油体および油体タンパク質
油体は、貯蔵されたトリアシルグリセリドを封入する、小さい球状の細胞より小さい小器官であり、多くの植物により用いられているエネルギー源である。油体は、ほとんどの植物において、および種々の組織において見出されているが、油体は、この直径が1ミクロンから数ミクロンまでの範囲内である脂肪種子の種においては、特に豊富である。油体は、リン脂質の半単位膜により包囲されたトリアシルクリセリドで構成されており、油体タンパク質として知られている独特の種類のタンパク質で包埋されている。本明細書中で用いる「油体」という用語には、完全な構造中に存在するトリアシルグリセリド、リン脂質またはタンパク質成分の任意またはすべてが含まれる。本明細書で用いる「油体タンパク質」という用語は、油体中に本来的に存在するタンパク質を意味する。植物において、主要な油体タンパク質を「オレオシン」と呼ぶ。オレオシンは、トウモロコシ、菜種、ニンジンおよび綿を含む多種の植物源からクローン化され、配列決定されている。オレオシンタンパク質は、3つの領域から構成されていると見られ;タンパク質の2つの末端であるN末端およびC末端は、高度に親水性であり、細胞質ゾルに対して露出した油体の表面上にある一方、オレオシンの高度に疎水性の中心核は、膜およびトリアシルグリセリド内に堅く固定されている。種々の族からのオレオシンは、タンパク質の小さい族を示し、これは、特にタンパク質の中心の領域において、顕著なアミノ酸配列の保存を示す。個別の種内で、小数の異なる異性体が存在しうる。
【0053】
個別の種からの油体は、おおよそ一様な大きさおよび密度を示し、これは、部分的に、正確なタンパク質/リン脂質/トリアシルグリセリド組成に依存する。この結果、油体は、油体が懸濁される種々の密度の脂質から簡単かつ迅速に分離することができる。例えば、密度が油体の密度よりも大きい水性媒体中で、油体は、重力または加えられる遠心力の影響の下で浮遊する。密度が油体の密度よりも小さい95%エタノール中では、油体は同一の条件下で沈降する。油体はまた、脂質および溶液または懸濁液中に存在する他の液体から、大きさを基準として分別する方法により分離することができる。例えば、B.napusからの油体は最小であり、直径が約0.5μmであり、従ってこの直径よりも小さい孔の大きさを有する膜フィルターを用いて、一層小さい成分から分離することができる。
【0054】
本発明の油体は、好ましくは、種子植物から得、一層好ましくは次のものから成る植物種の群から得る:シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)、菜種(Brassica種)、大豆(Glycine max)、ヒマワリ(Helianthus annuus)、ギネアアブラヤシ(Elaeis guineeis)、綿の種子(Gossypium種)、アメリカホドイモ(Arachis hypogaea)、ココナッツ(Cocus nucifera)、トウゴマ(Ricinus communis)、ベニバナ(Carthanus tinctorius)、アブラナ(Brassica 種およびSinapis alba)、コエンドロ(Coriandrum sativum)、亜麻仁/亜麻(Linum usitatissimum)およびメイズ(Zea mays)。植物を成長させ、当業者に十分知られている農業的栽培方法を用いて放置して種子を植えた。種子を収穫し、石または種子外皮等の異物を例えばふるい分けにより除去した後、種子を乾燥し、その後機械的に圧縮、粉砕または破砕することにより加工するのが好ましい。油体の部分を、油体の部分と水性の部分との密度の差異を活用する分離方法、例えば遠心分離を利用するか、または大きさの除外に基づく分離方法、例えば膜濾過を用いるか、またはこれら両方を組み合わせることにより、粉砕した種子部分から得ることができる。代表的に、種子を、5容量の低温の水性緩衝液中で完全に粉砕する。高濃度の強力な有機溶媒、例えばアセトンまたはジエチルエーテルを含まない場合には、広範囲の緩衝液組成物を用いることができる。その理由は、これらの溶媒は油体を崩壊させるからである。粉砕緩衝液の溶液密度を、0.4〜0.6Mのスクロースを加えて上昇させて、以下に記載するように洗浄を促進することができる。また、粉砕緩衝液は代表的に、油体表面に一体に結合しない可溶性タンパク質の除去を助けるために、0.5MのNaClを含む。
【0055】
粉砕に続いて、ホモジネートを遠心分離して、粒状かつ不溶性の物体のペレット、種子の可溶性成分を含む水性相並びに油体およびこれと会合したタンパク質から構成される表面層を得る。油体層を表面から除去し、1容量の新鮮な粉砕緩衝液中に完全に再懸濁させる。油体の凝集体が可能な限り十分に解離して、後の洗浄工程において汚染物を能率的に除去するのを確実にするのが重要である。再懸濁させた油体調製物を、一層低い密度の浮遊溶液(例えば水、水性緩衝液)の下に層形成させ、再び遠心分離し、油体と水性相とを分離する。この洗浄工程は、代表的には少なくとも3回くり返し、その後油体は、ゲル電気泳動により測定して、汚染可溶性タンパク質が十分除去されたと考えられる。水性相をすべて除去する必要はなく、最終的な調製水または50mMのトリス−HCl(pH7.5)に加えることができ、所要に応じてpHをpH2に低下させるかまたはpH10に上昇させることができる。油体を脂肪種子から分離するための原理は、Murphy, D.J および Cummins I., 1989, Phytochemistry, 28:2063−2069;並びにJacks,T. J. et al., 1990, JAOCS, 67 :353−361から得られる。好ましい原理を、本明細書の実施例1に詳説する。
【0056】
植物から得られた油体以外の油体もまた、本発明において用いることができる。植物油体およびオレオシンと機能的に同等のシステムが、細菌(Pieper−Furstet al., 1994, J. Bacteriol. 176:4328)、藻類(Rossler, P.G., 1988, J. Physiol.(London), 24:394−400)および菌類(Ting, J. T. et al., 1997, J. Biol Chem. 272:3699−3706)において記載されている。これらの生物体からの油体も、当業者に知られている他の生存細胞において見出すことができる油体と同様に、本発明において用いることができる。
【0057】
アフィニティマトリクス
前述のように、本発明は、ターゲット分子を試料から精製するための新規なアフィニティマトリクスシステムを提供する。1つの実施態様において、アフィニティマトリクスは、試料中のターゲット分子に結合することができる油体を含む。このような実施態様において、ターゲット分子を、油体タンパク質に結合することができる抗体とすることができる。他の実施態様において、アフィニティマトリクスは、油体または油体タンパク質および油体または油体タンパク質と会合し、ターゲット分子に対する親和性を有するリガンドを含む。このような実施態様において、リガンドは、油体または油体タンパク質と非共有結合的または共有結合的に付着することができる(前述のように)。
【0058】
本発明の利点は、ターゲット物質を試料から、油体との非共有的会合、続いて油体分離により精製するかまたは除去することができることである。多種の異なる油体−リガンドの形が可能である。特定のリガンドタンパク質に対する本来的な親和性、例えばトロンビンに対するヒルジンの親和性またはメタロチオネインに対する重金属の親和性を有するターゲットを、オレオシンと融合したリガンドを含む油体を用いて精製するかまたは分離することができる。あるいはまた、タンパク質ターゲットを、油体アフィニティマトリクスを用いて、ターゲットを油体特異性リガンドまたはオレオシンと融合したリガンドと相補的なリガンドと融合させることにより、精製するかまたは分離することもできる。所要に応じて、プロテアーゼ認識部位または化学開裂部位を、リガンドとターゲットタンパク質との間に工作して、精製の過程におけるターゲットタンパク質からのリガンドのタンパク質加水分解の除去を可能にすることができる。また、多価リガンド、例えばリガンドの1つの領域が油体に対する親和性を有し、他の領域がターゲットに対する親和性を示す二価の一本鎖抗体を構成することができる。この場合において、油体もターゲット分子も、リガンドに共有結合的に融合させる必要はない。また、リガンドのコンカテマーを用いて、マトリクスのターゲットに対する親和性を上昇させることができるか、またはリガンドの配列を突然変異させて、このような条件が望ましい際にターゲットに対する親和性を調節することができる。さらに、種々のリガンドの混合物を融合させて、種々のタイプのターゲットを同時に回収/除去することができる。また、異なるリガンドの間に融合を構成して、異なるタイプのターゲット間またはターゲットと油体アフィニティマトリクスとの間に架橋を形成することもできる。また、アフィニティマトリクスへの結合を、リガンドまたはリガンドとターゲット配列、例えばポリヒスチジン配列間に架橋するZn++イオン間に架橋を形成することにより、達成することもできる。
【0059】
油体アフィニティマトリクスを用いることに関連して、このマトリクスを精製手段として魅力的にするいくつかの利点がある。前述の異なる形により可能である設形上の融通性により、マトリクスを、特定のターゲットに対する要求を最良に満たすように構成することができる。また、マトリクスを、種子における自然的な生物学的プロセスの一部として生産することは、極めて費用効率的である。その理由は、リガンドの精製および固定化が、不必要であるからである。オレオシン−リガンド融合体の場合において、リガンドを油体上に、細胞内でのオレオシンターゲティングの結果固定化する一方、油体特異性リガンドは、複合体混合物中に存在する間にマトリクスと本来的に会合する。マトリクス上でのリガンドの本来的な固定化はまた、ターゲットに対するリガンドの親和性を損傷しうる化学的架橋の必要性を解消する点で、有利である。最後に、油体アフィニティマトリクスは、特に大規模での操作において独特かつ魅力的な精製の選択肢を提供する。遊離した懸濁液としての浮遊によりマトリクスを分離する能力により、このマトリクスを、さもなければ極端に多い量の粒状汚染物を含みうる粗製の物質と共に用いることができる。これらの汚染物の存在により、しばしば、カラムまたはバッチ懸濁液において適用される汚れたブロック状の従来の固体マトリクスが生成し、これにより精製プロセスにおけるこの初期段階での使用が制限される。
【0060】
前述のように、本発明の1つの実施態様において、リガンドタンパク質配列を遺伝子的に油体タンパク質に融合させる。このような遺伝子的融合体を調製するために、油体タンパク質−リガンド融合体タンパク質を暗号化し、(a)油体タンパク質の十分な部分を暗号化して融合タンパク質の油体へのターゲティングを提供するDNA配列および(b)リガンドタンパク質の十分な部分を暗号化してターゲットの結合を提供するDNA配列から成るキメラDNA配列を調製する。本発明者等は、一般的に、油体タンパク質のN末端および疎水性核は、融合タンパク質の油体へのターゲティングを提供するのに十分であることを確認した。特に、植物 Arabidopsis thaliana から得られたオレオシンについて、アミノ酸2〜123(配列識別番号1に示す)は、この点に関して十分である。
【0061】
リガンドを、オレオシンのN末端および/またはC末端のいずれかに融合させることができる。また、リガンドとオレオシンとの間に内部融合を構成するか、または2つのオレオシンタンパク質の間にリガンドを融合させることもできる。リガンドに融合した油体タンパク質を暗号化するキメラDNA配列を、適切なベクターに移入し、これを用いて植物を形質転換することができる。2種のタイプのベクターが、慣例的に用いられる。第1のタイプのベクターを、遺伝子工学および構成物の組み立てに用い、このベクターは代表的に、ベクターのpUC族において見出されるような主鎖から成り、これにより容易に操作され、維持されたグラム陰性細菌、例えば大腸菌の複製を可能にする。TiおよびRiプラスミドに代表される第2のタイプのベクターは、DNAトランスファー機能を特定し、構成物を植物中に導入し、Agrobacteriumにより媒介される形質転換によりそのゲノムに安定に一体化されるのが望ましい際に、用いられる。
【0062】
代表的な構成物は、5’から3’の方向に、植物における発現を導くことができるプロモーターで完全にされた調節領域(好ましくは、種子特異性発現)、タンパク質暗号化領域、および植物における転写末端シグナル機能を含む配列から成る。この構成物を含む配列は、天然または合成またはこれらの任意の組み合わせのいずれでもよい。
【0063】
非種子特異性プロモーター、例えば35S CaMVプロモーター(Rothstein et al., 1987;Gene 53 :153−161)と種子特異性プロモーター、例えばファゼオリンプロモーター(Sengupta−Gopalan et al., 1985 ;PNAS USA 82 :3320−3324)またはアラビドプシス18 kDaオレオシン(Van Rooijen et al., 1992;Plant Mol. Biol. 18:1177−1179)プロモーターを、共に用いることができる。プロモーターに加えて、調節領域は、植物における転写産物の翻訳を可能にするリボソーム結合部位を含み、さらに1種または2種以上のエンハンサー配列、例えばAMVリーダ(Jobling および Gehrke 1987;Nature 325:622−625)を含んで、生成物の発現を高めることができる。
【0064】
構成物の暗号化領域は、代表的には、フレームにおいてオレオシンに融合されるリガンドを暗号化し、翻訳終止コドンで終了する配列で構成されている。オレオシンについての配列を、油体に正確にターゲットし、これにおいて安定に発現することができるタンパク質を暗号化するのに十分な任意の天然または合成のDNA配列、またはその一部で構成することができる。このような配列の特徴の詳細な説明は、以前にMoloneyの1993年の国際特許出願第WO93/21320号明細書に報告されており、この明細書の内容を参照のために本出願中に加入する。この配列はまた、イントロンを含むことができる。リガンド暗号化領域を次に、前述のようにして識別した任意の個々のまたは組み合わせのリガンド配列で構成することができる。所要に応じて、プロテアーゼまたは化学認識領域を、リガンドとターゲットタンパク質との間に工作して、精製の過程におけるターゲットタンパク質からのリガンドのタンパク質加水分解の除去を可能にすることができる。
【0065】
転写終止シグナルを含む領域は、植物において機能的なこのような配列、例えばノパリンシンターゼ終止配列をすべて含み、さらにエンハンサー領域を含んで、生成物の発現を高めることができる。
【0066】
構成物の種々の成分を、従来の方法を用いて、代表的にはpUCをベースとするベクター中に一緒につなぐ。次に、この構成物を、以下に概説する形質転換方法の1つを用いて、Agrobacteriumベクター中、次いでホスト植物中に導入することができる。
【0067】
DNAをホスト細胞に導入するために、種々の方法が有用である。例えば、キメラDNA構造物を、双子葉植物、例えばタバコ、および脂肪含有種、例えばB.napusから得られたホスト細胞中に、標準的なAgrobacteriumベクターを用いて、形質転換原理、例えばMoloney et al., 1989,(Plant Cell Rep., 8:238−242)またはHinchee et al., 1988, (Bio/Technol., 6:915−922)により記載された原理または当業者に知られている他の手法により、導入することができる。例えば、植物細胞を形質転換させるためにT−DNAを用いることは、長期間研究され、EPA通番第120,516 号;Hoekema et al., 1985, (第5章,In;The Binary Plant Vector System Offset−drukkerij Kanters B.V.,Alblasserdam) ;Knauf,et al., 1983,(Genetic Analysis of Host Range Expression by Agrobacterium, P. 245, In Molecular Genetics of the Bacteria−Plant Interaction, Puhler, A. 編,Springer−Verlag, NY);およびAn et al., 1985, (EMBO J.,4;277−284)中に詳細に記載されている。好都合なことに、外植体を、A.tumefaciensまたは A.rhizogenesを用いて培養して、転写構造物が植物細胞に転移するのを可能にする。Agrobacteriumを用いた形質転換に続いて、植物細胞を、選択のための適切な培地に分散させ、その後カルス、芽および最後に苗木を回収する。Agrobacterium ホストは、T−DNAを植物細胞に転移させるのに必要なビル遺伝子(vir gene)を含むプラスミドを収容する。注入およびエレクトロポレーション用に(以下参照)、アームを除去した(disarmed)Tiプラスミド(腫瘍遺伝子、特に、T−DNA領域が欠乏している)を、植物細胞中に導入することができる。
【0068】
Agrobacteriumによらない手法を用いると、本明細書中に記載した構造物を用いて、広範囲の単子葉植物および双子葉植物および他の生物体において形質転換および発現を得ることができる。これらの手法は特に、Agrobacterium形質転換システムにおいては処置が困難である種に有用である。遺伝子転写のための他の手法には、バイオリスティックス(biolistics)(Sanford, 1988, Trends in Biotech., 6:299−302), エレクトロポレーション(Fromm et al., 1985, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 82 :5824−5828 ;Riggs およびBates, 1986, Proc. Natl.Acad. Sci. USA 83 :5602−5606)またはPEGにより媒介されるDNA取り込み(Potrykus et al., 1985, Mol. Gen. Genet., 199:169−177)が含まれる。
【0069】
特定の用途、例えばB.napusにおいて、ターゲットして組換えDNA構造物を受けるホスト細胞は、代表的に、Moloney et al., (1989, Plant Cell Rep., 8:238−242)により記載されているように、子葉のペチオールから得られる。市販の脂肪種子を用いる他の例には、大豆外植体における子葉の形質転換(Hinchee et al., 1988. Bio/Technology, 6:263−266)が含まれる。
【0070】
形質転換に続いて、細胞、例えばリーフディスク(leaf disc) を、選択的培地において成長させる。芽が発芽しはじめた後、これを切り取り、発根培地上に置く。十分な根が形成した後、植物を土壌に移す。次に、推定の形質転換した植物を、マーカーの存在について試験する。適切なプローブ、例えばA.thalianaオレオシン遺伝子を用いて、ゲノムDNAに関してサザンブロッティングを実施して、所望の配列のホスト細胞ゲノムへの一体化が生じたことを示す。
【0071】
発現カセットは通常、植物細胞の選択用のマーカーに接合される。好都合なことに、マーカーは、除草剤、例えばホスフィノトリシンまたはグリフォセートに対して、またはさらに特に抗生物質、例えばカナマイシン、G418,ブレオマイシン,ヒグロマイシン,クロラムフェニコール等に対して耐性を有する。用いる特定のマーカーは、導入された組換えDNAが存在しない細胞と比較して形質転換された細胞を選択するのを可能にするマーカーである。
【0072】
前述のようにして構成した発現カセットにおける融合ペプチドは、少なくとも選択的に種子の発育において発現する。従って、従来の方法に従って成長した形質転換植物を放置して種子を植えることができる。例えば、McCormick et al.(1986, Plant Cell Reports,5:81−84)参照。ノーザンブロッティングを、転写が発生すると予測される組織、例えば種子胚から分離したRNAを有する適切な遺伝子プローブを用いて実施することができる。次に転写産物の大きさを、融合タンパク質転写産物について予測された大きさと比較することができる。
【0073】
次に、油体タンパク質を、種子から分離して、分析を実施して、融合ペプチドが発現したことを確認する。分析は、例えばSDS−PAGEによることができる。融合ペプチドを、融合ペプチドのオレオシン部分に対する抗体を用いて検出することができる。次に、得られる融合ペプチドの大きさを、融合タンパク質の予測された大きさと比較することができる。
【0074】
トランスジェニック植物の2つまたは3つ以上の世代を成長させ、交雑させるかまたは自家受粉させて、組換えタンパク質の生成を含む所望の表現型の特徴について植物および株の識別を可能にする。組換えタンパク質を生成する植物、株または系列の同型接合性を確実にして、組換え特性の受け継がれた遺伝を確認するのが望ましい。同型接合性植物を選択する方法は、植物育種の当業者に十分知られており、これには、回帰的自家受粉および選択および葯および小胞子培養が含まれる。同型接合性植物はまた、半数体細胞または組織を形質転換させ、続いて半数体苗木を再生させ、次に多種の既知の手段(例えばコルチシンまたは他の微小管破壊剤での処理)により二倍体植物に転換することにより、得られる。
【0075】
ターゲット分子をアフィニティマトリックスを用いて分離する方法
前述のように、本発明は、試料からターゲット分子を、前述の油体タンパク質および若干の場合においてはリガンドを用いて分離する方法に関する。本発明の方法において、油体を、所望のターゲットを含む試料と混合し、リガンドとターゲットとの間の相互作用の結果、ターゲットと油体との非共有結合的会合が形成する。遠心分離に続いて、油体およびアフィニティ結合ターゲットを水性相から分離し、ターゲットを、最初の試料中に存在するすべての汚染物から有効に精製する。清浄工程をくり返すことにより、すべての残留する汚染物が確実に除去される。
【0076】
これらが油体に付着した後、ターゲットを、個々のリガンド−ターゲット対について経験的に決定された条件の下で溶出させる。結合マトリックスの適切な溶出液での処理および遠心分離により、水性相中の精製されたターゲットの回収が可能になる。ターゲットが、プロテアーゼ認識部位を含むリガンド−タンパク質融合体である場合には、これを適切なプロテアーゼで処理して、リガンドを除去することができる。遊離のリガンドを次にターゲットタンパク質から、油体アフィニティマトリックスを再び適用することにより、または従来のタンパク質精製方法により、分離することができる。
【0077】
アフィニティマトリックスの化学的特性および物理的特性を、少なくとも2種類の方法により変化させることができる。第1に、異なる植物種は、異なる油組成を有する油体を含む。例えば、ココナッツは、ラウリン酸油(C12)に富んでおり、一方エルカ酸油(C22)は、若干のBrassica種において豊富に存在する。さらに、油体と会合したタンパク質は、種によって変化する。第2に、油の相対的量を、特定の植物種内で、育種および遺伝子工学手法または当業者に知られている方法の組み合わせを用いることにより、変化させることができる。これらの手法は、油合成に伴う代謝経路を制御する酵素の相対的活性を変化させることを目的とする。これらの手法を適用することにより、種々の油の精巧な組合せを有する種が得られる。例えば、育種の労力の結果、低いエルカ酸含量の菜種が発育し(Canola)(Bestor, T.H, 1994, Dev. Genet. 15:458), 二重結合の位置および数が変化した油を有する植物系列、脂肪酸の鎖の長さの変化および所望の官能基の導入はすべて、遺伝子工学により発生した(Topfer et al., 1995, Science,268 :681−685)。同様の方法を用いて、当業者は、現在入手できる油体の供給源について、さらに拡張することができる。種々の油組成の結果、油体部分の種々の物理的特性および化学的特性が得られる。従って、油体の供給源として異なる種または植物系列からの脂肪種子またはこの混合物を選択することにより、異なる組織および粘度を有する広範囲の油体マトリックスが得られる。
【0078】
油体アフィニティマトリックスの適用
油体アフィニティマトリックスをいくつかの群のタンパク質について工作することが可能である場合には、油体をベースとするアフィニティマトリックスについての複数の使用が構想される。細菌、菌類、植物および動物はすべて、イオン、金属、核酸、糖、脂質および他のタンパク質等の薬剤と特定的に相互作用することができるタンパク質を含んでいる。これらの薬剤を、油体手法を用いて固定化することができる。
【0079】
油体タンパク質アフィニティマトリックスを用いて、油体タンパク質に直接またはリガンド分子を介して間接的に結合することができるすべてのターゲット分子を分離することができる。本発明の方法を用いて試料から分離することができるターゲット分子の例には、タンパク質、ペプチド、有機分子、脂質、炭水化物、核酸、細胞、細胞フラグメント、ウイルスおよび金属が含まれる。特に、本発明者等は、本発明のアフィニティマトリックスを用いて、治療タンパク質(例えばトロンビン)、抗体、金属(例えばカドミウム)、炭水化物(例えばセルロース)、有機分子(例えばビオチン)および細胞(例えば細菌細胞)を分離することができることを示した。
【0080】
また、油体アフィニティマトリックスを用いて、工業的または医学的関連のある細胞を細胞の混合集団から分離することができる。例えば、血液細胞の部分集団であり、骨髄移植および幹細胞遺伝子治療において用いられる造血幹細胞を、他の血液細胞から、油体をベースとするアフィニティ手法を用いて分離することができる。組換えDNA手法において、形質転換した細胞として知られている組換えDNAが好首尾に導入された細胞を、組換えDNAが得られなかった細胞から区別し、分離することが、しばしば必要である。組換えDNAの一部が、油体をベースとするアフィニティリガンドと相補的である細胞表面タンパク質を発現する場合には、油体を用いて、形質転換した細胞を形質転換していない細胞から分離することができる。また、油体アフィニティ手法を用いて、クロロプラストおよびミトコンドリア等の細胞小器官を、他の細胞物質から分離することができる。ウイルス粒子もまた、複雑な混合物から分離することができる。
【0081】
また、イオンに特異的に結合する補欠分子族を含む、金属タンパク質として知られている群のタンパク質を固定化することもできる。金属タンパク質の例には、鉄に結合するヘモグロビン、カルシウムに結合するパルブアルブミン並びに亜鉛および他の金属イオンに結合するタンパク質であるメタロチオネインである。油体を用いて、実験室および工業的プロセスからの金属の廃棄物で汚染された水であることがある流動する物質の流れから金属を除去することができることが、構想される。以下の実施例4はさらに、この用途を例示する。タンパク質を生物的に固定化する(bioimmobilize)ことができ、生物矯正(bioremediation)方法において用いられる他の実施例には、廃棄物流からのリン酸塩、硝酸塩およびフェノール類の除去が含まれる。部分的に、この方法により、細菌の生物矯正の真正であるかまたは認知された制限を解消することができる。若干の例において、油体マトリックスをターゲット化合物から分離するためのアフィニティ分割手法に依存することは、実際的でも必要でもない。これらの例において、油体を、平坦な表面または円柱の表面とすることができる固体不活性表面上に固定化することができることが、構想される。次に、アフィニティリガンドを含む溶液を、固定化した油体で被覆した表面上に通じ、これにより選択的アフィニティ結合が生じうる。固定化された油体をパイプ中または池中で用いて、生物矯正を助けることができることが、構想される。
【実施例】
【0082】
次の実施例は、油体をアフィニティマトリックスとして用いることができる種々のシステムを例示する。以下に示す実施例は、例示的であり、限定的ではないことを意図することを理解されたい。
【0083】
実施例1
トロンビンの精製
以下の例は、トロンビンを精製するための油体アフィニティマトリクスの有用性を示す。トロンビンは、血液凝固において中心的な役割を演ずるセリンプロテアーゼである。トロンビンは、フィブリノーゲンを切断し、フィブリンモノマーを産生する。これらのフィブリンモノマーは、重合し、血餅の基を形成する(Fenton 1981; Ann.N.Y. Acad. Sci. 370: 468−495)。α−トロンビンは、ジスルフィド架橋によって結合した36(A−鎖)及び259(B−鎖)残基の2つのポリペプチド鎖からなる。Degen et al. 1983; Biochemistry 22: 2087−2097)。ヒルジンは、医薬としてのヒルである、Hirudo medicinalis(薬用蛭、ドイツ蛭)の唾液腺において見出されるもので、トロンビンの極めて特異的で有力なインヒビターである。この抑制は、ヒルジンがα−トロンビン鎖の特異的部分に非共有結合する結果として起こる。(Stone及びHofsteenge 1986; Biochemistry 25: 4622−4628)。
【0084】
固定化されたリガンドは、18kDaのArabidopsisのオレオシン(油体タンパク質)に融合したヒルジンのイソホルムから構成される(Van Rooijen et al., 1992; Plant Mol. Biol. 18: 1177−1179)。この構成物の発現は、Arabidopsisの18kDaのオレオシンプロモータによって調節される(Van Rooijen et al., 1994; Plant Mol. Biol. 18: 1177−1179)。このオレオシン−ヒルジン融合体の配列を、図2及び配列番号3に示す。
【0085】
オレオシン−ヒルジン構成物
オリゴヌクレオチドプライマーを、Brassica nupusのオレオシン遺伝子について報告されている配列を基にして設計し(Murphy et al. 1991, Biochim. Biophys. Acta 1088: 86−94)、及びB. napusのゲノムDNAからのフラグメントをPCRによって増幅するのに用いた。このフラグメントをプローブとして用い、15kbpの挿入物を有するクローンを、同定し、及びEMBL3Arabidopsisゲノムライブラリーから単離した。オリゴヌクレオチドプライマーを用い、完全なオレオシンコーディング配列及び840塩基対の5’上流領域を有するイントロンを含むこの挿入物からのフラグメントを増幅した。これらのプライマーは、翻訳停止コドンを除去し、及び5’末端にPstI制限酵素認識部位及びこのフラグメントの3’末端にPvuI部位に続くSalIを導入するために設計した。このフラグメントを、末端充填し、及びプラスミドベクターpUC19のSamI部位に連結した。次いで、ノパリン合成酵素ターミネーター配列を含むプラスミドpBI121(Clontech)からのSalI−EcoRIフラグメントを挿入し、pOBILTを作出した。
【0086】
合成ヒルジン変異体2(HV2)配列を、報告されている配列情報(Harvey et al. 1986, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 83: 1084−1088)に基づいて、しかし、B. napus及びArabidopsisのコドンの慣例を用いて合成した。この配列を4つのオーバーラッピングオリゴヌクレオチドプライマーを用いて増幅した。これらのプライマーは、得られるフラグメントが5’及び3’末端にそれぞれPvuI及びSalI部位を有するように設計した。このフラグメントを、pUC19プラスミドベクターのSmaI部位中に連結し、pHIRを産出した。次いで、pHIRからのPvuI−SalIフラグメントをオレオシンとターミネーター配列との間のpUCOBILTに挿入し、オレオシン暗号化領域を与えるpUCOBHIRTを有するインフレーム融合体を形成した。完全な構成物をpBluescript KS+中(pBIOBHIRT)、及び次いで35−S CaMVプロモーターの制御下のネオマイシンホスホトランスフェラーゼ遺伝子を有するpCGN1559プラスミド(McBride及びSummerfelt, 1990, Plant Mol. Biol. 14: 269−276)のPstI部位中(pCGOBHIRT)にサブクローニングした。このプラスミドをAgrobacterium tumefaciens中に導入した。このプラスミドの調製物を図3に示す。
【0087】
形質転換及び再構築
Agrobacterium及び植物の形質転換の方法は以前記載した。Agrobacterium tumefaciensを、上記構成物を用いてエレクトロポレーションによって形質転換した(Dower et al., 1988; Nucl. Acids Res. 16: 6127−6145)。次いで、形質転換した細菌を用いて、Brassica napusの子葉外植片を形質転換し、Moloney et al. (1989; Plant Cell Reports 8: 238−242)の方法に従って植物を再構築した。トランスジェニック植物を、最初にネオマイシンホスホトランスフェラーゼアッセイを用いて同定し、及び次にノザン及びイムノブロット分析によって決定されるようなオレオシン−ヒルジン融合体の発現により確認した。
【0088】
油体の調製
コントロール(非−トランスジェニック)植物又はオレオシン−ヒルジン融合体を発現するトランスジェニック植物のそれぞれからの種子を、5倍容量の冷やしたグラインディング緩衝液(50mMのTris−HCl、pH7.5、0.4Mのショ糖及び0.5MのNaCl)中で、高速で稼働するポリトロンを用いてホモジナイジングした。このホモジネートを、約10×gで、30分間遠心分離し、粒状物質を除去し、及び可溶性の種子タンパク質のバルクを含む水相から油体を分離した。油体を、金属製のスパチュラを用いて、その上清の表面からすくい取り、及び1倍容量の新鮮なグラインディング緩衝液中に配置した。次の工程で効率的な洗浄を行うために、これらの油体が十分に再分散するのを確実にすることが重要であった。このことは、これらの油体を、低速で稼働するポリトロンを用いて、グラインディング緩衝液中で、緩徐に再ホモジナイジングすることによって、達成された。シリンジを用いて、再懸濁させた油体を、5倍容量の冷やした50mMのTris−HCl、pH7.5の下に、注意深く層にし、及び上述したように遠心分離した。遠心分離の後、これらの油体を再び除去し、及び洗浄方法を3回繰り返して、残余の汚染している可溶性種子タンパク質を除去した。最終的に洗浄した油体調製物を1倍容量の冷やした50mMのTris−HCl、pH7.5中に再懸濁させ、ポリトロンを用いて再分散させ、及び次いでアフィニティマトリクスとして用いるための準備をした。
【0089】
トロンビンのアフィニティ精製
オレオシン−ヒルジン融合タンパク質を用いたトロンビンの精製を、図4に図解して示す。トロンビンの結合を評価するために、アフィニティマトリクスを、オレオシン−ヒルジン融合タンパク質を発現するトランスジェニックBrassica napus種子(4A4種子)(Parmenter et al. Plant Molecular Biology(1995) 29: 1167−1180)から、及び野生型のBrassica napus cv Westar種子から調製した。トロンビンの両マトリクスへの結合を評価した。種子から、洗浄した油体を調製するための方法は、上述した方法と同じであった。0及び1単位の間の範囲のトロンビン活性を含む溶液を、10μlの一定の量のアフィニティマトリクス(10mgの乾燥種子の全量から調製した;約100μgの全量の油体タンパク質に相当する)と、500μlのバインディング緩衝液(50mMのTris−HCl(pH7.5);0.1%(w/v)BSA)中で混合した。次いで、この油体懸濁液を30分間、氷上でインキュベーションし、及び14000rpmで、15分間、4℃で遠心分離した。これらの油体の下の、結合していない、遊離のトロンビンを含有する緩衝液(「ウンターネータント」と称する)を皮下注射器を用いて除去し、及び以下のようにして、トロンビン活性をアッセイした。全量で250μlのウンターネータントを、700μlのバインディング緩衝液に添加し、及び前もって37℃に温めた。50μlの1mMのトロンビン基質、N−p−tosyl−gly−pro−arg−p−ニトロアニリド(Sigma社)をウンターネータントに添加した後、405ナノメータの光学濃度における変化を、3分間分光光度計により監視した。アッセイ混合物中のトロンビンの濃度は、標準曲線を用いて測定した。この標準曲線は、既知の濃度のトロンビンを含むトロンビン試料のセットを用いて作図した。これらのアッセイから得た値を用いて、結合したトロンビンの濃度を:
[結合したトロンビン]=[すべてのトロンビン]−[遊離のトロンビン]
と仮定して、計算した。
【0090】
遊離のトロンビンの濃度を超えて結合した濃度の比は、結合したトロンビンの濃度の関数としてプロットした(スキャッチャードプロット)。これらのプロットから、アフィニティマトリクスの解離定数を、標準法(Scatchard, G. Ann. N.Y. Acad. Sci. (1949) 57: 660−672)及び仮定:K=1/Kに従って計算した。アフィニティマトリクスのこれらの解離定数は、野生型について3.22×10−7m、及び4A4油体について2.60×10−8であった。
【0091】
マトリクスからの結合したトロンビンの回収を評価するために、NaCl勾配を用いた。オレオシン−ヒルジン油体マトリクスに結合しているトロンビンの溶出プロファイルを、野生型の油体マトリクスに結合しているトロンビンからのプロファイルと比較した。野生型のBrassica napus cv Westar種子から野生型の油体を調製する方法及びBrassica napus 4A4種子(Parmenter et al. Plant Molecular Biology (1995) 29: 1167−1180)からオレオシン−ヒルジン油体を調製する方法は、上述した方法と同じであった。トロンビンをマトリクスに結合させる方法は、油体の100μlのアリコートを用いて0.5単位のトロンビンに結合させた以外は、上述したのと同じである。油体懸濁液を、15分間、4℃及び14000rpmで遠心分離するのに先立ち、氷上で30分間放置した。このウンターネータントを、(未結合の)トロンビン活性についてアッセイした。次いで、この油体マトリクスを、ビンディング緩衝液中に再懸濁させた。この緩衝液には、NaClを0.05Mの終濃度まで添加した。氷上での油体懸濁液の30分のインキュベーションを始め、この方法を、ステップワイズ法でNaClの濃度を増加させ、5回繰り返した。用いた最終的なNaCl濃度は、0.05M、0.1M、0.2M、0.3M、0.4M及び0.6Mであった。トロンビンアッセイにおけるNaClの濃度は、150mMに保った。図5は、野生型の油体及び4A4油体を用いた時に得られた溶出プロファイルを示す。
【0092】
実施例2
二価リガンドとしての抗体の使用
抗体は、特異的エピトープに対する、及び免疫グロブリン(IgGs)に対して親和性を有する他の抗体又はタンパク質(例えば、Staphylococcus aureusのプロテインA)に対する、双方の親和性によって、二価リガンドとして用いることができる。この例では、ポリクローナル抗オレオシン抗体が二価リガンドとして働き、及びこの抗オレオシン抗体に対してウサギ中に発生する抗体がターゲットとして働く。この例は、図6に図解して示す。
【0093】
油体を、5gの野生型のBrassica napus cv Westar種子から、実施例1に記載した方法に従って調製した。次いで、油体を、100mMのグリシン(pH2.5)を用いて2回洗浄し、バインディング緩衝液(50mMのTris−HCl、pH7.5)中での2回の洗浄によって中和し、及び5mlのバインディング緩衝液中に再懸濁した。洗浄した油体調製物の150μlのアリコートを、抗オレオシン抗体(リガンド抗体)を含有する500μlのウサギ血清と混合し、バインディング緩衝液を用いて1:10に希釈した。この油体の懸濁液を十分に混合し、及びアジテーションさせながら4℃で1時間インキュベーションした。インキュベーションに次いで、未結合のリガンド抗体を、1mlのバインディング緩衝液を用いた3回の洗浄によって、油体の懸濁液から除去した。次に、バインディング緩衝液中で1:500に希釈し、及び検出ラベル(Sigma社)としてのセイヨウワサビペルオキシダーゼ(HRP)と共役している抗ウサギIgG抗体(ターゲット抗体)を含有する、500μlの血清と、油体とを組み合せた。この懸濁液を混合し、及び抗オレオシン抗体の結合のために用いたものと同じ条件下で、インキュベーションした。コントロールとして、ターゲット抗体を、以前リガンド抗体に結合しなかった油体とインキュベーションした。その後、双方の試料を、1mlのバインディング緩衝液を用いて4回洗浄し、未結合の抗体を除去した。バインディング緩衝液を用い、これらの試料を、600nmで分光測光法による試料の濁度の測定によって決められるような油体の濃度に関して、同等にした。結合しているターゲット抗体についてアッセイするために、5μlの油体を含む試料を、0.01%の過酸化水素中で、HRPの比色定量基質であるテトラメチルベンジジンと混合し、及び10分間、室温で反応させた。反応は、500μlの1MのHSOの添加によって停止させ、及び450nmでの吸光度を測定した。洗浄後に残る、残余の、未結合のターゲット抗体の存在についての修正は、5μlの最終的な洗浄フラクションをアッセイすることによって行った。コントロール及びリガンド結合油体調製物について得られた結果を、図7に示す。
【0094】
実施例3
オレオシン−特異的リガンドの使用
オレオシン−特異的リガンドの使用は、組換えターゲットタンパク質を精製するための抗体又は遺伝子的に設計したオレオシン融合タンパク質の使用に代わるものに相当する。この場合、ターゲットタンパク質は、オレオシン−特異的リガンドに融合し、及び非トランスジェニック種子の油体上に存在する内在オレオシンが相補的なリガンド−アフィニティマトリクスとして働く。オレオシン融合体を発現するトランスジェニックラインのための要求物を排除することに加え、このアプローチは、アフィニティマトリクスの全体的な能力を高める。その理由は、すべての内在オレオシンが結合に関係することができるからである。
【0095】
オレオシン−特異的リガンドは、オレオシンタンパク質でスクリーニングされたペプチドファージのディスプレイライブラリから同定され、及び単離される。オレオシンの中心的なドメインの極端な疎水性によって、そのタンパク質が油体から取り出された時に、凝集及び沈澱を起こすことがあるので、このドメインを欠損する変異タンパク質を、スクリーニングに用いることができる。これは、リガンドの効力にわずかな影響を及ぼすに過ぎない。その理由は、親水性タンパク質のオレオシンが細胞質に露出するに過ぎないからである(即ち、N−及びC末端)。このため、これらのドメインは、リガンドに結合し得る領域であるに過ぎない。一旦単離したら、リガンドを、共通の受容体タンパク質、緑色蛍光タンパク質(GFP)(Prasher, 1995, Trends Genet. 11: 320−323)に融合させることができ、精製が証明される。
【0096】
オレオシンの中心的なドメインの除去
上述した Arabidoosisオレオシン遺伝子に対して特異的なオリゴヌクレオチドプライマーを用いて、B. napusのcDNAライブラリ(van Rooijen 1993、Ph.D. Thesis、カルガリー大学)からオレオシン遺伝子を増幅することができる。N末端の62アミノ酸、及びC末端の55アミノ酸を暗号化する配列の側面に位置するプライマーを用いて、個別の反応においてそれぞれのN及びC末端のオレオシンドメインのための配列を増幅することができる。さらに、N末端のドメインの5’末端のためのプライマーは、トロンビン認識部位のための配列を含み、以下に示されるような融合タンパク質の開裂を可能にする。得られたフラグメントを、細菌発現ベクターpEZZ18(Pharmacia社)のSmaI部位に連結した。このベクターは、細胞質へのタンパク質分泌のためにシグナルペプチド、及びタンパク質精製を促進するための、プロテインAから誘導された合成IgG結合ドメインを暗号化する配列を、多重クローニング部位の下流に含む。
【0097】
オレオシン欠失構成物の発現及び精製
欠失変異構成物を有するベクターを、標準的な方法及び選択された形質転換体を用いて、E.coliに導入する。形質転換した細菌の培養物を、1mMのIPTGの添加によって誘発して、合成プロテインA−変異オレオシン融合タンパク質を発現させることができる。誘発された細胞をペレット化し、及び浸透圧衝撃によって原形質膜の溶解を生じる5mMのMgS0中で、再懸濁させることができる。溶解された細胞を遠心分離し、及び分泌されたタンパク質を含む上清をIgG結合セファロースを含むカラム上に負荷する。結合していないタンパク質を除去するための洗浄の後、カラムに、50mMのTris−HCl、pH7.5、150mMのNaCl及び1.0U/mlの精製したウシトロンビン(Sigma社)を含む緩衝液を負荷し、合成プロテインAから変異オレオシンを開裂させる。37°C、4時間のインキュベーションに次いで、 このカラムを排水し、及びこの溶出液をヘパリン結合セファロースを通して、トロンビンを除去する。変異オレオシンタンパク質を含む、このカラムからの溶出液を回収し、及びこのタンパク質の純度を、ゲル電気泳動、次いでクーマシーブルーR250染色によって試験する。
【0098】
ペプチド組合せライブラリの作成
ランダムのペプチド組合せライブラリは、Scott及びSmith(1990 ; Science 249 : 386−390)の方法に従って作成することができる。簡潔にいえば、PCRを用いて、変質した配列(NNK)を含む合成DNAフラグメントを増幅し、ここで、「N」は、デオキシヌクレオチド、G、A、T、及びCの等量混合物を示し、及び「K」は、デオキシヌクレオチド、G及びTの等量混合物を示す。変質した配列は、六量体ペプチドを暗号化する。それらの間には、20のアミノ酸の全ての可能な組合せ及びアンバー終結コドンが示される。PCR生成物を、線状バクテリオファージfUSE及びE.coliにエレクトロポレーションによって導入されて得られたファージミドの遺伝子III配列に連結する。
【0099】
オレオシン−特異的リガンドの同定及び単離
ペプチドファージディスプレイライブラリは、増幅し、濃縮し、及び1012tdu/mlのアリコートで貯蔵する。精製した変異オレオシンタンパク質を、チオール−開裂可能なリンカー(S−Sビオチン、Pierce社)を用いてビオチン化し、及びサイズ排除クロマトグラフィによって精製する。2ml中に、5x1011tduを含むペプチドファージディスプレイライブラリのアリコートを、ビオチン化したタンパク質を用いて、50nMの濃度でスクリーニングする。変異オレオシンタンパク質を結合するファージは、ストレプタビジン被覆常磁性体ビーズを用いて回収する。洗浄に次いで、ジスルフィド結合を開裂する50mMのジチオスレイトールの添加によって、ファージを溶出する。次いで、溶出されたファージを、過剰の対数期のF+のE.coliとともにインキュベーションする。感染した細胞のアリコートを培養し、ファージのタイター及び連続するラウンドの増幅及びスクリーニングで用いる残余の細胞を測定する。溶出したファージの3〜4倍の程度の大きさの濃縮に次いで、個々のファージを選択し、及び直接的なELISAによって突然変異オレオシンへの結合について試験する。ファージによる結合を、抗ファージ抗体(Crosby及びSchorr、1995、In Annual Review of Cell Biology)を用いて検出する。1本鎖DNAを、結合を示すファージから単離し、及びペプチド暗号化配列を測定した。
【0100】
オレオシン特異的リガンドを用いたアフィニティ精製
上述したように単離されたオレオシンリガンドのための配列を、GFPを暗号化するgfp10(Prasher et al., 1992, Gene 111:229−233)のための配列の上流のインフレームに融合し、及びこの構成物を細菌発現ベクターpKK 233(Pharmacia社)に連結する。可溶性のタンパク質を、リガンド−GFP融合体を発現するよう導かれた細胞の超音波処理によって抽出し、及び50mMのTris−HCl、pH7.5中で、10mg/mlの濃度に調節する。
【0101】
20mlのこのタンパク質溶液を、上述したように、非トランスジェニック植物の種子から調製した、2mlの油体と混合する。この混合物を、アジテーションしながら30分間、4℃でインキュベーションして結合させ、及び次いで、遠心分離して、油体及び可溶性のフラクションを分離する。油体の除去後の可溶性フラクション中に留まるGFPの量を、508nmの波長の蛍光性の分光蛍光光度計によって測定し、及び元の細菌抽出物と比較する。結合したGFPの量を計算し、マトリクスの能力を決定する。
【0102】
これらの油体を、50mMのTris−HCl、pH7.5の20mlで2回洗浄し、同じ緩衝液の2mlで再懸濁し、及び100μlの20のアリコートに分割する。リガンド−GFP融合タンパク質の溶出のための条件は、pH2〜10で、及び0〜1M のNaClの濃度で異なるアリコートに変動する1mlの溶液を添加することによって決定する。混合及び4℃で、30分のインキュベーションの後、油体を除去し、及び可溶性フラクションを収集する。可溶性フラクションにおけるリガンド−GFP融合タンパク質の量を、蛍光性の分光蛍光測定によって決定する。
【0103】
実施例4
重金属イオンの除去
次の例は、複合的溶液からの非タンパク質ターゲットの回収/除去のための油体アフィニティマトリクスの有用性を示す。この例のために、メタロチオネイン/Cd++リガンドペアを用いた。しかし、フィトキレチン(Rauser 、 1990; Ann. Rev. Biochem. 59 : 61−86)のような他の金属結合性タンパク質及びCu++及びZn++を含む金属イオンも用いた。
【0104】
オレオシン−メタロチオネイン融合
B. napusのcDNAライブラリ (van Rooijen 1993, Ph.D. Thesis, カルガリー大学)からのオレオシン遺伝子を、その遺伝子の5′及び3′末端のそれぞれに NotI及びNcoI部位を作成するために設計したオリゴヌクレオチドプライマーを用いて、PCRによって増幅した。得られるフラグメントを消化し、及びpGNのNotI/NcoI部位に配置して、プラスミドpoleGNを産出する。ヒトメタロチオネイン遺伝子、mt−II(Varshney及びGedamu、1984、Gene、31: 135−145)を、遺伝子の3′末端で唯一のNotI部位を造るために、設計されたオリゴヌクレオチドプライマーを用いて増幅した。得られたPCR生成物を、pBluescript KS+ のブラントエンドEcoRV部位にサブクローニングし、pBSMTCを形成した。次いで、mt−II遺伝子を、このプラスミドから切り取り、及びGUS−NOS領域を交換するpoleGNのNcoI/KpnI部位にサブクローニングし、pOLEMTCを作成した。pOLEMTCの773塩基のオレオシン−MT融合体を、NotI消化を用いて切り取り、及びオレオシンプロモーター (oleP; Van Rooijen et al., 1992, Plant Mol. Biol. 18 : 1177−1179)とP. crispumのubi4−2遺伝子ターミネータ(ubi 3′; Kawalleck ef al., 1993, Plant Mol. 21 : 673−684.)との間のpolePN3’の唯一のNotI部位に挿入し、pOOM3’を作成した。融合が正しい配向であることを決定した後、pOOM3’をKpnIで消化し、oleP−oleMT−ubi3’挿入物を放出させた。この発現カセットを、バイナリーベクターpCGN1559のKpnI部位に挿入して、最終的な構成物pBIOOM3’を作成した。オレオシン−メタロチオネイン融合体の配列を、図8及び配列番号6に示す。プラスミドpBlOOM3’の構成を図9に示す。
【0105】
形質転換及び再構築
オレオシン−メタロチオネイン融合を示すトランスジェニックB. carinata植物を、実施例1に示したような形質転換及び再構築法を用いて作出した。
【0106】
油体の調製
洗浄した油体を、実施例1で示したようなトランスジェニック及びコントロール植物B. carinataの種子から調製した。
【0107】
油体アフィニティマトリクスを使用する、溶液からのCd++の除去
溶液中のカドミウムイオンを結合させるためのオレオシン−メタロチオネイン融合の使用を、図10に図示して示す。0.01μCi/mlの109Cdを含む、10mMのTris−HCl、pH7.2中の10μMのCdClの溶液を調製した。このCdCl溶液の1mlのアリコートを、オレオシン−メタロチオネイン融合タンパク質を発現する種子から調製した、100μlの洗浄された油体(1.6mgの油体タンパク質)と十分に混合し、及び22℃で、1時間インキュベーションした。5’間の、10000×gでの遠心分離に次いで、水相から油体を分離し、及び10mMのTris−Cl、pH7.2の1mlで2回洗浄し、油体フラクションに結合して残っている109Cd++の量を、ガンマカウンター(Cobra auto−gamma 、Canberra Packard社、カナダ国)を用いて測定した。同じ試験を、非トランスジェニック種子からの油体を用いて行い、Cdイオンのマトリクスに対する非特異的結合について検出し、及び修正した。
【0108】
Cd++イオンを、1mlの100mMのグリシン(pH=3.0)緩衝液 (Pazirandeh et al., 1995 ; Appl. Microbiol. Biotechn. 43 : 1112−1117)と油体フラクションとの混合によって、油体メタロチオネインアフィニティマトリクスから溶出した。5分間の10000×gの遠心分離に次いで、油体フラクションを除去し、及び上述した結合Cd++イオンについてアッセイした。図11は、Cd結合及びアフィニティマトリクスからの溶出を示す。
【0109】
実施例5
すべての細胞の分離
次の例は、すべての細胞を固定するための油体の能力を例証する。細菌細胞分離の使用のための1つの可能性は、診断学のための有用性にある。関心の細胞種が比較的低い数で存在する細胞の複合的な混合物から、リンパ球及び幹細胞のような唯一の真核細胞を分離することは、同じく望ましい。
【0110】
プロテインAを経た油体へのStaphylococcus aureusの結合
この例のために、表面抗原としてプロテインAを発現する、S. aureusの細胞を、種々の量のポリクローナル抗オレオシン抗体を有する油体と混合した。
【0111】
油体の調製
B. napus cv Wester の種子を、漂白剤中で、表面殺菌し、洗浄し、及びモーターを用いてすりつぶし及びグラインディング緩衝液(50mMのTris、pH7.5、 0.4Mショ糖及び100mMのグリシン)中で乳棒によってすった。ホモジネートを、ミラクロス(Miracloth)を経て、無菌の15mlのコレックス(Corex)管中にろ過した。次いで、ろ過されたホモジネートを、4℃で、10分間、10000×gで、遠心分離した。油体フラクションを除去し、及び50mMのTris、pH7.5、及び0.4Mのショ糖中に再懸濁し、及び同じ緩衝液を用いて、2回洗浄した。1mlの油体のアリコートを、1.5mlのエッペンドルフ(Eppendorf)管に移し、及び室温で、10分間、16000×gで遠心分離した。目に見えるペレットが観察されなくなるまで、油体を50mMトリスpH7.5と0.4Mサッカロース中で5,6回以上洗浄した。
【0112】
黄色ブドウ球菌細胞の抗オレオシン被覆した油体への結合
フォルマリンで固定した黄色ブドウ球菌細胞(Sigma、P−7155)を、50mMトリス塩酸pH7.5中で3,4回洗浄し、再懸濁した。洗浄した油体(300μl)及び黄色ブドウ球菌細菌を、抗オレシンIgG(50μl)の量を変化させて混合した。混合して、室温で2時間インキュベーションした後、混合物を室温にて16,000×gで5分間遠心分離した。油体分画及び下清を慎重に取り出し、細胞ペレットを1mlの50mMトリス塩酸pH7.5で2回洗浄した。管の内壁をティシューで拭き取り油体の痕跡を取り除いた。続いて、水切した細胞ペレットを1mlの水に再懸濁し、OD600を測定した。図12は、油体黄色ブドウ球菌混合物に存在する抗IgGの濃度が増加するにつれて、細胞ペレットに存在する細胞の量が減少することを示す典型例である。
【0113】
黄色ブドウ球菌の2つの菌株の特異形態結合
この例において油体アフィニティーマトリックスを使用し、それによって黄色ブドウ球菌の2つの菌株の特異形態結合を証明する。ホルマリンで固定した黄色ブドウ球菌菌株は、1つはIgG結合表面抗原タンパク質Aを発現するもの及び1つはタンパク質Aを欠くもので、Sigma社から市販されている。同一のOD550を有する双方の黄色ブドウ球菌菌株の複数の希釈試料を調製できた。これらの試料のそれぞれに、形質転換されていない植物由来のコントロール油体又は抗オレシン抗体と混合した油体を加えることができた。適当な温度で適当な時間インキュベーションした後、試料を遠心分離することができ、それによって結合していない細菌の細胞をペレット化し、油体分画を分離した。油体は、別の容器に静かに移し、かき混ぜて、OD550を測定することができた。複数のペレットを再懸濁し、下清のOD550を測定することができた。タンパク質Aを発現する黄色ブドウ球菌及び抗オレシン抗体との複合した油体を含む試料においてだけ、油体分画へのこれらの細胞の分別が観察されるであろうと予想される。さらに、油体へ細胞が結合することは、油体分画のpHを下げることによって証明することができた。遠心分離の後油体から細胞が離れることを、ペレットの存在及び/又はペレットの再懸濁でのOD550 値の増大によって証明することができた。
【0114】
大腸菌からの黄色ブドウ球菌の分離
生存可能な黄色ブドウ球菌菌株は特異的な抗生物質耐性を有する大腸菌株の細胞の量を変えて混合することができた。混合した細菌の試料は、コントロール抗体及び抗オレシン抗体と複合体を形成した油体と共にかき混ぜることができた。適当な温度で適当な時間インキュベーションした後、油体を洗浄し下清と油体とを直接滴定することができ、黄色ブドウ球菌成長に対しては血液アガロース上で、大腸菌に対してはLBプレート上で選択的に培養することができる。増菌状態又は実際得られた分離状態はコロニー形成ユニットの評価によって測定することができた。
【0115】
複合体混合物における低濃度で存在する病原体の同定
ヒトや動物に少数で侵入するバクテリアやウイルス病原体を濃縮することは診断目的のためにしばしば望ましいことである。油体アフィニティーマトリックスは、これらの病原体を濃縮するために用いることができるので、続いて病原体を同定し特徴づけることができた。
【0116】
病原体は、しばしばレセプター又は表面タンパク質との相互作用を通じて人や動物の細胞に特異的に結合する。オレシンは人や動物のタンパク質リガンドに融合することができ、組み換え油体は、病原体を固定するために用いることができた。従来から既知の人及び病原体由来のタンパク質の間に形成されたタンパク質複合体の形成例は、ファクターA(clf−A)を凝集させる黄色ブドウ球菌タンパク質と結合する人フィブリノーゲン又はフィブリン特異的領域(McDevitt et al. 1995; Mol. Microbiol. 16; 895−907)、尿管や腸管の病原体に結合する人腐敗促進因子(DAF)(Nowicki等、1993:J.Of Experim. Med. 178: 2115−2121)、ガン細胞系統Caco−2において発現し、28kDクレブシエラ ニューモニエ(Klebsiella pneumoniae)フィムブリエタンパク質KPF−28に独自に結合する人細胞リガンド(Di Maretino等、1996;Infect and Immun. 64:2263−2266) 、及びストレプトコッカス ピオゲネス(Streptpcoccus pyrogenes)付着因子(タンパク質F)と特異的に複合体を形成する人細胞外液マトリックスフィブロネクチン特異的領域(Ozeri等、1996;EMBO J.15: 989−998)を含む。
【0117】
実施例6
小有機分子の分離
この実施例は、溶液から小有機分子の回収/除去するためにどのように油体アフィニティーマトリックスを用いることができるかについて記述する。例として、小有機分子ビオチンを、リガンドとしてアビジンを使用して精製する。
【0118】
アビジンリガンドの構築
アビジンは、鳥類によって合成されるタンパク質であり、多くのカルボキシラーゼに対して天然の補因子であるビオチンに対して極めて高い親和性を示す。精製したアビジンの調製(Sigmaから市販されている)は、当業者に知られた標準的な手順を使用して抗オレシン抗体に化学的に接合させることができる。この手法は、親和性に基づいてビオチンを除去することを証明するのに適した二価のアビジンリガンドを産出する。あるいは、オレシンーアビジン遺伝子融合を利用することもできる。にわとり(Gallus gallus)においてアビジンを暗号化している遺伝子が同定され、その配列が決定された(Beattie 等、1987、Nucl Acids Res.15:3595−3606)。配列に基づき、アビジンの遺伝子が化学的に又はPCRを通して合成でき、実施例4で述べたようにB. ナプス(napus)オレシン(van Rooijen、1993、Ph.D. Thesis、University of Calgary)に融合することができた。類似細菌ビオチン結合タンパク質であるストレプトアビジンも使用することができる。
【0119】
油体の調製
洗浄した油体は、実施例1に述べたようにトランスジェニック植物及び/又はコントロール植物の種から調製されよう。
【0120】
二価のアビジン−オレシンレガンドの結合
抗オレシン抗体の結合及び結合していないリガンドの除去は、実施例3に詳述されている通りとなろう。
【0121】
溶液からのビオチンの除去
濃度既知のビオチンを含む溶液は、アビジンに接合している抗オレシン抗体との複合体を形成した一定量の油体と結合することができる。結合した後、混合物を遠心分離し、油体と水溶性分画とを分離する。水溶性分画に残存するビオチンの量をホースラディッシュぺルオキシターゼ(HRP)に接合させた抗ビオチン抗体を用いて競合的ELISAによって決定した。以下の仮定のもとに結合したビオチンの量を計算することができる。すなわち、[結合したビオチン]=[全ビオチン]−[結合していないビオチン]である。
【0122】
得た値から、解離定数は実施例2に述べたように決定することができる。コントロールとして、アビジンと接合しなかった抗オレシン抗体と結合した油体を用いて同様の実験を行った。所望により、ビオチンは過剰の2−(4’−ヒドロキシベンゼン)安息香酸(HABA)を用いて競合的に溶出を行うことによって油体−アビジンマトリクスから解離することができる。溶出は、ビオチンに対して低い親和性を示す遺伝子工学によるアビジンの突然変異体を用いることによっても助成される。そのような突然変異体は、バクテリア由来の類似ビオチン結合タンパク質、ストレプトアビジンについて記載されている(Chikoti等、1995;Bio/Technol.13:1198−1204)。
【0123】
実施例7
炭水化物の分離
以下の実施例は、複合生体混合物から炭水化物を回収するための油体マトリックスの有用性を説明する。本実施例において、発明者らは、油体固定化セルラーゼはセルロースと結合能力があることを証明している。
【0124】
オレシン−セルロース結合領域の融合
細菌セルロモナス・フィミ(Cellulomonas fimi)によって産出されたセルラーゼのいくつかのものは、別々のセルロース結合領域(CBDs)を含んでいる。これらCBDsが、酵素の触媒領域からタンパク質開裂又は遺伝子操作によって分離されたときでさえ、CBDsは独立してセルロースに結合する。プラスミドpUC18CBDPTは、ベータ−1,4−グルカナーゼのCBDを暗号化する部分を含み(Gilkes等、1992、Journal of Biol. Chem. 267:6743−6749)、オレシン−CBD遺伝子融合を構築するために使用することができよう。CBD領域を暗号化するDNA断片は適当な制限酵素又はPCRを使用してpUC18−CBDPTから単離することができる。あるいは、セルロモナス・フィミ由来のセルラーゼ又は他の出所のセルラーゼのCBD領域を用いることができる。cDNAライブラリー(van Rooijen, 1993, ph.D. Thesis, University of Calgary)から単離されたB.Napus由来のオレシン遺伝子は、実施例4に述べたようにPCRを用いて、プラスミドpOLEGNを生産することによりpGNにおいてクローン化した。オレシン遺伝子とCBD領域遺伝子との間のフレーム内遺伝子融合は、当業者に知られている標準的な分子技術を使用して産出することができる。最終的な構築は、オレシンのすぐ下流に翻訳的に融合したCBD領域からなるだろう。
【0125】
形質転換及び再生
植物に融合遺伝子構築物を導入するためには、例えばpCGN1559などのバイナリベクターでサブクローン化を行うことであろう。オレシン−CBD融合を発現するトランスジェニック植物は、実施例1に述べたように産出することができる。
【0126】
油体調製
洗浄した油体は、実施例1で述べたようにトランスジェニック植物及びコントロール野生型植物の種から調製することができる。
【0127】
油体アフィニティマトリックスを使用した溶液からのセルロースの除去
油体アフィニティマトリックスへのセルロースの結合を評価するために、野生型植物とトランスジェニック植物の油体の結合能を比較した。油体は、ある濃度範囲のセルロースを含む適当な緩衝液と混合することができる。ついで、油体懸濁液を適当な温度で適当な時間インキュベーションすることができる。遠心分離を行い下清を回収し、セルロース濃度を測定することができる。結合したセルロースと結合しないセルロースの濃度は、以下の仮定で計算できる。すなわち、
[結合したセルロース]=[全セルロース]−[遊離セルロース]
遊離セルロースの濃度に対する結合したセルロースの濃度の割合を、結合したセルロース濃度の関数としてプロットすることができる。これらのプロットから解離定数を標準手順(Scatchard、G. Ann. N. Y.Acad.Sci.(1949)57:660−672)にしたがい実施例2に述べたように計算することができる。
【0128】
実施例8
核酸の分離
以下の実施例は、一本鎖(SS)核酸を結合するために油体を使用する方法を説明する。
【0129】
一本鎖の核酸の単離
SS核酸を捕捉する方法は、植物ウイルス病などの診断学において又は発現した遺伝子の分画スクリーニングするためのハイブリダイゼーション反応等における溶液から再アニールしていないSS核酸を選択的に取り出す必要のある場合の研究用途において使用することができる。オレシンは、SSDNA又はRNA結合タンパク質若しくはそれらの特異的領域と融合することができ、同定や更に増幅する目的でSS核酸を捕捉するために使用することができる。十分に特徴づけられたSS核酸結合タンパク質は、アグロバクテリアTiプラスミドVir E2タンパク質(Zupan等、1995、Plant physiol. 107:1041−1047);タバコモザイクウイルス(TMV)ムーブメントタンパク質P30(Citovsky等、1990;Cell60:637−647;Waigmann等、1994 Proc Natl.Acad.Sci(USA)91:1433−1437);カリフラワーモザイクウイルスコートタンパク質(Thompson等、1993;J.Gen.Virol 74:1141−1148)及び大腸菌RecA及び一本鎖結合(SSB)タンパク質(Radding、1991 J. Biol. Chem266:5355−5358)を含む。
【0130】
実施例9
組み換えタンパク質の分離
以下の実施例は、組み換えターゲットタンパク質を精製するための油体アフィニティーマトリックスの有用性を証明する。この実施例の目的のために、IgG/タンパク質Aリガンド対を選択した。使用した構築物は、18kDaアラビドープシス(Arabidopsis)オレシン(Van Rooijen等、1992; Plant Mol.Biol.18:1177−1179)と融合したタンパク質A領域からなる。オレシンタンパク質A融合タンパク質を含んでいる油体を単離し、ホースラディシュぺルオキシターゼ(HRP)へ接合しているウサギ抗マウスIgGsの特異的な結合を証明するために使用した。油体でのオレシンタンパク質A融合形態及び融合体へのIgGの結合を図15に示す。
【0131】
オレシン−タンパク質A融合
IgGに結合する能力があるタンパク質を暗号化する合成タンパク質Aの配列は、報告された配列情報(pRIT2T、タンパク質A遺伝子融合ベクター;ファーマシア)に基づいて合成し、PCRを通して増幅した。PCRに使用した各プライマーは、クローニングを容易にするためのタンパク質A特異的配列に対する制限部位5’を含んでいた。逆プライマー(即ち、アンチセンス方向のプライマー)も暗号化する配列の後で翻訳終了コドンを含んでいた。図13はタンパク質A配列に対するPCRプライマーの位置を示す。(タンパク質A配列及びプライマー配列も配列識別番号8、配列識別番号10及び配列識別番号11にそれぞれ別々に示されている。)。生じた断片は、アルビドープシスオレシン遺伝子を担持するpUC19プラスミドの中にくくられ、アルビドープシスオレシン遺伝子は867bp上流のプロモーター領域、ついで翻訳終了コドンを取り除いた暗号化領域(その関連したイントロンと共に)からなる。構築物の3’末端は、ノパリンシンターゼ転写ターミネーターを含んでいる。エンドプロテアーゼトロンビンに対する認識配列を暗号化するスぺーサー配列をオレシン暗号化配列のすぐ下流に組み込んだ。タンパク質A遺伝子配列をこのスぺーサー配列とターミネーター配列との間に導入した。最終的な発現構築においてオレシンとタンパク質Aの暗号化領域は同じリーディング枠で融合した。それから、全体の構築物(図14及び配列識別番号12)をpUC19プラスミドから摘出し、そして、35SCaMVプロモーターのコントロールの下でネオマイシンホスホトランスフェラーゼ遺伝子を担持する植物形質転換ベクターpUCN1559(McBride 及びSumerfelt、1990、Plant Mol. Biol. 14:269−276)の中にサブクローン化した。生じたプラスミドはアグロバクテリューム(菌株EHA101)に導入した。
【0132】
形質転換及び再生
植物を実施例1に述べたように形質転換し再生した。トランスジェニック植物をネオマイシンホスホトラスフェラーゼ測定法を使用して最初に同定し、次いでイムノブロット分析法を通じてタンパク質A融合を発現させることによって確認した。
【0133】
油体の調製
オレシン−タンパク質A融合体を発現するトランスジェニックB.ナプス(B. napus)及びB.カリネータ(B. carinata)系統由来の油体を実施例1に述べた手順に従い調製した。
【0134】
IgGへのオレシン−タンパク質A融合の結合
オレシン−タンパク質A融合タンパク質を発現する種々のトランスジェニックB.ナプス系統由来の油体タンパク質抽出物(20μg/部分標本)は、ポリアクリルアミドゲル電気泳動に掛けられ、次に標準手順に従ってPVDF膜へ移した。それから、膜をHRP接合マウス抗ウサギ抗体を用いて調べ、アンチボディー研究所マニュアル(Harlow and Lane、1988、Cold Spring Harbor)がアウトラインしている手順に従って視覚化した。図16に着色したPVDF膜を示した。一つの50kDaタンパク質(オレシン−タンパク質A融合タンパク質の予測分子量:48,801Da)は、テストした6つのトランスジェニックB.ナプス系統のすべてのタンパク質抽出物において特異的に検出された。形質転換していないコントロール植物はHRP活性を示さず、一方一つの30kDaタンパク質(予測分子量29,652Da)がタンパク質Aを暗号化するpRIT2Tで形質転換したバクテリア溶解物に存在し、形質転換しない溶解物において検出できなかった。
【0135】
オレシン−タンパク質A融合タンパク質を含む油体へのIgGsの結合及び溶出
洗浄した油体(10mg/mlタンパク質)は、実施例1で述べたように野生型B.ナプス系統とオレシン−タンパク質A融合タンパク質を発現する構築物で形質転換したトランスジェニックB.ナプス系統から調製し、10mMトリス塩酸pH8で懸濁した。体積2μl(±34μg)のHRP接合したウサギ抗マウス抗体(Sigma、cat no A9044)を500μlの洗浄済油体調製物に加え、懸濁液を室温で1持間又は4℃で一昼夜インキュベーションした。それから、試料を16,000×gで15分間遠心分離し、下清を除去した。次に、油体を乳棒を用いて500μlの10mMトリス塩酸pH8.0で十分に再懸濁した。このトリス塩酸での洗浄工程は4回繰り返した(以後、洗浄済油体調製物と呼ぶ)。洗浄済油体調製物のうち5μlの試料を5回洗浄し、それからHRP活性を測定した。
【0136】
HRP測定は、1μlの洗浄済油体調製物を1mlのHRP測定混合物(9.8ml の0.1MnaOAc、0.2mlのDMSO中の2.5mg/mlトリメチルべンジジン、4μlのH)に加え、室温で5分間混合物をインキュベーションすることによって行った。それから、0.5ml1MHSOを加えることによって反応を停止した。試料を0.22μmフィルターを通してろ過し、次にOD450を分光偏光的に決定した。
【0137】
油体から複数のIgGを溶出するために、洗浄済油体調製物を100mMグリシンpH3.0中に再懸濁し、16,000×gで15分間遠心分離し、室温で30分間インキュベーションした。500μlの100mMトリス塩酸pH8.0で中和した後、油体分画と溶出液の両方を上述のようにHRP活性について測定した。野生型B.ナプス及びオレシンタンパク質A融合を発現するトランスジェニックB.ナプス由来の油体に対するIgGの結合と溶出を、図17に説明する。
【0138】
すべての公報、特許及び特許出願は、あたかも個々の公報、特許、特許出願がその全体を参照により組み込むべきと、特別にまた個別に示されているなら、同じ程度に完全な形でそれら全体を参照によりここで組み込むものである。
【図面の簡単な説明】
【0139】
【図1】この図は、SEQ.ID.NO:1とSEQ.ID.NO:2に示したArabidopsis thalianaからの18KDaオレオシンのヌクレオチドとそれから導かれるアミノ酸配列である。
【図2A】この図は、Arabidopsisオレオシンーヒルジン融合の配列である。オレオシンゲノム配列の一部(van Rooijen等、1992 「Plant Mol. Biol.」18:1177−1179頁に報告された1〜1620の塩基から)、そしてスペーサー配列(1621〜1635の塩基、下線付き)、そして成熟ヒルジン変異体―2イソ型を符号化する合成DNA配列である。この遺伝子融合はArabidopsisオレオシンの5’側上流域(1〜861の塩基)とノパリンシンターゼ末端配列(1855〜2109)により標準化される。また、この配列はSEQ.ID.NO:3とSEQ.ID.NO:4にも示される。
【図2B】この図は、Arabidopsisオレオシンーヒルジン融合の配列である(図2Aのつづき)。オレオシンゲノム配列の一部(van Rooijen等、1992 「Plant Mol. Biol.」18:1177−1179頁に報告された1〜1620の塩基から)、そしてスペーサー配列(1621〜1635の塩基、下線付き)、そして成熟ヒルジン変異体―2イソ型を符号化する合成DNA配列である。この遺伝子融合はArabidopsisオレオシンの5’側上流域(1〜861の塩基)とノパリンシンターゼ末端配列(1855〜2109)により標準化される。また、この配列はSEQ.ID.NO:3とSEQ.ID.NO:4にも示される。
【図3】この図は、全オレオシンヒルジン構造を含むpCGOBHIRTの構成で使用した工程の概要である。
【図4】この図は、油体上のオレオシンーヒルジン融合タンパク質の配置とトロンビンの結合の模式図である。
【図5】この図は、オレオシンーヒルジン融合を発現する構造で変形した野生型4A4油体基質からのトロンビンのNaCl溶出特性を示す。
【図6】この図は、リガンドとして抗オレオシン抗体を使用したホースラディッシュペルオキシダーゼ共役抗IgG抗体を示す。模式図は油体に結合したオレオシン/抗オレオシン/抗IgGサンドイッチ錯体である。
【図7】この図は、リガンドとしてプライマリー抗オレオシン抗体で錯体化した野生型油体への抗IgG抗体の特異的な結合(左)とプライマリー抗体と錯体化しない油体への抗IgG抗体の結合の後のセカンダリー抗体への結合(左)を示す。
【図8A】この図は、オレオシンメタロチオメイン融合の配列を示す。B.napusオレオシンcDNAのコード配列(1092〜1652の塩基、van Rooijen、1993、Ph.D.Thesis,Calgary大学)、そしてスペーサー配列(1653〜1670の塩基、下線付き)、そしてヒトメタロチオネイン遺伝子mt−II(1671〜1876の塩基、VarshneyとGedamu,1984,「Gene」31:135〜145頁)を示す。遺伝子融合はArabidopsisオレオシンプロモーター(1〜1072の塩基)とユビキチン末端配列(1870〜2361の塩基、ubi3;Kawalleck等、1993、「Plant Mol.Biol.21:673〜684頁)により標準化される。また、この配列はSEQ.ID.NO:6とSEQ.ID.NO:7にも示される。
【図8B】この図は、オレオシンメタロチオメイン融合の配列を示す(図8Aのつづき)。B.napusオレオシンcDNAのコード配列(1092〜1652の塩基、van Rooijen、1993、Ph.D.Thesis,Calgary大学)、そしてスペーサー配列(1653〜1670の塩基、下線付き)、そしてヒトメタロチオネイン遺伝子mt−II(1671〜1876の塩基、VarshneyとGedamu,1984,「Gene」31:135〜145頁)を示す。遺伝子融合はArabidopsisオレオシンプロモーター(1〜1072の塩基)とユビキチン末端配列(1870〜2361の塩基、ubi3;Kawalleck等、1993、「Plant Mol.Biol.21:673〜684頁)により標準化される。また、この配列はSEQ.ID.NO:6とSEQ.ID.NO:7にも示される。
【図9】この図は、全オレオシンーメタロチオメイン構造を含むpBIOOM3’の構成で使用した工程の概要である。
【図10】この図は、油体上のオレオシンーメタロチオメイン融合タンパク質の配置とカドミウムイオンの結合の模式図である。
【図11】この図は、野生型B.carinata種とオレオシンメタロチオネイン遺伝子融合を発現する構造で変形したB.carinata種からの油体基質へのカドミウムの結合(A)と溶出(B)を示す。形質転換した、および形質転換しない種から採取した油体分画の油体分画へ結合したカドミウムの百分率を示す。バーは5つのレプリカ実験(結合)と3つのレプリカ実験(溶出)の平均値を示す。
【図12】この図は、変量の抗オレオシンIgGで処理した油体へのS.aureus細胞を発現するタンパク質Aの結合を示す。バーは実施例5の手順で変量IgG(添加IgG:0μl,3μl,30μl,100μl)を使用して得たOD600の読みを示す。
【図13】この図は、S.aureusタンパク質Aの配列を増幅するのに使用したオリゴヌクレオチドプライマーを示す。この配列はSEQ.ID.NO:8にも示され、タンパク質配列はSEQ.ID.NO:9にも示される。プライマーBK266、そして5’C TCC ATG GAT CAA CGC AAT GGT TTA TC3’(SEQ.ID.NO:10),そしてNcoI部位(イタリック体9),そしてベクターpRITZ2T(ファルマシア)の中に含まれるタンパク質A遺伝子のタンパク質と同一な配列(下線付き)を示す。プライマーBK267、そして5’GC AAG CTT CTA ATT TGT TAT CTG CAG GTC3’(SEQ.ID.NO:11),そしてHindIII部位(イタリック体)、そして停止コドン(ボールド)、そしてpRITZ2T(ファルマシア)の中に含まれるタンパク質A遺伝子のタンパク質と相補的な配列(下線付き)を示す。PCR生成物をNcoIとHindIIIで消化し、pCGNOBPGUSAに連結し(Van RooijenとMoloney、1995、「Plant Physiol.」109:1353〜1361),これからNcoI―GUS−HindIII分画を除去した。
【図14A】この図は、Arabidopsisオレオシンータンパク質A融合の配列を示す。この配列はSEQ.ID.NO:12にも示され、タンパク質配列はSEQ.ID.NO:13と14にも示される。オレオシンゲノム配列の一部(1〜1626の塩基、Van Rooijen等、1992、「Plant Mol.Biol.」18:1177〜1179)、そしてトロンビン開裂部位を符号化するスペーサー配列(1627〜1647、下線付き),そしてタンパク質Aを符号化するDNA配列(1648〜2437、イタリック体)を示す。ArabidopsisオレオシンのArabidopsis5’上流域(1〜867塩基)とノパリンシンターゼターミネーター域(2437〜2700塩基)により発現を標準化する。
【図14B】この図は、Arabidopsisオレオシンータンパク質A融合の配列を示す(図14Aのつづき)。この配列はSEQ.ID.NO:12にも示され、タンパク質配列はSEQ.ID.NO:13と14にも示される。オレオシンゲノム配列の一部(1〜1626の塩基、Van Rooijen等、1992、「Plant Mol.Biol.」18:1177〜1179)、そしてトロンビン開裂部位を符号化するスペーサー配列(1627〜1647、下線付き),そしてタンパク質Aを符号化するDNA配列(1648〜2437、イタリック体)を示す。ArabidopsisオレオシンのArabidopsis5’上流域(1〜867塩基)とノパリンシンターゼターミネーター域(2437〜2700塩基)により発現を標準化する。
【図15】この図は、油体上のオレオシンータンパク質A融合タンパク質の配置と免疫グロブリンの結合を示す。
【図16】この図は、オレオシンータンパク質A融合タンパク質を発現する形質転換B.napusラインから得た油体タンパク質抽出物へのHRP−共役マウス抗ラビット抗体の結合を示すウェスタンブロットを示す。形質転換ラインからの油体タンパク質抽出物はHRP−共役抗体でプローブしたウェスタンブロット上に示され、opa30(レーン3)、opa31(レーン4)、opa34(レーン5)、opa36(レーン6)、opa47(レーン7)、opa93(レーン8)、全てオレオシンータンパク質A融合タンパク質を発現し、コントロール非形質転換B.napusライン(レーン9)とpRIT2Tで形質転換したE.coli DH5αはタンパク質A(レーン2)と非形質転換したE.coli DH5α(レーン1)を発現する。
【図17】この図は、野生型B.napus(bn wt)と形質転換したB.napusラインから単離した油体へのIgGの結合と溶出を示し、オレオシンタンパク質A融合を示す。エラーバーは4つの独立の実験からの結果を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
油体と、油体タンパク質オレオシンに付着したリガンドと、ターゲット分子を含有する試料とを含む組成物であって、該ターゲット分子が、試料から単離又は分離されることが意図された分子であり、かつ、油体中のリガンド分子と会合する分子である、上記組成物。
【請求項2】
前記リガンドがオレオシンとの融合タンパク質であることを特徴とする、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
前記リガンド分子がヒルジンであり、及び前記ターゲット分子がトロンビンであることを特徴とする、請求項1記載の組成物。
【請求項4】
前記リガンド分子がプロテインAであり、及び前記ターゲット分子が免疫グロブリンであることを特徴とする、請求項1記載の組成物。
【請求項5】
前記リガンド分子がメタロチオネインであり、及び前記ターゲット分子がカドミウムであることを特徴とする、請求項1記載の組成物。
【請求項6】
前記リガンド分子がセルロース結合タンパク質であり、及び前記ターゲット分子がセルロースであることを特徴とする、請求項1記載の組成物。
【請求項7】
前記リガンド分子が核酸結合タンパク質であり、及び前記ターゲット分子が核酸であることを特徴とする、請求項1記載の組成物。
【請求項8】
前記リガンド分子が一本鎖DNA結合タンパク質又はRNA結合タンパク質であり、及び前記ターゲット分子が一本鎖核酸分子であることを特徴とする、請求項7記載の組成物。
【請求項9】
前記リガンド分子がオレオシンに結合する抗体であることを特徴とする、請求項1記載の組成物。
【請求項10】
前記ターゲット分子が、前記リガンド抗体に結合し得る、細胞、細胞小器官又は細胞成分と会合することを特徴とする、請求項1記載の組成物。
【請求項11】
前記ターゲット分子が、Staphylococcus aureus細菌細胞と会合することを特徴とする、請求項10記載の組成物。
【請求項12】
前記リガンドがオレオシン及び前記ターゲット分子の双方に結合する二価抗体であることを特徴とする、請求項1記載の組成物。
【請求項13】
前記リガンドが、アビジンに共役している抗体であり、及び前記ターゲット分子がビオチンであることを特徴とする、請求項1記載の組成物。
【請求項14】
前記オレオシンが、ナタネ(Brassica spp.)、ダイズ(Glycine max)、ヒマワリ(Helianthus annuus)、ギネアアブラヤシ(Elaeis guineeis)、ココヤシ(Cocus nucifera)、トウゴマ(Ricinus communis)、ベニバナ(Carthamus tinctorius)、アブラナ(Brassica spp.及びSinapis alba)、コエンドロ(Coriandrum sativum)、アマニ/アマ(Linum usitatissimum)、シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)及びトウモロコシ(Zea mays)からなる群から選ばれた植物から誘導されることを特徴とする、請求項1記載の組成物。
【請求項15】
前記油体が、ナタネ(Brassica spp.)、ダイズ(Glycine max)、ヒマワリ(Helianthus annuus)、ギネアアブラヤシ(Elaeis guineeis)、ココヤシ(Cocus nucifera)、トウゴマ(Ricinus communis)、ベニバナ(Carthamus tinctorius)、アブラナ(Brassica spp.及びSinapis alba)、コエンドロ(Coriandrum sativum)、アマニ/アマ(Linum usitatissimum)、シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)及びトウモロコシ(Zea mays)からなる群から得られることを特徴とする、請求項1〜14のいずれか1項記載の組成物。
【請求項16】
前記リガンド分子が非タンパク質分子であることを特徴とする、請求項1記載の組成物。
【請求項17】
前記リガンド分子がビオチンであることを特徴とする、請求項16記載の組成物。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8A】
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【図8B】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14A】
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【図14B】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2006−306881(P2006−306881A)
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−152338(P2006−152338)
【出願日】平成18年5月31日(2006.5.31)
【分割の表示】特願平10−527134の分割
【原出願日】平成9年12月5日(1997.12.5)
【出願人】(505371014)セムバイオシス ジェネティクス インコーポレイテッド (3)
【Fターム(参考)】