説明

親水性コロイド粒子及びその製造方法

【課題】可逆的な相互作用によって様々な機能性を有する物質を固定または放出することが可能で、かつその前後で粒子内のモルフォルジ−等の変化が生じても、溶液系内への分散安定性を悪化させることのない親水性コロイド粒子、及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】疎水性コア部と、アミノ基含有構造単位を有するポリマーセグメント及びノニオン性の親水性構造単位を有するポリマーセグメントを有する二重親水性ポリマー鎖からなるシェル層とを有する親水性コロイド粒子により、分散安定性因子をコントロールするノニオン性の親水性構造単位を有するポリマーセグメントと疎水性コア部とが、機能性物質と相互作用するアミノ基含有構造単位を有するポリマーセグメントとは独立に存在するため、親水性コロイド粒子の自己組織化能力を最大限に発揮させることが可能となり、機能性物質を固定化した状態、放出した状態を問わずコロイドを安定に保持できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は疎水性のコア部と、アミノ基含有構造単位を有するポリマーセグメントとノニオン性の親水性構造単位を有するポリマーセグメントとを有する二重親水性ポリマー鎖とからなるシェル層とを有する親水性コロイド粒子とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
機能性の物質を固定化する研究は古くから行われており、金属をはじめ光増感剤、発色剤、DNA、電子受容体や電子供与体、電子伝達物質等を固体表面や高分子の主鎖または側鎖に共有結合或いはイオン結合等で固定する方法をはじめ、シクロデキストリンに代表される包接化合物や多孔質物質中に内包する方法等が考えられてきた。これらのように機能性物質を固定化する目的は、機能性物質を特定の場所に集中的に存在させることによって、物質のもつ機能を相乗的に効率よく発現させることにあった。
【0003】
一方、機能性物質を均一に分散させて内包する試みも大変古くから行われており、機能基を有するシリカや粘土、或いは顔料等の微粉末を界面活性剤あるいは界面活性剤型高分子等でカプセル化することによって溶液中に分散させる方法や、または水中に分散したミセルやベシクル中に疎水性相互作用によって機能性物質を包含する方法、アクリル酸またはHEMA(ヒドロキシエチルメタアクリレート)含有コポリマー等に代表される水溶性モノマーを含有した、水分散性高分子が形成する粒子中に内含する方法等が開発されている。
【0004】
さらにこれらの性質を応用した材料としては、DDS(ドラッグデリバリーシステム)に代表されるような必要な量の機能性物質を必要な時に、必要な場所へ運ぶことができる素材開発が行われている。機能性物質を自在に必要な時に、必要な場所で、必要な量を放出させるためには、両親媒性ブロックコポリマー中への可逆的な固定化方法が必要となる。また両親媒性ブロックポリマーは機能性物質を固定化する前後で、常に安定に分散していることが重要な因子である。
【0005】
従来の高分子ミセルや、コア−シェル粒子ではこれら特性は、例えば、機能性物質をペンダント型に固定した架橋型疎水性ポリマーをコア部とし、中性の親水性ポリマーをシェル層とするコア−シェル粒子では(例えば非特許文献1参照)、機能性物質の固定や放出を可逆的に行うことが困難であるため、コア部の架橋を切ることによって高分子ミセルの会合状態を崩壊させる方法を用いている。機能性物質を放出する際は、高分子ミセルはコア−シェル粒子のモルフォルジーを保持した状態で、機能性物質だけを放出する方が望ましい。また機能性物質を高分子ミセルから可逆的に固定化や放出させることを可能とするためには、機能性分子物質をイオン結合または配位結合によって固定化する方法を用いた方が有利である。例えば、疎水性ポリマーのコア部にイオン性ポリマーをシェル層としたコア−シェル粒子では(例えば非特許文献2、3、4及び特許文献1参照)、機能性物質がイオン結合によってシェル層に固定化、或いは粒子から放出されることによって、粒子の表面エネルギー変化等が生じ、媒体への分散性を悪化させる等の影響を及ぼすことになる。
【0006】
【非特許文献1】Macromolecules, 1999,32,1140-1146、WO02002/026241
【非特許文献2】Macromolecular Rapid Communications,2004,25,547-552
【非特許文献3】Langmuir, 2002, 18, 8641-8646
【非特許文献4】Polymer Preprint, 2003, 44(2), 279-280
【特許文献1】US2002/0143081 A1
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、可逆的な相互作用によって様々な機能性を有する物質を固定または放出することが可能で、かつその前後で粒子内のモルフォルジ−等の変化が生じても、溶液系内への分散安定性を悪化させることのない親水性コロイド粒子、及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討した結果、コア−シェル構造を有する親水性コロイド粒子の疎水性コア部の周囲に有するシェル層を、イオン性の親水性構造単位を有するポリマーセグメントとノニオン性の親水性構造単位を有するポリマーセグメントとを有する二重親水性ポリマー鎖からなるものとすることにより、該シェル層中のイオン性の親水性構造単位を有するポリマーセグメントが機能性物質を好適に固定化すると共に、ノニオン性の親水性構造単位を有するポリマーセグメントが系内への良好な分散性を保持するため、該構造の親水性コロイド粒子が上記課題を克服できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち本発明は、疎水性コア部と、アミノ基含有構造単位を有するポリマーセグメント及びノニオン性の親水性構造単位を有するポリマーセグメントとを有する二重親水性ポリマー鎖からなるシェル層とを有する親水性コロイド粒子を提供するものである。
【0010】
アミノ基含有構造単位とノニオン性の親水性構造単位とからなる二重親水性ポリマーを含有する水性媒体中で、重合により疎水性ポリマー鎖となるラジカル重合性モノマーをラジカル重合することを特徴とする親水性コロイド粒子の製造方法、及び、疎水性ポリマー鎖と、アミノ基含有構造単位を有するポリマー鎖とからなる共重合体を含有する水性媒体中で、前記アミノ基含有構造単位を有するポリマー鎖に中性の親水性ポリマー鎖を反応させることを特徴とする親水性コロイド粒子の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明は医療診断薬、癌治療薬、光機能材料、触媒機能材料、色材、金属インキ等の技術分野で広く利用できる親水性コロイド粒子である。詳しくは、本発明は疎水性のコア部と、該疎水性のコア部と結合した、機能性物質と可逆的な相互作用が可能なアミノ基含有構造単位を有するポリマーセグメント及びノニオン性の親水性構造単位を有するポリマーセグメントを有する二重親水性ポリマー鎖、からなるシェル層とを有する親水性コロイド粒子であり、その安定した自己組織化機能によって形成されるナノスケールの親水性コロイド粒子である。
【0012】
本発明の親水性コロイド粒子は、ノニオン性の親水性構造単位を有するポリマーセグメントと、機能性物質と可逆的な相互作用可能なアミノ基含有構造単位を有するポリマーセグメントとを有するシェル層、及び疎水性コア部の3種類の構造単位で構成され、それぞれ3種類の異なる役割を有する。分散安定性因子をコントロールするノニオン性の親水性構造単位を有するポリマーセグメントと疎水性コア部とが、機能性物質と相互作用するアミノ基含有構造単位を有するポリマーセグメントとは独立に構築しているため、該親水性コロイド粒子の自己組織化能力を最大限に発揮させることが可能となり、機能性物質を固定化した状態、放出した状態を問わずナノスケールの高分子ミセルを安定に保持できる親水性コロイド粒子である。
【0013】
また、該親水性コロイド粒子は、その機能性物質と可逆的な相互作用可能なアミノ基含有構造単位に医療診断薬、癌治療薬、光機能物質、触媒機能物質、色素、金属インキ材料等を導入することで、それぞれの機能を効率よく発現させることが可能となり、多岐にわたる分野での先端材料として有効である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の親水性コロイド粒子は、疎水性コア部と、アミノ基含有構造単位を有するポリマーセグメント及びノニオン性の親水性構造単位を有するポリマーセグメントとを有する二重親水性ポリマー鎖からなるシェル層とを有する親水性コロイド粒子である。本発明の親水性コロイド粒子は疎水性コア部、アミノ基含有構造単位を有するポリマーセグメント、ノニオン性の親水性構造単位を有するポリマーセグメントの3種類の部位で構成されている。
【0015】
[疎水性コア部]
本発明の親水性コロイド粒子を構成する疎水性コア部は、疎水性ポリマーからなっており、該親水性コロイド粒子の水中分散において、疎水性相互作用により高分子ミセルの安定性を保持する役割を果たす部位である。疎水性コア部は、シェル層を形成する二重親水性ポリマー鎖と結合した疎水性ポリマーセグメントからなるものであっても、該疎水性ポリマーセグメントと、二重親水性ポリマー鎖とは独立した疎水性ポリマーとからなるものであってもよく、いずれも好適に疎水性コア部を形成できる。疎水性コア部が疎水性ポリマーを含有する場合には、該疎水性ポリマーは粒子形状であることが好ましい。
【0016】
上記疎水性ポリマーセグメント、疎水性ポリマーとして使用できる代表的な疎水性ポリマーの例を挙げると、ポリスチレン類、ポリ(メタ)アクリル酸エステル類等が挙げられる。具体的に例示すると、ポリスチレン、ポリ 2−メチルスチレン、ポリ 3−メチルスチレン、ポリ 4−メチルスチレン、ポリ α−メチルスチレンの如きポリスチレン類、 ポリ(メタ)アクリル酸メチル、ポリ(メタ)アクリル酸エチル、ポリ(メタ)アクリル酸 n−ブチル、ポリ(メタ)アクリル酸 i−ブチル、ポリ(メタ)アクリル酸 t−ブチル、ポリ(メタ)アクリル酸 2−エチルヘキシル、ポリ(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、ポリ(メタ)アクリル酸ベンジル、ポリ(メタ)アクリル酸ジシクロペンタニル等の如きポリ(メタ)アクリル酸エステル類等を挙げることができる。
【0017】
中でもコスト面、取り扱い易さ等の点において特に好ましい例は、ポリスチレン、ポリ(メタ)アクリル酸メチル、ポリ(メタ)アクリル酸エチル、ポリ(メタ)アクリル酸 n−ブチル、ポリ(メタ)アクリル酸 i−ブチル、ポリ(メタ)アクリル酸 t−ブチル、ポリ(メタ)アクリル酸ベンジル、ポリ(メタ)アクリル酸 2−エチルヘキシル等である。
【0018】
さらに好ましくはラジカル重合性モノマーをラジカル開始剤によって重合することによって得られる疎水性ポリマーセグメント、または疎水性物質であることが望ましい。ラジカル重合性モノマーの代表例としてスチレン類、(メタ)アクリル酸エステル類等が挙げられる。具体的に例示すると、スチレン、2−メチルスチレン、3−メチルスチレン、4−メチルスチレン、α−メチルスチレンの如きスチレン類、
【0019】
(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸 n−ブチル、(メタ)アクリル酸 i−ブチル、(メタ)アクリル酸 t−ブチル、(メタ)アクリル酸 2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンタニル等の如き(メタ)アクリル酸エステル類等を挙げることができる。
【0020】
中でもコスト面、取り扱い易さ等の点において特に好ましい例は、スチレン、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸 n−ブチル、(メタ)アクリル酸 i−ブチル、(メタ)アクリル酸 t−ブチル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸 2−エチルヘキシル等である。
【0021】
二重親水性ポリマー鎖と結合した疎水性ポリマーセグメント、及び二重親水性ポリマー鎖とは独立した疎水性ポリマーの数平均重合度は、公知慣用に行われるラジカル重合によって得られるものであれば特に限定されるものではないが、得られる親水性コロイド粒子の高い性能を発揮させるためには、10〜10000が好ましい。
【0022】
疎水性コア部の粒子径は、二重親水性ポリマー鎖と結合した疎水性ポリマーセグメントや二重親水性ポリマー鎖とは独立した疎水性ポリマーの重合度や使用量により、10〜1000nmの範囲の大きさに適宜調整できる。
【0023】
[アミノ基含有構造単位を有するポリマーセグメント]
シェル層を構成する二重親水性ポリマー鎖中のアミノ基含有構造単位を有するポリマーセグメント(以下、「アミノ基含有セグメント」と略記する。)は、機能性物質と可逆的な相互作用可能なアミノ基含有構造単位を有するため、種々の機能性物質を可逆的に固定化、或いは放出する役割を担うことができる。
【0024】
アミノ基含有セグメント中のアミノ基含有構造単位としては、上記機能を発現できるものであれば特に制限されず、例えば、エチレンイミン単位、プロピレンイミン単位、アリルアミン単位、又はビニルアミン単位などを好ましく使用でき、エチレンイミン単位が特に好ましい。
【0025】
アミノ基含有セグメント中のアミノ基含有構造単位の割合としては、該ポリマーセグメント中の全構造単位の60%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましく、全構造単位がアミノ基含有構造単位であることが特に好ましい。
【0026】
アミノ基含有セグメントの好ましい例を挙げると、ポリエチレンイミン、ポリプロピレンイミン、ポリアリルアミン、ポリビニルアミン等のポリアミン類が挙げられ、ポリエチレンイミンが特に好ましい。
【0027】
アミノ基含有セグメントの数平均重合度は、公知慣用に行われる重合方法によって得られる重合度であれば特に限定する条件ではない。得られる親水性コロイド粒子の高い性能を発揮させるためには、10〜10000が好ましい。
【0028】
[ノニオン性の親水性構造単位を有するポリマーセグメント]
シェル層を構成する二重親水性ポリマー鎖中のノニオン性の親水性構造単位を有するポリマーセグメント(以下、「ノニオン性親水セグメント」と略記する。)は、イオン化しない非電解質の親水性構造単位を有するポリマーセグメントであり、親水性コロイド粒子の水中分散において、高分子ミセルの分散安定性を保持する役割を果たす部位であり、機能性物質が高分子ミセル中に固定化、または放出する前後のいずれの状態においても、その分散状態を保持する役割を有する部位である。
【0029】
ノニオン性親水セグメント中のノニオン性の親水性構造単位としては、上記機能を発現できるものであれば特に制限されず、例えば、エチレングリコール単位などのアルキレングリコール単位、ビニルアルコール単位、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート単位、アクリルアミド単位、又はビニルピロリドン単位などのオレフィン単位などを好ましく使用できる。
【0030】
ノニオン性親水セグメント中のノニオン性の親水性構造単位の割合としては、該ポリマーセグメント中の全構造単位の60%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましく、全構造単位がノニオン性の親水性構造単位であることが特に好ましい。
【0031】
ノニオン性親水セグメントとしては、特に好ましい例を挙げると、ポリエチレングリコール等の如きポリアルキレングリコール類、ポリビニルアルコール、ポリヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ポリアクリルアミド、ポリビニルピロリドン等の如き水溶性置換基を有するポリオレフィン類である。
【0032】
ノニオン性親水セグメントの数平均重合度は、公知慣用に行われる重合方法によって得られる重合度であれば特に限定する条件ではない。得られる親水性コロイド粒子の高い性能を発揮させるためには、10〜10000が好ましい。
【0033】
[二重親水性ポリマー鎖]
本発明の親水性コロイド粒子のシェル層を構成する二重親水性ポリマー鎖は、機能性物質と可逆的な相互作用が可能なアミノ基含有セグメント、及び水中への安定した分散性を保持するノニオン性親水セグメントの性質の異なる二種の親水性ポリマーセグメントを含有するポリマー鎖である。本発明の親水性コロイド粒子は、これらセグメントを有する二重親水性ポリマー鎖をシェル層として有することにより、機能性物質の固定化又は放出の前後で親水性コロイド粒子のモルフォルジーが変化しても、水溶液中への高い分散安定性の保持が可能となる。
【0034】
二重親水性ポリマー中において、上記二種のポリマーセグメントは、どのように結合していてもよく、また、これらポリマーセグメントの機能を害しない範囲で他のポリマーセグメントを介して結合していてもよい。なかでも、アミノ基含有セグメントとノニオン性親水セグメントとからなるブロック又はグラフトコポリマー鎖を形成しており、それぞれのポリマーセグメントが共有結合によって結合していることが好ましい。
【0035】
グラフトコポリマーの場合、主鎖がアミノ基含有セグメントであっても、ノニオン性親水セグメントであってもよい。水溶液中でのより高い分散安定性を保持する点では、アミノ基含有セグメントが主鎖、ノニオン性親水セグメントを側鎖とすることが、側鎖のフレキシブルな分子運動が高い分散安定性を保つためにより好ましい構造である。
【0036】
二重親水性ポリマー中においては、アミノ基含有セグメント及びノニオン性親水セグメントの機能を害しない範囲で、メチルメタクリレート単位や、ブチルメタクリレート単位といった、公知各種のアクリレート単位や、ウレタン結合を含む公知各種の構造単位、エステル結合を含む公知各種の構造単位を有する他のポリマーセグメントを含有していてもよい。これら他のポリマーセグメントを含有する場合には、二重親水性ポリマー中の30質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましく、10質量%以下であることが特に好ましい。
【0037】
[シェル層]
本発明の親水性コロイド粒子のシェル層は、上記疎水性コア部と結合した二重親水性ポリマー鎖からなるものである。疎水性コア部は二重親水性ポリマー鎖のどの部分と結合していてもよい。たとえばポリマー末端、末端以外の主鎖、側鎖等特に限定される因子ではない。該疎水性コア部と結合する部分が、アミノ基含有セグメントであっても、ノニオン性親水セグメントであってもよい。水溶液中でのより高い分散安定性を保持する点では、疎水性コア部、及びノニオン性親水セグメントはそれぞれ独立に、自由な分子運動性を有していることが望ましい。つまり疎水性コア部は、二重親水性ポリマー鎖のアミノ基含有セグメントと結合していることがより好ましい。
【0038】
[親水性コロイド粒子]
本発明の親水性コロイド粒子は、疎水性相互作用により安定に形成された疎水性コア部と結合したシェル層が、種々の機能性物質を可逆的に固定化、或いは放出できるアミノ基含有セグメントと、水中への良好な分散性を保持する中性の親水性ポリマーセグメントとを有するものであるため、各種機能性物質を好適に固定化できると共に、機能性物質を固定化した場合でも優れた水分散性を有する。
【0039】
本発明の親水性コロイド粒子は、上記した各種セグメントを有する共重合体、すなわち、疎水性ポリマーセグメントと、アミノ基含有セグメントと、ノニオン性親水セグメントとを有する共重合体を基礎の構造とするものである。該共重合体の共重合の態様は特に制限されないが、これらセグメントのみからなる共重合体であることが好ましく、疎水性ポリマーセグメントとアミノ基含有セグメントとが直接結合した共重合体であることが特に好ましい。ノニオン性親水セグメントはアミノ基含有セグメントの末端に結合したものであっても、セグメントの途中にグラフトされたものであっても、いずれも好ましく使用できる。
【0040】
本発明の親水性コロイド粒子のコア部は、上記したように、シェル層を形成する二重親水性ポリマー鎖と結合した疎水性ポリマーセグメントからなるものであっても、該疎水性ポリマーセグメントと、二重親水性ポリマー鎖とは独立した疎水性ポリマーとからなるものであってもよいため、本発明の親水性コロイド粒子は、疎水性ポリマーセグメント、アミノ基含有セグメント及びノニオン性親水セグメントを有する共重合体のみからなるものであっても、該共重合体と二重親水性ポリマー鎖とは独立した疎水性ポリマーとからなるものであってもよい。
【0041】
本発明の親水性コロイド粒子を構成する疎水性ポリマーセグメント、アミノ基含有セグメント、ノニオン性親水セグメントを有する共重合体中における各ポリマーセグメントの組成比は、特に限定される条件ではない。分散させる溶媒の条件や固定化する機能性物質の種類、構築したい高分子ミセルの大きさ等によって種々判断される値である。つまり用途や目的、疎水性ポリマーセグメントの種類、アミノ基含有セグメントや親水性ポリマーセグメントの構造、固定化する機能性物質の種類等に合わせて設定されるものである。機能性物質の固定化あるいは放出の前後における高分子ミセルのモルフォルジー変化に依存することなく、溶媒中での分散安定性を特に好適に保持するための好適な条件を例示すると、疎水性ポリマーセグメントの数平均重合度をm1、アミノ基含有セグメントの数平均重合度をm2、親水性ポリマーセグメントの数平均重合度をm3とすると、その比、m1:m2:m3=100:1〜10000:1〜10000の範囲であることが好ましい。
【0042】
本発明の親水性コロイド粒子の粒径は、目的の条件に合った水溶液中に安定に分散できるものであれば特に制限されるものではない。極端に大きすぎると分散せずに沈降する。中でも分散安定性の高い粒子径を示すならば、5〜5000nmが好ましく、10〜1000nmの範囲であることがより好ましい。
【0043】
[親水性コロイド粒子の製造方法]
次に本発明の親水性コロイド粒子の製造方法について説明する。該親水性コロイド粒子の好ましい製造方法としては、アミノ基含有セグメントとノニオン性親水セグメントとを有する二重親水性ポリマーを含有する水性媒体中で、重合により疎水性ポリマー鎖となるラジカル重合性モノマーをラジカル重合する方法が例示できる。
【0044】
本発明の親水性コロイド粒子の製造方法で用いられるアミノ基含有セグメント、ノニオン性親水セグメント、及びこれらポリマーセグメントを有する二重親水性ポリマーについてはそれぞれ上述した通りである。該二重親水性ポリマーは市販品、合成品等をそのまま、又は精製したものを好適に用いることができる。該二重親水性ポリマーの合成品は、公知慣用の方法で合成したものを使用することが可能である。
【0045】
本発明の親水性コロイド粒子の製造方法で用いられる重合後に疎水性ポリマー鎖となるラジカル重合性モノマーは、上述の疎水性コア部について説明した部分に記したものを使用できる。
【0046】
これらのラジカル重合性モノマーは市販品をそのまま用いても、蒸留やカラム処理等によって精製したものを用いてもよい。
【0047】
上記製造方法によれば、重合後に疎水性ポリマー鎖となるラジカル重合性モノマーは、ラジカル開始剤とアミノ基含有セグメントのアミノ基等との間の酸化還元反応、又はラジカル開始剤から発生したラジカルがアミノ基含有セグメントのアミノ基への連鎖移動等によって、アミノ基含有セグメントのアミノ基等に発生したラジカル開始点より重合反応が生じ、重合後に二重親水性ポリマー鎖と結合した疎水性ポリマーセグメントとなる。この際、開始剤から発生したラジカルが直接ラジカル重合性モノマーを重合することによって生じた、二重親水性ポリマー鎖と結合していない疎水性ポリマー鎖を形成する場合もある。これら反応が水性媒体中で生じた後、二重親水性ポリマー鎖と結合した疎水性ポリマーセグメント、あるいは該疎水性ポリマーセグメントと二重親水性ポリマー鎖と結合していない疎水性ポリマーとが、親水性コロイド粒子のコア−シェル構造のコア部を形成し、親水性コロイド粒子が形成される。
【0048】
本発明の親水性コロイド粒子の製造方法で用いられるラジカル開始剤は公知慣用のものを使用することができる。上述したように該ラジカル開始剤は、ラジカル開始剤とアミノ基含有ポリマー鎖のアミノ基等との間の酸化還元反応、又はラジカル開始剤から発生したラジカルがアミノ基含有ポリマー鎖のアミノ基へ連鎖移動等によって、アミノ基含有ポリマー鎖のアミノ基等に発生したラジカル開始点より重合反応が生じる反応であり、開始剤から発生したラジカルが直接ラジカル重合性モノマーを重合することによって生じる反応も同時に起こる。一般に該ラジカル開始剤は単独で使用した場合、ラジカルを生成するためには比較的高い温度で行うことが必要となる。なかでもアルキルハイドロパーオキサイド等のような水溶性のラジカル開始剤は、Fe2+等の金属イオンや、アミノ基含有化合物、ポリアミン類等のカチオン性化合物存在下においてラジカル発生温度が低下することから、水溶性のラジカル開始剤を用いることが好ましい。さらに該親水性コロイド粒子の製造方法においては、アミノ基含有セグメントとノニオン性の親水セグメントとを有する二重親水性ポリマーの存在下で、ラジカル開始剤によって重合を行うため、新たに金属イオンや、アミノ基含有化合物等を加えなくとも、水溶性のラジカル開始剤を用いることによって、低い温度で重合反応を行うことが可能である。但し、重合反応をより促進させる場合や、グラフト率、分子量等を制御する等の場合はこの限りではない。
【0049】
好ましい水溶性のラジカル開始剤の代表的な例を挙げると、t−ブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、p−イソプロピルクメンハイドロパーオキサイド、p−メンタンハイドロパーオキサイド、ピナンハイドロパーオキサイド、、ジ−t−ブチルパーオキサイド、ペルオキソ二硫酸カリウム、2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)ジハイドロクロライド等が好ましい。
これらのラジカル開始剤は市販品をそのまま用いても、再結晶や再沈等によって精製したものを用いてもよい。
【0050】
本発明の親水性コロイド粒子の製造方法である、水と、アミノ基含有セグメントとノニオン性親水セグメントとからなる二重親水性ポリマーの存在下で、重合後に疎水性ポリマーとなり得るラジカル重合性モノマーを、ラジカル開始剤によって重合する方法は、公知慣用のラジカル重合であれば特に限定されるものではない。代表的な好ましい重合条件を以下に説明する。攪拌条件はメカニカル攪拌、マグネティック攪拌、振盪攪拌等を行うことができる。攪拌翼、攪拌子の形状、大きさ等や、攪拌回転数等は特に制限される条件ではないが、好適な条件を挙げるならば、十分に反応溶液が攪拌されていることが好ましい。重合反応温度は公知慣用のラジカル重合反応で用いられる温度で行うことができる。重合反応温度は開始剤の種類や、アミノ基含有化合物又は金属イオン化合物等の種類、あるいは有無によって選択される条件である。一般的に好ましい重合反応温度条件を挙げると、40℃〜重合反応溶液のリフラックス温度がよい。該重合反応溶液のリフラックス温度は、水溶媒であるため約100℃であるが、モノマーや開始剤等の種類や濃度によって沸点上昇により100℃より高い温度となる。該重合反応温度は低すぎると、反応が完了するまでに長時間を要したり、ほとんど重合反応が進行しないことが考えられる。より好ましくは60℃〜重合反応溶液のリフラックス温度であることが望ましい。
【0051】
本発明の親水性コロイド粒子の他の製造方法としては、疎水性ポリマーセグメントと、アミノ基含有セグメントとを有する共重合体を含有する水性媒体中で、前記アミノ基含有セグメントにノニオン性親水セグメントとなるノニオン性の親水性構造単位を有するポリマー鎖を反応させる方法を例示できる。
【0052】
本発明の親水性コロイド粒子の製造方法で用いられる疎水性ポリマーセグメントと、アミノ基含有セグメントとを有する共重合体は、それぞれ上述した疎水性ポリマーセグメントとアミノ基含有セグメントの2つの成分で構成されており、その構造はブロック共重合体、グラフト共重合体等に代表される共重合体である。該共重合体は合成したものまたは市販品等をそのまま、或いは精製等の処理をした後使用してもよい。
【0053】
本発明の親水性コロイド粒子の製造方法で用いられる疎水性ポリマーセグメントと、アミノ基含有セグメントとを有する共重合体を含有する水性媒体は、疎水性ポリマーセグメントとアミノ基含有セグメントを有する共重合体を水性媒体中に分散させたコア−シェル型の粒子である。該コア−シェル型粒子は疎水性ポリマーセグメントからなるコアと、アミノ基含有セグメントを有するシェル層を構成する。該コア−シェル型粒子のコア部は、疎水性ポリマーセグメントのみからなるものであっても、アミノ基含有セグメントと結合していない疎水性ポリマー鎖が混合していてもかまわない。該共重合体として合成したものを用いる場合、該共重合体を含有する水性媒体の代表的な合成例を以下に示す。水中にポリエチレンイミンを溶解させ、スチレンモノマーを加えて分散させる。攪拌しながら、70〜120℃でt−ブチルハイドロパーオキサイドを加え、2〜5時間反応させることによって疎水性ポリマー鎖と、アミノ基含有構造単位を有するポリマー鎖とからなる共重合体を含有する水性媒体を得ることができる。
【0054】
本発明の親水性コロイド粒子の製造方法で行われる前記アミノ基含有構造単位を有する
ポリマーセグメントにノニオン性の親水性構造単位を有するポリマー鎖を反応させるとき、該アミノ基含有セグメントの繰り返し単位の一部、又は末端等に反応性官能基を有していることが必要である。該アミノ基含有セグメントが有する反応性官能基と、該中性の親水性ポリマー鎖が有する反応性官能基の組み合わせは、互いに反応可能な官能基であれば特に限定される条件ではない。アミノ基含有セグメントが有する反応性官能基の代表的な官能基の例を挙げると、水酸基、アルデヒド、カルボキシル基、アルキル酸エステル基、トシル基、アミノ基、イソシアネート基、ハロゲン等が好ましい。中でもアミノ基含有ポリマー鎖であることから該官能基はアミノ基であることがより好ましい。
【0055】
同様に、ノニオン性の親水性構造単位を有するポリマー鎖の一部、又は末端等に反応性官能基を有していることが必要であり、該反応性官能基としては、上記アミノ基含有セグメントの場合と同様である。但し、ノニオン性の親水性構造単位を有するポリマー鎖の反応性官能基としてアミノ基を用いる場合には、共重合後の共重合体中に実質的にアミノ基が残存しないように使用する。
【0056】
ノニオン性の親水性構造単位を有するポリマー鎖の代表的な官能基の例を挙げると、水酸基、アルデヒド基、カルボキシル基、アルキル酸エステル基、トシル基、アミノ基、イソシアネート基、ハロゲン等が好ましい。中でも上述した中性の親水性ポリマー鎖の代表例は、アミノ基含有セグメントが有する反応性官能基のより好ましい例がアミノ基であることから該反応性官能基はカルボキシル基、トシル基であることがより好ましい。
【0057】
本発明の親水性コロイド粒子の製造方法で用いられる疎水性ポリマーセグメントと、アミノ基含有セグメントとからなる共重合体を含有する水性媒体中に、ノニオン性の親水性構造単位を有するポリマー鎖を反応させる方法は、公知慣用の方法で行うことができる。その中から主な反応条件について以下に説明する。水性媒体は特に限定される条件ではない。該反応は疎水性ポリマー鎖とアミノ基含有構造体を有するポリマー鎖とからなる共重合体が、水性媒体中でコア−シェル粒子を形成し、アミノ基含有構造単位を有するポリマー鎖が構成するシェル層の外側にノニオン性の親水性構造単位を有するポリマー鎖を反応させることによって二重親水性型のコア−シェル粒子の製造方法であることから、疎水性ポリマー鎖とアミノ基含有構造体を有するポリマーセグメントとからなる共重合体を二重親水性化する前にコア−シェル粒子を形成しておくことがよく、代表例としては水を使用することが好ましい。
【0058】
本発明の親水性コロイド粒子の製造方法で用いられる疎水性ポリマーセグメントとアミノ基含有セグメントとを有する共重合体を有する水性媒体中で、前記アミノ基含有セグメントにノニオン性の親水性構造単位を有するポリマー鎖を反応させる際に用いられる反応触媒は、アミノ基含有セグメントとノニオン性の親水性構造単位を有するポリマー鎖が有するそれぞれの反応性官能基の組み合わせによって適切に選択されたものであれば、特に限定される条件ではない。代表的な反応例として、アミノ基を有するアミノ基含有ポリマー鎖とトシル基を有する中性の親水性ポリマー鎖の反応の場合に選択される触媒は、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の塩基性触媒が好ましい。
【0059】
本発明の親水性コロイド粒子の製造方法で用いられる疎水性ポリマーセグメントと、アミノ基含有セグメントとを有する共重合体を含有する水性媒体中で、前記アミノ基含有セグメントにノニオン性の親水性構造単位を有するポリマー鎖を反応させる際に用いられる反応温度は、アミノ基含有セグメントとノニオン性の親水性構造単位を有するポリマー鎖が有する反応性官能基の組み合わせ、及び反応触媒や水性媒体の種類や濃度等によって適切に判断されるべき条件であり、公知慣用に用いられる反応温度で行うことができる。反応速度や副反応の抑制等を考慮すると、一般的な反応温度の例としては50〜140℃が好ましい。前記代表的な反応例に挙げた、アミノ基を有するアミノ基含有ポリマー鎖とトシル基を有する中性の親水性ポリマー鎖の反応において、水媒体中で、反応触媒に炭酸カリウムを用いた場合の反応温度のより好ましい例は、70〜120℃である。
【0060】
本発明の親水性コロイド粒子の製造方法である疎水性ポリマーセグメントと、アミノ基含有セグメントとを有する共重合体を含有する水性媒体中で、前記アミノ基含有セグメントにノニオン性の親水性構造単位を有するポリマー鎖を反応させることを特徴とする方法の代表的な例を以下に示す。ポリスチレンとポリエチレンイミンのグラフト共重合体とを水中に分散させ、片末端トシル化ポリエチレングリコール モノメチルエーテルを加え溶解させる。少量の水に溶解させた炭酸カリウムを加え100℃で6時間反応させることによって親水性コロイド粒子を得ることができる。
【0061】
上記のように本発明の親水性コロイド粒子の製造方法によれば、疎水性コア部と、該疎水性コア部と結合した、アミノ基含有セグメントとノニオン性親水セグメントとを有する二重親水性ポリマー鎖からなるシェル層とを有する親水性コロイド粒子を、簡便に効率よく製造することが可能である。
【0062】
また、その他の本発明の親水性コロイド粒子の製造方法としては、疎水性ポリマー鎖と、アミノ基含有構造単位を有するポリマー鎖とからなる共重合体を含有する有機溶媒中で、前記アミノ基含有構造単位を有するポリマー鎖に中性の親水性ポリマー鎖を反応させた後、有機溶媒を水性媒体へ溶媒交換する方法、あるいは、アミノ基含有構造単位とノニオン性の親水性構造単位とからなる二重親水性ポリマー鎖と、該二重親水性ポリマー鎖と結合した疎水部とを有する三元共重合体、及び、疎水性ポリマー粒子を、水中で混合させる方法などを例示できる。
【0063】
本発明の親水性コロイド粒子は、機能性物質と可逆的な相互作用可能なアミノ基含有構造単位の他に、ノニオン性の親水性構造単位と疎水性コア部とを有するため、水性媒体中で自己組織的に親水性コロイド粒子を形成している。つまり該親水性コロイド粒子は、疎水性コア部と、機能性物質と可逆的な相互作用可能なアミン含有構造単位が中間層、そしてノニオン性の親水性構造単位が水中で十分に分子鎖を広げて自由に分子運動することが可能なコロナ層となった、コア−コロナ型の高分子ミセルからなる親水性コロイド粒子であるため、水性媒体中への高い分散安定性を保持することが可能となる。
【0064】
また本発明の親水性コロイド粒子の機能性物質と可逆的な相互作用可能なアミン含有構造単位が、イオン性の機能性物質、例えば、DNA、イオン性染料、金属イオン等と相互作用し、該アミン含有構造単位とイオン結合により固定化すると、該ブロックは結晶化する。しかし前述したようにノニオン性の親水性構造単位と疎水性コア部がそれぞれ安定した疎水性吸引力による強い会合力と、高い水性媒体への親和性による分散安定性を保持する役割を独立して果たすことができる親水性コロイド粒子であるため、系内への分散安定性は悪化することがない。
【0065】
通常、DNAや金属、染料等の機能性物質が、相互作用可能なアミン含有構造単位を有する親水性コロイド粒子を形成したとき、機能性物質が親水性コロイド粒子中へ固定化あるいは親水性コロイド粒子中から放出される際、機能性物質と相互作用可能なアミン含有構造単位は機能性物質が固定化されることによって、該アミン含有構造単位が結晶化したり、機能性物質を放出することによって結晶を形成しなくなる等、親水性コロイド粒子中でのモルフォルジーが変化する。しかしながら、本発明の親水性コロイド粒子は、機能性物質と相互作用可能なアミン含有構造単位の他に、水性媒体中での分散安定性を保持するノニオン性の親水性構造単位と疎水性コア部を有することから、本発明の親水性コロイド粒子は、このようなモルフォルジー変化に関係なく水性媒体中で優れた分散安定性を維持することができる。
【0066】
また、本発明の親水性コロイド粒子は、機能性物質と相互作用可能なアミン含有構造単位を有するため、該アミン含有構造単位に、DNAや金属、あるいは染料などの機能性物質を固定できるため、これら機能性物質を内部に固定化した親水性コロイド粒子の形成が可能である。このため、本発明の親水性コロイド粒子は、医療診断薬、癌治療薬、光機能物質、触媒機能物質、色素、あるいはフォトリゾグラフィー材料等の分野において有用に使用できる。
【実施例】
【0067】
以下に実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
尚、透析はSpectrum Laboratories, Inc.製、Spectra/Por molecularporous membrane tubing(MWCO: 3500)を用いて行った。
またH−NMRは日本電子製、JNM-LA300を 、粒度分布は大塚電子製、FPAR-1000により測定した。
【0068】
(実施例1)
[片末端トシル化ポリエチレングリコール モノメチルエーテル(TsO−PEG)(Mn5000)の合成]
ポリエチレングリコール モノメチルエーテル(PEGM)(数平均分子量(Mn)5000) 10gをクロロホルム 15gに溶解し、ピリジン 4gを加えた溶液に、トシルクロライド 1.91gをクロロホルム 15gに混合した溶液を窒素雰囲気下、1℃に冷却、攪拌しながらゆっくり滴下した。1時間後、40℃に昇温し4時間反応させた。精製は10%塩酸水溶液 50gで反応溶液を洗浄し、5℃以下に冷やした冷水 50gで3回洗浄した後、硫酸ナトリウムで乾燥、ヘキサン 100gで再沈させた。これを炉別後、クロロホルム 10gに溶解させ、再度ヘキサン 100gで再沈、炉別後、真空乾燥した。このようにして得たTsO−PEGの収率は85%であった。H−NMRスペクトルから2.4ppm付近にトシル基のメチル由来のプロトン、3.3ppm付近にモノメチルエーテルのメチル由来のプロトン、3.6ppm付近にPEGのエチレン由来のプロトン、7.4ppm付近と7.8ppm付近にトシル基のベンゼン環由来のプロトンのピークをそれぞれ確認した。
【0069】
[二重親水性ポリマー鎖の合成]
市販の分岐型ポリエチレンイミン(b−PEI)(Mn 25000) 16.7g、前記合成したTsO−PEG 4.17g、炭酸カリウム 0.1gをジメチルアセトアミド 80gに加え、100℃で6時間反応させた。冷却後、酢酸エチル 90.2gとヘキサン 67.8gの混合溶媒中に、攪拌しながら、反応溶液を滴下、沈殿させた。炉別後、同混合溶媒で沈殿を洗浄し、炉別後、真空乾燥により二重親水性ポリマー鎖を得た。収率は95%であった。H−NMRスペクトルから2.3〜3.4ppm付近にb−PEIのエチレン由来のプロトン、3.6ppm付近にPEGのエチレン由来のプロトンのピークをそれぞれ確認した。
【0070】
[親水性コロイド粒子の合成]
前記合成した二重親水性ポリマー鎖 0.60gを水 30gに溶解させ、2mol/l塩酸水溶液 1.58g加え、pH7の溶液を調整した。さらに水 14.27gと、スチレンモノマー 1.92g加え、窒素置換後、80℃で攪拌する。70%t−ブチルハイドロパーオキサイド(TBHP) 0.45g添加し、2時間反応させた。冷却後、を用いて透析により精製した。粒径は190nmであった。
【0071】
(実施例2)
[TsO−PEG(Mn 2000)の合成]
PEGM(Mn 2000) 10gと、トシルクロライド 4.86gを用いたこと以外は実施例1の[片末端トシル化ポリエチレングリコール モノメチルエーテル(TsO−PEG)(Mn5000)の合成]と全く同様に行った。得られたTsO−PEGの収率は88%であった。H−NMRスペクトルから実施例1と同様のピークを確認した。
【0072】
[二重親水性ポリマー鎖の合成]
市販のb−PEI(Mn 10000) 8.0g、前記合成したTsO−PEG(Mn 2000) 5.39g、炭酸カリウム 0.07gを用いたこと以外は実施例1の[二重親水性ポリマー鎖の合成]と全く同様に行った。得られたTsO−PEGの収率は92%であった。H−NMRスペクトルから実施例1と同様のピークを確認した。
【0073】
[親水性コロイド粒子の合成]
前記合成した二重親水性ポリマー鎖 0.80gと、を水 30gに溶解させ、2mol/l塩酸水溶液 1.91g加え、pH7の溶液を調整した後、さらに水 13.67gを加えたこと以外は実施例1の[親水性コロイド粒子の合成]と全く同様に行った。粒径は90nmであった。
【0074】
(実施例3)
[TsO−PEG(Mn 750)の合成]
PEGM(Mn 750) 10gと、トシルクロライド 13.0gを用いたこと以外は実施例1の[片末端トシル化ポリエチレングリコール モノメチルエーテル(TsO−PEG)(Mn5000)の合成]と全く同様に行った。得られたTsO−PEGの収率は84%であった。H−NMRスペクトルから実施例1と同様のピークを確認した。

[二重親水性ポリマー鎖の合成]
市販のb−PEI(Mn 1800) 2.88g、前記合成したTsO−PEG(Mn 750) 5.79g、炭酸カリウム 0.03gを用いたこと以外は実施例1の[二重親水性ポリマー鎖の合成]と全く同様に行った。得られたTsO−PEGの収率は93%であった。H−NMRスペクトルから実施例1と同様のピークを確認した。
【0075】
[親水性コロイド粒子の合成]
前記合成した二重親水性ポリマー鎖 1.45gと、を水 30gに溶解させ、2mol/l塩酸水溶液 0.87g加え、pH7の溶液を調整した後、さらに水 14.74gを加えたこと以外は実施例1の[親水性コロイド粒子の合成]と全く同様に行った。粒径は380nmであった。
【0076】
(実施例4)
実施例1の[親水性コロイド粒子の合成]において、スチレンモノマー 1.92g使用した部分を、メタクリル酸メチルモノマー 1.92gとしたこと以外は、実施例1と同様に行った。得られた親水性コロイド粒子の粒径は200nmであった。
【0077】
(実施例5)
[疎水性ポリマー鎖と、アミノ基含有構造単位を有するポリマー鎖とからなる共重合体を含有する水性媒体の合成]
市販のb−PEI(Mn 5000) 0.48gを水 30gに溶解させ、2mol/l塩酸水溶液 1.58g加え、pH7の溶液を調整した。さらに水 14.27gと、スチレンモノマー 1.92g加え、窒素置換後、80℃で攪拌する。70%TBHP 0.45g添加し、2時間反応させた。冷却後、を用いて透析により精製した。粒径は170nmであった。
【0078】
[親水性コロイド粒子の合成]
前記[疎水性ポリマー鎖と、アミノ基含有構造単位を有するポリマー鎖とからなる共重合体を含有する水性媒体の合成]で得られた水性媒体中に、実施例1の[片末端トシル化ポリエチレングリコール モノメチルエーテル(TsO−PEG)(Mn5000)の合成]で得たTsO−PEG(Mn 5000) 0.12gと炭酸カリウム 0.1gを加え、90℃で10時間反応させた。冷却後、を用いて透析により精製した。粒径は180nmであった。
【0079】
(実施例6)
実施例1で合成した親水性コロイド粒子をエバポレータで水を留去した後、真空乾燥した。再度水中に分散させ、粒径を測定したところ185nmであった。
【0080】
(応用例1)
上記実施例1で得られた親水性コロイド粒子を透析チューブに入れ、0.5%アンモニア水で一晩透析処理を行い、アンモニア水を水に交換、8時間後再度水を取替えることによって、脱塩酸したPEI含有の親水性コロイド粒子の分散溶液を得た。この親水性コロイド粒子の分散溶液 5gに、色素であるテトラフェニルポルフィリン−テトラスルホン酸ナトリウム(以下、TSPPと略記)0.7mg(TSPP(mol)/EIユニット(mol)=1/10)を添加し、マグネティックスターラを用いて室温で24時間攪拌した。該分散水溶液を分散水溶液を透析チューブに入れ、水中で透析した。8時間ごとに3回水を取替えた。透析チューブから分散水溶液を24時間静置後、粒径を測定したところ数平均粒径は65nmであった。
【0081】
(応用例2)
上記実施例1で得られた親水性コロイド粒子5gに、TSPP 1.75mg(TSPP(mol)/EIユニット(mol)=2.5/10)を添加したこと以外は、応用例1と同様に行った。得られた色素固定親水性コロイド粒子の粒径は60nmであった。
【0082】
(比較例1)
b−PEI(Mn25000) 0.60gを水 30gに溶解させ、2mol/l塩酸水溶液 1.58g加え、pH7の溶液を調整した。さらに水 14.27gと、スチレンモノマー 1.92g加え、窒素置換後、80℃で攪拌する。70%t−ブチルハイドロパーオキサイド(TBHP) 0.45g添加し、2時間反応させた。冷却後、透析により精製した。粒径は170nmであった。
【0083】
得られた親水性コロイド粒子を透析チューブに入れ、0.5%アンモニア水で一晩透析処理を行い、アンモニア水を水に交換、8時間後再度水を取替えることによって、脱塩酸したPEI含有の親水性コロイド粒子の分散溶液を得た。この親水性コロイド粒子の分散溶液 5gに、色素であるテトラフェニルポルフィリン−テトラスルホン酸ナトリウム(以下、TSPPと略記)0.7mg(TSPP(mol)/EIユニット(mol)=1/10)を添加し、マグネティックスターラを用いて室温で攪拌したところ、沈殿が生じた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
疎水性コア部と、
アミノ基含有構造単位を有するポリマーセグメント及びノニオン性の親水性構造単位を有するポリマーセグメントを有する二重親水性ポリマー鎖からなるシェル層と
を有する親水性コロイド粒子。
【請求項2】
前記二重親水性ポリマー鎖が、
アミノ基含有構造単位を有するポリマーセグメントとノニオン性の親水性構造単位を有するポリマーセグメントとからなるブロック又はグラフトコポリマー鎖である請求項1又は2に記載の親水性コロイド粒子。
【請求項3】
前記アミノ基含有構造単位を有するポリマーセグメントが、ポリアミンである請求項2に記載の親水性コロイド粒子。
【請求項4】
前記アミノ基含有構造単位を有するポリマーセグメントが、ポリエチレンイミン、ポリプロピレンイミン、ポリアリルアミン及びポリビニルアミンから選ばれる少なくとも一種のポリマーセグメントである請求項2に記載の親水性コロイド粒子。
【請求項5】
前記ノニオン性の親水性構造単位を有するポリマーセグメントが、ポリアルキレングリコール、水酸基を有するポリオレフィン、アミド基を有するポリオレフィンから選ばれる少なくとも一種のポリマーセグメントである請求項1又は2に記載の親水性コロイド粒子。
【請求項6】
前記ノニオン性の親水性構造単位を有するポリマーセグメントが、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ポリアクリルアミド、及びポリ(N−イソプロピル)アクリルアミドから選ばれる少なくとも一種のポリマーセグメントである請求項1又は2に記載の親水性コロイド粒子。
【請求項7】
前記二重親水性ポリマー鎖中のアミノ基含有構造単位を有するポリマーセグメントが疎水性コア部と結合している請求項1〜6のいずれかに記載の親水性コロイド粒子。
【請求項8】
前記疎水性のコア部が、疎水性ポリマーを含むものである請求項1〜7のいずれかに記載の親水性コロイド粒子。
【請求項9】
前記二重親水性ポリマー鎖と結合した疎水部が、疎水性ポリマーセグメントである請求項8に記載の親水性コロイド粒子。
【請求項10】
粒子径が10〜1000nmの範囲にある請求項1〜9のいずれかに記載の親水性コロイド粒子。
【請求項11】
アミノ基含有構造単位とノニオン性の親水性構造単位とからなる二重親水性ポリマーを含有する水性媒体中で、重合により疎水性ポリマー鎖となるラジカル重合性モノマーをラジカル重合することを特徴とする親水性コロイド粒子の製造方法。
【請求項12】
疎水性ポリマー鎖と、アミノ基含有構造単位を有するポリマー鎖とからなる共重合体を含有する水性媒体中で、前記アミノ基含有構造単位を有するポリマー鎖に中性の親水性ポリマー鎖を反応させることを特徴とする親水性コロイド粒子の製造方法。

【公開番号】特開2007−99929(P2007−99929A)
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−292327(P2005−292327)
【出願日】平成17年10月5日(2005.10.5)
【出願人】(000002886)大日本インキ化学工業株式会社 (2,597)
【出願人】(000173751)財団法人川村理化学研究所 (206)
【Fターム(参考)】