説明

親水化されたエチレン/テトラフルオロエチレン共重合体多孔体の製造方法およびエチレン/テトラフルオロエチレン共重合体多孔体

【課題】優れた濾過性能を備え、かつ高い耐熱性を有する、表面が親水化されたエチレン/テトラフルオロエチレン共重合体の多孔体の製造方法。
【解決手段】エチレンに基づく繰返し単位とテトラフルオロエチレンに基づく繰返し単位を含有するエチレン/テトラフルオロエチレン共重合体と親水性高分子とを、300℃以下で前記エチレン/テトラフルオロエチレン共重合体を溶解しうる溶媒に、300℃以下かつ得られる溶液の相分離温度以上の温度で溶解して溶液を得る工程(A)と、前記溶液を300℃以下かつ前記溶液の相分離温度以上の温度で成形して成形物とする工程(B)と、前記溶液の相分離温度以上の温度の成形物を前記溶液の相分離温度以下の温度に冷却して前記エチレン/テトラフルオロエチレン共重合体と親水性高分子とを凝固させる工程(C)と、を有する方法で作成され、その表面が、水との接触角が70度以下である、親水化されたエチレン/テトラフルオロエチレン共重合体多孔体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面が親水化されたエチレン/テトラフルオロエチレン共重合体多孔体の製造方法およびその製造方法により得られたエチレン/テトラフルオロエチレン共重合体多孔体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、多孔質膜を用いた分離膜が、例えば浄水処理、廃液・排水処理、超純水製造などの水処理分野;血液透析、血液濾過などの医療分野;食品工業分野等の様々な方面で利用されている。
特に浄水処理、排水処理等の水処理の分野において用いられる多孔質膜は、処理水量が大きいため、透水性能の向上が求められる。透水性能が優れていれば、単位面積あたりの処理水量が大きくなるため、膜の面積を小さくできる。膜の面積が小さいと、膜交換費用を削減できるとともに、装置を小型化して省スペース化を実現できる点で有利である。
【0003】
また、分離膜を長期間継続して使用できるようにするために、防汚性および易洗浄性の向上が望まれる。一般に、水処理を行う過程において、原水中の分離対象物質等が分離膜に付着して膜汚染(膜ファウリング)が起こるため、定期的に逆圧洗浄、エアスクラビング等の物理洗浄が行われる。更に膜ファウリングが進行して物理洗浄の効果が小さくなった場合には、付着物を化学的に分解して溶解除去する薬品洗浄が行われる。膜の防汚性能が高ければ、物理洗浄および薬品洗浄の間隔を長くすることができるため、濾過効率の向上、および周辺機器の寿命延長が期待できる。また膜の易洗浄性が良好で、物理洗浄による透水性能の回復率が高いほど、物理洗浄および薬品洗浄を短時間で行うことができ、その間隔を長くすることができる。
【0004】
分離膜に求められるその他の性能、例えば熱安定性、耐薬品性、機械強度などの観点から、膜素材には疎水性ポリマーがよく用いられる。疎水性ポリマーからなる多孔質膜を水処理に用いる場合、透水性が充分ではなく、疎水性の高い油、タンパク質等の有機系分子との親和性が高いため、これらが膜に堆積あるいは吸着しやすいという問題がある。この問題に対して、多孔質膜の表面に親水性を付与することによって、透水性を向上させ、疎水性の有機分子や土泥類の吸着を抑える方法が一般的である。
【0005】
疎水性ポリマーからなる多孔質膜の親水化方法については、例えば、オゾン処理による方法(特許文献1参照。)、親水性モノマーのグラフト重合による方法(特許文献2参照。)、親水性高分子をブレンドする方法(特許文献3参照。)、界面活性剤を表面に塗布あるいは内部に浸漬する方法(特許文献4参照。)など多数報告されている。
また、耐膜ファウリング性を高めるという観点から、表面にフッ素系の重合膜を形成して、膜の表面エネルギーを低下させ、積極的に有機分子を吸着し難くする方法もある(特許文献5参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−343843号公報
【特許文献2】特公平6−104753号公報
【特許文献3】特開平11−156171号公報
【特許文献4】特開2004−202438号公報
【特許文献5】特開昭62−23401号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来、エチレン/テトラフルオロエチレン共重合体の多孔体の親水化を行うには、多孔体を作成後、後処理による親水化が行われていた。本発明では、エチレン/テトラフルオロエチレン共重合体の多孔体化と親水化を同時に行うことができる、優れた濾過性能を備え、かつ高い耐熱性を有する、表面が親水化されたエチレン/テトラフルオロエチレン共重合体の多孔体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下の構成を有する、表面が親水化されたエチレン/テトラフルオロエチレン共重合体多孔体の製造方法およびエチレン/テトラフルオロエチレン共重合体多孔体を提供する。
【0009】
[1]エチレンに基づく繰返し単位とテトラフルオロエチレンに基づく繰返し単位を含有するエチレン/テトラフルオロエチレン共重合体と親水性高分子とを、300℃以下で前記エチレン/テトラフルオロエチレン共重合体を溶解しうる溶媒に、300℃以下かつ得られる溶液の相分離温度以上の温度で溶解して溶液を得る工程(A)と、
前記溶液を300℃以下かつ前記溶液の相分離温度以上の温度で成形して成形物とする工程(B)と、
前記溶液の相分離温度以上の温度の成形物を前記溶液の相分離温度以下の温度に冷却して前記エチレン/テトラフルオロエチレン共重合体と親水性高分子とを凝固させる工程(C)、
を有する親水化されたエチレン/テトラフルオロエチレン共重合体多孔体の製造方法であって、得られた親水化されたエチレン/テトラフルオロエチレン共重合体多孔体の表面と、水との接触角が70度以下であることを特徴とする親水化されたエチレン/テトラフルオロエチレン共重合体多孔体の製造方法。
【0010】
[2]前記工程(A)における溶解が、前記溶液の相分離温度以上かつ前記エチレン/テトラフルオロエチレン共重合体の融点以下の温度で行われる前記[1]に記載のエチレン/テトラフルオロエチレン共重合体多孔体の製造方法。
[3]前記エチレン/テトラフルオロエチレン共重合体/前記親水性高分子/前記溶媒の比率が、14.9〜65/0.1〜20/15〜85(質量比)である前記[1]または[2]に記載のエチレン/テトラフルオロエチレン共重合体多孔体の製造方法。
[4]前記溶媒が、含フッ素芳香族化合物、カルボニル基を1個以上有する脂肪族化合物、および、ハイドロフルオロアルキルエーテルからなる群から選ばれる少なくとも一種である前記[1]〜[3]のいずれかに記載のエチレン/テトラフルオロエチレン共重合体多孔体の製造方法。
[5]前記工程(B)における成形物が、押出成形物である前記[1]〜[4]のいずれかに記載のエチレン/テトラフルオロエチレン共重合体多孔体の製造方法。
【0011】
[6]前記工程(C)が、冷却用液体中への吐出である前記[1]〜[5]のいずれかに記載のエチレン/テトラフルオロエチレン共重合体多孔体の製造方法。
[7]前記工程(C)を、前記工程(B)直後に、前記押出成形物を、長さ0.1〜100mm、0℃以上かつ前記溶液の相分離温度以下の乾式部に通過させ、ついで前記冷却用液体に導入して行うことからなる[5]に記載のエチレン/テトラフルオロエチレン共重合体多孔体の製造方法。
[8]前記エチレン/テトラフルオロエチレン共重合体多孔体に含まれる溶媒を抽出除去する[1]〜[7]のいずれかに記載のエチレン/テトラフルオロエチレン共重合体多孔体の製造方法。
[9]前記[1]〜[8]のいずれかに記載の製造方法で得られた、形状がフィルムまたは中空糸であるエチレン/テトラフルオロエチレン共重合体多孔体。
【発明の効果】
【0012】
本発明の製造方法によれば、高い耐熱性を有する、エチレン/テトラフルオロエチレン共重合体の多孔体を作成すると共に、エチレン/テトラフルオロエチレン共重合体の多孔体の親水化も行うことができ、優れた濾過性能を付与できる。また、得られた親水化されたエチレン/テトラフルオロエチレン共重合体の多孔体は、幅広い空孔率の範囲で種々の形状を有する多孔体であり、優れた分離性能を有する。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の製造方法は、エチレンに基づく繰返し単位とテトラフルオロエチレンに基づく繰返し単位を含有するエチレン/テトラフルオロエチレン共重合体と親水性高分子とを、300℃以下で前記エチレン/テトラフルオロエチレン共重合体と親水性高分子とを溶解しうる溶媒に、300℃以下かつ得られる溶液の相分離温度以上の温度で溶解して溶液を得る工程(A)と、前記溶液を300℃以下かつ前記溶液の相分離温度以上の温度で成形して成形物とする工程(B)と、前記溶液の相分離温度以上の温度の成形物を前記溶液の相分離温度以下の温度に冷却して前記エチレン/テトラフルオロエチレン共重合体と親水性高分子とを凝固させる工程(C)と、を有することを特徴とする。
【0014】
本明細書においてエチレン/テトラフルオロエチレン共重合体を、以下、「ETFE」と略記するが、本明細書において「ETFE」とは、より具体的には、エチレンに基づく繰返し単位とテトラフルオロエチレンに基づく繰返し単位とを含有するエチレン/テトラフルオロエチレン共重合体である。
本発明におけるETFEは、エチレンに基づく繰返し単位と、テトラフルオロエチレン(以下、TFEと略記することもある。)に基づく繰返し単位とを含有するETFEであれば、他に特に制限はない。本発明におけるETFEとしては、TFEに基づく繰返し単位/エチレンに基づく繰返し単位のモル比が、好ましくは75/25〜30/70、より好ましくは65/35〜40/60、最も好ましくは60/40〜40/60のものが挙げられる。
【0015】
また、本発明におけるETFEは、TFEおよびエチレンに基づく繰返し単位の他に、他の単量体に基づく繰返し単位を含んでいてもよい。他の単量体としては、CF=CFCl、CF=CHなどのフルオロエチレン類(ただし、TFEを除く。);CF=CFCF、CF=CHCFなどのフルオロプロピレン類;CFCFCH=CH、CFCFCFCFCH=CH、CFCFCFCFCF=CH、CFHCFCFCF=CHなどの炭素数が2〜12のフルオロアルキル基を有する(ポリフルオロアルキル)エチレン類;R(OCFXCFOCF=CF(式中Rは、炭素数1〜6のペルフルオロアルキル基、Xは、フッ素原子またはトリフルオロメチル基、mは、0〜5の整数を表す。)、CF=CFCFOCF=CF、CF=CF(CF)OCF=CFなどのペルフルオロビニルエーテル類;CHOC(=O)CFCFCFOCF=CFやFSOCFCFOCF(CF)CFOCF=CFなどの、容易にカルボン酸基やスルホン酸基に変換可能な基を有するペルフルオロビニルエーテル類;プロピレンなどの炭素数3個のオレフィン、ブチレン、イソブチレンなどの炭素数4個のオレフィン等のオレフィン(ただし、エチレンを除く。)類などが挙げられる。他の単量体は、単独でまたは二種以上組み合わせ使用してもよい。
【0016】
他の単量体として、上記他の単量体と共に又は上記他の単量体に代えて、架橋性の官能基を有する単量体を用いることもできる。このような単量体として、無水イタコン酸、無水マレイン酸、無水シトラコン酸、5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸無水物等が挙げられる。これらの単量体は、単独でまたは二種以上組み合わせ使用してもよい。
前記ETFEが他の単量体に基づく繰返し単位を含有する場合は、その含有割合は、ETFEの全繰返し単位に対して、好ましくは30モル%以下、より好ましくは0.1〜15モル%、最も好ましくは0.2〜10モル%である。
【0017】
本発明におけるETFEは、エチレンとTFEおよび、さらに任意に含んでいてもよい他の単量体とを通常の重合方法で共重合させることにより製造できる。重合方法としては、溶液重合、懸濁重合、乳化重合、塊状重合等が挙げられる。
また、本発明におけるETFEは、エチレンとTFEおよび、さらに任意に含んでいてもよい他の単量体とを共重合させて得られる含フッ素共重合体に、上記他の単量体をグラフト重合させたものであってもよい。
本発明におけるETFEとしては、市販品を用いることもできる。例えば、ETFEについては、旭硝子社製:Fluon(登録商標)ETFE
Series、Fluon(登録商標)LM Series、ダイキン工業社製:ネオフロン(登録商標)、Dyneon社製:Dyneon(登録商標)ETFE、DuPont社製:Tefzel(登録商標)等が挙げられる。
【0018】
本発明におけるETFEのメルトインデックス値(以下、MIという。)は、0.5〜40(単位:g/10min)が好ましく、1〜30がより好ましい。MIは、溶融成形性の尺度であり、大きいとETFEの分子量は小さく、小さいとETFEの分子量は大きい。MIが大きすぎると、成形時に溶液の粘度が低く、成形物が多孔体形状を維持できなくなったり、成形後の多孔体の強度が低下するという傾向がある。また、MIが小さすぎると、成形時に溶液の粘度が高くなりすぎて成形性が低下する傾向となる。なお、MIは、ASTM
D3159−98に規定される方法により測定される。
【0019】
また、本発明におけるETFEの融点は、特に限定されないが、溶解性、強度等の点から、好ましくは130℃〜275℃、より好ましくは140℃〜265℃、最も好ましくは150℃〜260℃である。
本発明の製造方法においては、ETFEの一種を単独で、あるいは二種以上を併用することが可能である。
本発明の製造方法においてETFEを溶媒に溶解させる際のETFEの形状は、粉末状のものが短時間で溶解できることから好ましいが、ペレット状等、その他の形状でも用いることができる。
【0020】
本発明における親水性高分子とは、高分子フィルムの表面の水との接触角が70度以下の高分子を親水性高分子と呼ぶ。親水性高分子フィルムの表面と水との接触角は、70度以下が好ましく、60度以下がより好ましく、50度以下がさらに好ましく、40度以下が最も好ましい。親水性高分子を用いると、多孔体の表面が親水性を示し、水処理等の液体処理においてろ過圧力を低減出来るため好ましい。ここで、接触角とは、JIS R3257「基板ガラス表面のぬれ性試験方法」に準拠し、高分子フィルムの表面に蒸留水を1μl滴下した時の、高分子フィルムの表面と水の接触角である。通常、親水化されていないETFEフィルムの表面と水の接触角は90度以上であり、疎水性、撥水性を示す。
【0021】
本発明における親水性高分子としては、例えば、主鎖および/または側鎖に繰返し単位として、セルロースエステル、脂肪酸ビニルエステル、ビニルピロリドン、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、アクリロニトリル、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、ビニルアルコールなどから選ばれる少なくとも1種の親水性単量体に基づく親水性繰返し単位を有する親水性高分子が挙げられる。好ましい親水性繰返し単位としては、脂肪酸ビニルエステル、アクリロニトリル、ビニルアルコールなどの親水性単量体に基づく繰返し単位が挙げられる。親水性単量体に基づく繰返し単位の含有量は、上記範囲の水の接触角になるように適宜選定すればよい。
本発明における親水性高分子は、親水性単量体に基づく繰返し単位以外の他の繰返し単位を含有しても良い。他の繰返し単位としては、例えば、エチレン、プロピレンなどのオレフィン、アセチレンなどのアルキン、フッ化ビニルなどのハロゲン化ビニル、フッ化ビニリデンなどのハロゲン化ビニリデン、トリフルオロエチレン、テトラフルオロエチレンなどのポリハロゲン化エチレンなどの単量体に基づく繰返し単位が挙げられる。特にエチレン、プロピレンなどのオレフィン、分子中にフッ素原子を有する含フッ素単量体に基づく繰返し単位は、化学的耐久性が高いため好ましい。
本発明における親水性高分子は、親水性単量体と、それ以外の他の単量体とを通常の重合方法で共重合させることにより製造できる。重合方法としては、溶液重合、懸濁重合、乳化重合、塊状重合等が挙げられる。
【0022】
また、本発明における親水性高分子は、親水性単量体以外の他の単量体である含フッ素単量体を含む単量体と必要に応じて官能基含有単量体を重合させて得られる含フッ素共重合体に、上記親水性単量体をグラフト重合させたものであってもよい。官能基含有単量体としては、無水イタコン酸、無水マレイン酸、無水シトラコン酸、5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸無水物などの不飽和結合を有する酸無水物、ターシャリーブチルビニルエーテルなどのビニルエーテルなどが挙げられる。
好ましい親水性高分子としては、親水性繰返し単位を含有する含フッ素重合体などが挙げられる。含フッ素重合体としては、ETFE、ECTFE等が挙げられ、ETFEが好ましい。好ましいETFEとしては、上記ETFEと同様なものが挙げられる。
親水性高分子は、MIが3〜200(単位:g/10min)が好ましく、5〜150がより好ましい。
親水性高分子の融点は、特に限定されないが、溶解性、強度等の点から、好ましくは100℃〜275℃、より好ましくは130℃〜265℃、最も好ましくは140℃〜260℃である。
本発明の製造方法において親水性高分子を溶媒に溶解させる際の親水性高分子の形状は、粉末状のものが短時間で溶解できることから好ましいが、ペレット状等、その他の形状でも用いることができる。
【0023】
<工程(A)>
本発明の製造方法における工程(A)は、上記ETFEと親水性高分子とを300℃以下で溶解しうる溶媒に、上記ETFEを300℃以下の温度でありかつ得られる溶液の相分離温度以上の温度で、溶解させて溶液を得る工程である。
本発明の製造方法において、ETFEを親水化する為に、工程(A)で親水性高分子とETFEを混合する。
【0024】
本発明の製造方法において工程(A)で用いる溶媒は、300℃以下の温度で上記ETFEと親水性高分子とを溶解しうる溶媒であれば特に制限されないが、この溶媒に溶解させるETFEの融点以下の温度で、そのETFE及び親水性高分子を該溶媒の量に対してそれぞれ1質量%以上溶解できる溶媒が好ましい。ETFE及び親水性高分子を溶解できる量は、それぞれ5質量%以上がより好ましく、それぞれ10質量%以上が最も好ましい。
このような溶媒としては、含フッ素芳香族化合物、カルボニル基を1個以上有する脂肪族化合物、および、ハイドロフルオロアルキルエーテルからなる群から選ばれる一種以上の溶媒が好ましい。これらの溶媒は、常温では上記ETFEを溶解できないが、少なくともETFEの融点より低い温度でETFEを溶解でき、適度な粘度を有するETFE溶液を形成できる溶媒である。
【0025】
上記本発明に用いる含フッ素芳香族化合物は、融点が230℃以下であることが好ましく、より好ましくは200℃以下であり、最も好ましくは180℃以下である。
融点がこの範囲にあるとETFEを溶解する時の取扱い性に優れる。また、含フッ素芳香族化合物中のフッ素含有量((フッ素原子量×分子中のフッ素原子数)×100/分子量)は、5〜75質量%であることが好ましく、9〜75質量%がより好ましく、12〜75質量%がさらに好ましい。この範囲にあると、ETFEの溶解性に優れる。
このような含フッ素芳香族化合物として、具体的には、含フッ素ベンゾニトリル、含フッ素安息香酸およびそのエステル、含フッ素多環芳香族化合物、含フッ素ニトロベンゼン、含フッ素フェニルアルキルアルコール、含フッ素フェノールおよびそのエステル、含フッ素芳香族ケトン、含フッ素芳香族エーテル、含フッ素芳香族スルホニル化合物、含フッ素ピリジン化合物、含フッ素芳香族カーボネート、ペルフルオロアルキル置換ベンゼン、ペルフルオロベンゼン、安息香酸のポリフルオロアルキルエステル、フタル酸のポリフルオロアルキルエステルおよびトリフルオロメタンスルホン酸のアリールエステル等が挙げられる。
【0026】
これらのうちでも、本発明において上記溶媒として用いる含フッ素芳香族化合物としては、含フッ素ベンゾニトリル、含フッ素安息香酸およびそのエステル、含フッ素多環芳香族化合物、含フッ素ニトロベンゼン、含フッ素フェニルアルキルアルコール、含フッ素フェノールおよびそのエステル、含フッ素芳香族ケトン、含フッ素芳香族エーテル、含フッ素芳香族スルホニル化合物、含フッ素ピリジン化合物、含フッ素芳香族カーボネート、ペルフルオロアルキル置換ベンゼン、ペルフルオロベンゼン、安息香酸のポリフルオロアルキルエステル、フタル酸のポリフルオロアルキルエステルおよびトリフルオロメタンスルホン酸のアリールエステルからなる群から選ばれる一種以上が好ましく、少なくとも2つ以上のフッ素原子を有する含フッ素ベンゾニトリル、含フッ素安息香酸およびそのエステル、含フッ素多環芳香族化合物、含フッ素ニトロベンゼン、含フッ素フェニルアルキルアルコール、含フッ素フェノールのエステル、含フッ素芳香族ケトン、含フッ素芳香族エーテル、含フッ素芳香族スルホニル化合物、含フッ素ピリジン化合物、含フッ素芳香族カーボネート、ペルフルオロアルキル置換ベンゼン、ペルフルオロベンゼン、安息香酸のポリフルオロアルキルエステル、フタル酸のポリフルオロアルキルエステルおよびトリフルオロメタンスルホン酸のアリールエステルからなる群から選ばれる一種以上がより好ましい。
【0027】
このような含フッ素芳香族化合物のうちでも、さらに好ましい化合物として、ペンタフルオロベンゾニトリル、2,3,4,5−テトラフルオロベンゾニトリル、2,3,5,6−テトラフルオロベンゾニトリル、2,4,5−トリフルオロベンゾニトリル、2,4,6−トリフルオロベンゾニトリル、3,4,5−トリフルオロベンゾニトリル、2,3−ジフルオロベンゾニトリル、2,4−ジフルオロベンゾニトリル、2,5−ジフルオロベンゾニトリル、2,6−ジフルオロベンゾニトリル、3,4−ジフルオロベンゾニトリル、3,5−ジフルオロベンゾニトリル、4−フルオロベンゾニトリル、3,5−ビス(トリフルオロメチル)ベンゾニトリル、2−(トリフルオロメチル)ベンゾニトリル、3−(トリフルオロメチル)ベンゾニトリル、4−(トリフルオロメチル)ベンゾニトリル、2−(トリフルオロメトキシ)ベンゾニトリル、3−(トリフルオロメトキシ)ベンゾニトリル、4−(トリフルオロメトキシ)ベンゾニトリル、(3−シアノフェニル)サルファ ペンタフルオリド、(4−シアノフェニル)サルファ ペンタフルオリド、ペンタフルオロ安息香酸、ペンタフルオロ安息香酸エチル、2,4−ジフルオロ安息香酸メチル、3−(トリフルオロメチル)安息香酸メチル、4−(トリフルオロメチル)安息香酸メチル、3,5−ビス(トリフルオロメチル)安息香酸メチル、
【0028】
ペルフルオロビフェニル、ペルフルオロナフタレン、ペンタフルオロニトロベンゼン、2,4−ジフルオロニトロベンゼン、(3−ニトロフェニル)サルファ ペンタフルオリド、ペンタフルオロベンジルアルコール、1−(ペンタフルオロフェニル)エタノール、酢酸ペンタフルオロフェニル、プロパン酸ペンタフルオロフェニル、ブタン酸ペンタフルオロフェニル、ペンタン酸ペンタフルオロフェニル、ペルフルオロベンゾフェノン、2,3,4,5,6−ペンタフルオロベンゾフェノン、2’,3’,4’,5’,6’−ペンタフルオロアセトフェノン、3’,5’−ビス(トリフルオロメチル)アセトフェノン、3’−(トリフルオロメチル)アセトフェノン、2,2,2−トリフルオロアセトフェノン、ペンタフルオロアニソール、3,5−ビス(トリフルオロメチル)アニソール、デカフルオロジフェニルエーテル、4−ブロモ−2,2’,3,3’,4’,5,5’,6,6’−ノナフルオロジフェニルエーテル、ペンタフルオロフェニルスルホニルクロリド、ペンタフルオロピリジン、3−シアノ−2,5,6−トリフルオロピリジン、ビス(ペンタフルオロフェニル)カーボネート、ベンゾトリフルオリド、4−クロロベンゾトリフルオリド、1,3−ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン、ヘキサフルオロベンゼン、安息香酸2,2,2−トリフルオロエチル、安息香酸2,2,3,3−テトラフルオロプロピル、安息香酸2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピル、安息香酸3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8−トリデカフルオロオクチル、フタル酸ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)、トリフルオロメタンスルホン酸4−アセチルフェニル等が挙げられる。
【0029】
上記1個以上のカルボニル基を有する脂肪族化合物として、好ましくは、炭素数3〜10の環状ケトン、鎖状ケトン等のケトン類、鎖状エステル、グリコール類のモノエーテルモノエステル等のエステル類、およびカーボネート類からなる群から選ばれる一種以上が好ましい。また、カルボニル基の数は、1個または2個が好ましい。上記1個以上のカルボニル基を有する脂肪族化合物の分子構造は特に制限されず、例えば、炭素骨格は直鎖、分岐、環状のいずれであってもよく、主鎖、または側鎖を構成する炭化−炭素結合間にエーテル性酸素を有していてもよく、炭素原子に結合する水素原子の一部がフッ素原子等のハロゲン原子で置換されていてもよい。これらのうちでも、本発明に用いる上記カルボニル基含有脂肪族化合物としては環状ケトンがより好ましい。これらは一種を単独で用いてもよく、二種以上を併用してもよい。
【0030】
本発明における前記カルボニル基含有脂肪族化合物として、さらに好ましい化合物として具体的には、以下の化合物が挙げられる。
上記環状ケトンとしては、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、2−メチルシクロヘキサノン、3−メチルシクロヘキサノン、4−エチルシクロヘキサノン、2,6−ジメチルシクロヘキサノン、3,3,5−トリメチルシクロヘキサノン、4−tert−ブチルシクロヘキサノン、シクロヘプタノン、イソホロン、アセトフェノン等が挙げられる。
上記鎖状ケトンとしては、アセトン、メチルエチルケトン、2−ペンタノン、メチルイソプロピルケトン、2−ヘキサノン、メチルイソブチルケトン、2−ヘプタノン、2−オクタノン、2−ノナノン、ジイソブチルケトン、2−デカノン等が挙げられる。
【0031】
上記鎖状エステルとしては、ギ酸エチル、ギ酸イソペンチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、酢酸ペンチル、酢酸イソペンチル、酢酸ヘキシル、酢酸シクロヘキシル、酢酸2−エチルヘキシル、酪酸エチル、酪酸ブチル、酪酸ペンチル、アジピン酸ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)、シクロヘキサンカルボン酸メチル、シクロヘキサンカルボン酸2,2,2−トリフルオロエチル、ペルフルオロペンタン酸エチル等が挙げられる。
上記グリコール類のモノエーテルモノエステルとしては、酢酸2−メトキシエチル、酢酸2−エトキシエチル、酢酸2−ブトキシエチル、1−メトキシ−2−アセトキシプロパン、1−エトキシ−2−アセトキシプロパン、酢酸3−メトキシブチル、酢酸3−メトキシ−3−メチルブチル等が挙げられる。
【0032】
上記カーボネートとしては、ビス(2,2,3,3−テトラフルオロプロピル)カーボネート、ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)カーボネート、ジエチルカーボネート、プロピレンカーボネート等が挙げられる。
上記本発明の製造方法に溶媒として用いるハイドロフルオロアルキルエーテルとして、具体的には、1,1,1,2,3,3−ヘキサフルオロ−4−(1,1,2,3,3,3−ヘキサフルオロプロポキシ)ペンタン、1,1,1,2,2,3,4,5,5,5−デカフルオロ−3−メトキシ−4−(トリフルオロメチル)ペンタン等が挙げられる。これらのうちでも、本発明に用いるハイドロフルオロアルキルエーテルとしては、1,1,1,2,3,3−ヘキサフルオロ−4−(1,1,2,3,3,3−ヘキサフルオロプロポキシ)ペンタンが好ましい。
上記溶媒は、一種単独で用いてもよく、二種以上を併用してもよい。二種以上を用いると相分離の速さを制御することができる。
【0033】
上記本発明の製造方法に溶媒は、融点が220℃以下であることが好ましく、融点はより好ましくは50℃以下であり、さらに好ましくは20℃以下である。また、溶媒の沸点は、該溶媒が上記ETFEを溶解する温度と同じか、これより高いことが好ましい。ただし、本発明において、上記ETFEの溶解を自然発生圧力下で行う場合には、溶媒の沸点が、溶解温度以下の脂肪族化合物も適用可能である。「自然発生圧力」とは、溶媒とETFEの混合物が密閉容器中で自然に示す圧力を指す。
【0034】
本発明においては、ETFEと親水性高分子と溶媒とを密閉容器内で所定温度に加熱することにより透明で均一な溶液となる。加熱温度は、ETFEの融点以下、好ましくは、該ETFEの融点よりも30℃以上低い温度が好ましい。溶解の可否は、使用する溶媒の種類と温度にのみ依存し、圧力には関係しない。したがって、溶媒とETFEと親水性高分子との混合物が、所定の温度に到達すれば、その際の圧力は、特に制限はない。より低沸点の脂肪族化合物を使用する場合には、自然発生圧力が大きくなるため、安全性、利便性の観点から、用いる溶媒の沸点は、室温以上が好ましく、50℃以上がより好ましく、80℃以上が最も好ましい。また、上記溶媒の沸点の上限は、特に制限されないが、コーティングによる薄膜形成等に用いる場合には、乾燥しやすさ等の観点から220℃以下が好ましい。
【0035】
本発明において、ETFEの融点または液体の沸点まで、ETFEを溶解も膨潤もしない溶媒を非溶媒と定義する。本発明の製造方法においは、ETFEの溶解性を損なわない範囲内で、ETFE溶液中に非溶媒を含有させてもよい。非溶媒同士2種類以上を組み合わせて溶解度パラメーター(以降SP値と呼ぶこともある)を調整し、ETFEを溶解する溶媒として使用しても良い。
上記ETFEの非溶媒として具体的には、フッ素原子を含まない芳香族化合物、アルコール類等が挙げられる。これらのうちでも本発明の製造方法において好ましくは、アセトニトリル、ジクロロベンゼン、フタル酸ジメチル等のフッ素原子を含まない芳香族化合物が用いられる。また、本発明の製造方法において、上記ETFE溶液が上記単独でETFEを溶解可能な溶媒と共に非溶媒を含有する場合の混合割合は、単独でETFEを溶解可能な溶媒/非溶媒(質量比)として、99/1〜50/50が好ましく、95/5〜60/40がより好ましい。
【0036】
なお、本発明の製造方法においてETFE溶液が、上記単独でETFEと水溶性高分子とを溶解可能な溶媒に加えて非溶媒を含む場合、単独でETFEを溶解可能な溶媒と非溶媒との混合物を「溶媒」という。
工程(A)で作製されるETFE溶液の濃度としては、該溶液中のETFE/親水性高分子/溶媒の質量比率は、14.9〜65/0.1〜20/15〜85が好ましく、19.5〜60/0.5〜20/20〜80がより好ましく、24〜55/1〜20/25〜75である。
ETFE溶液中のETFE、親水性高分子、溶媒の比率がこの範囲にあれば、高い強伸度特性を有し、親水性を付与した多孔中空糸が得られやすい。一方、ETFE溶液中のETFEの含有量が多すぎると製造した多孔中空糸の空孔率が小さくなり、透水性能が低下する場合がある。また、親水性高分子の含有量が多すぎると製造した多孔中空糸の耐薬品性が低下する場合がある。
【0037】
上記300℃以下であってETFE溶液の相分離温度以上である温度範囲におけるETFE溶液の粘度としては、1〜10000Pa・sが好ましく、5〜5000Pa・sがより好ましく、10〜1000Pa・sが最も好ましい。
ここで、ETFE溶液の粘度は、東洋精機製作所社製の炉内径9.55mmの溶融流動性測定装置「キャピログラフ」に直径1mm、長さ10mmのオリフィスをセットし、上記300℃以下かつ相分離温度以上の温度で、ピストンスピード10mm/分の条件で押し出し測定した粘度の値である。ETFE溶液の粘度が、この範囲にあると、次の工程(B)においてETFE溶液を中空糸等の形状に成形することが容易である。
【0038】
また、本発明の製造方法において、本工程(A)で作製されるETFE溶液が、一次粒子径が10nm〜1μmの粉体を含有することも好ましい。粉体としては、工程(C)で得られるETFEの凝固成形物から、除去溶媒で溶解除去できる粉体であれば、有機粉体でも無機粉体でもよいが、本発明において好ましくは無機粉体が用いられる。親水性を付与する目的で紛体を含有させる場合は、工程(C)以降で紛体を除去せずに多孔体の内部に残しておいても良い。
ETFE溶液がこのような粉体を含有すると、本発明の製造方法において得られるETFE多孔体が均一な孔径を有する多孔体となり易い。また、該粉体を除去溶媒で溶解除去することにより、得られるETFE多孔体中の空孔率を増加させることも可能である。さらに、粉体の添加により工程(A)で得られるETFE溶液は適度な粘度を付与されることから、次の工程(B)において中空糸等の形状に成形しやすくなる。該粉体の一次粒子径は、10nm〜0.5μmがより好ましく、30nm〜0.3μmがさらに好ましい。
【0039】
上記粉体としては、従来公知のものがいずれも使用可能であり、特に限定するものではない。具体例としては、無水シリカ、タルク、クレー、カオリン、マイカ、ゼオライト、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、炭酸マグネシウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、硫酸マグネシウム、酸化亜鉛、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化チタン、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、リン酸カルシウム等の無機粉体が挙げられる。これらのなかでも、ETFEに対する分散性がよく、除去が必要な場合はアルカリで除去ができ、また、除去せずに親水性を付与するという観点からも無水シリカが好ましい。
ETFE溶液における粉体の含有量としては、ETFEの溶解性やETFE溶液の成形性に支障を生じない範囲であればよく、特に限定されない。粉体の含有量は、上記ETFE、親水性高分子、溶媒の合計100質量部に対して50質量部以下が好ましく、30質量部以下がより好ましい。粉体の含有量が多すぎると、ETFE溶液の粘度が高くなり、フィルム形状への成形には好ましくない。
【0040】
工程(C)の後に、または工程(C)と並行して成形物から粉体を除去する際に用いる除去溶媒としては、粉体を溶解するが、ETFE、親水性高分子を溶解しないものであれば特に限定されない。粉体が酸に可溶な場合には塩酸や硫酸等が用いられ、粉体がアルカリに可溶な場合には苛性ソーダ、苛性カリ等のアルカリ水溶液が用いられる。
【0041】
本発明におけるETFE溶液は、上記溶媒にETFEを300℃以下の温度で所定の濃度に溶解する工程(A)により得られる。ここで、工程(A)における溶液作製の温度の下限は、前記所定の濃度におけるその溶液の相分離温度である。以下に説明する通り少なくとも二種以上の化合物、ここではETFEと親水性高分子、溶媒を含む混合物は、相分離温度以下では、ETFEと親水性高分子の相と溶媒の二相に分離をすると考えられる。或いは、ETFEと親水性高分子が非相用の場合、ETFEの相と親水性高分子、溶媒の二相に分離をすると考えられる。この為、均一な溶液の状態とはならない。つまり、溶液の作製は相分離温度以上の温度でのみ可能となる。また得られるETEF溶液の温度は、300℃以下であり前記溶液の相分離温度以上の温度である。
【0042】
上記溶媒にETFE、親水性高分子が溶解する温度、すなわち溶解温度は、親水性高分子のみが溶媒に溶解する温度よりも、ETFEを溶媒に溶解させる温度が一般的に高く、ここではETFEと溶媒の二相の系で説明する。この溶解温度は、溶媒の種類や溶液組成等によって異なり、縦軸に温度を取り、横軸にETFEと溶媒の濃度比を取り、各温度でのETFEと溶媒との二相共存の濃度をプロットした相図によって最適化することが好ましい。本発明の製造方法においてETFEを溶媒に溶解させる温度を高くしすぎると、ETFEが熱劣化するとともに、溶媒が揮散したり、また熱劣化するので好ましくない。また、その溶液における相分離温度より低いとETFEが溶媒に溶解しない。工程(A)においてETFEの溶媒への溶解を行う温度は、好ましくは、作製される溶液の相分離温度より5℃〜100℃高い温度であり、より好ましくは、前記相分離温度より20℃〜50℃高い温度である。また、本発明の製造方法における上記溶解温度の上限は、300℃であるが、樹脂の結晶化のし易さや、溶媒の揮散性等の観点から、溶解されるETFEの融点以下であることが好ましい。
【0043】
本発明の工程(A)において、上記溶媒にETFEと親水性高分子を溶解する際、温度以外の条件は特に限定されるものではなく、通常は常圧下に実施することが好ましい。ただし、用いるETFEや溶媒の種類によっては、溶媒の沸点が溶解温度より低い場合等には、耐圧容器中で加圧下、例えば0.01〜1MPa程度の条件下で溶解を実施してもよい。溶解時間は、用いるETFEや溶媒の種類、ETFEの形状、作製しようとするETFE溶液の濃度等により左右される。
ここで、相分離温度とは、クラウドポイント(曇点)とも呼ばれ、ある濃度の溶液がその温度よりも高い温度に維持されている場合は、溶質(本発明においてはETFE)と溶媒とが均一な一相の溶液となるが、クラウドポイント以下では相分離する温度である。一般に、ETFE溶液を相分離温度以下の温度状態にすれば、溶媒を含有しETFEが濃厚な相と、ETFEを含有し溶媒が濃厚な相の2相に分離する。さらに、用いるETFEの結晶化温度以下では、ETFEが濃厚な相中においてETFEが固定化され、多孔体の前駆体が形成される。ETFE溶液中の伝熱速度は、溶媒・非溶媒の拡散速度よりも100倍以上速いとされ、冷却温度を結晶化温度より十分に低くとれば、通常供される多孔体の厚さである10μm〜1mmにおいて、ETFE溶液の冷却開始後ほぼ瞬時にETFE全体にわたり相分離・固化が起こる。ETFEと親水性高分子が非相用の場合、ETFEと親水性高分子、溶媒の相に分離がすると考えられるが、相分離温度以下に冷却を行なう工程(C)の温度を、親水性高分子の相分離温度以下にすると、ほぼ同時にETFE、親水性高分子、溶媒に相分離が起こると考えられる。
【0044】
工程(A)における溶媒へのETFEの溶解には、通常各種溶液の作製に用いられる撹拌装置を、特に制限なく用いることができる。より短時間で溶解させ、均一な溶液を得るためには、溶媒とETFE、さらに任意に添加される粉体等の成分をよく撹拌する必要がある。このような撹拌装置として、具体的には、ホモミキサー、ヘンシェルミキサー、バンバリーミキサーや、加圧ニーダーといったバッチ式の混練装置、撹拌装置のついた圧力容器等、あるいは、押出機、ニーダー等の混練・押出の両機能を有する装置を挙げることができる。加圧下に溶解する場合には、前記撹拌装置のついた圧力容器、例えば、撹拌機付きオートクレーブ等の装置が用いられ、撹拌翼の形状としては、マリンプロペラ翼、パドル翼、アンカー翼、タービン翼等が用いられる。
【0045】
本発明のETFE多孔体の製造方法においては、ETFEを溶媒に溶解した後、以下の工程(B)を経て工程(C)に至るまで連続して実施することが好ましく、この場合、ETFE溶液は300℃以下でありかつ上記このETFE溶液における相分離温度以上の温度に保持される。これを考慮すれば、上記装置のうちで一軸や二軸の押出機、ニーダー等の混練・押出の両機能を有する装置を用いて、ETFE溶液の作製、ETFE溶液の成形を連続的に行うことが有利である。
なお、前記ETFE溶液の保持温度は、300℃以下かつ前記溶液の相分離温度以上の温度であれば、上記溶液作製時すなわち溶解時の温度と同じでも、異なっていてもよい。
混練・押出の両機能を有する装置、例えば、一軸または二軸押出機を用いた場合、ETFEと溶媒、さらに任意に添加される粉体等の成分を各々独立したフィーダーから定量的に一軸または二軸押出機に供給し、押出機中で混練することで、ETFE溶液を製造することができる。なお、上記粉体等の任意成分の添加は、予め、溶媒またはETFEに混合することで行われてもよい。
【0046】
<工程(B)>
工程(B)は、上記工程(A)で得られたETFE溶液を300℃以下かつ前記溶液の相分離温度以上の温度で成形して成形物とする工程である。
本発明の製造方法における工程(B)では、通常溶液を成形するのに用いられる方法を、ETFE溶液の成形方法として特に制限なく用いることが可能である。このようなETFE溶液の成形方法として、具体的には、押出手段、例えば、一軸または二軸押出機を用いて、吐出口からETFE溶液を吐出して中空糸状あるいはフィルム状に押出成形する方法や、ETFE溶液をフィルム状に成形するために基体表面にETFE溶液をコーティング、スプレー塗布する等の一般的な塗膜形成方法等が挙げられる。
【0047】
なお、本発明の製造方法においては、工程(B)のETFE溶液の成形手段として、バッチ式ではなく、連続して成形できるという観点から、押出成形が好ましく用いられる。
成形手段として押出成形を用いて、ETFE溶液を中空糸状に成形する場合には、吐出口の口金として中空糸紡糸用の二重管式口金あるいは三重管式口金等を用いることが可能である。また、同様にETFE溶液を平膜状に成形する場合は、スリット状の口金を用いればよい。
ここで、工程(B)におけるETFE溶液の成形温度、具体的には、押出成形の場合の吐出口の口金の温度、塗膜形成方法における塗液温度等は、上記工程(A)においてETFE溶液を作製する際の溶解温度と同様、用いるETFE溶液の相分離温度から300℃までの温度範囲であり、好ましくは前記溶液の相分離温度からETFEの融点までの範囲である。なお、成形温度と溶解温度が同じであっても異なっていてもよいが、溶解温度は、溶解を短時間に均一に行うという点から、成形温度より高い温度に設定することが好ましい。
【0048】
工程(B)において、二重環状口金を用いてETFE溶液を中空糸状に押出成形する場合には、外側環状部からETFE溶液を押出すと同時に、中空形成材としての気体または液体を内側環状部から押し出す。三重環状口金を用いる場合には、中央環状部からETFE溶液を押出すと同時に、中空形成材としての気体または液体を内側環状部から押し出し、外側環状部からも同様に液体を押し出すことで、中空糸の表面から溶媒が揮発するのを抑制する。このような操作によって、早期に相分離が行われ、中空糸の外表面に緻密層が形成されることを抑制できることが期待できる。
また、複層構造にするために三重管状口金を使用することも好ましい。表層のみに親水性高分子を含んだETFE溶液を流し、他方には親水性高分子を含まないETFEと溶媒のみの溶液を流す事で複層構造にすることも高い耐薬品性や、中空糸の強度、透水性を考慮するという観点では好ましく採用できる。
本発明の製造方法においては、工程(B)で、ETFE溶液の相分離温度から300℃までの温度範囲で上記のようにして成形されたETFE溶液の成形物は、次の工程(C)により相分離温度以下に冷却される。
【0049】
<工程(C)>
本発明のETFEの多孔体の製造方法における工程(C)は、上記工程(B)で得られた相分離温度以上の温度の成形物を、前記溶液の相分離温度以下に冷却して前記ETFEと親水性高分子とを凝固させる工程である。前記ETFE溶液成形物の冷却温度としては、冷却されるETFE溶液の相分離温度以下であれば特に制限されないが、好ましくは、ETFE溶液の相分離温度より20℃以上低い温度であり、より好ましくは該相分離温度より50℃以上低い温度である。また、前記ETFE溶液成形物の冷却温度の下限としては、特に限定されないが、冷却媒体の取り扱い性の観点から−10℃以上が好ましく、0℃以上がより好ましい。
本発明の製造方法においては、工程(C)の冷却固化の操作によって、ETFEが球状構造や網目状構造を形成するとともに、これらの構造が連結されて、その間に空隙を有する構造のETFE多孔体が製造される。
【0050】
工程(C)における冷却媒体としては、気体を用いてもよく、液体を用いてもよい。例えば、成形物である中空糸の内側と外側で気体と液体を使用するというように、これらを組合せて用いてもよい。冷却用の気体としては、上記冷却温度でETFE、親水性高分子、溶媒のいずれにも反応性のない気体であれば特に限定されないが、好適には空気や窒素ガスを用いることが好ましい。冷却用液体としては、上記冷却温度でETFE、親水性高分子、溶媒のいずれにも反応性のない液体であれば特に限定されないが、工程(B)における成形直後にETFE溶液成形物を冷却する場合には、前記ETFE溶液成形物の温度よりも高い沸点を有し、その温度でETFE、親水性高分子を溶解しない液体が好ましい。このような冷却用液体として、具体的には、2,6−ジフルオロベンゾニトリル、イソホロン、シリコンオイル、水等が挙げられ、好ましくは、水やシリコンオイルが挙げられる。
【0051】
上記工程(B)において、成形手段として押出成形を用いた場合には、工程(C)の冷却方法として、具体的には、吐出口から吐出されて中空糸状あるいはフィルム状に成形されたETFE溶液を、直接、冷却用液体が充填された冷却浴に導くことで、冷却を行う方法が挙げられる。この冷却方法によれば、ETFE溶液成形物の外表面から溶媒が揮発してETFEの濃度が高くなって、最終的に得られる多孔体の外表面に緻密層が形成されることを抑制することができ、好ましい。なお、本発明においては上記押出成形以外の成形方法を用いた場合でも、多孔体外表面への緻密層形成を抑制するために、成形直後にETFE溶液成形物を冷却用液体に導入することが同様に好ましい。吐出口を冷却用液体に接触させると、冷却用液体の温度によっては、口金全体の温度が下がり、口金内部でETFEが固化する事がある。このような場合、吐出口をノズルやリップと呼ばれる先端を伸ばし、伸ばした吐出口のみを冷却用液体につける事で、口金全体の温度は変わらずに整形することが可能となる。同時にETFE溶液の溶媒揮発を抑制する事も出来る為、外表面の緻密層形成の抑制も可能となる。
【0052】
この場合、上記二重環状口金を用いて押出成形された中空糸状のETFE溶液においては、中空部形成用の冷却媒体は、上記冷却浴に用いる冷却用液体と同一または異なった液体でもよく、空気や窒素ガス等の気体であってもよい。これら冷却媒体は、特に制限されるものではなく、目的とする中空糸の特性等に応じて適宜選択すればよい。ETFE溶液の溶媒、冷却浴に用いる冷却用液体、および中空部形成用の冷却媒体が同一種であれば、製造過程における溶媒の回収等で利便性が高く、製造工程の観点から好ましい。上記三重環状口金を用いて押出成形された中空糸状のETFE溶液を冷却する場合の、ETFE溶液の溶媒、内側環状部から押し出される中空部形成用の冷却媒体、および外側環状部から押し出される冷却用媒体についても同様なことがいえる。
【0053】
なお、この場合においても冷却用液体は、上記ETFE溶液成形物の成形温度、この場合においては口金の温度、よりも高い沸点を有し、ETFEをその温度付近で溶解しない液体が好ましい。ここで、用いる押出機の構造によっては、沸点が前記ETFE溶液成形物の温度よりも低い冷却用液体の使用が可能な場合もあり、用いる押出機の構造に応じて冷却用液体を適宜選択することが可能である。
また、本発明の製造方法の工程(C)においては、前記工程(B)の直後に、ETFE溶液成形物を、0℃以上かつ前記溶液の相分離温度以下の乾式部(空中走行部またはエアギャップともいう)を通過させ、その後、冷却用液体が充填された冷却浴に導くことで、ETFE溶液成形物をその相分離温度以下に冷却してETFEを凝固させる冷却方法を用いることも可能である。上記乾式部を設ける場合、その乾式部の長さとしては、0.1〜100mmが好ましく、0.1〜50mmがより好ましく、0.1〜30mmが最も好ましい。また、乾式部の通過時間としては、ETFE溶液成形物の形状、大きさ等にもよるが、0.1〜10秒であることが好ましく、0.1〜5秒であることがより好ましく、0.1〜2秒であることが最も好ましい。なお、押出機等を用いて押出成形されたETFE溶液成形物の乾式部の通過時間は、装置の押出速度や巻き取り速度等を制御することで調整することができる。
【0054】
このように、上記範囲の乾式部(空中走行部)を設けるとETFE溶液成形物の外表面に緻密層が適度に形成され、耐ファウリング性が向上することが期待されるため、得られるETFE多孔体の用途、例えば、薬液処理等に用いる場合には、好ましい。上記乾式部を100mmより長くすると、ETFE溶液成形物の外表面から溶媒が必要以上に揮発してETFEの濃度が高くなるため、最終的に得られる多孔体の外表面に過剰な緻密層が形成される。なお、緻密層の形成度合いを調整するために、空中走行部の雰囲気を一定の温湿度、ETFE溶液から揮発した溶媒濃度を一定に保つような工夫をする方が好ましい。例えば、紡糸口金と冷却浴の間を囲い込み、吐出したETFE溶液と外気とが直接触れないようにすることも可能である。このような乾式部の温度としては、冷却されるETFE溶液の相分離温度以下であれば特に制限されない。
また、上記乾式部を設けた場合の、冷却浴に用いる冷却用液体としては、特に制限されないが、水、エタノール、アセトン、ヘキサン等が好ましく用いられる。これらのうちでも水が特に好ましい。
【0055】
本発明のETFE多孔体の製造方法においては、上記工程(A)、工程(B)および工程(C)を順に実行することによりETFE多孔体が製造される。上記工程(C)において、冷却浴の冷却用媒体中で凝固したETFE凝固物は、ETFEが球状構造や網目状構造を形成するとともに、これらの構造が連結されて、その間に空隙を有する構造のETFE多孔体である。
なお、工程(C)の冷却用媒体中で凝固して得られるETFE多孔体は、その空隙中にETFE溶液からETFEと相分離した溶媒を含有する状態にある。この溶媒は、工程(C)において上記冷却浴中で抽出されてもよいが、これとは別に抽出工程を設けてその工程で抽出されてもよい。簡便性からいえば、上記工程(C)において上記冷却浴中で、冷却と抽出が並行して行われることが好ましい。
【0056】
上記ETFE多孔体の空隙中にある溶媒の抽出には、ETFEを溶解する溶媒に対して相溶性があり、かつETFEと親水性高分子の溶解性が低い溶媒である、高級アルコール、アセトン、上記工程(A)で説明したETFEの非溶媒などの単独または混合溶媒、を用いることが好ましい。これらのうちでも、抽出媒体としてETFEの非溶媒を用いることがより好ましい。したがって、上記工程(C)において上記冷却浴中で、冷却と抽出を並行して行う場合には、冷却用液体としてはETFEの非溶媒を用いることが好ましい。抽出の方法としては、抽出媒体を50〜90℃程度の温度に調整し、この媒体に上記凝固したETFE多孔体を浸漬する方法が好ましい。また、この溶媒の抽出は、後述の延伸を行う場合においても、延伸中、延伸前後のいずれに行ってもよい。
【0057】
また、上記で得られたETFE多孔体が粉体を含有している場合は、必要に応じてこれらの粉体の除去を行う。粉体の除去は、溶媒に溶解させて除去する方法が好ましい。
粉体の除去溶媒としては、粉体を溶解し、ETFEと親水性高分子を溶解しないものであれば特に限定されない。粉体が酸に可溶な場合には塩酸や硫酸等が用いられ、粉体がアルカリに可溶な場合には苛性ソーダ、苛性カリ等のアルカリ水溶液が用いられる。粉体の抽出は、例えば、ETFE溶解溶媒の抽出工程後、粉体を含有するETFE多孔体を、該粉体を溶解する除去媒体に、適宜選択された温度・時間の条件で、浸漬することにより行われる。ETFE多孔体からの粉体の除去後、必要に応じて水洗、乾燥を行ってもよい。
本発明においては、ETFE多孔体の孔径を大きくしたり、空孔率を高めるために、上記で得られたETFE多孔体をさらに公知の方法で延伸する工程を設けてもよい。ETFE多孔体を例えば、80〜130℃程度の温度で延伸した場合、球状構造の一部および球状構造と球状構造を連結するETFE分子の凝集体が均質に延伸され、微細で細長い細孔が多数形成される。得られた延伸多孔体は、強伸度特性を維持したまま透水性能等が向上する。
【0058】
本発明の製造方法により得られたETFE多孔体は、上述の通り、前記本発明の製造方法において製造可能な形状、例えば、中空糸状、チューブ状、シート状、フィルム状等の任意の形状に成形し得る。
本発明のETFE多孔体の表面の親水性は、ETFE多孔体に必要とされる親水性の程度に応じて適宜選定すればよいが、ETFE多孔体の表面の水との接触角は小さい方が好ましく、水との接触角が70度以下である。60度以下が好ましく、50度以下がより好ましく、40度以下が最も好ましい。
本発明のETFE多孔体において、細孔の空孔率は20〜90%が好ましく、細孔の平均孔径は0.01〜20μmが好ましい。
空孔率は、40〜85%がより好ましく、60〜80%が最も好ましい。空孔率がこの範囲にあると多孔体は、高強度でかつ透水性能等の物質の透過性能が高くなる。
上記空孔率は、本発明の製造方法に用いるETFE溶液中の、ETFEの含有量により制御することも好ましい。高い空孔率を得たい場合には、ETFEの含有量を低くし、低い空孔率を得たい場合には、高くする。
【0059】
ETFE多孔体の細孔の平均孔径は、0.01〜10μmがより好ましく、0.01〜5μmが最も好ましい。平均孔径がこの範囲にあると該多孔体を例えば除濁や微生物の除去に用いた際に、高い透水性能および分離性能を得ることができる。
本明細書で用いる多孔体の細孔の平均孔径とは、JIS K3832によるバブルポイント法に基づいて測定される多孔質材料の貫通孔の平均細孔径をいう。平均孔径は、PMI社製パームポロメータ等の一般的な測定装置を用いて容易に測定できる。
平均孔径は、ETFE溶液成形物の冷却速度、冷却に用いる冷却用媒体の種類等により調整することが可能である。大きい平均孔径を得たい場合には、冷却速度を大きく、熱容量の大きな媒体を冷却浴に使用する。また、小さい平均孔径を得たい場合には、冷却速度を小さく、熱容量の小さな媒体を冷却浴に使用する。
【0060】
本発明の製造方法により上記熱誘起による相分離法を用いてETFE多孔体の製造を行うと、従来技術である延伸法など他の方法と比較して、細孔の孔径を制御し易く、狭い孔径分布を持つ多孔体を多様な形状および高空孔率で得ることができると共に親水性の為、水処理等の分離膜として使用できる。また、本発明の製造方法により得られるETFE多孔体は、このような均質な多孔質構造を有することから、一般的な相分離法で得られる樹脂多孔体と同様に機械的強度の点でも高強度が期待できる。
【実施例】
【0061】
以下に、本発明の実施例を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
なお、ETFEおよび親水性高分子のメルトインデックス値(MI)、ETFE多孔体の孔径分布・平均孔径、ETFEおよび親水性高分子の水との接触角は、以下の方法により測定した。
(メルトインデックス値(MI))
ETFEのメルトインデックス値(MI)は、ASTM D3159−98に準拠し、メルトインデクサー(タカラ工業社製)を用いて、297℃で測定した。
親水性高分子のメルトインデックス値(MI)は、ASTM D3159−98に準拠し、メルトインデクサー(タカラ工業社製)を用いて、297℃で測定した。
【0062】
(平均孔径、孔径分布)
ETFEの多孔体における細孔の平均孔径、孔径分布は、ASTM F316−86、JIS K3832に準拠したバブルポイント法による細孔径分布測定器(PMI社製、パームポロメータ)を用いて測定した。
(接触角)
ETFEの多孔体表面における水との接触角は、JIS R3257に準拠した測定器(協和界面科学社製、接触角計CA−X)を用いて測定した。蒸留水を1μl滴下した時の角度を接触角とした。
親水性高分子フィルムの表面と水の接触角は、JIS R3257「基板ガラス表面のぬれ性試験方法」に準拠し、測定器(協和界面科学社製、接触角計CA−X)を用いて測定した。高分子フィルムの表面に蒸留水を1μl滴下した時の角度を接触角とした。
【0063】
[実施例1]
中空糸押出成形用の吐出口としてノズル状に突き出した二重管状口金を有する複合型混練押出機IMC−1973型(井元製作所社製)を使用してETFE多孔質中空糸を製造した。まず、複合型混練押出機にETFE(エチレン/テトラフルオロエチレン/パーフルオロブチルエチレン=40/60/3.3(モル比)、融点:225℃、メルトインデックス値:18.7(297℃)、以下、「ETFE1」という。)の粉末150gと、親水性高分子として含フッ素共重合体(エチレン/テトラフルオロエチレン/酢酸ビニル=40/50/10(モル比)、融点:185℃、メルトインデックス値:18.7(297℃)、水接触角:40度、以下、「親水性高分子1」という。)の粉末20gと、溶媒として2,6−ジフルオロベンゾニトリル(融点:31℃、沸点:188℃)の150gを投入し、温度180℃で混合して、透明で均一なETFE1溶液(ETFE1/親水性高分子1/溶媒の濃度=46.9/6.3/46.9質量%)を調製した。その後、上記二重管状口金の先端を冷却用水層の水面に接するように配置し、ETFE1溶液を180℃に温度設定された上記二重管状口金より23℃の冷却用水層中に中空糸状に押し出し、中空糸内部を空気で冷却しながら、凝固させ中空糸状成形物を得た。なお、口金から冷却用水槽の水面までの冷却用の空間距離はなく、すなわちエアギャップは0mmであった。得られた中空糸状成形物を耐圧容器中で60℃のアセトンに1時間浸漬して前記溶媒(2,6−ジフルオロベンゾニトリル)を抽出した後、乾燥した。
得られた多孔質中空糸は、細孔の空孔率が54%であり、その細孔径は、0.1〜0.15μmの孔径分布であり、平均細孔径は0.13μmであった。また、水との接触角の測定を試みたが、蒸留水が多孔体に吸収され測定する事が出来なかった。この為、水との接触角は0度とした。極めて親水性が高かった。
【0064】
[実施例2]
ETFE1を100g、親水性高分子1を10gに変更し、ETFE1/親水性高分子/溶媒の濃度=38.5/3.8/57.7質量%とした以外は上記実施例1と同様に中空糸の成形を行なった。
得られた多孔質中空糸は、細孔の空孔率が65%であり、その細孔径は、0.13〜0.2μmの孔径分布であり、平均細孔径は0.15μmであった。また、水との接触角は55度であった。
[実施例3]
ETFE1を140g、親水性高分子1を10g、溶媒としてイソホロン(融点−8℃、沸点215℃)150gに変更し、ETFE1/親水性高分子1/溶媒の濃度=46.7/3.3/50.0質量%とし、温度200℃で混合し、200℃で成形した以外は上記実施例1と同様に中空糸の成形を行なった。
得られた多孔質中空糸は、細孔の空孔率が62%であり、その細孔径は、0.08〜0.1μmの孔径分布であり、平均細孔径は0.09μmであった。水との接触角は50度であった。
【0065】
[実施例4]
溶媒としてイソホロンを135g、アセトフェノン(融点19℃、沸点202℃)を15gに変更し、ETFE1/親水性高分子1/溶媒の濃度=46.7/3.3/50.0質量%とした以外は上記実施例3と同様に中空糸の成形を行なった。
得られた多孔質中空糸は、細孔の空孔率が63%であり、その細孔径は、0.05〜0.1μmの孔径分布であり、平均細孔径は0.07μmであった。また、水との接触角は60度であった。
【0066】
[実施例5]
親水性高分子として、共重合組成が、TFEに基づく繰返し単位/エチレンに基づく繰返し単位/ヘキサフルオロプロピレンに基づく繰返し単位/パーフルオロブチルエチレンに基づく繰返し単位/無水イタコン酸に基づく繰返し単位=48.1/42.7/8.2/0.8/0.2(モル%)のETFE(融点:190℃、メルトインデックス値:149(297℃))のイタコン酸官能基を2−アミノエタノールと反応させて得た、親水性繰返し単位の側鎖として水酸基を有する含フッ素共重合体(融点:296℃、メルトインデックス値:149(297℃)、水接触角:35度、以下、「親水性高分子2」という。)を用い、実施例3と同様に均一で透明なETFE1溶液を調製し、このETFE1溶液を用いて、実施例3と同様に中空糸の成形を行なった。
得られた多孔質中空糸は、細孔の空孔率が63%であり、その細孔径は、0.1〜0.15μmの孔径分布であり、平均細孔径は0.13μmであった。また、水との接触角の測定を試みたが、蒸留水が多孔体に吸収され測定する事が出来なかった。この為、接触角は0度とした。
【0067】
[実施例6]
親水性高分子として、共重合組成が、TFEに基づく繰返し単位/ビニルアルコールに基づく繰返し単位=51/49(モル%)のETFE(融点:208℃、メルトインデックス値:97(297℃)、水接触角:35度、以下、「親水性高分子3」という。)を用い、実施例3と同様に均一で透明なETFE1溶液を調製し、このETFE1溶液を用いて、実施例3と同様に中空糸の成形を行なった。
得られた多孔質中空糸は、細孔の空孔率が64%であり、その細孔径は、0.1〜0.15μmの孔径分布であり、平均細孔径は0.13μmであった。また、水との接触角の測定を試みたが、蒸留水が多孔体に吸収され測定する事が出来なかった。この為、接触角は0度とした。
【0068】
[比較例1]
実施例1中の親水性高分子を除き(ETFE1/親水性高分子/溶媒の濃度=53.1/0/46.9質量%)として実施例1と同様に中空糸の成形を行なった。
得られた多孔質中空糸は、細孔の空孔率が52%であり、その細孔径は、0.1〜0.15μmの孔径分布であり、平均細孔径は0.13μmであった。水との接触角は100度であった。
【0069】
上記実施例1〜6、及び比較例より明らかなように、本発明の製造方法によれば、ETFE多孔体を従来の方法に比べて幅広い空孔率の範囲で簡便に製造でき、親水性も付与した多孔体を作成できる。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明のエチレン/テトラフルオロエチレン共重合体の多孔体は、空孔率が高く、細孔径が均一で、高強度であり、精密濾過膜、限外濾過膜などの分離膜等の用途に適する。優れた耐薬品性と優れた耐熱性を有し、機械的強度も高い為、飲料水、浄水、下水処理やし尿処理、膜分離活性汚泥処理、排水処理、廃液処理といった水処理用途やバラスト水用分離膜、連続発酵プロセス用分離膜、二次電池のセパレーター等に使用できる。具体例としては、水処理用膜、分離用中空糸、水処理用中空糸、二次電池セパレーター等が挙げられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレンに基づく繰返し単位とテトラフルオロエチレンに基づく繰返し単位を含有するエチレン/テトラフルオロエチレン共重合体と親水性高分子とを、300℃以下で前記エチレン/テトラフルオロエチレン共重合体と親水性高分子とを溶解しうる溶媒に、300℃以下かつ得られる溶液の相分離温度以上の温度で溶解して溶液を得る工程(A)と、
前記溶液を300℃以下かつ前記溶液の相分離温度以上の温度で成形して成形物とする工程(B)と、
前記溶液の相分離温度以上の温度の成形物を前記溶液の相分離温度以下の温度に冷却して前記エチレン/テトラフルオロエチレン共重合体と親水性高分子とを凝固させる工程(C)、
を有する親水化されたエチレン/テトラフルオロエチレン共重合体多孔体の製造方法であって、得られた親水化されたエチレン/テトラフルオロエチレン共重合体多孔体の表面が、水との接触角が70度以下であることを特徴とした親水化されたエチレン/テトラフルオロエチレン共重合体多孔体の製造方法。
【請求項2】
前記工程(A)における溶解が、前記溶液の相分離温度以上かつ前記エチレン/テトラフルオロエチレン共重合体の融点以下の温度で行われる請求項1に記載のエチレン/テトラフルオロエチレン共重合体多孔体の製造方法。
【請求項3】
前記エチレン/テトラフルオロエチレン共重合体/前記親水性高分子/前記溶媒の比率が、14.9〜65/0.1〜20/15〜85(質量比)である請求項1または2に記載のエチレン/テトラフルオロエチレン共重合体多孔体の製造方法。
【請求項4】
前記溶媒が、含フッ素芳香族化合物、カルボニル基を1個以上有する脂肪族化合物、および、ハイドロフルオロアルキルエーテルからなる群から選ばれる少なくとも一種である請求項1〜3のいずれかに記載のエチレン/テトラフルオロエチレン共重合体多孔体の製造方法。
【請求項5】
前記工程(B)における成形物が、押出成形物である請求項1〜4のいずれかに記載のエチレン/テトラフルオロエチレン共重合体多孔体の製造方法。
【請求項6】
前記工程(C)が、冷却用液体中への吐出である請求項1〜5のいずれかに記載のエチレン/テトラフルオロエチレン共重合体多孔体の製造方法。
【請求項7】
前記工程(C)を、前記工程(B)直後に前記押出成形物を、長さ0.1〜100mm、0℃以上かつ前記溶液の相分離温度以下の乾式部に通過させ、ついで前記冷却用液体に導入して行うことからなる請求項5に記載のエチレン/テトラフルオロエチレン共重合体多孔体の製造方法。
【請求項8】
前記エチレン/テトラフルオロエチレン共重合体多孔体に含まれる溶媒を抽出除去する請求項1〜7のいずれかに記載のエチレン/テトラフルオロエチレン共重合体多孔体の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の製造方法で得られた、形状がフィルムまたは中空糸であるエチレン/テトラフルオロエチレン共重合体多孔体。

【公開番号】特開2011−225659(P2011−225659A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−94736(P2010−94736)
【出願日】平成22年4月16日(2010.4.16)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】