説明

親杭横矢板式防水防護柵用横矢板及び親杭横矢板式防水防護柵

【課題】
本発明は、従来の洪水対策の問題点に鑑み、調達材料が不要で、軽量かつ簡単な作業で迅速に設置できる親杭横矢板式防水防護柵用横矢板を提供する。
【解決手段】
中空構造の樹脂製板状体と、該樹脂製板状体の表面または表面と裏面に設けられた補強体とを有し、左右両側縁を親杭間に掛け渡して親杭横矢板式防水防護柵を形成するための横矢板において、該横矢板の垂直方向から49000Pa以下の水圧をかけたときの最大撓みを、該横矢板の厚みの2/3以下とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、洪水時に、土嚢などの調達が不要で、簡単な作業で迅速に設置できる親杭横矢板式防水防護柵用横矢板及び親杭横矢板式防水防護柵に関する。
【背景技術】
【0002】
河川の堤防は、高く設置すればするほど洪水に対する安全性を確保することができるが、必要以上に堤防を高く設置すると、建設費が嵩むばかりではなく、見通しを妨げ、景観を悪化させる。そこで、堤防の高さは、通常、河川の増水を想定して設計され、数十年に1回来るような大雨時には、土嚢工法などで対応しているのが実情である(非特許文献1参照)。一方、欧州では専らアルミ製中空横矢板を用いた親杭横矢板式防水防護柵などで対応している(特許文献1、非特許文献2、3参照)。
【0003】
従来の土嚢工法は、土嚢袋やその袋の中に詰める土砂などを調達しなければならず、洪水時における迅速な対応が難しいばかりか、土嚢の作成から積み上げまでを人海戦術で行なわなければならず、従来より作業の簡易性の問題が指摘されていた。
【0004】
また、欧州で専ら用いられている、親杭横矢板式防水防護柵で使用するアルミ製中空横矢板は、質量が重く、欧州人に比べ小柄な日本人には適さず、特に高齢化の進んだ地域では、洪水時に防水防護柵の設置ができないなどの問題があった。
【0005】
また上記アルミ製中空横矢板は、新たに堤防を作るよりコストを安価に抑えることはできるが、資金難にあえぐ地方自治体にとって決して費用的に満足のいくものではなかった。
【0006】
そこで本発明者は、上記従来技術の課題を解決すべく、土嚢などの調達が不要で、簡単な作業で迅速に設置できる親杭横矢板式防水防護柵用横矢板及び親杭横矢板式防水防護柵を開発した(特許文献2参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】US6042301号公報
【0008】
【特許文献2】実用新案登録第3166822号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】http://www.suigai-taisaku.com/person/index.html
【0010】
【非特許文献2】2002年ヨーロッパ水害調査報告書(財団法人河川環境団体)
【0011】
【非特許文献3】http://www.demflood.com/englisch/news.htm
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかし、特許文献2に記載の上記親杭横矢板式防水防護柵用横矢板は、樹脂製板状体の中空部内を覆うチャンネル部材を必要とするため、横矢板の軽量化と強度の両立を図るためには構造上の制約があった。
【0013】
本発明は、上記従来の洪水対策の問題点の解決と、横矢板及び防水防護柵の更なる軽量化を目的としてなされたものであり、土嚢などの調達が不要で、軽量かつ簡単な作業で迅速に設置できる親杭横矢板式防水防護柵用横矢板及び親杭横矢板式防水防護柵を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、中空構造の樹脂製板状体と、該樹脂製板状体の表面または表面と裏面に設けられた補強体とを有し、左右両側縁を親杭間に掛け渡して親杭横矢板式防水防護柵を形成するための横矢板であって、該横矢板の垂直方向から49000Pa以下の水圧をかけたときの最大撓みが、該横矢板の厚みの2/3以下であることを特徴とする、親杭横矢板式防水防護柵用横矢板により達成される。
【発明の効果】
【0015】
本発明の横矢板は、中空構造を有する樹脂製板状体の表面または表面と裏面の両面に剛性を有する補強体を設けているため、これまで以上に軽量化を図ることができ、かつ、横矢板の施工性を妨げることなく、曲げ剛性を補強することができる。また本発明の横矢板は、両側縁を親杭間に掛け渡した状態で、上から順に嵌合して防水防護柵を構成するため、水密性を確保することができる。また、本発明の横矢板は、垂直方向から一定の水圧を書けた場合の最大撓みと横矢板の厚みとを考慮し、曲げ剛性の最適設計を実施することができるため、軽量かつ安価で、施工性に優れた親杭横矢板式防水防護柵用横矢板を提供することができる。また、本発明の横矢板は、補強体として剛性と抵錆性を有する材料を選択することにより長期に亘り繰り返し使用することができる。また、本発明の横矢板を用いれば、安価であり、かつ設置作業が簡単で高い水密性を有する軽量の親杭横矢板式防水防護柵を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係る親杭横矢板式防水防護柵用横矢板の斜視図及びI−I断面図である。
【図2】本発明に係る親杭横矢板式防水防護柵用横矢板の斜視図及びII−II断面図である。
【図3】本発明に係る親杭横矢板式防水防護柵用横矢板の断面図である。
【図4】本発明に係る親杭横矢板式防水防護柵用横矢板の設置状態を示す斜視図である。
【図5】本発明に係る親杭横矢板式防水防護柵用横矢板の部分断面図である。
【図6】本発明に係る親杭横矢板式防水防護柵用横矢板の設置状態を示す正面図である。
【図7】本発明に係る親杭横矢板式防水防護柵の施工方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係る横矢板及び親杭横矢板式防水防護柵の好適な実施形態を図面に基づいて説明する。
図1(A)は、本発明に係る親杭横矢板式防水防護柵用横矢板の好適な斜視図であり、図2(A)は、本発明に係る親杭横矢板式防水防護柵用横矢板の別の好適な斜視図を示す。また図1(B)はI−I断面図、図2(B)はII−II断面図をそれぞれ示す。図1及び図2において、符号1は親杭横矢板式防水防護柵用横矢板、符号1aは該横矢板の上端面、符号1bは該横矢板の下端面、符号2は中空構造の樹脂製板状体、符号2aは中空部、符号2bは表面、符号2cは裏面、符号3は補強体、符号3aは表面の補強体、符号3bは裏面の補強体をそれぞれ表す。
なお、本発明において、「上端面」とは本発明に係る横矢板を設置する場合に上側になる面をいい、下側になる面を「下端面」という。
【0018】
図1に、本発明に係る横矢板の好適な態様として、中空構造の樹脂製板状体2と、該樹脂製板状体2の表面2bに設けられた補強体3aとを有する横矢板、また図2に、中空構造の樹脂製板状体2と、該樹脂製板状体2の表面2b及び裏面2cの両面に設けられた補強体3aを有する横矢板をそれぞれ示す。
【0019】
中空構造の樹脂製板状体2を構成する樹脂の種類は特に限定されるものではないが、例えば、塩化ビニル樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボーネート樹脂、ポリスチレン樹脂、ABS樹脂、ASA樹脂、AES樹脂、FRP樹脂など樹脂を挙げることができる。耐衝撃性、耐水性及びコストの観点からは、好ましくは塩化ビニル樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボーネート樹脂、ポリスチレン樹脂、ABS樹脂、ASA樹脂、及びAES樹脂であり、特に好ましくは塩化ビニル樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボーネート樹脂、ABS樹脂である。
【0020】
中空構造の樹脂製板状体2の大きさは特に限定されるものではないが、防水防護柵の設置のし易さ、横矢板の全質量を考慮し、縦方向(幅方向)よりも横方向(長手方向)が長く、かつ一定の厚みを有する矩形の板状体であることが好ましい。例えば、樹脂製板状体2の縦方向(幅方向)の長さは、10〜100cmであることが好ましく、10〜80cmであることがより好ましく、10〜50cmであることがさらに好ましい。また、樹脂製板状体2の横方向(長手方向)の長さは、50〜200cmであることが好ましく80〜180cmであることがより好ましく、100〜150cmであることがさらに好ましい。また樹脂製板状体2の厚みt(幅方向と垂直方向の高さ)は、2〜6cmであることが好ましく、2〜5cmであることがより好ましく、2〜4cmであることがさらに好ましい。
【0021】
図1及び図2に示すように、樹脂製板状体2は、複数の中空部2aを有する。中空部2aの形状、縦方向と横方向の長さ、厚み、及び形成数は、樹脂製板状体2の縦方向(幅方向)、横方向(長手方向)及び厚みtの大きさを考慮して適宜決定することができる。中空部2aの形状は、一般的には樹脂製板状体2の左端から右端まで貫通している、断面が正方形又は長方形の四角柱状の筒体であるが、四角柱の角を面取りした形状であることが好ましい。また中空部2aの形成数は、樹脂製板状体2の縦方向(幅方向)の長さを考慮して調整することができるが、通常、均等間隔で3〜12個の範囲、好ましくは3〜10個の範囲で形成することができる。また中空部2aの1つ当りの縦方向(幅方向)の長さは、1.8〜5.8cmの範囲であることが好ましく、1.8〜5.5cmの範囲であることがより好ましく、1.8〜5.2cmの範囲であることがさらに好ましい。
【0022】
樹脂製板状体2における中空部2aの配置は、樹脂製板状体2の縦方向(幅方向)の中心線に対して対称構造であってもよく、非対称構造であってもよいが、横矢板1の垂直方向からの力に対する撓みを考慮すると、縦方向に対称構造であることが好ましい。例えば、図1(A)及び図2(A)の好適な実施態様では、樹脂製板状体2における中空部2aは、樹脂製板状体2の横方向(長手方向)の中心線を基準に上下対称に3つずつ形成されている。なお、図1及び図2には図示されていないが、中空部2aの形成数を増やし、上下対称に4〜6個ずつ形成してもよい。
【0023】
本発明に係る横矢板は、樹脂製板状体2の表面2b、または表面2bと裏面2cには補強体3を有する。補強体3は、剛性と耐錆性を兼ね備えた材料で構成されていることが好ましく、そのような材料としては、例えばステンレス鋼、アルミ、炭素繊維、あるいは塗装又はメッキ処理を施した鋼材を挙げることができる。剛性と耐錆性をバランスからは、補強体3は、ステンレス製板、アルミニウム製板、又は炭素繊維ロッド製板であることが好ましい。
【0024】
補強体3の形状は、一定の厚みを有する板状体であることが好ましく、角が面取りされた板状体であることがさらに好ましい。
【0025】
補強体3の縦方向(幅方向)の長さは、樹脂製板状体2に形成される中空部2a,2a・・・の一辺の縦方向(幅方向)の長さに合せて適宜決定することができる。また補強体3の厚みは、補強体3を形成する材質により異なるが、例えば、ステンレス製板の場合、一辺の縦方向(幅方向)の長さは1.78〜100cmであることが好ましく、1.78〜80cmであることがより好ましく、1.78〜50cmであることがさらに好ましい。また板状体3の厚みは、板状体3の材質により異なるが、例えば、ステンレス製板の場合、1〜3mmであることが好ましく、1〜2.8mmであることがより好ましく、1〜2.5mmであることがさらに好ましい。
【0026】
補強体3は、樹脂製板状体2の表面2bまたは表面2bと裏面2cに設けられるが、その配置は樹脂製板状板2の中空部2aの数に応じて適宜選択することができる。所定の剛性を確保するためには、1つの樹脂製板状体2の表面2bまたは表面2bと裏面2cに複数の補強体3,3,・・・を設けることが好ましい。例えば、図1に示すように、樹脂製板状体2の表面2bに補強体3a,3a・・・を設けた実施態様(合計6枚の補強体を設けた態様)とすることができる。また、図2に示すように、上下端側と中央側の表面2b,2bと裏面2c,2cに補強体3a,3b,・・・を設けた実施態様(合計8枚の補強体を設けた態様)がより好ましい。なお、図1及び図2には示さないが、その他、中空部2の形成数が6つを超える場合には、等間隔で表面2bまたは表面2bと裏面2cに補強体3a,3b、・・・・を設けることもできる。
【0027】
また、補強体3は、図3(A)に示すように樹脂製板状体2の中空部2a内で表裏側に対向させて設けることもできるし、図3(B)のように1つの中空部2aの外側の表面2bと外側の裏面2cにおいて対向させて設けることもできる。さらに、補強体3は、図3(C)に示すように樹脂製板状体2の表面2bをすべて覆うように補強体3を設けることもできる。
【0028】
中空構造の樹脂製板状体2の表面2bまたは表面2bと裏面2cに補強体3を設ける方法は、特に限定されるものではないが、補強体3を樹脂製板状体2の表面2bまたは表面2bと裏面2cにビスで止める方法、エポキシ系接着剤、シリコーン系接着剤、又はその他の公知の接着剤で補強体3を接着する方法などを挙げることができる。なかでも弾性体であるシリコーン系接着剤による補強体3の樹脂製板状体2への接着方法は、横矢板1に負荷がかかった際に応力を緩和することができるため、繰り返しの使用や、熱応力のかかる環境下で使用しても破損のおそれが少ないため、好適な接着方法である。
【0029】
また図6に示すように、本発明に係る横矢板1は、親杭4に挟持させて使用する際に、横矢板1間における水密性を向上・確保する目的で、上端部1a、下端部1b、又は上端部1a及び下端部1bに止水部材5を取り付けることが好ましい。止水部材5は、横矢板1の上端部1a又は下端部1bの少なくとも一方に取り付けられていることが好ましく、上端部1a及び下端部1bの両端部に取り付けられていることがさらに好ましい。
【0030】
止水部材5の材質は、洪水時に氾濫した河川の水を止水し得る材質のものであれば特に限定されない。好ましくは天然ゴム、合成ゴムなどの公知のゴムであり、発泡EPDMでつくられた止水ゴムが極めて優れた水密性を発揮することができるため、特に好ましい。
【0031】
本発明に係る横矢板1は、親杭4に取り付けられた横矢板1の垂直方向(親杭4の長手方向に対して垂直方向、すなわち樹脂製板状体2の表面2bに垂直な方向)から防水防護柵10の計画規模における水圧がかかった場合、横矢板1の最大撓みymaxが、横矢板1の厚みtより小さくなるように設計される。横矢板1の厚みtは、横矢板1の最大撓みymaxを以下の仮定条件で算出することができる。
条件1:計画規模の水圧を防水防護柵10の最下部に位置する一枚の横矢板1が負担するとみなす。
条件2:横矢板1には上記計画規模の水圧が当分布荷重でかかるとみなす。
条件3:横矢板1の剛性は、中空部2aに嵌合されるチャンネル3の剛性とみなす。
【0032】
【数1】

【0033】
式(1)において、ymaxは横矢板1の最大撓み、Wは防水防護柵10の計画規模の水圧により横矢板1の一枚にかかる荷重、Lは横矢板1の一枚の長さ、Eはヤング係数、Iは断面2次モーメントをそれぞれ表す。
【0034】
本発明に係る横矢板1の撓みは、防水防護柵10の計画規模の水圧と横矢板1の長さで決定されるため、上記条件1から条件3を考慮して、ヤング係数に起因するチャンネル3の材料の選択と断面2次モーメントに起因するチャンネル3の形状を適宜選択することにより、軽量でコストパフォーマンスに優れた親杭横矢板式防水防護柵用横矢板1を提供することができる。
【0035】
本発明に係る横矢板1の質量は、10kg以下であることが好ましく、9kg以下であることがさらに好ましく、8kg以下であることがさらに好ましく、7kg以下であることが最も好ましい。従来の鉄製の横矢板と比較して遥かに軽量であり、横矢板1の質量が10kgであれば、簡単に設置及び撤去することができる。
【0036】
次に、本発明に係る横矢板1を用いた親杭横矢板式防水防護柵10について説明する。
図4に示すように、本発明に係る防水防護柵10は、本発明に係る横矢板1の左右両側縁を親杭4,4間で挟持させて構成される。
【0037】
本発明に係る防水防護柵10は、横矢板1を親杭4,4間に挟持させた状態で、親杭4の上側から下側へ横矢板1を順次立て込めて所定の高さの防水防護柵を形成することができる。使用する横矢板1の枚数は、設置すべき防水防護柵10の高さ及び横矢板1の縦方向の長さを考慮して1〜20枚、好ましくは1〜10枚の範囲で適宜調整することができる。例えば、図4に示すように防水防護柵10の高さを3枚の横矢板1で調整したり、図6に示すように4枚の横矢板1で調整したりすることができる。
【0038】
本発明に係る防水防護柵10は、横矢板1を親杭4,4間に挟持させる場合、親杭4と横矢板1との間の水密性を向上させる目的で親杭4の挟持部4aの内側に止水部材6を取り付けることが好ましい。止水部材6の材質は、前述した横矢板1の止水部材5と同一材料又は異なる材料を用いることができる。
【0039】
次に、本発明に係る横矢板1を用いた親杭横矢板式防水防護柵10の施工方法について説明する。
【0040】
図7は、本発明に係る親杭横矢板式防水防護柵の施工方法を示す図である。図7の符号50は河川、符号51は堤防、符号52は親杭差込孔をそれぞれ意味する。
【0041】
図7(A)に示すとおり、本発明に係る防水防護柵10を設置すべき河川敷の堤防51に、本発明に係る横矢板1を親杭4に挟持させた状態で、親杭4,4間において横矢板1を掛け渡すことができるよう、所定の間隔で親杭差込孔52を堤防51上に作成する。この際、親杭差込孔52の深さは、計画規模の水圧が横矢板1の垂直方向から作用した際に、防水防護柵10が倒れない程度の深さとすることが好ましい。
【0042】
次いで、堤防51に形成された親杭差込孔52の中に親杭4を順次差込む。この際、両端の親杭を除き、親杭差込孔52には2つの親杭4を、挟持部4aを外側に向けて背合わせの状態で差し込む。
【0043】
次いで、堤防51の親杭差込孔52に差し込んだ親杭4,4間に横矢板1を掛け渡す。この際、親杭4,4に横矢板1の両端を挟持させた状態で、親杭4の上側から下側に横矢板1を立て込む。1枚目の横矢板1を立て込んだ後、続いて2枚目の横矢板1を1枚目の横矢板1の上に立て込む。横矢板1は親杭4の高さに合わせて、必要な枚数を親杭4,4に立て込む。この作業を順次繰り返し、図7(B)に示すような、所望の長さの防水防護柵を完成することができる。
【実施例】
【0044】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明に係る横矢板及び防水防護柵についてさらに具体的に説明するが、これらにより本発明は何ら制限を受けるものではない。
【0045】
<評価方法及び評価基準>
堤防内に設置した親杭に、縦方向の長さ33.3cm、横方向の長さ100cm、厚さ3cm又は縦方向の長さ33.3cm、横方向の長さ150cm、厚さ3cmの親杭横矢板式防水防護柵用横矢板を複数枚重ね、所定の高さの防水防護柵を作成した。この防水防護柵に対し、水を1mまで上昇させ、その様子を観察し、最大撓みを計測した。水を1m溜めることができるが、上下の横矢板から少量の水が漏れている場合を×、上下の横矢板から水が全く漏れなかった場合を○として評価した。
【0046】
(実施例1)
押出成型により製造した中空構造のPVC製板状体の一方の表面と当該表面と対向する他方の裏面の中空部側の面に、アルミ製板材(幅4.1cm、厚み2.5mm、長手方向の長さ150cm)をそれぞれ4組ずつシリコーン系接着剤で接着し、縦方向の長さ33.3cm、横方向の長さ150cm、厚み3cm(アルミの板材の厚みを除いた厚み)、質量7.0kgの親杭横矢板式防水防護柵用横矢板を作成した(図2の態様を参照)。
次いで、この横矢板3枚を地上高さ1mの親杭間に順次挟持させて、高さ1m、長さ1.5mの親杭横矢板式防水防護柵を作成した。評価結果を表1に示す。
なお、防水防護柵の計画規模の水圧を1m相当の水圧と仮定した場合、縦方向の長さ33.3cm、横方向の長さ150cmの横矢板にかかり得る荷重は4895Nであり、これを当分布荷重に置換すると3.26N/mmとなる。また、PVC製板状体の中空部の厚み方向の表面と中他方の裏面にとりつけた一組のアルミ製板材の断面2次モーメントは5.42cm4、従って4組の断面2次モーメントの合計は32.08cm4である。さらにアルミの弾性係数は、70kN/mm2であるから、これら数値を式1に代入し、算出された横矢板の最大撓みは1.4cmであった。これより実施例1の態様では、最大撓みは横矢板3の厚み3cmより小さく、かつ横矢板3の厚みの2/3以下であることが分かる。
【0047】
(実施例2)
押出成型により製造した中空構造のPVC製板状体の一方の表面全体に、ステンレス製板材(幅33.3cm、厚み1mm、長手方向の長さ150cm)をシリコーン系接着剤で接着し、縦方向(幅方向)の長さ33.3cm、横方向(長手方向)の長さ150cm、厚み3cm(アルミの板材の厚みを除いた厚み)、質量7.6kgの親杭横矢板式防水防護柵用横矢板を作成した(図3(C)の態様を参照)。
次いで、この横矢板3枚を地上高さ1mの親杭間に順次挟持させて、高さ1m、長さ1.5mの親杭横矢板式防水防護柵を作成した。評価結果を表1に示す。
なお、防水防護柵の計画規模の水圧を1m相当の水圧と仮定した場合、縦方向の長さ33.3cm、横方向の長さ150cmの横矢板にかかり得る荷重は4895Nであり、これを当分布荷重に置換すると3.26N/mmとなる。また、中空部の厚み方向の一方の端部の表面にとりつけたステンレスの板材の断面2次モーメントは7.74cm4、ステンレスの弾性係数は、200kN/mm2であるから、これら数値を式1に代入し、算出された横矢板の最大撓みは1.4cmであった。これより実施例1の態様では、最大撓みは横矢板3の厚み3cmより小さく、かつ横矢板3の厚みの2/3以下であることが分かる。
【0048】
(実施例3)
押出成型により製造した中空構造のPVC製板状体の一方の表面と当該表面に対向する他方の裏面に、ステンレス製板材(幅4.1cm、厚み2mm、長手方向の長さ150cm)をそれぞれ2組ずつシリコーン系接着剤で接着し、縦方向の長さ33.3cm、横方向の長さ150cm、厚み3cm(ステンレス製板材の厚みを除いた厚み)、質量7.6kgの親杭横矢板式防水防護柵用横矢板を作成した(図3(B)の態様を参照。但し、本態様はステンレス製板材が2組少ない)。
次いで、この横矢板3枚を地上高さ1mの親杭間に順次挟持させて、高さ1m、長さ1.5mの親杭横矢板式防水防護柵を作成した。評価結果を表1に示す。
なお、防水防護柵の計画規模の水圧を1m相当の水圧と仮定した場合、縦方向の長さ33.3cm、横方向の長さ150cmの横矢板にかかり得る荷重は4895Nであり、これを当分布荷重に置換すると3.26N/mmとなる。また、中空部の厚み方向の一方の端部の表面と中空部の厚み方向の他方の端部の裏面にとりつけた一組のステンレスの板材の断面2次モーメントは4.2cm4、従って2組の断面2次モーメントの合計は8.2cm4である。さらにステンレスの弾性係数は、200kN/mm2であるから、これら数値を式1に代入し、算出された横矢板の最大撓みは1.3cmであった。これより実施例3の態様では、最大撓みは横矢板3の厚み3cmより小さいことが分かる。
【0049】
(比較例1)
押出成型により製造した中空構造のPVC製板状体の中空部に、アルミニウム製の角パイプ(長辺幅4cm、短辺幅2.5cm、厚み3mm)を4本嵌合してシリコーン系接着剤で接着し、縦方向の長さ33.3cm、横方向の長さ150cm、厚み3cm、質量9.4kgの親杭横矢板式防水防護柵用横矢板を作成した。
次いで、この横矢板3枚を地上高さ1mの親杭間に順次挟持させて、高さ1m、長さ1.5mの親杭横矢板式防水防護柵を作成した。評価結果を表1に示す。
なお、防水防護柵の計画規模の水圧を1m相当の水圧と仮定した場合、縦方向の長さ33.3cm、横方向の長さ150cmの横矢板にかかり得る荷重は4895Nであり、これを当分布荷重に置換すると3.26N/mmとなる。また、アルミの角パイプの断面2次モーメントは3.26cm4である。したがって4本のアルミの角パイプの断面2次モーメントの合計は、13.04cm4である。さらに角アルミ弾性係数は、70kN/mm2であるから、これら数値を式(1)に代入し、算出された横矢板の最大撓みは2.4cmであった。
【0050】
(比較例2)
押出成型により製造した中空構造のPVC製板状体の両端の中空部に、SUS304の角パイプ(長辺幅4cm、短辺幅2.5cm、厚み2mm)を2本嵌合してシリコーン系接着剤で接着し、縦方向の長さ33.3cm、横方向の長さ150cm、厚み3cm、質量9.4kgの親杭横矢板式防水防護柵用横矢板を作成した。
次いで、この横矢板3枚を地上高さ1mの親杭間に順次挟持させて、高さ1m、長さ1.5mの親杭横矢板式防水防護柵を作成した。評価結果を表1に示す。
なお、防水防護柵の計画規模の水圧を1m相当の水圧と仮定した場合、縦方向の長さ33.3cm、横方向の長さ150cmの横矢板にかかり得る荷重は4895Nであり、これを当分布荷重に置換すると3.26N/mmとなる。また、SUS304の角パイプの断面2次モーメントは2.29cm4である。したがって取り付ける角パイプ2本の断面2次モーメントは4.58cm4である。ステンレス弾性係数は、200kN/mm2であるから、これら数値を式1に代入し、算出された横矢板の最大撓みは2.3cmであった。

【0051】
【表1】

【0052】
実施例1〜3の横矢板は、比較例1及び2の横矢板より軽量である上、33.3cmの水位においても横矢板の下部が1.3〜1.4cm程度の撓みであったため、水漏れもなく十分水を堰き止めることができた。
これに対して、比較例1及び2の横矢板は実施例1〜3の横矢板と比べて質量が重かった。また、比較例1の横矢板は33.3cmの水位で横矢板の下部が2.4cm、比較例2の横矢板下部は下部が2.3cmそれぞれ撓み、横矢板の厚みの2/3を超える幅で撓んだため、水漏れが見られた。
これより本発明に係る横矢板は、施工性もよく軽量であり、洪水時でも容易に防水防護柵を組み立てることができ、洪水時に水を堰き止める機能を十分発揮することができ、親杭横矢板式防水防護柵用横矢板として好適に使用できることが分かる。

【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明は、軽量で施工性に優れているために、親杭横矢板式防水防護柵用横矢板として利用できる。
【符号の説明】
【0054】
1 親杭横矢板式防水防護柵用横矢板
1a 横矢板の上端部
1b 横矢板の下端部
2 樹脂製板状体
2a 中空部
2b 樹脂製板状体の表面
2c 樹脂製板状体の裏面
3 補強体
3a 表面の補強体
3b 裏面の補強体
4 親杭
4a 挟持部
5 止水部材
6 止水部材
10 親杭横矢板式防水防護柵
50 河川
51 堤防
52 親杭差込孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空構造の樹脂製板状体と、該樹脂製板状体の表面または表面と裏面に設けられた補強体とを有し、左右両側縁を親杭間に掛け渡して親杭横矢板式防水防護柵を形成するための横矢板であって、該横矢板の垂直方向から49000Pa以下の水圧をかけたときの最大撓みが、該横矢板の厚みの2/3以下であることを特徴とする親杭横矢板式防水防護柵用横矢板。
【請求項2】
前記補強体がステンレス鋼製板又はアルミニウム製板である請求項1に記載の親杭横矢板式防水防護柵用横矢板。
【請求項3】
前記補強体が炭素繊維製板である請求項1に記載の親杭横矢板式防水防護柵用横矢板。
【請求項4】
前記樹脂製板状体と、前記補強体とがシリコーン系接着剤により接着されている請求項1〜3のいずれかに記載の親杭横矢板式防水防護柵用横矢板。
【請求項5】
横矢板の上端部、下端部、又は上端部と下端部に止水部材が取り付けられている、請求項1〜4のいずれかに記載の親杭横矢板式防水防護柵用横矢板。
【請求項6】
質量が10kg以下である請求項1〜5のいずれかに記載の親杭横矢板式防水防護柵用横矢板。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の親杭横矢板式防水防護柵用横矢板と、該横矢板を掛け渡すための親杭とを有することを特徴とする親杭横矢板式防水防護柵。
【請求項8】
前記親杭が、横矢板との係合部に止水ゴムを有する請求項7に記載の親杭横矢板式防水防護柵。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−23814(P2013−23814A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−156090(P2011−156090)
【出願日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【特許番号】特許第4955827号(P4955827)
【特許公報発行日】平成24年6月20日(2012.6.20)
【出願人】(000006172)三菱樹脂株式会社 (1,977)
【Fターム(参考)】