説明

親水性セパレータ及びその製造方法

【課題】固体高分子膜型燃料電池用の、ポリプロピレン系等の撥水性の熱可塑性樹脂をバインダとして使用した、表面が親水性のセパレータとその製造方法を提供する。
【解決手段】 セパレータの金型の、セパレータのガス流路を設けた片側表面に対応する表面に水溶性物質を塗布する工程(S101)と、導電性カーボンと、疎水性のバインダ樹脂とを混合してなる成型材料を金型に投入する工程(S102)と、金型を加熱加圧プレス成型してバインダ樹脂を溶融させ、成型材料を金型に充填する工程(S103)と、金型を冷却して金型に充填された成型材料を固化してセパレータとする工程(S104)と、セパレータを金型から取り出す工程(S105)と、金型から取り出したセパレータを加熱水で洗浄する工程(S106)と、セパレータを乾燥、拭取る工程(S107)と、を順に含むセパレータの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子膜型燃料電池に用いるセパレータに関する。より具体的には、燃料となる水素を拡散膜と触媒層を通して電解質膜に流入させるための、または同様に酸素を流入させるための溝形状を形成した、高分子膜型燃料電池に用いるセパレータに関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、燃料と酸化剤を電気的に接続された2つの電極に供給し、電気化学的に燃料の酸化を起こさせることで、化学エネルギーを直接電気エネルギーに変換する。燃料電池は、通常、電解質膜を一対の電極で挟持した膜・電極接合体を基本構造とする単セルを複数積層して構成されている。中でも、電解質膜として固体高分子電解質膜を用いた固体高分子電解質型燃料電池は、小型化が容易であること、低い温度で作動すること、などの利点がある。
【0003】
固体高分子電解質型燃料電池では、水素を燃料とした場合、アノード(燃料極)では(1)式の反応が進行する。
→ 2H + 2e [1]
[1]式で生じる電子は、外部回路を経由し、外部の負荷で仕事をした後、カソード(酸化剤極)に到達する。そして、[1]式で生じたプロトンは、水和した状態で、固体高分子電解質膜内をアノード側からカソード側に、電気浸透により移動する。
【0004】
固体高分子電解質膜内でのプロトン通過性を良好にするため、セパレータのガス流路を通して加湿された水素ガスが供給されるが、運転時間の経過とともに、排出側に水分がたまり、ついには凝集し、流路を塞ぐ。これを改善するには、セパレータの水素ガス流路全体を、水滴が凝集しないよう、おおむね水の接触角が120°以上の撥水性、又は80°以下、好ましくは60°以下の親水性にすることが好ましい。
【0005】
また、酸素を酸化剤とした場合、カソードでは[2]式の反応が進行する。
2H + (1/2)O + 2e → H
[2]
カソードで生成した水は、セパレータの酸素ガス流路を通り、酸素の流れに乗って排出される。酸素ガス流路の排出側は、運転時間の経過とともに過湿度状態になり、ついには水が流路内で凝集し、酸素ガスの通りを阻害する。これを防ぐにはセパレータの酸素ガス流路そのものを、水滴が凝集しないよう、おおむね水の接触角が120°以上の撥水性、又は80°以下、好ましくは60°以下の親水性にすることが好ましい。
【0006】
セパレータのガス流路を親水性にするか疎水性にするかは、燃料電池の運転条件、ガスの供給条件、使用する高分子膜等によって異なるが、燃料電池用セパレータのガス流路において、流路全体を親水性にする、または撥水性にすることで、流路に水の凝集をさせないようにすることは、燃料電池から取り出す電流の安定化を図るのに有効であると言われている。
【0007】
このために、燃料電池用セパレータの基板の凹部表面に水管理層を形成し、この水管理層に、エネルギーを照射して、水管理層の水に対する濡れ性を撥水性から親水性に変化させる方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。また、固体高分子膜型燃料電池のセパレータを構成する材料として導電性材料を採用した上で、親水性若しくは疎水性を制御する面に対して粗面化を行い、粗面化により生成した凹凸部の凹部内に親水性若しくは疎水性を調整する水濡れ性調整部材を選択的に充填することで、所望の親水性若しくは疎水性と導電性とが両立可能になることが知られている(例えば、特許文献2参照)。また、燃料電池セパレータ用の樹脂成形板の表面のうち、改質が必要な部分に三酸化硫黄ガスを接触させ、その部分を親水性に表面改質する方法が開示されている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006−294294号公報
【特許文献2】特開2007−207728号公報
【特許文献3】特開2008−179712号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1、2及び3に開示されている燃料電池用セパレータの表面改質法は、いずれも、特別な材料を使用したり、多くの工程を要するものであるため、実質的なコストアップの要因を抱えており、燃料電池の普及に向けてコストや生産性の改善が急務となっているセパレータに適用するには問題がある。
【0010】
また、特にコスト的なメリットを出しやすい汎用樹脂の1つであるポリプロピレン系樹脂をセパレータのバインダ樹脂としてに用いた場合、ポリプロピレン系樹脂自体撥水性が高い材料であるため、これまで安定して安価に親水性のものを提供できていなかった。
【0011】
そこで、本発明は上記問題点に鑑みなされたものであって、固体高分子膜型燃料電池用の、ポリプロピレン系等の撥水性の熱可塑性樹脂をバインダとして使用した、表面が親水性のセパレータとその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
このような目的は、下記(1)〜(9)の本発明により達成される。
【0013】
(1)片側表面に水素又は酸素ガスのガス流路を設けた固体高分子膜型燃料電池のセパレータにおいて、そのセパレータは導電性カーボンと疎水性のバインダ樹脂とを混合した成型材料からなり、そのセパレータのガス流路を設けた片側表面が親水性であることを特徴とするセパレータ。
【0014】
(2)成型材料における(導電性カーボン/バインダ樹脂)の質量部混合比は2/1〜10/1であることを特徴とする(1)に記載のセパレータ。
【0015】
(3)疎水性のバインダ樹脂は、熱可塑性のポリプロピレン系樹脂又はポリフェニレンサルファイド系樹脂であることを特徴とする(2)に記載のセパレータ。
【0016】
(4)片側表面に水素又は酸素ガスのガス流路を設けた固体高分子膜型燃料電池のセパレータの金型の、セパレータのガス流路を設けた片側表面に対応する表面に水溶性物質を塗布する工程と、導電性カーボンと、疎水性のバインダ樹脂とを混合してなる成型材料を金型に投入する工程と、金型を加熱加圧プレス成型してバインダ樹脂を溶融させ、成型材料を金型に充填する工程と、金型を冷却して金型に充填された成型材料を固化してセパレータとする工程と、セパレータを金型から取り出す工程と、金型から取り出したセパレータを加熱水で洗浄する工程と、セパレータを乾燥し、拭取る工程と、を順に含むことを特徴とするセパレータの製造方法。
【0017】
(5)成型材料における(導電性カーボン/バインダ樹脂)の質量部混合比は2/1〜10/1であることを特徴とする(4)に記載のセパレータの製造方法。
【0018】
(6)疎水性のバインダ樹脂は、熱可塑性のポリプロピレン系樹脂又はポリフェニレンサルファイド系樹脂であることを特徴とする(4)又は(5)に記載のセパレータの製造方法。
【0019】
(7)水溶性物質は、中性の界面活性剤であることを特徴とする(4)〜(6)のいずれかに記載のセパレータの製造方法。
【0020】
(8)水溶性物質は、ショ糖脂肪酸エステルであることを特徴とする(7)に記載のセパレータの製造方法。
【0021】
(9)さらに、火炎処理、プラズマ処理、紫外線+オゾン処理、及びコロナ放電処理のうちのいずれか1つまたは複数の組合せによる表面改質処理を行う工程を含むことを特徴とする(4)〜(8)のいずれかに記載のセパレータの製造方法。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、固体高分子膜型燃料電池用の、ポリプロピレン系等の撥水性の熱可塑性樹脂をバインダ樹脂として使用した、表面が親水性のセパレータとその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施形態に係るセパレータを用いた固体高分子膜型燃料電池の単セルの模式的断面図である。
【図2】本発明の実施形態に係るセパレータの製造工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、添付図面を参照して、本発明を実施するための形態(以下、実施形態という。)について詳細に説明する。
【0025】
図1は、本発明の第実施形態に係るセパレータを用いた固体高分子膜型燃料電池の単セルの模式的断面図を示したものである。
【0026】
本発明のセパレータを使用する燃料電池は、図1に示したように、固体高分子電解質膜11の一面側にアノード電極14aを有し、他面側にカソード電極14bを有する膜電極接合体(MEA)15を、一対のセパレータ16a、16bで挟持した単セル1を備える構造を有する。アノード電極14aに接する第1のセパレータ16aの、アノード電極14a側の面に、セパレータ16aの1方の側面(図の下側)からMEA15へ燃料ガスの水素ガスを供給し、さらにMEA15を通過した水素ガスをセパレータ16aの対向する側面(図の上側)から排出するための水素ガス流路が17aが備えられている。
【0027】
カソード電極14bに接する第2のセパレータ16bの、カソード電極14b側の面に、セパレータ16bの1方の側面からからMEA15へ酸化剤ガスの酸素ガスを供給し、さらにMEA15を通過した酸素ガスをセパレータ16bの対向する側面から排出するための酸素ガス流路17bが備えられている。一般に、第1のセパレータ16aの水素ガスの供給、排出の方向と、第2のセパレータ16bの酸素ガスの供給、排出の方向とは直交するように配置される。
【0028】
アノード電極14aは触媒層12aとガス拡散層13aとからなり、カソード電極14bは触媒層12bとガス拡散層13bとからなる。
【0029】
ガス拡散層13a、13bは水素又は酸素の触媒層12a又は12bへの供給、触媒層12aでの化学反応により生じた電子の集電、固体高分子電解質膜11の保湿および生成水の排出、といった多くの役割を担う多機能部材である。ガス透過性や導電性のほか、耐酸性や機械的強度など多様な要求を満たす必要があり、一般にカーボンペーパーやカーボンクロスが使われる。
【0030】
アノード電極14aでは水素ガスの反応によりプロトンと電子が生じる。電子は、外部回路を経由し、外部の負荷で仕事をした後、カソード電極14bに到達する。プロトンは、水和した状態で、水素イオン伝導性を有する固体高分子電解質膜内をアノード電極14a側からカソード側14b側に、電気浸透により通過する。
【0031】
カソード電極14bでは、プロトンと電子と酸素が反応し水が生成する。この水は、セパレータ16bの酸素ガス流路17bを通り、酸素ガスの流れに乗って排出される。
【0032】
固体高分子電解質膜11としては、ナフィオン等のパーフルオロスルホン酸や炭化水素系の材料が使われるが、そのイオン導電性を向上させるために水素ガスを加湿するのが一般的であり、また燃料電池を利用した発電システムのカソード側には必ず水が生成する。運転開始直後は水の生成量は少ないため、ほとんど影響はないが、セパレータの流路形状によっては数十分後くらいから、ガス流路に水がたまり、結果的にガスが充分拡散できず、発生電位の低下を来たす。また、寒冷地等にあっては、溜まった水が凍結し、流路をふさいでしまい、ガスの圧力を高めても、溜まった水を除去できない状況となる。
【0033】
一方、アノード極14aでは、水素ガスが白金等の触媒層12aと接触することでプロトンを生じ、このプロトンは周りにいくつかの水分子を抱えて、固体高分子電解質膜11中を通過して行くため、アノード極14a側が徐々に乾燥状態となってしまう。これを防止するため、水素ガスを加湿するのが一般的である。この場合も、加湿過剰になった場合は、アノード極14aの排出側に近い部分で水の凝集が発生し、燃料としての水素ガスが行き渡らなくなってしまう。
【0034】
このように、アノード極14a側における燃料ガスの水素ガスの加湿や、カソード極14b側における生成水の増加により、セパレータ16aの水素ガスのガス流路17aや、セパレータ16bの酸素ガス(空気など)のガス流路17bにおいて、特に排出側に近い部分で水が凝集する可能性が高い。
【0035】
本発明の実施形態においては、固体高分子膜型燃料電池に用いる、導電性カーボンと、疎水性のバインダ樹脂とを混合してなる成型材料からなるセパレータ16a、16bにおいて、水素ガスのガス流路17aの側、及び/又は酸素ガスのガス流路17bの側の表面の、少なくとも溝形状のガス流路17a、17b部位を親水性にする。
【0036】
本実施形態においては、水の濡れ性を表わす接触角が50°を超え80°未満である場合を親水性、80°を超え130°未満である場合を疎水性とする。
【0037】
セパレータ材料としては、一般に、黒鉛系、金属系及びコンポジット系のうちのいずれかが用いられる。
【0038】
黒鉛系セパレータには、黒鉛材を数mm〜10mm程度の薄板に切り出し、切削加工で反応ガスの流路を形成する方法と、膨張黒鉛をプレス成型することで反応ガスの流路を形成する方法がある。切削法は従来用いられてきたが、黒鉛材のガス不透過性が低いため熱硬化性樹脂を含浸させる必要がある。また切削加工するため生産コストが高い。
【0039】
金属系セパレータでは、金属板を金型でプレスして反応ガスの流路を形成する。欧州で研究が盛んに行われているが、そのままでは耐食性が不十分なので表面に金などをメッキする必要があり、コーティング材の検討が必要である。
【0040】
コンポジット系セパレータでは、導電性を持たせるため樹脂に黒鉛粉末を添加した材料を成型し、薄板状とするとともに反応ガスの流路を形成する。材料の熱流動性が低いため加熱、加圧して成型することが多い。
【0041】
以下、図2を用いて、本発明の実施形態における、導電性カーボンと疎水性のバインダ樹脂からなり、ガス流路側表面が親水性であるコンポジット系セパレータの製造方法について説明する。
【0042】
まず、セパレータの成型用金型の、セパレータのガス流路を設けた片側表面に対応する表面の、少なくともガス流路部位に水溶性物質を塗布する(S101)。
【0043】
成型用金型としては、上下に配置された割り型が用いられる。
【0044】
水溶性物質としては、界面活性剤が好ましく、特に、中性の界面活性剤、例えば、ショ糖脂肪酸エステル等が好ましい。アルカリ性や酸性の界面活性剤はイオン性抽出物をコンタミネーションとして出す可能性が強く、燃料電池の性能に大きく影響するため好ましくない。
【0045】
次に、導電性カーボンと、疎水性のバインダ樹脂とを混合してなる成型材料を所定量セパレータ金型に投入する(S102)。
【0046】
導電性カーボンとしては、人造黒鉛、天然黒鉛等の粉末を用いることができる。
【0047】
バインダ樹脂としては、熱可塑性のポリプロピレン系樹脂、ポリフェニレンサルファイド系樹脂等それ自体が疎水性であるものを用いる。
【0048】
セパレータとしての導電性や機械的性質の観点から、(導電性カーボン/バインダ樹脂)の質量部混合比は2/1〜10/1の範囲であることが好ましい。混合
材料は必要に応じて混練や粉砕を行い、粉末状又は粒状の成型材料とする。
【0049】
本実施形態においては、(導電性カーボン/バインダ樹脂)の質量部混合比を5/1で混合、混練し、約1mmの粒径の粒状の成型材料とした。
【0050】
次いで、上下割り型を閉じて金型を280℃×5min加熱加圧プレス成型することにより、成型材料中のバインダ樹脂を溶融し、金型のセパレータ形状に充填する(S103)。
【0051】
次に、バインダ樹脂に用いたポリプロピレン系樹脂、ポリフェニレンサルファイド系樹脂等の熱可塑性樹脂のガラス転移温度より低い温度まで、金型を冷却して樹脂を固化させ、セパレータとする(S104)。
【0052】
このセパレータを金型から取り出し(S105)、プレッシャークッカに入れて、水に浸漬し、120℃×12hrの条件で1回又は複数回加熱水洗浄してセパレータ表面に残存する水溶性物質を除去する(S106)。
【0053】
加熱水で洗浄後、セパレータの表面に付着している水分を圧縮空気を吹き付けて(エアブロー)吹き飛ばし、さらに表面をコットン不織布等で水分を拭取って(S107)セパレータ完成品とする。
【0054】
上記のような、図2に示した製造工程により、親水性の表面を有する、導電性カーボンと疎水性のバインダ樹脂とを混合した成型材料からなるセパレータが得られるが、親水性の度合いをさらに高める、すなわち水の接触角をさらに小さくするために、火炎処理、プラズマ処理、紫外線+オゾン処理、及びコロナ放電処理のうちのいずれか1つまたは複数の組合せによる表面改質処理をさらに実施してもよい。
【0055】
(火炎処理)
火炎処理すなわちフレーム処理は、プロパンガスなどの可燃性ガスに酸素を吹き込みながら例えばフィルム等の被処理表面上で燃焼させ、酸化反応を起こして極性を持つ塩基を生成させる表面処理である。火炎先端部は、火炎中心部より温度が高いので、セパレータ表面の所定の改質の領域に応じて、火炎形状をあらかじめ設定する。
【0056】
(プラズマ処理)
プラズマ処理は、例えばフィルム等の被処理表面でガスを電離させて生じた粒子の電荷を利用して、極性を持つ塩基を生成させる表面処理である。
【0057】
(紫外線+オゾン処理)
紫外線+オゾン処理、すなわちUVオゾン表面処理には、改質と洗浄の効果がある。どちらの反応が起こるかは素材に依存し、ガラスやセラミックには洗浄作用だけが働き、プラスチックや金属には改質と洗浄の両方が働く。照射するUV光のエネルギーが有機化合物の分子結合エネルギーより高い時、分子結合が切れる確率が高くなる。240nm以下の波長のUVは酸素を分解するので、172nmと185nmのUV線は酸素からオゾンを生成する。254nmのUV線はミリ秒の速さでオゾンを分解して、高いエネルギーの活性酸素を生成する。C−H結合が切れるとH原子は軽いので直ぐに引抜かれる。活性酸素はその有機化合物と反応して、COやCO(OH)等の酸素に富んだ官能基を表面に形成する。照射によりC−H結合に基づくピークが減少して、カルボニル基に起因するピークが新たに発現し、カルボキシル基に基づくピークが増大する。富酸素ラジカルには極性があり、表面エネルギーを増加させ親水性を高め、親水性に依存する接着力を強くする。
【0058】
(コロナ放電処理)
コロナ放電処理は、例えばフィルム等の被処理表面に放電処理を行い、極性を持つカルボキシル基や水酸基を生成させ、かつ粗面化する。
【実施例】
【0059】
バインダー樹脂として熱可塑性樹脂のポリプロピレン樹脂を用い、図2の製造工程図に準じて作製したセパレータに関する実施例1と、図2の工程S101及びS106を実施せず、その他は図2の製造工程図に準じて作製したセパレータに関する比較例1について説明する。
【0060】
(実施例1)
水溶性物質としては、中性の界面活性剤であるショ糖脂肪酸エステルの原液と、20倍希釈水溶液を用いた。このショ糖脂肪酸エステルを金型に塗布(S101)した後、平均粒径約60μmの黒鉛と、疎水性熱可塑性樹脂であるポリプロピレン樹脂とを質量比で5/1で混合混練し、粒径約1mmの粒子状とした成型材料を金型に投入した(S102)。この金型を、280℃×5min加熱加圧プレス成型(S103)した後、室温まで冷却(S104)して、燃料電池用セパレータを作製した。このセパレータを金型から取り出し(S105)、プレッシャークッカに入れて、セパレータが隠れるまで水に浸漬し、120℃×12hrの条件で1回又は2回加熱水洗浄した。加熱水洗浄を終えたセパレータは、エアブローで水を吹き飛ばしてから、さらに表面をコットン不織布で水分を拭取った(S107)。加熱水洗浄前後のセパレータについて、表面の水の接触角を測定した結果を、表1に示す。
【0061】
(比較例1)
成型材料として、実施例1と同様のものを用い、金型に水溶性物質を塗布しないで、図2に示した製造工程図の金型に成型材料投入(S102)からセパレータ取り出し(S105)までの工程を実施し、取り出したセパレータの水の接触角を測定した結果を表1に示す。
【0062】
【表1】

【0063】
表1に示した実施例1の結果から、水溶性物質のショ糖脂肪酸エステルを金型に塗布して作製したセパレータは、加熱水洗浄前はセパレータ表面に残存する
ショ糖脂肪酸エステルにより大きな水の接触角(低い濡れ性)を示すが、加熱水洗浄後においては、セパレータ表面が多孔質状態となり、その微細孔に毛管現象により少量の水が蓄えられることで表面の濡れ性が向上し、親水性セパレータとして機能することが確認できた。これに対し、比較例1の結果から、水溶性物質を塗布しないで作製したセパレータは、金型から取り出した状態での水の接触角は100°であり、120℃×12hr、2回の加熱水洗浄後でも水の接触角は95°と大きく、疎水性を示した。
【0064】
以上、実施形態を用いて本発明を説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施形態に記載の範囲には限定されないことは言うまでもない。上記実施形態に、多様な変更または改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。またその様な変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【符号の説明】
【0065】
1 単セル
11 固体高分子電解質膜
12a、12b 触媒層
13a、13b ガス拡散層
14a アノード電極
14b カソード電極
15 膜電極接合体(MEA)
16a、16b セパレータ
17a、17b ガス流路


【特許請求の範囲】
【請求項1】
片側表面に水素又は酸素ガスのガス流路を設けた固体高分子膜型燃料電池のセパレータにおいて、
前記セパレータは導電性カーボンと疎水性のバインダ樹脂とを混合した成型材料からなり、
前記セパレータの前記ガス流路を設けた前記片側表面が親水性であることを特徴とするセパレータ。
【請求項2】
前記成型材料における(前記導電性カーボン/前記バインダ樹脂)の質量部混合比は2/1〜10/1であることを特徴とする請求項1に記載のセパレータ。
【請求項3】
前記疎水性のバインダ樹脂は、熱可塑性のポリプロピレン系樹脂又はポリフェニレンサルファイド系樹脂であることを特徴とする請求項2に記載のセパレータ。
【請求項4】
片側表面に水素又は酸素ガスのガス流路を設けた固体高分子膜型燃料電池のセパレータの金型の、前記セパレータの前記ガス流路を設けた前記片側表面に対応する表面に水溶性物質を塗布する工程と、
導電性カーボンと、疎水性のバインダ樹脂とを混合してなる成型材料を金型に投入する工程と、
前記金型を加熱加圧プレス成型して前記バインダ樹脂を溶融させ、前記成型材料を前記金型に充填する工程と、
前記金型を冷却して前記金型に充填された前記成型材料を固化してセパレータとする工程と、
前記セパレータを前記金型から取り出す工程と、
前記金型から取り出したセパレータを加熱水で洗浄する工程と、
前記セパレータを乾燥し、拭取る工程と、
を順に含むことを特徴とするセパレータの製造方法。
【請求項5】
前記成型材料における(前記導電性カーボン/前記バインダ樹脂)の質量部混合比は2/1〜10/1であることを特徴とする請求項4に記載のセパレータの製造方法。
【請求項6】
前記疎水性のバインダ樹脂は、熱可塑性のポリプロピレン系樹脂又はポリフェニレンサルファイド系樹脂であることを特徴とする請求項4又は5に記載のセパレータの製造方法。
【請求項7】
前記水溶性物質は、中性の界面活性剤であることを特徴とする請求項4〜6のいずれか1項に記載のセパレータの製造方法。
【請求項8】
前記水溶性物質は、ショ糖脂肪酸エステルであることを特徴とする請求項7に記載のセパレータの製造方法。
【請求項9】
さらに、火炎処理、プラズマ処理、紫外線+オゾン処理、及びコロナ放電処理のうちのいずれか1つまたは複数の組合せによる表面改質処理を行う工程を含むことを特徴とする請求項4〜8のいずれか1項に記載のセパレータの製造方法。













【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−160406(P2012−160406A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−21138(P2011−21138)
【出願日】平成23年2月2日(2011.2.2)
【出願人】(000190116)信越ポリマー株式会社 (1,394)
【Fターム(参考)】