説明

親水性を有する複合部材

【課題】 無機微粒子を樹脂基体上に固定してなる親水性を有する複合部材であって、表面の水に対する接触角が10°以下の超親水性を有し、且つ、耐久性と防曇効果に優れた親水性を有する複合部材を提供することにある。
【解決手段】 少なくとも表面が樹脂からなる基体に無機微粒子が固定されてなる親水性を有する複合部材であって、無機微粒子の表面に不飽和結合を有するシランモノマーの薄膜が形成され、基体表面の樹脂と微粒子表面に形成された薄膜との一部が化学結合して、樹脂表面と薄膜に存在する不飽和結合とを、グラフト重合により化学結合させる。グラフト重合としては放射線グラフト重合を用いるのが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水を接触させても水の薄膜が形成されて水滴を生じない親水性に優れ、且つ、防曇性能を有する複合部材に関する。
【背景技術】
【0002】
めがねやビデオカメラなどの光学レンズを装着した装置を、温度差が大きくて湿度の高い環境に移動した場合には、空気中に存在する水分が光学レンズの表面に凝集して水滴を形成し、透明性や光透過性が著しく低下する。また、電車や車などの窓ガラス表面などでは、急激な温度差により水滴が形成されて視界が妨げられ、交通標識が判読できなくなるなどの様々な問題を引き起こすことが知られている。
【0003】
また、農業用被覆フィルムが展張された農業用ハウスやトンネル内などでは、土壌や作物から蒸散する水蒸気が充満し、充満した蒸気が外気との温度差によりフィルム表面に凝集して水滴を形成し、それにより透過性が低下して作物の生育が妨げられ、さらには、水滴が落下して作物に付着し病気が発生するなどの問題があった。
【0004】
光学用レンズや農業用フィルムなどの基体表面には、付着した水滴が基体表面で広がり易くするために、親水性に優れた薄膜を設ける様々な方法が提案されている。
【0005】
例えば、酸化チタンや酸化亜鉛などの光触媒微粒子とシリカ微粒子を含む薄膜を形成して、太陽光に含まれる紫外線が照射されることにより表面に濡れ性が発現することで防曇効果が付与される方法(例えば、特許文献1参照。)や、アクリル系単量体と重合性シラン系カップリング剤とコロイダルシリカとを含む乳化重合して得られた溶液をフィルム表面に形成してコロイダルシリカを20〜70重量%含む膜を設ける方法(例えば、特許文献2参照。)や、フィルム表面にコロイダルアルミナとコロイダルシリカと非イオン系界面活性剤が含まれた溶液を塗布して防曇層を形成する方法(例えば、特許文献3と特許文献4参照。)や、コロイダルアルミナと平均分子量が10万〜400万の水溶性樹脂と非イオン界面活性剤からなる水溶液をフィルム表面に塗布する方法(例えば、特許文献5参照。)や、ネックレス状コロイダルシリカとシラン誘導体と界面活性剤とを含む溶液をフィルム表面に塗布する方法などが挙げられる。
【特許文献1】特許第2756474号公報
【特許文献2】特開平07−233270号公報
【特許文献3】特開平09−298954号公報
【特許文献4】特開2003−253243号公報
【特許文献5】特開2003−102288号公報
【特許文献6】特開2004−099694号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記の親水性を有し、且つ、防曇性を有する光学レンズやフィルムなどには、以下のような様々な問題がある。
【0007】
例えば、特許第2756474公報に記載の方法では、フィルム表面に密着性に優れたシリカ微粒子を含む酸化チタンからなる光触媒層を形成することは非常に困難であり、また、形成しても光触媒微粒子である酸化チタン表面に生成する酸化性に優れたスーパーオキシドアニオンやヒドロキシラジカルなどの活性種によりフィルム表面が酸化されて劣化し、光触媒層が経時により脱落するなどの問題がある。
【0008】
また、特開平07−233270号公報に記載の方法は、アクリル系単量体と重合性シラン系カップリング剤とコロイダルシリカを乳化重合で部分的に反応させてフィルム表面に塗布して防曇性を付加する方法であるが、得られた膜の水に対する接触角は50〜70°程度と高く、期待される防曇効果は得られ難い。
【0009】
また、特開平09−298954号公報や特開2003−253243号公報に記載の方法では、フィルム表面に、コロイダルアルミナやコロイダルシリカの微粒子と界面活性剤とを含む溶液を塗布して防曇性の薄膜を形成したフィルムであるが、初期は防曇効果が発現するものの、経時変化によりフィルム表面に付着したコロイダルアルミナやコロイダルシリカなどの微粒子は容易に脱離することから、防曇効果が時間と共に低下するなどの問題がある。
【0010】
また、特開2003−102288号公報に記載の方法は、コロイダルアルミナとコロイダルシリカおよび平均分子量が10万から400万の水溶性樹脂と非イオン系界面活性剤とを含む溶液をフィルム表面に塗布して防曇性を発現させたフィルムであるが、水溶性樹脂が分散した水溶液中では、コロイダルアルミナやコロイダルシリカの粒子表面のゼータ電位が正と負になっていることから、均一に分散しないで凝集する場合があり、防曇性を有する薄膜の透明性が、低下するなどの問題がある。
【0011】
さらに、特開2004−099694号公報に記載の方法では、ネックレス状コロイダルシリカが用いられているが、他の基本的な構成は、特開平09−298954号公報や特開2003−253243号公報と同一と見なすことができることから、防曇性を有する薄膜の密着性に問題があり、防曇性やその耐久性に優れた親水性を有する複合部材が求められている。
【0012】
本発明は、このような従来の問題を解決するためになされたもので、フィルムや樹脂プレート、繊維や布などからなる少なくとも表面が樹脂からなる基材の表面に、親水性に優れた、防曇効果が長期的に維持でき、さらに、耐久性に優れた親水性を有する複合部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、反応性に優れた不飽和結合を有するシランカップリング剤を無機微粒子表面に脱水縮合反応で化学的に結合させて不飽和結合を導入し、無機微粒子表面に導入した不飽和結合同士または基材樹脂表面と反応させることで、基材の表面に強固に、且つ、耐久性と親水性に優れた防曇効果が長期間維持できることが可能となる知見を得るに至り、新規な親水性を有する複合部材を創出した。
【0014】
すなわち、第一の発明は、少なくとも表面が樹脂からなる基体と、不飽和結合を有するシランモノマーの薄膜が表面に形成された第1の無機微粒子からなり、前記基体の表面の樹脂と前記無機微粒子の表面に形成されたシランモノマーの薄膜とが化学結合して、前記第1の無機微粒子が前記基体の表面に固定されてなる、第1の無機微粒子層とを備えることを特徴とする親水性を有する複合部材を提供するものである。
【0015】
また、本発明は上記第一の発明において、不飽和結合を有するシランモノマーの薄膜が表面に形成され、前記第1の無機微粒子と同種又は異種の第2の無機微粒子からなる、第2の無機微粒子層をさらに備え、該第2の無機微粒子層は、前記第1の無機微粒子層の前記第1の無機微粒子の表面に形成されたシランモノマーの薄膜と前記第2の無機微粒子層の前記第2の無機微粒子の表面に形成されたシランモノマーの薄膜とが化学結合し、前記第1の無機微粒子層に積層して固定されることを特徴とする親水性を有する複合部材を提供するものである。
【0016】
さらにまた、本発明は、上記第一乃至第二の発明いずれかにおいて、前記複合部材の表面に、アミノ基、カルボン酸基、スルホン酸基、または、シアン酸基のうち、一種または二種以上の官能基が結合してなることを特徴とする親水性を有する複合部材を提供するものである。
【0017】
さらにまた、本発明は、上記第一乃至第三の発明いずれかにおいて、無機微粒子が酸化物であることを特徴とする親水性を有する複合部材を提供するものである。
【0018】
さらにまた、本発明は、上記第一乃至第四の発明のいずれかにおいて、無機微粒子が酸化物と天然放射性希有元素鉱物からなることを特徴とする親水性を有する複合部材を提供するものである。
【0019】
さらにまた、本発明は、上記第一乃至第五の発明のいずれかにおいて、前記化学結合は、グラフト重合であることを特徴とする親水性を有する複合部材を提供するものである。
【0020】
さらにまた、本発明は、上記六の発明において、グラフト重合として放射線グラフト重合を用いることを特徴とする親水性を有する複合部材を提供するものである。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、少なくとも表面が樹脂からなる基体に無機微粒子が固定されてなる親水性を有する複合部材であって、基体表面に対して、反応性に優れた不飽和結合を有するシランカップリング剤を無機微粒子表面に脱水縮合反応で化学的に結合させて不飽和結合を導入し、無機微粒子表面に導入した不飽和結合同士または基体樹脂表面と反応させて無機微粒子を固定化することで、基体の表面に強固に、且つ、耐久性と親水性に優れた防曇効果を長期間維持することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
(第1実施形態)
以下に、本発明の第1実施形態の親水性を有する複合部材について詳述する。
【0023】
図1は、本発明の第1実施形態の親水性を有する複合部材100の断面の一部を拡大した図である。本実施形態の親水性を有する複合部材100は、基体1上に無機微粒子2が固定されることにより構成されている。
【0024】
なお、図1では本発明の第1実施形態の一例を判りやすく模式的に示すため、微粒子が1層で形成された図であらわしたが、微粒子が複数重なって微粒子の層を形成してあってもよく、また微粒子同士が化学結合していてもよい。
【0025】
本実施形態の親水性を有する複合部材100に用いられる基体1を構成する材料としては、不飽和結合を有するシランカップリング剤3による化学結合5が可能なものであれば良い。このような材料としては、例えば、各種樹脂や、合成繊維や、天然繊維などが挙げられる。また、本実施形態の親水性を有する複合部材100に用いられる基体1は、少なくともその表面が樹脂からなるものであれば良い。
【0026】
ここで、基体1の表面ないし全体を構成する樹脂としては、合成樹脂や天然樹脂が用いられる。その一例としては、ポリエチレン樹脂や、ポリプロピレン樹脂や、ポリスチレン樹脂や、ABS樹脂や、AS樹脂や、EVA樹脂や、ポリメチルペンテン樹脂や、ポリ塩化ビニル樹脂や、ポリ塩化ビニリデン樹脂や、ポリアクリル酸メチル樹脂や、ポリ酢酸ビニル樹脂や、ポリアミド樹脂や、ポリイミド樹脂や、ポリカーボネート樹脂や、ポリエチレンテレフタレート樹脂や、ポリブチレンテレフタレート樹脂や、ポリアセタール樹脂や、ポリアリレート樹脂や、ポリスルホン樹脂や、ポリフッ化ビニリデン樹脂や、PTFEなどの熱可塑性樹脂や、ポリ乳酸樹脂や、ポリヒドロキシブチレート樹脂や、修飾でんぷん樹脂や、ポリカプロラクト樹脂や、ポリブチレンサクシネート樹脂や、ポリブチレンアジペートテレフタレート樹脂や、ポリブチレンサクシネートテレフタレート樹脂や、ポリエチレンサクシネート樹脂などの生分解性樹脂や、フェノール樹脂や、ユリア樹脂や、メラミン樹脂や、不飽和ポリエステル樹脂や、ジアリルフタレート樹脂や、エポキシ樹脂や、エポキシアクリレート樹脂や、ケイ素樹脂や、アクリルウレタン樹脂や、ウレタン樹脂などの熱硬化性樹脂や、シリコーン樹脂や、ポリスチレンエラストマーや、ポリエチレンエラストマーや、ポリプロピレンエラストマーや、ポリウレタンエラストマーなどのエラストマーや、漆などの天然樹脂などが挙げられる。
【0027】
本実施形態では、これらの基体1を構成する樹脂の形態は、板状や、フィルム状や、繊維状や、布状や、メッシュ状や、ハニカム状など、使用目的に合った種々の形状及びサイズ等のものが適用でき、特に制限されるものではない。
【0028】
また、これらの樹脂は、基体1の主要部がアルミニウムやマグネシウムや、鉄などの金属材料や、ガラスや、セラミックスなどの無機材料である場合には、これら各材料の表面に、フィルム状に積層されたり、吹き付け塗装や浸漬塗装、静電塗装などの塗装法や、スクリーン印刷やオフセット印刷などの印刷法により薄膜として形成されたものであっても良い。
【0029】
さらに、これらの樹脂は、顔料や染料などにより着色されてあっても良く、シリカや、アルミナや、珪藻土や、マイカなどの無機材料が充填されてあっても良い。
【0030】
また、基体1は、合成樹脂からなる繊維(合成繊維や化学繊維)であっても良く、基体を構成する合成繊維の例としては、ポリエステル繊維や、ポリアミド繊維や、ポリビニルアルコール繊維や、アクリル繊維や、塩化ビニル繊維や、塩化ビニリデン繊維や、ポリオレフィン繊維や、ポリカーボネート繊維や、フッソ繊維や、ポリ尿素繊維や、エラストマー繊維や、また、これら繊維を構成する材料と前記樹脂材料との複合繊維などが挙げられる。
【0031】
なお、本実施形態の基体1においては、上述のように基体表面が樹脂であれば良いので、基体材料に合成樹脂以外の繊維を用いる場合には、樹脂を上述した各種塗装法で繊維表面に塗装することで、樹脂を薄膜として形成しておけば良い。したがって、天然繊維の例として、綿や、麻や、絹や、天然繊維から得られた和紙なども、基体の材料として用いることが可能である。
【0032】
本実施形態の複合部材100に用いられる無機微粒子2としては、高シリカゼオライトや、ソーダライトや、モルデナイトや、アナルサイトや、エリナイトなどのゼオライト類や、ハイドロキシアパタイトなどのアパタイト類や、アルミナ−シリカなどや、BaTiOや、PbZrOや、Pb(Zr,Ti)Oや、KTaOや、K(Ta,Nb)Oや、LiNbOや、TiO2−WO3や、AlO−SiOや、WO−ZrOや、WO−SnOなどの複合酸化物などが挙げられる。
【0033】
また、本実施形態に用いられる無機微粒子2として、非金属酸化物として酸化珪素や、金属酸化物として、例えば、酸化マグネシウムや、酸化バリウムや、過酸化バリウムや、酸化アルミニウムや、酸化スズや、酸化チタンや、過酸化チタンや、酸化ジルコニウムや、酸化鉄や、水酸化鉄や、酸化タングステンや、酸化ビスマスや、酸化インジウムや、酸化チタンバリウムや、酸化コバルトアルミニウムなどの酸化物も挙げられる。これらの無機微粒子の結晶性は、非晶性あるいは結晶性のどちらでも良い。
【0034】
本実施形態の複合部材では、無機微粒子2を、不飽和結合を有するシランカップリング剤3により、上述した基体1上に化学結合5(図中の黒丸部)により固定するものである。
【0035】
具体的なシランカップリング剤3が有する不飽和結合としては、ビニル基や、エポキシ基や、スチリル基や、メタクリロ基や、アクリロキシ基や、イソシアネート基などが挙げられる。
【0036】
本実施形態の複合部材は、反応性に優れたシランカップリング剤3を用いることで、無機微粒子2を、シランカップリング剤3が有するシラノール基の脱水縮合反応による無機微粒子2の化学結合と上記官能基の基体1の樹脂表面への、後述するグラフト重合による化学結合5により、基体表面に結合せしめた親水性を有する複合部材である。
【0037】
本実施形態の複合部材100で用いられるシランカップリング剤3の一例としては、ビニルトリメトキシシランや、ビニルトリエトキシシランや、ビニルトリアセトキシシランや、N−β−(N−ビニルベンジルアミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシランや、N−(ビニルベンジル)−2−アミノエチル−3−アミノプロピルトリメトキシシランの塩酸塩や、2−(3、4エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランや、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシランや、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシランや、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシランや、p−スチリルトリメトキシシランや、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシランや、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランや、3−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシランや、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシランや、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシランや、3−イソシアネートプロピルトリエトキシシランなどが挙げられる。
【0038】
これらのシランカップリング剤3は、一種もしくは二種以上混合して用いられる。その使用形態としては、必要量のシランカップリング剤3をメタノールやエタノールや、アセトンや、トルエンや、キシレンなどの有機溶剤に溶解して用いられる。また、分散性を改善するために塩酸や、硝酸などの鉱酸などが加えられる。
【0039】
用いられる溶剤としては、エタノールや、メタノールや、プロパノールやブタノールなどの低級アルコール類や、蟻酸やプロピオン酸などの低級アルキルカルボン酸類や、トルエンやキシレンなどの芳香族化合物、酢酸エチルや酢酸ブチルなどのエステル類や、メチルセルソルブやエチルセルソルブなどのセロソルブ類を単独または複数組み合わせて用いても良い。
【0040】
本実施形態の複合部材100に用いられる無機微粒子2は、前述したシランカップリング剤3の溶液に分散した状態で製造に用いられる。無機微粒子2の分散は、ホモミキサーやマグネットスターラーなどを用いた撹拌分散や、ボールミルや、サンドミルや、高速回転ミルや、ジェットミルなどを用いた粉砕・分散、超音波を用いた分散などにより行われる。
【0041】
また、無機微粒子2は、分散したコロイド状分散液や、粉砕により微粒子化して得られた分散液の状態で、親水性を有する複合部材100の製造に用いられる。無機微粒子2の分散液は、コロイド状分散液や粉砕して得られた分散液に、シランカップリング剤3を加え、その後、還流下で加熱させながら、無機微粒子2の表面にシランカップリング剤3を脱水縮合反応により結合させてシランカップリング剤3からなる薄膜を形成する。
【0042】
還流下で、無機微粒子2に反応結合させるシランカップリング剤3の量は、無機微粒子2の平均粒子径にもよるが、反応結合させる無機微粒子2の重量に対して0.001%重量から5.0重量%であれば無機微粒子2の結合強度は実用上問題ない。また、結合に預からない余剰のシランカップリング剤3があっても良い。
【0043】
特に、無機微粒子2からなる無機微粒子層10(第1の無機微粒子層)が厚くなると、無機微粒子層10の応力や使用環境によっては凝集破壊により無機微粒子層10が劣化することもあるので、還流処理後必要に応じて、不飽和結合を有するシランカップリング剤や、Si(OR1)4(式中、R1は炭素数1〜4のアルキル基を示す)で示されるアルコキシシラン化合物、一例として、テトラメトキシシランや、テトラエトキシシランなどや、R2nSi(OR3)4-n(式中、R2は炭素数1〜6の炭化水素基、R3は炭素数1〜4のアルキル基、nは1〜3の整数を示す)で示されるアルコキシシラン化合物、一例として、メチルトリメトキシシランや、メチルトリエトキシシランや、ジメチルジエトキシシランや、フェニルトリエトキシシランや、ヘキサメチルジシラザンや、ヘキシルトリメトキシシランなど、他にアルコキシオリゴマーなどが添加されて用いられる。
【0044】
次に、基体1と、上記無機微粒子2とカップリング剤3の混合した溶液とを化学結合する方法について説明する。本実施形態においては、基体1と無機微粒子2とを化学結合させる方法として、グラフト重合による結合方法を用いている。
【0045】
本実施形態の複合部材100におけるグラフト重合としては、例えばパーオキサイド触媒を用いるグラフト重合や、熱や光エネルギーを用いるグラフト重合や、放射線によるグラフト重合(放射線グラフト重合)などが挙げられる。
【0046】
このうち、重合プロセスの簡便性や、生産スピード等の観点より、放射線グラフト重合が特に適している。ここで、グラフト重合において用いられる放射線としては、α線や、β線や、γ線や、電子線や、紫外線などを挙げることができるが、本実施形態において用いるには、γ線や、電子線や、紫外線が特に適している。
【0047】
本実施形態でのグラフト重合を用いた親水性を有する複合部材100の製造方法は、以下に記した方法により好適に製造される。
【0048】
本実施形態における第一の好適な方法としては、シランカップリング剤3が結合された無機微粒子2が分散した溶液を、結合しようとする基体1の表面(樹脂面)に塗布し、必要に応じて溶剤を加熱乾燥などの方法により除去した後、γ線や、電子線や、紫外線などの放射線を、シランカップリング剤3が結合した無機微粒子2が塗布された基体1の表面に照射することで、シランカップリング剤3を基体1の表面にグラフト重合させると同時に無機微粒子2を結合させる、所謂同時照射グラフト重合により製造される。
【0049】
また、本実施形態における第二の好適な方法としては、予め基体1の表面にγ線や、電子線や、紫外線などの放射線を照射した後に、シランカップリング剤3が結合された無機微粒子2が分散した溶液を塗布して、シランカップリング剤3と基体1とを反応させると同時に無機微粒子2を結合させる所謂前照射グラフト重合により製造される。
【0050】
本実施形態では、上述したように、固定化する無機微粒子2が分散した溶液を、固定化する基体1の表面に塗布して複合部材を製造する。
【0051】
具体的な無機微粒子2の分散液の塗布方法としては、一般に行われているスピンコート法や、ディップコート法や、スプレーコート法や、キャストコート法や、バーコート法や、マイクログラビアコート法や、グラビアコート法や、または部分的に塗布する方法として、スクリーン印刷法や、パッド印刷法や、オフセット印刷法や、ドライオフセット印刷法や、フレキソ印刷法や、インクジェット印刷法などの様々な方法が用いられ、目的に合った塗布ができれば特に限定されない。
【0052】
また、シランカップリング剤3のグラフト重合を効率良く、かつ、均一に行わせるためには、予め、基体1の表面が、コロナ放電処理やプラズマ放電処理や、火炎処理や、クロム酸や過塩素酸などの酸化性酸水溶液や水酸化ナトリウムなどを含むアルカリ性水溶液による化学的な処理などにより親水化処理されてあっても良い。
【0053】
以上説明したように、本発明の第1実施形態の複合部材100によれば、少なくとも表面が樹脂からなる基体1に無機微粒子2が固定されてなる親水性を有する複合部材であって、基体1の表面に対して、反応性に優れた不飽和結合を有するシランカップリング剤3を無機微粒子2の表面に脱水縮合反応で化学的に結合させて不飽和結合を導入し、無機微粒子2の表面に導入した不飽和結合同士または基体1の樹脂表面と反応させて無機微粒子2を固定化することで、基体1の表面に強固に、且つ、耐久性と親水性に優れた防曇効果が長期間維持できるものである。
【0054】
また、本実施形態によれば、無機微粒子2を化学結合5により基体1上に強固に固定できることから、紡糸後に製品形状とした後で、または、製品化の過程で行うことが可能であり、このため、様々な機能を有する無機微粒子2の存在が紡糸性に影響しないというメリットがある。
【0055】
また、無機微粒子2は単粒子膜状や多層粒子膜状にもフィルムや樹脂プレート、繊維や布などからなる基体に形成できるので、これらの基材の風合いを損なわないことから、様々な分野で応用できる親水性を有する複合部材を提供することが可能となる。
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態の親水性を有する複合部材について詳述する。
【0056】
図2は、本発明の第2実施形態の親水性を有する複合部材200の断面の一部を拡大した図である。本実施形態の親水性を有する複合部材200は、無機微粒子2aで形成されたコーティング膜20(第1の無機微粒子層)上に、新たな無機微粒子2bからなる無機微粒子層30(第2の無機微粒子層)が形成されている点が、第1実施形態の複合部材100と相違する。すなわち、第1の実施形態にて形成した無機微粒子層10の表面に同種又は異種の無機微粒子層30を化学反応により複数層形成した積層構造の形態を有するものである。
【0057】
無機微粒子層30を形成する微粒子2bは、高シリカゼオライトや、ソーダライトや、モルデナイトや、アナルサイトや、エリナイトなどのゼオライト類や、ハイドロキシアパタイトなどのアパタイト類や、アルミナ−シリカなどや、BaTiOや、PbZrOや、Pb(Zr,Ti)Oや、KTaOや、K(Ta,Nb)Oや、LiNbOや、TiO2−WO3や、AlO−SiOや、WO−ZrOや、WO−SnOなどの複合酸化物、また非金属酸化物として酸化珪素や、金属酸化物として、例えば、酸化マグネシウムや、酸化バリウムや、過酸化バリウムや、酸化アルミニウムや、酸化スズや、酸化チタンや、過酸化チタンや、酸化ジルコニウムや、酸化鉄や、水酸化鉄や、酸化タングステンや、酸化ビスマスや、酸化インジウムや、酸化チタンバリウムや、酸化コバルトアルミニウムなどの酸化物から1種または2種以上選んで混合したものでもよく、さらにこれらの微粒子と、たとえば光触媒機能を発現する材料や、抗菌性を有する材料や、マイナスイオンを放出する材料や、遠赤外線を放出する材料や、反射防止特性を有する材料や、近赤外線を吸収する材料などとを混合したものでも良い。
【0058】
なお、図2では本発明の第2実施形態の一例を判りやすく模式的に示すため、微粒子が1層で形成された図であらわしたが、微粒子が複数重なってそれぞれの微粒子の層20及び30を形成してあってもよく、また微粒子同士が化学結合していてもよいのは図1の場合と同様である。
【0059】
以下、第1実施形態の複合部材100との相違点である、製法及び複合部材の構成について説明をする。また、基体や微粒子の素材や製法に関して、第1実施形態の複合部材100と共通する点については、説明を省略する。
【0060】
本実施形態の複合部材200における、基体1と無機微粒子2aからなるコーティング膜20と無機微粒子2bからなる無機微粒子層30とを結合させる好適な方法としては、シランカップリング剤3が結合された無機微粒子2aが分散した溶液を基体1の表面(樹脂面)に塗布し、必要に応じて溶剤を加熱乾燥などの方法により除去して微粒子からなるコーティング薄膜20を形成した後に、上記の無機微粒子2aと同種または異種の微粒子2bにシランカップリング剤の薄膜を形成させるために、この無機微粒子2bが分散した溶液を、前記のコーティング薄膜20の表面上に塗布して新たな無機微粒子層30を形成し、放射線を照射することにより、上記無機微粒子2aで形成されたコーティング薄膜20と基材1および無機微粒子2aと同種または異種の無機微粒子2bに形成したシランカップリング剤3とを一度にグラフト重合させることにより結合させる方法により製造される。
【0061】
この場合でも、コーティング膜20を基体1の表面に塗布した後に基体1の表面に放射線を照射することで、グラフト重合により基体11の表面にシランカップリング剤3を介してコーティング膜20を結合させてから、上記無機微粒子2aと同種または異種の無機微粒子層30を形成することで、より強固な積層された微粒子固定化体を製造することが可能である。
【0062】
また、コーティング膜20を形成する方法として、本発明の第1実施形態における第二法で用いた前照射を採用することも可能である。
【0063】
以上説明したように、本発明の第2実施形態の親水性を有する複合部材200によれば、第1実施形態の複合部材100の有する効果に加えて、基体1の表面にコーティング膜20を結合させてから、上記微粒子と同種または異種の無機微粒子層30を形成することで、より強固な積層された複合部材を製造することが可能である。
(第3実施形態)
次に、本発明の第3実施形態の親水性を有する複合部材について詳述する。
【0064】
図3は、本発明の第3実施形態の親水性を有する複合部材300の断面の一部を拡大した図である。本実施形態の親水性を有する複合部材300は、第1及び第2実施形態の複合部材の表面に官能基が結合したものである。
【0065】
なお、図3では本発明の第3実施形態の一例を判りやすく模式的に示すため、微粒子が1層で形成された図であらわしたが、微粒子が複数重なって微粒子の層40を形成してあってもよく、また微粒子同士が化学結合していてもよいのは図1の場合と同様である。
【0066】
以下、本実施形態の複合部材の製法及び複合部材の構成について説明をする。なお、基体や微粒子の素材や製法に関して、上記各実施形態の複合部材と共通する点については、説明を省略する。
【0067】
本実施形態の複合部材300では、親水性を有する複合部材300の無機微粒子層40の表面に、少なくともアミノ基や、カルボン酸基や、スルホン酸基や、シアン酸基のうち、一種または二種以上の官能基4が結合している。なお、図3中では、カルボン酸基を代表として図示している。
【0068】
アミノ基を導入するには、3−アミノプロピルトリメトキシシランや、N−2(アミノエチル)3−アミノプロピルトリエトキシシランや、N−β−(N−ビニルベンジルアミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシランや、N−(ビニルベンジル)−2−アミノエチル−3−アミノプロピルトリメトキシシランの塩酸塩などのアミノ基を含有するシランカップリング剤3が用いられる。
【0069】
カルボン酸基は、メタアクリル酸や、2−メタクリロイロキシエチルコハク酸などのカルボン酸基を有する単官能モノマーなどが用いられる。
【0070】
また、スルホン酸基はスルホマレイン酸、スルホコハク酸、スルホフマル酸などの脂肪族スルホン酸や、スルホフタル酸、スルホサリチル酸などの芳香族スルホン酸が用いられる。シアン酸基はトリクロロシアノエチルシランが用いられる。
【0071】
以上説明したように、本発明の第3実施形態の複合部材300によれば、上記各実施形態の複合部材の有する効果に加えて、無機微粒子2が固定化された親水性を有する複合部材の少なくとも表面に、アミノ基、カルボン酸基、スルホン酸基、シアン酸基のうち、一種または二種以上の官能基4が結合されていることから、表面の水との接触角は10°以下の超親水性となり、湿度の高い環境で急激な温度差が生じても光学レンズや自動車の窓ガラスの表面が水滴により曇ることが殆どないなど、防曇性に極めて優れた親水性を有する部材が提供できる。
(第4実施形態)
次に、本発明の第4実施形態の親水性を有する複合部材について詳述する。本実施形態の親水性を有する複合部材は、第1〜3実施形態の複合部材の無機微粒子2に天然放射性希有元素鉱物を含有させるものである。
【0072】
放射性希有元素を微量含有する天然放射性稀有元素鉱物としては、例えば、デービト鉱や、センウラン鉱や、ブランネル石や、ニンギョウ石や、リンカイウラン石や、カルノー石や、ツャムン石や、メタチャムン石や、フランセビル石や、トール石や、コフィン石や、サマルスキー石や、トリウム石や、トロゴム石や、サマルスキー石や、トリウム石や、トロゴム石や、モナズ石や、タンタル石や、バデライトや、イルメナイトなどが挙げられる。また、これらの鉱物の一部を精製して得られる電融ジルコニアなどが挙げられる。
【0073】
また、天然放射性稀有元素鉱物の使用量を少なくするために、トルマリンなどの自発分極を有する材料などが含まれていても良い。
【0074】
なお、無機微粒子2の径については特に限定されないが、グラフト重合を好適に行うには、平均粒子径が500nm以下とすることが好ましい。さらに、平均粒子径が300nm以下であれば、基体1へのより強固な結合が達成されるため、耐久性の点より一層好適である。
【0075】
本発明の第4実施形態の複合部材によれば、上記各実施形態の複合部材の有する効果に加えて、無機微粒子2の一部または全てが放射性希有元素を微量含有する天然放射性稀有元素鉱物が用いられていることから、天然放射性希有元素鉱物に含有する微量の放射性希有元素が放つα線の電離作用により、スーパーオキシドアニオンやヒドロキシラジカル、一重項酸素などの活性酸素が生成され、これらの活性酸素は親水性を促進させると共に、表面に付着した有機物などを分解して、経時により親水性が低下することを抑制する効果を有することから、水に対する接触角が10°以下となり、超親水性で、且つ、優れた防曇性と自己浄化機能を備えた親水性を有する複合部材が提供できる。
【0076】
以上説明したように、本発明の各実施形態によれば、少なくとも表面が樹脂からなる基体に無機微粒子が固定されてなる親水性を有する複合部材であって、基体表面に対して、反応性に優れた不飽和結合を有するシランカップリング剤を、無機微粒子表面に脱水縮合反応で化学的に結合させて不飽和結合を導入し、無機微粒子表面に導入した不飽和結合同士または基体樹脂表面と反応させて無機微粒子を固定化することで、基体の表面に強固に、且つ、耐久性と親水性に優れた防曇効果が長期間維持できるものである。
【0077】
なお、本発明の各実施形態において、基体は、例えば、フィルム状、繊維状、布状、メッシュ状、ハニカム状など、使用目的に合った様々な形態(形状、大きさ等)とすることが可能である。したがって、これら様々な形態の各種基体に親水性の機能を付加することが可能となり、ハウス用フィルム、トンネルハウス用フィルムなどの農業資材、食品の包装材料、外壁材、サッシ、ドア、ブラインドなどの建装材、壁紙、カーペット、樹脂タイルなどの内装材、衣類、インナーウェア、靴下、手袋、靴等の履物、該履物用の中敷、パジャマ、マット、シーツ、枕、枕カバー、毛布、タオルケット、蒲団および蒲団カバーなどの寝装材、帽子、ハンカチ、タオル、絨毯、カーテン、空気清浄機やエアコン、換気扇、電気掃除機、扇風機などのフィルターまたは防虫網やスクリーン印刷用メッシュなどの製品へ応用が可能となる。従って、本発明は、様々な分野に優れた各種製品を提供することができる有用な部材である。
【実施例】
【0078】
次に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0079】
本発明方法による下記実施例1〜実施例3の微粒子固定化体の製造にあたっては、岩崎電気株式会社製、エレクトロカーテン型電子線照射装置、CB250/15/180L、を用い、電子線グラフト重合により実施した。これに対して、各比較例の親水性を有する複合部材の製造にあたっては、電子線は用いず、塗布後加熱、乾燥の方法とした。
【0080】
(実施例1)
平均粒子径10nmのシリカ微粒子が10重量%分散したメタノール溶液(日産化学工業株式会社製MA−ST−S)に、不飽和結合を持つ3−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン(信越化学工業株式会社製、KBE−502)をシリカ微粒子に対して0.05重量%加えた後、冷却管を備えたフラスコに移し、その後、フラスコをオイルバスで加熱し、3時間還流下で処理することによりシリカ微粒子表面にシランカップリング剤を脱水縮合反応により結合させた。
【0081】
そして、125μmのポリエステルフィルム(パナック株式会社製、ルミラー)の表面に、上記シランカップリング剤が結合したシリカ微粒子分散メタノール溶液をバーコーターで塗布し、120℃、3分間乾燥した。
【0082】
次に、前記メタノール溶液を塗布して乾燥したポリエステルフィルムに電子線を200kVの加速電圧で3Mrad照射することで、シリカ微粒子をシランカップリング剤のグラフト重合によりポリエステルフィルム表面に結合させることで親水性を有する複合部材を得た。
【0083】
(実施例2)
実施例1で用いたシランカップリング剤の代わりに、ビニル基とアミノ基の二つの官能基を有したシランカップリング剤、N−(ビニルベンジル)−2−アミノエチル−3−アミノプロピルトリメトキシシランの塩酸塩(信越化学工業株式会社製、KBM−573)を用いた以外は、実施例1と同様の条件で親水性を有する複合部材を得た。
【0084】
(実施例3)
実施例1で用いた、3−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシランが結合したシリカ微粒子分散メタノール溶液にアミノ基を有するシランカップリング剤である3−アミノプロピルトリエトキシシラン(信越化学工業株式会社製、KBM−903)を固形分に対して3.0重量%加えた以外は、実施例1と同様の条件で親水性を有する複合部材を得た。
【0085】
(実施例4)
実施例3で用いたアミノ基を有するシランカップリング剤の代わりに、メタクリル酸を用いた以外は、実施例1と同様の条件で親水性を有する複合部材を得た。
【0086】
(実施例5)
実施例4で用いたアミノ基を有するシランカップリング剤の代わりに、スルホマレイン酸を用いた以外は、実施例1と同様の条件で親水性を有する複合部材を得た。
【0087】
(実施例6)
天然鉱物であるトルマリンの微粒子と天然放射性稀有元素鉱物であるイルメナイトの微粒子の混合物(中里屋株式会社製)が、5重量%分散したメタノール溶液をビーズミルで3時間、粉砕分散処理した。次に、不飽和結合を持つ3−アクリロキシプロピルトリエトキシシラン(信越化学工業株式会社製、KBM−5103)を粉砕分散したイルメナイト分散メタノール溶液を、固形分に対して0.5重量%加えた後、冷却管を備えたフラスコに移し、その後フラスコをオイルバスで加熱し、3時間還流下で処理することにより、粉砕分散したトルマリンおよびイルメナイト微粒子の表面にシランカップリング剤を脱水縮合反応により結合させた。
【0088】
また、125μmのポリエステルフィルム(パナック株式会社製、ルミラー)の表面に、前記処理液をバーコーターで塗布し、120℃、3分間乾燥した。次に、前記処理液を塗布して乾燥したポリエステルフィルムに電子線を200kVの加速電圧で3Mrad照射することで、親水性を有する複合部材を得た。
【0089】
(実施例7)
天然放射性稀有元素鉱物であるイルメナイトの微粒子(中里屋株式会社製)が、10重量%分散したメタノール溶液をビーズミルで3時間、粉砕分散処理した。次に、不飽和結合を持つ3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業株式会社製、KBM−503)を粉砕分散したイルメナイト分散メタノール溶液を、固形分に対して0.1重量%加えた後、冷却管を備えたフラスコに移し、その後フラスコをオイルバスで加熱し、3時間還流下で処理することにより、粉砕分散したイルメナイト微粒子の表面にシランカップリング剤を脱水縮合反応により結合させた。
【0090】
また、超微粒子酸化チタン(石原産業株式会社製、TTO−S−1)が、10重量%分散したメタノール溶液をビーズミルで3時間、解砕分散処理した。次に、不飽和結合を持つ3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業株式会社製、KBM−503)を解砕分散したイルメナイト分散メタノール溶液を、固形分に対して0.1重量%加えた後、冷却管を備えたフラスコに移し、その後フラスコをオイルバスで加熱し、3時間還流下で処理することにより、解砕分散した超微粒子酸化チタンの表面にシランカップリング剤を脱水縮合反応により結合させた。得られたシランカップリング剤が結合した、イルメナイト分散メタノール溶液と超微粒子酸化チタンメタノール溶液を1:1の重量比で混合し処理液とした。
【0091】
また、125μmのポリエステルフィルム(パナック株式会社製、ルミラー)の表面に、前記処理液をバーコーターで塗布し、120℃で、3分間乾燥した。次に、前記処理液を塗布して乾燥したポリエステルフィルムに電子線を200kVの加速電圧で3Mrad照射することで、親水性を有する複合部材を得た。
【0092】
(実施例8)
実施例7で用いた、処理液にアミノ基を有するシランカップリング剤、3−アミノプロピルトリエトキシシラン(信越化学工業株式会社製、KBM−903)を固形分に対して2.0重量%加えた以外は、実施例7と同様の条件で親水性を有する複合部材を得た。
【0093】
(実施例9)
実施例8で用いたアミノ基を有するシランカップリング剤の代わりに、メタクリル酸を用いた以外は、実施例7と同様の条件で親水性を有する複合部材を得た。
【0094】
(実施例10)
実施例8で用いたアミノ基を有するシランカップリング剤の代わりに、スルホマレイン酸を用いた以外は、実施例7と同様の条件で親水性を有する複合部材を得た。
【0095】
(比較例1)
実施例1で用いたシリカ微粒子分散メタノール溶液を、バーコーターを用いて実施例1で用いたポリエステルフィルム表面に塗布した後、120℃で、3分間乾燥することでシリカ微粒子の薄膜を形成した複合部材を得た。
【0096】
(比較例2)
実施例6で用いた天然鉱物であるトルマリンの微粒子と天然放射性稀有元素鉱物であるイルメナイトの粉砕分散処理したメタノール溶液を、実施例1で用いたポリエステルフィルム表面にバーコーターを用いて塗布した後、120℃で、3分間乾燥することでトルマリンとイルメナイトの微粒子からなる薄膜を形成した複合部材を得た。
【0097】
(比較例3)
比較例1で用いたシリカ微粒子分散メタノール溶液に非イオン系面活性剤であるポリエーテル変性シリコーンオイル(日本ユニカー株式会社製、LL−77)を0.2重量%加えた以外は比較例1の条件でシリカ微粒子の薄膜を形成した複合部材を得た。
【0098】
(親水性を有する複合部材の評価)
耐久性は、得られた親水性を有する複合部材をメタノールに浸漬して超音波を1時間照射し、超音波照射前後の表面を走査型電子顕微鏡で、微粒子の薄膜が形成された親水性を有する薄膜の表面状態を観察した。
【0099】
また、親水性の評価は、複合部材をメタノールに浸漬して1時間超音波洗浄前後を、協和界面科学株式会社製固液界面解析装置DropMaster300を用いて、得られた複合部材の表面に蒸留水を2.0μL滴下し、形成した水滴の接触角を測定することで行った。これらの各測定結果を表1に示す。
【0100】
【表1】

本発明で得られた親水性を有する複合部材は、実施例1〜10の結果が示すように、得られた複合部材をアルコールに浸漬して超音波を長時間照射しても、親水性を有する薄膜の剥離は認められず、また、水に対する接触角は、その殆どが10°以下と、超親水性を有していることを確認した。さらに、超音波洗浄後も水に対する接触角は殆ど変化していないことから、耐久性に優れていることが実証された。
【0101】
これらの結果に対し、比較例で得られた複合部材では、複合部材をアルコールに浸漬して超音波を照射すると、フィルム表面に形成された薄膜のほとんどが剥離することが確認された。さらに、表面の水に対する接触角が高くなくなることから、耐久性に乏しいことが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0102】
【図1】本発明の第1実施形態の親水性を有する複合部材の断面図である。
【図2】本発明の第2実施形態の親水性を有する複合部材の断面図である。
【図3】本発明の第3実施形態の親水性を有する複合部材の断面図である。
【符号の説明】
【0103】
1:基体
2:無機微粒子
3:シランカップリング剤
5:化学結合
10:無機微粒子層
100:複合部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも表面が樹脂からなる基体と、
不飽和結合を有するシランモノマーの薄膜が表面に形成された第1の無機微粒子からなり、
前記基体の表面の樹脂と前記無機微粒子の表面に形成されたシランモノマーの薄膜とが化学結合して、前記第1の無機微粒子が前記基体の表面に固定されてなる、第1の無機微粒子層と
を備えることを特徴とする親水性を有する複合部材。
【請求項2】
不飽和結合を有するシランモノマーの薄膜が表面に形成され、前記第1の無機微粒子と同種又は異種の第2の無機微粒子からなる、第2の無機微粒子層をさらに備え、
該第2の無機微粒子層は、前記第1の無機微粒子層の前記第1の無機微粒子の表面に形成されたシランモノマーの薄膜と前記第2の無機微粒子層の前記第2の無機微粒子の表面に形成されたシランモノマーの薄膜とが化学結合し、前記第1の無機微粒子層に積層して固定される
ことを特徴とする請求項1に記載の親水性を有する複合部材。
【請求項3】
前記複合部材の表面に、アミノ基、カルボン酸基、スルホン酸基、またはシアン酸基のうち、一種または二種以上の官能基が結合してなる
ことを特徴とする請求項1または2に記載の親水性を有する複合部材。
【請求項4】
前記無機微粒子は、酸化物である
ことを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の親水性を有する複合部材。
【請求項5】
前記無機微粒子は、酸化物と天然放射性希有元素鉱物との混合物からなる
ことを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の親水性を有する複合部材。
【請求項6】
前記化学結合は、グラフト重合である
ことを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の親水性を有する複合部材。
【請求項7】
前記グラフト重合は、放射線グラフト重合である
ことを特徴とする請求項6に記載の親水性を有する複合部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−63160(P2006−63160A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−245902(P2004−245902)
【出願日】平成16年8月25日(2004.8.25)
【出願人】(391018341)NBC株式会社 (59)
【Fターム(参考)】